ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0388 勘違いゆっくり
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ankoss
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※独自解釈だらけです。
※虐待成分は頑張ってみましたが、もしかしたら薄目かも?
※馬鹿みたいに長いです。
※前作『ふたば系ゆっくりいじめ 277 騙されゆっくり』と前々作『ふたば系ゆっくりいじめ 274 嘘つきゆっくり』をお読みいただいてからお読みください。
先代の長ぱちゅりーは、通常のぱちゅりー種と比べても非凡な才をもって群れに貢献して来た。
だが、どんなに頑張っても、母の偉業を超えたとは思えなかった。
危険な生物が居ない安全なゆっくりプレイスを発見して群れを作り、
見晴らしの良い場所に分散して巣を作らせる事で、お互いの巣を見張り、危険をいち早く察知する。
狩りの担当を分担する事で食糧の確保を容易にした上で、人口統制の為に『すっきりー!ははるだけにすること』と制限を設け、
生まれた赤ゆっくりがある程度育ったら『がっこう』に預ける事で子育ての負担を減らし、群れに教育を施して事故死を防ぎ、社会性を学ばせる。
物々交換の概念を持ち込み、狩りの成果を働きに応じて配分することで原始的な貨幣制度の先駆けを作り、
『おうた』や『おいしゃさん』のようなサービス業が成り立つように社会制度を整える。
お薬になる草の種を丘に蒔き、大量に生えさせておく事でいつでもお薬が使えるようにしておいたり、
悪い事をしたゆっくりを丘の上でお仕置きする事で、『なにがわるいことなのか』を群れに理解させたりする。
これらは全て、元飼いゆっくりだったという先々代の功績である。
年老いた飼い主さんが永遠にゆっくりしてしまった事で身寄りを無くした先々代は、
巷に溢れる野生のゆっくり達が全然ゆっくりしていない姿に一念発起し、ゆっくりを導く事を志したのだと言っていた。
多大な変革をゆっくり達にもたらした偉大な先々代は、自分の娘にもその志を継いで欲しいと願って非情に徹し、厳しく教育した。
生まれたときから長になるべく、帝王教育を受け続けた娘はその期待に見事応えてみせたのだった。
しかし幾ら非凡であったとしても、天才と秀才を比べれば前者に目が向くのが世の常である。
まして子供の頃からその天才を目の当たりにしていれば、いかに秀才とはいえ生まれる感情がある。
それは『劣等感』。
確かにこのぱちゅりーは優秀であった。否、優秀すぎた。
只でさえ人間の教育を受けたゆっくりでありながら、学者であった飼い主から様々な英知を授かり、
それでいてぱちゅりー種にありがちな、知性を鼻にかけた思い上がりの片鱗すら見せなかった。
完璧すぎる母に追い付こうとがむしゃらに突っ走った。
母の功績に縋るのではなく、それを超える何かを常に追い求めた。
気が付けば番を迎える事も無く、孫の姿を見せる事さえ出来ないまま、
偉大なる母は永遠にゆっくりしてしまった。
偉大なる先々代の死を悼み、涙に暮れる群れの嗚咽を背後にして、
母の死に顔を見ながら先代の長ぱちゅりーは思った。
ゆっくりなのに、ゆっくりする事を忘れて頑張った。
それなのに結局母には勝てなかった。
必死に頑張った日々は、徒労に終わってしまった。
ならば。
いつか生まれてくるであろう自分のおちびちゃんは、絶対ゆっくりさせてやろう。
後悔する事のない、幸せなゆん生を送らせてやろう、と。
こうして長ぱちゅりー親子の『勘違い』が始まってしまったのだ。
『勘違いゆっくり』
「……むきゅ………むきゅ……………」
山の裾野に広がる森の中心、ぽっかり開いた場所にある小高い丘を目指して一匹のぱちゅりーが這いずっていた。
何かに酷くぶつけたような打撲傷が顔中に広がる姿は痛々しい物であったが、その顔に浮かべた形相が哀れみを根こそぎ奪っていた。
(むっきゅうぅぅぅぅぅぅ!ぱちぇをゆっくりさせないむのうなむれはゆっくりしね!)
般若もかくやと言わさんばかりの憤怒の相。最も般若は嫉妬の怒りだが、このぱちゅりーが抱いていたのはもっと醜いもの。
『逆恨み』であった。
(あんなみえみえのわなにかかったむのうなまりさのせいで、ぱちぇがこんなおおけがをおったのよ!
おかげでおかあさんがひとりじめしていたまりさからとりかえしたすぃーまでこわれちゃったじゃない!)
酷い責任転嫁もあったものだが、ぱちゅりー視点ではこれが事実であり、真実である。
そもそもあのスィーは、それを欲しがった娘の我侭を聞き入れた先代の長が群れの皆にある事無い事吹き込んで、
持ち主のまりさを無理矢理悪者に仕立て上げ、強引に追放する事で取り上げた物だ。
いかに長の言葉とはいえ、本来なら疑うゆっくりも現れておかしくない行為だが、この群れにおいては事情が異なる。
長の言う通りにしていれば、必ずゆっくり出来る。
先々代の優秀さが、群れのゆっくりから『長を疑う』事を忘れさせてしまったのだ。
如何に先々代が優秀であっても、その子孫まで優秀であるとは限らないのに。
(じぶんのてでしけいにできなかったのはくやしいけど、にんげんさんがかわりにまりさをおしおきしてくれるわ!
にんげんさんなんかそれくらいしかやくにたたないんだから、しっかりまりさをころしておきなさい!むきゅ!)
この半年間、ぱちゅりーの逆鱗に触れて殺されたゆっくりの数は両手の指に余る。
月に三人以上殺している計算だが、実際に悪事を働いたゆっくりはいない。
苛烈な恐怖政治が、皮肉にも秩序を保つ要因になったのだ。
その事が逆に長の権限を高め、更なる虐殺を呼んでしまった訳だが。
鬱蒼と茂っていた森の木々が途切れ、目の前が急に開ける。
群れが根城にしていた丘の天辺で、周囲を見張っていた子まりさが長の帰還に気付き、急いで駆け寄る。
「ゆっくりおかえりなさい、おさ!……そのけがはどうしたの!?……それに、おかーさんたちは……?」
ぱちゅりーの怪我を見て、何事かあった事を悟ったらしい。顔色を変え、詰め寄る子まりさ。
群れを見捨てた事がバレたらまずい、そう考えた長ぱちゅりーは咄嗟にひと芝居打つ事にした。
「むきゅっ!おちびちゃんたちをみんなあつめなさい!いますぐよ!」
「わ、わかったよ!ゆっくりしないで、みんなをあつめるよ!」
ぱちゅりーの血相に気圧されたのだろう、慌てて『がっこう』のある方角へ駆け去る子まりさを見送り、
ぱちゅりーは自身の身の安全を図る為の筋書きを検討し始めた。
しばらくして、丘の天辺に陣取ったぱちゅりーを囲むように沢山の赤ゆっくりと、子供達が集まっていた。
皆の不安そうな視線を浴びながら、ぱちゅりーは精一杯無念そうな表情を作り、告げた。
「……おちついて、よくきいてねみんな。……ぱちぇたちは、にんげんさんのひきょうなわなにつかまっちゃったの。
そして、…………みんな、にんげんさんにころされちゃったわ………」
長の言葉にぴたっと静まる子供達。
だが、泣き出すゆっくりはいない。余りに衝撃的な内容に、理解が追い付いていないのだ。
「……ま、まって!それじゃ、まりさのおかーさんや、おとーさんは……?」
恐る恐る長に問いかけるのは、見張りをしていた子まりさであった。
ぱちゅりーは子まりさを見やり、沈痛な面持ちで頷いた。
「……おちびちゃんたちの、おかーさんたちはね……ぱちぇだけでもにげてって……
のこされたおちびちゃんたちをおねがいって、ぱちぇをたすけてくれたの………」
その答えを聞き、血の気が引く子まりさ。
やがて長の言葉を理解したのだろう、子供達からざわめきが漏れ始め、それは段々と大きくなっていく。
「……うそだ。うそだうそだうそだ、うそだぁぁぁぁあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
「ゆ゛ぎゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!お゛ぎゃ゛あ゛じゃ゛ん゛がじん゛じゃ゛っ゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
「どぼぢでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛え゛ぇ゛ぇ゛!!がな゛ら゛ずがえ゛っ゛でくでるっ゛でい゛っ゛でだの゛に゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」
「みゃみゃぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!ありちゅいいこになりゅがら゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!み゛ょ゛どっ゛でぎでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛え゛ぇ゛ぇ゛!!!!」
「ぱちぇの、ぱちぇのぴゃぴゃとみゃみゃがぁぁぁぁ!!げほっ、ごほっ……ゆげぇっ!!!」
現実をひたすら否定するもの、戻ってこない父や母を呼び続けるもの、ショックの余り餡子を吐き出すもの……。
森を揺るがす子供達の慟哭はその日の夕刻まで続いたと言う。
しかしぱちゅりーは気付かなかった。
彼女の言葉を聞き号泣する子供達の中に、凍えるような冷たい視線を向けるグループが混じっていた事に。
季節は巡り、春。
うららかな陽気に降り積もった雪が融け、丘の周りに分散する巣が姿を現す。
結局、大人の居ない群れの中で冬籠りを成功させたゆっくりは三分の二にも満たず、そこかしこで犠牲になったゆっくりを偲ぶすすり泣きが聞こえる中、
ぱちゅりーは再び長の地位に就く事になった。
この群れで唯一の大人であり、父や母から自分達の養育を任されたと主張した事もあるが、
涙に暮れる子供達に行った演説が決定打となったのである。
『かなしいのはわかるわ、ぱちぇもくやしいもの。
……だったらつよくなりなさい!つよくなって、ふくしゅうしなさい!そのためのほうほうはおしえてあげるわ!
おかあさんたちのかたきをとりたかったら、ぱちぇについてきなさい!!』
ぱちゅりーのこの言葉で、子供達の親を慕う悲哀はどす黒い復讐の念に変わった。
だがこの演説の本当の狙いはぱちゅりーの手足となる強力な兵隊を作り、自らの屈辱を果たすこと。
あくまでもぱちゅりーにとって都合のいい群れを作る為に、人間と言う敵を利用したのだ。
こうしてぱちゅりーの指導と言う名の独裁と、子供達の特訓と言う名の地獄は始まってしまった。
「むきゅ!にんげんさんははちさんよりつよいのよ!だからはちさんのおうちをもってこれるなら、にんげんさんにかてるわ!」
「そのあまあまはぱちぇのおかげでとれたのよ!だからぱちぇのものだわ!」
「……これはみんなががんばってとってきたんだよ。おさはなにもしてないよね」
「うるさい!ぱちぇのいうとおりにしてればつよくなれるのよ!これもしゅぎょうなのよ!
くちごたえはゆるさないわ!こんどなまいきなくちをきいたら『おしおき』よ!」
「…………」
「むきゅう!にんげんさんはかずがおおいわ!だからどんどんすっきりー!してこどもをふやしましょう!」
「……むれにいるのはこどもだけだよ。すっきりー!したらしんじゃうよ?」
「だったらしなないようににんっしんっすればいいのよ!」
「……どうやって?」
「むきゅぅぅぅっ!!それくらいじぶんでかんがえなさい!!」
「「…………」」
「むきゅう、ごはんがすくないわね!かりにでるにんずうをふやしましょう!」
「……かりにでられるこはみんなでてるよ。あとはがっこうのこどもたちぐらいしかいないよ?」
「なら、そのこたちもかりにだしましょう!じゅぎょうのいっかんとしてこどもたちをかりばにだすのよ!」
「……こどもたちだけじゃ、かりはできないよ?どうするの?」
「まりさたちがめんどうみればいいじゃない!もちろん、かりののるまはまもりなさい!」
「「「…………」」」
「むっきゅ!おくすりがたりないわね!まったく、そんなにけがするなんて、なんてむのうなのかしら!!」
「……それは、おさがおくすりになるおはなをたべちゃったからだよね?みんなのけがも、おさのめいれいのせいだよね?」
「おかのおはなは、ぱちぇのおかあさんのおかあさんがあつめてきたのよ!だったらぱちぇのものでしょう!!」
「……とにかく、おくすりあつめてくるね。こんどはたべないでね?」
「そうよ、そうやってどんどんぱちぇにみつぎなさい!そうすればみんなゆっくりできるわ!!」
「「「「…………」」」」
やがて季節は一巡する。
山の裾野に広がる森の中心、ぽっかり開いた場所にある小高い丘が、再び冬枯れの木々に囲まれる。
群れの大部分を占めていた赤ちゃんがバレーボール大からバスケットボール程に成長した頃。
一年前と同じ早暁の空を背景に、長は再び人間の里を襲撃しようとしていた。
「みんな、ぱちぇはにんげんさんがきらいよ!
れいむを、まりさを、ありすを、ぱちぇを、ちぇんを、みょんを!
あらゆるゆっくりをごみのようにころすにんげんさんが、だいっきらいよ!
みんな、ぱちぇはふくしゅうをのぞんでいるわ!
ぱちぇのむれのみんな、みんなはどう!?
にんげんさんにふくしゅうしたい?
にんげんさんがひとりじめするおやさいをとりかえし、にんげんさんをぼっこぼっこにして、
にんげんさんをどれいにしてつぐなわせる、なさけようしゃないふくしゅうをしたい!?」
「「「「「「「「「「ふくしゅう!ふくしゅう!ふくしゅう!ふくしゅう!」」」」」」」」」」
「そうよ、ならばふくしゅうよ!
ぱちぇたちのむれはいちどにんげんさんにやぶれたわ。いまやかつてのいきおいもない。
でも!にんずうこそすくないけれど、みんなはいっきとうせんのふるつわものよ!
だったらみんなとぱちぇで、……ええと、たくさんのぐんしゅうだんになるわ!!
ぱちぇたちをわすれようとするにんげんさんたちにおもいださせましょう!
かみをくわえてひきずりたおし、おめめをあけさせておもいださせましょう!
おひさまとじめんさんのあいだには、にんげんさんがおもいもよらないゆっくりがあることをおもいださせましょう!
ごじゅうにんのゆっくりのぐんだんで、にんげんさんのゆっくりぷれいすをうばいつくしましょう!
と、いうわけで、おひさまがのぼるまえにそうこうげきをかけるわ!!
こんどこそにんげんさんをやっつけて、みんなのかたきをとりましょう!!」
「「「「「「「「「「えいえいゆーっ!!!」」」」」」」」」」
ぱちゅりーの演説に鬨の声で応える群れ。
当初の半分以下、五十をいくらか下回る程度にまで減ってしまったが、その分質は以前の群れを大きく上回る。
なにしろ一対一なられみりゃとさえ戦える個体がごろごろ居るのだ。
今度こそ勝てるに違いない!!
ぱちゅりーはそう確信していた。
勝てるも何も実際には畑泥棒でしかないのだが、復讐に燃える悲劇のヒロイン気取りで自己陶酔しているぱちゅりーには気付かない。
「まりさ、まりさ!」
「……ここにいるよ、おさ」
ぱちゅりーの呼び掛けに応えたのは、あの見張り役の子まりさだった。
バスケットボール大にまで成長した子まりさは、機転が効く上に群れのゆっくり達に慕われており、
それを買ったぱちゅりーに抜擢され、補佐としてその烈腕を振るっていた。
ぱちゅりーにとっても自分の言うことに従順なまりさは非常に有用であった為、今回の遠征では重要な役目をさせるつもりであった、
「まりさ、あなたにとくべつにんむをあたえるわ!
せんけんたいになって、わながあるかどうかたしかめるの!
でも、わながなくてもそのままとつげきしちゃだめよ!
ぱちぇたちがおいつくまで、しゅういのあんぜんをかくほするのよ!
……できるわね!?」
「……わかったよ。おさがおいつくまで、まってるよ」
勿論ぱちゅりーがまりさを押さえたのは、まりさの身を思ってのことではない。
自分より先に美味しいお野菜を独り占めさせないように、抜け駆けを防ぐ為である。
「それでいいわ。……じゃあまりさ、これをわたしておくわね」
そう言って取り出したのは、先を削って鋭く尖らせた木の枝。
口で銜えるしか物を持つことが出来ないゆっくり達が使う、標準的な武器であった。
「これはぱちぇがつくったぶきよ。ふいをうてばにんげんさんにもこうかはあるわ。
これをもっていきなさい。もしもにんげんさんにみつかったら、なかまをよばれるまえにこれでやっつけるのよ!」
「……うん、ありがとう、おさ」
素直に礼を言って受け取るまりさに満足したぱちゅりーは、群れを率いるべく身を翻した。
まりさの目の前に、ぱちゅりーの背中が現れる。
「……これで、ふくしゅうができるよ」
「…………ゆ゛っ゛!?」
一瞬、ぱちゅりーには何が起こったのか理解できなかった。
体を貫く衝撃、一拍遅れて届く激痛。
「ゆ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
ぱちゅりーの背中に枝が生えていた。
それは先程、ぱちゅりー自身がまりさに与えた武器。
ぱちゅりーが無防備な背中を晒した瞬間、まりさが渾身の力を込めて突き立てたのである。
「いぢゃい!いぢゃいぃぃぃぃ!!なんでごどじゅるのぉぉぉぉ!!ばりざぁぁぁぁぁ!!」
「だまれ」
「ゆ゛っ゛!?」
普段の従順な態度を一変させ、ぱちゅりーを汚物でも見るかのように見下すまりさに気圧され、ぱちゅりーは思わず黙り込む。
「なにがおかあさんのかたきだ!むれのみんながにんげんさんにころされたのは、みんなおまえのせいじゃないか!
おまえがついたうそにだまされたせいで、みんなゆっくりできなくされたんじゃないか!
そのうえまりさたちにまでうそをついて、にんげんさんとたたかわせようとするなんて、どこまでみさげはてたげすなんだ!
おまえはもうおさじゃない!おまえが!おまえこそがまりさたちのおかあさんたちのかたきだ!
みんな!もうこいつのいうことなんてきかなくていいよ!みんなでこいつにふくしゅうするよ!」
そう言われて気付く。全てのゆっくりが、ぱちゅりーに憎悪を込めた視線を向けていた事に。
そして口々に鋭い枝や固そうな石をくわえ、ぱちゅりーににじり寄っていた事に。
蒼白になったぱちゅりーに、まりさの無慈悲な宣告が届いた。
「さあみんな!すぐにはころさないように、でもけっしてゆっくりできないように!
いちねんぶんのうらみをこめて!おとうさんとおかあさんのうけたくるしみをなんばいにもして!
ゆっくりできないぱちゅりーにぶつけてあげようね!」
「「「「「「「「「「ゆっくりできないぱちゅりーはゆっくりしね!!!!!」」」」」」」」」」
「ゆ゛ん゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
ぱちぇりーは気付いていなかったのだ。
自分がこの群れの為にした事など何も無い事を。
群れのゆっくり達が従っていたのは、このまりさだという事を。
そして……
今やこの群れの全てのゆっくり達が、ぱちゅりーを仇と恨み、敵を討とうと思っている事を。
必要とあらば仲間の命はおろか、自らの命さえ投げ出す覚悟を決めていた事を。
表面上はにこやかな表情の下で、仇敵に従う屈辱に心の中で血涙を流しながら、それを受け入れていた事を。
そして一年もの長い年月を掛け、用意周到に準備された復讐が、今まさに果たされようとしている事を。
自分の命令に従順な群れに満足し、堕落しきったが故に勘が鈍ったぱちゅりーには気付けなかったのだ。
話は去年の晩秋、群れが人里を目指して総出撃した朝まで遡る。
「おちびちゃんたちはここでまっててね!おやさいさんとりかえしたら、いっぱいむーしゃむーしゃしようね!」
「あかちゃんたちをよろしくなんだぜ!すぐもどってくるから、いいこにしてるんだぜ!」
「……ゆっくりわかったよ!あかちゃんたちはまりさたちがまもるよ!」
群れ全員での総攻撃を狙っていた長ぱちゅりーだが、副将のまりさから『あかちゃんたちはまだ、たくさんあるけないんだぜ!』
と進言され、赤ちゃんの同行を諦めざるを得なかった。
そうするとまた別の問題が浮上する。
赤ちゃんは基本的に手がかかるものだ。それこそ朝から晩まで親が面倒を見なければならないくらいに。
だが、赤ちゃんがいる親だけを残して行く事は出来ない。そんな事を認めたら群れの半数が脱落してしまう。
いくら長ぱちゅりーに秘策ありとはいえ、それだけの戦力を遊ばせておく訳にはいかない。
どうすれば、と頭を悩ませる長に、再び副将のまりさから進言があった。
『なら、せめてこどもたちだけはおいていくんだぜ!』と。
『がっこう』を卒業したゆっくりは親の監督の元で群れの仕事を覚えて行く。
要は半人前の扱いなのだが、今回の出征において全員動員されることが決定している。
現在『がっこう』に在籍しているゆっくりは現在六十人前後。
その内、半年間の義務教育を経て卒業寸前のゆっくりは九人いる。
片手で数えられる程度とはいえ、それだけいれば赤ちゃんの面倒くらいは見ていられるだろう。
まりさの進言にそう結論付けた長は、百人近い群れの赤ちゃんと『がっこう』の生徒達をおいて行く事を決定したのだ。
早暁の空に鬨の声を響かせながら出陣して行く親達を見送る子まりさ。
後に群れの帰還を最初に発見する事になる彼女は、明日『がっこう』を卒業する予定であった。
最年長であった為に子供達のまとめ役として抜擢され、出陣直前まで大人達からレクチャーを受けていたのだ。
遠ざかる大人と成人一歩手前の先輩達の姿を見届け、子まりさは踵を返して『がっこう』へ向かった。
『がっこう』への道すがら、思い返すのはまだ赤ちゃんだった頃に見た、丘の上で必死になって長を説得していたれいむの事。
母はれいむのことを「げす」呼ばわりしたが、子まりさにはそうは思えない。
ゲスとは、自分の為に他人をゆっくりさせない、自分本位なゆっくりの事である。
本当にゲスであるなら、あの時吐いた嘘で何の利益がれいむにあったと言うのだろう?
いつも上手なお歌を聞かせてくれたれいむが、涙を浮かべて教えてくれた『おにーさん』のお話は、
まだ赤ちゃんだった子まりさにも解る程に説得力があった。
そしてれいむがぼろぼろの姿で組み敷かれ、群れの皆にゆっくりできなくされていた時、
全てを諦めたようなれいむの目に、寂しそうな、悲しそうな、そして何より悔しそうな無念の表情に、
そして最後の一瞬、痛みとは違う何かに流された涙に。
その死に様を嘲笑う姉妹達の中でただ一人、子まりさだけはれいむが正しいと直感した。
だからそれを嘘と断じ、あまつさえあんなに残酷な『おしおき』を実行した長ぱちゅりーを、子まりさは信じられなかった。
その後に繰り返された『おしおき』を目撃する度、子まりさの疑念は膨らんで行った。
食糧不足で赤ちゃんに食べさせる事が出来ず、やむなく食料庫から盗み出したれいむは殺される程悪かっただろうか?
そのれいむの子供であり、親の復讐に燃えて長に襲いかかったちぇんは果たして反逆者の汚名に相応しかったのだろうか?
群れ中の狩りの名人を総動員しても捕る事が難しい蜂の巣を、たった一人で捕るように命じられたみょんは本当に臆病者だっただろうか?
それらを指摘して、長を諌めようとして『おしおき』されたまりさ達はどうだろうか?
そして今、群れの大人達を率いて人間の畑を襲いに行くぱちゅりーは、本当に正しいのだろうか?
先々代はおろか、先代の治世すら知らぬ子まりさには大人達が持つ長への盲信が無い。
そしてれいむの事件で群れの有り様に疑問を持った子まりさは、ゆっくりらしからぬ深い洞察力を獲得するに至ったのである。
「……やっぱり、おさのいうことはおかしいよ…………みんな、だいじょうぶかなぁ……」
とは言え、子まりさはまだ『がっこう』も卒業していない、半人前とも認められていない子供だ。
親の庇護を受け、授業以外では狩りにも同行できない子まりさが疑問を呈しても
「おちびちゃんにはまだむずかしいことだよ!それよりおへやのおかたづけしなさいね!」
「おちびがそんなむずかしいことかんがえてちゃだめだぜ!それよりみんなとあそんでくるんだぜ!」
などと返され、子まりさの疑問は大人に憧れる子供の背伸び程度にしか受け取られない。
子まりさが幾ら疑問を持ったとしても、子まりさに出来ることは無かった。
精々こうして群れの行く末を憂いることしか出来ないのである。
「……ゆっ!とにかくまわりをみはって、あかちゃんたちをまもらなきゃ!まりさ、がんばるよ!」
子まりさは気分を切り替え、丘の周囲を見回ってまわる。
この季節、越冬の準備をするのはゆっくりだけではない。
熊や猪、蛇などの森に棲息する生物も越冬のために食糧を集めているのだ。
そしてゆっくり達の中身は栄養価の高い餡子。
当然狙われる確率も高く、何時襲われるか解らないのでこうして見張りを立て、警戒しているのである。
そして半分程廻った時、子まりさは見慣れぬゆっくりが丘を見上げて佇んでいる事に気付いた。
「ゆっ!そこにいるのは、だれ!?」
「!?」
そこに居たのは黒いお帽子を被ったまりさであった。
しかし、子まりさには見覚えが無い。
群れの中のまりさのお帽子は皆ピンっと立っている。
あんなに縒れ縒れで、所々破けているようなお帽子を被っているまりさはいない。
髪の毛もあんなにボサボサで、くすんだ金髪をしたまりさもいない。
お肌もボロボロで、細かい傷だらけのまりさもいない。
大きさからすればもう大人なのだろう、この群れでこの大きさのゆっくりなら出征に参加していない筈が無い。
かなり不審ではあったが、とりあえずご挨拶しようと近付く子まりさに、見慣れぬまりさはゆっくりと振り向いた。
「ゆっ!?」
そのまりさには、片目が無かった。
左目の上からあんよに掛けて、大きく抉ったような傷跡があったのだ。
子まりさはその傷の事を知っている。
ゆっくり殺しなど、重罪を犯した罪ゆっくりに対してのみ行われていた刑罰。
『おめめえぐりのけい』。
片目を抉り、群れから永久追放する刑の痕であった。
子まりさも、実際に『おめめえぐりのけい』の受刑者に会うのは初めての事だ。
『がっこう』での授業でも教わったし、度々「わるいこはおめめをとられちゃうんだよ!」と親から叱られた事もあり、
その傷が悪いゆっくりの証である事は理解していたが、粛清の嵐が吹き荒れる今の群れではあまり意味が無い。
先代の長の頃は、この『おめめえぐりのけい』が最も重い処罰であった。
それは先々代が『たとえあいてがゆっくりごろしでも、ゆっくりがゆっくりをころしてはならない』と定めた為であったのだが、
今代の長はあっさりとその禁を破り、長を侮辱したれいむを皮切りに死に至る程過激な『おしおき』を何回も強行した。
反発もあったが、長は『ゆっくりできないゆっくりをおいだしたら、ほかのむれにめいわくがかかる』と反対派を丸め込み、
それでも反対するゆっくりを『こいつらはゆっくりできない』と無実の罪を着せ、『おしおき』で殺していったのだ。
最近生まれた赤ゆっくり達はその恐ろしい『おしおき』しか知らない。
今の群れにとって、悪いゆっくりとは死んだゆっくりの事である。
いくら知識として知っていても、経験の無い子供達にとっては実感の無い、遠い過去の出来事だ。
だから子まりさも、その傷を持ったまりさに平然と挨拶できたのだ。
「ゆっ!まりさおねーさん、ゆっくりしていってね!」
「ゆ゛っ゛!?……ゆっ、ゆっくじして……い゛っ゛……で…………ゆ゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛ん゛!!!
ばりざぁ!!ゆ゛っ゛ぐじじでい゛っ゛でね゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ゛!!!!!」
子まりさの無邪気な挨拶に、傷まりさは感極まったように号泣しながら挨拶を返す。
「ゆっ!?」と驚く子まりさだが、それ程この傷まりさにとっては驚天動地の出来事だった。
この『おめめえぐりのけい』の事は、この辺り一帯の群れに広く知れ渡っている。
「かたほうのおめめのないゆっくりは、とてもゆっくりできないゆっくりだよ」
どんな小さな群れであっても、この話は必ず伝えられており、それ故にどの群れも傷まりさを受け入れる事は無かった。
『おめめえぐりのけい』の受刑者の末路は、孤独な野垂れ死にが定番だったのである。
そんな受刑者の中にあって、この傷まりさは二年もの間生き延びて来た希有な例であった。
元々狩りが得意だった事に加え、皮肉にも野山の危険物を見分ける群れでの教育が功を奏した結果である。
追放されたゆっくりが群れに近づき、それが発覚したら群れ総出でゆっくり出来なくされてしまう。
これまでにも何度か試し、その度に追い払われて来たから傷まりさにはそれがよく解っていた。
それが今日、世も明けない内に総出撃していく群れの姿を目にした時、押さえていた思いが爆発した。
(あのおかに、かえりたい!)
ゆっくり出来なくされた身であっても、やはり故郷は恋しいもの。
あんなに大勢でどこへ行くのかは知らないが、今ならあの丘を一目見る事くらいは出来るだろう。
それでもう心残りは無い。後はこの苦しいゆん生に、いつ幕が下りても悔いなく逝ける筈だ。
そんな決意を胸に、傷まりさは丘を目指して近付き、子まりさに発見されたのだ。
(……ああ、みつかっちゃった。せめて、さいごにちょっとだけでも、おかでかけっこしたかったなぁ……)
傷まりさの脳裏を諦めが支配する。
覚悟を決めた傷まりさの耳に、子まりさのご挨拶が飛び込んで来たのはそんな時だった。
予想外の優しい言葉に感極まり、号泣する傷まりさが泣き止んだのは、朝日が半分程昇りかけた頃であった。
嗚咽の合間合間に、断片的に挟まれる壮絶なゆん生を聞かされた子まりさは、もらい泣きしながら傷まりさを慰めていたが、
どうしても気になったそれを尋ねずにはいられなかった。
「……ねぇ、おねーさん。おねーさんはどうしておめめをとられちゃったの?」
そう、片目が無いゆっくりは大悪人の証である以上、どんなに善良そうに見えても仲良くは出来ない。
仲良くする振りをして近付き、隙を見てご飯や宝物を奪い取ったり、無理矢理すっきりー!したりするのが目的かも知れない。
今のまりさの双肩には百匹以上の子供達の命が懸かっている。どんな小さな異常でも見逃すわけにはいかなかった。
だが、それを聞いた傷まりさが再び目を潤ませた。
何かを耐えるように唇を噛み締めて涙を堪え、ぽつりぽつりと語り出す。
「……おさがまりさをわるものにしたんだよ…………まりさが……すぃーをひとりじめしてるって………、
あのすぃーは……おかーさんのかたみだったのに…………だいじなだいじな……まりさのたからものだったのに……、
………ゆっ、ゆえぇぇぇえぇぇん!!!」
そこまで語った所で堰を切ったように泣き崩れる傷まりさの姿に、子まりさは確信した。
(やっぱり、あのおさはうそつきなんだ!れいむおねーちゃんをいじめたのも、おかーさんたちをつれてったのも!
みんなうそなんだ!……おさはけんじゃなんかじゃない!おさのほうが、くずだったんだ!)
子まりさと傷まりさの出会いは、双方にとって幸運であった。
子まりさにとって傷まりさは漠然でしかない長への疑いを証明する生きた証拠であり、
傷まりさにとって子まりさは自分の言葉が嘘偽り無い事を信じてくれた恩人である。
子まりさの不信感がピークに達していたこと、傷まりさのホームシックが再燃していたこと。
まさに奇跡の確率で絶好の機会がかち合った、幸運な出会いであったのだ。
子まりさは傷まりさを連れ、赤ちゃんと子供達が集められている『がっこう』に向かった。
そこは入り口を倒木で塞がれた洞窟で、子ゆっくりサイズなら通り抜けられる狭い隙間が倒木の端に開いており、
いざと言うときは、そこを塞いで外敵の侵入を防げるようになっている。
教師役の大人ゆっくりは倒木を乗り越えなければならないが、逆に言えばそうしなければ入れない安全な場所である。
「ゆっくりただいま!」
「……あいことばをいってね!……むしさんがいないなら、あまあまをたべればいいじゃない!」
「あまあまがないなら、むしさんをさがせばいいじゃない!」
「ゆっ!せいかいだよ!……おかえり、まりさ!」
入り口を封鎖している倒木の枝が動き、そこから一人の子れいむが出てきた。
見張りの交代要員である。本来あまり運動の得意でないれいむに任せるような仕事ではないが、
卒業を目前に控えた九人の子ゆっくりは子まりさを除き子れいむと子ありす、そして子ぱちゅりーで占められていた。
ひと月遅れて入学したちぇんやみょんはまだ一人で出すには不安だったし、何より赤ちゃんの面倒を見なければならない。
百匹近い赤ちゃんの世話をしながら危険な見回りなぞできない。
仕方なく、年長組が見張りを持ち回り、残りの生徒達と年長組の子ぱちゅりーが赤ちゃんのお世話をすることにしたのだ。
そして外から聞こえて来た合い言葉に、まりさと交代する為に出て来た子れいむが見たものは、見慣れた子まりさの顔と、
「ゆ゛っ゛!?……まりさ、そのおねーさんはだれなの?」
面識の無い、片目を無くしたまりさの顔であった。
「……れいむ、よくきいて。もしかしたら、いつもまりさがいってることがほんとうかもしれないよ」
「……どういうこと?まりさ、おさのことでなにかあったの?」
「それをせつめいするんだよ。みんなのところでおはなしするから、みはりはすこしまっててね」
そして子まりさは年長組の仲間達に自分の推理を打ち明けた。
それを聞いた子れいむ達の反応は様々であった
「そんなはずないわ!おさはいつでもただしいのよ!」と長の正当性を主張するありす、
「むきゅ!かためをなくしたゆっくりのおはなしなんて、しんじられるわけないでしょう!」と授業で得た知識を元に否定するぱちゅりー、
「でも、さいきんのおさがおかしいのはほんとうだよ?ゆっくりしてなかったよ?」と長への不信感を漏らすれいむ。
喧々諤々と続いた話し合いを収めたのは、子まりさの発言であった。
「おさがただしいのか、まりさがただしいのか、みんながかえってきたらたしかめてみようよ。
まりさおねーさんはもりにかくれていて。みんなにみつからないようにちゅういしてね」
そうしてしばし時が過ぎ。
二百匹を超えた大集団は、ぱちゅりーただ一人の生還を持って全滅したのである。
長ぱちゅりーから群れの顛末を聞かされ、森を揺るがす慟哭に泣き疲れた赤ちゃんと子供達を寝かしつけ、
年長組は再び長の正当性を議論し始めた。
ありすの論調は変わらず長の擁護、最も半数の二人程は半信半疑と言った所。
逆に意見を翻したのはぱちゅりー。こちらは一人が慎重派、もう一人が完全に疑い始めた様子。
れいむは長の涙に同情したのか、片方が長を擁護し始め、片方が長への不信感を露にするも、勢いは無い。
平行線を辿りつつある議論に、まりさはある提案をする。
「じゃあ、とりあえずおさのゆうとおりにしようよ。
おさがただしいならゆっくりできるはずだし、おさがまちがってるならゆっくりできなくなるから、
これからのおさがどういうふうにむれをゆっくりさせるのか、みとどけてからはんだんしよう」
この提案を年長組は全員受け入れた。
実際、幾ら考えても解決しないのならこれからの動向で判断するしかない。
ほぼ博打のような提案ではあったが、現時点ではそれ以外に方法は無かった。
そして彼女達は、いきなりその答えを突きつけられた。
今までの群れでの冬籠りは、それぞれの家庭ごとに行っていた。
しかし今回は話が違う。
何しろ大人が全滅している上、群れの殆どはまだ赤ちゃんなのである。
ならば一カ所に食べ物と群れを集め、全員で冬籠りすべきだと言う意見に、ぱちゅりーはこう返したのである。
「いままでどおりでいいでしょ!かえるひつようはないわ!むきゅ!」
この言葉に唖然となったのは年長組だけではない。
後輩のちぇんやみょんを含む『がっこう』の生徒達の大半が、長の台詞に度肝を抜かれた。
長ぱちゅりーにしてみれば、一カ所に集まるなど言語道断である。
何かの弾みで口を滑らせ、群れを見捨てたことがバレでもしたら、即座に殺されてしまう。
そうでなくても、暗殺の危険性を考えれば皆と一緒にいるより、一人でおうちに籠っている方が安全なのだ。
しかし子供達にとってこれは死刑宣告にも同等の命令である。
長の言葉である以上は従う義務が発生する。だが、素直に従えば待っているのは、死。
年長組においても意見は分かれ、結果ありす二人とぱちゅりーとれいむが一人ずつ年長組を離脱。
群れの三分の一を率いてそれぞれの巣に別れ、冬籠りを開始した。
残されたグループはおうちの貯蔵食糧を持ち寄り、『がっこう』にて共同生活を行うことにした。
そして、春。
分散して冬籠りをしていたゆっくりは物の見事に全滅した。
初めての越冬と、赤ちゃんの食欲を考えに入れず、食糧の計算を間違えて餓死したれいむのグループ。
黒ずんだ何かが大量に茎を生やし、あたかも小さな森のような様相を醸していたありすのグループ。
強度の足りない巣が大崩落を起こし、全員生き埋めとなったぱちゅりーのクループ。
その他にも赤ちゃんだけで越冬しようとして失敗したり、食糧不足の果てに凄惨な殺し合いが起きた巣もあった。
まりさ達、共同生活グループは多少の犠牲者を出したものの、初めての越冬を成功させた。
それはまりさ達だけではなく、あの傷まりさの協力あってのものであり、傷まりさへの偏見は大幅に薄れていた。
また共同生活を提案し、そのリーターシップをとったまりさに対する信頼も大きくなり、
実質まりさは生き残ったグループの長といっても過言ではない立場に就いていた。
同時にそれは、まりさが持っていた現状の長であるぱちゅりーへの不信感を、群れが共有することを意味していた。
しかしまりさはそれを表に出すことを硬く禁じた。
「おさがどんなにあやしくても、おさはまだおさなんだよ。いま、おさにきづかれたら『おしおき』されちゃうかもしれないよ」
こう説得して廻り、はっきり長ぱちゅりーを疑っているゆっくりにも、未だ半信半疑のゆっくりにも、
とりあえず長の命令に従うよう頼み込んでいたのである。
そして長の就任演説を経て、一年間に及ぶ独裁政治が始まり。
長ぱちゅりーは己の態度で持って、まりさ達の不信感を確信に変えてしまったのである。
そして舞台は再び現在に戻る。
ぱちゅりーは今、自分が育てた屈強な兵士達に暴行されていた。
「これでもくらえ!」
「ぴぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
硬い小石を四方八方から吹き付けられ、
「に゛ゃ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「……また、つまらないものをきってしまったみょん」
尖った枝で何度も何度も斬りつけられ。
「こんなやつにおかざりなんてもったいないんだねー!!わかるよー!!」
「や゛べて゛え゛え゛え゛え゛え゛!お゛がじゃ゛り゛や゛ぶがな゛びでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!」
お飾りを目の前で細切れにされ、
「こんないなかもののあかちゃんなんて、ぜったいうまれないようにしましょう!」
「ゆ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!ぼう゛ゆ゛る゛ぢでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!!」
ぺにぺにを切り取られ、それを押し込んだ上で棒切れを突き込んでまむまむを潰し、
「こんなやつがぱちぇのどうるいだなんて、なのれないようにするわ!」
「ばぢぇ゛の゛ずでぎな゛がみ゛の゛げがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!
少しずつ髪を力づくで引き抜かれて、禿げ饅頭にされ、
「ぱちゅりーのきたないおかおをきれいにするね!」
「q゛あ゛w゛せ゛d゛r゛f゛t゛g゛y゛ぶじごl゛p゛!!!!!!」
砂を撒いた木の皮に顔を押し付け、そのままおろし金のように動かしてぱちゅりーの皮を削る。
おおよそ考えつく全ての苦痛を、ぱちゅりーは味わっていた。
たまに「ゆげぇっ!!」と生クリームを吐いても「まだまだおわらないよ!」と強引に押し戻されて、死ぬことも叶わない。
最初に宣言された通り、死なないギリギリを見極めた絶妙な手加減を加えられた生き地獄が延々と続けられていた。
その様子を離れた場所で窺うゆっくりがいた。
傷まりさである。
便利な道具でしかなかった自らの群れに、ゆっくりできなくされているぱちゅりーを無表情で見つめ続ける傷まりさの元に、
クーデターに成功し、今やこの群れの長になったまりさが歩み寄る。
「……まりさおねーさんはやらないの?」
長まりさの疑問に、無表情を崩して苦笑を浮かべて答える。
「まりさのぶんはもうおわってるよ。あのすぃーが、まりさのぶんまでぱちゅりーにしかえししたんだよ。
だからまりさはもういいんだよ。いま、あいつがうけるべきはまりさたちのふくしゅう、なんだからね」
母の形見であったスィーごと罠に掛かった顛末はすでに聞いていた。
傷まりさにはそれがスィーの意志であったように思えたのだ。
ならばその意志を汚す真似はすまい。傷まりさは自然にそう思えたのである。
「……うん、わかった。じゃあ、そろそろしあげにはいるね」
その言葉に感じ入るものがあったのだろう。
一つ頷き、踵を返した長まりさは未だ醜い悲鳴を上げ続けるぱちゅりーの元へ向かう。
「みんな!いっぺんやめてね!まりさとおはなしさせてね!」
その言葉に群れが静まる。先程までの喧噪が嘘のような静寂の中、
「……ゆ゛っ゛……ゆ゛っ゛……」と痙攣するぱちゅりーの耳元へ長まりさが囁く。
「……なんでこんなめにあっているのか、わかってる?ぱちゅりー?」
その言葉に反応したのか、白目を剥いていたぱちゅりーの口から断末魔以外の言葉が漏れる。
「……ぱ……ちぇを……ゆっ………く……り………させ………な……い……げすは………し……ね………」
反省の色の欠片も無い、醜い性根を表したかのような呪詛を聞き、まりさは落胆した。
こいつは、自分が何故こんな目に遭っているのか理解できていない。
これでは、自分達の復讐が成ったとは言い難い。
自分のせいで、自分が無能だったせいで殺されることを自覚させて、より深い絶望にたたき落とさねば、
死んで行った親兄弟達に申し訳が立たないだろう。
しかし長まりさにはこれ以上のアイデアは無かった。
こいつに自分の罪を認めさせる方法が、この拷問以外に思い付かなかったのである。
(……しかたないね。そろそろれみりゃがおきるころだし、ざんねんだけど、とどめをさそう)
心の中でため息をつき、ほぼ一日中続いた拷問を終わらせる決意を固める。
「みんな、このぱちゅりーをもりのそとにたたきだすよ!」
「「「「「「「「「「わかったよ、おさ!」」」」」」」」」」
群れはもうまりさを長と認めていた。
あの過酷な一年の間、このまりさに従っていれば生き残ることが出来た。
それだけでなく、優れた洞察力からくる統率力、計画性、全てにおいて突出していたまりさは群れの憧れでもあった。
その長の言うことをどうして疑うことが出来るだろう?
「それじゃあ、ぱちゅりーをもりのそとまではこぶよ!ゆっくりてつだってね!」
「「「「「「「「「「まかせてよ、おさ!」」」」」」」」」」
虫の息のぱちゅりーを長まりさが跳ね飛ばす。
「ゆ゛っ゛!?」と転がって行く先にいたちぇんが勢いをつけて蹴り上げる。
「ゆ゛ぎっ゛!?」と跳ね飛ばされた先にいたみょんが銜えていた枝で打ち返す。
「ゆ゛びぃ゛っ゛!?」と飛んで行く先にいたれいむがぷくーっ!して跳ね返す。
「ゆ゛がぁ゛っ゛!?」とパウンドする先にあったぱちゅりー達が作った壁にぶつかり、転げ回る。
「ゆ゛ぶっ゛!?」と蹲ったぱちゅりーを、走り寄ったありすが跳ね飛ばした。
ピンボールの玉よろしく、森の木々の合間を跳ね回ったぱちゅりーが森と人里を分ける平原に放り出されたのは、すっかり夜も更けた頃であった。
……ふああ。あー、さむっ。
また急に冷え込んできやがったな。
いくら夜明け前だっていっても、まだ秋の範疇だろうに。
これは今年の冬も厳しくなりそうだな……。
……ん?なんだありゃ。
饅頭?……いや、ゆっくりか?
あんな飾りも髪も無いゆっくりなんて見たこと無いぞ。
……うわ、なんだこりゃ?
こんなに全身ボロボロになるなんて、何があったんだ一体?
……お、意識はあるようだな。
ってか、この様で生きてるって、ゆっくりってのは随分頑丈に出来てんだな。
前に燃やした奴らはあんなにあっさり死んじまったのに。
……『ぱちぇの群れを知ってるの?』?
お前ぱちゅりーだったのか?いや、あの群れに居たって事は……
……そうか、お前さんあの時逃げ出したぱちゅりーだな?
せっかく逃げ出したってのに、何でそんな重傷負ってんだよ?
……『ゲスなまりさに追い出された』だって?
いや、お前さん確か長だったんじゃないのか?
……『ゲスまりさに騙されたゲス達に乗っ取られた』ぁ?
よく解らんが、世代交代でもあったのか……?
しかしよく無事だったな、この辺りはれみりゃの縄張りだぞ?
……『ぱちぇの群れは、れみりゃを倒せるくらいに強いのよ』って……
なあ、それって強いのは群れであって、お前さんじゃないよな?
なのに何でお前さんがれみりゃに襲われない理由になるんだよ。
……『ぱちぇのお陰で強くなれたんだから、ぱちぇが強いに決まってるでしょう』?
おいおい、何なんだそりゃ。三段論法にもなってないぞ。
……ああ、わかった。
お前、群れでいつもそんなこと言ってたんだろ?
そりゃ追い出されるわな。
あのまりさが言ってた通りだわ。とんでもない無能だな、お前。
……『ぱちぇは長なのよ!何でも知ってる森の賢者なのよ!』って言われてもな。
実際長としては無能だぞ?お前。
そもそも長に必要なのは『古い知識を生かして、新しい何かを創り出す程度の能力』なんだよ。
知ってるだけじゃ役に立たないのさ。
古い掟の問題点を見つけてそれを改善した掟を決めたり、今までの狩りで餌が獲れないなら原因を探って狩り方を見直す。
それが出来るから、長ってのは慕われるんだよ。
何を勘違いしているんだか知らないが、お前が長の器じゃないってのはそのゆっくり達にも解ってたんだろうな。
……なあ、ぱちゅりー。
お前は、群れの為に何か新しいことをしたのか?
……暴れんなよ。全然痛くないけどな。
ああもう、生クリームが飛び散って汚れちまったじゃねえか。
……ああ、鬱陶しい!
おらよ!どこにでも飛んで行きやがれ!
……結構飛んだな。
……おや、三軒隣の御仁井さん。こんな所でどうされました?
……れみりゃの調達ですか。そりゃご苦労様です。
……いえ、ちょっとね……
無能なぱちゅりーに絡まれて、野良着を汚されちまったもんで。
あんまりムカついたんで、森の方へ思いっきりぶん投げてやったんです。
……ははは、止してくださいよ。
俺に虐待は向いてませんって。
……それよりも例の研究は進んでるんですか?
確か、ゆっくりを使った画期的な農法だとか何とか……
山の裾野に広がる森の中、人間に捕まって投げ飛ばされたぱちゅりーは、奇跡的に生きていた。
しかしその姿は到底無事とは言えなかった。
お飾りも髪も無くし、所々薄くなった皮からはじくじくと生クリームが滲み出している。
それでも尚、残された目には執念の炎が燃えていた。
「……ぱちぇは……おさなのよ………いだいな……もりのけんじゃなのよ…………
……ぱちぇをゆっくりさせるのは…………すべてのゆっくりの……………ぎむなのに……………」
ぱちゅりーに帰る場所なぞどこにもない。
あの丘に向かうのは論外だ。
忌々しいゲスまりさに騙された無能な群れが襲いかかってくる。
人間の里に留まれば今度こそ殺されるだろう。
他の群れに匿ってもらおうにも、お飾りはおろか、髪さえ無くした自分を迎え入れてくれる筈が無い。
行きずりのぱちゅりーを襲ってお飾りを奪おうにも、満身創痍のこの身では到底実行できまい。
まさに八方塞がりの状況。
先程から妙に体がだるい。
悪寒は治まるどころかどんどん悪化してゆく。
あんよの感覚が殆ど無い。
(……そういえば、さっきからぜんぜんいたくないわね……?)
嫌な予感が彼女の脳裏をよぎる。
強ばってなかなか言う事を聞かない体を無理矢理動かして、後ろを振り返ったぱちゅりーの目に、
「……む゛ぎゅ゛う゛ぅ゛う゛う゛ぅ゛う゛う゛っ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛っ゛!?!?!?!?!?」
見えては行けない筈の光景が見えてしまった。
ぱちゅりーが這いずった後を追うように、白いナニカが線を描いている。
それは、ぱちゅりーの生クリーム。
彼薄皮一枚を残して剥ぎ取られた皮から滲み出した生クリームが、少しずつ、少しずつ、
ぱちゅりーのあんよと言う絵筆によって、冬の森というキャンバスを汚していたのだ。
痛みが治まったのではなかった。最早痛みすら感じない程に、感覚が鈍り切っていたのである。
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!じに゛だぐな゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!
だれ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!だれ゛がだずげろ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」
一体どこにそれだけの底力があったのか。
誰もいない森の中に、ぱちゅりーの叫び声が谺する。
そしてその谺は、届いてはいけないものに届いてしまった。
突然響き渡る羽音に、ぱちゅりーがピタっと黙る。
恐る恐る目を向けた先にいたのは、
「う~☆あまあまみつけたど~☆」
「どぼじであ゛がる゛い゛の゛に゛れ゛み゛り゛ゃ゛がい゛る゛の゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!」
そう、昼間は眠っている筈のれみりゃであった。
このれみりゃが特別だった訳ではない。
森の奥地は木々が密集しており、昼間であっても尚薄暗い。
木漏れ日に気をつけさえすれば、昼間でもれみりゃが活動するには充分な暗さがある場所なのだ。
その為、ここに足を踏み入れるゆっくりは相当訳ありでもなければ存在しない。
こうしてたまに迷い込んでくるゆっくりは、れみりゃ達にとって最大のご馳走であった。
「う~☆つかまえるど~☆ふゆのでなーにするんだど~☆」
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ばな゛ぜえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!お゛う゛ぢがえ゛る゛う゛う゛う゛う゛う゛!!」
帰るべきお家なぞ何処にも無いことを忘れ、ぱちゅりーは泣き叫ぶ。
「うるさいんだど~☆しゃべれないようにするんだど~☆えいっ☆」
「ゆ゛ぶっ゛…………!!!!」
舌を引っこ抜かれ、お口に石を詰められて、ぱちゅりーは喋れなくなる。
ぱちゅりーが静かになったのを確認すると、れみりゃは満足そうに巣のある老木へ飛んで行った。
それからおよそひと月。
ぱちゅりーはまだ生きていた。
老木のうろを利用したれみりゃの巣には、同じように捕まったゆっくり達が沢山並んでいた。
れみりゃはその日の気分で啜る餡子を変えているようで、様々な種類のゆっくりが用意されている。
しかもこのれみりゃは、死ぬまで餡子を啜ろうとはしない。
死にそうなギリギリまで吸い上げ、痙攣を始める直前で止める。
その加減はまさに職人技と言えよう。
そして餡子を吸い上げたゆっくりの口に、うろに自生していたキノコを詰め込むのだ。
そんな怪しげなキノコなぞ食べたくもないが、それ以外に食糧は無いし、どのみち食べても食べなくてもれみりゃに詰め込まれる事に変わりはない。
どうやら毒キノコの一種らしいそれは、口に含んだ途端に気分が悪くなり、悪寒や幻聴が聞こえ始める。
そして酷い時には幻覚を見るようになる。それも、自分が最もトラウマにしている幻覚をだ。
(だまれえええええええ!!ぱちぇはむのうじゃないいいいい!!)
ぱちゅりーを襲う幻覚、それはあのまりさでも罠に掛かったことでもない。
あの人間に言われた一言、それがいつまでもリフレインするのだ。
………お前は、群れの為に何か新しいことをしたのか?………
(なんで……なんでぱちぇが……もりのけんじゃがこんなめに……)
本当にそうだったか?
本当に自分は森の賢者として相応しかっただろうか?
母の死は本当に母が無能だった所為なのだろうか?
あの時、冬籠りの食糧が尽き、実の母を無茶苦茶になじったあの時。
『ごはんもまんぞくにあつめられない、むのうなおかーさんはゆっくりしないでしね!』
『……ごめんなさい、むのうなおかーさんで。せめておかーさんをたべてゆっくりしていってね!
…………さぁ、おたべなさい!』
目の前でもの言わぬ饅頭になってしまった母を見て、自分は何を思っていただろうか?
『むのうなおかーさんは、ぱちぇのごはんぐらいにしかやくにたたないわね!』
そんなことしか思ってなかった気がする。
あの時、本当に賢者と呼ばれる程賢かったのなら、食糧を得る手段を思い付けたのではないか?
いや、そもそも食糧不足に陥ること自体無かったに違いない。
(……そんな……そんなはずないわ…………ぱちぇはわるくない………わるいのはみんなげすのせいにちがいないわ……)
あのまりさ達は本当にゲスだったろうか?
むしろ自分より有能だったのではないだろうか?
(……ちがう……ぱちぇは…………いだいな……もりのけんじゃなのよ…………)
疑問が浮かぶ度に脳裏で必死に否定するぱちゅりーに、またあの声が聞こえてくる。
………お前は、群れの為に何か新しいことをしたのか?………
(うるさい!うるさい!うるさい!うるさぁああああいいいい゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!)
春はまだ遠い。
れみりゃが冬籠りを終えて、ぱちゅりーを全部食べ尽くすまで。
幻聴は毎日、ぱちゅりーを責め立て続けた。
ぱちゅりーは最後まで気付けなかった。
自分が賢者でも長でもなく、只の無能なゲスでしかない事を。
……それを心のどこかで認めてしまっていた事を。
※気付けば連休中盤だよ!時間懸かり過ぎだろコノヤロー!!
お待ちいただいた方々には大変お待たせいたしました!
前作に感想を付けてくださった皆様のご期待に、
「(ハードルを上げるのは)もうやめて!作者の(チキンハートな)ライフはもうゼロよ!!」
状態で悶えながら書いては直し、書いては直し。
気付けば前作を遥かに超える長文になっておりました。
皆様のご期待に応えるべく、作者の筆力の限界まで絞り出しました、
本当にこれで応えられているか不安でいっぱいですが、これ以上お待たせできないだろうとうp決行。
……どうか皆様のご期待に応えられてますように。
※まりさについて(補足)
前作『騙されゆっくり』のまりさについて、感想にてさんざん指摘されておりました通り、
あれはまりさの脳内補完によるものです。
実際にれいむを襲っていたときはんなこと一切考えておりません。
何も知らずに死ぬよりも、罪を自覚してから死んだ方がより絶望感は凄いだろうと思い、最後に反省させる描写を入れましたが、
良い奴で終わらせるのは許すまじ!と前々作のまりさの行動を脳内補完させたのですが、
思ったより解りづらかったみたいで、反省しております。
本来作者が作品に解説を入れるのは反則だと思っているのですが、今回は作者の筆力不足によるものですので、
急遽解説を入れさせていただきました。
※虐待成分は頑張ってみましたが、もしかしたら薄目かも?
※馬鹿みたいに長いです。
※前作『ふたば系ゆっくりいじめ 277 騙されゆっくり』と前々作『ふたば系ゆっくりいじめ 274 嘘つきゆっくり』をお読みいただいてからお読みください。
先代の長ぱちゅりーは、通常のぱちゅりー種と比べても非凡な才をもって群れに貢献して来た。
だが、どんなに頑張っても、母の偉業を超えたとは思えなかった。
危険な生物が居ない安全なゆっくりプレイスを発見して群れを作り、
見晴らしの良い場所に分散して巣を作らせる事で、お互いの巣を見張り、危険をいち早く察知する。
狩りの担当を分担する事で食糧の確保を容易にした上で、人口統制の為に『すっきりー!ははるだけにすること』と制限を設け、
生まれた赤ゆっくりがある程度育ったら『がっこう』に預ける事で子育ての負担を減らし、群れに教育を施して事故死を防ぎ、社会性を学ばせる。
物々交換の概念を持ち込み、狩りの成果を働きに応じて配分することで原始的な貨幣制度の先駆けを作り、
『おうた』や『おいしゃさん』のようなサービス業が成り立つように社会制度を整える。
お薬になる草の種を丘に蒔き、大量に生えさせておく事でいつでもお薬が使えるようにしておいたり、
悪い事をしたゆっくりを丘の上でお仕置きする事で、『なにがわるいことなのか』を群れに理解させたりする。
これらは全て、元飼いゆっくりだったという先々代の功績である。
年老いた飼い主さんが永遠にゆっくりしてしまった事で身寄りを無くした先々代は、
巷に溢れる野生のゆっくり達が全然ゆっくりしていない姿に一念発起し、ゆっくりを導く事を志したのだと言っていた。
多大な変革をゆっくり達にもたらした偉大な先々代は、自分の娘にもその志を継いで欲しいと願って非情に徹し、厳しく教育した。
生まれたときから長になるべく、帝王教育を受け続けた娘はその期待に見事応えてみせたのだった。
しかし幾ら非凡であったとしても、天才と秀才を比べれば前者に目が向くのが世の常である。
まして子供の頃からその天才を目の当たりにしていれば、いかに秀才とはいえ生まれる感情がある。
それは『劣等感』。
確かにこのぱちゅりーは優秀であった。否、優秀すぎた。
只でさえ人間の教育を受けたゆっくりでありながら、学者であった飼い主から様々な英知を授かり、
それでいてぱちゅりー種にありがちな、知性を鼻にかけた思い上がりの片鱗すら見せなかった。
完璧すぎる母に追い付こうとがむしゃらに突っ走った。
母の功績に縋るのではなく、それを超える何かを常に追い求めた。
気が付けば番を迎える事も無く、孫の姿を見せる事さえ出来ないまま、
偉大なる母は永遠にゆっくりしてしまった。
偉大なる先々代の死を悼み、涙に暮れる群れの嗚咽を背後にして、
母の死に顔を見ながら先代の長ぱちゅりーは思った。
ゆっくりなのに、ゆっくりする事を忘れて頑張った。
それなのに結局母には勝てなかった。
必死に頑張った日々は、徒労に終わってしまった。
ならば。
いつか生まれてくるであろう自分のおちびちゃんは、絶対ゆっくりさせてやろう。
後悔する事のない、幸せなゆん生を送らせてやろう、と。
こうして長ぱちゅりー親子の『勘違い』が始まってしまったのだ。
『勘違いゆっくり』
「……むきゅ………むきゅ……………」
山の裾野に広がる森の中心、ぽっかり開いた場所にある小高い丘を目指して一匹のぱちゅりーが這いずっていた。
何かに酷くぶつけたような打撲傷が顔中に広がる姿は痛々しい物であったが、その顔に浮かべた形相が哀れみを根こそぎ奪っていた。
(むっきゅうぅぅぅぅぅぅ!ぱちぇをゆっくりさせないむのうなむれはゆっくりしね!)
般若もかくやと言わさんばかりの憤怒の相。最も般若は嫉妬の怒りだが、このぱちゅりーが抱いていたのはもっと醜いもの。
『逆恨み』であった。
(あんなみえみえのわなにかかったむのうなまりさのせいで、ぱちぇがこんなおおけがをおったのよ!
おかげでおかあさんがひとりじめしていたまりさからとりかえしたすぃーまでこわれちゃったじゃない!)
酷い責任転嫁もあったものだが、ぱちゅりー視点ではこれが事実であり、真実である。
そもそもあのスィーは、それを欲しがった娘の我侭を聞き入れた先代の長が群れの皆にある事無い事吹き込んで、
持ち主のまりさを無理矢理悪者に仕立て上げ、強引に追放する事で取り上げた物だ。
いかに長の言葉とはいえ、本来なら疑うゆっくりも現れておかしくない行為だが、この群れにおいては事情が異なる。
長の言う通りにしていれば、必ずゆっくり出来る。
先々代の優秀さが、群れのゆっくりから『長を疑う』事を忘れさせてしまったのだ。
如何に先々代が優秀であっても、その子孫まで優秀であるとは限らないのに。
(じぶんのてでしけいにできなかったのはくやしいけど、にんげんさんがかわりにまりさをおしおきしてくれるわ!
にんげんさんなんかそれくらいしかやくにたたないんだから、しっかりまりさをころしておきなさい!むきゅ!)
この半年間、ぱちゅりーの逆鱗に触れて殺されたゆっくりの数は両手の指に余る。
月に三人以上殺している計算だが、実際に悪事を働いたゆっくりはいない。
苛烈な恐怖政治が、皮肉にも秩序を保つ要因になったのだ。
その事が逆に長の権限を高め、更なる虐殺を呼んでしまった訳だが。
鬱蒼と茂っていた森の木々が途切れ、目の前が急に開ける。
群れが根城にしていた丘の天辺で、周囲を見張っていた子まりさが長の帰還に気付き、急いで駆け寄る。
「ゆっくりおかえりなさい、おさ!……そのけがはどうしたの!?……それに、おかーさんたちは……?」
ぱちゅりーの怪我を見て、何事かあった事を悟ったらしい。顔色を変え、詰め寄る子まりさ。
群れを見捨てた事がバレたらまずい、そう考えた長ぱちゅりーは咄嗟にひと芝居打つ事にした。
「むきゅっ!おちびちゃんたちをみんなあつめなさい!いますぐよ!」
「わ、わかったよ!ゆっくりしないで、みんなをあつめるよ!」
ぱちゅりーの血相に気圧されたのだろう、慌てて『がっこう』のある方角へ駆け去る子まりさを見送り、
ぱちゅりーは自身の身の安全を図る為の筋書きを検討し始めた。
しばらくして、丘の天辺に陣取ったぱちゅりーを囲むように沢山の赤ゆっくりと、子供達が集まっていた。
皆の不安そうな視線を浴びながら、ぱちゅりーは精一杯無念そうな表情を作り、告げた。
「……おちついて、よくきいてねみんな。……ぱちぇたちは、にんげんさんのひきょうなわなにつかまっちゃったの。
そして、…………みんな、にんげんさんにころされちゃったわ………」
長の言葉にぴたっと静まる子供達。
だが、泣き出すゆっくりはいない。余りに衝撃的な内容に、理解が追い付いていないのだ。
「……ま、まって!それじゃ、まりさのおかーさんや、おとーさんは……?」
恐る恐る長に問いかけるのは、見張りをしていた子まりさであった。
ぱちゅりーは子まりさを見やり、沈痛な面持ちで頷いた。
「……おちびちゃんたちの、おかーさんたちはね……ぱちぇだけでもにげてって……
のこされたおちびちゃんたちをおねがいって、ぱちぇをたすけてくれたの………」
その答えを聞き、血の気が引く子まりさ。
やがて長の言葉を理解したのだろう、子供達からざわめきが漏れ始め、それは段々と大きくなっていく。
「……うそだ。うそだうそだうそだ、うそだぁぁぁぁあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
「ゆ゛ぎゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!お゛ぎゃ゛あ゛じゃ゛ん゛がじん゛じゃ゛っ゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
「どぼぢでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛え゛ぇ゛ぇ゛!!がな゛ら゛ずがえ゛っ゛でくでるっ゛でい゛っ゛でだの゛に゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」
「みゃみゃぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!ありちゅいいこになりゅがら゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!み゛ょ゛どっ゛でぎでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛え゛ぇ゛ぇ゛!!!!」
「ぱちぇの、ぱちぇのぴゃぴゃとみゃみゃがぁぁぁぁ!!げほっ、ごほっ……ゆげぇっ!!!」
現実をひたすら否定するもの、戻ってこない父や母を呼び続けるもの、ショックの余り餡子を吐き出すもの……。
森を揺るがす子供達の慟哭はその日の夕刻まで続いたと言う。
しかしぱちゅりーは気付かなかった。
彼女の言葉を聞き号泣する子供達の中に、凍えるような冷たい視線を向けるグループが混じっていた事に。
季節は巡り、春。
うららかな陽気に降り積もった雪が融け、丘の周りに分散する巣が姿を現す。
結局、大人の居ない群れの中で冬籠りを成功させたゆっくりは三分の二にも満たず、そこかしこで犠牲になったゆっくりを偲ぶすすり泣きが聞こえる中、
ぱちゅりーは再び長の地位に就く事になった。
この群れで唯一の大人であり、父や母から自分達の養育を任されたと主張した事もあるが、
涙に暮れる子供達に行った演説が決定打となったのである。
『かなしいのはわかるわ、ぱちぇもくやしいもの。
……だったらつよくなりなさい!つよくなって、ふくしゅうしなさい!そのためのほうほうはおしえてあげるわ!
おかあさんたちのかたきをとりたかったら、ぱちぇについてきなさい!!』
ぱちゅりーのこの言葉で、子供達の親を慕う悲哀はどす黒い復讐の念に変わった。
だがこの演説の本当の狙いはぱちゅりーの手足となる強力な兵隊を作り、自らの屈辱を果たすこと。
あくまでもぱちゅりーにとって都合のいい群れを作る為に、人間と言う敵を利用したのだ。
こうしてぱちゅりーの指導と言う名の独裁と、子供達の特訓と言う名の地獄は始まってしまった。
「むきゅ!にんげんさんははちさんよりつよいのよ!だからはちさんのおうちをもってこれるなら、にんげんさんにかてるわ!」
「そのあまあまはぱちぇのおかげでとれたのよ!だからぱちぇのものだわ!」
「……これはみんなががんばってとってきたんだよ。おさはなにもしてないよね」
「うるさい!ぱちぇのいうとおりにしてればつよくなれるのよ!これもしゅぎょうなのよ!
くちごたえはゆるさないわ!こんどなまいきなくちをきいたら『おしおき』よ!」
「…………」
「むきゅう!にんげんさんはかずがおおいわ!だからどんどんすっきりー!してこどもをふやしましょう!」
「……むれにいるのはこどもだけだよ。すっきりー!したらしんじゃうよ?」
「だったらしなないようににんっしんっすればいいのよ!」
「……どうやって?」
「むきゅぅぅぅっ!!それくらいじぶんでかんがえなさい!!」
「「…………」」
「むきゅう、ごはんがすくないわね!かりにでるにんずうをふやしましょう!」
「……かりにでられるこはみんなでてるよ。あとはがっこうのこどもたちぐらいしかいないよ?」
「なら、そのこたちもかりにだしましょう!じゅぎょうのいっかんとしてこどもたちをかりばにだすのよ!」
「……こどもたちだけじゃ、かりはできないよ?どうするの?」
「まりさたちがめんどうみればいいじゃない!もちろん、かりののるまはまもりなさい!」
「「「…………」」」
「むっきゅ!おくすりがたりないわね!まったく、そんなにけがするなんて、なんてむのうなのかしら!!」
「……それは、おさがおくすりになるおはなをたべちゃったからだよね?みんなのけがも、おさのめいれいのせいだよね?」
「おかのおはなは、ぱちぇのおかあさんのおかあさんがあつめてきたのよ!だったらぱちぇのものでしょう!!」
「……とにかく、おくすりあつめてくるね。こんどはたべないでね?」
「そうよ、そうやってどんどんぱちぇにみつぎなさい!そうすればみんなゆっくりできるわ!!」
「「「「…………」」」」
やがて季節は一巡する。
山の裾野に広がる森の中心、ぽっかり開いた場所にある小高い丘が、再び冬枯れの木々に囲まれる。
群れの大部分を占めていた赤ちゃんがバレーボール大からバスケットボール程に成長した頃。
一年前と同じ早暁の空を背景に、長は再び人間の里を襲撃しようとしていた。
「みんな、ぱちぇはにんげんさんがきらいよ!
れいむを、まりさを、ありすを、ぱちぇを、ちぇんを、みょんを!
あらゆるゆっくりをごみのようにころすにんげんさんが、だいっきらいよ!
みんな、ぱちぇはふくしゅうをのぞんでいるわ!
ぱちぇのむれのみんな、みんなはどう!?
にんげんさんにふくしゅうしたい?
にんげんさんがひとりじめするおやさいをとりかえし、にんげんさんをぼっこぼっこにして、
にんげんさんをどれいにしてつぐなわせる、なさけようしゃないふくしゅうをしたい!?」
「「「「「「「「「「ふくしゅう!ふくしゅう!ふくしゅう!ふくしゅう!」」」」」」」」」」
「そうよ、ならばふくしゅうよ!
ぱちぇたちのむれはいちどにんげんさんにやぶれたわ。いまやかつてのいきおいもない。
でも!にんずうこそすくないけれど、みんなはいっきとうせんのふるつわものよ!
だったらみんなとぱちぇで、……ええと、たくさんのぐんしゅうだんになるわ!!
ぱちぇたちをわすれようとするにんげんさんたちにおもいださせましょう!
かみをくわえてひきずりたおし、おめめをあけさせておもいださせましょう!
おひさまとじめんさんのあいだには、にんげんさんがおもいもよらないゆっくりがあることをおもいださせましょう!
ごじゅうにんのゆっくりのぐんだんで、にんげんさんのゆっくりぷれいすをうばいつくしましょう!
と、いうわけで、おひさまがのぼるまえにそうこうげきをかけるわ!!
こんどこそにんげんさんをやっつけて、みんなのかたきをとりましょう!!」
「「「「「「「「「「えいえいゆーっ!!!」」」」」」」」」」
ぱちゅりーの演説に鬨の声で応える群れ。
当初の半分以下、五十をいくらか下回る程度にまで減ってしまったが、その分質は以前の群れを大きく上回る。
なにしろ一対一なられみりゃとさえ戦える個体がごろごろ居るのだ。
今度こそ勝てるに違いない!!
ぱちゅりーはそう確信していた。
勝てるも何も実際には畑泥棒でしかないのだが、復讐に燃える悲劇のヒロイン気取りで自己陶酔しているぱちゅりーには気付かない。
「まりさ、まりさ!」
「……ここにいるよ、おさ」
ぱちゅりーの呼び掛けに応えたのは、あの見張り役の子まりさだった。
バスケットボール大にまで成長した子まりさは、機転が効く上に群れのゆっくり達に慕われており、
それを買ったぱちゅりーに抜擢され、補佐としてその烈腕を振るっていた。
ぱちゅりーにとっても自分の言うことに従順なまりさは非常に有用であった為、今回の遠征では重要な役目をさせるつもりであった、
「まりさ、あなたにとくべつにんむをあたえるわ!
せんけんたいになって、わながあるかどうかたしかめるの!
でも、わながなくてもそのままとつげきしちゃだめよ!
ぱちぇたちがおいつくまで、しゅういのあんぜんをかくほするのよ!
……できるわね!?」
「……わかったよ。おさがおいつくまで、まってるよ」
勿論ぱちゅりーがまりさを押さえたのは、まりさの身を思ってのことではない。
自分より先に美味しいお野菜を独り占めさせないように、抜け駆けを防ぐ為である。
「それでいいわ。……じゃあまりさ、これをわたしておくわね」
そう言って取り出したのは、先を削って鋭く尖らせた木の枝。
口で銜えるしか物を持つことが出来ないゆっくり達が使う、標準的な武器であった。
「これはぱちぇがつくったぶきよ。ふいをうてばにんげんさんにもこうかはあるわ。
これをもっていきなさい。もしもにんげんさんにみつかったら、なかまをよばれるまえにこれでやっつけるのよ!」
「……うん、ありがとう、おさ」
素直に礼を言って受け取るまりさに満足したぱちゅりーは、群れを率いるべく身を翻した。
まりさの目の前に、ぱちゅりーの背中が現れる。
「……これで、ふくしゅうができるよ」
「…………ゆ゛っ゛!?」
一瞬、ぱちゅりーには何が起こったのか理解できなかった。
体を貫く衝撃、一拍遅れて届く激痛。
「ゆ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
ぱちゅりーの背中に枝が生えていた。
それは先程、ぱちゅりー自身がまりさに与えた武器。
ぱちゅりーが無防備な背中を晒した瞬間、まりさが渾身の力を込めて突き立てたのである。
「いぢゃい!いぢゃいぃぃぃぃ!!なんでごどじゅるのぉぉぉぉ!!ばりざぁぁぁぁぁ!!」
「だまれ」
「ゆ゛っ゛!?」
普段の従順な態度を一変させ、ぱちゅりーを汚物でも見るかのように見下すまりさに気圧され、ぱちゅりーは思わず黙り込む。
「なにがおかあさんのかたきだ!むれのみんながにんげんさんにころされたのは、みんなおまえのせいじゃないか!
おまえがついたうそにだまされたせいで、みんなゆっくりできなくされたんじゃないか!
そのうえまりさたちにまでうそをついて、にんげんさんとたたかわせようとするなんて、どこまでみさげはてたげすなんだ!
おまえはもうおさじゃない!おまえが!おまえこそがまりさたちのおかあさんたちのかたきだ!
みんな!もうこいつのいうことなんてきかなくていいよ!みんなでこいつにふくしゅうするよ!」
そう言われて気付く。全てのゆっくりが、ぱちゅりーに憎悪を込めた視線を向けていた事に。
そして口々に鋭い枝や固そうな石をくわえ、ぱちゅりーににじり寄っていた事に。
蒼白になったぱちゅりーに、まりさの無慈悲な宣告が届いた。
「さあみんな!すぐにはころさないように、でもけっしてゆっくりできないように!
いちねんぶんのうらみをこめて!おとうさんとおかあさんのうけたくるしみをなんばいにもして!
ゆっくりできないぱちゅりーにぶつけてあげようね!」
「「「「「「「「「「ゆっくりできないぱちゅりーはゆっくりしね!!!!!」」」」」」」」」」
「ゆ゛ん゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
ぱちぇりーは気付いていなかったのだ。
自分がこの群れの為にした事など何も無い事を。
群れのゆっくり達が従っていたのは、このまりさだという事を。
そして……
今やこの群れの全てのゆっくり達が、ぱちゅりーを仇と恨み、敵を討とうと思っている事を。
必要とあらば仲間の命はおろか、自らの命さえ投げ出す覚悟を決めていた事を。
表面上はにこやかな表情の下で、仇敵に従う屈辱に心の中で血涙を流しながら、それを受け入れていた事を。
そして一年もの長い年月を掛け、用意周到に準備された復讐が、今まさに果たされようとしている事を。
自分の命令に従順な群れに満足し、堕落しきったが故に勘が鈍ったぱちゅりーには気付けなかったのだ。
話は去年の晩秋、群れが人里を目指して総出撃した朝まで遡る。
「おちびちゃんたちはここでまっててね!おやさいさんとりかえしたら、いっぱいむーしゃむーしゃしようね!」
「あかちゃんたちをよろしくなんだぜ!すぐもどってくるから、いいこにしてるんだぜ!」
「……ゆっくりわかったよ!あかちゃんたちはまりさたちがまもるよ!」
群れ全員での総攻撃を狙っていた長ぱちゅりーだが、副将のまりさから『あかちゃんたちはまだ、たくさんあるけないんだぜ!』
と進言され、赤ちゃんの同行を諦めざるを得なかった。
そうするとまた別の問題が浮上する。
赤ちゃんは基本的に手がかかるものだ。それこそ朝から晩まで親が面倒を見なければならないくらいに。
だが、赤ちゃんがいる親だけを残して行く事は出来ない。そんな事を認めたら群れの半数が脱落してしまう。
いくら長ぱちゅりーに秘策ありとはいえ、それだけの戦力を遊ばせておく訳にはいかない。
どうすれば、と頭を悩ませる長に、再び副将のまりさから進言があった。
『なら、せめてこどもたちだけはおいていくんだぜ!』と。
『がっこう』を卒業したゆっくりは親の監督の元で群れの仕事を覚えて行く。
要は半人前の扱いなのだが、今回の出征において全員動員されることが決定している。
現在『がっこう』に在籍しているゆっくりは現在六十人前後。
その内、半年間の義務教育を経て卒業寸前のゆっくりは九人いる。
片手で数えられる程度とはいえ、それだけいれば赤ちゃんの面倒くらいは見ていられるだろう。
まりさの進言にそう結論付けた長は、百人近い群れの赤ちゃんと『がっこう』の生徒達をおいて行く事を決定したのだ。
早暁の空に鬨の声を響かせながら出陣して行く親達を見送る子まりさ。
後に群れの帰還を最初に発見する事になる彼女は、明日『がっこう』を卒業する予定であった。
最年長であった為に子供達のまとめ役として抜擢され、出陣直前まで大人達からレクチャーを受けていたのだ。
遠ざかる大人と成人一歩手前の先輩達の姿を見届け、子まりさは踵を返して『がっこう』へ向かった。
『がっこう』への道すがら、思い返すのはまだ赤ちゃんだった頃に見た、丘の上で必死になって長を説得していたれいむの事。
母はれいむのことを「げす」呼ばわりしたが、子まりさにはそうは思えない。
ゲスとは、自分の為に他人をゆっくりさせない、自分本位なゆっくりの事である。
本当にゲスであるなら、あの時吐いた嘘で何の利益がれいむにあったと言うのだろう?
いつも上手なお歌を聞かせてくれたれいむが、涙を浮かべて教えてくれた『おにーさん』のお話は、
まだ赤ちゃんだった子まりさにも解る程に説得力があった。
そしてれいむがぼろぼろの姿で組み敷かれ、群れの皆にゆっくりできなくされていた時、
全てを諦めたようなれいむの目に、寂しそうな、悲しそうな、そして何より悔しそうな無念の表情に、
そして最後の一瞬、痛みとは違う何かに流された涙に。
その死に様を嘲笑う姉妹達の中でただ一人、子まりさだけはれいむが正しいと直感した。
だからそれを嘘と断じ、あまつさえあんなに残酷な『おしおき』を実行した長ぱちゅりーを、子まりさは信じられなかった。
その後に繰り返された『おしおき』を目撃する度、子まりさの疑念は膨らんで行った。
食糧不足で赤ちゃんに食べさせる事が出来ず、やむなく食料庫から盗み出したれいむは殺される程悪かっただろうか?
そのれいむの子供であり、親の復讐に燃えて長に襲いかかったちぇんは果たして反逆者の汚名に相応しかったのだろうか?
群れ中の狩りの名人を総動員しても捕る事が難しい蜂の巣を、たった一人で捕るように命じられたみょんは本当に臆病者だっただろうか?
それらを指摘して、長を諌めようとして『おしおき』されたまりさ達はどうだろうか?
そして今、群れの大人達を率いて人間の畑を襲いに行くぱちゅりーは、本当に正しいのだろうか?
先々代はおろか、先代の治世すら知らぬ子まりさには大人達が持つ長への盲信が無い。
そしてれいむの事件で群れの有り様に疑問を持った子まりさは、ゆっくりらしからぬ深い洞察力を獲得するに至ったのである。
「……やっぱり、おさのいうことはおかしいよ…………みんな、だいじょうぶかなぁ……」
とは言え、子まりさはまだ『がっこう』も卒業していない、半人前とも認められていない子供だ。
親の庇護を受け、授業以外では狩りにも同行できない子まりさが疑問を呈しても
「おちびちゃんにはまだむずかしいことだよ!それよりおへやのおかたづけしなさいね!」
「おちびがそんなむずかしいことかんがえてちゃだめだぜ!それよりみんなとあそんでくるんだぜ!」
などと返され、子まりさの疑問は大人に憧れる子供の背伸び程度にしか受け取られない。
子まりさが幾ら疑問を持ったとしても、子まりさに出来ることは無かった。
精々こうして群れの行く末を憂いることしか出来ないのである。
「……ゆっ!とにかくまわりをみはって、あかちゃんたちをまもらなきゃ!まりさ、がんばるよ!」
子まりさは気分を切り替え、丘の周囲を見回ってまわる。
この季節、越冬の準備をするのはゆっくりだけではない。
熊や猪、蛇などの森に棲息する生物も越冬のために食糧を集めているのだ。
そしてゆっくり達の中身は栄養価の高い餡子。
当然狙われる確率も高く、何時襲われるか解らないのでこうして見張りを立て、警戒しているのである。
そして半分程廻った時、子まりさは見慣れぬゆっくりが丘を見上げて佇んでいる事に気付いた。
「ゆっ!そこにいるのは、だれ!?」
「!?」
そこに居たのは黒いお帽子を被ったまりさであった。
しかし、子まりさには見覚えが無い。
群れの中のまりさのお帽子は皆ピンっと立っている。
あんなに縒れ縒れで、所々破けているようなお帽子を被っているまりさはいない。
髪の毛もあんなにボサボサで、くすんだ金髪をしたまりさもいない。
お肌もボロボロで、細かい傷だらけのまりさもいない。
大きさからすればもう大人なのだろう、この群れでこの大きさのゆっくりなら出征に参加していない筈が無い。
かなり不審ではあったが、とりあえずご挨拶しようと近付く子まりさに、見慣れぬまりさはゆっくりと振り向いた。
「ゆっ!?」
そのまりさには、片目が無かった。
左目の上からあんよに掛けて、大きく抉ったような傷跡があったのだ。
子まりさはその傷の事を知っている。
ゆっくり殺しなど、重罪を犯した罪ゆっくりに対してのみ行われていた刑罰。
『おめめえぐりのけい』。
片目を抉り、群れから永久追放する刑の痕であった。
子まりさも、実際に『おめめえぐりのけい』の受刑者に会うのは初めての事だ。
『がっこう』での授業でも教わったし、度々「わるいこはおめめをとられちゃうんだよ!」と親から叱られた事もあり、
その傷が悪いゆっくりの証である事は理解していたが、粛清の嵐が吹き荒れる今の群れではあまり意味が無い。
先代の長の頃は、この『おめめえぐりのけい』が最も重い処罰であった。
それは先々代が『たとえあいてがゆっくりごろしでも、ゆっくりがゆっくりをころしてはならない』と定めた為であったのだが、
今代の長はあっさりとその禁を破り、長を侮辱したれいむを皮切りに死に至る程過激な『おしおき』を何回も強行した。
反発もあったが、長は『ゆっくりできないゆっくりをおいだしたら、ほかのむれにめいわくがかかる』と反対派を丸め込み、
それでも反対するゆっくりを『こいつらはゆっくりできない』と無実の罪を着せ、『おしおき』で殺していったのだ。
最近生まれた赤ゆっくり達はその恐ろしい『おしおき』しか知らない。
今の群れにとって、悪いゆっくりとは死んだゆっくりの事である。
いくら知識として知っていても、経験の無い子供達にとっては実感の無い、遠い過去の出来事だ。
だから子まりさも、その傷を持ったまりさに平然と挨拶できたのだ。
「ゆっ!まりさおねーさん、ゆっくりしていってね!」
「ゆ゛っ゛!?……ゆっ、ゆっくじして……い゛っ゛……で…………ゆ゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛ん゛!!!
ばりざぁ!!ゆ゛っ゛ぐじじでい゛っ゛でね゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ゛!!!!!」
子まりさの無邪気な挨拶に、傷まりさは感極まったように号泣しながら挨拶を返す。
「ゆっ!?」と驚く子まりさだが、それ程この傷まりさにとっては驚天動地の出来事だった。
この『おめめえぐりのけい』の事は、この辺り一帯の群れに広く知れ渡っている。
「かたほうのおめめのないゆっくりは、とてもゆっくりできないゆっくりだよ」
どんな小さな群れであっても、この話は必ず伝えられており、それ故にどの群れも傷まりさを受け入れる事は無かった。
『おめめえぐりのけい』の受刑者の末路は、孤独な野垂れ死にが定番だったのである。
そんな受刑者の中にあって、この傷まりさは二年もの間生き延びて来た希有な例であった。
元々狩りが得意だった事に加え、皮肉にも野山の危険物を見分ける群れでの教育が功を奏した結果である。
追放されたゆっくりが群れに近づき、それが発覚したら群れ総出でゆっくり出来なくされてしまう。
これまでにも何度か試し、その度に追い払われて来たから傷まりさにはそれがよく解っていた。
それが今日、世も明けない内に総出撃していく群れの姿を目にした時、押さえていた思いが爆発した。
(あのおかに、かえりたい!)
ゆっくり出来なくされた身であっても、やはり故郷は恋しいもの。
あんなに大勢でどこへ行くのかは知らないが、今ならあの丘を一目見る事くらいは出来るだろう。
それでもう心残りは無い。後はこの苦しいゆん生に、いつ幕が下りても悔いなく逝ける筈だ。
そんな決意を胸に、傷まりさは丘を目指して近付き、子まりさに発見されたのだ。
(……ああ、みつかっちゃった。せめて、さいごにちょっとだけでも、おかでかけっこしたかったなぁ……)
傷まりさの脳裏を諦めが支配する。
覚悟を決めた傷まりさの耳に、子まりさのご挨拶が飛び込んで来たのはそんな時だった。
予想外の優しい言葉に感極まり、号泣する傷まりさが泣き止んだのは、朝日が半分程昇りかけた頃であった。
嗚咽の合間合間に、断片的に挟まれる壮絶なゆん生を聞かされた子まりさは、もらい泣きしながら傷まりさを慰めていたが、
どうしても気になったそれを尋ねずにはいられなかった。
「……ねぇ、おねーさん。おねーさんはどうしておめめをとられちゃったの?」
そう、片目が無いゆっくりは大悪人の証である以上、どんなに善良そうに見えても仲良くは出来ない。
仲良くする振りをして近付き、隙を見てご飯や宝物を奪い取ったり、無理矢理すっきりー!したりするのが目的かも知れない。
今のまりさの双肩には百匹以上の子供達の命が懸かっている。どんな小さな異常でも見逃すわけにはいかなかった。
だが、それを聞いた傷まりさが再び目を潤ませた。
何かを耐えるように唇を噛み締めて涙を堪え、ぽつりぽつりと語り出す。
「……おさがまりさをわるものにしたんだよ…………まりさが……すぃーをひとりじめしてるって………、
あのすぃーは……おかーさんのかたみだったのに…………だいじなだいじな……まりさのたからものだったのに……、
………ゆっ、ゆえぇぇぇえぇぇん!!!」
そこまで語った所で堰を切ったように泣き崩れる傷まりさの姿に、子まりさは確信した。
(やっぱり、あのおさはうそつきなんだ!れいむおねーちゃんをいじめたのも、おかーさんたちをつれてったのも!
みんなうそなんだ!……おさはけんじゃなんかじゃない!おさのほうが、くずだったんだ!)
子まりさと傷まりさの出会いは、双方にとって幸運であった。
子まりさにとって傷まりさは漠然でしかない長への疑いを証明する生きた証拠であり、
傷まりさにとって子まりさは自分の言葉が嘘偽り無い事を信じてくれた恩人である。
子まりさの不信感がピークに達していたこと、傷まりさのホームシックが再燃していたこと。
まさに奇跡の確率で絶好の機会がかち合った、幸運な出会いであったのだ。
子まりさは傷まりさを連れ、赤ちゃんと子供達が集められている『がっこう』に向かった。
そこは入り口を倒木で塞がれた洞窟で、子ゆっくりサイズなら通り抜けられる狭い隙間が倒木の端に開いており、
いざと言うときは、そこを塞いで外敵の侵入を防げるようになっている。
教師役の大人ゆっくりは倒木を乗り越えなければならないが、逆に言えばそうしなければ入れない安全な場所である。
「ゆっくりただいま!」
「……あいことばをいってね!……むしさんがいないなら、あまあまをたべればいいじゃない!」
「あまあまがないなら、むしさんをさがせばいいじゃない!」
「ゆっ!せいかいだよ!……おかえり、まりさ!」
入り口を封鎖している倒木の枝が動き、そこから一人の子れいむが出てきた。
見張りの交代要員である。本来あまり運動の得意でないれいむに任せるような仕事ではないが、
卒業を目前に控えた九人の子ゆっくりは子まりさを除き子れいむと子ありす、そして子ぱちゅりーで占められていた。
ひと月遅れて入学したちぇんやみょんはまだ一人で出すには不安だったし、何より赤ちゃんの面倒を見なければならない。
百匹近い赤ちゃんの世話をしながら危険な見回りなぞできない。
仕方なく、年長組が見張りを持ち回り、残りの生徒達と年長組の子ぱちゅりーが赤ちゃんのお世話をすることにしたのだ。
そして外から聞こえて来た合い言葉に、まりさと交代する為に出て来た子れいむが見たものは、見慣れた子まりさの顔と、
「ゆ゛っ゛!?……まりさ、そのおねーさんはだれなの?」
面識の無い、片目を無くしたまりさの顔であった。
「……れいむ、よくきいて。もしかしたら、いつもまりさがいってることがほんとうかもしれないよ」
「……どういうこと?まりさ、おさのことでなにかあったの?」
「それをせつめいするんだよ。みんなのところでおはなしするから、みはりはすこしまっててね」
そして子まりさは年長組の仲間達に自分の推理を打ち明けた。
それを聞いた子れいむ達の反応は様々であった
「そんなはずないわ!おさはいつでもただしいのよ!」と長の正当性を主張するありす、
「むきゅ!かためをなくしたゆっくりのおはなしなんて、しんじられるわけないでしょう!」と授業で得た知識を元に否定するぱちゅりー、
「でも、さいきんのおさがおかしいのはほんとうだよ?ゆっくりしてなかったよ?」と長への不信感を漏らすれいむ。
喧々諤々と続いた話し合いを収めたのは、子まりさの発言であった。
「おさがただしいのか、まりさがただしいのか、みんながかえってきたらたしかめてみようよ。
まりさおねーさんはもりにかくれていて。みんなにみつからないようにちゅういしてね」
そうしてしばし時が過ぎ。
二百匹を超えた大集団は、ぱちゅりーただ一人の生還を持って全滅したのである。
長ぱちゅりーから群れの顛末を聞かされ、森を揺るがす慟哭に泣き疲れた赤ちゃんと子供達を寝かしつけ、
年長組は再び長の正当性を議論し始めた。
ありすの論調は変わらず長の擁護、最も半数の二人程は半信半疑と言った所。
逆に意見を翻したのはぱちゅりー。こちらは一人が慎重派、もう一人が完全に疑い始めた様子。
れいむは長の涙に同情したのか、片方が長を擁護し始め、片方が長への不信感を露にするも、勢いは無い。
平行線を辿りつつある議論に、まりさはある提案をする。
「じゃあ、とりあえずおさのゆうとおりにしようよ。
おさがただしいならゆっくりできるはずだし、おさがまちがってるならゆっくりできなくなるから、
これからのおさがどういうふうにむれをゆっくりさせるのか、みとどけてからはんだんしよう」
この提案を年長組は全員受け入れた。
実際、幾ら考えても解決しないのならこれからの動向で判断するしかない。
ほぼ博打のような提案ではあったが、現時点ではそれ以外に方法は無かった。
そして彼女達は、いきなりその答えを突きつけられた。
今までの群れでの冬籠りは、それぞれの家庭ごとに行っていた。
しかし今回は話が違う。
何しろ大人が全滅している上、群れの殆どはまだ赤ちゃんなのである。
ならば一カ所に食べ物と群れを集め、全員で冬籠りすべきだと言う意見に、ぱちゅりーはこう返したのである。
「いままでどおりでいいでしょ!かえるひつようはないわ!むきゅ!」
この言葉に唖然となったのは年長組だけではない。
後輩のちぇんやみょんを含む『がっこう』の生徒達の大半が、長の台詞に度肝を抜かれた。
長ぱちゅりーにしてみれば、一カ所に集まるなど言語道断である。
何かの弾みで口を滑らせ、群れを見捨てたことがバレでもしたら、即座に殺されてしまう。
そうでなくても、暗殺の危険性を考えれば皆と一緒にいるより、一人でおうちに籠っている方が安全なのだ。
しかし子供達にとってこれは死刑宣告にも同等の命令である。
長の言葉である以上は従う義務が発生する。だが、素直に従えば待っているのは、死。
年長組においても意見は分かれ、結果ありす二人とぱちゅりーとれいむが一人ずつ年長組を離脱。
群れの三分の一を率いてそれぞれの巣に別れ、冬籠りを開始した。
残されたグループはおうちの貯蔵食糧を持ち寄り、『がっこう』にて共同生活を行うことにした。
そして、春。
分散して冬籠りをしていたゆっくりは物の見事に全滅した。
初めての越冬と、赤ちゃんの食欲を考えに入れず、食糧の計算を間違えて餓死したれいむのグループ。
黒ずんだ何かが大量に茎を生やし、あたかも小さな森のような様相を醸していたありすのグループ。
強度の足りない巣が大崩落を起こし、全員生き埋めとなったぱちゅりーのクループ。
その他にも赤ちゃんだけで越冬しようとして失敗したり、食糧不足の果てに凄惨な殺し合いが起きた巣もあった。
まりさ達、共同生活グループは多少の犠牲者を出したものの、初めての越冬を成功させた。
それはまりさ達だけではなく、あの傷まりさの協力あってのものであり、傷まりさへの偏見は大幅に薄れていた。
また共同生活を提案し、そのリーターシップをとったまりさに対する信頼も大きくなり、
実質まりさは生き残ったグループの長といっても過言ではない立場に就いていた。
同時にそれは、まりさが持っていた現状の長であるぱちゅりーへの不信感を、群れが共有することを意味していた。
しかしまりさはそれを表に出すことを硬く禁じた。
「おさがどんなにあやしくても、おさはまだおさなんだよ。いま、おさにきづかれたら『おしおき』されちゃうかもしれないよ」
こう説得して廻り、はっきり長ぱちゅりーを疑っているゆっくりにも、未だ半信半疑のゆっくりにも、
とりあえず長の命令に従うよう頼み込んでいたのである。
そして長の就任演説を経て、一年間に及ぶ独裁政治が始まり。
長ぱちゅりーは己の態度で持って、まりさ達の不信感を確信に変えてしまったのである。
そして舞台は再び現在に戻る。
ぱちゅりーは今、自分が育てた屈強な兵士達に暴行されていた。
「これでもくらえ!」
「ぴぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
硬い小石を四方八方から吹き付けられ、
「に゛ゃ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「……また、つまらないものをきってしまったみょん」
尖った枝で何度も何度も斬りつけられ。
「こんなやつにおかざりなんてもったいないんだねー!!わかるよー!!」
「や゛べて゛え゛え゛え゛え゛え゛!お゛がじゃ゛り゛や゛ぶがな゛びでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!」
お飾りを目の前で細切れにされ、
「こんないなかもののあかちゃんなんて、ぜったいうまれないようにしましょう!」
「ゆ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!ぼう゛ゆ゛る゛ぢでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!!」
ぺにぺにを切り取られ、それを押し込んだ上で棒切れを突き込んでまむまむを潰し、
「こんなやつがぱちぇのどうるいだなんて、なのれないようにするわ!」
「ばぢぇ゛の゛ずでぎな゛がみ゛の゛げがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!
少しずつ髪を力づくで引き抜かれて、禿げ饅頭にされ、
「ぱちゅりーのきたないおかおをきれいにするね!」
「q゛あ゛w゛せ゛d゛r゛f゛t゛g゛y゛ぶじごl゛p゛!!!!!!」
砂を撒いた木の皮に顔を押し付け、そのままおろし金のように動かしてぱちゅりーの皮を削る。
おおよそ考えつく全ての苦痛を、ぱちゅりーは味わっていた。
たまに「ゆげぇっ!!」と生クリームを吐いても「まだまだおわらないよ!」と強引に押し戻されて、死ぬことも叶わない。
最初に宣言された通り、死なないギリギリを見極めた絶妙な手加減を加えられた生き地獄が延々と続けられていた。
その様子を離れた場所で窺うゆっくりがいた。
傷まりさである。
便利な道具でしかなかった自らの群れに、ゆっくりできなくされているぱちゅりーを無表情で見つめ続ける傷まりさの元に、
クーデターに成功し、今やこの群れの長になったまりさが歩み寄る。
「……まりさおねーさんはやらないの?」
長まりさの疑問に、無表情を崩して苦笑を浮かべて答える。
「まりさのぶんはもうおわってるよ。あのすぃーが、まりさのぶんまでぱちゅりーにしかえししたんだよ。
だからまりさはもういいんだよ。いま、あいつがうけるべきはまりさたちのふくしゅう、なんだからね」
母の形見であったスィーごと罠に掛かった顛末はすでに聞いていた。
傷まりさにはそれがスィーの意志であったように思えたのだ。
ならばその意志を汚す真似はすまい。傷まりさは自然にそう思えたのである。
「……うん、わかった。じゃあ、そろそろしあげにはいるね」
その言葉に感じ入るものがあったのだろう。
一つ頷き、踵を返した長まりさは未だ醜い悲鳴を上げ続けるぱちゅりーの元へ向かう。
「みんな!いっぺんやめてね!まりさとおはなしさせてね!」
その言葉に群れが静まる。先程までの喧噪が嘘のような静寂の中、
「……ゆ゛っ゛……ゆ゛っ゛……」と痙攣するぱちゅりーの耳元へ長まりさが囁く。
「……なんでこんなめにあっているのか、わかってる?ぱちゅりー?」
その言葉に反応したのか、白目を剥いていたぱちゅりーの口から断末魔以外の言葉が漏れる。
「……ぱ……ちぇを……ゆっ………く……り………させ………な……い……げすは………し……ね………」
反省の色の欠片も無い、醜い性根を表したかのような呪詛を聞き、まりさは落胆した。
こいつは、自分が何故こんな目に遭っているのか理解できていない。
これでは、自分達の復讐が成ったとは言い難い。
自分のせいで、自分が無能だったせいで殺されることを自覚させて、より深い絶望にたたき落とさねば、
死んで行った親兄弟達に申し訳が立たないだろう。
しかし長まりさにはこれ以上のアイデアは無かった。
こいつに自分の罪を認めさせる方法が、この拷問以外に思い付かなかったのである。
(……しかたないね。そろそろれみりゃがおきるころだし、ざんねんだけど、とどめをさそう)
心の中でため息をつき、ほぼ一日中続いた拷問を終わらせる決意を固める。
「みんな、このぱちゅりーをもりのそとにたたきだすよ!」
「「「「「「「「「「わかったよ、おさ!」」」」」」」」」」
群れはもうまりさを長と認めていた。
あの過酷な一年の間、このまりさに従っていれば生き残ることが出来た。
それだけでなく、優れた洞察力からくる統率力、計画性、全てにおいて突出していたまりさは群れの憧れでもあった。
その長の言うことをどうして疑うことが出来るだろう?
「それじゃあ、ぱちゅりーをもりのそとまではこぶよ!ゆっくりてつだってね!」
「「「「「「「「「「まかせてよ、おさ!」」」」」」」」」」
虫の息のぱちゅりーを長まりさが跳ね飛ばす。
「ゆ゛っ゛!?」と転がって行く先にいたちぇんが勢いをつけて蹴り上げる。
「ゆ゛ぎっ゛!?」と跳ね飛ばされた先にいたみょんが銜えていた枝で打ち返す。
「ゆ゛びぃ゛っ゛!?」と飛んで行く先にいたれいむがぷくーっ!して跳ね返す。
「ゆ゛がぁ゛っ゛!?」とパウンドする先にあったぱちゅりー達が作った壁にぶつかり、転げ回る。
「ゆ゛ぶっ゛!?」と蹲ったぱちゅりーを、走り寄ったありすが跳ね飛ばした。
ピンボールの玉よろしく、森の木々の合間を跳ね回ったぱちゅりーが森と人里を分ける平原に放り出されたのは、すっかり夜も更けた頃であった。
……ふああ。あー、さむっ。
また急に冷え込んできやがったな。
いくら夜明け前だっていっても、まだ秋の範疇だろうに。
これは今年の冬も厳しくなりそうだな……。
……ん?なんだありゃ。
饅頭?……いや、ゆっくりか?
あんな飾りも髪も無いゆっくりなんて見たこと無いぞ。
……うわ、なんだこりゃ?
こんなに全身ボロボロになるなんて、何があったんだ一体?
……お、意識はあるようだな。
ってか、この様で生きてるって、ゆっくりってのは随分頑丈に出来てんだな。
前に燃やした奴らはあんなにあっさり死んじまったのに。
……『ぱちぇの群れを知ってるの?』?
お前ぱちゅりーだったのか?いや、あの群れに居たって事は……
……そうか、お前さんあの時逃げ出したぱちゅりーだな?
せっかく逃げ出したってのに、何でそんな重傷負ってんだよ?
……『ゲスなまりさに追い出された』だって?
いや、お前さん確か長だったんじゃないのか?
……『ゲスまりさに騙されたゲス達に乗っ取られた』ぁ?
よく解らんが、世代交代でもあったのか……?
しかしよく無事だったな、この辺りはれみりゃの縄張りだぞ?
……『ぱちぇの群れは、れみりゃを倒せるくらいに強いのよ』って……
なあ、それって強いのは群れであって、お前さんじゃないよな?
なのに何でお前さんがれみりゃに襲われない理由になるんだよ。
……『ぱちぇのお陰で強くなれたんだから、ぱちぇが強いに決まってるでしょう』?
おいおい、何なんだそりゃ。三段論法にもなってないぞ。
……ああ、わかった。
お前、群れでいつもそんなこと言ってたんだろ?
そりゃ追い出されるわな。
あのまりさが言ってた通りだわ。とんでもない無能だな、お前。
……『ぱちぇは長なのよ!何でも知ってる森の賢者なのよ!』って言われてもな。
実際長としては無能だぞ?お前。
そもそも長に必要なのは『古い知識を生かして、新しい何かを創り出す程度の能力』なんだよ。
知ってるだけじゃ役に立たないのさ。
古い掟の問題点を見つけてそれを改善した掟を決めたり、今までの狩りで餌が獲れないなら原因を探って狩り方を見直す。
それが出来るから、長ってのは慕われるんだよ。
何を勘違いしているんだか知らないが、お前が長の器じゃないってのはそのゆっくり達にも解ってたんだろうな。
……なあ、ぱちゅりー。
お前は、群れの為に何か新しいことをしたのか?
……暴れんなよ。全然痛くないけどな。
ああもう、生クリームが飛び散って汚れちまったじゃねえか。
……ああ、鬱陶しい!
おらよ!どこにでも飛んで行きやがれ!
……結構飛んだな。
……おや、三軒隣の御仁井さん。こんな所でどうされました?
……れみりゃの調達ですか。そりゃご苦労様です。
……いえ、ちょっとね……
無能なぱちゅりーに絡まれて、野良着を汚されちまったもんで。
あんまりムカついたんで、森の方へ思いっきりぶん投げてやったんです。
……ははは、止してくださいよ。
俺に虐待は向いてませんって。
……それよりも例の研究は進んでるんですか?
確か、ゆっくりを使った画期的な農法だとか何とか……
山の裾野に広がる森の中、人間に捕まって投げ飛ばされたぱちゅりーは、奇跡的に生きていた。
しかしその姿は到底無事とは言えなかった。
お飾りも髪も無くし、所々薄くなった皮からはじくじくと生クリームが滲み出している。
それでも尚、残された目には執念の炎が燃えていた。
「……ぱちぇは……おさなのよ………いだいな……もりのけんじゃなのよ…………
……ぱちぇをゆっくりさせるのは…………すべてのゆっくりの……………ぎむなのに……………」
ぱちゅりーに帰る場所なぞどこにもない。
あの丘に向かうのは論外だ。
忌々しいゲスまりさに騙された無能な群れが襲いかかってくる。
人間の里に留まれば今度こそ殺されるだろう。
他の群れに匿ってもらおうにも、お飾りはおろか、髪さえ無くした自分を迎え入れてくれる筈が無い。
行きずりのぱちゅりーを襲ってお飾りを奪おうにも、満身創痍のこの身では到底実行できまい。
まさに八方塞がりの状況。
先程から妙に体がだるい。
悪寒は治まるどころかどんどん悪化してゆく。
あんよの感覚が殆ど無い。
(……そういえば、さっきからぜんぜんいたくないわね……?)
嫌な予感が彼女の脳裏をよぎる。
強ばってなかなか言う事を聞かない体を無理矢理動かして、後ろを振り返ったぱちゅりーの目に、
「……む゛ぎゅ゛う゛ぅ゛う゛う゛ぅ゛う゛う゛っ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛っ゛!?!?!?!?!?」
見えては行けない筈の光景が見えてしまった。
ぱちゅりーが這いずった後を追うように、白いナニカが線を描いている。
それは、ぱちゅりーの生クリーム。
彼薄皮一枚を残して剥ぎ取られた皮から滲み出した生クリームが、少しずつ、少しずつ、
ぱちゅりーのあんよと言う絵筆によって、冬の森というキャンバスを汚していたのだ。
痛みが治まったのではなかった。最早痛みすら感じない程に、感覚が鈍り切っていたのである。
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!じに゛だぐな゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!
だれ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!だれ゛がだずげろ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」
一体どこにそれだけの底力があったのか。
誰もいない森の中に、ぱちゅりーの叫び声が谺する。
そしてその谺は、届いてはいけないものに届いてしまった。
突然響き渡る羽音に、ぱちゅりーがピタっと黙る。
恐る恐る目を向けた先にいたのは、
「う~☆あまあまみつけたど~☆」
「どぼじであ゛がる゛い゛の゛に゛れ゛み゛り゛ゃ゛がい゛る゛の゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!」
そう、昼間は眠っている筈のれみりゃであった。
このれみりゃが特別だった訳ではない。
森の奥地は木々が密集しており、昼間であっても尚薄暗い。
木漏れ日に気をつけさえすれば、昼間でもれみりゃが活動するには充分な暗さがある場所なのだ。
その為、ここに足を踏み入れるゆっくりは相当訳ありでもなければ存在しない。
こうしてたまに迷い込んでくるゆっくりは、れみりゃ達にとって最大のご馳走であった。
「う~☆つかまえるど~☆ふゆのでなーにするんだど~☆」
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ばな゛ぜえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!お゛う゛ぢがえ゛る゛う゛う゛う゛う゛う゛!!」
帰るべきお家なぞ何処にも無いことを忘れ、ぱちゅりーは泣き叫ぶ。
「うるさいんだど~☆しゃべれないようにするんだど~☆えいっ☆」
「ゆ゛ぶっ゛…………!!!!」
舌を引っこ抜かれ、お口に石を詰められて、ぱちゅりーは喋れなくなる。
ぱちゅりーが静かになったのを確認すると、れみりゃは満足そうに巣のある老木へ飛んで行った。
それからおよそひと月。
ぱちゅりーはまだ生きていた。
老木のうろを利用したれみりゃの巣には、同じように捕まったゆっくり達が沢山並んでいた。
れみりゃはその日の気分で啜る餡子を変えているようで、様々な種類のゆっくりが用意されている。
しかもこのれみりゃは、死ぬまで餡子を啜ろうとはしない。
死にそうなギリギリまで吸い上げ、痙攣を始める直前で止める。
その加減はまさに職人技と言えよう。
そして餡子を吸い上げたゆっくりの口に、うろに自生していたキノコを詰め込むのだ。
そんな怪しげなキノコなぞ食べたくもないが、それ以外に食糧は無いし、どのみち食べても食べなくてもれみりゃに詰め込まれる事に変わりはない。
どうやら毒キノコの一種らしいそれは、口に含んだ途端に気分が悪くなり、悪寒や幻聴が聞こえ始める。
そして酷い時には幻覚を見るようになる。それも、自分が最もトラウマにしている幻覚をだ。
(だまれえええええええ!!ぱちぇはむのうじゃないいいいい!!)
ぱちゅりーを襲う幻覚、それはあのまりさでも罠に掛かったことでもない。
あの人間に言われた一言、それがいつまでもリフレインするのだ。
………お前は、群れの為に何か新しいことをしたのか?………
(なんで……なんでぱちぇが……もりのけんじゃがこんなめに……)
本当にそうだったか?
本当に自分は森の賢者として相応しかっただろうか?
母の死は本当に母が無能だった所為なのだろうか?
あの時、冬籠りの食糧が尽き、実の母を無茶苦茶になじったあの時。
『ごはんもまんぞくにあつめられない、むのうなおかーさんはゆっくりしないでしね!』
『……ごめんなさい、むのうなおかーさんで。せめておかーさんをたべてゆっくりしていってね!
…………さぁ、おたべなさい!』
目の前でもの言わぬ饅頭になってしまった母を見て、自分は何を思っていただろうか?
『むのうなおかーさんは、ぱちぇのごはんぐらいにしかやくにたたないわね!』
そんなことしか思ってなかった気がする。
あの時、本当に賢者と呼ばれる程賢かったのなら、食糧を得る手段を思い付けたのではないか?
いや、そもそも食糧不足に陥ること自体無かったに違いない。
(……そんな……そんなはずないわ…………ぱちぇはわるくない………わるいのはみんなげすのせいにちがいないわ……)
あのまりさ達は本当にゲスだったろうか?
むしろ自分より有能だったのではないだろうか?
(……ちがう……ぱちぇは…………いだいな……もりのけんじゃなのよ…………)
疑問が浮かぶ度に脳裏で必死に否定するぱちゅりーに、またあの声が聞こえてくる。
………お前は、群れの為に何か新しいことをしたのか?………
(うるさい!うるさい!うるさい!うるさぁああああいいいい゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!)
春はまだ遠い。
れみりゃが冬籠りを終えて、ぱちゅりーを全部食べ尽くすまで。
幻聴は毎日、ぱちゅりーを責め立て続けた。
ぱちゅりーは最後まで気付けなかった。
自分が賢者でも長でもなく、只の無能なゲスでしかない事を。
……それを心のどこかで認めてしまっていた事を。
※気付けば連休中盤だよ!時間懸かり過ぎだろコノヤロー!!
お待ちいただいた方々には大変お待たせいたしました!
前作に感想を付けてくださった皆様のご期待に、
「(ハードルを上げるのは)もうやめて!作者の(チキンハートな)ライフはもうゼロよ!!」
状態で悶えながら書いては直し、書いては直し。
気付けば前作を遥かに超える長文になっておりました。
皆様のご期待に応えるべく、作者の筆力の限界まで絞り出しました、
本当にこれで応えられているか不安でいっぱいですが、これ以上お待たせできないだろうとうp決行。
……どうか皆様のご期待に応えられてますように。
※まりさについて(補足)
前作『騙されゆっくり』のまりさについて、感想にてさんざん指摘されておりました通り、
あれはまりさの脳内補完によるものです。
実際にれいむを襲っていたときはんなこと一切考えておりません。
何も知らずに死ぬよりも、罪を自覚してから死んだ方がより絶望感は凄いだろうと思い、最後に反省させる描写を入れましたが、
良い奴で終わらせるのは許すまじ!と前々作のまりさの行動を脳内補完させたのですが、
思ったより解りづらかったみたいで、反省しております。
本来作者が作品に解説を入れるのは反則だと思っているのですが、今回は作者の筆力不足によるものですので、
急遽解説を入れさせていただきました。