ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko2121 生きにくい 前編
最終更新:
ankoss
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・はじめに
一応前後編に分けていますが、
そういった部分を気にせず読んで頂いた方がこちらとしては嬉しいです。
では、どうぞ。
小五ロリあき
「まっててねおちびちゃん…いまおとーさんがおいしいごはんさんをたっくさんもってきてあげるからね…」
野良ゆっくりにとって日々の糧を得ると言うことは必要不可欠でありながら、困難な事でもある。
ただ食べるだけであればその辺に生えている雑草をが山ほどあるのだが…当然苦くて、満足できるような物ではない。
虫だって食べようとすると、『ゆっくりごときが自然の生態系を乱すな』
という己を棚に上げた言いがかりに近い理由で人間に目をつけられるので手が出せない。
無論こっそり食べればその場限りは大丈夫だろう。
が、行き過ぎた結果大量駆除に乗り出されてはたまったものではない。
よって自粛を―――ゆっくりにとっては最も難しいそれを、野良ゆ達は否が応でもするしかなかった。
かといってゆっくりにとっての御馳走。つまりゴミなんかをとるのはリスクが高すぎる。
なにせ人間に見つかればそこでゆん生終了である。好きこのんで死にに行くようなものは流石にいない。
「にんげんさんたちにもみつかってないいまがちゃんすだよ!
ふくろさんをさっさとやっつけてやるよ!!……ゆぅぅぅ!ゆぃぃぃぃ!!ゆんぎぃぃぃぃぃ!!!」
ただ、何事にも例外は存在する。
生意気な口を利く身の程知らずな個体が淘汰された現代においても、ゴミを狙う輩は確かにいるのだ。
そいつらも別に我が身が可愛くないわけではない。それよりも優先するべき物があるだけだ。
「ゆふー、ゆふー……やぶれないよぉ。ふくろさんはいじわるしないでごみさんをまりさにちょうだいね……
まりさのおちびちゃんのためだよ。はやくしてね…」
すなわち、自分の子供である。
それなりにゆん生経験を積んだ成ゆっくりならともかく、赤ゆっくりというのはとにかくストレスに弱い。
雀の涙ほどの忍耐力もない赤ゆっくりに苦くて変な臭いのする雑草を食わせればどうなるのか?
言うまでもない。良くて痙攣してから気絶、悪ければそれだけで死んでしまうだろう。
「こうなったらしかたないよ。このまりさのおとっときのぶきでふくろさんをやっつけるよ!
にんげんさんにみつからないようにれいむもおちびちゃんもおとーさんをおうえんしててね…!」
よって、子持ちのゆっくりは暢気にその辺の草を引き抜くわけにもいかず、ゴミ漁りをするしかない。
当然だが、たかがゴミ漁りとは言ってもゆっくりにとっては途方も無い危険が付きまとう。
とりわけ人間を始めとして野良犬やカラス達の縄張りから外れた場所を狙うといった用心が最も重要だ。
もしヘタを打てば足で踏み潰されるか、牙で喰いちぎられるか、それとも嘴で目玉を抉り取られるか。
いずれにせよロクな目に遭わないことは決まっている。
先ほどからゴミ袋を相手に格闘しているこのまりさも、危険な場所を避けに避けてようやくここに辿り着いたクチだ。
「やったよ!ようやくあながあいたよ!ふくろさんもまりさにかかればいちころだね!!
それじゃいまからびーりびーりしてなかのなまごみさんをたっぷりいただくよ!!びーりびーり…」
そうこう言っている内に、まりさが帽子の中に忍ばせていた木の棒で袋に穴を開けたようだ。
そこをとっかかりにして、この上なく嬉しそうな満面の笑顔を浮かべながら一気にゴミ袋を食い破る。
「びーりびーりむーしゃむーしゃ。なまごみさんがみえたよ!おちびちゃんもれいむもゆっくりまっててね゛……っ!?
え゛っ…?どぼ、じ…で……?がらい……がらいぃぃぃぃぃ!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
しかしニコニコ笑えたのもたった数秒だけ。
食い破ったビニールを吐き出そうとした瞬間、
まりさが限界まで目を見開いてこの世の物とは思えないような悲鳴をあげだした。
そして、頭から命と同じくらいに大切な帽子が落ちるのにもかまわず、体中から変な汁を垂れ流しながら転げまわる。
見苦しいことこの上ない醜態ではあるが、まりさがこうなってしまうのも仕方がないこと。
何故なら、まりさが噛み千切ったゴミ袋は『ゆっくり撲滅ゴミ袋~激辛編~』(加工所製)なのだから。
一時期、野良ゆっくりによるゴミ荒らしの被害件数がカラスのそれを上回った頃。
正直うんざりしていた人々の要望によって誕生したのがこれである。
随分と大層な名前がついているこのゴミ袋。
仕掛け自体は何のことはない、ただ袋の内側にゆっくりにとって致死量の辛味成分を散布しただけの物である。
だが、シンプル・イズ・ベストということなのだろうか。ゆっくりにとってこの袋は想像以上の脅威となった。
まず第一に、ゆっくりの力では噛み切れない程度の強度で製作されている。
これに関しては特別なことなど何もない。元々ゆっくりが持つ顎の力などたかが知れているからだ。
そこら辺の地面に生えている雑草を引き抜くのもちょっとした重労働、と言えばその程度がわかるだろうか。
そして二つ目に、内部に塗られた辛味成分の存在だ。
流石にゆっくりも喰いちぎられないからといって、そのまま諦めるほど殊勝な性格はしていない。
少し知恵が働くやつなら、そこら辺から道具を持ってきて袋を破りやすくする。今回の木の棒などが良い例だ。
が、口に咥えた道具だけで袋がズタズタにできるはずもなく、最終的には結局食い破るしかない。
その結果、辛味成分をふんだんに含んだゴミ袋を味わうことになる、と言うわけだ。
小賢しいものほど死にやすくなる、正に便利と言う他ない傑作である。
それに、もしも万が一道具のみで袋をズタズタにできたり、誰かに食い破らせて生贄にするゲスが現れても問題はない。
付着した辛味成分が奥まで浸透するので、野良ゆが頑張ってゴミを得る頃には全て毒に変わっているのだから。
ゆっくりが物を持ち帰るには口に含むしかないので、結局どれだけ無い知恵絞っても、待つのは死だけという事である。
「がらいぃぃ!いや゛だっ!だっ、だれっが!だれがだずっ…げっ……
ばでぃざ……おぢびぢゃん………もっど…ゆっぐり……ざぜだがっ……ぁ………」
そしてゴミ袋に手を出した野良ゆの辿る末路に例外はなく、このまりさも苦しんだ末に敢え無くなった。
そもそもこのまりさは本当に、誰にも気付かれずに全てを上手く進められていたのだろうか?
そんなはずがない。
猫よりも鈍く、カラスのように知恵や羽も無く、誰よりも危機管理能力が薄いゆっくりが人々に気付かれない筈がない。
ゆっくり特有の大声で怯ませることができるのは他の動物のみで人間にはゆっくりに対する恐怖など微塵も無いし、
うまく騙せていると思っているのは当のゆっくりだけ。実際はうるさい独り言だけでその存在が十分に知られている。
それでもゆっくりたちが潰されない理由はただ一つ。『手を下そうが、下すまいがどちらにしろ死ぬ』からだ。
放っておいても被害はゴミ袋がほんの少しだけ破れるだけだし、それだって困るのは回収する業者の人たちだ。
たったそれだけの為にわざわざ軒先で騒ぐ奴らを潰そうと思うほど人間は暇ではない。と言うか、単に面倒臭い。
どうせゴミ袋の傍にある死骸も一緒に回収されるし、後には何も残らない。よってなにも問題ない。
それをまりさは。いや、まりさを含むこれまでにゴミ袋に手を出して死んでいったゆっくりたちは知らない。
きっと、何故こんなことになっているのかはまりさには解らないだろうし、これからも野良ゆ達が知る事はない。
この先も自分たちがうまく隠れられていると勘違いして、人間の手の平の上で勝手に死んでゆくのだろう。
余談だがこの袋を使ってからは他の動物に荒らされる事もほとんど無くなったらしく、
今ではこの袋が市町村から配布される回収袋の標準となっている。開発元の加工所としても万々歳だろう。
ちなみに、ゆっくりが慣れてしまわないよう『ゆっくり撲滅ゴミ袋~激苦編~』(加工所製)と使い分けられている。
ともかく現代の町でゆっくりが食べられるのは雑草や、よくて野花だけ。
まことに野良ゆっくりにとっては生きにくい環境になった。
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「おちょーしゃんおしょいにぇ…ごはんしゃんまだにゃにょ……?」
「おかーしゃん。れーみゅもおにゃかしゅいちゃよぉ……」
「もうちょっといいこでまってようね。いまおとーさんがおいしいごはんさんをいっぱいもってきてくれるからね…」
場所は変わって、車が楽々すれ違えるほどの大きな橋の下付近にて。
そこら中に生い茂る背の高い草花に隠れて、ゆっくりの一家が沈痛な面持ちでなにやらボソボソと話している。
この草むらは人間やその他の脅威から身を隠せる、ゆっくりにとっては絶好のゆっくりプレイスだ。
餌だって自分たちの周りにある雑草を好きなだけ食べられる。だと言うのに、何故かこの一家の表情は晴れない。
「いつまでまっちぇればいいにょ…?まりしゃもうずっとにゃんにもたべちぇにゃいんだよ……」
「おきゃーしゃんたちだけむーちゃむーちゃしちぇじゅるいよ…れーみゅにもそのくしゃしゃん……」
「それはだめなんだよ…
くささんはにがにがさんだからおちびちゃんがたべるとゆっくりできないんだよ。
おかーさんたちだってすきでたべてるわけじゃないんだからゆっくりりかいしてね……」
「「ゆぅぅぅ…………」」
理由は言わずもがな、赤ゆっくりの食料問題である。
前述したとおり、赤ゆっくりに合う食料は今のところ自然界にはほとんどない。
なので仕方無しに父親役のまりさ。さっき出てきたアレ―――の狩りの成果に期待するほかないのだ。
「もうやぢゃよ…まりしゃじぇんじぇんゆっくちできてにゃいよ……」
「しゃいしょのごはんしゃんだったあのくきしゃんがちゃべちゃいよ……ゆ……ゆ………ゆんやぁぁぁぁ!!!」
「お、おちびちゃんなかないで!!あんまりうるさいとにんげんさんたちにみつかっちゃうよ!
まりさぁ…ゆっくりしすぎだよ……おいしいごはんさんいっぱいもってゆっくりしないでかえってきてね………」
そしてとうとう我慢の限界が来て泣き出す赤ゆっくり達。
絶食を始めてから、はや八時間……赤ゆっくりにしては耐えた方だろう。
慌てふためきながら母親役のれいむがつがいのまりさに想いを馳せる。
が、残念ながらそれも無駄である。今頃まりさは持って帰ってくるはずのごはんと一緒に回収されているだろうから。
『…っくりしていってね……』
「ゆぅぅぅ……ゆっ?あいしゃつしゃんがきこえたよ。だれなにょ?」
「なんだかとっちぇもゆっくちできるこえだよぉ!だれだろうにぇ?」
「ゆゆゆっ!?あのこえは……おちびちゃんしゃべっちゃだめだよ!しずかにしてかくれててね!!」
『ゆっくりしていってねー!よいこのゆっくりはみんな、ゆっくりしていってねー!!!』
そんな時に、突然遠くから近づいて来るエンジン音と明るく優しげな声。
明らかに、こちらにやってくる車の音と、拡声器を使った人間の声である。
何故こんなところまでわざわざこのようなことをして回っているのか?
深く考えなくともその程度、ゆっくりにだってロクな事じゃないということぐらいは大体わかるだろう。
「れーみゅよいこだよ!!とっちぇもよいこなゆっくちだきゃらゆっくちしちぇにぇ!!」
「しゃべっちゃだめだっていってるでしょ!あれはにんげんさんのこえだよ!みつかったらゆっくりできないことに…」
「れーみゅもれーみゅも!!やっちょいっしょにゆっくちしちぇくれりゅひとができりゅんだにぇ!!
いままでおかーしゃんたちにおしゃべりもしちゃだめっていわれちぇちぇれーみゅもうがまんできなかったんだよ!!」
「なにいっでるのぉぉ!!?おがーざんはおちびぢゃんがゆっぐりできるようにいづでもがんばっでるんだよぉぉぉ!!
なのにどぼじでぞんなひどいごどいうのぉぉぉぉ!!?おがあざんにゆっくりあやまっでねぇぇぇぇ!!」
「「ゆっくち♪ゆっくち♪」」
しかし生まれて間もない赤ゆっくりにはそんなことがわかるはずもなく、また関係もないと思っているだろう。
おまけにストレスも限界に来ているとあればゆっくりさせてくれない親の言うことなど振り切って騒ぐのも仕方がない。
親の苦労子知らず、ということだろうか。我が子の暴言に涙する親を放って赤れいむは騒ぎ続け、
そうこうしている内に段々と近づいて大きくなってきた声とエンジン音が、一家がいる場所の近くで急になりを潜めた。
そして―――
「……いたか。よくもまあ飽きずに次々と…」
「ゆゆっ?にんげんしゃんだぁ!」
「にんげんしゃんはしゃっきのゆっくちしちぇいっちぇにぇっちぇいっちぇくれたにんげんしゃん?」
「に、に、に、にんげんさん!?れいむたちはただのゆっくりだよ!わるいことなんてなんにもしてないよ!!」
腰ほどにまで伸びている草を掻き分け、隠れていた(つもり)のれいむ一家を見つけた一人の男。
当然目が合うが、その瞬間赤れいむ達の顔に表れたのは、この人ならばゆっくりさせてくれるのではないかという期待。
そして、親れいむが浮かべた表情はそれとは全く逆の、焦り、恐怖といった負の感情が剥き出しになったものだった。
「にんげんしゃん。れーみゅをゆっくち…ゆっ?おしょらをちょんでりゅみちゃっ………」
「ゆぅ~ん!れーみゅだけじゅるいよ!れーみゅも…おしょらをちょんでっ………」
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!やべでぇぇぇ゛ぇ゛!!おぢびぢゃんづれでがないでぐだざいぃぃぃ!!!
れいぶだぢにどっでいのぢよりもだいじなごどもなんでず!だずげであげでぐだざいぃぃぃ!!!」
全く反対の態度を取った両者であったが、亀の甲より年の功ということなのだろう。やはり親れいむが正しかったようだ。
嬉しそうに騒いでいた赤れいむ達の声に耳を傾ける事もなく、男は二匹をつまみあげて、持っていた袋に叩き込んだ。
少し透けている袋の中は妙に膨らんでいて、膨らんだ部分だけ、やけに黒ずんで見える。
『ゆっ、ゆぅぅぅぅ!!くしゃいぃぃぃ!!このなきゃくしゃいよぉぉぉ!!』
『くしゃいあんこしゃんがいっぴゃいありゅよぉぉぉ!!おきゃーしゃんたしゅけちぇぇぇぇぇ!!』
「お、おぢびぢゃん!!おでがいじまず、おぢびぢゃんだげは!おぢびぢゃんだげはぁぁぁ!!
まっててねおぢびぢゃん!いまおがーざんが『ゆぅぅ!いぢゃいよぉ!ぢゅぶれりゅぅぅう゛っ!………』い゛やぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
袋に入った途端に苦悶の声を上げだす赤れいむ達。それを聞いて必死に呼びかける親れいむ。
しかし悲しいかな。どうやら我が子への励ましも、人間への懇願も全く関係がなかったらしく、
男は眉一つ動かさずに、袋の少し膨らんだ声の発生している部分を押し潰し、ピーピーとうるさい袋を黙らせた。
「おぢびぢゃん!れ゛いぶのがわいいおぢびぢゃん!!……ゆっ!?
や、やめてね!れいむはどこにもいきたくないよ!!おそらはとびたくないよ!!
だれかたすけてよ!!みんなかくれてみてるんでしょ!?れいむしってるんだよ!
あっ、あっ、あっ、やだ、にんげんさんどこいくの!?れいむはおいていっていいからね?つれてかないでね!
ゆわ゛ぁぁぁぁ!!!ばでぃざだずげで!でいぶはまだ…まだ……だずげでよぉぉぉぉぉむぐっ!!!」
それから泣き崩れる親れいむを引っ掴んで片手に持ち、袋を携えて車へと戻る。
男が車に乗り込む頃には、あまりにもれいむがうるさかったので袋の中で我が子と一緒くたになって混ざっていたそうな。
「あー、しんど。」
「もういいのか?まだ他にも居そうだったが…」
「だろうなあ。でも、まあいいんだよ。
俺らの仕事はピーピー喧しいチビを間引いて、野良が無闇に増えないようにすることだろ。
いちいち野良全部相手にしてたら袋がいくつあっても足りないっての。まだ廻る所は山ほどあるんだぞ?」
「そんなにいいかげんでいいのかねぇ…。ま、いいか。どうせ三日後にはまた廻るんだし」
「そうそう。じゃあ早く次行ってくれ、もう主任の小言は簡便だ。なんなら運転役代わってやろうか?」
「いらねーよ。どう考えてもそっちの方がめんどくさいって」
ゆっくりの声がしなくなった川原に、再びスピーカーに通された大きな声と、くぐもったエンジン音が響く。
懸命に願われ、祝福されながら生まれた命は、こうしていとも簡単に摘み取られたのだった。
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「・・・もういない?しゃべってもだいじょうぶかしら」
「たぶんすぃーのおとはしないからもうだいじょうぶなんだぜ」
「むきゅ。やっぱりおちびちゃんがうるさいからみつかっちゃったわね。
・・・だからあれほどこどもはつくるなっていったのに。ばかなれいむたちだわ」
今、日本中で三日に一回のゆっくり回収が、加工所によって行われている。
主に標的は赤ゆっくりを持つ野良ゆっくりの家族だ。
人々は当初、ゆっくりを捕まえることなど簡単だと思っていたが、意外と街には隠れる場所が多くて手間取った。
いくら馬鹿なゆっくりとはいえ、いくらなんでも『捕まえるから出て来い』といって姿を現すほど愚かではないのだ。
しかし、それはあくまでも人間の怖さや、世の中の世知辛さをそれなりに知った成体ゆっくりの話。
生まれたばかりの赤ゆっくりはそんなことなど何一つ知らない。大事なのはただ自分がゆっくりすることだけだ。
が、過酷な野良生活に我慢の欠片もできない赤ゆが耐えられるわけも無く、ストレスがどんどん溜まってゆく。
そこで先ほどの呼びかけである。突如響く優しげな声に、何も知らない赤ゆっくりはコロッと騙されてしまう。
後は簡単。甲高く響く赤ゆの声で居場所をあっさりと特定し、そのまま親までホイホイ釣れるという訳である。
「おまけにちぇんたちのいばしょまでばらそうとしたよ!とんだはじしらずだよー」
「そうなんだぜ。つれていかれるならばかなじぶんたちだけにしてほしいんだぜ!」
とは言うものの、そうなれば『子供は作ってはいけない』という事ぐらいゆっくりたちだって理解する。
赤ゆっくりに我慢を覚えさせるくらいなら、いっそ作らない方が楽だということは解っているのだ。
しかし、さっきも言ったように野良ゆっくりにはとにかく楽しみがない。
不味い草。他の動物に怯え、満足に眠れもしない日々。何一つとして好きなようにできない生活だ。
そして限界が来れば、もはや逃げ道は一つ。何も考えずにひたすらすっきりーっによる快楽に溺れるしかない。
当然全てが終わった後には後悔してももう遅く、その後は先ほど見たとおりだ。
父親役は我が子を生かすために無理をしてゴミを漁って死に、母親役は結局躾などできずに子供ごと人間に捕まる。
運が良くても一家揃って、ゆっくりのペーストで死臭が篭る袋に入って仲間入りだ。
他のゆっくりたちはというと、巻き込まれないように子持ち一家から離れ、捕まる姿を影から見るだけという有様。
つまり、子供を作った野良ゆっくりは誰からも完全に見捨てられるということである。
そもそも我慢強いものであれば。それがいけない事だとわかっているものであれば、当然子作りなどしない。
あのレイパーで名高いありすだって、生きるために何もかも忘れてせっせと働いているのだ。
無知であればあるほど、無能であればあるほど、短気であればあるほど早く死ぬといっても過言ではない。
「まあそんなことはどうでもいいわ。おばかさんがいなくなって、もっとここがすみやすくなったんだもの!」
「ほんとだぜ!にんげんにはむしろかんしゃしたいくらいなんだぜぇ!!」
「「「「「ゆーっゆっゆっゆっゆ!!!」」」」」
しかし一方で、このゆっくりたちのように高笑いしているような余裕も野良ゆっくりにはない。
いくら出来が良かろうが所詮はゆっくり。明日は我が身という言葉がこれほどピッタリ来る奴らもいないだろう。
そしてこの野良たちがすっきりーっができない=子孫が残せないということに気づくのはいつになるのだろうか。
その重大さに気づいたとき。それこそが人間の真の狙いなのだと知ったとき、こいつらはどのような反応を示すのか。
現代を生きる人々にとって、そんなのはどうだっていいことである。
確かなのは、おおよそ全ての町が野良ゆっくりにとって次世代にバトンを渡すことも満足にできない地獄だということだ。
――――――――――
「きょうはとってもおいしいあまあまたべれてしあわせーっなんだぜ!」
「そうだねまりさ!きょうはとってもきもちよくすーやすーやできそうだよ」
「ほかのみんなもすーやすーやしたみたいなんだぜ。まりさたちもそろそろねるんだぜ」
「つめたいあめさんもへっちゃらなうえにあったかくてがんじょうなおうちに、
そのうえあまあまなごはんなんて…きっとここはれいむたちのてんごくだね!」
「そうなんだぜ!このゆっくりぷれいすはいままでがんばっていきてきたまりさたちへのごほうびなんだぜ!」
「ここならきっとかわいいおちびちゃんも……ねえ、まりさぁ…」
「だ、だめなんだぜれいむ。おちびちゃんはがまんしないと。
……じゃあもうちょっとだけがまんしたらすっきりしようなのぜ?」
「ゆぅぅぅぅん!やくっそくっだよまりさぁ!!じゃあおやすみ……」
「おやすみなんだぜれいむ。……おちびちゃん、かぁ………」
聞いてるだけで胸糞が悪くなりそうな茶番劇をれいむとまりさが繰り広げていたのは、同町内の公園。
そこにはゆっくりにとっては見事という他ない、ダンボールにブルーシートが被さった立派なおうちが沢山あった。
れいむとまりさは数あるおうちの一つに住むしんっこんっ夫婦(笑)である。
自然公園なだけあって周りには草木が生い茂り、食料には困らない。
他のおうちに住んでいるゆっくり達だって皆節度を知っているから取り合いになったり足りなくなることもない。
まさに野良ゆっくりにとって、理想のゆっくりプレイスだった。
流れ者だったれいむとまりさが偶然見つけたこのおうち。
持ち主もおらず、また当時は空き家が沢山あったので遠慮なくおうち宣言をかました。
しかも現状に満足して暮らしていたある日、おうちの前にあまあまなお菓子が!
それも皆の分があったので、喧嘩する事なく分け合って、一匹に一つずつ仲良くむ~しゃむ~しゃして眠りに就いた。
それにしたって、そんなに良いおうちがたまたま空いていることなどありえるのだろうか?
何故野良が口にすることができないあまあまが、こうも都合よく落ちているのか?
それを疑問に思うゆっくりなど、ここにはいない。
自分が良ければ全てよし、理由など後からいくらでもつけられる。そんな事を考えているやつしかいないからだ。
生きている間散々な目にしか遭ってきたなら普通少しは疑うものだろうが……所詮はゆっくりということだろう。
・
・
・
「確認終わりました。撒いておいた薬も効いているようで熟睡してます」
「おう、そうか。・・・じゃあチャッチャと回収して終わらせるかあ」
「はい!」
更に時は過ぎ深夜。
ゆっくりも皆寝静まった頃、公園内に二人組みの男がやってきた。
遠くには男たちが乗ってきたらしきワゴン車が止まっている。
「Zzz……れいむ…あかちゃん……」
「ぐー、ぐー…まりさぁ……ゆっく…り……」
「おーおーよく寝てる。…これからどうなるかも知らないで、暢気なもんだ」
「おい、ボサッとしてないで手ぇ動かせ!観察しに来てんじゃねえんだぞ!!」
「は、はい!すんません!!…っと」
「ゆぴー…ゆぴー…すっきり………」ポスッ
「もっと…あまあまちょうだ………」ポスッ
男たちは一通り公園内のゆっくりの様子を確認すると、またもや出てきた半透明の袋に次々と放り込んだ。
しかし生憎と、爆睡しているゆっくり達はつがいが放り込まれようと自分が放り込まれようと一向に気づかない。
あっという間に十分もせず公園内の野良ゆっくり達は理想のおうちから袋の中にまとめられてしまった。
「よーし、○○公園終わり。次行くぞ!」
「はあ…」
男たちは実に手際よく、極めて事務的にワゴン車の後部にゆっくりが入った袋を適当に放り込んでいく。
割と乱雑に扱われてもゆっくりたちが目を覚ます気配はない。
当たり前だ。だって、睡眠薬(ラムネ)を盛られて、深い深い眠りについているのだから。
そもそも、ゆっくりにはダンボールを組み立てるだけの技術も、知恵もない。
ブルーシートを被せて雨風を凌ごうなど思いもしないだろうし、そもそもそう都合よくシートが落ちてる訳がない。
全ては罠。野良ゆっくりが夢見た理想のゆっくりプレイスは、ゆっくりを効率よく回収するための単なる仕掛けである。
先ほど見かけた、赤ゆっくりを釣って回収する方法。
これはゆっくりの増殖を防ぐのにはいいが、子持ちでないゆっくりには効果が薄く、正直あまり効率が良くない。
よって次に考えついたのが『ゆっくりを呼び込んで、一気に捕まえよう』という案だった。
これに関しては、見たままが全てである。
ゆっくりでは到底建てられないような巣を作って呼び込んで、三日に一回睡眠薬をばら撒いて眠ったところを捕獲。
公園だけでなく空き地なんかにも許可を得て配置している、まさにゆっくりホイホイというわけだ。
これも当時は、そんなに簡単に……という声が多数だったが、予想を裏切って効果は覿面だった。
環境さえ用意してやれば面白いくらいに野良ゆっくりが食いつき、眠らせれば回収も楽。
しかも叫んだりしないので周囲のゆっくりに警戒心を抱かせる事なく、また次の野良がホイホイ住み着く。
そもそも周期的に車がやってきて、その後にみんな居なくなるという事実にも気づかない始末である。
そんな馬鹿共が今すぐそのおかしさに疑問を持つことなど、あるわけがない。
残る問題として、たまに野良猫なんかが居着くのが困りものだったが…
意地汚いゆっくりがわざわざ追い出しにかかってくれるので、それも問題なかった。
そして捕まって、気がついたころにはもう遅い。後はいくら泣こうが喚こうが加工所まで一直線というわけだ。
「今は暢気に寝てますけど、こいつら全員、後でウチで飼育してるやつの餌用にすり潰されるんですよね…」
「ああ、そうだな。何言ってんだ今頃。そんなもん常識だろうが、常識。」
「いえ。そうなんですけど、こうやって何もしてないのに必死に生きてるところ捕まって、
それで生きたままプロセッサーでグチャグチャにされて、その上共食いだなんてちょっと酷いかなって……」
「はぁ?何言ってんだお前」
「いや、わかってるんですよ。僕がこうやってるおかげでメシ食えてるのも、仕事だからやるしかないって事も。
でもやっぱり、動いて話せる奴をこうやって駆除…っていうか、利用するのってなんか酷くないかと思って」
「あー、わからんでもないな。俺もここに入ったばっかの頃はそんなこと考えてたわ」
「そ、そうなんですか?じゃあ……」
「あのなあ。お前はまだよくわかってないみたいだけど、そんなこと言ってる場合じゃないんだって。
こうでもしないとあいつらはどんどん増えて、町中に蔓延るようになっちまうんだよ。
そこら辺で交尾しまくって、増えまくって、道路は潰れた饅頭で汚れて景観損ねるし、事故は起きるし、
仕舞いには調子に乗った奴らがそこら辺の子供襲い始めるなんて話が一昔前だと当たり前だったんだ。
だから勘違いするなよ。今のこいつらへの対応はあくまでも『最低限』。やりすぎじゃないんだって」
「いえ、そこら辺は見た事ないけど一応知ってます。けど……」
「納得できないか?……なら、どうすりゃお前は気が済むんだ。
お前が代わりにすり潰されてウチの奴らの餌になって、残った財産をこいつらにやるか?
そうすりゃこいつらの中から十数匹くらいは救えるだろうさ。
所詮人間一人の力じゃ、ゆっくり十匹ちょっと助けるのが限度だ。なあ、くだらねえ話だろうが」
「そんなこと……」
できる訳ないじゃないですか。と、言おうと顔を上げると、上司らしき男はもう車に乗り込もうとしていた。
「できないだろ?それが当たり前だ。むしろ、できる奴が狂ってる。
わざわざそんな極論出さなくても、あんなの相手にこっちが犠牲になる必要なんて欠片も無い。
少なくとも俺たちはそう思わなきゃいかん。『こんなものは害虫駆除と同じだ』ってな。
それでも納得できないって言うんなら―――お前この仕事向いてないよ。ゆっくりんピースにでも行きな」
そう言って言葉を結ぶと同時に、ドアを閉めた。話は終わりということだろう。
残された男も半分納得できない自分がいるのを感じながらも、とりあえず頷くことにした。
なんとなく、今まで持っていた『一般人』としての常識が、心の中で崩れ去っていくような音を聞きながら……
ともあれ、繁殖防止と野良ゆ自体の駆除を組み合わせた結果、効果は目に見えて出てきている。
野良ゆっくりの数は緩やかに、本当に緩やかにではあるが、確かに減ってきているのだ。
結果が出た以上、野良ゆっくり側が学習しない限りこれから先も人間がこれらの駆除を切り上げることはない。
この次の日も、また次も、何も知らずに喜び跳ね上がって野良ゆっくりは自ら棺桶に入ろうとするのだろう。
――――――――――
「あ・・・あぁ・・・ど、どぼじで・・・?」
「どぼじでれみりゃとにんげんさんがこんなところに・・・」
「どす!どす!どういうことなの!?なにがあったの!?」
「ど、どすにもわからないよ!
にんげんさん、なにかようなの?このむれはみんないいこでなにもわるいことなんか・・・」
「さて、そろそろ時間か。……いけ。」
「「「「「「「「「「うー!」」」」」」」」」」
場所は変わって山の麓。
いきなりではあるが、大量の胴無しれみりゃが、今か今かと目の前にいる野生ゆっくりの群れに目を輝かせている。
突然数え切れないほどの天敵を前にして固まるゆっくり達を余所に、加工所の職員らしき二人の男は一言だけ合図を送った。
「ゆ゛あぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!だずげでぇぇ゛ぇ゛!!!」
「ゆぅぅぅぅぅ!!こっちこないでね!こないでね!!…こないでよぉぉぉぉぉ!!!」
「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っ……ゆ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!で、で、でいぶのあ゛んごぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
「ゆ゛んやぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!やべぢぇぇぇぇ!!ばでぃぢゃおいぢぐにゃいよぉぉ゛ぉ゛!!!」
「どぼじでぇぇぇ!!?どぼじでごんなひどいごどずるのぉぉぉぉ!!?
れいぶだぢなんにぼわるいごどじでないんだよ!!なのにどぼぢ「うー☆」あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
そして数秒後。やっぱりというべきか、予想通りというべきか。そこには阿鼻叫喚の図が広がっていた。
れみりゃの群れは逃げるものに噛み付いては中身の餡子を吸い、
突然のことに動転して、キョロキョロしているものに襲い掛かり、
あまりの恐怖にガタガタ震えて身動きすら取れないものに突撃し、
藪に隠れようとして隠れきっていないものの汚い尻を噛み千切り、
我が子を庇おうとしているものの前でその子供を丸呑みし、泣き叫ぶメインディッシュをゆっくり味わった。
これも、駆除の一環である。
人間ではなかなか見つけにくいゆっくりの集落を、
訓練したれみりゃの群れに捜索させてからそのまま一網打尽という極めてシンプルな計画。
ちなみにお残しさせないのと、感覚を鋭敏にさせる為にれみりゃたちは腹ペコ状態にしてある。その結果の地獄絵図だ。
なにも野生まで……と、思う人もいるかもしれないが、それも大きな勘違いだ。
最近の野生ゆっくりも随分と調子に乗るようになってきている。
畑荒らし、野菜泥棒、果ては無計画な繁殖による山の資源の枯渇と、好き勝手やりたい放題である。
ちなみにゆっくりのせいで無人販売所が成り立たなくなり、この世から消えたというニュースは割と人々に知られた話だ。
おまけに観光地でも、某県の公園にいる鹿のように人間の弁当を強奪しようとする奴が出る始末。
そしてなによりも―――
「う゛がぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!!がらいがらいがらいがらいよぉぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!
どずはどずなんだよ!?なのにどぼじでにんげんざんがぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
ドスまりさの存在が、一番目立つ。
当時はその巨体と威圧感を持って農家に群れで押しかけて食料を強奪していくだの、
他にもドススパークやゆっくりオーラがどうのこうのと危惧されていたが、なんのことはない。
研究が進み、様々な対策が練られたことによってドスまりさも『只のデカいまりさ』としてしか見られなくなった。
「ごんなのうぞだぁ……どずは、ばでぃざはえらばれだゆっぐりなんだ。ぼっどみんなをゆっぐりざぜるんだ。
ぞのだめにいま゛ま゛でがんばっで…なのに…なのにどぼじで……み…な……ごべ………ねぇ゛……」
今では簡単な専用装備があれば大人一人で簡単に殺せるという、なんともお手軽な存在に成り下がってしまったようだ。
しかし、それだけで話は終わらない。
穴を掘るためか、岩を壊すためか、それとも捕食種を撃退するためか―――
なにが目的だったのかは知らないが、ある日ドススパークが原因と見られる山火事が起こったそうな。
最初はなにかの間違いかとも思ったが、被害が二件、三件と全国規模で出てくると流石にそうも言ってられない。
哀れドスまりさは優先的に駆られる格好の標的となってしまい、存在自体が危うくなった。
そもそも、この野生ゆっくりの群れが何をしたのかというと……実は特に何も悪いことはしていない。
ただ、集落が比較的人が住んでいる所に近い場所にあったというのと、ドスがいるということだけでこうなった。
『まあ何かあってからじゃ遅いし、せっかくだからやっとくか』という、軽い予防のつもりで滅ぼされたのだ。
「「「「「「「「「うー☆ごちそうさま!」」」」」」」」」
駆除開始から十分後。
つい先ほどまでは確かにその場にいた大量のゆっくり達は殆ど残っておらず、残ったのはれみりゃと二人の人間のみ。
ただ、そこかしこに散らばっているペラペラのデスマスクと、赤い餡子を吐いたドスの死骸だけが惨状を物語っていた。
「・・・よし、帰るか。おいお前たち、戻れ!」
「「「「「「「「「うー!!」」」」」」」」」
男の声一つで、れみりゃたちはぞろぞろとカゴの中に入っていく。
流石に専門機関でよく躾けられているだけのことはある。
その一糸乱れぬ行進を見れば、普段ゆっくりを嫌い、見下す者ですらきっと感心するであろうと思えるほどだ。
ただ、仕事で見飽きている男達には何の感慨も湧かない。早く入れとでも言わんばかりに行進を冷めた目で見つめている。
「うー…」
「………」
そんな折、規則正しく続く行進から一匹のれみりゃが、列を見守る男の下へやってきて、
「もうおまんじゅうはあきたんだど!かわいいれみぃにぷっでぃんよこすんだど!ぷっでぃ~ん♪」
とんでもない事を言いやがった。
「・・・・・・」
「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」
一瞬で凍りついた場の空気も意に介さず一匹のれみりゃは勝手な事を言い続けるが、周囲の反応は冷ややかなものだ。
絡まれた方の男は何も言わずにうーうー言っている目の前の饅頭を見続け、
他のれみりゃは行進の足を止めて、まるで恐ろしい物を見るようにガタガタ震えながら絶句し、
そして何も言われていない方の男はそんな周りの様子などそっちのけで、ワゴン車から例の半透明な袋を取り出している。
「なにぐずぐずしてるんだど?ごしゅじんさまのいうことがきけないんだど!
そんなやくたたずなしもべはれみぃがじきじきにぽーいしてやるんだど!ぽーい!!」
「・・・B-7、『繁殖』行きだ」
「う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!れみぃをむしするんじゃないど!!ざぐやぁ!ざぐぼっ………」
後はれみりゃを見下ろす男の呟きと同時に足元のれみりゃが蹴り飛ばされ、もう片方の男が広げた袋にスッポリ入った。
「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」
「…何をしている。グズグズするな、さっさと行け」
「「「「「「「「「うー!!」」」」」」」」」
残ったれみりゃ達はそんな光景を見て更に震え上がるも、男達に睨まれて我先にとケージに潜り込む。
それを見て一つ頷いた男達は、なにやらモゴモゴ言いながら動いている袋の口を縛り、
中で大量のれみりゃがガタガタ震えているケージと共にワゴン車に積み込んでから車に乗り込み走り去っていった。
・
・
・
今、飼いゆっくりとして人気のゆっくりは?と道行く人に聞けば、おそらく半分ほどがれみりゃと答えるだろう。
あのゆっくり特有の、人の神経を逆撫でするような表情はせずいつも明るくニコニコ笑っていて、
頭もそんなに悪くなく、子供のようにやんちゃなところはあるが言い聞かせればちゃんと言う事をきく。
それになによりも、捕食種なので放っておいても野良ゆっくりなどにやられる事なく、安心してみていられる。
同じようなゆっくりにふらんがいるが、こちらは割と凶暴で、その上希少種に近いためあまり数が出回ってない。
それに比べれば飼いやすく、可愛らしく、比較的手に入りやすいれみりゃは引っ張りだこのようだ。
ただ、そんなれみりゃにも問題点はある。
れみりゃの中に、ごく稀にではあるが『胴付き』化するものが出てくるのである。
胴付き化というのは読んで字の如く、見た目生首であるゆっくりに体が生えてくる事である。
勿論ゆっくりに骨や筋肉など無く、そういった部分では他のゆっくりと違いも無いのだが……
まず、ほとんどうーうー言っているだけだったのに、いきなり流暢に話し出す。
次に、頭が悪く性格が倣岸不遜な物になり、それによって言っている事も聴いていて不快になるような内容ばかりになる。
元々持っていた羽が小さくなり、空が飛べなくなる。移動手段は以前の飛行以下、通常種以上の速さである徒歩のみ。
そのくせ動くのが嫌いで、運動不足のせいかでっぷりと太っていき、肌も全体的にどんどん油っこくなっていく。
だからと言って飼い主が見かねて注意すると泣き叫んで癇癪を起こし、自分の非を認めず反省など全くしない。
以上が、れみりゃが胴付き化する際に起きる性格や身体の変わりようだ。
プラス面が無いとは言わない。が、デメリットの方が圧倒的に多いのは覆せない事実である。
もっともここまで酷い症状が現れるのはれみりゃ種だけで、他のゆっくりには至ってまともな変化しか起きないのだが…。
そもそも、胴付き化は狙って起こせない云わば病気、もっと大袈裟に言えば天災のようなものである。
どれだけ元が良い子であっても、どれだけ厳しく躾けようともなる時にはなる、まさに悪夢のような現象。
普通の飼いれみりゃが胴付きになってしまったなら、専門機関で性格の修正を行えばいい。
が、加工所の場合。大量にれみりゃを育て、使わなければならない場所では一々そんな悠長な事はしていられない。
一般家庭ならともかく、加工所にとっては胴付きれみりゃなど突っ立て棒にも劣る能無しでしかないのだ。
よって、もしも胴付きが出てしまった場合は早めの対処が求められる。
初期症状――よく喋り、頭が悪い発言が増える――が出た場合は早々に隔離し、然るべき場所に移送するのだ。
胴付きれみりゃとて、全く役に立たないわけではない。
運悪く胴付きになってしまったれみりゃ達は、その最大の特徴である再生力による丈夫さを活かした生産工場になってもらうのだ。
生産部門に送られた胴つき候補のれみりゃは、そこで体が完全に生えるまで育てられ、育ちきれば『産む機械』となる。
体をガッチリ拘束され、頭から精子餡を送られ、いくら泣き叫ぼうと助けを請おうとひたすられみりゃを産ませられるという。
多少無茶な使い方をしてもれみりゃ特有の再生力のおかげである程度は元通りになってくれるので気にする必要もない。
ゲッソリしてきて栄養剤を注入しても戻らなくなったり、産むペースが遅くなったら消費期限だ。
そうなれば、もう用は無いとばかりに生きたまま砕かれて他のゆっくりの餌になるという、悲惨な最期が待っている。
勿論こういったことは、加工所で働くれみりゃ達は知らない。
が、人間に逆らって生意気な事を言えば酷い目に遭うということだけは徹底的に教え込まれている。
今回も胴付きの兆候が出たれみりゃが別の場所に行くという事に恐怖し、これからも一層やる気を見せるだろう。
まあ例えそうでも一向に構うまい。
今、縛られた袋の中で良い気になって好き勝手言っている奴の行く末に比べれば、それでも十分に幸せなのだから……。
・なかがき
この作品は犠牲となったのだ。容量制限という名の犠牲にな・・・
一応前後編に分けていますが、
そういった部分を気にせず読んで頂いた方がこちらとしては嬉しいです。
では、どうぞ。
小五ロリあき
「まっててねおちびちゃん…いまおとーさんがおいしいごはんさんをたっくさんもってきてあげるからね…」
野良ゆっくりにとって日々の糧を得ると言うことは必要不可欠でありながら、困難な事でもある。
ただ食べるだけであればその辺に生えている雑草をが山ほどあるのだが…当然苦くて、満足できるような物ではない。
虫だって食べようとすると、『ゆっくりごときが自然の生態系を乱すな』
という己を棚に上げた言いがかりに近い理由で人間に目をつけられるので手が出せない。
無論こっそり食べればその場限りは大丈夫だろう。
が、行き過ぎた結果大量駆除に乗り出されてはたまったものではない。
よって自粛を―――ゆっくりにとっては最も難しいそれを、野良ゆ達は否が応でもするしかなかった。
かといってゆっくりにとっての御馳走。つまりゴミなんかをとるのはリスクが高すぎる。
なにせ人間に見つかればそこでゆん生終了である。好きこのんで死にに行くようなものは流石にいない。
「にんげんさんたちにもみつかってないいまがちゃんすだよ!
ふくろさんをさっさとやっつけてやるよ!!……ゆぅぅぅ!ゆぃぃぃぃ!!ゆんぎぃぃぃぃぃ!!!」
ただ、何事にも例外は存在する。
生意気な口を利く身の程知らずな個体が淘汰された現代においても、ゴミを狙う輩は確かにいるのだ。
そいつらも別に我が身が可愛くないわけではない。それよりも優先するべき物があるだけだ。
「ゆふー、ゆふー……やぶれないよぉ。ふくろさんはいじわるしないでごみさんをまりさにちょうだいね……
まりさのおちびちゃんのためだよ。はやくしてね…」
すなわち、自分の子供である。
それなりにゆん生経験を積んだ成ゆっくりならともかく、赤ゆっくりというのはとにかくストレスに弱い。
雀の涙ほどの忍耐力もない赤ゆっくりに苦くて変な臭いのする雑草を食わせればどうなるのか?
言うまでもない。良くて痙攣してから気絶、悪ければそれだけで死んでしまうだろう。
「こうなったらしかたないよ。このまりさのおとっときのぶきでふくろさんをやっつけるよ!
にんげんさんにみつからないようにれいむもおちびちゃんもおとーさんをおうえんしててね…!」
よって、子持ちのゆっくりは暢気にその辺の草を引き抜くわけにもいかず、ゴミ漁りをするしかない。
当然だが、たかがゴミ漁りとは言ってもゆっくりにとっては途方も無い危険が付きまとう。
とりわけ人間を始めとして野良犬やカラス達の縄張りから外れた場所を狙うといった用心が最も重要だ。
もしヘタを打てば足で踏み潰されるか、牙で喰いちぎられるか、それとも嘴で目玉を抉り取られるか。
いずれにせよロクな目に遭わないことは決まっている。
先ほどからゴミ袋を相手に格闘しているこのまりさも、危険な場所を避けに避けてようやくここに辿り着いたクチだ。
「やったよ!ようやくあながあいたよ!ふくろさんもまりさにかかればいちころだね!!
それじゃいまからびーりびーりしてなかのなまごみさんをたっぷりいただくよ!!びーりびーり…」
そうこう言っている内に、まりさが帽子の中に忍ばせていた木の棒で袋に穴を開けたようだ。
そこをとっかかりにして、この上なく嬉しそうな満面の笑顔を浮かべながら一気にゴミ袋を食い破る。
「びーりびーりむーしゃむーしゃ。なまごみさんがみえたよ!おちびちゃんもれいむもゆっくりまっててね゛……っ!?
え゛っ…?どぼ、じ…で……?がらい……がらいぃぃぃぃぃ!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
しかしニコニコ笑えたのもたった数秒だけ。
食い破ったビニールを吐き出そうとした瞬間、
まりさが限界まで目を見開いてこの世の物とは思えないような悲鳴をあげだした。
そして、頭から命と同じくらいに大切な帽子が落ちるのにもかまわず、体中から変な汁を垂れ流しながら転げまわる。
見苦しいことこの上ない醜態ではあるが、まりさがこうなってしまうのも仕方がないこと。
何故なら、まりさが噛み千切ったゴミ袋は『ゆっくり撲滅ゴミ袋~激辛編~』(加工所製)なのだから。
一時期、野良ゆっくりによるゴミ荒らしの被害件数がカラスのそれを上回った頃。
正直うんざりしていた人々の要望によって誕生したのがこれである。
随分と大層な名前がついているこのゴミ袋。
仕掛け自体は何のことはない、ただ袋の内側にゆっくりにとって致死量の辛味成分を散布しただけの物である。
だが、シンプル・イズ・ベストということなのだろうか。ゆっくりにとってこの袋は想像以上の脅威となった。
まず第一に、ゆっくりの力では噛み切れない程度の強度で製作されている。
これに関しては特別なことなど何もない。元々ゆっくりが持つ顎の力などたかが知れているからだ。
そこら辺の地面に生えている雑草を引き抜くのもちょっとした重労働、と言えばその程度がわかるだろうか。
そして二つ目に、内部に塗られた辛味成分の存在だ。
流石にゆっくりも喰いちぎられないからといって、そのまま諦めるほど殊勝な性格はしていない。
少し知恵が働くやつなら、そこら辺から道具を持ってきて袋を破りやすくする。今回の木の棒などが良い例だ。
が、口に咥えた道具だけで袋がズタズタにできるはずもなく、最終的には結局食い破るしかない。
その結果、辛味成分をふんだんに含んだゴミ袋を味わうことになる、と言うわけだ。
小賢しいものほど死にやすくなる、正に便利と言う他ない傑作である。
それに、もしも万が一道具のみで袋をズタズタにできたり、誰かに食い破らせて生贄にするゲスが現れても問題はない。
付着した辛味成分が奥まで浸透するので、野良ゆが頑張ってゴミを得る頃には全て毒に変わっているのだから。
ゆっくりが物を持ち帰るには口に含むしかないので、結局どれだけ無い知恵絞っても、待つのは死だけという事である。
「がらいぃぃ!いや゛だっ!だっ、だれっが!だれがだずっ…げっ……
ばでぃざ……おぢびぢゃん………もっど…ゆっぐり……ざぜだがっ……ぁ………」
そしてゴミ袋に手を出した野良ゆの辿る末路に例外はなく、このまりさも苦しんだ末に敢え無くなった。
そもそもこのまりさは本当に、誰にも気付かれずに全てを上手く進められていたのだろうか?
そんなはずがない。
猫よりも鈍く、カラスのように知恵や羽も無く、誰よりも危機管理能力が薄いゆっくりが人々に気付かれない筈がない。
ゆっくり特有の大声で怯ませることができるのは他の動物のみで人間にはゆっくりに対する恐怖など微塵も無いし、
うまく騙せていると思っているのは当のゆっくりだけ。実際はうるさい独り言だけでその存在が十分に知られている。
それでもゆっくりたちが潰されない理由はただ一つ。『手を下そうが、下すまいがどちらにしろ死ぬ』からだ。
放っておいても被害はゴミ袋がほんの少しだけ破れるだけだし、それだって困るのは回収する業者の人たちだ。
たったそれだけの為にわざわざ軒先で騒ぐ奴らを潰そうと思うほど人間は暇ではない。と言うか、単に面倒臭い。
どうせゴミ袋の傍にある死骸も一緒に回収されるし、後には何も残らない。よってなにも問題ない。
それをまりさは。いや、まりさを含むこれまでにゴミ袋に手を出して死んでいったゆっくりたちは知らない。
きっと、何故こんなことになっているのかはまりさには解らないだろうし、これからも野良ゆ達が知る事はない。
この先も自分たちがうまく隠れられていると勘違いして、人間の手の平の上で勝手に死んでゆくのだろう。
余談だがこの袋を使ってからは他の動物に荒らされる事もほとんど無くなったらしく、
今ではこの袋が市町村から配布される回収袋の標準となっている。開発元の加工所としても万々歳だろう。
ちなみに、ゆっくりが慣れてしまわないよう『ゆっくり撲滅ゴミ袋~激苦編~』(加工所製)と使い分けられている。
ともかく現代の町でゆっくりが食べられるのは雑草や、よくて野花だけ。
まことに野良ゆっくりにとっては生きにくい環境になった。
・
・
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「おちょーしゃんおしょいにぇ…ごはんしゃんまだにゃにょ……?」
「おかーしゃん。れーみゅもおにゃかしゅいちゃよぉ……」
「もうちょっといいこでまってようね。いまおとーさんがおいしいごはんさんをいっぱいもってきてくれるからね…」
場所は変わって、車が楽々すれ違えるほどの大きな橋の下付近にて。
そこら中に生い茂る背の高い草花に隠れて、ゆっくりの一家が沈痛な面持ちでなにやらボソボソと話している。
この草むらは人間やその他の脅威から身を隠せる、ゆっくりにとっては絶好のゆっくりプレイスだ。
餌だって自分たちの周りにある雑草を好きなだけ食べられる。だと言うのに、何故かこの一家の表情は晴れない。
「いつまでまっちぇればいいにょ…?まりしゃもうずっとにゃんにもたべちぇにゃいんだよ……」
「おきゃーしゃんたちだけむーちゃむーちゃしちぇじゅるいよ…れーみゅにもそのくしゃしゃん……」
「それはだめなんだよ…
くささんはにがにがさんだからおちびちゃんがたべるとゆっくりできないんだよ。
おかーさんたちだってすきでたべてるわけじゃないんだからゆっくりりかいしてね……」
「「ゆぅぅぅ…………」」
理由は言わずもがな、赤ゆっくりの食料問題である。
前述したとおり、赤ゆっくりに合う食料は今のところ自然界にはほとんどない。
なので仕方無しに父親役のまりさ。さっき出てきたアレ―――の狩りの成果に期待するほかないのだ。
「もうやぢゃよ…まりしゃじぇんじぇんゆっくちできてにゃいよ……」
「しゃいしょのごはんしゃんだったあのくきしゃんがちゃべちゃいよ……ゆ……ゆ………ゆんやぁぁぁぁ!!!」
「お、おちびちゃんなかないで!!あんまりうるさいとにんげんさんたちにみつかっちゃうよ!
まりさぁ…ゆっくりしすぎだよ……おいしいごはんさんいっぱいもってゆっくりしないでかえってきてね………」
そしてとうとう我慢の限界が来て泣き出す赤ゆっくり達。
絶食を始めてから、はや八時間……赤ゆっくりにしては耐えた方だろう。
慌てふためきながら母親役のれいむがつがいのまりさに想いを馳せる。
が、残念ながらそれも無駄である。今頃まりさは持って帰ってくるはずのごはんと一緒に回収されているだろうから。
『…っくりしていってね……』
「ゆぅぅぅ……ゆっ?あいしゃつしゃんがきこえたよ。だれなにょ?」
「なんだかとっちぇもゆっくちできるこえだよぉ!だれだろうにぇ?」
「ゆゆゆっ!?あのこえは……おちびちゃんしゃべっちゃだめだよ!しずかにしてかくれててね!!」
『ゆっくりしていってねー!よいこのゆっくりはみんな、ゆっくりしていってねー!!!』
そんな時に、突然遠くから近づいて来るエンジン音と明るく優しげな声。
明らかに、こちらにやってくる車の音と、拡声器を使った人間の声である。
何故こんなところまでわざわざこのようなことをして回っているのか?
深く考えなくともその程度、ゆっくりにだってロクな事じゃないということぐらいは大体わかるだろう。
「れーみゅよいこだよ!!とっちぇもよいこなゆっくちだきゃらゆっくちしちぇにぇ!!」
「しゃべっちゃだめだっていってるでしょ!あれはにんげんさんのこえだよ!みつかったらゆっくりできないことに…」
「れーみゅもれーみゅも!!やっちょいっしょにゆっくちしちぇくれりゅひとができりゅんだにぇ!!
いままでおかーしゃんたちにおしゃべりもしちゃだめっていわれちぇちぇれーみゅもうがまんできなかったんだよ!!」
「なにいっでるのぉぉ!!?おがーざんはおちびぢゃんがゆっぐりできるようにいづでもがんばっでるんだよぉぉぉ!!
なのにどぼじでぞんなひどいごどいうのぉぉぉぉ!!?おがあざんにゆっくりあやまっでねぇぇぇぇ!!」
「「ゆっくち♪ゆっくち♪」」
しかし生まれて間もない赤ゆっくりにはそんなことがわかるはずもなく、また関係もないと思っているだろう。
おまけにストレスも限界に来ているとあればゆっくりさせてくれない親の言うことなど振り切って騒ぐのも仕方がない。
親の苦労子知らず、ということだろうか。我が子の暴言に涙する親を放って赤れいむは騒ぎ続け、
そうこうしている内に段々と近づいて大きくなってきた声とエンジン音が、一家がいる場所の近くで急になりを潜めた。
そして―――
「……いたか。よくもまあ飽きずに次々と…」
「ゆゆっ?にんげんしゃんだぁ!」
「にんげんしゃんはしゃっきのゆっくちしちぇいっちぇにぇっちぇいっちぇくれたにんげんしゃん?」
「に、に、に、にんげんさん!?れいむたちはただのゆっくりだよ!わるいことなんてなんにもしてないよ!!」
腰ほどにまで伸びている草を掻き分け、隠れていた(つもり)のれいむ一家を見つけた一人の男。
当然目が合うが、その瞬間赤れいむ達の顔に表れたのは、この人ならばゆっくりさせてくれるのではないかという期待。
そして、親れいむが浮かべた表情はそれとは全く逆の、焦り、恐怖といった負の感情が剥き出しになったものだった。
「にんげんしゃん。れーみゅをゆっくち…ゆっ?おしょらをちょんでりゅみちゃっ………」
「ゆぅ~ん!れーみゅだけじゅるいよ!れーみゅも…おしょらをちょんでっ………」
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!やべでぇぇぇ゛ぇ゛!!おぢびぢゃんづれでがないでぐだざいぃぃぃ!!!
れいぶだぢにどっでいのぢよりもだいじなごどもなんでず!だずげであげでぐだざいぃぃぃ!!!」
全く反対の態度を取った両者であったが、亀の甲より年の功ということなのだろう。やはり親れいむが正しかったようだ。
嬉しそうに騒いでいた赤れいむ達の声に耳を傾ける事もなく、男は二匹をつまみあげて、持っていた袋に叩き込んだ。
少し透けている袋の中は妙に膨らんでいて、膨らんだ部分だけ、やけに黒ずんで見える。
『ゆっ、ゆぅぅぅぅ!!くしゃいぃぃぃ!!このなきゃくしゃいよぉぉぉ!!』
『くしゃいあんこしゃんがいっぴゃいありゅよぉぉぉ!!おきゃーしゃんたしゅけちぇぇぇぇぇ!!』
「お、おぢびぢゃん!!おでがいじまず、おぢびぢゃんだげは!おぢびぢゃんだげはぁぁぁ!!
まっててねおぢびぢゃん!いまおがーざんが『ゆぅぅ!いぢゃいよぉ!ぢゅぶれりゅぅぅう゛っ!………』い゛やぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
袋に入った途端に苦悶の声を上げだす赤れいむ達。それを聞いて必死に呼びかける親れいむ。
しかし悲しいかな。どうやら我が子への励ましも、人間への懇願も全く関係がなかったらしく、
男は眉一つ動かさずに、袋の少し膨らんだ声の発生している部分を押し潰し、ピーピーとうるさい袋を黙らせた。
「おぢびぢゃん!れ゛いぶのがわいいおぢびぢゃん!!……ゆっ!?
や、やめてね!れいむはどこにもいきたくないよ!!おそらはとびたくないよ!!
だれかたすけてよ!!みんなかくれてみてるんでしょ!?れいむしってるんだよ!
あっ、あっ、あっ、やだ、にんげんさんどこいくの!?れいむはおいていっていいからね?つれてかないでね!
ゆわ゛ぁぁぁぁ!!!ばでぃざだずげで!でいぶはまだ…まだ……だずげでよぉぉぉぉぉむぐっ!!!」
それから泣き崩れる親れいむを引っ掴んで片手に持ち、袋を携えて車へと戻る。
男が車に乗り込む頃には、あまりにもれいむがうるさかったので袋の中で我が子と一緒くたになって混ざっていたそうな。
「あー、しんど。」
「もういいのか?まだ他にも居そうだったが…」
「だろうなあ。でも、まあいいんだよ。
俺らの仕事はピーピー喧しいチビを間引いて、野良が無闇に増えないようにすることだろ。
いちいち野良全部相手にしてたら袋がいくつあっても足りないっての。まだ廻る所は山ほどあるんだぞ?」
「そんなにいいかげんでいいのかねぇ…。ま、いいか。どうせ三日後にはまた廻るんだし」
「そうそう。じゃあ早く次行ってくれ、もう主任の小言は簡便だ。なんなら運転役代わってやろうか?」
「いらねーよ。どう考えてもそっちの方がめんどくさいって」
ゆっくりの声がしなくなった川原に、再びスピーカーに通された大きな声と、くぐもったエンジン音が響く。
懸命に願われ、祝福されながら生まれた命は、こうしていとも簡単に摘み取られたのだった。
・
・
・
「・・・もういない?しゃべってもだいじょうぶかしら」
「たぶんすぃーのおとはしないからもうだいじょうぶなんだぜ」
「むきゅ。やっぱりおちびちゃんがうるさいからみつかっちゃったわね。
・・・だからあれほどこどもはつくるなっていったのに。ばかなれいむたちだわ」
今、日本中で三日に一回のゆっくり回収が、加工所によって行われている。
主に標的は赤ゆっくりを持つ野良ゆっくりの家族だ。
人々は当初、ゆっくりを捕まえることなど簡単だと思っていたが、意外と街には隠れる場所が多くて手間取った。
いくら馬鹿なゆっくりとはいえ、いくらなんでも『捕まえるから出て来い』といって姿を現すほど愚かではないのだ。
しかし、それはあくまでも人間の怖さや、世の中の世知辛さをそれなりに知った成体ゆっくりの話。
生まれたばかりの赤ゆっくりはそんなことなど何一つ知らない。大事なのはただ自分がゆっくりすることだけだ。
が、過酷な野良生活に我慢の欠片もできない赤ゆが耐えられるわけも無く、ストレスがどんどん溜まってゆく。
そこで先ほどの呼びかけである。突如響く優しげな声に、何も知らない赤ゆっくりはコロッと騙されてしまう。
後は簡単。甲高く響く赤ゆの声で居場所をあっさりと特定し、そのまま親までホイホイ釣れるという訳である。
「おまけにちぇんたちのいばしょまでばらそうとしたよ!とんだはじしらずだよー」
「そうなんだぜ。つれていかれるならばかなじぶんたちだけにしてほしいんだぜ!」
とは言うものの、そうなれば『子供は作ってはいけない』という事ぐらいゆっくりたちだって理解する。
赤ゆっくりに我慢を覚えさせるくらいなら、いっそ作らない方が楽だということは解っているのだ。
しかし、さっきも言ったように野良ゆっくりにはとにかく楽しみがない。
不味い草。他の動物に怯え、満足に眠れもしない日々。何一つとして好きなようにできない生活だ。
そして限界が来れば、もはや逃げ道は一つ。何も考えずにひたすらすっきりーっによる快楽に溺れるしかない。
当然全てが終わった後には後悔してももう遅く、その後は先ほど見たとおりだ。
父親役は我が子を生かすために無理をしてゴミを漁って死に、母親役は結局躾などできずに子供ごと人間に捕まる。
運が良くても一家揃って、ゆっくりのペーストで死臭が篭る袋に入って仲間入りだ。
他のゆっくりたちはというと、巻き込まれないように子持ち一家から離れ、捕まる姿を影から見るだけという有様。
つまり、子供を作った野良ゆっくりは誰からも完全に見捨てられるということである。
そもそも我慢強いものであれば。それがいけない事だとわかっているものであれば、当然子作りなどしない。
あのレイパーで名高いありすだって、生きるために何もかも忘れてせっせと働いているのだ。
無知であればあるほど、無能であればあるほど、短気であればあるほど早く死ぬといっても過言ではない。
「まあそんなことはどうでもいいわ。おばかさんがいなくなって、もっとここがすみやすくなったんだもの!」
「ほんとだぜ!にんげんにはむしろかんしゃしたいくらいなんだぜぇ!!」
「「「「「ゆーっゆっゆっゆっゆ!!!」」」」」
しかし一方で、このゆっくりたちのように高笑いしているような余裕も野良ゆっくりにはない。
いくら出来が良かろうが所詮はゆっくり。明日は我が身という言葉がこれほどピッタリ来る奴らもいないだろう。
そしてこの野良たちがすっきりーっができない=子孫が残せないということに気づくのはいつになるのだろうか。
その重大さに気づいたとき。それこそが人間の真の狙いなのだと知ったとき、こいつらはどのような反応を示すのか。
現代を生きる人々にとって、そんなのはどうだっていいことである。
確かなのは、おおよそ全ての町が野良ゆっくりにとって次世代にバトンを渡すことも満足にできない地獄だということだ。
――――――――――
「きょうはとってもおいしいあまあまたべれてしあわせーっなんだぜ!」
「そうだねまりさ!きょうはとってもきもちよくすーやすーやできそうだよ」
「ほかのみんなもすーやすーやしたみたいなんだぜ。まりさたちもそろそろねるんだぜ」
「つめたいあめさんもへっちゃらなうえにあったかくてがんじょうなおうちに、
そのうえあまあまなごはんなんて…きっとここはれいむたちのてんごくだね!」
「そうなんだぜ!このゆっくりぷれいすはいままでがんばっていきてきたまりさたちへのごほうびなんだぜ!」
「ここならきっとかわいいおちびちゃんも……ねえ、まりさぁ…」
「だ、だめなんだぜれいむ。おちびちゃんはがまんしないと。
……じゃあもうちょっとだけがまんしたらすっきりしようなのぜ?」
「ゆぅぅぅぅん!やくっそくっだよまりさぁ!!じゃあおやすみ……」
「おやすみなんだぜれいむ。……おちびちゃん、かぁ………」
聞いてるだけで胸糞が悪くなりそうな茶番劇をれいむとまりさが繰り広げていたのは、同町内の公園。
そこにはゆっくりにとっては見事という他ない、ダンボールにブルーシートが被さった立派なおうちが沢山あった。
れいむとまりさは数あるおうちの一つに住むしんっこんっ夫婦(笑)である。
自然公園なだけあって周りには草木が生い茂り、食料には困らない。
他のおうちに住んでいるゆっくり達だって皆節度を知っているから取り合いになったり足りなくなることもない。
まさに野良ゆっくりにとって、理想のゆっくりプレイスだった。
流れ者だったれいむとまりさが偶然見つけたこのおうち。
持ち主もおらず、また当時は空き家が沢山あったので遠慮なくおうち宣言をかました。
しかも現状に満足して暮らしていたある日、おうちの前にあまあまなお菓子が!
それも皆の分があったので、喧嘩する事なく分け合って、一匹に一つずつ仲良くむ~しゃむ~しゃして眠りに就いた。
それにしたって、そんなに良いおうちがたまたま空いていることなどありえるのだろうか?
何故野良が口にすることができないあまあまが、こうも都合よく落ちているのか?
それを疑問に思うゆっくりなど、ここにはいない。
自分が良ければ全てよし、理由など後からいくらでもつけられる。そんな事を考えているやつしかいないからだ。
生きている間散々な目にしか遭ってきたなら普通少しは疑うものだろうが……所詮はゆっくりということだろう。
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「確認終わりました。撒いておいた薬も効いているようで熟睡してます」
「おう、そうか。・・・じゃあチャッチャと回収して終わらせるかあ」
「はい!」
更に時は過ぎ深夜。
ゆっくりも皆寝静まった頃、公園内に二人組みの男がやってきた。
遠くには男たちが乗ってきたらしきワゴン車が止まっている。
「Zzz……れいむ…あかちゃん……」
「ぐー、ぐー…まりさぁ……ゆっく…り……」
「おーおーよく寝てる。…これからどうなるかも知らないで、暢気なもんだ」
「おい、ボサッとしてないで手ぇ動かせ!観察しに来てんじゃねえんだぞ!!」
「は、はい!すんません!!…っと」
「ゆぴー…ゆぴー…すっきり………」ポスッ
「もっと…あまあまちょうだ………」ポスッ
男たちは一通り公園内のゆっくりの様子を確認すると、またもや出てきた半透明の袋に次々と放り込んだ。
しかし生憎と、爆睡しているゆっくり達はつがいが放り込まれようと自分が放り込まれようと一向に気づかない。
あっという間に十分もせず公園内の野良ゆっくり達は理想のおうちから袋の中にまとめられてしまった。
「よーし、○○公園終わり。次行くぞ!」
「はあ…」
男たちは実に手際よく、極めて事務的にワゴン車の後部にゆっくりが入った袋を適当に放り込んでいく。
割と乱雑に扱われてもゆっくりたちが目を覚ます気配はない。
当たり前だ。だって、睡眠薬(ラムネ)を盛られて、深い深い眠りについているのだから。
そもそも、ゆっくりにはダンボールを組み立てるだけの技術も、知恵もない。
ブルーシートを被せて雨風を凌ごうなど思いもしないだろうし、そもそもそう都合よくシートが落ちてる訳がない。
全ては罠。野良ゆっくりが夢見た理想のゆっくりプレイスは、ゆっくりを効率よく回収するための単なる仕掛けである。
先ほど見かけた、赤ゆっくりを釣って回収する方法。
これはゆっくりの増殖を防ぐのにはいいが、子持ちでないゆっくりには効果が薄く、正直あまり効率が良くない。
よって次に考えついたのが『ゆっくりを呼び込んで、一気に捕まえよう』という案だった。
これに関しては、見たままが全てである。
ゆっくりでは到底建てられないような巣を作って呼び込んで、三日に一回睡眠薬をばら撒いて眠ったところを捕獲。
公園だけでなく空き地なんかにも許可を得て配置している、まさにゆっくりホイホイというわけだ。
これも当時は、そんなに簡単に……という声が多数だったが、予想を裏切って効果は覿面だった。
環境さえ用意してやれば面白いくらいに野良ゆっくりが食いつき、眠らせれば回収も楽。
しかも叫んだりしないので周囲のゆっくりに警戒心を抱かせる事なく、また次の野良がホイホイ住み着く。
そもそも周期的に車がやってきて、その後にみんな居なくなるという事実にも気づかない始末である。
そんな馬鹿共が今すぐそのおかしさに疑問を持つことなど、あるわけがない。
残る問題として、たまに野良猫なんかが居着くのが困りものだったが…
意地汚いゆっくりがわざわざ追い出しにかかってくれるので、それも問題なかった。
そして捕まって、気がついたころにはもう遅い。後はいくら泣こうが喚こうが加工所まで一直線というわけだ。
「今は暢気に寝てますけど、こいつら全員、後でウチで飼育してるやつの餌用にすり潰されるんですよね…」
「ああ、そうだな。何言ってんだ今頃。そんなもん常識だろうが、常識。」
「いえ。そうなんですけど、こうやって何もしてないのに必死に生きてるところ捕まって、
それで生きたままプロセッサーでグチャグチャにされて、その上共食いだなんてちょっと酷いかなって……」
「はぁ?何言ってんだお前」
「いや、わかってるんですよ。僕がこうやってるおかげでメシ食えてるのも、仕事だからやるしかないって事も。
でもやっぱり、動いて話せる奴をこうやって駆除…っていうか、利用するのってなんか酷くないかと思って」
「あー、わからんでもないな。俺もここに入ったばっかの頃はそんなこと考えてたわ」
「そ、そうなんですか?じゃあ……」
「あのなあ。お前はまだよくわかってないみたいだけど、そんなこと言ってる場合じゃないんだって。
こうでもしないとあいつらはどんどん増えて、町中に蔓延るようになっちまうんだよ。
そこら辺で交尾しまくって、増えまくって、道路は潰れた饅頭で汚れて景観損ねるし、事故は起きるし、
仕舞いには調子に乗った奴らがそこら辺の子供襲い始めるなんて話が一昔前だと当たり前だったんだ。
だから勘違いするなよ。今のこいつらへの対応はあくまでも『最低限』。やりすぎじゃないんだって」
「いえ、そこら辺は見た事ないけど一応知ってます。けど……」
「納得できないか?……なら、どうすりゃお前は気が済むんだ。
お前が代わりにすり潰されてウチの奴らの餌になって、残った財産をこいつらにやるか?
そうすりゃこいつらの中から十数匹くらいは救えるだろうさ。
所詮人間一人の力じゃ、ゆっくり十匹ちょっと助けるのが限度だ。なあ、くだらねえ話だろうが」
「そんなこと……」
できる訳ないじゃないですか。と、言おうと顔を上げると、上司らしき男はもう車に乗り込もうとしていた。
「できないだろ?それが当たり前だ。むしろ、できる奴が狂ってる。
わざわざそんな極論出さなくても、あんなの相手にこっちが犠牲になる必要なんて欠片も無い。
少なくとも俺たちはそう思わなきゃいかん。『こんなものは害虫駆除と同じだ』ってな。
それでも納得できないって言うんなら―――お前この仕事向いてないよ。ゆっくりんピースにでも行きな」
そう言って言葉を結ぶと同時に、ドアを閉めた。話は終わりということだろう。
残された男も半分納得できない自分がいるのを感じながらも、とりあえず頷くことにした。
なんとなく、今まで持っていた『一般人』としての常識が、心の中で崩れ去っていくような音を聞きながら……
ともあれ、繁殖防止と野良ゆ自体の駆除を組み合わせた結果、効果は目に見えて出てきている。
野良ゆっくりの数は緩やかに、本当に緩やかにではあるが、確かに減ってきているのだ。
結果が出た以上、野良ゆっくり側が学習しない限りこれから先も人間がこれらの駆除を切り上げることはない。
この次の日も、また次も、何も知らずに喜び跳ね上がって野良ゆっくりは自ら棺桶に入ろうとするのだろう。
――――――――――
「あ・・・あぁ・・・ど、どぼじで・・・?」
「どぼじでれみりゃとにんげんさんがこんなところに・・・」
「どす!どす!どういうことなの!?なにがあったの!?」
「ど、どすにもわからないよ!
にんげんさん、なにかようなの?このむれはみんないいこでなにもわるいことなんか・・・」
「さて、そろそろ時間か。……いけ。」
「「「「「「「「「「うー!」」」」」」」」」」
場所は変わって山の麓。
いきなりではあるが、大量の胴無しれみりゃが、今か今かと目の前にいる野生ゆっくりの群れに目を輝かせている。
突然数え切れないほどの天敵を前にして固まるゆっくり達を余所に、加工所の職員らしき二人の男は一言だけ合図を送った。
「ゆ゛あぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!だずげでぇぇ゛ぇ゛!!!」
「ゆぅぅぅぅぅ!!こっちこないでね!こないでね!!…こないでよぉぉぉぉぉ!!!」
「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っ……ゆ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!で、で、でいぶのあ゛んごぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
「ゆ゛んやぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!やべぢぇぇぇぇ!!ばでぃぢゃおいぢぐにゃいよぉぉ゛ぉ゛!!!」
「どぼじでぇぇぇ!!?どぼじでごんなひどいごどずるのぉぉぉぉ!!?
れいぶだぢなんにぼわるいごどじでないんだよ!!なのにどぼぢ「うー☆」あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
そして数秒後。やっぱりというべきか、予想通りというべきか。そこには阿鼻叫喚の図が広がっていた。
れみりゃの群れは逃げるものに噛み付いては中身の餡子を吸い、
突然のことに動転して、キョロキョロしているものに襲い掛かり、
あまりの恐怖にガタガタ震えて身動きすら取れないものに突撃し、
藪に隠れようとして隠れきっていないものの汚い尻を噛み千切り、
我が子を庇おうとしているものの前でその子供を丸呑みし、泣き叫ぶメインディッシュをゆっくり味わった。
これも、駆除の一環である。
人間ではなかなか見つけにくいゆっくりの集落を、
訓練したれみりゃの群れに捜索させてからそのまま一網打尽という極めてシンプルな計画。
ちなみにお残しさせないのと、感覚を鋭敏にさせる為にれみりゃたちは腹ペコ状態にしてある。その結果の地獄絵図だ。
なにも野生まで……と、思う人もいるかもしれないが、それも大きな勘違いだ。
最近の野生ゆっくりも随分と調子に乗るようになってきている。
畑荒らし、野菜泥棒、果ては無計画な繁殖による山の資源の枯渇と、好き勝手やりたい放題である。
ちなみにゆっくりのせいで無人販売所が成り立たなくなり、この世から消えたというニュースは割と人々に知られた話だ。
おまけに観光地でも、某県の公園にいる鹿のように人間の弁当を強奪しようとする奴が出る始末。
そしてなによりも―――
「う゛がぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!!がらいがらいがらいがらいよぉぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!
どずはどずなんだよ!?なのにどぼじでにんげんざんがぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
ドスまりさの存在が、一番目立つ。
当時はその巨体と威圧感を持って農家に群れで押しかけて食料を強奪していくだの、
他にもドススパークやゆっくりオーラがどうのこうのと危惧されていたが、なんのことはない。
研究が進み、様々な対策が練られたことによってドスまりさも『只のデカいまりさ』としてしか見られなくなった。
「ごんなのうぞだぁ……どずは、ばでぃざはえらばれだゆっぐりなんだ。ぼっどみんなをゆっぐりざぜるんだ。
ぞのだめにいま゛ま゛でがんばっで…なのに…なのにどぼじで……み…な……ごべ………ねぇ゛……」
今では簡単な専用装備があれば大人一人で簡単に殺せるという、なんともお手軽な存在に成り下がってしまったようだ。
しかし、それだけで話は終わらない。
穴を掘るためか、岩を壊すためか、それとも捕食種を撃退するためか―――
なにが目的だったのかは知らないが、ある日ドススパークが原因と見られる山火事が起こったそうな。
最初はなにかの間違いかとも思ったが、被害が二件、三件と全国規模で出てくると流石にそうも言ってられない。
哀れドスまりさは優先的に駆られる格好の標的となってしまい、存在自体が危うくなった。
そもそも、この野生ゆっくりの群れが何をしたのかというと……実は特に何も悪いことはしていない。
ただ、集落が比較的人が住んでいる所に近い場所にあったというのと、ドスがいるということだけでこうなった。
『まあ何かあってからじゃ遅いし、せっかくだからやっとくか』という、軽い予防のつもりで滅ぼされたのだ。
「「「「「「「「「うー☆ごちそうさま!」」」」」」」」」
駆除開始から十分後。
つい先ほどまでは確かにその場にいた大量のゆっくり達は殆ど残っておらず、残ったのはれみりゃと二人の人間のみ。
ただ、そこかしこに散らばっているペラペラのデスマスクと、赤い餡子を吐いたドスの死骸だけが惨状を物語っていた。
「・・・よし、帰るか。おいお前たち、戻れ!」
「「「「「「「「「うー!!」」」」」」」」」
男の声一つで、れみりゃたちはぞろぞろとカゴの中に入っていく。
流石に専門機関でよく躾けられているだけのことはある。
その一糸乱れぬ行進を見れば、普段ゆっくりを嫌い、見下す者ですらきっと感心するであろうと思えるほどだ。
ただ、仕事で見飽きている男達には何の感慨も湧かない。早く入れとでも言わんばかりに行進を冷めた目で見つめている。
「うー…」
「………」
そんな折、規則正しく続く行進から一匹のれみりゃが、列を見守る男の下へやってきて、
「もうおまんじゅうはあきたんだど!かわいいれみぃにぷっでぃんよこすんだど!ぷっでぃ~ん♪」
とんでもない事を言いやがった。
「・・・・・・」
「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」
一瞬で凍りついた場の空気も意に介さず一匹のれみりゃは勝手な事を言い続けるが、周囲の反応は冷ややかなものだ。
絡まれた方の男は何も言わずにうーうー言っている目の前の饅頭を見続け、
他のれみりゃは行進の足を止めて、まるで恐ろしい物を見るようにガタガタ震えながら絶句し、
そして何も言われていない方の男はそんな周りの様子などそっちのけで、ワゴン車から例の半透明な袋を取り出している。
「なにぐずぐずしてるんだど?ごしゅじんさまのいうことがきけないんだど!
そんなやくたたずなしもべはれみぃがじきじきにぽーいしてやるんだど!ぽーい!!」
「・・・B-7、『繁殖』行きだ」
「う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!れみぃをむしするんじゃないど!!ざぐやぁ!ざぐぼっ………」
後はれみりゃを見下ろす男の呟きと同時に足元のれみりゃが蹴り飛ばされ、もう片方の男が広げた袋にスッポリ入った。
「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」
「…何をしている。グズグズするな、さっさと行け」
「「「「「「「「「うー!!」」」」」」」」」
残ったれみりゃ達はそんな光景を見て更に震え上がるも、男達に睨まれて我先にとケージに潜り込む。
それを見て一つ頷いた男達は、なにやらモゴモゴ言いながら動いている袋の口を縛り、
中で大量のれみりゃがガタガタ震えているケージと共にワゴン車に積み込んでから車に乗り込み走り去っていった。
・
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今、飼いゆっくりとして人気のゆっくりは?と道行く人に聞けば、おそらく半分ほどがれみりゃと答えるだろう。
あのゆっくり特有の、人の神経を逆撫でするような表情はせずいつも明るくニコニコ笑っていて、
頭もそんなに悪くなく、子供のようにやんちゃなところはあるが言い聞かせればちゃんと言う事をきく。
それになによりも、捕食種なので放っておいても野良ゆっくりなどにやられる事なく、安心してみていられる。
同じようなゆっくりにふらんがいるが、こちらは割と凶暴で、その上希少種に近いためあまり数が出回ってない。
それに比べれば飼いやすく、可愛らしく、比較的手に入りやすいれみりゃは引っ張りだこのようだ。
ただ、そんなれみりゃにも問題点はある。
れみりゃの中に、ごく稀にではあるが『胴付き』化するものが出てくるのである。
胴付き化というのは読んで字の如く、見た目生首であるゆっくりに体が生えてくる事である。
勿論ゆっくりに骨や筋肉など無く、そういった部分では他のゆっくりと違いも無いのだが……
まず、ほとんどうーうー言っているだけだったのに、いきなり流暢に話し出す。
次に、頭が悪く性格が倣岸不遜な物になり、それによって言っている事も聴いていて不快になるような内容ばかりになる。
元々持っていた羽が小さくなり、空が飛べなくなる。移動手段は以前の飛行以下、通常種以上の速さである徒歩のみ。
そのくせ動くのが嫌いで、運動不足のせいかでっぷりと太っていき、肌も全体的にどんどん油っこくなっていく。
だからと言って飼い主が見かねて注意すると泣き叫んで癇癪を起こし、自分の非を認めず反省など全くしない。
以上が、れみりゃが胴付き化する際に起きる性格や身体の変わりようだ。
プラス面が無いとは言わない。が、デメリットの方が圧倒的に多いのは覆せない事実である。
もっともここまで酷い症状が現れるのはれみりゃ種だけで、他のゆっくりには至ってまともな変化しか起きないのだが…。
そもそも、胴付き化は狙って起こせない云わば病気、もっと大袈裟に言えば天災のようなものである。
どれだけ元が良い子であっても、どれだけ厳しく躾けようともなる時にはなる、まさに悪夢のような現象。
普通の飼いれみりゃが胴付きになってしまったなら、専門機関で性格の修正を行えばいい。
が、加工所の場合。大量にれみりゃを育て、使わなければならない場所では一々そんな悠長な事はしていられない。
一般家庭ならともかく、加工所にとっては胴付きれみりゃなど突っ立て棒にも劣る能無しでしかないのだ。
よって、もしも胴付きが出てしまった場合は早めの対処が求められる。
初期症状――よく喋り、頭が悪い発言が増える――が出た場合は早々に隔離し、然るべき場所に移送するのだ。
胴付きれみりゃとて、全く役に立たないわけではない。
運悪く胴付きになってしまったれみりゃ達は、その最大の特徴である再生力による丈夫さを活かした生産工場になってもらうのだ。
生産部門に送られた胴つき候補のれみりゃは、そこで体が完全に生えるまで育てられ、育ちきれば『産む機械』となる。
体をガッチリ拘束され、頭から精子餡を送られ、いくら泣き叫ぼうと助けを請おうとひたすられみりゃを産ませられるという。
多少無茶な使い方をしてもれみりゃ特有の再生力のおかげである程度は元通りになってくれるので気にする必要もない。
ゲッソリしてきて栄養剤を注入しても戻らなくなったり、産むペースが遅くなったら消費期限だ。
そうなれば、もう用は無いとばかりに生きたまま砕かれて他のゆっくりの餌になるという、悲惨な最期が待っている。
勿論こういったことは、加工所で働くれみりゃ達は知らない。
が、人間に逆らって生意気な事を言えば酷い目に遭うということだけは徹底的に教え込まれている。
今回も胴付きの兆候が出たれみりゃが別の場所に行くという事に恐怖し、これからも一層やる気を見せるだろう。
まあ例えそうでも一向に構うまい。
今、縛られた袋の中で良い気になって好き勝手言っている奴の行く末に比べれば、それでも十分に幸せなのだから……。
・なかがき
この作品は犠牲となったのだ。容量制限という名の犠牲にな・・・