ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1941 野良まりさたちの行く末
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ankoss
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野良まりさが家の近くに住みついてしまったようだ。
ある休日のこと、
私は自分の車を洗おうと、バケツとスポンジを持って車に近づいていった。
バケツを置き、スポンジに水を含ませようとしゃがんだそのとき、
車の下に潜りこんでいるゆっくりまりさと目が合った。
よどみのない、つぶらな瞳が印象的であった。
「ゆっくりしていってね!!!」
と、おびえる様子も無く、私に声をかけてきた。
私は不用意には返事をせず、そのゆっくりまりさの姿を観察し始めた。
まりさの特徴である黒いとんがり帽子は、車の下に潜るために一時的に外しているようである。
帽子のさきっちょを口にくわえて、のそのそと車の下を這っているのだが、
見たところ帽子は所々にしみがつき、繊維がほつれている。
髪もボサボサで、顔が茶色く汚れている。
見た目だけで決めつけてはいけないので、
一応、帽子に何かついてないか、そして近くに何か落ちていないか丹念に見回してみる。
だが、バッジらしきものはどこにも見当たらない、恐らく野良ゆっくりだ。
さらに念のため、今までどこかで飼われていなかったか聞いてみるが、
「ゆっ!まりさはうまれたときから、のらさんなんだぜ!!」
と、元気な声の返事をもらった。
今まで面と向かって、ゆっくりたちと話しをしたことが無かったので、
野良ゆっくりをどうやってあしらえばいいのか、良く分からなかった。
普通に会話をしても、ゆっくりたちはこちらの言い分を都合の良いように解釈してしまうだろう。
それによって、野良まりさに変な期待を持たせるようなことはしたくなかった。
そこで、何も話さずただ追い出すことにした。
ゆっくりは水にぬれることを非常に恐れるらしいので、
野良まりさに直接かけないように、車の下へ水をまく。
しかし、野良まりさは恐れることなく、
まかれた水に近づき、舌を使ってその水をペロペロと飲み始めた。
はぁ、水では効果が無いようだ。
仕方なく、近くに落ちていた小石を拾い、野良まりさには当たらないようにその近くへ投げる。
2~3個投げたところで様子を伺う。だが、野良まりさは
何か食べるものを投げてくれたのだと勘違いしたのか、投げた小石に近づいて匂いをかぎ始める。
今度は音で驚かそうと、車のエンジンをかけ、ニュートラルのままアクセルを踏み込む。
だが、丁度体がフィットしてゆっくりできる場所なのか、車の下から出てこようとしない。
仕方なく、バケツの水を野良まりさにバシャっとかける。
するとようやく、ゆ゛ぅーゆ゛ぅーと泣きながら車の下から飛び出し、そのまま家の敷地から出て行った。
これでもう家には来ないだろう、
と、すっきりしたところで車を洗い始めた。
荒っぽい追い出し方をしたことに、少し後悔の念を抱いていたが、
気に病むことはない、と自分に言い聞かせ、開き直ってみた。
それから数日経ったある朝、缶ゴミを出す日だったので、勝手口の外に置いてある缶ゴミを取りにいった。
そこで再び、先日の野良まりさを見かけた。
野良まりさは缶ゴミの近くで何かゴゾゴゾ、と動いている。
缶ゴミの袋に生ゴミは混ぜていないので、ゴミが荒らされることはないだろうと思っていた。
ところが、缶ゴミを覆うビニール袋は破け、ビールやジュースの缶が辺りに散らかっていた。
野良まりさは缶詰の缶や蓋だけを集め、その中と周りを必死にペロペロとなめていた。
しっしっと手をふり、軽く追い払おうとするが、
またもや何か餌をくれると勘違いしたのか、
こちらに近づいてきて、私の手の甲の匂いをかぎ始める。
野良まりさが何か暴言を吐けば、すぐ加工所に連絡しようと考えていたが、
ただ「おなかが空いたんだぜ」としか言わないので、
こちらの怒りも和らいでしまう。
ここには食べ物は無いから、もう来ちゃダメだよ、と言うと、
悲しそうな目をして、残念そうにその場から去っていった。
ある日の深夜などは、その野良まりさが庭にやってきて、
「ゆっくりしていってね!!!ゆっくりしていってね!!!」
と、しきりに言い続ける声で目が覚めた。
とにかく寝たいので、トイレから水をくんできて、
二階から野良まりさめがけて水をかけた。
「ゆっくりして・・・・?」
水がかかった瞬間に声が止まった。
野良まりさは何が起こったのかわからず、あたりをキョロキョロと見回すが、
もう一度水をかけると、
「ゆ゛っくりじだいよ゛~」
と泣きながら去っていった。
しばらくの間、庭じゅうに黒い餡子の粒が落ちていたり、
花壇の花が無くなり、そこに穴を掘られたり、という、
明らかに野良ゆっくりのしわざだ、と考えられる現象が起きていた。
だが、加工所に連絡するのだけは控えていた。
加工所に連絡する、ということになると、
間違いなくその野良まりさは処分されることになる。
暴言を吐くゆっくりならそれでもいいのだが、
特に暴言を吐かないということ、行動に悪意を感じないこと、
そして、初めて会ったときに見た、その無垢な瞳が頭の中にひっかかり、
なかなか手を出せないでいた。
しかし、ある日突然、野良まりさの姿を見なくなった。
あれだけ荒らされ放題だった庭が急に荒らされなくなり、
それはいいことなのに、不思議と寂しい気持ちになった。
運よく、どこか良い餌場となる場所を発見したのか、
逆に運悪く死んでしまったのか、それは分からない。
どちらにしろ、もう二度とあの野良まりさに会うことはないだろう。
もし、飼いゆっくりにして欲しい、と心を込めて頼まれたら、
まりさを飼ってあげても良かったかなぁ、と今さらながら思ってみたりする。
急にいなくなると、何か不思議な同情心というか、
たびたび庭を荒らされていたにもかかわらず、
情けをかけてあげたくなる気持ちになる。
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野良ゆっくりに餌をやってしまう人が、世間にはなんと多いことか。
本当に野良ゆっくりのためを思うのなら、正式に飼うことにするか、
人間の恐ろしさを教えてやるか、そのどちらかの対応をとるべきである。
中途半端に餌をやると、それはゆっくりのためにならない結果となるのだ。
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そうか、私は直接餌を与えていないが、人間の恐ろしさは教えていないから、
この文章からすると、私は失格の部類に入るみたいだな。困ったものだ、ハハッ。
それは、とある本の一文である。
それからしばらくたったある日の深夜、私は喉の渇きで目が覚めた。
階段を下りて台所で水分を補給し、ベッドのある二階へ戻ろうとしていたが、
そのときの気まぐれで、一階にあるソファーに寝転んでテレビを見ようと思った。
ソファーに横になり、ふぅ、と息をついたその時、
かすかに赤ん坊の泣き声が聞こえた。
ここで家庭の事情がバレてしまうが、私は独身で、
この広い借家に一人で住んでいる。当然、この家に赤ん坊はいない。
近所からも、最近赤ん坊が産まれたという朗報は届いていない。
不思議に思い、玄関の方へ歩いてみるが、その声は聞こえなくなる。
どうやら、声の主がいるのはこっちではないようだ。再び、リビングに戻る。
ちょうど、ソファーのあたりでその鳴き声が聞こえてくるようだ。
テレビがついているわけでもないし、もしや幽霊でも住み始めたか、と冗談交じりに考えてみたが、
声のする原因がまだ見つからない。本当に赤ん坊の幽霊でもいるのか、と不安になり始めた。
泣き声を注意深く聞いていると、その泣き声には『ゆ』という文字が多く含まれているように聞こえる。
ゆ・・・・?人間の赤ん坊は普通、『え』とか『あ』という発音の泣き声が多いはず。
さらに声を聞くと、泣き声に混じって何か喋っているように聞こえる。
・・・あっ、今確かに『ゆっくち』と聞こえた。
ということは・・・・・
とっさにソファーの下を見たが、なにもいなかった。
懐中電灯を持って庭に出る。家の敷地内を良く見てまわると、家の床下に続く換気孔に異常が見られた。
換気孔周りの木枠が破壊され、その周囲には穴が掘られている。
懐中電灯をしっかり照らすと、ちょうどゆっくりが進入できるほどのスキマができていた。
そのスキマの中を懐中電灯で照らしてみる。すると、
「ゆう、まぶちぃ」
という声が床下から聞こえた。やはりか・・・・・
床下をあちこち照らして、中の様子を確認してみる。
すると中には、草木でできた寝床があり、その上に
親まりさ、親ありす、そして子ゆっくりが6匹、赤ゆっくりが5匹、
最低でも計13匹のゆっくりがいることが分かった。
さきほどまで赤ゆっくりが夜泣きでもしていたんだろう、赤ゆっくりたちは目に涙を浮かべていた。
子ゆっくりたちは遊んでいるのか、はたまた赤ゆっくりをあやそうとしているのか、
寝床の上をコロコロと転がり続けている。
親まりさは、以前から姿を現していた野良まりさのようである。
親まりさと親ありすは、じっとこちらを見ているようだ。
こんな事態になるまで気がつかなかったのには理由がある。
普段、私は家にいる間はテレビをつけっぱなしにするので、
テレビの声でゆっくりたちの声はかき消される。
朝家を出て、それから夕方に帰ってきて、夜はテレビをつけて時間を過ごす。
寝るときは二階のベッドで寝るので、もちろんゆっくりたちの話し声は耳に届かない。
庭も、野良まりさの気配が無くなっていたので、あまり意識して見ていなかった。
問題の床下に続く換気孔などは、塀と家の間の狭い場所に設置されているので、
そう滅多に見ることがない。
この換気孔を見たのは恐らく2年ぶりくらいだろう。
換気孔が荒らされていたとしても、当然気がつかない。
だが、こんなにゆっくりたちが床下に住みついているのに、
外に出てくるゆっくりたちの姿を全く見ていないのは妙である。
それに、急に糞や花壇の被害がなくなり、野良ゆっくりのいる気配は無くなっていたはずである。
「ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりはいいが、まりさたちはいつからそこに住んでるんだ?」
相手をおびえさせないよう軽い口調で問う。厳しい口調で問いただし、何も答えなくなっても困る。
野良まりさのほうも軽い感じで答える。
「ゆぅ、スィーのしたで、おにいさんにあったときからなんだぜ。」
「すぃ・・車の下で見かけた時か、意外と早く住み始めたんだな。ところで、餌はどうしてるんだ?」
「ゆぅ、にんげんさんのおちびちゃんが、ゆっくりたちのおうちのなかにあまあまさんや
かんづめさんをもってきてくれるんだぜ。だからゆっくりたちは、かりにでなくても
おうちのなかでゆっくりすることができるんだぜ。」
なるほどね、ようやく謎が解けてきた。恐らく近所の子どもが、
興味本位で野良まりさたちを餌付けてしまったんだろう。
日中、家に誰もいない間に忍び込んで、ここでゆっくりたちに餌をあげていたと考えられる。
初対面なのに、野良まりさが妙になついていた理由もうなずける。
餌付けしていた子供が誰なのかはいずれ分かるとして・・・・
さて、これからどうしようか。
一番容易な解決方法は、加工所に連絡すること。
だが、その手は私としては使いたくない。その手は最終手段として残しておこう。
・・・・・仕方ない。
「なあまりさ、もし、まりさたちに餌を持ってきてくれる子供が、明日来なかったらどうする?」
「ゆっ?にんげんさんのおちびちゃんはまいにち、ゆっくりたちにえさをもってきてくれてるんだぜ!!
だから、あしたもちゃんとえさをもってきてくれるんだぜ!!!」
「そうか。でも、その子供が永遠にゆっくりしてしまった、って言ったらどうする?」
「ゆぅ・・・にんげんさんのおちびちゃんがえいえんにゆっくりしたら、
ゆっくりたちはおうちでえさがたべられなくなるんだぜ。
しかたないから、ちかくのおはなさんやくささんをたべるんだぜ!!!」
「その花さんや草さんも、じつはまりさたちがお家のなかでゆっくりしている間に、
別のゆっくりたちがみんな食べてしまったんだ。もう、この近くには食べるものがないんだよ。」
もちろん、そんなことはない。後ろを見ると、花壇には長く伸びた黄色い薔薇が一輪、静かに咲いている。
庭の手入れもしばらくしていなかったので、雑草も結構な高さにまで伸びている。
「ゆぅ!それじゃあ、ゆっくりたちはゆっくりできなくなっちゃうよ!!!どおぢだらい゛いの゛!!!」
「そこでだ、まりさ。飼いゆっくりになってみないか?」
「ゆっ、ゆゆ?ゆう!!!!!!!!!!まりさたち、かいゆっくりになれるの!?」
「飼いゆっくりになれば家の中に住めるんだ。食糧不足にも寒さにも困らない、最高のゆっくりとした生活だ!」
「ゆうううう!!!!おにいさん、ありがとうなのぜ!!かいゆっくりになったら、まりさたちなんでもするよ!!!!」
「なら話は早い、中にいるゆっくりたちを連れてそこから出てきてくれ。」
「ゆっくりりかしたよ!!おチビちゃんたち、ありす、みんなついてきてね!!!」
「ゆぅ?どーちたのおきゃーしゃん?」
「ついてきたらいっぱいあまあまさんがたべられるよ!!それに、いまよりもひろいおうちにすめるんだよ!!!」
「ゆっ、あまあましゃん!!ほちいよー」
「あまあましゃん!!!!」
「ゆっくりとかいはなありすが、あたらしいおうちをみてあげるんだからね。」
「ゆっくりついてきてね!!!」
私は、飼いゆっくりになるように勧める対象を『まりさたち』ではなく、あえて『まりさ』と言及した。
そして『まりさたち』が飼いゆっくりになれるか、という問いに関しては、一切肯定をしなかった。
まだあまり歩くことができない赤ゆっくりは、母ありすと母まりさが口の中に入れて連れてきた。
みんな、夢と希望を胸に、ゆっ!ゆっ!と勇ましい声をあげながらついてくる。
花壇の花や、ぼうぼうに生えた雑草が庭にあることに対して、まりさは違和感を感じていない様子だ。
この時点でゆっくりたちは、甘いものを食べること、飼いゆっくりになることしか考えていなかったようだ。
勝手口から、一匹づつ体を拭いて家の中に入れてやった。初めて見た広くて明るい屋内に、
感激の声をもらすゆっくりたち、
「ここはとっちぇもゆっくちできちょうだよ!!!ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!!」
「ここがありしゅたちのゆっくちしたおうちににゃるのね、なきゃなきゃしゅちぇきじゃない!」
と子ゆっくりたちは満足なご様子だ。
だが、ほとんどのゆっくりたちは、少しの間だけしか、ここでゆっくりすることができない。
普段あまり使っていない洋室へ、ゆっくりたちを連れて行った。
6畳の広さがある部屋は、小さなゆっくりたちがゆっくりするには広すぎるくらいであった。
使い古しのタオルケットを床においてやる。その上に、余っていたクッキーを適度にちぎって、おいてやった。
その作業を、じっと目を輝かせながら横で見ている子ゆっくりたち、
さあゆっくりおたべ、といいながらその場を離れると、ゆぅううう!と
両側の頬を膨らませ、
「「「いただきま~ちゅ!!」」」
と一斉にクッキーのまわりに集まり、一生懸命にクッキーをほおばりはじめる。
「あまあま、ゆぅ、ちあわちぇーーーー!!!」
「ときゃいはなありちゅも、こんにゃあまあましゃんはじめちぇたべちゃよ!!!」
ゆっくりたちの嬉しそうな顔を見ていると、
このゆっくりたちを哀れに思う、もやもやとした感情がわいてきた。
クッキーを食べ終わった子ゆっくりたちは、タオルケットの上をうれしそうにコロコロところがり、
やがて疲れて満足したのか、ゆひぃ、ゆぴぃ、と寝息を立て始めた。
親ありすは、赤ゆっくりたちをゆっくりと寝かしつけている。
そしてリビングには私とまりさ、二人だけになった。
「ありがとう、おにいさん!!!これでみんなゆっくりできるんだぜ!!!」
「ところでひとつ、まりさには残念な話をしていなかったな。」
「ゆ!?どういうこと!!まりさはゆっくりできないはなしなんてききたくないんだぜ!!!」
「まぁ、とりあえず聞いてくれ。俺にはみんなをずっと、ゆっくりさせられるほどの力がないんだ。
この際はっきりという、俺にはゆっくりたち全員を飼うことはできない!!」
「ゆっ、みんないっしょにかってあげてね!!!まりさはおチビちゃんたちがいないとゆっくりできないんだぜ!!」
「出来ればそうしたいんだがな。だが、そうするとみんなの食べる餌が減って、みんながゆっくりできなくなるんだ。」
「ゆっ!ゆっくりできなくなるのはいやだよ!!!」
「そう、そこで子供たちには、俺とは違う別の飼い主を決めてほしいんだ。
何匹かはここで俺が飼うことにするが、面倒の見きれないその他のゆっくりたちを、
十分にゆっくりさせてくれそうな飼い主を紹介しよう。
その中から、一番ゆっくりできそうな飼い主を、ゆっくりたち自身が選ぶんだ。
どうだ、悪い話じゃないだろ?
いずれにしても、みんな一緒にここでゆっくりすることはできない。
そのことは理解してくれ。正直、俺も悲しいんだ。」
「ゆぅうう、まりさのいちぞんじゃきめられないんだぜ。ありすにもはなしをしたいんだぜ。」
「ああ、十分に検討してくれ。だが、今日はもう遅い。朝起きてから、みんなとゆっくりする最後の時間をあげよう。
それから、みんなで一緒に考えようか。」
「ゆ、そうだね。みんなといっぱいゆっくりしてからかんがえることにするよ!!」
「ああ、それじゃまた朝にな。おやすみ」
「ゆ、ゆっくりしていってね!!!」
私は半分、まりさに嘘をついていた。本当は、しばらくの間はまだ面倒を見ることができる。
小さいゆっくりたちの餌代など、たいした出費ではない。
だが、半分は本当のことを言った。それは、子ゆっくりたちが大きくなってからのことだ。
順調に育っていけば、いずれ11匹は大人になり、合計13匹の成体ゆっくりを養うことになる。
それでも、ゆっくりたちを飼うことに全力を出せば、なんとか全員を育てることができるだろう。
だが、その後はどうか。親を除いた11匹は大人になって、つがいが欲しいと言い出すだろう。
みんなそれぞれ独立したいと言い出すかもしれない。
そうなったとき、11匹全員を野生に順応させることができるか?
11匹がここに残って、子供を作りたいと言い出したとき、子供を作らせてあげることができるか?
ゆっくりたちのレベルに関しても問題は出てくる。最低でも銅バッジはみんなに与えられるが、
銀バッジや金バッジをそれぞれに与えてやることができるだろうか?
そして極端な話が、その種が代々受け継がれている間、
半永久的に、休まずゆっくりを育て続けることができるか?
面倒を見切れない、と思うのならば、簡単にゆっくりを飼うなんて言ってはいけない。
ゆっくりの一生を尊重してやることが出来なければ、
それはゆっくりを『飼う』ということにはならない。
いずれゆっくりを捨てたり、虐待するようなことになるのならば、
それは、ゆっくりを『所持する』という言葉が正しい。
いつでも気楽に捨てられる『物』だ。
だが、私はゆっくりを『物』だとは考えていない。
だから、みんなのその後を考えた結果、
ゆっくりたち全員を飼うことはできない、という結論を出したのである。
まりさは正直なところ頭はあまり良くないと思う。
だが、それを補う以上に純粋でやさしい。
野良のゆっくりはゲスが多い、と聞くが、
このまりさは間違いなく、ゲスなんかではない。
正真正銘、私と一対一で話ができる、ゆっくりまりさだ。
そんなまりさが、ちゃんと私の話を聞いてくれたことが、何よりの幸いだ。
これでやっと、野良まりさたちの行く末を決めることができる。
翌日、約束した通り、みんながいっしょにゆっくりする時間を設けた。
家の中にある目新しいものに興味を持つ子ゆっくりたち、色々なものに触れ、色々なもので遊び、
今までに無い、とてもゆっくりとした時間を過ごした。
「もっちょあそびょーよー」
と子ゆっくりに迫られるまりさ。だが、まりさはそろそろ話をしなければならない。
今日は休日、まりさたちがゆっくりしている間に、餌付けをしていた近所の子供を特定した。
もともと、まりさがうちの床下に住むようになったのは、この子供が餌付けしていたことが原因だ。
いきさつをその子供の母親に話し、何匹かゆっくりたちを引き取ってもらうよう、お願いした。
その後、帰宅してから
「ゆっくりを飼ってみないか?」
と、知り合いにひたすら電話をかけた。
小さいゆっくりなら飼いたい、という人物が出てくるだろう。
それに知り合いならば、ちょっとした機会があれば、離れ離れになったゆっくり同士を再開させることもたやすい。
13匹みんなの行く先が見つかることを期待した。
一通り電話が済んだ。洋室の中を覗いてみると、子ゆっくりたちは泣いていた。
赤ゆっくりも、子ゆっくりが泣いているのを見て、つられて泣いた。
母ありす、そしてまりさも涙を流していた。
そうか、子供たちには伝えたか・・・・さぞつらかったろうな。
私も目頭が熱くなった。だが、泣いている場合ではない。
みんなをリビングに連れていき、ソファーやテーブルの上に座らせる。
そしてさっそく、飼い主候補となる人物の写真をテーブルに広げて置き、ゆっくりたちに見せ始めた。
そのお宅の事情もあるので、一箇所のお宅を選べるのは何匹まで、という制限を設けた。
ゆっくりたちに餌をあげていた子供の写真には、どうやら子ゆっくりたちも見覚えがあるようで、
特にその子供に人気が殺到した。くじを作って公平に抽選した結果、
子ありす、子まりさ、赤まりさ2匹、そして当初から決まっていた親ありす、この5匹が
その子供を飼い主として選ぶことになった。その子供の家はとても近いので、
私の家に住むことになるゆっくりたちとは、顔を合わせやすい。
そういった背景を伝えると、子ゆっくりたちはゆっゆっ!!と喜んだ。
当然、私の家に住むことを希望するゆっくりも多かったが、
私は、どのゆっくりを飼うことにするか、最初から決めていた。
親まりさ、赤まりさの2匹である。
残る6匹は、まだ見ぬ別の飼い主を選ばなくてはならない。
この人がゆっくりできそう、あの人がゆっくりできそうと、
写真を見ながらゆっくり同士で相談し、喧嘩しないように
自分がゆっくりできそうな飼い主を、それぞれの思いで選ぶ。
おきゃーしゃんのかおににている、という理由で飼い主を選んだゆっくりもいた。
ようやくみんな、ゆっくりできそうな飼い主を選ぶことができた。
これでみんなゆっくりできるよ!!!と、わいわい騒ぎ始めた。
親ありすと親まりさは涙の流れる頬をすりすりっしあい、
みんながゆっくりできることをひたすら喜んだ。
みんなの行く先が決まったお祝いに、昨日のクッキーと、ゆっくりの好物だと言われている
オレンジジュースをみんなの前に出してやる。最後の晩餐だ。
「「「ゆっくちしていっちぇね」」」
「おにいさんのおかげでみんなゆっくりできるんだぜ!!おにいさんにはほんとうにかんしゃしてるんだぜ!!!
おにいさん、ゆっくりしていってね!!!」
6畳の洋室でゆっくりたちの宴が始まった。
みんなでクッキーをむしゃむしゃし、部屋の中にある物でおゆうぎを始め、
床のフローリングをころころとまわり、ゆっくり!!ゆっくり!!ととびはね、
みんなで喜びのお唄をうたった。
まりさは未だに涙を流し、ぴょんぴょんはねながら、
ゆっくりしていってね!!!と連呼している。
「あの、にんげんしゃんのきょどもしゃん、まりしゃたちにあまあましゃんをくれてとちぇもやちゃちかったね。」
「ゆう!あのにんげんさんのおちびちゃんは、とてもゆっくりしているよ!!」
「ゆぅ!!!」
「ゆっくち~!!!」
その親子のやり取りを見ていると、
涙がボロボロと出てきた。
その涙の色は、まりさの流していた涙とは異なる色をしていた。
5匹のゆっくりたちは、例の子供のお家でゆっくりと飼われる、
という話になっていたが、
そこにはつれて行かない。
※ 数時間前・・・・
「そんな得体のしれないものは面倒見れないわ!!!」
野良まりさに餌をあげていた子供の母親に、そう突き放された。
餌をあげていた子も、「ゆっくりをかわいがるのはいいけど、面倒を見るのは嫌だ」と言う。
普通の人なら、子供が取った行動の責任ぐらいとれ!!!と、その母親を怒鳴りつけるはずである。
だが、私は冷静を装い、分かりました、と言って引き下がった。
(それで本当に良いんですね?)と心の中で母親に問い掛けたが、声には出さなかった。
そして、こういう対応をされた時のために、用意しておいたものを取り出す。
そして、子供を外に連れ出し、
「まりさたちに餌をあげつづけてくれたお礼だ。
部屋に帰ってから読んでくれ、とても面白い本だよ!それと、お母さんにはナイショだよ!」
といって、表裏が真っ黒に塗りつぶされた本を子供にあげた。
その本のタイトルは 『のらゆっくりさん、バイバイ』
野良ゆっくりが加工所に送られ、様々な殺され方をされる一連の流れが
簡単な絵と、豪快な文章で書かれている。
飼いゆっくりを捨てないよう、戒めを与えるための本として世に出回ったのだが、
あまりにもなまなましい表現と、残酷で吐き気のする内容から、世間では猛烈な批判を浴びている。
実は、ゆっくり愛護団体の関係者が裏でこの本に関わっている、という噂もあるくらいだ。
あの子供も、この本を読んで少しは反省してくれるだろうか・・・・
それにしても、初めてこの本を買って読んだときの、あのくだりは印象的だったなぁ。
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~序~
「その国では当たり前のように、たくさんの人間が屠殺場で生きたまま解体され、
それが人間の食べ物として世に出回っているそうだ。それを聞いた私は、頭がおかしくなってしまった。」
これはとある小説の一文だが、現実ではゆっくりたちがそれと同じ目にあっている。
ゆっくりたちにとって、加工所というものがどれだけゆっくりできないものなのかが良く分かる。
その加工所では喜びや怒り、悲しみ、そして楽しみ、ゆっくりの持つ全ての感情が
苦痛に変わる。そして、何をしても苦痛を感じるようになる。
逃げたくても絶対に逃げられない、希望を持つことが苦痛になる。
そして、苦痛を十分に味わった後でゆっくりたちに待っているのは、後にも先にも二度とない、死の瞬間である。
飼いゆっくりを捨てる人は、その事実を知って欲しい。
飼いゆっくりを捨てる、ということは、喜怒哀楽を共にしたパートナーを
その地獄に突き落とす、ということである。
かわいそうだと思うなら、飼っているゆっくりをむやみに捨てないでほしい。
この本を最後まで読んで、何か私に出来ることをしてあげたい、と思う方がいたら、
絶対に野良ゆっくりを餌付けしないでほしい。悲しい思いをするゆっくりが増えるだけである。
それが可哀相だと思うなら、その辺の野良ゆっくりを飼って、一生ゆっくりさせてやってほしい。
ゆっくりの欠点ぐらいは目をつぶって、
言葉を話すもの同士、ゆっくりしあっていきたい。
人間だって、たくさんの欠点を持っているんだから。
『のらゆっくりさん、バイバイ』
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※ 時間は現在に戻る
ゆっくりと微笑む子ゆっくりたちを見ていると、
ふるふると喉の奥が震え、唾液を飲み込むことができない。
さらに、まりさの嬉しそうな顔を見たことがきっかけで、感情を抑えることができなくなった。
見るに耐えかねてそこから飛び出し、洗面所の鏡の前で号泣し、嗚咽をもらした。
心配したまりさが洗面所についてきてくれた。
「ゆっ?おにいさん、大丈夫???」
「・・・・ゲホ、あ゛あ、大丈夫だ、な゛んでもないよ゛っ。」
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残りの写真に写っている飼い主さんはみんな、あの子供のように無責任ではないみたい。
ちゃんと、ゆっくりたちの様子を最初から最後まで見てくれる、すばらしい飼い主さんだよ。
無責任な子供の写真がゴミ箱に落ちたことで、仲間はずれの写真がなくなったよ。よかったね!
---------------------------------------------
「ほかのおちびちゃんたちのかいぬしさんも、とてもゆっくりしていそうだったね!!
みんなのかいぬしさんが、にんげんさんのおちびちゃんみたいにゆっくりしてるといいね!!!」
「そうだな、・・・っ・・・・優じい・・飼い主ざん・・だと・い゛い゛な゛・・・・・っ゛」
---------------------------------------------
これで仲間はずれはいなくなって、みんなの特徴がそろったよ。
私達、写真姉妹としても、とってもうれしいことだね。
さあ、みんなで一緒に踊ろう!!!!
---------------------------------------------
テーブルの上の写真が、風の吹かない屋内でひらひらと舞い落ちる。
その写真に映っている飼い主はみんな、
加工所の帽子をかぶっていた
過去の作品
anko1922 鉄籠
ある休日のこと、
私は自分の車を洗おうと、バケツとスポンジを持って車に近づいていった。
バケツを置き、スポンジに水を含ませようとしゃがんだそのとき、
車の下に潜りこんでいるゆっくりまりさと目が合った。
よどみのない、つぶらな瞳が印象的であった。
「ゆっくりしていってね!!!」
と、おびえる様子も無く、私に声をかけてきた。
私は不用意には返事をせず、そのゆっくりまりさの姿を観察し始めた。
まりさの特徴である黒いとんがり帽子は、車の下に潜るために一時的に外しているようである。
帽子のさきっちょを口にくわえて、のそのそと車の下を這っているのだが、
見たところ帽子は所々にしみがつき、繊維がほつれている。
髪もボサボサで、顔が茶色く汚れている。
見た目だけで決めつけてはいけないので、
一応、帽子に何かついてないか、そして近くに何か落ちていないか丹念に見回してみる。
だが、バッジらしきものはどこにも見当たらない、恐らく野良ゆっくりだ。
さらに念のため、今までどこかで飼われていなかったか聞いてみるが、
「ゆっ!まりさはうまれたときから、のらさんなんだぜ!!」
と、元気な声の返事をもらった。
今まで面と向かって、ゆっくりたちと話しをしたことが無かったので、
野良ゆっくりをどうやってあしらえばいいのか、良く分からなかった。
普通に会話をしても、ゆっくりたちはこちらの言い分を都合の良いように解釈してしまうだろう。
それによって、野良まりさに変な期待を持たせるようなことはしたくなかった。
そこで、何も話さずただ追い出すことにした。
ゆっくりは水にぬれることを非常に恐れるらしいので、
野良まりさに直接かけないように、車の下へ水をまく。
しかし、野良まりさは恐れることなく、
まかれた水に近づき、舌を使ってその水をペロペロと飲み始めた。
はぁ、水では効果が無いようだ。
仕方なく、近くに落ちていた小石を拾い、野良まりさには当たらないようにその近くへ投げる。
2~3個投げたところで様子を伺う。だが、野良まりさは
何か食べるものを投げてくれたのだと勘違いしたのか、投げた小石に近づいて匂いをかぎ始める。
今度は音で驚かそうと、車のエンジンをかけ、ニュートラルのままアクセルを踏み込む。
だが、丁度体がフィットしてゆっくりできる場所なのか、車の下から出てこようとしない。
仕方なく、バケツの水を野良まりさにバシャっとかける。
するとようやく、ゆ゛ぅーゆ゛ぅーと泣きながら車の下から飛び出し、そのまま家の敷地から出て行った。
これでもう家には来ないだろう、
と、すっきりしたところで車を洗い始めた。
荒っぽい追い出し方をしたことに、少し後悔の念を抱いていたが、
気に病むことはない、と自分に言い聞かせ、開き直ってみた。
それから数日経ったある朝、缶ゴミを出す日だったので、勝手口の外に置いてある缶ゴミを取りにいった。
そこで再び、先日の野良まりさを見かけた。
野良まりさは缶ゴミの近くで何かゴゾゴゾ、と動いている。
缶ゴミの袋に生ゴミは混ぜていないので、ゴミが荒らされることはないだろうと思っていた。
ところが、缶ゴミを覆うビニール袋は破け、ビールやジュースの缶が辺りに散らかっていた。
野良まりさは缶詰の缶や蓋だけを集め、その中と周りを必死にペロペロとなめていた。
しっしっと手をふり、軽く追い払おうとするが、
またもや何か餌をくれると勘違いしたのか、
こちらに近づいてきて、私の手の甲の匂いをかぎ始める。
野良まりさが何か暴言を吐けば、すぐ加工所に連絡しようと考えていたが、
ただ「おなかが空いたんだぜ」としか言わないので、
こちらの怒りも和らいでしまう。
ここには食べ物は無いから、もう来ちゃダメだよ、と言うと、
悲しそうな目をして、残念そうにその場から去っていった。
ある日の深夜などは、その野良まりさが庭にやってきて、
「ゆっくりしていってね!!!ゆっくりしていってね!!!」
と、しきりに言い続ける声で目が覚めた。
とにかく寝たいので、トイレから水をくんできて、
二階から野良まりさめがけて水をかけた。
「ゆっくりして・・・・?」
水がかかった瞬間に声が止まった。
野良まりさは何が起こったのかわからず、あたりをキョロキョロと見回すが、
もう一度水をかけると、
「ゆ゛っくりじだいよ゛~」
と泣きながら去っていった。
しばらくの間、庭じゅうに黒い餡子の粒が落ちていたり、
花壇の花が無くなり、そこに穴を掘られたり、という、
明らかに野良ゆっくりのしわざだ、と考えられる現象が起きていた。
だが、加工所に連絡するのだけは控えていた。
加工所に連絡する、ということになると、
間違いなくその野良まりさは処分されることになる。
暴言を吐くゆっくりならそれでもいいのだが、
特に暴言を吐かないということ、行動に悪意を感じないこと、
そして、初めて会ったときに見た、その無垢な瞳が頭の中にひっかかり、
なかなか手を出せないでいた。
しかし、ある日突然、野良まりさの姿を見なくなった。
あれだけ荒らされ放題だった庭が急に荒らされなくなり、
それはいいことなのに、不思議と寂しい気持ちになった。
運よく、どこか良い餌場となる場所を発見したのか、
逆に運悪く死んでしまったのか、それは分からない。
どちらにしろ、もう二度とあの野良まりさに会うことはないだろう。
もし、飼いゆっくりにして欲しい、と心を込めて頼まれたら、
まりさを飼ってあげても良かったかなぁ、と今さらながら思ってみたりする。
急にいなくなると、何か不思議な同情心というか、
たびたび庭を荒らされていたにもかかわらず、
情けをかけてあげたくなる気持ちになる。
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野良ゆっくりに餌をやってしまう人が、世間にはなんと多いことか。
本当に野良ゆっくりのためを思うのなら、正式に飼うことにするか、
人間の恐ろしさを教えてやるか、そのどちらかの対応をとるべきである。
中途半端に餌をやると、それはゆっくりのためにならない結果となるのだ。
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そうか、私は直接餌を与えていないが、人間の恐ろしさは教えていないから、
この文章からすると、私は失格の部類に入るみたいだな。困ったものだ、ハハッ。
それは、とある本の一文である。
それからしばらくたったある日の深夜、私は喉の渇きで目が覚めた。
階段を下りて台所で水分を補給し、ベッドのある二階へ戻ろうとしていたが、
そのときの気まぐれで、一階にあるソファーに寝転んでテレビを見ようと思った。
ソファーに横になり、ふぅ、と息をついたその時、
かすかに赤ん坊の泣き声が聞こえた。
ここで家庭の事情がバレてしまうが、私は独身で、
この広い借家に一人で住んでいる。当然、この家に赤ん坊はいない。
近所からも、最近赤ん坊が産まれたという朗報は届いていない。
不思議に思い、玄関の方へ歩いてみるが、その声は聞こえなくなる。
どうやら、声の主がいるのはこっちではないようだ。再び、リビングに戻る。
ちょうど、ソファーのあたりでその鳴き声が聞こえてくるようだ。
テレビがついているわけでもないし、もしや幽霊でも住み始めたか、と冗談交じりに考えてみたが、
声のする原因がまだ見つからない。本当に赤ん坊の幽霊でもいるのか、と不安になり始めた。
泣き声を注意深く聞いていると、その泣き声には『ゆ』という文字が多く含まれているように聞こえる。
ゆ・・・・?人間の赤ん坊は普通、『え』とか『あ』という発音の泣き声が多いはず。
さらに声を聞くと、泣き声に混じって何か喋っているように聞こえる。
・・・あっ、今確かに『ゆっくち』と聞こえた。
ということは・・・・・
とっさにソファーの下を見たが、なにもいなかった。
懐中電灯を持って庭に出る。家の敷地内を良く見てまわると、家の床下に続く換気孔に異常が見られた。
換気孔周りの木枠が破壊され、その周囲には穴が掘られている。
懐中電灯をしっかり照らすと、ちょうどゆっくりが進入できるほどのスキマができていた。
そのスキマの中を懐中電灯で照らしてみる。すると、
「ゆう、まぶちぃ」
という声が床下から聞こえた。やはりか・・・・・
床下をあちこち照らして、中の様子を確認してみる。
すると中には、草木でできた寝床があり、その上に
親まりさ、親ありす、そして子ゆっくりが6匹、赤ゆっくりが5匹、
最低でも計13匹のゆっくりがいることが分かった。
さきほどまで赤ゆっくりが夜泣きでもしていたんだろう、赤ゆっくりたちは目に涙を浮かべていた。
子ゆっくりたちは遊んでいるのか、はたまた赤ゆっくりをあやそうとしているのか、
寝床の上をコロコロと転がり続けている。
親まりさは、以前から姿を現していた野良まりさのようである。
親まりさと親ありすは、じっとこちらを見ているようだ。
こんな事態になるまで気がつかなかったのには理由がある。
普段、私は家にいる間はテレビをつけっぱなしにするので、
テレビの声でゆっくりたちの声はかき消される。
朝家を出て、それから夕方に帰ってきて、夜はテレビをつけて時間を過ごす。
寝るときは二階のベッドで寝るので、もちろんゆっくりたちの話し声は耳に届かない。
庭も、野良まりさの気配が無くなっていたので、あまり意識して見ていなかった。
問題の床下に続く換気孔などは、塀と家の間の狭い場所に設置されているので、
そう滅多に見ることがない。
この換気孔を見たのは恐らく2年ぶりくらいだろう。
換気孔が荒らされていたとしても、当然気がつかない。
だが、こんなにゆっくりたちが床下に住みついているのに、
外に出てくるゆっくりたちの姿を全く見ていないのは妙である。
それに、急に糞や花壇の被害がなくなり、野良ゆっくりのいる気配は無くなっていたはずである。
「ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりはいいが、まりさたちはいつからそこに住んでるんだ?」
相手をおびえさせないよう軽い口調で問う。厳しい口調で問いただし、何も答えなくなっても困る。
野良まりさのほうも軽い感じで答える。
「ゆぅ、スィーのしたで、おにいさんにあったときからなんだぜ。」
「すぃ・・車の下で見かけた時か、意外と早く住み始めたんだな。ところで、餌はどうしてるんだ?」
「ゆぅ、にんげんさんのおちびちゃんが、ゆっくりたちのおうちのなかにあまあまさんや
かんづめさんをもってきてくれるんだぜ。だからゆっくりたちは、かりにでなくても
おうちのなかでゆっくりすることができるんだぜ。」
なるほどね、ようやく謎が解けてきた。恐らく近所の子どもが、
興味本位で野良まりさたちを餌付けてしまったんだろう。
日中、家に誰もいない間に忍び込んで、ここでゆっくりたちに餌をあげていたと考えられる。
初対面なのに、野良まりさが妙になついていた理由もうなずける。
餌付けしていた子供が誰なのかはいずれ分かるとして・・・・
さて、これからどうしようか。
一番容易な解決方法は、加工所に連絡すること。
だが、その手は私としては使いたくない。その手は最終手段として残しておこう。
・・・・・仕方ない。
「なあまりさ、もし、まりさたちに餌を持ってきてくれる子供が、明日来なかったらどうする?」
「ゆっ?にんげんさんのおちびちゃんはまいにち、ゆっくりたちにえさをもってきてくれてるんだぜ!!
だから、あしたもちゃんとえさをもってきてくれるんだぜ!!!」
「そうか。でも、その子供が永遠にゆっくりしてしまった、って言ったらどうする?」
「ゆぅ・・・にんげんさんのおちびちゃんがえいえんにゆっくりしたら、
ゆっくりたちはおうちでえさがたべられなくなるんだぜ。
しかたないから、ちかくのおはなさんやくささんをたべるんだぜ!!!」
「その花さんや草さんも、じつはまりさたちがお家のなかでゆっくりしている間に、
別のゆっくりたちがみんな食べてしまったんだ。もう、この近くには食べるものがないんだよ。」
もちろん、そんなことはない。後ろを見ると、花壇には長く伸びた黄色い薔薇が一輪、静かに咲いている。
庭の手入れもしばらくしていなかったので、雑草も結構な高さにまで伸びている。
「ゆぅ!それじゃあ、ゆっくりたちはゆっくりできなくなっちゃうよ!!!どおぢだらい゛いの゛!!!」
「そこでだ、まりさ。飼いゆっくりになってみないか?」
「ゆっ、ゆゆ?ゆう!!!!!!!!!!まりさたち、かいゆっくりになれるの!?」
「飼いゆっくりになれば家の中に住めるんだ。食糧不足にも寒さにも困らない、最高のゆっくりとした生活だ!」
「ゆうううう!!!!おにいさん、ありがとうなのぜ!!かいゆっくりになったら、まりさたちなんでもするよ!!!!」
「なら話は早い、中にいるゆっくりたちを連れてそこから出てきてくれ。」
「ゆっくりりかしたよ!!おチビちゃんたち、ありす、みんなついてきてね!!!」
「ゆぅ?どーちたのおきゃーしゃん?」
「ついてきたらいっぱいあまあまさんがたべられるよ!!それに、いまよりもひろいおうちにすめるんだよ!!!」
「ゆっ、あまあましゃん!!ほちいよー」
「あまあましゃん!!!!」
「ゆっくりとかいはなありすが、あたらしいおうちをみてあげるんだからね。」
「ゆっくりついてきてね!!!」
私は、飼いゆっくりになるように勧める対象を『まりさたち』ではなく、あえて『まりさ』と言及した。
そして『まりさたち』が飼いゆっくりになれるか、という問いに関しては、一切肯定をしなかった。
まだあまり歩くことができない赤ゆっくりは、母ありすと母まりさが口の中に入れて連れてきた。
みんな、夢と希望を胸に、ゆっ!ゆっ!と勇ましい声をあげながらついてくる。
花壇の花や、ぼうぼうに生えた雑草が庭にあることに対して、まりさは違和感を感じていない様子だ。
この時点でゆっくりたちは、甘いものを食べること、飼いゆっくりになることしか考えていなかったようだ。
勝手口から、一匹づつ体を拭いて家の中に入れてやった。初めて見た広くて明るい屋内に、
感激の声をもらすゆっくりたち、
「ここはとっちぇもゆっくちできちょうだよ!!!ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!!」
「ここがありしゅたちのゆっくちしたおうちににゃるのね、なきゃなきゃしゅちぇきじゃない!」
と子ゆっくりたちは満足なご様子だ。
だが、ほとんどのゆっくりたちは、少しの間だけしか、ここでゆっくりすることができない。
普段あまり使っていない洋室へ、ゆっくりたちを連れて行った。
6畳の広さがある部屋は、小さなゆっくりたちがゆっくりするには広すぎるくらいであった。
使い古しのタオルケットを床においてやる。その上に、余っていたクッキーを適度にちぎって、おいてやった。
その作業を、じっと目を輝かせながら横で見ている子ゆっくりたち、
さあゆっくりおたべ、といいながらその場を離れると、ゆぅううう!と
両側の頬を膨らませ、
「「「いただきま~ちゅ!!」」」
と一斉にクッキーのまわりに集まり、一生懸命にクッキーをほおばりはじめる。
「あまあま、ゆぅ、ちあわちぇーーーー!!!」
「ときゃいはなありちゅも、こんにゃあまあましゃんはじめちぇたべちゃよ!!!」
ゆっくりたちの嬉しそうな顔を見ていると、
このゆっくりたちを哀れに思う、もやもやとした感情がわいてきた。
クッキーを食べ終わった子ゆっくりたちは、タオルケットの上をうれしそうにコロコロところがり、
やがて疲れて満足したのか、ゆひぃ、ゆぴぃ、と寝息を立て始めた。
親ありすは、赤ゆっくりたちをゆっくりと寝かしつけている。
そしてリビングには私とまりさ、二人だけになった。
「ありがとう、おにいさん!!!これでみんなゆっくりできるんだぜ!!!」
「ところでひとつ、まりさには残念な話をしていなかったな。」
「ゆ!?どういうこと!!まりさはゆっくりできないはなしなんてききたくないんだぜ!!!」
「まぁ、とりあえず聞いてくれ。俺にはみんなをずっと、ゆっくりさせられるほどの力がないんだ。
この際はっきりという、俺にはゆっくりたち全員を飼うことはできない!!」
「ゆっ、みんないっしょにかってあげてね!!!まりさはおチビちゃんたちがいないとゆっくりできないんだぜ!!」
「出来ればそうしたいんだがな。だが、そうするとみんなの食べる餌が減って、みんながゆっくりできなくなるんだ。」
「ゆっ!ゆっくりできなくなるのはいやだよ!!!」
「そう、そこで子供たちには、俺とは違う別の飼い主を決めてほしいんだ。
何匹かはここで俺が飼うことにするが、面倒の見きれないその他のゆっくりたちを、
十分にゆっくりさせてくれそうな飼い主を紹介しよう。
その中から、一番ゆっくりできそうな飼い主を、ゆっくりたち自身が選ぶんだ。
どうだ、悪い話じゃないだろ?
いずれにしても、みんな一緒にここでゆっくりすることはできない。
そのことは理解してくれ。正直、俺も悲しいんだ。」
「ゆぅうう、まりさのいちぞんじゃきめられないんだぜ。ありすにもはなしをしたいんだぜ。」
「ああ、十分に検討してくれ。だが、今日はもう遅い。朝起きてから、みんなとゆっくりする最後の時間をあげよう。
それから、みんなで一緒に考えようか。」
「ゆ、そうだね。みんなといっぱいゆっくりしてからかんがえることにするよ!!」
「ああ、それじゃまた朝にな。おやすみ」
「ゆ、ゆっくりしていってね!!!」
私は半分、まりさに嘘をついていた。本当は、しばらくの間はまだ面倒を見ることができる。
小さいゆっくりたちの餌代など、たいした出費ではない。
だが、半分は本当のことを言った。それは、子ゆっくりたちが大きくなってからのことだ。
順調に育っていけば、いずれ11匹は大人になり、合計13匹の成体ゆっくりを養うことになる。
それでも、ゆっくりたちを飼うことに全力を出せば、なんとか全員を育てることができるだろう。
だが、その後はどうか。親を除いた11匹は大人になって、つがいが欲しいと言い出すだろう。
みんなそれぞれ独立したいと言い出すかもしれない。
そうなったとき、11匹全員を野生に順応させることができるか?
11匹がここに残って、子供を作りたいと言い出したとき、子供を作らせてあげることができるか?
ゆっくりたちのレベルに関しても問題は出てくる。最低でも銅バッジはみんなに与えられるが、
銀バッジや金バッジをそれぞれに与えてやることができるだろうか?
そして極端な話が、その種が代々受け継がれている間、
半永久的に、休まずゆっくりを育て続けることができるか?
面倒を見切れない、と思うのならば、簡単にゆっくりを飼うなんて言ってはいけない。
ゆっくりの一生を尊重してやることが出来なければ、
それはゆっくりを『飼う』ということにはならない。
いずれゆっくりを捨てたり、虐待するようなことになるのならば、
それは、ゆっくりを『所持する』という言葉が正しい。
いつでも気楽に捨てられる『物』だ。
だが、私はゆっくりを『物』だとは考えていない。
だから、みんなのその後を考えた結果、
ゆっくりたち全員を飼うことはできない、という結論を出したのである。
まりさは正直なところ頭はあまり良くないと思う。
だが、それを補う以上に純粋でやさしい。
野良のゆっくりはゲスが多い、と聞くが、
このまりさは間違いなく、ゲスなんかではない。
正真正銘、私と一対一で話ができる、ゆっくりまりさだ。
そんなまりさが、ちゃんと私の話を聞いてくれたことが、何よりの幸いだ。
これでやっと、野良まりさたちの行く末を決めることができる。
翌日、約束した通り、みんながいっしょにゆっくりする時間を設けた。
家の中にある目新しいものに興味を持つ子ゆっくりたち、色々なものに触れ、色々なもので遊び、
今までに無い、とてもゆっくりとした時間を過ごした。
「もっちょあそびょーよー」
と子ゆっくりに迫られるまりさ。だが、まりさはそろそろ話をしなければならない。
今日は休日、まりさたちがゆっくりしている間に、餌付けをしていた近所の子供を特定した。
もともと、まりさがうちの床下に住むようになったのは、この子供が餌付けしていたことが原因だ。
いきさつをその子供の母親に話し、何匹かゆっくりたちを引き取ってもらうよう、お願いした。
その後、帰宅してから
「ゆっくりを飼ってみないか?」
と、知り合いにひたすら電話をかけた。
小さいゆっくりなら飼いたい、という人物が出てくるだろう。
それに知り合いならば、ちょっとした機会があれば、離れ離れになったゆっくり同士を再開させることもたやすい。
13匹みんなの行く先が見つかることを期待した。
一通り電話が済んだ。洋室の中を覗いてみると、子ゆっくりたちは泣いていた。
赤ゆっくりも、子ゆっくりが泣いているのを見て、つられて泣いた。
母ありす、そしてまりさも涙を流していた。
そうか、子供たちには伝えたか・・・・さぞつらかったろうな。
私も目頭が熱くなった。だが、泣いている場合ではない。
みんなをリビングに連れていき、ソファーやテーブルの上に座らせる。
そしてさっそく、飼い主候補となる人物の写真をテーブルに広げて置き、ゆっくりたちに見せ始めた。
そのお宅の事情もあるので、一箇所のお宅を選べるのは何匹まで、という制限を設けた。
ゆっくりたちに餌をあげていた子供の写真には、どうやら子ゆっくりたちも見覚えがあるようで、
特にその子供に人気が殺到した。くじを作って公平に抽選した結果、
子ありす、子まりさ、赤まりさ2匹、そして当初から決まっていた親ありす、この5匹が
その子供を飼い主として選ぶことになった。その子供の家はとても近いので、
私の家に住むことになるゆっくりたちとは、顔を合わせやすい。
そういった背景を伝えると、子ゆっくりたちはゆっゆっ!!と喜んだ。
当然、私の家に住むことを希望するゆっくりも多かったが、
私は、どのゆっくりを飼うことにするか、最初から決めていた。
親まりさ、赤まりさの2匹である。
残る6匹は、まだ見ぬ別の飼い主を選ばなくてはならない。
この人がゆっくりできそう、あの人がゆっくりできそうと、
写真を見ながらゆっくり同士で相談し、喧嘩しないように
自分がゆっくりできそうな飼い主を、それぞれの思いで選ぶ。
おきゃーしゃんのかおににている、という理由で飼い主を選んだゆっくりもいた。
ようやくみんな、ゆっくりできそうな飼い主を選ぶことができた。
これでみんなゆっくりできるよ!!!と、わいわい騒ぎ始めた。
親ありすと親まりさは涙の流れる頬をすりすりっしあい、
みんながゆっくりできることをひたすら喜んだ。
みんなの行く先が決まったお祝いに、昨日のクッキーと、ゆっくりの好物だと言われている
オレンジジュースをみんなの前に出してやる。最後の晩餐だ。
「「「ゆっくちしていっちぇね」」」
「おにいさんのおかげでみんなゆっくりできるんだぜ!!おにいさんにはほんとうにかんしゃしてるんだぜ!!!
おにいさん、ゆっくりしていってね!!!」
6畳の洋室でゆっくりたちの宴が始まった。
みんなでクッキーをむしゃむしゃし、部屋の中にある物でおゆうぎを始め、
床のフローリングをころころとまわり、ゆっくり!!ゆっくり!!ととびはね、
みんなで喜びのお唄をうたった。
まりさは未だに涙を流し、ぴょんぴょんはねながら、
ゆっくりしていってね!!!と連呼している。
「あの、にんげんしゃんのきょどもしゃん、まりしゃたちにあまあましゃんをくれてとちぇもやちゃちかったね。」
「ゆう!あのにんげんさんのおちびちゃんは、とてもゆっくりしているよ!!」
「ゆぅ!!!」
「ゆっくち~!!!」
その親子のやり取りを見ていると、
涙がボロボロと出てきた。
その涙の色は、まりさの流していた涙とは異なる色をしていた。
5匹のゆっくりたちは、例の子供のお家でゆっくりと飼われる、
という話になっていたが、
そこにはつれて行かない。
※ 数時間前・・・・
「そんな得体のしれないものは面倒見れないわ!!!」
野良まりさに餌をあげていた子供の母親に、そう突き放された。
餌をあげていた子も、「ゆっくりをかわいがるのはいいけど、面倒を見るのは嫌だ」と言う。
普通の人なら、子供が取った行動の責任ぐらいとれ!!!と、その母親を怒鳴りつけるはずである。
だが、私は冷静を装い、分かりました、と言って引き下がった。
(それで本当に良いんですね?)と心の中で母親に問い掛けたが、声には出さなかった。
そして、こういう対応をされた時のために、用意しておいたものを取り出す。
そして、子供を外に連れ出し、
「まりさたちに餌をあげつづけてくれたお礼だ。
部屋に帰ってから読んでくれ、とても面白い本だよ!それと、お母さんにはナイショだよ!」
といって、表裏が真っ黒に塗りつぶされた本を子供にあげた。
その本のタイトルは 『のらゆっくりさん、バイバイ』
野良ゆっくりが加工所に送られ、様々な殺され方をされる一連の流れが
簡単な絵と、豪快な文章で書かれている。
飼いゆっくりを捨てないよう、戒めを与えるための本として世に出回ったのだが、
あまりにもなまなましい表現と、残酷で吐き気のする内容から、世間では猛烈な批判を浴びている。
実は、ゆっくり愛護団体の関係者が裏でこの本に関わっている、という噂もあるくらいだ。
あの子供も、この本を読んで少しは反省してくれるだろうか・・・・
それにしても、初めてこの本を買って読んだときの、あのくだりは印象的だったなぁ。
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~序~
「その国では当たり前のように、たくさんの人間が屠殺場で生きたまま解体され、
それが人間の食べ物として世に出回っているそうだ。それを聞いた私は、頭がおかしくなってしまった。」
これはとある小説の一文だが、現実ではゆっくりたちがそれと同じ目にあっている。
ゆっくりたちにとって、加工所というものがどれだけゆっくりできないものなのかが良く分かる。
その加工所では喜びや怒り、悲しみ、そして楽しみ、ゆっくりの持つ全ての感情が
苦痛に変わる。そして、何をしても苦痛を感じるようになる。
逃げたくても絶対に逃げられない、希望を持つことが苦痛になる。
そして、苦痛を十分に味わった後でゆっくりたちに待っているのは、後にも先にも二度とない、死の瞬間である。
飼いゆっくりを捨てる人は、その事実を知って欲しい。
飼いゆっくりを捨てる、ということは、喜怒哀楽を共にしたパートナーを
その地獄に突き落とす、ということである。
かわいそうだと思うなら、飼っているゆっくりをむやみに捨てないでほしい。
この本を最後まで読んで、何か私に出来ることをしてあげたい、と思う方がいたら、
絶対に野良ゆっくりを餌付けしないでほしい。悲しい思いをするゆっくりが増えるだけである。
それが可哀相だと思うなら、その辺の野良ゆっくりを飼って、一生ゆっくりさせてやってほしい。
ゆっくりの欠点ぐらいは目をつぶって、
言葉を話すもの同士、ゆっくりしあっていきたい。
人間だって、たくさんの欠点を持っているんだから。
『のらゆっくりさん、バイバイ』
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※ 時間は現在に戻る
ゆっくりと微笑む子ゆっくりたちを見ていると、
ふるふると喉の奥が震え、唾液を飲み込むことができない。
さらに、まりさの嬉しそうな顔を見たことがきっかけで、感情を抑えることができなくなった。
見るに耐えかねてそこから飛び出し、洗面所の鏡の前で号泣し、嗚咽をもらした。
心配したまりさが洗面所についてきてくれた。
「ゆっ?おにいさん、大丈夫???」
「・・・・ゲホ、あ゛あ、大丈夫だ、な゛んでもないよ゛っ。」
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残りの写真に写っている飼い主さんはみんな、あの子供のように無責任ではないみたい。
ちゃんと、ゆっくりたちの様子を最初から最後まで見てくれる、すばらしい飼い主さんだよ。
無責任な子供の写真がゴミ箱に落ちたことで、仲間はずれの写真がなくなったよ。よかったね!
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「ほかのおちびちゃんたちのかいぬしさんも、とてもゆっくりしていそうだったね!!
みんなのかいぬしさんが、にんげんさんのおちびちゃんみたいにゆっくりしてるといいね!!!」
「そうだな、・・・っ・・・・優じい・・飼い主ざん・・だと・い゛い゛な゛・・・・・っ゛」
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これで仲間はずれはいなくなって、みんなの特徴がそろったよ。
私達、写真姉妹としても、とってもうれしいことだね。
さあ、みんなで一緒に踊ろう!!!!
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テーブルの上の写真が、風の吹かない屋内でひらひらと舞い落ちる。
その写真に映っている飼い主はみんな、
加工所の帽子をかぶっていた
過去の作品
anko1922 鉄籠