ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1932 ユナハ病
最終更新:
ankoss
-
view
「ユナハ病?」
医者の口にした聞きなれぬ言葉に俺は困惑した。
それをよそに目の前の医師は淡々と言葉をつむぐ。
「ええ。Y.U.N.A.H.A Syndrome。正式名称はゆっくりの副交感餡経系優位状態認識における生理機能影響症」
「一体どんな病気だっていうんですか?」
俺は健康がとりえの男で、生れ落ちた時以外に病院の世話になったことがないことが自慢だった。
それが先日、大学で講義を受けている最中に急な呼吸困難と、全身に走る激痛に襲われて病院に運び込まれてしまった。
そこで施された『処置』によりいくらか楽になった今、医者にその原因を教えられているところだった。
俺の呼吸困難と全身への激痛の原因。ユナハ病。医者の話すその病の説明は、恐るべきものだった。
Y.U.N.A.H.A Syndrome。ゆっくりの副交感餡経系優位状態認識における生理機能影響症。
症状としては呼吸困難および全身への激痛。正体不明の奇病であり、治療法は一切確立されていない。
唯一の症状緩和の方法は、ゆっくりの副交感餡経系を優位状態にすること。
即ち「ゆっくりをゆっくりさせること」
悪夢のような病気に俺はかかった。
「まだ初期状態で、いまはこんなものでも症状は緩和されますが、早めにペットショップでゆっくりを購入することをお勧めします」
長い時間をかけて「俺たちにはどうにもできないから自分で何とかしろ」という趣旨の説明を受けた俺は、医者からもらったゆっくり人形を片手に病院の前に立ち尽くしていた。
病院に運び込まれ、息苦しさと痛みにあえぐ俺に、医者が渡したのがゆっくり人形だった。頭や頬を撫でてやると「とってもゆっくりできるよー」などという音声が再生されるものである。
今までの俺からすれば破壊以外に使用法がない人形だったが、今の俺にとってはユナハ病の症状を和らげる大切な人形だった。
しかしこの人形の効き目もすぐになくなる。
次か、その次の発作の際には本物のゆっくりをゆっくりさせないことには症状の緩和は望めないだろうと言われていた。
「くそッ。なんだって俺がこんな目に」
苛立ちに任せて人形をもったままの手を硬く握りこんでしまう。
「なーでなーでしてぇえ、ゆ、ゆゆゆゆ、もるさぁっ!」
「あ、やっべ」
強い力で握ってしまったせいでゆっくり人形は奇声を上げて壊れてしまった。
「ゆっくりをゆっくりさせる、か」
俺は健康がとりえの人間だったが、周りから「病気だ」といわれる趣味があった。
それはゆっくりの虐待である。
ゆっくりを見ると、殴りつけ、引き裂いて、踏み潰さずにはいられないのだ。
公園で野良まりさに会えば、お飾りをうばって、おさげを引き抜いて、それを目の前でバラバラにした上で噴水にぶちこまずにはいられないし。
町でしんぐるまざーれいむに会えば、おちびたちをその口に詰め込んで、咀嚼させた上で排水溝の格子ですり下ろさずにはいられない。
そんな俺がである。どうしてゆっくりをゆっくりさせるなどという芸当ができようか?
「でも、発作が起こったらやばいしなぁ……」
たとえどんなに趣味とかけ離れていようとも、背に腹は変えられない。
ここは涙を呑んで、愛でるためのゆっくりを確保するしかなかった。
覚悟を決めた俺が訪れたのは、そこから最寄の市民公園だった。
休日には家族連れでにぎわう場所だったが、自然が多く、ゆっくりたちにとって食糧となる植物や、雨風をしのげるアスレチックなどもあることで、ここらでは有数のゆっくりの生息地となっている。無論景観保護のために駆除は行われているものの、お役所仕事とゆっくりの繁殖力があいまって常にどこかしこでゆっくりの姿をみることができた。
医者にはペットショップでゆっくりを購入することを薦められたが、ゆっくり風情のためにわざわざ金を払うことなど論外だった。放置自転車レベルであちこちにいるもののために、どうして身銭を切らねばならないのか。それに放置自転車に乗っていけば犯罪だが、そこらの野良ゆっくりを拾っていくことは感謝されこそすれ咎められることなどなかった。
公園に入ってすぐに、お帽子をかぶりおさげを揺らしながらゆっくりまりさが近づいてきた。
「ゆっ!にんげんさんなのぜ! まりささまにあまあまをよこすのぜぶらあああああ!?」
「死ね糞饅頭」
まりさの言葉が終わるか終わらないかのうちに、俺はその右目に靴先をめり込ませると、そのまま抉るように引き抜いた。
「おべべがぁ、ばりざのおべべがああああっ!」
「いかん。つい反射的に手を出してしまった」
実際に出したのは足だが、まあ瑣末なことである。とにかくこのまりさはもうだめである。俺はまりさの残った左目にも蹴りをくれてやると痙攣するそれを近くのゴミ箱にぶち込んだ。
早々に不安になる出鼻であったが気を取り直してつぎのゆっくりを探すことにする。
たいして時間をかけることなく、つぎの獲物、もといゆっくりは見つかった。
こんどは子連れのれいむである。
泥だらけの汚らしいつらを見ているとすぐさま目の粗いアスファルトに擦り付けて皮膚という皮膚を削り取ってやりたい衝動に駆られるが何とかこらえる。
「やあれいむ。ゆっくりしていってね」
「ゆっ!ゆっくりしていってね!」
「「ゆっくちちていっちぇねぇ!」」
「……チッ」
舌足らずな赤ゆ言葉を聞いて、すぐに我慢ができなくなりそうになる。嗚呼糞。お飾りと髪を引きちぎってハゲ饅頭にした挙句、全身にマチ針をさしてアリの群れの中に放り込んでやりたい。
しかし我慢。我慢が肝要である。
「ゆっ?おにいさんいましたうちをしたねっ? れいむはとてもふゆかいだよっ! しゃざいとばいしょーをよーきゅーするよっ」
「「よーきゅーしゅりゅよっ!」」
我慢である。寛容を以って接しなければいけない。
「なにをだまってるのっ? ごめんなさいくらいいえるでしょっ!」
「ゆっくちちてにゃいではやくあやまりぇ!」
我慢ナニソレ食べれるの?
「ごめんなァ、おわびに、おまえのおちびを遊覧飛行に招待してやろう」
「ゆーらんひこー? そんなものよりあまあまをちょうだいねっ! たくさんでいいよっ!」
「そういうなよ。ほら」
俺は赤ゆのうち1匹をむんずと掴むとそのまま持ち上げる。
「ゆちっ!おしょらをとんでりゅみちゃいっ!」
「違うヨ? おそらを飛ぶって言うのは、こういうことだあああああああ!」
俺は赤ゆを掴んだ腕をそのまま大きく振りかぶると、那由他の彼方へ届けとばかりに全力投球した。
「おーしょーりゃーをーとーんーでーりゅーよおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
ドップラー効果を響かせながら、赤れいむは数十メートル先へと放物線を描いて飛んでいった。
「お、お、お、おちびちゃああああああああん!? いまおかーさんがうけとめてあげるよっ!」
母れいむが叫びを上げたころにはとっくに餡子クズになっているのだが、それに気づくこともなく母れいむは駆け出していった。それを横目に、俺は残った赤れいむを持ち上げる。
「れ、れいみゅはおしょりゃをとばにゃくていいよっ! れいみゅはつちからはにゃれてはいきちぇいけにゃいよっ!」
「遠慮はいらんぞ。飛んでけっ!」
先ほどの赤れいむとは反対方向へと投げてやる。
「ゆやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
そうしてから母れいむに呼びかけてやる。
「おい。あっちにも飛んでったぞ?」
「ゆ、ゆううううう!? どっちいけばいいのおおおおおおお!?」
「両方にいけばいいだろ。手伝ってやる」
俺はれいむの両頬を掴むと、左右に力をこめて引っ張った。
「ゆ、びえあああああああああああああっ!?ひっばらないでえええええええ!ぢぎれぢゃうよおおおおおおおお!」
「ちぎってんのよ」
俺の肩幅を超えるか超えないか位まで引き伸ばされたれいむはみちみちと裂け、ぶちんと二つに別れた。
「ほらよっと」
俺はちぎれたれいむを赤れいむどもの残骸地点へと投げつけてやる。うむ。誤差3センチってとこか。
その出来に満足して、しまったと思う。
「またやっちまった。それに公園もよごしちまったし……」
俺猛省。さすがの俺も二回連続の虐待には猛省……!
「……次だ。次こそゆっくりさせてやる!」
俺はゆっくりをゆっくりさせるべく。
「ありすのぺにぺにがあああああああ!?」
ありすのペニペニを引き抜き。
「どこにいるンだぜぱちゅりー……まっくらでなにもみえないンだぜぇ……」
まりさの視餡経を切断し。
「れいむのゆっくりしたあかちゃんがああああああああ!?」
茎から生えた実ゆを焼いた。
一時間後。俺は公園のベンチに座り、ゆっくりに与えようと買っておいたビスコをかじっていた。
「ビスコうめぇなぁ……」
近くにあるゴミ箱の隙間からは、餡子とクリームとカスタードが混じったものがどろりとこぼれているがそれは極力見ないようにした。
「あれだな。野良はだめだ」
一時間の俺の努力のすえの結論はそれだった。
野良ゆっくりは表情からして傲慢で、3秒以上直視が出来ないレベルのムカツキ度数を誇っている。
こちらがどんなに寛容であろうとしても5秒間のうちに確実に苛立ちを誘う言動をする。
というか単に動いていても苛立つし、のんびりしていても腹が立つし、喋ろうものならムシズが走って仕方がない。
虐待以外のコミュニケーションは不可能だった。
「ペットショップに行くか……」
腹立たしいことだったが、野良ゆっくりが駄目な以上あとは購入しか手段は残されていなかった。
近頃はペットショップの中でもゆっくり専門のもの、ゆっくりショップというものもあるらしい。
検索サイトを使って調べてみると、二駅隣に大きめのゆっくりショップがあるらしいのでそこに向かうことにした。
そのゆっくりショップは駅前のなかなか良い立地にあった。
「儲けてるもんなんだな。饅頭売るだけで」
野良を潰してばかりいた俺にとってゆっくりショップは未知の領域だった。
売り物を傷つけるような真似だけはすまいと心に決めて自動ドアをくぐる。
「ゆっくりしていってね!」
入店と共に響く電子音でのゆっくりボイスにさっそく軽い苛立ちを覚えながら俺は店内を見て回った。
普通のペットショップのように透明の檻に入れられた数々のゆっくりがいる。
基本種のれいむ、まりさ、ありす、ぱちゅりーをはじめ、野良では見たこともないような希少種もいた。
「……うん?」
こんなに大量のゆっくりを前にしたら、いつもであれば相当の苛立ちが募るはずである。
しかしどういうわけか俺はあまりイラつくことはなかった。
どういうことだろうと考えてみる。
まず檻にいれられたゆっくり達はとても静かであった。
野良のゆっくりは出会うや否や「ここはまりさのゆっくりぷれいすなのぜ! にんげんはでていくのぜ!」だの「あまあまをちょうだいねっ! たくさんでいいよっ!」だのなにがしかわめき立てるのだが、ここにいるゆっくりはこちらを興味深げに伺いってはいるものの口を開くことはなかった。
それにお飾りや顔も野良のようにうす汚れておらずこぎれいである。表情も傲慢さのかけらもなく、無邪気なものであった。
「おい、まりさ」
おれは一番近くの檻にいたまりさに話しかけてみる。
「ゆ? なあににんげんさん?」
話しかけられたまりさは体を傾けて俺に応じる。だぜ口調でないまりさには初めて出会った。
「どうしておまえらはそんなに静かなんだ?」
「ぶりーだーのおにいさんにおそわったよ。うるさくするゆっくりはゆっくりできないんだよ」
野良とは別の種類の生き物のようだ。
もしかしたらこいつらならいけるかもしれない。
そう思った俺は檻の隅に張られた説明をみて愕然とした。
『まりさ 生後3ヶ月 銀バッチ取得済み だぜ口調矯正済み 体高35センチ 体重4.5キロ 両親まりさ、ぱちゅりーともに金バッチ。好奇心旺盛なやんちゃな子です』
そこまではいい。
それよりも。139000という数字は一体なんなのだろうか?
うしろについている円という文字は、この国の通貨単位ではなかろうか?
高い。いくらなんでも高すぎる。10万円の喋る饅頭なんて気が狂っているとしか思えない。
このまりさが特別なのだろうと他のゆっくりを見てみる。
『ありす 生後4ヶ月 金バッチ取得済み 体高32センチ 体重4キロ 8代遡ってもれいぱーがいない餡統です!とってもお上品で、ひらがなを読むこともできます。こーでぃねーと癖矯正済み。お部屋を散らかしません!オススメ!』
お値段。246000円也
多少上品な程度で、このありすが俺の一ヶ月の労働より価値があるとは到底思えなかった。
俺はしばらく見て回ったが、銀バッチは10万前後。金バッチは軒並み20万越え。めまいがするような値段の嵐だった。
極めつけは希少種ゆっくりゆうか。
他のゆっくりの10倍以上の広さの部屋(内側から閉められるブラインド&お花畑付き)に入れられ、しかもそいつの説明文には
『バッチ試験拒否。家にお花畑がないと飼育は不可能です。プライドのある気高い方です。他のゆっくりと一緒に買うと殺してしまう場合があります』
などと書かれている。
お値段なんと256万円。
炎のチャレンジャーでイライラ棒を成功させても買えない。幸せ家族計画への出演が必要な値段である。
「だめだ……どれもこれも高すぎる……」
まだちゃんと飼うことができるかどうかもわからないのに、10万20万という金はホイホイ出せない。それで連続で潰してしまおうものならユナハ病ではなく飢餓で死んでしまう。
もっと安いゆっくりはいないものか。そう思って店の奥のほうへと足を向けてみる。
するとそこは店の入り口付近とは趣が変わっていた。
あるのは仕切りによって区切られた柵で、その中に複数のゆっくりが雑多にほうりこまれている。
「おにーさんっ!れいむをかってねっ!れいむはおうたがうたえるよっ!」
「まりさをかうのぜっ!まりさはとってもゆっくりしたゆっくりなのぜ! あまあまもいちにちさんっかいっでいいのぜっ!」
「おにーさんのおへやをとかいはにこーでぃねーとしてあげるわっ! ありすにまかせてちょうだいねっ」
どうやら銅バッチのゆっくりのようで、口々に自分を飼いゆにしろとわめいている。野良に毛が生えた程度の教育しか施されていないようだった。お値段もそれなり。1万円に届くものは皆無である。
「すいません」
俺は近くにいた店員に声をかける。
「はい。なんでしょうか?」
「1匹潰させてもらってもいいですか?」
「いや、そんなゲームセンターCXのADみたいなことをいわれても……」
呆れたように言われて我に返る。いかんいかん。あまりにイラッとくる連中なのでつい口が滑ってしまった。手が滑らなかったのは幸いである。
気を引き締める。おれは虐待のためにゆっくりを買い求めに来たのではないのだ。
「ああ、すいません。間違えました……。ええと、ちょっとお尋ねしたいのですが」
飼いゆっくり初心者の俺がいくら悩んでいても仕方がない。
モチはモチ屋。ゆっくりはゆっくりショップである。
俺は店員におすすめのゆっくりを尋ねてみた。
「銀バッチか金バッチのゆっくりを買いたいんですが、一番ゆっくりさせやすいのってどいつですかね? あ、れいむ以外で」
飼いゆっくり初心者の俺でもれいむ種のゲス化率の高さは知っている。ネット上のゆっくり虐待動画でも、ゲス化したれいむをいたぶる動画の数は群を抜いて多い。
「あとできればあんまりムカつかなくて、安い奴がいいんですが…」
「そうですねぇ」
おれのわがままな注文を聞いて店員はしばし思案した後、1匹のゆっくりを薦めてくれた。
「お買い上げありがとうございました!!」
俺はキャリーバッグを持ってゆっくりショップを後にした。バッグの中には1匹のゆっくりありすが入れられている。
「おにーさん。これからよろしくねっ」
「ん? ああ」
「おにいさんのおうちってどんなところなのかしら? ありすとってもたのしみだわ。おにーさんはなかなかとかいはだから、きっとおへやもとかいはなんでしょうね」
そのゆっくりありすは銀バッチで、表情もあまりムカつかず、その上お値段48000円という良心価格であった。店員に薦められて俺は即座に購入を決意した。主に値段が理由である。
「なあありす。うちで暮らす上でのルールを決めようか」
「るーるさん? そうね。るーるさんはたいせつね」
「何。大したことじゃない。ルール1。喋るな」
「え……?」
「おまえは俺がゆっくりさせてやるときに、ゆっくりすればいいんだよ。それ以外のときは黙ってろ」
「で、でも……」
「ルール2。普段の飯はなまごみだ。残さず食え」
「あ、あの……」
「ルール3。うんうんとしーしーは自分で舐めて片付けろ」
「そ、そんなのっ!それじゃあありす、ゆっくりできないわっ!」
ありすは不満そうな声を上げるが、俺はありすの方を見向きもせずに告げた。
「甘いもん食えば馬鹿みたいにゆっくりーってなるんだろ? 言っておくがお前をまっとうに飼うつもりは無い。家はこのキャリーバッグだからな。つがいも絶対に与えない。すっきりはあきらめろ」
「そ、そんな……そんなのとかいはじゃないわっ」
「うるせぇよ。つうか黙れって言ったよな? 誰の許可を得て喋ってるんだ? アマッ……ぐっ」
アマギるぞ、と続けようとした俺は全身に走る、骨と筋肉の隙間に針を刺されたような痛みに言葉を止める。同時に急激な呼吸困難も襲い掛かってくる。ユナハ病の発作だ。
「おにいさん?」
甘いものをありすに与えてゆっくりさせなければと思い、鞄をあさる。
「あ、ビスコ、食っちまったん、だ……」
不覚である。こうなればゆっくりをゆっくりさせる手段その2。すーりすーりしかない。
自慢ではないが俺は今まで100匹近いゆっくりをすーりすーりしてやった経歴がある。ただし主にアスファルトで。
震える手でキャリーバッグを開けありすを外へと出す。
「おにいさんっ? どうしたの? なんだかゆっくりしていないわよ?」
「う、うるせえ。いいから、だまって、ゆっくり、しろっ!」
俺は痛みをこらえながら、アリスの頬に手をあて、そのままゆさゆさと揺する。
「いっ、いたいわっ! おにーさんのすーりすーり、ぜんぜんとかいはじゃないわっ!」
手にこめる力が強すぎたのかありすが抗議の声を上げる。しかし痛みのせいで力加減をうまく調整できない。俺はとにかくありすをこすり続けた。
「こ、こんなの、とかいはじゃ、ん、ん、ん、んほぉおおおおおおおおお!!」
「れいぱー化、しやがった」
このありすが銀バッチの割りに安かったのはこれがあったからか。
おそらく親がれいぱーだったのだろう。すーりすーりの穏やかな振動とは違う、強い揺れを与えられたせいで、ありすの中にあったれいぱーの素質が目覚めたようだった。
「んほぉおおおおおおおおおおおお!と、ととと、とかいはっ!とかいはなまりさはどこぉおおおおおおおお!? ありすのあいをそそいであげるわぁああああああああああああああああああ!」
ありすは腰?をがくがくと振り、怒張したペニペニから薄くカスタードをたらして叫んでいる。
今すぐ潰してやりたいが、まずはゆっくりさせてからである。しかしまりさをれいぽぅさせてやる時間は無い。息苦しさと痛みは増すばかりである。
「し、仕方ないっ…」
虐待と愛での狭間で生み出された秘技を使うしかなかった。
俺は痛みとは違う意味で眉をしかめながら、ありすのぺにぺにをつまんで強くこすり。
「ん、んほほぉおおおおおおおおおおおお!?」
同時にまむまむにも指を突っ込みグニグニと刺激を与えてやる。
「ぺにぺにとまむまむをどうじにせめたら、らめえええええええええええっ!?め、め、め、めくるめくかいらくぅうううううううっ!!」
ひときわ大きく奇声を上げると、ありすはペニペニから大量のカスタード精子餡をビュクビュクと発射し、まむまむからはよくわからない液体を垂れ流した。どうやら絶頂に達したようだ。
それと同時に俺の体を蝕んでいた痛みと呼吸困難も引いていく。
強制的にひとりすっきりーをさせるのは賭けだったが、どうやら性的快楽もゆっくりすることのうちに入るらしい。どうにか発作はおさまった。
「ん、んほぉ…ら、らんぼうなのもかんげいよぉぉ。おにーさぁん。もういっかいっ、もういっかいやってぇ」
少しの間放心状態だったありすだったが、すぐにペニペニをむくむくと起き上がらせて、もう一度すっきりさせろとせがんでくる。
「二度とやるかっ。この滓タードがっ!」
「ゆげらぁっ!」
俺はありすを踵で踏み抜くと、周囲の目を気にしながら残骸を片付け、ゆっくりショップへと戻った。
「お買い上げありがとうございました!」
不良ゆっくりを掴ませたということで、ありすの残骸を引き渡し、俺は代わりのゆっくりを手に入れた。
もうれいぱー化はうんざりなので今度はゆっくりぱちゅりーである。銀バッチのものを値引きしてもらって6万4000円。ありすは返品に応じてくれたので差し引き1万6000円で銀ぱちゅりーが手に入ったと考えればお得だろう。
「むきゅ。おにーさんよろしくねっ」
「ああ。ぱちゅりー。これから暮らす上でのルールを決めようか」
「るーるさん?」
以下略。
告げるべきことを告げ、意気消沈としたぱちゅりーをつれて俺はコンビニに向かった。
発作が起こっている時にはすりすりは上手くできないということがわかったので、ゆっくりさせるには常時甘いものを携帯するしかない。
「おいぱちゅりー、一応聞いておくが、おまえは何が好きなんだ?」
コンビニのお菓子コーナーの前で、バッグに入れられたぱちゅりーに尋ねてみる。
しかし答えは返ってこなかった。
俺が喋るなといったのを律儀に守っているのかと感心してバッグの中を覗いてみる。
「し、死んでる……」
バッグの中でぱちゅりーは絶望の表情を浮かべて息絶えていた。
おおぱちゅりーよしんでしまうとはなさけない。
「いや、いやいや。お前は6万4000円なんだぞっ!?割引前は11万4000円だぞ!?円だぞ円!ペリカじゃねえんだぞっ!?」
呼びかけてみたところでぱちゅりーが生き返るはずも無かった。
おそらく中途半端に頭がよいせいで自分の未来が真っ暗であることが分かったのだろう。虚弱体質のぱちゅりーはその心労に耐え切れず、15分の移動の間に死んでしまったようだ。
「ま、まじかよ……」
今発作が起こったらまずい。俺は走ってゆっくりショップに戻った。
「お買い上げありがとうございました」
ぱちゅりーの死体の処分を頼み、俺は新しくゆっくりを買った。
今度は値引きをしてくれなかった。虚弱体質のぱちゅりーにストレスを与えることはしてはいけないと購入時に確認をしたからとのことだった。
安物買いの銭失いはもうごめんだったので、俺はクレジットカードを使い、涙を呑んで金バッチまりさを買うことにした。
店員曰く、まりさ種は体が丈夫で、足も速く、ストレスにも強いということだった。
足の速さはどうでもいいが、体が丈夫でストレスに強いというのはありがたかった。それでも21万は痛い、いたすぎる出費だったが。
「まりさはおにいさんをゆっくりさせてあげられるとおもうのぜっ! わがままさんもいわないのぜっ!」
だぜ口調は嫌だったが、矯正済みの個体だと値段がまた上がるのでそこは我慢した。
「そうか。わがままは言わないか」
「ゆっ! わがままをいうゆっくりはゆっくりできないのぜっ」
金バッチだけあって中々殊勝なことを言ってくれる。
俺はまりさにルールを告げた。
「お前の家はそのバッグだ。普段の飯はなまごみ。うんうんとしーしーは舐めて片付けろ。あと俺に何か聞かれた時以外はしゃべるな。わかったか?」
「……ゆ、ゆっくりりかいしたのぜ」
おお!なんと立派な奴。そういえばまりさ種はでかい口を叩く割りに押しに弱い部分があり、そのせいでつがいのゲスれいむにいいように使われることがあると聞いたことがある。
俺がゲスれいむと同じポジションなのは不満だが、言うことを聞いてくれるなら大歓迎だった。
「まあ、たまにはあまあまをやる。それで我慢しろ」
「ゆぅ……」
それを聞いて若干まりさの瞳に生気が戻る。
こいつとなら上手くいくかもしれない。俺は足取りかるく駅に向かい、電車にのって家へと戻った。
道中まりさは言いつけを守り、一切口を開くことはなかった。
しかし、悲劇は起こった。
家まであと数十メートルという所で再びユナハ病の発作が俺を襲った。
「ぐあっ……っ、また、発作が……」
しかし先ほどのありすのときとは違い、あまあまは準備済みである。
「よ、よし、まりさ。あまあまを、やろう」
「あまあまさんっ!? たべてもいいのぜっ!?」
「あ、ああ。存分に、ゆっくりしろ」
俺はキャリーバッグを開けて、まりさにあまあまを差し出す。
「あまあまをたべるのぜっ! むーしゃむーしゃ、し、しあわせー!」
あまあまを食べてまりさはとてもゆっくりした表情を浮かべる。それを見て俺の体から痛みが抜けてゆく。
「ふう。この痛みは慣れるものじゃないな……。おい。まりさ食ってないでとっとと戻れ」
「ゆっ? でもまだあまあまさんのこってるのぜ? のこしたらもったいないのぜ?」
「ああもったいないな。お前なんかにやるのは。残ったあまあまは砕いてアリの巣にでも撒いとくか」
「ま、まりさはありさんいかなのぜっ?」
「当然だろ」
まりさからあまあまを取り上げようとしたとき、エイトマンでも走り抜けたかのような一陣の突風が吹いた。
「ま、まりさのおぼうしがっ! おいかけるのぜっ! ぴょーんぴょーんっ!」
「コ、コラッ、勝手にっ!」
吹き飛ばされるまりさのお帽子。それを追いかけるまりさ。
捕まえようとする俺だったが、まりさの意外に素早い動きに掴み損ねてしまう。
「ゆっ! つかまえたのぜっ! おにーさんっ、いまもどるのぼげぇっ!!」
「あ、轢かれた」
飛んでいって道路に落ちたお帽子を捕まえ、ニッコリ笑って振り返ったまりさはそのまま車に轢かれた。
いくらゆっくりの中では丈夫な部類とはいえ、車に轢かれて生き残れるはずも無く。
まりさはグチャグチャの餡子屑へとジョブチェンジした。皮肉にもかぶり直す前だったお帽子は無傷でまりさのそばに落ちていた。
「なんでゆっくりはすぐ死んでしまうん?……21万だぞ、おい」
おれはまりさのお帽子を拾い上げる。キラリと光る金バッチが物悲しかった。
「これ3万円くらいで売れたり……しないよなぁ……」
どうやら俺はいままで殺す側にいたせいで、ゆっくりの死に易さというものを理解しきっていなかったようだ。
兎も角。いつまでもこうしちゃいられない。ゆっくりを、ゆっくりを手に入れなくては。
俺は来た道を引き返し、ゆっくりショップへと急いだ。
道中。俺は考えた。
発作が起こるたびにゆっくりをゆっくりさせるのはリスクが大きい。
ならばどうすればいいか。
その先を考えて俺はゾッとした。
「常に、ゆっくりを、ゆっくりさせておく……?」
考えるにおぞましい。しかしそれが発作の対策としては一番有効であるように思えた。
俺と一緒に生活すること自体がゆっくりできるとゆっくりが認識すれば、そのつどあまあまを与えたりすーりすーりをしてやらなくても発作症状を緩和できるだろう。
こうなったらなるべくムカつかない、優秀な金バッチゆっくりを買うしかない。そう考えて俺は大事なことに気づいた。
「金が、足りない……」
クレジットカードの使用限度枠は先ほどまりさを買ったことでほとんど一杯だし、アルバイト生活の俺の口座にはほとんど金が残っていない。もう1匹20万近い金バッチゆっくりを買う余裕などどこにもなかった。
「いや。考えるのは、ゆっくりショップに着いてからにしよう……」
まずはゆっくりがいるところに行かなくてはならない。今発作が起こったら非常にマズイ。
俺は道程を短縮するために普段は使わない裏道を通って駅へと急いだ。
だが。起こって欲しくないと思っていることは、常に最悪のタイミングで訪れる。
駅へと急ぐ俺の足は、激痛と乱れる息で止まった。
「ぐあ、こ、こんな時に……」
俺の記憶が確かなら、近くにゆっくりが生息しているような公園や空き地などは無かった。
「か、はっ……、ゆっくりは……、ゆっくりはいないのか……」
無駄なこととは思いつつ、俺は血走った目であたりを見渡す。しかし、そうそう都合よくゆっくりが歩いているわけがなかった。
回を重ねるごとに発作の痛みは耐え切れぬほどに激しくなっていた。立っているのも辛いほどの痛みが全身を駆け回る。
俺は最後の希望をこめて叫んだ。
「ぐぐっ、糞っ……、ゆ、ゆっくりしていってねっ!」
もしもこの近くにゆっくりがいれば声が帰ってくるはずである。
しかし「ゆっくりしていってね!」という声はどこからも帰ってこなかった。
「う、が、ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」
俺はよろめきながら、ゆっくりしていってねと繰り返す。
あんなにウザかったゆっくりの挨拶を今は聞きたくて仕方がなかった。
「ゆっくり、して、カハッ…」
もう限界だった。喉が詰まるような息苦しさのせいで、俺はゆっくりしていってね!もまともに言えない状態に陥っていた。
「うう、母さん、俺の、スーファミ、どこに隠したんだよォ」
幼い頃の記憶がフラッシュバックしてくる。あれ、これって走馬灯……?
いよいよ危険な状態に陥ってるのが分かったが、どうしようもなかった。まるで夢の中で夢と気づいたかのような感覚。行動が意識に着いていかない。
「ゆっくりしていってねっ!」
「!?」
そんな俺を救ったのは、狭い路地から響くかすかな声。確かに聞こえた。ゆっくりだ!
俺は痛む体を引きずって、声の聞こえた路地へと歩みよる。
「……れい、む?」
そこにそのれいむはいた。
一瞬迷ったのはそのれいむが、リボンももみあげを結うお飾りも剥ぎ取られて、まるで落ち武者のようなザンバラ髪をしていたからだ。
「ゆっ!おにいさんっ? だいじょうぶっ? なんだかとってもくるしそうだよっ?」
そのれいむが気遣う言葉を口にするが、俺はそれに答えている余裕は無かった。
「食えっ……っ! この、あまあま、を」
震える手でおれはあまあまをれいむに差し出した。
「ゆぅ? ……たべてもいいのっ?」
「いいから……、食え……!」
「ゆゆー! れいむとってもおなかがへっていたんだよっ! おにーさんっありがとうっ!」
普段はあまあまと見るとがっつく癖に、れいむはいちいち確認をしたり礼を言ったりとなかなか食べようとしなかった。
「はやく、食ってくれ…」
「ゆっくりいただきますっ!……ししし、しあわせーっ!しし、しあわせー!」
スゥと。俺の体から痛みが抜けた。
「ハァ、ハァ、あ、危なかった……」
俺はどこも痛まない体の素晴らしさを噛みしめながら、俺を救ったれいむを見る。
「むーしゃむーしゃっ! ゆっ? おにさんなんだかさっきよりとってもゆっくりしているよっ?」
どうにも奇妙なれいむだった。
リボンなどが無いのもそうだが、野良ゆっくりにしては小奇麗だし、なにより見ていてあまり苛立ちが募らなかった。
「おまえ、もしかして元飼いゆか……?」
「ゆっ!そうだよっ!れいむはきんばっちさんだったよっ!……でも、おにーさんが、おまえにはもうあきたっていって、れいむのゆっくりしたおりぼんさんを……ゆぅ、ゆぐすっ」
れいむは泣き出してしまった。
「れいむ、俺がお前を、飼ってやろうか……?」
「ゆ、ゆゆっ!?ほんとうっ!?」
元金バッチ。れいむ種であるのは珠に傷だが、そんなものに偶然出会えるとは、俺の運も中々捨てたものではない。
「ああ。お前をゆっくりさせてやる」
「でも、れいむはおかざりさんがない、ゆっくりできないゆっくりだよ……?」
「俺が代わりを作ってやるよ。そうすればゆっくりできるだろ?」
「おかざりさん……おかざりさんがかえってくるのっ!?」
「ああ。少し色は違うかもしれないがな」
俺はそうしてその捨てれいむを飼いゆにした。
死んだまりさの帽子を再利用して、れいむのために黒い生地に白の縁取りをしたリボンとおさげ結いを作ってやった。
れいむはゴネるかと思ったが、『お飾りが無い』ということで他の野良からだいぶ迫害されたらしく、新しいお飾りを喜んでくれた。
俺が「世界にただひとつの特別なおかざりだ」というと、
「ゆゆぅ! れいむはとくべつなれいむだよっ!」
と言ってはしゃぎまわった。
聞いてみるとれいむは、捨てられて満足にえさを得ることもできず、俺に出会わなければ餓死していたところだったという。
自分を救ってくれて、その上お飾りまで作った俺に、れいむは深く感謝して、とてもよくなついた。
俺もれいむがゆっくりできるように、おいしいごはんさんを与え、暇を見つけては遊んでやった。
「ゆうっ! おにーさんのおかげで、れいむはゆっくりできるよっ!とてもとてもありがとうだよっ!」
「俺もお前のおかげで発作に悩まされずに済むよ」
「ゆふふふっ」
「アハハハ」
俺は黒いリボンのれいむと共にゆっくりした生活を送った。
めでたしめでたし。
などということが、あろうはずも無く。
れいむとの生活が一週間続いたころには、俺は体重を4キロ減らし、胃の痛みを抑えながら生活していた。
かのドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウスが生きていたならばこう言ったであろう。
ゆっくりとは忘却するナマモノである、と。
れいむは俺への感謝の念を2日で忘れた。猫は恩を3日で忘れるというが、それ以上の薄情さである。
初日はうまく行っていた。
俺はれいむを見ても強い殺意は沸かず、時折訪れるユナハ病の発作も、ゆっくりしている、俺がゆっくりさせているれいむを見ればたちまち解消した。
「ゆぅ、おにーさんのくれたべっとさんはふかふかだよっ!」
「そうか。よかったなれいむ。是非ゆっくりしてくれ」
「おにーさんのおかげでれいむとってもゆっくりできるよっ!」
「俺もお前がゆっくりしているのを見てるととてもゆっくりできるよ」
無論。俺が本心かられいむを好いているはずもなかった。潰したい衝動を押し殺して、俺はれいむがゆっくりできるように努めていた。
3回目の発作が俺の中である種のトラウマになっており、今手元にある確実な症状緩和策を失うのがとても恐ろしかったのだ。
2日目。すでにれいむは感謝の心を忘れかけていた。
「おにーさんっ? あのねっれいむおなかすいたよっ!」
「そうか。じゃあごはんさんをあげよう」
「むーしゃむーしゃっ、それなりー!…きのうのごはんさんよりおいしくないよっ、あまあまーなごはんさんがほしいよっ!」
「し、しかたが無いなぁ、れいむは」
3日目。れいむは完全に俺への感謝を忘れていた。
それどころか自分に感謝しろと強要するようになっていた。
俺がうっかりユナハ病のことについて話してしまったのも一因である。
「ゆゆっ!ごでぃばさんのちょこれーとじゃないとれいむゆっくりできないよっ!」
「ゆっ? そのおててはなぁに? れいむがゆっくりしないと、おにーさんはゆなはびょうでしんじゃうよっ? それでもいいのっ?」
「おやおやっ?おにーさんなんだかゆっくりしてないよっ? れいむをみならってゆっくりしてねっ!」
「ねぇおにいさん。ゆっくりしたれいむにおれいはないの?ねぇ?ねぇ?」
「アリ、ガトウ、れいむ」
「ございますっはっ? おにーさんにはかんしゃのこころってものがないのっ!?」
「アリガトウゴザイマス、レイムサマ」
「ゆっ!よくできたねっ! ごほーびにれいむのうんうんをかたづけさせてあげるよっ!」
そんな具合である。
憎たらしくてたまらないれいむと、俺は24時間行動を共にしなければならなった。
ストレスは加速度的に貯まっていった。
特に辛かったのが、大学の授業である。
大学側に事情を説明して、れいむを連れて授業を受ける許可は得ているものの他の学生にはそんなことは分からない。
「なぁにアレ。ゆっくり連れて講義うけてるぅ」
「クスクスッ。どんだけ愛でなのぉ、マジうけるんですケド」
「やめて欲しいよなぁ、こっちが不愉快になるっつうの」
他の学生のささやきが俺のガラスのハートを傷つける。しまいにはクスクスという笑い声だけで、自分が笑われているような気になって、常にビクビクする有様だった。
その上。講義中でもお構いないにれいむは騒いだ。
「ゆっ!にんげんさんがいっぱいだよっ! もしかしてれいむのおうたをききにきたのかなっ?」
「いや、違うぞれいむ。あの人たちは……」
「だれがそんなこたえをいえっていったのっ!? みんなれいむのおうたがききたいにきまってるよっ!」
そうやってれいむは歌い始める。
「ゆっくりのひー!まったりのひー!すっきりのひー!」
黙々と授業を受けていたほかの学生は何事かとこちらをみる。露骨に舌打ちをするものまでいる。
講師の教授も、直接文句は言わないが、黙らせろとこちらを睨んでくる。
「おいれいむ。お願いだから静かにしてくれ……」
「どうして?おうたはとってもゆっくりできるよっ!にんげんさんたちもしずかにきいてるよっ!」
説得を聞き入れようとしないれいむを連れて俺は教室から去ることがままあった。おそらくいくつかの授業は確実に単位を落としたであろう。
ちなみにアルバイトのほうはれいむを連れて行った初日にクビになった。
それはそうだろう。レジの横に姦しい饅頭がいたら、だれだって購買意欲を失うに決まっている。
俺の生活はむちゃくちゃだった。
そして。
「ゴホッ、ゲホッ、あ……、血だ」
れいむと暮らして一ヶ月経ったころ、激しく咳き込んだ俺は喀血していた。
もしかしたらユナハ病が進行したのかと危ぶみ、俺は病院へと行った。
「胃にひどい炎症ができていますね。生活習慣が激変したり、何かストレスを抱えていらっしゃるのはでありませんか?」
俺をユナハ病と診断した医者はいけしゃあしゃあとそんなことを言った。
「いや、ユナハ病の、せいで、ゆっくりを飼わなくちゃいけなくて、それが、辛くて、辛くて……」
ちなみに病院内でゆっくりを連れまわすわけには行かないということでれいむは預かってもらっている。
つかの間のれいむからの開放感と、発作が起こったときへの不安。
俺はすがる様に医者に尋ねた。
「どうにか、ならないんですか……っ!」
俺の切なる訴えに対して返ってきたのは間の抜けた返事だった。
「あー、えー、もしかして、連絡行ってませんか……?」
「……え?」
「ユナハ病、治療法が見つかったんですよ」
そうしてあっさりと。俺のユナハ病は完治してしまった。
ユナハ病の脅威から逃れて一ヶ月。
俺は健康そのもので、新しいバイトも始め、順風満帆な学生生活を送っていた。
そして。今日俺はれいむと共に市民公園へと散歩に来ていた。
「ビスコうめぇな……」
俺は公園のベンチに座り、ビスコをかじる。
目の前ではとてもゆっくりできる光景が繰り広げられていた。
「ゆっくりできないれいむのなのぜ!まりささまのたいあたりをくらうのぜっ!」
「れ、れいむはゆっくりでき、げふぅうううううっ!」
「くろいおりぼんなんてとかいはじゃないわ。ほんとうにいなかもののれいむねっ!」
「ちがうよっ!せかいにただひとつのとくべつな、げはぁあああああっ!」
れいむは公園に住む野良ゆっくりたちと楽しそうに戯れていた。そんなのどかな光景を見ながら食べるビスコは格別である。
「よーしおまえら。れいむと遊んでくれたから、約束どおりあまあまをやろう」
「ゆっ!まりさがいちばんたくさんれいむとあそんだのぜっ! だからいちばんたくさんちょうだいなのぜ!」
「あら、ありすだってれいむにとかいはなきょういくをしてあげたわよっ!」
「喧嘩するな。あまあまは沢山あるからな」
「がーつがーつ、これめっちぇ、うげえええええええええっ!」
「これどくはいってるうううううううう!?」
俺は特製タバスコチョコ(遅効性)を野良ゆっくり達に与えると、ズタボロになったれいむをやさしく持ち上げる。
「ほら、れいむ。帰るぞ。お前にはおうちでたくさんあまあまをやるからなァ」
「ゆ、ゆゆう、おにーさん、もういやだよぉ……、れいむはおちびちゃんをたべたくないよぉ……」
「そんなこと言って。お飾りがないおちびは旨そうに食ってたじゃないか。れいむはツンデレさんだなァ」
俺から多くのものを奪ったユナハ病だったが、ただひとつ素敵な贈り物をしてくれた。
それは飼いゆ虐めという新たな虐待ジャンルだった。
それまでの俺はゆっくりを見れば即座に殺してしまう、虐待師ならぬ虐殺師だった。
それがれいむとの生活により、忍耐力が養われ、ゆっくりを殺さず苦しめ続けることがきるようになったのだ。
「帰ったらまず傷を治してやる。そしたら適当なれいぱーに犯しまくってもらって、生まれたおちびちゃんを食わせてやるからな。それともおちびちゃんにつまようじを渡して、お前をめった刺しにしてもらおうか? おまえのおちびっておまえに似て馬鹿だから、おかざりを外したお前を喜んで半殺しにしてくれるぞ」
「い、いやだよぉぉぉ!」
「嫌か? それじゃあまたアレやるか。おまえのおちびたちを一箇所に閉じ込めて、1匹づつお飾りを奪ってくやつ。最高だよな。自分の姉妹を見て『れいみゅのいもーちょをどきょへやったの!ゆっくちちてないゆっくちはちね!』って、虐め殺すんだから。おまえもアレ好きだよな? 泣くほど喜んでたし」
まだまだれいむと一緒にやりたいことは沢山あった。
蝋燭を頭の上に立ててやったり、まち針で体を飾ってあげたい。
湿気のこもった引き出しに入れて、体をカビだらけにもしてやりたい。
それとも一度つがいを与えてやって、幸福の絶頂で家族を崩壊させてやるのもいいかもしれない。
「おまえのおかげで新しいゆ虐に目覚められたよ。ありがとうなァれいむ」
「ゆぐっ、ゆぐぅ……もう、ごろじてぇぇぇ」
「何を言ってるんだ。おまえは俺の大事な飼いゆっくりだからな。絶対に殺さないぞ。絶対にな」
さぁ君も素敵な飼いゆいじめの世界に飛び込む?
→YES
はい
完
あとがき
すでにありそうなアイデア。
そしてそれをうまく使いきれない自分。
むしろ『ゆっくりしていないゆっくりを見る』ことで症状が緩和される病気に、幸せなゆっくり一家が罹患する話のほうがよかったかもしれません。
過去作品
anko1484 ゆっくり愛護法改正案可決
anko1517 ゆっくり愛護法改正案可決 完結編
anko1786 ゆるめの冷たい方程式① ~ちいさなまとまり~
anko1787 ゆるめの冷たい方程式② ~いきのこるために~
anko1816 ねないゆだれだ
医者の口にした聞きなれぬ言葉に俺は困惑した。
それをよそに目の前の医師は淡々と言葉をつむぐ。
「ええ。Y.U.N.A.H.A Syndrome。正式名称はゆっくりの副交感餡経系優位状態認識における生理機能影響症」
「一体どんな病気だっていうんですか?」
俺は健康がとりえの男で、生れ落ちた時以外に病院の世話になったことがないことが自慢だった。
それが先日、大学で講義を受けている最中に急な呼吸困難と、全身に走る激痛に襲われて病院に運び込まれてしまった。
そこで施された『処置』によりいくらか楽になった今、医者にその原因を教えられているところだった。
俺の呼吸困難と全身への激痛の原因。ユナハ病。医者の話すその病の説明は、恐るべきものだった。
Y.U.N.A.H.A Syndrome。ゆっくりの副交感餡経系優位状態認識における生理機能影響症。
症状としては呼吸困難および全身への激痛。正体不明の奇病であり、治療法は一切確立されていない。
唯一の症状緩和の方法は、ゆっくりの副交感餡経系を優位状態にすること。
即ち「ゆっくりをゆっくりさせること」
悪夢のような病気に俺はかかった。
「まだ初期状態で、いまはこんなものでも症状は緩和されますが、早めにペットショップでゆっくりを購入することをお勧めします」
長い時間をかけて「俺たちにはどうにもできないから自分で何とかしろ」という趣旨の説明を受けた俺は、医者からもらったゆっくり人形を片手に病院の前に立ち尽くしていた。
病院に運び込まれ、息苦しさと痛みにあえぐ俺に、医者が渡したのがゆっくり人形だった。頭や頬を撫でてやると「とってもゆっくりできるよー」などという音声が再生されるものである。
今までの俺からすれば破壊以外に使用法がない人形だったが、今の俺にとってはユナハ病の症状を和らげる大切な人形だった。
しかしこの人形の効き目もすぐになくなる。
次か、その次の発作の際には本物のゆっくりをゆっくりさせないことには症状の緩和は望めないだろうと言われていた。
「くそッ。なんだって俺がこんな目に」
苛立ちに任せて人形をもったままの手を硬く握りこんでしまう。
「なーでなーでしてぇえ、ゆ、ゆゆゆゆ、もるさぁっ!」
「あ、やっべ」
強い力で握ってしまったせいでゆっくり人形は奇声を上げて壊れてしまった。
「ゆっくりをゆっくりさせる、か」
俺は健康がとりえの人間だったが、周りから「病気だ」といわれる趣味があった。
それはゆっくりの虐待である。
ゆっくりを見ると、殴りつけ、引き裂いて、踏み潰さずにはいられないのだ。
公園で野良まりさに会えば、お飾りをうばって、おさげを引き抜いて、それを目の前でバラバラにした上で噴水にぶちこまずにはいられないし。
町でしんぐるまざーれいむに会えば、おちびたちをその口に詰め込んで、咀嚼させた上で排水溝の格子ですり下ろさずにはいられない。
そんな俺がである。どうしてゆっくりをゆっくりさせるなどという芸当ができようか?
「でも、発作が起こったらやばいしなぁ……」
たとえどんなに趣味とかけ離れていようとも、背に腹は変えられない。
ここは涙を呑んで、愛でるためのゆっくりを確保するしかなかった。
覚悟を決めた俺が訪れたのは、そこから最寄の市民公園だった。
休日には家族連れでにぎわう場所だったが、自然が多く、ゆっくりたちにとって食糧となる植物や、雨風をしのげるアスレチックなどもあることで、ここらでは有数のゆっくりの生息地となっている。無論景観保護のために駆除は行われているものの、お役所仕事とゆっくりの繁殖力があいまって常にどこかしこでゆっくりの姿をみることができた。
医者にはペットショップでゆっくりを購入することを薦められたが、ゆっくり風情のためにわざわざ金を払うことなど論外だった。放置自転車レベルであちこちにいるもののために、どうして身銭を切らねばならないのか。それに放置自転車に乗っていけば犯罪だが、そこらの野良ゆっくりを拾っていくことは感謝されこそすれ咎められることなどなかった。
公園に入ってすぐに、お帽子をかぶりおさげを揺らしながらゆっくりまりさが近づいてきた。
「ゆっ!にんげんさんなのぜ! まりささまにあまあまをよこすのぜぶらあああああ!?」
「死ね糞饅頭」
まりさの言葉が終わるか終わらないかのうちに、俺はその右目に靴先をめり込ませると、そのまま抉るように引き抜いた。
「おべべがぁ、ばりざのおべべがああああっ!」
「いかん。つい反射的に手を出してしまった」
実際に出したのは足だが、まあ瑣末なことである。とにかくこのまりさはもうだめである。俺はまりさの残った左目にも蹴りをくれてやると痙攣するそれを近くのゴミ箱にぶち込んだ。
早々に不安になる出鼻であったが気を取り直してつぎのゆっくりを探すことにする。
たいして時間をかけることなく、つぎの獲物、もといゆっくりは見つかった。
こんどは子連れのれいむである。
泥だらけの汚らしいつらを見ているとすぐさま目の粗いアスファルトに擦り付けて皮膚という皮膚を削り取ってやりたい衝動に駆られるが何とかこらえる。
「やあれいむ。ゆっくりしていってね」
「ゆっ!ゆっくりしていってね!」
「「ゆっくちちていっちぇねぇ!」」
「……チッ」
舌足らずな赤ゆ言葉を聞いて、すぐに我慢ができなくなりそうになる。嗚呼糞。お飾りと髪を引きちぎってハゲ饅頭にした挙句、全身にマチ針をさしてアリの群れの中に放り込んでやりたい。
しかし我慢。我慢が肝要である。
「ゆっ?おにいさんいましたうちをしたねっ? れいむはとてもふゆかいだよっ! しゃざいとばいしょーをよーきゅーするよっ」
「「よーきゅーしゅりゅよっ!」」
我慢である。寛容を以って接しなければいけない。
「なにをだまってるのっ? ごめんなさいくらいいえるでしょっ!」
「ゆっくちちてにゃいではやくあやまりぇ!」
我慢ナニソレ食べれるの?
「ごめんなァ、おわびに、おまえのおちびを遊覧飛行に招待してやろう」
「ゆーらんひこー? そんなものよりあまあまをちょうだいねっ! たくさんでいいよっ!」
「そういうなよ。ほら」
俺は赤ゆのうち1匹をむんずと掴むとそのまま持ち上げる。
「ゆちっ!おしょらをとんでりゅみちゃいっ!」
「違うヨ? おそらを飛ぶって言うのは、こういうことだあああああああ!」
俺は赤ゆを掴んだ腕をそのまま大きく振りかぶると、那由他の彼方へ届けとばかりに全力投球した。
「おーしょーりゃーをーとーんーでーりゅーよおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
ドップラー効果を響かせながら、赤れいむは数十メートル先へと放物線を描いて飛んでいった。
「お、お、お、おちびちゃああああああああん!? いまおかーさんがうけとめてあげるよっ!」
母れいむが叫びを上げたころにはとっくに餡子クズになっているのだが、それに気づくこともなく母れいむは駆け出していった。それを横目に、俺は残った赤れいむを持ち上げる。
「れ、れいみゅはおしょりゃをとばにゃくていいよっ! れいみゅはつちからはにゃれてはいきちぇいけにゃいよっ!」
「遠慮はいらんぞ。飛んでけっ!」
先ほどの赤れいむとは反対方向へと投げてやる。
「ゆやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
そうしてから母れいむに呼びかけてやる。
「おい。あっちにも飛んでったぞ?」
「ゆ、ゆううううう!? どっちいけばいいのおおおおおおお!?」
「両方にいけばいいだろ。手伝ってやる」
俺はれいむの両頬を掴むと、左右に力をこめて引っ張った。
「ゆ、びえあああああああああああああっ!?ひっばらないでえええええええ!ぢぎれぢゃうよおおおおおおおお!」
「ちぎってんのよ」
俺の肩幅を超えるか超えないか位まで引き伸ばされたれいむはみちみちと裂け、ぶちんと二つに別れた。
「ほらよっと」
俺はちぎれたれいむを赤れいむどもの残骸地点へと投げつけてやる。うむ。誤差3センチってとこか。
その出来に満足して、しまったと思う。
「またやっちまった。それに公園もよごしちまったし……」
俺猛省。さすがの俺も二回連続の虐待には猛省……!
「……次だ。次こそゆっくりさせてやる!」
俺はゆっくりをゆっくりさせるべく。
「ありすのぺにぺにがあああああああ!?」
ありすのペニペニを引き抜き。
「どこにいるンだぜぱちゅりー……まっくらでなにもみえないンだぜぇ……」
まりさの視餡経を切断し。
「れいむのゆっくりしたあかちゃんがああああああああ!?」
茎から生えた実ゆを焼いた。
一時間後。俺は公園のベンチに座り、ゆっくりに与えようと買っておいたビスコをかじっていた。
「ビスコうめぇなぁ……」
近くにあるゴミ箱の隙間からは、餡子とクリームとカスタードが混じったものがどろりとこぼれているがそれは極力見ないようにした。
「あれだな。野良はだめだ」
一時間の俺の努力のすえの結論はそれだった。
野良ゆっくりは表情からして傲慢で、3秒以上直視が出来ないレベルのムカツキ度数を誇っている。
こちらがどんなに寛容であろうとしても5秒間のうちに確実に苛立ちを誘う言動をする。
というか単に動いていても苛立つし、のんびりしていても腹が立つし、喋ろうものならムシズが走って仕方がない。
虐待以外のコミュニケーションは不可能だった。
「ペットショップに行くか……」
腹立たしいことだったが、野良ゆっくりが駄目な以上あとは購入しか手段は残されていなかった。
近頃はペットショップの中でもゆっくり専門のもの、ゆっくりショップというものもあるらしい。
検索サイトを使って調べてみると、二駅隣に大きめのゆっくりショップがあるらしいのでそこに向かうことにした。
そのゆっくりショップは駅前のなかなか良い立地にあった。
「儲けてるもんなんだな。饅頭売るだけで」
野良を潰してばかりいた俺にとってゆっくりショップは未知の領域だった。
売り物を傷つけるような真似だけはすまいと心に決めて自動ドアをくぐる。
「ゆっくりしていってね!」
入店と共に響く電子音でのゆっくりボイスにさっそく軽い苛立ちを覚えながら俺は店内を見て回った。
普通のペットショップのように透明の檻に入れられた数々のゆっくりがいる。
基本種のれいむ、まりさ、ありす、ぱちゅりーをはじめ、野良では見たこともないような希少種もいた。
「……うん?」
こんなに大量のゆっくりを前にしたら、いつもであれば相当の苛立ちが募るはずである。
しかしどういうわけか俺はあまりイラつくことはなかった。
どういうことだろうと考えてみる。
まず檻にいれられたゆっくり達はとても静かであった。
野良のゆっくりは出会うや否や「ここはまりさのゆっくりぷれいすなのぜ! にんげんはでていくのぜ!」だの「あまあまをちょうだいねっ! たくさんでいいよっ!」だのなにがしかわめき立てるのだが、ここにいるゆっくりはこちらを興味深げに伺いってはいるものの口を開くことはなかった。
それにお飾りや顔も野良のようにうす汚れておらずこぎれいである。表情も傲慢さのかけらもなく、無邪気なものであった。
「おい、まりさ」
おれは一番近くの檻にいたまりさに話しかけてみる。
「ゆ? なあににんげんさん?」
話しかけられたまりさは体を傾けて俺に応じる。だぜ口調でないまりさには初めて出会った。
「どうしておまえらはそんなに静かなんだ?」
「ぶりーだーのおにいさんにおそわったよ。うるさくするゆっくりはゆっくりできないんだよ」
野良とは別の種類の生き物のようだ。
もしかしたらこいつらならいけるかもしれない。
そう思った俺は檻の隅に張られた説明をみて愕然とした。
『まりさ 生後3ヶ月 銀バッチ取得済み だぜ口調矯正済み 体高35センチ 体重4.5キロ 両親まりさ、ぱちゅりーともに金バッチ。好奇心旺盛なやんちゃな子です』
そこまではいい。
それよりも。139000という数字は一体なんなのだろうか?
うしろについている円という文字は、この国の通貨単位ではなかろうか?
高い。いくらなんでも高すぎる。10万円の喋る饅頭なんて気が狂っているとしか思えない。
このまりさが特別なのだろうと他のゆっくりを見てみる。
『ありす 生後4ヶ月 金バッチ取得済み 体高32センチ 体重4キロ 8代遡ってもれいぱーがいない餡統です!とってもお上品で、ひらがなを読むこともできます。こーでぃねーと癖矯正済み。お部屋を散らかしません!オススメ!』
お値段。246000円也
多少上品な程度で、このありすが俺の一ヶ月の労働より価値があるとは到底思えなかった。
俺はしばらく見て回ったが、銀バッチは10万前後。金バッチは軒並み20万越え。めまいがするような値段の嵐だった。
極めつけは希少種ゆっくりゆうか。
他のゆっくりの10倍以上の広さの部屋(内側から閉められるブラインド&お花畑付き)に入れられ、しかもそいつの説明文には
『バッチ試験拒否。家にお花畑がないと飼育は不可能です。プライドのある気高い方です。他のゆっくりと一緒に買うと殺してしまう場合があります』
などと書かれている。
お値段なんと256万円。
炎のチャレンジャーでイライラ棒を成功させても買えない。幸せ家族計画への出演が必要な値段である。
「だめだ……どれもこれも高すぎる……」
まだちゃんと飼うことができるかどうかもわからないのに、10万20万という金はホイホイ出せない。それで連続で潰してしまおうものならユナハ病ではなく飢餓で死んでしまう。
もっと安いゆっくりはいないものか。そう思って店の奥のほうへと足を向けてみる。
するとそこは店の入り口付近とは趣が変わっていた。
あるのは仕切りによって区切られた柵で、その中に複数のゆっくりが雑多にほうりこまれている。
「おにーさんっ!れいむをかってねっ!れいむはおうたがうたえるよっ!」
「まりさをかうのぜっ!まりさはとってもゆっくりしたゆっくりなのぜ! あまあまもいちにちさんっかいっでいいのぜっ!」
「おにーさんのおへやをとかいはにこーでぃねーとしてあげるわっ! ありすにまかせてちょうだいねっ」
どうやら銅バッチのゆっくりのようで、口々に自分を飼いゆにしろとわめいている。野良に毛が生えた程度の教育しか施されていないようだった。お値段もそれなり。1万円に届くものは皆無である。
「すいません」
俺は近くにいた店員に声をかける。
「はい。なんでしょうか?」
「1匹潰させてもらってもいいですか?」
「いや、そんなゲームセンターCXのADみたいなことをいわれても……」
呆れたように言われて我に返る。いかんいかん。あまりにイラッとくる連中なのでつい口が滑ってしまった。手が滑らなかったのは幸いである。
気を引き締める。おれは虐待のためにゆっくりを買い求めに来たのではないのだ。
「ああ、すいません。間違えました……。ええと、ちょっとお尋ねしたいのですが」
飼いゆっくり初心者の俺がいくら悩んでいても仕方がない。
モチはモチ屋。ゆっくりはゆっくりショップである。
俺は店員におすすめのゆっくりを尋ねてみた。
「銀バッチか金バッチのゆっくりを買いたいんですが、一番ゆっくりさせやすいのってどいつですかね? あ、れいむ以外で」
飼いゆっくり初心者の俺でもれいむ種のゲス化率の高さは知っている。ネット上のゆっくり虐待動画でも、ゲス化したれいむをいたぶる動画の数は群を抜いて多い。
「あとできればあんまりムカつかなくて、安い奴がいいんですが…」
「そうですねぇ」
おれのわがままな注文を聞いて店員はしばし思案した後、1匹のゆっくりを薦めてくれた。
「お買い上げありがとうございました!!」
俺はキャリーバッグを持ってゆっくりショップを後にした。バッグの中には1匹のゆっくりありすが入れられている。
「おにーさん。これからよろしくねっ」
「ん? ああ」
「おにいさんのおうちってどんなところなのかしら? ありすとってもたのしみだわ。おにーさんはなかなかとかいはだから、きっとおへやもとかいはなんでしょうね」
そのゆっくりありすは銀バッチで、表情もあまりムカつかず、その上お値段48000円という良心価格であった。店員に薦められて俺は即座に購入を決意した。主に値段が理由である。
「なあありす。うちで暮らす上でのルールを決めようか」
「るーるさん? そうね。るーるさんはたいせつね」
「何。大したことじゃない。ルール1。喋るな」
「え……?」
「おまえは俺がゆっくりさせてやるときに、ゆっくりすればいいんだよ。それ以外のときは黙ってろ」
「で、でも……」
「ルール2。普段の飯はなまごみだ。残さず食え」
「あ、あの……」
「ルール3。うんうんとしーしーは自分で舐めて片付けろ」
「そ、そんなのっ!それじゃあありす、ゆっくりできないわっ!」
ありすは不満そうな声を上げるが、俺はありすの方を見向きもせずに告げた。
「甘いもん食えば馬鹿みたいにゆっくりーってなるんだろ? 言っておくがお前をまっとうに飼うつもりは無い。家はこのキャリーバッグだからな。つがいも絶対に与えない。すっきりはあきらめろ」
「そ、そんな……そんなのとかいはじゃないわっ」
「うるせぇよ。つうか黙れって言ったよな? 誰の許可を得て喋ってるんだ? アマッ……ぐっ」
アマギるぞ、と続けようとした俺は全身に走る、骨と筋肉の隙間に針を刺されたような痛みに言葉を止める。同時に急激な呼吸困難も襲い掛かってくる。ユナハ病の発作だ。
「おにいさん?」
甘いものをありすに与えてゆっくりさせなければと思い、鞄をあさる。
「あ、ビスコ、食っちまったん、だ……」
不覚である。こうなればゆっくりをゆっくりさせる手段その2。すーりすーりしかない。
自慢ではないが俺は今まで100匹近いゆっくりをすーりすーりしてやった経歴がある。ただし主にアスファルトで。
震える手でキャリーバッグを開けありすを外へと出す。
「おにいさんっ? どうしたの? なんだかゆっくりしていないわよ?」
「う、うるせえ。いいから、だまって、ゆっくり、しろっ!」
俺は痛みをこらえながら、アリスの頬に手をあて、そのままゆさゆさと揺する。
「いっ、いたいわっ! おにーさんのすーりすーり、ぜんぜんとかいはじゃないわっ!」
手にこめる力が強すぎたのかありすが抗議の声を上げる。しかし痛みのせいで力加減をうまく調整できない。俺はとにかくありすをこすり続けた。
「こ、こんなの、とかいはじゃ、ん、ん、ん、んほぉおおおおおおおおお!!」
「れいぱー化、しやがった」
このありすが銀バッチの割りに安かったのはこれがあったからか。
おそらく親がれいぱーだったのだろう。すーりすーりの穏やかな振動とは違う、強い揺れを与えられたせいで、ありすの中にあったれいぱーの素質が目覚めたようだった。
「んほぉおおおおおおおおおおおお!と、ととと、とかいはっ!とかいはなまりさはどこぉおおおおおおおお!? ありすのあいをそそいであげるわぁああああああああああああああああああ!」
ありすは腰?をがくがくと振り、怒張したペニペニから薄くカスタードをたらして叫んでいる。
今すぐ潰してやりたいが、まずはゆっくりさせてからである。しかしまりさをれいぽぅさせてやる時間は無い。息苦しさと痛みは増すばかりである。
「し、仕方ないっ…」
虐待と愛での狭間で生み出された秘技を使うしかなかった。
俺は痛みとは違う意味で眉をしかめながら、ありすのぺにぺにをつまんで強くこすり。
「ん、んほほぉおおおおおおおおおおおお!?」
同時にまむまむにも指を突っ込みグニグニと刺激を与えてやる。
「ぺにぺにとまむまむをどうじにせめたら、らめえええええええええええっ!?め、め、め、めくるめくかいらくぅうううううううっ!!」
ひときわ大きく奇声を上げると、ありすはペニペニから大量のカスタード精子餡をビュクビュクと発射し、まむまむからはよくわからない液体を垂れ流した。どうやら絶頂に達したようだ。
それと同時に俺の体を蝕んでいた痛みと呼吸困難も引いていく。
強制的にひとりすっきりーをさせるのは賭けだったが、どうやら性的快楽もゆっくりすることのうちに入るらしい。どうにか発作はおさまった。
「ん、んほぉ…ら、らんぼうなのもかんげいよぉぉ。おにーさぁん。もういっかいっ、もういっかいやってぇ」
少しの間放心状態だったありすだったが、すぐにペニペニをむくむくと起き上がらせて、もう一度すっきりさせろとせがんでくる。
「二度とやるかっ。この滓タードがっ!」
「ゆげらぁっ!」
俺はありすを踵で踏み抜くと、周囲の目を気にしながら残骸を片付け、ゆっくりショップへと戻った。
「お買い上げありがとうございました!」
不良ゆっくりを掴ませたということで、ありすの残骸を引き渡し、俺は代わりのゆっくりを手に入れた。
もうれいぱー化はうんざりなので今度はゆっくりぱちゅりーである。銀バッチのものを値引きしてもらって6万4000円。ありすは返品に応じてくれたので差し引き1万6000円で銀ぱちゅりーが手に入ったと考えればお得だろう。
「むきゅ。おにーさんよろしくねっ」
「ああ。ぱちゅりー。これから暮らす上でのルールを決めようか」
「るーるさん?」
以下略。
告げるべきことを告げ、意気消沈としたぱちゅりーをつれて俺はコンビニに向かった。
発作が起こっている時にはすりすりは上手くできないということがわかったので、ゆっくりさせるには常時甘いものを携帯するしかない。
「おいぱちゅりー、一応聞いておくが、おまえは何が好きなんだ?」
コンビニのお菓子コーナーの前で、バッグに入れられたぱちゅりーに尋ねてみる。
しかし答えは返ってこなかった。
俺が喋るなといったのを律儀に守っているのかと感心してバッグの中を覗いてみる。
「し、死んでる……」
バッグの中でぱちゅりーは絶望の表情を浮かべて息絶えていた。
おおぱちゅりーよしんでしまうとはなさけない。
「いや、いやいや。お前は6万4000円なんだぞっ!?割引前は11万4000円だぞ!?円だぞ円!ペリカじゃねえんだぞっ!?」
呼びかけてみたところでぱちゅりーが生き返るはずも無かった。
おそらく中途半端に頭がよいせいで自分の未来が真っ暗であることが分かったのだろう。虚弱体質のぱちゅりーはその心労に耐え切れず、15分の移動の間に死んでしまったようだ。
「ま、まじかよ……」
今発作が起こったらまずい。俺は走ってゆっくりショップに戻った。
「お買い上げありがとうございました」
ぱちゅりーの死体の処分を頼み、俺は新しくゆっくりを買った。
今度は値引きをしてくれなかった。虚弱体質のぱちゅりーにストレスを与えることはしてはいけないと購入時に確認をしたからとのことだった。
安物買いの銭失いはもうごめんだったので、俺はクレジットカードを使い、涙を呑んで金バッチまりさを買うことにした。
店員曰く、まりさ種は体が丈夫で、足も速く、ストレスにも強いということだった。
足の速さはどうでもいいが、体が丈夫でストレスに強いというのはありがたかった。それでも21万は痛い、いたすぎる出費だったが。
「まりさはおにいさんをゆっくりさせてあげられるとおもうのぜっ! わがままさんもいわないのぜっ!」
だぜ口調は嫌だったが、矯正済みの個体だと値段がまた上がるのでそこは我慢した。
「そうか。わがままは言わないか」
「ゆっ! わがままをいうゆっくりはゆっくりできないのぜっ」
金バッチだけあって中々殊勝なことを言ってくれる。
俺はまりさにルールを告げた。
「お前の家はそのバッグだ。普段の飯はなまごみ。うんうんとしーしーは舐めて片付けろ。あと俺に何か聞かれた時以外はしゃべるな。わかったか?」
「……ゆ、ゆっくりりかいしたのぜ」
おお!なんと立派な奴。そういえばまりさ種はでかい口を叩く割りに押しに弱い部分があり、そのせいでつがいのゲスれいむにいいように使われることがあると聞いたことがある。
俺がゲスれいむと同じポジションなのは不満だが、言うことを聞いてくれるなら大歓迎だった。
「まあ、たまにはあまあまをやる。それで我慢しろ」
「ゆぅ……」
それを聞いて若干まりさの瞳に生気が戻る。
こいつとなら上手くいくかもしれない。俺は足取りかるく駅に向かい、電車にのって家へと戻った。
道中まりさは言いつけを守り、一切口を開くことはなかった。
しかし、悲劇は起こった。
家まであと数十メートルという所で再びユナハ病の発作が俺を襲った。
「ぐあっ……っ、また、発作が……」
しかし先ほどのありすのときとは違い、あまあまは準備済みである。
「よ、よし、まりさ。あまあまを、やろう」
「あまあまさんっ!? たべてもいいのぜっ!?」
「あ、ああ。存分に、ゆっくりしろ」
俺はキャリーバッグを開けて、まりさにあまあまを差し出す。
「あまあまをたべるのぜっ! むーしゃむーしゃ、し、しあわせー!」
あまあまを食べてまりさはとてもゆっくりした表情を浮かべる。それを見て俺の体から痛みが抜けてゆく。
「ふう。この痛みは慣れるものじゃないな……。おい。まりさ食ってないでとっとと戻れ」
「ゆっ? でもまだあまあまさんのこってるのぜ? のこしたらもったいないのぜ?」
「ああもったいないな。お前なんかにやるのは。残ったあまあまは砕いてアリの巣にでも撒いとくか」
「ま、まりさはありさんいかなのぜっ?」
「当然だろ」
まりさからあまあまを取り上げようとしたとき、エイトマンでも走り抜けたかのような一陣の突風が吹いた。
「ま、まりさのおぼうしがっ! おいかけるのぜっ! ぴょーんぴょーんっ!」
「コ、コラッ、勝手にっ!」
吹き飛ばされるまりさのお帽子。それを追いかけるまりさ。
捕まえようとする俺だったが、まりさの意外に素早い動きに掴み損ねてしまう。
「ゆっ! つかまえたのぜっ! おにーさんっ、いまもどるのぼげぇっ!!」
「あ、轢かれた」
飛んでいって道路に落ちたお帽子を捕まえ、ニッコリ笑って振り返ったまりさはそのまま車に轢かれた。
いくらゆっくりの中では丈夫な部類とはいえ、車に轢かれて生き残れるはずも無く。
まりさはグチャグチャの餡子屑へとジョブチェンジした。皮肉にもかぶり直す前だったお帽子は無傷でまりさのそばに落ちていた。
「なんでゆっくりはすぐ死んでしまうん?……21万だぞ、おい」
おれはまりさのお帽子を拾い上げる。キラリと光る金バッチが物悲しかった。
「これ3万円くらいで売れたり……しないよなぁ……」
どうやら俺はいままで殺す側にいたせいで、ゆっくりの死に易さというものを理解しきっていなかったようだ。
兎も角。いつまでもこうしちゃいられない。ゆっくりを、ゆっくりを手に入れなくては。
俺は来た道を引き返し、ゆっくりショップへと急いだ。
道中。俺は考えた。
発作が起こるたびにゆっくりをゆっくりさせるのはリスクが大きい。
ならばどうすればいいか。
その先を考えて俺はゾッとした。
「常に、ゆっくりを、ゆっくりさせておく……?」
考えるにおぞましい。しかしそれが発作の対策としては一番有効であるように思えた。
俺と一緒に生活すること自体がゆっくりできるとゆっくりが認識すれば、そのつどあまあまを与えたりすーりすーりをしてやらなくても発作症状を緩和できるだろう。
こうなったらなるべくムカつかない、優秀な金バッチゆっくりを買うしかない。そう考えて俺は大事なことに気づいた。
「金が、足りない……」
クレジットカードの使用限度枠は先ほどまりさを買ったことでほとんど一杯だし、アルバイト生活の俺の口座にはほとんど金が残っていない。もう1匹20万近い金バッチゆっくりを買う余裕などどこにもなかった。
「いや。考えるのは、ゆっくりショップに着いてからにしよう……」
まずはゆっくりがいるところに行かなくてはならない。今発作が起こったら非常にマズイ。
俺は道程を短縮するために普段は使わない裏道を通って駅へと急いだ。
だが。起こって欲しくないと思っていることは、常に最悪のタイミングで訪れる。
駅へと急ぐ俺の足は、激痛と乱れる息で止まった。
「ぐあ、こ、こんな時に……」
俺の記憶が確かなら、近くにゆっくりが生息しているような公園や空き地などは無かった。
「か、はっ……、ゆっくりは……、ゆっくりはいないのか……」
無駄なこととは思いつつ、俺は血走った目であたりを見渡す。しかし、そうそう都合よくゆっくりが歩いているわけがなかった。
回を重ねるごとに発作の痛みは耐え切れぬほどに激しくなっていた。立っているのも辛いほどの痛みが全身を駆け回る。
俺は最後の希望をこめて叫んだ。
「ぐぐっ、糞っ……、ゆ、ゆっくりしていってねっ!」
もしもこの近くにゆっくりがいれば声が帰ってくるはずである。
しかし「ゆっくりしていってね!」という声はどこからも帰ってこなかった。
「う、が、ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」
俺はよろめきながら、ゆっくりしていってねと繰り返す。
あんなにウザかったゆっくりの挨拶を今は聞きたくて仕方がなかった。
「ゆっくり、して、カハッ…」
もう限界だった。喉が詰まるような息苦しさのせいで、俺はゆっくりしていってね!もまともに言えない状態に陥っていた。
「うう、母さん、俺の、スーファミ、どこに隠したんだよォ」
幼い頃の記憶がフラッシュバックしてくる。あれ、これって走馬灯……?
いよいよ危険な状態に陥ってるのが分かったが、どうしようもなかった。まるで夢の中で夢と気づいたかのような感覚。行動が意識に着いていかない。
「ゆっくりしていってねっ!」
「!?」
そんな俺を救ったのは、狭い路地から響くかすかな声。確かに聞こえた。ゆっくりだ!
俺は痛む体を引きずって、声の聞こえた路地へと歩みよる。
「……れい、む?」
そこにそのれいむはいた。
一瞬迷ったのはそのれいむが、リボンももみあげを結うお飾りも剥ぎ取られて、まるで落ち武者のようなザンバラ髪をしていたからだ。
「ゆっ!おにいさんっ? だいじょうぶっ? なんだかとってもくるしそうだよっ?」
そのれいむが気遣う言葉を口にするが、俺はそれに答えている余裕は無かった。
「食えっ……っ! この、あまあま、を」
震える手でおれはあまあまをれいむに差し出した。
「ゆぅ? ……たべてもいいのっ?」
「いいから……、食え……!」
「ゆゆー! れいむとってもおなかがへっていたんだよっ! おにーさんっありがとうっ!」
普段はあまあまと見るとがっつく癖に、れいむはいちいち確認をしたり礼を言ったりとなかなか食べようとしなかった。
「はやく、食ってくれ…」
「ゆっくりいただきますっ!……ししし、しあわせーっ!しし、しあわせー!」
スゥと。俺の体から痛みが抜けた。
「ハァ、ハァ、あ、危なかった……」
俺はどこも痛まない体の素晴らしさを噛みしめながら、俺を救ったれいむを見る。
「むーしゃむーしゃっ! ゆっ? おにさんなんだかさっきよりとってもゆっくりしているよっ?」
どうにも奇妙なれいむだった。
リボンなどが無いのもそうだが、野良ゆっくりにしては小奇麗だし、なにより見ていてあまり苛立ちが募らなかった。
「おまえ、もしかして元飼いゆか……?」
「ゆっ!そうだよっ!れいむはきんばっちさんだったよっ!……でも、おにーさんが、おまえにはもうあきたっていって、れいむのゆっくりしたおりぼんさんを……ゆぅ、ゆぐすっ」
れいむは泣き出してしまった。
「れいむ、俺がお前を、飼ってやろうか……?」
「ゆ、ゆゆっ!?ほんとうっ!?」
元金バッチ。れいむ種であるのは珠に傷だが、そんなものに偶然出会えるとは、俺の運も中々捨てたものではない。
「ああ。お前をゆっくりさせてやる」
「でも、れいむはおかざりさんがない、ゆっくりできないゆっくりだよ……?」
「俺が代わりを作ってやるよ。そうすればゆっくりできるだろ?」
「おかざりさん……おかざりさんがかえってくるのっ!?」
「ああ。少し色は違うかもしれないがな」
俺はそうしてその捨てれいむを飼いゆにした。
死んだまりさの帽子を再利用して、れいむのために黒い生地に白の縁取りをしたリボンとおさげ結いを作ってやった。
れいむはゴネるかと思ったが、『お飾りが無い』ということで他の野良からだいぶ迫害されたらしく、新しいお飾りを喜んでくれた。
俺が「世界にただひとつの特別なおかざりだ」というと、
「ゆゆぅ! れいむはとくべつなれいむだよっ!」
と言ってはしゃぎまわった。
聞いてみるとれいむは、捨てられて満足にえさを得ることもできず、俺に出会わなければ餓死していたところだったという。
自分を救ってくれて、その上お飾りまで作った俺に、れいむは深く感謝して、とてもよくなついた。
俺もれいむがゆっくりできるように、おいしいごはんさんを与え、暇を見つけては遊んでやった。
「ゆうっ! おにーさんのおかげで、れいむはゆっくりできるよっ!とてもとてもありがとうだよっ!」
「俺もお前のおかげで発作に悩まされずに済むよ」
「ゆふふふっ」
「アハハハ」
俺は黒いリボンのれいむと共にゆっくりした生活を送った。
めでたしめでたし。
などということが、あろうはずも無く。
れいむとの生活が一週間続いたころには、俺は体重を4キロ減らし、胃の痛みを抑えながら生活していた。
かのドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウスが生きていたならばこう言ったであろう。
ゆっくりとは忘却するナマモノである、と。
れいむは俺への感謝の念を2日で忘れた。猫は恩を3日で忘れるというが、それ以上の薄情さである。
初日はうまく行っていた。
俺はれいむを見ても強い殺意は沸かず、時折訪れるユナハ病の発作も、ゆっくりしている、俺がゆっくりさせているれいむを見ればたちまち解消した。
「ゆぅ、おにーさんのくれたべっとさんはふかふかだよっ!」
「そうか。よかったなれいむ。是非ゆっくりしてくれ」
「おにーさんのおかげでれいむとってもゆっくりできるよっ!」
「俺もお前がゆっくりしているのを見てるととてもゆっくりできるよ」
無論。俺が本心かられいむを好いているはずもなかった。潰したい衝動を押し殺して、俺はれいむがゆっくりできるように努めていた。
3回目の発作が俺の中である種のトラウマになっており、今手元にある確実な症状緩和策を失うのがとても恐ろしかったのだ。
2日目。すでにれいむは感謝の心を忘れかけていた。
「おにーさんっ? あのねっれいむおなかすいたよっ!」
「そうか。じゃあごはんさんをあげよう」
「むーしゃむーしゃっ、それなりー!…きのうのごはんさんよりおいしくないよっ、あまあまーなごはんさんがほしいよっ!」
「し、しかたが無いなぁ、れいむは」
3日目。れいむは完全に俺への感謝を忘れていた。
それどころか自分に感謝しろと強要するようになっていた。
俺がうっかりユナハ病のことについて話してしまったのも一因である。
「ゆゆっ!ごでぃばさんのちょこれーとじゃないとれいむゆっくりできないよっ!」
「ゆっ? そのおててはなぁに? れいむがゆっくりしないと、おにーさんはゆなはびょうでしんじゃうよっ? それでもいいのっ?」
「おやおやっ?おにーさんなんだかゆっくりしてないよっ? れいむをみならってゆっくりしてねっ!」
「ねぇおにいさん。ゆっくりしたれいむにおれいはないの?ねぇ?ねぇ?」
「アリ、ガトウ、れいむ」
「ございますっはっ? おにーさんにはかんしゃのこころってものがないのっ!?」
「アリガトウゴザイマス、レイムサマ」
「ゆっ!よくできたねっ! ごほーびにれいむのうんうんをかたづけさせてあげるよっ!」
そんな具合である。
憎たらしくてたまらないれいむと、俺は24時間行動を共にしなければならなった。
ストレスは加速度的に貯まっていった。
特に辛かったのが、大学の授業である。
大学側に事情を説明して、れいむを連れて授業を受ける許可は得ているものの他の学生にはそんなことは分からない。
「なぁにアレ。ゆっくり連れて講義うけてるぅ」
「クスクスッ。どんだけ愛でなのぉ、マジうけるんですケド」
「やめて欲しいよなぁ、こっちが不愉快になるっつうの」
他の学生のささやきが俺のガラスのハートを傷つける。しまいにはクスクスという笑い声だけで、自分が笑われているような気になって、常にビクビクする有様だった。
その上。講義中でもお構いないにれいむは騒いだ。
「ゆっ!にんげんさんがいっぱいだよっ! もしかしてれいむのおうたをききにきたのかなっ?」
「いや、違うぞれいむ。あの人たちは……」
「だれがそんなこたえをいえっていったのっ!? みんなれいむのおうたがききたいにきまってるよっ!」
そうやってれいむは歌い始める。
「ゆっくりのひー!まったりのひー!すっきりのひー!」
黙々と授業を受けていたほかの学生は何事かとこちらをみる。露骨に舌打ちをするものまでいる。
講師の教授も、直接文句は言わないが、黙らせろとこちらを睨んでくる。
「おいれいむ。お願いだから静かにしてくれ……」
「どうして?おうたはとってもゆっくりできるよっ!にんげんさんたちもしずかにきいてるよっ!」
説得を聞き入れようとしないれいむを連れて俺は教室から去ることがままあった。おそらくいくつかの授業は確実に単位を落としたであろう。
ちなみにアルバイトのほうはれいむを連れて行った初日にクビになった。
それはそうだろう。レジの横に姦しい饅頭がいたら、だれだって購買意欲を失うに決まっている。
俺の生活はむちゃくちゃだった。
そして。
「ゴホッ、ゲホッ、あ……、血だ」
れいむと暮らして一ヶ月経ったころ、激しく咳き込んだ俺は喀血していた。
もしかしたらユナハ病が進行したのかと危ぶみ、俺は病院へと行った。
「胃にひどい炎症ができていますね。生活習慣が激変したり、何かストレスを抱えていらっしゃるのはでありませんか?」
俺をユナハ病と診断した医者はいけしゃあしゃあとそんなことを言った。
「いや、ユナハ病の、せいで、ゆっくりを飼わなくちゃいけなくて、それが、辛くて、辛くて……」
ちなみに病院内でゆっくりを連れまわすわけには行かないということでれいむは預かってもらっている。
つかの間のれいむからの開放感と、発作が起こったときへの不安。
俺はすがる様に医者に尋ねた。
「どうにか、ならないんですか……っ!」
俺の切なる訴えに対して返ってきたのは間の抜けた返事だった。
「あー、えー、もしかして、連絡行ってませんか……?」
「……え?」
「ユナハ病、治療法が見つかったんですよ」
そうしてあっさりと。俺のユナハ病は完治してしまった。
ユナハ病の脅威から逃れて一ヶ月。
俺は健康そのもので、新しいバイトも始め、順風満帆な学生生活を送っていた。
そして。今日俺はれいむと共に市民公園へと散歩に来ていた。
「ビスコうめぇな……」
俺は公園のベンチに座り、ビスコをかじる。
目の前ではとてもゆっくりできる光景が繰り広げられていた。
「ゆっくりできないれいむのなのぜ!まりささまのたいあたりをくらうのぜっ!」
「れ、れいむはゆっくりでき、げふぅうううううっ!」
「くろいおりぼんなんてとかいはじゃないわ。ほんとうにいなかもののれいむねっ!」
「ちがうよっ!せかいにただひとつのとくべつな、げはぁあああああっ!」
れいむは公園に住む野良ゆっくりたちと楽しそうに戯れていた。そんなのどかな光景を見ながら食べるビスコは格別である。
「よーしおまえら。れいむと遊んでくれたから、約束どおりあまあまをやろう」
「ゆっ!まりさがいちばんたくさんれいむとあそんだのぜっ! だからいちばんたくさんちょうだいなのぜ!」
「あら、ありすだってれいむにとかいはなきょういくをしてあげたわよっ!」
「喧嘩するな。あまあまは沢山あるからな」
「がーつがーつ、これめっちぇ、うげえええええええええっ!」
「これどくはいってるうううううううう!?」
俺は特製タバスコチョコ(遅効性)を野良ゆっくり達に与えると、ズタボロになったれいむをやさしく持ち上げる。
「ほら、れいむ。帰るぞ。お前にはおうちでたくさんあまあまをやるからなァ」
「ゆ、ゆゆう、おにーさん、もういやだよぉ……、れいむはおちびちゃんをたべたくないよぉ……」
「そんなこと言って。お飾りがないおちびは旨そうに食ってたじゃないか。れいむはツンデレさんだなァ」
俺から多くのものを奪ったユナハ病だったが、ただひとつ素敵な贈り物をしてくれた。
それは飼いゆ虐めという新たな虐待ジャンルだった。
それまでの俺はゆっくりを見れば即座に殺してしまう、虐待師ならぬ虐殺師だった。
それがれいむとの生活により、忍耐力が養われ、ゆっくりを殺さず苦しめ続けることがきるようになったのだ。
「帰ったらまず傷を治してやる。そしたら適当なれいぱーに犯しまくってもらって、生まれたおちびちゃんを食わせてやるからな。それともおちびちゃんにつまようじを渡して、お前をめった刺しにしてもらおうか? おまえのおちびっておまえに似て馬鹿だから、おかざりを外したお前を喜んで半殺しにしてくれるぞ」
「い、いやだよぉぉぉ!」
「嫌か? それじゃあまたアレやるか。おまえのおちびたちを一箇所に閉じ込めて、1匹づつお飾りを奪ってくやつ。最高だよな。自分の姉妹を見て『れいみゅのいもーちょをどきょへやったの!ゆっくちちてないゆっくちはちね!』って、虐め殺すんだから。おまえもアレ好きだよな? 泣くほど喜んでたし」
まだまだれいむと一緒にやりたいことは沢山あった。
蝋燭を頭の上に立ててやったり、まち針で体を飾ってあげたい。
湿気のこもった引き出しに入れて、体をカビだらけにもしてやりたい。
それとも一度つがいを与えてやって、幸福の絶頂で家族を崩壊させてやるのもいいかもしれない。
「おまえのおかげで新しいゆ虐に目覚められたよ。ありがとうなァれいむ」
「ゆぐっ、ゆぐぅ……もう、ごろじてぇぇぇ」
「何を言ってるんだ。おまえは俺の大事な飼いゆっくりだからな。絶対に殺さないぞ。絶対にな」
さぁ君も素敵な飼いゆいじめの世界に飛び込む?
→YES
はい
完
あとがき
すでにありそうなアイデア。
そしてそれをうまく使いきれない自分。
むしろ『ゆっくりしていないゆっくりを見る』ことで症状が緩和される病気に、幸せなゆっくり一家が罹患する話のほうがよかったかもしれません。
過去作品
anko1484 ゆっくり愛護法改正案可決
anko1517 ゆっくり愛護法改正案可決 完結編
anko1786 ゆるめの冷たい方程式① ~ちいさなまとまり~
anko1787 ゆるめの冷たい方程式② ~いきのこるために~
anko1816 ねないゆだれだ