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anko2591 学校:秋(後編)
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『学校:秋(後編)』 34KB
虐待 不運 日常模様 れいぱー 現代 結束。そして・・・ 以下:余白
『学校:秋(後編)』
八、
「い゛だい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ!!! ……ん゛ゆ゛ぼぉ゛ッ??!!!」
男子の鋭い蹴りがれいむの顎の辺りにめり込んだ。壁に追い詰められたれいむは後方に飛ばされることもできず、その衝撃の
全てを顔で受け止めるしかない。散々暴行を受けてきたせいか、れいむの皮は他のゆっくりに比べれば丈夫になっているようだ。
別の男子がぐったりしているれいむの髪の毛を掴んで持ち上げた。髪の毛がちぎれそうになる痛みに歯を食いしばりながら「や
めてね、やめてね」と身を捩らせて訴えかけてくる。しかし、そんな訴えを聞くような男子ではない。手首のスナップを利かせ
て、れいむの顔面を激しく教室の後ろの壁に打ち付けた。
「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ……」
餡子を大量に吐き出し、白目を剥いて痙攣を起こしている。放っておけば一時間も経たないうちに死んでしまうだろう。呻き
声を上げるれいむをその場に置いて、机の中から給食に出てきた紙パックのオレンジジュースを取り出した。それをれいむの口
の中へと注ぐ。
「ゆゆっ?! あ、あまあまっ!!!」
瀕死だったはずのれいむの目に光が戻り、きょろきょろと周囲を見渡す。半強制的に意識を取り戻させたのだ。錯乱しても別
におかしくはない。しかし、すぐに直前の激痛がれいむの全身を襲う。「ゆ゛ぎぃ゛ぃ゛ぃ゛」と声を漏らし、教室の床をごろ
ごろと転がった。そのれいむを箒の柄を使って執拗に殴打する。固い木製の柄とれいむの柔らかい皮が打ち合わされる度に小気
味良い音が教室内に響き、それに合わせてれいむがドプッ、ドプッと中身を吐き出した。
「ごべ……な゛ざ……だずげ……で……。 ゆ゛っぐり゛……じだ……い……」
れいむの言葉を遮るように泥と埃まみれになったれいむの尻を蹴り飛ばす。吹き飛んだれいむは、教室の壁に叩きつけられて
跳ね返ってきた。また、痙攣を起こし始めたので残りのオレンジジュースを飲ませた。
「たすけで……もう゛、や゛めでよぅ……。 いや……いやぁ……ゆ゛っ、ゆ゛っ……」
「助ける理由がないもんなあ。 俺たちはお前を痛めつけて遊んでるだけだし」
「どぉして……そんなごど、ずる、の゛……」
「お前がムカつくからだよ。 何にもできやしねぇ、ゆっくりのくせに自己主張ばっかりベラベラしやがって……。 何が、ゆ
っくりしたい、だ。 させるかよ、この糞饅頭が」
「ゆ゛っぐり……ゆっぐり゛……」
意識はあっても朦朧としているせいか、自分の願いをうわ言のように繰り返すれいむ。東風谷さんの事が好きなメガネの男子
は、東風谷さんを泣かされた一件以来、ゆっくり関係のサイトを飛び回っていたらしい。その過程で見つけたオレンジジュース
によるゆっくりの回復は、男子たちのれいむ虐めに革命を起こしたのである。
「良くやったぜ、お前~!」
「う……、うん……。 こいつ、死なせないように痛めつけようよ。 死なせちゃったら楽にさせちゃうから……絶対、そんな
ことはしないよ」
メガネの男子は心の底かられいむの事を嫌っているようだ。れいむの頭をリボン越しに踏みつけて、足の裏をグリグリと押し
付ける。床に唇を擦り付けられる屈辱と、大事なリボンを踏みにじられる悔しさが、れいむの涙の量をどんどん増やしていく。
「ゆ゛ぶぶぶぶぶ……」
「おらぁ! さっさと気絶しろよっ! 何回でも起こしてやるからよっ!!!」
そう言ってまた、三人がかりで全身のあらゆる箇所を蹴り続ける。れいむはどこの痛みに対して集中すればいいのか分からな
い。ただ、ただ、ひたすらに意識を失うまでいつ終わるとも分からない暴行に耐え続けるしかなかった。やがて、また口から中
身と泡を吐いて白目を剥き、ぐったりして動かなくなる。そこにオレンジジュースを与える。また、目覚める。
「ゆ……ゆんやぁぁ……ッ!!!」
れいむはここ数日間、男子によって、殴られる→気絶する→起こされる→殴られる……を毎日繰り返していた。女子がれいむ
のバリケードとしての役割を果たさなくなってから、放課後にれいむと“遊んでやる”時間が飛躍的に増えた。おかげでれいむ
は毎日毎日男子に殴られ続けてしまう。
今日の分の“遊び”が終わって水槽の中に放り込まれたれいむはベコベコに皮を凹ませており、汗か涙か涎かしーしーか判別
できないような液体が水槽の底に付着している。それを見て汚いと思った男子はれいむを持ち上げて逆さにし、リボンを雑巾が
わりにしてそれらの液体を拭き取った。れいむは、「ゆぅ……、ゆぅ……」と短く声を出すばかりである。そんなれいむの頭を
リコーダーで数発殴ってから、ようやく男子は家路についた。
「れいむ……どうして……こんなめにあわないといけないのぉ……。 なんにもわるいことしてないのにぃ……」
「やはりゆっくりは浅はかですね。 私が子供の頃(幼稚園の頃)からまったく変わっていない」
「ゆげぇッ?!!」
突如として現れたのは聖さんと村沙ちゃんと寅丸さんの三人である。寅丸さんがれいむのリボンごと髪の毛を掴んで水槽から
引きずり上げた。今日はもう痛い思いをしないで済む、と思っていたれいむは既にしーしーをちょろちょろと漏らしている。そ
んなれいむの顔面に村沙ちゃんが思いっきり柄杓を打ち付けた。バチィィィンという皮が弾けるような音が聞こえる。れいむは
揉み上げを振り回しながら泣き叫んだ。
「仏の顔も三度まで、という言葉があります」
「……って、聖さんが単にれいむに腹が立ってるだけでしょ?」
れいむは何を言っているのか分からないと言った様子で怯えながら聖さんを上目遣いで見上げた。
「聖……本当にいいのでしょうか? 仮にも聖はお寺の娘ですよ……。 無益な殺生は控えたほうがいいのではないかと」
「殺生? 寅丸。 それは少し違うわね。 ゆっくりはただ動いているだけで、生きてなどはいない」
女子の連帯感は強い。非常に強い。その中でも特に聖さんは人と人との繋がりを重んじる。紫ちゃんの件、東風谷さんの件。
どれも腸が煮えくり返る思いではあったが、運動会終了後のれいむの言葉は聖さんの逆鱗に触れた。まさに魔神降臨。聖さんは
寅丸さんから受け取ったれいむを掴んだまま思いっきり机に叩きつけた。額を強打したれいむだが聖さんの力のほうが勝り、跳
ね返る事による衝撃の吸収ができない。今の一撃でれいむはすでに気が遠くなりつつあった。オレンジジュースの事は、村沙ち
ゃんも事前に突き止めており、すぐに缶ジュースの蓋を開けてれいむの頭にバシャバシャとかけ始める。失いかけた意識を無理
矢理戻らされるれいむは只々、泣き叫ぶしかなかった。その声すら耳障りと感じたのか、寅丸さんは工作セットの中に入ってい
た粘土をれいむの口へと押し込んだ。
「ん゛ゅ゛ぅぅ゛ぅっ?! んっ! ん゛う゛っ!!! ゆ゛う゛ぅ゛ぅ゛う゛ぅ゛~~~!!!!」
叫び声が雑音に変わる。聖さんは寅丸さんに廊下を見張っているように指示を出し、自分は机の中から彫刻刀を取り出した。
「――――いざ、南無三ッ!!!」
校舎をビルに例えるならば、夕焼けに照らされたこの地はまさに黄昏の摩天楼。彫刻刀のうちの一本、切り出し刀を構えて、
れいむに百連突きを浴びせる聖さん。
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!!!!!」
顔を刃物で刺される痛みは、れいむがここに来てから初体験である。皮を突き破った切り出し刀の先端がれいむの中身に触れ
る。凄まじい激痛がれいむを襲っていることだろう。その痛みは、殴る蹴るの暴行とは比較にならない。花火で炙られもしたが、
この痛みに比べれば可愛いものだと思えてしまうほど、れいむは体力を一気に奪われてしまった。正直言ってここまでやれば餡
子を全て吐き出すことによる出餡多量で死んでしまっていても可笑しくはない。しかし、それは口に詰め込んだ粘土が許さない
のだ。れいむは抵抗することもできず、叫ぶこともできず、中身を吐き出すこともできず、聖さんによってひたすらに刺され続
けた。れいむの顔という顔に切り出し刀によって貫かれた傷跡が刻まれていく。正直、村沙ちゃんはドン引きである。
「ひ、聖さん……ちょっと……いくらなんでも……死ぬんじゃ……」
そう言いながらも冷静にパシャパシャとオレンジジュースをかける村沙ちゃん。れいむは目玉をぐりんぐりんと動かしながら、
ぐったりしている。粘土と唇の隙間から涎がべちょべちょと垂れ流されていた。
ようやくれいむが解放される。無数の切り傷は用意していた水に溶かした小麦粉で全部塞がれていた。見た目、外傷はなく、
ひたすらオレンジジュースをかけられ続けていたれいむは、瀕死にすらなってない。むしろ、教室の中を逃げ回っていた。
「こないでねっ! こないでねっ!! どぼじでごっぢにぐる゛の゛ぉ゛ぉ゛!!!」
聖さんは自分の怒りを余す所なくぶつけて満足したのか、うっかりれいむを手から離してしまったのである。その隙をついて
猛然と跳ねて逃げようとはしてみたものの、所詮はゆっくりのあんよ。すぐに追いつかれてしまう。村沙ちゃんと寅丸さんは、
そんないつでも捕まえることのできるれいむをわざとゆっくり追いかけて、助かるかも知れないという希望とやっぱり無理かも
知れないという絶望を交互に与え続けて遊んでいたのだ。
「れいむ……もう……げんっ、かい……」
「限界なんてないわよっ!」
村沙ちゃんがれいむを渾身の力で蹴り飛ばす。れいむはロッカーとロッカーの間にある木製の仕切りに顔を強打して、痛みに
床を転げ回っていた。村沙ちゃんは思わずニヤリと笑ってしまう。寅丸さんはれいむを追いかけるだけに終始していた。聖さん
はもうれいむに興味が失せたのか、学級文庫の棚に置いてあった空飛ぶ円盤の本を読みふけっている。
「もう、やめてよぉぉぉ!!!」
「あははっ! 男子の気持ち、わからないでもないなーっ」
必死に懇願し続けるれいむの頭を踏みつける。床に顔を押し付けられたまま揉み上げをぴこぴこと振り続ける様に、村沙ちゃ
んはなんとも言えない快感を感じていた。れいむの頭を足の裏で押さえつけたまま、柄杓でれいむのお尻を執拗に殴打する。れ
いむのお尻は見る見るうちに真っ赤に腫れ上がって行った。聖さんがそんな村沙ちゃんをチラリと見て尋ねた。
「村沙ちゃん? その柄杓って……」
「うん。 聖さんとこのお寺の柄杓だよ。 一本持ってきた」
「なんでわざわざ……」
「も……やべ……で……」
切れ切れに呼吸をしながら、蚊の鳴くような声で訴えるれいむ。辺りはすっかり暗くなってしまっていた。三人はもう一度、
れいむに対して治療を施すと、仲良く教室を出て行った。
水槽の中で泣き続けるれいむ。もう、ここにいるのが嫌で嫌で堪らなかった。それどころか、もう「永遠にゆっくりしたい」
とさえ思っていたのだ。しかし、水槽の中に閉じ込められているれいむに自殺はできない。顔しかないので、何か別の物を使わ
なければ自らの命を絶つことができないのだ。
「……おうち……かえる……。 おうち……れいむのおうち、どこぉ……? もう、ここはいやだよぉ……」
涙を流し続けるれいむに優しい言葉をかけてくれる者はいない。悩みを聞いてくれる相手もいない。自分の存在が認められず、
それを自分で理解していながらもここにいることしかできない。れいむの味わっている苦しみは現代社会の“いじめ問題”と同
じものだったのである。
守ってくれる存在もいなくなってしまった。誰からも存在を許されていないのに、その存在を消すことさえも許されない。れ
いむは何度も思っていたのだ。そんなに自分の事が嫌いならここから逃がしてくれればいいのに、と。そのほうがお互いにとっ
ても幸せなのに、と。
過激派で双葉小の核弾頭と言われている霊烏寺(れいうじ)くんや、れいむの事を「厄い、厄い」と言い続けていた鍵山くん
は一度、冗談交じり半ば本気で「殺してどっかに捨てれば?」と言っていたが流石にそれは実行できなかった。れいむを完全に
殺してしまう事の恐怖。それが本音で建て前は上白沢先生と飼うと約束したから、という事だろう。
運動会で大敗した日から一週間が過ぎ、クラスの雰囲気は四月と比べて嘘のように明るくなっていた。皆で一つの事を成し遂
げようとしたクラスの絆がどんどん強く、太くなっていく。散野くん、大ちゃん(ニックネーム)、白石くんの三人が、諏訪子
ちゃん、東風谷さん、八坂ちゃんと話をしていた。
「だぁかぁらぁさっ! 蛙は、ケツの穴にストロー刺して膨らませるのが面白いんだって!」
「散野は相変わらずガキだなぁ……」
「白石くんだって似たようなもんだよ」
「その……汚くはないんでしょうか……」
「あっはっは。 無駄だよ、男子という生き物にそういう概念はないさ」
「っていうか、蛙虐待はんたーーーーいっ!!!」
笑い声に包まれる教室。学級委員長である紫ちゃんも嬉しそうに微笑んでいた。
「ゆげぇっ!! ぺっ! ぺっ! や、やめてね、やめてねっ! もくもくさんはゆっくりできないよっ!!」
いつかのように黒板消しを水槽の中ではたかれて、チョークの粉まみれになったれいむが涙ながらに訴えかける。水槽の前で
は数人の男子が笑い声をあげていた。涙目になったれいむを見てはクスクスと笑う女子たち。ニヤリと笑った散野くんがれいむ
のリボンを掴んで水槽から引き上げる。
「や、やめてねっ! おろしてねっ! はなしてねっ! こわいよぉぉぉっ!!!」
この状態にされてから碌な目にあったことがない。流石の餡子脳でもそれを理解しているのか、れいむは既におそろしーしー
を漏らしていた。
「何ビビッてんだよ? 俺は、お前を洗ってやろうとしてるだけだろ?」
そう言って手洗い場にれいむを放り込んで蛇口を捻る。まるで行水のように強い水圧がれいむの頭頂部を襲う。水に弱いれい
むは、水に晒されただけで声にならない悲鳴を上げた。れいむの口を押さえて、慌てて教室に戻ってくる散野くん。自身も水に
濡れていながら楽しそうに笑うその姿は風の子と呼ぶに相応しい。ずぶ濡れのれいむを適当に雑巾でくるんで拭いてやるのは、
大ちゃんだ。東風谷さんはハンカチで散野くんの顔を拭きながら、
「大丈夫ですか? 風邪をひいてしまいますよ? もう、寒くなってきましたし」
「大丈夫! 俺、最強だから!!」
「出た! 散野の最強!!」
また一つ。教室に笑顔の花が咲く。水槽の中だけ別の世界のようだった。どう足掻いてもあの輪の中には入れない。これまで
の事でそれは完膚なきまでに理解させられているはずだったのに、どうしても自分もあの輪に入りたいと願ってしまう。しかし、
それを口に出すのはとてもとても恐ろしいことだった。今の空気を壊したら、蔑みの視線を一身に浴びてしまう。それから、ま
た水槽の外に出されて、殴る蹴るの暴力を振るわれるのだ。……相手が満足するまで。
だから、れいむは生徒たちから顔を背けた。迂闊に泣くことも許されない。一昨日はれいむが泣いていたから、もっと泣かせ
てやろうと集団でリンチを受けた。ゴミ箱に投げ込まれたこともある。インターネットで知識を得始めているのか、無理矢理、
激辛のスナック菓子を食べさせられもした。
れいむは悲しくて悲しくてたまらない。こんなに構ってほしいのに、構われるときは厭な思いしかさせられなかった。れいむ
が声も出さずに流した涙には、誰一人として気付かない。
夜がまた来る。一人ぼっちの夜が。朝がまた来る。孤独に震える朝が。
翌日の放課後。教室に残っていた生徒数名がニヤニヤしながら水槽の前に集まってきた。れいむはもう、それだけで歯をカチ
カチと鳴らして震えている。体中から嫌な汗が噴き出してきた。怖くて怖くて意識さえも失いそうになる。暑いのか寒いのかさ
えも区別がつかなかった。
「今日は、いつも一匹で寂しがってるれいむに友達を連れてきてやったぜ」
「!??」
思いもがけない男子の声。しかし、その後ろで陰鬱な笑みを浮かべている残りの生徒たちがれいむの不安感を激しく煽る。し
かし、“友達”という言葉に体はどうしても反応してしまう。チラリと後ろを見た。
「んっほおおおぉぉぉぉ!!! とかいはな、れいむねぇぇぇぇ!!!! ありすがすっきりー!してあげるわあああああああ」
「ゆ……ゆんやああああああああああああああああああ!!!!!!」
初めて見たはずのれいぱーありす。それでも、れいむはそのありすが放つ負の感情に畏れ慄き揉み上げをきゅっと内側に折り
曲げた。男子はそこらで適当に捕まえたありすを揺すって発情させたのである。そして、興奮冷めやらぬありすをれいむの前に
連れてきたのだ。
「れいぱーはゆっくりできないぃぃぃぃ!!!!」
「んまあぁぁっ!!! れいむったら、つんでれさんなのねぇぇぇぇ!!!! すぐにかわいがってあげるわぁぁぁぁ!!!!」
ありすの台詞回しにニヤニヤと笑う男子たち。女子はさすがにドン引きしながらも、ありすの動きを見つめていた。
「やべでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!!」
「かわいいれいむねぇぇぇぇぇ!!!!」
水槽に放たれたありす。れいむに逃げ場はない。すぐに押さえつけられて、ゆっくりたちの交尾が始まる。女子はその様子を
見るたびに「きゃー」などと言っていたが、その様子をしっかりと凝視していた。激しく犯されるれいむを見て、生理的嫌悪感
を抱いたのか数人の女子は黙って教室を出て行く。
「い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!! れ゛い゛む゛のばーじんざんんん゛ん゛、いぢばん゛す゛ぎな゛ゆっぐりにあげだがっだ
の゛に゛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!」
「ヴァージンって……クスッ」
女子が笑う。男子はもうゲラゲラと腹を抱えて笑っていた。持っていたプラスチックのバットでありすの頭をボコボコ殴る。
「ん゛ほおぉッ?! じゃま゛をじないでね゛ぇぇぇ!!!!」
「おら、ありす!!! もっと腰振れよっ!!!」
「やっだぁ……////」
小学校高学年。それなりの性の知識も得ている。泣きながら抵抗を続けるれいむを尻目に生徒たちは大盛り上がりだ。やがて、
れいむの頬が紅潮していく。それはありすも同じで動きはますますヒートアップしようとしていた。
「ゆ……っ//// ゆひっ……ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆゆゆ……ッ!!!」
「んぅっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「すっきりーーーーー!!!!」
「す……きり……」
事を終えたばかりのありすを水槽から引きずり出して、れいむに対してするような暴力を放つ。性行為を終えたばかりのあり
すはほとんど抵抗できずに痛めつけられていく。性欲も薄れてしまったのか、ぺにぺには当の昔に引っ込んでしまったようだ。
滅多打ちにした野良ありすを教室の窓から放り投げる。「ゆ゛べっ」という悲鳴と共に「ゆっくりにげるわ」という声が聞こえ
てきたので無事なことは無事なのだろう。
そして。
「ゆぐっ……えっく……。 れいむの……ばーじんさん……ばーじんさんが……」
泣きじゃくるれいむの額には、実ゆっくりの赤れいむと赤ありすが実っていた。それが視界に入ると、れいむは泣きながら笑
顔を浮かべる。男子も女子も、れいむのその様子を見て呆けてしまった。れいぱーの子供である。さっきまでは、ヴァージンが
どうだとか言っていたのではなかったのか。生徒たちが互いの顔を見合わせる。
「「ゆっくちしちぇいっちぇにぇっ」」
「ゆっ、ひっく……れ、れいむの……ちび、ちゃん……。 ゆっくりして……いってね……っ」
「ゆっくちしゅりゅよっ!」
「おきゃーしゃんっ! ゆっくち! ゆっくち!」
衰弱した身体のせいか、茎には二匹の赤ゆっくりしか実らなかった。悲しいのだろうか。悔しいのだろうか。それとも、嬉し
いのだろうか。れいむは複雑そうな表情をしていたが、実った赤ゆに向ける視線は輝いているように見えた。
それは、茎の赤ゆがれいむに返事を返した時に一層強くなったように思う。そこに、男子が一歩歩み寄った。生まれたばかり
の赤ゆたちが悲鳴を上げた。
「ゆんやぁぁぁ!!! にんげんしゃんは、ゆっくちできにゃいぃぃぃ!!!」
「おきゃーしゃん、ありしゅをたしゅけちぇぇぇぇ!!!」
それから。一同が目を丸くする事態が起きる。
「……ぷっくぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
れいむが。さっきまで怯えて泣いて、震えていたれいむが……。男子に向けて威嚇を行ったのである。その目にはうっすらと
涙を浮かべていたが、男子から一瞬たりとも目を離そうとしない。
「こっちにこないでねっ!!! れいむのかわいいかわいいちびちゃんは、れいむがぜったいにまもるよっ!!!!」
強い意志。望まない子供であったかも知れない。そんな思いは、茎に実ったばかりの赤れいむと赤ありすの笑顔を見て、吹き
飛んでしまった。今日の今日まで孤独で、一匹寂しく生きてきたれいむ。そんな、れいむにとって……二匹のちびちゃんは、大
事な大事な存在に思えたのだろう。だから、れいむは誓ったのだ。絶対にこの二匹の赤ゆを立派に育ててみせると。絶対に自分
と同じような辛い思いはさせないと。
「……あ?」
男子の額に青筋が浮かぶ。握りしめた拳はぶるぶる震えていた。そんな男子から放たれる殺気を前にしても、れいむは威嚇を
解かない。その表情は、まさに母親のそれだった。
「はやくどこかへいってね!! れいむ、おこってるよっ!!!!」
怒っている。その言葉が男子の怒りに火をつけた。すぐに水槽の中に手を伸ばす。
「ゆんやああああぁぁぁぁぁ」
「きょわいよぉぉぉぉぉ」
しかし、れいむが巧みに顔を動かして茎に実る赤ゆを守っている。業を煮やした男子はれいむの頭をいつものように水槽の床
に押し付けた。すぐにもう一人の男子がフォローに入る。
「ゆ゛んぐっ……ゆ゛ぎぃぃぃぃ!!! はなぜぇ、ばな゛ぜえ゛ぇ゛ぇ゛ッ!!!!」
いつもなら、顔を床に押し付けて身を守るのに、今は目の前でゆらゆらと揺れる茎に実った二匹の赤ゆしか見ていない。その
目には凄まじい怒りが込められていた。しかし、その怒りは逆に男子の神経を逆撫でしてしまう。
「おきゃあぁしゃあぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
「れいむのちびちゃんに、きたないてでさわるなあああああああああああああ!!!!!!」
男子が、ぶら下がっていることしかできない赤れいむの顔を指で摘まんだ。瞬間、おそろしーしーをぶちまける赤れいむ。れ
いむは恐ろしい形相で「やめろぉぉぉぉぉぉ」と叫び声を上げた。赤れいむは滝のように涙を流しながら、か細い声で母親であ
るれいむに助けを求める。
ゆっくりを殺す事。煮えくり返る感情が、男子の背中を後押しした。あるいは、突き飛ばされてしまったのかも知れないが。
「おきゃ……しゃ、たしゅけちぇ……」
「ちびちゃんっ! れいむがぜったい――――」
「びゅぎぇッ??!!!」
男子が指に力をかけて、生まれたばかりの赤れいむを壊した。飛び散った餡子がれいむの頬に付着する。
「………………ゆ?」
裂けて崩れてしまった皮。そこからボトボトと零れる餡子。少し軽くなった茎。向けられない笑顔。消えてしまった命。ちび
ちゃん。
「ゆ……あ……」
男子も女子も固唾を飲んで水槽の中のれいむを見ている。赤ありすは恐怖のあまり、言葉を失ってしまっていた。その赤あり
すに手をかける。
「ゆゆっ?! ゆっくち? ゆっくち?! ……ぴぎゅっ!!!!!」
「う……う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!!!!!!」
絶望に満ちた表情。見開かれた目玉。引き裂けんばかりに開かれた口。今までのどの叫びよりも凄まじい絶叫。それかられい
むは体中の水分がなくなってしまうのではないかと思うほどに大量の涙を流した。
「どぼじで……どぼじでごんな゛ごどずる゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ!!??? じね゛ぇ゛っ!!! ゆ゛っぐり゛でぎない゛
にんげんざんは……じね゛え゛ぇ゛ぇ゛え゛ぇ゛え゛え゛!!!!!!!!」
狂ったように泣き叫び、「死ね、死ね」と繰り返すれいむ。一人の女子が歩み寄る。
「……ねぇ。 その茎、引き抜いておかないと……色々とばれちゃうんじゃない?」
それもそうだ、と男子の一人が茎をブチッと引き抜く。一瞬だけれいむは苦悶の表情を浮かべたが、解放された瞬間、水槽に
転がった茎とそれに実る赤ゆの残骸に舌を這わせ始めた。泣きながら、必死に。舐めてあげれば死んでしまったちびちゃんたち
が生き返ると信じて。
「ぺーろっ、ぺーろっ、ぺーろぺーろっ!!!! ゆっくり……なおってねっ! おかあさんをひとりにしないでねっ! ちび
ちゃん……ちびちゃあん……おねがいだから、おめめをゆっくりあけてよぉぉぉぉ……ッ!!!」
しかし砕かれた新しい命は反応を示さない。その伸ばされた舌に、男子がカッターナイフを突き立てた。
「ゆ゛ぎい゛ぃ゛ィィィィッ?!!!」
「ムカつくな、お前」
「ゆ゛っ!?」
「死んでんだよ、てめぇのガキはよ」
「ゆ゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ッ!!!」
揉み上げをばたつかせる。そんなことはない、と否定しているのだろう。男子はそれを見て、失笑すると茎を水槽から取り上
げた。同時にカッターナイフも引き抜かれる。
「がえ゛ぜっ!!! がえ゛ぜぇ……っ!! かえじでぇ……。 れいむといっじょにゆっぐりする゛の゛ぉぉぉ……っ。 お
ねがいだからちびちゃんを……」
「うるさい」
女子の一人がれいむの後頭部に拳を撃ちこんだ。呻き声を上げながらも、「おねがいします、おねがいします」と繰り返すれ
いむに腹が立ったのか、居合わせた生徒たちはれいむを水槽から引っ張り上げてモップや箒の柄で飽きるまで殴り続けた。
それから、ようやく解放されるれいむ。時間にして一時間にも満たない短い一時。ぼろぼろの身体を動かす気力も体力も残さ
れていない。痛みに呻くことさえ、面倒だと感じた。真っ暗闇の教室。浮かんでは消える、ちびちゃんの笑顔。
(……ちび、ちゃん……くらくても、こわくないからね……おかあさんが、ついてるからね……)
言葉にできないから心で語りかける。心の中の言葉にさえ、誰も返事を返してくれなかった。それが悲しくて堪らなかった。
この孤独の寂しさが解放されると思ったのに、その希望は一瞬で叩き壊されてしまったのだ。
体の痛み。心の痛み。孤独の寂しさ。失う絶望。れいむは暗闇の中で泣いた。泣いたと言えるのだろうか。れいむに、今、自
分が泣いているという意識はなかった。
(ちびちゃん……おかあさんといっしょに……ゆっくり、しようね…………。 ゆっくり……ゆっくりだよぅ……)
⑨、
あの日以来、れいむは廃ゆの様になっていた。ぼんやりと水槽から見える世界を視界に入れるだけの日々。生徒たちも文化祭
準備の追い込みが始まってきたせいか、れいむに関わる者はほとんどいなくなってしまっている。運動会直前の再現と言ってい
い。
しかし、今回は室内での作業が中心だ。紫ちゃんたちのクラスはお化け屋敷。西行寺さんたちのクラスはメイド喫茶をやるら
しい。十六夜さんが異常なほどに張り切っていたのが微笑ましかった。今回は学校全体の各クラスの出し物に評価点がつけられ
る。とは言っても、大抵一位と二位は六年生が奪っていくのだが。それから、各クラス代表での百人一首大会。これについては
やるまでもなく、輝夜ちゃんが優勝するだろう。輝夜ちゃんは一年生の頃からずっと連続優勝だ。対抗できるのは五年生の稗田
さんくらいだろうか。それが分かっているから、両クラスとも百人一首大会の結果は勝負の内容に入れていない。
さて。
「あらあら……紫のところはお化け屋敷? 少しオーソドックス過ぎないかしら……?」
「幽々子。 見誤ったわね。 先生たちの評価点のほうが高いのよ? メイド喫茶なんて受けるのは男子ぐらいのものだわ」
「甘いのねぇ……。 低学年の女の子は、みんな可愛い恰好に弱いものよ?」
「……女の子?」
「ええ。 メイド服に着替えたりもできるのよー。 もちろん、写真も撮ってあげるわ」
(なん……だと……っ)
西行寺さんのシナリオは、教師陣の得票を上回る低学年女子の得票。評価点が高いとは言え、点差は十点しか変わらない。紫
ちゃんがすぐに教室に帰って電卓で予想される得票数を弾き出す。紫ちゃんが机を思いっきり叩いた。
「……幽々子ッ!!!」
学校全体の男子の票はばらけるだろう。しかし、女子の票はまとまってしまうかも知れない。教師陣全員が紫ちゃんたちのク
ラスに投票して、やっとイーブンと言ったところか。しかも、紫ちゃんたちのクラスはお化け屋敷。女子からのウケは悪いだろ
う。闘志を燃やす紫ちゃんと西行寺さんを見ながら、上白沢先生と森近先生が苦笑いする。
「文化祭、ってここまで計算してまでやらなきゃいけないイベントだったかな……?」
「うーん……どうして、この子たちはこう……無駄なところで用意周到なのかしら……」
それからチラリとれいむの入った水槽を見る。ピクリとも動かないれいむを見て上白沢先生は溜め息をついた。
(隠すということが、どれだけ難しいことか……誰も気づいていないのね)
クラス一同がれいむに対して何をしているか、上白沢先生は気付いていた。しかし、現場を押さえない限りは何も言うことが
できない。いつも、水槽の中にいるはずのれいむが“目立たないような小さな怪我”をしているのは知っていたので、何か事情
を知らないかと聞いてみたことがある。誰もかれも話をはぐらかすばかりで確証は得られなかった。れいむも何も喋ろうとはし
ない。恐らくは口止めされているのだろう。
(しかし、違和感があるのよね……)
ゆっくりが、生徒たちの口止めを受け入れるほど痛めつけられているようには見えなかったのである。頑なに口を閉ざすなら、
もっと“酷い目に遭わされていても良いはず”なのにも関わらずだ。はっきりした証拠もなしに生徒を疑うことはできない。ま
して、ゆっくりの言葉を信じて生徒を疑うなどということも不可能だ。何の脈絡もなしにれいむを飼うのをやめさせるわけにも
いかない。確かな疑問を感じながら、それを答えに結び付けることが、どうしてもできなかった。
「え~~~っ?! 上白沢先生、文化祭の日来れないんですかぁぁぁ?!」
紫ちゃんが叫ぶ。上白沢先生は両手を合わせて「ごめん!」と言葉を返した。その日はどうしても外せない用事があるらしい。
「そんなぁ。 先生がいなかったら、得点が二十点も減っちゃう……」
「得点だけにしか興味ないのか、お前は」
そう言って紫ちゃんの額を人差し指で突く上白沢先生。その光景にクラスが笑いに包まれる。しかも、その用事の準備で、文
化祭前の一週間は午前中しか学校にいられないらしい。既に文化祭モードに突入しているクラス一同にとって、担任の不在はな
かなかに痛いビハインドだ。
何はともあれ、お化け屋敷の準備が少しずつ進んで行く。工作の得意な河城さんはお化け屋敷のセットを次々と作っていった。
文ちゃんが光を当てる角度などの指示を出す。紫ちゃんを中心にお化け屋敷は少しずつ形になっていった。
「うーらーめーしーやー……」
「きゃああっ!!!! た、多々良さんっ!!! 悪い冗談はやめてくださいっ!!!」
唐傘お化けの恰好をした多々良さんは驚く東風谷さんの顔を見てケラケラと笑っていた。ふくれっ面になった東風谷さんが多
々良さんに攻撃をしかける。多々良さんは動きにくい姿で懸命に東風谷さんの攻撃をかわしていた。
「……楽しいかも知れない」
東風谷さんがつぶやく。周囲の生徒たちも頷いた。あの時と同じ昂揚感。文化祭当日まであと僅かだ。陽が沈む直前まで教室
に残って準備を続ける生徒たち。上白沢先生は午前中で帰ってしまい、すでに教室にはいない。隣のクラスはメイドのたしなみ
を十六夜さんから学ぶために体育館で練習に励んでいる。
「うわ……怖い絵描けるんだね、河城さんって」
「これって河童?」
「うん」
河城さんの技術力は圧倒的と言っても良かった。それこそ、運動会であまり役に立てなかったため、文化祭にかける思いも強
いのだろう。紫ちゃんと聖さんがお化けの配置や音響のタイミングなどについて何度も話し合いをした。徐々に散らかっていく
教室内。事件はそんなときに起こった。
「きゃっ!」
女子の一人が床に散在していた折り紙を踏みつけて転んでしまった。
「――――見えたッ!」
「いたたた……」
次の瞬間。
「ゆ?」
傾いた机。その上にはれいむが入った水槽が置いてある。それが倒れかけていた。
「危ないっ!!!」
伊吹さんが素早く駆け寄って机が倒れるのを防いだが、傾いた水槽かられいむが転がり落ちた。
「ゆべしっ! ゆっぐぐぐ……、ゆ?」
呆けているクラス一同。危機一髪の出来事にれいむの存在が視界から消えていた。刹那、れいむの脳裏に電流走る。
「ゆっくりにげるよっ!!!」
「?!」
千載一遇のチャンス。ちらかった教室の中では一度にれいむを追いかけることができない。れいむは狭くなった教室の中を縦
横無尽に逃げ回った。ストレス解消の相手を逃がしてはたまらないと男子が全力で追いかける。れいむが教室の床を飛び跳ねる。
「ま、待てっ! このっ!!!」
「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ……ッ!!!」
「きゃあっ!!!」
れいむが河城さんの背中にぶつかった。体勢を崩して前のめりに倒れかける河城さん。持っていた筆を洗浄するための水が前
方に勢いよく飛び散った。それだけではない。れいむは教室の中から逃げるために、立てかけてあったベニヤ板を次々と倒し始
めた。それは、すべて河城さんが描いた絵が貼ってあるものだ。それがドミノ倒しのように倒れていく。
「や……やめて……」
机の上に立って飾りつけをしていた散野くん。その机にぶつかるれいむ。散野くんは体勢を崩して転倒しそうになったため、
思わずそこから飛び降りた。着地した先はベニヤ板。河城さんが描いた絵が無残に真っ二つに割れてしまった。この混乱に乗じ
て、れいむは更に教室の中を荒らした。作っていた小道具が。セットが。壊されていく。河城さんはそれを茫然とした様子で見
つめていた。
「お願い……やめてぇぇぇぇぇ!!!!」
ついにれいむが教室の裏口から脱出する。
「風見さん!!! 風見さんッ!!!! れいむ!!! 捕まえて!!!!」
「……え?」
文化祭の準備そっちのけで花壇の世話をしていた風見さんの視界にれいむが飛び込んでくる。そして、あろうことか、風見さ
んが大切に育てていた花壇に侵入してきた。れいむがジャンプを繰り返すたびに、花がちぎられ、茎を折られていく。薙ぎ倒さ
れていく花々を見て、風見さんは持っていた移植ごてを強く握りしめた。
「ゆっくりにげたよっ!!」
「逃げてないわよ……」
ゆらりと立ち上がる風見さん。持っていた移植ごてをれいむに向かって投げつける。移植ごての先端は正確にれいむを捉え、
後頭部に深々と突き刺さった。
「ゆ゛っぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ?!! い゛だい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!!」
風見さん。れいむ。踏み荒らされた花壇。その光景を見てクラスの男女が生唾を飲み込んだ。
(これは……)
(殺されてもおかしくないわ……)
風見さんはごろごろと転げまわるれいむの髪の毛を乱暴に掴んで持ち上げると、そっと移植ごてを引き抜いた。それから、ゆ
っくりと教室に戻って来る。滅茶苦茶になってしまった教室を見回すと、その中央で河城さんが泣きじゃくっていた。風見さん
はそこから視線を逸らすと、近くにいた男子に命令をした。
「押しピン」
「え?」
「持ってこい、って言ってんのよ」
「は、はいっ!」
言われた男子がすぐに押しピンの入った箱を持ってきた。全員が風見さんの行動を見守る。それは、紫ちゃんとて例外ではな
かった。風見さんは、まず、れいむがぐったりするまで執拗に往復ビンタを食らわした。それから、れいむのリボンと壁を押し
ピンで刺し止めていく。それから、深呼吸をした。
「――――今から、あなたを、殴り続けるわ」
(だ……)
(弾幕……開花宣言……ッ!!!)
そこから閃光のような右ストレートがれいむの顔面にぶち込まれた。その一撃で涙が噴水のように噴き出す。しーしーも絶賛
放出中だ。しかし、風見さんのラッシュは終わらない。あっという間にズタボロの姿になっていくれいむ。拳が撃ち込まれる度
にれいむは餡子を吐き出した。吐き出した餡子を拾い集めてれいむの口に押し込む。喉の辺りまで手を突っ込んで、無理矢理喉
奥へと押し込んだ。
「ゆ゛ぼっ、ぶぇ……や゛べで……ぎぼぢわ……ひぎいぃぃぃッ??!!!」
勢い余って喉の向こう側の体内まで手を突っ込んでしまったらしい。れいむが激しく痙攣を起こした。ずるり……とれいむの
口の中から手を引き抜く風見さん。綺麗な白い腕はれいむの餡子色に染まっていた。
「オレンジジュース」
「へ?」
「持ってきてるんでしょ? オレンジジュース」
「は、はいぃぃぃぃっ!!!」
すぐさま、風見さんのもとにオレンジジュースが用意された。風見さんはタオルで腕を拭きながら、れいむを睨み付けた状態
で口を開く。
「おい」
「はい」
「何やってるの?」
「え?」
「早くかけろ」
風見さんの言葉に反応を返す前に無言でオレンジジュースをかける男子。ほかの男子も同情の視線を送ることしかできない。
「花はね」
そう言って、れいむの額に拳を叩き込んだ。既にれいむは切れ切れの呼吸をしている。
「お前みたいな糞饅頭と違って、ほいほい回復しないのよ」
更にれいむの右目の辺りを力任せに殴りつけた。
「ねぇ。 れいむ。 あんたさ、本当に……死のうか?」
「ゆ……ゆひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
結局、ギリギリのところで止めに入った紫ちゃんと八坂ちゃんの活躍により、れいむは一命を取り留めた。それからすぐに舞
台や小道具を作り直して、どうにかこうにか文化祭当日にお化け屋敷が形になったのである。
お化け屋敷はなかなかに盛況だった。特に、“本当に助けを訴えてるみたいに動くズタボロの生首の仕掛けがすごい”と評判
だった。風見さんがれいむの顔が変形してしまうぐらいに殴り続けた後、男子が提案をしたのだ。当日の朝にれいむを殴れるだ
け殴ってぐちゃぐちゃの風貌の生首を用意する。口には粘土を突っ込んで助けを呼べないように細工して、ネット通販で買った
小さ目の透明な箱に押し込む。目玉だけはギョロギョロと動いていた。これに、下からライトを当てると……。
「き、きゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
凄まじい勢いで悲鳴を上げる女子。人というのは大半が怖がりの見たがりだ。悲鳴を上げるに至った原因が気になってしょう
がないのか、お化け屋敷の客足は途絶えることがない。メイド喫茶もかなりの盛況ぶりだったが、お化け屋敷とどちらが盛り上
がっていたかは、互角だったように思う。
百人一首大会も順当に輝夜ちゃんが勝利を収めた。
「それでは。 第三十六回、文化祭の最優秀クラスを発表します」
(神様……ッ!)
八坂ちゃんと諏訪子ちゃんが祈る。東風谷さんも目を閉じていた。紫ちゃんはまっすぐに司会者を見つめている。
「六年生の……お化け屋敷です!!!」
アナウンスが会場に響いた瞬間、飛び上がって喜ぶ紫ちゃんたちのクラス全員。寄せられた感想も実に様々だった。
――生首の精巧さが半端じゃない
――すごくこわくて、おもしろかったです
――デパートのおばけやしきよりも怖かった
――猫娘(風見さん)に踏まれたい
何はともあれ、シナリオ、順路、証明、音楽、仕掛け。 その全てが高い評価を得ていたらしい。集計をしたのは教師陣であ
るため、西行寺さんたちのメイド喫茶との得点差はわからなかったが、これで隣のクラスに負けっぱなしのまま卒業するという
事態は避けることができた。
上白沢先生が帰ってきてから、一番最初に気付くように、教卓の前にトロフィーと賞状を置いた。
紫ちゃんたちのクラスが団結して手に入れた、自慢の勝利である。文化祭が終わったあとも、みんな大はしゃぎをしていた。
翌朝。早朝。
「……可愛そうに……。 あんな糞饅頭に踏まれて潰されるなんて……屈辱よね……」
「か、風見さんッ!」
「?」
へし折られた花を撫でていた風見さんが声のする方向へ顔を向けた。そこには、あの風見さんに恋をしてしまった男子が立っ
ていた。男子はやたらともじもじしながら、風見さんをチラチラと見つめている。風見さんもなんとなく頬を染めてしまった。
二人の間を晩秋の冷たい風が吹き抜ける。
「ぼ、僕は……風見さんのことが、好きですっ! ぼ、ぼぼ……僕と、付き合ってくださいっ!!!」
「いやよ」
「うわああああああああああああん!!!!!」
瞬殺されてしまった男子が校庭へ向かって走り抜ける。風見さんはもう一度しゃがみ込んでへし折れた花を撫でてやった。一
瞬、愛おしむように撫でているへし折れた花が、今、フッたばかりの男子のように見える。風見さんが無言で立ち上がった。
(……なに? このどきどき……)
迷いを振り払うかのように教室へと入っていく。教室の中には誰もいない。いるのは、水槽でうなされながら眠っているれい
むのみだ。そこに近寄る。それから自分のランドセルから小麦粉を取り出した。それを器に入れて水でとく。
「……やり過ぎなのよね、あいつらは……。 あんまりやり過ぎると、上白沢先生に気付かれるわ……」
そう言って小麦粉をれいむの傷に塗り込んでいく。これである程度の応急処置が完了だ。昼頃には怪我も目立たなくなってい
るだろう。風見さんがクスッと笑った。
「……楽しまなきゃねぇ、れいむ。 でも、次に花壇を荒らしたら殺すからね……?」
風見さんは、上白沢先生の目を欺くためにこうやって毎朝れいむの治療を行っていたのだ。花壇の世話のために、早朝から登
校しても風見さんは怪しまれない。
風が冷たくなってきた。
冬がやって来る。
冬籠りの準備をする必要のないれいむ。しかし、冬を越せるかどうかは分からない。消え入りそうなれいむに声を掛ける者は
誰もいなかった。
れいむが静かに目を閉じる。この水槽に閉じ込められて……見てきた世界は余りにも残酷で狭小なものだった。
つづく
虐待 不運 日常模様 れいぱー 現代 結束。そして・・・ 以下:余白
『学校:秋(後編)』
八、
「い゛だい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ!!! ……ん゛ゆ゛ぼぉ゛ッ??!!!」
男子の鋭い蹴りがれいむの顎の辺りにめり込んだ。壁に追い詰められたれいむは後方に飛ばされることもできず、その衝撃の
全てを顔で受け止めるしかない。散々暴行を受けてきたせいか、れいむの皮は他のゆっくりに比べれば丈夫になっているようだ。
別の男子がぐったりしているれいむの髪の毛を掴んで持ち上げた。髪の毛がちぎれそうになる痛みに歯を食いしばりながら「や
めてね、やめてね」と身を捩らせて訴えかけてくる。しかし、そんな訴えを聞くような男子ではない。手首のスナップを利かせ
て、れいむの顔面を激しく教室の後ろの壁に打ち付けた。
「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ……」
餡子を大量に吐き出し、白目を剥いて痙攣を起こしている。放っておけば一時間も経たないうちに死んでしまうだろう。呻き
声を上げるれいむをその場に置いて、机の中から給食に出てきた紙パックのオレンジジュースを取り出した。それをれいむの口
の中へと注ぐ。
「ゆゆっ?! あ、あまあまっ!!!」
瀕死だったはずのれいむの目に光が戻り、きょろきょろと周囲を見渡す。半強制的に意識を取り戻させたのだ。錯乱しても別
におかしくはない。しかし、すぐに直前の激痛がれいむの全身を襲う。「ゆ゛ぎぃ゛ぃ゛ぃ゛」と声を漏らし、教室の床をごろ
ごろと転がった。そのれいむを箒の柄を使って執拗に殴打する。固い木製の柄とれいむの柔らかい皮が打ち合わされる度に小気
味良い音が教室内に響き、それに合わせてれいむがドプッ、ドプッと中身を吐き出した。
「ごべ……な゛ざ……だずげ……で……。 ゆ゛っぐり゛……じだ……い……」
れいむの言葉を遮るように泥と埃まみれになったれいむの尻を蹴り飛ばす。吹き飛んだれいむは、教室の壁に叩きつけられて
跳ね返ってきた。また、痙攣を起こし始めたので残りのオレンジジュースを飲ませた。
「たすけで……もう゛、や゛めでよぅ……。 いや……いやぁ……ゆ゛っ、ゆ゛っ……」
「助ける理由がないもんなあ。 俺たちはお前を痛めつけて遊んでるだけだし」
「どぉして……そんなごど、ずる、の゛……」
「お前がムカつくからだよ。 何にもできやしねぇ、ゆっくりのくせに自己主張ばっかりベラベラしやがって……。 何が、ゆ
っくりしたい、だ。 させるかよ、この糞饅頭が」
「ゆ゛っぐり……ゆっぐり゛……」
意識はあっても朦朧としているせいか、自分の願いをうわ言のように繰り返すれいむ。東風谷さんの事が好きなメガネの男子
は、東風谷さんを泣かされた一件以来、ゆっくり関係のサイトを飛び回っていたらしい。その過程で見つけたオレンジジュース
によるゆっくりの回復は、男子たちのれいむ虐めに革命を起こしたのである。
「良くやったぜ、お前~!」
「う……、うん……。 こいつ、死なせないように痛めつけようよ。 死なせちゃったら楽にさせちゃうから……絶対、そんな
ことはしないよ」
メガネの男子は心の底かられいむの事を嫌っているようだ。れいむの頭をリボン越しに踏みつけて、足の裏をグリグリと押し
付ける。床に唇を擦り付けられる屈辱と、大事なリボンを踏みにじられる悔しさが、れいむの涙の量をどんどん増やしていく。
「ゆ゛ぶぶぶぶぶ……」
「おらぁ! さっさと気絶しろよっ! 何回でも起こしてやるからよっ!!!」
そう言ってまた、三人がかりで全身のあらゆる箇所を蹴り続ける。れいむはどこの痛みに対して集中すればいいのか分からな
い。ただ、ただ、ひたすらに意識を失うまでいつ終わるとも分からない暴行に耐え続けるしかなかった。やがて、また口から中
身と泡を吐いて白目を剥き、ぐったりして動かなくなる。そこにオレンジジュースを与える。また、目覚める。
「ゆ……ゆんやぁぁ……ッ!!!」
れいむはここ数日間、男子によって、殴られる→気絶する→起こされる→殴られる……を毎日繰り返していた。女子がれいむ
のバリケードとしての役割を果たさなくなってから、放課後にれいむと“遊んでやる”時間が飛躍的に増えた。おかげでれいむ
は毎日毎日男子に殴られ続けてしまう。
今日の分の“遊び”が終わって水槽の中に放り込まれたれいむはベコベコに皮を凹ませており、汗か涙か涎かしーしーか判別
できないような液体が水槽の底に付着している。それを見て汚いと思った男子はれいむを持ち上げて逆さにし、リボンを雑巾が
わりにしてそれらの液体を拭き取った。れいむは、「ゆぅ……、ゆぅ……」と短く声を出すばかりである。そんなれいむの頭を
リコーダーで数発殴ってから、ようやく男子は家路についた。
「れいむ……どうして……こんなめにあわないといけないのぉ……。 なんにもわるいことしてないのにぃ……」
「やはりゆっくりは浅はかですね。 私が子供の頃(幼稚園の頃)からまったく変わっていない」
「ゆげぇッ?!!」
突如として現れたのは聖さんと村沙ちゃんと寅丸さんの三人である。寅丸さんがれいむのリボンごと髪の毛を掴んで水槽から
引きずり上げた。今日はもう痛い思いをしないで済む、と思っていたれいむは既にしーしーをちょろちょろと漏らしている。そ
んなれいむの顔面に村沙ちゃんが思いっきり柄杓を打ち付けた。バチィィィンという皮が弾けるような音が聞こえる。れいむは
揉み上げを振り回しながら泣き叫んだ。
「仏の顔も三度まで、という言葉があります」
「……って、聖さんが単にれいむに腹が立ってるだけでしょ?」
れいむは何を言っているのか分からないと言った様子で怯えながら聖さんを上目遣いで見上げた。
「聖……本当にいいのでしょうか? 仮にも聖はお寺の娘ですよ……。 無益な殺生は控えたほうがいいのではないかと」
「殺生? 寅丸。 それは少し違うわね。 ゆっくりはただ動いているだけで、生きてなどはいない」
女子の連帯感は強い。非常に強い。その中でも特に聖さんは人と人との繋がりを重んじる。紫ちゃんの件、東風谷さんの件。
どれも腸が煮えくり返る思いではあったが、運動会終了後のれいむの言葉は聖さんの逆鱗に触れた。まさに魔神降臨。聖さんは
寅丸さんから受け取ったれいむを掴んだまま思いっきり机に叩きつけた。額を強打したれいむだが聖さんの力のほうが勝り、跳
ね返る事による衝撃の吸収ができない。今の一撃でれいむはすでに気が遠くなりつつあった。オレンジジュースの事は、村沙ち
ゃんも事前に突き止めており、すぐに缶ジュースの蓋を開けてれいむの頭にバシャバシャとかけ始める。失いかけた意識を無理
矢理戻らされるれいむは只々、泣き叫ぶしかなかった。その声すら耳障りと感じたのか、寅丸さんは工作セットの中に入ってい
た粘土をれいむの口へと押し込んだ。
「ん゛ゅ゛ぅぅ゛ぅっ?! んっ! ん゛う゛っ!!! ゆ゛う゛ぅ゛ぅ゛う゛ぅ゛~~~!!!!」
叫び声が雑音に変わる。聖さんは寅丸さんに廊下を見張っているように指示を出し、自分は机の中から彫刻刀を取り出した。
「――――いざ、南無三ッ!!!」
校舎をビルに例えるならば、夕焼けに照らされたこの地はまさに黄昏の摩天楼。彫刻刀のうちの一本、切り出し刀を構えて、
れいむに百連突きを浴びせる聖さん。
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!!!!!」
顔を刃物で刺される痛みは、れいむがここに来てから初体験である。皮を突き破った切り出し刀の先端がれいむの中身に触れ
る。凄まじい激痛がれいむを襲っていることだろう。その痛みは、殴る蹴るの暴行とは比較にならない。花火で炙られもしたが、
この痛みに比べれば可愛いものだと思えてしまうほど、れいむは体力を一気に奪われてしまった。正直言ってここまでやれば餡
子を全て吐き出すことによる出餡多量で死んでしまっていても可笑しくはない。しかし、それは口に詰め込んだ粘土が許さない
のだ。れいむは抵抗することもできず、叫ぶこともできず、中身を吐き出すこともできず、聖さんによってひたすらに刺され続
けた。れいむの顔という顔に切り出し刀によって貫かれた傷跡が刻まれていく。正直、村沙ちゃんはドン引きである。
「ひ、聖さん……ちょっと……いくらなんでも……死ぬんじゃ……」
そう言いながらも冷静にパシャパシャとオレンジジュースをかける村沙ちゃん。れいむは目玉をぐりんぐりんと動かしながら、
ぐったりしている。粘土と唇の隙間から涎がべちょべちょと垂れ流されていた。
ようやくれいむが解放される。無数の切り傷は用意していた水に溶かした小麦粉で全部塞がれていた。見た目、外傷はなく、
ひたすらオレンジジュースをかけられ続けていたれいむは、瀕死にすらなってない。むしろ、教室の中を逃げ回っていた。
「こないでねっ! こないでねっ!! どぼじでごっぢにぐる゛の゛ぉ゛ぉ゛!!!」
聖さんは自分の怒りを余す所なくぶつけて満足したのか、うっかりれいむを手から離してしまったのである。その隙をついて
猛然と跳ねて逃げようとはしてみたものの、所詮はゆっくりのあんよ。すぐに追いつかれてしまう。村沙ちゃんと寅丸さんは、
そんないつでも捕まえることのできるれいむをわざとゆっくり追いかけて、助かるかも知れないという希望とやっぱり無理かも
知れないという絶望を交互に与え続けて遊んでいたのだ。
「れいむ……もう……げんっ、かい……」
「限界なんてないわよっ!」
村沙ちゃんがれいむを渾身の力で蹴り飛ばす。れいむはロッカーとロッカーの間にある木製の仕切りに顔を強打して、痛みに
床を転げ回っていた。村沙ちゃんは思わずニヤリと笑ってしまう。寅丸さんはれいむを追いかけるだけに終始していた。聖さん
はもうれいむに興味が失せたのか、学級文庫の棚に置いてあった空飛ぶ円盤の本を読みふけっている。
「もう、やめてよぉぉぉ!!!」
「あははっ! 男子の気持ち、わからないでもないなーっ」
必死に懇願し続けるれいむの頭を踏みつける。床に顔を押し付けられたまま揉み上げをぴこぴこと振り続ける様に、村沙ちゃ
んはなんとも言えない快感を感じていた。れいむの頭を足の裏で押さえつけたまま、柄杓でれいむのお尻を執拗に殴打する。れ
いむのお尻は見る見るうちに真っ赤に腫れ上がって行った。聖さんがそんな村沙ちゃんをチラリと見て尋ねた。
「村沙ちゃん? その柄杓って……」
「うん。 聖さんとこのお寺の柄杓だよ。 一本持ってきた」
「なんでわざわざ……」
「も……やべ……で……」
切れ切れに呼吸をしながら、蚊の鳴くような声で訴えるれいむ。辺りはすっかり暗くなってしまっていた。三人はもう一度、
れいむに対して治療を施すと、仲良く教室を出て行った。
水槽の中で泣き続けるれいむ。もう、ここにいるのが嫌で嫌で堪らなかった。それどころか、もう「永遠にゆっくりしたい」
とさえ思っていたのだ。しかし、水槽の中に閉じ込められているれいむに自殺はできない。顔しかないので、何か別の物を使わ
なければ自らの命を絶つことができないのだ。
「……おうち……かえる……。 おうち……れいむのおうち、どこぉ……? もう、ここはいやだよぉ……」
涙を流し続けるれいむに優しい言葉をかけてくれる者はいない。悩みを聞いてくれる相手もいない。自分の存在が認められず、
それを自分で理解していながらもここにいることしかできない。れいむの味わっている苦しみは現代社会の“いじめ問題”と同
じものだったのである。
守ってくれる存在もいなくなってしまった。誰からも存在を許されていないのに、その存在を消すことさえも許されない。れ
いむは何度も思っていたのだ。そんなに自分の事が嫌いならここから逃がしてくれればいいのに、と。そのほうがお互いにとっ
ても幸せなのに、と。
過激派で双葉小の核弾頭と言われている霊烏寺(れいうじ)くんや、れいむの事を「厄い、厄い」と言い続けていた鍵山くん
は一度、冗談交じり半ば本気で「殺してどっかに捨てれば?」と言っていたが流石にそれは実行できなかった。れいむを完全に
殺してしまう事の恐怖。それが本音で建て前は上白沢先生と飼うと約束したから、という事だろう。
運動会で大敗した日から一週間が過ぎ、クラスの雰囲気は四月と比べて嘘のように明るくなっていた。皆で一つの事を成し遂
げようとしたクラスの絆がどんどん強く、太くなっていく。散野くん、大ちゃん(ニックネーム)、白石くんの三人が、諏訪子
ちゃん、東風谷さん、八坂ちゃんと話をしていた。
「だぁかぁらぁさっ! 蛙は、ケツの穴にストロー刺して膨らませるのが面白いんだって!」
「散野は相変わらずガキだなぁ……」
「白石くんだって似たようなもんだよ」
「その……汚くはないんでしょうか……」
「あっはっは。 無駄だよ、男子という生き物にそういう概念はないさ」
「っていうか、蛙虐待はんたーーーーいっ!!!」
笑い声に包まれる教室。学級委員長である紫ちゃんも嬉しそうに微笑んでいた。
「ゆげぇっ!! ぺっ! ぺっ! や、やめてね、やめてねっ! もくもくさんはゆっくりできないよっ!!」
いつかのように黒板消しを水槽の中ではたかれて、チョークの粉まみれになったれいむが涙ながらに訴えかける。水槽の前で
は数人の男子が笑い声をあげていた。涙目になったれいむを見てはクスクスと笑う女子たち。ニヤリと笑った散野くんがれいむ
のリボンを掴んで水槽から引き上げる。
「や、やめてねっ! おろしてねっ! はなしてねっ! こわいよぉぉぉっ!!!」
この状態にされてから碌な目にあったことがない。流石の餡子脳でもそれを理解しているのか、れいむは既におそろしーしー
を漏らしていた。
「何ビビッてんだよ? 俺は、お前を洗ってやろうとしてるだけだろ?」
そう言って手洗い場にれいむを放り込んで蛇口を捻る。まるで行水のように強い水圧がれいむの頭頂部を襲う。水に弱いれい
むは、水に晒されただけで声にならない悲鳴を上げた。れいむの口を押さえて、慌てて教室に戻ってくる散野くん。自身も水に
濡れていながら楽しそうに笑うその姿は風の子と呼ぶに相応しい。ずぶ濡れのれいむを適当に雑巾でくるんで拭いてやるのは、
大ちゃんだ。東風谷さんはハンカチで散野くんの顔を拭きながら、
「大丈夫ですか? 風邪をひいてしまいますよ? もう、寒くなってきましたし」
「大丈夫! 俺、最強だから!!」
「出た! 散野の最強!!」
また一つ。教室に笑顔の花が咲く。水槽の中だけ別の世界のようだった。どう足掻いてもあの輪の中には入れない。これまで
の事でそれは完膚なきまでに理解させられているはずだったのに、どうしても自分もあの輪に入りたいと願ってしまう。しかし、
それを口に出すのはとてもとても恐ろしいことだった。今の空気を壊したら、蔑みの視線を一身に浴びてしまう。それから、ま
た水槽の外に出されて、殴る蹴るの暴力を振るわれるのだ。……相手が満足するまで。
だから、れいむは生徒たちから顔を背けた。迂闊に泣くことも許されない。一昨日はれいむが泣いていたから、もっと泣かせ
てやろうと集団でリンチを受けた。ゴミ箱に投げ込まれたこともある。インターネットで知識を得始めているのか、無理矢理、
激辛のスナック菓子を食べさせられもした。
れいむは悲しくて悲しくてたまらない。こんなに構ってほしいのに、構われるときは厭な思いしかさせられなかった。れいむ
が声も出さずに流した涙には、誰一人として気付かない。
夜がまた来る。一人ぼっちの夜が。朝がまた来る。孤独に震える朝が。
翌日の放課後。教室に残っていた生徒数名がニヤニヤしながら水槽の前に集まってきた。れいむはもう、それだけで歯をカチ
カチと鳴らして震えている。体中から嫌な汗が噴き出してきた。怖くて怖くて意識さえも失いそうになる。暑いのか寒いのかさ
えも区別がつかなかった。
「今日は、いつも一匹で寂しがってるれいむに友達を連れてきてやったぜ」
「!??」
思いもがけない男子の声。しかし、その後ろで陰鬱な笑みを浮かべている残りの生徒たちがれいむの不安感を激しく煽る。し
かし、“友達”という言葉に体はどうしても反応してしまう。チラリと後ろを見た。
「んっほおおおぉぉぉぉ!!! とかいはな、れいむねぇぇぇぇ!!!! ありすがすっきりー!してあげるわあああああああ」
「ゆ……ゆんやああああああああああああああああああ!!!!!!」
初めて見たはずのれいぱーありす。それでも、れいむはそのありすが放つ負の感情に畏れ慄き揉み上げをきゅっと内側に折り
曲げた。男子はそこらで適当に捕まえたありすを揺すって発情させたのである。そして、興奮冷めやらぬありすをれいむの前に
連れてきたのだ。
「れいぱーはゆっくりできないぃぃぃぃ!!!!」
「んまあぁぁっ!!! れいむったら、つんでれさんなのねぇぇぇぇ!!!! すぐにかわいがってあげるわぁぁぁぁ!!!!」
ありすの台詞回しにニヤニヤと笑う男子たち。女子はさすがにドン引きしながらも、ありすの動きを見つめていた。
「やべでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!!」
「かわいいれいむねぇぇぇぇぇ!!!!」
水槽に放たれたありす。れいむに逃げ場はない。すぐに押さえつけられて、ゆっくりたちの交尾が始まる。女子はその様子を
見るたびに「きゃー」などと言っていたが、その様子をしっかりと凝視していた。激しく犯されるれいむを見て、生理的嫌悪感
を抱いたのか数人の女子は黙って教室を出て行く。
「い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!! れ゛い゛む゛のばーじんざんんん゛ん゛、いぢばん゛す゛ぎな゛ゆっぐりにあげだがっだ
の゛に゛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!」
「ヴァージンって……クスッ」
女子が笑う。男子はもうゲラゲラと腹を抱えて笑っていた。持っていたプラスチックのバットでありすの頭をボコボコ殴る。
「ん゛ほおぉッ?! じゃま゛をじないでね゛ぇぇぇ!!!!」
「おら、ありす!!! もっと腰振れよっ!!!」
「やっだぁ……////」
小学校高学年。それなりの性の知識も得ている。泣きながら抵抗を続けるれいむを尻目に生徒たちは大盛り上がりだ。やがて、
れいむの頬が紅潮していく。それはありすも同じで動きはますますヒートアップしようとしていた。
「ゆ……っ//// ゆひっ……ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆゆゆ……ッ!!!」
「んぅっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「すっきりーーーーー!!!!」
「す……きり……」
事を終えたばかりのありすを水槽から引きずり出して、れいむに対してするような暴力を放つ。性行為を終えたばかりのあり
すはほとんど抵抗できずに痛めつけられていく。性欲も薄れてしまったのか、ぺにぺには当の昔に引っ込んでしまったようだ。
滅多打ちにした野良ありすを教室の窓から放り投げる。「ゆ゛べっ」という悲鳴と共に「ゆっくりにげるわ」という声が聞こえ
てきたので無事なことは無事なのだろう。
そして。
「ゆぐっ……えっく……。 れいむの……ばーじんさん……ばーじんさんが……」
泣きじゃくるれいむの額には、実ゆっくりの赤れいむと赤ありすが実っていた。それが視界に入ると、れいむは泣きながら笑
顔を浮かべる。男子も女子も、れいむのその様子を見て呆けてしまった。れいぱーの子供である。さっきまでは、ヴァージンが
どうだとか言っていたのではなかったのか。生徒たちが互いの顔を見合わせる。
「「ゆっくちしちぇいっちぇにぇっ」」
「ゆっ、ひっく……れ、れいむの……ちび、ちゃん……。 ゆっくりして……いってね……っ」
「ゆっくちしゅりゅよっ!」
「おきゃーしゃんっ! ゆっくち! ゆっくち!」
衰弱した身体のせいか、茎には二匹の赤ゆっくりしか実らなかった。悲しいのだろうか。悔しいのだろうか。それとも、嬉し
いのだろうか。れいむは複雑そうな表情をしていたが、実った赤ゆに向ける視線は輝いているように見えた。
それは、茎の赤ゆがれいむに返事を返した時に一層強くなったように思う。そこに、男子が一歩歩み寄った。生まれたばかり
の赤ゆたちが悲鳴を上げた。
「ゆんやぁぁぁ!!! にんげんしゃんは、ゆっくちできにゃいぃぃぃ!!!」
「おきゃーしゃん、ありしゅをたしゅけちぇぇぇぇ!!!」
それから。一同が目を丸くする事態が起きる。
「……ぷっくぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
れいむが。さっきまで怯えて泣いて、震えていたれいむが……。男子に向けて威嚇を行ったのである。その目にはうっすらと
涙を浮かべていたが、男子から一瞬たりとも目を離そうとしない。
「こっちにこないでねっ!!! れいむのかわいいかわいいちびちゃんは、れいむがぜったいにまもるよっ!!!!」
強い意志。望まない子供であったかも知れない。そんな思いは、茎に実ったばかりの赤れいむと赤ありすの笑顔を見て、吹き
飛んでしまった。今日の今日まで孤独で、一匹寂しく生きてきたれいむ。そんな、れいむにとって……二匹のちびちゃんは、大
事な大事な存在に思えたのだろう。だから、れいむは誓ったのだ。絶対にこの二匹の赤ゆを立派に育ててみせると。絶対に自分
と同じような辛い思いはさせないと。
「……あ?」
男子の額に青筋が浮かぶ。握りしめた拳はぶるぶる震えていた。そんな男子から放たれる殺気を前にしても、れいむは威嚇を
解かない。その表情は、まさに母親のそれだった。
「はやくどこかへいってね!! れいむ、おこってるよっ!!!!」
怒っている。その言葉が男子の怒りに火をつけた。すぐに水槽の中に手を伸ばす。
「ゆんやああああぁぁぁぁぁ」
「きょわいよぉぉぉぉぉ」
しかし、れいむが巧みに顔を動かして茎に実る赤ゆを守っている。業を煮やした男子はれいむの頭をいつものように水槽の床
に押し付けた。すぐにもう一人の男子がフォローに入る。
「ゆ゛んぐっ……ゆ゛ぎぃぃぃぃ!!! はなぜぇ、ばな゛ぜえ゛ぇ゛ぇ゛ッ!!!!」
いつもなら、顔を床に押し付けて身を守るのに、今は目の前でゆらゆらと揺れる茎に実った二匹の赤ゆしか見ていない。その
目には凄まじい怒りが込められていた。しかし、その怒りは逆に男子の神経を逆撫でしてしまう。
「おきゃあぁしゃあぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
「れいむのちびちゃんに、きたないてでさわるなあああああああああああああ!!!!!!」
男子が、ぶら下がっていることしかできない赤れいむの顔を指で摘まんだ。瞬間、おそろしーしーをぶちまける赤れいむ。れ
いむは恐ろしい形相で「やめろぉぉぉぉぉぉ」と叫び声を上げた。赤れいむは滝のように涙を流しながら、か細い声で母親であ
るれいむに助けを求める。
ゆっくりを殺す事。煮えくり返る感情が、男子の背中を後押しした。あるいは、突き飛ばされてしまったのかも知れないが。
「おきゃ……しゃ、たしゅけちぇ……」
「ちびちゃんっ! れいむがぜったい――――」
「びゅぎぇッ??!!!」
男子が指に力をかけて、生まれたばかりの赤れいむを壊した。飛び散った餡子がれいむの頬に付着する。
「………………ゆ?」
裂けて崩れてしまった皮。そこからボトボトと零れる餡子。少し軽くなった茎。向けられない笑顔。消えてしまった命。ちび
ちゃん。
「ゆ……あ……」
男子も女子も固唾を飲んで水槽の中のれいむを見ている。赤ありすは恐怖のあまり、言葉を失ってしまっていた。その赤あり
すに手をかける。
「ゆゆっ?! ゆっくち? ゆっくち?! ……ぴぎゅっ!!!!!」
「う……う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!!!!!!」
絶望に満ちた表情。見開かれた目玉。引き裂けんばかりに開かれた口。今までのどの叫びよりも凄まじい絶叫。それかられい
むは体中の水分がなくなってしまうのではないかと思うほどに大量の涙を流した。
「どぼじで……どぼじでごんな゛ごどずる゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ!!??? じね゛ぇ゛っ!!! ゆ゛っぐり゛でぎない゛
にんげんざんは……じね゛え゛ぇ゛ぇ゛え゛ぇ゛え゛え゛!!!!!!!!」
狂ったように泣き叫び、「死ね、死ね」と繰り返すれいむ。一人の女子が歩み寄る。
「……ねぇ。 その茎、引き抜いておかないと……色々とばれちゃうんじゃない?」
それもそうだ、と男子の一人が茎をブチッと引き抜く。一瞬だけれいむは苦悶の表情を浮かべたが、解放された瞬間、水槽に
転がった茎とそれに実る赤ゆの残骸に舌を這わせ始めた。泣きながら、必死に。舐めてあげれば死んでしまったちびちゃんたち
が生き返ると信じて。
「ぺーろっ、ぺーろっ、ぺーろぺーろっ!!!! ゆっくり……なおってねっ! おかあさんをひとりにしないでねっ! ちび
ちゃん……ちびちゃあん……おねがいだから、おめめをゆっくりあけてよぉぉぉぉ……ッ!!!」
しかし砕かれた新しい命は反応を示さない。その伸ばされた舌に、男子がカッターナイフを突き立てた。
「ゆ゛ぎい゛ぃ゛ィィィィッ?!!!」
「ムカつくな、お前」
「ゆ゛っ!?」
「死んでんだよ、てめぇのガキはよ」
「ゆ゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ッ!!!」
揉み上げをばたつかせる。そんなことはない、と否定しているのだろう。男子はそれを見て、失笑すると茎を水槽から取り上
げた。同時にカッターナイフも引き抜かれる。
「がえ゛ぜっ!!! がえ゛ぜぇ……っ!! かえじでぇ……。 れいむといっじょにゆっぐりする゛の゛ぉぉぉ……っ。 お
ねがいだからちびちゃんを……」
「うるさい」
女子の一人がれいむの後頭部に拳を撃ちこんだ。呻き声を上げながらも、「おねがいします、おねがいします」と繰り返すれ
いむに腹が立ったのか、居合わせた生徒たちはれいむを水槽から引っ張り上げてモップや箒の柄で飽きるまで殴り続けた。
それから、ようやく解放されるれいむ。時間にして一時間にも満たない短い一時。ぼろぼろの身体を動かす気力も体力も残さ
れていない。痛みに呻くことさえ、面倒だと感じた。真っ暗闇の教室。浮かんでは消える、ちびちゃんの笑顔。
(……ちび、ちゃん……くらくても、こわくないからね……おかあさんが、ついてるからね……)
言葉にできないから心で語りかける。心の中の言葉にさえ、誰も返事を返してくれなかった。それが悲しくて堪らなかった。
この孤独の寂しさが解放されると思ったのに、その希望は一瞬で叩き壊されてしまったのだ。
体の痛み。心の痛み。孤独の寂しさ。失う絶望。れいむは暗闇の中で泣いた。泣いたと言えるのだろうか。れいむに、今、自
分が泣いているという意識はなかった。
(ちびちゃん……おかあさんといっしょに……ゆっくり、しようね…………。 ゆっくり……ゆっくりだよぅ……)
⑨、
あの日以来、れいむは廃ゆの様になっていた。ぼんやりと水槽から見える世界を視界に入れるだけの日々。生徒たちも文化祭
準備の追い込みが始まってきたせいか、れいむに関わる者はほとんどいなくなってしまっている。運動会直前の再現と言ってい
い。
しかし、今回は室内での作業が中心だ。紫ちゃんたちのクラスはお化け屋敷。西行寺さんたちのクラスはメイド喫茶をやるら
しい。十六夜さんが異常なほどに張り切っていたのが微笑ましかった。今回は学校全体の各クラスの出し物に評価点がつけられ
る。とは言っても、大抵一位と二位は六年生が奪っていくのだが。それから、各クラス代表での百人一首大会。これについては
やるまでもなく、輝夜ちゃんが優勝するだろう。輝夜ちゃんは一年生の頃からずっと連続優勝だ。対抗できるのは五年生の稗田
さんくらいだろうか。それが分かっているから、両クラスとも百人一首大会の結果は勝負の内容に入れていない。
さて。
「あらあら……紫のところはお化け屋敷? 少しオーソドックス過ぎないかしら……?」
「幽々子。 見誤ったわね。 先生たちの評価点のほうが高いのよ? メイド喫茶なんて受けるのは男子ぐらいのものだわ」
「甘いのねぇ……。 低学年の女の子は、みんな可愛い恰好に弱いものよ?」
「……女の子?」
「ええ。 メイド服に着替えたりもできるのよー。 もちろん、写真も撮ってあげるわ」
(なん……だと……っ)
西行寺さんのシナリオは、教師陣の得票を上回る低学年女子の得票。評価点が高いとは言え、点差は十点しか変わらない。紫
ちゃんがすぐに教室に帰って電卓で予想される得票数を弾き出す。紫ちゃんが机を思いっきり叩いた。
「……幽々子ッ!!!」
学校全体の男子の票はばらけるだろう。しかし、女子の票はまとまってしまうかも知れない。教師陣全員が紫ちゃんたちのク
ラスに投票して、やっとイーブンと言ったところか。しかも、紫ちゃんたちのクラスはお化け屋敷。女子からのウケは悪いだろ
う。闘志を燃やす紫ちゃんと西行寺さんを見ながら、上白沢先生と森近先生が苦笑いする。
「文化祭、ってここまで計算してまでやらなきゃいけないイベントだったかな……?」
「うーん……どうして、この子たちはこう……無駄なところで用意周到なのかしら……」
それからチラリとれいむの入った水槽を見る。ピクリとも動かないれいむを見て上白沢先生は溜め息をついた。
(隠すということが、どれだけ難しいことか……誰も気づいていないのね)
クラス一同がれいむに対して何をしているか、上白沢先生は気付いていた。しかし、現場を押さえない限りは何も言うことが
できない。いつも、水槽の中にいるはずのれいむが“目立たないような小さな怪我”をしているのは知っていたので、何か事情
を知らないかと聞いてみたことがある。誰もかれも話をはぐらかすばかりで確証は得られなかった。れいむも何も喋ろうとはし
ない。恐らくは口止めされているのだろう。
(しかし、違和感があるのよね……)
ゆっくりが、生徒たちの口止めを受け入れるほど痛めつけられているようには見えなかったのである。頑なに口を閉ざすなら、
もっと“酷い目に遭わされていても良いはず”なのにも関わらずだ。はっきりした証拠もなしに生徒を疑うことはできない。ま
して、ゆっくりの言葉を信じて生徒を疑うなどということも不可能だ。何の脈絡もなしにれいむを飼うのをやめさせるわけにも
いかない。確かな疑問を感じながら、それを答えに結び付けることが、どうしてもできなかった。
「え~~~っ?! 上白沢先生、文化祭の日来れないんですかぁぁぁ?!」
紫ちゃんが叫ぶ。上白沢先生は両手を合わせて「ごめん!」と言葉を返した。その日はどうしても外せない用事があるらしい。
「そんなぁ。 先生がいなかったら、得点が二十点も減っちゃう……」
「得点だけにしか興味ないのか、お前は」
そう言って紫ちゃんの額を人差し指で突く上白沢先生。その光景にクラスが笑いに包まれる。しかも、その用事の準備で、文
化祭前の一週間は午前中しか学校にいられないらしい。既に文化祭モードに突入しているクラス一同にとって、担任の不在はな
かなかに痛いビハインドだ。
何はともあれ、お化け屋敷の準備が少しずつ進んで行く。工作の得意な河城さんはお化け屋敷のセットを次々と作っていった。
文ちゃんが光を当てる角度などの指示を出す。紫ちゃんを中心にお化け屋敷は少しずつ形になっていった。
「うーらーめーしーやー……」
「きゃああっ!!!! た、多々良さんっ!!! 悪い冗談はやめてくださいっ!!!」
唐傘お化けの恰好をした多々良さんは驚く東風谷さんの顔を見てケラケラと笑っていた。ふくれっ面になった東風谷さんが多
々良さんに攻撃をしかける。多々良さんは動きにくい姿で懸命に東風谷さんの攻撃をかわしていた。
「……楽しいかも知れない」
東風谷さんがつぶやく。周囲の生徒たちも頷いた。あの時と同じ昂揚感。文化祭当日まであと僅かだ。陽が沈む直前まで教室
に残って準備を続ける生徒たち。上白沢先生は午前中で帰ってしまい、すでに教室にはいない。隣のクラスはメイドのたしなみ
を十六夜さんから学ぶために体育館で練習に励んでいる。
「うわ……怖い絵描けるんだね、河城さんって」
「これって河童?」
「うん」
河城さんの技術力は圧倒的と言っても良かった。それこそ、運動会であまり役に立てなかったため、文化祭にかける思いも強
いのだろう。紫ちゃんと聖さんがお化けの配置や音響のタイミングなどについて何度も話し合いをした。徐々に散らかっていく
教室内。事件はそんなときに起こった。
「きゃっ!」
女子の一人が床に散在していた折り紙を踏みつけて転んでしまった。
「――――見えたッ!」
「いたたた……」
次の瞬間。
「ゆ?」
傾いた机。その上にはれいむが入った水槽が置いてある。それが倒れかけていた。
「危ないっ!!!」
伊吹さんが素早く駆け寄って机が倒れるのを防いだが、傾いた水槽かられいむが転がり落ちた。
「ゆべしっ! ゆっぐぐぐ……、ゆ?」
呆けているクラス一同。危機一髪の出来事にれいむの存在が視界から消えていた。刹那、れいむの脳裏に電流走る。
「ゆっくりにげるよっ!!!」
「?!」
千載一遇のチャンス。ちらかった教室の中では一度にれいむを追いかけることができない。れいむは狭くなった教室の中を縦
横無尽に逃げ回った。ストレス解消の相手を逃がしてはたまらないと男子が全力で追いかける。れいむが教室の床を飛び跳ねる。
「ま、待てっ! このっ!!!」
「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ……ッ!!!」
「きゃあっ!!!」
れいむが河城さんの背中にぶつかった。体勢を崩して前のめりに倒れかける河城さん。持っていた筆を洗浄するための水が前
方に勢いよく飛び散った。それだけではない。れいむは教室の中から逃げるために、立てかけてあったベニヤ板を次々と倒し始
めた。それは、すべて河城さんが描いた絵が貼ってあるものだ。それがドミノ倒しのように倒れていく。
「や……やめて……」
机の上に立って飾りつけをしていた散野くん。その机にぶつかるれいむ。散野くんは体勢を崩して転倒しそうになったため、
思わずそこから飛び降りた。着地した先はベニヤ板。河城さんが描いた絵が無残に真っ二つに割れてしまった。この混乱に乗じ
て、れいむは更に教室の中を荒らした。作っていた小道具が。セットが。壊されていく。河城さんはそれを茫然とした様子で見
つめていた。
「お願い……やめてぇぇぇぇぇ!!!!」
ついにれいむが教室の裏口から脱出する。
「風見さん!!! 風見さんッ!!!! れいむ!!! 捕まえて!!!!」
「……え?」
文化祭の準備そっちのけで花壇の世話をしていた風見さんの視界にれいむが飛び込んでくる。そして、あろうことか、風見さ
んが大切に育てていた花壇に侵入してきた。れいむがジャンプを繰り返すたびに、花がちぎられ、茎を折られていく。薙ぎ倒さ
れていく花々を見て、風見さんは持っていた移植ごてを強く握りしめた。
「ゆっくりにげたよっ!!」
「逃げてないわよ……」
ゆらりと立ち上がる風見さん。持っていた移植ごてをれいむに向かって投げつける。移植ごての先端は正確にれいむを捉え、
後頭部に深々と突き刺さった。
「ゆ゛っぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ?!! い゛だい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!!」
風見さん。れいむ。踏み荒らされた花壇。その光景を見てクラスの男女が生唾を飲み込んだ。
(これは……)
(殺されてもおかしくないわ……)
風見さんはごろごろと転げまわるれいむの髪の毛を乱暴に掴んで持ち上げると、そっと移植ごてを引き抜いた。それから、ゆ
っくりと教室に戻って来る。滅茶苦茶になってしまった教室を見回すと、その中央で河城さんが泣きじゃくっていた。風見さん
はそこから視線を逸らすと、近くにいた男子に命令をした。
「押しピン」
「え?」
「持ってこい、って言ってんのよ」
「は、はいっ!」
言われた男子がすぐに押しピンの入った箱を持ってきた。全員が風見さんの行動を見守る。それは、紫ちゃんとて例外ではな
かった。風見さんは、まず、れいむがぐったりするまで執拗に往復ビンタを食らわした。それから、れいむのリボンと壁を押し
ピンで刺し止めていく。それから、深呼吸をした。
「――――今から、あなたを、殴り続けるわ」
(だ……)
(弾幕……開花宣言……ッ!!!)
そこから閃光のような右ストレートがれいむの顔面にぶち込まれた。その一撃で涙が噴水のように噴き出す。しーしーも絶賛
放出中だ。しかし、風見さんのラッシュは終わらない。あっという間にズタボロの姿になっていくれいむ。拳が撃ち込まれる度
にれいむは餡子を吐き出した。吐き出した餡子を拾い集めてれいむの口に押し込む。喉の辺りまで手を突っ込んで、無理矢理喉
奥へと押し込んだ。
「ゆ゛ぼっ、ぶぇ……や゛べで……ぎぼぢわ……ひぎいぃぃぃッ??!!!」
勢い余って喉の向こう側の体内まで手を突っ込んでしまったらしい。れいむが激しく痙攣を起こした。ずるり……とれいむの
口の中から手を引き抜く風見さん。綺麗な白い腕はれいむの餡子色に染まっていた。
「オレンジジュース」
「へ?」
「持ってきてるんでしょ? オレンジジュース」
「は、はいぃぃぃぃっ!!!」
すぐさま、風見さんのもとにオレンジジュースが用意された。風見さんはタオルで腕を拭きながら、れいむを睨み付けた状態
で口を開く。
「おい」
「はい」
「何やってるの?」
「え?」
「早くかけろ」
風見さんの言葉に反応を返す前に無言でオレンジジュースをかける男子。ほかの男子も同情の視線を送ることしかできない。
「花はね」
そう言って、れいむの額に拳を叩き込んだ。既にれいむは切れ切れの呼吸をしている。
「お前みたいな糞饅頭と違って、ほいほい回復しないのよ」
更にれいむの右目の辺りを力任せに殴りつけた。
「ねぇ。 れいむ。 あんたさ、本当に……死のうか?」
「ゆ……ゆひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
結局、ギリギリのところで止めに入った紫ちゃんと八坂ちゃんの活躍により、れいむは一命を取り留めた。それからすぐに舞
台や小道具を作り直して、どうにかこうにか文化祭当日にお化け屋敷が形になったのである。
お化け屋敷はなかなかに盛況だった。特に、“本当に助けを訴えてるみたいに動くズタボロの生首の仕掛けがすごい”と評判
だった。風見さんがれいむの顔が変形してしまうぐらいに殴り続けた後、男子が提案をしたのだ。当日の朝にれいむを殴れるだ
け殴ってぐちゃぐちゃの風貌の生首を用意する。口には粘土を突っ込んで助けを呼べないように細工して、ネット通販で買った
小さ目の透明な箱に押し込む。目玉だけはギョロギョロと動いていた。これに、下からライトを当てると……。
「き、きゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
凄まじい勢いで悲鳴を上げる女子。人というのは大半が怖がりの見たがりだ。悲鳴を上げるに至った原因が気になってしょう
がないのか、お化け屋敷の客足は途絶えることがない。メイド喫茶もかなりの盛況ぶりだったが、お化け屋敷とどちらが盛り上
がっていたかは、互角だったように思う。
百人一首大会も順当に輝夜ちゃんが勝利を収めた。
「それでは。 第三十六回、文化祭の最優秀クラスを発表します」
(神様……ッ!)
八坂ちゃんと諏訪子ちゃんが祈る。東風谷さんも目を閉じていた。紫ちゃんはまっすぐに司会者を見つめている。
「六年生の……お化け屋敷です!!!」
アナウンスが会場に響いた瞬間、飛び上がって喜ぶ紫ちゃんたちのクラス全員。寄せられた感想も実に様々だった。
――生首の精巧さが半端じゃない
――すごくこわくて、おもしろかったです
――デパートのおばけやしきよりも怖かった
――猫娘(風見さん)に踏まれたい
何はともあれ、シナリオ、順路、証明、音楽、仕掛け。 その全てが高い評価を得ていたらしい。集計をしたのは教師陣であ
るため、西行寺さんたちのメイド喫茶との得点差はわからなかったが、これで隣のクラスに負けっぱなしのまま卒業するという
事態は避けることができた。
上白沢先生が帰ってきてから、一番最初に気付くように、教卓の前にトロフィーと賞状を置いた。
紫ちゃんたちのクラスが団結して手に入れた、自慢の勝利である。文化祭が終わったあとも、みんな大はしゃぎをしていた。
翌朝。早朝。
「……可愛そうに……。 あんな糞饅頭に踏まれて潰されるなんて……屈辱よね……」
「か、風見さんッ!」
「?」
へし折られた花を撫でていた風見さんが声のする方向へ顔を向けた。そこには、あの風見さんに恋をしてしまった男子が立っ
ていた。男子はやたらともじもじしながら、風見さんをチラチラと見つめている。風見さんもなんとなく頬を染めてしまった。
二人の間を晩秋の冷たい風が吹き抜ける。
「ぼ、僕は……風見さんのことが、好きですっ! ぼ、ぼぼ……僕と、付き合ってくださいっ!!!」
「いやよ」
「うわああああああああああああん!!!!!」
瞬殺されてしまった男子が校庭へ向かって走り抜ける。風見さんはもう一度しゃがみ込んでへし折れた花を撫でてやった。一
瞬、愛おしむように撫でているへし折れた花が、今、フッたばかりの男子のように見える。風見さんが無言で立ち上がった。
(……なに? このどきどき……)
迷いを振り払うかのように教室へと入っていく。教室の中には誰もいない。いるのは、水槽でうなされながら眠っているれい
むのみだ。そこに近寄る。それから自分のランドセルから小麦粉を取り出した。それを器に入れて水でとく。
「……やり過ぎなのよね、あいつらは……。 あんまりやり過ぎると、上白沢先生に気付かれるわ……」
そう言って小麦粉をれいむの傷に塗り込んでいく。これである程度の応急処置が完了だ。昼頃には怪我も目立たなくなってい
るだろう。風見さんがクスッと笑った。
「……楽しまなきゃねぇ、れいむ。 でも、次に花壇を荒らしたら殺すからね……?」
風見さんは、上白沢先生の目を欺くためにこうやって毎朝れいむの治療を行っていたのだ。花壇の世話のために、早朝から登
校しても風見さんは怪しまれない。
風が冷たくなってきた。
冬がやって来る。
冬籠りの準備をする必要のないれいむ。しかし、冬を越せるかどうかは分からない。消え入りそうなれいむに声を掛ける者は
誰もいなかった。
れいむが静かに目を閉じる。この水槽に閉じ込められて……見てきた世界は余りにも残酷で狭小なものだった。
つづく