ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1628 そしてれいむは目を逸らす
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ankoss
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餡子ンペ10春
れいむ1
「おちびちゃんがゆっくりできないよ! れいむにゆっくりとごはんさんをもってきてね!」
れいむはちぇんの家で、声を張り上げて主張していた。
「わからないよー、どうしてれいむにごはんさんをあげないといけないのー?」
「そんなこともわからないなんて、ばかだね! れいむはかわいそうなんだよ!」
「わからないよー、かわいそうなのは、れいむだけじゃないんだよー? どうしてそんなこというのー?」
どうしても何も、れいむはものすごく可哀想だってことを知っていた。
どうして分からないんだろう。
れいむがかわいそうな理由は……。
理由は、考えようとするとものすごくゆっくりできない気分になった。
「りゆうはかんがえたくないよ! なんでもいいからごはんさんをもってきてね! すぐだよ!」
そう言うと、れいむはおうちに戻り、ごはんさんを運んでくるのを待つ。
ほとんど待たせずに、ちぇんがおぼうしに少しの食料を入れて持ってきた。
「わかるよー。れいむのおうちは、くさくてゆっくりできないんだねー」
おうちに足を一歩踏み入れるなり、ちぇんは言った。
れいむのおうちは、群れのみんなから食べきれないほど集めたごはんさんを食い散らかし、ろくに掃除も
しないせいで、甘いような苦いような香りを出していた。臭いは日増しに酷くなり、今や離れたところまで
風に乗って漂ってくる始末だった。
「うるさいよ! れいむのおうちはふろーらるでしょ! ごはんさんをおいて、でていってね!」
ちぇんはれいむから目を逸らして、できるだけおうちの奥へ入らないように、入り口付近へごはんさんを置いた。
「はああああ!? これっぽっちなの? こんなんじゃ、れいむのおちびちゃんがまんぞくできないでしょ!?
れいむのぼせいがうたがわれちゃうよ!!」
ちぇんは、困ったような顔をして少し視線を下げた。
「わからないよー。れいむは、どうしてそんなものをだいじにしてるの? さいきんはまた、れみりゃが
でるんだよ。ごはんさんをむだにするのはわからないよー」
それを聞いて、れいむはぷくーをして怒った。
「れいむのかわいいおちびちゃんを、だいじにしないわけないでしょおおおお! むだなんかじゃないよ!
もういいよ! どっかいってよ!」
ちぇんは小さくわからないよー、と呟くと、元来た道を戻っていった。
げすなちぇんを追い出したれいむは、おちびちゃんに向かって優しく語りかける。
「それじゃあ、おちびちゃん。まりさがごはんさんをもってくるまで、おやつをむーしゃむーしゃしましょうね」
ちぇんの貴重な食料を奪い、おやつと称して食い散らかしつつ、れいむはまりさのかえりを待つのだった。
まりさ1
まりさは、群れの中でも狩りが上手い方だった。
まりさは、群れのおちびちゃんを預かって狩りの訓練をしていた。
狩りが上手いだけのまりさなら、群れにも他にいる。
けれどこのまりさには、他のゆっくりにはまねできない特技があった。
長のぱちゅりーと仲が良かったまりさは、長の教育を通じて、四以上の数を数えることができたのだ。これを
生かして、長は子ゆっくりをまりさに任せて、他のゆっくり達の集めた食料を、まりさに分け与えるように指導した。
今までは、それぞれの家族ごとに、狩りに不慣れな子ゆっくりを連れて教育をしていた。
子ゆっくりが狩りに慣れるまでの間、効率は半分以下に落ち込む。つまり子ゆっくりのいる家族は全て食料の
量が半減していたのだ。
そこへ、たくさんの子ゆっくりに対して狩りを教えられるまりさが果たした役割は大きい。子ゆっくりを引
き連れ、狩りを教えることに専念したまりさは、ほとんど食料を集めることができなかった。しかし、群れ全
体では大幅に食料を蓄えることができる。
群れから少しずつ集めて、まりさの家族に分け与えても問題ないくらいには、
「このきのこさんは、ゆっくりできないんだぜ」
「このくささんは、たべられるんだぜ」
「このきには、むしさんがあつまるんだぜ」
「このむしさんは、においでさがせるよ。よくおぼえておくんだぜ」
いつも通りに野を行き、森の中を通り、河に掛かった橋を渡る。春の陽気が心地よい。まりさは、この春胎
生にんっしんで生まれた子ゆっくり達を連れて野を行く。
この子ゆっくり達が自力でもある程度狩りを行えるようになる頃には、植物型にんっしんした赤ゆっくり達
が子ゆっくりへと育ち、入れ替わりでまりさの元へやってくる。
まりさは夏の終わり頃までは休む間もなく狩りを教えることになる。
いつも通りだった。群れの集落から徐々に離れ、森の中へ入り、木の実さんやきのこさんについて狩りの方法を教えていく。
そして、いつも通りだったのはここまでだった。
結論から言ってしまえば、まりさは不運だったのだ。
「うー! うー! おいしそうなあまあまがたくさんいるんだどー」
この辺りまでれみりゃが飛んできたのは、今日が初めてだったのだから。
まりさは賢かった。成ゆっくりがまりさだけで、残りは子ゆっくりだ。これでは、れみりゃに勝てない。
「みんな! ゆっくりしてないでにげるんだぜえええええ! とにかくにげるんだぜえええ」
まりさの声に反応して、みんなは必死に逃げる。
まだ森に不慣れな子ゆっくりは、逃げようとする間に二ゆん捕まり、しわしわの皮だけになって落ちてきた。
わずかに幸運だったことは、今が昼であったことと、森の奥までは入り込んでいなかったこと。更に、混乱した
おちびちゃんが蜘蛛の子を散らすように四方八方へ逃げ出したことだ。
まりさは集落のある方、ここまで来た道を全力で戻った。
れみりゃはまりさ達を深追いせず、冷静に森の奥に逃げた子ゆっくりを追いかけて行った。
森から出たまりさは、大声を上げて子ゆっくり達を集めた。数を確認すると、今回の襲撃で五ゆんの子ゆっくりがいなくなっていた。
群れに戻ったまりさは、長ぱちゅりーにれみりゃが出たこと、五ゆんの子ゆっくり永遠にゆっくりしたことを報告した。
内一ゆんはまりさの子ゆっくりであった。
れいむ2
おうちに戻ってきたまりさにむかって、れいむは声を上げた。
おかえりなさい、でもおつかれさま、でもなく。
「れいむもおちびちゃんもおなかがぺこぺこだよ! とっととごはんさんを出してね!」
「ゆう……れいむ、そんなことよりきいてね。またれみりゃが出たんだよ」
「それがどうしたっていうの! れみりゃは、おうちにはこないんだよ! れいむには、かんけいないんだよ!」
「けど、けど、れいむ、かりにでてたちびまりさが……ゆっくりしちゃったらしいんだぜ?」
「ちびまりさなんて、かんけいないでしょ!! れいむにはこのおちびちゃんがいるよ! そんなことよりはやく
ごはんをよこせえええ!!!はらぺこでれいむのおちびちゃんが、えいえんにゆっくりしてもいいの!?」
「なんでそんなこというんだぜ!!」
「そんなこともわからないのおおおおお! れいむには、れいむのかわいいおちびちゃんしかいないんだよ!
かわいそうなんだよ! わかったらさっさとごはんさんよこせええ!!」
「れいむ、どうしてそんなこというんだぜ……」
まりさが今日の戦果をおぼうしから取り出す。
れいむはそれを、当然のように奪い取った。
れいむはまりさに目もくれない。
「さあ、おちびちゃん、ごはんさんですよ。いま、たべやすいようにしてあげるからねー」
ごはんさんを柔らかくかみ砕いて子れいむに与えようとする。
本来、これは植物型にんっしんした赤ゆっくりにしてあげるような過保護ぶりだった。
しかし、子れいむは全然ごはんさんを食べようとしない。
いつもの事だった。れいむはいつも通りに、まりさを口汚く罵る。
「うがああああ、まりさはどうして、こんなものしか取ってこられないの! おちびちゃんが食べたくなるような
おいしいごはんさんを、もってこい! もってこい!! もってこい!!!」
「れいむ、どうしてわからないんだぜ。これにそんなことをしても、いみないんだぜ」
まりさは、どうにかしてれいむを元に戻したかった。
いまのれいむは周囲にひたすら迷惑を掛けるだけの存在になっている。
どうしたら、昔のゆっくりしたれいむに戻ってくれるのだろうか。
「これとかいうなあああああ! かわいいおちびちゃんにしっとしてるの? おちびちゃんはこんなにゆっくりしてる
のに! まりさはどうしてそんなにゆっくりしてないの!」
すっかり変わってしまったれいむ。
再び現れたれみりゃ。
越冬に向けての食糧確保。
頭の痛い問題が山積みだった。
まりさ2
れみりゃの出現で教育にも少しの変化があった。陽が少しでも陰ったら森に入らないこと、太陽が赤くなり始めたら
森には入らないこと。それから、れみりゃと会ったらバラバラに逃げることを徹底的に教えた。
この群れは、れみりゃに遭遇したとき、運の悪い少数を切り捨てて全体を生かす道を選んだ。れみりゃとはあれから
も頻繁に森で遭遇した。夕方になる前に森から引き上げる慎重さをもってしても、恵をもたらす大樹が災厄の影を抱え
込み、れみりゃは頻繁に現れた。しかし、だからといって森に入らず狩りをしても食糧の不足はわかりきっている。森
での狩り方を森以外で教えるわけにはいかない。子ゆっくりが単独で狩りを行えるようになれば、複数でまとまって移
動する機会が減る。そうなれば、犠牲は少なくなるはずだ。それを励みに、まりさはかりを教え続けた。
一度にいなくなる子ゆっくりは少ないとは言え、胎生にんっしんした子ゆっくりが一人で狩りを行えるようになる頃
には、その数は半分以下になっていた。
入れ替わりにまりさの元へやってきた、植物型にんっしんだった子ゆっくりに狩りを教えながら、まりさは度々れい
むの事を考えた。
胎生にんっしんで生まれた子まりさが死んでから、れいむは子まりさの分も上乗せしたように、残された子れいむを
溺愛していた。
本当なら子れいむも狩りの練習をしているはずなのに、れいむは滅多に巣から出すことすらしない。このままでは
子れいむは一人立ちできなくなってしまう。
「ゆう……このままじゃあ、おちびちゃんがにーとさんになっちゃうのぜ」
今日はれみりゃに会うことなく一日を終えられた。運が良い。子れいむにはもっと運動をさせて、もし自分が永遠に
ゆっくりしてしまったときに、母子で生きていけるくらいの知識は伝えたかった。
今日は帰ったら、れいむをもう一度説得してみよう。
「ゆ! きょうはそろそろひきあげるよ! おちびちゃんたち、しっかりまりさについてきてね!」
まりさは帰路につきながら、どうやってれいむを説得しようかと考えていた。
れいむ3
今日もまた、かわいそうなれいむ! とアピールして周りからごはんさんをもらった。
「れいむ、おちびちゃんがえいえんにゆっくりして、かなしくても、まわりにあまえてばかりじゃいけないわ。とかいはじゃないわよ」
今日ごはんさんをもらったありすは、よく分からないことを言い出した。
「なんのことなの? れいむはかわいそうだけど、おちびちゃんは、永遠にゆっくりしてないよ!」
わけの分からないことを言わないでほしいよ。
おちびちゃんは最初から、かわいいれいむしかいなかったんだから。
「れいむ、それをよくみて。とかいはになってね。まりさのためにも」
ものすごく不快になった。れいむに説教をするなんて生意気だね! そんなことはわかってるんだから、わざわざ
言わなくても良いんだよ! 賢くってごめんね!
れいむは巣に戻って、ありすにもらった食料をおちびちゃんとむーしゃむーしゃしていた。
「おちびちゃん、たくさんたべてね。ふゆごもりにそなえて、たいりょくさんをふやすんだよ!」
おちびちゃんは相変わらずあまりごはんさんを食べようとしない。どうしてなんだろう。やっぱり、あんなありすが
持っているようなご飯さんじゃあお口に合わないのだろうか。
考えている内に、いつの間にかまりさが帰ってくる時間になっていた。
「れいむ、ただいまなんだぜ」
「まりさ! きょうはちゃんと、おちびちゃんがたべられるものを、もってきたんだろうね!?」
「きょうはきのみさんがとれたんだぜ。あまあまさんなんだぜ」
「ゆゆ! あまあまさん!? はやくちょうだい! おちびちゃんにたべさせるんだよ!」
まりさはおぼうしからあまあまさんを取り出す。
れいむは奪い取るようにあまあまを引き寄せ、子れいむに与え始めた。
「れいむ、もっとじぶんでたべるんだぜ。そのままじゃあれいむがよわってしまうんだぜ」
巣の中は、以前にれいむが子れいむに与え、食べずにうち捨てられた木の実が半ば溶けて発酵臭を放っていた。
「なんでまりさはそんなにばかなのおおおおおお! どうしてれいむのぼせいがわからないの! これだからまりさは
だめなんだよ! おちびちゃんがだいじじゃないんだね! とんだげすだよ!」
「そうじゃないんだぜ……そんなことをいいたいんじゃないんだぜ。まりさだって、おちびちゃんのことはだいじだったんだぜ。
けど、もうそれをだいじにするのはやめてほしいんだぜ! れいむはおかしくなってるんだぜ!」
「ふん! これだからまりさは。しょせん、にんっしんしないと、そのていどなんだね。しょせんまりさには、ぼせいはりかいできないよ」
「ゆう……ごめんだぜ。れいむ、はやくきづくんだぜ。それから、さいきんはまた、れみりゃがこのちかくまで来てるんだぜ。
けっかい! をいつもよりじょうぶにしておいてほしいんだぜ」
そう言ってまりさは、再び外へ行こうとする。
「こんやは、れみりゃのことでおさとはなしてくるよ。れいむはけっかい! をしっかりつくっておいてね」
「うるさいよ! そのていどわかってるよ! すぐにでていってね! おちびちゃんがゆっくりできないよ!」
まりさが何かを言いながら外へと出ていくが、怒っているれいむの耳には意味として届かなかった。
「さあ、おちびちゃん、ゆっくりできないまりさはいなくなったよ。ゆっくりできるおうたをうたってあげるね。
ゆ~ゆ~ゆ~、ゆっくり~のひ~、まったり~のひ~」
ごはんさんはあまり食べないおちびちゃんだけど、おうたを歌ってあげるととてもゆっくりしているように見えた。
まりさの忠告を守らなかった時点で、いつかはこうなっていただろう。それが今日だったと言うだけの話だ。
歌い疲れて寝息を立てているれいむのもとに、れみりゃがやってきた。
腐敗した果実の香りはかなり遠くまで届き、れみりゃを呼び寄せてしまったのだ。
「うー! うー!」
耳元で鳴るような鳴き声。本能的にゆっくりできないものを感じて飛び起きると、すでに眼前に迫ったれみりゃの姿があった。
「うあああああああ! れみりゃはゆっくりできないいいい!!」
咄嗟におちびちゃんとれみりゃの間に体を割り込ませ、後ろにかばう位置を取る。しかし必死に守ろうとしても所詮はれいむだった。
れみりゃの体当たり一発で、吹っ飛ばされた。
立ち上がり、もう一度向かっていくが、再度吹っ飛ばされる。
「どぼぢで! れいむは! おちびちゃんをまもらなくちゃいけないんだよおおお!」
れいむが動けなくなるまで、れみりゃは攻撃を続けるだろう。
獲物を痛めつけ、甘みを増してから食べるのはれみりゃの習性だった。
痛めつけるまでは殺されないと言うことだが、ほんの少し寿命が延びた代償は終わりのない苦痛だ。
けれど、れいむは湧き上がる母性で、ずきずきと痛む体にむち打ち、必死にれみりゃに向かっていく。
今度こそおちびちゃんは守るよ!!
今度こそ?
れいむは奇妙な既視感を覚える。それ振り払うように、れいむは叫んだ。
「なんどきても、れいむがおちびちゃんをまもるよおおおおおお!!」
まりさ3
まりさが群れの広場に戻ってきたときには、全てが終わっていた。
まだ日も暮れていないのに、けっかい! を壊されたいくつかのおうち。広場の中央には中身を吸い尽くされ
ひなびた果実のようになったちぇんが永遠にゆっくりしていた。
地面にはちぇんのあるおうちから、チョコレートの線が続いている。地面に描かれた暴虐の痕だけで死にかねないほど長い線だった。
甘くなるように限界まで痛めつけられたのだろう。
厄介な個体だ。
グルメだが痛めつけるのが下手なれみりゃだと、喰われるまでに大分中身を減らされてしまう。
結果、満足するまでの数が増える。犠牲の数が増える。まりさは狩りの練習に連れて行っていたおちびちゃんを
はっぱさんの影に隠れるよう言うと、おうちに向かって全力で跳ねた。
おうちはけっかい! が壊されていた。
まりさは、最悪の事態を想像した。
「れいむうううう! おちびちゃあああああん!」
叫びながら家へ近づく。おうちの横に、子ゆっくりが転がっていた。
牙を突き立てられたであろう傷口は捨てられた時に大きく裂け、もはや余命幾ばくもないようにみえる。
それがまりさとれいむの、最愛の子れいむだった。
「おちびちゃん! しっかりするんだぜ! ぺーろぺーろ。ぺーろぺーろ」
「おとうしゃ、ゆっくち、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ」
すでにぺーろぺーろではどうにもならない。失餡が多すぎる。永遠にゆっくりするのも時間の問題だ。
「ゆう……おちびちゃん……。ぺーろぺーろ。しっかりするんだぜ。ぺーろぺーろ」
それが分かっていても、他にできることは無かった。まりさは涙を流しながらおちびちゃんをぺーろぺーろした。
必死で子れいむを介抱するまりさ。そこへ声が掛かる。
「ま、りさ?」
ぺーろぺーろを中断して視線を上げると、巣穴の中から幾分か萎びたれいむがずーりずーりと出てくるところだった。
跳ねられないほど痛めつけられ、餡を吸われた傷口から少し出餡しているが、生きている。
「れみりゃ、が、おなかいっぱいって、いってたのに、おちびちゃん、あじみするって、かじって、なげて、れいむも
あじみって、かじって、なげて、たくさんたいあたりして」
群れの中心部で思う存分食事をしたれみりゃは、気の向くままにつまみ食いをして飛び去ったらしかった。
ただ、餡の少ない子ゆっくりには、つまみ食いでも致命的だ。
「れいむ、おちびちゃん、まもろうとしたのに、れみりゃ、いまいちだとか、いって」
「れいむ! れいむ、無事だったんだぜ!? よかった! よかったよおおお!」
れいむはそのまま気が遠くなるほど遅々とした歩みで近づいてくる。
「たくさん、たくさん、いたくて。おちびちゃん。おちびちゃん……」
れいむの声に反応したのだろうか。ゆ、ゆ、ゆ、と痙攣するだけになっていた子れいむが震えながらも口を開いた。
「おかーしゃ、れ……いむ、れいむはね」
子れいむは、しゃべろうと餡を動かしたことで更に出餡した。
「おちびちゃん、ごめん、ね、ごめんね。れいむが、よわくてごめんねぇぇぇ」
「おちびちゃん、しゃべっちゃだめなのぜ!」
もはや聞こえていないのだろう。子ゆっくりは虚ろな目を泳がせる。
「もっと、ゆっ、くり……。ゆっくり……。もっと、ゆっくりさせたかった」
そして、うわごとのようにぶつぶつと何度か同じ言葉を繰り返してから永遠にゆっくりした。
「おちびちゃあああああああああああああああああああああああああああああんん!!」
れいむは、残った命を吐き出すように長く長く叫び声を上げた後、糸が切れたように気を失った。
まりさは、れいむをおうちに運んで寝かし、子れいむから形見のおりぼんさんを外して側に置いた。子れいむはおうちの裏に埋めた。
広場に戻り、襲撃を免れたおうちにけっかい! を強化するよう呼びかける。
葉っぱの影に隠れていた子ゆっくり達は、長ぱちゅりーの住居へ一時避難させた。
長と今後のことを少し話しあい、すっかり疲れ切ったまりさは長の家に泊まろうかと思ったが、長がそれを制した。
「さっきのれいむのひめい、ここまでとどいたわ。いまはれいむのそばにいてあげて」
疲れた体を引きずっておうちに戻ると、中からは、れいむの話し声が聞こえてきた。
他のゆっくりがお見舞いに来たのだろうか。
れいむは、おちびちゃんを亡くして落ち込んでいるはずだ。
慰めてもらえれば、れいむの傷も早く癒えるだろう。
少しだけ安心しながら、まりさはおうちの中に入っていく。
「れいむ、いまもどったんだぜ」
しかし、まりさが見たものは。
「ゆふふふ。れいむのおちびちゃん」
子れいむのおりぼんさんを乗せた石に。
「またれみりゃがきても、へいきだよ」
愛しげに、まるで我が子が生き返ったかのように。
「れいむが、またまもってあげるからね」
話しかけ続ける、れいむの姿だった。
ようやく初夏に差し掛かろうかという、半年前の夕方だった。
れいむ4
「なんどきても、れいむがおちびちゃんをまもるよおおおおおお!!」
叫んで飛びかかったれいむだったが、れみりゃは素早くジャンプしてれいむを踏みつけた。
「ぶべっ!?」
情けない声を上げるれいむ、再度踏みつける。
「うぎゅ」
今度は声だけではなく、餡が少し漏れた。
それで止まらずにもう一度。
「ゆぶぶぶぶ」
必死に口を閉じるれいむだったが、踏みつけ攻撃は終わらない。
どすんともう一度。
口の端から餡が漏れる。
もう一度。
更にきつく噛みしめた前歯にれみりゃの体重が掛かり、ぽきりと何本か折れた。
もう一度。
砕けた歯の破片と一緒に、口から餡が飛び出した。
もう一度。
斜めに入った踏みつけで、れいむは自分の吐瀉餡の上へ突っ伏した。
もう一度。
地面に無理矢理押しつけられた歯が、更に折れた。
もう一度。
折れた歯の破片が口中を荒らす。今までと違う鋭い痛みが走った。
もう一度。
体の上で踊るように踏みつけを繰り返すれみりゃ。
れいむの顔は、地面に擦りつけられて腫れ上がり始めていた。
ふと、体の上から重みが消える。
次に横合いから衝撃が来た。
上も下も分からないままごろごろと転がり、巣の奥へ追いやられる。
泥で濁った目に映るのは、可愛い可愛いおちびちゃんだった。
この状況でも叫び声一つあげずに大人しくしている、おちびちゃんだった。
あのときも、こんな風に体中が痛かった。
あのときって、いつ?
「おちびちゃ、れいむがまもるからね」
「うー、おちびなんていないんだどーー、うそつきはよくないんだどー」
言い終わると同時に、れみりゃはれいむの髪の毛をくわえると、そのままむしゃむしゃと咀嚼し始めた。
ゆっくりの餡は痛めつけることで甘さを増すが、髪は特に変化しない。メインディッシュ前の、オードブルと言ったところか。
「うー、さっぱりしてでりしゃすなんだどー」
バリカンのように食べ進み、お飾りまで食いちぎり逆モヒカンのようになったれいむ。バリカンと違うところは
髪の毛を引っこ抜きながら食い荒らしているところだ。
「うがあああ! いたい! いたい! かみのけさん! かみのけさんがあああ、おかざりさんがああ!」
「おかざりはあんまりおいしくなかったんだどー」
言いながら、れいむの正面までがじがじと食べ続ける。髪が途切れたところからは削ぐように表皮を削り食らっていく。
そのまま、れいむの眉間で方向転換して片目を食い潰す。
最後にれいむの瞳に映ったのは、刺さり行く牙の煌めきだった。
「がああ! れいむの! おめめさん! れいむの!」
瞳をぷつりと潰す瞬間、びくんっとれいむが跳ねた。
それが面白かったのか、れみりゃは、再度牙を抜いて、周囲の皮ごと咀嚼するように眼球に牙を突き立て続ける。
れいむは眼球に牙が突き立つたび、更に五度ほど大きく跳ねたが、その時点で眼窩内にはもはや
ぐちゃぐちゃとした半固形の物体が詰まっているだけだった。
れみりゃは周囲の組織ごと眼球を囓り取ると、ガムのように咀嚼して味を吸い尽くし、しわしわになった元眼球を吐き捨てた。
「しょっかんはおもしろいけど、のみこむほどのものじゃないんだどー」
虚ろな眼窩から餡の涙をどろどろ零し、れいむは息も絶え絶えとなっていた。
れみりゃはれいむの眼窩に口を近づけ、中身を少し舐め取った。
「うー、うー、まだめいんでぃっしゅにはならないんだど……」
困ったようにれいむを牙で刺すれみりゃだったが、れいむの反応は悪かった。
「うー、あじがいまいちだし、かりすまがかんじられないどー」
困ったように残った髪を引きちぎるが、れいむは少し身じろぎしただけだった。
「おちびちゃんがいれば、もっとおいしくなるんだどー」
その言葉が、れいむの朦朧とした意識をわずかに呼び戻した。
「お、ちび、ちゃ?」
「うー! うー! はんのうしたんだど! やっぱりおちびちゃんがいるんだど!? はやくだすんだどー!!」
「お、ひびひゃ……にへ、て」
れいむは歯のかけらでずたずたになった口を薄く開き、餡まみれの黒い舌を必死に伸ばした。目の前にいる、おちびちゃんに。
「うー? もしかして、そのいしがおちびちゃんなんだど?」
問いかけるが、もはやれいむは半死半生といった有様で答えることがない。
れみりゃは、試しにれいむのおかざりが乗った石をくわえてみた。
反応は劇的だった。
「おひびちゃ、を、かえへええええええええええ」
歯が抜けもはや発音すらままならなくなったらいむが、石ころ一つに必死になっている。れみりゃは上機嫌になった。
石をれいむの舌が届かない場所へ転がす。
「うー! ばかなんだど! いしをおちびだとおもいこんでるんだど?」
「いひ、なんかひゃ、なひ。かわひい、おひびちゃ。かえへぇ」
そう、石じゃない。それは可愛いおちびちゃん。れいむがれみりゃから守ったおちびちゃん。
「ばかなんだど! すくえないんだど! かりすまぶれいく! なんだどー」
あんまりごはんさんを食べないけど、おうたを歌うとゆっくりしてくれるおちびちゃん。
「かえへ……かえへ……かえへぇ」
まりさはあんまり可愛がらないけど、れいむの大事なおちびちゃん。
(そういえばまりさ、おちびちゃんをいつも、それとか、これとかよんでたよ)
「そんなばかゆっくりには、こうしてやるんだどー!」
言うが早いか、れみりゃはおちびちゃんからおかざりを取り上げ、ぐちゃぐちゃに咀嚼して噛み砕き、いくつかの破片を辺りに吐き散らした。
「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
れいむの絶叫が響き渡った。
今まで一度しか出したことのない様な大音声だった。
半年前におちびちゃんを守れなかった時の声だった。
餡子の奥がずきずき痛んだ。
体とは別の痛みだった。
れいむの脳裏に、忘れたくても忘れられず、必死に目を背けていた記憶が蘇った。
子まりさ。
半年前。
夕方。
れみりゃ。
子れいむ。
守れなくて。悔しくて。情けなくて。壊れてしまいそうで。
だから、れいむは見ないことにした。
おちびちゃんはれいむがまもったんだよ!
れいむはつよいんだよ!
まもれなかったおちびちゃんはさいしょからいなかったんだよ!
新しいおちびちゃんは動かない。喋らない。すーりすーりしてくれない。ごはんさんを食べてしあわせー! もしない。
だから、だから、それはれいむが悪いんじゃないよ!
おちびちゃんがすーりすーりしてくれないのは、可哀想なれいむに優しくしない群れのみんなが悪いんだよ!
おちびちゃんがごはんさんを食べないのは、食べられるごはんさんを取ってこない、まりさが悪いんだよ!
喋らないのは、難しい事ばっかり言う長ぱちゅりーのせいだよ!
動けないのは……動けないのは……。
そうだよ。みんなのせいにしてたんだよ。
悪いのはれいむだよ。守れなかったれいむだよ。
守れなかったことを無かったことにした、れいむだよ。
まりさ、ずっと気付かせようとしてくれてた。
れいむは、まりさにゆっくりしてほしかったんだよ。どうして忘れちゃってたんだろ。おちびちゃんがいないと
まりさがゆっくりできないと思ってたこと。
「うー! これはめいんでぃっしゅにふさわしいあじなんだどー」
急激に内面へ収束した思考はしかし長く続かなかった。
「いただくんだどー」
答えに到達した餡子もろとも、れみりゃの体内に吸い上げられていく。
「う-! すばらしいんだど! びんてーじものなんだどー!」
れみりゃがいったん口を離し、ぴょんぴょんと跳ねた。
けれど、どこか遠い世界をのぞき見ているように現実感がわかない。
ひとしきり跳ね終わったれみりゃが、再び口を付けようとしている。
もう、体にほとんど餡子が残っていない気がする。
ぼんやりとして、まりさの声が聞こえる気がする。
最期に、まりさに伝えたいことがあった。
まりさ4
「ゆううううううううううううううううううううううううううう!!」
全力で加速して、おうちに飛び込み、口にくわえた枝でれみりゃを突き刺した。
もちろん倒すことなんかできなかった。
「うー! れみりゃのかりすまなおくちがーーーー」
けれど、追い払うことはできた。
大して深い傷ではないだろうが、れみりゃはあっさりと飛び去った。今まで一度も反撃をしなかったせいで
痛みへの耐性が極端に低かったのかもしれない。
れみりゃの飛び去った空を一瞥し、足下に視線を向ける。
傍らには餡子を吸われ、半分くらいの大きさになってしまったれいむ。
れいむの大事なおちびちゃんだったものは、ばらばらのおかざりになって巣の中に飛び散っていた。
「れいむのこえが、おさのいえまでとどいたんだぜ。ぜんりょくできたけど、まりさはいつもまにあわないんだぜ。れいむ、ごめんだぜ……」
しわしわになってしまったれいむは、わずかに震えた。もはや表情など分からない。
ぼろぼろの口が開き、れいむは微かに声を出した。
「まりさほ、ふぉっと、ゆっくひさせひゃはった……」
まりさを、もっと、ゆっくりさせたかった。
それだけ呟くように言うと、れいむは動かなくなった。
「れいむ、わからなかったのかぜ? まりさはずっと、れいむとずっと、ゆっくりしてたんだぜ? きづいてほしかったんだぜ。
おちびちゃんが、えいえんにゆっくりしたときも、いっしょにかなしみたかったんだぜ」
冷たい風が吹いた。
ことしの越冬は、去年より寒くなりそうだった。
れいむ1
「おちびちゃんがゆっくりできないよ! れいむにゆっくりとごはんさんをもってきてね!」
れいむはちぇんの家で、声を張り上げて主張していた。
「わからないよー、どうしてれいむにごはんさんをあげないといけないのー?」
「そんなこともわからないなんて、ばかだね! れいむはかわいそうなんだよ!」
「わからないよー、かわいそうなのは、れいむだけじゃないんだよー? どうしてそんなこというのー?」
どうしても何も、れいむはものすごく可哀想だってことを知っていた。
どうして分からないんだろう。
れいむがかわいそうな理由は……。
理由は、考えようとするとものすごくゆっくりできない気分になった。
「りゆうはかんがえたくないよ! なんでもいいからごはんさんをもってきてね! すぐだよ!」
そう言うと、れいむはおうちに戻り、ごはんさんを運んでくるのを待つ。
ほとんど待たせずに、ちぇんがおぼうしに少しの食料を入れて持ってきた。
「わかるよー。れいむのおうちは、くさくてゆっくりできないんだねー」
おうちに足を一歩踏み入れるなり、ちぇんは言った。
れいむのおうちは、群れのみんなから食べきれないほど集めたごはんさんを食い散らかし、ろくに掃除も
しないせいで、甘いような苦いような香りを出していた。臭いは日増しに酷くなり、今や離れたところまで
風に乗って漂ってくる始末だった。
「うるさいよ! れいむのおうちはふろーらるでしょ! ごはんさんをおいて、でていってね!」
ちぇんはれいむから目を逸らして、できるだけおうちの奥へ入らないように、入り口付近へごはんさんを置いた。
「はああああ!? これっぽっちなの? こんなんじゃ、れいむのおちびちゃんがまんぞくできないでしょ!?
れいむのぼせいがうたがわれちゃうよ!!」
ちぇんは、困ったような顔をして少し視線を下げた。
「わからないよー。れいむは、どうしてそんなものをだいじにしてるの? さいきんはまた、れみりゃが
でるんだよ。ごはんさんをむだにするのはわからないよー」
それを聞いて、れいむはぷくーをして怒った。
「れいむのかわいいおちびちゃんを、だいじにしないわけないでしょおおおお! むだなんかじゃないよ!
もういいよ! どっかいってよ!」
ちぇんは小さくわからないよー、と呟くと、元来た道を戻っていった。
げすなちぇんを追い出したれいむは、おちびちゃんに向かって優しく語りかける。
「それじゃあ、おちびちゃん。まりさがごはんさんをもってくるまで、おやつをむーしゃむーしゃしましょうね」
ちぇんの貴重な食料を奪い、おやつと称して食い散らかしつつ、れいむはまりさのかえりを待つのだった。
まりさ1
まりさは、群れの中でも狩りが上手い方だった。
まりさは、群れのおちびちゃんを預かって狩りの訓練をしていた。
狩りが上手いだけのまりさなら、群れにも他にいる。
けれどこのまりさには、他のゆっくりにはまねできない特技があった。
長のぱちゅりーと仲が良かったまりさは、長の教育を通じて、四以上の数を数えることができたのだ。これを
生かして、長は子ゆっくりをまりさに任せて、他のゆっくり達の集めた食料を、まりさに分け与えるように指導した。
今までは、それぞれの家族ごとに、狩りに不慣れな子ゆっくりを連れて教育をしていた。
子ゆっくりが狩りに慣れるまでの間、効率は半分以下に落ち込む。つまり子ゆっくりのいる家族は全て食料の
量が半減していたのだ。
そこへ、たくさんの子ゆっくりに対して狩りを教えられるまりさが果たした役割は大きい。子ゆっくりを引
き連れ、狩りを教えることに専念したまりさは、ほとんど食料を集めることができなかった。しかし、群れ全
体では大幅に食料を蓄えることができる。
群れから少しずつ集めて、まりさの家族に分け与えても問題ないくらいには、
「このきのこさんは、ゆっくりできないんだぜ」
「このくささんは、たべられるんだぜ」
「このきには、むしさんがあつまるんだぜ」
「このむしさんは、においでさがせるよ。よくおぼえておくんだぜ」
いつも通りに野を行き、森の中を通り、河に掛かった橋を渡る。春の陽気が心地よい。まりさは、この春胎
生にんっしんで生まれた子ゆっくり達を連れて野を行く。
この子ゆっくり達が自力でもある程度狩りを行えるようになる頃には、植物型にんっしんした赤ゆっくり達
が子ゆっくりへと育ち、入れ替わりでまりさの元へやってくる。
まりさは夏の終わり頃までは休む間もなく狩りを教えることになる。
いつも通りだった。群れの集落から徐々に離れ、森の中へ入り、木の実さんやきのこさんについて狩りの方法を教えていく。
そして、いつも通りだったのはここまでだった。
結論から言ってしまえば、まりさは不運だったのだ。
「うー! うー! おいしそうなあまあまがたくさんいるんだどー」
この辺りまでれみりゃが飛んできたのは、今日が初めてだったのだから。
まりさは賢かった。成ゆっくりがまりさだけで、残りは子ゆっくりだ。これでは、れみりゃに勝てない。
「みんな! ゆっくりしてないでにげるんだぜえええええ! とにかくにげるんだぜえええ」
まりさの声に反応して、みんなは必死に逃げる。
まだ森に不慣れな子ゆっくりは、逃げようとする間に二ゆん捕まり、しわしわの皮だけになって落ちてきた。
わずかに幸運だったことは、今が昼であったことと、森の奥までは入り込んでいなかったこと。更に、混乱した
おちびちゃんが蜘蛛の子を散らすように四方八方へ逃げ出したことだ。
まりさは集落のある方、ここまで来た道を全力で戻った。
れみりゃはまりさ達を深追いせず、冷静に森の奥に逃げた子ゆっくりを追いかけて行った。
森から出たまりさは、大声を上げて子ゆっくり達を集めた。数を確認すると、今回の襲撃で五ゆんの子ゆっくりがいなくなっていた。
群れに戻ったまりさは、長ぱちゅりーにれみりゃが出たこと、五ゆんの子ゆっくり永遠にゆっくりしたことを報告した。
内一ゆんはまりさの子ゆっくりであった。
れいむ2
おうちに戻ってきたまりさにむかって、れいむは声を上げた。
おかえりなさい、でもおつかれさま、でもなく。
「れいむもおちびちゃんもおなかがぺこぺこだよ! とっととごはんさんを出してね!」
「ゆう……れいむ、そんなことよりきいてね。またれみりゃが出たんだよ」
「それがどうしたっていうの! れみりゃは、おうちにはこないんだよ! れいむには、かんけいないんだよ!」
「けど、けど、れいむ、かりにでてたちびまりさが……ゆっくりしちゃったらしいんだぜ?」
「ちびまりさなんて、かんけいないでしょ!! れいむにはこのおちびちゃんがいるよ! そんなことよりはやく
ごはんをよこせえええ!!!はらぺこでれいむのおちびちゃんが、えいえんにゆっくりしてもいいの!?」
「なんでそんなこというんだぜ!!」
「そんなこともわからないのおおおおお! れいむには、れいむのかわいいおちびちゃんしかいないんだよ!
かわいそうなんだよ! わかったらさっさとごはんさんよこせええ!!」
「れいむ、どうしてそんなこというんだぜ……」
まりさが今日の戦果をおぼうしから取り出す。
れいむはそれを、当然のように奪い取った。
れいむはまりさに目もくれない。
「さあ、おちびちゃん、ごはんさんですよ。いま、たべやすいようにしてあげるからねー」
ごはんさんを柔らかくかみ砕いて子れいむに与えようとする。
本来、これは植物型にんっしんした赤ゆっくりにしてあげるような過保護ぶりだった。
しかし、子れいむは全然ごはんさんを食べようとしない。
いつもの事だった。れいむはいつも通りに、まりさを口汚く罵る。
「うがああああ、まりさはどうして、こんなものしか取ってこられないの! おちびちゃんが食べたくなるような
おいしいごはんさんを、もってこい! もってこい!! もってこい!!!」
「れいむ、どうしてわからないんだぜ。これにそんなことをしても、いみないんだぜ」
まりさは、どうにかしてれいむを元に戻したかった。
いまのれいむは周囲にひたすら迷惑を掛けるだけの存在になっている。
どうしたら、昔のゆっくりしたれいむに戻ってくれるのだろうか。
「これとかいうなあああああ! かわいいおちびちゃんにしっとしてるの? おちびちゃんはこんなにゆっくりしてる
のに! まりさはどうしてそんなにゆっくりしてないの!」
すっかり変わってしまったれいむ。
再び現れたれみりゃ。
越冬に向けての食糧確保。
頭の痛い問題が山積みだった。
まりさ2
れみりゃの出現で教育にも少しの変化があった。陽が少しでも陰ったら森に入らないこと、太陽が赤くなり始めたら
森には入らないこと。それから、れみりゃと会ったらバラバラに逃げることを徹底的に教えた。
この群れは、れみりゃに遭遇したとき、運の悪い少数を切り捨てて全体を生かす道を選んだ。れみりゃとはあれから
も頻繁に森で遭遇した。夕方になる前に森から引き上げる慎重さをもってしても、恵をもたらす大樹が災厄の影を抱え
込み、れみりゃは頻繁に現れた。しかし、だからといって森に入らず狩りをしても食糧の不足はわかりきっている。森
での狩り方を森以外で教えるわけにはいかない。子ゆっくりが単独で狩りを行えるようになれば、複数でまとまって移
動する機会が減る。そうなれば、犠牲は少なくなるはずだ。それを励みに、まりさはかりを教え続けた。
一度にいなくなる子ゆっくりは少ないとは言え、胎生にんっしんした子ゆっくりが一人で狩りを行えるようになる頃
には、その数は半分以下になっていた。
入れ替わりにまりさの元へやってきた、植物型にんっしんだった子ゆっくりに狩りを教えながら、まりさは度々れい
むの事を考えた。
胎生にんっしんで生まれた子まりさが死んでから、れいむは子まりさの分も上乗せしたように、残された子れいむを
溺愛していた。
本当なら子れいむも狩りの練習をしているはずなのに、れいむは滅多に巣から出すことすらしない。このままでは
子れいむは一人立ちできなくなってしまう。
「ゆう……このままじゃあ、おちびちゃんがにーとさんになっちゃうのぜ」
今日はれみりゃに会うことなく一日を終えられた。運が良い。子れいむにはもっと運動をさせて、もし自分が永遠に
ゆっくりしてしまったときに、母子で生きていけるくらいの知識は伝えたかった。
今日は帰ったら、れいむをもう一度説得してみよう。
「ゆ! きょうはそろそろひきあげるよ! おちびちゃんたち、しっかりまりさについてきてね!」
まりさは帰路につきながら、どうやってれいむを説得しようかと考えていた。
れいむ3
今日もまた、かわいそうなれいむ! とアピールして周りからごはんさんをもらった。
「れいむ、おちびちゃんがえいえんにゆっくりして、かなしくても、まわりにあまえてばかりじゃいけないわ。とかいはじゃないわよ」
今日ごはんさんをもらったありすは、よく分からないことを言い出した。
「なんのことなの? れいむはかわいそうだけど、おちびちゃんは、永遠にゆっくりしてないよ!」
わけの分からないことを言わないでほしいよ。
おちびちゃんは最初から、かわいいれいむしかいなかったんだから。
「れいむ、それをよくみて。とかいはになってね。まりさのためにも」
ものすごく不快になった。れいむに説教をするなんて生意気だね! そんなことはわかってるんだから、わざわざ
言わなくても良いんだよ! 賢くってごめんね!
れいむは巣に戻って、ありすにもらった食料をおちびちゃんとむーしゃむーしゃしていた。
「おちびちゃん、たくさんたべてね。ふゆごもりにそなえて、たいりょくさんをふやすんだよ!」
おちびちゃんは相変わらずあまりごはんさんを食べようとしない。どうしてなんだろう。やっぱり、あんなありすが
持っているようなご飯さんじゃあお口に合わないのだろうか。
考えている内に、いつの間にかまりさが帰ってくる時間になっていた。
「れいむ、ただいまなんだぜ」
「まりさ! きょうはちゃんと、おちびちゃんがたべられるものを、もってきたんだろうね!?」
「きょうはきのみさんがとれたんだぜ。あまあまさんなんだぜ」
「ゆゆ! あまあまさん!? はやくちょうだい! おちびちゃんにたべさせるんだよ!」
まりさはおぼうしからあまあまさんを取り出す。
れいむは奪い取るようにあまあまを引き寄せ、子れいむに与え始めた。
「れいむ、もっとじぶんでたべるんだぜ。そのままじゃあれいむがよわってしまうんだぜ」
巣の中は、以前にれいむが子れいむに与え、食べずにうち捨てられた木の実が半ば溶けて発酵臭を放っていた。
「なんでまりさはそんなにばかなのおおおおおお! どうしてれいむのぼせいがわからないの! これだからまりさは
だめなんだよ! おちびちゃんがだいじじゃないんだね! とんだげすだよ!」
「そうじゃないんだぜ……そんなことをいいたいんじゃないんだぜ。まりさだって、おちびちゃんのことはだいじだったんだぜ。
けど、もうそれをだいじにするのはやめてほしいんだぜ! れいむはおかしくなってるんだぜ!」
「ふん! これだからまりさは。しょせん、にんっしんしないと、そのていどなんだね。しょせんまりさには、ぼせいはりかいできないよ」
「ゆう……ごめんだぜ。れいむ、はやくきづくんだぜ。それから、さいきんはまた、れみりゃがこのちかくまで来てるんだぜ。
けっかい! をいつもよりじょうぶにしておいてほしいんだぜ」
そう言ってまりさは、再び外へ行こうとする。
「こんやは、れみりゃのことでおさとはなしてくるよ。れいむはけっかい! をしっかりつくっておいてね」
「うるさいよ! そのていどわかってるよ! すぐにでていってね! おちびちゃんがゆっくりできないよ!」
まりさが何かを言いながら外へと出ていくが、怒っているれいむの耳には意味として届かなかった。
「さあ、おちびちゃん、ゆっくりできないまりさはいなくなったよ。ゆっくりできるおうたをうたってあげるね。
ゆ~ゆ~ゆ~、ゆっくり~のひ~、まったり~のひ~」
ごはんさんはあまり食べないおちびちゃんだけど、おうたを歌ってあげるととてもゆっくりしているように見えた。
まりさの忠告を守らなかった時点で、いつかはこうなっていただろう。それが今日だったと言うだけの話だ。
歌い疲れて寝息を立てているれいむのもとに、れみりゃがやってきた。
腐敗した果実の香りはかなり遠くまで届き、れみりゃを呼び寄せてしまったのだ。
「うー! うー!」
耳元で鳴るような鳴き声。本能的にゆっくりできないものを感じて飛び起きると、すでに眼前に迫ったれみりゃの姿があった。
「うあああああああ! れみりゃはゆっくりできないいいい!!」
咄嗟におちびちゃんとれみりゃの間に体を割り込ませ、後ろにかばう位置を取る。しかし必死に守ろうとしても所詮はれいむだった。
れみりゃの体当たり一発で、吹っ飛ばされた。
立ち上がり、もう一度向かっていくが、再度吹っ飛ばされる。
「どぼぢで! れいむは! おちびちゃんをまもらなくちゃいけないんだよおおお!」
れいむが動けなくなるまで、れみりゃは攻撃を続けるだろう。
獲物を痛めつけ、甘みを増してから食べるのはれみりゃの習性だった。
痛めつけるまでは殺されないと言うことだが、ほんの少し寿命が延びた代償は終わりのない苦痛だ。
けれど、れいむは湧き上がる母性で、ずきずきと痛む体にむち打ち、必死にれみりゃに向かっていく。
今度こそおちびちゃんは守るよ!!
今度こそ?
れいむは奇妙な既視感を覚える。それ振り払うように、れいむは叫んだ。
「なんどきても、れいむがおちびちゃんをまもるよおおおおおお!!」
まりさ3
まりさが群れの広場に戻ってきたときには、全てが終わっていた。
まだ日も暮れていないのに、けっかい! を壊されたいくつかのおうち。広場の中央には中身を吸い尽くされ
ひなびた果実のようになったちぇんが永遠にゆっくりしていた。
地面にはちぇんのあるおうちから、チョコレートの線が続いている。地面に描かれた暴虐の痕だけで死にかねないほど長い線だった。
甘くなるように限界まで痛めつけられたのだろう。
厄介な個体だ。
グルメだが痛めつけるのが下手なれみりゃだと、喰われるまでに大分中身を減らされてしまう。
結果、満足するまでの数が増える。犠牲の数が増える。まりさは狩りの練習に連れて行っていたおちびちゃんを
はっぱさんの影に隠れるよう言うと、おうちに向かって全力で跳ねた。
おうちはけっかい! が壊されていた。
まりさは、最悪の事態を想像した。
「れいむうううう! おちびちゃあああああん!」
叫びながら家へ近づく。おうちの横に、子ゆっくりが転がっていた。
牙を突き立てられたであろう傷口は捨てられた時に大きく裂け、もはや余命幾ばくもないようにみえる。
それがまりさとれいむの、最愛の子れいむだった。
「おちびちゃん! しっかりするんだぜ! ぺーろぺーろ。ぺーろぺーろ」
「おとうしゃ、ゆっくち、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ」
すでにぺーろぺーろではどうにもならない。失餡が多すぎる。永遠にゆっくりするのも時間の問題だ。
「ゆう……おちびちゃん……。ぺーろぺーろ。しっかりするんだぜ。ぺーろぺーろ」
それが分かっていても、他にできることは無かった。まりさは涙を流しながらおちびちゃんをぺーろぺーろした。
必死で子れいむを介抱するまりさ。そこへ声が掛かる。
「ま、りさ?」
ぺーろぺーろを中断して視線を上げると、巣穴の中から幾分か萎びたれいむがずーりずーりと出てくるところだった。
跳ねられないほど痛めつけられ、餡を吸われた傷口から少し出餡しているが、生きている。
「れみりゃ、が、おなかいっぱいって、いってたのに、おちびちゃん、あじみするって、かじって、なげて、れいむも
あじみって、かじって、なげて、たくさんたいあたりして」
群れの中心部で思う存分食事をしたれみりゃは、気の向くままにつまみ食いをして飛び去ったらしかった。
ただ、餡の少ない子ゆっくりには、つまみ食いでも致命的だ。
「れいむ、おちびちゃん、まもろうとしたのに、れみりゃ、いまいちだとか、いって」
「れいむ! れいむ、無事だったんだぜ!? よかった! よかったよおおお!」
れいむはそのまま気が遠くなるほど遅々とした歩みで近づいてくる。
「たくさん、たくさん、いたくて。おちびちゃん。おちびちゃん……」
れいむの声に反応したのだろうか。ゆ、ゆ、ゆ、と痙攣するだけになっていた子れいむが震えながらも口を開いた。
「おかーしゃ、れ……いむ、れいむはね」
子れいむは、しゃべろうと餡を動かしたことで更に出餡した。
「おちびちゃん、ごめん、ね、ごめんね。れいむが、よわくてごめんねぇぇぇ」
「おちびちゃん、しゃべっちゃだめなのぜ!」
もはや聞こえていないのだろう。子ゆっくりは虚ろな目を泳がせる。
「もっと、ゆっ、くり……。ゆっくり……。もっと、ゆっくりさせたかった」
そして、うわごとのようにぶつぶつと何度か同じ言葉を繰り返してから永遠にゆっくりした。
「おちびちゃあああああああああああああああああああああああああああああんん!!」
れいむは、残った命を吐き出すように長く長く叫び声を上げた後、糸が切れたように気を失った。
まりさは、れいむをおうちに運んで寝かし、子れいむから形見のおりぼんさんを外して側に置いた。子れいむはおうちの裏に埋めた。
広場に戻り、襲撃を免れたおうちにけっかい! を強化するよう呼びかける。
葉っぱの影に隠れていた子ゆっくり達は、長ぱちゅりーの住居へ一時避難させた。
長と今後のことを少し話しあい、すっかり疲れ切ったまりさは長の家に泊まろうかと思ったが、長がそれを制した。
「さっきのれいむのひめい、ここまでとどいたわ。いまはれいむのそばにいてあげて」
疲れた体を引きずっておうちに戻ると、中からは、れいむの話し声が聞こえてきた。
他のゆっくりがお見舞いに来たのだろうか。
れいむは、おちびちゃんを亡くして落ち込んでいるはずだ。
慰めてもらえれば、れいむの傷も早く癒えるだろう。
少しだけ安心しながら、まりさはおうちの中に入っていく。
「れいむ、いまもどったんだぜ」
しかし、まりさが見たものは。
「ゆふふふ。れいむのおちびちゃん」
子れいむのおりぼんさんを乗せた石に。
「またれみりゃがきても、へいきだよ」
愛しげに、まるで我が子が生き返ったかのように。
「れいむが、またまもってあげるからね」
話しかけ続ける、れいむの姿だった。
ようやく初夏に差し掛かろうかという、半年前の夕方だった。
れいむ4
「なんどきても、れいむがおちびちゃんをまもるよおおおおおお!!」
叫んで飛びかかったれいむだったが、れみりゃは素早くジャンプしてれいむを踏みつけた。
「ぶべっ!?」
情けない声を上げるれいむ、再度踏みつける。
「うぎゅ」
今度は声だけではなく、餡が少し漏れた。
それで止まらずにもう一度。
「ゆぶぶぶぶ」
必死に口を閉じるれいむだったが、踏みつけ攻撃は終わらない。
どすんともう一度。
口の端から餡が漏れる。
もう一度。
更にきつく噛みしめた前歯にれみりゃの体重が掛かり、ぽきりと何本か折れた。
もう一度。
砕けた歯の破片と一緒に、口から餡が飛び出した。
もう一度。
斜めに入った踏みつけで、れいむは自分の吐瀉餡の上へ突っ伏した。
もう一度。
地面に無理矢理押しつけられた歯が、更に折れた。
もう一度。
折れた歯の破片が口中を荒らす。今までと違う鋭い痛みが走った。
もう一度。
体の上で踊るように踏みつけを繰り返すれみりゃ。
れいむの顔は、地面に擦りつけられて腫れ上がり始めていた。
ふと、体の上から重みが消える。
次に横合いから衝撃が来た。
上も下も分からないままごろごろと転がり、巣の奥へ追いやられる。
泥で濁った目に映るのは、可愛い可愛いおちびちゃんだった。
この状況でも叫び声一つあげずに大人しくしている、おちびちゃんだった。
あのときも、こんな風に体中が痛かった。
あのときって、いつ?
「おちびちゃ、れいむがまもるからね」
「うー、おちびなんていないんだどーー、うそつきはよくないんだどー」
言い終わると同時に、れみりゃはれいむの髪の毛をくわえると、そのままむしゃむしゃと咀嚼し始めた。
ゆっくりの餡は痛めつけることで甘さを増すが、髪は特に変化しない。メインディッシュ前の、オードブルと言ったところか。
「うー、さっぱりしてでりしゃすなんだどー」
バリカンのように食べ進み、お飾りまで食いちぎり逆モヒカンのようになったれいむ。バリカンと違うところは
髪の毛を引っこ抜きながら食い荒らしているところだ。
「うがあああ! いたい! いたい! かみのけさん! かみのけさんがあああ、おかざりさんがああ!」
「おかざりはあんまりおいしくなかったんだどー」
言いながら、れいむの正面までがじがじと食べ続ける。髪が途切れたところからは削ぐように表皮を削り食らっていく。
そのまま、れいむの眉間で方向転換して片目を食い潰す。
最後にれいむの瞳に映ったのは、刺さり行く牙の煌めきだった。
「がああ! れいむの! おめめさん! れいむの!」
瞳をぷつりと潰す瞬間、びくんっとれいむが跳ねた。
それが面白かったのか、れみりゃは、再度牙を抜いて、周囲の皮ごと咀嚼するように眼球に牙を突き立て続ける。
れいむは眼球に牙が突き立つたび、更に五度ほど大きく跳ねたが、その時点で眼窩内にはもはや
ぐちゃぐちゃとした半固形の物体が詰まっているだけだった。
れみりゃは周囲の組織ごと眼球を囓り取ると、ガムのように咀嚼して味を吸い尽くし、しわしわになった元眼球を吐き捨てた。
「しょっかんはおもしろいけど、のみこむほどのものじゃないんだどー」
虚ろな眼窩から餡の涙をどろどろ零し、れいむは息も絶え絶えとなっていた。
れみりゃはれいむの眼窩に口を近づけ、中身を少し舐め取った。
「うー、うー、まだめいんでぃっしゅにはならないんだど……」
困ったようにれいむを牙で刺すれみりゃだったが、れいむの反応は悪かった。
「うー、あじがいまいちだし、かりすまがかんじられないどー」
困ったように残った髪を引きちぎるが、れいむは少し身じろぎしただけだった。
「おちびちゃんがいれば、もっとおいしくなるんだどー」
その言葉が、れいむの朦朧とした意識をわずかに呼び戻した。
「お、ちび、ちゃ?」
「うー! うー! はんのうしたんだど! やっぱりおちびちゃんがいるんだど!? はやくだすんだどー!!」
「お、ひびひゃ……にへ、て」
れいむは歯のかけらでずたずたになった口を薄く開き、餡まみれの黒い舌を必死に伸ばした。目の前にいる、おちびちゃんに。
「うー? もしかして、そのいしがおちびちゃんなんだど?」
問いかけるが、もはやれいむは半死半生といった有様で答えることがない。
れみりゃは、試しにれいむのおかざりが乗った石をくわえてみた。
反応は劇的だった。
「おひびちゃ、を、かえへええええええええええ」
歯が抜けもはや発音すらままならなくなったらいむが、石ころ一つに必死になっている。れみりゃは上機嫌になった。
石をれいむの舌が届かない場所へ転がす。
「うー! ばかなんだど! いしをおちびだとおもいこんでるんだど?」
「いひ、なんかひゃ、なひ。かわひい、おひびちゃ。かえへぇ」
そう、石じゃない。それは可愛いおちびちゃん。れいむがれみりゃから守ったおちびちゃん。
「ばかなんだど! すくえないんだど! かりすまぶれいく! なんだどー」
あんまりごはんさんを食べないけど、おうたを歌うとゆっくりしてくれるおちびちゃん。
「かえへ……かえへ……かえへぇ」
まりさはあんまり可愛がらないけど、れいむの大事なおちびちゃん。
(そういえばまりさ、おちびちゃんをいつも、それとか、これとかよんでたよ)
「そんなばかゆっくりには、こうしてやるんだどー!」
言うが早いか、れみりゃはおちびちゃんからおかざりを取り上げ、ぐちゃぐちゃに咀嚼して噛み砕き、いくつかの破片を辺りに吐き散らした。
「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
れいむの絶叫が響き渡った。
今まで一度しか出したことのない様な大音声だった。
半年前におちびちゃんを守れなかった時の声だった。
餡子の奥がずきずき痛んだ。
体とは別の痛みだった。
れいむの脳裏に、忘れたくても忘れられず、必死に目を背けていた記憶が蘇った。
子まりさ。
半年前。
夕方。
れみりゃ。
子れいむ。
守れなくて。悔しくて。情けなくて。壊れてしまいそうで。
だから、れいむは見ないことにした。
おちびちゃんはれいむがまもったんだよ!
れいむはつよいんだよ!
まもれなかったおちびちゃんはさいしょからいなかったんだよ!
新しいおちびちゃんは動かない。喋らない。すーりすーりしてくれない。ごはんさんを食べてしあわせー! もしない。
だから、だから、それはれいむが悪いんじゃないよ!
おちびちゃんがすーりすーりしてくれないのは、可哀想なれいむに優しくしない群れのみんなが悪いんだよ!
おちびちゃんがごはんさんを食べないのは、食べられるごはんさんを取ってこない、まりさが悪いんだよ!
喋らないのは、難しい事ばっかり言う長ぱちゅりーのせいだよ!
動けないのは……動けないのは……。
そうだよ。みんなのせいにしてたんだよ。
悪いのはれいむだよ。守れなかったれいむだよ。
守れなかったことを無かったことにした、れいむだよ。
まりさ、ずっと気付かせようとしてくれてた。
れいむは、まりさにゆっくりしてほしかったんだよ。どうして忘れちゃってたんだろ。おちびちゃんがいないと
まりさがゆっくりできないと思ってたこと。
「うー! これはめいんでぃっしゅにふさわしいあじなんだどー」
急激に内面へ収束した思考はしかし長く続かなかった。
「いただくんだどー」
答えに到達した餡子もろとも、れみりゃの体内に吸い上げられていく。
「う-! すばらしいんだど! びんてーじものなんだどー!」
れみりゃがいったん口を離し、ぴょんぴょんと跳ねた。
けれど、どこか遠い世界をのぞき見ているように現実感がわかない。
ひとしきり跳ね終わったれみりゃが、再び口を付けようとしている。
もう、体にほとんど餡子が残っていない気がする。
ぼんやりとして、まりさの声が聞こえる気がする。
最期に、まりさに伝えたいことがあった。
まりさ4
「ゆううううううううううううううううううううううううううう!!」
全力で加速して、おうちに飛び込み、口にくわえた枝でれみりゃを突き刺した。
もちろん倒すことなんかできなかった。
「うー! れみりゃのかりすまなおくちがーーーー」
けれど、追い払うことはできた。
大して深い傷ではないだろうが、れみりゃはあっさりと飛び去った。今まで一度も反撃をしなかったせいで
痛みへの耐性が極端に低かったのかもしれない。
れみりゃの飛び去った空を一瞥し、足下に視線を向ける。
傍らには餡子を吸われ、半分くらいの大きさになってしまったれいむ。
れいむの大事なおちびちゃんだったものは、ばらばらのおかざりになって巣の中に飛び散っていた。
「れいむのこえが、おさのいえまでとどいたんだぜ。ぜんりょくできたけど、まりさはいつもまにあわないんだぜ。れいむ、ごめんだぜ……」
しわしわになってしまったれいむは、わずかに震えた。もはや表情など分からない。
ぼろぼろの口が開き、れいむは微かに声を出した。
「まりさほ、ふぉっと、ゆっくひさせひゃはった……」
まりさを、もっと、ゆっくりさせたかった。
それだけ呟くように言うと、れいむは動かなくなった。
「れいむ、わからなかったのかぜ? まりさはずっと、れいむとずっと、ゆっくりしてたんだぜ? きづいてほしかったんだぜ。
おちびちゃんが、えいえんにゆっくりしたときも、いっしょにかなしみたかったんだぜ」
冷たい風が吹いた。
ことしの越冬は、去年より寒くなりそうだった。