ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
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『priceless』 32KB
虐待 制裁 駆除 群れ 野良ゆ 赤ゆ ゲス 現代 以下:余白
虐待 制裁 駆除 群れ 野良ゆ 赤ゆ ゲス 現代 以下:余白
『priceless』
序、
その店は酷くみすぼらしい建物だった。壁の塗装ははがれかけている部分が多く、二階の事務所部分と店内で繋がっている倉庫はトタン屋根で覆われていた。
店内は一度改装を行っているせいか、二階と倉庫のボロさ加減がやたらと目立つ。錆などで腐食しているのか、壁の一部は触ればパラパラと錆屑が落ちてくるほどである。
ここは、田舎で良く見かけるシャッター街の片隅で、息も絶え絶えになんとか営業を続けていた小さなスーパーだ。
店の中からは決して多くない従業員と、店長の声が聞こえてくる。
店内は一度改装を行っているせいか、二階と倉庫のボロさ加減がやたらと目立つ。錆などで腐食しているのか、壁の一部は触ればパラパラと錆屑が落ちてくるほどである。
ここは、田舎で良く見かけるシャッター街の片隅で、息も絶え絶えになんとか営業を続けていた小さなスーパーだ。
店の中からは決して多くない従業員と、店長の声が聞こえてくる。
「おーい、そっちの段ボール箱は全部倉庫に持ってきてくれー」
「すいませーん。今、台車ってどこに行ってますかぁ!?」
「――はい。……はい。ケースで二百箱、発注してください。搬入は前日の夕方で。……はい。あ、お願いします。それでは失礼いたします」
この日は十二月二十七日。
店にとってはまさに書き入れ時で、小さなスーパーとは言え大晦日の準備に追われる多くの主婦が買い溜めに近いレベルでの買い物に訪れていた。
そんな激務と平行して、店は一月二日から行われる「初商い」に向けての準備を進めていたのである。
店にとってはまさに書き入れ時で、小さなスーパーとは言え大晦日の準備に追われる多くの主婦が買い溜めに近いレベルでの買い物に訪れていた。
そんな激務と平行して、店は一月二日から行われる「初商い」に向けての準備を進めていたのである。
「さぁ。これがこの店にとっての最後の大仕事だ。せめて最後くらいは世話になったこのオンボロスーパーをお客さんで埋め尽くしてやろう」
店長が段ボール箱を次々と裏の倉庫に運びながら、うっすらと額に汗を浮かべている従業員に声を掛けた。その言葉に従業員が「はい!」と気持ちの良い返事を返す。
この店は一月二日の「初商い」をもって閉店することが上層部の会議で決められていた。
小さな田舎町にもコンビニができ、車を二十分も走らせれば市街地の集合商店に行くことが可能なため、店の売り上げは年々右肩下がりだったのである。
上層部の決断に、店長以下従業員一同も「致し方ない」と諦めの境地に達していた。
事実、店に訪れる客は車などの移動手段を持たない地元の高齢者ぐらいで、その程度の客数では店を維持することなど不可能と言ってしまっても良い。
こうして、高齢者にとってますます生活が困難な状況が作られ、町は少しずつ寂れて行く。この五年間近く、ずっとそれを繰り返してきた。
この店は一月二日の「初商い」をもって閉店することが上層部の会議で決められていた。
小さな田舎町にもコンビニができ、車を二十分も走らせれば市街地の集合商店に行くことが可能なため、店の売り上げは年々右肩下がりだったのである。
上層部の決断に、店長以下従業員一同も「致し方ない」と諦めの境地に達していた。
事実、店に訪れる客は車などの移動手段を持たない地元の高齢者ぐらいで、その程度の客数では店を維持することなど不可能と言ってしまっても良い。
こうして、高齢者にとってますます生活が困難な状況が作られ、町は少しずつ寂れて行く。この五年間近く、ずっとそれを繰り返してきた。
「爺さん婆さんたちには悪いが、せめて最後の大安売りで少しでもたくさん商品を買ってもらおう。あの人たちにとって、この先“買い物”は苦行になるだろうからな」
「そうですね。最後の最後まで、この店に来てくれたお客さんには笑顔で“買い物”をしていただきましょう」
「ああ。それが俺たち従業員にできる、今日までこの店を支えてくれたお客様への唯一の恩返しだ。頑張ろう」
この店は、弱小店舗ゆえに品揃えは決して良くない。新しいお菓子も、真新しい惣菜も、流行りのシャンプーだって置いてない。
その代わりに、従業員一同は訪れる客に対して“笑顔”という目に見えない商品を提供することに拘り続けたのだ。
地域密着型の……、或いはそうならざるを得ない立地環境にあった店にできる他店に対抗する唯一の手段が“それ”だったのである。
店は十二月三十日の午後から店休日となっていた。それまでに「初商い」の準備を終わらせなければいけない。全従業員が身を粉にして働いていた。
その甲斐あってか、なんとか予定通りに準備を終えることができ、従業員一同はホッとした様子でそれぞれの家路に着いた。
店長だけはすべての商品を並べ終った店内で最後の確認を行っていた。歩きながら独り言を呟く。
その代わりに、従業員一同は訪れる客に対して“笑顔”という目に見えない商品を提供することに拘り続けたのだ。
地域密着型の……、或いはそうならざるを得ない立地環境にあった店にできる他店に対抗する唯一の手段が“それ”だったのである。
店は十二月三十日の午後から店休日となっていた。それまでに「初商い」の準備を終わらせなければいけない。全従業員が身を粉にして働いていた。
その甲斐あってか、なんとか予定通りに準備を終えることができ、従業員一同はホッとした様子でそれぞれの家路に着いた。
店長だけはすべての商品を並べ終った店内で最後の確認を行っていた。歩きながら独り言を呟く。
「この商品台のキズ。まだ新人だったアイツが台車をぶつけて凹ませたんだっけか」
「……レジの機械が変わる度に、全員でマニュアル読みながら四苦八苦したっけ」
「焼酎瓶を割って、店内が酒臭くなった事もあったな……」
鼻をすする音が聞こえた。少しずつ遅くなっていく歩み。こうして閉店後のチェックをするのもこれが最後だ。
静まり返った店の裏口から外に出た店長がドアに鍵を下ろしたとき、何故か涙が零れた。
それから、その扉を決して振り返らないように、速足で長年働き続けた店を後にした。
静まり返った店の裏口から外に出た店長がドアに鍵を下ろしたとき、何故か涙が零れた。
それから、その扉を決して振り返らないように、速足で長年働き続けた店を後にした。
「……帰って、熱燗でも飲むかな……」
身を切るような冷たい風が吹き付けていた。夜にかけて雪が降るのかも知れない。
“今年の終わり”はもうすぐそこまで来ていた。
“今年の終わり”はもうすぐそこまで来ていた。
一、
「ゆぴぃ……しゃむいよぉ……」
一匹の赤れいむが目に涙を浮かべて、歯をガチガチ鳴らしながら震えていた。その小さく柔らかな頬は親れいむの頬にぴったりとくっつけられている。
「ちびちゃん。がまんしてね……っ。いま、まりさおかーさんがあったかいふかふかさんをさがしてくれているからね」
「ゆぅぅぅぅ……」
気休めにもならない親れいむの励ましに、不服そうな表情を浮かべながらぎゅっ、と目を閉じる赤れいむ。
このれいむ親子は小さな神社の床下に住み着いていた。しかし、床下には冬の北風が容赦なく入り込み、暖を取る手段は一切ない。
せめて捨てられたタオルなどが落ちていれば、それにくるまって寒さを凌げるのだろうが、ゴミ分別モデル地区に指定されているこの町でそれは万が一にも望めなかった。
綺麗な町は野良ゆっくりにとって非常に過ごしにくいものだったのである。
生活の為に必要な素材の九割がゴミ漁りなどからしか得られない野良ゆっくりに、この町はあまりにも厳しい環境であると言えた。
それでも、こうして野良ゆっくりが生き延びているのは、財政難のせいで町役場が専門業者にゆっくり駆除を依頼できないからだ。
ゴミを得られない野良ゆっくりたちは、人間のテリトリーを侵す害獣と化した。
花壇や野菜畑は食糧目当てで荒らされ、物置からは使えそうな道具を盗まれ、干してある洗濯物が根こそぎ持って行かれもしていたのである。
当然の如く人間たちは怒り狂った。役場が動かないのなら、と地元住民がボランティアで駆除活動を行ったりもしたが、いかんせん若手の力が足りなさすぎる。
過疎化の坂道を転がり落ちる町の人口は、七割が六十歳以上の高齢者という状況だ。
対して野良ゆっくりの繁殖力は凄まじい。百匹生まれて半分死んでも五十匹は増えて行くという計算だ。駆除が追い付く道理はない。
このれいむ親子は小さな神社の床下に住み着いていた。しかし、床下には冬の北風が容赦なく入り込み、暖を取る手段は一切ない。
せめて捨てられたタオルなどが落ちていれば、それにくるまって寒さを凌げるのだろうが、ゴミ分別モデル地区に指定されているこの町でそれは万が一にも望めなかった。
綺麗な町は野良ゆっくりにとって非常に過ごしにくいものだったのである。
生活の為に必要な素材の九割がゴミ漁りなどからしか得られない野良ゆっくりに、この町はあまりにも厳しい環境であると言えた。
それでも、こうして野良ゆっくりが生き延びているのは、財政難のせいで町役場が専門業者にゆっくり駆除を依頼できないからだ。
ゴミを得られない野良ゆっくりたちは、人間のテリトリーを侵す害獣と化した。
花壇や野菜畑は食糧目当てで荒らされ、物置からは使えそうな道具を盗まれ、干してある洗濯物が根こそぎ持って行かれもしていたのである。
当然の如く人間たちは怒り狂った。役場が動かないのなら、と地元住民がボランティアで駆除活動を行ったりもしたが、いかんせん若手の力が足りなさすぎる。
過疎化の坂道を転がり落ちる町の人口は、七割が六十歳以上の高齢者という状況だ。
対して野良ゆっくりの繁殖力は凄まじい。百匹生まれて半分死んでも五十匹は増えて行くという計算だ。駆除が追い付く道理はない。
「ゆっくりただいまのぜ」
「ゆーん! まりさぁ、すーりすーり……」
「まりしゃおきゃあしゃんっ! ……ゆぁ……」
神社の床下に戻ってきた何も持っていない親まりさを見て、赤れいむが落胆の表情を浮かべた。親まりさも申し訳なさそうに赤れいむから視線を外す。
「ち、ちびちゃん……まりさ……」
オロオロしながら親れいむが両者に対して交互に視線を送った。
赤れいむが一瞬だけぶるっ、と震える。そして揉み上げをざわつかせながら大量の涙を流し始めた。口は半開きのまま、ぱくぱく動いている。そして。
赤れいむが一瞬だけぶるっ、と震える。そして揉み上げをざわつかせながら大量の涙を流し始めた。口は半開きのまま、ぱくぱく動いている。そして。
「ゆんやああぁぁぁっ!! もぅやじゃあぁっ! れーみゅ、ゆっくち……ゆっくちしちゃいよぉぉぉ!!! おうちかえりゅぅぅぅ!!!」
「お、おちついてねっ、ちびちゃん! こ、ここが……ここがれいむたちのおうちだよっ! みんなでいっしょにゆっくりしようねっ!!!」
「ゆあぁああぁぁぁあんっ!!! できにゃいもんっ!! ここじゃ、れーみゅ、ゆっくちできにゃいぃぃぃ!!!」
「いいかげんにするのぜっ!! ぷっくぅぅぅぅぅ!!!!!」
「――ッ?! ゆ、ゆぴィッ!!?」
親まりさが赤れいむの前に移動して力強く頬を膨らませる。険しい表情の親まりさにぷくーをされた赤れいむは、揉み上げを力なく垂らしてめそめそ泣いていた。
「れーみゅ……ゆっくちしちゃい、だけにゃのにぃ……」
蚊の鳴くような声で赤れいむがぽそりと呟く。それに対して親れいむも親まりさも何も言わなかった。何も、言えなかった。
それからしばらくして夜の帳が下りた。
気温はますます下がり、冷たい外気が親れいむと親まりさの皮を凍えさせている。赤れいむはガタガタ震えながら両親の頬に挟まれていた。
親まりさがちらりと横目で外を見る。雪が降っていた。目を伏せて溜め息をつく。
それからしばらくして夜の帳が下りた。
気温はますます下がり、冷たい外気が親れいむと親まりさの皮を凍えさせている。赤れいむはガタガタ震えながら両親の頬に挟まれていた。
親まりさがちらりと横目で外を見る。雪が降っていた。目を伏せて溜め息をつく。
「どこかに……もっと、いいおうちはないのかぜ……」
「むずかしいとおもうよ……。にんげんさんのおうちにはいったら、おこられるし……」
「にんげんさんは、げすばっかりなのぜ。こんなにまりさたちがこまっているのに、ちっともたすけてくれようとしないんだぜ……」
「にんげんさんは、じぶんかってだからしかたないよ。じぶんたちがゆっくりすることしかかんがえてないからね……」
親れいむと親まりさがもう一度視線を合わせて、同時に溜め息を吐いた。二匹の白い吐息が溶け合って消える。
身を震わせながら、親れいむと親まりさが無理矢理眠りにつく。赤れいむからもいつの間にか寝息が聞こえていた。
翌朝。
夜のうちに降っていた雪は積もることなく、陽の光できれいさっぱり溶かされていた。
親れいむと親まりさが神社の床下から外へもぞもぞと這い出すと、すぐに一匹のゆっくりがぴょんぴょん飛び跳ねてきた。
全身、汗と泥まみれのちぇんだ。ちぇんは、親れいむと親まりさと目が合うなり、声高々に叫んだ。
身を震わせながら、親れいむと親まりさが無理矢理眠りにつく。赤れいむからもいつの間にか寝息が聞こえていた。
翌朝。
夜のうちに降っていた雪は積もることなく、陽の光できれいさっぱり溶かされていた。
親れいむと親まりさが神社の床下から外へもぞもぞと這い出すと、すぐに一匹のゆっくりがぴょんぴょん飛び跳ねてきた。
全身、汗と泥まみれのちぇんだ。ちぇんは、親れいむと親まりさと目が合うなり、声高々に叫んだ。
「れいむー! まりさー! ちぇんたちがとってもゆっくりできるおうちをみつけたんだねー!!」
「……? どういうことなの……?」
喜びを隠し切れない様子のちぇんに対して、親れいむと親まりさは神妙な表情でちぇんを見つめた。
赤れいむは「ゆぴ……?」と状況を飲み込めないでいるらしい。
興奮気味に言葉を繋げるちぇん。
赤れいむは「ゆぴ……?」と状況を飲み込めないでいるらしい。
興奮気味に言葉を繋げるちぇん。
「よろこんでねー! きのう、かりをしていたゆっくりたちが、ぐうぜんにさいこうのゆっくりぷれいすをみつけたんだよー」
「さいこうの……?」
「ゆっくりぷれいす……?」
親れいむと親まりさが視線を合わせる。それは厳しい野良生活を強いられてきたれいむ親子にとって魔法と呼ぶに相応しい言葉だった。
「ど……どこにあるの?! はやくあんないしてねっ」
「あせらないでねー。たくさんのゆっくりがいっしょにできるくらいひろいばしょだから、あわてるひつようはないんだよー」
「れーみゅ……ゆっくちできりゅの……?」
「そうだよー! そこは、さむいさむいにならなくて、たくさんのごはんさんがあって、すごくゆっくりできるんだよー」
ちぇんはまるで理想郷を見つけた冒険者のように、その場所がいかに素晴らしいかをれいむ親子に語って聞かせた。
れいむ親子の期待はどんどん膨らんでいく。最初こそ、半信半疑だった親れいむと親まりさも、今はすっかりちぇんの話の虜になっているようだ。
ちぇんは言った。「これからはみんなでずっと一緒に暮らそうねー」と。その言葉にれいむ親子は賛同した。反発する理由が何一つとしてなかった。
親れいむが赤れいむを頭の上に乗せて、先導するちぇんの後ろをぴょんぴょんと跳ねながらついていく。しんがりを行くのは親まりさだ。
それはこれまでれいむ親子が味わったことのないような、希望に満ちた行進だった。
「ゆはっ、ゆはっ」と息を荒げながらも、あんよを止めないのはその先に望んだ世界があるからだ。
れいむ親子の期待はどんどん膨らんでいく。最初こそ、半信半疑だった親れいむと親まりさも、今はすっかりちぇんの話の虜になっているようだ。
ちぇんは言った。「これからはみんなでずっと一緒に暮らそうねー」と。その言葉にれいむ親子は賛同した。反発する理由が何一つとしてなかった。
親れいむが赤れいむを頭の上に乗せて、先導するちぇんの後ろをぴょんぴょんと跳ねながらついていく。しんがりを行くのは親まりさだ。
それはこれまでれいむ親子が味わったことのないような、希望に満ちた行進だった。
「ゆはっ、ゆはっ」と息を荒げながらも、あんよを止めないのはその先に望んだ世界があるからだ。
「まりさっ! ちびちゃんのかがやかしいみらいがまってるよっ!!」
「そうなのぜっ! れいむ、これからもずっとずっと……まりさといっしょにゆっくりするのぜ!!」
親まりさの力強い愛の言葉に、思わず飛び跳ねながら身をくねらせる親れいむ。
ちぇんは「ふたりはらぶらぶなんだねー」と二匹をからかっていた。
それから数分後、ちぇんに案内された場所を見てれいむ親子が思わず息を呑んだ。
目の前にそびえるのはどう考えても人間の造った建造物。確かにその中から大量のゆっくりの気配を感じるが、それでも親れいむは口を開けたまま動かなかった。
親まりさがちぇんを睨み付ける。
ちぇんは「ふたりはらぶらぶなんだねー」と二匹をからかっていた。
それから数分後、ちぇんに案内された場所を見てれいむ親子が思わず息を呑んだ。
目の前にそびえるのはどう考えても人間の造った建造物。確かにその中から大量のゆっくりの気配を感じるが、それでも親れいむは口を開けたまま動かなかった。
親まりさがちぇんを睨み付ける。
「ちぇんっ! これはいったいどういうことなんだぜっ!? ここは、にんげんさんのおうちにきまってるのぜ!!」
「ちがうよー。ここに、にんげんさんはすんでいないんだねー」
「ちぇん……。でも、ここは……」
「むきゅ? あたらしいなかまかしら?」
三匹の会話を遮るように、“壁の一部にできた穴”からぱちゅりーが顔を覗かせる。
すぐにれいむ親子はこの建物をゆっくりぷれいすにしていることについて、賢者ぱちゅりーに訊いてみることにした。
すぐにれいむ親子はこの建物をゆっくりぷれいすにしていることについて、賢者ぱちゅりーに訊いてみることにした。
「むきゅ。ここはにんげんさんの“おうち”ではないわ」
「どうしてそんなことがわかるんだぜ?」
「かんたんなことよ。ここに、にんげんさんは“かえってこない”んだもの」
「ゆ……?」
「れいむ。ぱちゅたちは、おひさまさんがさよーならー、したらじぶんたちのおうちにもどって、すーやすーやするわよね?」
「ゆ。そうだよ」
「でも、おひさまさんがさよーならーしても、にんげんさんがここでごはんさんをむーしゃむーしゃすることもないし、すーやすーやすることもないのよ?」
「ぱちゅりーのいいたいことはなんとなくわかるのぜ。でも、それじゃあ、ここはいったいなんなのぜ? にんげんさんがつくったのにはまちがいないのぜ?」
ぱちゅりーの言っている事は当たらずしも遠からずと言ったところか。確かにここは人間が造った建物に間違いないが、人間が暮らす家ではない。
“ゆっくりぷれいす”や“おうち”に強い拘りを持つゆっくりにとって、生活の重要な拠点である場所に戻って来ないという感覚は在り得なかった。
それが理解できているから、親れいむも親まりさも強い反発を見せることなくぱちゅりーの言う事を聞いていたのだ。
しかし、解せない。親まりさが言うようにそれではここに人間がこの建物を造った意図が読めないのである。
ぱちゅりーはそんな親まりさの問いかけにも「むきゅきゅ」と笑いながら諭すような口調で答えた。
“ゆっくりぷれいす”や“おうち”に強い拘りを持つゆっくりにとって、生活の重要な拠点である場所に戻って来ないという感覚は在り得なかった。
それが理解できているから、親れいむも親まりさも強い反発を見せることなくぱちゅりーの言う事を聞いていたのだ。
しかし、解せない。親まりさが言うようにそれではここに人間がこの建物を造った意図が読めないのである。
ぱちゅりーはそんな親まりさの問いかけにも「むきゅきゅ」と笑いながら諭すような口調で答えた。
「ここはね……。きっと、にんげんさんがぱちゅたちみたいなゆっくりのためにつくってくれた、ゆっくりぷれいすなのよ」
「ゆ、ゆゆぅぅぅぅッ?!!」
目を見開く親れいむ。
ぱちゅりーは目を細め、遠くを見つめながら静かに言葉を繋いだ。
ぱちゅりーは目を細め、遠くを見つめながら静かに言葉を繋いだ。
「……やっと、はんせいしたんでしょうね……にんげんさんたちも。じぶんたちのことしかかんがえていないゆっくりできないそんざいだ、っていうことにきづいたんだわ」
「そう……なのぜ……?」
「そうにきまっているわ。そうじゃなければ、わざわざこんな“いみのないおうち”をつくるりゆうがないもの」
「それじゃあ……、れいむたち、ここにすんでもいいの?」
「もちろんよ。だから、これからにんげんさんをみかけたら、みんなでこれまでのことをゆるしてあげましょう」
「にんげんさんに……たくさんのゆっくりがえいえんにゆっくりさせられたのぜ……」
「ええ。いっしょにゆっくりしようとしただけなのに、みんなひどいめにあわせられたものね」
親れいむと親まりさの瞳が輝いていく。頬が紅潮し始めていた。少しずつ興奮していくゆっくりたち。
「やっと……にんげんさんが、まりさたちといっしょにゆっくりできるようになったのぜ!」
「むきゅ! そうよ!! はんせいしたにんげんさんにたいして、せいっさいっ!をするほど、ぱちゅたちはげすなゆっくりなんかじゃないわっ!!!」
「れ、れいむ、かんっだいっ!でごめんねっ?!!」
「ぱちゅたちは、せかいでいちばんゆっくりしているゆっくりだわっ! えいえんにゆっくりさせられたなかまのことを、ゆるしてあげるといっているんだものっ!!!」
「ゆっくりしていってね!!!」
「「「ゆっくりしていってね!!!」」」
歓喜の唱和。
ようやく見つけた小さな幸せが大きな産声を上げる。れいむ親子はとびっきりの笑顔で互いの顔を見合わせた。
ようやく見つけた小さな幸せが大きな産声を上げる。れいむ親子はとびっきりの笑顔で互いの顔を見合わせた。
「むきゅ。いりぐちはせまいけれど、なかはひろいからあんしんしてちょうだい」
そう言いながら、れいむ親子はちょうど成体ゆっくり一匹が通り抜けられる程度の壁に開いた穴をくぐって行く。
その向こう側はまさに楽園と呼ぶに相応しかった。
まず冷たい風に柔らかな肌が晒されることがない。それどころか、れいむ親子がこれまで過ごしたどんな場所よりも暖かいと感じた。
「ゆっくち! ゆっくち!」と楽しそうに跳ね回って仲良く遊ぶ赤ゆっくりたち。まだ午前中だというのにのんびりとお昼寝をしているゆっくりもいた。
赤れいむが揉み上げを震わせながら小さな瞳を輝かせる。
親れいむは積み上げられた袋や段ボール箱を見上げてぱちゅりーに「これは何なの?」と質問をした。
その向こう側はまさに楽園と呼ぶに相応しかった。
まず冷たい風に柔らかな肌が晒されることがない。それどころか、れいむ親子がこれまで過ごしたどんな場所よりも暖かいと感じた。
「ゆっくち! ゆっくち!」と楽しそうに跳ね回って仲良く遊ぶ赤ゆっくりたち。まだ午前中だというのにのんびりとお昼寝をしているゆっくりもいた。
赤れいむが揉み上げを震わせながら小さな瞳を輝かせる。
親れいむは積み上げられた袋や段ボール箱を見上げてぱちゅりーに「これは何なの?」と質問をした。
「それは、ごはんさんよ。たくさんあるからいつでもたべていいけど……はるさんがくるまではむやみにくちをつけてはだめよ?」
「ゆーん。ゆっくりりかいしたよぉ!」
「それから。ごはんさんは、ここいがいにもたくさんあるけれど……いちおう、そっちにおいてあるごはんさんはもしものときのためにとっておくことにしているの」
「りかいしたのぜ。もしものときのための“しょくりょうこ”なのぜ?」
「かしこくてたすかるわ」
町内に蔓延る野良ゆっくりたちが、“人間が自分たちのために作ってくれたゆっくりぷれいす”の正体とは「初商い」の準備を進めていた店の倉庫だった。
“食糧庫”とは店内のことである。それぞれの場所の用途は逆転してしまっているようだが、ゆっくりたちには関係のない事だった。
むしろ、こちらの倉庫の方がゆっくりたちにとって生活環境が整えられているとさえいえる。
高く積み上げられた段ボールの山や空き箱。倉庫内を埋め尽くすほどに置かれた商品の在庫はゆっくりたちのマンションと言っても差し支えない。
その裏側で。或いは隙間で野良ゆっくりたちは思い思いにゆっくりしていた。
そう。
どんな野良ゆっくりたちよりも、ゆっくりしていた。
“食糧庫”とは店内のことである。それぞれの場所の用途は逆転してしまっているようだが、ゆっくりたちには関係のない事だった。
むしろ、こちらの倉庫の方がゆっくりたちにとって生活環境が整えられているとさえいえる。
高く積み上げられた段ボールの山や空き箱。倉庫内を埋め尽くすほどに置かれた商品の在庫はゆっくりたちのマンションと言っても差し支えない。
その裏側で。或いは隙間で野良ゆっくりたちは思い思いにゆっくりしていた。
そう。
どんな野良ゆっくりたちよりも、ゆっくりしていた。
二、
一月二日。
この日、店の従業員は朝六時半に出勤して、店の入り口の前に並んでいた。店長がジャケットから裏口の鍵を取り出す。
この日、店の従業員は朝六時半に出勤して、店の入り口の前に並んでいた。店長がジャケットから裏口の鍵を取り出す。
「店内の電灯を付け終ったら、商品の最終チェックをしてくれ。それから、倉庫に行って商品の在庫のチェックも頼む」
「わかりました!!」
ぞろぞろと店の中に入っていく従業員一同。
「ゆ?」
「――え?」
裏口を開けてすぐの位置に、三匹の野良ゆっくりが身を寄せ合ってゆっくりしていた。とても、ゆっくりしていた。
そして、ゆっくりした声で朝の挨拶をした。
そして、ゆっくりした声で朝の挨拶をした。
「にんげんさん! ゆっくりしていってね!! ここはまりさたちのゆっくりぷれいすだよっ!!」
「――――え?」
「こらっ! しっ、しっ!! まったくどこから入り込んで来たんだ……」
壁にかけられていた箒を掴み、野良ゆっくりの目の前で振り回した。
野良ゆっくりたちが「ゆわぁ」と声を上げて、奥の倉庫へと向かってぴょんぴょん飛び跳ねて逃げていく。
面倒くさそうにそれを追いかける店長。従業員一同はそんな店長の後姿を見ながら穏やかな笑みを浮かべていた。
しかし。
野良ゆっくりたちが「ゆわぁ」と声を上げて、奥の倉庫へと向かってぴょんぴょん飛び跳ねて逃げていく。
面倒くさそうにそれを追いかける店長。従業員一同はそんな店長の後姿を見ながら穏やかな笑みを浮かべていた。
しかし。
「う、うわあああぁぁぁぁぁぁッ??!!!」
そんな朝の一コマは店長の上げた悲鳴で一瞬にして終わりを告げた。
完全に固まってしまっている店長の後ろに、血相を変えて走ってきた従業員が駆けつける。その従業員も悲鳴を上げた。
完全に固まってしまっている店長の後ろに、血相を変えて走ってきた従業員が駆けつける。その従業員も悲鳴を上げた。
「きゃああぁぁぁッ!!!!」
「ゆっくりしていってね!!!」×たくさん
凄まじい数の野良ゆっくりによるとてつもない声量の挨拶。それは耳元にスピーカーを押し当てられ、ボリューム最大で音を鳴らされた時のような衝撃に似ていた。
店長と従業員が思わず耳を塞いでその場にしゃがみ込む。
それを見たぱちゅりーが声を上げた。
店長と従業員が思わず耳を塞いでその場にしゃがみ込む。
それを見たぱちゅりーが声を上げた。
「むっきゅぅぅ!! にんげんさんが、これから“どげざ”さんをするわ! ぱちゅたちへの“ごめんなさい”がはじまるわよっ!!!」
「ゆっへっへ。あやまるだけなら、だれにだってできるのぜ。にんげんさんたちの“ごめんなさい”がなきごえかどうか、まりささまがはんだんしてやるのぜ」
一転して静まり返った倉庫の中に二匹の声が響く。
当然、その言葉はまだ耳鳴りが続いている二人の耳にも届いた。膝を着いたまま、店長と従業員が視線を合わせる。
当然、その言葉はまだ耳鳴りが続いている二人の耳にも届いた。膝を着いたまま、店長と従業員が視線を合わせる。
「何を……言ってやがるんだ……こいつらは……」
「――て、店長ッ!!」
「今度はなんだ……?」
「み、店の商品が……全部食べ散らかされてます!!!」
店長の表情が凍りついた。それからすぐに顔を上げて、目の前ににやにやと嗤う野良ゆっくりの集団を睨み付ける。
そんな店長に向かって、先程のまりさが口にしたジャガイモを彼に向けて吐きつけた。店長の右腕に当たったジャガイモがころころと倉庫の床を転がる。
そんな店長に向かって、先程のまりさが口にしたジャガイモを彼に向けて吐きつけた。店長の右腕に当たったジャガイモがころころと倉庫の床を転がる。
「なにやってるのぜ?」
「――……ッ」
「さっさと、“ごめんなさい”をするのぜ? いままでにんげんさんたちがやってきたことは、おおめにみてやるのぜから、さっさと……」
「……ふざけるなああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
店長が凄まじい咆哮を上げた。倉庫全体がビリビリと振動するほどに音の衝撃が波紋のように広がる。
成体ゆっくりは目を丸くして驚愕の表情を浮かべ、赤ゆの一部は余りの声量に思わずしーしーを噴射してしまったモノもいた。
成体ゆっくりは目を丸くして驚愕の表情を浮かべ、赤ゆの一部は余りの声量に思わずしーしーを噴射してしまったモノもいた。
「な、なにをおこっているのぜ?!」
「ここは……俺たちの店の……倉庫だぁぁぁ!!!!」
「ばかいうな、なのぜ!! ここは、にんげんさんがまりさたちのためにつくってくれたゆっくりぷれいすなんだぜっ!!!」
眉間に皺を寄せたまりさが負けじと叫び声を上げた。
「誰が……お前ら野良ゆっくりみたいな生きる価値のない害獣どもなんかに住処を作るか!!!」
「なんでそんなこというのぜぇぇ?! はんせいしたんじゃないのぜ!? いまなら、ゆるしてあげるっていってるんだぜ?! ばかなのぜ!? しぬのぜ!??」
まりさの勇敢な態度に倉庫内の野良ゆっくりたちは歓声を上げた。まりさは「言ってやった」と頬をムンと膨らませてにやにや口元を緩めている。
まりさの蛮勇とも言える態度に店長と従業員は激昂した。店長は「殺してやる」と頬をひきつらせながら、唇を噛み締めている。
まりさの蛮勇とも言える態度に店長と従業員は激昂した。店長は「殺してやる」と頬をひきつらせながら、唇を噛み締めている。
「店長……たぶん、あそこから入ってきたんだと思います……」
従業員が壁に開いた穴を指さして呟く。そこは特に錆の腐食が酷い壁だった。
立ち上がった店長が穴の縁につま先をコツンと当てる。対した抵抗もなく錆びついた壁はバリッと音を立てて壊れた。
拳を握りしめながら、その穴を数箱の重い段ボール箱で塞ぐ。それから、店内の被害状況を従業員に確認させた。
五分と経たないうちに従業員が戻って来る。
立ち上がった店長が穴の縁につま先をコツンと当てる。対した抵抗もなく錆びついた壁はバリッと音を立てて壊れた。
拳を握りしめながら、その穴を数箱の重い段ボール箱で塞ぐ。それから、店内の被害状況を従業員に確認させた。
五分と経たないうちに従業員が戻って来る。
「駄目です……。食料品売り場は壊滅的で……床も、食べ散らかした野菜クズなんかで……今から、掃除なんて……とても……」
店長が倉庫の中を見渡す。
積み上げられた段ボール箱の数は相当なものだった。
店内から倉庫へと向かう通路は狭く、台車を使って往復ができない。よって、台車で行けるところまで進み、後は手作業でそれを搬入した。
真冬だというのに、滝のような汗を流しながら在庫の商品を運んだのだ。
段ボール箱だけではない。重さ五キロから十キロもある米袋や、砂糖や塩などの調味料も必死になって運び込んだ。
それを。
積み上げられた段ボール箱の数は相当なものだった。
店内から倉庫へと向かう通路は狭く、台車を使って往復ができない。よって、台車で行けるところまで進み、後は手作業でそれを搬入した。
真冬だというのに、滝のような汗を流しながら在庫の商品を運んだのだ。
段ボール箱だけではない。重さ五キロから十キロもある米袋や、砂糖や塩などの調味料も必死になって運び込んだ。
それを。
「むーちゃ、むーちゃ……しあわちぇぇぇぇ!!」
馬鹿面下げた一口饅頭が我が物顔で食い漁る。それを見た親ゆっくりが「ゆっくりしてるよぉ」となどと馬鹿げた歓声を捻り出す。
店長の握りしめた拳から鮮血が滴り落ちる。
老朽化した壁を見過ごし、野良ゆっくりなどという薄汚い生き物を店内に侵入させてしまったのは、完全に店側の責任。
そんなことは誰に言われずとも、従業員の一人一人が自覚をしていた。
だが、それでも。それでも、自分たちの感情を抑えることはできそうにない。
猫除けのペットボトルが利いているのか野良猫に侵入されたことはない。野良犬はほとんどが保健所送りにされている。
甘かった。見通しが極めて甘かった。
まさか、よりにもよって野良ゆっくり如きに侵入を許してしまうとは。
店長の握りしめた拳から鮮血が滴り落ちる。
老朽化した壁を見過ごし、野良ゆっくりなどという薄汚い生き物を店内に侵入させてしまったのは、完全に店側の責任。
そんなことは誰に言われずとも、従業員の一人一人が自覚をしていた。
だが、それでも。それでも、自分たちの感情を抑えることはできそうにない。
猫除けのペットボトルが利いているのか野良猫に侵入されたことはない。野良犬はほとんどが保健所送りにされている。
甘かった。見通しが極めて甘かった。
まさか、よりにもよって野良ゆっくり如きに侵入を許してしまうとは。
「そうか……今から、緊急の会議を開く。二階に集まってくれ」
「わ、わかりました……」
「このくそにんげんっ!!! まりささまをむしするななのぜぇぇ!!!」
自分が蚊帳の外だということに気付いたまりさが叫びながら、店長の足にぽすん、と体当たりをした。
まりさは不敵な笑みを浮かべながら、
まりさは不敵な笑みを浮かべながら、
「にんげんさんがわるいのぜ? まりささまをむしするから、こんないたいめにあうことになるんだぜ。さっさと、あやまるのぜ、このくそに……」
まりさのあんよが床から離れた。左右のこめかみの辺りに激痛が走る。まりさがあんよをぐねぐねと動かしながら「ゆ゛っ、ゆ゛ッ!?」と呻き始めた。
店長がまりさを右手で力任せに掴んだまま、立ち上がったのである。
まりさは突然の痛みに苦悶の表情を浮かべて、「い゛だい゛ぃ゛ぃ゛」と叫んだ。
店長がまりさを倉庫の奥へと放り投げる。床に顔から叩きつけられたまりさは、ごろごろとその場で転がりながら大泣きしていた。
店長がまりさを右手で力任せに掴んだまま、立ち上がったのである。
まりさは突然の痛みに苦悶の表情を浮かべて、「い゛だい゛ぃ゛ぃ゛」と叫んだ。
店長がまりさを倉庫の奥へと放り投げる。床に顔から叩きつけられたまりさは、ごろごろとその場で転がりながら大泣きしていた。
「……お前らみたいなゴミがうろついてなければ、こんなことにはならなかった。野良犬が駆除される世の中だ。野良ゆっくりが駆除されない道理はないよな?」
「ゆ? ゆゆ?」
戸惑い気味の野良ゆっくりたちが一斉に店長を見つめる。それから一斉に文句を叫び始めた。
店長が無言で倉庫を後にする。
野良ゆっくりたち「ゆーゆー」と喚き、店長の後ろ姿に向けてひたすら罵詈雑言の限りを浴びせた。
今にも壊れそうな階段を上っていき、会議室の扉を開けた店長は恐ろしく低い声で本日の業務内容を従業員に告げた。
店長が無言で倉庫を後にする。
野良ゆっくりたち「ゆーゆー」と喚き、店長の後ろ姿に向けてひたすら罵詈雑言の限りを浴びせた。
今にも壊れそうな階段を上っていき、会議室の扉を開けた店長は恐ろしく低い声で本日の業務内容を従業員に告げた。
「今日は店休日にする」
「はい」
「今からあの野良ゆっくり共を全部駆除する。一匹たりとも逃がすな。以上」
「はい」
会議終了。
会議室から、鬼のような形相をした従業員たちが飛び出してきた。
すぐにロッカーへ向かい、作業用の軍手やゴム手袋、制服のエプロンなどを身に着ける。長靴を履いたり、物置から鉄筋やモップなどを取り出してくる者もいた。
それからまるで訓練された軍隊のように整然とした一列縦隊で、階段を一糸乱れぬ足並みで下りて行く。
それは修羅と化した従業員たちの行軍。
凄まじい威圧感を全身から放つ少数精鋭の部隊が、倉庫の扉の前に陣取り身構えた。
後方から悠然と現れる店長。右手には店頭販売用バーベキューで使う、肉を炙るための小型ガスバーナーが握り締められていた。
余った左手を倉庫の扉に向けて突き出す。
会議室から、鬼のような形相をした従業員たちが飛び出してきた。
すぐにロッカーへ向かい、作業用の軍手やゴム手袋、制服のエプロンなどを身に着ける。長靴を履いたり、物置から鉄筋やモップなどを取り出してくる者もいた。
それからまるで訓練された軍隊のように整然とした一列縦隊で、階段を一糸乱れぬ足並みで下りて行く。
それは修羅と化した従業員たちの行軍。
凄まじい威圧感を全身から放つ少数精鋭の部隊が、倉庫の扉の前に陣取り身構えた。
後方から悠然と現れる店長。右手には店頭販売用バーベキューで使う、肉を炙るための小型ガスバーナーが握り締められていた。
余った左手を倉庫の扉に向けて突き出す。
「いくぞぉぉぉぉ!!!!!」
三、
元、テコンドー同好会会長の後ろ回し蹴りが既に壊れかけていた倉庫の扉を蹴破った。どうせ今日で閉店だ。修理する必要はない。
「えぎゅッ?!!」
「びゅげっ!!!!」
早速、入り口の近くにいたぱちゅりーとありすが倒れた扉の下敷きになって絶命した。ただのアルミ板と化した長方形の下から生クリームとカスタードが広がる。
絶句するゆっくりたち。そんな中。
絶句するゆっくりたち。そんな中。
「ゆんやぁぁぁ!!! おきゃあしゃあぁぁぁんッ!!!」
「いだいよぉぉぉ……とびらざんっ! どいでねっ! ゆっぐりできな゛ぃ゛びゅぶり゛ゅッ?!!」
同じように入り口の近くにいながらも、扉の下でなんとか一命を取り留めていたれいむは、それを踏みつけて侵入してきた従業員たちによって呆気なく潰された。
飛び出した左目が、その左目と同じくらいのサイズの赤れいむに直撃する。赤れいむはころころと転がり、ようやく止まったかと思えばしーしーをぶち撒けて泣き叫んだ。
飛び出した左目が、その左目と同じくらいのサイズの赤れいむに直撃する。赤れいむはころころと転がり、ようやく止まったかと思えばしーしーをぶち撒けて泣き叫んだ。
「ど、どぼじでごんな゛ごどずるの゛ぉ゛ぉ゛!!!」
まるで意味が分からない、とでも言いたげな表情で絶叫する野良ゆっくりたちの頭に無数の鉄筋が振り下ろされる。
「ゆ゛げぇッ! ゆ゛ぼぉっ?! ゆ゛ぐぇッ!! い゛だい゛……っ! やべで……ゆっぐ、でぎな゛ッ??!!!」
「ゆ゛ぎゃあぁ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ッ?!! だずげでぇ゛ぇ゛!! ばでぃざ、じぬ゛……ッ! じんじゃう゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!!」
完全に沈黙するまで殴り続ける。明日は間違いなく筋肉痛だろう。しかし、その懸念を圧倒的とも言える負の感情が跡形もなく消し去っていく。
野良ゆっくりを殴打する従業員のエプロンに、大量の返り餡が撒き散らされていた。餡子色に染まっていくエプロンなど気にも留めない様子で鉄筋で殴りつける。
猟奇的な光景だった。数匹単位で固まった野良ゆっくりたちを三、四人で囲んで四方八方から殴りつける。それも、一切の情け容赦をかけずに。
既に擂り潰されてペースト状になってしまった野良ゆっくりの残骸にも誤って鉄筋を振り下ろしてしまい、手首を痛める従業員もいたが気にしない。
野良ゆっくりを殴打する従業員のエプロンに、大量の返り餡が撒き散らされていた。餡子色に染まっていくエプロンなど気にも留めない様子で鉄筋で殴りつける。
猟奇的な光景だった。数匹単位で固まった野良ゆっくりたちを三、四人で囲んで四方八方から殴りつける。それも、一切の情け容赦をかけずに。
既に擂り潰されてペースト状になってしまった野良ゆっくりの残骸にも誤って鉄筋を振り下ろしてしまい、手首を痛める従業員もいたが気にしない。
「……まりささまは、ゆっくりにげるのぜぇぇぇ!!!」
「ま、まってねっ!! れいむもにげるよっ!!!」
「いやぁぁ!! しにたくないぃぃぃ!! そろーり! そろーり!!!」
「「「どぼじで、いりぐちざんぶざがっでる゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ??!!!」」」
逃げようとしていた数匹の野良ゆっくりたちが立ち往生する。それもそのはずだ。唯一の入り口は店長が総重量百キロ以上もある段ボール箱の山で塞いでいる。
どこにも、逃げ場などない。
どこにも、逃げ場などない。
「ぴゅぎっ!?」 「えぎゅっ!!」 「ゆ゛ぐぢッ?!」 「む゛ぎゅぇ゛!」 「ま゛ら゛ッ!!!」
台車を駆る後続部隊が突撃してきた。
四つの車輪が、赤ゆをぶち、ぶち、ぶちゅっ、と轢き潰していく。成体ゆっくりは台車の先端に顔をめり込ませた状態で壁に激突させられて絶命した。
十数匹の赤ゆが身を寄せ合ったまま、恐怖にあんよがすくみ動けなくなっている。そこへ唸りを上げる台車が飛び込もうとしていた。
成体ゆっくりの口から響き渡る絶叫。
四つの車輪が、赤ゆをぶち、ぶち、ぶちゅっ、と轢き潰していく。成体ゆっくりは台車の先端に顔をめり込ませた状態で壁に激突させられて絶命した。
十数匹の赤ゆが身を寄せ合ったまま、恐怖にあんよがすくみ動けなくなっている。そこへ唸りを上げる台車が飛び込もうとしていた。
成体ゆっくりの口から響き渡る絶叫。
「ちびちゃあ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛んッ!! に゛げでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!!」
「おきゃ……しゃん……」
「たちゅけ、ちぇ……」
台車の車輪が赤ゆたちを滅茶苦茶に千切り飛ばした。餡子、髪の毛、皮、目玉、しーしー、うんうんが混ざり合いながら周囲に向かって弾け飛ぶ。
台車で複数の赤ゆを一気に踏み潰す感触は、プチプチを雑巾のように絞って一気に潰した時のものに似ていたが、従業員にそれを想起させる心の余裕はなかった。
台車で複数の赤ゆを一気に踏み潰す感触は、プチプチを雑巾のように絞って一気に潰した時のものに似ていたが、従業員にそれを想起させる心の余裕はなかった。
「う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!! ゆっぐりのみ゛ら゛い゛をに゛な゛う゛、がげがえ゛のな゛い゛ちびちゃんだぢがぁあ゛ああぁ゛あッ!!???」
「未来とか担おうとしてんじゃねぇよ、この害獣どもがッ!! 今すぐ絶滅しやがれ!!!」
倉庫の入り口にも一人の従業員が仁王立ちしており、倉庫から店内へ逃げ出そうとする野良ゆっくりたちを倉庫の中に蹴り返していた。当然、蹴られて死ぬゆっくりもいた。
「だずげでぇ゛ぇ゛!! れ゛い゛む゛だぢ、な゛んに゛も゛わる゛い゛ごどじでない゛の゛に゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ッ!!!」
「不法侵入して、人様の物を食い散らかした糞饅頭共の分際で、盗人猛々しいにも程があるわ!!!」
倉庫の隅で泣きながら震えていた野良ゆっくりの数家族を追い詰めるのは店長とテコンドー同好会の会長だ。店長は高校サッカーの主将を務めていた。
二人の足から邪悪なオーラが浮かび上がる。その圧倒的ともいえる存在感に、ひたすら「助けて」と「ごめんなさい」を繰り返す野良ゆっくりたち。
二人の足から邪悪なオーラが浮かび上がる。その圧倒的ともいえる存在感に、ひたすら「助けて」と「ごめんなさい」を繰り返す野良ゆっくりたち。
「本当の意味で、“押しくら饅頭”させてやるよッ!!!」
二方向からサッカー部主将とテコンドー同好会会長による、鉄槌にも等しい重量感のある蹴りが放たれる。
瞬間、一番手前にいた野良ゆっくりの頭半分があっさりと弾け飛んで、一番奥で震えていた野良ゆっくりは同族により圧死させられてそのまま生涯を終えた。
それを何度も何度も繰り返す。「痛い」とか「やめて」、「許して」等の哀願が聞こえなくなるまで繰り返す。
蹴りの衝撃で目玉はポップコーンの製造過程の如くポンポンと勢いよく飛び出し、皮や餡子も奥の壁にへばりついて前衛的なコントラストを描き出していた。
倉庫内に、野良ゆっくりたちの絶叫という名の大合唱が響き渡る。悲鳴が悲鳴を呼び、抵抗が苦痛を増やし、逃げようとする意志が絶望を生む。
既に戦意を失った野良ゆっくりたちが「もうしませんからぁぁ」と嘆願していたが、従業員は誰一人としてその鳴き声に耳を貸す事なく大虐殺を継続した。
従業員が通った後は、まるで爆心地か何かのような惨状になっていた。
餡子、カスタード、生クリーム、チョコ、ホワイトチョコ。リボンに三角帽子にカチューシャにナイトキャップ……。
これらがそこかしこに散らばっていなければ、そこにゆっくりが存在していたことさえ誰も気づかないだろう。
それは駆除というよりも、徹底的な破壊に近かった。形ある物を壊し、崩し、砕き、破り、千切り、ぐちゃぐちゃに殲滅していく。
瞬間、一番手前にいた野良ゆっくりの頭半分があっさりと弾け飛んで、一番奥で震えていた野良ゆっくりは同族により圧死させられてそのまま生涯を終えた。
それを何度も何度も繰り返す。「痛い」とか「やめて」、「許して」等の哀願が聞こえなくなるまで繰り返す。
蹴りの衝撃で目玉はポップコーンの製造過程の如くポンポンと勢いよく飛び出し、皮や餡子も奥の壁にへばりついて前衛的なコントラストを描き出していた。
倉庫内に、野良ゆっくりたちの絶叫という名の大合唱が響き渡る。悲鳴が悲鳴を呼び、抵抗が苦痛を増やし、逃げようとする意志が絶望を生む。
既に戦意を失った野良ゆっくりたちが「もうしませんからぁぁ」と嘆願していたが、従業員は誰一人としてその鳴き声に耳を貸す事なく大虐殺を継続した。
従業員が通った後は、まるで爆心地か何かのような惨状になっていた。
餡子、カスタード、生クリーム、チョコ、ホワイトチョコ。リボンに三角帽子にカチューシャにナイトキャップ……。
これらがそこかしこに散らばっていなければ、そこにゆっくりが存在していたことさえ誰も気づかないだろう。
それは駆除というよりも、徹底的な破壊に近かった。形ある物を壊し、崩し、砕き、破り、千切り、ぐちゃぐちゃに殲滅していく。
「きょわいよぉぉぉ!!!」
「だしちぇにぇっ!! だしちぇにぇっ!! きゃわいいれーみゅをここかりゃ、だしちぇにぇっ!!!」
「ゆっくち……? ゆっくち……!」
まだ動いている赤ゆは二人掛かりで燃えないゴミ袋の中に次々と放り込んだ。透明なゴミ袋の中で泣き叫ぶ赤ゆたち。ガサガサ……と袋の中で蠢きそこから逃れようとする。
捕まえた五十匹近い赤ゆたちは、一斉に業務用の底が深い巨大な鉄鍋の中に捨てられた。ころころと転がる赤ゆたちが「ゆぴぃ、ゆぴぃ」と悲鳴を上げる。
ようやく、地にあんよをつけた赤ゆたちが顔をくしゃくしゃにして、自分たちを見下ろす従業員たちを見上げる。
そのどれもが言葉ではなく表情で訴えていた。「助けてください、お願いします」と。
対して従業員は、表情を崩さないままに大量のサラダ油をドボドボと鉄鍋の中に流し込み始める。
捕まえた五十匹近い赤ゆたちは、一斉に業務用の底が深い巨大な鉄鍋の中に捨てられた。ころころと転がる赤ゆたちが「ゆぴぃ、ゆぴぃ」と悲鳴を上げる。
ようやく、地にあんよをつけた赤ゆたちが顔をくしゃくしゃにして、自分たちを見下ろす従業員たちを見上げる。
そのどれもが言葉ではなく表情で訴えていた。「助けてください、お願いします」と。
対して従業員は、表情を崩さないままに大量のサラダ油をドボドボと鉄鍋の中に流し込み始める。
「ゆぴぇっ! くちゃいよぉぉ!!」
「ぬりゅぬりゅしちぇ、ゆっくちできにゃいぃぃぃ」
「ゆんやあぁぁぁ!!! おきゃーしゃああぁぁぁん!!!」
「やめちぇにぇっ! やめちぇにぇっ!! いじわりゅしにゃいでにぇっ!!」
サラダ油の湖と化した鉄鍋の中で、赤ゆたちが油の中から顔だけ出して命乞いの輪唱を始めた。
スタスタと歩いてきた店長が持っていた小型ガスバーナーを油面に向けてトリガーを引く。
一瞬、ゴォォォ……という音と共に鮮やかな青色の炎が姿を見せたと思った次の瞬間。
スタスタと歩いてきた店長が持っていた小型ガスバーナーを油面に向けてトリガーを引く。
一瞬、ゴォォォ……という音と共に鮮やかな青色の炎が姿を見せたと思った次の瞬間。
「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
鉄鍋の中は一瞬にして火の海と化した。
火だるまになった赤ゆたちが、鉄鍋の中を縦横無尽に転げ回る。もはや、赤ゆとも判断がつかないような生々しい叫び声を上げていた。
火だるまになった赤ゆたちが、鉄鍋の中を縦横無尽に転げ回る。もはや、赤ゆとも判断がつかないような生々しい叫び声を上げていた。
「あ゛ぢゅ゛い゛ぃ゛ぃ゛!!!!」
「ゆ゛ぎぎぎぎぎぎぎぎ」
「ぎょぼぇ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ッ?! ゆ゛ぶひゅーっ、ゆ゛ひゅぃぃ……ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ……」
一匹。また一匹と焼き焦がされて絶命していく赤ゆたち。どれだけ抵抗をしても無意味だった。纏わりついた炎はどれほど身を捩らせても決して離れない。
これまで一度も味わったことのない強烈な熱さと、体内を駆け巡る激痛から解放される術は唯一、死、あるのみだ。
未だに絶叫が響き渡る鉄鍋の傍にやってきた成体のまりさ。
まりさが泣きながら懇願した。
これまで一度も味わったことのない強烈な熱さと、体内を駆け巡る激痛から解放される術は唯一、死、あるのみだ。
未だに絶叫が響き渡る鉄鍋の傍にやってきた成体のまりさ。
まりさが泣きながら懇願した。
「や゛べでくだざぃ゛ぃ゛!! ちびちゃんだぢは、ゆっぐり゛じでだだげなんで……ずぅぅッ??!!!」
従業員はまりさの台詞が終わる前に、足の裏を使って十分すぎるくらいに加熱された鉄鍋にその顔面を無理矢理押し付けた。
すぐさま、まりさの顔面が焼け焦げる醜悪な音が聞こえだす。まりさは全身をびくんびくんと何度も跳ね上げながら、お下げをばしんばしんと床に打ち付けた。
既に鉄鍋の熱で口の周りは溶かされてしまい、叫び声を上げることすらできないのだろう。
涙も涎もしーしーも、噴出された傍から次々に蒸発していく。まりさは身を捩らせながら小刻みに震えていた。
やがて、顔面の一部が炭化し始めたのだろう。黒焦げになった皮が、まるで瘡蓋がはがれるように床へパラパラと落ちる。次に乾燥しきった目玉が転がり落ちてきた。
あにゃるからはうんうんがもりっ、もりっと捻り出される。足の裏に更に力をかけると、あにゃるからもりもりもりっ、とうんうんが漏れ出した。
既にまりさは絶命している。死因は、顔面が炭化して崩れた事によるショック死か、或いはうんうんの出し過ぎで中身を失ってしまった事によるものか。
結論から言えばどちらでも良かった。野良ゆっくりが一匹死んだ。それだけで良い。ゆっくり如きが死ぬ過程など誰も気にしないし、興味もないのだ。
まりさを殺すのに夢中になっていたせいか、鉄鍋の中の赤ゆが一匹残らず焼け死んでいる事に気付かなかった。
消火器を使って燃え上がる炎を手早く消す。見るも無残な赤ゆの残骸は白い煙と粉に覆われて見えなくなった。
すぐさま、まりさの顔面が焼け焦げる醜悪な音が聞こえだす。まりさは全身をびくんびくんと何度も跳ね上げながら、お下げをばしんばしんと床に打ち付けた。
既に鉄鍋の熱で口の周りは溶かされてしまい、叫び声を上げることすらできないのだろう。
涙も涎もしーしーも、噴出された傍から次々に蒸発していく。まりさは身を捩らせながら小刻みに震えていた。
やがて、顔面の一部が炭化し始めたのだろう。黒焦げになった皮が、まるで瘡蓋がはがれるように床へパラパラと落ちる。次に乾燥しきった目玉が転がり落ちてきた。
あにゃるからはうんうんがもりっ、もりっと捻り出される。足の裏に更に力をかけると、あにゃるからもりもりもりっ、とうんうんが漏れ出した。
既にまりさは絶命している。死因は、顔面が炭化して崩れた事によるショック死か、或いはうんうんの出し過ぎで中身を失ってしまった事によるものか。
結論から言えばどちらでも良かった。野良ゆっくりが一匹死んだ。それだけで良い。ゆっくり如きが死ぬ過程など誰も気にしないし、興味もないのだ。
まりさを殺すのに夢中になっていたせいか、鉄鍋の中の赤ゆが一匹残らず焼け死んでいる事に気付かなかった。
消火器を使って燃え上がる炎を手早く消す。見るも無残な赤ゆの残骸は白い煙と粉に覆われて見えなくなった。
「どぼじで……ごんな、ごど……ずるの……」
倉庫内のあちらこちらから、野良ゆっくりの生き残りたちが叫び声を上げる中、一匹のれいむが店長と対峙していた。
このれいむは、神社の床下に住んでいたあのれいむだ。番のまりさと赤れいむは既に潰されてしまっている。
あんなに嬉しそうにしていた赤れいむ。その笑顔を見ることはもう二度とできない。
このれいむは、神社の床下に住んでいたあのれいむだ。番のまりさと赤れいむは既に潰されてしまっている。
あんなに嬉しそうにしていた赤れいむ。その笑顔を見ることはもう二度とできない。
「れ゛い゛む゛だぢ……いっじょうげんめい、い゛ぎでるのに゛……ひどい、びどい゛よっ……ごんなのっで、な゛…………。 ――ゆっ?」
店長が鉄筋を振り上げた。れいむの話など最初から聞いてやるつもりなどなかったのだ。
「ゆっく……――」
垂直に振り下ろされた鉄筋がれいむの顔を真っ二つに分断した。
砕かれた前歯が床にぽろぽろと落ちる。まだ餡子が流動しているのか目玉がぎょろぎょろと動いていた。
垂れ下がった舌はずるり……と床に落ちて口の辺りの餡子が「ごぽっ、ごぽっ」と音を立てている。何か喋ろうとしている途中だったのだろう。
声を出すことはできず、喉のような役目をしているのであろう場所の辺りの餡子が不気味に蠢いているだけだった。
砕かれた前歯が床にぽろぽろと落ちる。まだ餡子が流動しているのか目玉がぎょろぎょろと動いていた。
垂れ下がった舌はずるり……と床に落ちて口の辺りの餡子が「ごぽっ、ごぽっ」と音を立てている。何か喋ろうとしている途中だったのだろう。
声を出すことはできず、喉のような役目をしているのであろう場所の辺りの餡子が不気味に蠢いているだけだった。
「死んだからもういいだろ。……お前らゆっくりは、何もできやしないんだから……せいぜい黙って死ぬくらいしか人間の役に立てることなんてないんだ」
れいむの顔の右半分を蹴り飛ばす。積み上げられた段ボール箱に直撃したそれは、べちゃっと音を立てて、それっきり動かなくなった。
「――お前らには一円の価値もない。ゼロだ。ゴミの分際で……人間に、手間かけさせやがって……」
静まり返った倉庫。
そこに野良ゆっくりの姿はおろか、泣き声さえ聞こえない。
静かだった。あまりにも静かだった。憎しみをぶつけ終わった従業員たちも、呆けた様子で倉庫の中に突っ立っていた。
そこに野良ゆっくりの姿はおろか、泣き声さえ聞こえない。
静かだった。あまりにも静かだった。憎しみをぶつけ終わった従業員たちも、呆けた様子で倉庫の中に突っ立っていた。
四、
「やっぱりワシらにはこの店がないと駄目なんじゃ……ありがとうよぅ。続けてくれて……」
相変わらずのみすぼらしい建物。その隣にある倉庫の壁だけ、やたらと真新しい。
店にやってきた客は楽しそうに買い物をしていた。レジに入っている店員からも「いらっしゃいませ!」と明るい声が発せられる。
あの日、一月二日。
この店にはとてつもない数のクレームの電話が殺到した。
直接、店に足を運んだ客に至っては従業員に対して激昂する者もいた。
当然だろう。広告を出しておきながら、店側の独断だけで店を開けなかったのだ。何を言われても仕方がないと誰もが思っていた。
しかし、客の一人が「なぜ、こんなことをしたんだ」と尋ねた時、店長は自分たちが置かれた状況を話して聞かせた。
最初は半信半疑だった客も、倉庫内の大量に潰された野良ゆっくりを見ては信じざるを得ない。
そして、小さな田舎町にこの話は一瞬にして広まった。
あの潰れかけの店の従業員が、十人にも満たない数で町内の野良ゆっくりを駆除してくれた……と。
もともと、野良ゆっくりの被害に悩まされてきた町だ。
店を無断で休むこと以上に、野良ゆっくりの数を減らしてくれたことのほうが大きかったのである。
この事は、新聞やテレビを通じて報道された。
そして、町内の住民がこの店を残すように署名活動を行ったのだ。
この店は高齢者たちにとっての生命線。それと同時に町内に暮らす多くの人が子供の頃から慣れ親しんできた店。やはり、情が動いたのであろう。
店長は、はっきりと「町のためにゆっくりの駆除をしたわけじゃないんです。全ては自分たちが怒りに任せてやったことです」とインタビューに答えていた。
それでも。
そうだったとしても、町の住民にとって野良ゆっくりを駆除してもらった事には変わりないのである。
かくして、店は今も昔と変わらずにこの場所に留まることとなった。
店にやってきた客は楽しそうに買い物をしていた。レジに入っている店員からも「いらっしゃいませ!」と明るい声が発せられる。
あの日、一月二日。
この店にはとてつもない数のクレームの電話が殺到した。
直接、店に足を運んだ客に至っては従業員に対して激昂する者もいた。
当然だろう。広告を出しておきながら、店側の独断だけで店を開けなかったのだ。何を言われても仕方がないと誰もが思っていた。
しかし、客の一人が「なぜ、こんなことをしたんだ」と尋ねた時、店長は自分たちが置かれた状況を話して聞かせた。
最初は半信半疑だった客も、倉庫内の大量に潰された野良ゆっくりを見ては信じざるを得ない。
そして、小さな田舎町にこの話は一瞬にして広まった。
あの潰れかけの店の従業員が、十人にも満たない数で町内の野良ゆっくりを駆除してくれた……と。
もともと、野良ゆっくりの被害に悩まされてきた町だ。
店を無断で休むこと以上に、野良ゆっくりの数を減らしてくれたことのほうが大きかったのである。
この事は、新聞やテレビを通じて報道された。
そして、町内の住民がこの店を残すように署名活動を行ったのだ。
この店は高齢者たちにとっての生命線。それと同時に町内に暮らす多くの人が子供の頃から慣れ親しんできた店。やはり、情が動いたのであろう。
店長は、はっきりと「町のためにゆっくりの駆除をしたわけじゃないんです。全ては自分たちが怒りに任せてやったことです」とインタビューに答えていた。
それでも。
そうだったとしても、町の住民にとって野良ゆっくりを駆除してもらった事には変わりないのである。
かくして、店は今も昔と変わらずにこの場所に留まることとなった。
「いらっしゃい、いらっしゃい~。安いよ、安いよ~」
野良ゆっくりを駆除し、報道機関でも真摯に本当の事を伝えたこの店は、近隣住民から大きな信頼を得て今では店舗別売上で一、二位を争えるほどとなった。
小さな町の小さな店。
そこから聞こえる客の笑い声と、従業員の挨拶の声は他のどんな店よりも大きなものとなって町内に響いていた。
小さな町の小さな店。
そこから聞こえる客の笑い声と、従業員の挨拶の声は他のどんな店よりも大きなものとなって町内に響いていた。
野良ゆっくりの価値 = 0円
野良ゆっくりを駆除して得られたお客様からの信頼 = priceless
La Fin
挿絵: