ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko3357 何にもなれなかったありす
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ankoss
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『何にもなれなかったありす』 17KB
制裁 現代 俺も何になれるんだろう…
制裁 現代 俺も何になれるんだろう…
「……ふぅっ」
ありすは部屋を見回し、少なくともありすの目からしたら美しく装飾――いや、「とかいは」に「こーでぃねーと」された自分の仕事を見て一息ついていた。
今回は今までで一番うまくできた。
そう思い、今度という今度はおにいさんもありすのことを褒めてくれるだろう。
今回は今までで一番うまくできた。
そう思い、今度という今度はおにいさんもありすのことを褒めてくれるだろう。
「ただいまー」
……なんていいタイミングで帰ってくるんだろう、あのおにいさんは。
ありすは玄関へと走った。ご褒美に頭をなでてもらえるだろうかなどという期待をもって。
ありすは玄関へと走った。ご褒美に頭をなでてもらえるだろうかなどという期待をもって。
「おにいさん、おかえり!」
「……ありす、お前『またやった』のか?」
「……ありす、お前『またやった』のか?」
?
『またやった』とは何のことだろう?
『またやった』とは何のことだろう?
「お前がこうやっていつもより元気よく迎えてくれる時はいつも部屋を散らかしてる時だろうが……いいかげん覚えたよ」
「やめてよおにいさん、ありすはちらかしてなんかいないったら!」
「はあ……何度教えたらわかってくれるんだろう」
「やめてよおにいさん、ありすはちらかしてなんかいないったら!」
「はあ……何度教えたらわかってくれるんだろう」
仕事から帰ってきたらしき男は玄関から部屋へと進み、中の惨状を見てうなだれた。
ゆうに20枚はあるであろう、部屋中に飛び散ったティッシュ。
横倒された椅子。
本棚から落とされた漫画類。
何処をどう見ても、ただ単に散らかっているようにしか見えない。
ゆうに20枚はあるであろう、部屋中に飛び散ったティッシュ。
横倒された椅子。
本棚から落とされた漫画類。
何処をどう見ても、ただ単に散らかっているようにしか見えない。
「どう?おにいさん。かんしゃしてね、ありすがおにいさんといっしょにくらしていることを!」
「……なんでだよ……」
「……なんでだよ……」
男は愚痴を吐きながら部屋を片付け始めてしまった。
ありすは自分のしたことが台無しにされているのを見て、ひどく憤慨した。
ありすは自分のしたことが台無しにされているのを見て、ひどく憤慨した。
「ちょ、ちょっとおにいさん!なにをしているの!?」
「何って、片付けてんだよ……何度言えばわかるんだ?こういうことは迷惑だからやめてくれ」
「め、めいわく、って……」
「何って、片付けてんだよ……何度言えばわかるんだ?こういうことは迷惑だからやめてくれ」
「め、めいわく、って……」
ありすは自分の芸術と呼んでもなんら遜色のないようなこーでぃねーとを一蹴され、暗い気分で玄関へと移動した。
別に玄関に何の用事があるというのでもない、ただ自分の仕事をなかったことにされるのを見ているのが辛かっただけだ。
ありすは扉を見つめる。
ここからでていけたら、どんなにすばらしいことかしら……。
ありすはこう思いながら扉を見つめるのが癖になっていた。
扉の向こうにあるのは、自由な世界。
自分の全てを理解してくれる、なにをしてもいい世界。
飼いゆっくりという狭い世界なんか捨てて、自由になりたい。
鳥籠の中で飼い殺しにされる生活はもうたくさんだ。
扉を出たい。
空を飛びたい。
その思いはありすのカスタードクリームの中に、常にあった。
別に玄関に何の用事があるというのでもない、ただ自分の仕事をなかったことにされるのを見ているのが辛かっただけだ。
ありすは扉を見つめる。
ここからでていけたら、どんなにすばらしいことかしら……。
ありすはこう思いながら扉を見つめるのが癖になっていた。
扉の向こうにあるのは、自由な世界。
自分の全てを理解してくれる、なにをしてもいい世界。
飼いゆっくりという狭い世界なんか捨てて、自由になりたい。
鳥籠の中で飼い殺しにされる生活はもうたくさんだ。
扉を出たい。
空を飛びたい。
その思いはありすのカスタードクリームの中に、常にあった。
「ふぅ……ありす、こっち来い」
疲れた声で、男はありすを呼ぶ。
ありすは男が呼べば、何をおいても行かなくてはならない。
自分は「飼われている」のだから。
ありすは男が呼べば、何をおいても行かなくてはならない。
自分は「飼われている」のだから。
「だからな?ありす。お前からしたら綺麗かもしれんが、俺からしたら汚いんだよ」
「どうして?どうしてわかってくれないの?ありすはきれいだとおもうのよ?」
「でも俺はそう思わないんだよ……」
「どうして?どうしてわかってくれないの?ありすはきれいだとおもうのよ?」
「でも俺はそう思わないんだよ……」
ありすは目の前の男に、自分の考えを理解してもらおうと必死だった。
自分はただ、自分とおにいさんの住んでいる部屋を綺麗にしたいだけなのだ。
ただ、男にはそれが全く理解されなかった。
もうこの押し問答は4回目である。
既にありすが数えられる限界を超えているので正確に何回とはわからないだろうが、ありすももう説得するのに疲れただろう。
だから、ありすはこう結論した。
もっととかいはなこーでぃねーとをすれば、おにいさんもよろこんでくれる――と。
問題はそんなところにはない、もっと深い深い根本にあるのだが、ありすはそれを理解しようとはしなかった。
理解できはしなかった。
まさか、自分の価値観と他人の価値観が違うだなんて――思いもしなかった。
ペットショップにいた赤ゆっくりの頃に何度も言われはしていたが、最後までこれだけはいまいち理解ができなかった。
自分はただ、自分とおにいさんの住んでいる部屋を綺麗にしたいだけなのだ。
ただ、男にはそれが全く理解されなかった。
もうこの押し問答は4回目である。
既にありすが数えられる限界を超えているので正確に何回とはわからないだろうが、ありすももう説得するのに疲れただろう。
だから、ありすはこう結論した。
もっととかいはなこーでぃねーとをすれば、おにいさんもよろこんでくれる――と。
問題はそんなところにはない、もっと深い深い根本にあるのだが、ありすはそれを理解しようとはしなかった。
理解できはしなかった。
まさか、自分の価値観と他人の価値観が違うだなんて――思いもしなかった。
ペットショップにいた赤ゆっくりの頃に何度も言われはしていたが、最後までこれだけはいまいち理解ができなかった。
誰よりも早くトイレの場所も覚えたし、自分がゆっくりしていれば他人もゆっくりできるなんて考えたこともない。
だが、自分がゆっくりできると思うものが、他人はゆっくりできないものに見えるとは絶対に理解ができなかった。
それがありすがあと一歩で銀バッジになれず、銅バッジをおかざりにつけたままでいる理由である。
男は何を言っても、何度言っても理解できないありすに対し、罰を与えた。
だが、自分がゆっくりできると思うものが、他人はゆっくりできないものに見えるとは絶対に理解ができなかった。
それがありすがあと一歩で銀バッジになれず、銅バッジをおかざりにつけたままでいる理由である。
男は何を言っても、何度言っても理解できないありすに対し、罰を与えた。
「もういい!今日は晩飯ぬき!」
「と、とかいはじゃないわああああああああ!!」
「と、とかいはじゃないわああああああああ!!」
ありすは男から、4回目にして始めての罰を受けた。
そのまま突然の飯抜き宣言に落ち込み、玄関でしょんぼりしていたありすは雑誌を読んでいる男に声をかけた。
そのまま突然の飯抜き宣言に落ち込み、玄関でしょんぼりしていたありすは雑誌を読んでいる男に声をかけた。
「ねえ……おにいさん」
「ん?なんだ?謝る気になったか?」
「ゆ……?あやまる?なんで?」
「……いや、いいんだ。なんだ?」
「ん?なんだ?謝る気になったか?」
「ゆ……?あやまる?なんで?」
「……いや、いいんだ。なんだ?」
当然、男はありすが一言「ごめんなさい」と言えば晩飯を食べさせてあげる気でいた。
だが、それはありすには過ぎた願いであったことを悟った。
だが、それはありすには過ぎた願いであったことを悟った。
「ありすね……あした、おさんぽにいきたいわ」
「あー……日曜だし、まあ、いいけど、なんで?」
「いえ……べつに」
「あー……日曜だし、まあ、いいけど、なんで?」
「いえ……べつに」
ありすにとってたまに行かせてもらえる散歩は、唯一この部屋から出られるイベントであった。
そうでなくてもありすが行きたいといえば、仕事が忙しくない時であれば少しの時間なら行かせてもらえる。
番が欲しいと言ったこともあったが、やんわりと断られた。
しかし、今ありすが考えていることがうまくいきさえすれば、何もかもが解決する。
今までの散歩でも一度もうまくいったことがないことであるし――今回もあまり期待はしていなかったが、これしか現状を打破できる手段はないのだ。
ありすは明日のギャンブルに備え、眠りについた。
そうでなくてもありすが行きたいといえば、仕事が忙しくない時であれば少しの時間なら行かせてもらえる。
番が欲しいと言ったこともあったが、やんわりと断られた。
しかし、今ありすが考えていることがうまくいきさえすれば、何もかもが解決する。
今までの散歩でも一度もうまくいったことがないことであるし――今回もあまり期待はしていなかったが、これしか現状を打破できる手段はないのだ。
ありすは明日のギャンブルに備え、眠りについた。
朝になり朝食もそこそこに部屋を出たありすは、3日ぶりの外の空気に感激していた。
風になびく草。
光る太陽。
おいしい空気。
世界はこんなにも輝いている。
風になびく草。
光る太陽。
おいしい空気。
世界はこんなにも輝いている。
「ほれありす、何立ち止まってんだ。行くぞ」
「ええ、おにいさん!」
「ええ、おにいさん!」
いつものように、公園へ向かったありすと男。
そのありすの考えを、男は知る由もない。
公園についてからも、男はただベンチに座り「自由に遊んできていいぞ」と言うだけ。
ありすは男の言う「自由」という言葉が、気に食わなかった。
――こんなの、くびにくさりをつけているのとおなじじゃない。
男は公園全体を見晴らせる位置のベンチに座っており、ありすの姿が見えなくなると、必ず移動してありすを見る。
野良のゲスと関わるとろくなことがないというのを、男は知っていた。
だからこれまで、ありすの「計画」は、うまくいったことがなかった。
今日もまた同じかと悔しげに目を閉じると、聞きなれない声が飛び込んできた。
そのありすの考えを、男は知る由もない。
公園についてからも、男はただベンチに座り「自由に遊んできていいぞ」と言うだけ。
ありすは男の言う「自由」という言葉が、気に食わなかった。
――こんなの、くびにくさりをつけているのとおなじじゃない。
男は公園全体を見晴らせる位置のベンチに座っており、ありすの姿が見えなくなると、必ず移動してありすを見る。
野良のゲスと関わるとろくなことがないというのを、男は知っていた。
だからこれまで、ありすの「計画」は、うまくいったことがなかった。
今日もまた同じかと悔しげに目を閉じると、聞きなれない声が飛び込んできた。
「あらぁ、あなたもゆっくりを飼っているのぉ?」
扇子を片手に持った、妙な帽子を被った――ありすからしたらお飾りだが――女性が、男に話しかけているのだ。
「えっ、ええええっ、ええ、は、はいそうなんででですよ」
男は、ゆっくり相手にはいくらでも強気になれるが女には弱かった。
目茶苦茶に挙動不審になって、ありすのほうはいっさい見ていない。
ありすは思った。
ここだ。
今しかない。
チャンスは一度だけだ!
――ありすは全てを賭けて、野良ゆっくりがいそうな草むらに飛び込んだ。
今まで扉を見つめながら考えてきたシナリオの、第一歩。
それが踏み出せるか踏み出せないかを決める、ギャンブル。
潜めていた「計画」を、ついにありすは実行したのだ。
目茶苦茶に挙動不審になって、ありすのほうはいっさい見ていない。
ありすは思った。
ここだ。
今しかない。
チャンスは一度だけだ!
――ありすは全てを賭けて、野良ゆっくりがいそうな草むらに飛び込んだ。
今まで扉を見つめながら考えてきたシナリオの、第一歩。
それが踏み出せるか踏み出せないかを決める、ギャンブル。
潜めていた「計画」を、ついにありすは実行したのだ。
「ゆっ!?だ、だれ!?」
「……い、いたわ……」
「……い、いたわ……」
ありすが飛び込んだ先には――都合よく、野良のありすがいた。
全身はボロボロ。
すぐ横にはダンボールでできた家。
しかしありすには、何もかもが煌めいて見えた。
自分にないものを持っている。
自分にあるものを捨てている。
全身はボロボロ。
すぐ横にはダンボールでできた家。
しかしありすには、何もかもが煌めいて見えた。
自分にないものを持っている。
自分にあるものを捨てている。
「ね、ねえありす!かいゆっくりになるきはない?」
「……なにをいっているの?」
「……なにをいっているの?」
ありすは説明した。
今までありすが必死に考えてきた「計画」を。
そして説得した。
不自由の鎖にしばられた自分を、なんとか救ってくれと。
今までありすが必死に考えてきた「計画」を。
そして説得した。
不自由の鎖にしばられた自分を、なんとか救ってくれと。
「ありすはのらのゆっくりよ?つらいこともたくさんあるわ」
「つらいことって……そんなの、じゆうになることからしたらへでもないわ!
のらのゆっくりってすばらしいじゃない?
おともだちもまわりにいっぱいいるし、じぶんのへやをどうしてもかまわない!
たしかにつらいこともあるでしょうけど、そのかわり――かいゆっくりのままいっしょうをおえるしかないありすなんかとはちがう!
ゆめがある!きぼうがある!なんにでもなれる!
のらゆっくりは、むげんのかのうせいをもっているのよ!?どうしてありすはそれがわからないの!?」
「つらいことって……そんなの、じゆうになることからしたらへでもないわ!
のらのゆっくりってすばらしいじゃない?
おともだちもまわりにいっぱいいるし、じぶんのへやをどうしてもかまわない!
たしかにつらいこともあるでしょうけど、そのかわり――かいゆっくりのままいっしょうをおえるしかないありすなんかとはちがう!
ゆめがある!きぼうがある!なんにでもなれる!
のらゆっくりは、むげんのかのうせいをもっているのよ!?どうしてありすはそれがわからないの!?」
ありすの考えたことは、上の通りだ。
そしてありすの考えた計画というのは――
そしてありすの考えた計画というのは――
「だからありすとおかざりをこうかんして、のらゆっくりになろうっていうの?」
「そうよ!そう!そのとおり!
いましかないのよ!はやくしないときづかれてしまうわ!」
「そうよ!そう!そのとおり!
いましかないのよ!はやくしないときづかれてしまうわ!」
――ありすは――価値観の差というものを理解できないゆっくりであった。
だから野良のありすが飼いゆっくりはどういうもので、野良ゆっくりはどういうものと認識しているかを知らなかったし、考えもしなかった。
当然、野良のありすの答えはイエスだった。
だから野良のありすが飼いゆっくりはどういうもので、野良ゆっくりはどういうものと認識しているかを知らなかったし、考えもしなかった。
当然、野良のありすの答えはイエスだった。
「ありがとう!ありがとう!いつかぜったい、おれいはするからね!
ありすはのらからぷろでゅーさーさんにすかうとされて、ふぁっしょんでざいなーになるの!
かいゆっくりだったら、おにいさんにかわれたままだったら、ぜったいにむりだわ!」
「そう。ありすにはゆめがあるのね。がんばってね」
「ええ!あなたもかいゆっくりはすごくきゅうくつなせいかつだけど、がんばって!」
ありすはのらからぷろでゅーさーさんにすかうとされて、ふぁっしょんでざいなーになるの!
かいゆっくりだったら、おにいさんにかわれたままだったら、ぜったいにむりだわ!」
「そう。ありすにはゆめがあるのね。がんばってね」
「ええ!あなたもかいゆっくりはすごくきゅうくつなせいかつだけど、がんばって!」
ありすは知らなかったし、考えもしなかった。
野良がどういうものなのかを。
野良がどういうものなのかを。
「うふふ……ここが、きょうからありすのいえになるのね……」
無事銅バッジ付きのおかざりを交換できたありすはダンボール製のおうちを外から眺め、ほれぼれしていた。
ちなみに元野良のありすは「おにいさん、からだがよごれちゃったわ」と言い、男のところへしれっと擦り寄っていた。
意外と演技派だったのかもしれない。
しかし眺めているうちに、ありすの顔はだんだん曇ってきた。
ちなみに元野良のありすは「おにいさん、からだがよごれちゃったわ」と言い、男のところへしれっと擦り寄っていた。
意外と演技派だったのかもしれない。
しかし眺めているうちに、ありすの顔はだんだん曇ってきた。
「さっきはこうふんしてたからきづかなかったけど……いがいとせまいわね、ここ」
ありすが今まで暮らしていた部屋は六畳一間の家。
人間からしたら狭い家だが、ゆっくりからしたら十分に大きい家。
しかし今のありすの家は、ただのダンボールの箱。
ありすが入り、もう一匹成体ゆっくりが入れば、それで限界。
人間からしたら狭い家だが、ゆっくりからしたら十分に大きい家。
しかし今のありすの家は、ただのダンボールの箱。
ありすが入り、もう一匹成体ゆっくりが入れば、それで限界。
「で……でも!こーでぃねーとをすれば、りっぱなおうちになるわ!」
ありすは周りに生えていた草を引っこ抜こうとしたが、飼いゆっくりの貧弱な力ではそれは不可能だった。
せめてまりさ種であれば飼いゆっくりでもできたかもしれないが、ありすにはできなかった。
せめてまりさ種であれば飼いゆっくりでもできたかもしれないが、ありすにはできなかった。
「じゃ、じゃあ!ちぎればいいのよ!」
ありすは草の中腹あたりを咥え、引きちぎろうとしたが……
「ゆぎゃああああああああ!!いぢゃいいいいいいいい!!」
草で口元を切ってしまった。
今までゆっくりふーどしか食べたことのない、もちろん怪我なんてしたこともないありすの皮に、生まれて初めて傷がついた。
ゆっくちしていっちぇにぇと産まれて2ヶ月。経験のない鋭い痛みがありすを襲った。
今までゆっくりふーどしか食べたことのない、もちろん怪我なんてしたこともないありすの皮に、生まれて初めて傷がついた。
ゆっくちしていっちぇにぇと産まれて2ヶ月。経験のない鋭い痛みがありすを襲った。
「いぢゃいい、いぢゃいいい!!おに、おにいさああああああああああん!!」
男を呼ぶが、当然誰も来ない。
男は今頃元野良のありすと一緒に家に帰り、のんびりと午後を過ごしている。
男は今頃元野良のありすと一緒に家に帰り、のんびりと午後を過ごしている。
「そ……そうだったわ、ありすは……のらだったわ」
口元は痛いが、自身が「野良」ということを思い出すと、不思議と力がわいてきた。
その野良というありすが思い描いていたヒーローのような、ワイルドな響きを持つ物になれたのだと思うと、諦めずに落ち葉などで装飾しようという気がわいてきた。
その野良というありすが思い描いていたヒーローのような、ワイルドな響きを持つ物になれたのだと思うと、諦めずに落ち葉などで装飾しようという気がわいてきた。
「ゆふぅ……で……できたわああああ!!」
今まで部屋のこーでぃねーとに使ったことも、ましてやろくに触ったこともない素材をふんだんに使い、ありすは部屋のこーでぃねーとを終わらせた。
外側には唾液でしめらせた落ち葉をいくつかくっつけ、中にはふかふかした土を少し入れ、四隅にはどんぐりを置いた。
人間からしたらただ汚れて不潔なだけのダンボールの箱だが、ありすはそれを「豪邸」だと感じた。
外側には唾液でしめらせた落ち葉をいくつかくっつけ、中にはふかふかした土を少し入れ、四隅にはどんぐりを置いた。
人間からしたらただ汚れて不潔なだけのダンボールの箱だが、ありすはそれを「豪邸」だと感じた。
「これが……これが、じゆうってことね!」
ありすは野良生活を満喫していた。
――この時までは。
――この時までは。
「さて……おにいさん?ありすはひとしごとおえて、おなかがへったわ!
なんでもいいから、てばやくできるものちょうだい!」
なんでもいいから、てばやくできるものちょうだい!」
またもや、男を頼るありす。
「あっ……だめね、かいゆっくりのころのくせがぬけなくて。
でも、……ごはんって、のらゆっくりはなにをたべているのかしら?」
でも、……ごはんって、のらゆっくりはなにをたべているのかしら?」
ありすはのらゆっくりを、自身の想像でしか知らなかった。
当たり前のことだが、ペットショップでは飼いゆっくりとしてのマナーやルールなどは教えられたが、野良ゆっくりのマナーやルールは一切教わらなかった。
しかし、ありすはここでひとつ思いつく。
当たり前のことだが、ペットショップでは飼いゆっくりとしてのマナーやルールなどは教えられたが、野良ゆっくりのマナーやルールは一切教わらなかった。
しかし、ありすはここでひとつ思いつく。
「そうだわ!おともだちにきけばいいじゃない!
ここはこうえんよ!のらゆっくりがいっぱいいるはずだわ!」
ここはこうえんよ!のらゆっくりがいっぱいいるはずだわ!」
喜び勇んで、すぐ横の草むらに野良ゆっくりを求めて飛び込んだ。
「ゆ……ありす。どうかしたのぜ?」
そこにはまりさが子供と共にいた。
「ありすおねーしゃん、どうかしちゃにょ?」
まだ小さな赤れいむ、いわゆるれいみゅである。
ありすは成体になってから、始めて赤ゆっくりを見た。
小さいころは周りはみな赤ゆっくりばかりで、自身もそのもの赤ゆっくりであったはずなのに、成体になってから見ると輝きが違う。
ありすは成体になってから、始めて赤ゆっくりを見た。
小さいころは周りはみな赤ゆっくりばかりで、自身もそのもの赤ゆっくりであったはずなのに、成体になってから見ると輝きが違う。
「お、おちびちゃん、かわいいわあああああああ!!」
つい、叫んでしまった。
しかし、これがきっかけで予想外のことが起きる。
しかし、これがきっかけで予想外のことが起きる。
「だ、だまるのぜえええええええ!!」
「ゆびゃああああああああ!!」
「ゆびゃああああああああ!!」
――まりさが体当たりをしたのだ。
どうしてだ!?
子供をけなしたならまだしも、子供をかわいいと褒めたのに!?
どうしてだ!?
子供をけなしたならまだしも、子供をかわいいと褒めたのに!?
「そんなでっかいこえだしたら、にんげんさんに「くじょ」されるのぜえええええ!!」
「く……くじょ?」
「く……くじょ?」
――ありすは、「駆除」さえも知らなかった。
野良ゆっくりを100匹単位で殺す行為。
野良ゆっくりが100匹単位で殺される事件。
戦争といってもよいかもしれない。
ありすは、何も知らなかった。
まさか野良ゆっくりが、命がけで生きているなんて。
野良ゆっくりを100匹単位で殺す行為。
野良ゆっくりが100匹単位で殺される事件。
戦争といってもよいかもしれない。
ありすは、何も知らなかった。
まさか野良ゆっくりが、命がけで生きているなんて。
「そ……そんなことがあるの!?なんで?どうして!?
どうしてにんげんさんは、のらゆっくりをころすの!?」
「まりさにきかれても……こまるのぜ。
ただ、これだけはわかるのぜ。
『にんげんさんは、まりさたちのことなんかなんともおもっていない』」
どうしてにんげんさんは、のらゆっくりをころすの!?」
「まりさにきかれても……こまるのぜ。
ただ、これだけはわかるのぜ。
『にんげんさんは、まりさたちのことなんかなんともおもっていない』」
しかし、まりさは知っていた。
「えええええええええ、こ、これがごはんさんなのおおおおおおおお!?」
「……だから、でっかいこえだすなってなんどいったらわかるのぜ。
きょうのありす、おかしいのぜ?おおきいこえだしちゃいけないって、まりさにおしえてくれたのはありすなのぜ」
「ゆぐぅ……」
「……だから、でっかいこえだすなってなんどいったらわかるのぜ。
きょうのありす、おかしいのぜ?おおきいこえだしちゃいけないって、まりさにおしえてくれたのはありすなのぜ」
「ゆぐぅ……」
ありすはまりさが貯めていたどんぐりや草や花などを見て、どこか、見てはいけないものを見た気分になった。
それは現実。
ありすの夢とは真逆の存在。
野良ゆっくりの真実。
まさかありすが「道具」だと思っていたものが――食べ物だったなんて。
ありすからしたらとても食べられたものではないが、目の前の野良ゆっくりであるまりさは、それを大事そうに貯めている。
そこに、まりさの番いが帰ってきた。
それは現実。
ありすの夢とは真逆の存在。
野良ゆっくりの真実。
まさかありすが「道具」だと思っていたものが――食べ物だったなんて。
ありすからしたらとても食べられたものではないが、目の前の野良ゆっくりであるまりさは、それを大事そうに貯めている。
そこに、まりさの番いが帰ってきた。
「ただいま、まりさ!きょうはねぇ……ゆふふ……なまごみさんがてにはいったよおおおお!!」
「れいむうううううう!!よくやったのぜえええええ!!」
「ゆげええええええ!!くさいいいいいいい!!
はやくどこかにやってよおおおおおおお!!」
「……ありす?」
「れいむうううううう!!よくやったのぜえええええ!!」
「ゆげええええええ!!くさいいいいいいい!!
はやくどこかにやってよおおおおおおお!!」
「……ありす?」
野良ゆっくりのご馳走は、野菜の皮、賞味期限切れの弁当、黄色くなった米。
人間はおろか、野良以外のゆっくりからしたら「汚れ」としか見えず、畏怖の対象となるものだ。
さっきの花やドングリなどは、「食べ物には見えない」ものだったが、これは「食べ物ではなくなった」ものだ。
どちらも、ありすからしたら食べるなんて考えつかない。
考えられない。
人間はおろか、野良以外のゆっくりからしたら「汚れ」としか見えず、畏怖の対象となるものだ。
さっきの花やドングリなどは、「食べ物には見えない」ものだったが、これは「食べ物ではなくなった」ものだ。
どちらも、ありすからしたら食べるなんて考えつかない。
考えられない。
「たくさんとれたから、ありすにもちょっとわけてあげるねっ!ふだんのおれいだよ!
ほら、ごはんさんをあげるよ!ゆっくりたべてね!」
ほら、ごはんさんをあげるよ!ゆっくりたべてね!」
れいむはそのもみあげで、少しだけ青くカビが生え、蝿がたかりそうな半分どろどろに溶けた米を渡した。
「ゆ、ゆげええええええええええええええええ!!」
そのすえるような臭いに耐え切れず、ありすは嘔吐しかけた。
しかし他ゆんの家を汚すわけにはいかないというプライドで必死に耐え、自分の家に戻った。
綺麗にこーでぃねーとされた自分の家に。
――しかし。
ありすは全てを失っていた。
しかし他ゆんの家を汚すわけにはいかないというプライドで必死に耐え、自分の家に戻った。
綺麗にこーでぃねーとされた自分の家に。
――しかし。
ありすは全てを失っていた。
「……ゆ、ゆん?どうしてありすのこーでぃねーとしたおうちさんのなかにいるの?」
「はあああああああああ!?ここはまりささまのおうちなんだぜえええええええええ!?」
「はあああああああああ!?ここはまりささまのおうちなんだぜえええええええええ!?」
ゲスな野良ゆっくりに、おうちせんげんされていたのだ。
おうちせんげんされてしまえば、力のないゆっくりに抗うすべはない。
それなりに実戦経験のある野良なら戦って、力で取り戻すのだが。
結局のところ、おうちせんげんとは、強奪以外に利用方法はないのだ。
だが、それを誰も気づかない。
ありすも当然、知らなかった。
考えもしなかった。
おうちせんげんされてしまえば、力のないゆっくりに抗うすべはない。
それなりに実戦経験のある野良なら戦って、力で取り戻すのだが。
結局のところ、おうちせんげんとは、強奪以外に利用方法はないのだ。
だが、それを誰も気づかない。
ありすも当然、知らなかった。
考えもしなかった。
「お、おねがいでずうううううううう!!ありすはもとかいゆっぐりだっだんでずううううううううう!!
どなだがあでぃずをがっでぐだざいいいいいいいいいい!!」
どなだがあでぃずをがっでぐだざいいいいいいいいいい!!」
ありすは結局、野良ゆっくりとしての初夜は公園の隅で野宿することとなった。
飼いゆっくりだったころのふかふかのクッションとは違い、冷たく、そして痛く、ろくに眠れたものではなかった。
そして、ありすはやっと気づいたのだ。
野良ゆっくりは、自由なんかじゃない。
確かに野良ゆっくりは何にでもなれるが――何にでもなれるということは、何にもなれないかもしれないということなのだ。
そして大多数の野良ゆっくりたちは、何にもなれず、ただ産まれて死んでいくだけだということを。
やっと知った。
考えついた。
しかしありすに限らず、ゆっくりに限らず。
人間ですらそうなのだ。
気づいたときは、なんでも遅い。
ありすはもう、もう一度飼いゆっくりに戻る以外生きる選択肢は残されていなかった。
とてつもなく低い確率。
不利すぎるギャンブル。
飼いゆっくりでいたころの駄目でも次があるギャンブルとは違い、駄目ならもう先はない、一寸先は断崖絶壁の命がけのギャンブルだった。
この賭けを打ち勝った野良ゆっくりは、今まで数えるほどしか居ない。
しかしありすはしなければいけない。
賭けに勝ったと思っていたのはありすだけで、それは実は賭けに負けていたのだから。
ありすはルールを理解していなかったのだ。
飼いゆっくりが勝ちで、野良ゆっくりが負けだというルールを。
ありすは、知らなかった。
考えもしなかった。
しかしそこに、何も知らなかったありすに、光が見える。
飼いゆっくりだったころのふかふかのクッションとは違い、冷たく、そして痛く、ろくに眠れたものではなかった。
そして、ありすはやっと気づいたのだ。
野良ゆっくりは、自由なんかじゃない。
確かに野良ゆっくりは何にでもなれるが――何にでもなれるということは、何にもなれないかもしれないということなのだ。
そして大多数の野良ゆっくりたちは、何にもなれず、ただ産まれて死んでいくだけだということを。
やっと知った。
考えついた。
しかしありすに限らず、ゆっくりに限らず。
人間ですらそうなのだ。
気づいたときは、なんでも遅い。
ありすはもう、もう一度飼いゆっくりに戻る以外生きる選択肢は残されていなかった。
とてつもなく低い確率。
不利すぎるギャンブル。
飼いゆっくりでいたころの駄目でも次があるギャンブルとは違い、駄目ならもう先はない、一寸先は断崖絶壁の命がけのギャンブルだった。
この賭けを打ち勝った野良ゆっくりは、今まで数えるほどしか居ない。
しかしありすはしなければいけない。
賭けに勝ったと思っていたのはありすだけで、それは実は賭けに負けていたのだから。
ありすはルールを理解していなかったのだ。
飼いゆっくりが勝ちで、野良ゆっくりが負けだというルールを。
ありすは、知らなかった。
考えもしなかった。
しかしそこに、何も知らなかったありすに、光が見える。
「お……おにいさあああああああああん!」
「ん……なんだ、野良のありすか。行くぞ、ありす」
「ええ……でも、ごめんね、おにいさん。ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ、おはなししてきてもいい?
もちろんみょうなくちぐるまにのったりはしないわ」
「ああ……まあ、一昨日部屋を散らかしたこと謝ったし、いいぞ」
「ありがとう、おにいさん」
「ん……なんだ、野良のありすか。行くぞ、ありす」
「ええ……でも、ごめんね、おにいさん。ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ、おはなししてきてもいい?
もちろんみょうなくちぐるまにのったりはしないわ」
「ああ……まあ、一昨日部屋を散らかしたこと謝ったし、いいぞ」
「ありがとう、おにいさん」
なんと、ありすを飼っていた男が元野良のありすを連れて、偶然に現れたのだ。
男はありすを無視しようとしたが、元野良のありすは近寄ってきてくれた。
男はありすを無視しようとしたが、元野良のありすは近寄ってきてくれた。
「ありがどおおおおおお!!あじがどおおおおお!!かわってぐれるのねええええええ!!」
「いいえ。かわるわけないじゃない」
「どぼじでええええええええ!!もうのらはいやだあああああああ!!がいゆっくりになりだいいいいいい!!」
「あなたがいったんじゃない。みょうなこといわないでね?
のらからふぁっしょんでざいなーになるんでしょ?」
「だっでええええええ!!ぜんぜんじゆうじゃなかったんだものおおおおおお!!」
「いいえ。かわるわけないじゃない」
「どぼじでええええええええ!!もうのらはいやだあああああああ!!がいゆっくりになりだいいいいいい!!」
「あなたがいったんじゃない。みょうなこといわないでね?
のらからふぁっしょんでざいなーになるんでしょ?」
「だっでええええええ!!ぜんぜんじゆうじゃなかったんだものおおおおおお!!」
ありすは元飼いのありすを、見下すように見つめる。
「あのね。あなたはむしがよすぎる。
なんにもしらないくせに、なんにもかんがえようとしないで、じゆうをほしがるなんてありえないわ。
きけばあなた、へやをめちゃくちゃにちらかしたあげく、あやまりさえしなかったらしいじゃない?
ひとがいやがることをしてはいけないだなんて、のらのありすでもしってたわよ。
なんにでもなれるとかいってゆめをみて、のらゆっくりになって……
まともなかいゆっくりにもなれないくせに、なにかになろうだなんてばかみたい。
あなたはいったい、なにになったつもりでいたの?」
なんにもしらないくせに、なんにもかんがえようとしないで、じゆうをほしがるなんてありえないわ。
きけばあなた、へやをめちゃくちゃにちらかしたあげく、あやまりさえしなかったらしいじゃない?
ひとがいやがることをしてはいけないだなんて、のらのありすでもしってたわよ。
なんにでもなれるとかいってゆめをみて、のらゆっくりになって……
まともなかいゆっくりにもなれないくせに、なにかになろうだなんてばかみたい。
あなたはいったい、なにになったつもりでいたの?」
「ほら、ありす。行くぞ」
「ええ、おにいさん。いきましょう」
「ええ、おにいさん。いきましょう」
残されたありすはしばらくそのまま下を向いていたが、やがて起きだして川のほうに向かっていった。
「え……えへへ……あでぃすは……じゆうなんだ……
じゆうにそらをとぶ……とりなんだ……
なんにでもなれるし……どこにでもいける……」
じゆうにそらをとぶ……とりなんだ……
なんにでもなれるし……どこにでもいける……」
飼いゆっくりだったころに、帰り道でよく見た川へ。
ありすの目線からも、けっこうな高さがある川だ。
ありすの目線からも、けっこうな高さがある川だ。
「ありすは……おおぞらをかれいにまうとりさん……おそらをとんでるみちゃいいいいいいいい!!」
鳥籠を抜けだしたはずの鳥は――
空を飛べない、ただの饅頭だった。
空を飛べない、ただの饅頭だった。
終正あき
挿絵: