ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko4312 5・小僧
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ankoss
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『5・小僧』 91KB
虐待 考証 小ネタ 日常模様 独自設定 長さに対して虐分薄し
虐待 考証 小ネタ 日常模様 独自設定 長さに対して虐分薄し
【小僧、ゆ虐について考え始めるのこと】
※
虐分が薄めです。それっぽい描写は、最初だけです。
虐分が薄めです。それっぽい描写は、最初だけです。
※
現代社会をベースに、ゆっくり達が「奇妙な新種」として実在する世界だと思ってください。
ノリとしては、新種発見ブームが一段落した後みたいな感じです。
現代社会をベースに、ゆっくり達が「奇妙な新種」として実在する世界だと思ってください。
ノリとしては、新種発見ブームが一段落した後みたいな感じです。
※
anko1323 1・学者
anko1324 2・先輩
anko3853~4 3・小僧(前・後)
anko4274 4・旦那
今作 5・小僧
anko1323 1・学者
anko1324 2・先輩
anko3853~4 3・小僧(前・後)
anko4274 4・旦那
今作 5・小僧
と、連続しています。
どこから読んでも、それほど問題ないようにしようと努めたつもりですが、
過去作を読んでないと、よくわからない部分があるかもしれません。
けどまぁ、大事なところでもないと思います。
どこから読んでも、それほど問題ないようにしようと努めたつもりですが、
過去作を読んでないと、よくわからない部分があるかもしれません。
けどまぁ、大事なところでもないと思います。
そんなことより、この長さで虐分が薄めということの方が問題かもしれません。
※
設定に違和感を憶える場合もあるかと思いますが
「ああ、こういう世界なのね」と大らかな気持ちで見てくだされば幸いです。
設定に違和感を憶える場合もあるかと思いますが
「ああ、こういう世界なのね」と大らかな気持ちで見てくだされば幸いです。
小さな空き地。
四匹の、ゆっくりと呼ばれる人の頭に似た姿を持つ奇妙な生物と、一人の人間が対峙し
ていた。
そのゆっくりの一匹は今、大粒の汗を流しながら、ブルブルと震えている。
四匹の、ゆっくりと呼ばれる人の頭に似た姿を持つ奇妙な生物と、一人の人間が対峙し
ていた。
そのゆっくりの一匹は今、大粒の汗を流しながら、ブルブルと震えている。
「あひっ! あへぇ……! もう、むりぃ……! あ、あ、ありす……がまんなんて……!
もっ……むりぃいいいいんっ!」
もっ……むりぃいいいいんっ!」
ぶばん! ぶりぶりぶりゅりゅりゅ!
派手な音を立て、ありす種の“あにゃる”から噴水のように薄黄色の中身が吹き出し始
めた。
派手な音を立て、ありす種の“あにゃる”から噴水のように薄黄色の中身が吹き出し始
めた。
「ありすぅうう!? さすがに、その うんうんっぷりは どうかとおもうんだぜ!?」
まりさ種が気遣うことも忘れて、ドン引きしたという声を上げる。
ぶびば! ぶりぶび! ぶりょりょ!
「そっ、そんなこと、いわれても……! とまらない……! とまらないのぉほぉおお!
うんうん きぼぢいぃいいいいいんっ!」
うんうん きぼぢいぃいいいいいんっ!」
「あ、ありす、へんだよ……? だって、げりうんうんって、つらいよね? あれ、げり
うんうんだよね? きもちいいとか いってるよ?」
うんうんだよね? きもちいいとか いってるよ?」
れいむ種も、まりさ種以上にドン引きした様子で呟く。「変態さんだからかな?」と、
隣りにいる ぱちゅりー種に問いかけた。
隣りにいる ぱちゅりー種に問いかけた。
「むきゅう……ありすは、すけべぇさんではあったけど、へんたいさんではなかったわ。
これは、にんげんさんに されたことが げんいん と、みるべきね」
これは、にんげんさんに されたことが げんいん と、みるべきね」
ぱちゅりー種の言葉に、まりさ種もれいむ種も「人間さん?」と首を傾げる。
「なんだい、なんだい? すっかり忘れていたのかな? そう、僕だ!」
ゆっくり達の側に立っていた人間が、ようやく注目が戻ってきたかと満足げに胸を張っ
た。
黒いレザーのボトムス、白くパリッとしたシャツに黒のレザーのベスト、羽織っている
コートも黒のレザー。さらにタイまで黒のレザーだ。それだけなら、革好きの人が張り切
っているという感じの格好だが、彼は奇妙な仮面を着けていた。
丁寧に磨かれた白木造りの面には凹凸が無く、ツルリとしている。そこに、墨痕鮮やか
に「虐」の一字。文字の黒線に紛れ込ませるようにして、視界確保用の細い切れ目が入れ
てあるようだ。
た。
黒いレザーのボトムス、白くパリッとしたシャツに黒のレザーのベスト、羽織っている
コートも黒のレザー。さらにタイまで黒のレザーだ。それだけなら、革好きの人が張り切
っているという感じの格好だが、彼は奇妙な仮面を着けていた。
丁寧に磨かれた白木造りの面には凹凸が無く、ツルリとしている。そこに、墨痕鮮やか
に「虐」の一字。文字の黒線に紛れ込ませるようにして、視界確保用の細い切れ目が入れ
てあるようだ。
その面に覆われた顔をゆったりと動かし、ありすへと向き直る。ありすはようやく、下
痢便を排泄し終わったらしい。
痢便を排泄し終わったらしい。
「下痢うんうんは、気持ちよかったかい? ありす」
「あ……あひぃ……はひぃ……ひゅごかったのぉ……」
「あ……あひぃ……はひぃ……ひゅごかったのぉ……」
ありすのその言葉に、三匹のゆっくり達はまたもドン引きの表情を浮かべるが、面の男
は満足げに頷いた。
は満足げに頷いた。
「では、もう一度プレゼントしようか?」
「あ……? あ、ああ……で、でも……これいじょうは、ありす……しんじゃうわぁ……」
「快楽に溺れながら逝けるというのも、幸せだとは思わないかい? 愉悦を満喫しながら
なんて、“とかいは”な死に様じゃないか」
「あ……? あ、ああ……で、でも……これいじょうは、ありす……しんじゃうわぁ……」
「快楽に溺れながら逝けるというのも、幸せだとは思わないかい? 愉悦を満喫しながら
なんて、“とかいは”な死に様じゃないか」
迷っているのか、ありすは良いとも嫌だとも言わない。ただ、震える声を漏らし続けた。
「やっ、やめるんだぜ! それいじょう ありすに、ひどいことをするんじゃないぜっ!!」
我に返ったまりさが、ありすを守るために面の男へと吶喊する。ぼんよぼんよと跳ねて
近づき、体当たりのために大きく跳ねた。
その時。
近づき、体当たりのために大きく跳ねた。
その時。
「遅いな」
「ゆあっ!? ゆ? ゆゆ! いっ、いつのまに!?」
「ゆあっ!? ゆ? ゆゆ! いっ、いつのまに!?」
ジッとしていた面の男の姿が唐突に消えたかと思えば、ありすの後方に立っていたのだ。
「さぁ、ありす。味わい尽くせ」
「あ……! あっ! あああっ……!」
「あ……! あっ! あああっ……!」
ありすが、震える声を徐々に高めた。それは、恐怖のためなのか……しかし、ありすの
瞳は潤み、頬は赤く上気していた。
瞳は潤み、頬は赤く上気していた。
「やめるんだぜぇええ!!」
「虐技……あにゃるぶれいく!」
「虐技……あにゃるぶれいく!」
止めるべく、まりさが再び吶喊する。しかし、面の男は声と共にまたも姿を消し、まり
さの突撃は空振りに終わった。
さの突撃は空振りに終わった。
「あっ、あ……あああ……! きちゃった……きちゃったよぉお……!」
ありすの震える声が響き、見ればその後下部──ありすの“お尻”が高々と上げられて
おり、排泄用の窄まり“あにゃる”に、太い注射器のようなもの──シリンジが、深々と
突き入れられていた。
おり、排泄用の窄まり“あにゃる”に、太い注射器のようなもの──シリンジが、深々と
突き入れられていた。
「浣腸というものを、知っているか?」
「か、かんちょー? むきゅっ……! そ、それは、たしか、えっと……」
「か、かんちょー? むきゅっ……! そ、それは、たしか、えっと……」
自分の中にある知識を検索しているぱちゅりーの、その答えを待たずに、面の男が言葉
を続ける。
を続ける。
「簡単に言えば、お尻からお薬を入れるんだ。主に、便秘などで“うんうん”が出なくな
ったときに使われる」
ったときに使われる」
人間の場合はグリセリン溶液などを主に使うが、ゆっくりの場合はごく少量のぬるま湯
が主に用いられる。
だが、面の男がありすの“あにゃる”に突き入れたシリンジには、たっぷりの水飴と蜂
蜜が溶かし込まれていた。
ゆっくりが好む、甘味。その中でも水飴は吸収されるスピードが速く、蜂蜜はどの甘味
よりも活力を与え外皮の美しさも高める。これは種によって程度の差はあるが、概ね全て
のゆっくりに対して共通する。
が主に用いられる。
だが、面の男がありすの“あにゃる”に突き入れたシリンジには、たっぷりの水飴と蜂
蜜が溶かし込まれていた。
ゆっくりが好む、甘味。その中でも水飴は吸収されるスピードが速く、蜂蜜はどの甘味
よりも活力を与え外皮の美しさも高める。これは種によって程度の差はあるが、概ね全て
のゆっくりに対して共通する。
「何よりも、高い糖分はゆっくりに強烈な快楽を与える。君達に快楽中枢というものがあ
るのなら……それは、糖分に対して抗うことすら不可能なように出来ているのさ!」
るのなら……それは、糖分に対して抗うことすら不可能なように出来ているのさ!」
だから、ゆっくりは糖度の高い食物を食べた際に「幸せ」と高らかに叫ぶ。あられもな
い顔を……それこそ、よがり顔のような表情を浮かべ、恍惚と甘さに酔う。
い顔を……それこそ、よがり顔のような表情を浮かべ、恍惚と甘さに酔う。
「それは、あにゃるからの吸収でも同じ。いや、吸収した部分が『甘さに侵され』て、快
楽を得るための器官にすら変わってしまう!」
楽を得るための器官にすら変わってしまう!」
「むきゅ……!」
「あ、ありす……!?」
「ありす、きをたしかにもつんだぜ!」
「あ、ありす……!?」
「ありす、きをたしかにもつんだぜ!」
甘さという快楽に、ゆっくりの体は弛緩する。体内に入り込んだ栄養を循環させるべく、
流動を盛んにする。そして、あにゃるから侵入した過剰な水分を体外へと出すことを求め
る。食事と同じように中身が増したのだから、排泄欲も増す。
浣腸だというのなら、ゆっくりにとってはこれほど抵抗しづらい浣腸もないだろう。
流動を盛んにする。そして、あにゃるから侵入した過剰な水分を体外へと出すことを求め
る。食事と同じように中身が増したのだから、排泄欲も増す。
浣腸だというのなら、ゆっくりにとってはこれほど抵抗しづらい浣腸もないだろう。
「しかも、さっきの三倍の濃さに、三倍の量だ。酔いしれるといい」
「あひぃっ!?」
「あひぃっ!?」
パキンッ!と高い音を立てて、面の男が指を鳴らす。同時に、シリンジの押子──プラ
ンジャが、グッと押し込まれた。
ゆっくり達の目には、誰も触っていないのにシリンジが動いたように見えた。
カメラにも、僅かな残像が揺らめく影のように映っただけだった。
それでも、確かにプランジャが押され、ありすのお尻を……“あにゃる”を破壊する液
体が、注ぎ込まれた。
ンジャが、グッと押し込まれた。
ゆっくり達の目には、誰も触っていないのにシリンジが動いたように見えた。
カメラにも、僅かな残像が揺らめく影のように映っただけだった。
それでも、確かにプランジャが押され、ありすのお尻を……“あにゃる”を破壊する液
体が、注ぎ込まれた。
「んふぁあああああっ!? ありすのっ……! ありすのおしり、あついのぉおおおお!
あにゃるが……! あにゃるがうずくのぉおお!」
あにゃるが……! あにゃるがうずくのぉおお!」
ビクビクと、シリンジを突き立てられたままの尻を上下に揺らして、ありすが身悶えた。
「ブレイク……アウトだ」
ありすから離れた位置にいる面の男が、フワリと右腕を振る。その動きに併せ、すぽん!
と音を立てて、シリンジが抜けた。
同時に、ありすの“あにゃる”から、勢いよく“うんうん”が……というよりも、柔ら
かくなった中身が、噴出し始める。
と音を立てて、シリンジが抜けた。
同時に、ありすの“あにゃる”から、勢いよく“うんうん”が……というよりも、柔ら
かくなった中身が、噴出し始める。
「あぁひあへあはひへぇええええんっ!? なんれぇええええ!? なんれ、こんにゃに
ひもひいいのぉおおお!?」
ひもひいいのぉおおお!?」
「むきゅああっ!? だっ、だめよ、ありす! そんなに、うんうんしたら! それじゃ、
なかみの あんこさんまで でちゃうわよ!?」
なかみの あんこさんまで でちゃうわよ!?」
噴出の勢いに怯えているのか、ジリジリと身を引きながらも、ぱちゅりーはありすの身
を案じて大きな声を上げた。
しかし。
を案じて大きな声を上げた。
しかし。
「止まりはしない。止まるわけもない。ゆっくりは……君達は、快楽に抗えないんだから」
楽しそうな、面の男の声。
「君達だって“うんうん”をすれば、スッキリするだろう? 今、ありすが吹き出してい
るモノは、通常の“うんうん”はもちろん、ありす自身の中身よりも濃く、甘い!」
「あっ、あまあまさんなのぜ!?」
るモノは、通常の“うんうん”はもちろん、ありす自身の中身よりも濃く、甘い!」
「あっ、あまあまさんなのぜ!?」
面の男の発言の、都合の良い部分だけを聞きつけて、まりさが色めき立つ。
「ああ、ありすの“うんうん”が、ね。嘘だと思うなら、食べてみればいい」
「!? ………………た、たべれるわけないんだぜ!?」
「!? ………………た、たべれるわけないんだぜ!?」
かなり迷ったようだ。
今、ありすは、犯されながら、侵され続けている。甘い“うんうん”が“あにゃる”を
犯しながら、吹き出している。“うんうん”が通る度に、“あにゃる”は糖分に侵されて
いく。
犯しながら、吹き出している。“うんうん”が通る度に、“あにゃる”は糖分に侵されて
いく。
「君達ゆっくりは、全身で味わう生き物だ。視覚以外は、間違いなく表皮でも感じ取って
いる。皮全体が、感覚器官でもあるんだ。味覚に関して言えば、舌が最も敏感であること
は当然だが、皮でも味わう!」
いる。皮全体が、感覚器官でもあるんだ。味覚に関して言えば、舌が最も敏感であること
は当然だが、皮でも味わう!」
多くのゆっくりを見てきたから、わかること。多くのゆっくりを虐め抜いてきたから、
知り得たこと。
“あにゃる”も同じなのだ。だから、ゆっくりは“うんうん”を出したままだと気持ち
悪く感じる。それは、触感だけの不快さではない。「ふ~きふ~き」とか「きれいきれい」
と言っている拭う行為をしなければ、“うんうん”味を感じ続けることになるのだ。
知り得たこと。
“あにゃる”も同じなのだ。だから、ゆっくりは“うんうん”を出したままだと気持ち
悪く感じる。それは、触感だけの不快さではない。「ふ~きふ~き」とか「きれいきれい」
と言っている拭う行為をしなければ、“うんうん”味を感じ続けることになるのだ。
「だが、ありすは今、極上の甘味を“あにゃる”で味わっている。そしてその甘みは“あ
にゃる”に染み込み、そこをスイートスポットに替えてしまう」
にゃる”に染み込み、そこをスイートスポットに替えてしまう」
「あひへっ! はひへっ! んひへはひはひへぇええええんっ!」
尋常ではないほど強烈な、有り得ない場所からの快楽に酔い、ありすは奇態な喘ぎを高
らかに上げ続けている。
その様に、面の男も高らかに笑い声を上げた。
らかに上げ続けている。
その様に、面の男も高らかに笑い声を上げた。
「あはははははっ! 生き延びてみろ、ありす! 無事に生き残れば、この世で最も甘く
芳しい“あにゃる”の持ち主になるだろう! 君に恋したヤツらは、その香りに誘われて
“あにゃる”を舐めまくるぞ! さらに、甘く熟した君の“あにゃる”は、敏感なものと
なって“まむまむ”以上の快楽を与えてくれるんだ!」
芳しい“あにゃる”の持ち主になるだろう! 君に恋したヤツらは、その香りに誘われて
“あにゃる”を舐めまくるぞ! さらに、甘く熟した君の“あにゃる”は、敏感なものと
なって“まむまむ”以上の快楽を与えてくれるんだ!」
「ぃひぁああっ! ひやよぉおおっ! そ、そんにゃの、へんたいさんよぉおおおお!」
「そうとも! 変態だ! 君は変態なんだ! 現に“あにゃる”で、よがり狂っている!
“うんうん”をひり出す快感で、悲鳴のような喘ぎ声を上げているじゃあないか!」
“うんうん”をひり出す快感で、悲鳴のような喘ぎ声を上げているじゃあないか!」
「んはぁああ、あっ、ああっ! らめ……! らめらめぇえっ! へんたいさんなんて、
らめなのぉおおおっ!」
らめなのぉおおおっ!」
ありすが上げる拒絶の言葉が、どんどん乱れていく。何を言っているかわからない喘ぎ
だけになり、噴出させ続けている中身も徐々に勢いを無くしていく。ビクビクと続いてい
た体の震えも弱くなっていき、その目からも光が徐々に失われ始めた。
だけになり、噴出させ続けている中身も徐々に勢いを無くしていく。ビクビクと続いてい
た体の震えも弱くなっていき、その目からも光が徐々に失われ始めた。
「あっ……あへ……へ、へあ……あ…………」
中身の噴出が止んだときには、ありすの声も、震えも、止まっていた。
「むきゅぁ……! ありす……!?」
「あ、ありす……? ゆ、ゆっくり……ゆっくりしてね!?」
「ちっくしょう……! なんてことなんだぜ……!」
「あ、ありす……? ゆ、ゆっくり……ゆっくりしてね!?」
「ちっくしょう……! なんてことなんだぜ……!」
ありすが死んだと理解したのか、三匹がそれぞれなりの、悲痛な声を漏らした。
嘆き、震え、呆然としている。我に返るのは、まりさが早いのだろうか? そしてまた、
無謀な突撃を仕掛けてくるのか?
だが、嘆き以外の声を上げたのは、れいむが一番最初だった。
嘆き、震え、呆然としている。我に返るのは、まりさが早いのだろうか? そしてまた、
無謀な突撃を仕掛けてくるのか?
だが、嘆き以外の声を上げたのは、れいむが一番最初だった。
「も……もう……! もうやだぁああああ! おうちかえるぅうううう!」
「むきゅっ!? まつのよ、れいむ! いまの ぱちぇたちには、かえる おうちなんて、
ないのよ!」
「むきゅっ!? まつのよ、れいむ! いまの ぱちぇたちには、かえる おうちなんて、
ないのよ!」
れいむを制止しようとした ぱちゅりーが、少し気になることを言った。
だが、面の男はそれを問い質すことを後回しとして、跳ね出した れいむの前に回り込む。
だが、面の男はそれを問い質すことを後回しとして、跳ね出した れいむの前に回り込む。
「まぁ待てよ、れいむ」
「ゆぎゃぁあっ!? も、もうやだって いったでしょぉおお!? どいてよぉおお!」
「ゆぎゃぁあっ!? も、もうやだって いったでしょぉおお!? どいてよぉおお!」
突然、目の前に現れた男に驚き、怯え、れいむが悲鳴を上げる。「やれやれ」と呟いて、
面の男は言われたとおりに、れいむの前から退き、その横をすり抜けた。
面の男は言われたとおりに、れいむの前から退き、その横をすり抜けた。
「ゆきゃんっ?」
ただすれ違うだけの行動に見えたのに、れいむがコロコロと転がる。たいした衝撃でも
なかったのか、れいむが上げた声も軽やかなものだった。
なかったのか、れいむが上げた声も軽やかなものだった。
「ゆぅう……? な、なんなの、いまの? なんで きゅうに、れいむは ころころ……」
仰向けになった状態から、ブツブツと言いながら身を起こそうとしていた れいむ の、
その声がピタリと止まる。
ブルブルと震えだし、何度か荒く息をついた後、困惑の悲鳴を上げた。
その声がピタリと止まる。
ブルブルと震えだし、何度か荒く息をついた後、困惑の悲鳴を上げた。
「なっ……なんでっ!? なんで、れいむのっ……! れいむの まむまむ が、ぺにぺに
に なってるの!? れいむ、おんなのこ なのに……なんで ぺにぺに を、すたんだっぷ
させてるのぉおおおっ!?」
に なってるの!? れいむ、おんなのこ なのに……なんで ぺにぺに を、すたんだっぷ
させてるのぉおおおっ!?」
れいむの“まむまむ”……前下部にある窄まりが、小さく屹立し“ぺにぺに”状態とな
っていた。ゆっくりが交尾の際に、自分が攻め手側になろうとした時、この状態となる。
攻め手側となることを好む個体が性的興奮を覚えた際にも、この状態となる。
だが、れいむは恐怖していただけで興奮なんてしていないし、れいむ自身は女の子のつ
もりで、将来はお母さんとなるつもりなので、“ぺにぺに”の支度なんてするはずもない。
なのに、勝手になっている。
っていた。ゆっくりが交尾の際に、自分が攻め手側になろうとした時、この状態となる。
攻め手側となることを好む個体が性的興奮を覚えた際にも、この状態となる。
だが、れいむは恐怖していただけで興奮なんてしていないし、れいむ自身は女の子のつ
もりで、将来はお母さんとなるつもりなので、“ぺにぺに”の支度なんてするはずもない。
なのに、勝手になっている。
「それに……それに……なんで、れいむの ぺにぺに に、へんなのが はいってるの!?」
そう。その“ぺにぺに”に、細く小さな物が突き立てられていたのだ。
れいむ自身、まるで何も感じなかった。だが“ぺにぺに”は、どんどん硬くなっている
し、突き立てられた物もゆっくりでは抜きようがないほど、深々と奥まで突き入れられて
いる。
そして、その細く小さな物からは、糸のような物がちょこんと伸びていて、その先端が
チリチリと燃えていた。
れいむ自身、まるで何も感じなかった。だが“ぺにぺに”は、どんどん硬くなっている
し、突き立てられた物もゆっくりでは抜きようがないほど、深々と奥まで突き入れられて
いる。
そして、その細く小さな物からは、糸のような物がちょこんと伸びていて、その先端が
チリチリと燃えていた。
「それはね、爆竹だよ」
「むきゅ!? ばっ、ばくちくですって!? たいへん!」
「むきゅ!? ばっ、ばくちくですって!? たいへん!」
爆竹を知っているらしい ぱちゅりーが、まりさに声をかけ、慌てて れいむの元へと駆
け寄る。引き抜くつもりか、それとも導火線の火を消そうとするつもりか。
け寄る。引き抜くつもりか、それとも導火線の火を消そうとするつもりか。
「だが、間に合わない……虐技・ぺにまむばーすと!」
パキンッ!と男が指を鳴らすと、まるでそれを受けたかのようなタイミングで、爆竹が
爆ぜた。
爆ぜた。
「ゆぴゃぁああああっ!? あがっ……! あ……! あががが……!」
「準備段階では、何も感じさせない。苦痛も、違和感も与えない。それでこそ、爆ぜた瞬
間の痛みが際だつ……だからこその、虐技だ」
間の痛みが際だつ……だからこその、虐技だ」
「あ、あ……? あああああっ!? れ、れいむのぉ! れいむのぺにぺにがぁああ!?」
爆竹によって、“ぺにぺに”は内側から爆裂四散させられ、その痛みから反射的に窄ま
ろうとする。しかし、部位が千切れ飛んだために、閉まり切ることは出来なくなっていた。
グズグズに裂け、僅かに焦げたのか変色したその部分は、いかにも『醜い穴』でしかな
くなっている。
ろうとする。しかし、部位が千切れ飛んだために、閉まり切ることは出来なくなっていた。
グズグズに裂け、僅かに焦げたのか変色したその部分は、いかにも『醜い穴』でしかな
くなっている。
「ゆぁああ……! ゆえ……ゆぇええんっ! まむまむがぁ……! まむまむが、こ……
こわれちゃったよぉおおぅ! こ、これじゃ……これじゃ、すっきりーできないよぉ……
ゆえっ……ゆえぅううん! あかちゃん、うんであげられない……おかあさんに、なれな
いよぉ……」
こわれちゃったよぉおおぅ! こ、これじゃ……これじゃ、すっきりーできないよぉ……
ゆえっ……ゆえぅううん! あかちゃん、うんであげられない……おかあさんに、なれな
いよぉ……」
無惨な状態になった自分の“まむまむ”を見ながら、れいむは震える声で嘆き、涙を溢
れさせ続けた。
駆け寄った ぱちゅりーと まりさも、れいむの“まむまむ”を痛ましいものと感じたの
か、表情を曇らせる。
れさせ続けた。
駆け寄った ぱちゅりーと まりさも、れいむの“まむまむ”を痛ましいものと感じたの
か、表情を曇らせる。
「むきゅ……まに あわなかったのね……うごいちゃ だめよ、れいむ……きずあと から、
あんこさんが こぼれちゃうから……」
「ぱちゅりー!? どうしたら いいんだぜ!? これ、どうしたら なおせるんだぜ!?
それに……そ、その……ここ、えっと……ぺーろぺーろしても、いいのかぜ……?」
「むきゅぅ……けがには、やっぱり ぺーろぺーろが、きほんね。でも、ばしょが ばしょ
だから……れ、れいむ?」
「ゆぇええん! いたいよぉ……ゆぁああん! いたいから、いたいの なおして ほしい
けど……でも、れいむは ばーじん なんだよぉ……きよらかな おとめ なのにぃ、そこを
ぺーろぺーろされるなんてぇええっ……!」
あんこさんが こぼれちゃうから……」
「ぱちゅりー!? どうしたら いいんだぜ!? これ、どうしたら なおせるんだぜ!?
それに……そ、その……ここ、えっと……ぺーろぺーろしても、いいのかぜ……?」
「むきゅぅ……けがには、やっぱり ぺーろぺーろが、きほんね。でも、ばしょが ばしょ
だから……れ、れいむ?」
「ゆぇええん! いたいよぉ……ゆぁああん! いたいから、いたいの なおして ほしい
けど……でも、れいむは ばーじん なんだよぉ……きよらかな おとめ なのにぃ、そこを
ぺーろぺーろされるなんてぇええっ……!」
れいむはただただ嘆き続け、ぱちゅりーとまりさはどうして良いかもわからず、無為に
右往左往している。
右往左往している。
「ゆぇえ……ゆえ……れいむっ……れいむ、もう……おかあさんに……なれないんだ……
ゆひぃいん……ゆひ……ゆへ、ゆへへへ……」
「れ、れいむ!? しっかりするんだぜ!」
ゆひぃいん……ゆひ……ゆへ、ゆへへへ……」
「れ、れいむ!? しっかりするんだぜ!」
小刻みに震え、嘆き続けていたれいむが、唐突に笑い出し、ビクビクと激しく震えだし
た。
た。
「ゆふふ……ちがうよね? れいむのおなかに、あかちゃんがいるんだよぉ……だから、
れいむのおなか、ちょっと いたいんだよぉ……まむまが いたいのは、はつすっきりーが
しげき てき すぎたからかな……? ゆふふふ……」
「れ、れいむ……? れいむ! しっかりするんだぜ!」
れいむのおなか、ちょっと いたいんだよぉ……まむまが いたいのは、はつすっきりーが
しげき てき すぎたからかな……? ゆふふふ……」
「れ、れいむ……? れいむ! しっかりするんだぜ!」
「ゆ~……ゆゆゆ~……れいむの、あかちゃぁん……ゆふふふふ……」
「そっとしておいてあげて、まりさ……ぱちぇたちには、もう……どうにもできないわ」
「ど、どういうことなんだぜ? れいむ、へんなことをいってるんだぜ?」
「むきゅ……れいむはね……こころだけを、えいえんにゆっくりさせてしまったの……」
「こころ、だけを……ぜ?」
「そうよ……つらいこと、いたいこと、くるしいこと……それが、あんまりにつよくて、
ゆっくり できなさ すぎると……こころだけが、えいえんにゆっくりしてしまうの」
「そ、そんな……れいむは、そんなにも あかちゃんが……おかあさんに なりたかったの
ぜ……」
「ど、どういうことなんだぜ? れいむ、へんなことをいってるんだぜ?」
「むきゅ……れいむはね……こころだけを、えいえんにゆっくりさせてしまったの……」
「こころ、だけを……ぜ?」
「そうよ……つらいこと、いたいこと、くるしいこと……それが、あんまりにつよくて、
ゆっくり できなさ すぎると……こころだけが、えいえんにゆっくりしてしまうの」
「そ、そんな……れいむは、そんなにも あかちゃんが……おかあさんに なりたかったの
ぜ……」
ぱちゅりーは、ゆっくりなりに精神崩壊を理解しているらしい。悲しげなその説明を、
まりさも理解できたのか、れいむを痛ましげに眺める。
その二匹……ぱちゅりーのすぐ背後に、面の男は音もなく移動し、立っていた。
まりさも理解できたのか、れいむを痛ましげに眺める。
その二匹……ぱちゅりーのすぐ背後に、面の男は音もなく移動し、立っていた。
「こ、こいつ……! ほんとに、いつのまに……なんだぜ……!?」
ハッと振り返り、まりさはようやく恐怖し始めたようだ。さっきから、面の男が動いて
いるところを、自分は何度も見逃している。いや、ろくに見ることが出来ていない、と。
いるところを、自分は何度も見逃している。いや、ろくに見ることが出来ていない、と。
「むきゅ……かなしいけど、むりなのね……」
同じく振り返ったぱちゅりーは、諦観に近い感情を抱いていた。どう足掻いても、この
人間には叶わない……きっと、ここでみんな殺されるのだろう、と。
人間には叶わない……きっと、ここでみんな殺されるのだろう、と。
「ぱちゅりー。なぜ君達ぱちゅりー種は、運動が苦手なのか……知っているかい?」
「むきゅ? そ、それは……しかたがないことなのよ。うまれつきで……そのかわりに、
ぱちぇたちは ちえ と ちしき で、みんなの やくに たつのよ」
「むきゅ? そ、それは……しかたがないことなのよ。うまれつきで……そのかわりに、
ぱちぇたちは ちえ と ちしき で、みんなの やくに たつのよ」
「違う」と、面の男は言う。
生クリームは、ただ放置していては水分と脂肪が分離してしまう。激しくかき混ぜすぎ
ても、やはり変質を促してしまう。だからなのだと言うが、ぱちゅりーには理解できなか
ったようだ。
生クリームは、ただ放置していては水分と脂肪が分離してしまう。激しくかき混ぜすぎ
ても、やはり変質を促してしまう。だからなのだと言うが、ぱちゅりーには理解できなか
ったようだ。
「理解しやすいように、やって見せようか? 水分がなくなると、君はどうなるのか……
虐技・しーしーこんぺる!」
虐技・しーしーこんぺる!」
ふわりと、跳ねてもいないのに自分の体が浮き上がったかのように、ぱちゅりーは感じ
た。だが、跳んでいない。浮いてもいない。ただの錯覚だったのかと思ったが……
た。だが、跳んでいない。浮いてもいない。ただの錯覚だったのかと思ったが……
「ゆひぃいいいっ!? ど、どうしたんだぜ、ぱちゅりー!? なんなのぜ、それ!?」
「むぎゅ……?」
「むぎゅ……?」
まりさが、自分を見て怯えている。自分の声が、上手く出ない。おかしいと思いつつ、
ぱちゅりーは周囲を確認しようと身じろぎして……
ぱちゅりーは周囲を確認しようと身じろぎして……
「むぎゅぁあああああっ!?」
激痛に、悲鳴を上げた。
「ああ、動かない方が良い。ジッとしていれば、痛みはないはずだ」
「ぱちゅりー!? いま、たすけてやるんだぜ!」
「君も、やめておくんだ。そっとしておかないと、ぱちゅりーが痛い思いをするぞ」
「ゆぐっ……! ぱ、ぱちゅりー……!?」
「ぱちゅりー!? いま、たすけてやるんだぜ!」
「君も、やめておくんだ。そっとしておかないと、ぱちゅりーが痛い思いをするぞ」
「ゆぐっ……! ぱ、ぱちゅりー……!?」
ぱちゅりーの体は、何本もの『紐』によって貫かれていた。上から、下へ。頭の天辺か
ら、足の裏まで。その紐は全て、地面の中にまで埋まっている。
説明されても、ぱちゅりーには理解できなかった。木の枝ならともかく、くにゃくにゃ
した紐で、どうやってゆっくりを刺し貫くというのか。
ら、足の裏まで。その紐は全て、地面の中にまで埋まっている。
説明されても、ぱちゅりーには理解できなかった。木の枝ならともかく、くにゃくにゃ
した紐で、どうやってゆっくりを刺し貫くというのか。
「その紐は、高吸水性繊維で出来ていてね。周囲の水分を吸収し、膨張する」
どうやったのかは答えず、紐についての説明を、面の男は口にした。
だが説明されても、やはりわからなかった。ぱちゅりーにとって、「わからない」とい
うことは、とてもゆっくり出来ないことなのだ。だから、懸命に考える。考えれば考える
ほど、ぱちゅりーの中身は緩やかに流動し続け、流動するほど水分も循環し、紐へと触れ、
吸水されていく。
そして紐が膨張して、ぱちゅりーをギシギシと『内側から』締め上げた。
だが説明されても、やはりわからなかった。ぱちゅりーにとって、「わからない」とい
うことは、とてもゆっくり出来ないことなのだ。だから、懸命に考える。考えれば考える
ほど、ぱちゅりーの中身は緩やかに流動し続け、流動するほど水分も循環し、紐へと触れ、
吸水されていく。
そして紐が膨張して、ぱちゅりーをギシギシと『内側から』締め上げた。
「むぎゅあ……! むぎゅ! あっ! あっ! あっ!」
「生クリームから水分を取り去り、残った脂肪は……バターと呼ばれるんだ」
「むぎゅ……!? ば……ばたー……?」
「中身がバターに変わっても君は、ぱちゅりーでいられるのかな?」
「生クリームから水分を取り去り、残った脂肪は……バターと呼ばれるんだ」
「むぎゅ……!? ば……ばたー……?」
「中身がバターに変わっても君は、ぱちゅりーでいられるのかな?」
わからなかった。だから、考える。そして考えるほどに紐が、ぱちゅりーの中身から水
分を奪っていく。
分を奪っていく。
「それじゃ、レイパーに襲われたゆっくりが、どうなるか知っているかい?」
「まりさ、しってるんだぜ! だから、ぱちゅりーは じっとしてるんだぜ! こえを だ
すだけでも、いたそう なんだぜ!」
「まりさ、しってるんだぜ! だから、ぱちゅりーは じっとしてるんだぜ! こえを だ
すだけでも、いたそう なんだぜ!」
ぱちゅりーが返事をしようとしたとき、まりさが大急ぎで叫んだ。
「レイパーにおそわれたら、しんじゃうんだぜ! いっぱい、あかちゃんができちゃって、
うんうんみたいになって、しんじゃうんだぜ!」
「そう。大量の赤ん坊のために、栄養と水分を過剰に消耗して、中身が全て“うんうん”
のようになって……死ぬ」
うんうんみたいになって、しんじゃうんだぜ!」
「そう。大量の赤ん坊のために、栄養と水分を過剰に消耗して、中身が全て“うんうん”
のようになって……死ぬ」
「むぎゅぅ……す、すいぶん……?」
ぱちゅりーが、何かに気付いたらしく、声を漏らす。その目は、キョロキョロと不安げ
に動き続けていた。自分を救ってくれる者を、探し求めるように。
に動き続けていた。自分を救ってくれる者を、探し求めるように。
「そうだよ、ぱちゅりー。君はもう間もなく、そうなる。栄養はさほど失わないが、水分
を失って、変質して……“うんうん”のような、でも栄養価はたっぷりのまま、死ぬ」
「むきゅぁあああああ……!?」
を失って、変質して……“うんうん”のような、でも栄養価はたっぷりのまま、死ぬ」
「むきゅぁあああああ……!?」
ぱちゅりーが、震える悲鳴を上げた。助けようと思ったのか、まりさが勇ましい声で呼
びかける。
びかける。
「ぱちゅりー! がまんするんだぜ!!」
まりさは、ぱちゅりーに体当たりした。衝撃を与えることで、ぱちゅりーに『くっつい
ている何かを、振り落とそう』と思ったのだろうか。
ている何かを、振り落とそう』と思ったのだろうか。
「むぎゅあぎゃぁあああああああああっ!?」
だが、ぱちゅりーを貫いている紐が、そんなことで取り払われるはずもない。
体当たりによってぱちゅりーの体は移動し、その一端を地面に埋め込まれた紐がズルリ
と引かれる形になって、ぱちゅりーの内側を掻き乱し、激痛を走らせた。
体当たりによってぱちゅりーの体は移動し、その一端を地面に埋め込まれた紐がズルリ
と引かれる形になって、ぱちゅりーの内側を掻き乱し、激痛を走らせた。
「ゆぁあっ!? ご、ごめんなんだぜ、ぱちゅりー? と、とれるとおもったのに……!」
「むっ、むぎゅ……むり……よ、まりさ……ぱちぇは……も、もう……」
「むっ、むぎゅ……むり……よ、まりさ……ぱちぇは……も、もう……」
死期を悟ったのか、それとも抗うことを諦めただけか。ぱちゅりーは、まりさだけでも
逃げるように言った。
逃げるように言った。
「ぱちぇたちの、ぶんまで……あたらしい、ゆっくりプレイスで……」
「ぱ、ぱちぇ……! そんな……!」
「ぱ、ぱちぇ……! そんな……!」
急ぐように、ぱちゅりーが言う。まりさはたっぷりと時間をかけて迷ったが、それでも
決断したようだ。
決断したようだ。
「あ、ありすは……!」
まりさが、ありすの方に向き直って、確認する。ありすはすでに、ピクリとも動かない。
中身を出し過ぎてすっかり平べったくなり、その側に中身であったモノが山を成していた。
中身を出し過ぎてすっかり平べったくなり、その側に中身であったモノが山を成していた。
「れいむは……け、けが が いたいかもだけど、がんばるんだぜ!?」
れいむの方へと向き直り声をかけるが、まりさの言葉に対する返事は帰ってこなかった。
「ゆふ……ゆふふふ~……ゆっくりぃ……れいむのあかちゃん……ゆっくり、うまれてき
てね~……」
てね~……」
れいむは、夢の中に逃げ込んだまま、まだ帰ってきてはいない。
「ごめんっ……! ごめんなんだぜ、みんな……! まりさが……! まりさが、もっと
つよければ……!」
つよければ……!」
悔しげな怒りの表情に、涙をボロボロと溢れさせ、それでもまりさは、ぼんよぼんよと
跳ねて、この場から立ち去ろうとし始めた。
だが。
跳ねて、この場から立ち去ろうとし始めた。
だが。
「ゆ? ゆわ! あれ!? おぼうしさん!? まりさの、すてきな おぼうしさんは!?」
いつの間にか、まりさの頭の上から、その大きく黒い帽子が消えていた。勢いよく駆け
出したために落としたのだろうかと思って、キョロキョロと見回し探すが、見つからない。
出したために落としたのだろうかと思って、キョロキョロと見回し探すが、見つからない。
「君の帽子なら、ここだよ」
「ゆひぃ!?」
「ゆひぃ!?」
声に驚き、まりさが振り返る。また、いつの間にか面の男が背後に立っていた。その手
には、確かにまりさの帽子を持っている。
には、確かにまりさの帽子を持っている。
「かえして! まりさのおぼうし、かえすんだぜ!」
「どうぞ」
「どうぞ」
すんなりと、面の男はまりさに帽子を返した。ぽすりと頭の上に心地よい感触が帰って
きて、まりさは深々と安堵のため息を漏らす。
きて、まりさは深々と安堵のため息を漏らす。
「ゆふ~~……ゆっ??」
目を閉じて、大袈裟なほどに体を揺らして溜め息をついたとき、チクリと目蓋に痛みが
走ったのを、まりさは感じた。
一度感じると、ズキズキとその痛みが継続し始める。
走ったのを、まりさは感じた。
一度感じると、ズキズキとその痛みが継続し始める。
「ゆぅぅ……ゆっくりできないけど……いまは、ゆっくりしてる ばあいじゃないんだぜ!」
駆け出そうと、ぼんよと一つ飛び跳ねる。ズキンと、目蓋に痛みが走った。
それだけではなく、また頭上から帽子の感覚が消える。
それだけではなく、また頭上から帽子の感覚が消える。
「ゆあっ!? また、おぼうしさんを……!」
面の男が、取り上げたのかと思った。だが、面の男は何も持っていない。不思議に思い
まりさが頭上を見上げると、帽子がフワフワと浮いているではないか。
まりさが頭上を見上げると、帽子がフワフワと浮いているではないか。
「ゆゆゆ? な、なんで……? なんで、おぼうしさんは おそらを とんでるんだぜ!?」
下りてこいと、自分の真上に浮いている帽子目掛けて跳び上がる。だが、まりさがジャ
ンプした分だけ帽子もフワフワと上に行き、届かなかった。
跳躍から下りるとき、そして着地したとき、またもまりさの目蓋がズキリズキリと痛む。
ンプした分だけ帽子もフワフワと上に行き、届かなかった。
跳躍から下りるとき、そして着地したとき、またもまりさの目蓋がズキリズキリと痛む。
「くぅぅ……! なんで、ずきずきするんだぜ? って、ゆあああ!? おぼうしさんが、
さっきよりも とおい おそらに!?」
さっきよりも とおい おそらに!?」
まりさにはよくわからなかったが、その帽子にはいくつもの仕掛けがされていた。
まず、フワフワと浮いている理由は、トンガリ帽子の上部先端に、ヘリウムガスを充填
された風船が10個、縦に連なるようにして繋げられているからだ。
そして、帽子のトンガリ部分の根元、丸く大きなツバとの付け根には、小さな糸車が左
右に一つずつテープで固定してある。
その糸車から伸びる糸は、ツバを貫通して下へ──まりさの目蓋にまで伸びており、小
さな釣り針によって、まりさの目蓋に引っかけられていた。
された風船が10個、縦に連なるようにして繋げられているからだ。
そして、帽子のトンガリ部分の根元、丸く大きなツバとの付け根には、小さな糸車が左
右に一つずつテープで固定してある。
その糸車から伸びる糸は、ツバを貫通して下へ──まりさの目蓋にまで伸びており、小
さな釣り針によって、まりさの目蓋に引っかけられていた。
糸車そのものの動きの重さや、糸とツバとの摩擦で、まりさがジッと動かさなければ飛
んでんでいくことはないし、勢いを殺してそろそろと糸を引けば、帽子を引き下ろすこと
も出来る。
だが、ゆっくりにはそれが出来ない。手がないからだ。
急激に引っ張れば──たとえば、まりさがしたように、飛び跳ね、引き下ろすようなこ
とをすれば、糸が引かれて糸車が回る。結果として、まりさと帽子を繋いでいる糸が長く
なり、帽子は遠のいていく。
んでんでいくことはないし、勢いを殺してそろそろと糸を引けば、帽子を引き下ろすこと
も出来る。
だが、ゆっくりにはそれが出来ない。手がないからだ。
急激に引っ張れば──たとえば、まりさがしたように、飛び跳ね、引き下ろすようなこ
とをすれば、糸が引かれて糸車が回る。結果として、まりさと帽子を繋いでいる糸が長く
なり、帽子は遠のいていく。
「ゆぁああんっ! おぼうしさん! いじわるしないで、おりてくるんだぜ! ゆわわ!
なんでぇええええ!? どうして、とおくにいくんだぜぇええ!?」
なんでぇええええ!? どうして、とおくにいくんだぜぇええ!?」
ぴょんぴょん、ぴょんぴょんと何度も跳ね、まりさは糸を伸ばす。その結果は、帽子が
遠のくだけであり、まりさの目蓋に痛みが走るだけだ。
上を見上げ、目蓋の痛みに涙を溢れさせ、不格好な跳躍を繰り返し、何度も転倒する。
遠のくだけであり、まりさの目蓋に痛みが走るだけだ。
上を見上げ、目蓋の痛みに涙を溢れさせ、不格好な跳躍を繰り返し、何度も転倒する。
疲労から起き上がることが面倒になるまで、まりさは逆効果な行動を延々と続けた。
「ゆへぇええ……ゆへぇええ……あ……あんなに……おぼうしさん、あんな、とおく……
おそら……おぼうしさん……おそら……」
おそら……おぼうしさん……おそら……」
仰向けに転んだ状態のまま、まりさは空に浮かんだ帽子を恨めしげに見つめていた。
空は、赤く染まり始めている。夕焼けが、景色の色を変え始めている。
その、色が変わり始めた空に、ぽつんと染みのような黒い帽子が浮かんでいた。
空は、赤く染まり始めている。夕焼けが、景色の色を変え始めている。
その、色が変わり始めた空に、ぽつんと染みのような黒い帽子が浮かんでいた。
まりさからしてみれば遙かな高見でユラユラと浮いている帽子を眺め、ただボロボロと
涙を流し続けた。
さんざん飛び跳ね、その度に衝撃で目蓋が痛んだ。今も、帽子が微かな風に吹かれて流
される度に、目蓋が強く引っ張られて、激痛が走る。
痛むだけではなく、場合によっては目蓋が切れて、帽子はそれこそ高く遠い空へと飛ん
でいってしまったかもしれない。そうならずに済んだのは、まりさに運があったからなの
か。それとも、面の男の絶妙な技量の賜物か。
涙を流し続けた。
さんざん飛び跳ね、その度に衝撃で目蓋が痛んだ。今も、帽子が微かな風に吹かれて流
される度に、目蓋が強く引っ張られて、激痛が走る。
痛むだけではなく、場合によっては目蓋が切れて、帽子はそれこそ高く遠い空へと飛ん
でいってしまったかもしれない。そうならずに済んだのは、まりさに運があったからなの
か。それとも、面の男の絶妙な技量の賜物か。
「なんでぇ……なんで、なんだぜ……どうして、おぼうしさんだけ……おそらを、とぶん
だぜ……なんで、まりさを……まりさを、おいていくんだぜ? まりさのこと、きらいな
のぜ……?」
だぜ……なんで、まりさを……まりさを、おいていくんだぜ? まりさのこと、きらいな
のぜ……?」
高見に浮かんでいる帽子には、まりさの弱々しい声は届かない。届いたとしても、返事
があるわけもない。だが、その程度のことも理解しないまま、まりさは帽子へと問いを投
げかけ続け、やがてそれは罵りに変わっていった。
があるわけもない。だが、その程度のことも理解しないまま、まりさは帽子へと問いを投
げかけ続け、やがてそれは罵りに変わっていった。
「おぼうしさんが、そんなやつだったなんて……まりさ、しらなかったのぜっ! ひどい
やつだったなんて、まりさは しらなかったのぜ……!」
やつだったなんて、まりさは しらなかったのぜ……!」
それでも帽子が無くては、まりさが困る。帽子が無ければ、不安で仕方ない。ゆっくり
出来ない。
それに、お飾りを持たないゆっくりは「ゆっくりできない、ゆっくりだ」と、他のみん
なから差別されるだろう。
その差別は時に、迫害の果ての死さえももたらすほど激しいものだ。
出来ない。
それに、お飾りを持たないゆっくりは「ゆっくりできない、ゆっくりだ」と、他のみん
なから差別されるだろう。
その差別は時に、迫害の果ての死さえももたらすほど激しいものだ。
「ゆぅぅ……つ、つかれて……ねむくなったのぜ……ひとねむりして、めがさめたら……
そのとき、おぼうしさんをつかまえて、せいっさいっ……なのぜ……」
そのとき、おぼうしさんをつかまえて、せいっさいっ……なのぜ……」
ゆるゆると、痛む目蓋を閉じ始めた。帽子に夢中になっているうちに、まりさはすっか
り忘れていたのだ。
自分の仲間達が、どんな目に遭ったのかを。それを救えなかったことに涙しながら、仲
間からの最後の頼みとして、何から、誰から、逃げようとしていたのかを。どこを目指し
ていたのかを。
り忘れていたのだ。
自分の仲間達が、どんな目に遭ったのかを。それを救えなかったことに涙しながら、仲
間からの最後の頼みとして、何から、誰から、逃げようとしていたのかを。どこを目指し
ていたのかを。
そして、当然のように見逃していた。まりさが帽子に夢中になっている間、面の男が何
をしていたのかを。
をしていたのかを。
気を失うようにして、まりさは眠りにつき……
しかし、程なく蹴り起こされた。
「ゆぎゃんっ!? なっ、なんなんだぜ……って……ああっ! おぼうしさん! いまの、
おぼうしさんが、したのかぜ!?」
おぼうしさんが、したのかぜ!?」
帽子が攻撃してくるわけもないのに、目覚めたまりさは視界にあった自分の帽子へ怒鳴
りつけた。
空高く浮いていたはずの帽子が、今はまりさと同じ高さ──地面に、転がっている。
りつけた。
空高く浮いていたはずの帽子が、今はまりさと同じ高さ──地面に、転がっている。
「この……! もう にがさないんだぜ! がぶっ!! むぁいっふぁか!? ぬぁのへ!」
帽子に飛びかかり、力強く噛み付き、勝ち誇るまりさ。そして帽子を咥えたまま、辺り
をキョロキョロと見回した。
をキョロキョロと見回した。
「ゆふ……? ゆゆゆ!? みんふぁっ!!」
“うんうん”のしすぎで死んだはずの、ありすが。
“まむまむ”を壊されて夢に逃げ込んだはずの、れいむが。
まりさに後を託し、“うんうん”になったはずの、ぱちゅりーが。
“まむまむ”を壊されて夢に逃げ込んだはずの、れいむが。
まりさに後を託し、“うんうん”になったはずの、ぱちゅりーが。
「みんふぁっ、ふひふぁっふぁんふぁへ!?」
みんな、ちゃんと生きている。怪我もないようだ。
「ゆ、ゆぅ……ありすったら、いったい……」
ありすは、モジモジと恥じらっていた。
れいむを見ても、ぱちゅりーを見ても、まりさを見ても、ありすの一部がドキドキうず
うずした。
れいむを見ても、ぱちゅりーを見ても、まりさを見ても、ありすの一部がドキドキうず
うずした。
──なんてことなの……!
ありすは、自分がどんなふうに死んだのか、憶えていた。死んだと思ったのに、生きて
いる。仲間の誰かが、助けてくれたのだろうか?
ともかく助かった。死なずに済んだ。
でも、取り返しが付かなくなっている部分も、確かにあることを感じていた。
“あにゃる”だ。
面の男に言われたとおり、ありすの“あにゃる”は敏感になっている。それに、自分で
も魅惑的だと思える香りを放っていた。もし届くのなら、自分で舐めてしまっているかも
しれないほどだ。
舐めることを考え、舐められることを想像すると、舐めて欲しいという思いが募った。
そう思っただけで、疼きが激しくなる。その疼きが思いを加速させ、死ぬときに噴き出
した“うんうん”よりも激しく、“あにゃる”をズボズボして欲しいとまで願ってしまう。
誰でも良い……誰でも良いから、自分の“あにゃる”を可愛がって欲しいと……
いる。仲間の誰かが、助けてくれたのだろうか?
ともかく助かった。死なずに済んだ。
でも、取り返しが付かなくなっている部分も、確かにあることを感じていた。
“あにゃる”だ。
面の男に言われたとおり、ありすの“あにゃる”は敏感になっている。それに、自分で
も魅惑的だと思える香りを放っていた。もし届くのなら、自分で舐めてしまっているかも
しれないほどだ。
舐めることを考え、舐められることを想像すると、舐めて欲しいという思いが募った。
そう思っただけで、疼きが激しくなる。その疼きが思いを加速させ、死ぬときに噴き出
した“うんうん”よりも激しく、“あにゃる”をズボズボして欲しいとまで願ってしまう。
誰でも良い……誰でも良いから、自分の“あにゃる”を可愛がって欲しいと……
──ああ……なんてことなの!
口が裂けても、言えない。とかいは な しゅくじょ である ありすが、こんなことを願
っているなんて。
っているなんて。
「ゆぅぅ……だいじょうぶだね? だいじょうぶだよ! れいむのまむまむ、つやつやの
ぴかぴかだよ! れいむは、ばーじんまむまむ の もちぬしだよ!」
ぴかぴかだよ! れいむは、ばーじんまむまむ の もちぬしだよ!」
れいむは、何度も何度も確認していた。自分の前下部──“まむまむ”を確認し、無事
であることを確かめるたびに、恥じらいもなく大きな声で喜んだ。
であることを確かめるたびに、恥じらいもなく大きな声で喜んだ。
──でも、ちょっと つやつやすぎるよね……あかちゃんみたいだよ。
れいむは、自分の“まむまむ”がどうなったのか、憶えていた。ボロボロの、グチャグ
チャになっていた。ぽっかりと空いた、汚い穴に変わってしまっていたはずだ。
一度も“すっきりー”しないまま、一度も赤ちゃんに恵まれることもないまま、お母さ
んになることなく生きていかなければならないのかと、そう思ったのだ。
子に恵まれることは、ゆっくりにとって「最もゆっくりしたことの一つ」である。つま
り、最上級の幸せのうちの、一つなのだ。
逆に、子に恵まれることがないということは、最大級の不幸の一つと言える。絶望し、
自殺するほどの理由にもなり得る。
れいむも、自分はお母さんになれないのだと言うことが、つらくて悲しくて、死にたい
と願うほどで、こんなのは夢だと思いたくて……そこからは、憶えていなかった。
気がつくと、こうなっていた。
丁寧な治療であり、まるでそこだけが生まれたばかりの肌のように滑らかになっている。
さらに“まむまむ”のサイズ自体も、二回りほど小さく成形されていたのだ。
れいむには、そこまではわからなかったが、それでも未成熟としか思えないことは理解
できた。
チャになっていた。ぽっかりと空いた、汚い穴に変わってしまっていたはずだ。
一度も“すっきりー”しないまま、一度も赤ちゃんに恵まれることもないまま、お母さ
んになることなく生きていかなければならないのかと、そう思ったのだ。
子に恵まれることは、ゆっくりにとって「最もゆっくりしたことの一つ」である。つま
り、最上級の幸せのうちの、一つなのだ。
逆に、子に恵まれることがないということは、最大級の不幸の一つと言える。絶望し、
自殺するほどの理由にもなり得る。
れいむも、自分はお母さんになれないのだと言うことが、つらくて悲しくて、死にたい
と願うほどで、こんなのは夢だと思いたくて……そこからは、憶えていなかった。
気がつくと、こうなっていた。
丁寧な治療であり、まるでそこだけが生まれたばかりの肌のように滑らかになっている。
さらに“まむまむ”のサイズ自体も、二回りほど小さく成形されていたのだ。
れいむには、そこまではわからなかったが、それでも未成熟としか思えないことは理解
できた。
──こ、こども まむまむなんて……さすがに、はずかしいよね?
これでは、好きな人……まりさか、ありすか、ぱちゅりーか。三人とも大好きなれいむ
は、将来は三人の誰かと愛し合う仲になれたらと思っていたのだが……その相手から、ま
だ早いと笑われてしまうかもしれない。
れいむはまだお子様だから、お母さんにはなれないよって。
は、将来は三人の誰かと愛し合う仲になれたらと思っていたのだが……その相手から、ま
だ早いと笑われてしまうかもしれない。
れいむはまだお子様だから、お母さんにはなれないよって。
「むきゅ……どうしてなの?」
ぱちゅりーも、しっかりと憶えていた。
自分が、別の物に変わっていく、その恐怖を。
膨らむ紐によって内側から圧迫され、同時に干涸らびながら死んでいく、その感触を。
もう駄目だと思ったのだ。だから、せめてまりさだけは、と。一人でも良い、生き延び
て、夢を掴んで欲しいと。
だが、生きている。体には不快感もなく、動いても痛みは走らない。
自分が、別の物に変わっていく、その恐怖を。
膨らむ紐によって内側から圧迫され、同時に干涸らびながら死んでいく、その感触を。
もう駄目だと思ったのだ。だから、せめてまりさだけは、と。一人でも良い、生き延び
て、夢を掴んで欲しいと。
だが、生きている。体には不快感もなく、動いても痛みは走らない。
──やっぱり、あの にんげんさんには、かなわないということね。
自分達の生死は、今やあの面の男が握っているのだ。
ぱちゅりーがこれまでに学習してきた知識の全てが、告げている。運や偶然ではない。
誰かが治療しなければ、助かるはずがないのだ。自分も、ありすも、れいむだって、ゆっ
くりには治療なんて出来るはずもない状況だったのだから。
ぱちゅりーがこれまでに学習してきた知識の全てが、告げている。運や偶然ではない。
誰かが治療しなければ、助かるはずがないのだ。自分も、ありすも、れいむだって、ゆっ
くりには治療なんて出来るはずもない状況だったのだから。
──あの にんげんさんが、たすけてくれた……と、いうことよね?
だが、何故だろう。
何故というのなら、そもそもどうして自分達を殺そうとしたのか。
殺せていたのに、どうして助けたのか。
理解できない。わからない。そのことが苦しく、ゆっくり出来ない。
ぱちゅりーは、これまで生きてきて様々なことを学んできたが、今、最も苦い味の学習
をした。
何故というのなら、そもそもどうして自分達を殺そうとしたのか。
殺せていたのに、どうして助けたのか。
理解できない。わからない。そのことが苦しく、ゆっくり出来ない。
ぱちゅりーは、これまで生きてきて様々なことを学んできたが、今、最も苦い味の学習
をした。
いくら考えても、どう足掻いても、わからないことはあるのだ。
「おしえて、にんげんさん! どうしてなの!?」
だから、聞くしかないのだ。自分の無知をさらけ出して、唯一答えを持つ者に、縋るし
かないのだ。
それが、ぱちゅりーにとって、どれほど屈辱的であっても。
知らないまま、わからないままの、ゆっくり出来ない状況よりも、きっとマシだと信じ
て。
かないのだ。
それが、ぱちゅりーにとって、どれほど屈辱的であっても。
知らないまま、わからないままの、ゆっくり出来ない状況よりも、きっとマシだと信じ
て。
「どうして、ぱちぇたちを ころそうとしたの!? なのに、どうして たすけたの!?」
「まだ、殺そうとはしていないよ?」
「むきゅ? で、でも……」
「虐めただけさ。だから、君達はちゃんと生きているだろう?」
「まだ、殺そうとはしていないよ?」
「むきゅ? で、でも……」
「虐めただけさ。だから、君達はちゃんと生きているだろう?」
確かに、生きている。だが、殺されかけたことに違いはないはずだ。何故なのか。何故
そこまでのことをするのかと、ぱちゅりーは問いを重ねた。
そこまでのことをするのかと、ぱちゅりーは問いを重ねた。
「虐待お兄さんだからさ」
「ぎゃく……? その おにいさんだと、どうして ぱちぇたちを いじめるの?」
「だから、虐待お兄さんだからだよ。それこそが、理由だ」
「ぎゃく……? その おにいさんだと、どうして ぱちぇたちを いじめるの?」
「だから、虐待お兄さんだからだよ。それこそが、理由だ」
わからなかった。体が震える。目眩がする。
それでも、中身を吐くような思いで、その言葉を吐き出した。
それでも、中身を吐くような思いで、その言葉を吐き出した。
「わっ……! わからないわ……!」
面の男が、これまでの行いからは信じられないような優しい声で、ぱちゅりーに語りか
けた。
けた。
「……ぱちゅりー。捕食種というものを、知ってるかい?」
「ほしょくしゅ……れ、れみりゃとかのこと?」
「ほしょくしゅ……れ、れみりゃとかのこと?」
そうだ、と面の男が頷いた。
世界には様々な生き物がいる。そして、ほとんどの生き物に天敵というものが存在する。
もちろん例外的に、これといった天敵がいないものも、いるにはいるが。
世界には様々な生き物がいる。そして、ほとんどの生き物に天敵というものが存在する。
もちろん例外的に、これといった天敵がいないものも、いるにはいるが。
「言ってみれば、僕たち“虐待お兄さん”こそが、君たちゆっくりの天敵なんだよ。捕食
種以上の……ね」
種以上の……ね」
だから、ゆっくりを殺すというのだろうか?
だから、ぱちゅりー達を虐めたというのだろうか?
だから、ぱちゅりー達を虐めたというのだろうか?
「そうだ。僕の中で、ゆっくりを虐めたいという欲求が大きくなった。お腹が空くように
して、心が飢えた。そこに、誰の物でも無さそうな君達がいた」
して、心が飢えた。そこに、誰の物でも無さそうな君達がいた」
そういうことなのだ、と面の男が言う。
それだけなのだ、と面の男が言う。
それだけなのだ、と面の男が言う。
「じゃ、じゃあ……どうして、ぱちぇたちを……たすけてくれたの? なおしてくれたの?」
「ああ。それはね、ちょっと気になったことがあったからだよ」
「ああ。それはね、ちょっと気になったことがあったからだよ」
面の男が、額を抑えるようにして、被っている面の上部を右手中指で軽く押した。考え
ていると、仕草で伝えようとしているのだろうか。
それは、ゆっくりに対してのポーズなのか。あるいは、カメラ越しの視聴者に対してか。
ていると、仕草で伝えようとしているのだろうか。
それは、ゆっくりに対してのポーズなのか。あるいは、カメラ越しの視聴者に対してか。
「君達は、もしかして……捨てられたのかい?」
「ゆゆ? すてられ……?」
「ありすたちが……?」
「ふぉうひゅ~ほほなんられ?」
「ありすたちが……?」
「ふぉうひゅ~ほほなんられ?」
「むきゅ……それは ぱちぇたちが、もとは“かいゆっくり”だったのかって ききたいの
かしら?」
かしら?」
自分の言葉をゆっくりと咀嚼し、確認してきたぱちゅりーにたいして、面の男は満足げ
に頷くと、その通りだと答えた。
に頷くと、その通りだと答えた。
「ぱちゅりー。君は確か、帰るお家はもう無いんだと言っていたね?」
「え、ええ……そうよ。ぱちぇたちには、もう……かえる おうち はないの。あたらしい
ゆっくりプレイスにたどりつく、そのときまで……」
「え、ええ……そうよ。ぱちぇたちには、もう……かえる おうち はないの。あたらしい
ゆっくりプレイスにたどりつく、そのときまで……」
「それだ。君達が、元からの野良ではなく、かつては飼いゆっくりだったというのなら……
僕もちょっと、考え直さなければならないことがあるからね」
僕もちょっと、考え直さなければならないことがあるからね」
男が何を考え、何を気にしているのか、ぱちゅりーにはわからなかった。それでも答え
られることがある。答えられることがあると言うことが、ぱちゅりーの心を落ち着けてく
れた。
られることがある。答えられることがあると言うことが、ぱちゅりーの心を落ち着けてく
れた。
「ぱちぇたちは、いちども にんげんさんに かわれたことはないわ。うまれたときから、
にんげんさんの おせわ に ならずに、いきてきたのよ」
にんげんさんの おせわ に ならずに、いきてきたのよ」
ぱちゅりーは、自分が持つ語彙の全てを動員して、自分達の考えを伝えようと努めた。
どうやら、ぱちゅりー達は群れに嫌気がさしたらしい。
群れの、愚かな大人達に。
人間に、怯えて暮らす大人達に。
なのに、人間を見下したがる大人達に。
そのくせ、いつかは飼いゆっくりになんて、叶うはずのない夢を語る大人達に。
にもかかわらず、何もせずに町の隅での暮らしにしがみついているだけの大人達に。
群れの、愚かな大人達に。
人間に、怯えて暮らす大人達に。
なのに、人間を見下したがる大人達に。
そのくせ、いつかは飼いゆっくりになんて、叶うはずのない夢を語る大人達に。
にもかかわらず、何もせずに町の隅での暮らしにしがみついているだけの大人達に。
何かに怯えながら暮らすことは、ゆっくり出来ない。だからと言って、自分にまで嘘を
ついて、人間を見下すのか。
野良の暮らしをしていれば、嫌でも自分達と人間達の暮らしに大きな差があることを感
じざるを得ない。
飼いゆっくり達が、どれほど恵まれているのか、目にすることもある。
なのに、大人達は人間を見下す。そんな人間に飼育されている飼いゆっくり達は、ゴミ
のように罵る。
見下して、見下すがゆえに嫌われて、嫌われるがゆえに恐ろしい目にあって。
自分に嘘をついて、嘘をつくがゆえに心は苦しくなり、心苦しいがゆえにより大きな嘘
を求めて。
そんな繰り返しを、延々と飽きもせず繰り返している、群れの全てが嫌になった。
ついて、人間を見下すのか。
野良の暮らしをしていれば、嫌でも自分達と人間達の暮らしに大きな差があることを感
じざるを得ない。
飼いゆっくり達が、どれほど恵まれているのか、目にすることもある。
なのに、大人達は人間を見下す。そんな人間に飼育されている飼いゆっくり達は、ゴミ
のように罵る。
見下して、見下すがゆえに嫌われて、嫌われるがゆえに恐ろしい目にあって。
自分に嘘をついて、嘘をつくがゆえに心は苦しくなり、心苦しいがゆえにより大きな嘘
を求めて。
そんな繰り返しを、延々と飽きもせず繰り返している、群れの全てが嫌になった。
おそらく、ぱちゅりー達がいた野良の群れは、ゆっくりにしてはかなり高い水準の知識
を共有していたようだ。元飼いゆっくりが多かったのだろうか。
を共有していたようだ。元飼いゆっくりが多かったのだろうか。
その中で、ぱちゅりー達はさらに驚嘆すべき思考を行い、ゆっくりとしては有り得ない
ほどの答えを導き出した。
ほどの答えを導き出した。
人間の側に、いなければ良いだけではないか。
怖い人間が、いないところを探せばいい。
人間の方だって、自分達を嫌いだと言っているんだから、側にいてやる必要なんて無い。
怖い人間が、いないところを探せばいい。
人間の方だって、自分達を嫌いだと言っているんだから、側にいてやる必要なんて無い。
「だから ぱちぇたちは、にんげんさんがいない ゆっくりプレイスをさがすの!」
お引っ越しをすればいい。
そうすれば、人間に怯えなくて済む。
そうすれば、自分に嘘をつく必要もない。
体も、心も、のびのびとゆっくり出来る、そんな毎日が手に入るはずだ。
それこそが、ゆっくりプレイスではないか。
そうすれば、人間に怯えなくて済む。
そうすれば、自分に嘘をつく必要もない。
体も、心も、のびのびとゆっくり出来る、そんな毎日が手に入るはずだ。
それこそが、ゆっくりプレイスではないか。
要約すれば、そういうことのようだ。間違いなく、希有な例と言っていいだろう。
「野良であることを厭い、野生へと帰る……か」
「むきゅ? やせい……?」
「むきゅ? やせい……?」
生まれたときから、野良だったのだろう。いろいろと知っている様子だが、ぱちゅりー
は野生という言葉は知らないようだ。野良と罵られることはあっても、野生という言葉に
出くわしたことがなかったのか。
は野生という言葉は知らないようだ。野良と罵られることはあっても、野生という言葉に
出くわしたことがなかったのか。
「野で生きる、と書くんだよ。人の手が届かない大自然の中で、生きると言うことかな?」
「むきゅ……! そうよ! ぱちぇたちは、にんげんさんがいる まちをすてて しぜんの
なかに ゆっくりプレイスをさがしにいくの!」
「むきゅ……! そうよ! ぱちぇたちは、にんげんさんがいる まちをすてて しぜんの
なかに ゆっくりプレイスをさがしにいくの!」
バンッ!と、大きな音を立てて、面の男が手を打った。
「良いだろう! 行くが良い! 一刻も早く、自然の中へ! 人間の生活圏から出るまで、
休むことなく跳ねて行け!」
「むきゅん、そうさせてもらうわ」
休むことなく跳ねて行け!」
「むきゅん、そうさせてもらうわ」
帽子を咥えて引き吊りながら、まりさが。
モジモジとお尻を振りながら、ありすが。
しきりに“まむまむ”を気にしながら、れいむが。
ぱちゅりーに促されし、ぼんよぼんよと跳ねて行く。三匹とも、何度も転んでいる。体
力に劣るはずのぱちゅりーよりも、遅いくらいだ。
モジモジとお尻を振りながら、ありすが。
しきりに“まむまむ”を気にしながら、れいむが。
ぱちゅりーに促されし、ぼんよぼんよと跳ねて行く。三匹とも、何度も転んでいる。体
力に劣るはずのぱちゅりーよりも、遅いくらいだ。
立ち止まったぱちゅりーが、振り返った。
「……おにいさん? えっと……ぎゃくたい、おにいさん……だったかしら?」
「ああ。なんだい、ぱちゅりー? まだ、何か聞きたいのかな?」
「ああ。なんだい、ぱちゅりー? まだ、何か聞きたいのかな?」
しばらく迷った素振りを見せるが、ぱちゅりーは真っ直ぐに面の男を見る。
「ぱちゅりーたちは、きっと おにいさんには かなわない……そうよね?」
「そうだ」
「そうだ」
「それは“てんてき”だから……で、あってるのかしら?」
「間違いではないな」
「間違いではないな」
「それじゃ……それじゃ、ゆっくりの“てんてき”である、おにいさんは……ぎゃくたい
おにいさんは、おにいさんだけなの?」
おにいさんは、おにいさんだけなの?」
しばらく、間が開いた。
「いいや、いくらでもいる。だから、覚悟をしておくといい。だからこそ、急ぐと良い」
「……そうね。そうするわ……ありがとう、おにいさん」
「……そうね。そうするわ……ありがとう、おにいさん」
「どういたしまして」
*** *** *** ***
「はぁ~~~~っ……面白いことするなぁ、この人っ!」
サイトにアップされていたムービーを見て、その補足として書かれていた文章を読んで、
つくづく感心しちゃったよ。
つくづく感心しちゃったよ。
「そう思わないか、らん?」
「う、う……う~~~ん……?」
「う、う……う~~~ん……?」
俺は進学と同時に親元から離れ、一人暮らしを続けていた。それ以来ずっと一人だった
んだけど、最近になってゆっくりを飼うことになってしまったんだ。
それが、この“らん”。
らん種は現状、日本で──というか、世界でって言っても良いのかなぁ?──僅か5匹
しか確認されていない、希少種中の希少種だ。
んだけど、最近になってゆっくりを飼うことになってしまったんだ。
それが、この“らん”。
らん種は現状、日本で──というか、世界でって言っても良いのかなぁ?──僅か5匹
しか確認されていない、希少種中の希少種だ。
ここでいう確認ってのは、専門に研究しているところが、ちゃんと存在を確認している
ものって意味。
たとえば、ゆかり種なんかは、確認されていないって扱いだ。目撃報告とか、その姿を
捉えた写真とか、そういうのがネット上で公開されているけど、それは実在の証拠になら
ないらしい。
確かに、目撃報告って言っても、それだけじゃ噂話と変わらない。小さく映ってるだけ
の写真じゃ、間違いないと断定なんて出来ないし、画像データになってたら素人にも加工
は簡単だ。
言ってみれば、ツチノコなんかのUMAと同じってわけ。
だから、継続的に人と交渉を持っているとか、実際に確保されるとか、最低限必要なデ
ータは取れたとか、せめて死体を入手したとか、そういうことがないと『確認』扱いはさ
れない。
ものって意味。
たとえば、ゆかり種なんかは、確認されていないって扱いだ。目撃報告とか、その姿を
捉えた写真とか、そういうのがネット上で公開されているけど、それは実在の証拠になら
ないらしい。
確かに、目撃報告って言っても、それだけじゃ噂話と変わらない。小さく映ってるだけ
の写真じゃ、間違いないと断定なんて出来ないし、画像データになってたら素人にも加工
は簡単だ。
言ってみれば、ツチノコなんかのUMAと同じってわけ。
だから、継続的に人と交渉を持っているとか、実際に確保されるとか、最低限必要なデ
ータは取れたとか、せめて死体を入手したとか、そういうことがないと『確認』扱いはさ
れない。
らん種は、宮城、愛知、京都、佐賀で、今現在も継続的に人と交渉を持っている個体が
確認されている。
そして俺のアパートにいるコイツは、東京都北区で車にはねられ、大怪我を負ったとこ
ろを確保された。
たまたま愛で派の人が、コイツが車にはねられる瞬間を目撃して、大急ぎで東京特定生
物研究所──俺のバイト先でもあるんだけど──に連絡。治療を依頼した。
確認されている。
そして俺のアパートにいるコイツは、東京都北区で車にはねられ、大怪我を負ったとこ
ろを確保された。
たまたま愛で派の人が、コイツが車にはねられる瞬間を目撃して、大急ぎで東京特定生
物研究所──俺のバイト先でもあるんだけど──に連絡。治療を依頼した。
なんせ希少種。
人と交渉を持ち続けてる連中に関しては、地元の人達が研究機関による確保に難色を示
していて、出来る限り自然環境に置いたままの観察が続けられているだけ。
それ以外の個体もいる可能性は十分あるんだけど、なんでも捕まえようとしても巧みに
逃げてしまうらしい。もちろん、鬼ごっこのような遊びを元にした検証だから、人間が、
しかも専門の研究機関が本気を出せば、捕まえられるんだろうけど。
でも、らん種はゆっくりらしからぬ素速い動きと、追うこと、逃げることに関して、か
なりの知恵も回るらしくって、新たな個体の発見と確保は、当分の間は無理なんじゃない
かって言われてたんだ。
人と交渉を持ち続けてる連中に関しては、地元の人達が研究機関による確保に難色を示
していて、出来る限り自然環境に置いたままの観察が続けられているだけ。
それ以外の個体もいる可能性は十分あるんだけど、なんでも捕まえようとしても巧みに
逃げてしまうらしい。もちろん、鬼ごっこのような遊びを元にした検証だから、人間が、
しかも専門の研究機関が本気を出せば、捕まえられるんだろうけど。
でも、らん種はゆっくりらしからぬ素速い動きと、追うこと、逃げることに関して、か
なりの知恵も回るらしくって、新たな個体の発見と確保は、当分の間は無理なんじゃない
かって言われてたんだ。
それだけに、治療を依頼された東京特定生物研究所としては思わぬ幸運なわけで、当然
ながら治療は無償で請け負った。
でも、その事故で大怪我をしたせいなのか、らんは記憶を失っていたんだ。それは、思
い出せる可能性が限りなくゼロに近い、完全なる記憶の喪失らしい。
そのことを、コイツはずいぶんと気にしてる。
ながら治療は無償で請け負った。
でも、その事故で大怪我をしたせいなのか、らんは記憶を失っていたんだ。それは、思
い出せる可能性が限りなくゼロに近い、完全なる記憶の喪失らしい。
そのことを、コイツはずいぶんと気にしてる。
ちなみに、はねた運転手はそのまま逃げたらしい。まぁ、素性はすぐに割れたんだけど、
特に罰せられてもいない。
そりゃ、そうだよね。
飼いゆっくりをはねたのなら、賠償だなんだって話になるかもしれないけど、野良や野
生のゆっくりをはねても、罪に問われたりしないんだから。
それが、たとえ希少種中の希少種だったとしても。
特に罰せられてもいない。
そりゃ、そうだよね。
飼いゆっくりをはねたのなら、賠償だなんだって話になるかもしれないけど、野良や野
生のゆっくりをはねても、罪に問われたりしないんだから。
それが、たとえ希少種中の希少種だったとしても。
俺はどっちかと言えば、虐待お兄さんな方だと自分では思ってる。だから、ゆっくりを
飼う気なんてなかった。
そうじゃなくても研究所でも大切にされている希少種を、俺個人が預かるなんて変な話
だって思ってるんだけど……なんか、こういうことになった。
話の流れってやつかなぁ? その場の勢いって言った方が良いかなぁ?
飼う気なんてなかった。
そうじゃなくても研究所でも大切にされている希少種を、俺個人が預かるなんて変な話
だって思ってるんだけど……なんか、こういうことになった。
話の流れってやつかなぁ? その場の勢いって言った方が良いかなぁ?
「なんなら、もう一回見てみるか、らん?」
「え? い、いや! もう いい! もう だいじょうぶだ!」
「え? い、いや! もう いい! もう だいじょうぶだ!」
俺のところへ来てからも、らんはいろんなことを学びたがった。自分に記憶がないこと
を気にしているからか、前から勉強熱心なヤツだったらしいんだけど。
今は「一度失敗している」って思い込んでいるのが、大きいのかもしれない。
たいした失敗じゃないって、俺なんかは思うんだけどね。
を気にしているからか、前から勉強熱心なヤツだったらしいんだけど。
今は「一度失敗している」って思い込んでいるのが、大きいのかもしれない。
たいした失敗じゃないって、俺なんかは思うんだけどね。
それはともかく、俺もコイツと一緒に暮らすようになって、いろいろなレポートを読む
ようになった。元々、好きで読むこともあったんだけど、今では毎日の恒例になってる。
もちろん、らんには文字なんて読めないから、俺が読んで聞かせる。
読むレポートは、最初の頃は研究所から公開されているものだったけど、最近は虐待お
兄さん達が集まるサイトにアップされている、ゆ虐レポートをよく読んで聞かせていた。
そして、それに対する感想を、らんに聞く。
これも、一種の虐待かもしれない。
ようになった。元々、好きで読むこともあったんだけど、今では毎日の恒例になってる。
もちろん、らんには文字なんて読めないから、俺が読んで聞かせる。
読むレポートは、最初の頃は研究所から公開されているものだったけど、最近は虐待お
兄さん達が集まるサイトにアップされている、ゆ虐レポートをよく読んで聞かせていた。
そして、それに対する感想を、らんに聞く。
これも、一種の虐待かもしれない。
らんは当然のように、虐待されるゆっくり達に同情することが多かった。でも、場合に
よっては、ゆっくりの方を激しく非難することもあった。
ゆっくりが悪事を働いた場合……特に、その悪党っぷりが酷いときだ。
飼いゆっくりが、嫉妬から赤ん坊に怪我をさせたとか。
野良ゆっくりが、商店に入り込んでお家宣言をしたあげく、自分達が散々に荒らしたく
せして、「こんな汚いところいらない」と言い放ったとか。
よっては、ゆっくりの方を激しく非難することもあった。
ゆっくりが悪事を働いた場合……特に、その悪党っぷりが酷いときだ。
飼いゆっくりが、嫉妬から赤ん坊に怪我をさせたとか。
野良ゆっくりが、商店に入り込んでお家宣言をしたあげく、自分達が散々に荒らしたく
せして、「こんな汚いところいらない」と言い放ったとか。
自分達の中から弱者を作りだし、よってたかってイジメを行い死なせてしまったゆっく
りの群れが、虐待お兄さんに全部掴まって、虐め抜かれて次々死んでいったときも、あの
群れは仕方がないと、つらそうではあるがそう言っていた。
りの群れが、虐待お兄さんに全部掴まって、虐め抜かれて次々死んでいったときも、あの
群れは仕方がないと、つらそうではあるがそう言っていた。
「おにいさん……」
「ん? 考えが纏まったか?」
「あ、ああ……でも、まちがってるかもしれない……」
「言ってみろよ」
「なんというか……このひと……ちょっと、へんだな?」
「ぷははははっ! 確かにね! ちょっと変態さんかもね!」
「ん? 考えが纏まったか?」
「あ、ああ……でも、まちがってるかもしれない……」
「言ってみろよ」
「なんというか……このひと……ちょっと、へんだな?」
「ぷははははっ! 確かにね! ちょっと変態さんかもね!」
“あにゃる”を狙ったり、“まむまむ”を狙ったり。特に、ありすへの虐めは、変態お
兄さんの方が思いつきそうだ。
他にも、痛みを与えて泣き叫ばせるんじゃなく、ジワジワと責めて怯えさせたり。手の
込んだやり方で、帽子を遠ざけるだけだったり。
兄さんの方が思いつきそうだ。
他にも、痛みを与えて泣き叫ばせるんじゃなく、ジワジワと責めて怯えさせたり。手の
込んだやり方で、帽子を遠ざけるだけだったり。
でも、この虐待お兄さんはたいしたもんだと思う。
まず、狙ったゆっくりが他の人と関わりを持っていないか、一週間ほどかけてしっかり
と観察する。誰のものでもない、誰も可愛がってないと判明してから、虐待に取り掛かっ
たんだ。
そして、その虐待自体も面白い。面白いし、凄いと思う。
まず、ゆっくりのことをよく知っている。虐め方はもちろん、死にかけた状態からの蘇
生も、下手な研究員よりずっと見事だった。
在野の研究者も侮れないって、前に研究所の人が言ってたけど、この虐待お兄さんは、
そういう在野の研究者なのかもしれない。
ゆっくりには何も感じさせずに、虐めの仕掛けをするって点は、本当に凄いと思う。
そんな芸当は、研究所の研究員の中で、俺から見て掛け値無しに尊敬できるテクニック
を持った人でも、難しいんじゃないかなぁ?
まぁ、カメラでも捉えられないほど早く動けるって点は、ちょっと常識外れで、どんな
身体能力してんだって思うけど。
と観察する。誰のものでもない、誰も可愛がってないと判明してから、虐待に取り掛かっ
たんだ。
そして、その虐待自体も面白い。面白いし、凄いと思う。
まず、ゆっくりのことをよく知っている。虐め方はもちろん、死にかけた状態からの蘇
生も、下手な研究員よりずっと見事だった。
在野の研究者も侮れないって、前に研究所の人が言ってたけど、この虐待お兄さんは、
そういう在野の研究者なのかもしれない。
ゆっくりには何も感じさせずに、虐めの仕掛けをするって点は、本当に凄いと思う。
そんな芸当は、研究所の研究員の中で、俺から見て掛け値無しに尊敬できるテクニック
を持った人でも、難しいんじゃないかなぁ?
まぁ、カメラでも捉えられないほど早く動けるって点は、ちょっと常識外れで、どんな
身体能力してんだって思うけど。
それよりなにより、その理由がいい。
ムカついたからとか、邪魔だからとか、迷惑をかけられたからとか、そんなんじゃない。
虐めたいから、虐める。
きっぱりと、そう言い切るところが良い。清々しいくらいじゃないか。
すぐにカッとなって、その感情からゆっくりを潰したくなっちゃう俺としては、見習い
たいくらいだ。
言葉だけじゃなく、それ以外の理由は見当たらない。本当に楽しんでいるという感じも
伝わってきた。いちいち技名をつけたり、ポーズを取ったり。
ムカついたからとか、邪魔だからとか、迷惑をかけられたからとか、そんなんじゃない。
虐めたいから、虐める。
きっぱりと、そう言い切るところが良い。清々しいくらいじゃないか。
すぐにカッとなって、その感情からゆっくりを潰したくなっちゃう俺としては、見習い
たいくらいだ。
言葉だけじゃなく、それ以外の理由は見当たらない。本当に楽しんでいるという感じも
伝わってきた。いちいち技名をつけたり、ポーズを取ったり。
楽しむためだけに念入りな下調べをして、楽しみを終えて解放してからも、しばらくの
間は追跡調査までしてるんだ。
他の人に迷惑をかけないように、気を配ってるんだろうね。
潰さないのは、ちょっと物足りないけど……まぁ、後遺症を抱えたゆっくりが、その後
どう生きていくのか、想像するのも楽しそうだし。
間は追跡調査までしてるんだ。
他の人に迷惑をかけないように、気を配ってるんだろうね。
潰さないのは、ちょっと物足りないけど……まぁ、後遺症を抱えたゆっくりが、その後
どう生きていくのか、想像するのも楽しそうだし。
まりさ種のヤツは、帽子が勝手に逃げていくという強迫観念に取り憑かれたみたいだ。
帽子をしっかりと咥えて、放そうとしなくなってた。食事や寝る時は、上に乗っかってた
し。
ありす種のヤツは、尻──“あにゃる”が敏感になりすぎて、気になり続けていたみた
いだな。過剰な糖分が皮に染み込むと、あんな症状を起こすなんて知らなかったよ。
れいむ種のヤツは、そこだけが奇妙に綺麗な皮になった“まむまむ”を気にしていた。
虐待お兄さんが“まむまむ”を、わざと小さく作ったってことには、気付いていなかった
みたいだけど。
帽子をしっかりと咥えて、放そうとしなくなってた。食事や寝る時は、上に乗っかってた
し。
ありす種のヤツは、尻──“あにゃる”が敏感になりすぎて、気になり続けていたみた
いだな。過剰な糖分が皮に染み込むと、あんな症状を起こすなんて知らなかったよ。
れいむ種のヤツは、そこだけが奇妙に綺麗な皮になった“まむまむ”を気にしていた。
虐待お兄さんが“まむまむ”を、わざと小さく作ったってことには、気付いていなかった
みたいだけど。
ぱちゅりー種は、プラスの変化かな? あんな素直に、わからないと言って、教えてと
問うヤツなんて、見たことがない。
問うヤツなんて、見たことがない。
「へんたいさん……なのか? らんが いいたい“へん”とは、ちょっと ちがうな……」
難しい顔をして、らんが考え込んでいる。やっぱり、自分の考えは間違っていたのか、
とかブツブツ言って。
どういうことなのか、なにが変だと思ったのかを聞くと、らんは考え考えしながら、話
し始めた。
とかブツブツ言って。
どういうことなのか、なにが変だと思ったのかを聞くと、らんは考え考えしながら、話
し始めた。
「だって、いままでは みんな……ゆっくりを、ころしていただろう?」
そういや、ゆっくりを潰さずに逃がすレポートを、らんに読み聞かせたのは今回が初め
てだったか。
悪いことをすれば、罰を受ける。悪いことをしたから、虐待され、潰される。これまで
読み聞かせてきた ゆ虐のレポートは、全部そうだった。
研究所のレポートだって、最後にはやむを得ず死んでしまうのがほとんどだし、そうで
なかったとしても被験体のゆっくりの生死は書かずに終わっていたり。
まぁ、実験結果の発表が目的なんだから、ゆっくりの生死に関しては、省かれて当然か
もね。
てだったか。
悪いことをすれば、罰を受ける。悪いことをしたから、虐待され、潰される。これまで
読み聞かせてきた ゆ虐のレポートは、全部そうだった。
研究所のレポートだって、最後にはやむを得ず死んでしまうのがほとんどだし、そうで
なかったとしても被験体のゆっくりの生死は書かずに終わっていたり。
まぁ、実験結果の発表が目的なんだから、ゆっくりの生死に関しては、省かれて当然か
もね。
でも、今回は違う。
悪いことをしたからだというのなら、らんにはわかりやすいんだ。研究所でも、行われ
るようになったことだし。その第一回目を、らんは最初から最後まで見続けたから。
るようになったことだし。その第一回目を、らんは最初から最後まで見続けたから。
「なのに、この ゆっくりたちは……なにも、わるいことを していないのだろう? そう
いっていたぞ?」
「ああ、言ってたなぁ」
「なら、なぜだ!? なぜ、いじめられなくてはならない!?」
「だから、それも言ってただろ? 虐めたいからだって」
いっていたぞ?」
「ああ、言ってたなぁ」
「なら、なぜだ!? なぜ、いじめられなくてはならない!?」
「だから、それも言ってただろ? 虐めたいからだって」
キョトンとした顔で、らんが黙り込む。何かを虐めたい、誰かを虐めたいって気持ちが、
らんにはわからないんだろう。
俺だって、わからない。わからないというか、上手く説明できない。そういう気持ちに
なることがある……ってのは、よくわかるけど。
やりたいから、やりたいことをやる。らんには、やりたいと言う気持ち自体が理由にな
るってのも、わからないことなのかもしれない。
らんにはわからないんだろう。
俺だって、わからない。わからないというか、上手く説明できない。そういう気持ちに
なることがある……ってのは、よくわかるけど。
やりたいから、やりたいことをやる。らんには、やりたいと言う気持ち自体が理由にな
るってのも、わからないことなのかもしれない。
「よ、よくわからないけど……わるいことをしなかったから、いじめられるだけで、ころ
されなかったのか? ちゃんと、なおしてもらえたようだし……」
「どうかなぁ? 潰さずに逃がしてやることだって、虐めかもしれないぞ」
「う~~ん……らんには、むずかしくて わからないな」
されなかったのか? ちゃんと、なおしてもらえたようだし……」
「どうかなぁ? 潰さずに逃がしてやることだって、虐めかもしれないぞ」
「う~~ん……らんには、むずかしくて わからないな」
ゆ虐は、あくまでもマイノリティだし、その行為だって褒められたもんじゃないと思う。
それでも、ゆ虐を行っている人は、それなりの数がいるんだ。
それなりの数がいれば、いろんな人がいる。いろんな人がいれば、派閥みたいなものも
出来るんだろう。
最近になって気付いたことだし、ハッキリと表立ってるわけじゃないんだけど、それで
も確かに、ゆ虐にも派閥みたいなものがあるみたいなんだ。
それでも、ゆ虐を行っている人は、それなりの数がいるんだ。
それなりの数がいれば、いろんな人がいる。いろんな人がいれば、派閥みたいなものも
出来るんだろう。
最近になって気付いたことだし、ハッキリと表立ってるわけじゃないんだけど、それで
も確かに、ゆ虐にも派閥みたいなものがあるみたいなんだ。
悪事を働いたから、ムカついたから、そういう理由でゆっくりを虐待して、最終的には
潰してスカッとしたがる人達。理由や気持ちがわかりやすいし、虐め方もわかりやすくて
直接的なものが多い。そして最終的には、潰す。半死半生で、しばらく生かしておいても、
絶対に逃がすことはない。
それに対して、理由なんてない、虐めたいから虐めるだけだと、言い切っちゃう人達。
手の込んだ虐めをする人は、こっち側であることが多い。ゆっくりの生き死にには拘りが
なくて、思いついた虐めを試したいからって人が多いんだと思う。だから、それが済んで
気分が良い状態だと、治療して逃がす人もいたりするんだ。
潰してスカッとしたがる人達。理由や気持ちがわかりやすいし、虐め方もわかりやすくて
直接的なものが多い。そして最終的には、潰す。半死半生で、しばらく生かしておいても、
絶対に逃がすことはない。
それに対して、理由なんてない、虐めたいから虐めるだけだと、言い切っちゃう人達。
手の込んだ虐めをする人は、こっち側であることが多い。ゆっくりの生き死にには拘りが
なくて、思いついた虐めを試したいからって人が多いんだと思う。だから、それが済んで
気分が良い状態だと、治療して逃がす人もいたりするんだ。
前者は“制裁派”って言われている。後者は“愉虐派”と名乗っている。この派閥の名
前を付けた人が、どうやら愉虐派みたいなんだ。
前を付けた人が、どうやら愉虐派みたいなんだ。
虐待を受けたゆっくりは、高確率で人間を恨み、憎む。だから制裁派の人達は、虐待し
たのに潰さず逃がすのは良くないと、愉虐派の人達を窘める。
まぁ、その通りだと思う。
それに対して愉虐派の人達は、野良がいなくなったら自分達が困るじゃないかと、言い
放つ。そもそも自分達は、恐れられずに恨まれるだけなんて言う、半端な虐待はしないの
だ、と。
それも、どうかと思う。ゆっくりは、恐怖だって都合良く忘れるんだ。忘れれば、恨み
だけが残るかもしれない。
なにより、野良ゆっくりが様々な問題や色々な害を振りまいていることは、周知の事実
ってヤツだし。
そりゃ野良がいなくなったら、気軽に虐待できるゆっくりもいなくなるってことだから
……虐待のために、ペットとして売られてるゆっくりを買うか、どっか野山にいる野生を
探すしか無くなるのかなぁ?
たのに潰さず逃がすのは良くないと、愉虐派の人達を窘める。
まぁ、その通りだと思う。
それに対して愉虐派の人達は、野良がいなくなったら自分達が困るじゃないかと、言い
放つ。そもそも自分達は、恐れられずに恨まれるだけなんて言う、半端な虐待はしないの
だ、と。
それも、どうかと思う。ゆっくりは、恐怖だって都合良く忘れるんだ。忘れれば、恨み
だけが残るかもしれない。
なにより、野良ゆっくりが様々な問題や色々な害を振りまいていることは、周知の事実
ってヤツだし。
そりゃ野良がいなくなったら、気軽に虐待できるゆっくりもいなくなるってことだから
……虐待のために、ペットとして売られてるゆっくりを買うか、どっか野山にいる野生を
探すしか無くなるのかなぁ?
愉虐派の人達は、理由に逃げるなと制裁派を窘める。自分達が、人から後ろ指をさされ
て当然の趣味を持っていることを自覚するべきだ。だからこそ、他人に迷惑をかけないよ
うに細心の注意を払わなくてはいけない。
まぁ、当然だよね。
それに対して制裁派の人達は、迷惑なんてかけるわけがないと、堂々としたものだ。自
分達は、感謝こそされ、迷惑がられるようなことはしていない、と。
その自信はどこから来るんだろう? 少なくとも俺は、そこまで自分を信じられない。
カッとなって、ただ感情まかせにゆっくりを潰して、研究所に迷惑をかけたこともある
し……自分じゃ、それほど短気じゃないつもりなんだけどね。ゆっくり相手だと、カッと
来やすいんだ。
て当然の趣味を持っていることを自覚するべきだ。だからこそ、他人に迷惑をかけないよ
うに細心の注意を払わなくてはいけない。
まぁ、当然だよね。
それに対して制裁派の人達は、迷惑なんてかけるわけがないと、堂々としたものだ。自
分達は、感謝こそされ、迷惑がられるようなことはしていない、と。
その自信はどこから来るんだろう? 少なくとも俺は、そこまで自分を信じられない。
カッとなって、ただ感情まかせにゆっくりを潰して、研究所に迷惑をかけたこともある
し……自分じゃ、それほど短気じゃないつもりなんだけどね。ゆっくり相手だと、カッと
来やすいんだ。
どっちの言い分も、正しいと思える部分は多いんだけど、ちょっと首を傾げちゃう部分
もあって。
だから、まだ自分がどっちかってことは、ハッキリ言えない。
前は、制裁派に近い考え方だったけど……最近は、愉虐派の人達みたいになりたいな、
とかって思ってる。
もあって。
だから、まだ自分がどっちかってことは、ハッキリ言えない。
前は、制裁派に近い考え方だったけど……最近は、愉虐派の人達みたいになりたいな、
とかって思ってる。
「“てんてき”というのは、こわいな。かなわないってことなのだろう?」
らんは考え続けていたようで、ポツリと感想の続きを口にした。
そうだな、と軽く頷く。
そうだな、と軽く頷く。
「でも、ふしぎなんだ……わたしは、このひとを『へんだ』っておもうけど、こわくはな
いんだ」
「怖くないのか?」
「うん……ほかの ひとたちのほうが、こわかった……わるいことをした ゆっくりたちに
おしおきする ひとたちのほうが……こわいんだ」
いんだ」
「怖くないのか?」
「うん……ほかの ひとたちのほうが、こわかった……わるいことをした ゆっくりたちに
おしおきする ひとたちのほうが……こわいんだ」
そりゃ、制裁のためにゆっくりを虐め殺す人達は、怖いだろう。だって、怒ってるんだ
から。ムカついてるんだもん。
でも、悪いことをしなければ、人に向かって生意気な態度を取らなければ、制裁派から
虐待されることはないはずだ。
でも、愉虐派はそうはいかない。虐めたいと思ったときに、見かけたゆっくりが誰の物
でもなければ、理由を必要としない。
避けようとしても、その方法がないってことだ。
まぁ、らんは今、俺の飼いゆっくりだから、愉虐派の人達だって絶対に手を出さないだ
ろうけど。その辺は、驚くほどしっかりしてる人達だから。
から。ムカついてるんだもん。
でも、悪いことをしなければ、人に向かって生意気な態度を取らなければ、制裁派から
虐待されることはないはずだ。
でも、愉虐派はそうはいかない。虐めたいと思ったときに、見かけたゆっくりが誰の物
でもなければ、理由を必要としない。
避けようとしても、その方法がないってことだ。
まぁ、らんは今、俺の飼いゆっくりだから、愉虐派の人達だって絶対に手を出さないだ
ろうけど。その辺は、驚くほどしっかりしてる人達だから。
「なぜだろう? このひとは、かお も わからないのに……ふしぎだ」
動画には虐待お兄さんの姿も映っていたけど、自作の物らしい仮面をずっと着けていた
から、どんな顔をしているかがわからない。それに、これと言ったハンドルネームも名乗
らず、「名も無き虐待お兄さん」で通している。
どちらかと言えば、怖がる要素の方が多いように思えるんだけど……
まぁ俺も、今まで見てきたレポートの中では、この人がダントツで面白いし、どうにか
知り合いになれないかとも思っちゃうくらいだけどね。
から、どんな顔をしているかがわからない。それに、これと言ったハンドルネームも名乗
らず、「名も無き虐待お兄さん」で通している。
どちらかと言えば、怖がる要素の方が多いように思えるんだけど……
まぁ俺も、今まで見てきたレポートの中では、この人がダントツで面白いし、どうにか
知り合いになれないかとも思っちゃうくらいだけどね。
「う~ん……確かに、不思議だな。もうちょっと、この人のレポートを見てみるか?」
「えっ!? いっ、いや、いい! もういい! きょうは、もう つかれたから!」
「えっ!? いっ、いや、いい! もういい! きょうは、もう つかれたから!」
カチカチとマウスを操作し始めると、らんは大慌てで遠慮してきた。やっぱり、これは
これで、一種の虐待になってるのかもしれない。
これで、一種の虐待になってるのかもしれない。
「おにいさんだって、あしたも がっこうは あるのだろう? それに、おしごとをしなく
ちゃ いけないんじゃないのか?」
「明日は、バイトは休み。その代わり、ちょっと先輩さんの買い物に付き合わなくちゃな
らないんだ」
「せんぱいさんのところへ いくのか?」
ちゃ いけないんじゃないのか?」
「明日は、バイトは休み。その代わり、ちょっと先輩さんの買い物に付き合わなくちゃな
らないんだ」
「せんぱいさんのところへ いくのか?」
“先輩さん”ってのは、ただのあだ名。俺の先輩ってわけでもない。まぁ年上の人だか
ら、人生の先輩ではあると思うけどね。
俺と、らんが、同じ日に知り合った人。俺が、らんのことをこうして飼うようになった
原因でもある。
ら、人生の先輩ではあると思うけどね。
俺と、らんが、同じ日に知り合った人。俺が、らんのことをこうして飼うようになった
原因でもある。
「らんも、いっしょにいっては いけないだろうか? まりさたちに、また あいたいんだ」
先輩さんも、ゆっくりを飼っている。
俺が世話することになった らんも、結構変わりモノな ゆっくりだと思うけど、先輩さ
んのところの まりさ一家に比べたら、まだまだ まともな方だ。
俺が世話することになった らんも、結構変わりモノな ゆっくりだと思うけど、先輩さ
んのところの まりさ一家に比べたら、まだまだ まともな方だ。
「そうだな……それも、良いかもな」
わりと良い意味でのデタラメなゆっくり達だから、らんにとっても悪い影響はないと思
うし……
うし……
「んじゃ、今日はここまでにして、寝るか?」
「うん、そうしよう! おやすみなさい しよう!」
「うん、そうしよう! おやすみなさい しよう!」
これ以上、レポートを見せられるのはゴメンだとばかりに、らんは机の上から、俺の太
股へ、床へとポンッポンッと飛び降り、自分の寝床へと向かった。
股へ、床へとポンッポンッと飛び降り、自分の寝床へと向かった。
*** *** *** ***
翌日。
約束通り、学校が終わってすぐに、らんを連れて先輩さんの家へと行って……
約束通り、学校が終わってすぐに、らんを連れて先輩さんの家へと行って……
「はぁ~あ……疲れた」
冷蔵庫にあった缶ジュースを一本飲みきって、やっと人心地つけた。
ショップでの買い物を終えて、今は先輩さんの家。
先輩さんは変に金を持ってたりするのに、住んでるところは広めではあるけど、普通の
アパートだ。
あんな人がアパート暮らしってのが、変な感じで……ある意味、先輩さんらしいけど。
でも部屋主であるはずの先輩さんは、まだ帰ってきていない。
だから、この缶ジュースは断りもなく勝手に飲んだもの。人の家の冷蔵庫を勝手に開け
るのは行儀が悪いってことくらいわかってるつもりだけど、これくらいは許してくれなく
ちゃ、たまらないよ。
先輩さんは変に金を持ってたりするのに、住んでるところは広めではあるけど、普通の
アパートだ。
あんな人がアパート暮らしってのが、変な感じで……ある意味、先輩さんらしいけど。
でも部屋主であるはずの先輩さんは、まだ帰ってきていない。
だから、この缶ジュースは断りもなく勝手に飲んだもの。人の家の冷蔵庫を勝手に開け
るのは行儀が悪いってことくらいわかってるつもりだけど、これくらいは許してくれなく
ちゃ、たまらないよ。
「お疲れ様でした、小僧さん」
「たいへんだったんだな、だいじょうぶか?」
「たいへんだったんだな、だいじょうぶか?」
先輩さんに飼われている ゆっくり一家の母親まりさと、俺のとこで世話している らん
が、口々に労ってきた。
……ゆっくりに労われたって、あんまり嬉しくないけどね。
が、口々に労ってきた。
……ゆっくりに労われたって、あんまり嬉しくないけどね。
らんは、ショップへと向かう時に、ここへ置いて出かけたんだ。ゆっくりだけでの留守
番だったわけだけど、コイツらはどっちも賢い方だから、先輩さんの部屋を荒らしたりは
していなかった。
まぁ、その点は、わりと信用してるんだけどね。
俺んちでも、らんは部屋を荒らしたりせずに留守番してるし。
番だったわけだけど、コイツらはどっちも賢い方だから、先輩さんの部屋を荒らしたりは
していなかった。
まぁ、その点は、わりと信用してるんだけどね。
俺んちでも、らんは部屋を荒らしたりせずに留守番してるし。
ゆっくり達は、ちゃぶ台の上に乗っていた。ちゃぶ台の上には、俺が飲み干した空き缶
以外に何も置いて無くて、お茶やお茶菓子は棚に仕舞われているみたいだ。
ちゃぶ台の横には、何枚もの座布団を使って、ちょっとした階段のようなものが作られ
ていた。ゆっくり達自身が、勝手に上り下りすることを許しているらしい。
まぁ、成体のゆっくりならともかく、赤ん坊や子供のゆっくりが部屋の床をチョロチョ
ロ動き回ってると、うっかり踏んづけるかもしれない。そんなときに「上に昇ってろ」と
声をかけるだけで、ゆっくり達自身にちゃぶ台へと昇らせれば、多少の手間は減るのかも。
でも普通は、ゆっくりが自由に動ける部屋を限ったりするんだけどね。その方が、掃除
とかも楽だし。
先輩さんは、トイレや風呂以外の部屋は自由に行き来させているらしい。ダイニングキ
ッチンと、二間……2DKの空間をそれぞれ仕切る扉や襖が、全開になってるんだ。
以外に何も置いて無くて、お茶やお茶菓子は棚に仕舞われているみたいだ。
ちゃぶ台の横には、何枚もの座布団を使って、ちょっとした階段のようなものが作られ
ていた。ゆっくり達自身が、勝手に上り下りすることを許しているらしい。
まぁ、成体のゆっくりならともかく、赤ん坊や子供のゆっくりが部屋の床をチョロチョ
ロ動き回ってると、うっかり踏んづけるかもしれない。そんなときに「上に昇ってろ」と
声をかけるだけで、ゆっくり達自身にちゃぶ台へと昇らせれば、多少の手間は減るのかも。
でも普通は、ゆっくりが自由に動ける部屋を限ったりするんだけどね。その方が、掃除
とかも楽だし。
先輩さんは、トイレや風呂以外の部屋は自由に行き来させているらしい。ダイニングキ
ッチンと、二間……2DKの空間をそれぞれ仕切る扉や襖が、全開になってるんだ。
「はぁ……本当に、何を考えてんだろうな、お前の飼い主は」
「ゆ~ぅんと……まりさ、難しいことはわからないけど、お兄さんは良い人ですよ?」
「ゆ~ぅんと……まりさ、難しいことはわからないけど、お兄さんは良い人ですよ?」
なんとなくで愚痴ると、母親まりさは体を傾けながら、不思議そうに聞き返してきた。
自分の買い物であるはずの大荷物を俺に押しつけて、自分は車でどっか行っちゃって、
長々とここまで歩かせた人が、はたして良い人なんだろうか。
長々とここまで歩かせた人が、はたして良い人なんだろうか。
「ゆゆ? …………ほ、本当だっ!? なんだか、ひどい感じです! たいへんでしたね、
小僧さん!」
小僧さん!」
いや、まぁ、それはもう良いんだけどさ。
ゆっくりに気を遣ってもらっても、やっぱり嬉しくないから。
ゆっくりに気を遣ってもらっても、やっぱり嬉しくないから。
ゆっくり用グッズを、かなりの量を買い込んでしまった。
必要としてるはずの先輩さん自身が、どれが必要なのかわからないとか言い出すもんだ
から、アレも必要かもしれない、コレも必要かもしれないと、どんどん増えていった。
ちなみに、ショップに現物が置いてなかった品に関しては、後日この家へ配送される手
はずもしてもらった。
それも考えると、本当にたくさん買っちゃったなぁ……
必要としてるはずの先輩さん自身が、どれが必要なのかわからないとか言い出すもんだ
から、アレも必要かもしれない、コレも必要かもしれないと、どんどん増えていった。
ちなみに、ショップに現物が置いてなかった品に関しては、後日この家へ配送される手
はずもしてもらった。
それも考えると、本当にたくさん買っちゃったなぁ……
いくら買い込もうと、先輩さんの金だし、運ぶのだって先輩さんの車だから……と思っ
てたのに、帰り道の途中で運転していた車を止めて「ちょっと用を思い出した」って降り
ようとしたんだ。俺は車の免許なんて持ってないから、後を頼まれても困るってのに。
先輩さんは「そうだったっけ?」とか言って、しばらく考えると「じゃあ、悪いけど歩
いてってくれ」って……本当に悪いよっ!!
てたのに、帰り道の途中で運転していた車を止めて「ちょっと用を思い出した」って降り
ようとしたんだ。俺は車の免許なんて持ってないから、後を頼まれても困るってのに。
先輩さんは「そうだったっけ?」とか言って、しばらく考えると「じゃあ、悪いけど歩
いてってくれ」って……本当に悪いよっ!!
「おにいしゃん げんきないの? りぇいみゅ げんきだよ! おにいしゃんも、ゆっくり
げんき だしてね?」
「はいはい。疲れてるだけだから、一休みすれば元気になるよ」
げんき だしてね?」
「はいはい。疲れてるだけだから、一休みすれば元気になるよ」
小さなれいむ種が、話しかけてきた。まだ赤ん坊みたいなもんだから、何を言ってるの
かちょっと聞き取りにくい。
母親まりさは、四匹の子持ちだ。れいむ種が1。まりさ種が1。ありす種が2。
この組み合わせは、かなり珍しい……というか、まず有り得ない。
ゆっくりにも遺伝みたいなものはあるらしくて、今のところ、二親以外の種が生まれた
ケースは、研究所の記録にはないはずだ。
取り替え子とかの噂はネットにもあるから、例外はあり得るんだろうけど。
かちょっと聞き取りにくい。
母親まりさは、四匹の子持ちだ。れいむ種が1。まりさ種が1。ありす種が2。
この組み合わせは、かなり珍しい……というか、まず有り得ない。
ゆっくりにも遺伝みたいなものはあるらしくて、今のところ、二親以外の種が生まれた
ケースは、研究所の記録にはないはずだ。
取り替え子とかの噂はネットにもあるから、例外はあり得るんだろうけど。
母親まりさは、ありす種とれいむ種、二匹の野良に無理矢理犯されたんだ。ほとんどレ
イパーみたいなヤツらだったらしくて、かなりの量の子供が出来たらしいけど、生き残っ
たのはこの四匹だけ。
それでも母子共々、死んでて不思議じゃなかったって話だから、やっぱりデタラメな親
子だと思う。
イパーみたいなヤツらだったらしくて、かなりの量の子供が出来たらしいけど、生き残っ
たのはこの四匹だけ。
それでも母子共々、死んでて不思議じゃなかったって話だから、やっぱりデタラメな親
子だと思う。
「れいむ。ちょっと顔を見せてくれ」
「ゆ?」
「それと、お前も」
「んほ?」
「ゆ?」
「それと、お前も」
「んほ?」
れいむ種と、ありす種の片方。
この二匹は、前に大怪我をして、俺がバイトしてる東京特定生物研究所に連れ込まれた。
そして研究所での治療のおかげで、二匹とも命は取り留めたんだ。
この二匹は、前に大怪我をして、俺がバイトしてる東京特定生物研究所に連れ込まれた。
そして研究所での治療のおかげで、二匹とも命は取り留めたんだ。
れいむは半身が潰れた状態だったために、片方の目玉が使い物にならなかった。
ありすの方は、両目を駄目にしていた。ありすの症状は異常発情で、自分が発した熱量
のために、目玉が機能しなくなったらしい。
その治療のために、研究所で飼育しているゆっくりの中から、生まれて間もない二匹の
ゆっくりが目玉を提供することになった。
提供って言っても、ゆっくりの赤ん坊が自ら進んで目玉を差し出すわけがない。生かし
ておいても、ろくなことが無さそうなゲスの赤ん坊を選んで、潰して採ったんだ。
ありすの方は、両目を駄目にしていた。ありすの症状は異常発情で、自分が発した熱量
のために、目玉が機能しなくなったらしい。
その治療のために、研究所で飼育しているゆっくりの中から、生まれて間もない二匹の
ゆっくりが目玉を提供することになった。
提供って言っても、ゆっくりの赤ん坊が自ら進んで目玉を差し出すわけがない。生かし
ておいても、ろくなことが無さそうなゲスの赤ん坊を選んで、潰して採ったんだ。
ただ、この二匹は……というか、母親まりさの子供達はどれも、その時はほとんど未熟
児と言っていいほど小さかった。ピンポン球くらいで、並みの赤ん坊ゆっくりと比べても、
半分あるかどうかと言うくらい。
だから、目玉のサイズも合うはずがなかったんだけど……他に方法もないからと、半ば
強引に移植が行われたらしい。
手術直後は、土偶の……なんて言ったっけ? 遮光器土偶だったっけ? あんな感じで、
目がビョコンと大きくて、無理矢理に目蓋を引き伸ばして閉じてるみたいで、ちょっと気
持ち悪かった。
児と言っていいほど小さかった。ピンポン球くらいで、並みの赤ん坊ゆっくりと比べても、
半分あるかどうかと言うくらい。
だから、目玉のサイズも合うはずがなかったんだけど……他に方法もないからと、半ば
強引に移植が行われたらしい。
手術直後は、土偶の……なんて言ったっけ? 遮光器土偶だったっけ? あんな感じで、
目がビョコンと大きくて、無理矢理に目蓋を引き伸ばして閉じてるみたいで、ちょっと気
持ち悪かった。
「へぇ……馴染んできたな」
れいむもありすも、体が大きくなるにしたがって、奇妙に目玉だけが大きいという状況
から回復してきてる。今は、ちょっとだけ大きいくらいかなぁ。
見る人によっては、パッチリと大きな目……なんて言うかもね。
から回復してきてる。今は、ちょっとだけ大きいくらいかなぁ。
見る人によっては、パッチリと大きな目……なんて言うかもね。
逆に言えば、母親まりさの子供達も、ようやく並みの赤ん坊くらいには育ってきたって
ことだ。でも、まだその程度の大きさ。
普通なら、赤ん坊言葉も抜け始めるくらいに成長しているだけの時間は経ってるのに。
ことだ。でも、まだその程度の大きさ。
普通なら、赤ん坊言葉も抜け始めるくらいに成長しているだけの時間は経ってるのに。
「あのね、りぇいみゅね、もう おめめ いたくないの! みんなのことも、みえりゅの!
おにいしゃんのことも、みえりゅの!」
「そうか。そりゃ良かったな」
「うん……でも……でもね」
おにいしゃんのことも、みえりゅの!」
「そうか。そりゃ良かったな」
「うん……でも……でもね」
れいむが、悲しそうにありすの方を向いた。
言われなくても、知ってる。研究所へ、経過報告が出されているから。
れいむの方はちゃんと視力も回復したが、ありすの方は、見えないままなのだという。
言われなくても、知ってる。研究所へ、経過報告が出されているから。
れいむの方はちゃんと視力も回復したが、ありすの方は、見えないままなのだという。
「んほ~~?」
移植された目玉は、れいむ種のものだ。だから、れいむの方は違和感なく馴染んでいる。
でも、ありすの方はちょっと不思議な感じになっていた。
ありす種は青い瞳のはずなのに、黒々とした瞳のパッチリとした眼が、ありすの顔に収
まっているんだから。
こうして見ている分には、おかしなところはない。きらきらと、綺麗に思えるほどだ。
ゆっくり同士ならともかく、人間からしたら、ありすが黒目だからって文句を言う理由
にはならないし。
でも、ありすの瞳は真っ直ぐ前を向いたまま、ほとんど動かない。
顔の前で手を振ると、ありすは目を動かさずに、体をクネクネと動かして、こちらの手
の動きを追いかけた。
でも、ありすの方はちょっと不思議な感じになっていた。
ありす種は青い瞳のはずなのに、黒々とした瞳のパッチリとした眼が、ありすの顔に収
まっているんだから。
こうして見ている分には、おかしなところはない。きらきらと、綺麗に思えるほどだ。
ゆっくり同士ならともかく、人間からしたら、ありすが黒目だからって文句を言う理由
にはならないし。
でも、ありすの瞳は真っ直ぐ前を向いたまま、ほとんど動かない。
顔の前で手を振ると、ありすは目を動かさずに、体をクネクネと動かして、こちらの手
の動きを追いかけた。
「風の動き……とかなのかなぁ?」
「んほ、んほぉお♪」
「んほ、んほぉお♪」
目だけじゃない。ありすは、話すことも出来なくなっていた。これも、異常興奮の後遺
症らしい。
症らしい。
「大丈夫です! おチビちゃん達は、まりさが頑張って育てます。立派な、ゆっくりした
ゆっくりに育ててあげるんです」
「ぅえ!? あ……そ、そうか。うん、頑張れよ」
「はい、頑張ります!」
ゆっくりに育ててあげるんです」
「ぅえ!? あ……そ、そうか。うん、頑張れよ」
「はい、頑張ります!」
いつの間にか近づいていた母親まりさに、いきなり笑顔で話しかけられて、ちょっとビ
ックリしちゃったよ。
れいむとありすの回復状況を見せてもらいながら、ボンヤリと考え込んでいたみたいだ。
まぁ、俺が見てもわかんないんだけどね。
ックリしちゃったよ。
れいむとありすの回復状況を見せてもらいながら、ボンヤリと考え込んでいたみたいだ。
まぁ、俺が見てもわかんないんだけどね。
母親まりさは、子供達を連れて、座布団製の階段をポフポフと下りていく。子供達も、
転ぶことなくポンポンと跳ねて母親の後を慕っていった。
転ぶことなくポンポンと跳ねて母親の後を慕っていった。
「やっぱり、まりさはえらいな」
らんが俺の側に寄って来て、何度も頷きながら呟いた。
偉いって言うか、ただデタラメなだけだと思うけど。
偉いって言うか、ただデタラメなだけだと思うけど。
「えらくないのか? らんは、えらいとおもった。だって、あのこが……ありすが、もし
むれにいたら、きっと……」
むれにいたら、きっと……」
ゆっくりしていない ありすだ、と排除されていただろうなぁ。
それは、俺にも簡単に想像が付いた。
ゆっくりは、異端や異常を極端に嫌うんだ。お飾りが無かったり、あっても欠損してい
たりすれば、間違いなく差別対象とされる。体に大きな傷があったり、声が変だ、話し方
が変だと言うだけでも、差別する場合が多い。
まるで、ちょっとした違いを理由に、攻撃の対象を探してるかのように……村八分とか、
イジメとか、そういう「的」に出来るものを、常に求めてるんじゃないかって思えるほど
だ。
それは、俺にも簡単に想像が付いた。
ゆっくりは、異端や異常を極端に嫌うんだ。お飾りが無かったり、あっても欠損してい
たりすれば、間違いなく差別対象とされる。体に大きな傷があったり、声が変だ、話し方
が変だと言うだけでも、差別する場合が多い。
まるで、ちょっとした違いを理由に、攻撃の対象を探してるかのように……村八分とか、
イジメとか、そういう「的」に出来るものを、常に求めてるんじゃないかって思えるほど
だ。
「らんも“かけた ゆっくり”なんだと おもう。おかざりはあるし、けがもしてないけど、
きっと……かけているんだ」
きっと……かけているんだ」
らんの言う「欠けた」ってのは、記憶がないことだろうか?
気にすることはない……って、俺が言っても仕方ないかなぁ。こういうのって、気にし
ている本人の問題だろうし。
でも、らんは俺から見ても優秀なヤツだと思うし、一時期は群れの長を務めていたほど
なんだ。そこらの野良の方が、よっぽど「欠けたゆっくり」だと思うけどね。
気にすることはない……って、俺が言っても仕方ないかなぁ。こういうのって、気にし
ている本人の問題だろうし。
でも、らんは俺から見ても優秀なヤツだと思うし、一時期は群れの長を務めていたほど
なんだ。そこらの野良の方が、よっぽど「欠けたゆっくり」だと思うけどね。
「でも、まりさは きにしない。まりさの こどもたちも、きにしない。なかよくしている
し、らん とも なかよくしてくれる……あれが、“ゆっくり”なんだとおもうんだ」
し、らん とも なかよくしてくれる……あれが、“ゆっくり”なんだとおもうんだ」
まぁ、それだって、らん自身がそう思うんなら、それでいいんだろうけどね。
「だったら、見習うべきところを見習えばいいんじゃないかなぁ?」
「みならう……らんも、まりさのようになれるだろうか?」
「みならう……らんも、まりさのようになれるだろうか?」
……無理かなぁ。
らん と まりさじゃ、そもそも種が違うってのもあるけど……あの母親まりさは、何が
どうなっているのかわからないほど、デタラメなんだ。
考え方も、理解力も、生命力の強さも。
らんが言うように、子の異常を気にしない、差別しないってところも並みじゃないし。
らん と まりさじゃ、そもそも種が違うってのもあるけど……あの母親まりさは、何が
どうなっているのかわからないほど、デタラメなんだ。
考え方も、理解力も、生命力の強さも。
らんが言うように、子の異常を気にしない、差別しないってところも並みじゃないし。
「まぁ、同じにならなくていいんじゃないか? らんはらんで、頑張ればいいと思うし」
「……うん。そうするよ、おにいさん」
「……うん。そうするよ、おにいさん」
らんが笑みを浮かべて、軽く頷く。
こっちの話が終わるのを、ちゃんと待っていたようなタイミングで、玄関からガチャガ
チャと音がした。
こっちの話が終わるのを、ちゃんと待っていたようなタイミングで、玄関からガチャガ
チャと音がした。
「ゆ? ゆゆ! お帰りなさい、お兄さん!」
玄関の方から、母親まりさの声が聞こえてきた。先輩さんが、帰ってきたらしい。
その声に、ふと気がついたことがあって、言葉が漏れる。
その声に、ふと気がついたことがあって、言葉が漏れる。
「まりさの声……」
「ああ。せんぱいさんが、かえってきたんだな」
「いや、そうじゃなくて」
「ああ。せんぱいさんが、かえってきたんだな」
「いや、そうじゃなくて」
まりさの声は、玄関からでも聞き取りやすかった。人間の声と同じくらいだ。
らんも、決して発音が悪いわけじゃない。それでも、まりさと比べちゃうと、ちょっと
聞き取りにくいかも。
研究所で飼育されている、同じまりさ種達と比べると……連中は、もっと聞き取りづら
い。発音からして、なってないヤツが多いくらいだ。
話し方も、教育で変わるんだろうか? それとも、やっぱりあの母親まりさがデタラメ
ってだけで……
らんも、決して発音が悪いわけじゃない。それでも、まりさと比べちゃうと、ちょっと
聞き取りにくいかも。
研究所で飼育されている、同じまりさ種達と比べると……連中は、もっと聞き取りづら
い。発音からして、なってないヤツが多いくらいだ。
話し方も、教育で変わるんだろうか? それとも、やっぱりあの母親まりさがデタラメ
ってだけで……
「って、あれ? そもそもなんで、ゆっくりって喋れるんだ?」
「え? ど、どういうことだ?」
「だって、喉がないじゃん、お前らって」
「うわ……!? ちょ、ちょっと、おにいさん? いきなり、だっこされると、びっくり
しちゃうぞ?」
「え? ど、どういうことだ?」
「だって、喉がないじゃん、お前らって」
「うわ……!? ちょ、ちょっと、おにいさん? いきなり、だっこされると、びっくり
しちゃうぞ?」
らんを持ち上げて、ひっくり返す。
喉は、最初からゆっくりにはないから、裏っ側──足の方を観察してみたかったんだ。
らんが喋っても、別に変化はない。
喉は、最初からゆっくりにはないから、裏っ側──足の方を観察してみたかったんだ。
らんが喋っても、別に変化はない。
「まぁ……やっぱり、見てわかるようなもんじゃないか」
元通りに、らんをちゃぶ台へと戻すと、「お兄さんはいつも急に抱っこするから、ビッ
クリする」とブツブツ言ってる。嫌そうってほどでもないから、らんは抱っこされること
自体は、嫌いじゃないみたいだけど。
声のことは……そのうち、機会があれば研究所で聞いてみようかなぁ。
クリする」とブツブツ言ってる。嫌そうってほどでもないから、らんは抱っこされること
自体は、嫌いじゃないみたいだけど。
声のことは……そのうち、機会があれば研究所で聞いてみようかなぁ。
のそりと部屋に入ってきた先輩さんが、俺に対して軽く頭を下げた。
え? あれ? 先輩さんが? 頭を下げた?
え? あれ? 先輩さんが? 頭を下げた?
「なんか、いろいろ悪かったな」
「い、いえ、まぁ……って……どうしたんすか、先輩さん?」
「い、いえ、まぁ……って……どうしたんすか、先輩さん?」
物凄く、不機嫌そうだ。
人相が悪いから、いつも不機嫌そうな顔ではあるんだけど、この人にだって表情はある。
どっちかと言えば、表情豊かな方だ。
ただ、どうにも人相が悪いから、どんな表情でも、怒ってるとか、不機嫌とか、不満そ
うだとか、そういう感じに見えちゃうってだけ。
……なんだけど……今は間違いなく、機嫌が悪い。
人相が悪いから、いつも不機嫌そうな顔ではあるんだけど、この人にだって表情はある。
どっちかと言えば、表情豊かな方だ。
ただ、どうにも人相が悪いから、どんな表情でも、怒ってるとか、不機嫌とか、不満そ
うだとか、そういう感じに見えちゃうってだけ。
……なんだけど……今は間違いなく、機嫌が悪い。
「えっと……聞かない方が、良かったっすか?」
「ん? ああ……まぁ、後でな」
「ん? ああ……まぁ、後でな」
どっかりとあぐらをかいて座ると、先輩さんはちゃぶ台の上をとんとんと指で叩いて、
まりさ親子に上へ昇るように促した。
子供達を先に昇らせ、母親まりさは後ろからサポートしつつ、昇っていく。
まりさ親子に上へ昇るように促した。
子供達を先に昇らせ、母親まりさは後ろからサポートしつつ、昇っていく。
なんとなく、らんを抱きかかえて少し先輩さん達から離れた。別に、殴られるかもとか、
そういう危険を感じたんじゃない。
なんとなく、大事な話が始まるような気がして、ちょっと身を引いたんだ。
そういう危険を感じたんじゃない。
なんとなく、大事な話が始まるような気がして、ちょっと身を引いたんだ。
しばらく、母親まりさ達を眺めていた先輩さんが、どこかつらそうに口を開いた。
「なぁ……まりさ」
「ゆ? にゃぁに、おにーしゃん?」
「いや、お前じゃなくってな?」
「ゆ? にゃぁに、おにーしゃん?」
「いや、お前じゃなくってな?」
ちっこい子供の方のまりさが返事をした。
ゆっくりは子供が出来ると、あまり名前で名乗ったり、呼ばれたりしなくなる。
それよりも、お父さんとかお母さんとか、そういうふうに名乗り、呼ばれる。お母さん
が二人なんて場合もある。
だから、母親まりさは「お母さん」であって、普段「まりさ」と呼ばれてるのは、子供
の方なんだろう。
それで、先輩さんの呼びかけにも、チビまりさの方が自分のことだと思って返事をして
しまうんだ。
しばらくキョロキョロとしてから、母親まりさがぴょこんと前へ出た。
ゆっくりは子供が出来ると、あまり名前で名乗ったり、呼ばれたりしなくなる。
それよりも、お父さんとかお母さんとか、そういうふうに名乗り、呼ばれる。お母さん
が二人なんて場合もある。
だから、母親まりさは「お母さん」であって、普段「まりさ」と呼ばれてるのは、子供
の方なんだろう。
それで、先輩さんの呼びかけにも、チビまりさの方が自分のことだと思って返事をして
しまうんだ。
しばらくキョロキョロとしてから、母親まりさがぴょこんと前へ出た。
「まりさの方ですか? なんですか、お兄さん?」
「ああ、お前らな……元の飼い主のところに、戻りたいか?」
「ゆゆ……?」
「ああ、お前らな……元の飼い主のところに、戻りたいか?」
「ゆゆ……?」
まりさ一家は、元の飼い主のところから捨てられて、先輩のところへやってきたって、
前に聞いたことがある。
先輩さんは、元の飼い主がどこに住んでいるのか、知っているのだろうか?
問いかけると、先輩さんは知っているとも知らないとも答えずに、「それよりも、まり
さ達だ」と言った。
前に聞いたことがある。
先輩さんは、元の飼い主がどこに住んでいるのか、知っているのだろうか?
問いかけると、先輩さんは知っているとも知らないとも答えずに、「それよりも、まり
さ達だ」と言った。
「まずは、まりさ達の気持ちだろ」
「まぃしゃ にょ?」
「ん? うん、まぁ……お前もだな」
「まぃしゃ にょ?」
「ん? うん、まぁ……お前もだな」
もしも、まりさ達が帰りたいと言ったら、先輩さんは元の飼い主のところへ返すのだろ
うか?
捨てた飼い主なのに? たくさんのゆっくりグッズを、買ったばかりなのに?
うか?
捨てた飼い主なのに? たくさんのゆっくりグッズを、買ったばかりなのに?
母親まりさは、考えている。ちょっと泣きそうな顔をして、「ゆ」とか「ゆ~ん」とか
唸りながら、たっぷりと考えて、先輩さんへと顔を向けた。
唸りながら、たっぷりと考えて、先輩さんへと顔を向けた。
「お兄さん。まりさ、考えたんですけど……」
「おう。どうしたいんだ?」
「おう。どうしたいんだ?」
「まりさは……まりさ達は、出て行けって言われました。出て行けって言われたのに、帰
るのは変だと思うんです」
「そうか」
るのは変だと思うんです」
「そうか」
「まりさ達……ここにいちゃ、駄目ですか?」
「そういう話じゃねぇよ。元の飼い主のところへ、戻りたいかどうかだけを聞いてんだ」
「戻らないです。戻っちゃ駄目だって……戻るのは間違ってるって、まりさは思います。
それに、まりさはお兄さんに何もお礼が出来てないです」
「そういう話じゃねぇよ。元の飼い主のところへ、戻りたいかどうかだけを聞いてんだ」
「戻らないです。戻っちゃ駄目だって……戻るのは間違ってるって、まりさは思います。
それに、まりさはお兄さんに何もお礼が出来てないです」
ふぅと溜め息を一つついて、先輩さんは「別に礼なんていらねぇよ」とぞんざいに手を
振った。
母親まりさ達の気持ちを確かめ、それによっては元の飼い主へと返す。
今日で、まりさ達とはお別れになるかもしれないという緊張のために、機嫌が悪かった
のかなぁ?
振った。
母親まりさ達の気持ちを確かめ、それによっては元の飼い主へと返す。
今日で、まりさ達とはお別れになるかもしれないという緊張のために、機嫌が悪かった
のかなぁ?
「…………」
どうも、違うみたいだ。まだ機嫌が悪い。
「小僧、ちょっといいか?」
「えっ!? な、なんですか?」
「えっ!? な、なんですか?」
立ち上がった先輩さんが、棚の中からタバコ・ライター・携帯灰皿を取り出す。先輩さ
ん、タバコ吸うんだ。
そのままダイニングへ行って、冷蔵庫から缶ジュースを二本取りだし、俺を促す。外で
話そうってことみたいだ。
らんをちゃぶ台の上に乗せ、大人しく待っているように言って先輩さんの後に付いてい
く。
ん、タバコ吸うんだ。
そのままダイニングへ行って、冷蔵庫から缶ジュースを二本取りだし、俺を促す。外で
話そうってことみたいだ。
らんをちゃぶ台の上に乗せ、大人しく待っているように言って先輩さんの後に付いてい
く。
「お兄さん……なんだか怒ってたよ……」
「そ、そうなのか? らんには、わからなかったが……」
「そ、そうなのか? らんには、わからなかったが……」
部屋を出るとき、小さな声で母親まりさ と らんが話しているのが聞こえた。
まりさにも、先輩さんが不機嫌だってことはわかったらしい。
まりさにも、先輩さんが不機嫌だってことはわかったらしい。
「……ふぅ」
外に出ると、もう先輩さんはタバコに火を付けて咥え、しゃがみ込んでいた。
「悪いな、ホント。今日はなんだか、面倒くせぇことばっかで」
「いえ……まぁ、たいしたことじゃないですよ。大荷物を持って歩いてきたのは、疲れま
したけど」
「あ~……それに関しちゃ、ホント悪かった」
「いえ……まぁ、たいしたことじゃないですよ。大荷物を持って歩いてきたのは、疲れま
したけど」
「あ~……それに関しちゃ、ホント悪かった」
言いながら、先輩さんが缶ジュースを差し出してくる。すでに一本頂いちゃってるから
と断ると、何本でも飲めと押しつけてきた。
それじゃ、ありがたく頂いておこうかなぁ。
と断ると、何本でも飲めと押しつけてきた。
それじゃ、ありがたく頂いておこうかなぁ。
「まりさ達の、元飼い主な……アイツらが俺の家に転がり込んできたその日に、どこに住
んでるかは知れたんだよ」
んでるかは知れたんだよ」
この先輩さんのアパートから、それほど遠くないのだという。
でもその時は、ペットを捨てた無責任な人間としか考えていなかったから、まりさ達を
戻す気は無かったらしい。
それどころか、ちょっとは面倒くさい目に遭えばいいと思って、野良ゆっくりを一匹、
その家の敷地へ放り込んだのだという。
なんてことをするんだ、この人。
でもその時は、ペットを捨てた無責任な人間としか考えていなかったから、まりさ達を
戻す気は無かったらしい。
それどころか、ちょっとは面倒くさい目に遭えばいいと思って、野良ゆっくりを一匹、
その家の敷地へ放り込んだのだという。
なんてことをするんだ、この人。
「……やっぱ、良くなかったか?」
「ウンコを漏らして、そのパンツごと放り込んだようなもんですよ」
「どんな喩えだよ……ゴリラじゃねぇんだから、ウンコなんか投げねぇって」
「んじゃ、腐った生ゴミを放り込んだようなもんだって言えば、わかりますか?」
「臭ぇし、後始末が面倒だな……ああ、ウンコもそうか」
「そうですよ。バレたら、訴えられるかもしれないっすよ?」
「そりゃ、面倒くせぇなぁ」
「ウンコを漏らして、そのパンツごと放り込んだようなもんですよ」
「どんな喩えだよ……ゴリラじゃねぇんだから、ウンコなんか投げねぇって」
「んじゃ、腐った生ゴミを放り込んだようなもんだって言えば、わかりますか?」
「臭ぇし、後始末が面倒だな……ああ、ウンコもそうか」
「そうですよ。バレたら、訴えられるかもしれないっすよ?」
「そりゃ、面倒くせぇなぁ」
まぁ、今のところバレた様子はないらしいんだけど……今後は、冗談でもやらない方が
良いと思う。
良いと思う。
それにしても、まりさ達を戻す気がなかったのなら、どうしてあんなことを聞いたんだ
ろう?
ろう?
「あいつらにもな、自分の意志ってもんがあるみたいだから」
だから、確認しようと思ったのだという。
完全とは言えないものの、チビ二匹の治療も済んだ。かなり、癒えてきてもいる。頃合
いとしては、悪くないと思ったらしい。
ただしそれは、まりさ達の意思確認に関してだけの話。
完全とは言えないものの、チビ二匹の治療も済んだ。かなり、癒えてきてもいる。頃合
いとしては、悪くないと思ったらしい。
ただしそれは、まりさ達の意思確認に関してだけの話。
「どうもな……飼い主のオッサン、良くねぇ感じなんだよ」
「え……?」
「え……?」
先輩さんが何歳かは知らないけど、20代後半かなぁ? でも、見た目や雰囲気だけで
言えばわりとオッサン臭い。その先輩さんから「オッサン」呼ばわりされるって、まりさ
の元飼い主は何歳なんだろ? 間違いなく社会人で、それなりの立場の人だったりして。
そんな人が……しっかりしていておかしくない年代の人が、「良くない」ってのは……
どういう意味でなのかなぁ?
まさか、健康状態が良くない……とか?
言えばわりとオッサン臭い。その先輩さんから「オッサン」呼ばわりされるって、まりさ
の元飼い主は何歳なんだろ? 間違いなく社会人で、それなりの立場の人だったりして。
そんな人が……しっかりしていておかしくない年代の人が、「良くない」ってのは……
どういう意味でなのかなぁ?
まさか、健康状態が良くない……とか?
「野良のゆっくりをな、とっ捕まえてた。俺が見たのは、今日で三回目だ」
なんだ。少なくとも、元気みたいだ。
野良ゆっくりを、捕まえる。
理由は、いろいろ思いつけるんじゃないかなぁ? たとえば、町の美化のためにとか。
でも、俺がそうだからかも知れないけど……一番に考えられる理由は「虐待のため」。
理由は、いろいろ思いつけるんじゃないかなぁ? たとえば、町の美化のためにとか。
でも、俺がそうだからかも知れないけど……一番に考えられる理由は「虐待のため」。
「やっぱ、そう思うか? その辺のことは、俺なんかよりも小僧の方が詳しそうだから、
ちょっと意見を聞きたくてな」
ちょっと意見を聞きたくてな」
先輩さんが言うには、まりさ親子の元飼い主は、家までの帰り道に見かけた野良ゆっく
りを捕まえて、ナップザックに押し込めていたのだという。
どうやら、下調べなんかをしてる様子はないらしいし、自分に対して何かしでかしたと
いうわけでもなかったとか。
今日、捕まえていたのは二匹のゆっくり──たぶん番いじゃないかなぁ?──が、ギャ
ーギャー言うのに対して、いちいち「野良だからだ」「野良だから悪い」と返していたら
しい。
りを捕まえて、ナップザックに押し込めていたのだという。
どうやら、下調べなんかをしてる様子はないらしいし、自分に対して何かしでかしたと
いうわけでもなかったとか。
今日、捕まえていたのは二匹のゆっくり──たぶん番いじゃないかなぁ?──が、ギャ
ーギャー言うのに対して、いちいち「野良だからだ」「野良だから悪い」と返していたら
しい。
「蹴っ転がして捕まえながら、ブツブツ言ってる様子もちょっと気持ち悪かったけど……
それ以上にな、嫌な目をしてたんだよ」
「嫌な目って、どんな目ですか?」
「どんなって、そりゃ……嫌な目は、いや~な目つきのことだよ」
それ以上にな、嫌な目をしてたんだよ」
「嫌な目って、どんな目ですか?」
「どんなって、そりゃ……嫌な目は、いや~な目つきのことだよ」
先輩さんにも、上手く説明できないみたいだ。それでも何か、気にくわないものを感じ
る目つきだったってことらしい。
る目つきだったってことらしい。
「俺には、どうにも判断つかなくてな。いっちょ、ご意見を拝聴させちゃくれねぇか?」
さっきまで怖いくらい不機嫌そうな様子だったけど、話しただけで多少は気が済んだの
か、かなりマシな感じになってきた。
ちょっと苦笑を浮かべてる先輩さんに、こっちもホッと安心の溜め息が漏れた。
怖ぇんだもん、この人の怒り顔。
か、かなりマシな感じになってきた。
ちょっと苦笑を浮かべてる先輩さんに、こっちもホッと安心の溜め息が漏れた。
怖ぇんだもん、この人の怒り顔。
「ご意見って言われても……参考になるか、わかりませんよ?」
それでも良いからと言ってくる先輩さんに、らんと一緒にいろいろなレポートを読んで
いることや、最近気になりだしていることを、簡単にではあるけど話してみた。
面白い虐待をする人達。研究所の人と同じか、それ以上の技術と知識を持った人達。
制裁派と呼ばれる人達のこと。愉虐派と呼ばれる人達のこと。それぞれの考え方の違い
と、それぞれが危惧していること。
いることや、最近気になりだしていることを、簡単にではあるけど話してみた。
面白い虐待をする人達。研究所の人と同じか、それ以上の技術と知識を持った人達。
制裁派と呼ばれる人達のこと。愉虐派と呼ばれる人達のこと。それぞれの考え方の違い
と、それぞれが危惧していること。
「やっぱ、参考になりませんよね? すいません」
「なんで謝んだよ? 十分参考になったって。あんがとな」
「……どの辺がっすか?」
「ん? 理由があれば、それで良いってもんじゃねぇよな……とかさ」
「なんで謝んだよ? 十分参考になったって。あんがとな」
「……どの辺がっすか?」
「ん? 理由があれば、それで良いってもんじゃねぇよな……とかさ」
先輩さん自身も、理由があれば……自分が納得いくのなら、それがたとえ自分自身にと
ってどれほど嫌な行為であっても、平気なフリをしてやってのける自信はあるのだとか。
でも、どんな理由があっても、自分には納得できていたとしても、それで他の人の迷惑
にならないとは言い切れない。
ってどれほど嫌な行為であっても、平気なフリをしてやってのける自信はあるのだとか。
でも、どんな理由があっても、自分には納得できていたとしても、それで他の人の迷惑
にならないとは言い切れない。
「じゃあ、誰にも迷惑をかけないで生きてけるかっつーと、そうでもねぇだろ? まぁ、
折り合いの付け方なんだろうなぁ……難しいもんだ」
折り合いの付け方なんだろうなぁ……難しいもんだ」
先輩さんの顔は、すっかり気楽な薄笑いになってる。声の調子も気楽そのものだから、
ちっとも難しそうに聞こえない。真剣に考えてる様子が、まるでない。
でも、そういうもんなのかもね。
ちっとも難しそうに聞こえない。真剣に考えてる様子が、まるでない。
でも、そういうもんなのかもね。
制裁派の人達の折り合いの付け方ってのは「せめて周りに迷惑な野良を退治する」こと。
愉虐派の人達の折り合いの付け方ってのは「絶対に他の人間には迷惑をかけない」こと。
愉虐派の人達の折り合いの付け方ってのは「絶対に他の人間には迷惑をかけない」こと。
だけど、先輩さんは「理由があればいいってもんじゃない」って言った。愉虐派の人達
も、理由に逃げるなと言っている。理由があれば、他人に迷惑をかけてもいいというふう
に、なりかねないからだ。
先輩さんは「誰にも迷惑をかけないで生きられるもんじゃない」って言った。制裁派の
人達も、キチンと潰さないと後々で他の人に迷惑が掛かると言っている。そもそも、どん
なに気を遣っても、どこかで誰かに迷惑はかけてしまうものなんだろう。
も、理由に逃げるなと言っている。理由があれば、他人に迷惑をかけてもいいというふう
に、なりかねないからだ。
先輩さんは「誰にも迷惑をかけないで生きられるもんじゃない」って言った。制裁派の
人達も、キチンと潰さないと後々で他の人に迷惑が掛かると言っている。そもそも、どん
なに気を遣っても、どこかで誰かに迷惑はかけてしまうものなんだろう。
結局は、どっちも正しくって、どうにも難しいんだ。
「先輩さんの言うとおり、難しいっすけど……個人的な意見、一個いいっすか?」
「ん? なんだよ?」
「まりさ達は、返すべきじゃないと思います」
「ん? なんだよ?」
「まりさ達は、返すべきじゃないと思います」
ゆっくりだろうが、飼ってたものを捨てるのは良くない。俺だってそう思う。
ゆっくりを捨てた人間が、野良ゆっくり狩りなんて初めて、それこそ「なにを今さら」
としか思えない。
ゆっくり虐めが癖になってたとしたら……楽しくて仕方ないのだとしたら、たとえ元は
可愛がっていたまりさ達でも、虐めの標的にされるかもしれないし。
ゆっくりを捨てた人間が、野良ゆっくり狩りなんて初めて、それこそ「なにを今さら」
としか思えない。
ゆっくり虐めが癖になってたとしたら……楽しくて仕方ないのだとしたら、たとえ元は
可愛がっていたまりさ達でも、虐めの標的にされるかもしれないし。
「んじゃ小僧も、らんのことを虐めたくなるのか?」
「いや、俺の場合はいろいろと違うでしょ? らんは、研究所から預かってるようなもん
ですし」
「いや、俺の場合はいろいろと違うでしょ? らんは、研究所から預かってるようなもん
ですし」
それに、アイツに対しては不思議とムカついたことはない。考えすぎだろうとか、気に
しすぎだとか、呆れることはあっても、それがイライラにも繋がらない。
我ながら、ちょっと不思議だけど……らんが普通のゆっくりとは違って、ちょっと変な
ヤツだからかなぁ?
しすぎだとか、呆れることはあっても、それがイライラにも繋がらない。
我ながら、ちょっと不思議だけど……らんが普通のゆっくりとは違って、ちょっと変な
ヤツだからかなぁ?
「ふ~ん……まぁ、返す気は端からねぇよ。あの目はやっぱ、気にくわねぇからな」
ボソッと呟いて、先輩さんが立ち上がる。こっちを見下ろしてきて、笑いかけてきた。
「学者はもちろん、研究所で俺が見た人達も……それに小僧、お前も。ああいう目をして
ないから、大丈夫だろうよ」
ないから、大丈夫だろうよ」
何が、大丈夫なんだろう?
逆に言えば、元飼い主は何が大丈夫じゃない……危ないんだろう?
気になる。
先輩さんが見た元飼い主って、どんな目をしていたのかなぁ? そんなに、やばい目つ
きをしていたってこと?
逆に言えば、元飼い主は何が大丈夫じゃない……危ないんだろう?
気になる。
先輩さんが見た元飼い主って、どんな目をしていたのかなぁ? そんなに、やばい目つ
きをしていたってこと?
先輩さんに促されて、部屋の中へと戻ることにした。その時にまた、「あんがとな」と
礼を言われて、どうにも落ち着かない気分になる。
たいしたことはしてないし、言ってないっていうのもあるけど……
礼を言われて、どうにも落ち着かない気分になる。
たいしたことはしてないし、言ってないっていうのもあるけど……
なんとなく、この先輩さんって人には傍若無人でいてもらわないと、落ち着かない感じ
だ。
だ。
*** *** *** ***
部屋に戻ると、先輩さんはまたちゃぶ台の上のまりさ親子と向き合った。
俺も、らんを抱きかかえてちょっと離れる。なんだか、さっきとは別の雰囲気で、大事
な話が始まりそうだったから。
俺も、らんを抱きかかえてちょっと離れる。なんだか、さっきとは別の雰囲気で、大事
な話が始まりそうだったから。
「さて、と。これからも、お前らは俺に飼われる身。今後も、ここで厄介になるってこと
で、良いんだな? まりさ」
「ゆんっ! まぃしゃ、おにーしゃん にょ、かい ゆっきゅぃ だよ。まぃしゃ しょにょ
ほうが いいよ!」
「いや、まぁ、お前のことでもあるんだけど……そっか、その方が良いか」
で、良いんだな? まりさ」
「ゆんっ! まぃしゃ、おにーしゃん にょ、かい ゆっきゅぃ だよ。まぃしゃ しょにょ
ほうが いいよ!」
「いや、まぁ、お前のことでもあるんだけど……そっか、その方が良いか」
「りぇいみゅも! りぇいみゅも、おにいしゃんと いっしょが いいの! おかあしゃん
のことも、おねえちゃん たちも、まりしゃも、りぇいみゅは だいしゅきなの! おんな
じくりゃい、おにいしゃん のことが だいしゅきなの!」
「お、おう、そうか。あんがとよ」
のことも、おねえちゃん たちも、まりしゃも、りぇいみゅは だいしゅきなの! おんな
じくりゃい、おにいしゃん のことが だいしゅきなの!」
「お、おう、そうか。あんがとよ」
「ありす も、そう おもうわ! おにーさんは、みぇいわく かも しりぇないきぇど……
でも おにーさん と いっしょなら、おかーさんも うりぇしい と おもうの。おかーさん
だきぇだと、ありすたちが いっぱい みぇいわく かきぇちぇ、たいひぇんだもの」
「なるほど。まぁ……親孝行者だな、お前は」
でも おにーさん と いっしょなら、おかーさんも うりぇしい と おもうの。おかーさん
だきぇだと、ありすたちが いっぱい みぇいわく かきぇちぇ、たいひぇんだもの」
「なるほど。まぁ……親孝行者だな、お前は」
「んほっ! んほ~、んほぅほほ~う!」
「ん? 恩返しって言いてぇのか? ガキのくせに難しいこと考えてんな、お前」
「ん? 恩返しって言いてぇのか? ガキのくせに難しいこと考えてんな、お前」
先輩さんは母親まりさに話しかけたんだと思うけど、チビまりさが返事をして、それに
続いてチビ達が次々と喋りかけている。
その一つ一つを、キチンと先輩さんは聞き分けられてるみたいだ。
まぁ、俺もバイトで慣れたせいか、ゆっくり達が何を言ってるのかは聞き分けられる。
それがチビ共の赤ちゃん言葉でも、結構わかるようになってはいるけど……
「んほんほ」としか声が出ない、チビありすの片方が言いたいことまで、しっかり理解
してるってのは……なんていうか、凄いというか……むしろ、変じゃないかなぁ?
なんで、わかるんだろ?
続いてチビ達が次々と喋りかけている。
その一つ一つを、キチンと先輩さんは聞き分けられてるみたいだ。
まぁ、俺もバイトで慣れたせいか、ゆっくり達が何を言ってるのかは聞き分けられる。
それがチビ共の赤ちゃん言葉でも、結構わかるようになってはいるけど……
「んほんほ」としか声が出ない、チビありすの片方が言いたいことまで、しっかり理解
してるってのは……なんていうか、凄いというか……むしろ、変じゃないかなぁ?
なんで、わかるんだろ?
「ゆゆ~……まりさのおチビちゃん達、みんな良い子で……まりさ、感動です!」
「お前に聞いたんだよ、俺は。まりさは、それで良いんだな?」
「お前に聞いたんだよ、俺は。まりさは、それで良いんだな?」
先輩さんが、母親まりさに改めて確認する。座り直してまでキッチリと向き直ったのに、
「まりさ」という呼びかけに、またチビの方が反応する。
「まりさ」という呼びかけに、またチビの方が反応する。
「ゆ? まぃしゃ いいってゆったよ? おにーしゃんと いっしょ にょ ほうが いいよ?」
「ああ、うん……お前は言ったよな、そうだよなぁ……面倒くせぇなぁ、もう!」
「ああ、うん……お前は言ったよな、そうだよなぁ……面倒くせぇなぁ、もう!」
同じ種類のゆっくりを多頭飼いしてる人とかは、あんまり聞いたことがない。いるのか
なぁ? いたとしたら……やっぱり、面倒くさいだろうなぁ。
なぁ? いたとしたら……やっぱり、面倒くさいだろうなぁ。
「ゆ? …………あ! まりさの方でしたか!?」
「そう言ってるだろうが。って、どっちも『まりさ』だから面倒くせぇんだけどさ」
「ゆゆ? …………ほ、本当だっ!? まりさもこのおチビちゃんも、どっちも『まりさ』
でした!」
「今さらかよ……」
「そう言ってるだろうが。って、どっちも『まりさ』だから面倒くせぇんだけどさ」
「ゆゆ? …………ほ、本当だっ!? まりさもこのおチビちゃんも、どっちも『まりさ』
でした!」
「今さらかよ……」
いや。
いやいやいやいや?
先輩さんはわかってないみたいだけど、それはとんでもなくデタラメに凄いことっすよ?
ゆっくりにとっては、それが当たり前なんだから。
「自分は、まりさ」「あなたは、まりさ」……そう呼び合って、何も違和感を感じない
連中なんだ。それを変だ、おかしい、ややこしいと指摘しても、ゆっくり達は何を変なこ
とを言ってるんだという顔をする。
自分も、自分の子供も、同じ『まりさ』。同じ名前だから、面倒くさい、こんがらがる。
そんなことを理解できるゆっくりなんて、見たことはない。
いやいやいやいや?
先輩さんはわかってないみたいだけど、それはとんでもなくデタラメに凄いことっすよ?
ゆっくりにとっては、それが当たり前なんだから。
「自分は、まりさ」「あなたは、まりさ」……そう呼び合って、何も違和感を感じない
連中なんだ。それを変だ、おかしい、ややこしいと指摘しても、ゆっくり達は何を変なこ
とを言ってるんだという顔をする。
自分も、自分の子供も、同じ『まりさ』。同じ名前だから、面倒くさい、こんがらがる。
そんなことを理解できるゆっくりなんて、見たことはない。
「で? いいのか? ここで厄介になり続けるってことで」
「はい! まりさも、その方が良いです! だから、お願いしたいですけど……えっと、
お兄さんが、嫌じゃなければなんですけど……」
「嫌だろうが面倒くさかろうが、捨てられて野良になってたお前らに、餌をやっちゃった
んだ。その責任は取らなきゃならねぇんだよ」
「ごはんあげたら、責任取らなきゃ駄目なんですか?」
「ああ、そういうもんだ。責任取れねぇのなら、冷たいようでも野良には一切関わっちゃ
駄目なんだよ」
「ゆゆっ……! わ、わかりました! まりさも、気をつけます!」
「はい! まりさも、その方が良いです! だから、お願いしたいですけど……えっと、
お兄さんが、嫌じゃなければなんですけど……」
「嫌だろうが面倒くさかろうが、捨てられて野良になってたお前らに、餌をやっちゃった
んだ。その責任は取らなきゃならねぇんだよ」
「ごはんあげたら、責任取らなきゃ駄目なんですか?」
「ああ、そういうもんだ。責任取れねぇのなら、冷たいようでも野良には一切関わっちゃ
駄目なんだよ」
「ゆゆっ……! わ、わかりました! まりさも、気をつけます!」
ゆっくりであるまりさが、今の話から何をどう気をつけるって言うのか、謎だけど。
「とりあえず、面倒くせぇのを解決するか」
鼻から息を吹き出して、先輩さんがポツリと呟く。一体何のことかと聞くと、名前だと
答えてきた。
それを聞いた母親まりさが、体を横に傾けた。
答えてきた。
それを聞いた母親まりさが、体を横に傾けた。
「ゆ? お名前ですか?」
「そうだよ。お前らは、まりさなら『まりさ』、れいむは『れいむ』、ありすは『ありす』
で、みんな同じ名前じゃねぇか。面倒くせぇよ」
「そうだよ。お前らは、まりさなら『まりさ』、れいむは『れいむ』、ありすは『ありす』
で、みんな同じ名前じゃねぇか。面倒くせぇよ」
だから、それぞれに名前を付けるんだ、と先輩さんが言う。
母親まりさは、同じ名前だと困ることがあるってのを、理解したみたいだけど……新し
い名前ってのを、受け入れられるのかなぁ?
母親まりさは、同じ名前だと困ることがあるってのを、理解したみたいだけど……新し
い名前ってのを、受け入れられるのかなぁ?
「にゃまえって、にゃぁに? しょれ、どんにゃにょ? たべもにょ にゃにょ?」
「食い物じゃねぇよ」
「食い物じゃねぇよ」
問いかけてきたチビまりさを手にとって「お前からにするか」と先輩さんは首を傾げた。
チビまりさも、その先輩さんをマネしているのか、体を傾けている。
母親まりさが、何が始まるのかと不安そうな様子で先輩さんに声をかける。
チビまりさも、その先輩さんをマネしているのか、体を傾けている。
母親まりさが、何が始まるのかと不安そうな様子で先輩さんに声をかける。
「お、お兄さん? あの……お名前って、どういうことですか? おチビちゃんに、何を
するんですか?」
「だから、お前ら一匹一匹に、別々の名前を付けるんだよ。みんなと同じ名前じゃなくて、
自分だけの名前だ」
「ゆ……? 自分だけの、お名前? それって、まりさだけのお名前ですか?」
するんですか?」
「だから、お前ら一匹一匹に、別々の名前を付けるんだよ。みんなと同じ名前じゃなくて、
自分だけの名前だ」
「ゆ……? 自分だけの、お名前? それって、まりさだけのお名前ですか?」
「自分だけの名前」と言うのが、今ひとつ理解できないのか、母親まりさは不思議なこ
とを聞いたという様子で、しきりに体を左右に動かしている。
その母親まりさに、いちいち説明をせずに、先輩さんは持ち上げたチビまりさをジッと
見つめ、しばらく考え込んだ。
とを聞いたという様子で、しきりに体を左右に動かしている。
その母親まりさに、いちいち説明をせずに、先輩さんは持ち上げたチビまりさをジッと
見つめ、しばらく考え込んだ。
「お前は……そうだな。コマリにしよう」
「ゆ? こまぃ? こまぃって、にゃに?」
「お前の名前。漢字で書くと、小さな鞠……って、わかんねぇか。ちっこいボールだ」
「まぃしゃ、ぼーゆしゃん じゃ にゃいよ?」
「わかってるよ。小さなボールみたいに、コロコロして可愛いって意味でつける名前なん
だよ、小鞠ってのは」
「ゆ? こまぃ? こまぃって、にゃに?」
「お前の名前。漢字で書くと、小さな鞠……って、わかんねぇか。ちっこいボールだ」
「まぃしゃ、ぼーゆしゃん じゃ にゃいよ?」
「わかってるよ。小さなボールみたいに、コロコロして可愛いって意味でつける名前なん
だよ、小鞠ってのは」
子供のまりさだから『子まり』なんじゃないかなぁ? それとも、親と同じ名前で困ら
せてくれたから、『困り』とか?
なんせ、俺のあだ名を『小僧』にしちゃう人なんだから。
それとも、一応は自分で面倒を見るペットだから、先輩さんなりに頑張って名前を考え
てやってるのかなぁ?
せてくれたから、『困り』とか?
なんせ、俺のあだ名を『小僧』にしちゃう人なんだから。
それとも、一応は自分で面倒を見るペットだから、先輩さんなりに頑張って名前を考え
てやってるのかなぁ?
「ゆんっ! まぃしゃ、こりょこりょして かわいいにょ? まぃしゃ、かわいいにょ?」
「お母さんも、そう思うよ! まりさは、とってもゆっくりしてて、コロコロ可愛いよ!」
「お母さんも、そう思うよ! まりさは、とってもゆっくりしてて、コロコロ可愛いよ!」
先輩さんが「まりさじゃなくて、コマリだ」と、まりさ親子に繰り返し言う。母親まり
さも、そうでした! と軽く跳ねて、チビに優しく語りかけた。
さも、そうでした! と軽く跳ねて、チビに優しく語りかけた。
「コマリだよ。まりさのお名前は、コマリ!」
「まぃしゃ にょ、おにゃまえ……まぃしゃ にょ? しょれが、おにゃまえ? まぃしゃ
だけ にょ、おにゃまえ?」
「まぃしゃ にょ、おにゃまえ……まぃしゃ にょ? しょれが、おにゃまえ? まぃしゃ
だけ にょ、おにゃまえ?」
「だから、まりさじゃねぇって」
「そうでした! ほら、コマリ! コマリはコマリだよ!」
「そうでした! ほら、コマリ! コマリはコマリだよ!」
お手本のように、母親まりさが言う。
チビまりさも、新しく付けられた名前を練習のように繰り返し口にして、嬉しそうに笑
い出した。
チビまりさも、新しく付けられた名前を練習のように繰り返し口にして、嬉しそうに笑
い出した。
「コマぃ……コマぃ! コマぃは、コマぃだよ! コマぃだけにょ おにゃまえだよ!」
その様子を見て、他のチビ達は羨ましく思ったらしい。自分も自分もと騒ぎ出した。
「ゆ~……いいなぁ……りぇいみゅも! りぇいみゅにも、りぇいみゅ だけの おなまえ、
ちょうだいね!」
「ありすにも、おにぇがい! ありすだっちぇ、ありすだきぇの とかいはな おなまえが
ほしいわ!」
「んほ~~っ! んほっ! んほぉほぅおおおん!」
ちょうだいね!」
「ありすにも、おにぇがい! ありすだっちぇ、ありすだきぇの とかいはな おなまえが
ほしいわ!」
「んほ~~っ! んほっ! んほぉほぅおおおん!」
新しい名前を喜んで受け入れ、他の連中もそれを羨ましがっている。
研究所のゆっくりは、ナンバータグで個体識別されているし、俺も別に名前を付けよう
なんて考えたことがないからかもしれないけど……
ゆっくりの、名付けの瞬間なんて初めて見た。
名前をもらって喜ぶゆっくりも、初めて見た。
コイツら、本当に名前ってものを理解してるのかな?
理解して、喜んでるんだとしたら……やっぱり、デタラメな連中な気がする。
研究所のゆっくりは、ナンバータグで個体識別されているし、俺も別に名前を付けよう
なんて考えたことがないからかもしれないけど……
ゆっくりの、名付けの瞬間なんて初めて見た。
名前をもらって喜ぶゆっくりも、初めて見た。
コイツら、本当に名前ってものを理解してるのかな?
理解して、喜んでるんだとしたら……やっぱり、デタラメな連中な気がする。
「ゆっ、ゆっくり落ち着いてね、おチビちゃん達! 慌てなくてもお、兄さんがこれから
ちゃんとお名前をくれるからね。ゆっくりお行儀良くしようね?」
ちゃんとお名前をくれるからね。ゆっくりお行儀良くしようね?」
母親まりさがチビ達を宥め、一列に並ばせた。
先に名付けてもらったチビまりさ──コマリは、嬉しげに何度も自分の名前を口にして、
母親まりさに頬ずりをしている。
先に名付けてもらったチビまりさ──コマリは、嬉しげに何度も自分の名前を口にして、
母親まりさに頬ずりをしている。
順々に、先輩さんはしばらく悩んで、考え込んだ後に、名前を付けていった。
れいむには、『コスズ』。きっと、子供のれいむだから「子れい」。でも語呂が悪いか
ら、「子鈴」って漢字で「こすず」……とか考えたんじゃないかなぁ?
小さなチリンチリンとか言って、説明していたから。
ちゃんと喋れる方の ありす には、『チアリ』。これはたぶん、「チビありす」を略し
たものだろうなぁ。
都会派な感じが良いんだろうとしか、説明しなかった。チアリも、それで満足したみた
いだ。
れいむには、『コスズ』。きっと、子供のれいむだから「子れい」。でも語呂が悪いか
ら、「子鈴」って漢字で「こすず」……とか考えたんじゃないかなぁ?
小さなチリンチリンとか言って、説明していたから。
ちゃんと喋れる方の ありす には、『チアリ』。これはたぶん、「チビありす」を略し
たものだろうなぁ。
都会派な感じが良いんだろうとしか、説明しなかった。チアリも、それで満足したみた
いだ。
そして、残る一匹。
異常発情が原因で、んほんほしか言えなくなったチビありすを摘み上げて、先輩さんは
首を傾げ続けている。
異常発情が原因で、んほんほしか言えなくなったチビありすを摘み上げて、先輩さんは
首を傾げ続けている。
「うぅぅん……」
「んほぉぉお?」
「んほぉぉお?」
思いつかない……って感じじゃなさそうだなぁ。先輩さん、なんだか申し訳なさそうな
顔をしてるし。
きっと、あんまりな名前しか思いつかなかったに違いない。
顔をしてるし。
きっと、あんまりな名前しか思いつかなかったに違いない。
「……んほ介」
「ぶはっ!!」
「なんで笑うんだよっ!」
「ぶはっ!!」
「なんで笑うんだよっ!」
いや、笑いますよ。そりゃ、あんまり過ぎます。いくらなんでも、そのまま過ぎるし、
それが名前じゃ惨いでしょうに。
そう思ったんだけど、当の ありす は先輩さんの手の上で、クネクネと体を揺らして、
嬉しそうな声を上げた。
それが名前じゃ惨いでしょうに。
そう思ったんだけど、当の ありす は先輩さんの手の上で、クネクネと体を揺らして、
嬉しそうな声を上げた。
「んほ? んほっ! んほぉおおおおう♪」
「お、おい……まさか、気に入ったのか?」
「お、おい……まさか、気に入ったのか?」
嘘だろ……と、呆れてしまう。
名付けた先輩さん自身だって、まさか気に入られるとは思ってなかったみたいだ。
ひょっとして、異常発情の時の熱量がどうとかって影響で、考え方とか価値観にも異常
が出ちゃってるのかなぁ?
名付けた先輩さん自身だって、まさか気に入られるとは思ってなかったみたいだ。
ひょっとして、異常発情の時の熱量がどうとかって影響で、考え方とか価値観にも異常
が出ちゃってるのかなぁ?
母親まりさが、何度も体を左右に揺らして……人間で言えば、繰り返し首を傾げて、恐
る恐る先輩さんに確認する。
る恐る先輩さんに確認する。
「ん、ンホスケ、ですか? この子のお名前……なんだか言いにくいです」
「ま、まぁ……こいつ自身が気に入ってるみたいだし、いいだろ」
「ま、まぁ……こいつ自身が気に入ってるみたいだし、いいだろ」
「んほっ、んほほぉおおん♪」
本当に気に入ってるみたいだ。
いろいろとデタラメな、変わり者のゆっくり一家だけど、中でもコイツが一番変わって
るのかも……
いろいろとデタラメな、変わり者のゆっくり一家だけど、中でもコイツが一番変わって
るのかも……
その、んほ介をちゃぶ台において、先輩さんが母親まりさに向き直った。
「あとは、お前の名前だな」
「え? …………ほ、本当だっ!? まりさのお名前、まだでした!」
「もう、まりさじゃないからな。そのつもりでいろ」
「はい!」
「え? …………ほ、本当だっ!? まりさのお名前、まだでした!」
「もう、まりさじゃないからな。そのつもりでいろ」
「はい!」
またまた、先輩さんが考え込み始める。母親まりさの前や後ろを見回して、持ち上げて
までして、あれこれ考えている。
んほ介の時とは違って、本当に思いつかないみたいだ。
までして、あれこれ考えている。
んほ介の時とは違って、本当に思いつかないみたいだ。
「母親……ママ……ま……まま……ままりさ?」
「ぷっ……!」
「だから、笑うなって」
「ぷっ……!」
「だから、笑うなって」
先輩さんのネーミングセンスなんて、きっとそんなものなんだろう。コマリにコスズに
チアリ、この辺りは上手く思いついた方だろうけど。
チアリ、この辺りは上手く思いついた方だろうけど。
「まり……まり、あ? 駄目か。これじゃ、どっかから怒られそうだよな?」
「まぁ、さすがに聖母と同じ名前ってのは、どうかと思いますねぇ」
「だよなぁ? ん~……まぁ~……まぁ~……」
「まぁ、さすがに聖母と同じ名前ってのは、どうかと思いますねぇ」
「だよなぁ? ん~……まぁ~……まぁ~……」
難しい顔で悩み続ける先輩さんを見かねたのか、母親まりさが声を出した。
「あの……まりさの名前、そんなに難しいですか? まりさは、まりさのままでも、別に
いいですよ?」
いいですよ?」
母親まりさの声に、ちょっと残念そうな響きがあった。母親まりさも、自分だけのお名
前ってのが欲しいみたいだ。
前ってのが欲しいみたいだ。
「良くねぇ、もうちょっと考えさせろ。う~ん……ま……ま、つ?」
「……まつ? 待つんですか? まりさ、大人しく待ちますっ!」
「……まつ? 待つんですか? まりさ、大人しく待ちますっ!」
まりさから視線を外して、天井を見上げてブツブツ言った後、先輩さんは大きく頷いた。
「よし……! お前の名前は、マツリだ!」
「まつり? まりさ、マツリなんですか!」
「まりさじゃなくて、マツリだ」
「まつり? まりさ、マツリなんですか!」
「まりさじゃなくて、マツリだ」
賑やかで、楽しいお祭りのこと。確かにその通りだけど……“後の祭り”って意味の方
が大きいんじゃないかなぁ?
が大きいんじゃないかなぁ?
「マツリ……マツリ。わかりました! マツリはマツリです!」
「良く出来ました」
「良く出来ました」
マツリもちゃぶ台に戻して、先輩さんは一仕事終えたみたいに大きな溜め息をついた。
こっちを向いて、苦笑いを浮かべる。
こっちを向いて、苦笑いを浮かべる。
「問題は、俺が憶えていられるかだなぁ」
「いや、先輩さんが自分で名付けたんでしょ? 憶えておきましょうよ」
「いや、先輩さんが自分で名付けたんでしょ? 憶えておきましょうよ」
さすがに大丈夫だと思うけど、それでも心配だと先輩さんは溜め息をついた。
自分が、どれだけ人の名前を憶えるのが下手なのか、自覚はあるみたいだけど……だっ
たら、それなりの努力をすればいいのに。
自分が、どれだけ人の名前を憶えるのが下手なのか、自覚はあるみたいだけど……だっ
たら、それなりの努力をすればいいのに。
「なんとかなってるんだから、それで良いじゃねぇか」
失礼に当たるってのは、問題にはならないんだろうか……俺なんかはまだ学生で、ただ
のバイトだけど、そのレベルでも誰かの名前を忘れちゃったりしたら、不便だったり失礼
に思えたりと、気を遣うんだけどなぁ。
けどまぁ、先輩さんがこういう人だって理解しちゃうと、名前を憶えてもらえずに変な
あだ名で呼ばれることも、なんとなく受け入れて慣れていっちゃうのかも。
他でもない俺自身だって、そうなんだしね。
のバイトだけど、そのレベルでも誰かの名前を忘れちゃったりしたら、不便だったり失礼
に思えたりと、気を遣うんだけどなぁ。
けどまぁ、先輩さんがこういう人だって理解しちゃうと、名前を憶えてもらえずに変な
あだ名で呼ばれることも、なんとなく受け入れて慣れていっちゃうのかも。
他でもない俺自身だって、そうなんだしね。
「マツリ」
「ゆ? は、はい! マツリはマツリでした! なんですか、お兄さん?」
「チアリ」
「なぁに、おにーさん? うふふ、じぶん だきぇの おなまえっちぇ、ちあり、なんだか
うきうきしちゃうわ! こりぇが とかいはっちぇ ことなのかしら!?」
「コスズ」
「ゆんっ! コスズだよ! コスズはコスズだよ! コスズってね、コスズだけ の おな
まえ なの!」
「コマリ」
「まぃしゃにょことだよにぇ! あ……ちがったよにぇ? まぃしゃ じゃ にゃきゅて、
コマぃだよ! コマぃはコマぃだよ!」
「んほ介」
「んほっ! んほ~う♪」
「ゆ? は、はい! マツリはマツリでした! なんですか、お兄さん?」
「チアリ」
「なぁに、おにーさん? うふふ、じぶん だきぇの おなまえっちぇ、ちあり、なんだか
うきうきしちゃうわ! こりぇが とかいはっちぇ ことなのかしら!?」
「コスズ」
「ゆんっ! コスズだよ! コスズはコスズだよ! コスズってね、コスズだけ の おな
まえ なの!」
「コマリ」
「まぃしゃにょことだよにぇ! あ……ちがったよにぇ? まぃしゃ じゃ にゃきゅて、
コマぃだよ! コマぃはコマぃだよ!」
「んほ介」
「んほっ! んほ~う♪」
名付けたばかりの、ゆっくり達の名前を確認するように、先輩さんが一匹一匹に呼びか
ける。それに対して、ゆっくり達も嬉しげに返事をして見せた。
ける。それに対して、ゆっくり達も嬉しげに返事をして見せた。
愛で派の人達の中には、やっぱり自分のゆっくりに名前を付けてる人とかいるのかなぁ?
あんまり、そういう人の話を聞かないから……これが、どれだけ変わっているのか、それ
とも別に驚くほどのことでもないのか、よくわからない。
抱きかかえている らん に視線を落として、問いかけてみた。
あんまり、そういう人の話を聞かないから……これが、どれだけ変わっているのか、それ
とも別に驚くほどのことでもないのか、よくわからない。
抱きかかえている らん に視線を落として、問いかけてみた。
「らんは、どうだ? 自分だけの名前って、欲しいか?」
「え? そ、そうだなぁ……うぅ~ん……どっちでもいい、かな? らんも、あたらしい
なまえを ちゃんと おぼえていられるか、じしんが ないし……」
「え? そ、そうだなぁ……うぅ~ん……どっちでもいい、かな? らんも、あたらしい
なまえを ちゃんと おぼえていられるか、じしんが ないし……」
まぁ、そうだろうなぁ。
俺も「らん」って呼び名で困ってるわけでもないし、新しい名前は別に必要じゃないか
なぁ?
別に良いかと、らんの頭を帽子の上から軽く掻くようにして撫でてやると、らんも気持
ちよさそうに眼を細めて、「ああ、べつにいい」と答えてきた。
俺も「らん」って呼び名で困ってるわけでもないし、新しい名前は別に必要じゃないか
なぁ?
別に良いかと、らんの頭を帽子の上から軽く掻くようにして撫でてやると、らんも気持
ちよさそうに眼を細めて、「ああ、べつにいい」と答えてきた。
立ち上がった先輩が、俺に目を向けて問いかけてくる。
「小僧。お前ら、晩飯はどうする? 食ってくんなら、その分の買い物に行かなきゃなら
んし、帰るってのなら送るけど?」
「あ……ご馳走になるのもなんなんで、帰ります」
「別に、遠慮するこたねぇぞ?」
んし、帰るってのなら送るけど?」
「あ……ご馳走になるのもなんなんで、帰ります」
「別に、遠慮するこたねぇぞ?」
今のところ懐は温かいから、と、何度か聞いたことのある台詞を言って、先輩さんは笑
う。帰ってきたときの不機嫌さは、もうすっかり消えていた。
う。帰ってきたときの不機嫌さは、もうすっかり消えていた。
「あ~……んじゃ、ご馳走になるっす」
正直、ただメシはありがたい。生活費は全部、自分で稼がなくちゃならないから。
「いいか、お前ら。今度からは、何かしでかしたときはその名前で叱られる。新しい名前
を気に入ったってのなら『叱られてばかりの名前』にするより『褒められてばかりの名前』
に出来るように、頑張れ」
を気に入ったってのなら『叱られてばかりの名前』にするより『褒められてばかりの名前』
に出来るように、頑張れ」
先輩さんが出がけに、コマリ一家へ厳しい口調でそう言った。
コマリ達もその言葉に、頑張ると口々に答え、張り切っていた。
コマリ達もその言葉に、頑張ると口々に答え、張り切っていた。
俺は……頑張っても『小僧』なんだよなぁ。
なんか、張り合いが無くなってきちゃうなぁ。
なんか、張り合いが無くなってきちゃうなぁ。
*** *** *** ***
先輩の家で、俺も らんもたっぷりとご馳走になって、家へと帰ってきた。
帰りは先輩さんの車で送ってもらえて、その車内で気持ちよく寝ちゃったせいか、いつ
もより眠気はなかった。
どうせ明日は学校も休みだし、ちょっと夜更かしをしようか……そう思って、ゆ虐レポ
ートを読み始めたんだけど……
帰りは先輩さんの車で送ってもらえて、その車内で気持ちよく寝ちゃったせいか、いつ
もより眠気はなかった。
どうせ明日は学校も休みだし、ちょっと夜更かしをしようか……そう思って、ゆ虐レポ
ートを読み始めたんだけど……
「……お、おにいさん?」
「ん? あ、ああ……」
「ん? あ、ああ……」
今読んだレポートにも、動画が付いていた。
昨日とは別人のもので、虐待お兄さんの姿も手や腕くらいでほとんど映っていない。
でも、そんなことは別に問題じゃなくて……
昨日とは別人のもので、虐待お兄さんの姿も手や腕くらいでほとんど映っていない。
でも、そんなことは別に問題じゃなくて……
「らんは……その……ま、まちがってるかもしれないけど……」
「いや……多分、間違ってないんじゃないかなぁ?」
「いや……多分、間違ってないんじゃないかなぁ?」
こっちを見上げてきている らんの顔は、奇妙に歪んでいた。
愛で派でもない俺がこんなことを言うのはなんだけど、らんは結構、美人顔だ。ゆっく
りの中じゃって意味で、整った顔をしている。
それが、怒りでも悲しみでもない、もっと違う感情で歪んでいる。
愛で派でもない俺がこんなことを言うのはなんだけど、らんは結構、美人顔だ。ゆっく
りの中じゃって意味で、整った顔をしている。
それが、怒りでも悲しみでもない、もっと違う感情で歪んでいる。
多分、俺も似たような顔をしてるんじゃないかなぁ?
「らんは……その……きもちわるい……」
「……俺もだ」
「……俺もだ」
嫌悪感だ。
この人のレポートは、まだ二本しか上がっていない。どちらも動画と、補足じゃ効かな
いほど長い文章。
動画は、物理的に繋がれたゆっくりの親子が、おかしくなって共食いを始めたものと、
同じく繋がれた状態で、生きることを放棄して餡子を吐いて死んでいくもの。
いほど長い文章。
動画は、物理的に繋がれたゆっくりの親子が、おかしくなって共食いを始めたものと、
同じく繋がれた状態で、生きることを放棄して餡子を吐いて死んでいくもの。
レポートの文章は……なんというか、上手く言えない。言葉にしたくないのかもしれな
い。
い。
「恥ずかしながら、今回も失敗した」と書いている。
「これでは狂気と言えないのではないか」と書いている。
「もっとジワジワと狂っていく様を観察したいのに」と書いている。
「これでは狂気と言えないのではないか」と書いている。
「もっとジワジワと狂っていく様を観察したいのに」と書いている。
ゆっくりが、生意気に狂うはずがないだろうとレスをつけている人がいた。
それに対して、問題はそこじゃない、この人は今すぐゆ虐から足を洗うべきだと、さら
にレスをつけている人もいた。
それに対して、問題はそこじゃない、この人は今すぐゆ虐から足を洗うべきだと、さら
にレスをつけている人もいた。
言いたくないし、そんな馬鹿なとも思うんだけど……動画を見て、レポートを読んだら、
そうとしか思えなくなってきた。
狂気への憧れみたいなもの。狂うと言うことを知りたがっている。見たがっている。
そうとしか思えなくなってきた。
狂気への憧れみたいなもの。狂うと言うことを知りたがっている。見たがっている。
「野良への憎悪みたいなのも、ちょっと書いてるけど……こんなの言い訳だよな」
「のら……? のらって、そんなに わるいことなのか!?」
「のら……? のらって、そんなに わるいことなのか!?」
良いか悪いかで言えば、きっと悪いんだと思う。いつもの俺なら、迷わず悪いと答える
し、実際に迷惑を被っている人だって多いんだから。
でも今、らんが言いたいのは、そういうことじゃないんだってことは、わかる。
し、実際に迷惑を被っている人だって多いんだから。
でも今、らんが言いたいのは、そういうことじゃないんだってことは、わかる。
「ひょっとして、この人……」
「こ、このひと? このひとが、どうかしたのか?」
「こ、このひと? このひとが、どうかしたのか?」
野良が悪い、野良が憎い、それを言い訳にしている人。
狂気ってものに、気持ち悪いほど拘ってる人。
狂気ってものに、気持ち悪いほど拘ってる人。
先輩さんが言ってた、気に入らない目をしていたって人と……あの、まりさ親子の元飼
い主と、同じ人なんじゃ……
い主と、同じ人なんじゃ……
「まさかだよなぁ……元はゆっくりを飼って、可愛がっていた人が、こんなこと……」
「おにいさん、もうやめよう? おにいさんが つらそうなのは、はじめてだ」
らんが、心配そうな声で俺を気遣ってきた。自分だって、十分すぎるほどつらそうで、
気持ち悪そうな顔をしてるくせに。
気持ち悪そうな顔をしてるくせに。
「これは……このひとは、きっとよくない。らんは、そうおもう。まちがっていたとして
も、らんは そうおもうことを やめない」
「そっか……」
も、らんは そうおもうことを やめない」
「そっか……」
先輩さんの家で、美味いものをたっぷり食ってきたっていうのに、なんだか吐きたい気
分だ。
吐いたらスッキリしそう……そういうムカムカが、腹の少し上辺りでグルグルしてる。
分だ。
吐いたらスッキリしそう……そういうムカムカが、腹の少し上辺りでグルグルしてる。
スカッとしないレポートはいくらでもあるけど……こんなのは、初めてだ。
「らん……」
「な、なんだ、おにいさん?」
「俺は、こんなふうにだけはならないでおこうって思うよ」
「うん……うん! それがいい! だいじょうぶだ! おにいさんは、こんなふうになら
ない!」
「な、なんだ、おにいさん?」
「俺は、こんなふうにだけはならないでおこうって思うよ」
「うん……うん! それがいい! だいじょうぶだ! おにいさんは、こんなふうになら
ない!」
らんに、そう言うだけの根拠なんて無いだろうな。
根拠のない言葉だからこそかも知れないけど、なんだか笑えてきた。
おかげで、気が楽になってくる。
根拠のない言葉だからこそかも知れないけど、なんだか笑えてきた。
おかげで、気が楽になってくる。
「お礼に、らんにはブクブク太っちゃう虐待をしてやろうか?」
「えっ!? お、おにいさんは、らんを ぎゃくたい するのか? ブクブクふとっちゃう
って、なにをする き だ?」
「お菓子やジュース、アイスなんかもたっぷり買って、たくさん食わせるんだよ。そんで、
俺も食う」
「おにいさん、しっかりしてくれ。それは ごほうびだ」
「あははっ! そうだったっけ?」
「えっ!? お、おにいさんは、らんを ぎゃくたい するのか? ブクブクふとっちゃう
って、なにをする き だ?」
「お菓子やジュース、アイスなんかもたっぷり買って、たくさん食わせるんだよ。そんで、
俺も食う」
「おにいさん、しっかりしてくれ。それは ごほうびだ」
「あははっ! そうだったっけ?」
笑って、らんを抱きかかえる。
今まで、らんを連れて買い物に行ったことなんて無いけど、ちょっとコンビニへ連れて
行ってみよう。
近所にあるコンビニの一軒が、ペットを連れていてもOKの店だったし。
いろんな品物を見て、らんがどんな顔をするか見ていたいし。
今まで、らんを連れて買い物に行ったことなんて無いけど、ちょっとコンビニへ連れて
行ってみよう。
近所にあるコンビニの一軒が、ペットを連れていてもOKの店だったし。
いろんな品物を見て、らんがどんな顔をするか見ていたいし。
美味いものを食って、良い気分になれば……俺もらんも、この嫌な気分を消してしまえ
るだろうから。
るだろうから。
「まぁ、気分は消しても、忘れないようにするけどな……」
「うん? わすれない? なにを、わすれないんだ?」
「大事なことをだよ」
「うん? わすれない? なにを、わすれないんだ?」
「大事なことをだよ」
あんなふうにはならない。
なってたまるか。
なってたまるか。
「やっぱ、なるんなら仮面の人みたいな感じだよなぁ」
「それも、ちょっと……おにいさんが へんなひとになると、らんは かなしいぞ?」
「ああいうのは、変って言うんじゃない。愉快って言うんだよ」
「それも、ちょっと……おにいさんが へんなひとになると、らんは かなしいぞ?」
「ああいうのは、変って言うんじゃない。愉快って言うんだよ」
グチグチぐずぐずした陰湿なモノを抱えて、生きたくはない。
俺は、スカッと笑って生きていくんだ。
俺は、スカッと笑って生きていくんだ。
─ 小僧、ゆ虐について考え始めるのこと 了 ─