ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko4341 予防接種
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ankoss
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『予防接種』 16KB
観察 ギャグ 失礼します
観察 ギャグ 失礼します
チートあきです。
「わっかるよ~♪ わっかるね~♪ わっかるっかにゃ~♪」
わかるかなの歌。作詞作曲ちぇん。
小声で歌を唄いながら、一匹のちぇんが雑草を抜いていた。帽子に付けられた緑と白
の地域ゆっくりバッジ。星はひとつで一般ゆっくりである。
小声で歌を唄いながら、一匹のちぇんが雑草を抜いていた。帽子に付けられた緑と白
の地域ゆっくりバッジ。星はひとつで一般ゆっくりである。
「……かしら? わかっ……」
「おお……たいへ……」
「おお……たいへ……」
少し離れた場所にいるありすときめぇ丸の声が聞こえてくる。
この公園のリーダーのありすと、伝達きめぇ丸だった。きめぇ丸は大体決まった時間に
やってきて最近の出来事や予定などを報告する。曰くきめぇ丸新聞。公園など一定の場
所から出ることのない地域ゆっくりの中では、例外的に広い行動範囲を持っている。
この公園のリーダーのありすと、伝達きめぇ丸だった。きめぇ丸は大体決まった時間に
やってきて最近の出来事や予定などを報告する。曰くきめぇ丸新聞。公園など一定の場
所から出ることのない地域ゆっくりの中では、例外的に広い行動範囲を持っている。
「わっからにゃい~♪ わっかってにぇ~♪ わっかれよ~♪」
歌いながら草毟りをするちぇん。
聞こえてくるありすときめぇ丸のやり取りは適当に聞き流していた。伝達される情報は
ちぇんが聞いてもあまり意味がない。天気予報や今後の予定など、重要な情報はあとで
ありすから全員に説明される。
聞こえてくるありすときめぇ丸のやり取りは適当に聞き流していた。伝達される情報は
ちぇんが聞いてもあまり意味がない。天気予報や今後の予定など、重要な情報はあとで
ありすから全員に説明される。
「……よぼうせっしゅ……」
「に゙あ゙?」
「に゙あ゙?」
不意に聞こえた単語に、ちぇんは振り向いた。
咥えていた草が地面に落ちる。だらだらと全身を嫌な汗が流れ落ちていた。不安げに
尻尾が震える。聞き間違えかもしれない。聞き間違いであって欲しい。予防接種。ちぇ
んがこの世で一番恐れている事である。
咥えていた草が地面に落ちる。だらだらと全身を嫌な汗が流れ落ちていた。不安げに
尻尾が震える。聞き間違えかもしれない。聞き間違いであって欲しい。予防接種。ちぇ
んがこの世で一番恐れている事である。
「おお、さらばさらば」
きめぇ丸が公園の入り口に向かって走り出していだった。
仕事の終わりの集会。
公園の隅で行われるゆっくりの夕礼。リーダーであるありすが前に立ち、他のゆっくり
は整列していた。れいむ三匹にまりさ二匹、リーダー含むありすが二匹とぱちゅりーが一
匹、そして、ちぇんとみょん。この公園で地域ゆっくりをしているのは、この十匹だった。
前に立ったありすが言う。
公園の隅で行われるゆっくりの夕礼。リーダーであるありすが前に立ち、他のゆっくり
は整列していた。れいむ三匹にまりさ二匹、リーダー含むありすが二匹とぱちゅりーが一
匹、そして、ちぇんとみょん。この公園で地域ゆっくりをしているのは、この十匹だった。
前に立ったありすが言う。
「らいしゅうのもくようびに、よぼうせっしゅがあるわ」
「ゆがーん……!」
「ゆがーん……!」
ちぇんの淡い願いは、無惨に打ち砕かれた。
翌日。
「こまったよー。どうしたらいいのかわからないよー……」
咥えた箒を動かしながら、ちぇんはため息をついていた。
小さな落ち葉が掃き集められていく。人間に比べると作業速度は遅いが、時間はある
ので仕事が追い付かなくなることはない。使っているのは、大きな刷毛に柄が横向きに
取り付けられたゆっくり用箒である。
小さな落ち葉が掃き集められていく。人間に比べると作業速度は遅いが、時間はある
ので仕事が追い付かなくなることはない。使っているのは、大きな刷毛に柄が横向きに
取り付けられたゆっくり用箒である。
「どうしたみょん。あさからげんきないみょん」
一緒に箒を動かし、みょんがちぇんを見る。みょんはちぇんの友達だった。特別馬が合
うというわけではないが、なんとなく一緒にいることが多い。
そちらに向き直り、ちぇんは叫んだ。
うというわけではないが、なんとなく一緒にいることが多い。
そちらに向き直り、ちぇんは叫んだ。
「ちゅうしゃはいやなんだよー。わかってねー!」
眼から漫画のような涙を流す。
それを呆れたように見つめるみょん。
それを呆れたように見つめるみょん。
「ちゅうしゃがこわいのはわかるみょん。でも、なくほどのものじゃねーみょん……。とい
うか、ちゅうしゃくらいでさわぐことはねーみょん」
うか、ちゅうしゃくらいでさわぐことはねーみょん」
注射。細い金属の注射針を用いて、体内に直接薬剤を注入する方法。地域ゆっくりに
なる時は例外なく予防接種を受けるので、地域ゆっくりは注射の痛みも怖さも知ってい
る。ちぇんはの注射恐怖症の出所は、地域ゆっくりになる時に受けた注射だった。
ちぇんの瞳孔が開く。縦長の線から丸い黒へと。
なる時は例外なく予防接種を受けるので、地域ゆっくりは注射の痛みも怖さも知ってい
る。ちぇんはの注射恐怖症の出所は、地域ゆっくりになる時に受けた注射だった。
ちぇんの瞳孔が開く。縦長の線から丸い黒へと。
「なにいってるんだねー!? はりだよ、はりっ! はりなんだよー、はりをさされるんだ
よー!? からだにはりをさすなんて、ありえないんだよー。しょうきのさたじゃないんだ
よねー! わかるよねー? わかってねー! わかったりゃー!?」
「いや、わからねーみょん……」
よー!? からだにはりをさすなんて、ありえないんだよー。しょうきのさたじゃないんだ
よねー! わかるよねー? わかってねー! わかったりゃー!?」
「いや、わからねーみょん……」
密着するほどまで迫るちぇんに、みょんは視線を逸らしつつ告げる。怖いのも痛いのも
分かるが頷いたら面倒臭そうというのが、本音だった。
分かるが頷いたら面倒臭そうというのが、本音だった。
「なにいってるんだよー! あのはりがぷすーってはいってくるかんしょくが……」
ぴたりと動きを止めるちぇん。
全身から汗が滲み、尻尾の毛が膨らむように逆立った。
全身から汗が滲み、尻尾の毛が膨らむように逆立った。
「にあ゙あ゙……」
痙攣しながら身体を捻るちぇんを見つめ、みょんはやる気無く声を掛けた。
「まあ、きをしっかりもつみょん」
また翌日。
「むきゅ。よぼうせっしゅのもくてきは、おもにわくちんさんをからだにいれることよ。わく
ちんさんがからだにはいると、めんえきさんができて、かびやびょうきになりにくくなるの
よ。からだがじょうぶになるということね」
ちんさんがからだにはいると、めんえきさんができて、かびやびょうきになりにくくなるの
よ。からだがじょうぶになるということね」
ちぇんの相談にぱちゅりーはそう答えた。
注射への恐怖を無くすにはどうすればいいか。ちぇん自身では名案も浮かばない。そ
こで相談役であるぱちゅりーに相談した。結果がこの説明である。ちぇんの期待したも
のとは全く違う答えだった。
注射への恐怖を無くすにはどうすればいいか。ちぇん自身では名案も浮かばない。そ
こで相談役であるぱちゅりーに相談した。結果がこの説明である。ちぇんの期待したも
のとは全く違う答えだった。
「だからちょっといたけど、がまんしてね?」
紫色の目がちぇんに向けられる。
注射は身体にいいので多少の痛みは我慢しろ。
ぱちゅりーの話を要約すると、こうなる。
注射は身体にいいので多少の痛みは我慢しろ。
ぱちゅりーの話を要約すると、こうなる。
「わからないよー……」
それがちぇんの助言になったかと問われれば、否だった。
扉が付いた四角い箱。掃除用具などがしまわれた倉庫だった。その横には、ゆっくりフ
ードなどが収められた食料庫が置かれている。どちらも加工所製の無駄に頑丈なもの
だ。倉庫の壁に小さなカレンダーが掛けられている。
ードなどが収められた食料庫が置かれている。どちらも加工所製の無駄に頑丈なもの
だ。倉庫の壁に小さなカレンダーが掛けられている。
「あと、よっかだよ。わかりたくないよー……」
カレンダーの日付を眺め、ちぇんは尻尾を伏せた。
頭の悪いゆっくりなら、「まだたくさんあるよ」と気楽に過ごせたかもしれない。だが、ち
ぇんは数字や曜日などはきちっと教えられているため、予防接種の日までどれくらいあ
るのかはっきり分かってしまう。
頭の悪いゆっくりなら、「まだたくさんあるよ」と気楽に過ごせたかもしれない。だが、ち
ぇんは数字や曜日などはきちっと教えられているため、予防接種の日までどれくらいあ
るのかはっきり分かってしまう。
「しにそうなかおして、なにしてるみょん」
みょんが声を掛けてくる。口元に薄い苦笑いが浮かんでいた。
ちぇんはそちらに向き直り、きりっと眉毛を傾けた。
ちぇんはそちらに向き直り、きりっと眉毛を傾けた。
「コウ・エンとよばれるせかいに、ななつのおおきなたいりくがあるんだよー。あさひがよ
んかいのぼったとき、こんとんのげんしゅつたるまおうヨヴォウ・セッシュがあらわれるん
だよー。わかるよねー?」
「わからねーみょん! おめーもいいかげんはらきめるみょん!」
んかいのぼったとき、こんとんのげんしゅつたるまおうヨヴォウ・セッシュがあらわれるん
だよー。わかるよねー?」
「わからねーみょん! おめーもいいかげんはらきめるみょん!」
のーびのーびしながらみょんは叫んだ。
一転滝のように涙を流し、ちぇんが空を仰ぐ。
一転滝のように涙を流し、ちぇんが空を仰ぐ。
「よぼうせっしゅはいやだよー! ちゅうしゃなんてゆっくりできないんだよー! というか、
なんでこういうときだけちぇんがしゅやくなのー! こういうときこそモブでわかるよーして
たんだよー! わかってねー」
「なにメタってるみょん!?」
なんでこういうときだけちぇんがしゅやくなのー! こういうときこそモブでわかるよーして
たんだよー! わかってねー」
「なにメタってるみょん!?」
「にゃぁ……ぁ……」
ちぇんは机の上で震えていた。
組み立て式の机が公園に設置されいる。椅子に座った男がちぇんを見つめている。管
理課ではなく保健所の人間らしい。机には注射器の並んだトレイとアルコールを含んだ
脱脂綿が置かれていた。
ちぇんの横には青と白のバッジを付けたえーりんが座っていた。
組み立て式の机が公園に設置されいる。椅子に座った男がちぇんを見つめている。管
理課ではなく保健所の人間らしい。机には注射器の並んだトレイとアルコールを含んだ
脱脂綿が置かれていた。
ちぇんの横には青と白のバッジを付けたえーりんが座っていた。
「はい。おくちをあけてください」
「あー……」
「あー……」
言われるままにちぇんは口を開ける。
えーりんは目を大きく開け、ちぇんの口の中をしげしげと眺めた。歯や舌、喉の奥に異
常が無いか見ているらしい。構造上、ゆっくりは口を開けるだけで胃まで見られる。
えーりんは目を大きく開け、ちぇんの口の中をしげしげと眺めた。歯や舌、喉の奥に異
常が無いか見ているらしい。構造上、ゆっくりは口を開けるだけで胃まで見られる。
「つぎは、せなかをむけてください」
「……」
「……」
言われるままちぇんはえーりんに背中を向ける。
ぺたりとちぇんの背にえーりんの肌が触れた。これは体内餡の音を聞いているらしい。
人間に喩えるなら聴診器診断のようなものである。
ぺたりとちぇんの背にえーりんの肌が触れた。これは体内餡の音を聞いているらしい。
人間に喩えるなら聴診器診断のようなものである。
「いじょうなしです」
えーりんの診察が終わる。
「はい。注射しますよー。じっとしててねー」
男がアルコール綿を手に取った。
ちぇんのお尻の辺りを綿が撫でる。ゆっくりに消毒が必要なのかは不明だが、一応行
われていた。アルコールの蒸発する冷たさと、独特の甘い匂い。
ちぇんのお尻の辺りを綿が撫でる。ゆっくりに消毒が必要なのかは不明だが、一応行
われていた。アルコールの蒸発する冷たさと、独特の甘い匂い。
「にゃぁあ……あ……!」
尻尾を縮ませ、ちぇんは震える。
かちゃりと注射器が取り上げられた。銀色の細い針、目盛の書かれた透明なシリンジ
と中身の透明な液体。液体を注入するためのプランジャ。
ちぇんのお尻に針先が触れる。微かな痛みから、針が体内へと入ってくる。
かちゃりと注射器が取り上げられた。銀色の細い針、目盛の書かれた透明なシリンジ
と中身の透明な液体。液体を注入するためのプランジャ。
ちぇんのお尻に針先が触れる。微かな痛みから、針が体内へと入ってくる。
「にゅぅぅぅ」
下唇を噛み、ちぇんは全身を硬直させた。体内に入り込んだ針。その注射器を握って
いるのは、見知らぬ人間。それは自分の命を他人に握られているようなものだった。
プランジャが押し込まれ、中身の薬剤が体内へと注入される。
いるのは、見知らぬ人間。それは自分の命を他人に握られているようなものだった。
プランジャが押し込まれ、中身の薬剤が体内へと注入される。
「にょぉぉぉ……!」
口をすぼめ、ちぇんが奇妙な声を漏らす。身体の中に異物が押し込まれる感覚がはっ
きりと分かった。ゆっくりの中身は筋肉であり血液であり神経でもある。表面ほど鮮明で
はないが、内側にも感覚はあるのだ。
石のように固まりながら、ちぇんはただ時が過ぎ去るのを待つ。
すっと針が抜かれた。
きりと分かった。ゆっくりの中身は筋肉であり血液であり神経でもある。表面ほど鮮明で
はないが、内側にも感覚はあるのだ。
石のように固まりながら、ちぇんはただ時が過ぎ去るのを待つ。
すっと針が抜かれた。
「はい。終わりました。次のゆっくり。どうぞー」
「おわったよー」
「おわったよー」
ぺたりとちぇんは倒れた。
「おわったんだねー……え?」
目を開けると、小さならんがあった。お給料であるゆっくりポイントを払い買ったぬいぐ
るみらんしゃまである。いつも寝る時に側に置いていた。
るみらんしゃまである。いつも寝る時に側に置いていた。
「………」
周囲を見る。
五十センチ四方の四角い箱の中。西側に作られた窓から月の光が差し込んでいる。
公園の片隅に並べられた地域ゆっくり用のお家。その中だった。
ゆっくりと動き始めた思考が自分の置かれた状況を導き出す。
五十センチ四方の四角い箱の中。西側に作られた窓から月の光が差し込んでいる。
公園の片隅に並べられた地域ゆっくり用のお家。その中だった。
ゆっくりと動き始めた思考が自分の置かれた状況を導き出す。
「ゆめおちはじゃどうなんだねぇぇぇぇ! わかれよぉぉぉっ!」
ちぇんは叫んだ。
「……だいじょうぶかみょん?」
みょんが心配そうに見つめてくる。
「きがおもいよー。わかってねー」
力無くちぇんは答えた。目の下には薄く隈ができていて、心持ち頬もこけている。連日
予防接種に対する不安を積み重ねた影響だ。普通に動くことはできるが、徐々に持久
力が減っている。非常に軽い非ゆっくり症とも言えるだろう。
予防接種に対する不安を積み重ねた影響だ。普通に動くことはできるが、徐々に持久
力が減っている。非常に軽い非ゆっくり症とも言えるだろう。
「みょんはよくへいきだねー。わからないよー?」
尻尾を持ち上げ、みょんを見る。
ちぇんほどではないが、他のゆっくりも予防接種を怖がっている。ほとんど怖がってい
ないのは、リーダーありすとぱちゅりー、そしてこのみょんだった。
ちぇんほどではないが、他のゆっくりも予防接種を怖がっている。ほとんど怖がってい
ないのは、リーダーありすとぱちゅりー、そしてこのみょんだった。
「つらいことがあるなら、さっさとかくごきめておくみょん」
みょんはそう説明した。怖くて痛い注射。逃げられることはできないのだから、さっさと
覚悟を決めるか諦めるかしてしまう。それがみょんの考え方だった。
覚悟を決めるか諦めるかしてしまう。それがみょんの考え方だった。
「それに、しょうじきよぼうせっしゅはありがてーみょん。ちょっといたいのがまんするだけ
で、びょうきがふせげるなら、やすいもんだみょん。ちいきゆっくりはほんとうにてんごく
みたいなみぶんみょん」
で、びょうきがふせげるなら、やすいもんだみょん。ちいきゆっくりはほんとうにてんごく
みたいなみぶんみょん」
みょんはそう答えた。
みょんは元々野良生まれの野良育ちだった。だから野良の過酷さをしっかり理解して
いるし、地域ゆっくりの幸せも理解している。
みょんは元々野良生まれの野良育ちだった。だから野良の過酷さをしっかり理解して
いるし、地域ゆっくりの幸せも理解している。
「おしごとしてればおいしいごはんも、かいてきなおうちももらえるみょん。けがやびょうき
も、なおしてもらえるみょん。よぼうせっしゅなんて、のらだったころにはかんがえられな
かったみょん」
「そーなんだねー?」
も、なおしてもらえるみょん。よぼうせっしゅなんて、のらだったころにはかんがえられな
かったみょん」
「そーなんだねー?」
ちぇんは呟いた。
太陽が沈み、辺りには夜の陰が差していた。
人間はまだ十分に行動しているが、外のゆっくりにとっては寝る時間だった。人間に飼
われているゆっくり以外は、大抵日没後に眠ってしまう。公園もゆっくりたちも、皆お家に
入って寝る準備をしていた。
人間はまだ十分に行動しているが、外のゆっくりにとっては寝る時間だった。人間に飼
われているゆっくり以外は、大抵日没後に眠ってしまう。公園もゆっくりたちも、皆お家に
入って寝る準備をしていた。
「……なにしてるみょん?」
みょんがジト眼でちぇんを見つめる。
公園の入り口に佇むちぇん。食べ物や小物などを詰められ、帽子が膨らんでいた。そ
の目から正気の色が少し欠け落ちている。
公園の入り口に佇むちぇん。食べ物や小物などを詰められ、帽子が膨らんでいた。そ
の目から正気の色が少し欠け落ちている。
「いままでありがとなんだよー。でも、きょうでおわかれなんだねー。ちぇんはだっそうす
るんだよー。みんなにごめんてあやまっておいてねー。わかってねー?」
るんだよー。みんなにごめんてあやまっておいてねー。わかってねー?」
地域ゆっくりから野良ゆっくりになることを脱走と呼ぶ。警備などが敷かれているわけ
ではないので、脱走自体は簡単だ。だが、人間の庇護のない野良の過酷さは知ってい
るため脱走するゆっくりはまずいない。が、全くいないわけではない。
呆れ顔でちぇんに近付くみょん。
ではないので、脱走自体は簡単だ。だが、人間の庇護のない野良の過酷さは知ってい
るため脱走するゆっくりはまずいない。が、全くいないわけではない。
呆れ顔でちぇんに近付くみょん。
「あほなこといってねーでかえるみょん」
「にゃあああ! しっぽひっぱらないでぇぇぇ!?」
「にゃあああ! しっぽひっぱらないでぇぇぇ!?」
尻尾の一本を咥え、お家へと向かうみょん。地域ゆっくりの仕事に窮屈さを覚えて脱走
するゆっくりは稀にいる。だが、その結果は推して知るべし。
するゆっくりは稀にいる。だが、その結果は推して知るべし。
「とゆーか、おめーはきっすいのがっこうぐみみょん。のらでいきられるわけねーみょん。
ちゅうしゃよりひでーめにあってのたれじぬのは、めにみえてるみょん……」
ちゅうしゃよりひでーめにあってのたれじぬのは、めにみえてるみょん……」
ちぇんは地域ゆっくりの両親から生まれ、専門の学校で育てられた通称学校組。野良
ののの字も知らない。野良生活ができる理由がない。公園から逃げても悲惨な最期が
待っているのは目に見えている。
ののの字も知らない。野良生活ができる理由がない。公園から逃げても悲惨な最期が
待っているのは目に見えている。
「いやだあああ! ちゅうしゃはいやなんだよおおお!」
みょんに引っ張られながら、ちぇんはぐねぐねと悶えた。
予防接種の前日。
公園の隅に作られた小さな駐車場。公園で作業が行われる時にトラックなどが乗り入
れる場所だ。舗装の去れていない地面に、紐で四角形が作られている。ちぇんとみょん
は、駐車場の落ち葉を掃き集めていた。
ふと前触れ無く、ちぇんは虚ろな顔で空を見上げる。
公園の隅に作られた小さな駐車場。公園で作業が行われる時にトラックなどが乗り入
れる場所だ。舗装の去れていない地面に、紐で四角形が作られている。ちぇんとみょん
は、駐車場の落ち葉を掃き集めていた。
ふと前触れ無く、ちぇんは虚ろな顔で空を見上げる。
「あいうぃっしゅー、あいわー、あばーど。もし、ちぇんがとりさんだったら、どこかとおくに
いきたいんだねー。ぐたいてきにいうと、よぼうせっしゅのないせかいへ」
「めつきあぶねーみょん……」
いきたいんだねー。ぐたいてきにいうと、よぼうせっしゅのないせかいへ」
「めつきあぶねーみょん……」
みょんがやや怖じけたようにちぇんを見た。
一応仕事はこなせているが、動きは頼りない。だというのに、仕事のペースが全く落ち
ていないことが怖かった。どこか思考のネジが外れてしまっている。
一応仕事はこなせているが、動きは頼りない。だというのに、仕事のペースが全く落ち
ていないことが怖かった。どこか思考のネジが外れてしまっている。
「にへへ」
曖昧にちぇんが笑う。
その時だった。
駐車場に白いワゴン車が入ってくる。
ちぇんとみょんが見ている中、運転席と助手席のドアが開き白い服を着た男が二人出
てきた。中年の男と、若い男。腕には保健所と書かれた腕章を付けている。
若い男は後部ドアを開け、折り畳み式の机を取り出した。
ちぇんとみょんが見ている中、運転席と助手席のドアが開き白い服を着た男が二人出
てきた。中年の男と、若い男。腕には保健所と書かれた腕章を付けている。
若い男は後部ドアを開け、折り畳み式の机を取り出した。
「ちょっとそこのおにーさん」
「ん、何だ?」
「ん、何だ?」
ちぇんの声に男が動きを止め、振り返ってくる。
全身から汗を流しながら、ちぇんは男を見上げた。
全身から汗を流しながら、ちぇんは男を見上げた。
「ちぇ、ちぇんたちになんのごようでしょうか?」
「予防接種だよ」
「予防接種だよ」
あっさりと答えられる。
「よぼーせっしゅはみょーにちではなかったでしょうか? おわかりですね?」
全身から汗を流しながら、ちぇんは尋ねた。緊張と恐怖に口調がおかしくなっている。
今日は水曜日。予防接種の予定日は木曜日である。しかし、予防接種を行う人間がち
ぇんの目の前にいた。おかしな事である。
今日は水曜日。予防接種の予定日は木曜日である。しかし、予防接種を行う人間がち
ぇんの目の前にいた。おかしな事である。
その答えは単純なものだった。
「今日に前倒しになった。準備するからちょっと待ってなさい」
「…………」
「…………」
ちぇんは無言のまま仰向けに倒れた。
「わからないよー……」
あっという間に公園のゆっくりが集められ、予防接種が始まった。
組み立て式の机に着いている男と、横に立って書類の記入などを行っている助手。机
に乗せられたえーりん。机には注射器の入ったステンレスのトレイが置かれている。
組み立て式の机に着いている男と、横に立って書類の記入などを行っている助手。机
に乗せられたえーりん。机には注射器の入ったステンレスのトレイが置かれている。
「はい、終わり」
「むきゅ。これでまたゆっくりおしごとができるわ。ありがとう、おにいさん」
「むきゅ。これでまたゆっくりおしごとができるわ。ありがとう、おにいさん」
身体を何度か捻ってから、ぱちゅりーは助手の男に向かって頭を下げた。予防接種を
健康になる方法と認識しているため、痛みなどは気にしていない。
注射を終えたありす、れいむ、ぱちゅりーが横で予防接種の様子を見ている。
助手がちぇんを見た。
健康になる方法と認識しているため、痛みなどは気にしていない。
注射を終えたありす、れいむ、ぱちゅりーが横で予防接種の様子を見ている。
助手がちぇんを見た。
「はい。次のゆっくり」
「ちぇんのばんだみょん。いいからあきらめていくみょん」
「ちぇんのばんだみょん。いいからあきらめていくみょん」
後ろからみょんが言ってくる。
「………」
空っぽの思考の中で、ちぇんは前に出た。
頭は真っ白で、何も考えられない。
助手がちぇんを持ち上げ、雑巾で脚の裏を拭き、机へと乗せる。ちぇんの視線が横に
置かれたステンレスのトレイに向かう。細いガラス製の注射機が十本並んでいた。その
うち三本は空になっている。
頭は真っ白で、何も考えられない。
助手がちぇんを持ち上げ、雑巾で脚の裏を拭き、机へと乗せる。ちぇんの視線が横に
置かれたステンレスのトレイに向かう。細いガラス製の注射機が十本並んでいた。その
うち三本は空になっている。
「ちぇんさん」
声をかけられ、ちぇんはえーりんに向き直った。青と白のバッジを付けたゆっくり。保健
所で飼われている職員ゆっくりである。主な仕事はゆっくりの診察。
所で飼われている職員ゆっくりである。主な仕事はゆっくりの診察。
「なにかからだにいじょうをかんじることはありますか?」
「ないよー。ちぇんはげんきだよー」
「ないよー。ちぇんはげんきだよー」
どこか棒読みに、ちぇんは答えた。
「えーりんのぼうしのじゅうじをみてください」
言われるまま、ちぇんはえーりんの帽子に着いている赤い十字マークを見つめた。
その間にえーりんがちぇんの瞳を観察する。ゆっくりの場合、身体の異常は目に現わ
れることが多い。弱ったりすると、眼から光が消える。また性格がゲスの方向に傾くと、
はっきりと眼に曇りが現われる。
その間にえーりんがちぇんの瞳を観察する。ゆっくりの場合、身体の異常は目に現わ
れることが多い。弱ったりすると、眼から光が消える。また性格がゲスの方向に傾くと、
はっきりと眼に曇りが現われる。
「つぎは、おくちをあけてください」
「にゃー」
「にゃー」
言われるままにちぇんは口を開けた。
ちぇんの口の中を、喉を、さらにその奥をしげしげと眺める。
ちぇんの口の中を、喉を、さらにその奥をしげしげと眺める。
「こちらにせなかをむけてください」
「わかるよー……」
「わかるよー……」
えーりんに背を向けるちぇん。その背中にえーりんが頬を当てた。ゆっくりの中身は常
に動いている。その動きと音を聞けば、体内がどのような状態なのかが分かる。
それが可能なのはえーりんくらいだが。
ちぇんの背中からえーりんが頬を離した。
に動いている。その動きと音を聞けば、体内がどのような状態なのかが分かる。
それが可能なのはえーりんくらいだが。
ちぇんの背中からえーりんが頬を離した。
「びょうきやけがなどはありませんが……かなりすいじゃくしているようですね。ちゅうし
ゃのきょうふで、かるいひゆっくりしょうをおこしてるようです」
ゃのきょうふで、かるいひゆっくりしょうをおこしてるようです」
助手が書類にちぇんの診断内容を書き込む。注射への恐怖で体調を崩すゆっくりは珍
しいものではない。このちぇんのように重症化する者は珍しいが。
しいものではない。このちぇんのように重症化する者は珍しいが。
「じゃ注射するよー。じっとしててねー」
かちゃりとガラスの音がする。男が注射器を手に取っていた。シリンジ内部に満たされ
た透明な液体。針を上に向け、指でシリンジを弾き、中の空気を上に集める。プランジャ
を少し押し、空気を外に出した。
助手がアルコール脱脂綿でちぇんのお尻を拭く。
た透明な液体。針を上に向け、指でシリンジを弾き、中の空気を上に集める。プランジャ
を少し押し、空気を外に出した。
助手がアルコール脱脂綿でちぇんのお尻を拭く。
「にゃぁぁぁ……」
微かに漂う甘い匂い。皮を撫でる冷たさ。これから何が起るのかはっきりと思い知らさ
れる、儀式の前準備だった。二本の尻尾の毛が膨れるように逆立つ。
ちぇんは身を竦ませた。
男がちぇんの背を押え、注射針を皮に添える。ゆっくりの皮の強度を遙かに上回る金
属の針。ほんの小さな細さと、皮を難なく貫く鋭さを持つ。
れる、儀式の前準備だった。二本の尻尾の毛が膨れるように逆立つ。
ちぇんは身を竦ませた。
男がちぇんの背を押え、注射針を皮に添える。ゆっくりの皮の強度を遙かに上回る金
属の針。ほんの小さな細さと、皮を難なく貫く鋭さを持つ。
「にぃぃっ……!?」
口を半開きにしたまま、ちぇんは擦れた声を漏らす。もう動く事はできない。逃げ出した
い衝動に駆られるが、身体はただ恐怖に竦むだけだった。これから起る事を無抵抗に
受け入れることしかできない。
い衝動に駆られるが、身体はただ恐怖に竦むだけだった。これから起る事を無抵抗に
受け入れることしかできない。
すっ。
と、針が差し込まれた。
「にゅぅぅぅ……っ!」
身体の奥に響く細い痛みに、ちぇんは歯を噛み合わせた。だが、顎に力を入れる事は
できず、歯を食い縛ることはできない。体内に入り込んだ針。二本の尻尾を絡ませなが
ら、猫耳をぴんと立てる。動いたら死ぬ。そんな心地だった。
もはや呼吸することも止め、ちぇんは刺さった針に全注意を向ける。
男がプランジャを押し込んだ。
できず、歯を食い縛ることはできない。体内に入り込んだ針。二本の尻尾を絡ませなが
ら、猫耳をぴんと立てる。動いたら死ぬ。そんな心地だった。
もはや呼吸することも止め、ちぇんは刺さった針に全注意を向ける。
男がプランジャを押し込んだ。
「に……ぇぇぇ……」
体内に異物が注ぎ込まれる感触に、声が漏れる。
そして、注射器が抜き取られる。針先が皮から抜ける際の微かな痛みに、ちぇんは一
度眼を閉じてから、ゆっくりと眼を開ける。
そして、注射器が抜き取られる。針先が皮から抜ける際の微かな痛みに、ちぇんは一
度眼を閉じてから、ゆっくりと眼を開ける。
「おわったんだねよー。わかるよー」
身体から力が抜ける。地獄の儀式が終わった。
口元に弱々しい笑みを浮かべ、ちぇんは空を見た。青い空と白い羽雲。いつも見てい
るはずの空が、ひどく美しい。天がちぇんを祝福しているように見えた。
口元に弱々しい笑みを浮かべ、ちぇんは空を見た。青い空と白い羽雲。いつも見てい
るはずの空が、ひどく美しい。天がちぇんを祝福しているように見えた。
「あ、待って。一応、栄養剤も注射しておくからね」
「!?」
「!?」
ちぇんは弾けるように振り向いた。
そして、目を剥いてソレを見る。
男の手に一本の注射器が握られていた。予防接種用の注射器よりも二回りほど大き
く、針も太い。中にはオレンジ色の液体がたっぷりと満たされていた。衰弱したゆっくりが
いた場合は、栄養剤注射も行うのが決まりである。
そして、目を剥いてソレを見る。
男の手に一本の注射器が握られていた。予防接種用の注射器よりも二回りほど大き
く、針も太い。中にはオレンジ色の液体がたっぷりと満たされていた。衰弱したゆっくりが
いた場合は、栄養剤注射も行うのが決まりである。
「にょおおおおおおおっ!」
滝のような涙とともに、ちぇんはのーびのーびした。
過去SS
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anko4262 立ち退き命令
anko4252 条件は「ゆっくりしたこと」
anko4248 無限の闇に落ちる
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挿絵: