ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1585 まがいもの
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『ゆっくりしていってね!!!』
『ゆっくりしていってね!!!』
『ゆっくりしていってね!!!』
『遥か昔に失われたゆっくりが現代に!
原種ゆっくりれいむ、原種ゆっくりまりさが新登場!!そのほかの通常種も続々販売予定!!』
「ゆっゆっゆっゆ!!あんなへんなゆっくりなんかだれがほしがるんだろうね?
かわいいれいむとはおおちがいだよ!!ねえそうおもうでしょ?」
「んー?ああ、そうだなー。わかったからちょっと黙っててくれるか。
いま仕事中で手が離せないからさあ、集中したいんだわ」
テレビのCMを見ながらゲラゲラ笑うれいむ。
いつもおいしいご飯とゆっくりしたおうちに囲まれて、しあわせーっな暮らしをしている、勝ち組飼いゆっくりだ。
気に入らないことがあるとすれば、飼い主のお兄さんがあんまり一緒に遊んでくれないことだろうか。
散歩に連れて行ってと言っても「さっきお前に構ったせいでお仕事が忙しいからダメ」
なられいむだけで行くと言っても「お前はバカだし、何するかわかんないからダメ」
ならせめて、お話だけでもして欲しいと言ったら「いいからテレビでも見ててくれ」だ。
あんまりな待遇だと思って抗議すると、「お前のご飯を買うためなんだぞ?」などと言ってきた。
意味がわからない。お兄さんはいっつもおうちにいて、全然狩りをしてこないじゃないか。
することといえば、ごほんをじっと読んでいるか、ちっちゃなテレビさんに向かってカタカタ音を鳴らしているだけ。
なのにごはんのため?意味がわからない。そう言うと、お兄さんは嫌な顔をするけどれいむと遊んでくれる。
やっぱりれいむは間違ってないんだ!いっつもそう思うんだけど…
遊んでもらったあとは、お兄さんはさらに冷たくなる。
れいむが何を言っても「締め切りが…」って言うだけだ。
「きいてるのおにいさん!!れいむはおしゃべりしたいんだよ!!
おしごとおしごとってわけわかんないこといっていじわるしないでね!!」
「……チッ。なんだよ、何か重要な話でもあるのか?さっさと言ってくれ」
「ゆふふん、やっとおはなしをきくきになったんだね!それでいいんだよ!!
さっきてれびさんをみてたらね、ゆっくりしていってねってしかいわないれいむとまりさがいたんだよ!!」
「ふーん、それで?」
「だかられいむへんなのっておもったんだよ!!おしゃべりできないれいむなんてゆっくりできないよね!!
“げんしゅ”だかなんだかしらないけど、あんなにせものれいむなんてれいむがみたらせいっさいっしてやるよ!
そこらへんにころがってるのらとおんなじくらいゆっくりできないね!!おぉぶざまぶざま!!」
「ふーん?そっかー。長台詞ご苦労様。もういいか?」
「ゆっ・・・れいむしーしーしたくなってきたよ!ついでにうんうんもしたくなってきたよ!!
おといれにいくからそのあいだにごはんよういしてね!!あまあまたくさんでいいからね!!
れいむはゆっくりはねるよ!ぴょーんぴょーん!!ゆっ!?れいむしーしー……」
「うるせぇなあ……。それにしても」
「おに゛いざぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ん!!でいぶぢーぢーもらじぢゃっだよぉぉぉ!!!
ぐざぐできぼぢわるいがらざっざどおぞうじじでねぇぇぇぇ!!!」
「えぇ、またかよ!!あーもう、ただでさえ時間が押してるってのに……
あーあ、なんでこんなの飼っちゃったんだろうなあ」
「はやぐじでよぉぉぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!ぐずなかいぬじはきらいだよぉぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
「へーへーわかったよ。…それにしても、原種か………」
(まったく、ぐずでゆっくりしてないかいぬしさんだとこまるね!!
れいむがいなきゃゆっくりのかけらもなくなっちゃうよ!!
これからもれいむがいっしょにいてあげるから、いっしょーかけてゆっくりさせてね!!!)
――――――――――
「どぼじで…どぼじでぇ……おに゛いざぁ゛ぁ゛ぁ゛ん……」
一ヶ月後。れいむは藪の中で泥だらけになりながら唸っていた。
かつての面影はどこにもなく、お飾りは破け、肌はカサカサで汚れている、どこからどう見ても野良ゆっくりの姿だ。
「どぼじででいぶがごんなめに…おに゛いざんはゆっぐりせずにむかえにぎでねぇぇぇ……」
そう。れいむは捨てられたのだ。ある日突然、何の前触れも無しに。
…いや、前触れがなかったわけでは無い。
今思えば少し前からお兄さんの態度がおかしかった。
「れいむはおなかがぺーこぺーこだよ!おいしいあまあまでいいからはやくよういしてね!!」
「あー?ああ、そういや要るんだっけか。…クソッ、なんでこんな食いもしない菓子に金を…」
「ゆゆっ!?れいむがたべてるよ!れいむはごはんがないとしんじゃうんだよ!!ゆっくりりかいしてね!!」
「れいむいまからすーやすーやするよ!!おにいさんもゆっくりおやすみ!!」
「うるせえよ!いまようやくウツウツしてきたところなのに……いちいち大声出すなっつーの」
「ゆっ!そんなのしらないよ!れいむがおねむなんだからゆっくりおやすみっていうのはあたりまえでしょ!!」
「れいむこんどはちゃんとおといれでうんうんするよ!!…すっきりー!!!どう?ちゃんとできたでしょ?」
「はいはいそうですねー、すごいすごい。…わざわざゴミ増やすような真似しやがって……」
「ゆっ?ゆっ!?れいむちゃんとおといれできたのに……」
いつもおうちから出ないお兄さんが毎日おそとに出るようになって、おうちにいなくなることが多くなった。
そして、またずっとおうちにいるようになったら、さっきのように意地悪なことを言うようになった。
「どうしておにいさんはさいきんいじわるなの?れいむゆっくりできないよ!
おにいさんだってゆっくりできないのいやでしょ?わかったられいむをゆっくりさせてね!!」
「……はぁ?これ以上何が不満なんだ、お前。
メシはお前が欲しいのをやってる、おうちが欲しいって言うからお前の寝床もこしらえてやった。
おまけに、構えって言うから仕事中断してでも相手してやってるんだぞ?これ以上何が必要なんだ、お前は!!」
「ゆっ!!?……だって、さいきんおにいさんはすぐれいむをおこるよ。
れいむはもっとすきなようにゆっくりしたいのに!!おこられるのはゆっくりできないよ!!
れいむをゆっくりさせるのがかいぬしのやくめでしょ!ちゃんとしてね!!」
「………ああ、そうかよ。お前の気持ちはよくわかった。
そのうち思う存分、自分の好き勝手できるようになるさ。もう少し我慢してな」
「ほんと!?れいむゆっくりりかいしたよ!!
ゆっゆ~ん、ゆっくりのひ~、すっきりのひ~、まったりのひ~♪」
それから程なくしてれいむは木が沢山ある、知らない場所に放り出される。
お兄さんは笑いもしなかったし、怒りもしなかった。
「あばよ、れいむ。好きなだけゆっくりしてろ。俺はもうこりごりだ。
…やっぱりお前なんか、飼わなきゃよかったよ」
ただ、それだけ言ってれいむを放り投げて、輪っかが二つあるすぃーでどこかに行ってしまった。
「ゆっ!?おにいさんどうしたの?なんでれいむをこんなところにおいてくの!?
ここさむいよ!ゆっくりできないよ!ひとりはさみしいよ!いじわるしないででてきてね!!
……おに゛い゛ざぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!!!」
どれだけ呼んでもお兄さんは帰ってこない。
結局れいむは自分がどうなってるのかもわからずに、そこら辺を跳ね回るしかなかった。
「ゆゆっ!?れいむ…なんだぜ?ゆっくりしていってね!!」
「あら、なんだかきれいでとかいはなかんじのれいむね。ゆっくりしていってね!!」
「あっ!やっとほかのゆっくりをみつけたよ!ゆっくりしていってね!!」
そのうち他のゆっくりが見つかった。
話を聞くと、みんなも飼い主に捨てられたらしい。
どうして捨てられたのか?誰のせいなのか?考えても考えても答えは出ない。
「ゆぅ…おなかすいちゃったんだぜ。だれかまりささまにごはんさんもってくるんだぜ!!」
「れいむはもってないよ!でもたしかにおなかすいたね。だれかもってきてね!!」
「・・・どぼじでだれもごはんもってこないのぉぉぉ!!?はやぐもっできなざいよ゛くぞばばあ゛ー!!」
そして答えは出ずとも、腹は減る。
今まで狩りなどした事がないれいむたちは、勝手がわからずとも必死に食べられる物を探すしかなくなった。
「むーしゃむーしゃ、ふしあわせー。まずいんだぜ……」
「うぅ…どぼじででいぶがごんなべにぃ……おいじいあまあまじゃんがだべだいよぉ…」
「むーしゃむーしゃ。こんなごはんぜんぜんとかいはじゃ……ぐっ!!?
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!がらいぃぃぃぃ!!じぬ!あでぃずじんじゃうぅぅぅ!!!
………ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、もっど、ゆっぐり…じだ……」
「あでぃずぅぅぅぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!ゆっぐりじでよぉぉ゛ぉ゛!!!」
当然野良ゆっくりが食べられるものといえば雑草か、良くて生ゴミだ。
何が入っているかわからない上に、時に腐っているゴミはゆっくりを殺してしまう事もあり、
排気ガスなどで汚れきった雑草はゆっくりの食事には到底相応しいものでなかった。
それでもれいむたちは生きるために必死になって食べた。
体がどれだけ汚れようとも、どれだけ人間や飼いゆっくり達からゆっくりできない目で見られようともかまわなかった。
かつて自分が馬鹿にしていた『野良ゆっくり』になっていくことに、れいむは何の躊躇も見せなかった。
・
・
・
そして時は流れ、れいむたちが野良ゆっくりとして板についてきたころ。
れいむは、とある公園に住み着いていた。
何故か同じ境遇の仲間はどんどん増えてゆき、いまや公園は捨てゆっくりの住処になっている。
「れいむ!きょうはどこのなまごみさんがたべられるんだぜ?」
「うーん…さいきんどこもゆっくりできないあみさんがかかっててごみさんがとれないんだよ…」
生きる事に必死だったれいむは、もうほとんど飼いゆ時代のことを覚えていない。
だが、それでも飼い主のお兄さんが自分を捨てたことだけは中枢餡の片隅に置いていた。
なぜ?どうして?未だに原因はわからないし、お兄さんのことが許せない。できればせいっさいっしてやりたい。
しかしれいむはその日生きられるかどうかもわからない野良ゆっくり。生きるために、感傷に浸っている暇など無かった。
そんなある日……
「きょうはごはんさんがないから、まずいけどざっそうさんで…ゆっ!!?」
「どうしたのまりさ?」
「あれは……まりささまをすてたくそじじいだぜ!なんで…ゆゆっ!!?」
一番付き合いが長いまりさが、突然元飼い主を見つけたらしい。しかも一緒にいるのは…
『ゆっくりしていってね!!!』
『ん~?ゆっくりしてるよ。まりさはどうだ、ゆっくりしてるか?』
『ゆっくりしていってね!!!』
違うまりさだ。しかも、なんだか同じ事しか言ってなくて気持ち悪い。
「ゆぎぎぎぎ…まりささまをおいだしといてあんなへんなゆっくりといっしょにいるなんてぇ……!」
当然まりさは怒っている。れいむにはその気持ちが良くわかった。
当たり前だろう。れいむだってまりさと同じ境遇なのだ。
もしれいむがまりさの立場だったら…そう思うと、居ても立っても居られない。
「まりさ!あのじじいをせいっさいっするべきだよ!!
まりさにゆっくりさせてもらったのにおうちをおいだすげすはせいっさいっしないといけないよ!!」
だから、まりさを応援した。
自分ならきっとそうするだろうから、それが正しいと思っているから、まりさをけしかけた。
「そうなんだぜ!れいむのいうとおりなんだぜ!!
ついでにあのへんなまりさもぼこぼこにしてくるんだぜ!!いってくるんだぜ!!」
「いってらっしゃいまりさ!!ゆっくりがんばってね!!」
そう言って、まりさは恩知らずなくそじじいの元へ跳ねていった。
れいむはなんだかやり遂げた気分だった。満たされた気持ちで一杯だった。
(もしれいむもあのおんしらずなかいぬしのじじいにあったらおんなじようにしてやるよ。
ちょっとぼこぼこにしてやれば、きっとまたおうちでかってくれるはずだよ。
こんどはゆっくりなんてさせずに、どれいのようにこきつかってやるよ。
あのまりさだってきっとそうするはずだよ!ゆっくりさせていってね!!!)
そんな事を思いながら、まりさがどうやってせいっさいっするか見守るれいむ。
今、まさにまりさが変なゆっくりのまりさにせいっさいっをするところだ。
『ゆっくりしね!!このきもちわるいげすゆっくりぃぃ!!!』
『ゆっくり《ボスッ!》し!!』
『あっ、まりさ!!?』
まりさがおもいっきり体当たりを食らわしてやった。物陰で見ていたれいむもすっきりーっした。
『ゆっゆっゆっゆ!!これはせいっさいっなんだぜ!おんしらずなじじいもこんなふうにしてやるのぜ!!』
『お、おい、まりさ!大丈夫か?』
慌てふためく元まりさの飼い主のじじい。れいむもこの上なくいい気分だ。
(そうだよ!もっとぼこぼこにしてやるんだよ!!れいむをすてたあのじじいも……!!)
『きいてるの!いまならどげざして『何しやがるんだ、汚らしい野良が!!』ゆぎっ!!!』
「ゆっ!!!?」
れいむが興奮しすぎて、息を荒くした次の瞬間。まりさがじじいに踏みつけられていた。
まりさがおしりをプリプリ振るたびに、じじいの足がまりさに食い込んでゆく。
『ゆ゛っ!ゆ゛ぎっ!!や、やべでっいだいよ!!ばでぃざのあんごでじゃうよ!!』
『あぁ!?しらねぇよ、きったねぇ身なりしやがって!何様のつもりだ糞ゲスが!!
人のかわいいペットに手ぇ出しときながら…気持ち悪りいケツ振ってんじゃねーよ、潰すぞコラ!!!』
『あ゛がぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!!ばでぃざのあ゛んよが!あ゛んよがぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!』
「ゆっ、ゆっ?ゆっ!!?どぼじでぇ!!?でいぶのかんっぺきっなけいさんがぁ!!」
予想外の展開に戸惑うれいむ。が、だからといって時間が止まるわけもない。
『あ゛っあ゛っあ゛っあ゛っ!!ぼうやべでばでぃざじんじゃう゛!!
どぼじでっ!ばでぃざのあんござん!どぼじでぐぞじじいがっ!?
う゛っ、ぐぼぉっ!!お゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!』
「ばでぃざぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!……あ…あ゛ぁ゛………」
『あー、ウザッ。もどきか?こいつ。近寄んじゃねーっつーの!
おい大丈夫か、まりさ。ゆっくりしてるか?」
『ゆっくりしたけっかがこれだよ!!!』
『……そっかそっか、大丈夫そうだな!
それにしても、悩みとかなさそうだなぁお前………』
「……なんで?…なんでぇ!?」
あっという間に、まりさは押し潰されて永遠にゆっくりしてしまった。
口から、あにゃるから、まむまむから、おめめがあったところから、あらゆるところから餡子を出して死んだ。
殺したじじいはあの変なまりさを連れてさっさとどこかに行ってしまった。…まりさだったものに唾を吐きつけて。
変なまりさはというと、全くなんともなかった。痛がりもせず、泣きもせずにいつもどおりにあいさつしていた。
何故こうなったのか、れいむの頭ではなに一つとしてわからない。
れいむが思ったのは一つだけ。にんげんはずるい生き物だということ。
れいむたちは何にも悪いことしてないのに。ゆっくりしたいだけなのに。
ただおいしいごはんと、ゆっくりしたおうちと、自分が欲しいだけのゆっくりがあればいいだけなのに。
自分がゆっくりさせてもらった恩も忘れて、簡単にれいむたちをおうちから追い出す勝手な生き物。
少し強いからって、何もかもを暴力で押し通そうとする生き物。それがにんげんだ。
れいむはあのまりさを殺したじじいを、できれば自分を捨てたじじいもせいっさいっしてやりたかった。
でも、もしれいむが跳びかかっていってもさっきのまりさと同じようになってしまうだろう。
それが解っているから、れいむは何もできない。したくない。
だから悔しいけど、本当に悔しいけれど、まりさの事はできるだけ忘れるようにして野良生活に戻っていった。
――――――――――
さらに時が過ぎた。
れいむはもう立派な野良ゆっくりになっていて、
みすぼらしい風体からは飼いゆっくりだった頃の痕跡など何ひとつ見られない。
れいむが必死に生き延びようとしている間、たくさんの仲間が死んでいった。
あるゆっくりはおっきなすぃーに潰されて。あるゆっくりは人間に殺されて。
あるゆっくりはなまごみさんを持っていくすぃーから袋を取ろうとして、潰されて千切れて死んでしまった。
そして、何よりも…
「なんでおまえたちみたいなへんなゆっくりが……ゆっくりしないでしね!!」
「死ぬのはお前だ、饅頭もどき!!ウチのまりさに手ぇ出すんじゃねえ!!」
「ゆげ゛っ!!ゆぃ゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!やべでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!
じんじゃう!じんじゃう!じ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぼっどゆっぐりぃぃぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」
あの変なゆっくりに嫉妬して、人間に殺されるゆっくり達がとても多かった。
あの変なゆっくり達は、どれも漏れなく人間に飼われているようだった。
気に入らない、気持ち悪い、羨ましいといった理由で奴等を殺そうとしたゆっくりは残らず人間に惨たらしく殺された。
れいむだって、そんな気持ちがなかったわけじゃない。
ただ、れいむは人間と自分との力関係だけはわかっていた。
どれだけれいむ達の言うことが正しくても、あいつらは構わずに殺そうとするだろう。
悔しいけれどそれが現実。無残に死んでゆく仲間達を見て『それでも!』とは思えなかった。
結果、れいむは腰抜けとして野良仲間からも爪弾きにされた。
そんな、心にもやもやした物を抱えながら、いつものように食べる物を探していたある日。
「ゆぅ……これじゃきょうもまずいくささんだよ。なまごみさんはいじわるしないでれいむにたべられてね……」
『……っくりしていってね!!』
「ゆっ?またあのへんなゆっくりなの?じゃあまたにんげんさんが…」
『れいむ。ここらへんで休憩にしようか。ほら、座れよ』
『ゆっくりしていってね!!!』
「……ゆ?あのこえは、まさか……」
俯きながら跳ねていると突如聞こえた、懐かしさを感じる声。
れいむが身を隠しながら声のする方に恐る恐る顔を出してみると…
『今日はいい天気だなぁ。最高のゆっくり日和だな、れいむ』
『ゆっくりしていってね!!!』
「お、おにいさん。それに…どうしてへんなれいむと……」
そこには、もうほとんど忘れかけていた元飼い主の人間と、見知らぬれいむがベンチに座っていた。
・
・
・
『やっと今回の仕事も終わったし、これでまたしばらくは一緒にゆっくりできるぞ』
『ゆっくりしていってね!!!』
『ハハッ、そうだな。お前も嬉しいのか?
ちょっと前まではゆっくりしていってよーって、大騒ぎだったもんなあ。
まあ忙しかった俺を心配してくれてたんだろうから、いいけどさ』
「あんなにゆっくりしてるおにいさん、はじめてみるよ……どうしてれいむのときは……」
先程かられいむはずっと元飼い主のお兄さんと、その隣にいる変なれいむを隠れて見ていた。
その結果、解ったのは『お兄さんは今、とってもゆっくりしていること』と『あのれいむを可愛がっていること』
そして、『もう自分の事はすっかり忘れてしまっていること』だった。
一通り状況を把握し終わって、餡子脳の中に残っていた数少ない思い出を搾り出したあと。
「どうして…どうして……どぼじであんなれいむなんがどいっじょにぃ……!!」
れいむは異常なほどに腹を立てていた。
自分を捨てたくせに、あの変なれいむを代わりに飼っていることに。
(どうしてれいむはこんなところにいるのに、あんなにへんなれいむがあそこにいるの?)
それから、そのれいむを今まで自分がしてもらった事が無いほどに可愛がっていることに。
(れいむがどれだけおそとにでたいっていってもよろこんでいってくれなかったのに!!)
そして何よりも、自分を差し置いて、あんなにゆっくりした顔をしていることに。
「もうゆるせないよ……!あのくそげすども!れいむがこんなにゆっくりしてないのに!!!」
あの気持ち悪いゆっくり達を見て嫉妬した時も、仲間のまりさが殺された時でさえも、
あらゆる怒りを恐怖で抑えてきたれいむに、とうとう限界が来た。
「もうなんだっていいよ!あいつらぜったいにせいっさいっしてやるよぉ!!
きっといまのおこったれいむならかてるはずだよ!!
れいむのせいぎのてっついであいつらぼこぼこにしてやるよ!!」
一度キレてしまうと後はもう雪崩のように止まらない。
今まで自分に言い聞かせて踏みとどまってきた、あらゆる理由を無視してれいむは復讐を決意した。
「あのじじいがなにをいおうがしらないよ!!れいむはもうゆるさないんだよ!!
にんげんだってこっちのいうこときかないんだからとうぜんなんだよ!!
おんしらずはゆっくりしないでれいむがころしてやるよ!!」
無様に這いつくばる元飼い主と泣きながら許しを請うあの変なれいむの姿を想像して、
れいむは久しく忘れていたあの、ゆっくりした気持ちを思い出した。
あいつらはまだ能天気にゆっくりしている。それを見てれいむの怒りも更に募ってゆく。
「ゆっぐりごろじでやる゛…ゆ゛っぐりごろじでやるぞぉぉ゛ぉ゛!!」
そして、奴らが暢気に大きなアクビを終わらせたところでれいむは突撃した。
あのゲス飼い主の下へ、自分の居場所を奪ったあの変なれいむの元へ、己のゆっくりを取り戻すために。
「ぐぞげずどもはゆっぐりし『いやー、それにしてもやっぱりあのれいむを捨てて正解だったな』……ゆ?」
だが、次の瞬間。
元飼い主が突然放った何気ない一言で、あれだけ勇ましく跳ねていたれいむのあんよが止まってしまった。
捨てて正解?……何を言っているんだ?恩知らずのくせに!
『正直、負担になってたしなあ。
放っとくといつもあれこれうるさいし、メシの好みが細かいし、そのくせよく食うし、
挙句の果てには仕事の邪魔してくるし、飼ってても良いとこ一つも無かったっての
我侭で自分勝手で・・・ああいうのをでいぶって言うんだろうなあ。ったく、冗談じゃないぜ!』
「ゆゆっ!!?なにいってるの……?」
お前はれいむのおかげでゆっくりできてたんじゃないのか?
かわいいれいむがゆっくりさせてあげてたおかげで、毎日楽しくすごせてたんじゃないのか?
『その点お前は違うよ、れいむ。俺の仕事の邪魔はしないし、夜中に変な事で起こしてきたりしないし、
いちいち自分の行動を宣言しないからうるさくないし、まさに“ゆっくり”だな!!』
『ゆっくりしていってね!!!』
「ゆ、ゆゆっ!?ゆっ!!?」
あまりの言われように、れいむの餡子脳は爆発しそうなぐらいに混乱している。
あいつがゆっくり?そんな馬鹿な。あんなのがゆっくりなられいむはなんだと言うんだ。
れいむはかんっぺきっな飼いゆっくりだったんだ。飼い主の人間をゆっくりさせてあげられたんだ。
捨てられたのは。捨てられたのは………
今にも泣き叫びそうなれいむと、相変わらず少し離れたところでゆっくりしている一人と一匹。
淡々と隣のれいむに話しかける飼い主を眺め、あと一押しで崩れてしまいそうなれいむの心に
『あーあ、騙されたようなもんだ。何が飼いゆっくりだよ。
あんなゆっくりしてなくて人をゆっくりさせない物、他には無いぜ。あんなもん誰だっていらないって』
最後の剣が、突き刺さった。
――――――――――
「れ、れいむは、れいむは、れいむは……」
どれだけ呆然としていただろうか。
いつの間にか空は赤くなっていて、元飼い主の人間達はいなくなっていた。
あれかられいむは、ずっとロクに回らない頭で考えていた。
(れいむがいらない?なんで?れいむはにんげんをゆっくりさせられてなかったの?)
れいむにとって、唯一信じられた物。それがあるからこそ、自分が正しいと信じられた物。
すなわち“自分は非の打ち所がない飼いゆっくりで、完璧に仕事をこなせていた”という、根拠のない妄信。
それが粉々に打ち砕かれた。自分は人間をゆっくりさせない物なのだと言われてしまった。
よりにもよって、ゆっくりさせていたと思っていた人間自身に。
自分がちゃんとした飼いゆっくりだからこそ、捨てたことに本気で怒り狂うことができた。
そう思っていたからこそ、自分にはゆっくりする権利が、わがままを言えるだけの物があると思って振る舞えた。
信じていたからこそ、あんな変なれいむに負けるはずがないと、自分が上だという自信が持てた。
なのに…あの元飼い主の人間が言ったことは、ことごとくが考えていた事と逆だった。
れいむが直接言われたわけじゃない。それどころか、自分の存在を気付かれてすらもいないだろう。
それが尚れいむには堪えた。負け惜しみでもない、心底どうでもよさそうな口調が余計に心を抉った。
「ぞれならでいぶは……でいぶはどうじでずでられだの……?」
そしてとうとう、今まで頑なに考えようとしなかった疑問に行き着いてしまう。
「でいぶがちゃんとしたかいゆっぐりだっだらすてられながっだはずだよ…
でいぶがにんげんさんをゆっくりさせてあげられたんなら、でいぶをゆっくりさせてくれたはずだよ…
じゃあでいぶは…でいぶは……でいぶは………そっかぁ」
れいむは、ようやく悟った。
自分はダメなゆっくりだったんだと。飼いゆっくりとして失格だったんだと。
あの変なれいむにも劣る役立たずだったんだと。
お兄さんを、何ひとつとしてゆっくりさせることもできず、ただの足枷になっていたのだと。
さっき見た元飼い主のあの笑顔や、ゆっくりしている様が何よりの証拠だ。
自分でも言ってたじゃないか、「あんなゆっくりしたおにいさんはみたことがない」って。
しかしそれがわかったところで、れいむにはもうどうすることもできない。
その生き方が正しいと思ってやってきた。これが正しい飼いゆっくりとしての在り方だと信じてきた。
それを今更変えられはしない。変えられるほど器用じゃないし、具体的にどうしていいのかもわからない。
でも、それなら……
「でいぶは……どぼずでばよがっだのぉぉぉ!!!?
でいぶだってせいいっばいがんばっだんだよぉぉ゛ぉ゛!!でいぶだっでゆっぐりじだがっだんだよぉ゛ぉ゛!!」
その疑問に、その叫びに答える者は誰もいない。
れいむが精一杯、魂から搾り出したような訴えは、ただ静かに夕暮れの空へと消えていった。
――――――――――
人々はゆっくりに飽きていた。
いや、正確に言えば買いかぶり過ぎていたことに気付いて辟易としていたのか、それとも落胆したのか。
とにかく、大勢の人間にとって現代のゆっくりは目障りな物でしかなくなっていたのだ。
うるさい。頭が悪い。その巨体ゆえに食費は犬や猫よりも数段かさむ。
言うことを聞かない。そのくせ言葉は話せるので自分のわがままはきっちり通してくる。
ペットとして何もかもが不適格であるゆっくりに、当初の期待を裏切られた人間達。
深刻化するゆっくり離れに慌てたのはゆっくり関連のものを販売している企業やペットショップだ。
これではいけないと国内唯一のゆっくり専門研究機関、通称“加工所”と呼ばれるところが対策を練り始めた。
最初はもっと優秀なゆっくりを作ろうとしたものの予算、施設の確保、その他諸々の問題により却下。
洗脳染みた躾を施せばなんとかなるのだろうが、生憎と一組織の力ではそれらを作り上げるには時間が足りなかった。
そして別の方法を考えた結果、遥か昔ゆっくりが発見された当初の形態である“原種”に目をつける。
元から単純な構造であったゆっくりを、更に単純にした原種をペットにできないかと考えたのだ。
それから、人の手が入っていない場所を草の根分けて探して、ようやく原種を発見した加工所。
その後はこれまでの足踏みが嘘だったように、そう時間は掛からず原種の繁殖に成功、販売までこぎつけた。
安定した供給が見込めるようになってすぐに“これこそ人間をゆっくりさせてくれるゆっくり”として売り出す。
最初は『どうせなんだって同じだろ』と言って相手にしなかった人々も、
あまりの自分の飼いゆっくりの手の掛かりように、試しに見てみようかとやがて興味を持つようになった。
結果、飼いゆっくりは捨てられて、原種ゆっくりが代わりにその地位に着くことになる。
これまでのゆっくりに比べて原種ゆっくりは、あまりにもマイナス要素が少なすぎた。
従来のゆっくりに比べて、
ゆっくりしてさえいれば食事はいらない。
ギャーギャー喚かず、数パターンの言葉を叫ぶだけ。
感情に起伏がなく、個体差がない代わりに扱いやすくゲスなども皆無。
明らかに死ぬようなダメージを受けなければ息絶えず、ストレスで餡子を吐いて~などありえない等、
正に原種は、ペットとしてはこの上なく飼いやすいナマモノだった。
人間にとって、現代のゆっくりのあらゆるマイナス部分が無くなった原種ゆっくり。
試しにペットショップで何度か触れ合って、家のゆっくりと比較して、最終的には購入。
この形で実に七割の元飼いゆっくりが野に放たれた(それとは別に、二割がその場で潰された)。
残りの一割未満には本当に優秀なゆっくりや物好きが残ったのだが…まあそれは本当に極一部の話なので置いておこう。
とにかく、こうして飼いゆっくり“だったもの”たちは行き場を失った。
彼らは知らない。いま自分たちが世間で『ゆっくりもどき』という蔑称で呼ばれていることを。
もう彼らはゆっくりなどではない。ペットの代用品にすらなれない、ただのまがいものなのだ。
虐待好きな者たちも、もうゆっくりもどきには関わろうとしない。
そもそも虐待するのは“あいつらが生意気で、見てて腹立つから”という理由が大多数だ。
生意気でなく、腹も立たないゆっくりがいるのにわざわざ腹を立たせにいく筈がない。
「おでがいじばず!!なんでぼいいでずがらでいぶをがっでぐだざい!!」
「いじめでぼいいでずがら!ばでぃざはなんだっでがまんじばずがら!!
もうひどりはいやなんでず!だれどもゆっぐりでぎないのはいやなんでずぅぅぅ!!!」
見向きもされなくなったゆっくりもどきは、その内寂しさに耐え切れずあらゆる手を使って気を引こうとするようになる。
が、それも無理な話。虐待自体が好きという希少な人間ですら“虐めてくれ”などと自ら申し出るものになど食指は動かない。
むしろそんなふうに体を地面に擦りつけながら必死に懇願する、惨めな姿を見物することで楽しむようになった。
第一、虐待用のゆっくりを提供するビジネスも現代には存在するのだ。わざわざ野良を拾う必要などこれっぽっちも無い。
人々の記憶から次第に消えていく従来のゆっくりたち。
まだその場に呆然と佇んでいるれいむを含めて、捨てられた彼らは、悪かったのだ。
何がではない。全てが悪かった。
飼いゆっくりとして己を磨かず、現状に満足して胡坐を掻いたその怠慢さが悪かった。
極端な話、全てを受け入れてくれるほど心の広い飼い主にめぐり合わない、運が悪かった。
そして、何よりも。生まれてきた時代が悪かった。
世の中には流行り廃りというものがある。
いくら欠点だらけだといっても従来のゆっくりにしかない良さが確かに存在する以上、
今は持て囃されていてもいずれは原種ゆっくりが飽きられ、まがいものと言われた彼らに再び光が当たる時が必ず来る。
ただ、それがれいむが生きている間には絶対にやってこないだけの話だった。
もう少し早く生まれていれば、なんだかんだ言っても死ぬまで平穏に暮らせただろう。
もう少し遅く生まれていれば、あるいは拾われるなり、飼われるチャンスがあったかもしれない。
が、れいむは生まれ、育ち、生きているのは今、ここだ。
ここに存在している限り救いの手が差し出されることは絶対にない。
れいむが掴み取れるゆっくりはれいむが生きている限り爪の垢ほどもありはしない。
誰にも気にかけられる事なく無様に死ぬ。それが一番の幸せだということにれいむが気付くのは何時になるのだろうか。
「で…でいぶ…もうおうぢがえる……
がえりだい…おうぢにがえりだい……どごでも゛いいがらがえりだいぃ゛ぃ゛!ゆ゛んやぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
日付けが変わったころ、れいむはもう一度力の限り叫んだ。
その声に気付いたれみりゃなり人間なりが、れいむを殺してくれればまだよかったのに。
残念ながらそれすらもなく、れいむの叫びは誰にも気付かれる事なく闇へと消えていった。
これから先。れいむは人々に疎まれ、蔑まれながらも立派にしぶとくゆん生を全うしたが、
その孤独な生の中に一カケラのゆっくりもなかったことは言うまでもないだろう―――
おしまい
『ゆっくりしていってね!!!』
『ゆっくりしていってね!!!』
『遥か昔に失われたゆっくりが現代に!
原種ゆっくりれいむ、原種ゆっくりまりさが新登場!!そのほかの通常種も続々販売予定!!』
「ゆっゆっゆっゆ!!あんなへんなゆっくりなんかだれがほしがるんだろうね?
かわいいれいむとはおおちがいだよ!!ねえそうおもうでしょ?」
「んー?ああ、そうだなー。わかったからちょっと黙っててくれるか。
いま仕事中で手が離せないからさあ、集中したいんだわ」
テレビのCMを見ながらゲラゲラ笑うれいむ。
いつもおいしいご飯とゆっくりしたおうちに囲まれて、しあわせーっな暮らしをしている、勝ち組飼いゆっくりだ。
気に入らないことがあるとすれば、飼い主のお兄さんがあんまり一緒に遊んでくれないことだろうか。
散歩に連れて行ってと言っても「さっきお前に構ったせいでお仕事が忙しいからダメ」
なられいむだけで行くと言っても「お前はバカだし、何するかわかんないからダメ」
ならせめて、お話だけでもして欲しいと言ったら「いいからテレビでも見ててくれ」だ。
あんまりな待遇だと思って抗議すると、「お前のご飯を買うためなんだぞ?」などと言ってきた。
意味がわからない。お兄さんはいっつもおうちにいて、全然狩りをしてこないじゃないか。
することといえば、ごほんをじっと読んでいるか、ちっちゃなテレビさんに向かってカタカタ音を鳴らしているだけ。
なのにごはんのため?意味がわからない。そう言うと、お兄さんは嫌な顔をするけどれいむと遊んでくれる。
やっぱりれいむは間違ってないんだ!いっつもそう思うんだけど…
遊んでもらったあとは、お兄さんはさらに冷たくなる。
れいむが何を言っても「締め切りが…」って言うだけだ。
「きいてるのおにいさん!!れいむはおしゃべりしたいんだよ!!
おしごとおしごとってわけわかんないこといっていじわるしないでね!!」
「……チッ。なんだよ、何か重要な話でもあるのか?さっさと言ってくれ」
「ゆふふん、やっとおはなしをきくきになったんだね!それでいいんだよ!!
さっきてれびさんをみてたらね、ゆっくりしていってねってしかいわないれいむとまりさがいたんだよ!!」
「ふーん、それで?」
「だかられいむへんなのっておもったんだよ!!おしゃべりできないれいむなんてゆっくりできないよね!!
“げんしゅ”だかなんだかしらないけど、あんなにせものれいむなんてれいむがみたらせいっさいっしてやるよ!
そこらへんにころがってるのらとおんなじくらいゆっくりできないね!!おぉぶざまぶざま!!」
「ふーん?そっかー。長台詞ご苦労様。もういいか?」
「ゆっ・・・れいむしーしーしたくなってきたよ!ついでにうんうんもしたくなってきたよ!!
おといれにいくからそのあいだにごはんよういしてね!!あまあまたくさんでいいからね!!
れいむはゆっくりはねるよ!ぴょーんぴょーん!!ゆっ!?れいむしーしー……」
「うるせぇなあ……。それにしても」
「おに゛いざぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ん!!でいぶぢーぢーもらじぢゃっだよぉぉぉ!!!
ぐざぐできぼぢわるいがらざっざどおぞうじじでねぇぇぇぇ!!!」
「えぇ、またかよ!!あーもう、ただでさえ時間が押してるってのに……
あーあ、なんでこんなの飼っちゃったんだろうなあ」
「はやぐじでよぉぉぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!ぐずなかいぬじはきらいだよぉぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
「へーへーわかったよ。…それにしても、原種か………」
(まったく、ぐずでゆっくりしてないかいぬしさんだとこまるね!!
れいむがいなきゃゆっくりのかけらもなくなっちゃうよ!!
これからもれいむがいっしょにいてあげるから、いっしょーかけてゆっくりさせてね!!!)
――――――――――
「どぼじで…どぼじでぇ……おに゛いざぁ゛ぁ゛ぁ゛ん……」
一ヶ月後。れいむは藪の中で泥だらけになりながら唸っていた。
かつての面影はどこにもなく、お飾りは破け、肌はカサカサで汚れている、どこからどう見ても野良ゆっくりの姿だ。
「どぼじででいぶがごんなめに…おに゛いざんはゆっぐりせずにむかえにぎでねぇぇぇ……」
そう。れいむは捨てられたのだ。ある日突然、何の前触れも無しに。
…いや、前触れがなかったわけでは無い。
今思えば少し前からお兄さんの態度がおかしかった。
「れいむはおなかがぺーこぺーこだよ!おいしいあまあまでいいからはやくよういしてね!!」
「あー?ああ、そういや要るんだっけか。…クソッ、なんでこんな食いもしない菓子に金を…」
「ゆゆっ!?れいむがたべてるよ!れいむはごはんがないとしんじゃうんだよ!!ゆっくりりかいしてね!!」
「れいむいまからすーやすーやするよ!!おにいさんもゆっくりおやすみ!!」
「うるせえよ!いまようやくウツウツしてきたところなのに……いちいち大声出すなっつーの」
「ゆっ!そんなのしらないよ!れいむがおねむなんだからゆっくりおやすみっていうのはあたりまえでしょ!!」
「れいむこんどはちゃんとおといれでうんうんするよ!!…すっきりー!!!どう?ちゃんとできたでしょ?」
「はいはいそうですねー、すごいすごい。…わざわざゴミ増やすような真似しやがって……」
「ゆっ?ゆっ!?れいむちゃんとおといれできたのに……」
いつもおうちから出ないお兄さんが毎日おそとに出るようになって、おうちにいなくなることが多くなった。
そして、またずっとおうちにいるようになったら、さっきのように意地悪なことを言うようになった。
「どうしておにいさんはさいきんいじわるなの?れいむゆっくりできないよ!
おにいさんだってゆっくりできないのいやでしょ?わかったられいむをゆっくりさせてね!!」
「……はぁ?これ以上何が不満なんだ、お前。
メシはお前が欲しいのをやってる、おうちが欲しいって言うからお前の寝床もこしらえてやった。
おまけに、構えって言うから仕事中断してでも相手してやってるんだぞ?これ以上何が必要なんだ、お前は!!」
「ゆっ!!?……だって、さいきんおにいさんはすぐれいむをおこるよ。
れいむはもっとすきなようにゆっくりしたいのに!!おこられるのはゆっくりできないよ!!
れいむをゆっくりさせるのがかいぬしのやくめでしょ!ちゃんとしてね!!」
「………ああ、そうかよ。お前の気持ちはよくわかった。
そのうち思う存分、自分の好き勝手できるようになるさ。もう少し我慢してな」
「ほんと!?れいむゆっくりりかいしたよ!!
ゆっゆ~ん、ゆっくりのひ~、すっきりのひ~、まったりのひ~♪」
それから程なくしてれいむは木が沢山ある、知らない場所に放り出される。
お兄さんは笑いもしなかったし、怒りもしなかった。
「あばよ、れいむ。好きなだけゆっくりしてろ。俺はもうこりごりだ。
…やっぱりお前なんか、飼わなきゃよかったよ」
ただ、それだけ言ってれいむを放り投げて、輪っかが二つあるすぃーでどこかに行ってしまった。
「ゆっ!?おにいさんどうしたの?なんでれいむをこんなところにおいてくの!?
ここさむいよ!ゆっくりできないよ!ひとりはさみしいよ!いじわるしないででてきてね!!
……おに゛い゛ざぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!!!」
どれだけ呼んでもお兄さんは帰ってこない。
結局れいむは自分がどうなってるのかもわからずに、そこら辺を跳ね回るしかなかった。
「ゆゆっ!?れいむ…なんだぜ?ゆっくりしていってね!!」
「あら、なんだかきれいでとかいはなかんじのれいむね。ゆっくりしていってね!!」
「あっ!やっとほかのゆっくりをみつけたよ!ゆっくりしていってね!!」
そのうち他のゆっくりが見つかった。
話を聞くと、みんなも飼い主に捨てられたらしい。
どうして捨てられたのか?誰のせいなのか?考えても考えても答えは出ない。
「ゆぅ…おなかすいちゃったんだぜ。だれかまりささまにごはんさんもってくるんだぜ!!」
「れいむはもってないよ!でもたしかにおなかすいたね。だれかもってきてね!!」
「・・・どぼじでだれもごはんもってこないのぉぉぉ!!?はやぐもっできなざいよ゛くぞばばあ゛ー!!」
そして答えは出ずとも、腹は減る。
今まで狩りなどした事がないれいむたちは、勝手がわからずとも必死に食べられる物を探すしかなくなった。
「むーしゃむーしゃ、ふしあわせー。まずいんだぜ……」
「うぅ…どぼじででいぶがごんなべにぃ……おいじいあまあまじゃんがだべだいよぉ…」
「むーしゃむーしゃ。こんなごはんぜんぜんとかいはじゃ……ぐっ!!?
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!がらいぃぃぃぃ!!じぬ!あでぃずじんじゃうぅぅぅ!!!
………ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、もっど、ゆっぐり…じだ……」
「あでぃずぅぅぅぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!ゆっぐりじでよぉぉ゛ぉ゛!!!」
当然野良ゆっくりが食べられるものといえば雑草か、良くて生ゴミだ。
何が入っているかわからない上に、時に腐っているゴミはゆっくりを殺してしまう事もあり、
排気ガスなどで汚れきった雑草はゆっくりの食事には到底相応しいものでなかった。
それでもれいむたちは生きるために必死になって食べた。
体がどれだけ汚れようとも、どれだけ人間や飼いゆっくり達からゆっくりできない目で見られようともかまわなかった。
かつて自分が馬鹿にしていた『野良ゆっくり』になっていくことに、れいむは何の躊躇も見せなかった。
・
・
・
そして時は流れ、れいむたちが野良ゆっくりとして板についてきたころ。
れいむは、とある公園に住み着いていた。
何故か同じ境遇の仲間はどんどん増えてゆき、いまや公園は捨てゆっくりの住処になっている。
「れいむ!きょうはどこのなまごみさんがたべられるんだぜ?」
「うーん…さいきんどこもゆっくりできないあみさんがかかっててごみさんがとれないんだよ…」
生きる事に必死だったれいむは、もうほとんど飼いゆ時代のことを覚えていない。
だが、それでも飼い主のお兄さんが自分を捨てたことだけは中枢餡の片隅に置いていた。
なぜ?どうして?未だに原因はわからないし、お兄さんのことが許せない。できればせいっさいっしてやりたい。
しかしれいむはその日生きられるかどうかもわからない野良ゆっくり。生きるために、感傷に浸っている暇など無かった。
そんなある日……
「きょうはごはんさんがないから、まずいけどざっそうさんで…ゆっ!!?」
「どうしたのまりさ?」
「あれは……まりささまをすてたくそじじいだぜ!なんで…ゆゆっ!!?」
一番付き合いが長いまりさが、突然元飼い主を見つけたらしい。しかも一緒にいるのは…
『ゆっくりしていってね!!!』
『ん~?ゆっくりしてるよ。まりさはどうだ、ゆっくりしてるか?』
『ゆっくりしていってね!!!』
違うまりさだ。しかも、なんだか同じ事しか言ってなくて気持ち悪い。
「ゆぎぎぎぎ…まりささまをおいだしといてあんなへんなゆっくりといっしょにいるなんてぇ……!」
当然まりさは怒っている。れいむにはその気持ちが良くわかった。
当たり前だろう。れいむだってまりさと同じ境遇なのだ。
もしれいむがまりさの立場だったら…そう思うと、居ても立っても居られない。
「まりさ!あのじじいをせいっさいっするべきだよ!!
まりさにゆっくりさせてもらったのにおうちをおいだすげすはせいっさいっしないといけないよ!!」
だから、まりさを応援した。
自分ならきっとそうするだろうから、それが正しいと思っているから、まりさをけしかけた。
「そうなんだぜ!れいむのいうとおりなんだぜ!!
ついでにあのへんなまりさもぼこぼこにしてくるんだぜ!!いってくるんだぜ!!」
「いってらっしゃいまりさ!!ゆっくりがんばってね!!」
そう言って、まりさは恩知らずなくそじじいの元へ跳ねていった。
れいむはなんだかやり遂げた気分だった。満たされた気持ちで一杯だった。
(もしれいむもあのおんしらずなかいぬしのじじいにあったらおんなじようにしてやるよ。
ちょっとぼこぼこにしてやれば、きっとまたおうちでかってくれるはずだよ。
こんどはゆっくりなんてさせずに、どれいのようにこきつかってやるよ。
あのまりさだってきっとそうするはずだよ!ゆっくりさせていってね!!!)
そんな事を思いながら、まりさがどうやってせいっさいっするか見守るれいむ。
今、まさにまりさが変なゆっくりのまりさにせいっさいっをするところだ。
『ゆっくりしね!!このきもちわるいげすゆっくりぃぃ!!!』
『ゆっくり《ボスッ!》し!!』
『あっ、まりさ!!?』
まりさがおもいっきり体当たりを食らわしてやった。物陰で見ていたれいむもすっきりーっした。
『ゆっゆっゆっゆ!!これはせいっさいっなんだぜ!おんしらずなじじいもこんなふうにしてやるのぜ!!』
『お、おい、まりさ!大丈夫か?』
慌てふためく元まりさの飼い主のじじい。れいむもこの上なくいい気分だ。
(そうだよ!もっとぼこぼこにしてやるんだよ!!れいむをすてたあのじじいも……!!)
『きいてるの!いまならどげざして『何しやがるんだ、汚らしい野良が!!』ゆぎっ!!!』
「ゆっ!!!?」
れいむが興奮しすぎて、息を荒くした次の瞬間。まりさがじじいに踏みつけられていた。
まりさがおしりをプリプリ振るたびに、じじいの足がまりさに食い込んでゆく。
『ゆ゛っ!ゆ゛ぎっ!!や、やべでっいだいよ!!ばでぃざのあんごでじゃうよ!!』
『あぁ!?しらねぇよ、きったねぇ身なりしやがって!何様のつもりだ糞ゲスが!!
人のかわいいペットに手ぇ出しときながら…気持ち悪りいケツ振ってんじゃねーよ、潰すぞコラ!!!』
『あ゛がぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!!ばでぃざのあ゛んよが!あ゛んよがぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!』
「ゆっ、ゆっ?ゆっ!!?どぼじでぇ!!?でいぶのかんっぺきっなけいさんがぁ!!」
予想外の展開に戸惑うれいむ。が、だからといって時間が止まるわけもない。
『あ゛っあ゛っあ゛っあ゛っ!!ぼうやべでばでぃざじんじゃう゛!!
どぼじでっ!ばでぃざのあんござん!どぼじでぐぞじじいがっ!?
う゛っ、ぐぼぉっ!!お゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!』
「ばでぃざぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!……あ…あ゛ぁ゛………」
『あー、ウザッ。もどきか?こいつ。近寄んじゃねーっつーの!
おい大丈夫か、まりさ。ゆっくりしてるか?」
『ゆっくりしたけっかがこれだよ!!!』
『……そっかそっか、大丈夫そうだな!
それにしても、悩みとかなさそうだなぁお前………』
「……なんで?…なんでぇ!?」
あっという間に、まりさは押し潰されて永遠にゆっくりしてしまった。
口から、あにゃるから、まむまむから、おめめがあったところから、あらゆるところから餡子を出して死んだ。
殺したじじいはあの変なまりさを連れてさっさとどこかに行ってしまった。…まりさだったものに唾を吐きつけて。
変なまりさはというと、全くなんともなかった。痛がりもせず、泣きもせずにいつもどおりにあいさつしていた。
何故こうなったのか、れいむの頭ではなに一つとしてわからない。
れいむが思ったのは一つだけ。にんげんはずるい生き物だということ。
れいむたちは何にも悪いことしてないのに。ゆっくりしたいだけなのに。
ただおいしいごはんと、ゆっくりしたおうちと、自分が欲しいだけのゆっくりがあればいいだけなのに。
自分がゆっくりさせてもらった恩も忘れて、簡単にれいむたちをおうちから追い出す勝手な生き物。
少し強いからって、何もかもを暴力で押し通そうとする生き物。それがにんげんだ。
れいむはあのまりさを殺したじじいを、できれば自分を捨てたじじいもせいっさいっしてやりたかった。
でも、もしれいむが跳びかかっていってもさっきのまりさと同じようになってしまうだろう。
それが解っているから、れいむは何もできない。したくない。
だから悔しいけど、本当に悔しいけれど、まりさの事はできるだけ忘れるようにして野良生活に戻っていった。
――――――――――
さらに時が過ぎた。
れいむはもう立派な野良ゆっくりになっていて、
みすぼらしい風体からは飼いゆっくりだった頃の痕跡など何ひとつ見られない。
れいむが必死に生き延びようとしている間、たくさんの仲間が死んでいった。
あるゆっくりはおっきなすぃーに潰されて。あるゆっくりは人間に殺されて。
あるゆっくりはなまごみさんを持っていくすぃーから袋を取ろうとして、潰されて千切れて死んでしまった。
そして、何よりも…
「なんでおまえたちみたいなへんなゆっくりが……ゆっくりしないでしね!!」
「死ぬのはお前だ、饅頭もどき!!ウチのまりさに手ぇ出すんじゃねえ!!」
「ゆげ゛っ!!ゆぃ゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!やべでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!
じんじゃう!じんじゃう!じ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぼっどゆっぐりぃぃぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」
あの変なゆっくりに嫉妬して、人間に殺されるゆっくり達がとても多かった。
あの変なゆっくり達は、どれも漏れなく人間に飼われているようだった。
気に入らない、気持ち悪い、羨ましいといった理由で奴等を殺そうとしたゆっくりは残らず人間に惨たらしく殺された。
れいむだって、そんな気持ちがなかったわけじゃない。
ただ、れいむは人間と自分との力関係だけはわかっていた。
どれだけれいむ達の言うことが正しくても、あいつらは構わずに殺そうとするだろう。
悔しいけれどそれが現実。無残に死んでゆく仲間達を見て『それでも!』とは思えなかった。
結果、れいむは腰抜けとして野良仲間からも爪弾きにされた。
そんな、心にもやもやした物を抱えながら、いつものように食べる物を探していたある日。
「ゆぅ……これじゃきょうもまずいくささんだよ。なまごみさんはいじわるしないでれいむにたべられてね……」
『……っくりしていってね!!』
「ゆっ?またあのへんなゆっくりなの?じゃあまたにんげんさんが…」
『れいむ。ここらへんで休憩にしようか。ほら、座れよ』
『ゆっくりしていってね!!!』
「……ゆ?あのこえは、まさか……」
俯きながら跳ねていると突如聞こえた、懐かしさを感じる声。
れいむが身を隠しながら声のする方に恐る恐る顔を出してみると…
『今日はいい天気だなぁ。最高のゆっくり日和だな、れいむ』
『ゆっくりしていってね!!!』
「お、おにいさん。それに…どうしてへんなれいむと……」
そこには、もうほとんど忘れかけていた元飼い主の人間と、見知らぬれいむがベンチに座っていた。
・
・
・
『やっと今回の仕事も終わったし、これでまたしばらくは一緒にゆっくりできるぞ』
『ゆっくりしていってね!!!』
『ハハッ、そうだな。お前も嬉しいのか?
ちょっと前まではゆっくりしていってよーって、大騒ぎだったもんなあ。
まあ忙しかった俺を心配してくれてたんだろうから、いいけどさ』
「あんなにゆっくりしてるおにいさん、はじめてみるよ……どうしてれいむのときは……」
先程かられいむはずっと元飼い主のお兄さんと、その隣にいる変なれいむを隠れて見ていた。
その結果、解ったのは『お兄さんは今、とってもゆっくりしていること』と『あのれいむを可愛がっていること』
そして、『もう自分の事はすっかり忘れてしまっていること』だった。
一通り状況を把握し終わって、餡子脳の中に残っていた数少ない思い出を搾り出したあと。
「どうして…どうして……どぼじであんなれいむなんがどいっじょにぃ……!!」
れいむは異常なほどに腹を立てていた。
自分を捨てたくせに、あの変なれいむを代わりに飼っていることに。
(どうしてれいむはこんなところにいるのに、あんなにへんなれいむがあそこにいるの?)
それから、そのれいむを今まで自分がしてもらった事が無いほどに可愛がっていることに。
(れいむがどれだけおそとにでたいっていってもよろこんでいってくれなかったのに!!)
そして何よりも、自分を差し置いて、あんなにゆっくりした顔をしていることに。
「もうゆるせないよ……!あのくそげすども!れいむがこんなにゆっくりしてないのに!!!」
あの気持ち悪いゆっくり達を見て嫉妬した時も、仲間のまりさが殺された時でさえも、
あらゆる怒りを恐怖で抑えてきたれいむに、とうとう限界が来た。
「もうなんだっていいよ!あいつらぜったいにせいっさいっしてやるよぉ!!
きっといまのおこったれいむならかてるはずだよ!!
れいむのせいぎのてっついであいつらぼこぼこにしてやるよ!!」
一度キレてしまうと後はもう雪崩のように止まらない。
今まで自分に言い聞かせて踏みとどまってきた、あらゆる理由を無視してれいむは復讐を決意した。
「あのじじいがなにをいおうがしらないよ!!れいむはもうゆるさないんだよ!!
にんげんだってこっちのいうこときかないんだからとうぜんなんだよ!!
おんしらずはゆっくりしないでれいむがころしてやるよ!!」
無様に這いつくばる元飼い主と泣きながら許しを請うあの変なれいむの姿を想像して、
れいむは久しく忘れていたあの、ゆっくりした気持ちを思い出した。
あいつらはまだ能天気にゆっくりしている。それを見てれいむの怒りも更に募ってゆく。
「ゆっぐりごろじでやる゛…ゆ゛っぐりごろじでやるぞぉぉ゛ぉ゛!!」
そして、奴らが暢気に大きなアクビを終わらせたところでれいむは突撃した。
あのゲス飼い主の下へ、自分の居場所を奪ったあの変なれいむの元へ、己のゆっくりを取り戻すために。
「ぐぞげずどもはゆっぐりし『いやー、それにしてもやっぱりあのれいむを捨てて正解だったな』……ゆ?」
だが、次の瞬間。
元飼い主が突然放った何気ない一言で、あれだけ勇ましく跳ねていたれいむのあんよが止まってしまった。
捨てて正解?……何を言っているんだ?恩知らずのくせに!
『正直、負担になってたしなあ。
放っとくといつもあれこれうるさいし、メシの好みが細かいし、そのくせよく食うし、
挙句の果てには仕事の邪魔してくるし、飼ってても良いとこ一つも無かったっての
我侭で自分勝手で・・・ああいうのをでいぶって言うんだろうなあ。ったく、冗談じゃないぜ!』
「ゆゆっ!!?なにいってるの……?」
お前はれいむのおかげでゆっくりできてたんじゃないのか?
かわいいれいむがゆっくりさせてあげてたおかげで、毎日楽しくすごせてたんじゃないのか?
『その点お前は違うよ、れいむ。俺の仕事の邪魔はしないし、夜中に変な事で起こしてきたりしないし、
いちいち自分の行動を宣言しないからうるさくないし、まさに“ゆっくり”だな!!』
『ゆっくりしていってね!!!』
「ゆ、ゆゆっ!?ゆっ!!?」
あまりの言われように、れいむの餡子脳は爆発しそうなぐらいに混乱している。
あいつがゆっくり?そんな馬鹿な。あんなのがゆっくりなられいむはなんだと言うんだ。
れいむはかんっぺきっな飼いゆっくりだったんだ。飼い主の人間をゆっくりさせてあげられたんだ。
捨てられたのは。捨てられたのは………
今にも泣き叫びそうなれいむと、相変わらず少し離れたところでゆっくりしている一人と一匹。
淡々と隣のれいむに話しかける飼い主を眺め、あと一押しで崩れてしまいそうなれいむの心に
『あーあ、騙されたようなもんだ。何が飼いゆっくりだよ。
あんなゆっくりしてなくて人をゆっくりさせない物、他には無いぜ。あんなもん誰だっていらないって』
最後の剣が、突き刺さった。
――――――――――
「れ、れいむは、れいむは、れいむは……」
どれだけ呆然としていただろうか。
いつの間にか空は赤くなっていて、元飼い主の人間達はいなくなっていた。
あれかられいむは、ずっとロクに回らない頭で考えていた。
(れいむがいらない?なんで?れいむはにんげんをゆっくりさせられてなかったの?)
れいむにとって、唯一信じられた物。それがあるからこそ、自分が正しいと信じられた物。
すなわち“自分は非の打ち所がない飼いゆっくりで、完璧に仕事をこなせていた”という、根拠のない妄信。
それが粉々に打ち砕かれた。自分は人間をゆっくりさせない物なのだと言われてしまった。
よりにもよって、ゆっくりさせていたと思っていた人間自身に。
自分がちゃんとした飼いゆっくりだからこそ、捨てたことに本気で怒り狂うことができた。
そう思っていたからこそ、自分にはゆっくりする権利が、わがままを言えるだけの物があると思って振る舞えた。
信じていたからこそ、あんな変なれいむに負けるはずがないと、自分が上だという自信が持てた。
なのに…あの元飼い主の人間が言ったことは、ことごとくが考えていた事と逆だった。
れいむが直接言われたわけじゃない。それどころか、自分の存在を気付かれてすらもいないだろう。
それが尚れいむには堪えた。負け惜しみでもない、心底どうでもよさそうな口調が余計に心を抉った。
「ぞれならでいぶは……でいぶはどうじでずでられだの……?」
そしてとうとう、今まで頑なに考えようとしなかった疑問に行き着いてしまう。
「でいぶがちゃんとしたかいゆっぐりだっだらすてられながっだはずだよ…
でいぶがにんげんさんをゆっくりさせてあげられたんなら、でいぶをゆっくりさせてくれたはずだよ…
じゃあでいぶは…でいぶは……でいぶは………そっかぁ」
れいむは、ようやく悟った。
自分はダメなゆっくりだったんだと。飼いゆっくりとして失格だったんだと。
あの変なれいむにも劣る役立たずだったんだと。
お兄さんを、何ひとつとしてゆっくりさせることもできず、ただの足枷になっていたのだと。
さっき見た元飼い主のあの笑顔や、ゆっくりしている様が何よりの証拠だ。
自分でも言ってたじゃないか、「あんなゆっくりしたおにいさんはみたことがない」って。
しかしそれがわかったところで、れいむにはもうどうすることもできない。
その生き方が正しいと思ってやってきた。これが正しい飼いゆっくりとしての在り方だと信じてきた。
それを今更変えられはしない。変えられるほど器用じゃないし、具体的にどうしていいのかもわからない。
でも、それなら……
「でいぶは……どぼずでばよがっだのぉぉぉ!!!?
でいぶだってせいいっばいがんばっだんだよぉぉ゛ぉ゛!!でいぶだっでゆっぐりじだがっだんだよぉ゛ぉ゛!!」
その疑問に、その叫びに答える者は誰もいない。
れいむが精一杯、魂から搾り出したような訴えは、ただ静かに夕暮れの空へと消えていった。
――――――――――
人々はゆっくりに飽きていた。
いや、正確に言えば買いかぶり過ぎていたことに気付いて辟易としていたのか、それとも落胆したのか。
とにかく、大勢の人間にとって現代のゆっくりは目障りな物でしかなくなっていたのだ。
うるさい。頭が悪い。その巨体ゆえに食費は犬や猫よりも数段かさむ。
言うことを聞かない。そのくせ言葉は話せるので自分のわがままはきっちり通してくる。
ペットとして何もかもが不適格であるゆっくりに、当初の期待を裏切られた人間達。
深刻化するゆっくり離れに慌てたのはゆっくり関連のものを販売している企業やペットショップだ。
これではいけないと国内唯一のゆっくり専門研究機関、通称“加工所”と呼ばれるところが対策を練り始めた。
最初はもっと優秀なゆっくりを作ろうとしたものの予算、施設の確保、その他諸々の問題により却下。
洗脳染みた躾を施せばなんとかなるのだろうが、生憎と一組織の力ではそれらを作り上げるには時間が足りなかった。
そして別の方法を考えた結果、遥か昔ゆっくりが発見された当初の形態である“原種”に目をつける。
元から単純な構造であったゆっくりを、更に単純にした原種をペットにできないかと考えたのだ。
それから、人の手が入っていない場所を草の根分けて探して、ようやく原種を発見した加工所。
その後はこれまでの足踏みが嘘だったように、そう時間は掛からず原種の繁殖に成功、販売までこぎつけた。
安定した供給が見込めるようになってすぐに“これこそ人間をゆっくりさせてくれるゆっくり”として売り出す。
最初は『どうせなんだって同じだろ』と言って相手にしなかった人々も、
あまりの自分の飼いゆっくりの手の掛かりように、試しに見てみようかとやがて興味を持つようになった。
結果、飼いゆっくりは捨てられて、原種ゆっくりが代わりにその地位に着くことになる。
これまでのゆっくりに比べて原種ゆっくりは、あまりにもマイナス要素が少なすぎた。
従来のゆっくりに比べて、
ゆっくりしてさえいれば食事はいらない。
ギャーギャー喚かず、数パターンの言葉を叫ぶだけ。
感情に起伏がなく、個体差がない代わりに扱いやすくゲスなども皆無。
明らかに死ぬようなダメージを受けなければ息絶えず、ストレスで餡子を吐いて~などありえない等、
正に原種は、ペットとしてはこの上なく飼いやすいナマモノだった。
人間にとって、現代のゆっくりのあらゆるマイナス部分が無くなった原種ゆっくり。
試しにペットショップで何度か触れ合って、家のゆっくりと比較して、最終的には購入。
この形で実に七割の元飼いゆっくりが野に放たれた(それとは別に、二割がその場で潰された)。
残りの一割未満には本当に優秀なゆっくりや物好きが残ったのだが…まあそれは本当に極一部の話なので置いておこう。
とにかく、こうして飼いゆっくり“だったもの”たちは行き場を失った。
彼らは知らない。いま自分たちが世間で『ゆっくりもどき』という蔑称で呼ばれていることを。
もう彼らはゆっくりなどではない。ペットの代用品にすらなれない、ただのまがいものなのだ。
虐待好きな者たちも、もうゆっくりもどきには関わろうとしない。
そもそも虐待するのは“あいつらが生意気で、見てて腹立つから”という理由が大多数だ。
生意気でなく、腹も立たないゆっくりがいるのにわざわざ腹を立たせにいく筈がない。
「おでがいじばず!!なんでぼいいでずがらでいぶをがっでぐだざい!!」
「いじめでぼいいでずがら!ばでぃざはなんだっでがまんじばずがら!!
もうひどりはいやなんでず!だれどもゆっぐりでぎないのはいやなんでずぅぅぅ!!!」
見向きもされなくなったゆっくりもどきは、その内寂しさに耐え切れずあらゆる手を使って気を引こうとするようになる。
が、それも無理な話。虐待自体が好きという希少な人間ですら“虐めてくれ”などと自ら申し出るものになど食指は動かない。
むしろそんなふうに体を地面に擦りつけながら必死に懇願する、惨めな姿を見物することで楽しむようになった。
第一、虐待用のゆっくりを提供するビジネスも現代には存在するのだ。わざわざ野良を拾う必要などこれっぽっちも無い。
人々の記憶から次第に消えていく従来のゆっくりたち。
まだその場に呆然と佇んでいるれいむを含めて、捨てられた彼らは、悪かったのだ。
何がではない。全てが悪かった。
飼いゆっくりとして己を磨かず、現状に満足して胡坐を掻いたその怠慢さが悪かった。
極端な話、全てを受け入れてくれるほど心の広い飼い主にめぐり合わない、運が悪かった。
そして、何よりも。生まれてきた時代が悪かった。
世の中には流行り廃りというものがある。
いくら欠点だらけだといっても従来のゆっくりにしかない良さが確かに存在する以上、
今は持て囃されていてもいずれは原種ゆっくりが飽きられ、まがいものと言われた彼らに再び光が当たる時が必ず来る。
ただ、それがれいむが生きている間には絶対にやってこないだけの話だった。
もう少し早く生まれていれば、なんだかんだ言っても死ぬまで平穏に暮らせただろう。
もう少し遅く生まれていれば、あるいは拾われるなり、飼われるチャンスがあったかもしれない。
が、れいむは生まれ、育ち、生きているのは今、ここだ。
ここに存在している限り救いの手が差し出されることは絶対にない。
れいむが掴み取れるゆっくりはれいむが生きている限り爪の垢ほどもありはしない。
誰にも気にかけられる事なく無様に死ぬ。それが一番の幸せだということにれいむが気付くのは何時になるのだろうか。
「で…でいぶ…もうおうぢがえる……
がえりだい…おうぢにがえりだい……どごでも゛いいがらがえりだいぃ゛ぃ゛!ゆ゛んやぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
日付けが変わったころ、れいむはもう一度力の限り叫んだ。
その声に気付いたれみりゃなり人間なりが、れいむを殺してくれればまだよかったのに。
残念ながらそれすらもなく、れいむの叫びは誰にも気付かれる事なく闇へと消えていった。
これから先。れいむは人々に疎まれ、蔑まれながらも立派にしぶとくゆん生を全うしたが、
その孤独な生の中に一カケラのゆっくりもなかったことは言うまでもないだろう―――
おしまい