「ゼロの雷帝-01」(2008/10/27 (月) 07:48:47) の最新版変更点
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緊張と恐怖で腕が震える。
それも当然、これが失敗すれば今までの成績が成績だけに酷い処分になるのはほぼ確定している。
よくて留年、悪くて退学…!
加えて自分の魔法成功確率は…その、ぜ、ゼゼゼゼ0…………に限りなく近いのだ。
そう、「限りなく近い」のよ!ゼロじゃないもん!きっと私が覚えてないだけで成功したことが過去に一度くら
「ミス・ヴァリエール、さあ、召喚の呪文を」
「は、はひっ!」
教師、コルベールにきちんと答えたつもりが、声が見事に裏返る。
落ち着いて、落ち着くのよルイズ。
今日から私は変わるの、そうよ蝶サイコーな使い魔を召喚してゼロを脱却し、名実ともに完全な貴族になるの!
「ゼロのルイズだぜ、無理に決まってる!」
「爆発に巻き込まれないように避難しとかなきゃな!」
うるさい外野、黙れ。
(見てなさいよ、誰もが羨むようなすっっっっっっっっごい使い魔を召喚してみせるんだから…!)
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」
決意も新たに呪文を告げる。
「五つの力を司るペンタゴン!我の運命に従いし、『使い魔』を召喚せよ!」
魔力が迸り、白光が辺りを包む。
そして…彼女の目の前には光輝く盾のようなゲートが発生していた。
「お、おい、嘘だろ!? 成功したぞ!?」
「んな馬鹿な!?」
「落ち着け、落ち着くんだ。まだ慌てるような時間じゃない」
「そうだぜ、ちゃんと使い魔がアレをくぐってこないと成功じゃないさ!」
周囲の雑音もこの時彼女の耳には入らなかった。
呆然としていたのもつかの間、彼女の脳裏に強靭!無敵!!最強ォ!!なふつくしい使い魔像がイメージされる。
(やった…やったのよ!きっと凄いのに違いないわ、ドラゴンとかグリフォンとか!)
ゲートが再び光り輝く。
何者かがゲートを通過してこの地に召喚されたのだろう。
眩しさに一瞬眼をつむり、そして召喚された我が使い魔に眼を向けると―――
そこには子供が倒れていた。
「……は?」
頭が一瞬でフリーズした。
ドラゴンは?グリフォンは?…子供?きっとこれは夢だ、夢に違いない。
さっきの発光で自分は感激のあまり気絶してしまったのだろう。
さあ頬をつねって今すぐ夢の世界から眼を覚まそう―――
「……………………………………………………………………………………痛い」
痛かった、どうしようもなく痛かった。しかし一向に眼は覚めない、状況が万歳三唱していた…これが紛れもない現実であると。
天国から地獄への急降下にルイズはマジ泣き一歩手前である。
「さすがゼロのルイズだ!平民を召喚したぞ!」
「しかも子供だ!さすが期待を裏切らない!」
無責任に盛り上がる生徒一同。
グサグサと突き刺さる周囲の言葉に虚ろな瞳で子供を見て―――
「―――あ!」
子供が非常に痛ましい姿をしている事にようやく気付いた。子供は酷い大怪我をしていた、これは火傷だろうか?
全身がくまなく爛れており、着用している白いマントも被害を受けている。
盛り上がっていた周囲もそれに気付き、次第に動揺が広がっていく。
「ミ、ミスタ・コルベール!この子、凄い大怪我を…は、はやく治さなきゃ…!」
自分の状態も忘れて彼女は子供の身を案じた。
平民の子供が召喚されるという前代未聞の事態にコルベールも固まっていたが、ルイズの声に自分を取り戻す。
「た、確かに…これは…火で?いや、これは違う…恐らく電撃によるもの…
この重態で動かすのも危険ですから誰か水のメイジの方はこの子に治療を。応急処置程度で構いません」
「は、はい!わかりました」
モンモランシーを始めとした幾人かのメイジが子供に治療を施す。
「終わりましたか、ではミス・ヴァリエール。この子供とコントラクト・サーヴァントを」
「え…?え、えええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
子供が自分に召喚されたのだという事をすっかり忘れてしまっていたルイズは思い切り叫ぶ。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!やり直しをお願いします!それにこの子ケガしてるのにそんな事…!」
「この儀式は神聖なもの、やり直しは認められません。君の運命に従いし者としてこの子供が選ばれた以上、この子供と契約する以外ないのです。この子供の立場も明確にしておく必要があります」
「うううう…………」
呻いて自分の運命に涙する。
ああ、なんでこうなってしまったんだろう…
倒れている子供の前に立ち、顔を近づける。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司《つかさ》るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
呪文を唱え、口付ける。
契約の儀式が終わり、子供の左手にルーンが刻まれていく。
驚いた事にこの子供は全く反応しなかった、ルーンを刻む際には火傷のような痛みが走るはずであるのに。
「終わりましたね、おめでとうミス・ヴァリエール。ではこの子供は私が医務室に運びます、ミス・ヴァリエールも後ほど来て下さい」
「はい…」
眼前に重態の子供がいるからか、「成功したのはそいつが平民だからだ」等と騒ぐ者はいなかったが…ルイズの気分は果てしなく低空路線を辿っていた。
子供はそんな周囲に気付きもせず、ただ眠っていた。
外傷が治った事を身体が認識し、意識が覚醒状態へとのぼっていく。
眼を覚ました子供は周囲を見渡し、自分がベッドの上に寝かされている事を認識した。
「…ここは?」
時間的にはそう経っていないようだが、場所がさっぱりわからない。
見たところ医務室のようだが、この戦いに敗者をそのように治療する決まりはなかった筈なのだが。
「…ん?何だこの女は」
ベッドの近く、つまるところ自分の近くで桃色の髪をした少女が顔を伏せて眠っていた。
見たところこの少女と自分以外に誰もいないらしい。
(つまり、この女からしか情報を得られないという事か)
「おい…起きろ、女。おい」
「むにゅ…ふふふ…どう私の使い魔ぁ…キュルケ、アンタのなんか比べ物にならないんだからぁ…」
なにやら幸せそうな顔で寝言をほざいており、一向に起きる気配がない。
ため息をつくと、彼は彼女の耳元で手を激しく打ち合わせた。
パァァァン!!!!
「うにゃああああ!?」
手を打ち合わせただけとは思えぬ、非常に大きな音が彼女の耳元で炸裂し、彼女は珍妙な悲鳴を上げて現実世界に帰還した。
「やっと起きたか。おい、女。状況を説明しろ」
「あ、あれ?私の白き龍はどこに?え、え、え、え?」
「…まだ寝惚けてるのか、さっさと状況を説明しろと言っている」
「え、あ……」
目前の少女はしばらく彼の顔を呆然と見ていたが、いきなり落ち込み始めた。
どうでもいいが非常に失礼な対応である、未だ嘗てこの顔を見てそんな反応をした奴はいなかった。
「ふ、ふふふふ…そうよね、私結局平民召喚しちゃったのよね…あのまま夢の中にいたかった…私、ルイズはやっぱりゼロのまま…」
「…貴様が現実逃避したがるのは勝手だが、その前にオレの質問に答えてもらおうか。三度目だ、状況を説明しろ」
「む、何よアンタ。やけに偉そうね、ちゃんと礼儀を尽くしなさいよ」
ようやく頭が追いついたのか、少女、ルイズは偉そうな態度をとる子供に不機嫌そうな眼を向けた。
しかし彼女の不機嫌度はこの子供の傍若無人な態度によって更にヒートアップする事となる。
「何故オレが貴様などに礼儀を尽くさねばならん?身の程を知れ。とにかく説明しろ」
「は、腹立つ~~~!アンタ、ご主人様に向かってその態度は何よ!」
「ご主人様?…もういい、勝手に読み取る。頭を貸せ」
「ちょ、な…!」
子供とは思えない力で引っ張られ、頭の上に手を乗せられる。
彼は眼を閉じて考え事のような事をしているようだが、この状態は非常に屈辱的である。
「ア、アンタね…!人の頭に」
「…何?何だコレは?」
叫ぼうとしたところで頭を離された。
子供は非常に驚いており、丸い眼を更に丸くしている。
タイミングを逸してしまい、彼女は怒声を引っ込めたが、次の言葉を考える前に子供がまた質問してくる。
「質問だ、この世界の王は誰だ?」
「はあ?世界の王?そんなのいないわよ、各国の王様ならいるけど」
「…次だ。魔界と人間界…この言葉はわかるか?」
「何となくわかるけど…魔界なんて想像上のものでしょ。それよりアンタいい加減に」
「最後だ。100人の子供、この言葉で何を思い浮かべる?」
「ああもう!100人の子供は100人の子供でしょ、子供が100人いるってだけじゃない!それがどーしたっていうのよ!」
「…………」
今度はダンマリである。
子供のあまりの態度にルイズの大して長くはない導火線が完全に焼失しようとしたその時。
「バカな…!そんなハズが…!」
「ちょ、ちょっとアンタどこ行くのよ!」
突如として子供が跳ね起き、医務室から出て行く。
凄まじい早業で一瞬のうちに出て行かれ、ルイズはとうとう癇癪を爆発させる。
「あーーーーーーーーーーもーーーーーーーーーーーー!何だって言うのよーーーーーーーーーーーーー!!」
癇癪を爆発させた後、ルイズは子供がどこぞへ行ってしまったのを自覚し、探しに出た。
あの勢いではすぐには見つからないと思ったが、予想外にもすぐに見つかった。
子供はすぐ外で空を見上げて呆然としていたのである。
「何よ、勢いよく出て行ったかと思えば今度は呆然と空見上げて。情緒不安定にもほどがあるわよ」
「月が…二つ…だと…?」
「?月が二つあるのは当然じゃない、全くさっきから変な質問ばっかりして!」
「ここは、やはり魔界ではないのか…第三世界…?」
こちらを完全に無視して自分の世界に閉じこもる子供にまた血圧が上がりかけるルイズ。
しかし上がりきる前に沈静化した、バカらしくなったのである。
この子供を看病するのにも疲れていたのだし。
「とにかく戻るわよ、アンタが今どーいう立場かちゃんと説明してあげるから」
「…オレはどういう立場だ?」
ようやく応じる気になったのか、子供が答える。
「使い魔。私の使い魔よ。自分が見たモノを私に見せたり、秘薬とってきたり、私の身を護ったりするの」
「…使い魔、だと?このオレが!?ふざけるな!そんなものオレのプライドが許さねえ」
「うるさいわね!私だってアンタなんて使い魔にしたくなんてないわよ!」
「ならするな!簡単な話だろうが!」
「仕方ないでしょ、変更きかないんだから!ああもう傷治すのに治療代かかるし、当の使い魔はこんな子供だしでもう~~~!!」
口論を繰り広げていた子供の動きがルイズの言葉でピタリ、と止まる。
「傷を治す?」
「そうよ、アンタが負ってた大怪我の治療費を私がもったの。安くなかったんだから!…え?」
愚痴をこぼしていると子供が何も言い返してこない事に気付き、見てみると青筋を浮かべて何やら非常に悩んでいる。
声をかける事が躊躇われるほどである、暫くすると子供が重々しく口を開いた。
「…………………………………………………わかった。非常に不本意だが、貴様の使い魔をやってやる」
「え?何でまた急に…あ、そうか!傷治したからって事でしょ!」
「…………………フン」
図星なのか子供は顔を背け、鼻を鳴らす。
さっきの悩みは恐らく自分のプライドと格闘していたのだろう。
恩の方が辛うじてプライドに勝ったという事だ。
(何だ、ただの礼儀知らずのムカつく子供ってわけでもないのね)
「言っとくけど使い魔やるのなんて当たり前なんだからね、そんなので恩を返せるなんて思わないでよ」
少しこの子供に対して好感を持ったが、待遇はそれとは別である。
きっちりと主人と使い魔の立場の違いをわからせなければ。
「フン、言ってろ。ゼロめ」
「ぶ…っ!あ、アアアアアンタなんでそれ」
「読み取った。大体貴様の事はわかっているから自己紹介はいらん、行くぞ教室爆発女」
「あ、アンタねええええええええ…!」
(訂正、コイツ絶対嫌な奴…!何で昼間の事まで知ってんのよ!)
錬金を使おうとして教室を爆破してしまった事をこの子供は知っている。
しかしここで感情を爆発しても意味はない。
むしろコイツにさんざん言われるだけだろう、自制しなければ。
深呼吸を繰り返し、平静を取り戻すともう子供は随分先まで行ってしまっていた。
(あの子供はぁ…!)
「待ちなさいよ!アンタは!アンタの方の名前は何なのよ!自己紹介要らないってアンタ名乗ってないじゃない!」
子供は言葉に振り向くと、自らの名を告げた。
紫電の眼光、白銀の髪―――
「オレはゼオン。ゼオン・ベルだ」
雷帝ゼオン。
#navi(ゼロの雷帝)
緊張と恐怖で腕が震える。
それも当然、これが失敗すれば今までの成績が成績だけに酷い処分になるのはほぼ確定している。
よくて留年、悪くて退学…!
加えて自分の魔法成功確率は…その、ぜ、ゼゼゼゼ0…………に限りなく近いのだ。
そう、「限りなく近い」のよ!ゼロじゃないもん!きっと私が覚えてないだけで成功したことが過去に一度くら
「ミス・ヴァリエール、さあ、召喚の呪文を」
「は、はひっ!」
教師、コルベールにきちんと答えたつもりが、声が見事に裏返る。
落ち着いて、落ち着くのよルイズ。
今日から私は変わるの、そうよ蝶サイコーな使い魔を召喚してゼロを脱却し、名実ともに完全な貴族になるの!
「ゼロのルイズだぜ、無理に決まってる!」
「爆発に巻き込まれないように避難しとかなきゃな!」
うるさい外野、黙れ。
(見てなさいよ、誰もが羨むようなすっっっっっっっっごい使い魔を召喚してみせるんだから…!)
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」
決意も新たに呪文を告げる。
「五つの力を司るペンタゴン!我の運命に従いし、『使い魔』を召喚せよ!」
魔力が迸り、白光が辺りを包む。
そして…彼女の目の前には光輝く盾のようなゲートが発生していた。
「お、おい、嘘だろ!? 成功したぞ!?」
「んな馬鹿な!?」
「落ち着け、落ち着くんだ。まだ慌てるような時間じゃない」
「そうだぜ、ちゃんと使い魔がアレをくぐってこないと成功じゃないさ!」
周囲の雑音もこの時彼女の耳には入らなかった。
呆然としていたのもつかの間、彼女の脳裏に強靭!無敵!!最強ォ!!なうつくしい使い魔像がイメージされる。
(やった…やったのよ!きっと凄いのに違いないわ、ドラゴンとかグリフォンとか!)
ゲートが再び光り輝く。
何者かがゲートを通過してこの地に召喚されたのだろう。
眩しさに一瞬眼をつむり、そして召喚された我が使い魔に眼を向けると―――
そこには子供が倒れていた。
「……は?」
頭が一瞬でフリーズした。
ドラゴンは?グリフォンは?…子供?きっとこれは夢だ、夢に違いない。
さっきの発光で自分は感激のあまり気絶してしまったのだろう。
さあ頬をつねって今すぐ夢の世界から眼を覚まそう―――
「……………………………………………………………………………………痛い」
痛かった、どうしようもなく痛かった。しかし一向に眼は覚めない、状況が万歳三唱していた…これが紛れもない現実であると。
天国から地獄への急降下にルイズはマジ泣き一歩手前である。
「さすがゼロのルイズだ!平民を召喚したぞ!」
「しかも子供だ!さすが期待を裏切らない!」
無責任に盛り上がる生徒一同。
グサグサと突き刺さる周囲の言葉に虚ろな瞳で子供を見て―――
「―――あ!」
子供が非常に痛ましい姿をしている事にようやく気付いた。子供は酷い大怪我をしていた、これは火傷だろうか?
全身がくまなく爛れており、着用している白いマントも被害を受けている。
盛り上がっていた周囲もそれに気付き、次第に動揺が広がっていく。
「ミ、ミスタ・コルベール!この子、凄い大怪我を…は、はやく治さなきゃ…!」
自分の状態も忘れて彼女は子供の身を案じた。
平民の子供が召喚されるという前代未聞の事態にコルベールも固まっていたが、ルイズの声に自分を取り戻す。
「た、確かに…これは…火で?いや、これは違う…恐らく電撃によるもの…
この重態で動かすのも危険ですから誰か水のメイジの方はこの子に治療を。応急処置程度で構いません」
「は、はい!わかりました」
モンモランシーを始めとした幾人かのメイジが子供に治療を施す。
「終わりましたか、ではミス・ヴァリエール。この子供とコントラクト・サーヴァントを」
「え…?え、えええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
子供が自分に召喚されたのだという事をすっかり忘れてしまっていたルイズは思い切り叫ぶ。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!やり直しをお願いします!それにこの子ケガしてるのにそんな事…!」
「この儀式は神聖なもの、やり直しは認められません。君の運命に従いし者としてこの子供が選ばれた以上、この子供と契約する以外ないのです。この子供の立場も明確にしておく必要があります」
「うううう…………」
呻いて自分の運命に涙する。
ああ、なんでこうなってしまったんだろう…
倒れている子供の前に立ち、顔を近づける。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司《つかさ》るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
呪文を唱え、口付ける。
契約の儀式が終わり、子供の左手にルーンが刻まれていく。
驚いた事にこの子供は全く反応しなかった、ルーンを刻む際には火傷のような痛みが走るはずであるのに。
「終わりましたね、おめでとうミス・ヴァリエール。ではこの子供は私が医務室に運びます、ミス・ヴァリエールも後ほど来て下さい」
「はい…」
眼前に重体の子供がいるからか、「成功したのはそいつが平民だからだ」等と騒ぐ者はいなかったが…ルイズの気分は果てしなく低空路線を辿っていた。
子供はそんな周囲に気付きもせず、ただ眠っていた。
外傷が治った事を身体が認識し、意識が覚醒状態へとのぼっていく。
眼を覚ました子供は周囲を見渡し、自分がベッドの上に寝かされている事を認識した。
「…ここは?」
時間的にはそう経っていないようだが、場所がさっぱりわからない。
見たところ医務室のようだが、この戦いに敗者をそのように治療する決まりはなかった筈なのだが。
「…ん?何だこの女は」
ベッドの近く、つまるところ自分の近くで桃色の髪をした少女が顔を伏せて眠っていた。
見たところこの少女と自分以外に誰もいないらしい。
(つまり、この女からしか情報を得られないという事か)
「おい…起きろ、女。おい」
「むにゅ…ふふふ…どう私の使い魔ぁ…キュルケ、アンタのなんか比べ物にならないんだからぁ…」
なにやら幸せそうな顔で寝言をほざいており、一向に起きる気配がない。
ため息をつくと、彼は彼女の耳元で手を激しく打ち合わせた。
パァァァン!!!!
「うにゃああああ!?」
手を打ち合わせただけとは思えぬ、非常に大きな音が彼女の耳元で炸裂し、彼女は珍妙な悲鳴を上げて現実世界に帰還した。
「やっと起きたか。おい、女。状況を説明しろ」
「あ、あれ?私の白き龍はどこに?え、え、え、え?」
「…まだ寝惚けてるのか、さっさと状況を説明しろと言っている」
「え、あ……」
目前の少女はしばらく彼の顔を呆然と見ていたが、いきなり落ち込み始めた。
どうでもいいが非常に失礼な対応である、未だ嘗てこの顔を見てそんな反応をした奴はいなかった。
「ふ、ふふふふ…そうよね、私結局平民召喚しちゃったのよね…あのまま夢の中にいたかった…私、ルイズはやっぱりゼロのまま…」
「…貴様が現実逃避したがるのは勝手だが、その前にオレの質問に答えてもらおうか。三度目だ、状況を説明しろ」
「む、何よアンタ。やけに偉そうね、ちゃんと礼儀を尽くしなさいよ」
ようやく頭が追いついたのか、少女、ルイズは偉そうな態度をとる子供に不機嫌そうな眼を向けた。
しかし彼女の不機嫌度はこの子供の傍若無人な態度によって更にヒートアップする事となる。
「何故オレが貴様などに礼儀を尽くさねばならん?身の程を知れ。とにかく説明しろ」
「は、腹立つ~~~!アンタ、ご主人様に向かってその態度は何よ!」
「ご主人様?…もういい、勝手に読み取る。頭を貸せ」
「ちょ、な…!」
子供とは思えない力で引っ張られ、頭の上に手を乗せられる。
彼は眼を閉じて考え事のような事をしているようだが、この状態は非常に屈辱的である。
「ア、アンタね…!人の頭に」
「…何?何だコレは?」
叫ぼうとしたところで頭を離された。
子供は非常に驚いており、丸い眼を更に丸くしている。
タイミングを逸してしまい、彼女は怒声を引っ込めたが、次の言葉を考える前に子供がまた質問してくる。
「質問だ、この世界の王は誰だ?」
「はあ?世界の王?そんなのいないわよ、各国の王様ならいるけど」
「…次だ。魔界と人間界…この言葉はわかるか?」
「何となくわかるけど…魔界なんて想像上のものでしょ。それよりアンタいい加減に」
「最後だ。100人の子供、この言葉で何を思い浮かべる?」
「ああもう!100人の子供は100人の子供でしょ、子供が100人いるってだけじゃない!それがどーしたっていうのよ!」
「…………」
今度はダンマリである。
子供のあまりの態度にルイズの大して長くはない導火線が完全に焼失しようとしたその時。
「バカな…!そんなハズが…!」
「ちょ、ちょっとアンタどこ行くのよ!」
突如として子供が跳ね起き、医務室から出て行く。
凄まじい早業で一瞬のうちに出て行かれ、ルイズはとうとう癇癪を爆発させる。
「あーーーーーーーーーーもーーーーーーーーーーーー!何だって言うのよーーーーーーーーーーーーー!!」
癇癪を爆発させた後、ルイズは子供がどこぞへ行ってしまったのを自覚し、探しに出た。
あの勢いではすぐには見つからないと思ったが、予想外にもすぐに見つかった。
子供はすぐ外で空を見上げて呆然としていたのである。
「何よ、勢いよく出て行ったかと思えば今度は呆然と空見上げて。情緒不安定にもほどがあるわよ」
「月が…二つ…だと…?」
「?月が二つあるのは当然じゃない、全くさっきから変な質問ばっかりして!」
「ここは、やはり魔界ではないのか…第三世界…?」
こちらを完全に無視して自分の世界に閉じこもる子供にまた血圧が上がりかけるルイズ。
しかし上がりきる前に沈静化した、バカらしくなったのである。
この子供を看病するのにも疲れていたのだし。
「とにかく戻るわよ、アンタが今どーいう立場かちゃんと説明してあげるから」
「…オレはどういう立場だ?」
ようやく応じる気になったのか、子供が答える。
「使い魔。私の使い魔よ。自分が見たモノを私に見せたり、秘薬とってきたり、私の身を護ったりするの」
「…使い魔、だと?このオレが!?ふざけるな!そんなものオレのプライドが許さねえ」
「うるさいわね!私だってアンタなんて使い魔にしたくなんてないわよ!」
「ならするな!簡単な話だろうが!」
「仕方ないでしょ、変更きかないんだから!ああもう傷治すのに治療代かかるし、当の使い魔はこんな子供だしでもう~~~!!」
口論を繰り広げていた子供の動きがルイズの言葉でピタリ、と止まる。
「傷を治す?」
「そうよ、アンタが負ってた大怪我の治療費を私がもったの。安くなかったんだから!…え?」
愚痴をこぼしていると子供が何も言い返してこない事に気付き、見てみると青筋を浮かべて何やら非常に悩んでいる。
声をかける事が躊躇われるほどである、暫くすると子供が重々しく口を開いた。
「…………………………………………………わかった。非常に不本意だが、貴様の使い魔をやってやる」
「え?何でまた急に…あ、そうか!傷治したからって事でしょ!」
「…………………フン」
図星なのか子供は顔を背け、鼻を鳴らす。
さっきの悩みは恐らく自分のプライドと格闘していたのだろう。
恩の方が辛うじてプライドに勝ったという事だ。
(何だ、ただの礼儀知らずのムカつく子供ってわけでもないのね)
「言っとくけど使い魔やるのなんて当たり前なんだからね、そんなので恩を返せるなんて思わないでよ」
少しこの子供に対して好感を持ったが、待遇はそれとは別である。
きっちりと主人と使い魔の立場の違いをわからせなければ。
「フン、言ってろ。ゼロめ」
「ぶ…っ!あ、アアアアアンタなんでそれ」
「読み取った。大体貴様の事はわかっているから自己紹介はいらん、行くぞ教室爆発女」
「あ、アンタねええええええええ…!」
(訂正、コイツ絶対嫌な奴…!何で昼間の事まで知ってんのよ!)
錬金を使おうとして教室を爆破してしまった事をこの子供は知っている。
しかしここで感情を爆発しても意味はない。
むしろコイツにさんざん言われるだけだろう、自制しなければ。
深呼吸を繰り返し、平静を取り戻すともう子供は随分先まで行ってしまっていた。
(あの子供はぁ…!)
「待ちなさいよ!アンタは!アンタの方の名前は何なのよ!自己紹介要らないってアンタ名乗ってないじゃない!」
子供は言葉に振り向くと、自らの名を告げた。
紫電の眼光、白銀の髪―――
「オレはゼオン。ゼオン・ベルだ」
雷帝ゼオン。
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