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#navi(デュープリズムゼロ)
第十六話『年増再び』
「くそぅ!!」
ワルドは一人酒場でワインを一気に煽り、沸き上がる怒りに毒づいて乱暴にテーブルにグラスを置く。
それというのも朝一番のミントとの立ち会いでワルドはルイズの目の前でミントに圧勝したのだ。だが、それが不味かった…
(異国の王族か何かは知らぬがガンダールブめ……)
御陰でルイズの心象はかなり悪くなってしまった。
これではまるで自分を悪役に仕立てる為の茶番だ。ただワルドの内心が荒れているのは何もその事だけでは無い。
ワルドは気づいていた。ミントが実力を見せぬ様にわざと自分に敗れた事も、自分に対して僅かながらにも警戒心(というよりは不信感)を抱いていると言う事も。
だがなんと言う事は無い。魔法衛士隊隊長のエリートである自分が冷静になれば小娘一人御する事など造作も無い…
ワルドは自分の本当の目的とそれに関する様々な計画、そしてこれからそれに対する障害となるであろう物事に対しての対処を思い描いて思考に耽った。
自分のテーブルの後ろに微かに見える密談を行っている二人組のメイジの姿を捉えながら…
___女神の杵邸
滞在二日目、ワルドの御陰で無事に船の手配も完了し、明日にはアルビオンに向けて出立するという事でミント達は全員揃って宿でゆっくりと身体を休めていた。
既にワルドは朝の決闘の件についてミントに改めて謝罪をし一行は共にテーブルを囲いアルビオン風のディナーを楽しんでいた。
だがここで一行に再び予定調和のトラブルが降りかかる。
突然宿の正面玄関が乱暴に開け放たれる。そこには弓矢や剣等で武装した大勢のゴロツキ傭兵が控えていたのだ。
ルイズ達に無意識に緊張が走る!突然の賊の乱入に同じく宿に泊まっていた一般の客達から悲鳴が響いた。
「居たぞ!!あいつ等だ!!」
一人のリーダー格らしき傭兵が声をあげる。傭兵達は周囲の客達に目を向ける事無くルイズ達を発見すると問答無用と言わんばかりに弓に番えた矢を放ち始めた。
「不味い!!全員伏せろ!!」
流石と言うべきか一番素早く反応したワルドが料理と酒の乗った地面と一体化した石のテーブルの足を練金で崩し、弓矢に対する即席の盾とする。
別のテーブルに着いていたタバサもワルドに倣い、本を片手に同じく盾を作り出す。その際ちゃっかり自分の好物であるハシバミ草のサラダだけはきちんと確保する。冷静な物である。
「どうするワルド?明らかにあいつ等あたし達狙ってるわよ。」
テーブルの盾から半身を覗かせ、傭兵達の姿を確認してミントがワルドに訪ねる。
「僕たちを狙った刺客という訳か…しかし位置取りが不味いな。
奴らはあそこから弓矢で慎重に攻めてくるつもりの様だ…魔法で応戦しようにもアルビオンに向かう前にこちらの精神力を無駄に消費するのは避けたいんだがね。」
「確かに私の火でもあの石の扉の影に隠れられたら効果は薄いかもね。」
ワルドとキュルケが冷静に状況を確認してそれぞれ同じような結論を出す。
二人の攻撃魔法の特性上狭い屋内では使える魔法もある程度制約が掛かる上どうしても射線が直線状になる以上は遮蔽物に効果を削がれてしまう。
「フフッならばここは僕にお任せを!!奴らを攪乱し隙を作ります、行けワルキューレ!!」
と、ワルドとキュルケの会話を聞いてここで勇ましく名乗りを上げたギーシュが薔薇の杖を高く翳し、舞い落ちた薔薇の花びらから取り敢えずワルキューレを二体練金する。
「な、な、何でも良いから早くしなさいよ!!」
ルイズからの罵声を受けながらワルキューレは手にした剣を振りかざし猛然と傭兵達の元に突撃していく。
途中何本もの弓矢を身体に打ち込まれるがゴーレムの最大の強みはそのタフさにある。傭兵の迎撃に構わず進撃したワルキューレはあっという間に入り口まで到達した。
ワルキューレに恐れをなしてか傭兵達は慌てて密集していた入り口から逃げ出していく。
「ハハハ見たか!!これが僕のワルキューレの力だ!!」
「やるじゃないギーシュ!!」
お気楽に高笑いを浮かべはしゃぐギーシュ、ルイズ、キュルケ。
しかし残りの面子はその様子が明らかにおかしいという気が付いていた。それは命が掛かった実戦の中で培われた経験からの物である。
ズ ド ン !!!
警戒状態が続く中傭兵達を追い立てる様にワルキューレが宿の外にまで歩を進ませると突如轟音を響かせ、上空から落ちてきた巨大な岩の塊がワルキューレを容易く粉砕した。
「うわぁ~~ワルキューレ~~~~~!!!!!」
響くギーシュの悲鳴。そしてワルキューレを粉砕した岩の塊は再び浮き上がる様に全員の視界から消えた。
__外
「ふん、他愛無いね。」
自分の巨大ゴーレムの一撃で粉々に砕け散ったワルキューレの残骸をみやり、フーケはゴーレムの肩の上でニヤリと笑う。
「油断はするな…それとくれぐれもヴァリエールの娘を殺すなよ。」
そのフーケの隣に立つのは全身を黒のローブで包み、顔を真っ白な仮面で隠した男のメイジ。
それは昼間ワルドが食事をとっていた酒場にて密談を行っていた二人組のメイジだった。
ミント達の手で捉えられたフーケは監獄に収監され、そこでこの仮面のメイジの所属する組織への協力をするという条件で助け出されていた。
フーケはその条件を飲んで今ここに居る。まぁその協力要請は拒めば殺すという脅迫じみた物であったからでもあるが…
と、ここでフーケが再び宿の入り口に視線を向けると、再び散開した傭兵達が弓を構えて集まり出す。
__室内
「ま、ギーシュじゃこんなもんよね…」
ワルキューレがやられた事で再び傭兵達が室内に弓矢を打ち込み始めた。
キュルケ、タバサ、ワルドもそれぞれ魔法で応戦するも傭兵達は対メイジ戦闘になれているのか魔法が来るそぶりがあれば直ぐに後退してしまう。
「これではじり貧だな。」
「そうね…ま、ここはこのミント様の出番かしらね。」
ワルドが歯がゆそうにぼやくのを聞いてここまで見につとめていたミントがおもむろに立ち上がる。
「なんだ相棒?手があるのかよ?」
「まぁね~、ああいう奴らをぶっ飛ばすのには言い魔法がね…」
悪戯な微笑みを浮かべてそう言ったミントに対して全員の主に期待の視線が集まる。その中で鼻歌交じりにミントが狙いを付けてデュアルハーロウに纏われた黒い魔力を引き絞った。
「何それ?」
ルイズの間の抜けた様な問い…他にはそれを口に出した人物は居なかったが全員が同じ疑問をその珍妙な魔法に抱いていた。
デュアルハーロウから撃ち出されたのはリンゴよりも二回り程の大きさの大きな黒い玉。
練金で作り出した物質という訳でも無く完全に実体化したその不思議な質感を持つ黒い玉は連続して五つ程、ミントの黒い魔力の螺旋から生み出され地面をボールの様にゆっくりと撥ねながら傭兵の集団に接近していく。
例えばミントの世界の人間があの傭兵の集団の中に一人でも居たならばその人物は撥ねながら接近するその黒い玉から周囲に退避を促して一目散に逃げ出していただろう。
だがここには誰一人接近してくるその黒い玉の正体を知るものは居ない。
そんなゆっくりと撥ねるだけの玉に一体誰が警戒をするだろうか?ハルケギニアにはそもそも存在しえぬその魔法、傭兵達は誰もその黒い玉から逃げようとはしなかった。
黒色の魔法、タイプノーマル『ボム』
そして遂に一人の傭兵の身体にボムが接触する…
爆発。爆発。爆発。そして爆発。
轟音がちゃっかり自分だけ耳を塞いでいたミント以外の鼓膜を激しく揺する。
圧倒的破壊力の爆発は大量の土煙を巻き上げて大勢の傭兵もろともに宿の出入り口を吹き飛ばして巨大な風穴を岩壁に作り上げた。
「何だいっ!!?今の爆発は!?ヴァリエールのお嬢ちゃんか!?」
その突然の爆発の様子をゴーレムの肩の上から見ていたフーケは直ぐに警戒状態に移った。膠着状態だった状況はその爆発で一転する。
「いや、あれはその使い魔の仕業だ。どうやら魔法で生み出した爆弾の様な物を使った様だな…」
「ちっ、ミントか…」
仮面のメイジの伝えた情報にフーケは舌打ち混じりに歯がみする。
「……マチルダ、ここはお前に任せる、時間を稼いでここで奴らの注意を引いてくれればそれで良い。」
「あいよ…」
フーケが渋々といった様子で返事をすると仮面のメイジはまるで最初からそこに居なかったかの様に風と共に消えていた。
ボムの爆発から一拍。一陣の風が吹き抜け、互いの視界を遮っていた土煙が徐々に晴れていく。
快晴の夜空は重なった二つの神々しく輝く月明かりを遮る事は無い。フーケの視線の先には同じく自分を敵意を孕んだ瞳で不敵に睨み付けてくるミント達の姿がはっきりとあった。
「久しぶりだねぇ、会いたかったよミント!!」
「げっ…フーケ!!あんた監獄に入ってたんじゃ無かったの?」
「え?確か君達が捉えたはずだよね?」
「脱獄…」
ギーシュがここにフーケが居るという事実に首を捻るとタバサがそれ以外に無いという答えを簡潔に答えた。
「あぁ、そうさ!だけど親切な人達がね、私みたいな美人はもっと世の中の為に働くべきだって助け出してくれたのさ。」
訪れたリベンジのチャンスに冗談を交えながらケラケラと笑い、フーケは自信満々にミント達を見下ろす。
しかしミントは魔法でも武器でも無くもっと恐ろしい物でフーケに対して先制の一撃を加える。
「自分で美人なんて言ってんじゃ無いわよ!良いわ、手下共々ボコボコにして地獄巡りをさせてやるわ、このミント様にお礼参りなんて百万年早いのよこの『 年 増 !!!!! 』」
年増!!
年増!!
年増!!!!!
ミントが放ったその魔法の言葉が山彦となりリフレインする度フーケの胸にはまるで槍が突き立てられた様な衝撃が容赦無く襲いかかる。
「とっ…年…」
「ば、馬鹿ヤロー!!フーケの姉さんに何て事言いやがるんだ!!そりゃあ姉さんは四捨五入したら三十…」
ゴシャリッ!!!
叫んだ傭兵の一人がゴーレムの無慈悲な拳に叩きつぶされる。
(あぁ、あれは死んだわね…)
その始終を眺めていたルイズ達はその傭兵は何故か生きているという確信を抱きつつぼんやりとそんな事を思う…フォローするにも言いようがあるだろう。完全なとは言えないがあの傭兵は十分なとばっちりだ…同情する。
「小娘が好き放題に言ってくれるじゃないか。 ミント……。地獄を見せてやるよ!」
憤怒の表情で握りしめた拳を振るわせフーケは傭兵達を巻き込む事も構わずゴーレムを前進させる。
「来たな。だがあれをまともに相手はしていられない。諸君、この様な任務では最終的に半数が目的地に辿り着けば成功とされる。故にここは二手に分かれよう。」
状況が動いた…傭兵の約半数が戦闘不能になったとはいえ、ゴーレムが本格的に攻撃に参加してきた事でワルドが全員にそう提案する。
すると遮蔽物が無くなった事で本格的に魔法で傭兵達を攻撃していたタバサが無言で自分、キュルケ、ギーシュを指さした。
「囮。」
指さされた二名は了解の意を込めて頷く。続いてタバサはワルド、ルイズ、ミントを指さす。
「裏口へ。」
「分かった、済まないが奴らの足止めを頼む。」
「任せたわ。」
「ちょっと!そんなの駄目よ!!危険だわ!」
ワルドとミントがタバサの提案を了承し、早速裏口に向かおうとするがそこでルイズが異を唱える。
「ハァ、あんたねぇ…」
ルイズの甘さに溜息をつくミント…だがここでルイズを説得したのはキュルケだった。
「冷静になりなさいよルイズ。
そもそも私とタバサはあんた達が何をしにアルビオンに行くのかも知らないんだからこれで良いのよ。
ほら、グズグズしてたら船があいつ等に押さえられちゃうわよ。」
「でも…」
それでも食い下がろうとするルイズにキュルケは一発デコピンを食らわせる。
「でもも何も無いの!!あんたには大切な役目があるんでしょう?それに前は私達フーケ相手に良いとこ無しだったからね。今回は私達にも活躍させなさいよ。じゃないと格好付かないわ。ね、タバサ?」
キュルケの言葉に無言で頷いたタバサの瞳は『任せろ』と雄弁にルイズに語っている。
「行きたまえ、ルイズ。ここは僕たちに任せるんだ。」
「あんた達……頼むわねっ!!」
友の言葉を受けてルイズは走りだした。これ以上彼女達の前でごねるのは侮辱に当たる。そしてルイズを追いワルドとミントも振り返る事無く裏口から宿の外へと飛び出していく。
「逃がすか!!」
ルイズ達を追おうとフーケはゴーレムを操作しようとしたがそれは自分目掛けて飛んで来た炎の塊によって阻害された。
辛うじてゴーレムの肩の一部を練金した盾が炎を防ぐ。
「ちっ、小娘共がよくも邪魔を…」
「よし、行ったわね…さて、ここからはこの微熱のステージよ。」
キュルケは懐から取り出したルージュを唇に走らせて色っぽく笑う。既に傭兵は粗方片づいた。後はこちらを見下ろす巨大なゴーレムである。
ミントの爆発とゴーレムの進行のせいで既にレストランは壁が崩れ、屋根も無い。最早外と区別が付かなくなっている。
「フフフ、燃えてくるね。だが、あの巨大なゴーレムをどうやって仕留めるかが問題だね。手はあるのかい?」
「まともには無理……だから」
言いながらタバサは魔法で作り出した高圧縮された水の塊を幾つも作りだしゴーレムの足へとぶつける。
と、タバサは続けざまそのまま水の塊を一気に氷へと変えてゴーレムの足首と膝をピンポイントで完全に固定した。
急に関節を固定されたゴーレムにガクンと衝撃が走る…
「嫌がらせをする。徹底的に…」
そのタバサらしからぬ言葉にギーシュは一瞬唖然としてしまうがキュルケにはその意とする所は直ぐに伝わった。
「プッ、アハハ、良いわねそれ最高よタバサ!ギーシュ、ゴーレム使いの土メイジとして相手にに一番やられたくない事教えなさいよ。」
ゴーレムの振り回した拳を軽やかにフライで回避して愉快そうにキュルケは笑う。どうやら自分の親友はここに来て新しい一面を見せてくれたようだ。
それがたまらなく嬉しくて胸の内が熱くなる。
「あぁいいとも。だが、実技の授業で僕に実践しないでくれよ!!」
タバサのあのまるで小悪魔の様な言い様、性格こそ全く違えどあれではまるであの傍若無人で破天荒なミントの様では無いか…平然とそんな事を言うのだから恐ろしい話だ。
だが、今はそれがまた一層頼もしく思えてギーシュは人生初の命がけの戦いの最中でありながら思わず苦笑いをこぼしていた。
『行くぞ(わよ)、年増!!』
「年増って言うな~っっ~~~~~~!!!!!!!!」
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