死にたいやつ、この指とまれ。
一郎は夜通しパソコンに向かい続けた。自殺志願者の集まるサイト。
星の数ほどの死が、無表情に、あっけらかんと散らばっている。
3/10/3:45 ミヨミヨ:「例の薬、手に入った。わたし、先に行ってるよ。ではでは」
(ああ、またひとり死んでる)
一郎はもう驚かなくなっていた。
眉ひとつ動かさずにその書き込みを読み流した。
押し寄せる睡魔に意識が持っていかれそうになる。
チャットルームにメッセージが入った。
メリー:「こんばんは、まだ生きてる?」
一郎:「すみません、生きてます」
メリー:「おおっ!ほんとに生きてる」
一郎:「周りの奴があっと驚くような派手なやり方がいいんだけど」
メリー:「富士さんの火口に飛び込んでみるとか」
一郎:「そんなこと、できるの?」
メリー:「知らない。行ってみれば?」
一郎:「ショーみたいな感じがいい。火口に飛び込んだって、誰も見ないよ」
メリー:「目立ちたがり屋だね。一郎って、ほんとに引きこもり?」
一郎:「死ぬときくらい、派手にしたっていいじゃん(笑)」
メリー:「そっか。そういえば、いいの見つけたよ」
その下にはどこかのホームページのURLがコピーされていた。
一郎:「なんだ、これ」
メリー:「見てみてよ。いい死に方を教えてくれるところらしいよ」
一郎:「メリーは見たの?」
メリー:「少し見た」
一郎:「なんか気に入ったのあった?」
メリー:「教えてもらうのには、お金がかかるらしいから、やめた」
顔も知らない人間と、「死」について話をしている。
それも一般的な「死」ではなく、他でもない、お互いの死、自分の死について。
最初は違和感があったけど、2~3日もしたら慣れてしまった。
今ではメリーが親しい友達のように思える。
一郎:「メリー、一緒に死なない?」
メリー:「わたしはひとりでやるつもりだけど。一郎、いくつ?」
一郎:「十四歳だけど」
メリー:「十四歳?どうせ心中するなら格好いいおじ様がいい。太宰治みたいな(笑)」
一郎:「ガキには興味ないって?」
メリー:「ごめんなさ~い」
メリー:「じゃあ、私、そろそろ寝るから。頑張ってね」
一郎:「これでサヨナラかもしれないね」
慌てて打ち込んだ文字の後、メリーからの言葉は返ってこなかった。
メリーからの贈り物は長ったらしい一行のURLだけ。
せっかくだから、という程度の気分で、なんとなくクリックしてみた。
自殺美容整形外科
あなたの最期を美しくクリエイトします。
死にたい方「ENTER」。死にたくない方「EXIT」。
確かに「自殺美容整形外科」と書いてある。
この期に及んで、これが開けてはいけない扉のように思えた。死への”http”。
少し躊躇しながらも半ば意地になって「ENTER」のリンクをクリックした。
<つづく>