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『クロエ19歳』」(2010/06/27 (日) 21:27:26) の最新版変更点

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『クロエ19歳』  故郷の湖を出てから3年くらい経ってたっけ。  鍵開けとか、忍び足とかの訓練はしてたから、妖精どもに手伝わせて、スリやったり空き巣やったりして稼いでた。  ま、その日暮らしだけどね。酒代が稼げりゃ充分。  大きなヤマなんて、踏むつもりもなかったんだけど。うまくいってたから、気が大きくなってたのかなー。  盗んだのは、マジックアイテム。高く売れそうだったから目をつけただけで、効果とかは知らない。  でも、それで冒険者が呼ばれたって聞いて。  やばいかなーと思ってさ。とりあえず隣国に高飛びして、しばらく身を潜めてようかなと思ったわけ。  ところが、そう上手くはいかなくってさ…………   「偉大なる始祖神ライフォスよ、かの蛮族を打ち砕き給え……フォース!」  バカ遠いところから衝撃波が来て、私の前にいた蛮族を吹き飛ばした。  その余波で、私の帽子もどっかに飛んでいく。 「大丈夫か!? 後は我々に任せてくれ!」  冒険者らしき一団が走ってきて、蛮族たちに追い討ちをかける。  なんだかわからないけど、チャンスには違いない。  バックレようと思ったら、後ろから走ってくる奴がいた。  真っ白な鎧にマント。手には戦棍。そして……頭には、大きな角。 「同族……?」  彼は私の横に立って、仲間たちに回復の祈りを飛ばす。  ……こいつがここにいる限り、逃げるのも無理っぽい。  ――チェックメイト。 「あいつを倒したら、君は街の衛視に引き渡す。覚悟を決めておけよ」  祈りを捧げる合間に、にやりと私に笑いかける。イカレてんじゃないの、こいつ。     「刑期は3年になったって?」 「だから何だっていうのよ」  誰が面会に来たのかと思ったら、この前の神官戦士だった。わざわざ何考えてんだか。 「名乗ってなかったな。俺の名前はロウ。君は?」 「……クロエ」 「クロエ、か。誰が付けてくれたんだ?」 「……母親」  両親は、ちょっと前に面会に来た。母親に泣かれたのは、さすがにちょっと応えた。  このタイミングで世間話みたいにこういう質問されるのは、正直ムカつく。 「いい名前だな。真剣に考えてつけてくれたんだろう。いいお母さんじゃないか。だめだろ、心配かけちゃ」 「……なんであんたにそんな事言われなきゃなんないわけ?」 「あー、ごめん。その……」  彼は、頭に巻いていたターバンを取った。 「俺も、これだから。ちょっと気になるっていうか」 「捨てられたクチ?」 「はは、ストレートに聞くなあ。ちゃんと実の親に育てられたよ。でもさ……」    ライフォス神官の息子として生まれたロウにとって、家は香り付けてごまかしまくった安酒みたいなものだった。  穢れを負っているからといって、差別はされない。始祖神神官の跡取りとして、大事に育てられる。  でも、周りの温かい視線は、ひどく居心地の悪いものでもあった。  いっそ、はっきり言ってくれれば。忌み嫌ってくれれば、反発もできるのに。   「家族に大事にされても、周りに差別されなくても、やっぱり、何か抱えてきたものって、あるだろ?」 「俺は、神様について、考えて、考えて、今も考えてるけど、そうやって考えるからちょっと救われてる」 「きみに救いが必要なのか、何が救いになるのかなんてわかんないけどさ……ちょっと話をしてみたかったんだよ」 「出てきたら、また会ってくれないか? ……こんな稼業だから、それまで俺が生きていられるか怪しいけどな」      後から聞いたけど、あの神官戦士……ロウは、私を衛視に引き渡した後、各所に話を入れてたらしい。  出来心だから刑は軽くしてやれとか(出来心なわけないじゃん)  まだ若いし、田舎出で世間知らずなだけだから、更生の余地はあるとか(大きなお世話もいいとこよね) (同情されるのが一番ムカツクって、あんただってわかるでしょーに。新手のイヤがらせ?)    ま、それだけの話なんだけどさ。  思い出すたびにムカツくわ。  どっかで野垂れ死んでると思うけど、万一生きててまた会うことがあるなら、思いきり文句言ってやる。 「面白おかしく生きてればいいだけよ。この世のどこに救われてる奴がいるってゆーの?」って。      で……まあ。  酒でも奢ってくれれば、許してやろうかな。  んで、冒険の話でも、してさ……  end.        
『クロエ19歳』  故郷の湖を出てから3年くらい経ってたっけ。  鍵開けとか、忍び足とかの訓練はしてたから、妖精どもに手伝わせて、スリやったり空き巣やったりして稼いでた。  ま、その日暮らしだけどね。酒代が稼げりゃ充分。  大きなヤマなんて、踏むつもりもなかったんだけど。うまくいってたから、気が大きくなってたのかなー。  盗んだのは、マジックアイテム。高く売れそうだったから目をつけただけで、効果とかは知らない。  でも、それで冒険者が呼ばれたって聞いて。  やばいかなーと思ってさ。とりあえず隣国に高飛びして、しばらく身を潜めてようかなと思ったわけ。  ところが、そう上手くはいかなくってさ…………   「偉大なる始祖神ライフォスよ、かの蛮族を打ち砕き給え……フォース!」  バカ遠いところから衝撃波が来て、私の前にいた蛮族を吹き飛ばした。  その余波で、私の帽子もどっかに飛んでいく。 「大丈夫か!? 後は我々に任せてくれ!」  冒険者らしき一団が走ってきて、蛮族たちに追い討ちをかける。  なんだかわからないけど、チャンスには違いない。  バックレようと思ったら、後ろから走ってくる奴がいた。  真っ白な鎧にマント。手には戦棍。そして……頭には、大きな角。 「同族……?」  彼は私の横に立って、仲間たちに回復の祈りを飛ばす。  ……こいつがここにいる限り、逃げるのも無理っぽい。  ――チェックメイト。 「あいつを倒したら、君は街の衛視に引き渡す。覚悟を決めておけよ」  祈りを捧げる合間に、にやりと私に笑いかける。イカレてんじゃないの、こいつ。     「刑期は3年になったって?」 「だから何だっていうのよ」  誰が面会に来たのかと思ったら、この前の神官戦士だった。わざわざ何考えてんだか。 「名乗ってなかったな。俺の名前はロウ。君は?」 「……クロエ」 「クロエ、か。誰が付けてくれたんだ?」 「……母親」  両親は、ちょっと前に面会に来た。母親に泣かれたのは、さすがにちょっと応えた。  このタイミングで世間話みたいにこういう質問されるのは、正直ムカつく。 「いい名前だな。真剣に考えてつけてくれたんだろう。いいお母さんじゃないか。だめだろ、心配かけちゃ」 「……なんであんたにそんな事言われなきゃなんないわけ?」 「あー、ごめん。その……」  彼は、頭に巻いていたターバンを取った。 「俺も、これだから。ちょっと気になるっていうか」 「捨てられたクチ?」 「はは、ストレートに聞くなあ。ちゃんと実の親に育てられたよ。でもさ……」    ライフォス神官の息子として生まれたロウにとって、家は香り付けてごまかしまくった安酒みたいなものだった。  穢れを負っているからといって、差別はされない。始祖神神官の跡取りとして、大事に育てられる。  でも、周りの温かい視線は、ひどく居心地の悪いものでもあった。  いっそ、はっきり言ってくれれば。忌み嫌ってくれれば、反発もできるのに。   「家族に大事にされても、周りに差別されなくても、やっぱり、何か抱えてきたものって、あるだろ?」 「俺は、神様について、考えて、考えて、今も考えてるけど、そうやって考えるからちょっと救われてる」 「きみに救いが必要なのか、何が救いになるのかなんてわかんないけどさ……ちょっと話をしてみたかったんだよ」 「出てきたら、また会ってくれないか? ……こんな稼業だから、それまで俺が生きていられるか怪しいけどな」      後から聞いたけど、あの神官戦士……ロウは、私を衛視に引き渡した後、各所に話を入れてたらしい。  出来心だから刑は軽くしてやれとか(出来心なわけないじゃん)  まだ若いし、田舎出で世間知らずなだけだから、更生の余地はあるとか(大きなお世話もいいとこよね) (同情されるのが一番ムカツクって、あんただってわかるでしょーに。新手のイヤがらせ?)    ま、それだけの話なんだけどさ。  思い出すたびにムカツくわ。  どっかで野垂れ死んでると思うけど、万一生きててまた会うことがあるなら、思いきり文句言ってやる。 「面白おかしく生きてればいいだけよ。この世のどこに救われてる奴がいるってゆーの?」って。      で……まあ。  酒でも奢ってくれれば、許してやろうかな。  んで、冒険の話でも、してさ……  end.        

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