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    <description>BASARAロワ @ ウィキ</description>

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    <title>望まぬ再会</title>
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    <description>
      **望まぬ再会　 ◆Wv2FAxNIf.


　ある程度走ったところで、黄天化は足を止めた。
　片腕は肩に担ぎ上げたルルーシュを支えるのに塞がっているが、残る一方の手で器用に莫耶の宝剣を操って四方の死体の群れを片付ける。
　そして手近な死体を踏み台にして跳躍し、街灯の上へ飛び乗った。

「っちゃー……わり、見失っちまったさ」
「何だと！？」

　肩に担がれた姿勢のまま、ルルーシュがキャンキャンと騒ぎ出す。
　予想通りの反応だったので、天化はそれを軽く受け流し、代わりに周囲の様子を観察した。
　黒衣の男を見つけるのは早々に諦め、代わりに死体の群れの方を注視する。

　相変わらず死体の群れは多いが、一時ほどの密度ではないように思われた。
　この「東京」全域に手を広げるべく、拡散していったためだろう。
　胸の悪くなる話ではあるが、死体たちの服装などを見るに元は街の住人だ。
　それは街の人口以上の群れにはならず、無限に増え続けるものでもないということだ。
　道端には天化が斬ったものとは別の死体も多数転がっており、全ての住人が群れになったというわけでもないらしい。

　また、先程までと少々状況が変わったことに気付いた。
　街灯の上などその場しのぎの逃げ道に過ぎなかったのだが、死体の群れが追いすがってくる様子がないのだ。
　少々遠巻きに、何体かが様子を窺っているように見えるだけだ。
　それは放送局の中で、群れが天化らを積極的に殺そうとしてこなかったことと無関係ではないように思えた。

「連中はどーにもやる気が足りねぇみてえだったけど、赤い剣のあいつだけは本気でオレっちたちを殺しにきてたさ。
　んで、こいつらはまたやる気なしときた。
　どういうことさ？」
「それは。……。
　あの剣を手に入れるのが先だ！！」
「ほんっっと役に立たねぇさあんた！！」

　黒衣の男は既に影も形もなく、行き先の手がかりもない。
　頭脳労働の面に関して頼みの綱ともいえたルルーシュはこの有様である。
　天化はやむなく、一人で今後の方針を思案する。

「……しゃーない。
　どっかでちょいと休んだら、また捜すさ」
「そんな悠長なことを！」
「あんた一人じゃあいつは捕まえられっこないって分かってるはずさ。
　オレっちだって無理はしたかねぇのさ」
「む……」

　ルルーシュはしぶしぶではあるが納得したようだった。
　そうして天化は足場にしていた街灯を蹴り、移動を再開する。

　だが低い建物の屋上に跳び移ったところで、また足を止める。
　視線の先は別の建物の外壁で、奇跡的に稼働している電光掲示板があった。
　殷にはなかった代物への好奇心――だけではない。
　そこには見知った男の姿が映っていたのだ。

『私こそは〈天凌〉に仕えしもの、私の名は――』

　天化もルルーシュも、思わず前のめりになる。
　その男の挙動に釘付けになった。


『スアロー・クラツヴァーリ！！！』


　リピートされる映像を何度か眺めた後、テレビ局から数キロほど足を伸ばしたが収穫はなく。
　ルルーシュと出会って以降戦い通しだった天化は、廃ビルの一角で腰を落ち着けた。
　煤けたソファに寝転がり、煙草をふかす。
　ルルーシュはといえば、「俺が使うはずだったのに」と一人愚痴を零していた。
　メッセージを不特定多数に向けて発信することで、何らかの優位に立てる策を考えていたのだろう。
　この「東京」の土地勘があることもあって目の付け所は決して悪くなかったが、運は徹底して向かなかったようだ。

「さーて、どうしたもんかねぇ」

　意識を手放さない程度に体の力を抜き、緊張をほぐす。
　その束の間の休息は、遠く離れた地から轟音が響く時まで続いたのだった。

▽

　進むにつれ、周囲の気温が上昇していく。
　嫌な汗をかき始めたティーダは死体の群れを足場にするのをやめ、地面に着地する。
　そして群れを斬りつけながら、再び速度を上げる。
　これはティーダにとって助走のようなものだ。
　強力な一撃を叩き込むために、必要なプロセスである。

「あー。ごめん、それ僕は手伝わなくていい？」

　後ろから緊張感のない声がかかる。
　スアローの性質――というより『呪い』について既に聞かされていたティーダは、それをあっさり了承した。

「いいっスよ。
　その代わり、肝心な時に武器がないとかやめてくれよな」
「肝に銘じておくよ。
　今は怖いメイドさんもいないしね」

　スアローは普段は武器の管理をそのメイドに任せているらしく、余計に不安が煽られる。
　とはいえ出会って間もないティーダにはそれ以上言えることもなく、進行方向に注意を戻した。

　死体が焼ける臭いに顔を顰める。
　視界が拓けた先の広場には、見知った男の姿があった。

「やはりお前が来たか」

　グアド族の族長にしてエボンの老師、シーモア＝グアド。
　その声は、何も知らぬ者が聞けば妖艶と称したかも知れない。
　魔力を使うまでもなく人を心酔せしめる、艷やかにして色を帯びた声だ。
　行く先々で道を阻まれてきたティーダにとっては、不快なものでしかなかったのだが。

「えーっと、知り合い？」

　ここにきてなおスアローは呑気な様を見せており、相変わらずであった。

「嫌いなやつ」
「なるほどねぇ」

　興味があるのかないのか、人当たりがいい割に分かりにくい男である。
　対するシーモアは、スアローにはまるで感心がないようだった。

「念のため聞いておこう。
　知りもしないだろうがな」

　ねっとりと勿体ぶるような口ぶりで、シーモアは言う。
　こうしてただ話しているだけでも胸が悪くなり、ティーダはますますこの男が嫌いになるのだ。


「私の花嫁は、今はどこに？」


　全身が総毛立つような不快感と怒りが、ティーダから噴き上がる。
　ベベルで見せつけられた結婚式を、嫌でも想起させられた。


「知ってても教えねーよ！！」


　事情を一切知らぬスアローを置き去りにしたまま、ティーダはアルテマウェポンを構える。
　ルカに始まり、ミヘンで、グアドサラムで、ベベルで、ガガゼトで、シーモアとは繰り返し顔を合わせてきた。
　だが次はないと、ユウナには決して近づけまいと、ティーダは両足に力を込める。

　一撃の重さだけを比べるなら、ティーダよりもスアローの方が優れているかも知れない。
　だがティーダの最大の武器は手数である。
　ヘイスガとクイックトリックの併用は、相手に息をつく暇さえ与えない連続攻撃を可能にする。
　味方全体に効果を及ぼすヘイスガによってスアローの速度も上昇しているものの、ティーダはそれよりも更に速い。
　なお、ついでではあるが、ティーダの連撃の合間にスアローは剣を二本ほど壊していた。

「はぁあああああああああああ！！！！」

　圧倒的な速度に加えて、ティーダが持つアルテマウェポンには「回避カウンター」「魔法カウンター」のアビリティが付いている。
　シーモアがブリザラやサンダラを使えば、ティーダが意識する必要すらなく反撃の一手となるのだ。
　ティーダが回避した連続魔法が周囲の建物を次々と破壊していくも、ティーダ自身にダメージはない。
　そして戦う前から行っていた、ティーダの「助走」が終わった。

「派手なのを一発、ぶちかます！！！」

　姿勢を低く落とす。
　地面を強く蹴って体を押し出し、一息にシーモアの目前まで距離を詰め、八連撃。
　袈裟懸けに、横一文字に、或いは真下から切り上げ、必殺ともいえる一撃を矢継ぎ早に叩き込んでいく。
　そして剣を地面に突き立て、それを踏み台にして跳ぶ。

「スアロー！ それ、投げてくれ！」
「え、何これ。いつの間に！？」

　ティーダはスアローの手の中にあったブリッツボールを投げるよう促す。
　ティーダのオーバードライブ技、エース・オブ・ザ・ブリッツ。
　これは最後に、宙高く上げられたボールを蹴って敵に見舞うことで完成するのだ。

「よーし、よく分からないが任せろ！」

　スアローの手を離れたボールが、丁度ティーダが飛び上がった最高高度に到達する。
　完璧なタイミングだった。
　ティーダは空中で上下に体を一回転させ、頭を下にした姿勢のままボールを蹴り抜いた。

　パァン、と甲高い破裂音が響く。

「……えっ」

　その声はティーダのものだったか、スアローのものだったか。
　ティーダ愛用のブリッツボールはティーダの蹴りの威力に耐えきれず、弾け飛んでしまったのだ。
　蹴りがほぼ空振りとなったティーダはそのまま落下し、バランスを崩しながらもかろうじて着地した。

「……その。
　今回は運が悪かったみたいだ」

　スアローがきまり悪そうに言う。
　スアローが触れたものは休息に劣化し『粉砕』される――ティーダはそれを改めて実感させられたのだった。

　それでも、シーモアへのダメージは過剰なほどのものとなっていたはずだ。
　ティーダが視線を戻すが、そこに期待したものはなかった。
　シーモアは未だ健在で、そこに立っていたのだ。

「この土地はいい。
　何もかもが私の糧となる」

　周囲に転がっていた死体が瞬時に形を失い、幻光虫となって霧散した。
　のみならず遠巻きに広場の様子を窺っていた死体の群れさえも崩れ、それらの幻光虫はシーモアの内へ取り込まれていく。
　幻光虫の扱いに長けたグアド族の血を引いた優秀な召喚士であったシーモアが、死人（しびと）となったことで新たに得た力である。

「これで終わると、思ったわけではあるまい？」　
「……しつこいっつーの」

　ティーダの眼前にまず現れたのは、巨大な甲虫のような姿である。
　シーモアが使役する、幻光異体。
　そしてその背後に立つのが、人の形を失ったシーモア：異体だった。
　ベベルで対峙した時のままの姿である。

　その姿に、物言いに、ティーダは一層の苛立ちを募らせるのだった。



【一日目昼/渋谷(東部)】

【スアロー＠レッドドラゴン】
[所持品]両手剣×2
[状態]軽傷
[その他]
・〈竜殺し〉です。
・婁の宣戦布告を目撃


【ティーダ＠FFX】
[所持品]アルテマウェポン
[状態]健康、オーバードライブ使用直後
[その他]
・婁の宣戦布告を目撃


【シーモア＠FINAL FANTASY X】
[所持品]不明
[状態]健康、死人
[その他]
・〈竜殺し〉ではない


▽

「スアロー、ね」

　ティーダたちの頭上高く、建物の屋上から、その二人は戦いの推移を見守っていた。

「どうやらまた、ややこしいことになってるみてぇさ」
「あの男がいない。
　さっさと次に当たるぞ」
「言ってる場合じゃないさ！
　手を貸してやろうにも、困ったもんさ」

　ルルーシュの言葉を聞き流しながら、天化は新たな煙草に火をつける。
　見た目で善悪を決めていいのなら、助けに入るべきは金髪の二人の方だろう。
　とはいえ込み入った事情はまるで分からず、一方の名は「スアロー」であるという。

　煙草が短くなっていく。
　静観していられる時間はそう長くはないだろうと、天化は予感していた。



【一日目昼/渋谷(東部)】

【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア＠コードギアス 反逆のルルーシュ】
[所持品]なし
[状態]七殺天凌に魅了されている
[その他]
・携帯電話を紛失
・婁の宣戦布告を目撃


【黄天化＠封神演義】
[所持品]莫邪の宝剣、鑚心釘
[状態]左脇腹に傷
[その他]
・ルルーシュの「俺を助けろ」ギアス使用済み（効果が継続しているかは不明）
・婁の宣戦布告を目撃



Back:[[スアロー・クラツヴァーリの場合]] Next:[[シーモア、一策を講じる]]

|014:[[スアロー・クラツヴァーリの場合]]|スアロー・クラツヴァーリ|016:[[シーモア、一策を講じる]]|
|~|ティーダ|~|
|~|シーモア|~|
|010:[[婁震戒攻略]]|ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア|~|
|~|黄天化|~|


----    </description>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/basararowa/pages/32.html">
    <title>シーモア、一策を講じる</title>
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    <description>
      **シーモア、一策を講じる　 ◆Wv2FAxNIf.


　今のティーダにとって、シーモアは脅威足りえないはずだった。
　倒す都度復活と強化を果たし道を阻んでくるシーモアは厄介ではあったが、ティーダの成長速度はそれを遥かに上回る。
　まして最強武器の一角のアルテマウェポンを手に入れた後となっては、軽く一蹴してしかるべき相手である。
　不完全とはいえ大技エース・オブ・ブリッツも決まり、本来であればとうに決着がついている戦いだ。

　だがシーモアはまだ立っている。
　どころかまだこれからとでも言うように、余裕の表情を浮かべている。

「グアドサラムでもこうはいくまい。
　まるで私の為に用意されたかのようだ」

　人とのハーフではあるが、シーモアはグアド族だ。
　その土地に異界を擁する彼らは幻光虫の扱いに長け、幻光虫で構成される魔物を使役した戦いを得意とする。
　幻光虫で満たされた異界で真価を発揮する種族と言える。
　その部族を治める長であるシーモアにとって、この「東京」は考えうる限りで最高の環境だった。
　仮初めの住民たちは幻光虫で形作られ、死人（しびと）のように街中を徘徊している。
　彼らを消滅させればさせるほど気体中の幻光虫の濃度は高くなり、シーモアの一部として吸収される。

　そして魔物を活性化させる空気が、この土地にはあった。
　それがニル＝カムイという土地と酷似したものであることは、ティーダもシーモアも知るよしもない。
　唯一気付く可能性のあるスアローもそうした知識に疎く、気付くことはなかった。

「ここで死ねば、苦しみから解放される。
　父親を殺すことに悩むこともなくなるのだ。
　私はお前もお前の父親も救ってやろう」
「いちいち！！　うるっせえっての！！！」
「ちょっと、僕がちっとも会話についていけてないんだけど！
　何でそんな物騒な話をしてるのかな！？」

　ティーダと並ぶスアローはこの状況でなお緊張感がない。
　或いは「持てないのではないか」とさえ、ティーダには思えた。
　シーモアは未だスアローに関心を見せる様子はなく、会話の矛は絶えずティーダへ向いている。

「私が父ジスカルを殺めた時もそうだった。
　あの男も、過去に己が犯した罪に苦しんでいたのだ。
　私はそれを解放したまでのことで――」
「いい加減――」

　ティーダがシーモアの言葉を遮ろうとして、止まる。
　一瞬、陽光が遮られたのだ。
　シーモアに斬りかかろうとしていたティーダが咄嗟に後退すると、幻光異体めがけて影が落ちた。
　黒髪の青年が建物の屋上から飛び降り、剣を突き立てていた。
　青年は幻光虫を散らしながら剣を引き抜き、ティーダの隣りへと飛び退る。

「親を殺すとか殺したとか、ここにきてから嫌な話ばっかさ！
　俺っちが加勢してやっから、とっとと片付けるさ！」
「誰だよあんた！　助けてくれるのか！？」
「俺っちは黄天化。助ける理由は、俺っちが気に入らねえからさ！」

　破壊された幻光異体はシーモアの体力を吸い上げ、瞬く間に元の形状を取り戻す。
　そしてすかさず全体魔法のファイアを放った。
　アルテマウェポンのカウンターアビリティが発動するのは個人に向けられた魔法のみであり、三人はまともに攻撃を受けてしまう。

「ッ、あいつのこと嫌いだってんなら、気が合いそうだな！
　このまま一気に三人で――」
「あ、僕は下がるよ」
「はぁ！？」
「剣があと二本しかないんだ。いやー、援軍がきてくれてよかった！」

　スアローは悪びれもせずに、本当に戦線から退いてしまう。
　この男の剣の事情を知っているティーダでも絶句する呑気さである。

「あの兄さんがスアローってのかい？」
「ん、そう言ってたっス」
「へぇ……ま、後で確認するさ！」

　ヘイスガ、クイックトリックによる加速。
　ティーダの戦法はスアローが抜けても変わらない。
　例え周囲の幻光虫を取り込んで強化されるとしてもそれは無限ではないはずだ。
　それ以上の速度で倒せばいいと、ティーダの剣は勢いを増していった。

▽

　シーモアはここまでの応酬で、ティーダの武器が持つアビリティを確かめていた。
　回避カウンターと魔法カウンター。
　ティーダ個人に向けた攻撃は尽く回避され、斬撃によるカウンターが行われる。
　加速したティーダに更なる手数を与えることになるため、シーモアが得意とする連続魔法は逆効果である。
　ブレイクによる石化も防具によって弾かれているようだ。
　そうなればシーモアは当然、戦法を変える。
　ティーダを無視し、新たに加わった天化という青年へ連続魔法を集中させる。
　天化の身体能力がいかに高くとも、ティーダのように武器や防具のアビリティがなければ魔法の回避は不可能である。
　ティーダが援護としてバファイを初めとした耐性魔法を使用しても、幻光異体の全体魔法とデスペラードなら解除できる。
　攻撃に集中する分シーモア自身もダメージを受けはするが、周囲の幻光虫で回復することで一方的に天化を消耗させていく。
　更に耐性魔法を使わせ続けることでティーダの手数を削り、結果として防御を兼ねた攻撃となった。

「きったねえ……そんなに俺が怖いかよ！」
「安い挑発はよせ。
　だが私はお前も救ってやらねばならない。
　この私と幻光異体が相手をしてやろう」

　ティーダは耐性魔法の他にも白魔法を獲得しており、天化の傷もある程度回復させてしまう。
　周りの死体を使い切れば不利になるのはシーモアの方であり、どこかでアルテマウェポンを突破しない限り勝機はない。
　故にシーモアは斬りかかってきたティーダと天化に、幻光異体の全体魔法をぶつける。
　そしてその勢いで正面の建物の一階へ叩き込んだ。

　連続魔法でサンダーを打ち込む。
　対象はティーダでも天化でもなく、建物の支柱だ。
　これまでにティーダに躱された魔法はこの建物に集中させていたので、下準備は既に終わっている。
　傍に人が通れるような大きさの窓や出入り口がないことは確認済み、叩き込んだ入り口は幻光異体が塞いでいる。

「ご自慢の武器も、これでは役に立つまい？」

　建物が崩壊する。
　回避カウンターも魔法カウンターも発動しようがない大質量が、二人の頭上に降り注いだ。

▽

「やばっ……」

　天化は体を起こし、人の体ほどもある石片が落ちてくるのを躱しながら走る。
　使えそうな窓や扉はない、逃げ道があるとすれば正面の幻光異体。
　強引に突破する他にない。
　できなければ死ぬだけだ。
　隣りにいるティーダも考えは同じようで、目が合い、頷き合う。

　「負けてたまるか」という負けん気は、天化の中に常にある。
　だが同時にそれで周囲を見失わない程度の冷静さも併せ持っている。
　この時も間に合わせる為の道筋を見極めようとしていた。
　幻光異体に剣を届かせるまでの歩数、それを越えた後のシーモアを掻い潜るのに必要な時間。
　その計算の最中、天化とティーダの目の前に上階の壁が落ちてきた。
　それが視界と道を同時に塞ぐ、致命的な数秒の空白を生む。

　死んだ母と、どこにいるのかも分からない父と、故郷の兄弟たちの顔が浮かんでしまう。
　天化とティーダはそこで、闇に飲み込まれた。

▽

「だからやめておけばよかったんだ、あの馬鹿……！」

　ルルーシュは息を切らしながら階段を駆け下りていた。
　制止を振り切って飛び出していってしまった天化への悪態は尽きない。
　とはいえ隣りの建物が倒壊したとあっては、ルルーシュも動き出す他なかった。

（考えろ、俺がやるべきこと……あの剣を手に入れる為の最善手を……！
　まずは現状の確認だ、あのシーモアとかいう化け物はまだ俺の存在に気付いていない。
　そしてあの連中は――）

　途中階の窓から、ルルーシュは様子を窺う。
　崩れ去った建物による粉塵で地上は白く染まっている。
　時間が経つにつれてそれが晴れていき、影が見えてきた。

「……何だ、生きてるじゃないか」

　生きていればまだ利用できると、ルルーシュは笑う。
　この笑みにそれ以上の理由はないと、己に言い聞かせながら。

「仮は返してもらうぞ。
　この俺を巻き込んだんだからな」

　シーモアの立つ広場。
　倒壊した建物。
　周囲の建築物の位置関係。
　魔法の威力。
　残った三人の戦闘力。
　ルルーシュが導き出す答えは――


▽

　シーモアは顔を顰めていた。
　相手にしていなかったイレギュラーによって計画を崩されたのだから、それも当然だろう。

「使いたくなかったんだけどなぁ」

　倒壊した瓦礫の下から出てきたのは、漆黒の塊だった。
　影そのものが形を成したようなそれが解けると、ティーダ、天化、そしてスアローが姿を見せた。

　崩落が始まった時、スアローは残る二本の剣のうちの一本で外壁を叩き壊した。
　細い剣で分厚いコンクリートの壁を崩す、常人には到底成し得ない行動である。
　そして瓦礫の前で動きを止めていた二人を、〈黒の帳〉で包んでやり過ごしたのだった。

「頼りねえ兄さんかと思ってたのに、あんたやるなぁ」
「いやぁ。たまには働かないと怒られるからね」

　悠長な会話がシーモアの神経を逆撫でる中、ティーダが剣を構え直す。

「これで、仕切り直しだ……！」



【一日目昼/渋谷(東部)】

【スアロー＠レッドドラゴン】
[所持品]両手剣×1
[状態]軽傷、魔素を消費
[その他]
・〈竜殺し〉です。
・婁の宣戦布告を目撃


【ティーダ＠FFX】
[所持品]アルテマウェポン
[状態]MPを消費
[その他]
・婁の宣戦布告を目撃


【シーモア＠FINAL FANTASY X】
[所持品]不明
[状態]シーモア：異体、死人
[その他]
・〈竜殺し〉ではない


【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア＠コードギアス 反逆のルルーシュ】
[所持品]なし
[状態]七殺天凌に魅了されている
[その他]
・携帯電話を紛失
・婁の宣戦布告を目撃


【黄天化＠封神演義】
[所持品]莫邪の宝剣、鑚心釘
[状態]左脇腹に傷、軽傷
[その他]
・ルルーシュの「俺を助けろ」ギアス使用済み（効果が継続しているかは不明）
・婁の宣戦布告を目撃



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|015:[[望まぬ再会]]|スアロー・クラツヴァーリ|-|
|~|ティーダ|~|
|~|シーモア|~|
|~|ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア|-|
|~|黄天化|~|    </description>
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    <title>【000－050】</title>
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      **【000～050】

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|~NO.|~タイトル|~作者|~登場人物|
|000|[[OP――賽を投げる者]]|◆Wv2FAxNIf.|揚羽、更紗、〈赤の竜〉、〈喰らい姫〉、阿ギト|
|001|[[還り人の都]]|~|更紗、忌ブキ、聞仲、アーロン、婁震戒|
|002|[[汝は竜殺しなりや？]]|~|エィハ、枢木スザク、黄飛虎|
|003|[[朱理は紅蓮の野に立つ]]|~|紅月カレン、朱理、シーモア|
|004|[[国の真優ろば]]|~|四道、ジェレミア・ゴットバルト|
|005|[[殷の太師]]|~|忌ブキ、聞仲|
|006|[[混沌戦争]]|~|忌ブキ、聞仲、スアロー・クラツヴァーリ、ティーダ|
|007|[[The First Signature]]|~|婁震戒、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、黄天化|
|008|[[持つ者と持たざる者]]|~|浅葱、ユウナ、紂王|
|009|[[天凌府君、宣戦布告す]]|~|婁震戒、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、黄天化|
|010|[[婁震戒攻略]]|~|~|
|011|[[英雄（ヒーロー）の条件]]|~|更紗、アーロン|
|012|[[光芒]]|~|紅月カレン、朱理、四道、婁震戒|
|013|[[竜殺しを探して]]|~|エィハ、枢木スザク、黄飛虎、ジェレミア・ゴットバルト、浅葱、ユウナ、紂王|
|014|[[スアロー・クラツヴァーリの場合]]|~|スアロー・クラツヴァーリ、ティーダ、シーモア|
|015|[[望まぬ再会]]|~|スアロー・クラツヴァーリ、ティーダ、シーモア、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、黄天化|
|016|[[シーモア、一策を講じる]]|~|~|
}


----    </description>
    <dc:date>2017-11-20T00:54:23+09:00</dc:date>
    <utime>1511106863</utime>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/basararowa/pages/25.html">
    <title>婁震戒攻略</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/basararowa/pages/25.html</link>
    <description>
      **婁震戒攻略　 ◆Wv2FAxNIf.


　ルルーシュの指示に従い、長い廊下を駆け抜ける。
　そうして二人は遂に目当てのスタジオに辿り着き、天化がその入り口を蹴り開けた。

　途端、視界が拓ける。
　行く手を阻み続けていた死体の群れが、ここにはいない。
　だが緊張は解けるどころかさらに高まった。
　入り口から十メートル以上進んだ先の撮影用スタジオに、一人の男が立っていたのだ。

　黒と赤の派手な仮面で顔の上半分を隠した、黒マントの男。
　ルルーシュと天化がいる入り口の方を向いてはいるが、仮面のせいで視線の先は判然としない。
　不自然なまでに目立つ姿の男を前に、天化は反射的に剣を構えた。
　目を凝らし、集中し、どんな動きにも対応できるよう足に力を籠める。
　だがその集中を、ルルーシュの声が破る。

「天化、その男は『違う』！」
「！！」

　天化が前面に絞っていた感覚を広げる。
　視線を左右に配り、耳を澄ます。

「…………そこさッ！！！」

　微かな空気の流れを肌で感じ取り、天化は振り向きざまに莫邪の宝剣を振り下ろした。
　ルルーシュの首筋めがけて伸びていた黒い影は、宝剣を避けて飛び退さる。
　影がそのまま天化たちから距離を取り、仮面の男の隣りで立ち止まったところでようやく、人の形を成して見えた。
　戦いに慣れた天化の目をもってしても、その男の気配は捉えがたかったのだ。
　対面で向き合ってなお、男の後ろの景色が透けて見えそうなほどに気配が薄い。
　ルルーシュと同様、その輪郭は淡く光って見えているというのに、それをまるで感じさせなかった。

「天化、助かった……」
「助かったのはこっちさ。
　俺っちだけじゃ騙されてた」

　仮面の男の隣りに並び立った、黒い皮鎧の男。
　顔は死体のように青白く、目の下の濃い隈が一層不健康な印象を強めている。
　天化は黒衣の男から仮面の男の方へ、ちらと視線を移した。
　輪郭の光はなく、よく見れば首を絞められた痕がある。
　恐らく、そこらにいた死体のうちの一体に目立つ衣装を着せて立たせていたのだろう。

「死体にこんなことができるってことは、あんたが親玉だな？」
「…………」

　黒衣の男は答えない。
　仮面の男と違って目元まで露わになっているというのに、感情はまるで読み取れなかった。

　死体を操りながら天化たちの先回りをし、罠を張って待ち受けていた男。
　その存在は、『ルルーシュの読み通りだった』。

▽

　天化と出会い、一応の安全を確保して以降、ルルーシュは思考し続けていた。
　主に街を覆わんとしている死体の群れの正体や思惑についてだ。
　しかし仮説を立てようにも、死体が動き回るという荒唐無稽な状況を前に手詰まりを起こしかけていた。
　だが天化がもたらしたある情報がそれを打ち破り、ルルーシュは一つの結論に行き着いたのだった。

「高継能、っつったかな。
　そいつと戦った時と、ちょいと似てるさ」

　非常階段を進む間、天化はそう呟いた。
　天化本人は状況の打開までは期待しておらず、雑談のつもりだったのだろう。
　その人物はフェロモンを操る宝貝で遠距離から蜂の群体を支配し、蜂たちをミイラのように仕立てあげて襲ってきたのだという。
　確かにその話は、現状とは異なる点を多く含んでいた。
　だが「ギアスをもってしても実現不可能な事象を可能にする道具」の存在が、ルルーシュが立てる仮説の幅を大きく広げた。

　階段で天化が戦う間、ルルーシュは集まった情報から四桁に及ぶ可能性を列挙し、さらにその中から一つの答えを導き出す。
　そして最上階に着いたところで、それを天化に告げたのだった。

「天化、振り返らなくていいから聞け。
　恐らくこの先、俺たちは待ち伏せされている」
「んなことどーしてわかるさ？」

　スタジオは既に目と鼻の先であり、ルルーシュは手短に説明した。
　まず、天化が戦った宝貝使いの時と同様、この死体の群れにも指揮官がいるのは明らかだった。
　一見すると死体それぞれに知性は見られないが、火や車両を扱って建物を破壊している個体がいる。
　ルルーシュがバリケードを築いていたこのテレビ局への侵入も極めて手際がよく、ただ機械的に人を襲うだけの群れには不可能である。

　また二人が非常階段にいる間、群れの中にはわざわざ各階の頑丈な扉を破って襲ってくる者たちもいた。
　恐らく、二人がそこにいるという情報が群れの間で共有されているのだ。
　そしてそれにも関わらず、二人が身動きできなくなるほどの数が殺到することはなかった。
　統率が取れており、かつ相手を行動不能にするという点については消極的である。

「死体の群れの使いようによっては、俺たちを完全に進めなくすることもできたはずだ。
　つまりその指揮官は俺たちを妨害し、時間稼ぎをしている。
　そして最上階を目指すこと自体は阻止しようとしていない」
「あー、あるかもしれねーさ。
　こいつらみょーにばらけて出てくるから、進みにくい割に大したことねーんだ」

　天化にも心当たりがあったようで、話はすんなりと伝わった。
　天化は頭脳労働は不得手だと自称していたが、戦いの最中でも敵をよく観察している。
　剣を振るだけが能ではないらしい。

「それでそいつに待ち伏せされてるって話になったわけか。
「そうだ。
　俺たちが外の階段を上がっている間に、建物の中を通って先回りしている」
「はー、なるほどなぁ。
　中は死体まみれっつっても、操ってる本人なら関係ねーわけだ」

　天化は感心した様子で納得していた。
　そしてルルーシュはもう一つ、推測を付け加えた。

「どうやらそいつは、俺たちと直接会いたがっているようだ」
「死体どもがあんまやる気ねーからか？」
「それもあるが……この建物だけ、火が回っていないからだ」

　ルルーシュが非常階段から観察した限り、周囲のどの建物にも火が放たれていた。
　群れが暴れた結果燃えているのではなく、車両を建物に突っ込ませたり、可燃物を使用したりと、意図的に燃やされている。
　目的は参加者を炙り出す為だろう。
　二十人の参加者に対してこの街は広大すぎるが故に、隠れる場所を大胆かつ効率よく奪っているのだ。
　しかしこのテレビ局だけは、未だ出火した様子がない。

「死体に人海戦術で囲まれて、身動きできなくなっているうちに火を使われたらひとたまりもなかった。
　まぁ、お前の力があれば突破できたのかもしれないが。
　殺せる機会をあえて見過ごして、わざわざ待ち伏せている」

　合理的ではないが、あらゆる可能性を加味していった結果残った結論だった。
　殺人に快楽を見出す人種なのか。
　二対一でも勝てる自信があるのか。
　何らかの理由があるのだろうが、そこまでは読めなかった。

「んー……ま、着いてからも用心しろっつーこったな」
「そういうことだ」

　やる気があるのかないのか、天化の軽口からは判断が難しい。
　だがその腕が確かであることも、意外に真面目で誠実な男であることも、短い付き合いではあるが理解できた。
　まだ信頼には及ばないが、信用はできる。

　そうして二人はスタジオに辿り着き、天化はルルーシュの期待を裏切る形で豪快に扉を蹴破ったのだった。

▽

　還り人となり新たな能力を得たものの、婁の本分はあくまで暗殺者である。
　奇襲が失敗したことは少なからぬ痛手であったが、さりとてそれで撤退する婁ではない。

　これまでの経験でも、対象に初手を防がれるのは別段珍しいことではなかった。
　まして今回に至っては配下の還り人たちの耳でルルーシュと天化の会話を聞き取っており、読まれていることは折り込み済みだった。
　待ち伏せが不発に終わったならば、正面から斬るのみ。
　武芸の達人として研鑽を積んできた婁は、天化が相手でも敗北はないという自信があった。

『……使って来んようだな』

　妖剣が囁く。
　婁と七殺天凌が真に警戒していたのは天化ではなく、ルルーシュの方である。
　この男の能力について未だ多くが推測の域を出ないが、捨て置くには危険過ぎたのだ。
　最初の奇襲で天化ではなくルルーシュを狙ったのもその為である。

　他人へ命令を強制する力。
　それを行使する直前の所作から魔眼と推察したものの、効果を確認できたのは一度きりだった。
　判断材料が限られる今、魔眼ではなく言霊によるものだという仮説も立てられる。
　ただ黄天化に一度使用してからは、天化本人の自由意志に任せているように見えた。

『だが実際にあの小僧を見て分かったことがある』
「ほう？」
『あの程度の生体魔素では、強力な魔眼など扱えまいて。
　あれでは幼子のそれと変わらんな』
「ならばあの力は……」
『暗示か、催眠術の類と見た。
　あの黄天化の言った宝貝のような、わらわの知識の外のものでない限りはの』
「…………」

　妖剣との念話を続けながら、婁は思案する。
　魔眼でないならば、少なくとも相手の視界に入っただけで術中にはまることはない。
　ルルーシュの発声と視線に注意を払っていれば回避できるはずである。
　未だ憶測をはらみ、賭けになる――だが婁は自ら仕掛けることを決めた。

「来ないのか」

　婁が念話をやめ、ルルーシュと天化に向けて口を開く。
　ルルーシュから天化への「生け捕りにしろ」という命令が耳に入り、やはり能力を使う様子は見受けられない。
　そこで婁は、剣を抜いた。

　意志を持ち、人の血を啜る妖剣・七殺天凌。
　この剣を抜くことは特別な意味を持つ。

「これでも……来る気はないか？」

　息を飲んだのはルルーシュだった。
　目を見開き、目眩を起こしたように数歩後ずさる。
　そして陶酔しきった声で呟いた。

「う、美しい……」

　婁は口の端を吊り上げ、さらに見せつけるように赤い刀身を掲げた。
　七殺天凌は、ただ美しいだけではない。
　その魔力によって人を魅了し、「己のものとしたい」という欲望で染め上げるのである。

「よこせ……その剣は、俺のものだ……！」
「あんなに立派な持ち物があるのにか？」

　ルルーシュの目からは知性も理性も剥がれ落ち、ぎとついた欲望だけが映っていた。
　そんなルルーシュの前で、婁は大袈裟な身振りをもって巨大甲冑を指す。
　恐らくはルルーシュが目的としていた、切り札となりえる兵器である。
　婁の挑発を受けたルルーシュは、その表情を憤怒に塗り替える。

「こんなもの……！！」

　ルルーシュは懐から取り出した『鍵』のようなものを床に叩きつけた。
　兵器を使うのに必要なパーツであることは想像に難くない。
　七殺天凌へ心酔しそれまでの価値観が壊れる様を目の当たりにして、婁は一層笑みを深めた。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる！！
　その剣を、――っ！」

　ルルーシュの声が途切れる。
　婁は囮に使った仮面の還り人の背後に回り、耳を塞いだのだ。
　だがその還り人の五感を利用し、ルルーシュが命令を取りやめたことは把握できた。

「貴様、まさか俺の力を知って……！」

　ルルーシュのその反応から、婁は確信を得る。
　声だけで能力が発動するのなら、そのまま命令を言い切っていただろう。
　やはり危険なのはこの男の眼である。
　ここまで分かれば、対応のしようがある。

　だが七殺天凌とルルーシュの間に割って入る者がいた。

「あんたの剣、やべー力があるみてえだな。
　俺っちも、ちっとだけくらっときちまったさ」

　七殺天凌の魅了跳ねのけるには、強靱な意志と運を必要とする。
　黄天化にはその両方が備わっていたらしい。
　
「ま、俺っちは魔剣ってーのにイヤな思い出があっからよ。
　ルルーシュほど夢中にはなれねーみてえさ」
「天化、そう言ってあの剣を独占する気だろう！」
「あー、もう、あんたしょーがねえ人さ……」

　妖剣に魅了されたルルーシュが食ってかかるが、相変わらず天化は煙草をふかし、飄々と受け流している。
　天化の余裕の態度に、七殺天凌が震えた。

『やはりどちらも面白い……前菜と呼ぶにはもったいない輝きよ……！
　早く、早く食ろうてやりたいわ！』
「お任せ下さい、媛」

　婁は掲げていた妖剣を構え、臨戦態勢に入る。
　同時に天化も口論を切り上げ、纏う空気を一変させた。

「こいつはマジにならなきゃやべー相手さ。
　剣は取ってきてやっから、あんたは下がってな……っと！」

　婁が音もなく地面を蹴る。
　天化も遅れず前へと進み出て、広い部屋に剣戟の音を響かせた。

▽

　高継能を相手にした時とはまるで違う。
　莫邪の宝剣を握る天化の手に、わずかに汗がにじんだ。

　人に戦わせ、本人は高見の見物をしているという点では、この黒衣の男は高継能と同類だった。
　ルルーシュの推測を聞いている間、天化は密かに「そんなやつには絶対負けねぇ」と意気込んでいたぐらいだ。
　危険とあっては逃げ隠れし、姑息に待ち伏せして罠を張るような卑怯者は、純粋に嫌いだった。
　だがこうして本人と対面し、天化は己の浅慮を恥じる。
　手段を選ばないという意味で、この男は確かに卑怯者と言えるだろう。
　しかし同時に、卓越した剣客だったのだ。

　立ち振る舞いに服装、それに最初にルルーシュを狙ったことからも、この男が暗殺に特化していることは確かである。
　そして暗殺者であるならば、待ち伏せによる奇襲の失敗は大きすぎる痛手だったはずだ。
　にも関わらず、男の表情にはまるで焦りがない。
　奇襲は手段の一つに過ぎず頼りにしてもいない、天化はその在りようの裏に確かな研鑽を見た。
　天化も努力を重ねてきた身であるが故に、それが理解できたのだった。

　さらに驚嘆すべきはその手数である。
　天化が大振りの一撃を繰り出そうとすれば、この男はその間に四度五度と正確に急所を狙った乱舞を見せる。
　その精緻な動きはまさしく達人――否、超人の境地であった。

　その極められた身体能力は、攻撃のみに留まらずあらゆる動きに反映される。
　天化の剣が如何に鋭くとも、黒衣の男の体は柳か羽毛のようにするりとすり抜けていく。
　そして初めに見せられた気配の薄さも健在だった。
　身軽さと素早さが加わって、至近距離にあってもなお、油断すれば見失いそうになるほどだ。

「あんたはめっちゃ強え！
　たぶん技量なら俺っちより上さ、けどな……！」

　敵が強いからと、諦める天化ではない。
　むしろ敵が強ければ強いほど、闘志を燃え上がらせる男である。

　頸動脈を掻き斬ろうとした妖剣を、莫邪の宝剣が受け止める。
　急所を狙う技術が正確であるが故に、天化にもその一手が読めたのだ。
　鍔迫り合いに持ち込み、なおも無表情を貫く黒衣の男に向かって吼える。

「黄飛虎譲りの腕力と！！
　負けん気だったらぜってーに負けねえさ！！！」

　その言葉通り、押しているのは天化だった。
　黒衣の男も単純な力比べを不利と悟ったのか、剣の角度を僅かにずらした。
　莫邪の宝剣を妖剣の上で滑らせ、切っ先を逸らそうとしているのだ。
　それに気づいた天化は逸らされる前に、『宝剣の刀身を消した』。

　莫邪の宝剣は柄が本体であり、刀身は任意のタイミングで出現させられる。
　鍔迫り合いの状態から唐突に相手を失い、さしもの黒衣の男の体幹が微かに揺れる。

「ッらぁ！！！！」

　再び発現させた莫邪の宝剣も、羽毛の如く逃れる男にはやはり届かない。
　紙一重、黒衣をわずかばかり裂いて終わり、距離を取られてしまう。
　だがそこで天化は驚き、目を剥いた。
　黒衣が裂けた箇所から覗く腹部には、真一文字の生々しい傷があったのだ。

「あんた、その怪我でよく生きて…………っつーよりあんた、ホントに生きて――」
「それはお互い様だ」
「！！」

　天化の足下に包帯が落ちる。
　腹部に巻き付けていた包帯が、距離を取られる間際に斬られていたようだった。
　そうして天化の左の脇腹の、出血し続ける傷口が露わになる。

「あんたのに比べりゃこんなもん……あっ」

　天化の話途中で、黒衣の男は背を向けて走り出した。
　向かう先にあるのは窓である。

「逃がすか！！」

　街の騒ぎの元凶でもある危険人物を、みすみす逃がす理由はない。
　天化が勢いよく歩を進め、そしてすぐに止まる羽目になった。

「天化、早く追いかけろ！
　あの剣を必ず奪うんだ！！」
「……そーだったさ、この人がいるんだったさ……」

　妖剣に魅了された今となっては、完全にお荷物となってしまったルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
　彼を置いていくか否か、しかし悩んでいる間にも黒衣の男は逃げていく。
　男が窓を叩き割ったところで、天化は覚悟を決めた。

「えーーい、ここまできて置いてけるか！
　舌噛んでも知らねーさ！」
「ほわぁ！？」

　ルルーシュを肩に担ぎ上げ、天化は男の後を追う。
　割られた窓から下を覗くと、数十メートル下の大通りを走る影が見えた。
　天化は躊躇なく窓から飛び降り、外壁に剣を突き立てて減速しつつ落下していく。
　そして適度な高さで外壁を蹴り、大通りを跋扈していた死体のうちの一体の上に着地した。

「わり、今は相手してる時間ねーさ」

　ルルーシュを抱えたまま、黒衣の男が逃げた方角に向けて天化は走る。

（……あ、背負っちまった）

　非常階段を移動していた頃は、ルルーシュが如何に足手まといであっても直接手を貸してやることはしなかった。
　底知れず、どこか信用し切れなかったからである。

（急いでたっつーことでまぁ……）
「天化、早くあの剣を……！」
「あんたってホント残念な人さ……」

　思考が剣一色になったことで、ある意味御しやすくなったとも言える。
　何とか納得できるだけの理由付けをしつつ、天化は呆れと諦めの混じった煙をふかした。

▽

（何故俺の能力に気づかれた……？
　いや、今はそれよりも……）

　天化に運ばれながら、ルルーシュはいつものように策を講じようとしていた。
　だが全ての優先順位が魅了によって上書きされ、普段の思考力は見る影もない。

（死体どもの破壊が都心部に収まっている今ならまだ、電波が届く。
　そこらから携帯を奪ってスザクたちに連絡を……。
　違う、今はまずあの剣だ……！！）

　スザクやジェレミアが焦りとともに動き出した頃。
　彼らの声の届かぬ場所で、ルルーシュは魔剣に深く囚われていた。



【一日目昼/九段下 テレビ局付近】

【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア＠コードギアス 反逆のルルーシュ】
[所持品]なし
[状態]七殺天凌に魅了されている
[その他]
・携帯電話を紛失


【黄天化＠封神演義】
[所持品]莫邪の宝剣、鑚心釘
[状態]左脇腹に傷
[その他]
・ルルーシュの「俺を助けろ」ギアス使用済み（効果が継続しているかは不明）


▽

「……さて」

　婁は元の最上階へ舞い戻っていた。
　逃走に見せかけてルルーシュたちを撒き、堂々とやり過ごしたのである。

「申し訳ございません、媛。
　天化とルルーシュの両方を見過ごすことになろうとは」
『構わん、一筋縄でいかない連中とは承知の上よ。
　焦らずともまた機会はあろうさ。
　あやつらのさらに上の極上の獲物も控えておる以上、戦いを長引かせる方が愚策と言えよう』

　妖剣の囁きを受け止めながら、婁はあるものを回収した。
　ルルーシュが捨てた、巨大甲冑の鍵である。
　婁自身がこれを扱うことはできなくとも、知謀に長けたルルーシュにこれ以上の戦力を与えるべきではない。

『とはいえ婁よ。
　そろそろわらわも渇きを覚えるぞ』
「ええ媛、次こそは。
　それまではどうかこの身を――」

　婁はうやうやしく七殺天凌を掲げ、そして自らの脇腹に突き立てた。
　己が食われる感覚にすら、婁は酔う。

『くくっ……おぬしの味は、未だ飽きることがない』
「恐悦至極に存じます」

　婁は妖剣に生体魔素を吸わせながら、街全体に張り巡らせた『目』を凝らす。
　愛しい妖剣が上機嫌でいるうちに、次なる標的を捜す為に。



【一日目昼/九段下 テレビ局　最上階スタジオ】

【婁震戒＠レッドドラゴン】
[所持品]七殺天凌、ルルーシュの携帯電話（故障中）、蜃気楼の起動キー
[状態]健康（還り人）、生体魔素を消費（媛は空腹であらせられる）
[その他]
・七殺天凌は〈竜殺し〉
・還り人たちを通して会場全域の情報を得る。
・ルルーシュの能力についてほぼ把握



Back:[[天凌府君、宣戦布告す]] Next:[[英雄（ヒーロー）の条件]]

|009:[[天凌府君、宣戦布告す]]|婁震戒|012:[[光芒]]|
|~|ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア|-|
|~|黄天化|~|


----    </description>
    <dc:date>2017-09-13T02:20:46+09:00</dc:date>
    <utime>1505236846</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/basararowa/pages/30.html">
    <title>竜殺しを探して</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/basararowa/pages/30.html</link>
    <description>
      **竜殺しを探して　 ◆Wv2FAxNIf.


　空の黒煙の合間を縫いながら、二つの歪な影が通り過ぎていく。
　一つは人型でありながら翼を持った白いKMF、ランスロット・アルビオンである。
　七メートルにも及ぶその巨体は、そこにあるだけで空を圧迫していた。
　そしてもう一方は同じく翼を生やした、犬のような姿のつながれもののヴァルだった。
　ランスロットに比べれば小さいが、人ひとりを丸ごと飲み込めるだけの巨躯を持ち合わせている。
　その上にヴァルと繋がれた少女・エィハ、それに巨漢の黄飛虎を乗せているため、シルエットはますます奇妙なものになっていた。

　ランスロットが先行し、目指すのはルルーシュが消息を絶った九段下だ。
　そこに向かう道中、そのパイロットである枢木スザクは少々困惑していた。
　集音マイクと外部スピーカーでエィハらと会話しながら進んでいたのだが、いつからかスザクの耳にはすすり泣きが聞こえてきている。

「そ、そいつぁ……悪いこと聞いちまったなぁ……うっ」
『ど、どうして飛虎さんが泣くんですか……？』
「バカ野郎、これが泣かずにいられっか！」

　飛虎が熱の入った様子で反論してくる。
　初対面の印象通りの人柄だった彼は、誰に聞かれるでもなく自分の素性について語り始め、そしてエィハとスザクにも尋ねたのだ。
　どこから来たのか、どんな生活をしていたのか、家族はどうしているのか――と。
　結果、飛虎は泣き出したのであった。

「オレんとこは家族が多くてよ……こういう話に弱えんだ……」
『あの、僕は気にしてませんから。
　エィハもそうだろ？』

　スザクは黙ったままでいるエィハに水を向けた。
　エィハとは短い付き合いだが、ドライで達観しているようにすら見える彼女が動じているとは思えなかったからだ。

「そうね。いないのが当たり前だと思っていたから」

　スザクが思っていた通りの乾いた反応があった。
　何とも思っていない――スザクは彼女に家族がいないことではなく、それ自体に無関心であることに胸を痛めた。

　家族がいないのはスザクも同じだ。
　元より一人っ子で、幼い頃に母を亡くし、父が死んだのももう随分前のことになる。
　しかし、少なくともスザクが父を失ったのは自業自得だったのだ。
　誰のせいでもない、自分のせいだった。
　対するエィハは何も悪くない。
　ニル・カムイという土地に戦火が絶えなかったから、貧しかったから。
　そんな外の環境に歪められてしまったエィハが、それを当然として受け入れてしまっていることが悲しかった。
　スザクの世界にも戦争はあり、孤児もいるが、割り切れるものではない。

「よーし分かった。オメーら二人、今日からオレが面倒見てやるぜ！！」

　スザクを考え事から引きずり戻すほどの大声で、飛虎はそう宣言した。
　何が分かったのかは分からないが、飛虎は深く頷いている。

『それってどういう……？』
「オレを親父だと思って頼っていい、ってこった！」

　父親、と、スザクはマイクに入らない小さな声で呟く。
　突然の申し出でも、嫌味や不快感を全く感じさせないのは飛虎の人柄故か。
　胸を張る姿には威厳と包容感が見えて、まさに「理想の父親」と言える男なのかも知れない。
　だがスザクの答えは歯切れの悪いものだった。

『いえ、僕には……その資格は』
「家族に資格も何もあるか！
　なっ、嬢ちゃんもそう思うだろ」

　「そうね」とか、「そうかしら」とか。
　これまで通りの、無味乾燥な返事があるものと思っていた。
　だがエィハの反応は、スザクが初めて見るものだった。

「……ごめんなさい。分からないわ。
　私は家族を知らないから」

　慎重に言葉を選んでいる様子で、エィハは言う。
　大抵の物事に無関心に見えていたエィハの、珍しい姿だった。

「私には友達しかいないと思っていたわ。
　だけど……家族も、新たに得られるものなのかしら」
「あったりめえよ！
　嬢ちゃんだってもう少し大きくなったら、好きな男と結婚すんだろ？
　そうすりゃそのうちガキもできるし、家族ってのは増えてくもんなんだよ」
「そう……だったわね」

　エィハは思案しているようだった。
　彼女の乏しい表情からは、何を考えているかまでは分からない。

「後でうちの次男坊も紹介してやりてえが。
　ま、今はここを何とか出ねーことにはな！」

　黙り込んだエィハの様子を見てか、飛虎は話を切り上げた。
　スザクとしても反応に窮していたので、失礼とは思いながらも安堵する。
　自分がかつて壊したものを、奪ってしまったものを、嫌でも思い出してしまうから。

『……あっ』
「どうした、スザク」
『知り合いが、近くにいるみたいです』

　九段下まで間もなくという地点で、ランスロットの敵味方識別装置に反応がある。
　友軍機、即ちジェレミアの機体である。
　ランスロットよりも早く現地に到着していると思っていたのだが、どうやらその地点で停止しているらしい。
　スザクは九段下に向けていた進路を僅かに逸らした。

『すみません、行き先を変更します！』
「おうよ、嬢ちゃんとヴァルも頼むぜ！」
「分かった」

　ルルーシュの安否がかかっている時に、ジェレミアが足を止めている。
　悪いことが起きていなければいいがと、スザクはランスロットの速度を上げた。

▽

　オレンジ色のその巨体は、嫌でも人目を引いた。
　鮮やかなカラーリングに加え、十メートル四方の立方体にも収まるかどうかという圧倒的な大きさ。
　KMF――ランスロットが人型であるのに対し、KGFという「要塞型」として設計されたこのサザーランド・ジークは隠密には不向きだった。
　そんなサイズのものが自動車以上の速度で空を移動するのだから、無理からぬことである。
　だがジェレミア・ゴットバルトには外敵に見つかるというリスクを負ってでも、急がねばならない理由があった。

「ルルーシュ様……」

　主君であるルルーシュが消息を絶って以降、何度か携帯に掛け直してみてはいるものの、未だ繋がらない。
　焦燥に駆られながら、ジェレミアは九段下へと急ぐ。

　その行く手を阻むように、その女は現れた。

　サザーランド・ジークの前方、数十メートル先に突如現れた「それ」を前に、ジェレミアは急遽減速した。
　女といっても姿形がそうであるだけで、全く異質なものであることは考えるまでもなかった。
　空中に足場でもあるかのように、真っ直ぐに立つ女。
　その着ている服も、髪も、肌すらも、全てが深い青色だった。
　そしてその美貌と視線は、この世のものとは思えない。

　女は何を言うでもなく、ある一点を指差した。
　下方、サザーランド・ジークが通り過ぎた地点である。
　ジェレミアが機体の向きはそのままに、モニターを切り替えて集音マイクで音を拾う。
　三人の人影が映り、機体の中には場違いといってもいい少女の声が飛び込んできた。

「お願いしまーす！
　話を、させてくださーい！！」

　必死に呼びかけてくる少女と、急ぐべき理由。
　ジェレミアはここで、選択を迫られた。

▽　

　初めに「休みたい」という紂王の泣き言を聞き入れたユウナは、とある建物を丸ごと一つ氷付けにした。
　見上げれば首が痛くなるほどの、浅葱が住む日本では考えられないほどの堅牢な建物が、一瞬でである。
　召喚獣は一度に一体ずつしか呼べないそうだが、その分一体ごとの能力は凄まじいもので、浅葱はしばらく声も出せなかった。
　氷の塊となった建物に侵入できる者はおらず、死者の群れが溢れ返った地上を尻目に、三人は屋上で一呼吸ついたのだった。
　三人の頭上を影が通り過ぎたのは、それから間もなくのことである。

　ユウナはそれを見上げて「飛空艇」と呼んだ。
　操縦している人がいるに違いないと、ユウナはシヴァを召喚してこれを呼び止めた。
　浅葱が空飛ぶ巨大な鉄塊というものを目の当たりにし、呆気に取られている間の出来事だった。
　そうでなければユウナを制止していたに違いない。
　ただでさえ紂王という信用ならない荷物を抱えている時に、敵が増えたらどうするつもりなのかと。
　ユウナが呼び止めてしまった後も、鉄塊にはそのまま無視して通り過ぎて欲しいという思いでいっぱいだった。
　だがそれもあっさりと打ち砕かれて、その巨体は緩やかに高度を落としたのだった。

「来て下さって、ありがとうございます。召喚士のユウナです」

　丁寧に頭を下げるユウナの姿に、浅葱は軽い目眩を覚える。
　浅葱の懸念には気付いてすらいないらしい。

「誰か……乗っているんですよね？」
『いかにも。
　礼儀として名乗っておこう。
　私はジェレミア・ゴットバルト。
　さる高貴な方にお仕えしている』

　低い、男の声が鉄塊のどこからか聞こえる。
　周囲の建物にぶつからないギリギリの高さまで下りてきてはいたが、その鉄塊から人が出て来る気配はなかった。

『手短に済ませて頂こう。私は急ぐ身だ』
「人捜しでもしてるわけ？」
『……』

　上からの物言いが癇に障り、浅葱は間髪入れずに嫌味を言う。
　この状況で急ぐことといえば、おおよそ絞られる。
　浅葱はその一つを口にしたに過ぎない。
　反応からして正解だったらしいが、ユウナからは窘めるような視線を投げられた。

「私たちは、二十人全員でここを出る方法を探しています。
　そのために協力して欲しいんです。
　あなたが人を捜しているなら、そのお手伝いもできると思います」
『それが見返りというわけか』
「はい」

　しばしの沈黙が流れる。
　そしてジェレミアと名乗った男が切り出した。

『その方法が見つからなかった場合、君はどうするつもりだ？』
「それは……」
『そして、私には君たちを信用するに足る理由がない。
　信用ならない者に、協力などさせられん』

　ユウナが答えに窮する。
　言わんこっちゃないと、浅葱はやむなく口を挟んだ。

「本気で言ってるのかい、それ。
　少なくとも、あんたは急いでいたのにここにやってきた。
　協力者が欲しいのはそっちだったんじゃない？」

　わざわざ呼び掛けに応じた以上、理由があるはずだ。
　こうして話していても、ジェレミアが人助けをしようとしているお人好しとは思えない。
　何らかの打算あっての行動だろうと、浅葱は読んでいた。

『誤解があるようだな』
「へえ？」
『私は君たちを見定めに来た』

　肌に冷気が刺さる感覚がある。
　鉄塊に取り付けられた巨大な銛状の武器が、今にもこちらを狙ってくるのではないかと、浅葱の額に汗が浮く。
　相手の顔は見えなくても、殺気に近いものは伝わってくる。

「僕らじゃ不合格ってこと？」
『それは――』

　まだ本気で殺す気ではないはずだと、浅葱は交渉の余地を探す。
　だがそこで唐突に、ジェレミアが黙り込んだ。

　白い鎧が現れたのは、それから間もなくのことだった。
　その鉄塊の主は枢木と呼ばれ、ジェレミアとの再会を喜んでいた。
　そのお陰で剣呑な空気は霧散し、浅葱は止めていた息を深く吐き出す。
　だがこの二人の合流は、もう一つの予期せぬ再会を生んだ。

「武成王……？」

　それまで黙って様子を窺っていた紂王が、口を開いたのだった。

▽

　それは、間が良かったと言えるのかも知れない。
　痩身の、人の良さそうな三人組。
　この場で始末しておくべきかと、ジェレミアが思案していた矢先の出来事だった。
　口減らしの機会を逸したとも思えたが、ルルーシュの安否が掴めない以上、事を急ぐべきでもない。
　結果としてこれで良かったのだろうと納得することにした。

　黄飛虎と紂王が知り合いだったということで、二人はしきりに話し込んでいた。
　その間にジェレミアもランスロットとのチャンネルを開き、二人だけで会話をする。

「随分、大所帯になったようだな」
『……それなんですが。
　彼らを残して、僕らだけでルルーシュを捜しに行きませんか？』
「……ほう。君がそんな提案をするとはな」

　彼らだけで残した場合――もしその中に一人でも不穏な動きをする者がいれば、集団は瓦解する。
　それを防ぐためにここに残ると、スザクならそう言い出すと思っていた。

『僕に考えがあるんです』

　ジェレミアとしては、一刻も早く出発できればそれでいい。
　彼らを半ば見捨てるようで多少の良心の呵責はあるが、ルルーシュの安全には代えられないのだ。

　氷漬けになったビルの屋上に残るのは、五人。
　スザクは彼らを残していくことを説明すると、彼らの方もあっさりそれを承諾した。
　「すぐには戻れないかも知れない」と、それだけ言い残して、ランスロットとサザーランド・ジークはその場を離れていった

▽

「召喚士、というのね。凄いわ」
「えへへ……」

　エィハはユウナの隣りで、熱心に話を聞いていた。
　その会話を聞いていた者には、この二人が姉妹のようにも見えただろう。
　エィハの視線の意味に気付いている者は、まだいない。

――〈竜殺し〉。

　〈喰らい姫〉から受け取った、〈竜殺し〉を判別する能力。
　エィハの目が、スザクのランスロットに続く次の〈竜殺し〉を見つけたのだ。
　だからエィハはずっと観察していた。
　ユウナの召喚獣が氷漬けにしたという建物を見て、そしてユウナ本人を見る。
　その細い首筋を、腕を、見極める。
　自分とヴァルの力で、殺せるかどうかを。

　召喚獣を出していない今なら殺せるのではないか。
　もし殺すなら、その後に残った面々はどうするか。
　エィハは必死に考えながら、ユウナの話を聞いていた。
　横で面白くなさそうに不満顔を見せている浅葱のことも、全く気にならなかった。

　そうしてユウナのことばかり見ていたからだろう。
　それ以外の者たちが何を話しているのか、エィハはまるで聞いていなかった。
　故に、その事態に気付くのが一歩遅れたのだ。

▽

「紂王陛下！」
「おお、本当におまえだったか……！」

　飛虎は紂王の姿を前にして、素直に喜んでいた。
　かつて紂王が原因となって妻が、そして妹が死んでいる。
　飛虎自身は殷を裏切って他国の将となってしまった。
　しかしかといって、かつて仕えた王の不幸を願えるはずもない。
　紂王の無事を確認して、飛虎は心底安堵したのだった。

「して、武成王。今までどこに？」
「品川、とかいう地名だったかと。
　エィハとヴァルのお陰で――」
「いや、そうではない。
　予が政をしている間、おまえはどこに行っていたのだ？」

　「武成王」、という呼び名に違和感を覚える。
　飛虎は殷の鎮国武成王から、周の開国武成王となった。
　紂王から「武成王」と呼ばれることは、もうないと思っていたのだ。
　そして何より、話が噛み合わない。

「それは……西岐に」
「西岐だと？　何故今の時期にそのような」

　まるで、本当に何も知らないかのようだった。
　次第に紂王の顔に不安の色が広がり、視線を彷徨わせ始める。

『――なので飛虎さん、ここをお願いします！』
「あ、……ああ、分かった。
　気をつけてな」

　スザクが何か話していたようだったが、飛虎にはほとんど聞こえていなかった。
　この時点で、スザクをを引き止めておくべきだったのかも知れない。
　だが飛虎にはその決断ができなかった。

「……そう、だ。何故殷に、武成王がいなかった？
　いや……何故予は、武成王の不在をおかしいと思わなかった？
　帳簿の数字が全く合わなかった。
　合わなかったことを、おかしいとも思わなかった。
　何かが足りなかったはずなのに。
　そういうものだと思ってしまったのは何故か？
　民の様子が妙だと思ったはずではなかったか？
　そうだ聞仲は？
　聞仲はどこだ？
　聞仲に聞けば分かるはずだ。
　聞仲を捜さなくては
　聞仲。
　聞仲！！
　聞仲はどこに！！！」

　独り言を続ける紂王の視界に、すでに飛虎の姿はなくなっていた。
　肌がざわつく感覚に、飛虎は紂王の両肩に掴みかかるようにして前を向かせる。

「しっかりして下さい、陛下！
　オレはあの時――――」

　飛虎の手首に強い力が掛かった。
　紂王に掴まれたのだ。


「そうだった。
　おまえは予と殷を裏切ったのだったな、武成王」


　違う。これは紂王陛下ではない。
　彼の濁った目を見て、飛虎は確信する。
　そしてそのまま、細身の王によって投げ飛ばされた。

▽

「ヴァル！！」

　飛虎のただごとではない声で、エィハはようやく視線をそちらに向かわせていた。
　そしてエィハの倍ほどもある背丈の男が吹き飛ばされたのを見て、咄嗟にヴァルに指示したのだ。
　ヴァルが体を浮かせ、飛虎の体を受け止める。

「あ、ありがとよ……だが……！！」

　エィハの視線の先で、紂王が縮んでいた。
　エィハとそう変わらない、少年のような姿をしている。
　会った時は間違いなく、スザクと同じかそれ以上の上背があったはずだ。
　飛虎を屋上に下ろすと、エィハとヴァルが臨戦態勢を取る。

「予は寛大である。
　それ故に武成王よ、機会を与えよう。
　殷に戻り、これまでのように予に仕えよ。
　おまえの家族も悪いようにはすまい」

　エィハは初めて、生まれながらの「王」の声を聞いた。
　王になるべくして生まれ、なるべくしてなった王。
　忌ブキとはまた違うその威厳を前にして、阻んではならないように思えて、口を閉ざしてしまった。

「……陛下、オレぁ……戻れません。
　オレは周の開国武成王だ！
　それに、賈氏と黄氏のことを忘れたとは言わせねぇ！！
「そうであろうな。
　故に……予は、悲しい」

　紂王が涙を浮かべる。
　事情を知らないエィハには、飛虎の方こそ間違っているのではないかと思えてしまう。
　そしてその感情は、打ち破られた。


「おまえを殺さねばならないとは、予は、悲しいッッ ッ ッ！ ！ ！」


　声の波が周囲に叩き付けられる。
　それだけで氷漬けになっていた建物が崩れ出す。
　エィハはヴァルに飛虎の襟首を咥えさせて飛び上がり、僅かに残った足場でユウナが叫んだ。

「召喚します……！」

　そこでエィハの脳裏に、一つの考えが首をもたげた。
　今なら。
　スザクがしばらく戻らないと言っていた今なら。
　全員の注意が逸れている今なら。
　ユウナが召喚しようとしている今なら。
　あの細い首が無防備に見える今この瞬間なら。

　〈竜殺し〉を討ち取れるのではないか……？

　ユウナの杖から火の玉が滴るように落ちる。
　建物の足場に魔法陣が広がり、魔素の流れが変わる。

　今――

　ヴァルが口を開け、飛虎を離す。
　地上まで落下していく彼を気にも留めず、ヴァルが加速する。
　だが一層激しくなった音の波が、エィハとヴァルに襲いかかった。

「っく……！！」

　呼吸を乱される。
　召喚の方が速い。
　炎を宿した召喚獣がユウナと浅葱を守り、加速していたエィハとヴァルはバランスを崩した。


『エィハ――――――――！！！！』


　紂王とは別の声が、音の波を突き破った。
　一本の光の筋に見えるほどの速度で、彼は戻ってきたのだ。
　地上に落ちかけていた飛虎を拾い、建物の壁面に打ち込んだ銛を巻き取って機体を屋上まで引き上げ、エィハとヴァルを手の中に収めた。
　回収した者たちを守りながら、白い騎士は地上へ着地する。
　そして還り人の群れを踏み散らしながら、屋上を睨むように顔を上げた。

「スザク、オメーどうしてここに……」
『飛虎さん、話は後です！
　エィハも手伝ってくれ！』

　あの紂王の存在以上に。
　助けられたこと以上に。
　〈竜殺し〉を仕損じた事実が、エィハの脳裏で渦巻いていた。
　だがそんなエィハに耳打ちするように、スザクの呟きが届いた。

『君もだ、エィハ。後で話そう』

　その口調は優しく、そして声は厳しかった。
　スザクには既に気付かれているのかも知れない。
　もしそうなら――

▽

「僕は、戻ります」

　それがジェレミアへの提案だった。
　一度二人で抜けた後、スザクだけが戻る。
　その回りくどい方法は、エィハの様子を見るためだった。
　エィハを信じたいと思いながらどこかで、彼女が何かをしようとしているように思えたからだ。
　そのことをジェレミアにも説明し、納得してもらえた。

『了解した。ルルーシュ様の捜索は私一人で行う。
　だが枢木、その少女についてだが』
「何か？」
『危険だと判断した時は、確実に始末したまえ』
「……ええ」

　スザクも最近になって知ったことだが、普段のジェレミアは人好きのする人物である。
　主君への忠誠心は言うまでもなく、部下や身内へはお節介なまでに世話を焼く、人間味に溢れた男だった。
　だが仕事として割り切って「必要」と断じた時、彼は冷淡なまでに最善手を打つ。
　特にそれがルルーシュの身に関わるとなると、彼には一切の迷いがない。

『万一討ち漏らした時、彼女がルルーシュ様に危害を加えないとは限らない。
　もしも君にできないなら、私が代わろう』
「いえ、大丈夫です」

　それはジェレミアなりの気遣いだったのかも知れないが、スザクは断った。
　今さら、綺麗事が通るとは思っていない。


「もしもエィハが彼らを殺すなら。
　その時は、僕がエィハを殺します」





【一日目昼/九段下付近】

【ジェレミア・ゴットバルト＠コードギアス】
[所持品]サザーランド・ジーク、携帯電話、手甲剣
[状態]健康
[その他]
・〈竜殺し〉ではない。
・四道から情報を得る。
・ユウナから情報を得る。


【枢木スザク＠コードギアス】
[所持品]ランスロット・アルビオン
[状態]健康
[その他]
・ランスロットは〈竜殺し〉


【黄飛虎＠封神演義】
[所持品]棍
[状態]健康
[その他]
・〈竜殺し〉ではない


【エィハ＠レッドドラゴン】
[所持品]短剣
[状態]健康（還り人）
[その他]
・ 特記事項なし


【浅葱＠BASARA】
[所持品]剣
[状態]健康
[その他]
・〈竜殺し〉ではない


【ユウナ＠FFX】
[所持品]ニルヴァーナ
[状態]健康、イフリート召喚中
[その他]
・特記事項なし


【紂王＠封神演義】
[所持品]
[状態]健康、服の袖が破れている、少年の姿
[その他]
・記憶障害


Back:[[光芒]] Next:[[スアロー・クラツヴァーリの場合]]

|002:[[汝は竜殺しなりや？]]|エィハ|－|
|~|枢木スザク|~|
|~|黄飛虎|~|
|008:[[持つ者と持たざる者]]|浅葱|~|
|~|ユウナ|~|
|~|紂王|~|
|004:[[国の真優ろば]]|ジェレミア・ゴットバルト|~|


----    </description>
    <dc:date>2017-07-15T22:59:44+09:00</dc:date>
    <utime>1500127184</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/basararowa/pages/16.html">
    <title>朱理は紅蓮の野に立つ</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/basararowa/pages/16.html</link>
    <description>
      **朱理は紅蓮の野に立つ　 ◆Wv2FAxNIf.


　渋谷駅に近く、昼過ぎということもあって多くの客で賑わう喫茶店。
　そのテーブル席に一組の男女が座っていた。

　女性が着用しているのは、KMFを操縦するための赤いパイロットスーツだ。
　ゴムのように伸び縮みする生地でできたそれは、彼女のメリハリのあるボディラインにぴったりと張り付いていた。
　整った顔立ちで、スーツよりも少し淡い赤色の髪を肩まで伸ばしている。
　そんな人目を引き付けてやまない外見の彼女が、がさつと言ってもいい食べ方でカレーを口に掻き込む。
　そのため店内でその一角だけが浮いてしまっていた。
　しかし彼女を注視しているのは、対面に座る男性だけだ。

「……ちょっと。何、じろじろ見てるのよ」

　同じくカレーを食べていた男に、赤い髪の女――紅月カレンは目を細め、唇を尖らせる。
　短く切った黒髪で、年齢はカレンと同じぐらいだという青年。
　皮鎧の上に赤いマントを羽織った彼は、カレンの苛立ちにまるで動じていない。
　どころか胸を張り、堂々と言い放った。

「感心していた。
　やはり、よく食う女は発育がいいんだな」
「ちょっと！！
　それ、セクハラなんじゃないの！？」

　カレンが勢いよくテーブルを叩く。
　派手な音が鳴ったが、やはり他の客は誰も振り向こうとしない。
　それから少し恥ずかしくなって、カレンは叩きつけた手をテーブルの下へ隠した。

「今日初めて会った相手に、よくそんなことが言えるわよね。
　こっちこそ感心するわよ」

　カレンの皮肉もどこ吹く風と、男はカレーを食べ続けている。
　朱理と名乗ったこの男に振り回され続けるカレンは、今日だけで何度目かになる大きな溜め息をついた。

▽

　博物館で目を覚ましたカレンは、まず身の回りの確認をした。
　パイロットスーツを着込んでおり、財布、携帯、ポーチ、それに大切な『鍵』と、一通りの持ち物が揃っている。
　全てブリタニアの捕虜になった際に没収されたものだ。

　カレンは黒の騎士団のエースパイロットとして、ブリタニアから日本を取り返すべく戦っていた。
　しかし戦争に敗北し、皇帝への反逆者として処刑を待つばかりの身となった。
　そのはずが〈竜〉や〈喰らい姫〉と会うことになり、儀式に放り込まれ、状況に全く追いつけていない。
　そしてそれらと同じぐらいに不可解なものが目の前に鎮座しているため、カレンの困惑は深まるばかりだった。

「……何で？」

　地域の風景写真、人口推移のグラフ、そうした地域特有の資料が並ぶ中で唐突に展示された――紅蓮聖天八極式。
　ダモクレス戦役でランスロットと相討ち、ほぼ大破した状態にあったKMFだ。
　誰が修理したのかと、カレンは人目を気にしながら機体に手を伸ばした。

　だが触れる直前、建物の外から男の怒鳴り声が響いた。
　驚いて咄嗟に紅蓮から離れるが、屋内からでは様子は窺えそうにない。
　やむをえず、カレンは紅蓮を置いて外へ向かった。

　博物館の入り口に駆けつけると、建物の正面で男が通行人の胸に掴みかかっていた。
　淡い光を纏って見える、鎧姿の奇妙な男だ。
　カレンはすぐに止めに入ろうとしたが、足を止める。

　男に怒鳴られようと、体を揺すられようと、その通行人は無反応だった。
　他の通行人も同様に無表情で、二人の横を通過していく。
　見て見ぬふりをしているというより、初めから見えていないような動き。
　興奮した様子の鎧姿の男ではなく、その周囲の方が異常なのだ。
　そうして出鼻を挫かれて立ち止まっていたカレンは、その男と目が合ってしまった。

「そこの変な格好の女！」
「っだ、誰が変な格好よ！！」
「よし、お前は話せるな」

　しまった、とカレンは舌打ちする。
　周りが見えなくなっているように見せて、この男は冷静だ。
　そして男はあるものを指さした。

「これは何だ！？」
「何だ、って…………車じゃない」

　何を言っているのかと、カレンは心底呆れた声を出してしまった。
　しかし彼はその言葉を復唱して、停車したワゴン車の外装を興味深そうになぞっている。

「話には聞いたことがある。乗り物だな。
　馬は要らないのか？
　それともまさか、地上の乗り物に蒸気を使っているのか？」
「要るわけないでしょ、馬も蒸気も。
　全部サクラダイトよ」

　ふざけているのかと声を荒らげそうになってから、思い出す。
　〈喰らい姫〉に見せられた五つの世界。
　カレンが知らない日本に、ニル・カムイに、殷に、スピラ。
　数秒の映像ではあったが、それぞれが全く異なる文化を持っていることは理解できた。
　それからカレンは改めて、まじまじと車を観察している男に意識を向ける。

「もしかして、ホントに知らないの？」
「知らん。だがお前は詳しいらしいな。
　ちょうどいい、案内しろ」

　彼は己の無知すら恥ずかしげもなく言ってのけた。
　この男は元より人の上に立つために生まれた人間なのかも知れないと、そう思わせるほどの態度だ。
　それはカレンにとっては思い出したくない相手を思い出させるもので、胸に苦い味が広がる。
　しかし彼にはカレンの胸中など関係なく、互いに名乗り合った後で爽やかに笑ってみせたのだった。

「紅月に、カレンか。良い名だな」

　傍若無人で、しかしどうしてか不快感は薄い。
　それが朱理との出会いだった。

▽

　その後もカレンは朱理のペースに乗せられ続けた。
　車、バイク、モノレール、携帯、テレビ。
　乗り物や新しいものが好きだという朱理にとって、この渋谷は理想の環境だったようだ。
　目を輝かせ、走り回り、あれは何だこれは何だとカレンを質問攻めにしては好奇心を満たす。
　カレンは観光などしている場合ではないと思いつつも、他にやるべきことも浮かばず、結局辛抱強く付き合っている。

「そんなに隙だらけでいいのかしら。
　私が後ろにいるのに」
「お前がその気なら、そんなことを聞く前に刺しているはずだ。
　少なくとも今は乗り気には見えんが、違うか？」

　街中で子どものようにはしゃいでいる朱理だが、時折こうして真剣な表情を見せる。
　ただ好きなものを見て楽しんでいるだけではなく、間の抜けた姿すら計算ずくであるように振る舞うのだ。
　少なくともただの馬鹿ではないらしいと、カレンは彼を評価していた。

　とはいえ、説明続きでうんざりしていたのは確かだった。
　最終的に朱理は「腹が減った」、「食うなら美味いものがいい」とごね始め、カレンもそこで我慢の限界に達した。
　くだらない口論の末に適当に選んだ店に入り、無難にカレーを注文し、現在に至る。
　腹を満たしたことで多少、お互いに気分が落ち着いていた。

「しかし、俺が女に奢られるとはな」
「私だって好きで奢ってるわけじゃないわよ。
　でもここのお金がないなら仕方ないじゃない」
「そうは言うがな。前だって――」

　はたと、何かに気づいたように、朱理は言いかけた言葉を飲み込んだ。
　そしてそのまま黙り込んでしまう。

「ちょっと、最後まで言いなさいよ」
「……いや。
　俺も整理できていなかった。
　悪いが忘れてくれ」

　口数の多い無遠慮な男がカレンの前で見せる、初めての姿だった。
　それまでの威勢の良さが嘘のように消え、神妙な面もちで考え込んでいる。

「案外俺は、未練がましいのかも知れん」

　朱理がそう小さく付け加えたことで、カレンは女性の話だろうと察した。
　朱里のことを何も知らないのだから、見当違いな推測かも知れない。
　しかし今のカレンにはそう思えたのだ。

「未練っていったら、これもきっとそうなのよね……」

　カレンは朱理に届かないような声量で呟き、携帯電話を指で摘み上げる。
　十数分前にあった着信に何の返事もしていない。
　電話してきたのは、ルルーシュだった。

　彼に駒だと言われた時、裏切られたと思った。
　それでも直後に「君は生きろ」と言われて、彼の真意が分からなくなった。
　だからもしもアッシュフォード学園で彼が「ついてこい」と言ってくれていたら。
　駒ではなく紅月カレンを必要としてくれていたら。
　きっとそれが、何よりも大切だと思っていた日本を裏切る道だったとしても、ついていったのだろう。

　けれどそうはならなかったから、この話は終わりだ。
　彼に別れを告げて。
　殺そうとして失敗して、戦争にも負けた。

　もう終わったのだ。
　嫌なら着信拒否にすればいい。
　意地を張っている場合ではないと思うなら、素直に電話に出ればいい。
　そのどちらもせずに、ただ履歴の名前を眺めている。
　きっとこれこそ、未練だ。

「連絡が取れる相手はいないのか？」
「……いないわよ」

　朱理の問いに嘘をついて、携帯をテーブルに置いた。
　外部とは繋がらず、他に番号を知る相手もいないとなれば、もう使い道がない。
　代わりに地図を広げ、朱理におおまかな説明を行う。

「今いるのがここ、渋谷。
　環状線を挟んで内側が租界、外側がゲットー」
「環状線は、確かモノレールの名前だったな。
　租界やらゲットーやらというのは？」
「租界は、ブリタニアに媚びを売って栄えた盗人の街。
　ゲットーは、ブリタニアに散々傷つけられた私たちの街よ」

　説明しながら、カレンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
　いつだって、環状線の内と外の間にある格差を憎んでいた。
　ブリタニア人が我が物顔で伸し歩く租界を見ても、廃墟が広がるゲットーを見ても、ブリタニアへの憎悪が膨らんだ。
　しかしこの地では、少々事情が違うようなのだ。

「さっき見た限りでは、そんな大層な差があるようには見えなかったが」
「そうなのよ。
　ここが日本だったら――私の日本だったら、そんなのありえない。
　それに租界だって、今は人が暮らせる状態じゃないから……やっぱりおかしい」

　数ヶ月前に使用されたフレイヤ弾頭により、租界は壊滅して巨大なクレーターになった。
　渋谷の一部もその範囲に入っているはずで、街として正常に機能しているはずがない。

「それならここは、俺の知る日本でもお前の知る日本でもない、三つ目の日本か？」
「そう……なのかも知れないけど。
　それにしてもやっぱり変というか……」

　カレンが曖昧に言葉を濁す。
　気になるのは、二点。
　一点はこの街がサクラダイトに支えられていること。
　カレンにとっての日本と朱理にとっての日本の姿がかけ離れていたのに対し、ここはカレンにとっての日本に近すぎる。
　ブリタニア人を全く見かけないことを除けば、生活様式にも大きな違いが見られない。
　そしてもう一点は、この街に住む人々の様子だ。
　彼らの姿に、カレンは既視感を覚えたのだ。

「リフレインっていう薬があるのよ。
　自分にとって一番よかった頃を思い出させる、最低な薬。
　日本って名前にこだわったり、皆して妙に幸せそうな顔をしてたり……。
　この街の人たちを見てると、薬の中毒患者そっくりでムカつくわ」
「夢を見ているような状態になるわけか」
「そうね……多分、そんな感じ」

　朱理の言葉で、〈喰らい姫〉も「夢」と口にしていたことを思い出す。
　しかし街や人が「夢」だと言われても意味が分からなかった。
　朱理はまだ街について考えているようだったが、カレンは早々に諦めることにした。
　ここで考えていても進展があるとは思えない。
　ルルーシュならば何か気づいているかも知れないと、そう考えてから、すぐに頭を振ってその思考を追い払った。
　ちょうど食事も終わったところで気を取り直し、本題に入ることにする。

「それで、これからどうするつもりなの？」
「まずは人を捜す。
　知り合いもそうだが、協力者が欲しい。
　そういうお前こそどうなんだ」

　朱理の答えは明瞭だった。
　何も考えていないように見えるだけで、この男は考えるべきことは考えている。
　緊張感は薄いが、この状況でも平常心を保てるのはむしろ強みといえる。

「私の敵はブリタニアよ。
　関係ない人たちと殺し合えって言われても従えない。
　……本当に五人しか帰れないようなら、困るけど。
　〈竜〉の力っていうのも気になるし……」
「殺し合いに関しては、何とかなるかも知れん」
「どういうこと？」

　カレンが思わず聞き返す。
　朱理のことは評価していても、そこまで考えがあるとは思っていなかったのだ。

「お前も〈竜〉には会ったんだろう？
　何を言われた」
「何って……〈契りの城〉に行けるのは五人だけって」
「そこじゃない。
　俺は『器を示せ』と言われたぞ」

　改めて〈竜〉の言葉を思い出せば、確かにそうだった。
　そしてカレンは朱理が言わんとしていることを理解する。

「殺し合え、って言ったのは〈喰らい姫〉だけ？」
「そうだ。
　俺は〈喰らい姫〉の言うことを鵜呑みにする気はない。
　別の道があるかも知れんということだ」

　単に〈赤の竜〉が明言しなかっただけなのかも知れないが、と朱里は付け加える。
　だが争う以外の方法の可能性が見えたことは大きかった。

　よく考えている。
　よく観察している。
　態度に反して、朱理は思慮深い。
　対する自分はどうだろうかと、カレンは自省する。
　朱理よりも多くの情報を持ちながら、名簿に載った彼らに――着信履歴にある彼の名前に、気を取られている。
　反省している今ですら、〈竜〉や帰る方法よりも、彼らとの決着の方が気になってしまうのだ。
　朱理に遅れを取るのも当然だった。
　そうしてカレンが黙っている間にも朱理は話を続け、不満を口にする。

「だいたい、俺はあの女が気に入らん。
　次の時代の担い手を決めると言いながら、その選定方法が殺し合いだと？
　そんなもんはこっちから願い下げだ」

　強者が弱者を殺して、それで手に入れた力を振るうのでは、これまでの時代と何が違うのかと。
　静かな憤りをもって、朱理はそれを語る。
　正しい、正当な怒りだ。
　だが彼の正論はカレンにとって、快いものではなかった。

「じゃあさっさとここを出るわよ。
　じっとしてても仕方ないんだから」
「……おい、何を怒ってるんだ」
「別にあんたに不満があるわけじゃないわ。
　あんたの言ってることが、私の嫌いなやつに似てただけ」

　裏切りの騎士と呼ばれた日本人がいる。
　名簿にも記載されたその人物と、カレンは最後まで手を取り合えなかった。
　彼も日本を想って行動しているのだと信じていたが、結局権力を求めていただけだったのだ。
　次に会ったらKMFではなく素手で殴ってやりたいと、そんなことを考えながらカレンは席を立った。

　朱理が後ろから文句を言ってきているが、構わずに会計を済ませる。
　そうして店を出ようとしたところで、地面が鳴動した。

▽

　店の外に出て、朱理は噴煙を見た。
　方角はカレンの説明によれば、租界の中心に近い。

「ここにいる連中が自発的に何かするとは思えんな。
　殺し合いのために用意された『夢』とやらなら、事故や偶然もないだろう」
「誰かが派手にやってる、ってことかしら」
「そうなるな」

　噴煙の数は増えていく。
　街が破壊されていく。
　朱理は噴煙の方角へ向かおうとして、カレンに腕を掴まれた。

「ちょっと、どうするつもり？」
「参加者の誰かがいるはずだ、会って止める」

　まともな策はまだ浮かんでいない。
　持っている武器は剣一本、土地勘はほとんどなく、地元の住人を味方につけられるとも思えない。
　普段の口八丁で切り抜けられる状況ではなさそうだが、それでも逃げるという選択肢はなかった。

「見ろ、周りにいる連中を。
　こんな状況でも誰も見向きもしない。
　このまま続けばこの連中も巻き込まれる」

　何の縁もない、話もまともに通じない、本当に生きた人間といえるのかも怪しい人々だ。
　だからといって、彼らをむざむざと殺させていい理由にはならない。
　その考えはカレンも同様だったらしい。

「私だって黙ってるつもりはないわよ。
　でもあんたには武器がないんでしょう？
　だから」

　言って、カレンは胸元から『鍵』を取り出す。
　赤と白、炎と翼を組み合わせたような意匠のそれを、彼女は握り締めた。


「見せてあげる。
　あたしの紅蓮を」


　紅蓮聖天八極式。
　女性パイロットが乗る機体とは思えないほどいかめしいフォルムで、特に鋭い鉤爪を持つ右腕は悪魔じみた形状だ。
　そのスペックは現代のKMFの中でも最強と呼んで差し支えなく、ランスロット・アルビオンすら凌ぐ。
　何故か博物館に展示されていたその機体に、カレンは乗り込んだ。

　日本式の紅蓮のコックピットは、背もたれ付きの座席に座るブリタニア式のコックピットとは趣が異なる。
　居住性が重視されたブリタニア式に対し運動性が求められた結果、座席にバイクのように跨って操縦する方式が取られたのだ。
　カレンは席に着くと姿勢を前に倒し、操縦桿を握る。
　非常時とはいえ、久しぶりの感覚に気持ちが高揚するのを感じた。
　起動キーを刺して機体のチェックを行うが、オールグリーン。
　期待のコンディションもエナジーも問題なく、いつでも動かせる状態だ。

　発艦の前に、気分を落ち着けるべく一つ息を大きく吸い込む。
　そして一人の男が、それを台無しにした。

「おい、狭いぞ」
「仕方ないでしょ、一人乗りなんだから！」

　紅蓮の全高は平均的なKMFと大きくは変わらず、約五メートルである。
　コックピットのスペースは限られており、朱理はカレンの座席の後ろで中腰を余儀なくされていた。

「変なところ、触らないでよね」
「ボタンの話か？　いや体の方か」
「両方よ、バカ！！」

　締まらない空気のまま、紅蓮は発進する。
　エナジーウィングで機体全体を覆い、防御姿勢を維持したまま外界とを隔てるガラスを打ち破った。

▽

　紅蓮が空を舞う。
　エナジーウィングによって鋭角の運動と高速機動を可能にしたこの機体は、ものの数分で目標地点へ到着した。
　渋谷から租界の中心に向かう、その途中に位置する場所。
　一度空中で停止し、地上の様子をモニターで拡大する。
　そこに映し出された光景は、カレンの想像を絶するものだった。

　人が人を襲っている。
　襲っている者たちは――死体。
　信じたくはないが、手足の欠損や胸部の損傷の具合から、既に死んでいるとしか思えないのだ。
　動く死体が群れを成して、人を襲っている。
　高高度から街全体を見渡せば、群れが租界の中心の方角から放射状に広がっていくのが見て取れた。
　このまま拡大すればいずれは環状線を越え、ゲットーを、そしてトウキョウ全域を覆うだろう。

　現実味のない光景にカレンが息を止めたのは、一瞬だけだった。
　すぐに「敵」を認識し、感情を爆発させる。

「やめろぉぉおおおおおおおッ！！！！」

　紅蓮の右腕を発射する。
　右腕は肘から先が着脱可能で、ワイヤーによって肘と繋がっている。
　そして腕自体にブースターが点いているため、射出後も軌道を自在に変えられるのだ。

　鋭い鉤爪が高速で飛び、生者を襲おうとしていた死体を貫く。
　同時に、死体が高熱によって破裂した。
　掌部分に搭載された輻射波動と呼ばれる機構によるものだ。
　高周波を短いサイクルで対象に直接照射することで膨大な熱量を発生させ、爆発・膨張を起こす兵器。
　KMFですら一撃で破壊する威力であり、実際に戦場では夥しい戦果を挙げている。
　これが強力なブースターと組み合わさることで、紅蓮本体がその場から動くことなく、戦場を蹂躙することが可能になった。

　腕が群れの中を縦横無尽に駆け回り、死体たちが原型を留めず破壊される。
　腕が発射されてから紅蓮本体の元へ巻き戻されるまでの数秒のうちに、一つの通りにいた死体たちは全てただの死体に変わった。
　だが潰したのは全体のほんの一部に過ぎない。
　街全体を覆わんとしているそれは、紅蓮の力をもってしても止め切れない。

「早く、早く止めないと……日本人が……！！」
「……カレン、他の武装はあるのか」

　朱理の声を聞き、カレンは我に返った。
　焦りを鎮め、紅蓮の機体に装備された武器を確認する。

「えっ……と……MVSとスラッシュハーケンと……」
「ええい分からん。
　今の以外に、広範囲を纏めて巻き込むような武装はあるかという意味だ」
「……ないわ」
「サクラダイトとやらのことは分からんが、要は燃料だろう。
　これはいつまで動かせるんだ。
　補給の目処は？」
「……そんな何時間ももたないわ。
　補給も……ここでは多分無理」

　エナジーウィングも輻射波動も、莫大なエネルギーを必要とする。
　普段なら黒の騎士団を頼るのだが、この場ではそうもいかない。
　一度エナジーが切れてしまえば、如何に紅蓮が強力でも動かなくなる。

「引け、カレン。
　これ以上は無駄だ」
「……こんな時まで正論？」

　朱理が正しい。
　それは分かっている。
　否、言われなくてももう分かっていたのだ。
　ここまで広がってしまった以上、紅蓮ではどうしようもないと。
　だがそれを認められるぐらいなら、初めから手出ししていない。
　操縦桿を握る手を震わせて、モニターの先の景色を凝視したまま叫ぶ。

「目の前で人が殺されてるのに逃げろって言うの！？
　力があるのに！
　一人で冷静ぶってそんなの――」
「おい。
　俺が好きでこんなことを言ってると思うな」

　そこでカレンは初めて振り返った。
　一段と低くなった朱理の声に、怒らせたのかと思った。
　しかし朱理の顔に浮かぶのは怒りではなく、悔しさだ。
　怒りがあるとすれば、それは自分自身へのものだ。
　唇が白くなるほど噛み締めて、沈痛な面持ちでモニターを見つめている。

「軍がない以上、街を守るには民自身に戦わせる必要がある。
　自分たちでバリケードを作らせて、応戦させて、それで勝てるように俺が指揮を執る。
　だがここの連中にはそれが通用しない……逃げようともしない。
　だから、ここで俺たちにできることはない」

　カレンが正面を向くと、モニターの向こう側では未だ殺戮が続いていた。
　ブリタニアが日本に行った侵略よりもなお一方的な、虐殺だった。

「何も持たないことがこんなにも無力だとはな。
　久しぶりに思い知った」
「……そう。
　私はつい最近、力があってもどうにもならないって思わされたばっかりよ」

　紅蓮はランスロットに勝利した。
　だが戦争に勝ったのはブリタニアで、皇帝による世界征服が成し遂げられてしまった。
　紅蓮が最強のKMFでも、カレンがそれを使いこなせても、世界は変えられない。
　今の状況すら、変えられないのだ。

　カレンが肩を落とす。
　そこで朱理はひとつ提案をしてきた。

「せめて租界の中心に行けば、原因が分かるかも知れん。
　無駄足になる可能性もあるがな」

　今ここで襲われている人々を助ける方法は見つからないが、まだやれることはある。
　カレンも大人しく引き下がるつもりはなかったので、朱理の言葉に大きく頷いた。

「いいわ、付き合うわよ」

　目標を決め、操縦桿を握り直す。
　だが眼下で一点、異変が起きた。

　モニターに映る景色の一角で、淡く光るものがある。
　数百メートル先にあったその光を拡大すると、一人の青年が動く死体に囲まれているのが見て取れた。
　青年の頭部からは突起が生えており、触覚か角かと迷ったが、髪の一部のようにも思える。
　青い髪と着物のような衣服を纏ったその男が、腕を振り上げた。

「え……？」

　その男は何も手にしていなかった。
　しかしその手を振り下ろした時、周囲にいた死体たちが糸の切れた人形のように呆気なく倒れていったのだ。
　もう一度手を振り上げて、下ろす。
　同じように死体が倒れる。
　しかしそれは死体に限った話ではなく、生きた人々の身にも振りかかった。
　生者も死者も問わず、死んでいく。

　反射的に輻射波動腕を掲げ、その男に向かって打ち込もうとして――止まる。
　カレンは紅蓮の内部にいる。
　距離もある。
　だというのに――目が合った。
　モニター越しにも関わらず、その男は確かに視線をカレンの方へと向け、にんまりと口元に笑みをつくったのだ。

　背筋や首に蛇が絡みつくような気持ちの悪さ。
　それでも咄嗟の反応ができたのは、これまでに培ってきた経験と、パイロットとしての天性の才能のお陰だろう。
　紅蓮が急激に高度を上げ、向かってきた炎の塊を回避。
　反撃に、円盤状にした輻射波動をその男へ投げつける。
　そしてカレンはその結果を見ることなく、紅蓮を急発進させてその場から離脱した。

▽

「随分、優秀な機械のようだな」

　赤い機体の姿が瞬く間に小さくなっていくのを、シーモアは手出しせずに見送った。
　遠目ではあったが、機械の大きさは召喚獣と同程度。
　速度も機動も武器の威力も、アルベド族が用いるものとは比べ物にならない。
　あれはスピラの外の技術によるものなのだろうと、シーモアは結論づけた。

　スピラ以外の世界の、兵器。
　〈喰らい姫〉に見せられた通り、スピラの外にも絶望が満ちている証拠だ。
　世界を隔てようと、『シン』が存在しなかろうと、人の本質は変わらない。
　クツクツと、シーモアは声を殺して嗤う。
　人間同士で殺し合う者たちも、あの〈喰らい姫〉すらも、滑稽でならなかった。

　〈喰らい姫〉は言った――救うのか、滅ぼすのか、それとも革命か、と。
　あの少女は全てを知ったような風でいて、まるで理解していないのだ。
　救いとは滅び、滅びとは救い。
　この二つは同一のものなのだと気づいていない。
　ならばシーモアが己の手で、示すしかないだろう。

　全ての世界に滅びを。
　人間が死に絶えれば、生者の世が終われば、死の螺旋もまた終わる。
　悲劇の連鎖は止まり、人々は悲しみから解放される。
　それこそが、シーモアの与える救いなのだ。

　〈竜殺し〉である必要すらなく、〈竜〉さえ殺せば世界を滅びへ向かわせられる。
　悲願の達成を間近に感じながら、シーモアは死体の街で踊る。


【一日目昼/渋谷(東部)】

【シーモア＠FINAL FANTASY X】
[所持品]不明
[状態]健康
[その他]
・〈竜殺し〉ではない

▽

　カレンは途中で何度か方角を変え、何も追ってきていないことを確かめながら逃げる。
　そしてまだ破壊されていない地域まで戻ったところで、紅蓮をビルのヘリポートに着地させた。

「……退いたわよ。
　これでいいんでしょ」
「ああ、今はこれが正しい」

　生身の人間を相手にKMFが退くことは、本来あり得ない。
　だが〈竜〉がいる、死体すら動き回るこの異常事態の最中では、あの男が本当に人間なのかどうかすら怪しい。
　得体の知れない相手を前にして、カレンは朱理に言われるまでもなく撤退を選んだ。

　紅蓮のエナジーを無駄に消耗するわけにはいかなかった。
　そして何より、一瞬交わってしまったあの視線が、今も視界の片隅にこびりついている。

「租界の中心に向かうのは後だな。
　状況を整理したい」

　急いだところで死体を止められる確証はなく、動き回ればまた妙な相手に出くわすかも知れない。
　被害を見過ごすことになるが、カレンはやむなく同意した。

「分かったわよ。
　私も少し休むわ」

　コックピットのハッチを開け、二人は外へ出た。
　朱理が地図を見つめている間に、カレンは屋上の縁から身を乗り出す。
　眼下に広がるのは、平和に見える風景。
　カレンが取り戻せなかった風景で、これから失われるであろう風景だった。


　変えられない。

　〈竜殺し〉である紅蓮を持ちながら、何も。


　カレンは己の無力を、もう一度噛み締めた。

▽

　この殺し合いは圧倒的に不利な状況で始まったのだと、朱理は理解した。
　そもそもカレンとの出会いがいなければ、参加者と殺し合う以前に死体に殺されていただろう。
　力も、地位も、名誉も、武器も、軍も、何もない。
　それでも平常心を保っていられるのは朱理の生来の打たれ強さと、経験によるところが大きい。
　無一文同然の状態になるのは、これで三度目なのだ。

　一度目は信じていた部下に裏切られ、クーデターで地位を追われた。
　二度目は知りたくなかった事実を突きつけられ、狼狽したまま戦に敗けた。
　どちらも朱理にとって想定外の出来事で、特に二度目は自殺を図るに至るほどだった。
　それらを思い知った今の朱理だからこそ、今回の儀式に心を乱さなかった。

　とはいえ他人に運命を弄ばれて、黙っていられるような男ではない。
　まして名簿に更紗の名があり、目の前で民が殺されるのを見せられてしまったとあっては。

――〈竜〉も〈喰らい姫〉も、後悔させてやる。
――望んだ結果を得られると思うなよ。

　赤の王、朱理。
　王朝の反逆者。
　王子の身でありながら、王家に禍いをもたらすと予言された呪いの子。
　どんな環境に置かれようと、その内側にあるものは何も変わらない。

　例え〈竜殺し〉であると宣告されようと。
　朱里は朱里のまま、運命に反逆する。


【一日目昼/渋谷(西部)】

【紅月カレン＠コードギアス】
[所持品]紅蓮聖天八極式、ポーチ、財布等
[状態]健康
[その他]
・紅蓮は〈竜殺し〉

【朱理＠BASARA】
[所持品]剣
[状態]健康
[その他]
・〈竜殺し〉です。


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|&amp;color(blue){GAME START}|紅月カレン|012:[[光芒]]|
|~|朱理|~|
|~|シーモア|014:[[スアロー・クラツヴァーリの場合]]|


----    </description>
    <dc:date>2017-07-15T22:48:40+09:00</dc:date>
    <utime>1500126520</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/basararowa/pages/21.html">
    <title>混沌戦争</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/basararowa/pages/21.html</link>
    <description>
      **混沌戦争　 ◆Wv2FAxNIf.


「どうしよう……メリルがいない！！」

　往来の真ん中で、大真面目に、その青年は叫んでいた。
　端正な容貌を持った金髪碧眼の若者だ。
　情けない声を上げてはいるが、身を包むのは物々しい漆黒の甲冑。
　そしてそれを飾る赤青二色の布地、随所にあしらわれた紋章、そのどれもが彼のドナティア騎士という身分を示している。
　より正確にいえば、神聖ドナティア帝国の黒竜騎士。
　強大な軍事国家の中でも最強の戦力と謡われる黒竜騎士団、その末席に名を連ねるのがこの青年――スァロゥ・クラツヴァーリである。

　一騎当千の能力と絶大なカリスマをもって部隊を率いる騎士――それが黒竜騎士という存在だ。
　〈赤の竜〉と同格の存在〈黒の竜〉と契約した者たちであり、三十名のみという精鋭中の精鋭である。
　だがスアローはひどく風変わりな騎士だった。
　人通りの多い町中で、人目も気にせず狼狽するその姿は、黒竜騎士に憧れる人々の夢を一瞬にして粉砕するに違いない。
　だがスアローは深刻な問題に直面しているのだ。

「どうしようこの状況、僕一人でどうにかなるとは思えない……！
　しかも婁さんまでいるじゃ――あっ」

　スアローが手にしていた名簿に目を通したところで、「名簿が崩れ落ちた」。
　自ら破ったわけではない。
　ただそれが紙の寿命だったとでもいうように自然と、スアローの手から細かな紙片となって風に流されていく。

「あっちゃんこー……」

　困り果てたように――だがこうなることを知っていたように諦めた表情で、スアローは名簿の残骸を見送った。
　『粉砕』の呪い。
　生まれながらにして付きまとう、スアローを蝕むもの。
　スアローが手にしたものは例外なく、その一回で破壊される。
　食器も、本も、釜も、触れればそのどれもが悲鳴を上げるように軋み、壊れてしまう。
　顔以外で唯一鎧に覆われていない両腕は、その能力をそのまま示したかのようにどす黒く染まっている。
　この理不尽な力を呪いと呼ばずして、何と呼ぶのか。

　つまりスアローは一人では何もできないのである。
　着替えも、飲食も、財産の管理も。
　従者であるメリル・シャーベットの献身的なサポートがあってようやく人並みの生活を送れているのだ。
　たった一人でこの儀式に巻き込まれたスアローが頭を抱えるのも、致し方ないことだった。

「どうする、このままじゃ僕は食事の度に犬食いする羽目に……！
　水も飲めない、そもそも財布がない！！」

　そうしてひとしきり騒いだ後、大仰に溜息を吐き、のろのろと歩き出す。
　嘆いたところで、メリルは現れないのだ。

「……うん、とりあえず忌ブキさんとエィハさんを探そう。
　多分、少しは協力してもらえる……かも知れない」

　名簿に記載されていた二人の名前を挙げ、スアローは一人で何度も頷く。
　忌ブキとエィハは知り合いではあるのだが、スアローとは微妙な関係を保っている。
　かといって他に頼れる相手もいない。
　他に名簿にあったのは知らない名前ばかりで、残るもう一人の知り合いに関しては論外だった。

　少し時間をおくと落ち着きを取り戻し、メリルの不在についても諦めがついた。
　そしていないものは仕方がないと、スアローはそのまま街の散策を始めたのであった。

　知り合いの暗殺者が参加しているということもあって警戒ながら進んでいたのだが、緊張は次第に緩んでいった。
　何せ、目新しいものに満ち溢れた街だ。
　ドナティア本国すら及ばないほどの賑わいを見せる都市の存在など、スアローは想像したこともなかった。
　しかしくつろぎ始めてはいるものの、街全体の違和感に関心がないわけではない。

（『夢』……ねぇ）

　〈喰らい姫〉の説明を反芻しながら、思い出す。
　数日前、スアローは彼女から手紙を受け取った。
　手紙の中で〈赤の竜〉と縁深き者、と名乗っていた彼女。
　そしてニル・カムイを蹂躙する〈赤の竜〉について、夢のようなもの――と説明していたのだ。

　夢、故に討伐することはあたわない。
　本体を目覚めさせたくば、時代の移り変わりに浮かび上がる〈契りの城〉に来い――と。

　その手紙を受けて、スアローはドナティア軍とともに指定された地へ向かっていた。
　この儀式では少々の[[ルール]]変更があったが、「〈契りの城〉で〈竜〉の本体を殺す」という部分は変わりないようだ。

（ニル・カムイで暴れる〈竜〉も、この土地も、住んでいる人々も、全部夢……。
　それなら、この夢を見ているのも〈赤の竜〉なのかな）

　〈契りの城〉で微睡む〈竜〉に思いを馳せ、スアローは空を見やる。
　作りものであろうその空は、普段見る景色と「何ら変わらない」。
　脆い。
　今にも崩れ落ちそうだ。
　もっともそれは空に限った話ではなく――スアローの目には何もかもが、儚いものにしか見えないのだが。

　そうしてほどなくして、街全体が還り人の軍勢に飲み込まれた。

▽

　聞仲はその場に留まり、忌ブキと話を続けていた。
　大きな通りが交差した中心で、それぞれの通りの数百メートル先は死体――忌ブキが言う、還り人たちによって塞がれている。
　そこに不可視の壁があるかのように、彼らは近寄ってこない。
　聞仲と忌ブキはそんな彼らを無視して会話しているのだった。
　聞仲が新たに課した条件を忌ブキが飲んだことで話は纏まり、約束通り忌ブキから情報を得ているところだ。

「さて……」

　その聞仲が、忌ブキの話を中断させた。
　数十分にわたって動きのなかった還り人たちが、再び活発に蠢き出したためだ。
　聞仲が警戒を強めるものの、還り人たちの意識は聞仲や忌ブキには向いていない様子だった。
　群れに遮られて見えない大通りの先で、何かが起きているらしい。

「黒麒麟」
『お任せ下さい、聞仲様』

　傍に控えていた霊獣は聞仲が詳細な指示をするまでもなく、忌ブキの盾となる位置に移動した。
　何か来る。
　気配を察して、聞仲はその方角に目を凝らす。

　そして――還り人たちが吹き飛ばされた。
　胴体や手足が千切れ、紙のように軽々と宙を舞う。
　そうして拓けた道から一人の青年が現れたのだった。

「おっと、ここかな？」

　重々しい漆黒の鎧に身を包んだ、金髪の青年だった。
　だが目を見張るべきは鎧ではなく背中の、腰より少し低い位置に提げられた剣の方だ。
　十本にもなる剣を革ベルトで束ねており、鞘の先端から剣の柄にかけて扇のように広がって見える。
　その重量をものともせず、還り人の群れを軽々と踏破してきた――それだけで、人間離れした実力が窺えた。

　そしてその青年の異質さを何よりも物語るのは、青年が手にしてた剣の末路。
　今しがた還り人たちに向かって振るった剣が、根本から砕け散った。
　自然と――不自然なまでに自然と『粉砕』されたのだ。
　彼が仙道であるかないかなど些末な問題であり、聞仲は既に禁鞭に手を伸ばしていた。

　しかし当の青年はといえば、脳天気な笑顔で聞仲に向かって手を振っていた。

「おーい、そこの人ー」

　聞仲が特に反応せずにいると、嬉しそうに小走りで駆け寄ってきた。
　およそ「殺し合え」と言われたばかりとは思えない、人のやる気を削ぐ優男である。
　青年はそうして聞仲の前までやってきて、はにかみながら事情を話し出した。

「いやー、話ができそうな人に会えてよかった！
　さっきこっちで凄い音がしたから、きっと誰かいると思ったんです。
　僕はドナティアの」
「スアロー・クラツヴァーリだったか」
「そうそう……あっれー、僕ってそんなに有名人？
　それともどこかでお会いしましたっけ？」

　この状況で名を言い当てられても、やはり軽い調子だった。
　聞仲はこれ以上の会話は不毛と打ち切ろうとしたが、聞仲に代わって応える声が上がる。

「僕が、教えました」

　黒麒麟の陰にいた忌ブキが進み出る。
　それを見たスアローは表情を一層明るくした。

「忌ブキさん！
　無事でよかった、こんなに早く会えるなんて！」

　再会を喜ぶスアローとは対照的に、忌ブキの表情は暗い。
　そのことに気づいているのかいないのか、スアローは相変わらず親しげに言葉を投げかける。

「この人は知り合いなのかい？
　知ってると思うけど僕は真面目で堅そうな人が苦手でね、できれば忌ブキさんからも何か――」
「スアローさん」

　忌ブキの真剣な声に、スアローの喋りがぴたりと止まる。
　人なつこい笑みは、苦い笑いに代わったのだった。

「僕は……革命軍の王です」
「うん、禍グラバさんから聞いてるよ。
　君がそう決断したっていうなら、それはそれでいいと思う」

　先程までの無駄に明るい調子は故意のものだったようで、スアローは落ち着いた様子で頷いている。
　忌ブキの言う「革命」の意味を知った上での言だとすれば、冷静というより淡白ですらあった。
　柔らかい雰囲気を纏うのにどこか冷め切っていて、掴みどころがない。
　それが、聞仲から見たスアローの印象だった。

「僕はニル・カムイを変える為に、契り子になります」
「ってことは、君は〈赤の竜〉に会うんだね。
　そうなると――」
「遠慮は無用、ということだ」

　今度は聞仲が二人の会話に割って入る。
　忌ブキの知り合いであっても、聞仲がやるべきことは変わらない。

「待った待った！！
　せめてもう少し話し合いを！」
「何故私がこの場に留まっていたと思う？
　……陛下をお捜しする前に、間引くためだ」

　黒麒麟とともに上空から確認した限り、この東京という土地はそれなりの広さがある。
　その中から二十人の参加者を捜し出すのは至難。
　よって聞仲は、参加者たちが自ら姿を見せるよう網を張ったのだった。
　忌ブキを助ける際、禁鞭の攻撃を必要以上に広範囲に向けたのもそのためである。

　まだスアローが何事か叫んでいたが、聞仲は既に聞く耳を持たない。
　禁鞭が振り下ろされ、この新宿に二度目の轟音が響き渡った。

▽

　忌ブキは黒麒麟の足にしがみつき、何とか吹き飛ばされずに済んだ。
　額から生えた角が、熱を帯びているのが分かる。
　皇統種が持つ恩恵《魔素の勲》。
　空気中の魔素を操り、聞仲に優位な場を作り出しているからだ。

「問題なかったのだろう？」
「…………はい」

　祝ブキは聞仲の問いに答えながら、激しい風と土埃に目を瞬かせる。
　そして聞仲の背中を――その先の、スアローが立っていた場所を見つめる。

　妙な人物ではあったが、忌ブキやエィハに対していつも気遣っていた黒竜騎士。
　忌ブキが悩んだ時、相談を持ちかけたこともある。
　嫌いではなかった、むしろ皇統種やドナティア騎士という身分がなければもっと話せていたのではないかと思う。
　だが忌ブキは彼の情報を、聞仲に渡した。
　臨戦態勢に入った聞仲を止めようとはせず、むしろその背を押した。

　聞仲が出した条件のうちの一つに、「保護を適用するのは忌ブキのみ」というものがある。
　聞仲には、参加者二十名のうち知り合いが三名いるのだという。
　そして聞仲は彼らを生還させるつもりでいる。
　それは聞仲を含めれば四名分、〈赤の竜〉に謁見するための切符が既に指定されているようなものだ。
　残る一つの切符が忌ブキのものになる。
　つまり忌ブキが「他に生き残らせたい人がいる」と言ったところで、聞き入れられることはないのだ。
　その条件を、忌ブキは承諾した。

　エィハも、スアローも、婁震戒も――大切な友達も、仲間だった人たちも。
　彼らを殺しても構わない、そして自分だけは助けて欲しいと。
　自分が生き残るために、恥も外聞もない取引をした。
　そうしてでも忌ブキは生き残る必要があった。
　だからせめて、スアローの最期からは目を逸らすまいとしていたのだ。

　もっとも――少なくとも今の一撃だけでスアローが死ぬとも、忌ブキには思えなかったのだが。

「いやー……参った、これは本格的に参った。
　流石に僕もお手上げかも知れない」

　砂煙の中から、緊張感の薄い聞き慣れた声がする。
　視界が晴れるとそこにはスアローの姿があった。
　何事もなかったかのように無傷のまま、まだ剣も手にしていない。
　それを見て安堵してしまっている自分に気づき、忌ブキはかぶりを振ってその考えを追い払った。
　そんな忌ブキの複雑な心境を知ってか知らずか、スアローは平然と会話を再開するのだった。

「一応もう一度確認しますけど、他の方法を採るつもりはありませんか？
　僕としても〈赤の竜〉には会いたい。
　でも五人と言わず二十人全員で〈契りの城〉を目指せないか、少し模索してもいいんじゃないかなって」
「必要ない。
　そんな不確かな可能性に懸ける時間も惜しい」

　スアローが持ちかける交渉に、聞仲が応じる様子はない。
　忌ブキの時と同様、聞仲の優先順位は常に揺るがない。

「スアロー・クラツヴァーリ、おまえはここで死ね。
　我が子……殷の永遠の繁栄のために」

　そこで――スアローが動きを止めた。
　目を何度も瞬かせ、聞仲をまじまじと眺めている。
　喜んでいるような、驚いているような。
　不思議なものを見るような目を、向けている。

「永遠？」

　スアローのその呟きを聞いて、忌ブキは思い出す。
　婁震戒が混成調査隊を離反した後、シンバ砦でスアローと話した時の、彼の言葉を。

――率直に言って、物には愛着が持てないかな。
――なにしろ、僕は一度も物を所有したことがない。

　スプーン一つ、どころか石ころ一つですら、彼は手にできない。
　手にしたものは分け隔てなく、全て壊れてしまうから。

――僕はそういうたった一回で壊れてしまう物に愛着は持てないが、同時に愛してはいる。
――永遠に残るから愛しているのではなく、壊れてしまうからこそ、僕はそれを惜しんでいる。

　きっとスアローは、「永遠」というものを誰よりも――

「今、永遠って言ったのかい？」

　スアローが聞仲に対し、再度問う。
　その唇は引きつるような、歪んだ笑みをつくっていた。

▽

　絶体絶命。
　そんな状況で、スアローは笑っていた。

「今、永遠って言ったのかい？」
「……それが、何か？」

　対する聞仲は憤怒のような、嫌悪のような表情を浮かべていた。
　今、スアローは彼の心の踏み込むべきでない箇所へ踏み込もうとしている。
　そのことを、スアロー自身が気づいていないわけではない。
　それでも踏み込まずにいられないのだ。

「〈喰らい姫〉が見せてくれたけど、殷って国……というか王朝だったと思うんだ。
　王朝って滅んだり滅ぼされたり、新しく興ったりするものだよね？」
「殷は滅びない。私が滅ぼさせない。
　それだけの話だ」

「仮にあなたが殷を守り続けたとして、それでもあなたにだって寿命はあるはずだ。
　亡くなった後まで守る気なのかい？」
「私は道士だ、人間よりも長く生きる。
　それまでに私がいなくなっても存続可能なシステムを構築する必要があるだろう」

「どんなにあなたが頑張っても、星にだって寿命が来る。
　星がなくなったら王朝どころの話じゃないんじゃないか？」
「くどいッ！！！！！！」

　聞仲の額が縦に割れ、第三の目が開く。
　凄まじい怒気とともに再び砂塵が舞い上がり、地面が揺れる。
　スアローはその怒りに圧倒されるも、張り付いた笑みは消えなかった。

「私は殷を守る。星が消えるというなら星も守ろう。
　殷は永遠に滅びない。
　おまえは私の揚げ足取りをしたいのか？」
「違う、そうじゃない。
　僕はあなたのことをもっと知りたくなったんだ」

　聞仲が怒るだろうと予想しつつ言ったのは確かだが、決して怒らせたかったわけではない。
　スアローが聞仲に抱く感情は悪意でも敵意でもなく――尊敬であり、羨望だ。

「僕は、物に愛着がない。執着というものもできない。
　だからあなたみたいに一つのものに……それも王朝なんて形のないものにこだわるあなたに、憧れる」

　はじめて婁震戒と出会った時と同じだった。
　剣を命よりも大切なものと言い切った婁を見て、そんな彼を見ていればその感覚を学習できるのではと期待した。
　結局分からないまま彼と袂を分かったが、嫉妬にすら似た感情は今も残っている。

「そこまで極端に打ち込む人なんて、婁さんぐらいかと思ってたんだ。
　だからあなたの言葉に驚いたし、僕をここに呼んだ〈喰らい姫〉に感謝したくなった……ちょっとだけね」

　婁震戒に打ち明けたその時まで、誰にも告げずに内側に秘め続けていた空白。
　スアローの胸の中心にある、がらんどう。
　「執着を知りたい」などと。
　婁震戒に出会うまで、他人にそんな話をする日が来ると思っていなかった。
　またこうして口にする日が来るとも思っていなかった。
　聞仲という存在はスアローに対し、婁に出会った時に近い衝撃をもたらしたのだ。

「愛着も執着も、こだわりもないか。
　おまえは私にとってどうあっても相容れない相手のようだ」
「……そうなんだよねぇ」

　スアローにとって相容れる相手などいない。
　聞仲や婁に限った話ではなく、友達も、気の合う相手もいない。
　「物を所有する」という当たり前の経験が欠落しているスアローは、他の誰とも感覚を共有できない。
　そこにいるだけで、呼吸しているだけで、こだわりや信念を持った者の神経を逆撫でて苛立たせてしまう。

　混成調査隊の一員として過ごした日々は、スアローに少なくない変化をもたらした。
　このどうしようもない呪いとも、以前よりも少しだけ、折り合いがつけられたように思う。
　けれどこうして執着を知る者と対峙すると、改めて思い知らされる。
　スァロゥ・クラツヴァーリはいつでも、どこまで行っても、たった一人なのだと。

「ここで最初に迎え討つ相手がおまえだったことは、私にとって幸運だったのかも知れん。
　真っ先に、消しておく必要がある……！」
「そうだよねー、結局こうなる気はしてた！
　〈喰らい姫〉への感謝は撤回！」

　言うと同時に、スアローが左足の契約印を解放する。
　〈黒の竜〉に与えられた傷。
　契約した時点でスアローの身体能力はおよそ三倍に跳ね上がったが、契約印を解放すれば更に三倍。
　左足の火箸が突き刺さるような痛みと引き替えに、元の十倍近い力を発揮できるようになる。
　契約印解放後のスアローは、もはやヒトガタの〈竜〉に等しい。

　契約印を解放する一呼吸の間に、既に聞仲の鞭が迫ってた。
　回避の目はなく、スアローは《黒の帳》を展開する。
　〈黒の竜〉に与えられた恩恵の一つであり、自身の生体魔素を消費して自分の周囲に頑強な障壁を作る力だ。
　聞仲の初撃を防いだのもこの障壁であり、契約印を解放した今なら黒竜騎士団団長の一撃でも防ぐことができる。

　鞭と《黒の帳》がぶつかり合う。
　拮抗し、そして、鞭が障壁を破ってスアローの頬を掠めた。

「えっ」

　聞仲の最初の一撃は様子見の、挨拶代わりのようなものだったのだろう。
　だが聞仲がほんの少しやる気を見せれば、契約印解放後の《黒の帳》すら易々と突破してしまう。
　それを受けてスアローは瞬時に判断した。
　無理、と。
　《黒の帳》は強力な盾ではあるが、スアローの生体魔素を必要とする。
　何度も展開できるようなものではなく、防戦に回ればあっという間に魔素の枯渇を招くだろう。
　故にスアローは前へと踏み出した。

　腰のテンズソードホルダーに換装された十本の剣、うち一本は既に還り人相手に使ってしまっている。
　残る九本全てを消耗する覚悟で、スアローは聞仲に挑みかかる。

　スアローが手にした全てのものは『粉砕』されるが、それだけではない。
　壊れる瞬間、そのものが生きるはずだった時間、年月の全てを最大限に発揮する。
　そのものが剣であれば、一層の破壊力を絞り出す。
　そこに〈黒の竜〉との契約が加わることで、城砦すら打ち崩すほどの威力をもたらすのだ。

「当たれ……っ！」

　高く掲げて振り下ろした一撃は聞仲に躱され、代わりに地面を穿って地割れを引き起こす。
　同時に剣が砕け散り、いつもの虚無感と息苦しさがスアローの胸に迫る。
　だがスアローは止まらずに新たな剣を抜き放った。

「次！」

　スアローは壊れてしまうものを惜しみ、愛している。
　だが壊れてしまったものに対する感慨は持たない。
　たった今、己の呪いで破壊した剣も同じことで、既に意識の内にはない。
　一振り、また一振りと、スアローが振るった剣はその風圧だけで地面や周囲の建物を砕くが、聞仲には届かない。
　聞仲は鞭の破壊力にものを言わせるだけの人物ではなく、そもそもの膂力が並外れているのだ。
　余裕をもって、子どもをあしらうように避けている。

　五本目の剣を抜く。
　振り抜き始めた時点で、聞仲がスアローの間合いから跳び退って逃れるのが見えた。
　更に踏み込んでも、なお足りない距離は剣一本分。
　これまでよりはいくらか接近できているが、このままでは掠りもしない。
　だが――届くのだ。

「《黒の刃》を乗せる！！」

　左足から噴き上がった闇の奔流が剣にまとわり、質量を増大させる。
　螺旋に渦巻いた黒い魔素が空間を浸食し、掻き毟る。
　漆黒に染まった剣は巨人が振るうものと見紛うほどの大きさにまで膨れ上がった。
　スアローが踏みしめた地盤はその重量によって蜘蛛の巣のようにひび割れる。

「――――――」

　踏み込み。
　腰の捻り。
　腕の角度。
　全てが噛み合って、スアローは決定的成功（クリティカル）を確信する。
　聞仲が腕を上げて防御しているのが目に入ったが、これが生身の腕で防げるような一撃にならないことは明白だった。

　剣を振り抜く瞬間、胸に去来するのは。
　やはり、虚しさだけだった。

▽

　まるでこの世の終わりのようだと、忌ブキには思えた。

　破壊の規模だけなら〈赤の竜〉に破壊されたシュカの街の方が酷かった。
　だがここで戦っているのは、たった二人。
　黒竜騎士と道士が衝突しただけで、かろうじて原型を留めていた建造物も崩れ、舗装された道路は無惨にめくれ上がっている。
　忌ブキが黒麒麟の影に隠れていなければ、飛んできた瓦礫が当たっただけで死んでいただろう。
　忌ブキにとっては絶望的なまでに、遠い。
　道士である聞仲も、それと渡り合うスアローも――同じ人間とは思えないほどに、超えがたい隔たりを感じた。

　しかしそんな戦いにも終わりが近づいている。
　スアローの刃が聞仲を捉えるところまでは、忌ブキにも見えていた。
　だが聞仲が吹き飛んで建物の瓦礫に叩き込まれた後は、土煙に阻まれてしまっている。

「結局、どうなって……」

　それでも忌ブキには分かっていた。
　聞仲が倒れたのか否か。
　黒麒麟が動こうとしない時点で――動くまでもないと判断している時点で――聞仲は健在なのだ。

「勘弁して欲しいなぁ……。
　あなただったら、一人で〈赤の竜〉を倒せちゃうんじゃないか？」

　疲れたように苦笑するスアローに、砂塵の内側から禁鞭が襲いかかった。
　長い一本の鞭のはずなのに、その速度のあまり忌ブキの目からは無数に枝分かれして見える。
　禁鞭を叩きつけられたスアローは、その目前に発生させた黒い障壁ごと弾き飛ばされた。

「忘れていた肉体的な痛みを思い出した。
　少々、見くびっていたようだ」

　そう口にする聞仲の腕から血が滴り落ちるが、禁鞭を振るうのに支障はないようだ。
　ぞっ、と忌ブキの背筋に寒気が走る。
　かつて契約印を解放したスアローが岩巨人を両断する姿を、忌ブキは目の当たりにしていた。
　空をも斬り裂くような、痛烈な一撃。
　それが聞仲にはまるで通用していない。
　自分がどんな相手と手を組んだのか――組んでしまったのか。
　それを改めて見せつけられた。

「これで――」
『聞仲様！！！』

　突然、それまで静観を続けていた黒麒麟が動いた。
　黒い巨体が浮き上がって聞仲の頭上に位置取り、同時に金属音が響いた。
　空から降り注いだ無数の閃光が、黒麒麟の装甲に遮られて弾かれる。
　そして一人の金髪の少年が、黒麒麟よりも更に高い位置から落下してきた。
　その少年は猫のようにしなやかな身のこなしで着地し、悔しそうな声を漏らす。

「かってー！
　何だこいつ！！」

　言いながら、聞仲と倒れたスアローの間に立つ少年。
　唐突に乱入してきた彼はスアローを助けるつもりなのだと、忌ブキは遅れて理解した。

「おい、あんた。
　まだ動けるんだろ？」
「ひょっとして僕に言ってる？」
「他に誰がいるんだよ！」

　スアローが暢気な返事をしながら立ち上がった。
　障壁で禁鞭を防いでいたためか、こちらも大きな怪我はないらしい。
　そして少年は、おもむろにスアローの手首を掴んだ。

「今回はカンベンしてやる！」

　スアローの手を引き、少年が脱兎のごとく逃げていく。
　聞仲の怒りが膨れ上がるのが、離れた位置から見ている忌ブキにも伝わった。

「逃がすと思うか！？」

　禁鞭が振り下ろされる。
　度重なる衝撃で脆くなっていた地盤が崩れて陥没し、スアローら二人が立っていた場所に大穴を作った。
　だがそこに二人の姿は既になく、忌ブキには小さくなっていく背中だけが見えた。

▽

『……さしでがましい真似をしました、聞仲様』
「構わん」
『今ならまだ追いつけるかと』
「いや、今回はこれでいい。
　私も冷静さを欠いた」

　黒麒麟と会話しながら、聞仲はスアローたちが逃れた方角を見遣る。
　スアローは強い相手ではあった。
　仙道と比べても遜色なく、〈赤の竜〉と同格の〈黒の竜〉から力を得ているという話にも頷ける。
　とはいえ、感情的になってまで固執するべき相手でもなかったはずだ。

　執着がない。
　それを当たり前のことのように言う男。
　生かしておくだけで、これまで大切にしてきたものに泥を塗られたような気分になる。
　おどけた態度こそ太公望に近いが、その性質は真逆と言ってもいい。

「……次はない」

　それだけ呟き、聞仲は視線を外す。
　スアローのことをこれ以上思い出すまいとするように、次にとるべき行動へと思考を移した。


【一日目昼/新宿】

【忌ブキ＠レッドドラゴン】
[所持品]鞭、〈竜の爪〉
[状態]健康（現象魔術を数度使用）
[その他]
・タタラの本名は聞いていません。
・聞仲の生殺与奪に口出ししない。


【聞仲＠封神演義】
[所持品]禁鞭、黒麒麟
[状態]腕に軽傷
[その他]
・情報と引き換えに忌ブキを保護する。

▽

　ティーダと名乗った少年とともに走り続けたスアローは、還り人がいない地域まで逃れて一息ついた。
　黒い魔物から聞仲と呼ばれていた彼は、追ってきてはいないようだった。

「助かったー、君は命の恩人だ！
　あの人から逃げられるとは思ってなかったよ」
「見逃された、って感じだったけどな……」

　ティーダの逃走は確かにそれに特化した技術ではあるが、誰にでも通用するわけではないという。
　今も追いすがってくる様子がないことからも、ティーダの言うように「見逃された」というのが正しいのだろう。

　改めて二人きりになり、スアローはティーダの姿を頭の頂点から爪先まで観察する。
　少し日焼けした、金髪の少年。
　こんな状況でも表情や声は明るく、溌剌としている。
　左腕こそ防具で固めているものの、残る手足は肌を晒した身軽なものだ。
　逃げる途中に襲いかかってきた還り人の群れを片手剣一つで難なく撃退していたところから、戦い慣れているのが分かる。
　聞仲に奇襲を仕掛けたぐらいなのだから、自分の力に自信もあるのだろう。

　名前を名乗り、身分を伝え、相手が本当に信用できるのか探り合って。
　そういう手順が必要になる場面だった。
　しかしスアローには、そういった順番を無視してでも確かめねばならないことがある。
　従者のメリルからどんなに渋い顔をされても直ることがない、スアローの悪癖のうちの一つである。

「一つ訊きたいんだけど、いいかな」
「なんスか？」

　ティーダの歳は、見たところスアローよりも十ほど下だ。
　既に少年と青年の狭間に差し掛かっているようだが、スアローは確認せずにはいられなかった。


「君は育っちゃう系？　それとも育たない系？」
「はぁ？」


　忌ブキにも、エィハにも、初めて会った子どもには例外なく使ってきた質問である。
　毎回相手から怪訝な顔をされるが、スアローは特に気にしていない。

　初めこそ、ティーダはわけが分からないといった表情を浮かべていた。
　だが次第に真剣なものに変わり、明るかった顔は曇っていく。
　そんなティーダの様子に「気づいてはいても関係なく」、スアローは答えを待った。
　そしてティーダはスアローと目を合わせることなく、独り言のように呟いたのだった。


「俺は育っちゃったけど…………多分もう、育たない」


　ティーダが苦々しく俯く。
　故に、ティーダは見ていなかった。
　スアロー自身も鏡を見ていたわけではないので、誰もスアローの表情を見ていなかった。



　ティーダの返答を聞いたスアローの目は期待に溢れ――笑っていた。




【一日目昼/新宿北部】

【スアロー＠レッドドラゴン】
[所持品]両手剣×4
[状態]軽傷
[その他]
・〈竜殺し〉です。


【ティーダ＠FFX】
[所持品]アルテマウェポン
[状態]健康、オーバードライブ使用直後
[その他]
・特記事項なし


Back:[[殷の太師]] Next:[[The First Signature]]

|005:[[殷の太師]]|忌ブキ|-|
|~|聞仲|~|
|&amp;color(blue){GAME START}|スアロー・クラツヴァーリ|014:[[スアロー・クラツヴァーリの場合]]|
|~|ティーダ|~|


----    </description>
    <dc:date>2017-07-15T22:47:50+09:00</dc:date>
    <utime>1500126470</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/basararowa/pages/29.html">
    <title>スアロー・クラツヴァーリの場合</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/basararowa/pages/29.html</link>
    <description>
      **スアロー・クラツヴァーリの場合　 ◆Wv2FAxNIf.


　焼け落ちた廃墟の煤けた屋上に、二人の男。
　一人は柵を乗り越えて、落下する危険など気にも留めない様子で縁に腰掛けていた。
　一人は屋上の真ん中で、両足を投げ出すようにして座り込んでいる。
　縁に座るのは細身の少年、ティーダ。
　中心にいるのがスアロー・クラツヴァーリという青年である。

　二人はともに金髪碧眼、話し方も緊張感の薄いものではあったが、似た者同士とは言えなかった。
　身軽さを武器にしたティーダに対し、黒い鎧を着込んだ重装備のスアロー。
　日焼けしたティーダが太陽に好かれているのだとすれば、色白のスアローは太陽に嫌われているのかも知れない。

　ティーダとスアローは似ていなかった。
　否、スアローと似ている者など、どこにもいないのである。

　とはいえお互い単独行動に向かない性質を自覚していることもあり、一緒に行動することで同意した。
　そしてまずは魔素の消耗で休養を必要としていたスアローの為、還り人に追い回されながらようやくここに腰を落ち着けたのだった。

　ひび割れた、今にも砕け散りそうな脆い空に浮かぶ雲が、ゆっくりと移動していく。
　地上から立ち上っていた黒煙は次第に薄れていく。
　焼かれていた周囲の建物には、もう燃えるものが残っていないのだろう。
　燃えていく。壊れていく。自分が触れるまでもなく。

　沈黙の中、漫然と浮かんでいたスアローの思考を、か細い旋律が破った。

「♪――――」

　それを耳にしたスアローは立ち上がり、ティーダが座る屋上際に近づく。
　上手いとは言えない鼻歌だった。
　だが異国の響きのあるそれに、スアローは耳を傾ける。

　スアローは音楽が好きだった。
　触れられないがそこにあるもの。
　スアローが触れて壊れてしまうものとは違う、触れられないが故に壊せないもの。
　あるいは、生まれるのと同時に壊れていくもの。
　その音色がふと途切れた。

「……何ッスか」
「いやぁ、邪魔するつもりはなかったんだ。続けて続けて」
「するわけないだろ」

　ティーダが頬を膨らますのが見えて、少年らしさを感じる。
　育ってしまったがもう育たないという少年の姿を、スアローはしげしげと眺めた。

「それ、君の国の曲なのかい？」
「……オレのザナルカンドで、ブリッツボールの勝利のおまじないってやつ。
　親父が歌ってたんだけど、オレよりへったくそでさ」
「父親かぁ。でも、嫌いじゃないんだろう？」
「……別に、好きでもないけどな」

　それは曲のことなのか、父親のことなのか。
　ティーダの照れ隠しのような返事に、スアローは深く頷いた。
　それはスアローにとって、全く関係のないことではあったのだが。

「そんなことよりアンタ、もういいのか？」
「あー、万全にはほど遠いんだけどね。
　もう行こうか。
　これ以上足止めってわけにいかないんだよね？」

　ティーダはユウナという少女を捜しており、その足をスアローが引っ張る形になっていたのだ。
　かといってそれを気に病むスアローではないのだが、スアロー自身にもゆっくりしていられない事情があった。

「婁さん、じっとしててくれてるといいんだけどなぁ」
「アンタが言ってるそれ、ホントに信じていいのか！？」
「はっきり言って僕には婁さんが今何を考えているのか全く分からないが、ここに来て何をしたのかは大体分かる。
　後は、僕を信じてくれとしか言えないな」

　無駄に胸を張って言い切るスアローに対し、ティーダの表情は半信半疑といったところである。
　こうして不信を買ってしまった経緯を思い返し、スアローは改めて「参ったなぁ」とぼやくのだった。

▽

　聞仲から逃れ、まだ還り人に破壊されていない地域に着いた頃。
　年齢こそ一回りは違った二人だが、年の差を気にしない気さくな幼年はスアローにとって話しやすい相手だった。
　ティーダの出自に関心があったこともあり、スアローは何かとティーダの話を聞きたがった。
　それが唐突に、ティーダの焦りの声で現実に引き戻される。

「なぁ、あれ！」

　大きな建物の壁面に設置されたパネルに、映像が流れている。
　この国の文明はドナティアのそれを遙かに超えており、映像のやり取りに通信用魔術結界を必要としないらしい。
　そこに映った一人の男の姿が、そんなスアローの思考を瞬時に吹き飛ばした。

「ぶふぉおっ！！？！？」

　初めに映し出されていた女性を、仮面の男が手刀で刺殺した。
　それは紛れもなく、スアローがよく知る男であった。

　仮面を用いるようになってからの彼のことは、羊皮紙に描かれた肖像でしか知らない。
　それでも分かるのだ。
　どうしようもなく、あの男は変わらないのだと。

『この「東京」をこれより、大いなる〈天凌〉に捧ぐ贄とする！』

　衝撃のあまり息も絶え絶えになっているスアローに構うはずもなく、パネルの中の男は朗々と演説を続ける。

『私こそは〈天凌〉に仕えしもの、私の名は――』

　男がにんまりと笑う。
　まるで、見せつけるかのように。


『スアロー・クラツヴァーリ！！！』


「……………………………………は？」

　そこで映像は終わったが、再び女性が刺殺される場面が映し出された。
　どうやらこの演説は、ひたすらリピート放送されるようである。
　二周、三周と見終わった頃、ティーダがようやく口を開いた。

「……なぁ、これ」
「ち、違う！！　断じて違う、僕じゃない！！　濡れ衣だ！！！
　ほら、声が全然違うだろう！？
　顎のラインとか、ほら！　体格も！」
「オレだって疑いたくないんだけどさ……」

　婁がどういった人物なのか。
　この地で起きている還り人の発生とどう関係しているのか。
　時間をかけて、何とかティーダに納得させたのだった。

「婁さん、僕のことがよほど腹に据えかねていたと見える。
　僕が婁さんのことを尊敬しているのは、本当なんだけどなぁ」

　そんなぼやきが婁に届くはずもなかった。
　もっとも届いたところで、火に油を注ぐ結果になっただろうが。

▽

　婁震戒は恐らく東京の中心部で〈死者の王〉として活動を始めた。
　婁の性格、それに還り人たちの活動域の拡大の様子などから、スアローとティーダはそう結論づけた。
　そしてティーダはユウナならそれを止めるために中心に向かうはずだと主張し、スアローはそれを受け入れた。
　道という道を埋め尽くした還り人の群れを迂回するルートはなく、二人は還り人たちの頭や肩を踏み越えて、一息に移動を始める。

「地図を見た限りかなり広いと思うんだよねぇ、東京って」
「仕方ないだろ！
　乗り物はどれも、こいつらのせいで使えないんだからさ！」

　今いる新宿から中心部までの距離は、地図で位置を確認した際に計算しようとしてすぐにやめてしまった。
　ユウナのことで焦りを募らせているティーダに言ったところで、止まりはしないだろう。
　「楽をしたいのになぁ」と一人ごちて、スアローはなくなくティーダの後に続いた。

　爆発音を聞いたのは、その道中のことだった。
　初めのうちは何かの燃料に着火したのだろうと、スアローもティーダも気に止めなかった。
　だが同じ方角から断続的にその音が続き、二人は尋常でない事態を感じ取った。

「さて、どうする？
　はっきり言って僕は、嫌な予感しかしない！」
「だけどもしかしたら、ユウナがいるかも知れない……！」

　既にティーダは進路を変え、爆発音がする方へ足を向けていた。
　仮にスアローが説得したところで、その足を止めることはないだろう。

「うーん、仕方ない。付き合おう。
　子どもを守るのは、大人の役目だからね」

　スアローはいつも通り、どこまで本気なのか分からない乾いた笑みを作る。
　彼の従者が「悪い癖」と称す性質は、ここにきても変わることがなかった。



【一日目昼/渋谷（東部）】

【スアロー＠レッドドラゴン】
[所持品]両手剣×4
[状態]軽傷
[その他]
・〈竜殺し〉です。
・婁の宣戦布告を目撃



【ティーダ＠FFX】
[所持品]アルテマウェポン
[状態]健康
[その他]
・婁の宣戦布告を目撃

▽

「……さて」

　死体の群れを戯れに逐一相手にするのにも飽いて、シーモアは魔法を用いて一掃した。
　エボンの老師として四属性の魔法を自在に操るシーモアは、その膨大な魔力によって連続魔法を可能にする。
　彼にしてみればそう協力でもない、中位程度の威力のファイラも、彼の魔力で連打すれば辺りを火の海に変えられるのだ。

　魔法を使用した直後こそ、新たな群れがそれまでに倍する数で襲いかかってきていた。
　だが二度三度と重ねると、死体たちはシーモアから距離を取り、遠巻きに観察してくるようになった。
　そうした動きから、シーモアはこれらを操作する者がいることを察する。
　魔物の創造と使役に長けたグアド族だからこそ、容易にその結論に行き着いたのだった。

「やはり避けられないものらしいな」

　グアドとは、異界を守る民である。
　それ故に幻光虫との関わりは深く、敏感にその気配を感じ取る。
　だからこそ、ここに向かってくる者が誰なのかも気づいている。

「救ってやろう。
　おまえも、おまえの父も」

　焼け爛れた大地に立ち、シーモアは待ち受けていた。



【一日目昼/渋谷(東部)】

【シーモア＠FINAL FANTASY X】
[所持品]不明
[状態]健康、死人
[その他]
・〈竜殺し〉ではない




Back:[[竜殺しを探して]] Next:[[]]

|006:[[混沌戦争]]|スアロー・クラツヴァーリ|-|
|~|ティーダ|~|
|003:[[朱理は紅蓮の野に立つ]]|シーモア|~|


----    </description>
    <dc:date>2017-07-15T02:43:15+09:00</dc:date>
    <utime>1500054195</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/basararowa/pages/27.html">
    <title>光芒</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/basararowa/pages/27.html</link>
    <description>
      **朱理は紅蓮の野に立つ　 ◆Wv2FAxNIf.


　眼下には、黒く蠢く亡者の群れ。
　それをモニター越しに睥睨しながら、紅月カレンは操縦桿を傾ける。
　先刻のように遠距離からの奇襲を避けるべく、真紅の機体の高度は極力下げ、ビルの合間を縫うように進んでいた。

「逃げ隠れしているみたいで、性に合わないわ」
「消耗は避けるべきだと、お前も納得しただろう」

　カレンが独り言のように呟いた声に、同乗している男が応えた。
　極めて狭いコックピットの中、操縦者に接触しないよう無理な姿勢を長時間強いているが、さして苦ではないようだ。
　そんなことよりも未知の乗り物への好奇が勝る――朱理はここにきてもなお、相変わらずの様子だった。

「操縦もそろそろ疲れてきたんじゃないか？
　いつでも代わってやる」
「ダメに決まってるでしょ！
　紅蓮は私にしか動かせないんだから」

　無駄な口論を交えつつ、進路は東へ。
　東京の中心部、死体の群れの発生源と思われる方角へと向かっている。
　そんな中、異変に先に気づいたのは朱理だった。

「……カレン、二時の方角だ」

　朱理の指示に素直に従いつつ、カレンは街の様子を注視する。
　そして、群れの流れに変化が起きていることに気づいた。
　東京の中心から外側へ向け、放射状に広がるように進軍していた群れの一部が、別の目標に向けて動いているように見える。

「何かいる……？」
「分からん。が、急げ」
「いちいち偉そうなんだから！」

　操縦桿をいっぱいに握り、紅蓮が速度を上げる。
　赤い流星のように軌跡を残しながら、死体の群れを追い越していった。

▽

　四道はひたすらに走り続けていた。
　軍師として、将として華々しく活躍してきた彼にはおよそ経験したことのない逃走だった。
　指揮する兵も弾薬の一つもないのでは、いかに戦い慣れた彼でも逃げる他になかったのだ。

　死体の群れの速度そのものは、そう速くはない。
　だが問題は、死体であるが故か彼らに疲労というものがないという点にある。
　疲れを知らず、補給すらも必要としない軍勢は決して止まることがなく、四道は早々に逃げ切れないことを悟った。
　息を切らして篭城に適した建物を探すが、それすら間に合いそうにない。
　ここで死ぬわけにはいかないという焦りが、胸を支配する。

――千手……！

　帰りを待たせている者の名を、胸中で叫ぶ。
　不本意ながら拾った命を、ここで失うわけにはいかないと奮い立たせる。
　そしてもう一つの名が、四道の心を支えていた。

――タタラ！！

　死の間際、四道は強く思ったのだ。
　もしももう一度生を得られるなら――タタラを殺す。
　赤の王の敵、朱理の道を阻む存在を抹殺する。
　それは千手姫を想うように強く、四道の心に刻まれていた。
　窮地に立たされた今も、その信念には乱れ一つない。

　背後には多数の足音が迫り、独特の臭気が鼻をつく。
　篭城の暇すらないと悟った四道は唯一の武器である剣を抜き、迎え討つ覚悟を決めた。

　振り返り。
　剣を構え。
　群れの先頭をひた走っていた亡者に一閃、剣を振り抜こうとした。


　だがその亡者の真上から&lt;赤&gt;が降ってきた。


　「それ」を正しく表現する言葉を、四道は知らない。
　ただそれに近い形容が、かろうじて脳裏をよぎった。

　死体の群れを薙ぎ払う巨体、目を焼くかのような鮮烈な&lt;赤&gt;。


「悪魔……？」


▽

「朱理、あれ！！」

　街を見渡していたカレンは群れに追われている男に気づき、その方角を指した。

「助けないと――……朱理？」

　同乗している男の反応がないことを訝しみ、カレンはモニターから目を離さずに呼びかけ直す。
　「聞こえてる」と、この男にしては何とも覇気のない声が返ってきた。

「ぼんやりしてる場合じゃないでしょ！？　こんな時に！」
「四道……」
「え？」
「本当に、あいつが……」

　それは、朱理との雑談のような情報交換の中で聞いた名前だった。
　名簿の中に、知り合いの名前がある。
　とっくに死んだ男なのだから、同名の別人だろう――と。
　そんな分かりきったことをわざわざ口にしたのは、それだけその名が特別なものだったからだろう。
　そう察しても、その時のカレンはそれ以上追及することはしなかった。

「死んだって言ってた……」
「死んだ。死体も確認した。墓も建てた。
　だが、あそこにいるのは……四道だ」

　紅蓮を上空に留まらせ、様子を窺う。
　このままではあの男は数分ともたずに群れに追いつかれるだろう。

「……大事な人だった？」
「従兄だ。部下でもあった。一緒に育った……兄みたいなもの、だったのかもしれない」

　カレンが息を飲む。
　そして操縦桿を握る力をより強くした。

「だったら、さっさと助けるわよ！！」

　衝撃に惚けていた朱理を引き戻すように声を張る。
　エナジーウイングで機体を包み、急降下させる。

　カレンには兄がいた。
　今はいない兄の無念を晴らしたくて、レジスタンスになった。
　もしもう一度兄に会えるとしたら――

「舌、噛まないでよね！！」

　急激に操縦桿を傾けられた機体は鋭角に曲がり、赤い軌跡を描きながら死体の群れへ突進した。

▽

――隙を見てハッチを開けるから、行きなさいよ。

　大波のごとく押し寄せる群れを、紅蓮はまるで蟻の相手をするかのように軽々と打ち破っていく。
　それを操縦するカレンは一度も朱理の方へ振り返らずに、強い口調で言った。

――大事な人なら、話したいんでしょ！　しっかりしなさいよ！

　最愛の従兄だった。
　会いたかった。
　話したかった。
　だが同時に、合わせる顔がなかった。
　彼が死んだ原因は、他でもなく――

――あの連中の相手なら私と紅蓮に任せて。誰にも邪魔させないわよ！

　今更、彼に向かって何が言えるだろう。
　朱理の思考はそこで止まり、情けなくもカレンに後押しされるまで身動きが取れなかった。

　まだ何も決めてはいない。
　ただ追い出されるように、朱理は紅蓮を降りた。
　鎧、マント、全てが赤づくめで、下がり気味の目尻の優男と対峙する。

「……朱理なのか？」
「阿呆め、他の誰に見える」

　目の前の男に向けて、朱理は反射的に憎まれ口を叩く。
　近くで見てもやはり記憶の中にある姿と相違なく、戸惑いは大きくなるばかりだ。
　対する四道は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに破顔した。

「ああ、どう見ても朱理だ。
　少し痩せたんじゃないか？」
「誰のせいだと思ってる。
　お前がいなくなってから散々だったんだぞ、オレは」

　口が勝手に動く。
　もうずっと話していなかった相手のはずなのに、あの頃に戻ったかのように思えた。

「錵山は死んだ。亜相もオレを裏切った挙げ句野垂れ死にだ。
　オレは沖縄まで逃げる羽目になるわ、死にかけるわ、奴隷商人に売り飛ばされたことまである」
「何だそれは。ぜひ詳しく聞きたいな」

　『仏の四道』と呼ばれた頃のまま、四道は目を細めて笑っている。
　周囲に殺到していた死体の群れは縦横無尽に跳ね回る紅蓮によって残らず砕かれて、四道と朱理の周りだけが台風の目の中のように穏やかだった。

「朱理、あれは？」
「簡単に言えば乗り物だ。ここに来てから知り合った女が操縦している。
　今は信用していい」
「そうか、それはよかった」

　四道がそう相槌を打った途端、朱理の背筋が総毛立った。

「なら、気にするのはタタラのことだけでいいな」

　四道は何も変わっていない。
　死体の山、仏の山を築き上げる男は健在だった。
　四道は和やかといってもいい調子で、タタラへの殺意を露わにする。

「朱理、あれからどれぐらい経った？」
「……オレは一つ年を取った」
「そんなものか。お前の顔つきが随分違ったから、もっと経っているかと思ったよ。
　それで、タタラはまだ生き残っているんだろう？」

　それは、執念と呼ぶべきものなのだろう。
　四道の最期を思えば、当然あってしかるべきものだ。

「……ああ。生きてるさ。
　そんなことよりお前こそ……死んでるのか？」
「生きてるとはいえないが、機会が与えられたということらしい。
　もう一度、お前と走るために。
　今度こそ、タタラを殺すために」

　四道は決して矛先を変えない。
　仏の柔和な笑みは、とうに鋭い武人のものに変わっていた。

「なぁ、朱理よ」

　聞き分けの悪い子どもを諭すように、四道は続ける。
　無理や無茶を言い出すのはいつも朱理で、四道はそれを支え、時に誤りを指摘して正したものだった。
　子どもの頃からずっとそうだったのだ。

「オレはあの桜島で思い知ったんだ。揚羽の忠告の意味も今なら分かる。
　時代はタタラを味方していた。
　武器もない、力もない、負けるはずのない相手だったのに負けたのは、そういうことだ。
　だから、今なら殺せる」

　紅蓮が群れを蹴散らしたところでまた新たな波が襲ってくる。
　それを残らず迎撃する紅蓮は、朱理の肉眼では捉えきれないほどの速度で戦場を蹂躙する。
　間断なく生み出される暴風の中、四道はなおも落ち着き払っていた。

「ここはオレたちの日本じゃない。
　タタラを守るものはここにはない。
　オレたちはもう一度――」
「四道！！」

　たまらず朱理が声を上げる。
　あの頃のまま――時代に置き去りにされて、時間が止まったままの従兄の姿を見るのが耐えられなかったのだ。
　言葉を遮られた四道は、呆れたように首を振った。

「……その様子だと、お前ももう知ってるんだな」
「タタラは、更紗だ。
　ああ知ってる、オレだって思い知ったさ！
　だが今はそんなことはどうでもいい！」

　最愛の従兄の命を奪ったのは、煮え湯を飲まされ続けてきた仇敵は、朱理が心を通わせた最愛の少女だった。
　それが、どうでもいいはずがない。
　それによって朱理と更紗は苦悩し、今なお決着はついていない。
　だが二人が抱えた矛盾は、日本にとっては重要ではないのだ。

「お前が言った通りだ四道。
　時代が選んだのはタタラだ。お前じゃない。
　そして……赤の王でも、ないんだ」

　その一言で、四道は呆気にとられたようだった。
　何度か瞬きし、ゆっくりと口を開く。

「お前が……そんなことを言うのか。
　そんなことを……言えるようになったのか」
「失礼なやつだな。オレだって変わる。
　……日本だって、変わろうとしてる。
　変わらんのは京都でふんぞり返ってる連中だけさ」

　かつての朱理は暴君だった。
　欲しいものは奪い、気に入らない者は殺した。
　己の愚かしさに気づいたのは、いつのことだったか。

「殺されたから殺す。奪われたから奪う。
　そんな時代は……終わろうとしてるんだ、四道」

　四道に説教する資格などないと、朱理自身が感じていた。
　だがかつて自分がいた場所に置き去りにされた四道を止めるために、朱理は言葉を投げかける。
　タタラのためではない。
　更紗のためでもない。
　ただかつてそうだったように、四道とともに走りたかった。
　そのために、朱理は四道に一つの事実を伝える。

「お前は知らないだろうが、千手姫は身ごもっていたぞ」
「何……？」
「オレはしばらく会っていない。
　だが、強い女性だ。
　今頃はもう、子どもが生まれているはずだ」

　四道がタタラ討伐に出る前、太宰府で過ごした最後の晩に残した子だと聞いている。
　四道の子であるということは朱理にとっても我が子に等しく、いつも気にかかっていた。

「お前は生まれてきたその子に、血生臭いものを残したいか。
　憎しみを、禍根を、因縁を、次の時代に残すのか！」
「オレが終わらせればいい！」

　朱理の叫びにも一歩も退かず、四道が吼え立てる。

「タタラも、その仲間も、全て殺す！
　タタラこそ、我が子の代に残すべきではないのだ！」

　四道が、遠い。
　かつては誰よりも朱理の傍にいて、どんなことでも打ち明けられた。
　今はただ、平行線を辿る。

「タタラを殺したいか、四道」
「当然だ」
「それならオレは、お前を止めなきゃならないな」

　朱理は剣を抜いた。
　体を動かすのは好きだったが、年上の四道にはいつも剣の稽古で負けていたことを思い出す。

「お前は……オレよりも、タタラを取るのか」
「……そうだ、とは言いたくないがな」
「あの娘が、オレを殺したんだぞ！」
「それは違う！」

　朱理は叫んだ。
　それこそが朱理の後悔であり、四道に告げなければならないことだった。

　タタラに――更紗に四道が殺せたのは、四道に隙があったからだ。
　更紗と朱理が惹かれ合っていることを知っていた彼は、タタラの正体を知って躊躇してしまった。
　ならばその死の責任は、朱理にある。
　そうとも知らずに朱理は彼の死後も更紗と逢瀬を重ね、体を重ねた。

「お前を殺したのは……オレだろう、四道」
「違う……やめろ。
　悪いのはタタラだ」
「お前はそう言うだろうな。
　……だからこうするしかないんだ」

　朱理が剣を向けても、四道は剣を収めたままだった。
　だが四道から相手を射殺さんばかりの殺意を向けられるのは初めてで、朱理の額に嫌な汗が浮いた。

「朱理……お前は本当にそれでいいのか」
「言っておくがタタラのためじゃあないぞ。
　今の日本には、あれが必要だからだ」
「お前がそれを、選んだんだな」
「くどいわ！　お前もとっとと抜け！
　いつまでもオレだけ阿呆みたいじゃないか！」

　ただ四道を止めるだけなら――殺すだけなら、朱理が紅蓮とともにここを離脱するだけでいい。
　ここに置き去りにすれば四道は瞬く間に死体の群れに襲われて、朱理が手を下すまでもなく二度目の死を迎えるだろう。
　だが朱理に逃げるつもりは毛頭ない。
　過去に取り残された従兄をこの上、こんなところに捨て置けるはずがない。

「オレが直々に引導を渡してやるんだ。いい加減――」

「オレは抜かないよ、朱理」

　優しい声が朱理の耳朶を打ち、構えていた切っ先がブレた。
　四道の鬼気迫る表情は既に、町づくりを愛した『仏』のものに戻っていた。

「お前は変わった。
　変わったが……朱理のままだ。安心したよ」

　蘇芳を緑に囲まれた都にしたいと、そう語った時と同じ柔らかな笑顔だった。
　桜、梅、桃、楓。
　棗を植え、ブドウの林をつくり、砂漠の中でも栄える美しい国。
　国の真秀ろばを夢見た男の顔だ。

「そう思うか。
　オレは多分、王ではないぞ。
　お前が忠誠を尽くした赤の王は、もういない」

　それでもいいんだと、四道は穏やかに言う。


「オレが見たかったのはお前自身だよ、朱理。
　赤の王じゃない。お前だ。
　お前の走る姿が見たかったんだ」


――ああ。


　四道は死んだ。
　時代に置き去りにされて、取り残されて、いつまでも過去に囚われている亡霊のようだ。
　何もかもがあの頃のままで。
　あの頃のまま――朱理の最大の理解者であり、味方だった。

「四道、オレを試したな？」
「一皮剥けてもまだまだってことだな、お前も」

　いたずらっぽく笑う四道に呆れ、朱理は剣を収めた。
　まだ積もる話はあるが、まずはこの場を離脱するべきだろう。

「それにしても千手とオレの子どもか……。
　今度こそ、帰らなければな」
「当たり前だ。これまで苦労させた分……」


　「何が起きたか」など、四道には分からなかっただろう。
　四道と向かい合わせで立っていた朱理にすら、分からなかったのだから。


　『四道の背後に立つ黒衣の男が、いつからそこにいたのか』。

　『いつ剣を抜いたのか』。



　『いつ、四道の首を刎ねたのか』。



　四道の首が落下していく。
　彼の体も力を失い、崩れるように傾いていく。
　
「ぁ…………」

　朱理の喉から勝手に音が漏れた。
　「逃げろ」と全身が叫んでいる。
　しかし蛇に睨まれた蛙のように一歩たりとも動けず、黒衣の男は不気味に口角を吊り上げた。
　黒衣。黒髪。血のように赤い瞳。そして――

――美しいだろう？

　男の口が、そう動いたように見えた。
　同時に男は『それ』を高く掲げたのだ。

　朱理がこれまでに見たこともない、赤い刀身――


『お前がぁぁぁぁああああああああああああああああッ！！！！』


　機械によって拡大された音声が辺りをつんざくと同時に、紅蓮の大きな左手が黒衣の男の顔面めがけて飛来した。
　跳びすさってそれを避けた男は小さく一つ舌打ちし、さらに大きく後退する。
　既に逃走する算段であることは朱理にも分かった。

『許さない！！　許さない、許さない、絶対に殺してやる！！！』
「カレン、待て！　落ち着け！！」

　朱理とて冷静とはいえない。
　だが完全に怒りに我を失っているカレンを前にして、踏みとどまらざるを得なくなったのだ。

『逃がさないわよ！！』

　紅蓮は朱理を無視して突っ込もうとしている。
　朱理とてここで男を逃がしたくはない。
　だが一つの出来事が朱理の注意を奪った。
　そしてそれはカレンにとっても同様である。
　黒衣の男が数秒前に立っていた場所――即ち四道の死体が、目映く光り出したのだ。

　その光は花火のような音と衝撃をもって空へ打ち上げられ、彼方へ消えた。
　その光を、朱理はただ見送った。

「四道……」

　光が飛び去った後、死体は消えていた。
　黒衣の男もこの隙に乗じてとうにいなくなっており、残るのは死体の群ればかりである。
　紅蓮から、すすり泣く声が木霊した。

&amp;color(red){【四道＠BASARA　死亡】}

▽

　赤い「鎧」は、追ってこないようだった。
　放送局で確保した黒い鎧とは類似点が多くあり、恐らくはこれが本来の能力なのだろう。
　婁の肉体など一撫でしただけで消し飛ばしかねないほどの破壊力を有しており、早々に撤退したのは正しい判断だったと言える。

『…………』

　走ってより遠くへ逃れる中、婁震戒は口を閉ざしていた。
　念願の参加者を斬ったというのに、七殺天凌が沈黙していたからである。
　常であれば玉が転がるような喜悦の笑いが聞けるところであり、婁も当然それを期待していた。
　普段との様子の違いに、婁は黙して彼女が話すのを待った。

『……どうやら、魂魄に逃げられたらしい』
「魂魄？」
『生体魔素は食ろうてやったわ……だが所詮それはうわべだけよ。
　わらわが求めるのは悲哀に、痛みに、絶望に、希望に……何もかも！
　それが、滑り落ちるように離れていきよった……！』
「では、あの光は」

　赤い鎧から離れるため、よく観察していたわけではない。
　だがあの四道という男の死体に何かが起きていたのは確かだ。

『まだ分からん。
　確かなのは、わらわの食事に邪魔が入ったということよ』
「……申し訳ございません、媛。
　このような小細工があろうとは」

　能面のような表情を張り付けながら、婁は内心で怒り狂っていた。
　七殺天凌に血と魂を捧げ、悦ばせることこそ生き甲斐。
　それを妨害されるのは、魂を踏みにじられるのに等しい。

『よい。しばし様子を見るとしよう。
　腹もそれなりに満たされておるのでな』
「御意……」

　煮えくり返るような怒りを抱えたまま、婁は次なる獲物を求め奔走する。



【一日目昼/目黒】

【婁震戒＠レッドドラゴン】
[所持品]七殺天凌、ルルーシュの携帯電話（故障中）、蜃気楼の起動キー
[状態]健康（還り人）
[その他]
・七殺天凌は〈竜殺し〉
・還り人たちを通して会場全域の情報を得る。
・ルルーシュの能力についてほぼ把握
・四道の生体魔素を得る

▽

「……もういいだろう、カレン」
「…………」

　朱理が紅蓮の手に抱えられる格好で離脱した後、二人はまだ被害を受けていない建物の屋上に降り立った。
　カレンは先ほどの狂乱は既に治まっていたが、代わりに大粒の涙をこぼし続けていた。
　それを朱理がなだめているが、厳しく睨まれるばかりだった。

「お前が泣くことはないだろう」
「っ……だって！
　朱理だって、悔しいでしょ……！」
「オレは悔しい。ああ、正直どうかしそうだ。
　だがお前は関係なかっただろう？」
「でも、……朱理の、お兄ちゃんだったんでしょ！？」

　部下であり、兄のようであり、幼い頃から一緒に育った四道。
　その「兄」という言葉は、カレンにとって特別な響きを持っていたようだった。

「死んだと思ってて……でも、また会えて……話せて……っ！
　なのにあいつが！！」

　四道との邂逅は、他人事には思えなかったのだろう。
　カレンは目蓋を腫らし、またはらはらと涙を落とした。

「……ありがとうな、カレン。
　オレの分まで泣いてくれて」

　泣きたい気持ちはあったが、そうしている場合ではないと、カレンのお陰で少しは冷静でいられた。
　胸の内側は、燃えるような憎悪で満たされている。

　殺されたから殺す、そんな時代は終わろうとしているのだと、どの口が言ったのか。
　最愛の従兄をもう一度奪われた男は己の言葉を噛み締めながら、天を仰いだ。

――お前なら、どうするんだろうな。

　こんな時なのに。
　決着の時を目前に控えていたのに。
　自分ではないもう一人の運命の子どもに、思いを馳せずにはいられなかった。



【一日目昼/目黒】

【紅月カレン＠コードギアス】
[所持品]紅蓮聖天八極式、ポーチ、財布等
[状態]健康
[その他]
・紅蓮は〈竜殺し〉


【朱理＠BASARA】
[所持品]剣
[状態]健康
[その他]
・〈竜殺し〉です。
・七殺天凌の【魅了】に抵抗



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|003:[[朱理は紅蓮の野に立つ]]|紅月カレン|-|
|~|朱理|~|
|004:[[国の真優ろば]]|四道|&amp;color(red){死亡}|
|010:[[婁震戒攻略]]|婁震戒|-|


----    </description>
    <dc:date>2017-05-15T23:36:31+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/basararowa/pages/15.html">
    <title>汝は竜殺しなりや？</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/basararowa/pages/15.html</link>
    <description>
      **汝は竜殺しなりや？　 ◆Wv2FAxNIf.


　人々がせわしなく行き来する大通りの、遙か上。
　そびえ立つビルの屋上から一人の少女と一体の魔物が、感情のこもらない目で地上を見下ろしていた。

　少女の名をエィハという。
　肋骨が浮くほど痩せた体に纏うのは、粗末な布きれと最低限の防具のみ。
　年齢は十に届くか届かないかという幼い子どもでありながら、目元の鋭さは獲物を狙う獣に近い。
　頭頂部を挟んで生えた一対の尖った耳は、彼女の血に魔物の因子が混じっていることを示していた。

「……見つけたわ」

　エィハは傍らにいた大型の魔物の背に跨る。
　全体は犬に近く、しかし両腕には蝙蝠の羽根のような皮膜がある、巨大な白い魔物だ。
　潰れた目には包帯が巻かれ、エィハが選んだ小さな花が挿してある。
　エィハの背丈の数倍もの体躯を持つこの魔物を、エィハはヴァルと呼んでいた。
　この「ヴァル」と共にあることこそが、エィハの最大の特徴だった。

　決して、エィハがこの獣を使役しているのではない。
　エィハがこの獣に従っているのでもない。
　彼らはただ“つながっている”。

「まずは――……」

　ヴァルが翼をはばたかせ、標的に向かって一気に高度を下げる。
　目が潰れていようと、魔物にとってそんなことはさしたる問題ではない。
　そしてヴァルは巨体に見合わない俊敏さで空を切り、牙を剥いた。

　幼い少女は必死に考えていた。
　順番を。


　殺す順番を。


「……まずは、あなたから」


　そうしてエィハとヴァルは、一人の少年に襲いかかった。

▽

　枢木スザクが目覚めた場所は地下駐車場。
　騎士服の上に紺と紅の二色の装飾過多なマントという、目立つ出で立ちだった。
　身辺や周囲の確認をした後は、階段で上階へ。
　眼下の街を眺めながら、スザクは〈竜〉と〈喰らい姫〉という少女の言葉を反芻する。
　状況を飲み込むまでに、そう時間はかからなかった。

　耳慣れない単語をいくつも並べられたものの、最初に〈竜〉の存在を見てしまった以上は信じる他になかった。
　それに元よりギアスという超常の能力に関わっていたのだから、多少の耐性はできている。
　スザクは〈竜〉も、儀式も、殺し合いも、全て現実だと受け入れた。

　儀式に巻き込まれた理由も、スザクはうっすらと察していた。
　ここに連れてこられたのは、数日後のゼロ・レクイエムという計画に向けた準備の最中のことだった。
　そして名簿には計画の中核となる二人と協力者一人、そして計画と激しく衝突することになったもう一人の名前がある。
　この時期だからこそ、この四人だからこそ巻き込まれたのだと納得がいった。

　しかし納得したからといって、儀式に協力する気になったわけではない。
　世界の流れを決める力が得られると言われても、それが欲しいとは思えなかった。
　ゼロ・レクイエムは人々にきっかけを与えるものであって、その後の世界を決めるのは人々自身だ。
　思い通りにならない世界に悲しみや憤りを覚えることはあっても、個人が世界を思い通りにできていいはずがない。
　〈竜〉に縋れば、人の意志を踏みにじってきたギアスと同じになってしまう。

　だから〈竜〉を殺す気はない。
　かといって世界を変えるほどの力を、特定の個人に渡したくもない。
　ルルーシュたちとともに生還することが最優先だが、可能なら儀式そのものを壊しておくべきだ。

　そこまで考えた上で、スザクは電話をしていた。

「ルルーシュ、無事かい？
　…………うん。
　さっきは通話中だったから、そうだと思った」

　携帯電話が手元にあるとなれば、当然真っ先に使う。
　この状況で本当に携帯電話が使えるのか半信半疑だったが、幸い電波は問題なく届くようだ。
　電話の相手は神聖ブリタニア帝国第九十九代皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
　友人であり、今のスザクの主にあたる相手でもある。
　ひとまず互いの安全が確認できて、スザクは胸を撫で下ろす。

　その感情は、決して騎士としてのものではない。
　親友だったから、という感傷によるものでもない。
　ゼロ・レクイエムのためには二人の生存が必須だという、打算に近い。

「僕は品川にいるけどどうする？
　……ああ、それなら僕がそっちに向かった方がいいか」

　スザクは与えられた地図と駐車場内にあった路線図とを見比べながら電話しているが、何度も首を傾げる。
　ここはスザクが知るトウキョウ租界とは様子が違うようだった。
　地名、それに路線の名前が少々異なるのだ。
　ルルーシュもそれに気づいているようで、探るようにして待ち合わせ場所を決める。
　ルルーシュは現在、九段下――トウキョウ租界でいうところの政庁付近にいるという。
　環状線の中心部であり、ルルーシュはそこを拠点にするつもりらしい。

「分かった、少しこの辺りの様子を見てから向かうよ。
　近くまで行ったらまた連絡するから、君も何かあったらすぐに電話してくれ」

　その後いくつか確認を終えると、スザクは電話を切る。
　それから別の番号を呼び出そうとしたが、その前に電話がかかってきた。
　ちょうど、連絡しようとしていた相手からだった。

「ジェレミア卿ですか。
　……ええ、ルルーシュから聞きました」

　携帯電話の向こう側にいる相手はジェレミア・ゴットバルト。
　ゼロ・レクイエムの協力者の一人であり、スザクと違って純粋な忠誠心でルルーシュに従う人物だ。
　スザクに先じてルルーシュと連絡を取っていたことからも、彼の性質が窺える。

「九段下ですよね。
　……何か音がしますけど……いえ、それならいいんです」

　電話越しに金属音が聞こえるが、ジェレミア本人が問題ないというのなら問題ないのだろう。
　こんな状況ではあるが、彼がそうそう殺されるような人物でないことは分かっている。

「……ええ。
　全ては、ゼロ・レクイエムのために」

　最低限の連絡を終え、電話を切る。
　本当はもう一人の知り合い――紅月カレンにも電話したかったのだが、スザクは彼女の番号を知らなかった。
　同じ生徒会にいた頃、スザクは携帯電話を持っていなかったからだ。
　しかし知っていたところで、着信拒否になっていただろう。
　自分と彼女の間にある断絶は理解していた。

　代わりに名簿に記載されていない上司にかけてみたが、こちらは電波が届かなかった。
　あの〈喰らい姫〉という少女は、会場内はともかく外界と接触を取らせるつもりはないらしい。

　一通り携帯でできることを試した後、スザクは駐車場の外へ向かう。

　外に出てみて最初にこの「東京」に抱くのは、違和感。
　言いようのない気持ち悪さだった。

　スザクは東京を――トウキョウ租界を知っている。
　しかしここは同じ名前の土地で似た雰囲気を纏っているだけで、別物だ。
　中途半端に似ているだけに気味が悪い。

　異なる点はいくつもある。
　そのうちの一つが、人々がスザクに対し見向きもしないことだ。
　元より悪い形で有名になってしまっていたスザクだが、現在は悪逆皇帝の騎士として戦死したことになっている。
　人々の憎悪を背負って死んだ騎士が化けて出たというのに、注目されるどころか誰も気づかないのは不自然だ。

　そして何より「租界が存在している」。
　それだけで、ここがスザクの知る土地とは全く違う場所なのだと分かった。
　何故ならほんの数ヶ月前、他でもないスザクが、破壊兵器フレイヤによって租界の半径数キロを消し飛ばしたからだ。
　巨大なクレーターと化して死んだ土地が、そう簡単に修復されるはずがない。
　だからここは、日本ではない。
　あの〈喰らい姫〉が言ったように本当に「夢」なのかも知れないと、スザクは自嘲気味に笑った。

　そんな思考をしている最中に、スザクは意識を失いかけた。

「……ッ！！」

　無意識のまま地面を蹴り、転がるようにしてその場を離れる。
　コンマ数秒の差でスザクが立っていた場所を白い巨体が横切り、コンクリートに爪痕を残した。

　「生きろ」というギアスをかけられたスザクはそれを逆手に取り、優れた危機察知能力として活用している。
　その恩恵がなければ、今の一撃は避けられなかったかも知れない。
　そうしてスザクの横を通り過ぎたそれは空中で方向転換し、スザクの方へ向いた。

「女の子……！？」

　そこにいたのは翼の生えた白い獣と、それに乗った褐色の肌の少女だった。
　少女が獣に囚われているのか、獣が少女を守っているのか――いくつか可能性を考えるが、恐らくどれも違う。
　少女は明確な殺意を向けてきている。
　白い獣から向けられている感情と、全く同じものだ。

「次は外さないわ」
「待て！！」

　抑揚のない声で告げた少女に、スザクは会話を試みる。
　無視されるなら応戦する構えだったが、少女は一旦動きを止めた。

「君も儀式に巻き込まれたのか？」
「そう」
「君は〈竜〉を殺したいのか？」
「違う」
「なら、どうして」
「説明する必要があるのかしら」

　短い言葉の応酬を終えると、白い獣が再び牙を剥き出しにした。
　スザクはもう一度、今度は交渉を試みる。

「自分は、君たちを殲滅するだけの戦力を有している。
　これ以上続けるつもりなら、自分はこれを行使する！」

　無表情だった少女が、僅かに顔をしかめる。
　そして値踏みするようにスザクの全身を眺めた。

「……あなたがヴァルより強いとは思えないわ」
「本当に、そう思うかい？」

　スザクは手の中にある「鍵」を握り締める。
　できればそれを使わずに済むようにと、慎重に言葉を選ぶ。

「仮に君たちが勝つとしても、消耗するのは本意ではないはずだ。
　それに、僕も〈竜〉を殺す気はない。
　話し合いの余地はあるんじゃないか？」

　少女は考える素振りを見せていた。
　白い獣と一緒にコトリと首を傾げ、スザクに問いを投げかける。

「……あなたは〈竜〉に興味がないのかしら」
「ないよ。
　できれば誰とも戦いたくない。
　知り合いと一緒にここを出られればそれでいいんだ」

　少女は真剣な表情で熟考を重ねている様子だった。
　やがて白い獣が力を抜き、羽ばたくのをやめて着地した。
　そして獣から降りた少女を見て、スザクは目を剥く。
　一瞬見間違えたかと思ったが――獣と少女の間に、一本の蔦があった。
　それは少女の尾てい骨付近から伸びて、獣の背中に直接繋がっている。

「……いいわ。信用する。
　信用できなくなったら殺すわ」

　この後、スザクは聞かされることになる。
　彼らは“つながれもの”――視界を、魔力を、命を共有する者たち。

「分かった、それでいいよ」

　少女の視線は変わらず、友好的なものにはほど遠い。
　しかし多少ではあるが殺意は薄らいだようだった。
　少女を相手に切り札を出さずに済んだことで、スザクは安堵の息をもらした。

▽

「注文は決まった？」
「少し待って」

　エィハが見つめているのは、スープバーの外にあるフードメニューだった。
　彼女は真剣な表情でそれを見つめ、色とりどりの写真とにらめっこをしている。

「…………」

　さらに二十秒ほど待ってみるが、決まらない。
　これ以上店の前で棒立ちになるわけにはいかないので、スザクは口出しすることにした。

「僕の分も選んでいいよ。
　後で少しあげるから」
「いいの？」
「うん」

　相変わらず表情の変化は乏しいが、少しだけ声のトーンが明るくなった気がした。
　戦いさえ絡まなければ、同年代の少女とそう変わらないのかも知れない。

　無事に注文を終えて、スザクとエィハはカップを持って席につく。
　ヴァルの巨体では店内に入れなかったため、テラス席を選んだ。
　ヴァルは「おいしいものなら何でも食べる」とのことだったのでカレーを注文したが、気に入ってもらえたように見える。

「それ……外れないんだね」

　スザクは彼らを繋ぐ蔦に視線を遣る。
　簡単に説明を受けたものの、「魔力の蔦で繋がっている」と言われてもピンとはこなかった。

「私はヴァルで、ヴァルは私。
　そういうものだから。
　……あなたは、本当につながれものを知らないのね」
「魔物っていうのを見るのだって初めてだよ。
　君が住んでいたところでは有名だったのかい？」
「珍しくはなかったわ。
　いい顔はされなかったけど」

　冷めた口調で言いながら、エィハがカップを手に取る。
　彼女が真っ先に注文したトマトシチューだ。
　トマトの香りが湯気とともにスザクの席まで届き、思わず喉を鳴らしそうになった。
　とろみのあるシチューをスプーンで掬い上げたエィハは、それを口に含んだ途端に目を丸くする。

「……おいしい」
「そう、よかった」

　エィハに触発されて、スザクも自分のカップに手を伸ばした。
　エィハが悩んだ末に選んだのは、牛すじ肉と野菜のスープ。
　シチューと違って透明度の高いスープだが、口にした途端に濃厚な牛肉の味が口いっぱいに広がった。
　薄味ではない、しかしさっぱりとしていて飲みやすい。
　大根を中心とした具にも肉の味が染み込んでおり、口の中で野菜の味と絡み合う。
　主役である牛肉は噛みごたえを残しつつも柔らかく、旨みが凝縮されている。
　思わずもう一口、というところで、スザクはカップをエィハに差し出した。

「僕の分もどう？」
「もらうわ」

　店に入った目的として、座って話せる場所が欲しかったというのはもちろんある。
　しかしそれ以上に、スザクはエィハの痩せた体を見て、思わず何かしてやりたくなってしまったのだ。
　エィハがスープを希望したのでこの店になったが、もっと腹持ちのいいものを食べさせてやりたかったぐらいだった。
　一時期スザクの同僚だった少女に雰囲気が似ていたことも、情が湧いてしまった原因の一端だろう。

　同情を喜ぶような少女ではない。
　それでも夢中でスープを口に運ぶ彼女の姿を見ると、少しほっとした気持ちになる。
――この後、彼女を殺すことになったとしても。
　酷い偽善だと、スザクは吐き出しそうになった溜息を飲み込んだ。

「あなたは、いい人なのね」
「……いい人じゃないよ。
　これだって、ただのスープだし……」

　先ほどまで殺気に満ちていたとは思えないほど、エィハの様子は丸くなっていた。
　スープだけでここまで態度を変えられてしまうと、お節介ながら彼女の将来が心配になる。

「毒を盛られるとは思わなかった？」
「あなた、自分が飲んでからくれたでしょう」
「あ、そこは見てるんだ……」

　エィハなりの判断基準によって「いい人」と評価されたようだが、調子を狂わされてしまう。
　余計なことを、考えてしまう。
――ルルーシュ、カレン、ジェレミア、そして自分の四人が生き残るなら、あと一つ席が残る。
　もし殺し合うことになったとしても、彼女一人なら助けられるのではないか、と。
　そんな甘い考えを、思い浮かべては打ち消した。
　計画に支障をきたしかねない甘さは、捨てなければならない。

「あなたは戦わずに、知り合いと一緒にここを出られたらいい……と言っていたわね」
「ああ、うん」
「無理だと思うわ」
「えっ」

　突然断言されて、スザクは驚きの声を上げる。
　そんなスザクの反応を無視して、相変わらずエィハは淡々とした声で意見を述べた。

「私は以前〈喰らい姫〉に会って、〈竜〉の話を聞いた。
　だから私は彼らがどんな存在か知ってる。
　あなたがいい人だと思うから、忠告してるのよ」

　エィハはパンを頬張った。
　それからスープを口に含むと、また少し口元が緩んだ気がする。
　そして彼女が咀嚼を終えたタイミングで、スザクは質問した。

「〈喰らい姫〉って何者なんだい？」
「〈赤の竜〉と縁が深い、巫女のようなものだと聞いたわ。
　でも、例えば彼女を捜し出して説得したり、殺したり。
　そういうことをしても、この儀式は止まらないと思うの」
「そうなの？」

　儀式を止める方法として、真っ先に思い浮かぶのがそれだ。
　元凶と思われる少女を止めれば終わるのではないかという考えを、確かに持っていた。

「本人が言っていたように、彼女はただの案内人よ。
　『そういうもの』を『そういうもの』だと伝えるのが彼女の役目。
　儀式といっても、彼女が執り行っているわけじゃなくて……多分『そういうもの』なのよ」
「随分、曖昧な言い方だね」
「話す相手と言葉は選ぶわ」
「なるほどね」

　エィハの様子からは、既に自分の考えに確信を持っているように見える。
　それでも曖昧な物言いになるのは、要はスザクには詳細を話せないということ。
　彼女は「いい人」への最低限の忠告をしているのであって、それ以上の情報を渡すつもりはないのだ。
　残念ではあったが、スープだけで完全に気を許されたわけではないと思うと逆に安心した。

「それに前に私が会った時は、彼女は消えたわ。
　話が終わってすぐに」
「どこに？」
「行方知れずになった、という意味じゃないわ。
　消えたの。
　彼女も『夢』だったんだろうって、私と一緒にいた人は言っていたわ。
　だから儀式の説明を終えた以上、彼女はもうどこにもいないんじゃないかしら」

　今から〈喰らい姫〉を捜したとしても見つからない。
　彼女は既に役目を終えているから。
　そんな忠告を、エィハは続ける。

「だから〈竜〉と彼女が言っていた通り、生き残れるのは五人だけ。
　戦うしかないし、殺すしかない。
　そうしたらあなたはどうするの？」

　パンの最後の一口を手にしたまま、エィハは問うた。
　鋭い視線は「いい人」の反応を、一挙一投足を見逃すまいとしているようだった。

「僕と僕の知り合いには、やらなければならないことがある。
　だから、どうしてもその必要があるなら。
　僕には殺す覚悟がある」
「それならここで私も殺す？」

　エィハが間髪入れずに問いかける。
　既にパンを食べ終えて、スープも飲み干している。
　エィハとヴァルの二方向から殺気が飛ばされて、いつ飛びかかられてもおかしくない状況だった。
　しかしスザクの返答は変わらない。

「戦いたくないよ……今は。
　君は無理だと言ったけど、僕はまだ諦めてないから。
　襲われたら別だけどね」

　そうしてスザクは逆にエィハに釘を刺し、目を細める。
　殺気で怯むほど、平坦な人生は送っていない。

「…………そう。
　それなら私も、今はあなたと戦わないわ」
「試したのかい？」
「あなたが戦いたくないだけの人なら、殺してたわ」

　エィハはさらりとそう言ってのける。
　そしてスザクがそれに反応しようとした時、携帯電話が鳴った。

「ごめん、出るね」

　そういえば携帯について説明していなかったと気づいたが、特に警戒された様子はなかった。
　画面に表示された名は、ジェレミア・ゴットバルトだ。

「はい、もしも――」

　電話に出た途端、ジェレミアの剣幕に圧倒されてしまった。
　しかし一拍遅れて彼の言っている意味を理解すると、スザクの背筋に冷たいものが走る。

　ルルーシュと電話が繋がらない。

　『街中で動く死体が大量に発生した』。
　『そのことをルルーシュ様にお伝えしようとしたが、繋がらない』。
　『私は既に九段下に向かっているので、君も早く来い』。
　それだけ伝えると、ジェレミアはすぐに電話を切ってしまった。

　動く死体、というのは意味が分からなかったが、ルルーシュの安否不明という一点で事態の深刻さを理解した。
　スザクもルルーシュの番号を呼び出してみたが、確かに繋がらない。
　ルルーシュの身に何かあっては、計画は終わりだ。
　スザクは音を立てて椅子から立ち上がった。

「エィハ、――」
「何か来るわ」

　事態を彼女に伝えようとして、しかしそれを遮られる。
　エィハが見ているのは大通りの先――ヴァルが見ている景色。
　人には見えない遙か遠くを見据えている。
　同じようにスザクもエィハが見つめる方向に目を凝らすが、何かが蠢いている、以上のことは分からない。
　視力には自信があったのだが、エィハたちには敵いそうになかった。

「動く死体が大量に現れた、って知り合いが……」
「多分、還り人よ。
　向こうから来てるけど、誰か戦ってるみたい」
「一人で？」
「ええ」

　還り人とは「起き上がった」死者のことであり、その多くが人を襲うのだという。
　そこまで聞いて、スザクは決意を固める。
　ルルーシュを捜しにいく前に、やるべきことができてしまった。

「……エィハ、安全な所に逃げられるかい？」
「ヴァルがいる所が、安全な所よ。
　あなたはどうするの？」
「その人を助けにいく」

　エィハが目を見張る。
　それに構わず、スザクは『鍵』を握り締めた。

「ここでお別れだ、エィハ。
　こんなことを言うのは変かも知れないけど、気をつけて」

　向かうのは「還り人」がいるという方角ではなく、スザクが初めに目を覚ました駐車場。
　エィハを残し、スザクは走り出す。

▽

　ヴァルの背に乗って風を切る。
　ごわごわとした毛並みと温かさを全身で感じる、いつも通りの感覚。
　エィハとヴァルは必死で考えた「順番」に従って、再び爪と牙を振り上げた。

　ヴァルの爪が還り人の手足を千切り、牙がその爛れた体を噛み砕く。
　十把一絡げに、還り人たちをなぎ倒していく。

「おっ。手伝ってくれんのか嬢ちゃん」

　そう気さくに話しかけてきたのは、たった一人で還り人の群れを相手にしていた大柄な男だ。
　伸びっぱなしになった金髪を額に当てた布で纏めており、背丈はエィハの倍ほどもある。
　棍一つで複数の還り人に対抗できるほどの実力者――否。
　得物の一振りで整備された地面を叩き割るのを見るに、単に「鍛えている」の域を超えている。
　そんな男が、エィハに対して豪快に笑った。

「がっはっは、面倒なことに巻き込まれたところにこいつらが来たもんだからよ！
　ちょいと相手してやろうと思ったらキリがねえんだ、これが。
　街の連中は、逃げろっつっても聞きゃあしねえしよ！」

　エィハはその雑談を半ば無視して還り人を狩る。
　ヴァルが噛み潰し、踏み砕き、次の還り人を狙う。

「おーっ、すげぇなその白いの！　霊獣か？」
「ヴァル」
「ヴァルか、強いな！！」

　男はヴァルの凶行やエィハの淡白な反応に不快感を示すでもなく、平然と笑っている。
　エィハにはこの男の肉体の強靱さよりもその精神性こそが、人間離れしているように思えた。

「俺ぁ周の開国武成王、黄飛虎ってんだ」
「エィハ」
「よしエィハ、ここを切り抜けんぞ」

　ヴァルと飛虎が、死体を死体へ還していく。
　飛虎が言ったようにキリがないと、エィハがそう思い始めた頃。
　エィハたちの頭上に影が差し込んだ。

『エィハ、そこを離れて！』

　聞き覚えのある少年の声に、エィハが顔を上げる。
　そして――硬直した。
　〈喰らい姫〉が儀式の宣告をした時以上に、エィハは不意を打たれてしまった。
　しかしすぐさま我に返り、ヴァルに方向転換させた。
　飛虎の襟首をくわえ、ヴァルが飛ぶ。

　空中に浮かぶのは鋼鉄の鎧。
　「それ」は銃を構えていた。
　しかし銃口から放たれたのはただの弾ではない、光の弾丸だ。
　弾丸は還り人の群れの中心に着弾し、轟音を掻き鳴らす。
　それだけで還り人たちは文字通り蒸発し、大通りにはクレーターができあがった。

　「それ」がもたらした光景を見て、エィハは〈赤の竜〉に初めて出会ったオガニ火山での出来事を思い出す。
　「エィハが一度殺された」、あの時。
　狂乱した〈竜〉のブレスによって人は焼け、岩すらバターのように溶けた。
　規模こそ比べものにならないが、「それ」の持つ力は〈竜〉に比肩し得る。

　だから「それ」は「そう」なのだろう。
　エィハは小さく、そばにいる飛虎の耳に届かないほどの声量で呟きを漏らした。


「そこにいたのね、〈竜殺し〉……」


▽

　KMF（ナイトメアフレーム）――人型自在装甲機と呼ばれる機動兵器。
　人がコックピットに乗り込んで操縦する、鋼鉄の鎧の総称である。
　スザクの切り札であるランスロット・アルビオンはその中でも、技術の粋を詰め込んだ最新鋭のものだ。
　ダモクレス戦役で爆発四散したはずのこの機体が、何故完璧な状態で用意されていたのかまでは分からなかった。

　スザクはランスロットを降り、還り人と戦っていた男に会いに行く。
　途中、手伝ってくれたエィハに礼を言ったのだが、考えごとをしていたようで返事はなかった。

「ばっはっは！！！
　いやー、エィハも兄ちゃんも、仙道でもねぇのに強ぇな！！」

　黄飛虎と名乗った男は、スザクの背をばしばしと叩いた。
　初めて見たというKMFにも物怖じしない豪快な人物だ。
　そんな彼を見ていて、スザクは「父親」というものを思い出しそうになる。
　しかし自分にその資格はないと、感傷に重石をつけて、心の底に沈めて蓋をした。

「無事で何よりです。
　だけど……すみません、自分は友人を捜しに行かないと……」
「それなら俺も付き合うぜ！」

　飛虎が堂々と己の胸を叩く。
　殺し合いの最中だというのに、スザクを疑うという発想はないようだ。
　そのお陰でスザクの方も、飛虎を疑う気は失せてしまっていた。
　とはいえランスロットは一人乗りであり、スザクは答えに窮した。
　そこに、意外な声がかかる。

「ヴァルの背中に乗ればいい」

　助け船を出したのはエィハだった。
　スザクが飛虎と話している間、彼女はずっとランスロットを観察していたようだ。

「狭いんでしょう？　あの、乗り物」
「うん……ランスロットっていうんだ。
　確かに、一人乗りだ」
「あなたにしか操縦できないの？」
「そうだよ」
「…………そう」

　エィハの申し出はありがたいものだった。
　状況が最終的にどうなるかは不透明だが、今のうちは仲間を作っておいた方がいい。
　そして飛虎と同行するなら、エィハとヴァルがいてくれた方が都合がいい。
　しかし、疑問が残る。
　そもそもエィハが何故飛虎を助けたのかも分からず、スザクは問う。

「どうして、僕に付き合ってくれるんだい？」
「付き合いたいと思ったから」

　一瞬で嘘と分かるような台詞を、エィハは眉一つ動かさずに口にした。

　短い間ではあるものの、エィハと話していて分かったことがある。
　彼女は隠し事が下手だ。
　隠している内容は決して言わないが、隠し事をしているというそれ自体は隠せない。
　今もそうだ。
　何かを隠していて、そして何を隠しているのかは言うつもりがない。
　ただ、何かしらの打算によって動いているのは確かだ。
　そこまで分かった上で、スザクは受け入れることにした。
　ここで突き放しても、お互いの危険が増えるだけだろう。

「……分かった。
　エィハ、これからもよろしく。
　飛虎さんも」

　飛虎はともかく、エィハからは目を離さない方がいい。
　スザクはそのことを肝に銘じた。

▽

　エィハには目的がある。
　忌ブキを王にするという確固たる目的が。
　そのためには今すぐにでも十五人を殺し、忌ブキを守らなければならない。
　だが、それだけでは足りない。
　エィハのもう一つの目的のためには“順番”を守る必要がある。

　目的を果たすための条件そのものは、シンプルではあった。
――〈竜殺し〉を全員殺す。
――その後で〈竜〉を殺す。
　直接でもいい、間接でもいい、事故でもいい、順番通りに〈竜殺し〉と〈竜〉が死ねばいい。
　〈喰らい姫〉から教わったその順番を守るために、そして同時に忌ブキを死なせないために、エィハは動いていた。

　エィハには〈竜殺し〉を見分けられるが、かといって〈竜殺し〉を見つけた端から殺していけばいいというわけでもない。
　強力な能力を持つ〈竜殺し〉の手を借りなければ、更に強大な〈赤の竜〉を殺すのは難しいからだ。
　〈竜殺し〉たちを殺して〈竜殺し〉でない者たちだけで〈赤の竜〉に挑んでも、〈竜〉を殺せなければ意味がない。

　最も理想的なのが、〈竜殺し〉ではなく、それでいて強力な仲間を見つけることだ。
　逆にそれができないのなら〈竜殺し〉と〈竜〉が衝突するように仕向け、互いに弱ったところを襲うといった手間が必要になる。
　確実に順番を守るにはどうすればいいのか、エィハは悩んでいた。

　初めにエィハがスザクを襲ったのにも、この順番が関わっている。
　彼は〈竜殺し〉ではなかったが、〈竜〉討伐の仲間とするには力不足に思えたのだ。
　それに忌ブキを最後の五人に残すために、殺せる相手は殺しておいた方がいいという判断があった。

　その後スザクと協力する方針へ変えたのは、彼が戦力の保持をほのめかしたからだ。
　〈竜殺し〉ではない、かつ信用できる戦力が手に入るとすれば願ってもない。
　飛虎を助けたのも、そのスザクに恩を売るためだった。

　そうして、エィハは常に“順番”に従って行動していた。
　必死に考えて、考えて、最善を選んできたつもりだった。
　しかしランスロットの出現が全てを狂わせた。

　婁震戒が持つ剣は〈竜殺し〉だ。
　無機物が〈竜殺し〉となる可能性を、エィハは知っていた。
　それでもスザクが〈竜殺し〉ではないと分かった時点で、どこかで思考停止してしまっていたのだ。


　ランスロットは〈竜殺し〉。
　〈竜〉の力を受け継ぐ資格を持つ器。
　ランスロットを破壊しなければ、エィハの目的は果たせない。


　この鋼鉄の鎧を、ヴァルの爪では突破できない。
　またスザクを殺すだけではランスロットを破壊したことにはならない。
　これを壊すにはどうすればいいのか。
　誰を殺せばいいのか。
　誰から殺せばいいのか。
　先を歩くスザクの背を見つめながら、エィハは考え続ける。


　大切な、友達のために。


【一日目昼/品川】

【枢木スザク＠コードギアス】
[所持品]ランスロット・アルビオン
[状態]健康
[その他]
・ランスロットは〈竜殺し〉

【黄飛虎＠封神演義】
[所持品]棍
[状態]健康
[その他]
・〈竜殺し〉ではない

【エィハ＠レッドドラゴン】
[所持品]短剣
[状態]健康（還り人）
[その他]
・特記事項なし


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|&amp;color(blue){GAME START}|エィハ|013:[[竜殺しを探して]]|
|~|枢木スザク|~|
|~|黄飛虎|~|


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    <dc:date>2017-05-15T23:36:01+09:00</dc:date>
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