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清々那 帰莢ss『清々那帰莢』


     ◇◇◇


 わたし世界には人間と魔人、二種類のヒトがいる。
 何の能力ももたず、魔人を恐れて、ひそひそとただの人間たちは、魔人を蔑んでる。
 わたしの養父(ちち)もその一人で、わたしを拾ってくれたヒトは、そんな養父と結婚した。
 そのヒト、養母(はは)は、魔人でありながら、ただの人間として生きた。一日一日が幸せならそれで十分だと言っていた養母は、最期まで魔人としての特異な能力を私に見せることはなかった。養父も、わたしに養母のようになって欲しいと思っている。けど、そんな幸せがいつまで続くのだろうか、とわたしはふと不安に駆られる。
 虚構だ。外を歩けば、魔人を差別する声は、テレビやラジオ、さまざまなスピーカーを通して町中に響き渡っているし、人間たちと魔人の小競り合いはどんどんエスカレートして言っている。世界はまるで平和であるように取り繕うけど、こんな世の中が平和(まとも)なのだとしたら、そんなことを言う人は、頭のねじが一本なんてもんじゃなく、すべて引っこ抜かれてるとしか、わたしには思えない。
 学園で覚える、浮遊感と、家で覚える実感。二つの世界の狭間でいつも感じる。
 近所の子達は、わたしを慕ってくれる。養父は、滅多に家には帰ってこないけれど、それはそれで気が楽だ。
 養父は嫌いじゃない、けど、厳しい人だから、みんなが委縮しちゃう。お茶目な人なんだけど、素直じゃないから。みんなの前では、怖いおじさんなんだ。
「夕飯食べるひとー」
 夕方の稽古のあと、子どもたちの何人かに料理を振舞って、その後は、またみんなの稽古を見守る。
 養父のお弟子さんで、お手伝いの吉田さんが、みんなの指導をする中、わたしはただ見ているだけ。たまに、子どもたちの何人かが、わたしにアドバイスを求めるので答えることはあっても、わたしは手を出すことはしない。
 わたしが養父に教え込まれたのは、みんなに教えられるものじゃないし、それは「楽しさ」とは違う。
 その点、吉田さんはスポーツとして父に師事していた人なので、みんなへの指導はさすがだ。もしこれが養父なら、みんなあんな楽しそうに生き生きと試合はできなかっただろう。どんなにスポーツとしての瞳術に貢献しても、根本的には、養父にとって、瞳術は、まだまだ殺し合いの道具なのだ。
「キサ姉ちゃん! 明日はホットケーキ食べたい」
 夜の稽古が終わる。何人かが集まってわたしに言う。
「ホットケーキかー。作ったことないなー」
「『つくってー』」
 子どもたちの声が重なる。なんだか可愛らしかった。
「うーん、でも味は保証しないよ?」
 そう返したところ、子どもたちは途端に歓声をあげる。
 わたしは、部屋の本棚にある、料理本の中を思い返しながら「ホットケーキってあったかなぁ」と心の中で呟いた。


 養父の言いつけを無視して、わたしは今日もいつも通りにあの学園へ行った。養父はわたしが希望崎へ行くのを嫌った。
 養父はわたしには、普通の人間として暮らしてほしいと願ってる。だけど、周囲の人は誰もわたしをそう見てはくれない。なら、あんな血生臭く、野蛮な場所でも、わたしの居場所はあそこにしかない。
「瞳術ってさー」
 屋上で昼食をとっていると、同じ委員の同級生が私に問いかけてきた。
「本当に、魔人じゃなくてもできんの?」
「できるよ。個人差はあるけど、近所の子たちはみんなできてる」
「ふーん、やってみせてよ」
「いやだよ」
「どうして?」
「わたしのは、そういうのじゃない」
「えー、なんだよ、もったいぶってー」
 そいつは、口を尖らせながら、わたしの横に座った。
「おまえってさ、ここじゃいつも無表情なのに、ガキどもの前じゃ、あんなふうに笑えんだな」
「だから?」
「ん? いや、別に」
 何が面白いのか、そいつはわたしがお弁当を食べる様子をじっと見つめている。
「作ってんだな」
 そいつはわたしのお弁当の中を指差す。
 見るとそいつは嬉しそうに、タコの形に切られたウィンナーを指している。
「悪い?」
 わたしはそれを箸でつまんで口に運ぶ。
「いやー」
 なんだか、気に食わない。だからと言って、特別そいつを気にするのも癪だった。
「行くのか?」
 弁当を食べ終え、それを片づける。
 立ちあがって歩き出したわたしに、そいつは「またなー」と手を振った。


    ◇◇◇


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