ついにあの日がやってきた。
「(俺は、バトロイから去るんだ)」
星川はこう心に念じてスタジアムに入っていった。
バトロイスタジアムは超満員。誰もが星川のラストバトルを一目見ようと詰めかけたのである。ちょうど星川がロッカールームに入ろうとした瞬間
「やったーっ!!」と、これから出場する見知らぬファイターがラジオでバトロイ中継を聴いていたのである。
「やりました、島田真北、D-BR杯優勝であります!」ラジオから実況の声が漏れる。
「こんにちは」と、星川、ロッカールームに入る。
「ああ、星川さん、こんにちは」と、ラジオを聴いていたファイターも返す。
「島田、これでMarinonet.9度目のV、しかし、今日はあくまでも脇役としての登場。星川弘引退への祝砲となりうるか」
「ええ?引退なさるんですか?」
「そうです。」
「どうして!?私はあなたに憧れてバトロイ界に入ったんですよ」
「もう、俺はまともに勝てないんです」
「そんなぁ・・・」と、そのファイターは落ち込み始めた。
星川も自分の引退で多くの戦友やライバル、そしてファンのみんなに失望を与えるのを恐れ、悩み始めた。
重い空気が漂うロッカールーム、そこに
「来たよ」と、現れたのは江藤
「出るんだな、一緒に」
「うん、出るよ」
「いよいよ最後だな、こんなオンボロな男ですまねぇ」
「そんなことないよ、星川君は今まで多くのバトロイファンに希望を与え続けてきた。それだけじゃない、多くの敵味方のファイターにも闘志を与えてきた。たとえ凡退続きでもきっといつかは優勝すると誰もが信じているわ。だから、頑張って」
「うん」
そして、ついにその夜、星川弘がリングに現れた。
「さあ、場内は大盛り上がりであります!星川弘、これが最後のファイティングとなるでしょうか。おっと、今日は江藤小百合も一緒であります!」実況は大張り切り。
「星川ーっ!絶対優勝しろーっ!」
「今日こそ『名古屋はええよ』歌ってくれ!」
と、観客は声援を送る。
とある観客席の一区画が赤色に染まっていた。そう、名鉄の星川弘後援会のみんなである。会長はあの星川の上司の助役である。その助役は旗を振っている。
「必ず勝ってくれる」
「さて、いよいよ星川弘ラストバトルの幕開けであります」
試合開始の笛が鳴る。4人とも互角な戦いを演じていた。星川はこつこつと敵に攻撃を与えていく。
「そーれっ!」だが、敵の猛攻に叩かれ、星川は倒れた。
「1,2,3,」と審判はカウントを入れ、星川、初戦を落としてしまった。
場内はため息とどよめきに満たされる。
「星川、1回目のバトルをものにすることはできませんでした」
続く2回目、これまた苦戦を強いられ
「1,2,3,」と、星川はカウントを入れられ、ノックアウト。
そして迎える3回目、試合は残り2人の中に星川が入り、勝利が見えてきた。星川は勝機をしっかりと掴み、1勝目をあげた。
4回目こそは星を落とすものの、続く5回目は勝利を手にして2勝目、波に乗ってきた。
「いいぞ!星川!」
「このままD-BR杯へと出るんだ!」
しかし、6回目、7回目と星を落とし、残りLIFEは7に、暗雲が立ちこめ始めた。
「ダメです、星川勝てません!」
負けるたびに失望のどよめきが上がってくる。今日もだめなのか、最後までだめなのか。とその時。
「剣聖・聖良紅牙、選手登録のお知らせです。聖良紅牙、紺野悠牙、草薙辰哉」
と、入場門から紅牙、悠牙、草薙の3人が入ってくる。
「おお、助けに来てくれたのか」と、星川
「弘君、来たぞ」と、紅牙
「みんな、ありがとう」と、星川は頭を下げる。
だが、その後、草薙が調子に乗って4連勝するなど、勝ち星のチャンスが訪れず、ライフはことごとく減っていく一方に。
「草薙!お前ちょっと自重しろ!」
「レオン、お前もや!」
客席からは野次やブーイングが飛ぶ。すると
「おーい!星川!あかんわ!負けフラグや!」と、助役が叫び出すと、場内は騒然となる。名鉄のほうで事故があり、ダイヤは混乱していたのである。
「何ですって!?」と、江藤
「そんな・・・・どうしてだ・・・」
名鉄のダイヤ崩壊、そう、それは星川や江藤に惨敗をもたらすジンクスである。
「あーっ、これはいけません。この知らせが出ては決してプラスにはなりません!」と、実況
場内は依然騒然となる。
まだ未勝利の江藤、不安がよぎる。だが、かろうじて勝利を掴んだ。
次の試合、星川は江藤の助けもありなんとか勝利をものにする。しかし、その次はあっさりとノックアウト。もう、残りLIFEは1。
「あーっ、これはもうダメです。救いようもありません!」実況、絶望感をあらわにする。
「あかん、まああかん」と、後援会の一人の名鉄社員が目を覆う。
「目をそらしたらあかん、最後まで見ておれ」と、助役
「どうでダメですやん」
「ダメやと思うたらダメなままで終わるがな」
いよいよ残りライフ1の江藤がリングに上がる。
「江藤さん頑張れ!何としてもつなげろ!」
試合は江藤の勝利。何とか望みを繋いだか
「よっしゃー!」
そして次の試合、星川がリングに上がる。これが最後となるのか
「さあ、星川弘、これが最後の試合となるのか、リングには悠牙、レオン、そして江藤がいます」
ピーッ!! 試合開始の笛が鳴る。
「試合が始まりました。まず、星川の先制パンチ」
星川のパンチがレオンに2発炸裂。
すると悠牙が星川に攻撃。
「それーっ!」
しかし星川はこれをかわした。
その後も、4人が互角な攻防を繰り広げ、30秒後、試合が動いた。
星川は高く跳び上がり悠牙にボールを力一杯投げた。
「俺は勝つんだっ!」
ボールは悠牙の腹に直撃、悠牙は倒れ、3カウントを入れられ、脱落。まず一人抜けた。
しかし、体力が減っていく。試合はレオンが優勢。
「あーっ、ちょっとこれは厳しいぞ!」
星川、だんだん動きが鈍くなる。
「(俺は最後までダメなのか・・・・)」
「弘!諦めるな!」と、リングの外から紅牙の声が
「(紅牙?)」
「弘!たとえダイヤが乱れても、きっと今日はそんな悪いジンクスを払拭できると信じてる!だから勝て!頼む!希望を捨てるな!ここで諦めたら本当に試合終了だぜ!?」と、紅牙は必死で星川を叱咤する。
「(わかった・・・)」
すると向こうでは意識朦朧としている江藤が、力を振り絞り、攻撃の手をレオンにし向ける。
「おっと江藤、これは会心の一撃になりそうだ!」
江藤、レオンに全身で飛びかかる。だが、レオンそれをかわした。
「いかん」
レオンの後ろには星川がいた。
「星川、後ろ後ろーっ!」と、紅牙は叫ぶ。
「えっ!?」と、星川はあわてて振り向くが遅かった。
「ぐわぁっ・・・・」星川、倒れた。
審判はその場でカウントを開始する。
「1,2,」
「頼む、起て、星川弘、お前は最後も無惨に終わるのか」と、紅牙
「3,」と、審判はカウントを入れ終わり、非情の笛を鳴らした。
ピーーッ!! その瞬間、星川の凡退が決定した。
そして、その後、レオンに一撃を加えられた江藤、マットに倒れ、そのまま敗退が決定した。
「試合終了、星川弘、最終戦も結局勝利ならず。引退登録をD-BR杯出場で飾ることはできませんでした!」
マットに倒れた無惨な二人の姿。ある観客は泣き、ある観客は言葉を失い、ある観客はショックを受けた。
「ダメだったか、結局」紅牙、落ち込んで残りの試合を消化した。結局意気消沈で2勝どまり。4連勝した草薙も勝てず凡退。悠牙、6勝しD-BR杯に出たものの、栄冠を掴むことはできなかった。
治療室に運ばれた星川と江藤、星川が目を覚ます。
「最後まで負けたのか、無念だな」と、そばにいたのは真北だった。
「島田さん」
「ああ、残念だ。せめてD-BR杯ぐらいは出て欲しかったさ」
「でも、俺にはもうチャンスが・・・」
「ここだけの話だ。明日もう一度チャンスをやる。これでもあかんかったら潔く身を引けばいい」
「ほ、ほんと?」
「そうだ、鬼神のおっさんに頼んできたから」
結局、引退セレモニーも行われず、一夜が明けた。関係者はセレモニーが行われない異例の事態に気づき、鬼神監督はまた何か考えてるのではないかとの噂がでた。
星川、宿舎から出ると、そこには
「あら、星川さん」
「あっ、あなたは」東海の森由紀子である。
星川と森はスタジアムへと歩き始めた。
「今日で終わりだね」
「そうです。もう終わりなんです」
「そういや監督さんがリバイバルでうちの駅員が一回限りで参加するらしいよ」
「リバイバル?まさか」
「ああ、安城で駅員やってる谷野さんね」
「た、谷野やと?」
「もうスタジアムに着いてはるらしいよ」
「えっ、マジすか」
「うん、」
こうして、2人はスタジアムに到着。するとそこには監督の姿が
「監督」
「ああ、星川よ、今日のリバイバルは谷野だ」
すると谷野京子が現れる。
「星川さん、久しぶり」
「ああ、久しぶり」
「とりあえず、D-BR杯に出ましょう」
「よし」
白昼のスタジアム場内、いつにもまして閑古鳥だった。だが、場内アナウンスにある一人の男の名前があがる。
「石坂線の鬼神、選手登録をお知らせいたします。ドッチャー・アルフェンス、谷野京子」
ドッチャー・アルフェンス、その懐かしい名前に誰もが耳を疑った。
「あれ?昨日で引退じゃなかったっけ?」
「さあ?知らないな」
場内には赤いバトルコスチュームのあの男と、紺色の服の女が現れた。
「なんと、星川弘がもう一度出て来ました!それも往年の登録名で!そして隣には彼の元ライバル、谷野京子がいます!」
そのスタジアムの近くの市街地、ドッチャー・アルフェンスがバトロイに現れたという情報が流れ、人々はラジオなどでバトロイ中継を耳にしていた。
さて、気になるドッチャーの第1戦、しかし星を落とす。続く第2戦も落とし、第3戦、ようやく1勝目を掴む。第4戦で負けて第5戦でまた勝利、その後こつこつと勝利を重ねてついに4勝まできた。だが、連勝ができない。2連勝するとLIFEが1回復するというルールにもかかわらず、それに恵まれず、劣勢が続いていた。更に悪いことに、昨日散々苦しめられたレオンがいた。そのせいで精彩を欠いた。
残りライフ1で迎えた試合。いよいよ、これが最後のチャンスとなりうるか。4人の戦力が一様だとしても勝てる確率は25パーセント。
「確か、あのときは新幹線のようなものと東方キャラ、そして谷野と星川がいました」と、真北は語る。
ピーッ! 試合開始の笛が鳴り響いた。4人が一進一退の攻防を続けて30秒、まず試合が動いた。
「喰らえ!パノラマカーダンプ飛ばし!」
ドッチャーの会心の一撃、当たったのは・・・・
「盗〜〜んだバイクで走〜〜り出す〜〜!!・・・・」霊烏路空だった。これで残るは3人
だが、新幹線男ひかり347号の一撃。
「ぐはぁっ・・・」ドッチャー、倒れる。
「ああ!ドッチャー倒れた!起き上がれない!」
審判はカウントを入れる。
「1,」
「起て!起つんだドッチャー!」と、観客席から真北が叫ぶ。
「お願い!起って!」と、相本も
「頼むーっ!起ってくれーっ!」と、中原
「2,」
「お前のD-BR杯優勝が見たいんだ!」と、北村
「起きろ!起きてくれ!」と、船木平次郎
応援に詰めかけた鬼神軍の選手達は必死にドッチャーを励ます。審判が「3」を言おうとしたその瞬間、ドッチャーは立ち上がった。
「おお!ドッチャーが起った!」
そして谷野が新幹線男に援護の一撃。
ドカァッ! 新幹線男は倒れた。
「1,2,3,」新幹線男、脱落。だが、次の瞬間
「俺は・・ダメだ・・・」ドッチャー、性根尽き果て再び倒れた。
「ああっ!」
そして審判はカウントを入れる。
「1,2,」すると客席入り口から
「起て!星川弘!」と、誰かの叫び声が
「誰や」と、真北は振り向く。
しかし審判は最後の数字を言う。
「3」
ピピーッ! 試合は終わった。ドッチャー・アルフェンスこと星川弘、現役最終戦は4勝で終わった。
「ああ、ダメか・・・」応援むなしく、がっくりする鬼神軍一同。そしてその後ろから鶯色の服の女性が
「江藤、早く星川を」と、真北。江藤はリングに上がる。
「星川君、結局最後もダメだったのね・・・」マットで倒れている星川の手をつかみ、涙を流す。
こうして、真北と江藤は倒れた星川を治療室へと運んでいった。
それから15分後、星川は気を取り戻し、再び場内へと向かった。引退セレモニーを行う模様だ。
「お待たせいたしました、只今から、ドッチャー・アルフェンスこと星川弘選手の引退セレモニーを執り行います。」
と、場内アナウンスが鳴り響く。
「星川選手、お別れの挨拶であります。」
星川はマイクが設置されたリングに上がる。観客が拍手で見守る中、彼はマイクを取り、言葉を発す。
「平成17年、栄光の枦軍に入団して以来、4年間、鬼神軍のため、この星川弘のために、絶大なるご支援を頂きまして誠にありがとうございました。皆様から頂戴いたしましたご支援、熱烈なるご縁を頂きまして、今日まで私なりのバトロイ生活を続けて参りました。今、ここに自らの体力の限界を知るに至り、引退を決意いたしました。振り返れば、4年間にわたるファイター生活、いろいろなことがございました。その試合の一つ一つ思い起こしまするときに、好調時は皆様の激しい大きな拍手や大歓声を、不調時は皆様の厳しい野次や冷やかしがあり、この赤いバトルコスチュームを更に闘志をかき立ててくれました。不運にも、今日、私はD-BR杯優勝を目指し、戦友一丸となり、最後までベストを尽くし戦いましたが、力ここに及ばず、D-BR杯優勝の夢が絶たれました。私は今日引退いたしますが、鬼神軍、名古屋ジョッキーズ、そして名古屋鉄道は永久に不滅です!今後、バトルロイヤルの新しい歴史の発展のために、栄光ある鬼神軍が明日の勝利のために、今日まで、皆様がたからいただいた、ご支援ご声援を糧としまして、さらに前進していく覚悟でございます。長い間皆さん本当にありがとうございました!」
と、星川は四方に頭を下げると、江藤が花束を渡し、星川はそれを受け取ってリングから降り、味方、ライバルにそれぞれ握手を交わした。
星川よ、ありがとう、本当にありがとう、第一線にいなくとも、バトロイ界を盛り上げてくれ。
完
最終更新:2009年04月06日 12:52