あれから時は流れ、平盛27年3月、新潟空港に、一人の日本人が帰ってきた。
そう、彼の名こそ、島田真北、3年前、ロシアへ渡り、運転主任を勤めながら、スペツナズの訓練に参加した、もと日本人民軍の戦士である。
ウラジオストクからの直行便で降り立った真北は、すぐに新潟駅行きのバスに乗り込んだ。
まだ雪のちらつく新潟の道路を駆けていくバスの車内から、久しぶりの母国の地を眺める真北の脳裏に、何が浮かんでいるのだろうか。
その翌日、日本国滋賀県大津市、春の訪れを感じさせる穏やかな白昼の中、島田邸で、男女3人がなにやら台所で調理を行っていた。
島田邸では現在、真北の兄康太郎が住んでいるだけであった。
「ねぇねぇ、今日は何を作ってくれるの?」
「今日はちらし寿司だ。あいつならきっと喜ぶさ。」
と、台所で話し合っていたのはかの日本人民軍の戦友、相本由香と中原脩だった。ともにそれぞれ鉄道員の仕事を続けている。
「ちらし寿司か・・・ 最近食べてないや」と、つぶやくは康太郎。
調理は着々と進んでいる。すると・・・
ピンポーン と、インターホンが押された。
「はーい」と、康太郎はインターホンの受話器をとる。
「ただいま」と、聞こえたのは真北の声だった。
「おお、真北か、待ってたぞ、さっそく上がってき」と、康太郎は受話器を置き、玄関へ向かった。
そして玄関扉が開き、重装の真北が姿を現した。
「おかえり、真北、みんなお前を待っていたぞ」
「みんなって・・・」
すると相本と中原も玄関に現れた。
「相本・・・中原・・・」と、真北は微笑を浮かべる。
「真北ぁーっ!」と、相本は真北に抱きついてきた。
「よう帰ってきたなぁ」と、中原
「今、ちらし寿司作ってるから、今しばらく待ってて」と、相本
真北と康太郎と中原は、真北の部屋に向かった。
「何もかも変わってない・・・」と、真北。久しぶりに自分の部屋を見た。
「さて、あとで手柄話を存分に聞かせてもらおうか」と、康太郎
夕方、4人は食卓を取り囲み、真北は手柄話を3人に話した。3人はその話を聞くと笑ったりうなずいたりしたが、一方で、LDKの受像機は、CMを映し出していた。そして、4人はとあるCMに視線を向けた。そのCMは、あの守山ネズミ王国でのバトロイ巡業についてだった。
そのCMを見た4人は、話題をバトロイに変えた。
「そういえば、最近のバトロイってどうなっとる?」と、真北
「うーん、一応俺と俺の弟と、星川が出てる。」と、中原
「一応私と江藤さんも出てるわよ」と、相本
「で、みんなちゃんと勝ててる?」と、真北
「うん、たまにデ杯に出て、優勝してるさ。」と、中原
「うむ、庭園さんが引退し、チュチュネズミの中の人も変わり・・・」と、康太郎
ここで、平盛27年現在のバトロイ事情を説明しよう。
まず、造園会社社長・庭園はファイターとして一線を退いた。
そして真北とデ杯で対戦したチュチュネズミも、中の人が交代した。
中原脩は怪傑播磨王として現在も出場しており、弟・誠も数年前にデビューし、それぞれ一線級の実力を有している。
相本も男子顔負けのファイティングを見せつけ、名鉄の車掌・江藤小百合も最近デビューし、現在は女子新人賞を狙っている。
彼らのほか、日本人民軍の戦士も相次いで参戦し、バトロイ人気は右肩上がりになり、年3回あった守山ネズミ王国での巡業は、4回に増やされていた。
「そ、そうだ、今度みんなでバトロイに出よう」と、真北の胸は鳴る。
「うん、そうしようよ」と、相本
「っしゃっ!」と、中原
「うん、楽しみだ。」と、康太郎
翌日、真北、相本、中原の3人はさっそく練習を始めた。3人はトレーニングジムでフィジカルを鍛え直し、それから実戦練習に入った。
特に真北は、相本の成長ぶりに大いに感心していた。フェニックスとの戦い以降、動きがスムースかつ流麗になっていたのである。もちろん、自慢の剣術の腕前も、向上した。
一方で中原も、三十路を迎えながらにして、さらなる成長を続けていた。
そしてスペツナズ流の技を身につけてきた真北も、3年前とは全然違っていた。
こうして見てみると、3人の結果は安泰のはず。だが、バトロイ界には、新手のライバルが潜んでいることを、彼らは知らなかった・・・
いよいよ巡業日、守山ネズミ王国には早朝から、真北らの参戦の知らせを耳にしたファンが詰め掛けていた。
「いやいやいや、真北がついにロシアから帰ってきて、今日の巡業に出るらしんだい」
「楽しみだ。それと播磨王に相本もやい」
「それから二代目のチュチュネズミもそろそろ活躍時やなぁ」
ファンの注目は真北とチュチュネズミに向けられていた。しかし、その一方で、とある一人の選手も期待の対象とされていた。
「おい聞いたか」
「なんだい」
「海城守って選手、元日本人民軍の兵士だったらしいぞ」
「マジかい」
果たして、その海城守とは誰か。そして彼こそがその期待の対象なのか。
続く
最終更新:2010年08月05日 22:19