守山ネズミ王国でのバトロイ巡業に参戦した真北一行。一方で、とあるもと日本人民軍兵の名が上がっていた。
海城守、彼は一体何者なのか。
9時、開園とともに出場受付が始まった。抽選の結果、真北と相本は11時半登録、中原は14時半の登録となった。
休日開催が多いバトロイの地方巡業には、多くのファイターが詰めかける。時間の関係上、登録枠は限られており、出場することが難しい。今回は運良く、3人とも出場に至ったのである。
どうやって定員に絞られるかというと、まず、直近3登録での試合評価で上位10名が選ばれ、残りは抽選で選ばれる。
朝10時に試合が始まり、以後最短3分間隔で試合が行われ、20時には全試合を終了させなければならない。
登録選手は、同時に最大13人までとなっており、誰かが敗退し、次の登録時刻を迎えると、その選手が出場登録される。それでも登録枠を超過した場合は、選手が登録抹消次第順次入れ替わる。
なお、これらのシステムは、平盛16年当時と変わっていない。
その頃、一人の男は出場リストを見ていた。
「うん、今日は13時からか。」
「がんばれよ海城、今日は下手したらあの男と当たるかもしれんよ」
「わかってますよ、先輩。」
海城守の隣にいる男は、どうやら彼の「先輩」らしい。
いよいよ10時、今日最初の試合が始まった。場内は満員御礼、ただでさえ守山ネズミ王国での巡業は満員御礼だが、今回は特設スタンドが設けられたぐらいである。
次から次へと、選手の好プレーで歓声が湧き、また、珍プレーには笑い声が轟いた。
それから11時30分、いよいよ真北と相本が登録される。
「選手登録のお知らせをいたします。ゼッケン15番、島田真北選手」
と、場内アナウンスが流れると、地響きのするような歓声があがった。
「来たァーーッ!!」
「真北ぁーっ!!」
「おかえりーーっ!!」
まだリングにもあがっておらず、試合待ちであるのにもかかわらず、このようなファンの声も。
11時45分、真北の第1戦が幕を開けた。対戦相手は3人とも無名のファイター。そのため誰もが真北の勝利を予想していた。
真北は、持ち前のパワーで敵3人を一蹴し、まずは1勝目をあげた。
続く2戦目も勝利し、早々にD-BR杯への切符を手に入れた真北。それを観客席からずっと見つめていた海城いた。
「さすがは突撃隊長、腕っ節が衰えてない。」
と、そっとつぶやくと、隣にいた海城の先輩は
「しかも相手が凡人だから、全力じゃないはずだ。」と、言葉を返した。
「ですよね・・・」
それから6分ほど遅れて、相本の第1戦、立て続けに攻撃を喰らい、あっという間に脱落してしまった。
真北はその後も勝ち星を稼ぎ、6勝で通常戦を終えた。一方で、相本は1勝止まりに終わった。
そして迎えたD-BR杯、対戦相手には、通常戦で5勝を記録した、二代目チュチュネズミもいた。
「さぁいよいよ第7650回D-BR杯が始まります。今回出場する歴戦の4人の登場であります。まずは赤コーナー、前回王者、蛸屋金太郎!」
まず最初に出てきたのは、金太郎のコスチュームでたこ焼きのマスクを被っている、蛸屋金太郎。2年前にデビューしたそうで、パンチ技が得意だという。
関西地方では特に人気を誇っており、ライバルは、関東出身のモンジャーマンだという。
「続いて青コーナー、帰ってきた湖国人、島田真北!!」
島田真北、彼の名が呼ばれると、場内は大いに湧いた。真北は久々の地元でのバトロイなのか、リングへ近づくたびに、胸の緊張が高鳴りながらも、平静を保とうとしていた。
「緑コーナー、出ました我らが守山ネズミ王国の看板、チュチュネズミ!!」
チュチュネズミ、彼が登場すると、入場曲として例のあのテーマソングが流れだした。
「僕らの愉快なチュチュネズミ~ネズミ~ネズミ~チュチュネズミ~♪」
彼のサポーターはそのテーマソングを大熱唱。
「そして最後に黄コーナー、妄想皇帝エムドス!」
妄想皇帝エムドス、彼は派手な衣装のわりには人気がなく、実力も薄い。今回のデ杯では、もっぱら「泡沫候補」である。
4人がリングに上がると、いよいよ試合開始の笛が吹かれた。
「さぁ、試合が始まりました。第7650回D-BR杯、果たして優勝杯は誰の手に渡るのでしょうか!」
真北はまず、エムドスを狙う。するとエムドスは真北にキックをかましてきた。
バコッ! と、エムドスの右足は真北の腹に命中。しかし真北はびくともしない。
そこで真北はカウンターとしてエムドスの右足を掴み、肘をその右のすねに振り下ろした。
ドカッ と攻撃が決まり、エムドスの顔は痛みを訴えるようになった。
エムドスはそのまま立ち上がれないまま、カウントをかけられ始めた。
「1,2,3,」と、審判がカウントを入れ終わると、審判は笛を鳴らし、エムドスにノックアウト判定を下した。
一人目を撃破し、余裕の表情の真北は、今度はチュチュネズミと組み合いになっている蛸屋に不意打ちのチョップを仕掛けた。
チョップは蛸屋の背中に命中し、蛸屋の体に激痛が走る。蛸屋は振り向き、痛みをこらえながら真北に連続パンチを仕掛ける。
バシバシバシッ! だが真北は難なく両手で受け止め、逆に背負い投げを蛸屋にかけた。
バコッ! と、蛸屋はマットにたたきつけられ、そこにチュチュネズミがストンピングをかける。蛸屋は苦し紛れにストンピングから逃れようとするが、審判にTKOの判定をかけられ、そのまま敗退した。
こうなると勝負は真北とチュチュネズミの一騎打ちに。パワーの真北とスピードのチュチュネズミの対決に、場内のボルテージは最高潮に達していた。
バコッ ドカッ ズサッ 両者譲らずのファイティングで、均衡を破るのは誰ぞ。
試合開始から5分、膠着状態は続く、するとチュチュネズミはある奇策に出た。
「こいつにはクロックアップ作戦が似合うチュ・・・」と、チュチュネズミは真北を見つめ、小声でつぶやく。
「クロックアップ作戦だと?」と、真北
するとチュチュネズミはいきなり猛ダッシュで動き始めた。とにかくリングを縦横無尽に駆け回っている。たたでさえ俊敏なチュチュネズミだが、この速さは通常の1.5倍程度はあるだろう。
「はっ・・・速い!」真北、チュチュネズミの動きを捉えられずにいる。
するとチュチュネズミは真北とすれ違うたびにパンチやキックを繰り出していった。真北はそれらを受けるのに、もはや精一杯だった。
「よ、読めたっ!」と、真北は全五感でチュチュネズミの動きを捉え、キックを繰り出した。
バコォン! と、キックはチュチュネズミに命中。チュチュネズミはそのまま転倒するも、受身をとってすぐに立ち上がった。柔軟なチュチュネズミは、ダメージをうけにくい。だが、チュチュネズミの疲労はピークに達しつつあった。
「もらったぁっ!」と、真北、疲れで屈んでいるチュチュネズミに対してボディプレス。
バコォーン! チュチュネズミの体は真北の下敷きになった。
真北はそのままチュチュネズミを押さえこむ。チュチュネズミは柔軟な体を使って振りほどこうとするも、真北の固いロックの前では為す術もなかった。
そして審判はカウントを入れ始める。
「1,2,」と、二つ入れられたところで真北は早くもガッツポーズ。チュチュネズミが動じずまま三つ目が入り、真北の勝利が決まった。
「試合終了!島田真北、チュチュネズミを破り、見事帰国後初のD-BR杯を制しました!」
真北はリングをの中央で、万歳の声を上げ、日章旗と日本人民軍旗を掲げた。
「やったーっ!」「でかしたぞーっ!」「おめでとう!」と、ファンは大いに満足のようだった。
続く
最終更新:2010年08月07日 22:07