13時、真北は選手控え室に戻り、相本と中原は観客席へと戻る。すると、海城の登録の知らせが告げられた。
「ついに出たか、海城」
「海城さんね・・・」
白色の戦闘服に身を包んだ海城が、いよいよリングに上がった。果たして彼のファイティングはいかなるものか。
海城の第1試合目、相手はいずれも並一通りのファイターである。
「おりゃっ!」と、海城は開始早々、敵一人に右ストレートを繰り出した。海城の気迫の前に、敵は恐れをなし、怯んだ。
「何だあの威勢は?」「あれは真北以上だ」と、観客も海城の気迫に目を奪われている。
海城は、怯んだ敵にそのまま連続パンチをしかける。敵は恐怖に怯え、為す術もなく、そのままノックアウト。
「すごいっ・・・」と、相本
「まるで何かの野獣か・・・」と、中原
続く二人目も同じような手法でノックアウトさせ、最後の一人と対峙する。海城は猛犬のような唸りをあげながら、敵に殴りかかった。だが、敵には冷静に海城をかわし、逆に背中に強烈なキックを繰り出した。海城はそのままマットに叩きつけられ、3カウントを入れられた。
1試合目を観終えた二人は
「感情的なファイティングだ・・・」
「うん・・・」
続く2戦目、3戦目と、海城は星を落とし、4戦目も惜しいところで勝利を逃した。残りのチケットは1枚、これで負ければ、未勝利敗退という屈辱を味わってしまう。
「よし、そろそろ集合時間だ。」と、中原は席を立ち、選手控え室へと向かった。
一人だけ残った相本
「(さて・・・海城さんの5試合目ね・・・ってその前に、真北の防衛戦があるわ。)」
次に、真北の防衛戦が始まった。真北は前の試合での疲労を多少残しながらも、順当に敵を倒し、連覇を達成した。
その6分後、海城の5戦目が始まった。だが相手には強敵、コンバット越後がいた。
そのリングのコーナーにて
「ダメだ・・・自信がなくなってきた・・・」と、海城、ここにきて弱音を吐く。
「諦めんな、ここで自信無くして何になるんや。」と、海城の先輩は彼の肩をたたきながら、言い聞かせる。
「で、でも・・・」
「とりあえず、1勝しろ。」
海城はそう言われると、リングの中に入っていった。しかし、彼を期待していたファンの歓声は、罵声へと変わっていった。
「海城とっととねんねしなーっ!!」「負けちゃえー!」「くーろぼし!くーろぼし!」次から次へと野次が飛ぶ場内
その海城を気にかける相本は
「大丈夫かな・・・」と、つぶやくばかりだった。
すると相本の隣に1人の女性が現れた。
「こんにちは」
「あら、高城さん」
現れたのは、かの日本人民軍戦士で、阪急電鉄の車掌・高城麗奈。この日は午前乗務で、ちょうど仕事帰りでやってきたのだった。
「なにか気になる選手が居てね・・・」
「誰?」
「あの、海城守って人。」
「海城守・・・ああ、確か後方支援隊にいたような・・・」と。元後方隊員の高城
「あっ、そう!かすかに覚えてるわ」と、相本
と、会話する二人の前で、試合が幕を開けた。海城は積極的に攻める姿勢を1戦目から変えずにいる。だが、攻めても攻めても、攻撃が回避されるばかり。
リングの後方でセコンドを務めるかの「先輩」も、あのファイティングは海城らしくないと即座に断定した。
「(くそっ、なぜ当たらないっ!)」海城にもはや初陣のときの冷静さなどない。すると海城は越後に隙をつかれ、飛び蹴りを喰らった。
「ああっ!」と、高城は一瞬目をつむった。
「ぐはっ!」と、海城はそのままマットに倒れた。審判はカウントを入れるも、2つ目で立ち上がった。だが、今の一撃は痛烈打のようで、彼の動きは鈍っていた。
「ま、まずい。」海城の先輩はタオルに手をかけ、海城に降伏を呼びかける。
「海城!もうやめとき!」
「嫌だ!降伏だけはしとうない!」と、海城はそれを拒む。
「うん・・・これは明らかに無理しようとしてる・・・」と、相本
「これで怪我でもしてたらどうするの・・・」と、高城
「おい海城!強がりは止してとっとと降伏せぇや!」「コンバット越後ーッ!あんなやつに終止符を打ってくれ!」
海城の闘志に逆らうかのように、野次が飛ぶ。だが、海城は降伏する意思を見せなかった。
「おい・・・・」と、海城の先輩は、やや呆れた表情か。
海城は、痛みをこらえながら、コンバット越後に近づいていった。コンバット越後もまた、海城に近づいていった。そしてまもなく二人は殴り合いに入った。
互いの拳が、まるで同調しているかのごとく、4発か5発ぶつかり合い、それから海城は一旦後ろにさがり、越後にキックをかました。
越後はそのままマットに倒れ、そこで海城は、リングの角に立つ。
「シーホーク・クラッシュ!!」と、どうやら必殺技なのか、海城は高く跳び上がり、越後に回し蹴りをかました。
バコォーン! 越後はそのまま立ち上がれず、3カウントを入れられ、脱落した。しかし、敵はあと2人が残っているので、予断は許されない。
「な、なんと、越後がノックアウトしてしまった!」実況も海城の底力に度肝を抜かれた。
「ちぇっ、越後なにやってんだよ」「はいはい海城終了終了」しかし、まだ観客の半数は越後のKOをまぐれとしか見ていなかった。
一方で、海城のスタミナも底をつきつつあった。息は荒く、動きはさらに鈍くなった。
そこに、敵が2人がかりで襲いかかり、海城はマットに強く叩きつけられた。
このまま万事休すか、海城の耳の横で審判がカウントを入れる。
「1,2,3,」
ピピーッ! と、笛が鳴り、海城守のこの日のバトロイは、1つの勝ち星なしに終わったのだった。
控え室の受像機で試合を見ていた真北と中原
「そ、そうだ。海城守について思い出した。」
「だ、誰なんだろう・・・」
続く
最終更新:2010年08月08日 08:35