ここは、守山ネズミ王国のバトロイスタジアムの選手控え室。
謎のファイター・海城守の試合を観終え、彼のことを思い出した真北と中原は、話し始めた。
「天知総司令曰く、負けん気の強い性格だったとか。」と、真北
「確か、あれは訓練開始2ヵ月後の夜・・・・」と、中原
以下は、中原の回想である。視点は、第三期日本人民軍基地。そこには、いつものように一日の過酷な訓練を終えて、兵舎に戻る訓練兵の群れがあった。
しかし、その中には、上官である真北と中原、そして5人の訓練兵が訓練場に残っていた。
「よし、ただいまから200メートル障害物競走を行う」と、中原。彼は有志の訓練兵による障害物競走を催していた。
コースは最初の50メートルは平地で、そこから鉄条網をくぐり、平均台を渡り、最後は高さ2メートルの壁を越えるという設定だった。
「で、今日は5人が来てくれたわけだが」と、真北
「うん、左から、突撃隊・東尾、突撃隊・山倉、電信隊・加藤、突撃隊・松尾、そして後方隊の海城。」
「特に東尾と山倉はハードル走でインターハイに出た経験があるからな・・・あとは元バスケ部の加藤と野球部の松尾、そしてボート部の海城か・・・」
「誰が1着と予想する?俺だったら・・・山倉。」
「いや、東尾じゃね?」
5人の訓練兵はスタートラインにつき、中原は発走の笛を鳴らすと、5人は一斉にスタートした。
最初の平地では瞬発力の高い加藤がトップを走り、そこから東尾、山倉が追う形だった。海城もまずまずのペースだった。
それから加藤は鉄条網で失速し、平均台の時点で山倉がトップ、2番手が東尾、3番手が加藤で、以下松尾、海城という順序だった。
「さぁ、そろそろ壁だ。」と、真北の目線の先には、壁に向かって突っ走る訓練兵の姿があった。
5人はいずれも鈎縄を使って壁を越える。まず山倉が越え、東尾、加藤、松尾と続いたが、海城だけが取り残されてしまった。
「ん?海城がちょっと怪しいぞ」
「なんだ・・・?」
海城に異変を感じた2人、よく見てみると、海城の鈎縄だけ、縄が短かった。
「あれじゃ引っかからない」
「これではあの壁は無理だ」
しかし、海城はなんとかして壁に引っ掛けようとした。限りなく鉛直に近い状態から投げ上げたり、ジャンプしたりして、あの手この手で引っ掛けようとした。
「海城!鈎縄を取り替えるんだ!」
と、中原は正常な鈎縄を渡そうとするも、
「このままやらせてください!」
その後も再三鈎縄の交換を促すも、彼は拒み続けた。
そして15分後、海城の鈎縄は、やっとのことで壁の頂上に引っかかった。彼は壁をゆっくり登った。しかし、向こうに降りようとした瞬間、彼は崩れ落ちるようにして、倒れた。
「か、海城!」
「だ、大丈夫か!」
2人はすぐに海城のほうへと駆けつけた。すると海城は、性根尽き果てていた。
回想は終わり、視点は控え室に戻る。
「それから、海城は医務室で翌朝まで眠ってましたね。」
「うわっ・・・なんという執念だ。」
「で、後日、私は訓練後の海城に問いかけた。なぜそこまでして執念を燃やすのかと、すると彼はこう答えた。『自分は兄がおりまして、子供の頃、よくTVゲームで兄に負けまくってましたもう負けるたびに悔しくて、時にはコントローラーを投げ飛ばしたくなるくらいでした。そんなある日、いつものように負けて腹いせにコントローラーを投げ飛ばしたら、なんとそのコントローラーが壊れてしまったんです。そして親からこっぴどく怒られて、当分ゲームを禁止されました。しかし、それ以来、私は物を大切にしようと心がけてきました。つまりあれは執念ではなく、物を大切にするという努力だったのです。いざ戦場でも、弾薬や食料に限りがありますから、節約すべきものは節約し、使えるものは極力使い倒すべきだと思います』と」
「なるほど、でもモノを大切にしようという努力がなぜ今回の棄権拒否につながったのか」
「おそらく彼はもてる力を棄権によって無駄にしたくはなかったのだろう」
「そういうことか」
「さて、ちょっとトイレ行ってくる」と、中原は一旦席を立ち、廊下に出た。
中原がトイレに向かうと、そこに海城が悔し涙を流しながら、中原とすれ違っていった。
「どうしたどうした」と、中原はすれ違いざまに、海城に声をかける。すると海城は立ち止まり、中原のほうを見た。
「だ、誰ですか・・・?」と、海城は訊く。
「覚えてないだろうな。日本人民軍突撃隊副隊長の、中原脩だ。」
「な、中原副隊長、居らっしゃったのですね・・・どうもお久しぶりです」
「こちらこそお久しぶりだ。今日はこれで帰るか?よかったら、怪傑播磨王のファイティングでも見て帰らないか?」
「怪傑播磨王・・・・まさか、あなたが・・・」
「そのとおりさ」
14時半、予定通り怪傑播磨王の登録が告げられる。観客席には相本と高城、そしてそこから2区画ぐらい離れて海城が立っていた。
播磨王は立ち上がりこそ苦しいファイティングが続いたものの、次第に調子を上げていき、3勝で通常戦を終えた。
さて、いよいよ本日3度目のD-BR杯。真北と播磨王の直接対決である。
「中原、手加減はなしだぞ」
「おうっ、こっちも容赦しないぞ」
果たして、2人の勝負の行方は・・・
続く
最終更新:2010年08月10日 22:03