こうして試合は幕を開け、真北と播磨王はそれぞれ1人ずつ脱落させ、早いうちに一騎打ちへと持ち込んだ。
二人は互いにパンチとキック、ジョブ、アッパーカット、頭突き、つっぱり、柔道技など、あらゆる格闘術を繰り出した。しかし、試合は均衡破れず、4分が経過した。
「さぁ島田真北か怪傑播磨王か、勝つのはどっちだ!?そろそろ試合時間は5分に達しつつあります!」
「真北ァーッ!ガンバレーッ!」
「いけぇーっ!播磨王ーッ!」
実況と声援で、場内に地響きが起こる。
スタミナとパワーで勝る真北に対し、播磨王には疲れが出始めていた。
「これで、どうだ!」真北はローリングソバットを繰り出す
ドカッ! と、播磨王の腹部に直撃、播磨王はそのままマットに倒れたものの、すぐに立ち上がった。だが、彼のスタミナはもう限界に達しつつあった。
「これで・・・決める・・・」真北は後ろに下がる。
「(ま、まずい、あいつは・・・)」と、播磨王はふらついている。
すると真北はダッシュし、そのまま跳び上がった。
「うおっ、あれはなんや?」
「わからん、ていうかあれ・・・もしや!」
観客からは見知らぬ真北の技に、驚きの声が漏れる。
「うーーーやーーーーたぁーーーーっ!!!」
掛け声と共に真北の体は落下し、播磨王のほうに右肩からぶつかっていく。
「な、なんだってっ!?うわぁぁぁっ!」
播磨王はかわしたが、真北がマットに着地すると、そのものすごい衝撃で転倒し、場外に沈んだ。もしこれが直撃したら、考えるだけでも恐ろしい。
「な、なんと・・・これが島田真北の新技です・・・!」実況も腰を抜かした。
播磨王を新技で倒し、3連覇した真北だったが、その新技を出す負担は大きく、次のデ杯では一抜けに敗れ、今日のバトルは終了した。
その日の夜、真北は中原と海城を餃子の王将へ誘った。
「1回ぐらいは勝てたかもしれないのに・・・」と、海城。
「うん、1回ぐらいは勝つ見込みはあった。」と、真北
「一体何が足りないのでしょうは」
「うーん・・・スタミナと、冷静さが足りないな。試合を重ねるにつれ、顔がどんどん真っ赤になっとるだろ。」
「なるほど・・・」
「もうちょっと落ち着いてプレイすれば、無駄に体力を使うこともなくなる。」
「そうですか・・・」
「ところでさぁ、海城君、君は今なにをしてるのかな?」と、中原は訊く
「貨物列車の運転士さ。」
「え?お前も運転士やってんのかよ」と、真北
「はい、昔から貨物列車が好きでした。」と、海城
「貨物列車って、夜通し乗務するんだから、大変じゃないの・・・?」と、中原
「いいえ、そんな長距離乗務はしません」
「じゃぁどこ乗務してるのよ・・・」
「吹田から・・・百済まで。」
「そ、それって城東線じゃ・・・」
後世世界における城東線は、前世同様、吹田から百済に至る貨物線のことであるが、平盛24年に全線旅客営業を開始し、完全複線電化された。
「ああ、赤川鉄橋が有名なところだったな。」
「よくご存知で。」
赤川鉄橋とは、前世でも存在する、同じ橋桁で歩道と鉄道線が隣り合わせになっている鉄橋のことである。しかし複線化によって、歩道は取り払われた。
「あそこを走るDD51をよく撮りに行ったもんだ。」
「うん・・・DD51かぁ・・・・」と、急に浮かない顔になる海城
「どしたん?」真北、心配そうに訊く
「実は私、DD51が物凄くすきだったんです。生まれ育った三重県でも、よく走ってました。実はJR貨物に入ったのもDD51に乗りたかったからです。」
「確かにあれは名車だ。日本のディーゼル機関車のスタンダードだ。」
「で、私は城東貨物線を乗務範囲におさめている吹田機関区に配属され、『憧れのDD51に乗れるんだ』と、胸が高鳴っていました。しかし、待っていたのは、電化でした。これにより吹田区のDD51は、全てEF210に置き換えられてしまいました。」
「これは悲しかっただろうな・・・・」
「でも、今になって、EF210も結構気に入ってます。」
「それはよかった」
3人が語り合っていると、そこに相本と高城も現れた。
「あ、相本さんに、高城さん」と、海城は2人のほうに顔を向ける。
「お久しぶりですね」と、高城
「お疲れ様でした」と、相本
「た、高城やないか」と、真北
「君も、試合見てたのかい?」と、中原
真北と中原は高城が観戦に来ていたということを、知らなかった。
「はい、見てました」
「カッコよかったわよ・・・」
「あ、そうそう、ところで真北、あの技なんだ?」と、中原は話の腰を折りながら訊く。
「ねぇ、早くあの技の真相聞かせてよ」と、相本
「え、ああ。あれはだな。俺の最終奥義『神風タックル』だ。」
「神風タックル!?」と、他の4人は口を揃える。
「うん、神風を吹かすかのように戦況を逆転させるための技だ。」
「うっわ・・・・ ていうかあれは反則だろ・・・・」と、中原
「確かにそうだ。てか、あれはあそこでやったらあかん。」
と、真北は一枚の請求書を取り出す。そう、その「神風タックル」の威力が強すぎたため、リングの骨組みを破損させてしまい、守山ネズミ王国側から弁済を求められたのである。幸い、稼いだ賞金でそれを補うことはできた。
「うん、これはチートだ」
「というわけで、これから互いに頑張ろうな」と、真北
「は、はい!」と、海城
食事を終えた5人は、店の外に出て、記念撮影を行うことにした。並び順は左から、高城、中原、真北、相本、そして海城となった。
記念撮影が終わると、海城は4人と1人ずつ握手を交わし、それぞれ解散した。
真北たちの長い一日は終わった。だが、新たなる敵が目覚めようとしていることに、気づく者はいなかった。
第一部 完
最終更新:2010年08月14日 23:49