前話から一夜明けて、第3期日本人民軍の訓練がいよいよ始まった。前と同じメニューを取り入れ、まずは3隊合同の基礎体力の養成から始まる。島の周りを走り、琵琶湖を泳ぎ、筋力トレーニングなどを行った。気になるのはあの女性2人、だが、男性に負けじの働きぶりであった。
そんな一週間ぐらいのことだった。
その日の夕食後、高城は兵舎の廊下を歩いていた。すると男性兵士2人と偶然でくわした。
「おい、美人だねぇ」と、その男は話しかける。
高城はそれを無視するも、男はさらに話しかける。
「おい、どうしたんだぁ」
と男は高城の肩に触る。すると
「何するんですか!」と、高城は声を上げ、走り去った。
「あーあ、全くだ」その男2人は諦めて自分の部屋に戻った。
その3日後、消灯直前、相本と高城が兵舎の廊下で話している。そこにまた男が現れ。いきなり高城の腕をつかむ。
「麗奈ちゃん」と、男は話しかける。
「やめてあげて!」と、相本はその男を押し倒す。
「何するんだよ!」と、男は怒鳴るも、二人は逃げ出した。
それから1週間の訓練中のことだった。射撃訓練の途中、高城の番のとき
「撃て!」
バンッ!
10人いるうち、9人は的に当てたものの、高城だけは1発も当たらなかった。
「こら!高城!どうしたっ!」上官は高城に寄る。
「不調なのも無理ないですよ」と、真北が上官に話しかける。
「島田さん、それはどういうことですか」
「彼女はセクハラを受けているんです」
「それは本当なのか」
「はい、本人から聞きました。」
「事実だとしたら大問題だ」
「ああ、これはかなり大きな問題だ、今後の訓練に支障をきたすことが目に見えている。」
相次ぐセクハラで、高城の心はまさに乱れに乱れていた。
その夜、男性兵士全員に事情聴取を行った。だが、誰もがその事実を否認した。しかし天知としてはこの問題を早急に対処したいところである。
そして、結成から1ヶ月が経とうとした日の夜。女子部屋の相本と高城は就寝に入る。しかし高城はトイレに行くために部屋を出た。それが悲劇の始まりだった。
高城は廊下を歩く。しかし、背後から男2人に捕らえられた。
「きゃぁっ!何するの!」
高城はもがく、しかしそのまま男の部屋に連れ込まれた。
翌朝、臨時で将校会議が開かれる。昨晩の事件のことである。そして2人の電信隊の兵士が呼び出された。
「昨晩、高城麗奈後方支援隊兵を暴行したのは、貴官ですね」と、上官の一人が問い詰める。
「はい」とその兵士は渋々答える。やはり犯人は彼らだったのである。
「このようなことは言語道断で厳正に処罰されます。覚悟は出来てますね」
「はい」
そして夕方、電信隊員2名の処分が言い渡された。懲戒免職である。2人はまもなく基地を去った。軍全体に重い空気がのしかかる。ある者は憤り、ある者は衝撃を受けた。しかし、被害者である高城の精神は限界に達していた。厳しい訓練にレイプまでも喰らったのである。彼女は訓練終了後、兵舎に戻ると
「私、もう帰る」と、高城は冷たい声で相本に言う。
「えっ」相本、一瞬凍り付く。
「もうこんなところではやっていけないわ」
「ちょ、ちょっと待ってよ」相本は引き止めようとする。
「女性として悔しいと思わないの!?」と、高城は怒りをあらわにする。
「思うよ、誰だってレイプされたら悔しいよ」
「じゃあ、一緒にここを去りましょうよ」
「でも・・・」
「たぶん、次の標的はあんたよ」と、言いながら、高城は部屋を去り、上官のいる詰所まで除隊届を提出しに行った。
その上官詰所にて、高城は除隊届を提出しようとする。すると真北が現れ、高城を会議室まで連れて行った。誰もいない静粛な会議室の中で。
「お前の気持ちはよくわかる、でも、頭を冷やして今一度考え直してくれ」と、真北。
「でも、もういやになりました」と、高城は言い返す。
「じゃあそのまま、ここを去って、また路上でレイプされてもいいのか」と、真北は声を荒げて言う。
「そ、そんな」
「今のお前のその体では、悲劇は繰り返されてしまうだろうな」
すると高城は泣き始めた。
「私は本当に弱虫なんです」と、高城
「高城、お前、車掌さんになりたいんやろ?」と、真北は問いかける。
「はい」
「車掌さんというのはなあ、常に列車と乗客の安全を守るという使命を与えられているんだよ。だがよ、今のお前じゃその使命を果たせそうにないんだよ。このままだと今後の生活でも影響がもろに出て、生きるのが嫌になってしまうんだよ、まして車掌さんなら、列車に混乱と遅延を招く。」
「あなたは、私に死ねとおっしゃるんですか」
「誰がそんなことを言う、お前、中高と排球やってたろ、そしてお前の長距離アタックで何度もチームの勝利に貢献したはずじゃないか、お前なら、ドレッドノートの艦載砲を使いこなせるはず、後方支援隊長もお前のことを期待してはるよ」
「ええっ」と、机にうずくまっていた高城は顔を上げる。赤く染まった高城の泣き顔にこっそりと笑顔が映える。
「そうだ、今の日本人民軍には、どうしてもお前の力が必要なんだ。」
すると会議室の扉が開き、そこから中原、星川、相本、竹取の4人が現れた。
「おお、みんな来てくれたか」と、真北
「高城さん、どうか辞めないでください」と、星川
「私からもお願いします」と、竹取
「高城さん、どうか辞めないで」と、相本
「高城、貴様こそが後方支援隊のホープだ」と、中原がそれぞれ高城を励ます。
「皆さん、どうもありがとうございます。」高城は5人の前に一礼。そして真北のもとへ寄り添う。
「頑張れ、高城麗奈」と、真北は高城を抱く。
そして、高城、相本、星川、竹取の訓練兵組は兵舎に戻り、真北と中原も教官室に戻る。すると後方支援隊長が待っていた。
「どうでしたか」と、真北に訊く。
「はい、なんとか最悪の事態だけはまず免れました」
「良かった」と、後方支援隊長のほか、上官達はみな胸をなで下ろした。
続く
最終更新:2009年03月19日 15:33