真北の大冒険 > 第59話 戦いの終わり

アシュナード2世とその手下がまさかの降伏をし、幕を閉じた日本人民軍の戦い。しかし、展開的に絶対おかしいと日本人民軍の誰もが思っていた。
「こんなあっさり降伏するはずがない、絶対おかしい」と、手錠をかけたアシュナード2世の横にいて階段を下っている真北、未だに信じられずにいる。
「いや、惚れたんです。あなたのその闘志に。」と、アシュナード2世
「どうして?」
「はい、実はデイン帝国がまだ存在した時代でした。私は父から厳しい教育を受けていました。そのため一見関係が良さそうに見えて、深い確執があったのです。そして、先の戦争が始まって、デインの敗色が濃厚になったある日、たまたまテレビの衛星放送に目が入ったんです。あなたの勇敢な戦いが」
「ほほう、で」
「そしてそれに釘付けになっていたところを父親に見られ、『なんでこんな敵に見とれておるんじゃ』と厳しく叱られました。その数日後、私は父に命じられ、この島に来たのです。それから、建前では父の恨みを果たそうと日本で破壊活動を行い続けていました。でも私にとっては耐え難いことでした。それでも必死にこらえました。父に背くと呪いに冒されると思いこんで」
「そうか」
「でも、言語道断なのは変わりない、これからみっちり裁かれてもらうぞ」
「はい、その覚悟であります」
「あっ、そうだ、相本、天知さんとそのほかのみんなはどうなったんだ」と、真北は訊く
「天知さん以外は何とか脱出しました。でも、天知さんは・・・・残念ながら、ドレッドノートと一緒に沈んでしまわれました。」
「えっ!?」と、真北、中原脩、竹取、その他突撃隊員は一斉に驚く。
「ああ、忘れてた」と、アシュナード2世は総統室へと戻っていく。
「まさか・・・」

本部島の近海、何か鉄の箱が海中に潜り込んでいる。そう、これがドレッドノートを撃沈したフェニックスの潜水艦である。その潜水艦に入電。
「すぐに波止場に上がれ」と、アシュナード2世が指示していたのである。
「了解」
そしてその潜水艦は浮上し、すぐさま本部島に戻った。

それからして、アシュナード2世が真北のもとへと戻っていく。
「忘れてました、潜水艦に降伏の知らせを、本当に申し訳ありません。尊い命を奪ってしまって」
「そうか・・・・天知さんは・・・・やはりあんたの仕業だったのか・・・」真北に悲しみがこみ上げる。
「おーい!見つけたぞーっ!」真夜中の暗い島から星川と中原誠が2人の少年を連れてきた。
「よかったよかった」と、真北。少年2人はやや衰弱していたが、命に別状はなさそうである。
「そろそろ自衛軍の輸送艦が到着します。」と、相本。
波止場に向かうと、潜水艦とホバークラフト2隻が停泊していた。大型の輸送艦は波止場に入れないので、ホバークラフトに乗る。晴れた満月の夜の下、皆がそれぞれの反省を胸に、島を後にしていく。
「さあ、みんな乗ったな」と、ホバークラフトを操縦する自衛官は訊く
「ああ、乗ったさ」と、真北は答えると、ホバークラフトは動きだし、島を去った。
破壊と流血の島、誰もが後生の人に残しておきたい負の遺産が、今、浮かんでいる。

そしてホバークラフトは輸送艦に到着。輸送艦はちょうどドレッドノートが沈んだ地点の近くで停止していた。
「全員、整列!右向け右!」と、真北は号令をかける。向いたのはドレッドノートが沈んだ方向。
「海に散った天知総司令に敬礼!」と、日本人民軍、そしてアシュナード2世などフェニックスの一味も敬礼に応じた。

5日後、琵琶湖に浮かぶ日本人民軍基地に日本人民軍兵全員が集った。
「天知駿一総司令官以下、戦没者の冥福を祈り、黙祷!」
生き延びた将兵たちは約1分間、黙祷をささげた。
「よし、最後になりますが、歌いましょう、『大日本の歌』を」
すると、真北はCDラジカセを用意し、音楽を再生した。
「雲湧けり〜雲湧けり〜緑島山〜潮満つる〜潮満つる〜東の海に〜」
歌声は高らかに響く。デインと戦い大津で散った、世界政府と戦い横浜で散った、そしてフェニックスと戦い太平洋に散った戦士達にも届くかのように。

こうして、月は流れ、平成24年
「おっす」
「これより、乗務に参ります」と、島田真北が当直に点呼を終える。
ある日の京阪津電鉄、空は快晴、真北にとっては最高の乗務コンディションである。詰め所を後にして、ホームに向かう。しばらくして電車が到着し、停車。
乗務員室から一人の中堅の運転士と、もう一人見習い運転士が出て来た。そう、その見習い運転士は相本由香である。
乗務交代の点呼を終え、運転席に座る真北。ブレーキ点検の後、扉を閉め、主幹制御器を入れ、電車は動き出す。これこそまさに平和の日常。

その頃名古屋でも、名鉄の赤い電車が走っていた。その後方の乗務員室には、一人の男がいた。名札には「神宮前乗務区/星川」と書いている。次の停車駅が目前と迫っている。
「まもなく神宮前、神宮前です。お出口は左側です」と、マイクで放送を流す。
やがて電車は駅に停車。乗務交代で、星川は降りる。敬礼と点呼を済まし、彼は詰所へと戻っていった。

そして、京都でも
「ご乗車ありがとうございました」と、駅の改札で客を見守る女性駅員がいた。そう、一関智子。
「あの、次の賢島までの特急券は空いてますか?」と、乗客が訊ねに来る。
「空いてますよ、詳しくはあちらの窓口のほうにお問い合わせ下さい」
「ありがと」

そのまた京都市内の別の地下駅でも
「戸閉めよし」と、マルーン色の電車の後方の乗務員室の扉の窓から指さして喚呼を行う高城麗奈の姿があった。

そして姫路城下では、
「播磨の帝王、播磨王!」と、ターバンを巻いてアロハシャツを着てサングラスをした男が馬に乗り、ギャラリーの前で華麗なるパフォーマンスを見せていた。

そしてアシュナード2世と他フェニックス隊員は、シベリアで罪を償っていたのであった。

続く
最終更新:2009年04月06日 18:25
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