札幌に着いた真北。
しかし、あろうことか真北は財布を落としてしまった。
探すこと30分、札幌駅の構内放送で財布の落とし物があるとのアナウンスがされた。
真北は早速窓口に取りに行く。
「よかった、あった」
真北、自分の財布が見つかり、ほっとした様子。
するとそこに一人の男が
「全く、相変わらずだなぁ」
どうやら真北のことを知っているらしい、すると真北も
「この顔、どこかで見た・・・よな・・・・」
そう、この男こそが真北の高校時代の野球部の先輩、平山勇男である。生まれは札幌で、中学のときに大阪に引っ越し、また札幌に帰ってきたのだ。
「わかった、平山先輩だ」
真北、ようやく思い出す。
「ああ島田か」
「どうもお久しぶりです」
二人は互いの存在を思い出した。そして二人はまもなく駅の外に出た。
歩きながら、二人は話をする。
「そういや北海道の大学に進学したらしいですけど」
「ああ、そうさ、プロの誘いがなくてなぁ、お前みたいに手柄立ててないから」
「僕もあのとき怪我さえしなければ、今どき放浪なんてしてなかったのに」
実は真北は高校時代、野球で大活躍をしたが、3年の夏、甲子園出場目前で怪我をしてしまい、プロ入りの夢を絶たれたのである。
「そういやお前、自衛隊をやめたらしいな」
「はい、ジャイアント東京という悪人を捕まえて自衛隊では役不足だと思って」
「ええっ!?あのジャイアント東京を倒したのか!?」
「はい、本当です。一人で捕まえてしまいました。これで他の隊員から引かれることを恐れて」
「そりゃそうだ、お前と他の自衛官とは次元がちゃうから、スペツナズ(ロシアの特殊部隊)の隊員5人相手でも勝てるんちゃうん?」
「そうです、これからロシアまで修行しにいくところで、ちょっと寄り道してみただけです」
歩いているうちに、時計台の前に二人はたどり着いた。
「ところで、北海道一のスポーツがあるんだけど」
「何ですか」
「ばんえい競馬さ」
「ばんえい競馬?」
「ああ、普通の競馬とは違う。大きい馬にソリを牽かせて、山を二つ越えて坂の上にあるゴールを目指す競馬さ」
「初めて聞きました」
「それが今俺のマイブームでさ、今期待のルーキー騎手がいるんだよ」
「期待のルーキー騎手って・・・」
平山はカバンの中からばんえい競馬の記事を取り出し、その騎手の写真を真北に指し示す。
「そう、この騎手こそが高浜田光一」
「高浜田光一・・・」
「今年の4月にデビューしたばかりなのにとっくに30勝さ」
「へぇ・・・」
「ところで、今日は篠路でレース開催があるんだ、今から行こうと思ってるんだけど、ついてくる?」
平山は訊く
「はい、行ってみたいです」
ばんえい競馬、前世は旭川、岩見沢、北見、帯広の4つの競馬場でレースが行われていたが、後に帯広を除いて全て廃止されるなど衰退していったが、後世では道内では絶大なる人気を誇り、廃止どころか、平盛8年に札幌の篠路にもばんえい専用の競馬場が設けられたのである。
こうして二人は篠路競馬場に着いて、スタンドを抜けて馬場の前に立つと、そこには10頭の馬がソリを牽いて、山を越えたり坂を登ったりして競走していた。
「どや?おもろいやろ?」
平山は訊く
「うーん、微妙」
真北は見たことがなかった。競馬というのは普通、サラブレッドという品種の馬の上に騎手が乗ってそのまま走ることしか頭になく、馬ではなくソリの上に騎手が乗っていてスピードも出ないばんえい競馬など考えてもしなかった。
「ばんえい競馬は力の勝負だな」
「そりゃそうですけど・・・競馬はやっぱりスピードがなくちゃ・・・」
「そうか、道産子と滋賀作の価値観は違うんだな」
するとレースは終盤に突入。
「待て、あの勝負服はさては」
平山はトップを走っている馬の騎手を指す。
「あれが高浜田さん?」
そう、あの青地に赤の斜線の入った勝負服こそが高浜田光一である。
「高浜田光一だ、やっぱり」
そして高浜田の騎乗する馬は1着でゴールイン。高浜田光一、31勝目。
「やっぱりすげぇなぁ」
平山は改めて高浜田の強さを感じる。
それから次のレースも高浜田騎乗の馬が圧勝。
「高浜田さんってやっぱり強いですね」
真北も高浜田の華麗な騎乗に酔いしれる。
「だろ?高浜田光一は間違いなくばんえい界のホープさ」
結局この日は12レース中、5レースが高浜田光一騎乗馬が勝ち馬となった。
1700 札沼線列車内
真北は平山の自宅に案内される
「今日は俺の家に泊めてやる」
「ありがとうございます」
「何しろ俺の親父は町内一の料理の上手い男らしいから」
「へぇ」
果たして、その平山の父とは
続く
最終更新:2008年12月09日 22:22