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171.よげんのしょ[2日目午後・雨~夕方] ---- ――黙示録。 終末の予言が書かれている書物。 元々は神の啓示を受けて異教の聖人が記した、その宗教における教典の一部である。 ただし内容があまりに難解な上に不吉な部分が多く、その宗教においてさえ一般の教典とは区別されていた。 例えばこんな調子である。 『第一の神の使いがラッパを吹き鳴らすと、血の混じった雹と火とが現れ、地上に投げつけられた。地の三分の一は焼け、木々と青草もことごとく焼けた』 『第七の神の使いがラッパを吹き鳴らすと、大きな声が天に起こりこう告げた。「この世の国はすべて我が神と、そのメシアの物となった」』 内容の真偽についてはさておこう。難解と言うことは解釈次第で好きなように読めるという意味でもあり、真偽など論じようがない。 だが、予言とは何かについてなら論じられる。 不審に思うかも知れない。 予言とは将来起こる事を示した言葉や文章のことではないか、と。 もちろんその通りである。 だが、落ち着いてもう一歩考えを進めてみよう。 ある男が明日外出先で事故死する、と予言されたとする。 その予言によって、彼は身を守るために外出しないと言う選択が可能になる。 すると予言は外れてしまう。 …矛盾である。当たらない物をなぜ予言と呼べるのか。 つまりこの予言が予言であるためには、彼は何があろうと外出し、事故死しなければならないのだ。 ならば、こうは言えないだろうか。 「予言とは内容通りの結果を引き起こす、呪いの一種である」 その黙示録を座布団にして♂モンクは物思いにふけっていた。 (どーしたものかしら) 大粒の雨が木の葉を叩く激しい音。 息苦しくなるぐらいに青臭い、森の香りが充満した大樹の陰。美女と2人肩を寄せ合って雨宿り。 実に野生を際立たせる状況で、あーなったりこーなったりしてもおかしくはないのだが…。 ちら、と隣を見る。 膝を抱え、そこに下半分を埋めた♀騎士の白い顔は、雨空の下ではなおさら青白く見えた。 (きっついねえ) 彼女を美しいと思うほどに、心は踊るどころか重くなって行く。 生き残ろうという意思に乏しい人間を守りきるのは想像以上に難しい。 ♂クルセとの遭遇で気付いた弱点も、全部引っくるめて背負い込むと決めた。だからこそ今は正直、男女の仲がどうこうという余裕まではない。 ふぅ、と意識せずため息が漏れる。 それにかすかに反応して♀騎士が長いまつげを揺らしたが、彼は気付かない。 (♀騎士たんの望みも問題だし) 彼女は仲間を求めている。 おそらく戦いを嫌う余り他人もそうあって欲しいと願い、その確証を得るために。 だがそれは大いなる自己欺瞞だ。 この島にいるのが本当に平和主義者ばかりだと信じられるなら、仲間など探さなくても心穏やかでいられるだろう。 だがすでにいくつもの死を見聞きし、悪意が満ちあふれているのを知った。だからこそ善意を求めずにはいられない。そういうことだ。 つまり彼女も無意識では他者の危険性を理解していて、ただ直視できてないだけなのではないか。 (指摘したげるのがいいのかね) 現実を直視させてあげた方が彼女のためだ。それは間違いない。 けれどそれでまた泣かせてしまったら? 自分は口がうまい方ではないし、今度もなだめられるとは限らない。 ♀騎士の信頼を失うだけになれば、危険はより大きくなる。 (…説教はプリーストの仕事だってーの) はぁ。 もうちょっと別の修行も積むんだった、と彼はまたため息をついた。 「あの…」 そのため息をどう思ったか、♀騎士が声を掛けてくる。 「ん?」 「いえ…」 しかし♂モンクが顔を上げると口ごもり、また膝に顔を埋めてしまった。 彼は考える。 (何だ?もしかして小便かな?…っていくら何でもストレートに聞くのはマズイよな) そしてとてつもなく遠回しな言い方を思いついた。 「ああ、雨のせいでちょっと冷えてるね。座布団使うかい?」 「あ、いえ。大丈夫です」 意図はまったく伝わらなかったようだ。 差し出した黙示録のやり場をなくし、彼はその分厚い書物で肩を叩く。 「んーとじゃあ…」 フワッ 叩いた肩に、厚い布地でも挟んだかのような妙に軽い手応えがあった。 驚いて黙示録を見ると気弾のような薄青い微光をまとっている。 いや。彼の腕も、肩も、その全身が。 髪の毛が、そして全身の毛が逆立って行く異様な感覚。 ――帯電――! 『気』と同種のエネルギーが引き起こすその現象の意味を悟り、彼は♀騎士を全力で突き飛ばした。 「きゃっ!?」 ――パリパリバリバリッドゴオオオォォォォオオォォンン!! ほとんど同時に彼らの雨宿りしていた木が爆発する。 にわか雨にはつきものの自然現象――落雷。 「……!」 ♂モンクの全身を激しい衝撃が打ち据え、意識を暗転させた。 「♂モンクさん!」 一瞬の轟音と閃光に麻痺した五感が回復し、♀騎士は悲鳴を上げた。 焦げ臭い匂い。 雨宿りに使っていた大木は無惨に裂けて白煙を上げ、その下の地面も広範囲にわたって焼けこげている。 そしてその中央に♂モンクが倒れ伏していた。 「だめ!死なないで!」 背中に大きな傷は見あたらない。 かすかな望みと共に、力無く伏した重い体をひっくり返す。 そして息をのんだ。 髪の毛は逆立ったままチリチリに焼けよじれ、裂けて血を流す右手から右脚にかけて服が真っ黒に焦げている。 胸が、動いていない。 「死んではだめ!」 彼女は♂モンクの胸を必死に押した。 戦場の光景が脳裏をよぎる。 混乱するミッドガッツを避け、隣国の庇護を求めようとした国境近くの小さな街。 反乱、そして鎮圧。 自国の民に刃を向けた不名誉な戦い。 他の街への見せしめとして荷担した者は一族すべて誅殺され、 まだ息のある子供に治療することも許されなかった。 死んで行く誰かをただ眺めているのはもう嫌だ。 一回、二回、三回、四回、五回―― 心臓の真上に手を押しあて、体重を掛けて押す。 そして唇を合わせ、強く息を吹き込む。 正規軍で教える応急処置の、蘇生手順通りに。 さらにもう一度。 一回、二回、三回、四回、五回―― ふーっ もう一度。 一回、二回、三回、四回、五回―― ふーっ 雷鳴が遠ざかり、雨の上がる予兆に氷の粒が降り始める中、一心にそれを繰り返す。 どれぐらいの間続けたのだろう。 「ぅ…」 ♂モンクの口から息が漏れ、うっすらと目が開いた。 同時にその心臓が大きく脈打つ。 「あ…よかっ」 「Yeeeaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaah!!」 よかった。と言い切る間もなく、♂モンクが奇声を上げて跳ね起きた。 そして妙に歯切れのいい節を付けて歌い出す。 「♪Why・キミ・キス・オレ・フォーリンラヴ♪?」 「……あの?」 蘇生していきなりの、狂態とも言える行動に♀騎士は目を丸くする。 ♂モンクは続けて叫んだ。 「Baaaad!!…何か・変だよ・オレっち・言葉・うまくナイナイ!♪」 見事なまでのアフロになってしまった頭を抱え、いかにも困惑した様子なのだが…言葉はひたすら明るいリズムを刻み続ける。 それは一部のバードが即興的に歌う、ラップという曲によく似ていた。 ♀騎士の視線に疑念の色が混じる。 「ふざけてるわけでは…ありませんよね?」 「♪NoNo!オレっち・生きるよ・愛と真実♪……っNoooooooooooo!」 ♂モンクの答えは最後が絶叫になり、焦げた大木に頭を打ちつけ始めた。 「わ、分かりましたから落ち着いて!」 どうやら本気で苦悩しているらしい。 そう判断して慌てて彼を押し止め、そこまでの歌の内容について考えてみる。 妙な節を無視すれば何とか内容を理解できそうだ。 「ええと…何か思い通りに話せない。悪意や冗談ではない。という意味でいいですか?」 最初にもう一つ何か言っていた気がするが、触れない方がお互いのためだろう。 ♂モンクは大きく頷き、 「Cooooool!」 ビシッと両の人差し指を彼女へ向けた。 そして泣き笑いのような表情でへたり込み、鳥の巣がごときアフロ頭を抱える。 やはり自分の反応によほどショックを受けているようだ。 「♪な・な・な・なぜ・Why・なぜ・Why♪」 「本当に、どうしちゃったんでしょう」 ♀騎士はまだ白煙を上げている大木を見上げた。 「やっぱり雷に打たれたから…?」 「♪知らない・オレ・そんな奴♪みんな・歌うぜ・ユピテルサンダー!♪」 「ですよね」 ユピテルサンダーでもライトニングボルトでも、受けた者がいきなり歌い出したなんて話は聞いたことがない。もちろん自然の雷でも同じだ。 そこまで考え、彼女は頭を振った。 起きてしまった物は仕方ないし、悩んでみても解決法が見つかるとは思えない。 治る物なら時間が解決するだろう。今はそれより大事なことがあるはずだ。 ♀騎士は心が前向きになるのを感じていた。 彼女に必要だったのは心強い仲間でも自信でもなく、守るべき何かだったのだろう。 力弱くとも、自信など無くても、己にとって守らなければならない物を手にしたとき、人は戦うために立ち上がる。 図らずも♂モンクの身に起きた不幸が彼女にそれを与える形となっていた。 「ひとまず怪我を治療しないと」 ♀騎士は支給された鞄から赤ポーションを取り出す。 蘇生に成功したとは言え落雷をまともに浴びたのだ。常識的に考えてまだ相当な重傷を負っているはずだ。 しかし♂モンクは気落ちした様子のまま、口調だけ元気に否定した。 「♪ノンノン・オレっち・モンク・張るよ気の壁・弾く・滑る・Thunderboltも・運次第♪」 「ええと、つまり大丈夫と言うことですね?」 「Oh~Yeah~♪」 要は金剛の応用なのだろう。雷の帯びた『気』と反発し合う『気』を体表面へとっさに張り巡らせ、雷の大部分を受け流したのだ。 その証拠が焦げた服である。 ♀騎士は知らなかったが、人に落ちた雷は通常その体内を流れるため服はほとんど焦げない。服の焦げは逆に体内を流れた電流が少ないことを示している。 理屈はわからないながらも一応納得し、♀騎士は提案を続けた。 「でしたら少し移動しませんか?」 「♪OK・Allright・歩こう・探そう・安全な場所♪」 これには♂モンクも即座に同意して立ち上がる。 もっとも2人の理由はいささか異なった。 ♀騎士は仲間を――特に♂モンクの言語異常を何とかできる人を捜すため。 ♂モンクは焼けた木の上げる煙が人を呼ぶことを嫌って。 どちらにせよ、2人はほぼ丸一日過ごした森を後にすることにした。 彼らの去ったあとに一冊の本の残骸が残った。 もはや判読不能なまでに炭化したそれは、かつては黙示録と呼ばれる伝説の書物だった。 そして、それには一枚の四つ葉のクローバーが挟まれていた。 クローバー自身は落雷に耐え切れなかったものの、その葉に含まれた水分と幸運の力によって黙示録のほんの一部が炭化から救われていた。 このように。 『…………………………………………………………………雹と火とが現れ、地上に投げつけられ……………………………、木…………も……………焼……』 『………神の使いがラッパ……………………………………………………………………………………………………………………ア……となった」』 ――こうは言えないだろうか。 予言とはその内容通りの結果を引き起こす、呪いの一種である。と。 <♂モンク> 位置 :E-7→ 所持品:なし(黙示録・四つ葉のクローバー焼失) 外見 :アフロ(アサデフォから落雷により変更) スキル:金剛不壊 備考 :ラッパー 諸行無常思考 楽観的 刃物で殺傷 ♀騎士と同行 <♀騎士> 位置 :E-7→ 所持品:S1シールド、錐 外見 :csf:4j0i8092 赤みを帯びた黒色の瞳 備考 :殺人に強い忌避感とPTSD。刀剣類が持てない 笑えない ♂モンクと同行 <残り28名> ---- | [[戻る>2-170]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-172]] |

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