終わりは始まった

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ビギナーズ王国、王城の執務室。
床に千切れた紙をばら撒いて、刻生・F・悠也は憤っていた。
王と華族にのみ伝えられた宰相府の対応、それが許せなかった。

「ジェントルラットを潰すだと………宰相は何を考えている」

あの莫迦宰相め、猫を潰すための口実が欲しかっただけだろうに。
盟友を救おうと尽力した全員を卑下するつもりかあの莫迦め。
誰一人死人が出なかったことを喜ぶ感情は無いのか莫迦め。
責任はあっても死ぬほどのことではないというのに莫迦め、それすらもわからないのか。
ああ、莫迦め、莫迦め、としか出てこない己の語彙にも怒りつつ、やはり宰相への怒りは大きかった。
大声で叫びたい気分だが、そんなことをしたらこの国も潰れる。
たくまが指揮官の一人だった手前、今や監視がどこにいるかわからない状態なのだ。滅多な事は言えない。

「国民を一人残らずか、えぐいことを……」

怒りながらも言葉を選び、当たり障りの無いようにつぶやき、
既に原形をとどめていない宰相府からの手紙を何度も踏みつける。
怒りに任せて千切ったものの、その文面は全て頭に焼きついていた。
絶滅部隊(ディンゴコープス)のジェントルラット藩国への派遣。
一人残らず処刑するための牙が、何の罪のない人にまで及んでしまう。
刻生は舌打ちをすると、頭をかきながら窓に向かった。それを開けて外を見る。
広がっているのは平和そのものの、自分たちの王国。
おそらく、まだジェントルラットもこんな風景が見られるのだろう。
だが、すぐになくなる。
眼下の人々が蹂躙される様を想いい、刻生は吐き気を覚えた。
邪悪だ、これは邪悪といってもいいほどの『理不尽』だ。
これは見過ごすことは『誠義』に反する。
『誠義』の遵守と、『理不尽』への反逆こそが刻生の魂といえるものである。
ならば、それを守らないのは、魂を捨てることになる。
それだけは、どうしても許せなかった。

目を閉じて、祈るように天を仰ぐ。
自分に勇気があるか、どうかじゃない。
重要なのは唯一つ。

「それが、俺の魂か、どうかだ」

決意を言葉にし、目を開く。
覚悟は出来た。
やりたいことをする力もある。
もう迷わない。そうつぶやいて、端末を恐ろしい速さで操作し始めた。
メイドを呼んで部屋の掃除を命じると、下宿先に連絡し、執政権限で代表を全員招集。
ちょっと出張だから、リックによろしくと短く伝え、自身は部屋を出る。
向かったのは会議室。
全員が来るまで時間はある。さて、どんな口上を言おうか。
これが、執政としての最後の仕事だ。

「カッコよく、決めていこうか」


刻生の中で最も短く、そして、長い戦いが始まろうとしていた。






続く

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