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第6章~何処かへ - (2007/02/03 (土) 23:15:09) の編集履歴(バックアップ)



 目を覚ますと、暁はすでに起きていて朝食の用意をしていた。和斗に聞いてみると叶榎は、一日以上眠っていたらしい。叶榎が近くの小川で顔を洗ってから、三人で朝食をとった。
「叶榎、夢の中で何をみた?」
食後に紅茶を飲んでいると暁がそうたずねてきた。和斗もこちらを見ている。
「ん?いろいろみたよ。さすがに全部ってわけじゃないけど。残りは、じきに思い出すでしょうって言われた。」
叶榎が答えると暁と和斗が怪訝そうな表情を浮かべた。
「叶榎、誰かにおうたん?」
「ああ、オレ、キャシアに逢ったぞ」
「そうか」
暁が、珍しいことににっこりと微笑む。
「………。」
しばしのまが一行の間に流れる。
「えええええ!!」
和斗が叫び、暁はぽかんと口を開け、持っていたカップを落としてしまった。
「キャシアって、あのキャシア・シルフィー!?」
「そうだけど。」
「……叶榎、お前やはり、素晴らしいハーバーズになるだろうな」
「ほんまや。」
「なんでだ?」
「いずれわかるさ。」
「教えてくんねーのか……」
この二人は、何かと秘密主義者ではないのかと思う叶榎だったが、あえて黙っておく。
「ほんじゃあ、叶榎も起きた事やし、そろそろ出発せえへん?」
「そうだな、」
暁は、そう言って腰に下げているカバンからペンを取り出した。
「また魔法か?」
「ああ」
いつの間にかいつもの仏頂面に戻った暁が陣を書き終えると、そこに、青い光が浮かんでいる。
「本当は徒歩で王都まで行くつもりだったが……。異空間経由で移動するぞ」
「りょうかぁい。」
「へぇい。」
叶榎が答え、和斗がうなずいた。
「詩の民・時の賢者・宙(そら)の傍観者・ここに扉はひらかれたし・我らを彼の地へ・誘わん」
空間転移魔法―誘帰〈YUUKI〉起動。
……………………パアアアアアン
「付いたぞ」
一瞬の出来事、何が起こったのか叶榎には解らなかった。気が付いた時には、もう活気に満ちた市場の前にいた。
「相変わらず、いい腕してんのな。」
「おかげ様でな。」
説明もなしに移動をさせられた叶榎は暁に嫌味を言ったが、暁は『微笑』を浮かべて応えた。
(……こいつなんか、おかしくないか?)
叶榎がそんな事を考えている内に、暁は、もう人ごみの中に消えかけていた。その数歩後ろを歩いている和斗が、こちらに向かって手を振っている。
「叶ちゃん、早ようせんとおいてくでぇ~。」
「ま、まてぇ。」
急いで人ごみを掻き分け、2人の後を追う。
「叶榎、和斗、前を見てみろ。」
「どうしたんだよ、いきなり。」
暁に言われ、視線を上に向ける。
目の前には、美しい造りの強大な城が建っていた。その城は、あまりに巨大で本当に人工の建造物であるのかを疑問に思ってしまうほど……。
「ありゃ、もうこんなとこまできとったん?」
「あの城ってもしかして……?」
「王都エスティアの要……そして、この国の最大、最後の砦だ。過去を見た時に有ったはずだが……?」
確かに、叶榎はキャシアの記憶を見た時にこの城を目にしていた。
「さあ、急ぐぞ」

―――30分後
「おや、お帰りなさいませ。」
あかつきに連れられ、城の門につくと門番が話し掛けてきた。
「ああ、」
暁は、頷く。
「今回は、どうでしたか?」
「2人だ。」
「えっ、では、こちらの方々が?」
「そうだ。」
「神官長がお待ちです。お入りください。」
門番がそう言った後、その後ろにあった大きな扉が音も立てずに、開いた。
「……なぁ、暁?何でこないに簡単に城の中に入れるん?」
「さあな」
「おまえは……また秘密かよぉ。」
完全に開いた扉の向こうには、庭園が広がっている。その中央に小柄な老人が立っている。
「待っておったぞ、暁。良くぞ戻った。」
老人が、低くしわがれた声で暁を呼ぶ。
「ただいま戻りました……師匠。」
「師匠?」
「フォフォフォ、暁は私の弟子ですぞ、叶榎殿。そちらは、和斗殿ですな?」
「おっちゃん、俺らの名前なんでしってん!?」
「フォフォフォ。早速ですが、神殿へ向かいながら話しましょうか。」
老人……ガレアはそう言って歩き始める。
「はぁ。(……この師弟そっくりやなぁ。)」
和斗は素直にそう考えたが、口にするのが恐ろしいので心の内にとどめておいた。
「私はガレア・ルイスといいます。長旅のところお疲れでしょう。神殿に行った後、少々お休みになられてはいかがかな?」
「師匠、そうもいきません……。こちらに来てすぐにブレイカーの奇襲を受けました。」
「なぬ!?では、叶榎殿と和斗殿もアレを見られたのですな?」
ガレアは驚きの表情を隠せないでいる。
「はい、師匠。ですが、アレの説明はまだしていません。」
「そうか、では私が説明しよう。お二人は死滅者についてご存知ないでしょう?」
「はい、詳しい事は何も知りません。」
ガレアに聞かれた叶榎は応えた。
「やつ等は、死滅者、別名をブレイカーといいます。銀が自身を封じられた後にその身の糧とするために闇の能力を使って創った4人の事で、やつ等は自身の肉体を持ちません。生きている人間のなかでもっとも波長の合う人間の肉体を奪い自身に適応させるのです。」
「肉体奪われてしもた人間はどないなるんですか?」
和斗が怪訝そうな表情で問う。
「肉体本来の精神は、消滅してしまうはず、少なくとも過去に精神が無事だった例はありませんな。」
「………。」
「とにかく、やつ等は銀のもっとも位の高い僕だ。そのやつらが出てきたという事は、思っていた以上に事態は急速に進んでいる。師匠、ゆっくりとしている時間はありません。」
「そのようじゃな、では、3人には、すぐにあちらに行って残りの3人を探してきてもらいたい。」
「解りました。」
3人は、ほぼ同時にしっかりと頷いた。ガルアは、その3人の様子を見て言った。
「では、これをもっていくと良い。3人とも扱えるはすですぞ?」
そう言ってガレアが懐から取り出したのはビー球より1回りほど小さい宝石だった。色は……アメジストのような色だが、微妙に質感が異なっているようだ。
「ガレアさん、これは何ですか?」
「これは、ハーバーズの継承の儀式の際に真の能力者であるか示す為に使う宝物(ほうもつ)です。ハーバーズを探すのに役立つでしょう?よいですか、その石は一度も触れたことの無い能力者が近くに現れるとその人物の持っているアビリティーの色に変わりますぞ。くれぐれも見落とす事のないように。」
そう言ってガレアが叶榎に石を差し出すと石は鳶色に変わった。叶榎がそれを受け取ると、一瞬強く輝いた後、今度は藍色に変わった。叶榎が、その石を和斗に手渡すと同じように光った後もとの色に戻った。
「着きましたぞ、此処が神殿です。正式な継承式は、残り3人をあなた方が集めて戻った時に行いましょう。今は、予言だけでもお聞きになると良ろしかろう。」
「……師匠は、神官長として予言や、まじないごとを行っている。的中率は絶対だ。気をつけて聞いていないと重大な事を聞き逃してしまうぞ。」
「暁、説明は良い。はじめますぞ。」
ガレアは、目を閉じて唱え始める。
「彼の者達の探し人・異界の住人・其の者・彼の場所にて・過去に苦悩し・今なお心晴れ渡らん・彼の場所・其れすなわち・紅き海、喜びと悲しみの狭間・銀の星降る地、北の不動・碧の野山、思いいずる過去・今旅立つ者達・彼の地にて混迷する彼ら・縁(えにし)ある彼ら・悩まずとも・運命によりて・巡り会う定めにて・何処(いずこ)かへ導かれん……」
全てを言い終わったガレアはその顔に躊躇の表情を浮かべていた。
「今伝えた事が私に見えた全てです。必ずしも明るい未来が見えた訳ではありませぬが、どうか、6人で戻ってくだされ。」
「解りました。」
暁はそう応えるとこちらに来た時と同じように扉を開く……。
扉に入ってすぐのところで、叶榎がガレアの方を振り返るとその年老いた神官は、慈愛の表情で自らの弟子の後姿を見つめていた。
「なぁ、暁これから何処へ無かうん?」
和斗が暁にたずねる。
「師匠が言っていただろう。導かれるままにいくさ、何処かへ」
そう言っている暁の表情はどこか誇らしげだった。