- 01-321 名前:1/2
:08/10/30 23:47:53 ID:iFltxhTd
- 街中のとある噴水の前。私を含め、三人の女子高生がいた。
「ほら、来たよ来たよ、早く行きな!」
私はそう言って、馬鹿女の美咲をはやしたてた。ひげ面のオヤジが、目印を持っているのが見えたからだ。
私の女友達である和葉は、そのやり取りを、やや冷やかに見つめている。
「い、嫌、やっぱり行きたくない・・」
美咲は予想通りというべきか、必死に抵抗する。
「おら、今更嫌がってんじゃねーよ。あ、そうだ、パンツここで脱いでいって。ノーパンで行くって言っておいたから」
美咲が嫌がるのも無理はなかった。なんせ相手は見ず知らずのオヤジ。出会い系サイトで呼び出した、明らかな下心をもった男だ。
しかしそんなやつに美咲をぶつけるからこそ、反応が面白そうだと思い、私は嫌がる美咲をここまで連れてきたのだ。
「や、やだあ!パンツ引っ張んないで!」
「いいから脱げっつってんの!」
痺れを切らした私が美咲のスカートの中に手を突っ込んだ時、私の肩を誰かがつかんだ。
「んー?」
てっきり和葉かと思って振り返ると、そこには予想だにしない顔があった。
「何してんだよ、美咲に」
「沢長くん!」
私が名前を思い出す前に、和葉が叫んでいた。
沢長君?何でこんなところに?
「樹村さん、これどういうこと?」
明らかに怒った様子で私を見つめる沢長君に、私は言葉が出なかった。
『いやー、美咲に出会い系の男と無理矢理会わせようとしてました、理由は単に興味本位で』
と言ったらさらに怒るだろうということだけは分かった。しかしだからといって、代わりに何を言うべきか、全く頭に浮かんでこなかった。
「・・良い、私が説明するから、あっち行こユキ君」
美咲はそう言って、沢長君をどこかへと引っ張って行った。
私と和葉は、二人が視界から消えるまでただ茫然と立ち尽くすだけだった。
- 01-322 名前:2/2
:08/10/30 23:49:40 ID:iFltxhTd
- 「ねー、やっぱやりすぎだったよあれは。美咲マジ泣きしてたじゃん」
帰り道、和葉が自分の爪をいじりながら言う。
「シャレにならなそうだったじゃんあれ、あんたもパンツ脱がすとかさー、いきすぎ」
私はその言葉を黙って聞いていた。
美咲は馬鹿だ。行動や性格が、馬鹿だ、と思う。
その馬鹿さを私は普段からからかったし、文字通り馬鹿にした。
今日もいいところに連れてってあげるよと言って誘い出し、途中でネタばらしして反応を楽しんだ。
知ってからはものすごく嫌がっていたが、それでもなんとか引っ張っていった。しかしクラスメートの沢長クンのおかげで、計画は中止になった。
「そりゃあたしも美咲はからかったりしたけどさー、今日のはちょっと引いたわー。ねえ、マジで行かせる気だったの?」
「・・んなわけないじゃん」
と、一応言っといたが、自分でもよく分らなかった。あのおっさんに引き渡した後、連れ戻すことなんて私はしただろうか?
「ところでさ、あの沢長君って、もしかして美咲と付き合ってんの?」
極力何気ない風を装って私は聞いた。
「え?あー、知らない。クラスじゃ仲良い感じだったけど、そこまでは」
沢長君は、私の知りうる限りでは、最もできた人間だ。
イケメンで、かといって派手すきず。成績も優秀で、運動神経も良い。
誰に対しても分け隔てなく明るく、やさしく。それでいて気弱ではなく、言うべきことははっきり言う。
暗い奴、浮いてる奴に対しても、見下した態度をとらない。
てっきり、そういう性格の延長線上で、美咲にも話しかけているのかと思っていた。
「でも、あの二人なら釣り合ってないよね、美咲が人よりちょっとだけ良いのなんて顔だけだし・・」
私は笑みをひきつらせながら言う。しかし私の内心は和葉には丸分かりだったようだった。
「明日でも聞いてみたら美咲に。明日はガッコー休みだから美咲に聞くしかないし」
「え、な、何それ。別にあたしそこまで興味ないし」
「もろばれだって、ついでにあやまっといたら」
何もかもお見通しの和葉に、私は何も言えなかった。
- 01-328 名前:1/3
昨日の続きでございます :08/10/31 23:18:52 ID:e6Y7sKb7
- 初めて美咲と会ったのは三か月前だ。
「山星美咲でーす、美咲はー、明るさだけは誰にも負けないので、よろしくお願いしまーす」
これが、美咲が私のクラスに入ってきた時の自己紹介だ。
高校生でこれはひどい、と思った。最初はネタか何かかとも思ったが、違った。話せば話すほど、抜けた頭と性格が明るみになっていった。
そのせいで美咲はクラスで少し浮いていた。
といっても誰も話しかけないというほどではないし、それなりにはうまくやっているのだが、やはり浮いている感はあった。しかも性質の悪いことに、本人はそれに気づいていなかった。
しかしだからこそ、私はそこに目をつけた。うまくいけば、きっと面白いオモチャになると思ったのだ。
最初は親しげに話しかけた。
そして少しずつ優位に立っていき、言葉の端々で馬鹿にした。
上手く操ることができるようになると、遊びと称して色々と命令した。命令とは言っても、本当にチンケなことではあったが。
そして昨日、そろそろ大きな事をと考え、出会い系で男を呼び出した。
最初は美咲に出て行かせて、笑ってすますだけと考えていたが、実際に来ているのを見ると、思った以上に高揚してしまい、凄いことをやらせたくなった。
- 01-329 名前:2/3
:08/10/31 23:19:47 ID:e6Y7sKb7
- 「・・真美ちゃん・・何?」
電話越しに、美咲のしずんだ様子が伝わってくる。
「うん、いや昨日はやりすぎたかもしんないと思って」
こう言っておかないと、さすがに今後は完全にガードを固くしてしまって、言うことをきかなくなるだろう。
「・・・私、すっごくいやだったんだよ?」
「うんごめんごめん、もうしないからさ。ねえねえ、どっかで会わない?ちょっと聞きたいことあって」
美咲が答えるまでに、妙な間があった。
不審に思い、私が何か言おうとした瞬間、美咲が言った。
「・・・何か、あるの?」
「うん、実はさ、えーと」
さらっと本題を言い出せない自分が、ちょっと恥ずかしかった。
「あのさ」
「うん」
「美咲って今カレシとかいるの?」
また沈黙があった。
「うん」
うんと答える直前、フッ、という美咲の吐息が聞こえてきた。それが何を意味していたか、私は一時間後に知ることになる。
- 01-330 名前:3/3
:08/10/31 23:21:00 ID:e6Y7sKb7
- 私は今、美咲の家の前まで来ていた。詳しいことを聞くために直接会うことにしたからだ。
美咲は一人暮らしだ。両親に仕送りをしてもらっていると聞いたことがある。
その親がそこそこ金持らしく、美咲はアパートではなくマンションに住んでいた。
ピン・・ポーン、ポーン、というチャイムを鳴らし、携帯の時計を見る。まだ午前十時だ。さっきの寝起きのような声からすれば、すっぴん状態で出てくるかもしれない。
そう思いながらドアノブを見ていると、予想とは違った相手が現れた。
「えっ」
上半身が薄いシャツ一枚で、髪も濡れていたから誰だか一瞬わからなかった。が、すぐに名前が浮かんできた。
「沢長君?なんで・・」
その格好は、まるで今自分の部屋から起きてきたかのような、ラフさであった。
「何でって・・あの、樹村さんこそどうして?」
あっけにとられ、私は何も言えない。
何も言えないまま、ただ眼だけを動かした。
視線の先に、美咲の姿があった。
ベッドの上で、何も着ていない上半身を、薄めの布団で隠していた。
その口元が、フッ、と笑った。
あの時聞いた美咲の吐息が、鮮明に蘇ってきた。
- 01-336 名前:1/4 330の続き :08/11/05 21:54:24 ID:+vAeburM
- 翌日、学校は休んだ。家から出ることさえ面倒な気分だった。
学校や和葉には体調が悪いから休むとだけ伝えた。
ぼんやりと、部屋の中を見渡す。
普段はせまいと感じるこのワンルームが、今はやたらと広く感じた。
連絡をしていない美咲の顔が思い浮かぶ。
そういえば以前、美咲が好きだった相手と付き合ったことがある。素知らぬふりして。美咲がどんな顔をするか見たかったから、ただそれだけのために。
予想通り、美咲はまるで魂が抜け出たような顔で驚いていた。
「ごめーん、知らなかったの」
そう言って、白々しくしたりしてみた。
まあ、好きでもなんでもない男だったのでその後すぐに別れたが。
それ以降、美咲はそいつにすっかり近づかなくなっていたが、てっきりまだいくらか未練があるものと思っていた。それなのに。
それなのに、もう気持ちを切り替えていたなんて。
それもよりにもよって、その相手が沢長君なんて。
「くそ・・」
知らず知らず、呻きが漏れる。
もう人眠りしようかとベッドに横たわったとき、不意に、ブザーが鳴った。
最初は新聞勧誘か何かだと思い、無視を決め込もうかとも思った。しかし、
「真美ちゃーん、開けてよー」
という聞き覚えのある声がしたために、私は改めて選択を迫られた。
- 01-337 名前:2/4
:08/11/05 21:55:52 ID:+vAeburM
- さんざん逡巡したあと、仕方なく私はドアを開けた。
「あは、やっぱりいたー。ねえ真美ちゃん、体調悪いんだって?」
美咲はいつもどおり笑顔だった。そしてその笑顔に、黒いものを感じているのは決して私の被害妄想ではない。
「ねえねえ、元気になるものたくさん持ってきたんだよー」
そう言って美咲が出したのは、栄養補助食品や、果物だった。
「・・ねえ美咲、あんた沢長君と付き合ってるんだね」
「え、うんそうなの。えへへ」
いらっ、とした。体内の血液が沸騰したかのようだった。よっぽどその顔にパンチしてやろうかと思った。
こんな女に沢長君が、という思いが改めて湧いてくる。
自分はビッチの部類に入る女だ、と思う。
男に飽きては自分勝手に捨てたこともあったし、モテナイ男子を告白と称してからかって、どっきりでした、なんて遊びもした。そして美咲をいじめたりもした。
しかしそんな自分なのに、唯一汚れていない時間があった。
沢長君と話してる時、まるで自分がまだ幼いころのように、無垢で素直な人間でいられるような気がした。
まるで初恋のように、頭の中がぼーっとしてしまい、それでいて全神経を集中させてその人との対話をするような感覚。
いわば、心の聖域。
その聖域が、何故だか自分が見下している奴に横取りされる。その「汚され感」は、とうてい許容できるものではなかった。
- 01-338 名前:3/4
:08/11/05 21:57:31 ID:+vAeburM
- 「ふーん、そうなんだー」
心の中では荒れ狂いながらも、私はなんとか美咲と会話を続けた。
「あ、このサンドイッチ美味しいんだよー食べてみて」
美咲がカツサンドを差し出す。
朝からまだ何も食べていない私は、そのまま流されてそれを食べてしまう。
瞬間、吐き気がこみ上げた。やばい味に酷い匂い。
食べるべきではないものを食べてしまったという事が、瞬時に理解できた。
「きゃはははっ!きったなぁい!きったないもの食べた真美ちゃん!」
美咲の、人が変わったような突然の笑い声。私は口元を抑えながら、その続きを聞く。
「あはは、真美ちゃーん、私が本当に馬鹿だと思ってたの?ずーっとやられてるだけだって?
沢長ユキ君てさー、案外簡単だったんだよ、真美ちゃん。がばがば真美ちゃんみたいな子は嫌いだろうけどさ。きゃははは!」
信じられない言葉の連続だった。
美咲は、私のさせていたことの真意も、そして恋心もすべて知っていたというのか。気付かない振りをしていただけだったのか。反撃の機会を、ずっと待っていたというのか。
- 01-339 名前:4/4
:08/11/05 21:59:03 ID:+vAeburM
- 「てめ、調子に・・うぐっ!」
殴りかかろうかとしたが、吐き気がこみ上げてきたために、私は立つことすらできなかった。
一体何を口に入れてしまったのだろうか。目の前が暗く、ゆらゆらとする。
「毒もちょっとあるらしいからね、くすくす」
「うっ!」
頭が、今度は後ろ側へと倒れこんでしまう。美咲が笑いながら私の頭を蹴りとばしたからだ。
「真美ちゃーん、じゃあねー」
言いたいことを言い、やりたいことをやったというように、美咲は私の部屋から出て行こうとする。
朦朧とする意識の中で、私はその後ろ姿に向かって何とか声を振り絞る。
「さ・・沢長君は、私が好きだと知ってて・・?」
「そうだよ、誰かさんにされたことを仕返ししただけ。文句はないでしょう?
飽きたらあげても良いよ。いくらぐらいかな、五万ぐらいで譲ってあげてもいいよ」
実際に蹴られた時以上に、頭に衝撃があった。
私はそれ以上喋ることすら出来ず、そのまま意識を失った。
美咲が笑いながら、部屋を出ていくのが見えた気がした。
- 01-372 名前:1/4
:08/11/25 20:05:24 ID:pAnb3LYt
- 翌日から、美咲の雰囲気は大きく変わった。
沢長君との関係を通し、クラスの中心人物に美咲はなっていった。
よっぽど蹴り返してやろうかと思っていたが、いつも沢長君やほかの女子と一緒にいるために、それもやりにくかった。
携帯は着信拒否にされ、二人きりになることはほとんど不可能になっていた。
当初は怒りの目で美咲を見つめていた私だったが、しばらく経つと、その熱も冷めていた。
お互いまるで最初から知らない者同士のように、親しくないもののようにふるまい、それぞれの生活を送っていた。
ただ、それでも沢長君のことだけは時々気になっていた。
向こうの私に対する印象は最悪だと分かっていたが、それでも目で追わずにはいられなかった。
そして美咲と親しげにしているのを見る度に、胸が痛んだ。
ここまで執着するのは、人の男だからだろうか、それとも憎たらしい女にしてやられたからだろうかと考えてみたりもした。
- 01-373 名前:2/4
:08/11/25 20:06:27 ID:pAnb3LYt
- それは本当に偶然だった。
ある雨の日の帰り道。美咲と沢長君が、私の100メートル先を一緒に歩いていた。
私の前方に二人がいたのは本当にたまたまのことで、普段ならこんなことはなかった。
いつもなら私は和葉と逆方向に歩いて、店を回って帰っていたからだ。
その日は、和葉が休みだったため、私も珍しくまっすぐ帰ったわけだ。
視界の悪さもあって、二人は私に気づいていないようだった。
私も気付かれたくないため、距離を縮めずに歩いた。
途中、二人は別の道へと歩いて行った。毎日どこかでいちゃいちゃしているんだろうと思っていたため、それは意外な行動に思えた。
- 01-374 名前:3/4
:08/11/25 20:07:28 ID:pAnb3LYt
- 残念なことに私の家へとつながる道は美咲の歩いている方向だったため、仕方なくその後をついていく。
そしてその内に、美咲はある男に声をかけた。
まさか、とまず思った。
そう思いながら見ていると、美咲はその男の首に手をまわし、キスをした。
傘が、ずるっと手からすべり落ちかけたところで、私は慌てて握り直した。
「五万ぐらいでゆずってあげてもいいよ」
美咲の言葉が頭の中で蘇ってきた。
考えるより先に、足が動いていた。
私は元来た道を引き返し、沢長君の進んだ方向へと走った。
幸いなことに、彼は雨のためか、まだあまり進んでいなかった。見つけたその背中に思い切り叫ぶ。
「沢長君!」
彼は一瞬立ち止った後、振り返った。
「あれ、樹村さん」
彼の目の前までくると、私は息切れした身体を必至に抑えながら、言った。
「み、みさ・・美咲・・・」
大事なこと・言わなくちゃいけないことがあると思ったのに、いざ言うとなるとなかなかうまく言葉を紡げなかった。息切れのせいもある。
そもそも、何と言えば良いのか?
- 01-375 名前:4/4
:08/11/25 20:09:16 ID:pAnb3LYt
- 美咲が浮気してましたよ、というのが事実だろう。
しかしそんなことを美咲に嫌がらせしていた私が言って、信憑性があるだろうか。嫌悪感のこもった目で見られるだけではないか。
どうかしている。以前の私なら、もっと計算高く、効果的な手段で伝えただろうに。
「美咲?美咲がどうしたの?」
「み、美咲が、別の男と・・ハァ、ハア」
しかし私の口から出てきた言葉は、なんとも間抜けなものだった。
予想通りというべきか、彼は私のことを胡散臭そうに見た。
「本当に?美咲から聞いたけど、嫌がらせしてたんだろ、美咲に。これも嫌がらせ?」
「ほんとう、本当なの、信じて・・」
そう言って、顔を上げる私。顔が雨以外の、熱い液体で濡れていた。しかし彼の目には雨でぬれているようにしか見えないだろう。
「悪いけど・・」
彼はそれだけ言って立ち去っていく。
私は膝から崩れ落ちた。
そしてしばらく、そのまま雨に濡れていた。
- 01-413 名前:339
:08/12/08 20:39:00 ID:vQ6Rj1JW
- その日から、俺の中に違和感が芽生えた。
「ユキくん、きもちいいよ・・んっ・・はあっ・・」
美咲の上気した顔を見つめながら、全身の感覚が下半身へと集まって行くのを感じていた。
すでに何度も美咲とは交わっていたが、この行為で得られる満足感と充足感は薄まる事がない。
そう、薄まることはないはずだった。
しかしこの日は違った。
心が、快感と幸福感でいっぱいにはならなかった。
それは、昼間に聞いた樹村さんの言葉のせいだった。
『美咲がほかの男と』
そんなわけはない、と一度は思ってみたものの、一度疑念が生まれると、中々完全に消しさることはできない。
「どうしたのユキ君、顔怖いよ」
美咲がかわいらしい仕草で言う。俺はそれを見て、考えすぎだ、邪推だ、あの娘の言ったことは単なるいやがらせだ、と思い込むことにした。
しかし、なぜだろうか。
そう信じきることがどうしてもできなかった。
- 01-414 名前:339
:08/12/08 20:40:21 ID:vQ6Rj1JW
- 「今さら何の用?」
校舎裏で2人きり。あたしは真美とそこにいた。
普段ならさらりと避けているのだが、この日は違った。やや強引に連れてこられてしまった。
まあ何かされそうになったら、叫べば聞こえる距離にユキを待たせているので別に良いんだけど。
真美は私の顔を見つめるばかりで、なかなか話を始めない。しびれをきらしたあたしは、言った。
「みさきねー、もう帰りたいんだけどー。早くしてくんない?」
その言葉で、ようやく真美が動いた。
「五万でゆずって」
あたしは 髪の毛先をいじっていた指も止め、口をあけて真美の顔を見つめた。
何言ってんだろうこの女。
「はあ?」
「言ったじゃん、ゆずってくれるって。だからゆずって」
あたしは少しの間呆然とした後、噴き出した。
「あっはっはっ!何言ってんの真美ちゃん!本気?」
- 01-415 名前:339
:08/12/08 20:41:19 ID:vQ6Rj1JW
- 「・・本気」
あたしが笑うことは予想していたことなのか、真美は真剣な表情をくずさなかった。
「あっそう、あはは。譲ってあげてもいいんだけどー、そうだなー、じゃあお金はいいからさ、殴らせて」
「え?」
あたしは返事を待たず、真美に近づいて殴りつけた。
「うぐっ!」
ひっくり返る真美に、私はそのまま蹴りをいれ、立ち上がらせまいとした。
「ぐ、いたっ・・!」
立ち上がろうとする真美に、あたしは素晴らしい台詞を言った。
「耐えたら譲ってあげる」
多少の効果しか期待していなかったというのに、驚いたことに真美はそれ以降抵抗しようとしなかった。
それに気を良くしたあたしは、それから2、3回蹴りをいれた後、やめてやった。
「はははっ!ほんとどうかしてるよ真美ちゃん」
息も絶え絶えになりながら、あたしを見つめる真美。
てっきり悔しそうな顔をすると思ったが、意外にも毅然とした顔で真美は言った。
「・・・これで、ゆずってくれるんでしょ?」
- 01-416 名前:339
:08/12/08 20:42:20 ID:vQ6Rj1JW
- あたしの中に、不快感が走った。
思いっきり作り笑いをしながら、あたしは真美の耳もとに近づいて、言った。
「やるわけねーだろばーか!」
瞬間、真美の顔色が変わった。
あたしはその反応にぞくぞくとした快感を覚えながら、その場を立ち去ろうとした。
しかしその時。
あたしの髪は後ろから引っ張られ、ひきずり倒されていた。
「きゃああっ!」
そしてあたしの上に真美が馬乗りになる。
真美の顔は、涙でぐしゃぐしゃになりながらも、目をそらしたくなるほどの怒りを映していた。
私はその表情に驚きながらも、次の瞬間には楽しい考えが浮かんでいた。
「ユキくーん!助けてえええ!」
- 01-417 名前:339
:08/12/08 20:43:01 ID:vQ6Rj1JW
- 真美の顔が、はっと色を変えた。
ユキはすぐにやってきた。
押さえつけられている私を見て、すぐに私が「被害者」と認定したようだった。
「おい、何してるんだよ!」
どん、っという衝撃とともに、私の身体にかかっていた重さが消える。ユキが真美を突き飛ばしたのだ。
私は心の中で大笑いしながら、現実での表情は凄く辛そうに見せる。
「美咲に何したんだよ!?」
「いきなり、いきなり真美ちゃんが美咲に襲いかかってきて、美咲、必死に抵抗したの!」
真美の顔についた傷のことを聞かれても大丈夫なように、言葉を選んで答える。
真美ちゃんは弁明する気力もないのか、魂が抜けたような顔で、ユキを見つめるだけだった。
最終更新:2009年07月17日 13:47