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相思となり真実を隠す - (2007/08/05 (日) 14:00:12) の1つ前との変更点

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広がる草原、規則正しく配置されたいくつもの石碑。 ここは杜王町の住民が最後に行き着く安息の場――霊園。 東方仗助は吹き抜ける風を全身に受け、視界一杯に広がる光景をぼんやりと眺めながら歩を進める。 自宅から男一人を担いでここまで来るのに随分と体力を消費したが、余り気にはならなかった。 「っと……よう、ジイちゃん。しばらくこねーつもりだったがまた来ちまったぜ」 かつて殉職した祖父が眠る場所を見つけると、仗助は足を止めて、担いでいた男をゆっくりと地面に降ろす。 男が相変わらず目を閉じたままなのを確認すると、 仗助は両膝を地面に着き、“東方家之墓”と彫られた石碑の前で、掌を合わせる。 自分を庇い命を落とした名も無き男に、祷りを込めて。 「それがいわゆる……ジャパニーズ的な葬式なのかい? 」 自分の隣から聞こえる声に、仗助は聞こえないフリをしてバッグからスコップを取り出す。 ここの土は比較的柔らかいらしく、容易に掘ることが出来る地質だった。 仗助は訓練されたレンジャー兵のように、小刻みにスコップを動かし、墓石の前で穴を広げていった。 「ヘイッ! アタシも手伝ってやる、いや手伝わせてくれ。そうでもしないとアンタに恩返しが出来ねえ」 先ほどから話かけてくる、アメリカ人の女囚エルメェス・コステロの言葉に仗助は何も答えない。 結論から言えば仗助にとって、彼女のことはどうでもいいのだ。 こちらが一方的に彼女を治療したら、恩返しを申し出て一方的についてきただけ。 それ以上の関係はない。 「……好きにするんだな」 「良しッ! 早速だが、アタシの『キッス』でスコップを二つにさせてもらった。これで作業はグンと楽になるぜ」 「……! オメーそんな能力持ってんのかよ」 「便利だろ? だから手伝わせて欲しいかったわけよ。あ、そのシール剥がすなよ。 シールを一度貼られた物は、シールを剥がすと破壊されちまうんだ」 ニヤリと笑うエルメェスに、仗助はあっけに取られたがすぐさま作業を再開した。 あたりに聞こえる音は自分達が掘り進める音だけ。風もすっかりナリを潜めたようだ。 ※  ※  ※ エルメェスはすっかり疲弊していた。 人が楽に入ることが出来る程の、穴を開けるのに予想以上の労力を要したからだ。 地面に穴を掘るのにこれほど時間がかかるとはエルメェスは考えもしなかった。 余りの力仕事の為、手伝うのを申し出たのに、交代交代で作業をする醜態をさらすことになってしまった。 おそらく1、2時間はゆうにかかってしまったに違いない。 「フゥ……穴掘り『完了』ォォォ……。アンタ、その男をこっちに運んでくれ」 エルメェスは仗助に埋葬の準備を促す。しかし仗助は一向に振り向こうとはしない。 彼女はもう一度仗助を呼びかけようとしたが、止めた。 まだ、取り込み中らしい。 少年は死体に向かって静かに語りかけている。 「……スマねぇジジイ……オレは……アンタを救えなかった……オレが……オレがもっとちゃんとしてりゃあ……」 エルメェスは仗助に心底腹が立っていた。 この少年は、自分を庇って死んだ男を、なんとか・ジョースターという自分の父親だと思い込んでいるのだ。 いや、思い込んでいるというよりは、すり替えているというべきか。 早朝に流れた荒木の放送を聞いた時からずっと、名もわからない『目の前の死者』を、 『この場にいない死者』、つまり自分の父親にしているのだ。 エルメェスはすっと立ち上がると、すかさず仗助のところまで歩き、彼の胸倉を掴んだ。 「おい……いい加減にしろよクソガキが」 「……離せよ」 お互い無言のまま、じっと睨み合う。 密着している二人をよそに、霊園に再び風が吹き始めた。 「その死体は、てめーの父親のなんとか・ジョースターじゃねぇ。『赤の他人』だ」 「……もういっぺん言ってみろコラァ!」 「何度でも言ってやるよ。そいつはてめーを庇って死んだ『赤の他人』なんだよ」 「……やめろ。それ以上言うな……てめー……! 」 「その男は見ず知らずの『赤の他人』の為に命を張れる、誇り高き『赤の他人』なんだよッ!! 」 ありったけの怒気を込めてエルメェスは吼えた。 彼女のその言葉に少なからずこたえたのか、仗助はハッと目を大きく見開いた。 「いいか……てめーがどんなに悲観にくれようとな、アタシにとっちゃ知ったことじゃねーんだ。 大事な人を失ったショックは、とてつもなく苦しい……アタシもそうだった。 でもな、今てめーがやってる事はッ! 目の前の事実に目を背け、出来るハズのないことを悔やんでいるだけだッ! 一度でもここでジョースターに会ったのか!? 違うだろーがよ。 『会うこと』すら出来なかったてめーに『救えなかったこと』を悔やむ資格なんてないッ! 挙句に命の恩人であるその男に、幻影を重ねやがって……てめーは今、悲しむべき男の死も否定しているんだよッ! 」 エルメェスの叫びは風にのり、霊園中に響き渡る。 そして二人には再び沈黙の結界が紡がれ、深く深く絡みついてゆく――はずだった。 「……オレの祖父はよ」 沈黙の結界を今度は仗助が断ち切ったのだ。 「35年間……この町のおまわりをしてたんだ。出世はしなかったけど、毎日この町を守るのが仕事だった。 犯罪者のニュースを聞いたとき、いつも『町を守っている男』の目になってたんだ。 だから祖父が死んだとき……オレがこの町と仲間を守ると決めたんだ。祖父の代わりに…どんなことが起きようと…」 エルメェスはいつのまにか掴んでいた手を仗助の胸倉から離していた。 それに伴ってか、うつむき加減だった仗助の顔が上を向いた。 「守り……たかった」 少年は、大粒の涙をこぼしていた。 ※  ※  ※ 仗助が涙腺を決壊させたために、エルメェスは彼が泣き止むまでさらに時間を要することとなった。 うかつに声をかけることも出来ず、目の前で悔い続ける人間をただ見てるだけしかできなかった。 現在、仗助の顔つきは普通に戻ったが、暗い雰囲気は相変わらず。 その痛々しさに、エルメェスは遂にしびれを切らしてしまった。 「な……なぁ……あたしは……これからも、アンタのことを守ってもいーかな? その、さ。アンタはこれからもここで、誰も傷つけないつもりなんだろ? みんなを助けようとしてる。 でもアンタ自身はアンタを救えない……その能力だとさ。もしもの時はその時なんて問題じゃあねェ。 だからさ、アタシがアンタの保護者になろうと思うんだ。いや、そうさせてくれ。 アンタが、みんなを守るって言いながら自分自身をほっておくのは話が違うと思うんだ……アタシを使ってくれよ。 例えアンタがいやだと言ってもアタシはついていくからな」 エルメェスは内心焦っていた。この少年がこのまま絶望の果てに自分を見失うことは避けたかった。 この少年を支えるには、少年自身が目的としていた行動を是正させ、没頭させることが的確だと判断したのだ。 しかし、エルメェスの申し出に仗助は答えようとはしなかった。 そればかりか、途中から空をずっと眺めていた。 「……鳩だ」 「……は? 」 「鳩が……飛んでやがる。こっちに向かってきてる」 エルメェスは仗助と同じ方向に顔を動かす。向こうからやってくる大空の遊歩者。 それはまさしく平和の象徴……鳩だった。 「ウオッ! 何だ、何でこっちに飛んでくるんだ!? 」 「何か持ってやがる。C・ダイヤモンド、あの鳩を捕まえろ! ……これは、封筒か? 」 暴れる鳩を押さえつけながら、仗助は封筒を開けて中身を調べている。 そこには何も書かれていない手紙が一枚。そしてもう一枚は…… 仗助は手紙を読み終えると突然しゃがみ込み、またうつむいた。 「どうかしたのか? 何が書いてあったんだ? 」 また何かショックを受けるようなことが書いてあったのかと、エルメェスは心配した。 仗助はエルメェスの言葉に呼応するように飛び上がる。 「ギャァ――ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ~~」 少年はありったけの笑顔を見せて地面に転げながら、腹を抱えている。 「なッ……何が書いてあったんだッ!? 」 「ブワハハハーこの野郎~~一杯食わせやがったなーグワハハハハ~~。畜生こんな手の込んだ面白え悪戯しやがって~~」 仗助から手紙を受け取ったエルメェスも、文書に目を通す。 それはシーザー・アントニオ・ツェぺリという男からの衝撃の通達。 仗助が自分に話していたであろう(おそらく)ジョセフ・ジョースターという男の生存の可能性だった。 そして、恐らく彼の仲間であろう人物の存在。 エルメェスは、簡潔な文面から、希望への確かな手ごたえを感じた。 「オレとしたことが、こんなことに気づかないなんてな……。まだ『間に合わなかった』とは限らなねぇって事だ」 幼児の様にはしゃぎながら仗助は笑う。先ほどまでの非しい顔付きが嘘のようだ。 そして封筒から空白の書面を取り出すと、何やら書きなぐっている。 書きなぐった内容をエルメェスが読むと、そこには自分たちの今後の進むべき道が書かれていた。 『―――始めましてシーザー・アントニオ・ツェペリさん。オレはヒガシカタ・ジョースケ。ジジイの身内だ。    伝書鳩が馬鹿なのか、それとも一応……ここで死んだことになってる奴には手紙が届かないのか。    アンタの送った手紙は、どうゆうわけかジジイじゃあなくオレの所に届いちまったみてぇだ。    ジジイにとって身近な人間だから、オレに手紙が届いたのかもしれねェ。    ともあれ、アンタのおかげで希望が持てた。      オレは今いる【G-1】から、この町のどこかに隠れてやがるジジイを見つけ出すッス。    だからこの伝書鳩は一旦アンタにお返しするぜ。    アンタは、オレの仲間や自分の仲間に、この伝書鳩を使うなりしてジジイ捜索の協力の輪を広げてくれ。       オレの知り合いの名前をここに書いておきます。もしジジイを見つけたら連絡をよろしくお願いするッス―――』   ※  ※  ※ 再び大空へ羽ばたく鳩を見送ると、エルメェスは当初の目的である男に目をやった。 「さてと穴も掘ったことだし、埋葬、しないとな……ん!? 」 エルメェスが男を担いで穴に収容させようとするが、男の死体は仗助のC・ダイヤモンドのかっさらわれしまう。 「スタンドにやらせた方がやっぱてっとり早ぇー……ま、後はオレにまかせてくれや」 仗助は深呼吸をする。 C・ダイヤモンドが穴に死体を丁重に落とすと、掘った土の山に向かって構えをとった。 「ドラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララァ!! 」 C・ダイヤモンドの拳が積み重なった山を破壊してゆく。 山にあった石、泥、砂、が一粒一粒ビデオの巻き戻しのように穴に入り込んで、男を埋めてゆく。 土葬の為に作られたポケットは、まるで舗装したてのアスファルトの道路ように綺麗に元通りとなった。 「スゲー……オメー『治す』ってそんなこともできんのかよ」 「ああ、それがオレの能力だからな。ドラァッ!」 C・ダイヤモンドは墓石にもペンで文字を書き連ねる。 その文字は『東方家を救った命の恩人、ここに眠る』だった。 作業を終えた仗助は、また墓前で両手を合わせる。 エルメェスも墓前に近付き、墓に書かれた文字の前で手を合わせた。 「……人間は何かを破壊して生きているといってもいい生物だ。 物はモチロンだし、人の命もだ。その中で、てめーのC・ダイヤモンドはこの世のどんなことよりも『やさしい』と思う。 あたしの能力にはない『やさしさ』がある。だが、生命が終わったものは……」 「わかってるぜ……もう戻らねーんだ。どんなスタンドだろうと戻せない…あたり前だぜ」 呼びかけに答える仗助の顔は、どこか清清しさがあるようにエルメェスは感じた。 ※  ※  ※ 二人はいつしか霊園から離れ、進むべき道を歩みだした。 恐ろしくも無気味な男、荒木飛呂彦の思い通りにならない為に。 「そういやアンタ名前なんつったっけ」 「さっき話したばっかりじゃねーか……エルメェス。エルメェス・コステロだ」 「そっか……オレは東方仗助。よろしくなエルメェス兄貴」 「ハァ? あ、兄貴!? 」 「なんつーかアンタの生き様にその……惚れちまったっつーか。舎弟にして欲しいっつーか」 「馬鹿! アタシは女だよ。さっきから『アタシ』っていってんだろ!? 」 「ま、それはいわゆるお姉言葉なんかなぁ~~と。たまにいるじゃないッスか。マッチョのオカマさん」 「……まあいいさ。これくらいじゃあまだ恩返ししたとは言えないしな。仗助、しばらくは付き合わさせてもらうぜ? 」 「うッス!!」 霊園を抜けたところまで歩き、仗助は後ろを振り返る。 遠く見つめる先は、東方家の墓碑。 (じゃあな……名前もわからねー命の恩人さんよ……死んだらあの世で会おうぜ。 それまでオレのじいちゃんと一緒に見守っててくれ。 そしてジジイ……グレートなことやってくれるじゃねーか…… まだまだ先になりそうだがよ、もう少し我慢してくれ。必ずオメーを見つけ出すからよ) 仗助は踵を返すと、盟友エルメェスと共に町へと繰り出した。 仗助たちにはもう、迷いはない。 しかし彼らは最大の事実に気づいていなかった。 伝書鳩サヴェジ・ガーデンはあくまで『ジョセフ・ジョースター』の下に手紙を送ろうとしていたこと。 仗助たちが埋めた名も無き男の死体こそ、当の『ジョセフ・ジョースター』であること。 『ジョセフ・ジョースター』が若き時代からこの世界に呼ばれていたこと。 そして……『ジョセフ・ジョースター』がどこに隠れているのか、もはや誰にもわからなくなってしまったこと。 ささいな勘違いは、次第に大きな歪を生んでゆく。 わかっていたとしても、一度生まれた歪を止めることは容易ではない。 歪は残酷に人を惑わせ、時として真実から大きく引き離す。 無意識とはいえ、彼らの決断と運命は既に大きく狂い始めていた。 【霊園(G-1)/一日目/昼(10時半頃)】 【杜王純愛組】←チーム名 【エルメェス・コステロ】 [スタンド]:『キッス』 [時間軸]:スポーツ・マックスとの決着後、体調が回復した頃(脱獄前) [状態]:良好 [装備]:ライフル [道具]:ドル紙幣等に加え、大量の石ころ [思考・状況] 1:仗助の行動を手助けする(ジョセフ捜索) 2:傷ついてる参加者がいたら、とりあえず助ける 3:とはいえ誰かにもディアボロ(ドッピオ)の秘密を伝える(二重人格であることは知らない) 4:3のためにも、ジョリーン、F・Fと合流したいが、今は後回し 【東方仗助】 [スタンド]:クレイジー・ダイヤモンド [時間軸]:四部終了時 [状態]:荒木への強い怒り、右太股にツララが貫通した傷(応急手当済み・ 歩行に少し影響) [装備]:無し [道具]:支給品一式、小型時限爆弾、スコップ×2(エルメェスの『シール』で二つになっている) [思考・状況]  1:どこかに隠れているジョセフを探す  2:傷ついている参加者がいたら、敵味方関係なくとりあえず『治す』  3:億泰たちや、シーザー、シーザーの仲間を探すのは後回し。  4:打倒荒木! [備考1]:仗助は「荒木は自分たちの声を聞くことができる」と推測しています。(根拠なし) [備考2]:仗助は、禁止エリアについての情報を聞きましたが、メモは取っていないようです。 [備考3]:仗助は過去に名簿を見ましたが、ドッピオの名前の有無はいまは意識にありません。 [備考4]:仗助もエルメェスも、埋葬した遺体がジョセフだとは気づいていません。 ※ジョセフの遺体は【G-1】の霊園にある東方家の墓前に埋葬されました。 *投下順で読む [[前へ>一期一会]] [[戻る>1日目 第2回放送まで]] [[次へ>策士策に絡めとる]] *時系列順で読む [[前へ>神への挑戦(後編)~菩提樹~ ]] [[戻る>1日目(時系列順)]] [[次へ>悲劇]] *キャラを追って読む |58:[[片思いは朝日を浴びて]]||東方仗助|78:[[悲劇]]| |58:[[片思いは朝日を浴びて]]||エルメェス・コステロ|78:[[悲劇]]| |74:[[一期一会]]|サヴェジ・ガーデン|87:[[死せる者の為死せる者に縋る希望]]|
広がる草原、規則正しく配置されたいくつもの石碑。 ここは杜王町の住民が最後に行き着く安息の場――霊園。 東方仗助は吹き抜ける風を全身に受け、視界一杯に広がる光景をぼんやりと眺めながら歩を進める。 自宅から男一人を担いでここまで来るのに随分と体力を消費したが、余り気にはならなかった。 「っと……よう、ジイちゃん。しばらくこねーつもりだったがまた来ちまったぜ」 かつて殉職した祖父が眠る場所を見つけると、仗助は足を止めて、担いでいた男をゆっくりと地面に降ろす。 男が相変わらず目を閉じたままなのを確認すると、 仗助は両膝を地面に着き、“東方家之墓”と彫られた石碑の前で、掌を合わせる。 自分を庇い命を落とした名も無き男に、祷りを込めて。 「それがいわゆる……ジャパニーズ的な葬式なのかい? 」 自分の隣から聞こえる声に、仗助は聞こえないフリをしてバッグからスコップを取り出す。 ここの土は比較的柔らかいらしく、容易に掘ることが出来る地質だった。 仗助は訓練されたレンジャー兵のように、小刻みにスコップを動かし、墓石の前で穴を広げていった。 「ヘイッ! アタシも手伝ってやる、いや手伝わせてくれ。そうでもしないとアンタに恩返しが出来ねえ」 先ほどから話かけてくる、アメリカ人の女囚エルメェス・コステロの言葉に仗助は何も答えない。 結論から言えば仗助にとって、彼女のことはどうでもいいのだ。 こちらが一方的に彼女を治療したら、恩返しを申し出て一方的についてきただけ。 それ以上の関係はない。 「……好きにするんだな」 「良しッ! 早速だが、アタシの『キッス』でスコップを二つにさせてもらった。これで作業はグンと楽になるぜ」 「……! オメーそんな能力持ってんのかよ」 「便利だろ? だから手伝わせて欲しいかったわけよ。あ、そのシール剥がすなよ。 シールを一度貼られた物は、シールを剥がすと破壊されちまうんだ」 ニヤリと笑うエルメェスに、仗助はあっけに取られたがすぐさま作業を再開した。 あたりに聞こえる音は自分達が掘り進める音だけ。風もすっかりナリを潜めたようだ。 ※  ※  ※ エルメェスはすっかり疲弊していた。 人が楽に入ることが出来る程の、穴を開けるのに予想以上の労力を要したからだ。 地面に穴を掘るのにこれほど時間がかかるとはエルメェスは考えもしなかった。 余りの力仕事の為、手伝うのを申し出たのに、交代交代で作業をする醜態をさらすことになってしまった。 おそらく1、2時間はゆうにかかってしまったに違いない。 「フゥ……穴掘り『完了』ォォォ……。アンタ、その男をこっちに運んでくれ」 エルメェスは仗助に埋葬の準備を促す。しかし仗助は一向に振り向こうとはしない。 彼女はもう一度仗助を呼びかけようとしたが、止めた。 まだ、取り込み中らしい。 少年は死体に向かって静かに語りかけている。 「……スマねぇジジイ……オレは……アンタを救えなかった……オレが……オレがもっとちゃんとしてりゃあ……」 エルメェスは仗助に心底腹が立っていた。 この少年は、自分を庇って死んだ男を、なんとか・ジョースターという自分の父親だと思い込んでいるのだ。 いや、思い込んでいるというよりは、すり替えているというべきか。 早朝に流れた荒木の放送を聞いた時からずっと、名もわからない『目の前の死者』を、 『この場にいない死者』、つまり自分の父親にしているのだ。 エルメェスはすっと立ち上がると、すかさず仗助のところまで歩き、彼の胸倉を掴んだ。 「おい……いい加減にしろよクソガキが」 「……離せよ」 お互い無言のまま、じっと睨み合う。 密着している二人をよそに、霊園に再び風が吹き始めた。 「その死体は、てめーの父親のなんとか・ジョースターじゃねぇ。『赤の他人』だ」 「……もういっぺん言ってみろコラァ!」 「何度でも言ってやるよ。そいつはてめーを庇って死んだ『赤の他人』なんだよ」 「……やめろ。それ以上言うな……てめー……! 」 「その男は見ず知らずの『赤の他人』の為に命を張れる、誇り高き『赤の他人』なんだよッ!! 」 ありったけの怒気を込めてエルメェスは吼えた。 彼女のその言葉に少なからずこたえたのか、仗助はハッと目を大きく見開いた。 「いいか……てめーがどんなに悲観にくれようとな、アタシにとっちゃ知ったことじゃねーんだ。 大事な人を失ったショックは、とてつもなく苦しい……アタシもそうだった。 でもな、今てめーがやってる事はッ! 目の前の事実に目を背け、出来るハズのないことを悔やんでいるだけだッ! 一度でもここでジョースターに会ったのか!? 違うだろーがよ。 『会うこと』すら出来なかったてめーに『救えなかったこと』を悔やむ資格なんてないッ! 挙句に命の恩人であるその男に、幻影を重ねやがって……てめーは今、悲しむべき男の死も否定しているんだよッ! 」 エルメェスの叫びは風にのり、霊園中に響き渡る。 そして二人には再び沈黙の結界が紡がれ、深く深く絡みついてゆく――はずだった。 「……オレの祖父はよ」 沈黙の結界を今度は仗助が断ち切ったのだ。 「35年間……この町のおまわりをしてたんだ。出世はしなかったけど、毎日この町を守るのが仕事だった。 犯罪者のニュースを聞いたとき、いつも『町を守っている男』の目になってたんだ。 だから祖父が死んだとき……オレがこの町と仲間を守ると決めたんだ。祖父の代わりに…どんなことが起きようと…」 エルメェスはいつのまにか掴んでいた手を仗助の胸倉から離していた。 それに伴ってか、うつむき加減だった仗助の顔が上を向いた。 「守り……たかった」 少年は、大粒の涙をこぼしていた。 ※  ※  ※ 仗助が涙腺を決壊させたために、エルメェスは彼が泣き止むまでさらに時間を要することとなった。 うかつに声をかけることも出来ず、目の前で悔い続ける人間をただ見てるだけしかできなかった。 現在、仗助の顔つきは普通に戻ったが、暗い雰囲気は相変わらず。 その痛々しさに、エルメェスは遂にしびれを切らしてしまった。 「な……なぁ……あたしは……これからも、アンタのことを守ってもいーかな? その、さ。アンタはこれからもここで、誰も傷つけないつもりなんだろ? みんなを助けようとしてる。 でもアンタ自身はアンタを救えない……その能力だとさ。もしもの時はその時なんて問題じゃあねェ。 だからさ、アタシがアンタの保護者になろうと思うんだ。いや、そうさせてくれ。 アンタが、みんなを守るって言いながら自分自身をほっておくのは話が違うと思うんだ……アタシを使ってくれよ。 例えアンタがいやだと言ってもアタシはついていくからな」 エルメェスは内心焦っていた。この少年がこのまま絶望の果てに自分を見失うことは避けたかった。 この少年を支えるには、少年自身が目的としていた行動を是正させ、没頭させることが的確だと判断したのだ。 しかし、エルメェスの申し出に仗助は答えようとはしなかった。 そればかりか、途中から空をずっと眺めていた。 「……鳩だ」 「……は? 」 「鳩が……飛んでやがる。こっちに向かってきてる」 エルメェスは仗助と同じ方向に顔を動かす。向こうからやってくる大空の遊歩者。 それはまさしく平和の象徴……鳩だった。 「ウオッ! 何だ、何でこっちに飛んでくるんだ!? 」 「何か持ってやがる。C・ダイヤモンド、あの鳩を捕まえろ! ……これは、封筒か? 」 暴れる鳩を押さえつけながら、仗助は封筒を開けて中身を調べている。 そこには何も書かれていない手紙が一枚。そしてもう一枚は…… 仗助は手紙を読み終えると突然しゃがみ込み、またうつむいた。 「どうかしたのか? 何が書いてあったんだ? 」 また何かショックを受けるようなことが書いてあったのかと、エルメェスは心配した。 仗助はエルメェスの言葉に呼応するように飛び上がる。 「ギャァ――ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ~~」 少年はありったけの笑顔を見せて地面に転げながら、腹を抱えている。 「なッ……何が書いてあったんだッ!? 」 「ブワハハハーこの野郎~~一杯食わせやがったなーグワハハハハ~~。畜生こんな手の込んだ面白え悪戯しやがって~~」 仗助から手紙を受け取ったエルメェスも、文書に目を通す。 それはシーザー・アントニオ・ツェぺリという男からの衝撃の通達。 仗助が自分に話していたであろう(おそらく)ジョセフ・ジョースターという男の生存の可能性だった。 そして、恐らく彼の仲間であろう人物の存在。 エルメェスは、簡潔な文面から、希望への確かな手ごたえを感じた。 「オレとしたことが、こんなことに気づかないなんてな……。まだ『間に合わなかった』とは限らなねぇって事だ」 幼児の様にはしゃぎながら仗助は笑う。先ほどまでの非しい顔付きが嘘のようだ。 そして封筒から空白の書面を取り出すと、何やら書きなぐっている。 書きなぐった内容をエルメェスが読むと、そこには自分たちの今後の進むべき道が書かれていた。 『―――始めましてシーザー・アントニオ・ツェペリさん。オレはヒガシカタ・ジョースケ。ジジイの身内だ。    伝書鳩が馬鹿なのか、それとも一応……ここで死んだことになってる奴には手紙が届かないのか。    アンタの送った手紙は、どうゆうわけかジジイじゃあなくオレの所に届いちまったみてぇだ。    ジジイにとって身近な人間だから、オレに手紙が届いたのかもしれねェ。    ともあれ、アンタのおかげで希望が持てた。      オレは今いる【G-1】から、この町のどこかに隠れてやがるジジイを見つけ出すッス。    だからこの伝書鳩は一旦アンタにお返しするぜ。    アンタは、オレの仲間や自分の仲間に、この伝書鳩を使うなりしてジジイ捜索の協力の輪を広げてくれ。       オレの知り合いの名前をここに書いておきます。もしジジイを見つけたら連絡をよろしくお願いするッス―――』   ※  ※  ※ 再び大空へ羽ばたく鳩を見送ると、エルメェスは当初の目的である男に目をやった。 「さてと穴も掘ったことだし、埋葬、しないとな……ん!? 」 エルメェスが男を担いで穴に収容させようとするが、男の死体は仗助のC・ダイヤモンドのかっさらわれしまう。 「スタンドにやらせた方がやっぱてっとり早ぇー……ま、後はオレにまかせてくれや」 仗助は深呼吸をする。 C・ダイヤモンドが穴に死体を丁重に落とすと、掘った土の山に向かって構えをとった。 「ドラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララァ!! 」 C・ダイヤモンドの拳が積み重なった山を破壊してゆく。 山にあった石、泥、砂、が一粒一粒ビデオの巻き戻しのように穴に入り込んで、男を埋めてゆく。 土葬の為に作られたポケットは、まるで舗装したてのアスファルトの道路ように綺麗に元通りとなった。 「スゲー……オメー『治す』ってそんなこともできんのかよ」 「ああ、それがオレの能力だからな。ドラァッ!」 C・ダイヤモンドは墓石にもペンで文字を書き連ねる。 その文字は『東方家を救った命の恩人、ここに眠る』だった。 作業を終えた仗助は、また墓前で両手を合わせる。 エルメェスも墓前に近付き、墓に書かれた文字の前で手を合わせた。 「……人間は何かを破壊して生きているといってもいい生物だ。 物はモチロンだし、人の命もだ。その中で、てめーのC・ダイヤモンドはこの世のどんなことよりも『やさしい』と思う。 あたしの能力にはない『やさしさ』がある。だが、生命が終わったものは……」 「わかってるぜ……もう戻らねーんだ。どんなスタンドだろうと戻せない…あたり前だぜ」 呼びかけに答える仗助の顔は、どこか清清しさがあるようにエルメェスは感じた。 ※  ※  ※ 二人はいつしか霊園から離れ、進むべき道を歩みだした。 恐ろしくも無気味な男、荒木飛呂彦の思い通りにならない為に。 「そういやアンタ名前なんつったっけ」 「さっき話したばっかりじゃねーか……エルメェス。エルメェス・コステロだ」 「そっか……オレは東方仗助。よろしくなエルメェス兄貴」 「ハァ? あ、兄貴!? 」 「なんつーかアンタの生き様にその……惚れちまったっつーか。舎弟にして欲しいっつーか」 「馬鹿! アタシは女だよ。さっきから『アタシ』っていってんだろ!? 」 「ま、それはいわゆるお姉言葉なんかなぁ~~と。たまにいるじゃないッスか。マッチョのオカマさん」 「……まあいいさ。これくらいじゃあまだ恩返ししたとは言えないしな。仗助、しばらくは付き合わさせてもらうぜ? 」 「うッス!!」 霊園を抜けたところまで歩き、仗助は後ろを振り返る。 遠く見つめる先は、東方家の墓碑。 (じゃあな……名前もわからねー命の恩人さんよ……死んだらあの世で会おうぜ。 それまでオレのじいちゃんと一緒に見守っててくれ。 そしてジジイ……グレートなことやってくれるじゃねーか…… まだまだ先になりそうだがよ、もう少し我慢してくれ。必ずオメーを見つけ出すからよ) 仗助は踵を返すと、盟友エルメェスと共に町へと繰り出した。 仗助たちにはもう、迷いはない。 しかし彼らは最大の事実に気づいていなかった。 伝書鳩サヴェジ・ガーデンはあくまで『ジョセフ・ジョースター』の下に手紙を送ろうとしていたこと。 仗助たちが埋めた名も無き男の死体こそ、当の『ジョセフ・ジョースター』であること。 『ジョセフ・ジョースター』が若き時代からこの世界に呼ばれていたこと。 そして……『ジョセフ・ジョースター』がどこに隠れているのか、もはや誰にもわからなくなってしまったこと。 ささいな勘違いは、次第に大きな歪を生んでゆく。 わかっていたとしても、一度生まれた歪を止めることは容易ではない。 歪は残酷に人を惑わせ、時として真実から大きく引き離す。 無意識とはいえ、彼らの決断と運命は既に大きく狂い始めていた。 【霊園(G-1)/一日目/昼(10時半頃)】 【杜王純愛組】←チーム名 【エルメェス・コステロ】 [スタンド]:『キッス』 [時間軸]:スポーツ・マックスとの決着後、体調が回復した頃(脱獄前) [状態]:良好 [装備]:ライフル [道具]:ドル紙幣等に加え、大量の石ころ [思考・状況] 1:仗助の行動を手助けする(ジョセフ捜索) 2:傷ついてる参加者がいたら、とりあえず助ける 3:とはいえ誰かにもディアボロ(ドッピオ)の秘密を伝える(二重人格であることは知らない) 4:3のためにも、ジョリーン、F・Fと合流したいが、今は後回し 【東方仗助】 [スタンド]:クレイジー・ダイヤモンド [時間軸]:四部終了時 [状態]:荒木への強い怒り、右太股にツララが貫通した傷(応急手当済み・ 歩行に少し影響) [装備]:無し [道具]:支給品一式、小型時限爆弾、スコップ×2(エルメェスの『シール』で二つになっている) [思考・状況]  1:どこかに隠れているジョセフを探す  2:傷ついている参加者がいたら、敵味方関係なくとりあえず『治す』  3:億泰たちや、シーザー、シーザーの仲間を探すのは後回し。  4:打倒荒木! [備考1]:仗助は「荒木は自分たちの声を聞くことができる」と推測しています。(根拠なし) [備考2]:仗助は、禁止エリアについての情報を聞きましたが、メモは取っていないようです。 [備考3]:仗助は過去に名簿を見ましたが、ドッピオの名前の有無はいまは意識にありません。 [備考4]:仗助もエルメェスも、埋葬した遺体がジョセフだとは気づいていません。 ※ジョセフの遺体は【G-1】の霊園にある東方家の墓前に埋葬されました。 *投下順で読む [[前へ>一期一会]] [[戻る>1日目 第2回放送まで]] [[次へ>策士策に絡めとる]] *時系列順で読む [[前へ>神への挑戦(後編)~菩提樹~ ]] [[戻る>1日目(時系列順)]] [[次へ>悲劇]] *キャラを追って読む |58:[[片思いは朝日を浴びて]]|東方仗助|78:[[悲劇]]| |58:[[片思いは朝日を浴びて]]|エルメェス・コステロ|78:[[悲劇]]| |74:[[一期一会]]|サヴェジ・ガーデン|87:[[死せる者の為死せる者に縋る希望]]|

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