「………」 空を見上げる。 既にウェザー・リポートによる降雨は収まり、文字通り雲一つ無い青空が視界を覆っていた。 だが、俺は空を見上げようとして上を向いていた訳ではない。 物思いにふけたかったのだ 俺は死ぬ………か。 死の恐怖は湧き上がらなかった。 自分の死に対して無頓着と云うか他人事と云うか、兎に角実感が湧いて来ないのだ。 刑務所の中で読んだ本を思い出す。 カミュの『異邦人』。 親の死、殺人、死刑宣告。 次々と自分の身に起こるそれら全てを淡々と享受する虚ろな主人公は、正に今の俺を表しているかのようだ。 俺も其れで良いかも知れない。 死刑宣告は成された。 アナスイも丈助も去り、エルメェスも丈助の下へ行ってしまった。 ならば俺は死を迎え入れれば良い。 もう生きる気力すら… 「おい、ウェザー。どうするんだ?」 セッコに呼び掛けられ振り返る。 とは云え、今後の方針など思いつきもしない。 最初は徐倫達との合流や荒木の打倒を考えていたが、そんな事はもうどうでも良くなってしまった。 荒木を斃しても、其の後に待ち構えるのは“死”なのだから。 「セッコ…」 「何だ?」 「“自分がもうすぐ死ぬ”其れが解っている場合、御前はどうする?」 こんな質問をしたのは只の気紛れだった。 別にセッコに回答を求めていた訳じゃない。 セッコの返事次第で方針を決めようとしていた訳でもない。 只の質問。 なのに、其れに対するセッコの返事を聴いた時、俺は再び気力が湧き出す事になる。 「あぁ?質問の意味がわかんね~よ」 「だからお前がもうすぐ死ぬと解っていて、御前は死ぬまで何をするかを…」 「何で死ぬってわかんだよ。余念者…じゃなくて予選、でもない。予見…は近いけど違う。え~っと…」 「予言者、か?」 「知ってんだよおおおぉぉぉ。国語の先生か、てめぇはよぉ」 「…邪魔して悪かった。続けてくれ」 「死ぬなんてわかるかよ。わかることは今生きているくらいだろうが」 「!!!」 セッコは別に、何かを考えて俺に向かって発言した訳では無いだろう。 しかし、其の一言が俺の胸に突き刺さった。 然うだ。俺は生きているのだ。 全てを放り出すにはまだ早い。 然う云えば、先程の『異邦人』は、其れ単体の作品ではなかった。 『ペスト』と呼ばれる『異邦人』とは対の作品があり、 『ペスト』があるからこそ『異邦人』は生き、『異邦人』により『ペスト』は其の魅力を引き出される。 そして、『異邦人』が理不尽へのニヒリズムなら、『ペスト』は理不尽への徹底的な抵抗を伝えていた。 俺が取るのはどっちだ。 諦観か、抵抗か…。 「悩むまでも無いな」 「セッコ」 「何だ?」 「有難う」 「???」 何に礼を言われているのか解らない、とでも言いたげに首を傾げるセッコ。 其れで構わない。 未来がどうあろうと“今”を全力で生きる。 其れを教えてくれた事への教えてくれたセッコへの礼だ。 ただ、セッコ自身は自覚が無いため、何故礼を言われたのか解らなかったのだろう。 俺は再び空を見上げ決意を新たにする。 荒木打倒に向け、ひたすら突き進もう、と。 「…!!!」 其の時だった、俺が其の“可能性”に思い当たってのは。 空には何も無い。雲一つ、だ。 地図には教会の場所は記されていない。 あれだけの建物だ。 家の屋根に上って辺りを見渡せば見つけられる筈なのに見つける事も出来ない。 つまり、“教会は地上に無い”。 そして何も無い青空。 そう、何も無い。 “教会は上空に無い” ならば結論は1つ。 “教会は地下にある”。 「それしかないか」 教会が地下にあるのなら、俺はとんでもないアドバンテージがある。 そう、セッコの存在だ。 「セッコ」 「何だ?」 俺の下へ近付くセッコに、俺は破格の提案をする。 「角砂糖を20個やるから、一つ頼まれてくれないか?」 「!!!」 俺の提案を聞いた途端、セッコの目が輝く。 「ああ!いいぜぇ!何すればいいんだ!?」 「この町の地下を調べと欲しい」 「地下の何を調べればいいんだ?」 「何処か、不自然に大きい空洞は無いか?最初にいた教会がすっぽり入ってしまうような大きな空洞を」 俺の問いに、セッコはあっさりと俺の期待する答えを返す。 「空洞?知ってるぜ」 「何!何処だ!?」 「A-1の地下によぉ」 「教会が在るんだよね、コレが」 !!! 一瞬、何が起きたのか解らなかった。 一瞬にして、俺達の居る場所が変化したのだ。 「なっ!」 「何だ!?」 セッコと二人、辺りをキョロキョロする。 何が起きたのだ!? いや、この瞬間移動のような感覚、数時間前に体験しただろう。 そして今、俺達は全ての始まりの地、教会にいる。 つまり結論は一つ、コレは… 「ようこそ、ジョルノ君に続いて2人目、3人目の客人の到着だね」 …荒木の仕業だ。 * * * 「何故、俺達を此処へ瞬間移動させた」 俺の質問に、荒木は飄々とした表情で返事を返す。 「どの道ココに来るつもりだったんだろう?手間を省いてあげただけさ」 「…」 「で、君達は僕をどうする気なのかな?」 「ぶっ殺す!」 荒木の問いに答えたのは俺ではなくセッコ。 俺も同意なのだが、一つ問題がある。 “俺達は荒木を斃せるのだろうか” 其の策が見い出せない。 そう思い悩んでいる所へ、当の荒木から思わぬ話を持ちかけられた。 「ん~♪清々しくて良い返事だ。ご褒美にいい事を教えてあげよう」 「いい事?」 「僕のスタンド能力について…さ」 * * * 「今までの話をまとめよう。お前の能力は空間を操れる能力」 「そう」 「対象は同時に幾つも操れる」 「その通り」 「但し、対象の位置や運動状態が解らなければ操れない。だから位置把握の為に首輪をつけた」 「その通りだ。やはり君は賢いね」 俺の言葉にいちいち大袈裟に肯きながら、荒木は返事を返してきた。 そして、更に俺は荒木からの説明を復唱して確認する。 此処は何処なのか、どうやって俺達を集めたのか、何故集めた人間の時間がずれているのか、 集めた後対象者は元の世界でどうなったのか、 それら全ての質問に答えた後、荒木はこんな事を言って来る。 「今ならサービスで、君達の質問に幾らでも答えちゃうよ」 ならば、お言葉に甘えよう。 「テメーなにモンだ?」 しかし、真っ先にセッコが質問する。 又も出鼻を挫かれてしまったが、俺も其れが聴きたかった。 しかし、荒木は少し悲しげに眉を顰めた。 「…済まない。その質問には答えられない」 「…?」 「僕自身、自分が何者か分からないんだ」 * * * 生まれた瞬間を覚えている者など居ないだろう? 僕だってそうだ 物心ついた時には僕は一人だった 一人で闇の中に居たんだ バトル・ロワイアルのおかげで死なずには済んだが まともに生きることすら出来なかった ただ闇の中で 僕は必死に僕の居場所を探した バトル・ロワイアルを使って、僕の居る空間(宇宙のことだね)全てをひたすら探した そして、気の遠くなるような時間を経て 僕は遂に僕と同じ生き物を見つけることが出来た 迷わずそこへ向かったよ そして僕は地球についた もう、ずっと昔のことだね ただ、そんな僕でも一つだけ認めて欲しいことが在るんだ それは… 「僕が、人間であるということ」 * * * 「…」 「…」 「何か、変な話になっちゃったね。他に聴きたい事は?」 「誰に認めて貰いたいんだ?」 「さて、誰だろうね。もしかしたら君達かも知れない」 「認めて貰いたいからこんなゲームを始めたのか?考えにくいが」 「違う。いや、そうかも知れない」 突然、荒木の答えは歯切れが悪くなった。 もしかしたら、荒木は喋り過ぎたのを後悔しているのかも知れない。 つまり、荒木に質問しても、もうちゃんとした答えは返って来ないという事だ。 実際、今もセッコが色々と訊いているが、当の荒木は不気味な笑みを浮かべたままのらりくらりとかわしている。 …潮時か。 重要な情報はほぼ引き出し、“伝える事が出来た”。 後の事は任せよう。 俺に出来るのは、全力で奴に向かう事だけだ。 「もういい」 そう荒木に告げ、俺は立ち上がる。 「もういい、とは?」 荒木の質問に、俺はこう答えた。 「ケリをつけよう」 * * * 「ハァ、ハァ」 アタシは駅に向かって走っていた。 早くこの事実を伝えるために。 仗助に教えるために。 アタシの手にあるのは、キッスで分裂させたウェザーの舌。 何かあった時のために、すぐ合図を出せるようにしておいたのだ。 しかし、それで信じられない位重要な話が出てきた。 荒木の能力、居場所、経緯… すぐに仗助に知らせなければ。 いや、他の誰でも良い。 兎に角、この事を伝えるために誰かに会わなくては! そしてアタシは、駅に辿り着いた。 * * * 「成程、エルメェス君は僕の居場所を知ったか」 僕は知らず知らずの内に唇を歪めていた。 笑いが堪えきれない。 素晴らしいよ、みんな。 僕の下へ辿り着くためにあの手この手を尽くしてくる。 僕は、正々堂々彼らを迎え入れよう。 エルメェス君の首輪を爆発することはしない。 A-1から教会を移動させることもしない。 ただ、ココに来た者達を迎え撃つだけだ。 そう、彼らのように…。 僕が下ろした視線の先には、2つの死体が転がっていた。 ウェザー君とセッコ君だ。 全く以ってあっけない決着。 ジョルノ君との戦いを再現したような結果になった。 だが、やはり戦闘は楽しい。 はっきり言おう。 僕は“ただ眺めるだけじゃ物足りなくなって来た” 麻薬と同じ、酒と同じ、煙草と同じ、TVゲームと同じ、漫画と同じ。 一度嵌まるとクセになってしまう。 あぁ、早く次の挑戦者よ現れてくれ。 でないと、痺れを切らした僕が、ルールを破って誰かをココに連れて来てしまうかも知れない。 或いは、DIO君のバッグと、このウェザー君の死体から取った首輪をつけて… 「…フ」 無意識に笑みがこぼれる。 何だ、やっぱり僕も人間じゃないか。 僕は長椅子から立ち上がる。 「ま、さしずめ期待出来るのはエルメェス君かな」 そう独り言を呟いて、僕は教会中と教会の外のランプを消した。 途端、辺りは完全に闇に閉ざされる。 そして僕は思い出す。 僕が昔居た、あの場所を。 【角砂糖同盟 Lv.2 解散】 【E-3/1日目/午後】 【エルメェス・コステロ】 [スタンド]:『キッス』 [時間軸]:スポーツマックスとの決着後、体調が回復した頃(脱獄前) [状態]:無傷 [装備]:ライフル [道具]:ドル紙幣等、大量の石ころ [思考・状況]: 1)荒木の能力、居場所について伝える 2)仗助に合流 3)徐輪、F・Fとの合流 4)打倒荒木 [補足1]:エルメェスは荒木の居場所、能力、過去等全て、ウェザーの舌を通して知っています。 [補足2]:もし舌のシールを剥がすと、教会へすっ飛んで行きます。 [補足3]:エルメェスは仗助とギリギリで擦れ違いました。 【教会(A-1地下)/1日目/午後】※遂に教会の場所が判明しました 【荒木飛呂彦】 [スタンド]:『バトル・ロワイアル』 [時間軸]:???(想像を絶する大昔の模様) [状態]:無傷 [装備]:??? [道具]:??? [思考・状況]: 1)挑戦者来ないかなぁ。てか来て。正々堂々と迎え撃つからさ 2)ただ見ているだけでは段々つまらなくなって来た。DIO君の支給品と首輪は死体のを使えば… 3)とりあえず暫くは大人しく観戦を続ける 4)居場所を知っているエルメェス君に期待出来そうだな 5)(心の底)ウェザー君達もジョルノ君と一緒だ。僕を神を見るような目で見る [補足1]:どうやら荒木がゲームを始めた背景には、“人間として見て欲しい”と望む事と、荒木の過去に原因があるようです。 [補足2]:荒木は、エルメェスがウェザーの舌から情報を得たのを、首輪の盗聴器を通して知りました。 &color(red){【ウェザー・リポート 死亡】} &color(red){【セッコ 死亡】} *投下順で読む [[前へ>4(フォー)プラス1(ワン)]] [[戻る>1日目 第3回放送まで]] [[次へ>因果]] *時系列順で読む [[前へ>4(フォー)プラス1(ワン)]] [[戻る>1日目 第3回放送まで(時系列順)]] [[次へ>解き放たれしもの]] *キャラを追って読む |92:[[イカれてるのさ、この状況で]]|エルメェス・コステロ|104:[[捜索隊、結成]]| |92:[[イカれてるのさ、この状況で]]|ウェザー・リポート|| |92:[[イカれてるのさ、この状況で]]|セッコ|| |89:[[ゲドー開催者~第2回放送~]]|荒木飛呂彦|112:[[コーシャス☆アラキ~第3回放送~]]|