「……なあ、ブチャラティ。 俺達が追いかけているあの化け物どもの事なんだが……はっきり聞くぜ。 お前、勝算はあるのかよ?」 血痕について調べる為、橋へと足を運ぶ最中。 俺は、昨日から疑問に思っていたある問題をブチャラティへと尋ねた。 このまま血痕を調査していけば、ミキタカと……そして、あの化け物どもと遭遇するのは自明の理。 その時……俺達は、奴等に勝てるのだろうか。 正直に言わせてもらえば、俺達二人の力は奴等に比べて大幅に劣る。 そもそも、奴等は人間ではない―――元は親父同様、人間だったのかもしれないが―――存在だ。 戦闘において最も重要な要素である身体能力が、根本から俺達とは違う。 昨日の戦いからも、そのポテンシャルの凄まじさは垣間見る事が出来たが……基礎の時点で劣っているのだ。 幾らなんでも、ハンデが大きすぎる……さっきの男程、楽に倒せる相手じゃない。 何の考えも無しに戦いを挑んでは、敗北するのは確実だろう。 「勝算か……はっきりと『ある』とは断言できない。 だが、一応幾つか策は考えている……奴等の弱点が分かっている以上、それを使わない手は無いからな。」 「弱点……日の光か。」 この答えは、ある程度予想できていた。 相手の弱点が分かりきっているのに、そこを攻めない奴が何処にいるって話だからな。 だが……その弱点を突くというのが、やはり一番の難関だ。 奴等が最も警戒しているのは、何より日の光だ……そう簡単には、日光を浴びてくれないだろう。 よほど意表を突く奇襲でなければ、ダメージを与えるのは無理だ。 ブチャラティは一体、どんな策を考えているんだ? こいつがこの問題点に、気付いていない筈がない……それを踏まえた上で、策を立てているに違いない。 一体どんな手段で、奴等を葬るつもりなのか……興味がある。 「どんな策なのか、聞かせてもらえるか?」 「そうだな……このまま何事も無ければ、最低でも俺とお前の二人で奴等と対峙することになる。 誰かが盗み聞きをしているわけでもあるまいし、お前には伝えておかなきゃな。 伝え損ねていたのが原因で失敗したら、元も子も……!?」 いざ、己の策を伝えようとした、その瞬間だった。 ブチャラティは口元に手をあて、愕然とした表情をした。 そんな彼を、形兆は不思議そうにして見る。 ここで、ブチャラティは気付いたのだ。 自分達が犯していた……最大のミスに。 「ブチャラティ……?」 「……考えてみると、この作戦は口で説明するのは難しいな。 形兆、歩きながらで少し面倒かもしれないが、メモを出してもらえないか? 図を交えて説明したいんだ。」 「ああ、それは構わないが……」 ブチャラティは形兆にメモを取るよう促すと、自分もメモを用意した。 図を交えながら説明する必要があるとは、一体どんな事を考えているのか。 形兆は、素早くペンを走らせるブチャラティの答えを、期待して待った。 そして、数秒後……ブチャラティは伝えるべき事を書き終えると、メモを形兆に渡した。 その瞬間……形兆の表情が、凍りついた。 ブチャラティから返ってきたのは、化け物打倒の作戦などではなかった。 自分達が見落としていた……最大の難敵についてであった。 (俺達の会話が……盗聴されている……!?) ブチャラティから渡されていたメモに書かれていたのは、たった一文だけ。 『首輪を通して、荒木が盗聴している可能性がある』 という、危険な事実を示す物であった。 何故ブチャラティが、この事に気づく事が出来たか……形兆には、すぐに理解できた。 先程の彼の発言に、答えがあったからだ。 (『誰かが盗み聞きをしているわけでもあるまいし』……そうだ。 考えてみれば、これは当然の事だ……どうして、気付けなかったんだ……!!) (……どうやら、最初から俺達は踊らされていたらしいな。) 二人はカモフラージュの為の会話を交わしながら、筆談で話を進める。 荒木は、自分達をこの殺し合いへと参加させたが……単なる定期放送だけで、彼の役目が終わる筈が無い。 ゲームの主催者である以上……参加者の監視を行うのは、必然である。 ならば……首輪による盗聴が行われているのは、確定的。 そして、この確定的な事実が二人に齎したのは……最大級の精神的ダメージであった。 自分達が首輪の解除に関して話していた事は、全てお見通しだったのだ。 ぬか喜びしている人間を、絶望のどん底に叩き落す。 奇しくも、自分達の予想が当たってしまった。 こんな、最悪の形で…… (……だが、御蔭で収穫もあった。) (何だって……?) (考えてみろ……あれだけどうどうと脱出の意志を見せておいて、奴は何故俺達を野放しにしている? ましてや俺は、スタンドで首輪の中身を見れると断言しているんだぞ……?) (あ……!!) ブチャラティが見つけた、理不尽な点。 それは……自分が、まだ生きているという事である。 首輪の構造を知る事が出来るブチャラティは、どう考えてもゲームにおいて邪魔者でしかない。 最も首輪の解除に近い位置に立っている人物であるといっても、過言ではない。 なら……何故、自分を殺さない? 折角のゲームを破壊する可能性がある自分を、何故生かしておく? (……俺が生きていられる理由は、大きく分けて二つの可能性がある。 まず、一つ目は……構造を知ったところで、解除は絶対に不可能だって可能性だ。 例えばこいつの中身が、専門職顔負けの複雑な回路だった場合……解除は極めて困難になる。 もしも参加者の中に、専門的な技術を持った者が一人もいなかったら。 そうでなくても、もしも首輪の解除に特殊な器具が必要だったりしたら……) (……どうしようもないな。 その時点で、俺達はお手上げになる訳か……二つ目は?) (……二つ目の可能性は、一つ目よりも更に性質が悪い。 そもそもこの首輪は、中を見れない。 ジッパーなり何なりで中身を覗こうとしたら、その瞬間に爆発する仕組みになっている可能性だ。 正直に言うと、俺はこれが一番ありえると思っている。 この首輪は『無理矢理外そうとすれば爆発する』と、最初から公言されてるんだからな。 ほんの僅かでも手を加えれば、それを解除と見なされる可能性があるとしたら……) (……厄介なことになったと考えるべきだろうな、これは。) (そうかもな……) あくまで可能性の話で、確定したわけではない。 だが……荒木が自分達を見逃している以上、この二つの可能性はどちらも十分にありえる。 もしもこの可能性に気付かないままに首輪の解除に挑戦していたら、確実に死んでいただろう。 このゲームにおける、最大の敵……首輪。 その解除は、どうやら想像以上に困難な道のりのようである。 【ギャングと軍人と宇宙人 (ただし現在、宇宙人行方不明)】 【道端(H-6とH-5との丁度境目)/一日目/昼】 【虹村形兆】 [スタンド]:『バッド・カンパニー』 [時間軸]:仗助と康一が初めて虹村兄弟と遭遇する直前。そのため父親を殺すことしか考えていない。 [状態]:全身裂傷。バッド・カンパニーの狙撃隊の一部が呼び出せない [装備]:特になし [道具]:支給品一式 [思考・状況]: 1)盗聴されている事に気付き、精神的ダメージを受けている 2)首輪の解除をダシに使える可能性が薄まった為、少し焦り気味 3)ブチャラティに協力し、ワムウ達を倒す 4)『ゲーム』に乗っていない参加者と相対したら、『脱出』という言葉を仄めかして、仲間に誘う 5)億泰を……どうする? 6)参加者の中にチラリと見た東方仗助に警戒感 7)『ゲーム』に乗った参加者を淘汰した後、ブチャラティの首輪調査が失敗した瞬間を狙って、周囲の人間を奇襲、殺害する (万が一首輪調査→解除のコンボが成功した場合、或いはブチャラティが途中で死亡した場合の身の振り方は未定) 【ブローノ・ブチャラティ】 [スタンド]:スティッキィ・フィンガーズ [時間軸]:サンジョルジョの教会のエレベーターに乗り込んだ直後 [状態]:右腕の袖がズタズタに切り裂かれているが、本人はかすり傷程度。全身打撲は引き気味 [装備]:なし [道具]:支給品一式×2 、フォーク、ペット・ショップの『首輪』 [思考]: 1)盗聴されている事に気付き、精神的ダメージを受けている 2)ワムウたちが仲間を襲う前に、日光も利用して彼らを倒す。二人に捕われているミキタカも、救出する。 そのために橋の血痕を調べに行く。 3)機会があれば仲間と合流する(トリッシュがスタンドを使える事に気付いていない) 4)なるべく多くの人を救う 5)アラキの打倒 6)『ゲーム』に乗った参加者を淘汰する。 首輪の内部構造の調査に関しては、危険度が高い為保留する。 *投下順で読む [[前へ>悲劇]] [[戻る>1日目 第2回放送まで]] [[次へ> ]] *時系列順で読む [[前へ>悲劇]] [[戻る>1日目(時系列順)]] [[次へ> ]] *キャラを追って読む |76:[[策士策に絡めとる]]|虹村形兆| :[[ ]]| |76:[[策士策に絡めとる]]|ブローノ・ブチャラティ| :[[ ]]|