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Lady Mojito - (2012/10/10 (水) 20:15:49) の編集履歴(バックアップ)
Lady Mojito
洋酒と薄荷の香り
彼女は、はち切れんばかりに膨らんだ下腹と垂れ下がった乳房を揺らし
ながら地下書架を闊歩して不用意な闖入者を脅かす。腫れぼったい二重
まぶたの奥で黄色く濁った瞳を輝かせ、サイドを刈り上げた灰色の髪は
疾走の中でも乱れぬ様プレジデンタルにべっとりと固められている。口元
は濃い朱の紅で塗りつぶされ、厚い唇の隙間からは乱杭歯が覗く。幸薄
き犠牲者が彼女の顕現に気づくのは、人がマッチ棒大に見える距離にあ
っても漂うむせ返るような強い酒精、そして薄暗がりの書架におよそ相応
しくない清涼なミントの芳香が為である。片手にウォトカの小瓶を携えて
、身に纏うものといえばシトラスグリーンのバタフライひとつきり。哀れな
生贄は黒のピンヒールで跳ねる様に走る彼女が目と鼻の先まで近づい
てきてそこで初めて気づくのだ、一瓶丸ごと振りかけたような香水の香り
に隠された肉食の獣臭に。
「あたしゃあ、ぼーやとぼーやとぼーやが好物さ。」
外町少年自警団の少年たちが夜半、
嘆きの壁を乗り越えて図書館に忍
び込んだ際に遭遇し、とんでもない災禍に巻き込まれたとされる。