夏は8月、十六夜が淡い月光を照らしだす夜。体は熱く、気分は上々↑↑ 「き~たを蹴散らし~て~、正義を示すの~だ~♪」 「走れ~光速の~、り~くじょ~うじえいたい~♪唸れ~衝撃の~、りくじょ~うじえいたい~♪」 小隊宴会の帰り道、俺は警衛所をくぐり営内班(自分の部屋)目指してふらりふらりと歩いていた。 と、隊舎(隊員宿舎)近くの自販機前のベンチに見慣れない迷彩服姿の隊員が座っているのが目に入る。変だな、休みだというのに迷彩服か。 …こんな時間にどうしたんだ? 「こんな時間にどうしたんだ?」 酒のせいか、思ったことがそのまま口をついて出てしまった。 「あ…すみません。」 同期や後輩ならまだしも、見ず知らずの人にこんな口を利いてしまったことに後悔する。くそ、酔いも覚めた。 「…よい。次から気を付けよ」 ―――鈴を転がすような声で一言呟くと、それっきり黙り込む“士長”。俺とは同じ階級だがなんとなくバツが悪くなってしまい、それを取り繕うかのように 「あの…ヤマト…士長?なんか飲みますか?俺ジュース買うんで、ついでにおごりますよ」 とっさの事ながら俺は何を言ってるのか意味が分からない。おごるのかよ! ヤマト士長はピクリと眉をひそめると一言、 「お茶でよい」 少しは遠慮しろよ!と心中ぼやきながら220円入れてお茶とコーラを買う。 ―――どうぞ。と渡すなり座っていたヤマト士長から文句を言われた。 「このたわけ。上位の者には飲めるようにして渡さんか」 缶を開けて飲みだしてからも、近頃の陸士は…などと文句を垂れている。 「そのような物を飲んでいると骨が溶ける。次からはお茶にせい。」 「だいたいお前は日本人であろう?私など舶来の物は一切飲まないぞ。」 それにしてもこの士長、口が減らない。 一缶開ける間にあ~だこ~だと口を挟まれ、なんとも不味い酔い覚ましになってしまった。気を取り直して 「ヤマト士長は一体どこの部隊です?あ、俺は○○普連(第○○普通科連隊)の○中隊です。この隊舎の一階で寝泊まりしてるんすよ」 目の前の隊舎を指差す。件の士長は 「お前が知る必要はないであろう?」 俺はムッとして 「教えてくれてもいいじゃないですか。」 と呟いた。 それを聞いたヤマト士長はガタリと立ち上がると 「やれ、お前も細かい男よのう…よかろう。見せてやる。」 そう言うと被っていた帽子を脱いでみせた。 きれいな黒髪の頭には真っ黒な猫耳がくっついていた。お尻からはこれまた真っ黒な尻尾が二本。 「ぷっ、なんすかそれ。コスプレですか?尻尾なんかつけちゃって~♪」 ゲラゲラ笑いこける俺の反応に、みるみる顔が赤くなるヤマト士長。 「しっ、失礼な!これはれっきとした私の耳と尻尾だ!」 「うっそだあ~。こんなモノつけちゃってまあ…」 頭についてる猫耳を触ってやる。…あったけ~。 「ひゃんっ!い、いきなり触るでないっ」 …え~と。いや、嘘でしょう?今度はふりふり動く尻尾を掴んでみる。 「ふあぁっ!そんなに強く握らないでぇ…」 ヘナヘナと腰が砕けるヤマト士長。 「あ~え~、その…すみません。」 「だから本物だと言ったであろう!」 真っ赤な顔で喚き散らして腕をぶんぶんと振っている。 「お前!この恨み、晴らさでおくべきか!」 「いや、んな事言われても俺なんも悪くないですよ。」 ぷるぷると震える大和士長、拳を握り振り上げて…(この間0.1秒) 「こんのたわけもの~!」 電光石火の猫パンチで気絶させられた俺は翌朝、営内のベットで目が覚めた。 顔面のあざと真っ黒な猫の毛で、昨日の一件は夢ではないとイヤでも分かってしまった。