『バークス少尉!バークス!おい、アリス!アリス・バークス!』 「怒鳴らなくても……聞こえてるっつの………」 降下するスピッドの操縦席で、俺は無線ごしに怒鳴る僚機に言う。だが、無線が壊れたらしく、こちらの声は届いていないようだった。 「最悪だ………」 いまや我が愛機のロールスロイス・マーリンエンジンは黒煙を吹いたまま停止し、胴体には穴がいくつもあいている。 「誰だ?この空域は安全だって言った奴は、なんで安全な空域にゼロがいるんだよ…………」 しかし、俺がついた悪態は唸るようなエンジンの爆音と機銃音にかきけされた。 眼下に広がるは広大なビルマの山脈と森。不時着で助かる可能性は半々だ。 「いっちょ賭けてみるか………」そう言うと、俺は重い操縦稈を引き起こし、機首を無理矢理にでも引き起こそうとした。 「起きろっ………!」 ドンピシャ、機体は体勢を立て直し、ゆるやかに眼下の森に吸い込まれて行く。すかさず俺はスピッドのキャノピーを投棄した。 そして、スピッドは失速寸前の状態のまま木々の間にダイブし、いくつも枝を薙ぎ倒しながら、ガン!という音と共に着地。しばらく機体を引きずらせ、やがて停止した。 停止を確認するや否や俺は安全ベルトを外して操縦席を飛び出し、機体から遠ざかるように逃げていった。 だが、こんなときに親父譲りの貧血がたたってか、足を踏みしめる力が徐々に弱くなり、そのまま地面に突っ伏してしまう。 そして、俺はそのまま気を失ってしまった。