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雪ちゃん 後 - (2008/04/01 (火) 17:44:04) のソース

[[後編>http://www21.atwiki.jp/brutalanimal/pages/341.html]]

………なんだこれは? 
横では紗枝さんも目を点にしている。 
「………」 
雪はしゃがみこんで太助が動かない事を確認しているようだ。 
「えっと…」 
あははっとわらって紗枝さんが此方を向く。 
「私はいったいどうしたら?」 
「あ、さあ…」 
雪が立ち上がる。 
「…この方が…」 
先ほどの立ち上るような憤怒はもう感じられない。 
「…眠っている私に…イタズラしようと…」 
焦点の合っていないぼんやりした瞳が此方を見る。 
「…体を…まさぐったので…目が…」 
「……」 
紗枝さんが溜息をついた。 
「……お情けをいただけませんか?…」 
「え?」 
「申し訳ありません、私も満月に当てられていたようです」 
耳を下げ、尻尾を下げ、寂しそうに微笑む。 
「分かりました」 
「ありがとうございます」 
「……よいのですか?…」 
雪の問いかけに頷いた。 
別に…その…悪い思いはしていないし… 
思い出すと頬が熱くなる。 
照れと、自分の都合のよさと、自己嫌悪それらで空しくなる。 
そんな自分を見て紗枝さんがくすりと笑う。 
「また…続きは後で…」 
そう耳元で呟いて、太助を担いで去っていってしまった。 
「……お助けいたします」 
「頼む」 
雪が寄ってくる。 
いまだにこの体は動かない。 
…術を解いて貰うのを忘れていた。 
「術、解けるか?」 
自分の横でしゃがみこんで調べている雪を見る。 
雪はある一点を凝視していた。 

自分は脱がされて素っ裸だ。 

……雪の視線はつまり… 

「あの…雪?」 
雪は無言だ。 
ただ、見ている。 
頬が高潮してくる。 
「そう見られると恥ずかしいのだが…」 
ええい、大きくなるな、我が息子よ… 
「丈乃助様…」 
「な、なんだ?」 
雪の視線が此方を向く。 
その瞳が潤んでいるように見えるのは気のせいか? 
「…丈乃助様が…いけないのです…」 
丸耳が、頭から飛び出した。 
「…いや」 
「…このような夜に…そのような格好で…」 
先の膨らんだ尻尾が生えてきた。 

(満月はアヤカシを狂わすんですよ) 

「まさか…」 
耳も尻尾も落ち着か無いように細かく動いている。 
「…本当は…もう少し親睦を深めてからと…思いましたが…」 
いつもどおりの無表情、ではない。その表情は… 
「…ですが…これもお役目…どうかお覚悟を…」 
さきほどの紗枝さんと同じように…… 
「お、落ち着け、ゆ…」 
そのまま覆いかぶさってきた雪に唇を塞がれた。
雪の顔が真近にある。 
柔らかい唇が俺の唇をなぞり押し付けられる。 
「ん…んぅ…」 
吐息のような雪の声。 
するすると彼女の腕が首にかかる。 
まるで逃がさぬように押さえつけると容赦なく蹂躙を開始した。 
表面を滑っていた唇から俺の口内へと舌が進入してくる。 
「…ん…ちゅ…ちゅぅ…ん…」 
そのまま強引に自分の口の中に進入すると閉じた歯茎を撫で回し刺激する。 
刺激に開いてしまった歯の隙間を抜けて進入した雪の舌が自分の舌と絡み合う。 
「じゅ…じゅる…んん…は…」 
粘着質な水音と唇の隙間から抜けた空気の音。 
抵抗の仕方を知らない自分を雪の舌は容赦なく蹂躙していく。 
「…ん…じゅ…ちゅぅ…んぷ…」 
お互いの舌に乗って運ばれた唾液が混ざり合いねちょねちょと音を立てる。 
瞳を閉じて、雪はただ俺の口内を犯す事に夢中になっているようだ。 
舌を絡め、歯茎をなぞり、頬肉を舐め、まさに暴君の様に彼女は容赦なかった。 
どれくらいそうしていただろう。 
快感と、息苦しさと、ごちゃ混ぜになった淫靡な音が不意にやんだ。 
我に返り見上げれば焦点の合っていない、潤んだ瞳が此方を見下ろしている。 
「ゆ、ゆき…おれは…」 
呂律が回らない。 
まるで酒でも飲んだかのように体が熱い。 
再び雪の顔が近付いてくる。 
首に回した腕を解き両頬を挟むように添えるとそのまま舌を這わせた。 
頬といわず、瞼といわず、唇と言わず、所構わずに雪の舌が這う。 
「やめ…」 
抗議の声も弱弱しい。 
雪の顔が見える。 
暗闇とはいえ、こうはっきりと見るのは初めてかもしれない。 
綺麗な顔をしている。全てが均等に配置され、癖の無い、少々幼い美人と言う感じだ。 
普段の無表情は何処へやら、熱に浮かされたような微笑で彼女は行為を繰り返す。 
「…気に入りません…」 
やがて顔という顔のすべてに舌を這わせた彼女が呟くように言った。 
「…狐の匂いが…付いています…」 
さきほどの紗枝さんとの行為。 
間違いなくそれによって付いた物だ。 
「…塗り替え無くては…」 
雪の舌が這う。 
首筋から胸へ、胸から腹へ余す所無く唾液で塗りつぶしていく。
肩から腕へ、腕から手へ、指の一本一本丁寧に、まるで自分のモノであると主張するように念入りに。 
太ももからふくらはぎを伝う。 
奇妙なむず痒さに体が震えるがお構いなしだ。 
なんどもなんども舐め、足を伝い、事もあろうか足の指までも丁寧に舐め潰していく。 
「…く…はぁ…」 
情けない事にもう抵抗できるほどの意志は無い。 
されるがままに雪に行為を刻まれるだけだった。 
普段からは創造できない程の、雪の貪欲な感情に翻弄されるだけだ。 
やがて再び太ももを渡り、彼女はたどり着いた。 
俺自身の男の象徴へと。 
「…ここは…念入りに…」 
呟くが早いか彼女はやんわりと手を添えると亀頭へと舌を這わす。 
「…ぐぅ…ぁ…」 
声が漏れる。 
もう、我慢する事などできなかった。 
「れろ…ちゅぅぅ…ん…」 
まるで、子供が夢中で飴でも舐めるように雪の熱い舌が肉棒を這い回る。 
「ちゅ…ちゅ…ん…じゅる…はぁ…」 
ちろちろとじれったい刺激と思ったら、急に圧迫するような強い刺激に変わる。 
「あ…あ…ゆき…やめ…」 
腰の辺りにじんわりとした鈍い感覚が溜まり始める。 
盛んに耳を動かしながら雪は肉棒への匂い付けに夢中になっている。 
「じゅ…じゅるる……」 
鈴口へ口を付けられ思い切り吸われる。 
びくりと体が痙攣した。 
「…は…でそ…う…」 
亀頭へと熱と、感覚が集まっていく。 
紗枝さんの時と同じように射精欲求が高まっていく。 
「ゆ…き…」 
あと少し…でも…ふいに雪が肉棒から口を離す。 
荒い息を吐きながら呆然と雪を見つめる。 
あと少しだった、あと少しで射精できたのに…。 
……俺は… 
…何を考えていた?俺は雪の手で射精する事を望んでいたのか… 
えもいえぬ自己嫌悪が湧き上がってくる。 
「…もっと…もっと…触れていたい…」 
雪が、不意に首もとの紐を緩めた。 
かすかな衣擦れの音と共に彼女を覆っていた黒装束が落下する。 
闇の中で映える白い肌。胸元に巻かれたさらしを彼女はもどかしげに外していく。 
やがて露になった胸… 
「…ふぅ…」 
何かから開放されたかのように雪が溜息をつく。 
大きい、のだ。片方が、夏に食べる小西瓜ほどある。 
視線に気が付いたのか雪が己の胸を見ながら言う。 
「…嫌いでした…この…大きいだけの胸は…」 
再び、雪が肉棒へと体を寄せる。 
「…でも…いまは好きです…」 
弾力のあるしっとりとした肌に包まれて肉棒が震えた。 
雪がその双丘を捧げ持つようにして挟んだのだ。 
「…丈乃助様と…触れ合えますから…」 
優しく包み込むように肉棒を圧迫する胸は、雪自身の手によっていやらしく歪んでいる。 
それがゆっくりと肉棒を挟んだまま上下へと動かされる。 
「…くぁ!」 
口でされるのとはまた違った快感に声が出る。 
雪の乳房が歪むたびに、しっとりとした肌に擦られるたびに肉棒がビクビクと反応する。 
「…はぁ…こんなにいっぱい…お汁がでてます…」 
うっとりと、嬉しそうに雪が呟く。 
鈴口から流れ出た我慢汁は亀頭を伝い、雪の白い胸元を汚すように垂れ広がっていく。 
雪が左右の胸を別々に動かし始める。 
「…凄い匂い…はぁ…私と…丈乃助様の匂い…」 
豊かな弾力にもみくちゃにされ肉棒が悲鳴を上げるようにビクビクと震える。 
こぼれた汁が潤滑油の働きをしているのだろう。 
擦る動きが滑らかになりどうしようもない快感が押し寄せ、腰が浮く。 
情欲に浮かれた雪が次々と形を変える胸に挟まれた肉棒を見る。 
「…先っぽが…寂しそうですね…」 
ちろちろと彼女の舌が亀頭を這う。 
もう、駄目だった。 
耐える事を放棄して流されるまま得ていた快楽が先端を介し出ようと暴れている。 
「…ゆき…だめ…やめ…」 
夢中で鈴口からの汁を舐めとる雪には言葉は届かない。 
同じ、先ほどと同じ感覚。 
すべての意識が肉棒の先端に集まりそして、はじけた。 
「ぐ…ぅぅぅぅ…」 
白い液体が吐き出され、雪の顔を、髪を、胸を汚していく。 
「はぁぁ…はぅ…」 
恍惚の表情でそれらを受け止め雪が微笑む。 
己の胸に挟んだままの肉棒を暫し眺めてそのまま再びちろちろと舌を這わす。 
「……っ!」 
えもいえぬ不快感とむず痒さに体がびくびくと反応する。 
雪は夢を見るような表情で肉棒に付いた精液を舐め取っていく。 
その行為は自分の胸にこぼれた精液を舐めるにいたり、最後に髪や顔に付いたそれまで指でぬぐって口元へと運ぶ。 
雪が己の指を舐めるぴちゃぴちゃという音が響いた。 
「…これ…が…丈乃助様の味…匂い…はぁ…」 
そのまま射精後のビクビク震える肉棒を愛おし気に両手で包む。 
「…熱いです…」 
そのまま此方へと視線を移す。 
「…丈乃助様ぁ…」 
とろけるほどに甘い声でじりじりとにじり寄ってくる。 
そのまま首元に腰掛けるように座ると自分で秘所を開いてみせる。 
赤く充血しひくひくと痙攣している。 
漂うむせ返るような雌の匂いに頭がくらくらする。 
「…私も…どうか…」 
もう、思考が停止していた。 
自然と、そこへと舌が伸びる。 
外側をなぞり、膣口へと差込、陰核を嬲る。 
「はぁ…あ…いいです…ああ…気持ちい…い…ぁ…」 
雪の嬌声が聞こえる。 
俺の頭を優しく抑え、股を押し付けて送り込まれる快楽に震えている。 
舌を動かしながら見上げた雪の体。 
闇の中、かすかな月明かりに豊かな胸と細い腰が揺れている。 
虚ろな瞳を虚空にむけ涎を垂らし喘ぎを上げている。 
「…ひぁ…あ…噛んじゃ…あ…いぃ…んぁぁ…」 
舌を這わすたびにびくびくと雪の体が揺れる。 
ばたばたと揺れる尻尾が胸元を盛んにたたいている。 
むせ返るような雌の匂い、毀れ出る愛液でもう口元から首下までぐっしょり濡れている。 
「……っ!…ぁぁぁああああ」 
ひときわ大きく鳴いて、雪が逃げるように腰を浮かした。 
荒い息を吐きながら倒れこむように俺の腹へと座り込む。 
はぁはぁ…と荒い息が聞こえる。 
「……丈乃助様ぁ…私の…丈乃助様ぁ…」 
ぼんやりと呟くとそのまま這うように後ろへと下がる。 
いまだそそり立ったままの肉棒を掴む。 
雪が跨るように腰へと乗り、ぬめる自分の膣へと押し当てる。 
「……好きです…ずっと…ずっとぉ…前から…」 
そのまま、一気に腰を下ろした。 
狭い入り口を一気に貫きに、肉壁を擦り、亀頭が雪の最奥まで到達する。 
「ぐ…ぁ…」 
「はぁぁ…ん…」 
同時に嬌声が上がる。 
雪の中できゅうきゅうと圧迫され擦られ快楽が生まれる。 
「…繋がってます…私…丈乃助様と…」 
泣きそうな、それでも歓喜に歪んだ顔で雪が打ち震えた。 
「…もっと…感じさせてください…」 
雪が動く。 
上下に何度も何度も動く。 
そのたびに中で擦られて、嬲られて、肉棒が歓喜の脈動をする。 
「…大きくなってる…私の中で…ふぁぁ…」 
耳も尻尾もせわしなく動いている。 
ぐちゅぐちゅと淫猥な音を立てる接合部からは絶えず赤い色の混じった愛液が流れだし腹の辺りに流れ落ちる。 
「…ゆき…ぐ…おぬし…ぁ…」 
その赤を見て少しだけ己を取り戻す。 
雪は、初めてだったのだ。 
どくん、と体が震えた。 
「…あ…あ…あぅぅ…」 
泣きそうに顔を歪めて、くぅくぅと喉を鳴らして雪が快楽を貪っている。 
その姿にすさまじい情欲が沸き起こり、それでも動けぬ呪縛を呪う。 
「…さま…丈乃助様…じょうの…さ…」 
熱に浮かされたように自分の名前が呼ばれている。 
雪が小刻みに痙攣し、そのまま… 
「は…はぁぁああああああ!」 
ひときわ大きな声を上げて体を仰け反らせる。 
とたんに強い締め付けを受け、溜まっていた快感が爆発する。 
熱い塊が、己を覆っていた雪の中へと吐き出される。 
断続的な射精が行われるたびに雪の体は痙攣するように震えた。 
「…あつ…い…あつい…よぉ…」 
すべての射精を終えた後、繋がったままの雪が倒れこんでくる。 
「…んん…丈乃助さ…ま…」 
再び重なる唇。 
休むまもなく舌を絡めなされるがままに雪に蹂躙される。 
動かない体は幾度も求めに応じ行為は気を失うまで続けられた。 
「…おはようございます…」 
目を覚ますと雪がいた。 
自分の横に寝転んで、相変わらずの無表情。 
「お、おはよう」 
答えながら暫しの熟考。 
やがて頭が覚醒し始めたのか徐々に昨日のことを思い出す。 
「う…ぁ…」 
頬が熱くなる。 
一晩中、雪に犯され続けた事を思い出したのだ。 
恥ずかしくて雪が見れない。昨日の、あの痴態を思い出して意識するなと言う方が無理だろう。 

……好きです…ずっと…ずっとぉ…前から… 

うわごとの様に雪が呟いた言葉。 
正直、異性に好意を抱かれたことなどなかった。 
故に余計に意識してしまう。 
「…お嫌でしたか?…」 
雪が、問い掛けてくる。 
「…私と…契った事を…後悔しているのですか?…」 
雪の視線を感じる。 
どんな目をしているのだろう。 
焦点の分からないぼんやりした目だろうか? 
昨日の様に何かを期待するような目だろうか? 
「…そうですよね…あのような形で…申し訳ありませんでした…」 
言葉に、雪を見る。 
俯いてしまった彼女がどんな表情なのか分からない。 
ただ、無機質に聞こえていた声に確かに混じった悲しみを感じた。 
「雪…」 
腕を回して雪を抱き寄せる。 
「嫌じゃ、なかった」 
彼女が、顔を上げる。 
表情はない。だが、瞳には明らかに不安の色があった。 
「あんな形であったが、でも、悪い気はしなかった」 
途中からは、もう、自身の意思でもあった。 
「…そう…ですか…」 
表情は変わらない。 
でも、おずおずと抱き寄せた手に雪が手を重ねる。 
「でも、良かったのか?たった数日前に出合った男なんかに」 
あの言葉の意味を直接的に聞けない自分を情けなく思う。 
この期に及んで勘違いとか言われたらきっと立ち直れない。 
「…数日前では…ありません…」 
雪は、呟くように言った。 
「…子供の頃から……見ていました…」 
…どういう事だ? 
記憶を遡ってみても雪に出会ったと言う思い出は無い。 
「…極度の恥ずかしがり屋だったので…物などに化けて…」 
…あれ? 
何か覚えがあるような? 
「…こっそり丈乃助様を…見ていました…」 
…思い出した… 

(それは見つめお化けだ) 

そう言うことか。 
「…でも…たまに気が付かれそうになってしまい…そのたびに…」 
子供の頃、雪は物に化けて自分を見ていたのだ。 
幼い自分は視線だけを感じていた。 
…どうりで誰もいない訳だ。 
「…気を失ってしまって…それで話かけることも出来ずに…」 
「ふ、ふふふ…」 
「…丈乃助様?」 
「いや、なんでもない。続けてほしい」 
「…これではいけないと…心身を鍛えるために…父の勧めで武道を習い…」 
その腕を生かして護衛役を買って出たと言うわけか。 
「…再び…再開したのは良いものの…恥ずかしくて…話も出来ずに…」 
すぐに帰ってしまったり、常に姿を隠していたり、それが理由だったのか… 
俯いてしまった雪。 
「なあ…」 
「…はい…」 
「一つ命令していいか?」 
「…なんなりと…」 
愛おしい…なんだろうか? 
都合がいいと言われても構わない。 
だけど… 
「俺と、一緒になって欲しい」 
言葉に、雪が顔を上げる。 
表情は、初めて見る…驚きの表情。 
それが泣き顔に変わっていく。 
抱き寄せた。 
体温が心地よかった。 

雲ひとつ無いよく晴れ渡った空。 
ただぼんやりと街を行く人を眺めていた。 
「遅いな…」 
雪と待ち合わせをしていた。 
これからは姿を隠す必要など無いからと、服を調達すると出て行ったきりだ。 
「お待たせしました」 
声がする。 
振り向くと雪がいた。 
黒装束ではなく、大人しめの着物を着ている。 
「似合うじゃないか」 
そう言うと彼女は嬉しそうに笑った。 
…あれ? 
反応がおかしい… 
「雪?」 
「どうかなさいましたか?」 
無表情、うん、変わらない。 
でも違和感がある。 
「さあ、参りましょう」 
雪が手を伸ばす。 
その手を掴もうとして… 
「あう!?」 
雪が後ろから突き飛ばされたようによろけた。 
視線を向ける。 
「…紗枝さん?」 
彼女がいた。 
…彼女も様子がおかしい。 
目の焦点があっていないと言うか… 
雪に目を向けると驚いた様な顔をしている。 
「お兄様、見つけました!」 
突然、抑揚の無い声で彼女が叫ぶ。 
声に応じるようにいかつい髭面の巨漢が現れる。 
冗談の様に小さな三角の耳がちょこんと頭についていた。 
似合わないことこの上ない。 
「お嬢ちゃん、あの時の雪辱、晴らしに来たぞ…」 
……もしかして。 
「…た、太助か?」 
「ふ、いかにも!」 
…こいつが…おにーさんとか…言っていたのか… 
「それより、いざ、勝負! 
 お前さえ遠ざけておけば妹の宿願が叶うのだ」 
「え…え?…あれ?」 
雪が狼狽したような声を上げる。 
あたりまえだ、あんな正体見せられたら誰だって… 
「お兄様、違います、私ですってば!」 
…雪、何を言っておるのだ? 
「騙されてはなりません、お兄様」 
抑揚の無い声で紗枝さんが言う。 
「おうよ、お前の言うとおりだ。ずるがしこい奴め!」 
なんだかおかしなことになっているな… 
雪が慌てている。 
慌てて色々印を組んで何かしようとしている。 
「…嘘、変身が解けません!」 
変身? 
……まさか。 
表情豊かな雪。 
無表情な紗枝さん。 
…ああ、そう言うことか。 
「覚悟ぉぉぉぉぉぉ!」 
巨体に相応しい大鉄棍棒を片手に太郎が突進してくる。 
「ち、ちが、違うんですよ~!」 
泣きそうな声で逃げ出す雪。 
足音を響かせ追う太助。 
それを見送る紗枝さん。 
不意に、駆け去る雪のその背中に、一枚の札が張ってあるのが見えた。 
あれが変化を妨害しているのだろうか? 
「…さて…」 
土煙と共にかけていった二人が見えなくなり紗枝さんが此方を向いた。 
「説明して欲しい、雪」 
そういった自分に紗枝さんがかすかに微笑む。 
印を汲むとどろん、と煙が上がり雪が立っていた。 
「…同じ手で来ましたので…」 
同じ手…宿に泊まった時のことか。 
確か俺に化けて雪を騙し、睡眠薬を盛ったという。 
「…かかった振りをして…お返しを…」 
紗枝さんが雪に化けている事を見越して、紗枝さんに化けたと言うわけだ。 
そして今度は本来の姿で待機していた太助を騙してお返しをしたと… 
「やれやれ…」 
溜息が漏れる。 
狸と狐の化かしあい、か。 
「行こうか」 
まあ、厄介事を回避できた今、ここに留まる理由は無い。 
ふと、視線を感じた。 
雪が、焦点の合わない視線で、確かに此方を見ている。 
「………」 
なんだろう? 
…ふと、思い立った。 
「着物、とても似合っているぞ」 
そう言ったとたんに… 

花が咲くように。 
とても自然に雪が綺麗な笑顔を見せた。 

「行こうか?」 
「…はい…」 
すぐに無表情に戻ってしまった事を残念に思いながら… 
雪の手を引いて歩き出した。