「烏娘4」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

烏娘4」(2007/05/22 (火) 17:08:26) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

 出会いは、ある民家の庭だった。 「おい、まだくちばしの黄色いガキに手ぇ出すたあ、『鈴木家の寅治』も堕ちたもんだなあ」  がたいの良い虎猫の首に爪をかけ、烏の娘が啖呵を切る。  この烏娘、ここいらで最近名前を知られるようになった御転婆娘で、名を美晴という。 まだ成鳥になって数年も経ってないが、やんちゃ盛りの若い猫どもと商店街の肉屋「いとうや」の廃棄肉をめぐって対等にやりあっている事で有名だ。  しかし今回ばかりは分が悪い。  相手の虎猫は“寅治の親分”。現在町内会長を務める鈴木家に古くから飼われている猫で、猫の間どころか、人間どもにも一目置かれている虎猫だ。  その体格は堂々たるものだが、決してペットに甘い飼い主が贅沢なエサを与え過ぎた為にぶくぶくと太ってしまった類のものではない。それは長年に渡り流れの野良猫からこの地域を守り続けてきた実績が証明している。  現に、あらゆる生き物の弱点とも言える首筋に爪をかけられているのに動揺する気配もない。 「中々に威勢の良いお嬢ちゃんだな」  獲物にかけていた牙をはずし、穏やかだがどすの利いた声で答える寅治。  圧倒的優位に立っているはずの美晴は一瞬気圧され、寅治はその隙に身を翻して美晴の爪から逃れた。 「まだまだ青いな。やんちゃ坊主のミケをのしたと聞いたから、どんなものかと思っていたが」 「けっ、あたいを見くびったら、痛い目見るよっ!」  虚勢を張る美晴に、寅治は一つ鼻で笑って毛づくろいを始める。  余裕綽々のその様子に激昂しそうになる美晴だが、寅治の視線に射抜かれて踏みとどまる。 「なあお嬢ちゃん。その坊主がわしの縄張りを荒らしてたのは見てたんだろう?」  寅治は顎をしゃくって彼の獲物――まだあどけない顔つきの烏の少年を指し示す。  彼はまだ恐怖の為に立ち上がれないでいた。 「コイツはまだガキだ」 「ガキだろうが年寄りだろうが、縄張りは縄張りだ。縄張りを侵す奴ぁ狩られても文句は言えんよ」  理屈の正しさでは、勿論寅治に分がある。だが美晴も引く訳にはいかない。 「あたいからコイツにちゃんと説教しとく。だから今回は大目に見てやってくれよ」 「おやおや、腕っ節で敵わないからってお情けを貰おうってか? そいつぁ虫が良すぎねえか」 「……頼む」  膝を屈し、両の手を地に付け深々と頭を下げ――土下座しながら、美晴は必死に頼み込んだ。 「ふん、まあ良いさね。そんな骨と羽ばっかりのガキなんざ、腹の足しにもならん」  寅治は美晴に歩み寄り、彼女の顔を上げさせ――「これで、チャラにしようや」  ひゅんっ、と空を切る音。  美晴は不意に走った鋭い痛みに、頬を押さえる。指の間から紅い雫が垂れる。 「お嬢ちゃん、この坊主にどんな思い入れがあるのか知らないが」  頬を押さえたまま、視線をそらせる美晴。とてもじゃないが――実は一目惚れです、なんて、言えたものじゃない 「まあ、御転婆も身の程をわきまえてするこった。若い女子があんまし傷跡を持つもんじゃねえ」  寅治は悠々ときびすを返し、縁側の上でねっころがった。  うずくまる美晴のもとに、九死に一生を得た少年がわたわたと歩み寄る。 「すす、すみません、僕なんかのために……。あの、大丈夫ですか?」 「バカ、とっととずらかるぞ」  未だにパニック状態の少年を一喝する美晴。  呆然とする少年を引っつかみ、引きずるように空へと羽ばたいた。  それから、2人の奇妙な共同生活が始まった。  美晴が助けた少年――名を直人(なおと)というが、彼は都会で生き延びるすべを全く持っていなかった。  郊外の水田地帯で縄張り争いに負け、公園もことごとく追い出され、腹をすかせて迷い込んだ先が寅治の縄張り(鈴木家の庭)だったらしい。  まあ身体も性格も控えめな彼に縄張り争いは酷だろう。野生動物としてはいかがなものかと思うが。  それも美晴の縄張りに居候し、美晴に都市部でのサバイバル術を教わることによって、どうにか日々を暮らしていけるようになった。 「いいか、この店は“コンビニ”といって、まだ食べれるものを大量に捨てる店だ」 「食べられるのに、捨てるんですか?」 「あたいにも良くわかんないけど、とにかく捨てまくる。で、それを」 「貰うんですか?」 「パクる」 「ぱ、パクるっ?!」 「そんなんでビビってどうすんだ」 「そんなんでって……人間にばれたら大変じゃないですか!」 「まあ色々とコツがあってだな、店と時間帯によってパクれる店員の場合があってだなあ。 ……ああめんどくせえな。今から実地訓練だ実地訓練」 「今からっ?!」 「ほら、ついてきな。あたいがきっちり教えてやるよ」 「よーし、今日はレベル高いのいくぜ? 肉を捨ててる“いとうや”だ」 「うわぁ……猫がいっぱい」 「ここは競争率高いからな。何しろ肉だぜ? このあたりじゃ手に入るところはここくらいだ」 「そうなんですか?」 「ここを制したものは厳しい冬を制するとも言われてるんだ。冬を上手いこと越えれたら、春はまわりに一歩リードできるしな」 「一歩リード? 何にですか?」 「そりゃお前、アレだ、春はアレの季節だろ。巣作りとか大変だろ」 「アレ?」 「あたいにそんなの言わせんなっ。あたいだって女だぞ!」 「そそそんなこといわれても、いや、美晴さんはもちろん女の子らしいですけど、何を言ってるのかはさっぱり……」 「ちょと、お前……本気で行ってんのか? あたいが、おお、女の子らしいって」 「もちろん本気ですよ。美晴さんが獲物を捕らえたときの笑顔って、とっても凛々しいですけど、とびきり可愛いですよ」 「バカ、照れんじゃねえか……」 「照れることないですよ、美晴さんはとっても可愛いんですから。僕が保証します! で、春のアレって何ですか?」 「そりゃ、あー……。じゃ、じゃあ、来年の春になったら、あああたいが実践で、教えてやろうか……?」 「それじゃあ、宜しくお願いしますね、美晴さん」 「そーかそーか、いや直前になってヤダとか駄目だかんなっ!?」 「美晴さんの実践はいつもためになりますもん、ヤダなんて言いませんよ」 「よし、じゃあ今日は“いとうや”攻略の実践といこーじゃないか!」 「ハイッ!」  この凸凹コンビは、この街のちょっとした名物になった。  厳しい都会の冬を越え、日が長くなり、梅の香りがあたりにただよい、桜はまだかと人間どもがやきもきとしだす頃―― (ばっちりきまったぜ)  ガラスを鏡代わりにして身だしなみを整えている美晴。  この季節は、普段は細めでしなやかな体つきの美晴も、徐々に女性らしいふくらみを帯びてくる。  春のアレ――つまり、繁殖の季節。  美晴はもう一度ガラスで全身を眺めた。  頬のキズは、結局痕になってしまった。しかし後悔はしていない。むしろ誇らしい。直人の命を救った傷なのだから。  はやる気持ちを抑えながら、もう一度しっとりとした漆黒の羽を整える。繁殖期を迎えたとはいえ、もともと凹凸の少ない体つきの美晴は、性的な意味での武器はこの“烏の濡羽色”にふさわしい羽のみだ。 (よーし、今日こそは、春のアレを、じじ実践で、ナオトに、レクチャーすっぞ!)  正直梅の花がまだ蕾の頃から辛抱たまらんかった美晴ではあるが、実はこういう方面はからっきしであった。  既に彼女の兄弟姉妹達はつがいを見つけて宜しくやっていたのだが、彼女は未だつがいを作ったことがない。  姉たちからは“オトコを落とす方法”と称して男女の駆け引きのイロハを教わっていたが、美晴はそんな大人の恋愛よりも、心底惚れた男と一生添い遂げるような純愛を貫こう、と心に決めていた。  普段は野良猫だろうが飼い犬だろうが怖いもの知らずで喧嘩する彼女だが、色恋沙汰はからっきしの純情娘なのである。  さあ縄張りに戻ろうか、と意気込んだ美晴の視界に、一組の烏のつがいが飛び込んできた。  グラマラスで色気たっぷりの雌に、一回りも大きい雄が甲斐甲斐しくついてまわっている。  振り返って自分の胸元を見る。手のひらにすっぽりおさまってしまう。  ぶんぶんと首を振る美晴。 (大丈夫だ、ナオトはきっと大きくなくても大丈夫だ)  希望的観測ではあるが、何とか平常心を取り戻す。  頬をぺちぺちとたたいて気合を入れ、直人の待つ縄張りへと勇ましく羽ばたいた。  ちなみに、直人が“春のアレ”の実践がどんなものか全くわかっていない、ということは、彼女の思考回路からは完全に除外されていた。 「あ、お帰りなさい美晴さん」 「ああ、うん。ただいま」 「? どうしたんですか、顔赤いですよ」 「そんなことないよ、いつもこんなんだよ」 「……しゃべり方も変だし」 「そんなことないよ、いつもこんなんだよ……じゃなくて」  気を取り直すため、わざとらしい咳払いをする美晴。 「ぅおっほん、げほっ! ごほっごほっ……」  むせた。 「ちょっと、本当に大丈夫ですか? なんかいつもの美晴さんじゃないですよ?」  背中をさすろうとする直人を押しとどめ、深呼吸をして気持ちを落ち着ける。 「あー、あれだ。ナオトは、あの約束を覚えているか?」  首をかしげて思案する直人。その仕草に、今すぐにでも押し倒そうかという衝動に駆られる美晴だが、やっぱり初めては優しくしてもらいたい、という理性がその衝動を押しとどめた。いや、それって理性か? 「もうちょっと限定してもらわないと、どの約束だかわからないよ」 「確かにそうだな。ほら、春になったら、実践で教えてやる、って……」 「ああ、思い出しましたっ、春のアレ!」  約束を忘れていなかった直人に安堵する美晴。 「で、結局何なんですか? 春のアレって」 「それはだな……」  そこで言葉が切れる。これから迎えるであろう待ちわびた色事に、美晴は感情を抑えきれず直人の胸元に抱きついた。  突然飛び込んできた美晴を支えきれず、美晴もろとも後に倒れこむ直人。 「ちょっ美晴さん!?」 「言っただろ、実践で教えてやるって」  美晴は自らの唇で、直人の口を封じてやった。  普段の自分では考えられない積極的な行動が、さらに彼女の思考を熱病がかったものにする。 「みはるさ、むぐっ」  抗議しようとする直人の口に、強引に舌を差し入れる。  その淫靡な水音が美晴を一層掻き立てる。  薄めの唇、綺麗な歯並び、驚きで奥に縮こまっている舌。それらを自らの舌で十分に堪能してから唇を離し、直人の細い胸に手を這わせる美晴。 「あは。すげー、気持ちよかった」 「み、みはるさん……春のアレって、もしかして」 「もちろん――つがいになること、さ」  直人の耳元で囁くその表情は、普段の御転婆な美晴とはかけ離れた――欲情した雌のものだった。  そんな美晴の様子に、直人はなんともいえない恐怖心を感じ、 「――駄目です、美晴さん!」  美晴を突き飛ばしてしまった。 「ナオト……」  尻餅をついて、呆然とする美晴。  浮かれた思考に冷や水が浴びせられ、完全にフリーズする。まさか直人に拒否されることなど、彼女にとって想定外であった。 「駄目ですよ、美晴さん……」  美晴を突き飛ばしたことを自分自身で驚きながら、直人は同じ言葉を繰り返した。  両者とも暫く呆然としていたが、先に感情が動いたのは美晴だった。 「何が駄目なんだ、ナオト」  ゆっくりと呟いたその言葉が、美晴の感情の堰を切った。 「何で駄目なんだ、ナオト! 約束したじゃないか、春になったら、実践するってっ!!」 「でも……まさか、つがいになることだなんて……想像もつかなかったから……」 「そうか、ナオトはあたいなんか抱きたくないんだ。そうだよな、こんなガサツで鶏がらみたいな女、誰が好き好んで」 「美晴さん、落ち着いて美晴さん」 「あたい一人で勝手に盛り上がって、莫迦みたいに盛っちまってさ。こんな……」 「美晴さんっ!」  珍しく強い口調の直人に驚き、美晴は身体を震わせる。 「美晴さん、美晴さんにはもっとお似合いな人がいますよ。僕みたいな、ひょろひょろで、ケンカもからっきし駄目な男とつがいになっても、絶対後悔すると思います」  美晴は唇を噛んで俯く。  いままで求婚されたことがなかったわけではない。が、どうしてもその気になれなかった。ハンサムな男にも、力自慢な男にも、身体を許すなど想像もできなかった。  しかし、美晴は初めて『この人の子どもを生みたい』と思ったのだ。直人と愛し合い、直人の子どもを生み、育てることができたら、どんなに幸せなことだろう、と。  しかし直人は、それを否定した。自分の子どもを生めば後悔すると。美晴が思い描く幸せは決して手に入らないと。 「――わかった」  美晴が絞り出すように言葉を紡ぐ。 「ナオトとは、つがいにならない」 「美晴さん……」  安堵とも後悔ともつかない微妙な気分が直人の心に満ちる。 「美晴さん、寅治さんから助けてくれてありがとう。食べ物の探し方を教えてくれてありがとう。街での生き方を教えてくれてありがとう」  美晴と決別すべく、立ち上がる直人。 「美晴さんへの恩は、一生忘れません。僕に、求愛してくれたことも。でも、これ以上迷惑をかけられないから」  羽を広げ、はばたく。 「さよなら、美晴さん」  美晴は直人の別れの言葉にも俯いたまま。涙がこぼれそうになるのを必死でこらえながら、直人は美晴の巣を飛び立った。  が、すぐに墜落した。  思いっきりぶつけてしまった鼻を押さえながら振り返る直人。美晴の手が、彼の足首をしっかと掴んでいた。 「み、美晴さ」 「ナオトとは、つがいにならない」  美晴は顔を上げ、完全に座った眼差しで直人を睨みつける。 「つがいにはならない。でも、ナオトの子どもは生む。1人で生んで、1人で育ててやるっ!」  美晴は力任せに直人を引きずり寄せ、ひっくり返して仰向けにした。そして直人に抵抗する暇を与えず、彼の腹の上に跨った。 「美晴さっ、おちついて!」 「うるさいっ、うるさいうるさいっっ!」  何とか美晴を宥めようとする直人だが、彼の問いかけは今の美晴にとって逆効果でしかなかった。 「うるさいっ! オマエなんか、さっさとおったててしゃせーしちまえば良いんだよっ!」  直人の下腹部に手を伸ばす。直人ももがいて抵抗するが、ケンカ慣れした美晴には到底敵わない。  必死の抵抗むなしく、直人は美晴に性器を掴まれてしまう。そして、怒りに我を忘れているとは思えないほど、美晴は優しく直人を撫で上げた。 「あっ――」 「おい、なんだよ。無理矢理やられてるのに、感じてるのかよ」  今まで数々の相手を殴り飛ばしてきたとは思えない程ほっそりとした指にしごかれ、直人は否応無く勃起させられた。 「ここだけは一人前、ってか? いやらしい奴だ」  なかなかに立派な直人の性器。巨根、とまではいかないが、十分な長さと太さ、しっかり張り出した雁首は、持ち主の少年が華奢なだけに結構な迫力だ。 (すげ、エロい形……)  つい怒りを忘れ、直人のものを注視する。美晴は誘われるように向きを変え、それと向き合った。  両手を添えてさする。揉むように刺激する。雁首のラインをなぞる。亀頭を包み込んでこね回す。直人はどの動作にも敏感に反応を返してくる。 (じゃ、じゃあコレ、くく口でやったら、どうなっちまうんだよ)  以前に姉から聞いた、男を悦ばす方法。それへの好奇心に耐え切れず、口を寄せた。  粘膜同士が、接触する。 「っっ!」 「んむっ!」  快感が許容量を超え、直人は美晴の口の中で果てた。 (なんだよコレ……すげぇ量。しかも真っ白)  姉たちから聞いていたものとは様子の違う直人の精液に驚く美晴。あまりに濃すぎて喉を通らず、口から出して手のひらに溜めざるをえなかった。 (これが、精子。ナオトの精子。これでナオトの子どもを作れる……)  むせ返る性臭に酔ったように、手のひらの精液をもてあそぶ。混ぜれば混ぜるほど糸を引き、美晴の指に絡みついていく。 (これを、あたいのココに入れれば、ナオトの子どもを作れる)  白い粘液が絡んだ指を、自らの秘所に持っていく。 「ふぁあっ」  普段の自慰とは格段の違い。ナオトの精子が自分のココに触れている、と考えるだけで気をやりそうになる。 「美晴さん……?」  直人からは美晴の背中しか見えない。急に黙り込んだ彼女に不安げに問いかける。 「ふ、ふんっ。好きでもない女の口でイってんじゃねーよ」  直人の声で我に帰り、再度体の向きを変えて彼に向き合う。 「ち、ちが」 「ちがわねーよ」  美晴の言葉に反論したい直人だったが、彼女の様子に絶句してしまう。  上気した頬に、トロンと潤んだ瞳。口元からは精液が僅かに垂れているし、何より彼女の控えめな陰毛に白く濁った液が絡み付いているのだ。 「ほら、やっぱりちがわねー」  美晴の乱れた姿に、再び勃起させられてしまう直人。 「な、何なんだよコレ。もうこんな硬くなっちまったぞ」  ついさっき射精したとは思えないほど力強く立ち上がる。直人からすれば、美晴にあられもない姿を散々見せられ、反応するなというほうが無理な話だ。 「よし、じゃ、じゃあ、入れるぞ?」  腰を少し浮かべ、自らの割れ目を直人の先端にあてがう美晴。 「だめ、だめだよ美晴さん……」  口ではそういうものの、全く抵抗できない。精液と唾液でてらてらと光る亀頭と、精液と愛液を垂らす割れ目。直人は腰を浮かさないよう力を入れるだけで精一杯だ。  ゆっくりと、腰が沈められていく。 「つああぁぁ……」 「わ、わわっ!」  美晴は今まで体験したことの無い特異な痛みに、直人は彼女の瑞々しい襞に包まれる信じられないほどの快感に、思わず声を漏らした。  ぺた、と美晴の尻が直人の体に着く。 「ぜ、ぜんぶはいった……」 「みはるさん、みはるさん、みはるさん……」  痛覚の波が引き、いつの間にか閉じていた瞳を開く美晴。うわずった声で美晴の名を繰り返す直人を心の底からの愛しいと感じた。  が、それはもう許されないものだと悟る。今直人と繋がった幸せを享受するには、直人への愛を諦めなければいけない。  なぜなら、同意の上での性交ではないのだから。 (それでも……)  美晴は腰を揺すり始めた。痛みは既に過ぎ去った。結合部が卑猥な音をたて、直人が可愛らしい鳴き声をあげる。 (あたいはもう、引き返せないんだから……)  始めはゆっくりと、徐々に速度を上げて。 (せめて、ナオトには気持ちよくなってほしい)  もう届かない直人の唇を見つめながら、美晴は懸命に腰を振り続けた。 「ん……」  澱んだ思考を振り払いながら、美晴は体を起こした。行為の途中で気を失ってしまったらしい。  美晴の巣には驚くほど濃厚な性の匂いが漂っていた。どれだけの間、直人との行為に耽っていたのか見当もつかないが、とにかく相当ヤったらしい、ということだけは美晴にも理解できた。 「うわ、……すげぇな、コレ」  2人はいまだ騎上位で繋がったままだ。交わっている部分は文字通りぐちゃぐちゃ。いったい何度イかせ、何度イかされたのだろうか。 「美晴さん、目、覚めた?」  急に声をかけられ、のけぞる美晴。倒れる前に直人が美晴の体を抱きしめる。 「……あぶないよ、美晴さん」 「わ、わりぃ……」  交わした言葉はそれだけ。抱き合ったまま、2人の間に沈黙の幕が下りる。 「僕はね」  先に沈黙を破ったのは直人だった。 「ずっとずっと、美晴さんに憧れてました。美晴さんが颯爽と現れて、僕を助けてくれたときから、ずうっと」  ゆっくりと、言葉を選びながら、続ける。 「美晴さんは僕の憧れで、尊敬する人で、正義のヒロインで……大好きな、女の子なんです」  美晴が肩を震わせる。 「だから、美晴さんに迫られた時に混乱してしまいました。普段の美晴さんからは想像できないほどエッチだったから。ごめんなさい」  再び沈黙が降りる。  こんどは、美晴がそれを破った。 「あたいは、ナオトが思ってるような女じゃねえよ。ケンカに負けてカッコ悪く逃げ出したことだって良くあるし、飯のために汚いことはいっぱいやってきた。それに……」  そこで1つ深呼吸をし、続ける。 「あ、あたいは、とんでもなくエロいぞ? ナオトの寝床で、お、オナニーしたの、1度や2度じゃねえし、な」  顔から火が出る思いで告白をし、直人の腕の中でさらに小さくなる。 「実は、僕もです」  直人の言葉に驚いて顔を上げる。 「僕も、美晴さんをダシにオナニーしてました。ごめんなさい」 「な、なんだよ、お互いエロエロ同士か」  2人顔を見合わせ、思わず笑い出す。 「あの、ついでに告白してしまいますけど、美晴さんが気を失っている間に……」 「間に、何だよ?」 「気持ち良さそうに気を失ってる美晴さんに、こう、ムラムラっと来てしまいまして……我慢できませんでした」  直人の言いたいことがわからずキョトンとする美晴だが、しばらく考えてその意図するところに気付き、 「なっ、なんで起こさなかったんだよ!」 「ごご、ごめんなさい……って、そっちを怒るんですか?」 「あたいが寝てる間にナオト1人で気持ち良くなってたなんて、何か癪だ」  顔を真っ赤にさせ、直人の華奢な胸に顔をうずめる。 「じゃあ、美晴さんが起きてる今なら、良いんですか?」  美晴の艶やかな黒髪に指を通し、その香りを胸いっぱいに吸い込むだけで、直人は彼女に埋めたままの肉棒に硬さを取り戻す。 「……この、エロエロ魔人」  そんな彼の様子を察し、美晴もすっかりその気になる。 「キス、してくれたら、良い」  直人からの、やさしいキス。もう手に入らないと諦めたもの。  美晴は、真剣に死んでも良いと思った。 ――その後の2人。 「おかーさん、おなかすいたーっ」 「ごはんごはんー!」 「ああもう、少しは静かにしろぉ! もうすぐナオトが帰ってくるっつってんだろ!」 「ヤダヤダヤダまてないよー!!」 「まてないのー、おなかすいたのー」 「ただいまー美晴さん」 「遅いっ」 「ごご、ごめんなさい」 「ごはんっ!!!!」 「おとーさん、ごはんー」 「はやくっはやくっはやくっ」 「みんな、ちょっと待って、順番、順番だからっ」 「くぉらっ、直人を困らせるな!」 『ごはんーっっ!!』  そこには子宝に恵まれ、協力して子育てをする2人の姿が。  めでたしめでたし。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: