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ちゅじちゅじ、ちゅるるるるるるる 普段この建物で絶対に聞けないような甲高く、どこか清々しい音に、俺は音のする方向を見てみる。 「お、なんだ燕の巣か」 見ると、鉄骨トラスの梁の上に、小さめの燕の巣があった。 「しかし、なんでこんな場所に巣を作るかねぇ……」 俺は巣を見つけた瞬間に燕が心配になった。 ここは小樽築港機関区機関車庫……つまり、日本でも最強の部類に入る蒸気機関車が何台も収まっている場所だ。 以前近所のガラス屋のおっさんがダットサンのトラックを空吹かしさせて軒先に巣を作っていた燕を一酸化炭素中毒で殺したのを知っていたし、 こんな場所に巣を作ればトラックどころではない一酸化炭素でたちまち仏様だ 「しゃあないなぁ………」 俺はとん、とん、と巣に近い位置にあったC62-2号(皮肉にも、国鉄がデフレクタに燕をあしらったマークを施したスワローエンゼル機である)に登り、 その馬鹿でかいボイラの頂上部までたどり着いた。 何せ日本最強の蒸気機関車だ。直に排気煙にやられれば燕はおろか人間も持たない。 ボイラの頂上から鉄骨トラスに飛び乗る。この位慣れたもんだ。煤で真っ黒のトラスを高い金属音を立てて渡り、燕の巣までたどり着いた。 「おーい、手宮ぁー」俺の名前が扇型の機関車庫いっぱいに響く。 下を見ると、狐獣人の相方・旭が不思議そうな顔をしながら俺を見上げていた。 「旭ー!来てくれー!」 「何なんだー!」 「いや、なんも、梁の上に燕が巣を作ってんだー!」 そりゃひでえ。と旭はスワローエンゼルによじ登った。 「今こいつ渡すから、俺が下に降りるまで持っててくれー!」 「あいさー!」 雛はいなかったが、恐らく母親らしき燕がちゅじじ、ちゅじじと巣を勝手にいじられるのを嫌がり、巣の中で懸命に抵抗を続ける。。 「……そんなに酸欠死したいか?」 しかし燕は抵抗を緩めない。 やがてスワローエンゼルの真下まで行くと、巣を燕ごと走行板の上の旭に手渡し、俺はボイラづたいに下に降りる。 「ほれ、手宮」 「あんがと」 手渡された巣の中で燕はまだ抵抗を続けていたが、俺は燕の抵抗をものともせずにそのまま機関庫を出て、事務所の方まで機関区の広い構内をとことこ巣を持ちながら歩いて行った。 木造の事務所の窓枠の出っ張りに巣を置く。少し座りは悪いが、見たところ卵もないんでまあよしとしよう。 「越冬が終わってこっち来たんかなぁ……どっちにせよ北海道までご苦労なこった」 俺は機関庫へともと来た道を戻っていく。今日はまた長万部までキューロク(9600型)の窯焚きだ。 これ以上燕にかまって旭を待たせちゃいかんしな。 ちゅじちゅじ、ちゅるるるるるるる 「またかい……」 機関庫の燕の巣を移してから三日、また機関庫には燕の鳴き声が響いていた。 「手宮、またか?」制帽の端から狐の耳をはみだしたままの旭が複雑な顔をしている。 「どうする?」 「どうする、って。とりあえずもう一回事務所に持ってく」 俺は今日函館へ貨物便を牽いていくデゴイチに登り、トラスに足をかけた。 燕の巣に手をかけると、また燕はちゅじじっ、と抗議を始める。 そんなに嫌ならこんな場所に巣を作るなよ。 トラスを渡り、三日前のように走行板に立つ旭に巣を手渡す。 そしてデゴイチのボイラを伝って下へと降り、旭からまだ抗議を続ける燕を乗せた巣を貰う。 「今日は早めに出たかったんだけどなぁ………」 そう言って俺は機関庫を後にした。 ちゅじちゅじ、ちゅるるるるるるる 「またかよ………」二度あることは三度ある。とばかりにまた燕は三度目の巣を作っている。 俺は夕張から小樽まで石炭列車を牽く予定のキュウロクの車体を登り、またトラスに足をかけた。 ちょうどその瞬間に機関庫に入ってきた旭は、何も言わないまま、呆れた顔をして走行板によじ登る。 「いい加減学習しろよ………」そう呟くと、俺は燕の巣を持ち上げた。 燕の抵抗も無視し、走行板の旭に巣を手渡す。旭は「今度は他のとこに巣を張れよ」と雌の燕に呟くと、既にキュウロクづたいに天井から降りている俺に巣を手渡す。 そして俺は、みたび事務所の軒先へ向かうことになった。 ちょうど月が頭上に昇ったころ、キュウロクは築港機関区の留置線へと戻っていた。 「じゃあ、後はよろしくな」旭はキュウロクの運転室から飛び降りると、尻尾を振りながら事務所へと歩いていった。どうせこの前貰った嫁さん待たせてるんだろう。 ある程度点検が済むと、窯から火を抜く。そして車体の手ブレーキを締め、車止めをはめた。 「あとはブレーキハンドルを戻して帰るだけ~」 かなり年期の入ったキュウロクのブレーキハンドルを握りながら、上機嫌に事務所へと足を進めていく。 そして事務所の扉を開き、ブレーキハンドルを他のブレーキハンドルと同じ場所にかけると、俺はまだ働く同僚に声をかけて外に出た。 「さ~て、明日は休みだぞ~」鼻唄を歌いながら俺は機関区の門をくぐり、自宅への帰途に着いた。 上空からの視線にも気付かずに。 ガサガサ、ガサガサ 「ん……?」 妙に大きな物音に、俺は目を覚ます。 天井裏で鼠がはい回ってるのか、野良犬がいるのか。最初はそう思って布団を被り直したがどうやら違うようだ。 (物音が近すぎる……泥棒か?) 随分大胆な泥棒もいるもんだ、とか、なんで銀行が死ぬほどある小樽でわざわざ国鉄の独身寮を狙うんだよ 。とかをしばらくぼんやり考えると、俺は物音の方向に布団を払い除けた。 ばさり、と布団は泥棒らしき人影に覆い被さる。人影は慌てていた。 「国鉄マン舐めるなよ! 観念しやがれ、このコソドロ野郎!」 泥棒を足蹴にしながら立ち上がり、電灯をつける。 見ると、タンスの中が引っくり返されている。 タンスの中の現金でも狙ったんだろうが、生憎とこの手宮浩司、タンスの中に預金するくらいなら酒に変えてるわ!ざまあみやがれ! 俺はニヤニヤ笑いながら泥棒を閉じ込めている布団を剥がす。 「あぅー、痛いー………」 なんとも、楽しいことに泥棒は女の子だった。 背は140とかその辺りのチビ。体つきも薄く、後ろ髪をちょっと長めのおかっぱみたいに切り揃え、映画の中の金持ちみたいな燕尾服を来てる。 まあしかし、女の子でも泥棒には変わりない。俺は手近な位置にあった紐をたぐりよせ、女の子の腕を縛ると、電話のある廊下へ出た。 受話器を取り、ダイヤル穴に指を入れ、ジー、コロコロと回していく。 「ひゃく、とお、ばん、と………あ、もしもし。警察さん?泥棒が出たんですよ。はい、はい、はい。取っ捕まえて今部屋で縛り上げてますよ。……場所。場所は………」 そこで電話は止まった。 反射的に「もしもし、もしもし」と受話器に必死に話しかけながら電話を見ると、受話器を置くべき場所に小さな手が置かれている。 その手の先には、燕尾服を着た少女。 「てめ、どうやって………」 思うがままに再び少女を捕まえようとしたその時、少女は俺を華奢な腕に不釣り合いなほどの力で引き寄せる。 そして、口を柔らかく、しょっぱい何かに塞がれた。 眼前には頬を赤く染めた少女の顔。 不思議と俺は声を上げることが出来なかった。 やがて、「んぷぁ」とかわいい声とともに唇が解放される。 そして少女は人指し指を立てて、「しーっ」と形を作り、俺の手を牽いて部屋へと戻っていった。 少女は静かに扉を閉めると「ふぅ……危ない危ない。警察さんに捕まるとやっかいだからねぇ」などとほざいた。 文字のごとく盗人猛々しいわ。この泥棒少女。 しかし少女は俺の視線に気付いたのか、俺に振り向いた。 「お兄さん。もしかしてまだ私のこと泥棒と思ってるの?」 よく見れば目もぱっちりと大きく、意外とかわいい顔だ。 「と言うか泥棒以外に何の用がある?」 やっぱり、と少女は言うと、俺の前に座りこんだ。 「私ね、あなたの家に巣作りに来たの」 はぁ?と俺は声を上げる。 巣作りって、何かの隠語か? 「あなた、私の巣を三回も動かしたでしょ。だから仕返しを兼ねてここに……」 巣?三回?こんな女の子知らんぞ俺は。 「うーん、あんまりわかってない顔だなぁ……」何もわかってないですが?「仕方ないなあ……えいっ!」 少女が掛け声をあげると、燕尾服とともに彼女の腕がざわめきながら変化する。 ざわめきが止むと、彼女の腕は濃紺の翼に変化していた。 「驚いた?」 「………普通、今の見て驚かん奴はいないだろ」俺はまだ驚きを隠せない顔のまま彼女に返した。 でもこれでこいつが誰だか完全に結び付いた。 「機関庫に巣を作ってた、あの燕だろ?」 大正解~、と軽い口調で少女は言った。 「あなたが巣を動かしたからいけないんだよ。せっかくあんな暖かい建物の中に巣を作ってたのに……」 ぶつぶつ何かを呟く燕少女。どうやら機関庫がどういう物だかわかってないらしい。 「あー、お前。あの建物の中に入ってるアレ。なんだかわかるか?」 「わかるよ、蒸気機関車でしょ」 わかってるじゃないか。 「じゃあお前、家の煙突の上に巣を作った越冬燕を次の年に見たことがあるか?」 「無いわよ。かわいそうだけど」 一応煙突の上に巣を作れば死ぬことはわかるらしい。それがわかると俺は結論に走る。 「言っておくが、蒸気機関車からは冬の煙突から出る煙と同じガスの入った煙が、かなりの量で出てるんだよ。 つまりだ。お前があのままあの巣で暮らしてたらガスで死んでたんだぞ」 わかったか。わかったら出てけ。と付け加えると、俺は電気を消し、布団に入って目を閉じた。 しかし戸が開く音は聞こえない。その上なんだかまた部屋が明るくなった気がする。 そして布団の中に異物が入ってくる感覚。 「あ、こら。布団入るな!」 「私を助けてくれたなら、余計帰らないんだから。お礼につがいになってあげる!」 そう言って燕少女はたいして肉付きの良くない体を押し付ける。 素肌の感覚が触れ合ってくる。どうやらこいつ全裸らしい。 「いらねえから帰れ!俺は明日稚内まで往復で貨物牽くんだよ!」 「あれ~?明日は休みって言ってなかったっけ~?」 畜生、聞かれてやがったか! 「ほら~、遠慮しないで~」 「誰がするかっつの!もういいから寝かせてくれ!」 「あ。そうやって抵抗するなら私からやっちゃうぞ~」 「ふざけるなぁぁぁぁぁっ!!!」 しかし、気付けば燕少女はいつの間にか戻っていた手で、俺の腕の自由を奪っている。 「助けてくれ!おい!金沢!金沢ぁっ!」 必死に隣の部屋の奴に向かって叫んだが、何の音沙汰もない。 さっきからこれだけ騒いでも起きないって、普通じゃねえだろ。 「夜中に騒いじゃ近所迷惑でしょ……んっ」 またキス。 しかも舌を口の中に入れてくる、映画でお馴染のヤツ。 俺の口の中を舐め尽すみたいに、必死に舌を動かしてる。 顔を見ると、冬の寒いときみたいにほっぺた真っ赤になってる。 (意外とかわいい……かもな) ぞくぞくっ、と体を震わせると燕少女はようやく唇を離し、唾液の橋を口元に引きながら立ち上がる。 電灯の下に晒される体は、やっぱり期待するだけ無駄な程のものだったが、それでも局所局所は肉付きも良く、燕だけに飛行機。それも戦闘機みたいな、よく洗練されている体だった。 純粋な人間と違って、股間は文字通り何もなくつるつるだったが、それでも桃色に色付いている。 「実はね」真っ赤な顔の燕少女は、下腹部に手を当てながら続ける。「今日、お腹の中で卵が出来る日なんだ。 だからあなたのが欲しい。一番搾りの、とびっきり濃い精子を出来たばかりの卵にどぴゅ、どぴゅ、ってかけて、私達つがいの子供を作って欲しいな」 おいおい本気かよ。まだ風俗でしか経験してないのにいきなり父親とか待ってくれよ。 キスとストリップと子作り宣言で既に抜き身の我が名刀には悪いが、俺は腕の押さえが失われていることを思い出すと、逃げ出そうと体の向きを変えた。 だが、燕はすぐに俺の魂胆に気付き、そのまま光を受けて煌めく蜜の糸を空中に曳かせながら、俺にのしかかった。 「もー……逃げたりしたら卵もおちんちんもかなしんじゃうよー」 俺の上に馬乗りになった燕少女が頬を膨らます。 「逃げないと俺が悲しいんだよ」 「なんでー?こんなにかわいいつがいがいるのに」 確かにちょっとかわいいのは悔しいけど認めるが、まだ独身を楽しんで貯金もろくにしてないうちにいきなり嫁さんと子供が出来てみろ。 それこそ同じ狐獣人で性欲底無しな嫁さんのいる旭の家みたく、貧乏子だくさんになってしまうし、当然独身寮も追い出され、家賃のかかる国鉄官舎住まいになっちまう。 しかし燕少女は俺の名刀を握り、手で軽くしごいてより堅くすると、そのまま、体のわりにかなりのボリュームのあるお尻の間と誘った。 不思議に思う俺に目ざとく気付いた燕少女は、先端を不浄の穴にあてがいながら呟く。 「鳥さんってね、女の子の穴とうんちの穴が一緒になってるの……」 だから、気持よすぎたらしちゃうかも。と、燕少女は続けた。 もちろん、そんな事されればたまったもんじゃないが。 不意に俺のものが直に包まれるような暖かさに包まれた。 「ふぁぁ、全部入ったぁ」幾分苦しむ様子もなく、燕少女は鼻にかかった声で口走る。 そしてそのまま、「んっ、んっ」と腰を上下に振りはじめた。 燕少女の中は卵の通り道だけに人間のように内部で強引に締め付けることすらないものの、入り口の括約筋が快感できゅっ、きゅっと小刻みに締まり、ふんわりと柔らかく締まった内部では、異物を送り出そうとして襞が蠕動を続ける。 「これ、普通にやるより気持ちいいかも………」 「でしょ、気持ちいいでしょ」 ぴったり張り付いてくる襞の感覚にすぐにでも気持ちが良くなってしまいそうだったが、なんとか堪える。燕少女のほうは快感に呑まれ、あん、あん、とさえずるような嬌声で鳴いていた。 「わたし」不意に嬌声以外の言葉が燕少女の口から漏れる。「実は交尾ははじめてなの」 「雛の時にダニがついちゃってあんまり大きくならないまま成長が終わったから、卵が少ない数しか産めない体になってて、 オス達は卵が産めないメスはいらないって、今まで一人ぼっちだった」 嬌声をさえずりながらも燕少女は淡々と話を続ける。 「だから正直どうでもよくなって、あそこに巣を作ってガスで死のうかな。って思ってた。でも……」 ざわざわと燕少女の体がざわめき、腕からは翼が、お尻の付け根からは長めの尾羽が生えてくる。 「あなたが、邪魔した」 燕少女は、歌うように囁いた。 「何度巣を張っても、その度助けた。だから私は死ねなかった。だから、三回目に巣を張った時に、あなたが助けてくれたら、あなたとつがいになろう。って決めたから」 頬を林檎のように赤く染め、眼に涙を溜めながらもきっ、と燕少女は俺の方を睨み、言いはなった。 「私と、つがいになって」 しばしの間、淫らな水音だけが世界を支配していた。 「拒否権は?」俺が口を開く。 「無い」 「じゃあ一択じゃねえか」あまりの非道な回答に毒付いてみせる。 しかし、流石に俺も腹をくくってはいる。 金なんて独身寮の連中にたかればいいさ。 「いいよ。つがいになってやるから」 あらかじめ決められた答え。しかしそれすら拒むかと思っていた燕少女は予想を裏切る答えに、涙を頬に垂らしながら、「ありがとっ!ありがとっ!」としきりに発した。 そしてその間も彼女の攻めは止まらず、むしろ逆に悪化してるような気がする。 「ところで」俺はあんあんさえずる燕少女に訊く。「卵が少ししか産まれないとか言ってたが、いくつくらいなんだ?」 「いっかいに、ひぁ、ひとつか、ふたつぅぅぅ、ああぁん」 「なら大歓迎だ」そう言って俺は燕少女の体に手を回し、上下運動を手伝った。 その度に、ものに貪欲に食い付いて、なかなか離れない粘膜が、だんだん精を絞りとろうと締め付けてくる。 「はゃぁぁっ!だめだよっ!きもちよすぎてとんじゃう!とんじゃうぅぅぅぅ!」 突然の刺激に、すっかり出来上がってた体は過敏に反応し、髪を振り乱して、大声で叫び狂う。 「飛べよ、燕だろ」ラストスパートとばかりに俺は燕少女を突き上げた。「出すぞ」 その瞬間、これでもかとばかりの濃さの精液が燕少女の中へと注がれる。 排泄口を兼ねた産卵口は快感にうち震え、びくっ!びくっ!と痙攣しながら、しかし貪欲に精をねだり続ける。 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!でてるっ!でてるっ!いや、とんじゃ、とんじゃ、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっっっ!!」 燕少女は快感に全身をこわばらせ、叫びながら大きくのけぞる。宣言通りに飛んだようだ。 そして直後に襲ってきたひどい眠気に、俺たちは視界を閉じていった。 夜闇とナトリウム灯のオレンジに彩られた小樽築港機関区に、旭川からの貨物便を牽き、その貨車をヤードに置いて一両で帰ってきたデゴイチが溜め息みたいに蒸気を吐き出して留置線に停車する。 「んじゃ、後は俺がやっとくわ」 「あんがとさん」 旭の言葉に甘えて、俺はデゴイチの運転室を飛び下りた。 そして事務所に立ち寄って帰宅を報告すると、自分の鞄を持って帰宅への途についた。 「お」機関区の門のとこに大きいのと小さいのの二つの人影がある。 電柱の水銀灯の下で二人はこっちに向かって手を振ってる。 俺は二人に向かって手を振りかえした。 すると、門のほとりから小さな陰が駆け出す。 「パパーッ、おかえりーっ」 俺は走ってくる我が娘を受け止め、抱きかかえた。 「おかえりなさい、パパ」 そう言ったのは大きい方の人影……自分のつがいの燕娘だった。 「ただいま、二人とも」 俺は彼女たちに向かって笑んでみせた。 「パパ、パパ、今日のご飯はなんだかわかる?」 「なんだ?わかんないなぁ?」 すると、妻と娘が声を会わせて「カレーライス~」と歌うようにさえずった。 「あはは、だから上機嫌なのか」 薄暗い路地にはどこまでも澄んだ三人の笑い声が響いていた。 完

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