「んっ! ……っ、あぁっ!」
 朝、目が覚め、上体を起こして大きな伸びをする男が一人。
 名前を響鬼 宗介(ひびき そうすけ)と言う。
 現在築二十年あまり経つ古びたアパートに住んでいる、ルックスだけはそこそこの貧乏大学生。
 今日もいつもどおり大学があり、いつもどおり小さな洗面所で顔を洗い歯を磨き、朝食の準備をする。
 一人暮らしのため、何もかも自分でやらなければならない。
 毎日のことだけど、非常に面倒くさいが仕方がないと思いつつ、卵を四個にハムを二、三枚使った目玉焼きを作っている。
 ただし作るのは二人分、一人で卵を四個も使っては少々健康にもよくないし。
「さて……」
 二枚の更に目玉が三つと一つの目玉焼きを盛り、宗介は自分の布団の中で眠っている者を起こしに行った。
「おい起きろ、朝飯だ」
「ぅ……うぅ~」
 布団を勢いよく剥ぎ取ると、中には白い長髪の、宗介と同年と思わせる綺麗な女性が眠っていた。
 温い布団をいきなり剥ぎ取られ、女は眠そうに唸って丸くなる。
 しかし宗介が軽く体を揺すると、ゆっくり目を開けて上体を起こし欠伸をする。
 そしてここで、彼女に注目すべき箇所がいくつかある。
 まずは、肌蹴ている宗介のワイシャツの胸元から見えるバランスの良い胸。
 ほぼ全部のボタンが開かれているため、ちょっとずらせば丸見えになりそうで、宗介の顔も少しだけ赤い。
 そしてもう一箇所は、頭から生えている明らかに人間じゃない、丸みを帯びた猫を思わせる耳。
 今は目が覚めてぴんと立っている。
 更に女のお尻、穴の開いた下着からは尻尾が生えている。
 その尻尾は長く、頭の耳同様猫を思わせるが尻尾の先端は白い体毛で覆われ、それは宗介も偶にテレビなどで見る、ライオンの尻尾そのもの。
「あ……お、あ……お、あよ、う?」
「おあよう、じゃなくて、おはようだアル」
「お、おは、よう、そーすけ」
 そう――物凄いぎこちない言葉遣いで挨拶を交わし、宗介に綺麗なブルーの瞳を細めて笑顔を見せる女、アルは人間ではなく、雌のライオン。
 正確には白ライオン、ホワイトライオンというライオンの白変種。
 更にもう一つ、アルには他のホワイトライオンにはない、『人間の姿になれる』という能力まであり、訳あって宗介が面倒を見ているのだ。

「ほら、顔洗おうアル。飯が冷めちまう」
「う、ん……わかっ、た」
 アルの手を引きゆっくりと立たせる宗介は、まだ少し眠気眼のアルを洗面所まで誘導する。
 そして顔を現せ、布団を退かし、部屋の端に立てかけておいたちゃぶ台をセットし、その上に先ほど作った目玉焼きとご飯を乗せる。
 顔を洗いようやく目が覚め、朝ごはんのいい匂いに反応し、耳を動かしながらアルは内股に座り嬉しそうに箸を取った。
「アル、食べる前に」
「いただ、き、ます……」
 先ほどから言葉遣いがぎこちないのは、まだアルが人間の言葉に慣れていないため。
 現段階では、アルはようやく一人でたって歩けるようになったため、当然箸使いも慣れてはおらず、握り方も本当にただ握っているだけ。
 それでは掴んで口に運ぶのも難しい、取っては落としてを繰り返していた。
 その隣で宗介は飯をたいらげていき、何度やってもうまくいかないアルはとうとう涙目になってしまった。
「あ、ぅ……そーすけ」
「だめ。ちゃんと一回でも自分で食べろ」
「うぅ……」
 宗介に助けを求めるもあっさり断られ、耳を寝かせアルはしゅんとなる。
 教育とは時に厳しいものなのであり、アルは真剣な面持ちで宗介の箸使いを見ながらゆっくりと僅かに温くなっているご飯を掴む。
 そして震えた手で口に運ぶ。分量的には一口にも満たないが。
 それでも、自分で食べたことには変わりなく、宗介はアルによくやったと褒めつつあーんの如く食べさせ、あっという間に朝食はなくなった。
「さてと……アル、俺は大学行ってくるから、おとなしく留守番してるんだぞ?」
「うん」
 そして、もう時間が時間なため、宗介は軽く支度をし鞄を持って玄関にて靴を履く。
 それを追うようにアルも玄関まで宗介を見送っていた。
「いって、らっしゃい……」
「あぁ、いってくる。帰りには肉買ってくるから」
 最後にあるに言い残し、宗介は玄関の扉を閉める。
 宗介が言った”肉”という言葉に、嬉しそうにニッコリ笑顔になるアル……やはり肉食獣だからだろう。
 そして宗介が出かけてしまい、静かとなった部屋。
 テレビやゲーム、パソコンはあるもののアルは使い方がわからず、畳まれている布団の上に載ると、服を脱ぎだした。
 ワイシャツと穴あきパンツが放り投げられ、アルの身体が白く光った直後、布団の上には大きな雌のホワイトライオンが気持ちよさ気に寝息を立てていた。
 しかし、何故にごく普通の学生と、人の姿に変えることができる特殊能力を持ったホワイトライオンが、一つ屋根の下で暮らしているのか……
 それは、約数ヶ月前にさかのぼる事になる。

 この日、宗介はいつもどおり大学が終わり、バイトも終わって家に帰る途中だった。
 その際、彼は少し変わったところを通って帰る。
 それは、今は使われていない古びた廃工場である。
 昔何かに使われていたのか、今でも何かを作り出すであろう機械は埃をかぶりながらも残されており、一応立ち入り禁止となっているものの入り口は開いたまま。
 しかもこの工場を抜ければ5分は短縮できるので、埃臭さや偶に虫が飛んでくることを気にしなければ近道となるのだ。
 そして今日もいつもどおり工場内を宗介は少し小走りで歩いている。
 その手に、バイト先で貰った余り物のハンバーガーが大量に入ったビニール袋を持って。
 しかし、宗介は気づいた……工場内の異変に。
「……何だ?」
 思わず立ち止まる。
 工場内は暗く、所々開いた屋根から月明かりが照らすだけ。
 しかし、誰かに見られ続けている視線と気配を感じるのだ。
 確実に何かいる……昔野良犬や野良猫がいた時もあったが、その気配とは何かが違う。
 早く抜けてしまおう、そう思い宗介は走り出した。
 しかし、出口付近で再び立ち止まる。
 何故か……宗介が感じていた気配の正体が彼の目の前に現れたからだ。
「な、にぃ?」
 驚いて少し後退る。
 無理もない、動物園ならまだしも、こんな町中にいる筈のない大きな肉食獣、ライオンがいるのだから。
 しかも全身白いホワイトライオン、鬣がないことから雌だということがわかる。
 だが宗介にとってはどうでもいい……目の前のライオンは青い瞳を光らせ自分を見つめている。
 食われると、宗介は思った……何よりライオンの目がまさに、今からこいつ食おう、と物語っているように見えていた。
 しかし実際は、宗介が持っている大量のハンバーガーの匂いで近づいているだけなのだが。
 そしてゆっくりとライオンは宗介に近づいた。
 この時点で、逃げても無駄だと宗介は諦めライオンの胃の中に入る覚悟を決めていた。
「ゆ、指一本で勘弁…………ん?」
 体を硬直させて目を瞑っていた宗介。
 だが、ライオンは宗介に触れようとせずにビニール袋だけを引きちぎり、ぼたぼたと落ちた大量のハンバーガーをハンバーグ中心に食べ始めた。
 ライオンは雌のほうが狩をするのだと知っていた宗介は、その意外な行動に目を開けて頭だけを動かしてただ見ていた。
「こいつ……」
 このホワイトライオンが宗介を襲わなかった理由、それは簡単で、人間を襲ってはいけないと認識しているからだ。
 むしろ人間を怖がっており、数日間何も食べていなかったライオンはあっという間に食べ終えると、すぐに工場の奥へと消えて行ってしまった。
 その光景を、ただ呆然と見ているしかない宗介、とりあえずぐちゃぐちゃになった紙やらを回収し、今日はこの場を後にした。

 翌日、今日は大学はなくバイトだけだった宗介は、暇な午前中に再び廃工場を訪れていた。
 その手には、家から持ってきたウィンナーやらの肉類の食料……最悪襲ってきたら囮にもなるかもしれないため持ってきたのである。
 そして軽く声を上げると、再びライオンは宗介の前に現れた。
「やっぱ、夢じゃなかったのか……」
 昨晩のことは夢だと密かに言い聞かせていた宗介だったが、あえなく現実という言葉がそれをかき消した。
 まずどうしてこんな所にライオン、しかも珍しいホワイトライオンがいるのか考え始めたが、すぐに自分の状況を考え始めた。
 宗介の考えなど無視するかのように、ライオンが昨晩のハンバーガーのように囮用に持ってきた肉の入った袋を奪い取ろうとしたからだ。
「待て」
 しかし、今回は昨日のようにはいかず、宗介は食料の入った袋を後ろに隠す。
 それを追うかのように後ろに回ろうとするライオンだが、させないとばかりに宗介もその場で回転している。
 このやり取りが数分続き、このライオンは人を襲わないと、宗介は判断しその場にしゃがみこんだ。
「まだ腹減ってるのか……まぁ、ライオンだしアレだけじゃな……あぁ~、ちょっと待ってろ、今開けてやるから」
 しゃがんだ宗介に、ライオンは早く飯くれと言わんばかりに袋を奪い取ろうとする。
 だがその前に、宗介はウィンナーやハムを開け、更に持ってきていた大きな皿に移す。
 すべて移し終えると肉の山盛りとなり、ライオンは実にうまそうに肉を食べていた。
「本当に人襲わんのか? それとも人懐っこいだけか……」
 こうして見ていると、体格に相当な差があるもののそこら辺の野良猫とあまり変わらない。
 白い毛並みに、青い瞳が綺麗なライオンは、可愛いというよりも美しいと宗介は感じ手をゆっくりと伸ばし触れようとする。
 宗介の手が、白い毛に触れた……その瞬間、ライオンは尻尾を立て、食べかけの肉を撒き散らし工場の隅へと隠れてしまった。
「お、おい……なんだ?」
 全身飛び散った肉まみれになる宗介は、機械から顔だけを覗かせているライオンを訳が分からないという様子で見ていた。
「あいつ………もしかして人間怖いのか……?」
 よく見たら小刻みに震えているライオン。
 ここでようやく、宗介はあのライオンは人間を恐れているのだと気づき、バイトの時間もあるので食べられそうな肉を拾い器に移した。
「あとで……またなんか持ってきてやるからな」
 最後にライオンに聞こえるよう、工場に声を響かせて宗介は去っていく。
 この時点で警察に連絡してもよかったが、何となく、宗介はそうしなかった。

 それから数日の間、宗介は廃工場に訪れては食料をライオンに与えていた。
 更に毛布やらを与え、廃工場で飼っているといった感じだ。
 無論、人間が怖いライオンは食料は食べるものの、食べ終えればすぐに工場に消えて行ってしまう。
 それでも、数日宗介と接し、彼には心を開いたらしく、今では宗介の気配を感じただけで工場内から出てきて彼に体を摺り寄せる。
 ライオンは宗介だけには懐いていたのだ。
「じゃあな、また明日来るから」
「グゥゥ……」
 食事を与え、宗介が押し倒されて舐められたりするだけだが、少しの間戯れ、宗介はアパートに帰る。
 その際に、ライオンが寂しそうに鳴き、宗介は笑って頭を撫でる。
 いつもはそれでライオンは満足するのだが、この日だけは違った。
 そして、ライオンが不意に前足を宗介の両肩に乗せると、彼はそのままライオンに押し倒された。
「うわっ! な、なんだよ!?」
「グゥ……」
「こ、こら、舐めるなってくすぐったい……」
 ライオンは宗介の頬を嘗め回す。
 宗介は目を瞑り、ライオンに呼びかけるが舐められ続けている。
 そして、彼はある大きな異変に気づいた……大きいライオンの舌がどんどん小さいものへと変わっていくのだ。
 自分を押さえ込んでいる前足も鋭い爪の感触も、力はそのままだが小さくなる。
 そう――まるで人間のようで、肉球や毛の感触はもう無かった。
「な、なにぃ!!」
 舌で舐められる感触が消え、宗介はゆっくり目を開け上を向くと、目を見開き驚愕した。
 自分を押し倒したはずのライオンの姿は無く……代わりに全裸の女に押し倒されているのだ。
 長い白髪、そして青い瞳、そして女とは思えないこの力。
 そして何より、白い髪から見えるライオンのような獣の耳……
 まさかとは思ったが、この女はあのライオン、と宗介は思うしかなく、口をパクパクさせただ驚いていた。
「……いか、な、いで」
「な……」
「いか、ないで……いかな、いで……」
 しかも喋った。
 瞳を潤ませ、綺麗な声で、ただ『いかないで』と宗介に言い続けている。
 いろいろと混乱する中、とりあえず起き上がろうとする宗介だが、やはり起き上がれない。
 困ったので、とりあえずわかったと女に言い、その言葉が通じ女も宗介を解放した。
「えっと………とりあえず、名前は?」
「……?」
「名前は……無いらしいな……」
 起き上がると、更に女の尻部からは尻尾が見えるが、すでに嫌と言うほど驚いた宗介は大して驚かない。
 そして女に名前を聞くと、初めは首をかしげる女だが、言葉が理解でき名前なんて無いので首を横に振る。
 宗介は正直困った。
 全裸という、見るところに困る女の格好もそうだが、獣耳と尻尾を生やした人間の女は、ある意味ホワイトライオンより世間に知られるのはまずいだろう。
 ライオンならば動物園やらに行くのだろうが、このような人間は体をあれこれ調べられ、怪しい実験やらを受けるに違いない。
 そう思い込んだ宗介は、いろいろと迷ったが、内股で座っている女の手を取り、上着を着せて自分の家へと向かった。
 人間サイズならば、狭いアパートの部屋でも何とかなると判断したためだ。
 そして、一緒に暮らすのだから名前が必要と、宗介は彼女に”アル”と名づけ、アルが人間と獣の姿に自由になれるということも知った。
「アル、そんなとこ齧っちゃいけません」
「あぅ……ごめ、んなさい……」
 更に、あるニュースにて、アルが何故廃工場にいたのかも判明した。
 彼女は、人間になれるという特殊な能力により、珍しいもの好きの金持ちやらに裏ルートで買われ、飽きられたら捨てられを繰り返されていたのだ。
 そして再び新たな飼い主に買われ、その家に運ばれている際に、運んでいたトラックがこの近くで事故を起こし、アルは逃げ出しあの廃工場へ隠れるようにいた。
 アルが人間を怖がるのも、人間の言葉を理解しぎこちないが喋れるのもそのせいで、念のために宗介はアルを外出禁止にする。
 また捕まってしまうというのもあったが、普通に考えれば獣耳と尻尾を生やした女、またはライオンが街中を歩いていればパニックになるのは目に見えていたから、特にライオンは。
 まぁ、そんな事あり、ちょっと不安なのだが……なにはともあれ、こうして宗介とアルの生活は始まった。

「くちゅんっ!」
 昼間は暇である。
 故に暇すぎて、アルはくしゃみをする。まぁ、ワイシャツとパンツだけではやや寒いということもあるが。
 二度寝と昼食も終わり、脱ぎ捨てたものを少し手惑いながらも着直して、アルはボーっと外を眺めている。
 小さな窓からは殆ど空しか見えないが、ゆっくりと形を変える雲、時々鳥などが飛んでくる。
 時々外に出たい気もするが、宗介に一人で外に出てはいけないと言われているし、外には怖い人間がわんさか居る為、出ることができない。
 しかし、ずっと室内に居っぱなしアルにも、しっかり友達ができていた。
「あ、いたいた!」
 そのアルの友達は、宗介が無用心にも鍵を閉め忘れた窓を開けてやってきた。
「びゃっこ♪」
 アルは嬉しそうに笑顔で迎えた。
 びゃっこと呼ばれた友達、名前は白虎。
 白髪に金色の瞳、そしてアルと同じくお尻から猫を思わせる尻尾を生やした女の子で、アルが唯一宗介以外に心を許せる虎娘。
 何故心が許せるのかと言えば理由は簡単、自分と同じ匂いがするからである。
 靴を玄関まで持っていき、白虎は笑ってアルの隣に座った。
「今日は何する? あ、それとも青龍が作ったお菓子食べる?」
「おはなし、聞きたい」
「また? まっ、いっか。えっと、じゃあ今日はねぇ……」
 アルの言うおはなしと言うのは、文字通り白虎のお話だ。
 白虎が外で見た何気ないことや珍事件からエッチな内容の話まで……
 宗介と暮らす前も、ずっと暗い部屋などに閉じ込められてしまっていた。
 その為外の世界はあまり知らないアルは、いつも楽しそうに笑って白虎が言う話を聞いている。
 そして今日も、夕方になるまで白虎が持ってきたお菓子を食べながら聞き続けていた。

 今日は、いつもと違って宗介はまだ帰って来なかった。
 それはアルが待っているから、帰ると言い張る宗介を、バイトの女の先輩が無理やり居酒屋へ連行したためである。
 ある日を境に、これはアルと出会ってからを言うのだが、急に宗介の付き合いが悪くなってしまいその不満が爆発したため。
 宗介は何度も帰ろうとした……しかし先輩は帰してくれなかった。
「そーすけ……」
 そんなこと知る由もないアルは、真っ暗な部屋の中、もう白虎も帰ってしまったので一人で月を見ていた。
「……ぁぅ……」
 暗い部屋、耳からは僅かに人の声や音だけが聞こえ、アルはだんだん寂しくなってくる。
 暗いところで一人で居ることも、アルは嫌いなのだ。
「そ、すけ……っぐす……」
 そしてとうとう寂しさやらがピークを迎え、アルの青い瞳から涙が滲み始めた。
 その時だ、不意に玄関の扉が開く音と宗介の気配を感じ、アルは獣耳を立たせ玄関に駆け寄った。
 そこには宗介がいた。
 だが、少し様子がおかしい……顔も赤いし何処かふらふらしている。
 さらに変な臭いがアルの鼻を刺激する。
 それもそのはず、結局宗介は先輩に流されるがまま酒を飲み、かなり酔っていた。
「た、ただい……」
 しかし、やっぱり酔っているなんて知る由もないアルは構わず宗介に抱きついた。
「そーすけ! そーすけ!」
 いつもは抱きつくまではしないアルだが、今日は一人で寂しかったので抱きついた。
 しかし、いつも抱きつくと宗介に怒られるのですぐに離れて、居間へと向かった。
 それを宗介はふらつきながら電気もつけずについて行き、鞄と上着を捨てるように放り投げ、その場に座る。
 明らかにおかしい宗介の様子に、アルは内股で座り心配そうな表情を浮かべていた。
「そーすけ? だい、じょうぶ? なんか、変」
「……」
「そー、すけ? びょうき、なの?」
 訊ねても宗介からは返事が来ず、アルは前かがみになり宗介の顔を覗き込んだ。
 暗い部屋だが至近距離から見れば、宗介でもアルの顔がはっきり見える。
 美しいと言える顔立ちに上目遣い、そしてワイシャツとパンツのみという格好。
 通常ならば、顔を赤くし理性を抑える宗介だが、酔っているという事もあり、その理性はあっさりと音を立てて崩れ去った。
 そして、宗介はそのままアルを押し倒した。
「きゃっ!」
 急に押し倒され驚きの声を上げるアルに、覆いかぶさるように宗介は見つめる。
 いつもの優しげな表情とは違う宗介に、アルは少しだけ恐怖を感じて獣耳を畳んだ。
「どう、したの?」
「アル……アルの言うとおり、俺、病気なんだ……だから、一緒に、治そう……」
「え……んッ!」
 そして、宗介がアルに静かに告げた瞬間、二人の唇が重なった……

 翌朝、激しい頭痛とだる気とともに宗介は目を覚ました。
 寝ぼけ眼で部屋を見渡す……自分の服が散乱し全裸になっている事がわかった。
 さらに布団までもぐしゃぐしゃで、先輩に強引に飲み生かされた以降、昨晩の記憶がない宗介は少し困惑した。
「あたまいてぇ……ちくしょう………何があったんだ昨日?」
 とりあえずアルに聞けばわかるだろうと、アルを捜すがいない。
「……う、ん……」
「ん? ………えぇ!!?」
 その時、不意に隣から声が聞こえ、宗介はその方向を向く。
 目の前には人型の盛り上がり……いつものとおりアルが寝ているんだろうと判断し布団を剥ぎ取る。
 そして、宗介は驚きの声を上げた。
 何故か………それはアルが全裸だったからだ。
 寝るときは服を着るように教え、アルもそれに従っていたはずなのにもかかららず全裸。
 色々と混乱している宗介だが、状況を見て冷静に考え始めた。
「えっと……散らばった服に、俺も裸で、アルも裸……………って事はまさか俺!!」
 ようやく事態が理解できたようで、宗介は驚愕した。
 そして一つのビジョンが頭をよぎる。
 それは暗い部屋で、今まで抑えてきたものが爆発して衝動のままにアルと体を重ねている自分の姿。
 やっちまった! そんな思いが宗介を支配し、その最中アルが目を覚ましゆっくりと状態を起こす。
 宗介はビクッと肩を震わせ反応し、大きな欠伸をしたアルは宗介の顔を見つめる。
 ほぼゼロ距離でアルの顔があり、昨晩と違って顔を赤くする宗介。
「あ、アル……き、昨日――ッ!」
 何秒かの沈黙の中、宗介は何とか口を開いた。
 だが宗介の言葉は途中で消される……アルの唇が重なったことで。

 キスをされ、そのまま流れるようにアルに押し倒される宗介。
 彼女の両肩を掴み引き離そうとするが、人間の姿でもライオンの力はそのままなのでアルには敵わない。
 両手の手首を押さえられ、更に強く唇を押し付けられ舌を入れられる。
 アルの舌は宗介の口内を舐め回すように動き、音を立てて唾液を吸い、また自分の唾液を宗介に送った。
「んッ……んはッ、んんんッ……」
「……ッ……」
 その刺激に力が抜けて始め、ばたつかせ暴れていた脚の動きも止まり、宗介の中で一度は壊れたがまた形成されつつあった理性にひびが入り始めた。
「ッく……あ、る、やめろ……ッ!」
 それでも、呼吸のため一瞬アルが唇を離した時、宗介は少し強めな口調で言う。
 その声に反応し、アルはディープキスをやめるが、両手はそのまま押さえたまま。
 宗介を見下ろすアルの表情は、妖しくも美しい。
 その表情に宗介は体を震わせるが強気な態度でいくことにした。
「お、おいアル! いきなり、何をするんだっ!? いてて……」
「……」
 怒鳴っているに近い宗介の言葉。
 その際に頭痛がして彼は眉間にしわを寄せる。
 しかしアルは黙ったままジッと宗介を見下ろしていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「そーすけ、朝、起きたら、またしてくれるって、言った」
「え……お、おいアル……」
 ぎこちない喋り方で言った直後、アルは宗介の下腹部まで体を下げる。
 アルが何をしようとしているか、直感した宗介はアルを止めようと上体を起こす。
 しかし遅かった。

「んんッ……んふッ、ちゅるッ……」
「うっ……やめ、アル……」
 朝の効果もあり硬くそそり立った宗介の肉棒を、アルは咥え頭を上下に動かす。
 片手で肉棒の根元を持ち、もう一方の手で袋を揉む様に動かす。
 亀頭から出る透明液を吸いながら、亀頭だけを重点的に舐めたり、根元から全体を舐め上げたりする。
 宗介はアルを引き離そうとするも、キスの時同様力が入らず、アルに攻めにさられるがままになっていた。
「んむッ……そーすけ、きもち、いい?」
 更には、アルが肉棒を咥えながら上目遣いで宗介に訊ねるものだから、宗介の理性は更にひびが入り、興奮が高まり射精感を覚える。
 それに反応し、口内で膨らむ肉棒に少し驚くも、昨晩と同じことだと分かりアルは一層頭の動きを激しくした。
「んぶッ、んじゅッ……だして……んッ」
「くぁッ……アルっ!」
 そして、アルが静かにひとこと言った瞬間、我慢が切れて宗介はアルの口内に精を放った。
「んんんッ! んぅッ……んッ……」
 口内に流れる精液を、瞳に涙を溜めて受け止めるアル。
 口の端からは精液が筋になって流れ、アルは喉を鳴らし飲み込んでいる。
 宗介は体を痙攣させ、やがて射精が終わると、アルはゆっくり口から肉棒を放すと、唾液と精液が混ざった糸ができ、すぐに消えた。
「ん……まだ、カタい……」
 うっとりした表情で肉棒を見つめるアル。
 その視線や彼女の吐息を感じ、肉棒は射精後だが硬いまま。
 そして再び、アルは肉棒を口に咥え、射精後でより敏感になっていた宗介は体を震わした。
 アルは頭を上下に数回往復させると口から放す。
 また口で出されると思っていた宗介は少し困惑したが、アルが自分の上に跨ったことにより驚きの表情を浮かべた。
「なっ、ちょっと待っ……た」
 今日の宗介の反応は遅い。
 彼が止めようとした時には、肉棒はアルの秘所にあてがわれ亀頭がすでに入っていた。
 口とは比べられない快感が襲い、宗介は上体を寝かせてしまい、アルも挿入の感触に耳をぴくぴく動かしながら肉棒を沈めていった。
「んぅぅッ! は、はいっ、た……ひとつ、に、なったよ、そーすけ」
 そして根元まで受け入れ、アルは身を震わせながら笑みを浮かべて宗介を見下ろす。
 その妖艶な笑みは、宗介の興奮を高め理性を崩していく。
 だが、宗介は最後の抵抗を見せる。
 力じゃ勝てない、むしろ騎乗位の状態ではどうすることもできないので、言葉での抵抗だった。
「抜いて、抜け、アル」
「やあぁ……ぬか、ないッ……んあッ!」
 しかし、その抵抗もやはり無意味なもので、アルは前かがみになり腰を動かし始める。
 肉棒を締め付け、うねうねと動くアルの膣内は、容赦なく宗介を追いつめていた。
「あぁッ、んんッ、はぅッ、あぁッ……!」
 結合部からは愛液が飛び散り、水っぽく卑猥な音が流れ、だらしなく開かれたアルの口からは唾液が一筋流れている。
 普段の言動や行動だけに、宗介にとって少し子供っぽい印象だったアルはここにはいない。
 いるのは、ただ快楽のままに動いている妖艶な雌のライオン。
「はんッ、きもち、いいよ、そーすけッ……んッ!」
「……ッ」
 腰を振りながら、アルが一言言った時だ。
 その言葉に、宗介の中で理性が完全に崩壊した。
 そして自らも腰を突き上げ、アルを攻め始めた。
「ひゃんッ! はッあぁあッ……も、もっとッ」
「アル……」
 急に下から肉棒を突かれ、最初こそ驚くアルだったが、すぐに強請るように宗介に喘ぎながら言う。
 宗介もそれに答えるように腰を動かし、そのまま上体を起こすと、アルは宗介の首に手を回し抱きついた。
 そして宗介は胡坐をかき、二人は座位の退位となった。
「ふあぁッ、これ、すき……」
 アルは座位が好きだ。
 理由は宗介と抱き合いながらできるからであり、昨晩も終盤はほとんどこの体位で求め合った。
 二人は唇を重ね、上と下の口を塞いだ。
 上の口ではお互いの唾液を絡め交換し、下の口では宗介が肉棒を突き上げアルを攻めていた。
 そして、アルは絶頂を迎え始め膣内の締め付けは増し、宗介も再び射精感に襲われた。
「そー、すけぇッ……そーすけッ、そーすけッ!!」
 だんだんと何かが爆発しそうな感覚に、体を震わせ涙を流しながら、アルはより宗介に密着し彼の名前を言い続ける。
 そして、肉棒が膣内の最奥を刺激した瞬間、アルは絶頂を迎えた。

「ああああぁぁッ!」
「くっ……!」
 膣内は今まで以上に締め付け、宗介もまた、アルの膣内に精液を噴射した。
「――――ッ!!」
 目を見開き言葉を失うアル。
 流れ出る精液はアルの膣内を満たして、結合部から外に流れて布団を汚す。
 自分の中に宗介の精液が流れる感覚に、アルは無意識に笑みを浮かべた。
 射精はしばらく続き、終えると宗介はアルと繋がったまま彼女を寝かせる。
 そして、今度は宗介が腰を動かしアルを攻め始め、絶頂を向かえ敏感になっているアルは再び喘ぎだした。
「ああぁッ! そーすけぇ、きもちい、い?」
「あぁ、アルも気持ちいいか?」
「うん。だから、もっと、して……あんッ、はぅッ……!」
 今度は正常位でお互いを求め合っている二人はもう止まらない。
 宗介も、もう我慢するのはやめた。
 何より昨日もうやってしまったし、魅力的な女性であるアルと暮らしていれば、こうなる事も多少だけど予想はしていた。
 我慢は体に良くないし、今はもうアルも宗介を求めているため合意の上なので、背徳感もあまり無い。
 遅かれ早かれ、アルとはこういう関係になっていたのかもしれないと、宗介は自分に言い聞かせながら腰を動かしていた。
「そーすけ、スキ……」
 その最中、白虎に教わった言葉を言いながら、アルは両手を宗介の背中に回し引き寄せ、両脚を腰に回す。
 そして再び、宗介はアルの膣内に精液を放った……



 それから数時間が経った。
「ぐがー、ぐがー……くおぉぅ……」
「ん……そ、すけ………スキ……」
「今日は帰ろうか、玄武?」
「……うん」
 今日もアルと遊びに白虎が玄武と共に訪れた。
 だが、窓を開けると、お互い抱き合いながら眠っている宗介とアルの姿。
 宗介は頭痛がして微妙に苦しそうな表情を浮かべるが、アルはとても幸せそうな表情で眠っている。
 そんな二人を見て、白虎と玄武もまた自分の主に甘えたくなり、そのまま静かに家に帰っていきましたとさ。
最終更新:2007年05月02日 14:27