春風が頬をくすぐる四月下旬。
 悠介のクラス2-A3に転校生がやってくる――


「はい、今日はみんなにビッグニュースがあります!」
 2-A3の担任の月野 美恵(つきの みえ)がこう切り出した。
「なんと!今日はこのクラスに転校生が来ます!しかも、二人!」
 ピースサインをバンと突き出しながら、美恵は言う。
 それを聞いた生徒達は、たちまちざわつき始めた。
「転校生って女の子かな、男の子かな!?」
「分かんないけど、私は女の子がいいなー」
「私もー」
 悠介が通っている白百合学園は元々は女子高だったため、女子の生徒数が圧倒的に多い。
 少し前に共学になったばかりなのだが、そう易々と男子が集まる筈も無く、全校で男子は一人(つまり、悠介のみ)しかいない。
 2-A3の場合は女子三十九人に対し、男子は悠介のみ。他のクラスは全員が女子だ。
 女子にとって転校生は女子が良いらしいが、悠介にとっては転校生は男子が良いらしい。
 普通、逆のような気もするが、この学校の男女の比を見ればそれも納得できるだろう。
 詰まる所、女子は新たな仲間が欲しいし、悠介は校内で初めての男子の友達が欲しいのだ。
「はい、みんな静かに。では、転校生のご入場!」
 ガラガラと教室の扉が開き、転校生が教室に入って来た。
 その瞬間、女子は歓声をあげ、悠介はがっくりと肩を落とした。
「では、二人とも簡単な自己紹介をお願いします」
 二人の転校生は黒板に自分の名前を書き始めた。
「琴間 蒼香(ことま そうか)……。宜しく……」
「琴間 朱美(ことま あけみ)です!あけみって呼んで下さいねぇ♪」
 蒼香と名乗った方は腰まで届きそうな長い蒼髪で物静かそうな少女。
 朱美と名乗った方は肩くらいまでの橙色の髪を両端で結わえ、蒼香とは反して活発そうな少女。
 二人ともかなりの美少女である。
「はい、みんな拍手!」
 女子の拍手喝采が教室に響き渡った。
「えっと、それで席は……」
 刹那、美恵と悠介の目がばっちりと合った。
(ぎくっ……)
「じゃあ、姫野君の両隣が空いてるから、そこに座ってもらおうかな」
 教室では三人一組の座席になっており、一人だけ余って座っていた悠介に白羽の矢が立ったというわけだ。
 すたすたと歩いてきた二人の転校生は美恵の言われた通り、悠介の両隣に座った。ちょうど、蒼香と朱美に挟まれる感じだ。
 席に座るや否や、すぐさま朱美は悠介に話し掛けた。
「姫野君だっけ?」
「は、はいっ……」
「これから宜しくねぇ♪」
「よ、宜しくお願いします……!」
 にっこりと微笑む朱美を見て悠介の顔はぼんっと赤くなった。
 何を隠そう、悠介は女性が大の苦手なのだ。
「じゃあ、姫野君には放課後、校内の案内をしてもらおうかな」
 そんな悠介に追い打ちをかけるように美恵は言った。
「わ、分かりました……」
 美恵が楽しんでやっている気がしなくもなかったが、担任の頼みを断れる筈も無く、悠介は渋々引き受けた。
「えへへ、案内よろしくねぇ♪」
(とほほ……)
 こうして悠介の過酷な一日が幕を開けたのだった。

 美しい夕日が校内の廊下をオレンジ色に彩り、まるで美術作品のような雰囲気を醸し出している。
 外からは陸上部やサッカー部が練習しており、部員(つまり女子)の掛け声が聞こえてくる。
 そんな中、悠介は蒼香と朱美に校内の案内をしていた。
「えっと、ここが職員室でここが事務室で……」
 案内をする悠介の後を二人がついて行く。
「で、ここが校長室だよ。こ、これで一通り終わったかな……」
「ふむふむ、大体覚えたかなぁ。案内ありがとねっ♪」
「た、大したことじゃないよ……!じゃ、じゃあ、僕はこれで!」
「あ、待って!」
 逃げるように去ろうとする悠介の腕を朱美ががしっと掴んだ。
「ひっ、ひぃ……!」
「そんなに怯えなくてもいいじゃない。どうせだから、一緒に帰ろうよ♪」
「ぼ、僕、急いでるんだっ……!」
 脱兎の如く悠介は逃げようとするが、予想以上の朱美の腕力にじたばたとするだけで終わる。
 その内、抵抗を諦めたのか悠介は大人しくなった。
「まぁまぁ、そう慌てないで。席、お隣さんなんだからさ♪」
「あぅあぅ……」
「それに、あたし達ゆっけのこといっぱい知りたいもんねー」
「ゆ、ゆっけ……?」
「うん。悠介だから、ゆっけだよー」
 そして、帰ろっか、と朱美は悠介を半ば引き摺りながら学校を後にした。

「琴間さん達の家は何処にあるの?僕の家より遠いのかな?」
「ここだよ」
「へぇ、ここかぁ……って、ここ僕の家だよ!?」
「うん。あたし達、家無いもん」
「い、家が無いってどういう……」
 いきなりの告白に狼狽する悠介。
 突然、家が無いなどと言われたら当然の反応だが。
「ちょっと訳ありでねー。まぁ、でも、ゆっけが家に置いてくれるみたいだし、平気だよ」
「言ってない、言ってない。僕はそんなこと一言も言ってないよ……!」
「じゃあ、おじゃましまーす♪」
「あっ、こらぁ……」
 問答無用と言わんばかりに朱美は悠介を押し退け、姫野宅に侵入した。蒼香も後に続く。
「おかえりなさーい……って、どなた?」
「た、ただいま……!」
「あら、悠介のお友達だったのね」
「お母様、初めまして。琴間 朱美といいます。こちらは姉の蒼香です」
「うふふ、いつも悠介がお世話になってます」
「んー、流石、悠介君のお母様。とてもお美しいっ!」
「やだぁ、朱美ちゃんったら。そんなこと言っても何も出ないわよ?」
 世間ではこういうものを建前と言うのだが、悠介は薄々感づいていた。
 これは、家に置いてもらうための朱美の作戦だということを。
 そして、今まさに。自分の母親がその作戦に引っ掛かりそうになっていることを。
「か、母さん、騙さ……ふがふが!」
 蒼香が邪魔するなと言わんばかりに後ろから悠介の口を押さえる。
 振り解こうとするが、朱美以上の蒼香の怪力にそれも虚しく徒労に終わる。
 ましてや、女性とはいえ相手は自分より背が高い。悠介の非力な抵抗でどうにかなるものではなかった。
「実は、お母様にお願いが……」
「あら、何かしら?」
「ふがふがふが!」
「実は、あたし達、家が無いんです。それで、不躾なお願いだとは分かっているのですが……」
「いいわよ」
「え?」
 まさに即答であった。
「家に置いてほしいって言うんでしょ?もちろん、大歓迎よー!」
「ふがふが、ぷはぁ!か、母さん、そんな簡単に……!」
 やっと蒼香から開放された悠介が自分の母親の裏切りに嘆きながらも抗議する。
「悠介、母さんがあなたを白百合学園に入学させた理由を忘れたの?」
「そ、それは……」
「あなたのその性癖を直してあげるためよ。蒼香ちゃんと朱美ちゃんが家に来れば、学校でも家でも鍛えられえるのよ!」
「で、でも、生活費とかが……!」
「一人も三人も大して変わらないわよ」
「すっごい変わると思うなぁ!」
「ということで、蒼香ちゃん朱美ちゃん、悠介を宜しくお願いします」
「……了解」
「任せて下さい!」
「あぅあぅ……」
 悠介の最後の抵抗も虚しく、蒼香と朱美は悠介の家に住むことになった。
 この先、どんな困難が、どんな破廉恥な未来が待っているのか誰にも予測出来ないだろう。
 少なくとも、悠介には。

「ん……」
 目を覚ますと、そこは自分の部屋であった。
 悠介が小学校に上がる時、両親に買ってもらった勉強机。
 悠介が幼い頃に悪戯でつけた(その後は父親に大目玉を食らった)壁の大きな傷。
 全て見慣れているはずの光景なのに何故か違和感を感じる。
「あっ、やっと起きた!ゆっけってば、お寝坊さんだなぁ」
 そう、その違和感とは最近、自分の家に住み始めた謎の転校生、蒼香と朱美である。
 女性恐怖症(に近い)の悠介の部屋に母親以外の女性がいるのは前代未聞だ。
 そのことに本人も当然驚いて(困惑して)いるが、もっと驚いたのは、かなりの至近距離で女性と接することが出来るようになったことである。
 昔の悠介だったら、それこそ後ろに飛び退いて頭でもぶつけていただろう。
 これも白百合学園での鍛練(拷問)のお蔭なのだろうか。
「ふわぁ……」
 寝惚け眼を擦りながら、ゆっくりと上体を起こし、時計に目をやる。
 短針が指しているのは『十一』と『十二』の間、長針が指しているのは『六』ぴったり。
「えーっ!?もうお昼!?わわわわ、どうしよぉ……」
 口元に手をやり、心底困った様子の悠介に朱美が意地悪そうに言う。
「さぁ、ここでゆっけに問題です。今日は何曜日でしょう?」
「えっと、今日は……あ」
「何曜日?」
「に、日曜日……」
「大正解♪」
「び、びっくりした……」
 ふぅと胸を撫で下ろし、一安心する悠介。
「ゆっけは、お寝坊さんで慌てんぼさんなんだね。それにしてもさっきの困った時の顔、女の子みたいで可愛かったなぁ♪」
 自分の慌てふためいていた姿を思い出して悠介の頬は少し紅くなる。
「まぁ、でも、昨日のゆっけの方が可愛かったかなぁ?」
「昨日……?」
「あれれ、ゆっけってば覚えてないの?」
「?」
「あんなに女の子みたいに喘いでたのになぁ……」
 言いながら、ずいっとにじり寄る朱美。
 何となく場の雰囲気が怪しくなったことに気付いた悠介は無意識の内に後ずさる。
「ねぇ、ゆっけ。あたしに可愛い喘ぎ声を聞かせて……?」
「ちょっ、ちょっと待って……!」
 無言のまま、距離を縮めてくる朱美から逃げようと後退するが、やがて壁にぶつかり、逃げ場を失った。
 悠介は恐怖を感じ、ぎゅっと目を瞑った。
 そして、まさに唇が触れ合わんとした距離で朱美の動きがぴたりと止まった。

「……朱美」
 凛とした声が静まり返った部屋に響く。
「あ、おねーちゃん」
「……」
 無言で朱美を見据える蒼香には何処と無く迫力というものが感じられる。
 それを見た朱美も流石にまずいと思ったのか、悠介から渋々離れた。
「ちぇっ、後少しだったのになぁ。命拾いしたね、ゆっけ♪」
 そんな台詞を吐きながら、朱美は部屋を出て行った。
 残っているのは顔を真っ赤にして今にも泣きそうになっている悠介とそれを黙視している蒼香のみ。
 やがて、蒼香は悠介の許に歩み寄り、自らの片手を彼の頬に当てた。
「……大丈夫か?」
「ぐすっ……」
 先程とは全く異なる蒼香の優しい声を聞いて、次第に涙腺が緩んでいくのを感じる。
 そして、一粒の涙がぽろりと悠介の頬を伝った。
「……泣くな」
「えぐっ……えぐっ」
 悠介の頬をゆっくりと流れ落ちていく一粒の涙を親指で拭い、少しでも心を落ち着かせようと頭を撫でてやる蒼香。
「……怖かったか?」
 その問いに悠介は無言で頷く。
「……私の妹が済まないことをしたな。朱美は悠介のような可愛い存在を見ると、つい悪戯をしたくなる性分があるのだ。
だが、根は心優しい娘だ。どうか嫌わないでやって欲しい」
「ぐすっ……はい」
「そうか、それは良かった。それと、朱美がおかしなことを言っていたようだが」
「おかしなこと……?」
「昨日の悠介は可愛かったなどと言っていただろう。だが、あれはハッタリだから気にするな。
そんなことを本当にしていたら、今頃は私の蹴りが炸裂しているからな」
「わ、分かりました……」
 蒼香が言う冗談に聞こえない冗談に何度も頷きながら悠介は答えた。
「しかし、悠介も中々やるな」
「?」
「朱美だけならまだしも、この私にも可愛いと思わせるとはな……」
「……!」
 泣き止んだ悠介の瞳にまた涙が浮かび始める。
「しまった、失言だったか。まぁ、褒め言葉として受け取ってくれ」
「そんなぁ……」
「ふふふ……。しかし、こうして悠介と喋るのは初めてだな。遅くなったが、これから宜しく頼む」
「あ、こちらこそ……」
 言い掛けて、悠介は開いたドアの隙間からじっと様子を伺っている朱美が見えた。
 僅か数センチの隙間から、じっと見ている様子は何処か不気味さを感じる。
 ましてや、あんなことがあった後の悠介にとっては尚更だろう。
「ひっ……!」
「ん、どうかしたか?……朱美、そんな所で何をしている?」
「おねーちゃんがあたしのゆっけに変なことしてないか見張ってたの♪」
「お前と一緒にするな。私は誰彼無しに手を出すような真似はしない。そんなことより、悠介に何か言うことがあるんじゃないのか?」
「ゆっけ、ごめんねぇ♪」
「そんな所からじゃなくて、もっと近くに寄って謝れ。反省の色が見えん」
 少し厳しくなった蒼香の言葉でふざけている場合ではないと悟ったのか、朱美はゆっくりと部屋に入る。
 そして、少しずつ悠介に歩み寄り、彼の目の前に座った。
 蒼香はその様子を腕組みして見ている。またふざければ、今度は手とか足が飛んできそうだ。
「ゆっけ、悪ふざけしてごめんね?許してくれる……?」
「ちょ、ちょっと驚いただけだから……。もう大丈夫だよ」
「じゃぁ、許してくれる……?」
「もちろん!」
 にっこりと微笑む悠介。それを見て安心したのか、不安そうだった朱美も笑顔に変わった。
「一件落着か。まずは一安心だな」
 その様子を見て満足そうにしながら蒼香は言った。

 時間は正午。世間は昼時だ。
 悠介達も空腹を満たすために階下に降りた。
「あれ、母さんがいない……?」
 休日のこの時間帯はいつも昼食を作っているはずの母親が今日に限っていない。
 ふと、台所の上に目をやると、一枚の紙が置いてあるのに悠介は気付いた。
 それを手に取り、黙読し始める。


 みんなへ

 あなた達がこれを読んでいる時、お母さんはもう家にはいないでしょう。
 お母さんはお友達と三泊四日の旅行に行って来ます!
 お土産をたくさん買って帰って来るので、お留守番宜しくね。
 蒼香ちゃん、朱美ちゃん。お母さんがいない間、悠介のことと家事を宜しくお願いします。
 悠介、お母さんがいない間、蒼香ちゃんと朱美ちゃんと仲良くするのよ
 毎日が鍛練なんだから、しっかりと鍛えてもらいなさい!
 蒼香ちゃんも朱美ちゃんも遠慮せずにビシバシとズコバコと鍛えてあげてね。
 じゃあ、みんな頑張ってね♪
                                          』

「えーーーーーーーっ!?」
「どうしたの、ゆっけ?ん、何それ?」
 悠介の手から手紙を取り、朱美と蒼香も読み始める。
「ふぅん……お母様、旅行に行かれたのね」
「そのようだな。最後の辺りが少し引っ掛かるが、まぁ、頑張れということだろう」
 少なくとも三日間は自分と蒼香と朱美だけということを知り、たちまち顔面蒼白になる悠介。
 そんな悠介に反して朱美は妙に笑顔だ。
 蒼香はというと、至って冷静沈着。
「とりあえず、昼食だな。朱美、惚けてないで手伝え」
「はーい♪」
 現実を直視しきれない悠介は暫く硬直していたが、何とか許容の範囲まで持っていけたようだ。
(そ、蒼香さんがいるから、きっと大丈夫だ……!頑張れ、僕!)
 まぁ、そんな希望は後々に打ち砕かれることになるのだが。
 それを悠介が知る術も無いことは明白である。

 陽もすっかり落ち、無数の星が煌めく夜空の下、悠介達はバルコニーで夕食を食べていた。
「夜空の下で食べるご飯ってのも、また格別だねぇ♪」
「そうだな。飯も一層、美味く感じられる」
「もぐもぐ……ん、これすっごく美味しい!」
「へへへ、おねーちゃんの作る料理は絶品だからねぇ♪」
 テーブルの上に並べられた料理の中には朱美が作ったものもあるが、殆どは蒼香の作ったものだ。
 その見た目は素晴らしく、味も申し分ない。
「料理など容易いことだ」
 蒼香は腕を組みながら、当然だと言わんばかりに豪語した。
「もぐもぐ……ごくん。ごちそうさま!」
「ほえ?もういいの?」
「うん?僕いっぱい食べたよ」
「少食なのだな。少々、作り過ぎてしまったか」
「くすくす……。ほんっと、ゆっけってば女の子みたーい!」
「な、何でだよぅ……」
 悠介が紅くなった頬を膨らませながら言う。
「内気」
「女顔」
「少食」
「そして、ちびぃ♪」
 一つ一つの言葉が悠介の心に深々と突き刺さる。
「あぅあぅ……」
「きっと、お母様に似たんだねぇ♪あ、そういえば、ゆっけのお父様を見かけないけど?」
「父さんは……死んじゃったんだ」
 和んでいた雰囲気が一瞬にして気まずいものに変わった。
「ごめん……変なこと聞いちゃったね……」
「ううん、いいよ。……あのね、僕の父さんね、消防士だったんだ。
凄腕の消防士だったんだけど、前にあった大火事で取り残された子供を救ってその代わりに父さんは……」
 悠介は敢えてその先を言わなかった。
 否、蒼香がその先を言わせなかった。
「素晴らしい父親だな」
「うん。だから、僕は一つの小さな命を救った父さんをすごく誇りに思ってるよ。
そして、あの夜空の何処かで僕を、僕たちのことをずっと見守ってくれてると思うんだ!」
「じゃあ、一番綺麗な星がきっとお父様だね!」
「うんっ!琴間さん達の両親はどんな人なの?」
「あたし達のパパとママは……」
「食事も済んだことだ。朱美、片付けるぞ」
 まるで、話を強制的に中断させるかのように蒼香がぴしゃりと言い放つ。
「あ、うん」
 悠介は何か聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がして少し後悔した。
 そして、朱美が妖しく微笑んでいたことが少し気に掛かったが、ただの勘違いだろうと思い、悠介も片付けの手伝いをすることにした。
 その様子を星達が、悠介の父親がじっと見守っていた。
 真実を知っているのは彼らだけなのか。或いは、彼らも知らないのか。
 全てを知っているのは本人だけなのかもしれない。

「はぁっ……はぁっ……」
 熱く、荒く、激しい吐息が部屋中に木霊している。
「はぁっ……な、何これ……身体中が、熱い……」
 ベッドの上で激しく悶える一人の少女。いや、少年か。
 身体を丸くさせ、自らの胸を強く掴み、顔を左右に振り、双眸に涙を浮かべ、唇を噛み締めて。
「あぁっ……手足も、痺れて……」
 そして、手足の動きが段々と鈍くなり、とうとう指先が少し動く程度にまで陥る。
 その時、部屋のドアがガチャリと開いた。
「ゆっけぇ♪」
 朱美だ。
 やけに笑顔の朱美が悠介の部屋に入ってくる。
「やっ……入って、来ないで……見ないで……」
「ふふふふふふ……」
 カチャリ、とドアの鍵を掛け、妖しく笑いながらベッドに近付く。
 そして、悶えている悠介の上に四つん這いの格好で覆い被さる。
「すっかり出来上がっちゃったねぇ♪」
「ど、どういう、こと……?」
「ゆっけの料理にね、薬を盛っておいたの。強力な快感と痺れを伴う媚薬だよ。何の疑いもなく食べてくれて助かっちゃった♪」
「な、んで……」
「ふふふ。ねぇ、今のゆっけの身体ってどうなってると思う?」
「んっ……?」
「神経が剥き出し状態。簡単に言っちゃえば、全身が性感帯ってこと。こうやって軽く突くだけでも……」
 そう言いながら朱美が悠介の腹部を軽く突く。
 その瞬間、凄まじい快感が悠介の体内を駆け巡った。
「んぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ね、凄いでしょ?」
「はぁっ……はぁっ……。お願い、やめ、て……」
「もう逃がさないからね。と言っても逃げられないと思うけど。くすくす……」
「いや、だよぉ……」
「さ、邪魔なものは全部脱ごうねぇ♪」
 朱美が悠介の服のボタンに手を掛け、それを一つずつゆっくりと外していく。
 全部、外し終えて、ゆっくりと脱がしていく。
 布と肌との僅か摩擦でさえ、悠介には快感に感じられた。
「あぁぁっ!!こ、こんなの、嫌だよぉ……」
「さ、次は下ね」
 朱美が悠介のズボンに手を掛けたその時。
「悠介?どうかしたのか?」
 悠介の喘ぎ声に気付いたのか、蒼香がドア越しに語りかける。
 そんな蒼香にも構わず、朱美はズボンと下着を一気に下ろした。
「んぁぁぁぁぁ!!」
「悠介!?おい、どうした悠介!?」
「ふふふふふふ……あははははは……」
「朱美!?お前、何をやっている!?ここを開けろ!」
「嫌だよぉ……折角、ゆっけと二人きりになれたんだからぁ……」
「朱美、ここを開けろ!」
 ドンドンと激しくドアを叩く音に一切の興味も示さず、ただただ悠介を見下ろす朱美。
 やがて、頬に手を当て、優しくその唇を奪った。
 最初は軽く、そして、少しずつ激しいものに変えていく。口内をなぞり、舌を絡ませ、唾液を吸い上げ送り込む。
 部屋の中にぴちゃぴちゃといういやらしい音が響き渡る。
 朱美の片手が腹部から胸部へと上がり、乳首の付近で止まる。そのまま、円を描くようになぞり、やがて乳首を軽く摘み上げた。
「んっ、むぐぐぐぅぅぅぅ!!」
 悠介の喘ぎ声は全て朱美の口内に吸収され、消えていく。
 それをいいことに、朱美は今度は両手で乳首を愛撫し始める。
 身体中の痺れにより逃げることさえも叶わない悠介は何も出来ず、ただその快感を受け止めるだけ。
 今まで味わったこともない快感に悠介は戸惑い、恐怖し、大粒の涙を流した。
「ん、ちゅっ、れろっ……ぷはぁっ」
「はぁっ……はぁっ……。もう、許して……」
「ふふふ、だぁめ♪」
 長いキスからやっと解放された悠介は必死で懇願するが、朱美は全く聞き入れる気もないようだ。
 と、その時。部屋のドアが勢いよく開き、蒼香が姿を現した。

「悠介!大丈夫か!?朱美、お前……一体どうしたというのだ?」
「ゆっけを鍛えてあげてるんだよぉ?」
「限度というものがあるだろうが、この馬鹿者!悠介を壊す気か!?」
「そんなこと言って、本当はおねーちゃんだってしたいんでしょ?」
「何……!?」
 ずいと詰め寄る朱美。
「あれ、聞こえなかった?おねーちゃんだって、ゆっけのこと犯したいんでしょ?」
「ば、馬鹿を言うな……!」
「我慢しなくてもいいよぉ?ほら、この時期だしぃ?」
「わ、私は私情に流されて自分を見誤ることなどしない!」
「ふぅん、そう。じゃあ、そこで黙って見てて」
「だから、悠介を壊す気かと言っているのだ!」
「大丈夫、壊れないよ。大好きなもの壊すわけないもの。……あぁ、もう我慢の限界かもね」
「朱美、お前……!」
 そう言うや否や、何やら朱美の背後がもそもそと動き始める。
 そして、やがて、朱美の背中に大きな二枚の翼が現れた。
 悠介は人間に翼が生えたことにただただ驚くばかりである。
「……!?」
「ふふ、驚いたでしょ?あたし、人間じゃないんだ」
「ど、どういう……?」
「人間に化けることも出来るけど、本来のあたしの姿は鷹。鷹娘ってところかな?あぁ、ちなみに、おねーちゃんも人間じゃないからね」
「朱美、余計なことを……」
「おねーちゃんは鷲娘。鷹なんかよりずっと大きくて獰猛だよ。今はそんな風に見えないけどね」
「……最早、隠す意味も無いか」
 今度は蒼香の背中がもそもそと動き出す。
 そして、朱美と同じように背中に大きな二枚の翼が現れた。だが、朱美のものより一回り以上大きい。
「悠介、今まで隠していて済まなかった」
「あ、い、いえ……」
「そして、もう一つ謝らねばならぬことがある」
「……?」
 服を脱ぎ出す蒼香。
 悠介は何となく嫌な予感がした。

「済まない。流石の私も、もう我慢の限界だ……」
「えっ、そ、蒼香さん……!?」
「あーあ、おねーちゃん目覚めちゃった。おねーちゃんはあたしと違って優しくないと思うから頑張ってね」
「そっ、そんな……!」
「済まない。いきなり入れるぞ」
「やっ、待っ……!」
 悠介の制止の言葉も聞かず、蒼香は悠介の上に跨り、ゆっくりと腰を下ろしていった。
「ひぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 悠介が叫び声に近い喘ぎ声をあげる。
 そんなことはお構いなしに、蒼香は悠介の胸に手を当て、腰を激しく上下に振り始める。
 そして、それに加えて胸に置いてある手で乳首を愛撫する。
「やぁぁぁ!!乳首はだめぇぇぇ!!」
「んっ、あ、熱くて、いいぞ……悠介!」
「やっ、そ、蒼香さん、止めてぇ!」
「そんな、ことを言って、どんどん大きくなっていくぞ……んっ!」
「あーあ。結局、おねーちゃんに先越されちゃった。いいや、あたしも交ざろっと」
 朱美は自分の手の中指を咥え、唾液で濡らし始める。
 そして、十分に濡らし終わったそれを悠介の後ろの穴にあてがい、そのまま力を入れてずぶりと差し込んだ。
「ひぃぃぃぃぃぃん!!!」
「あっは……んっ、また、大きくなったぞ!」
 肉棒、乳首、肛門の三点攻めで悠介は有り得ないほどの快感を叩き込まれる。
「あはは、凄い締め付け。ゆっけのここ、あたしの指を凄い力で締め付けてるよぉ♪」
「ひぃん、あっ、はぁっ!ぬ、抜いてぇ!」
「え?もっとって?しょうがないなぁ♪」
「ち、違……!」
 朱美は差し込んだ指を前後に動かし始める。
「やぁっ、かはっ……!うぁぁぁ!!」
「あっ、んっ、そ、そろそろイクぞっ!」
 蒼香の背中の翼がバサバサと羽撃き始めた。
「はっ、あっ!ぼ、僕も、もぅっ……!」
「な、中に出せ!んぁぁっ!」
「だ、駄目ですぅ……!は、離れ……んぁぁっ!」
 中に出してはまずいと思い、射精を必死で堪える悠介。
 退かすということも考えたが、相手は自分よりもずっと長身の鷲娘。退かそうとしてもびくともしなかった。
 そんなことをしてる間にも、どんどんと高みへと登っていく二人。
 そして、蒼香が力強く腰を下ろした瞬間、悠介の我慢が限界に達し、そのまま蒼香の膣内に精液が吐き出されていった。
 同時に蒼香も最高潮まで登り詰め、大量の愛液が溢れ出ていった。
「はぁっ、はぁっ……中々、良かったぞ……」
「はぁっ……はぁっ……」
 暫く余韻に浸った後、蒼香はゆっくりと肉棒を引き抜く。
 二人分の体液がドロリと流れ落ちていった。

「えへへ、今度はあたしの番だよぉ♪」
「も、もういやだよぉ……!」
 そう言いながら、今度は朱美が悠介の上に跨る。
 先程の悠介と蒼香の交わりを見てすっかり欲情してしまった朱美。既に挿入準備完了だ。
「えへへ、いくよぉ!」
 肉棒が朱美の膣内に入り、温かい肉の壁に歓迎される。
「んぁっ、は、入ったぁ♪」
「あぁぅ!んっ、ひぁっ……!」
 朱美はゆっくりと腰を上下に振り始める。
 間髪容れずに性交を行っている(正確には行わされている)悠介にとってその快感は一層強く感じられる。
「あんっ!ゆっけの熱くて、んっ、大きくて、気持ちいいよぉ!」
 朱美の腰を振るスピードが段々と速まっていく。
 それに合わせて、悠介を襲う快感も更に増し、二人は少しずつ高みへと登っていく。
 すると、それを見ていた蒼香が悠介の顔に跨った。
「私も気持ち良くしてくれ」
「ん、んぐっ!?」
 蒼香の秘所で口を塞がれる悠介。
 悠介はそれを拒むが、蒼香がぐいぐいと秘所を押し付けてくるので、従わざるを得ない。恐る恐る蒼香の秘所に舌を伸ばした。
 そして、少しずつ舌を動かしていく。
「んっ、いいぞ……。もっと速くだ……」
 悠介は言われた通り、舐めるスピードを速めていく。
「あっ!くっ、中々、上手いではないか……!」
 蒼香も自ら腰を前後左右に振り、快感を求める。
 蒼香の激しい動きに少々苦しむ悠介だが、止めるとどうなるか分かったもんじゃないので舐め続ける。
「んぁっ、んっ!乳首が寂しそう、だねぇ♪」
 朱美は背中の翼を悠介の胸部まで持っていき、さわさわと乳首を愛撫し始めた。
「んぐぅ!?んぐっ、んぐぐぐ!」
 くすぐるように乳首を愛撫する柔らかな羽毛。
 先程の蒼香のものとは、また違った快感が悠介を襲った。
「あんっ、あんっ!もう、だめぇ、イッちゃうよぉ!」
「んぐっ…んぐぅぅぅ!」
「ゆっけも、あんっ、イキそう?じゃあ、ゆっけも、一緒にぃ♪」
「んぐぅぅぅぅ!!」
「イクぅぅぅ♪」
 二回目とはいえ、まだまだ濃い精液が朱美の膣内を駆け巡っていった。
「あっ、くっ……私も、そろそろイクぞっ……んぁぁぁ!!」
 やや遅れて、蒼香も絶頂を迎えた。
「はぁっ……はぁっ……」
 三人の荒い吐息と夥しい程の体液の臭いが部屋中を満たす。
 そして、強烈な快感を与え続けられた悠介は疲れ果て、そのまま意識を手放した。

 ちゅんちゅんちゅん……。
 快い小鳥達の囀りと心地好い日差しが朝を告げている。
「っけ……ゆっけ!」
「んん……」
「やっと起きた!今日、学校でしょ?早く起きないと遅刻しちゃうよ!」
「えっ、起きなきゃ……!あ、あれっ……?」
「どうしたの?」
「身体が動かないよぅ……!」
「あらら、昨日の薬の効き目がまだ残ってるんだね……」
 妖しく微笑む朱美。
「ほう、それは大変だ」
 何処からか蒼香もやって来て、ゆっくりと悠介に近付いていく。
(ま、まさか……)
「さ、ゆっけ。邪魔な服は脱ごうね……♪」
「今日は優しくしてやるからな」
「ひぃぃぃぃぃ!!!」
 この日、悠介がぐったりとし、蒼香と朱美がやけにツヤツヤとしていたのは言うまでもない。
 悠介の平和な日々はまだ遠そうである。


   Fin(?)
最終更新:2007年05月24日 14:19