トテモチンポスキ、などという日本人なら自分の子供に付けないであろうイカガワシイ名前を一度聞いてしまったら最後、死ぬまで忘れられないのではないかと思う。
  まあ、それは言い過ぎかもしれないが、エロマンガ島だとかヤキマンコと同じように、とにかく珍名として印象に残る。
  しかしニュースでもよく耳にするその名前に反して、彼女がどんな人であるかどころか顔すらまともに見たことのある地球人は一人しかいない。
  確信を持ってそう言える。


    クワウヤトリヤトリヤオイエイエー


「せ、せくろすふぁいと、は、わかっているわね。さきにいかされたほうが、まけよ」
  画面に表示された文章を彼女、トテモチンポスキさんは読み、多分眉をしかめている。
「『セクロスファイト』、はカタカナだからガイライゴか? ……『ファイト』は『たたかい』。……せく、ろす? しらない」
  さてどうすべきか悩んでいると、僕が解説を入れてしまうと思ったのか手をパーに開いて前に突き出した。
「ちょとまて!」
  ……よく勉強してらっしゃる。
  しばらく頭を抱えてブツブツと独り言を呟いていたが、『思考中』のサインはどちらの星でも共通らしい。
  九割以上の人々が、瞳以外の全身を覆い隠す衣(トルトアという。彼女が来ている服はシルクのような光沢を放っているが、地球には存在しない材料から作られている)で身を包んでいる彼女の星では、感情や自分の状態を簡潔に表す手段としてボディランゲージが発達したらしい。
  だから別に彼女は、頭のネジが緩んだキャラを演じたくてやっている訳ではないのだ。

  しばらくすると頭に添えていた手を上に上げ、僕の目では怒りに満ちたとしか表現できない瞳を(彼女の星ではこれは『愉快』を表すのだという)こちらに喋りかけてきた。
「『いかされた』は『しぬ』とおなじイミのジュドウタイ。セクロスしらないけどカトラスしってる。たぶんセクロスぶきね。だからセクロスファイト、ブキつかてたたかう、とゆこと!」
  なかなか良い線をついた発言だと思う。カトラスとか一般会話にどう贔屓目に見ても使えない単語とかを覚えているあたり、彼女の熱心さには尊敬せざるをえない。
  僕は「どだ? ちがうか?」と自分の推測が正しいかどうかを目を輝かせてしきりに訊いてくる彼女をうまい具合にはぐらかす方法を延々と考えていた。

◇◇◇

  世間に疎い人ならドストエフスキーとかキノコフスキーとかそういった語感から、彼女がロシア籍の人間なのではないかと考えるだろう。
  姿だけを見た人なら全身どころか顔まで隠す服から、中東辺りの人だと目星を付けるかもしれない。
  しかしながら実際は全く違う。

  地球の歴史に一ページを刻む事となった三月九日について語らねばならない。
  一言でいってしまえば地球に他惑星から客が来た、というだけのことなんだけど。
  日本の神奈川県は横浜市にちょうどロケットが着陸して、それだけでも大事件なんだけど、その中から明らかに地球人ではない(というか人ですらない)人々が出てきてしまったからいよいよ話が大きくなる。

  諸外国に弱い日本が、彼らエオオア星人との独占交流を行えたのは、別に外交の手腕が発揮されたということはなく、ただ単に彼らが日本から一歩も動かなかっただけのハナシ。
  彼らには彼らなりの理由があるらしく、咲き乱れる桜の花が母星にそっくりだとか他愛もない理由もあれば、体格が諸外国に比べて小さいこと、彼女らの声帯が単純な発音にしか向いてなく、どちらかというと抑揚が無く表情の変化も少ない日本語が彼女らに適していたことが挙げられるようだ。
  彼女の星とこちらでは感情の表現方法が大分違うようで、下手にボディランゲージや(地球における)喜怒哀楽をハッキリ付けられると逆に混乱を招いてしまうのだという。

  強い日差しに熱せられたアスファルトがタイヤのゴムを焦がす頃、なんとか単純な会話が出来るようになり、葉が色を変え、山々が赤く色付いた頃には(つまりは今だけど)彼女は僕をせかしてハイキングへ出かけて、四季の変化に故郷を懐かしんだ。

「さびしいですか?」
  風に吹かれて落ちていく紅葉を眺めていた彼女に僕がそう訊ねた時、
「ちょとだけ」
  彼女から聞かされてはいたけど、彼女の星における笑顔は僕らの星とは逆の意味なのだと、その時改めて知ったのだった。

◇◇◇

「セクロス、というのは、そのレトロ、つまり、昔のテレビゲームの北米版の」
「うそ!」
  もう半年以上つきっきりなので、互いの感情は汲み取りやすい。
  トテモチンポスキさんとも、だいぶ打ち解けて、所内で配膳される料理を二人だけで食べる時は肉を彼女の代わりに食べてやったりする仲だ。
  学術的研究心に燃える彼女を相手にお茶を濁す事なんて不可能な話だった。
「……インターネットの俗語で、セックス、つまりは生殖行為を表します」
  諦めて正直に話すことにした。
「せい……しょく? しらない。せいしょくなにか?」
  カトラス知ってるなら生殖ぐらい余裕だろこのやろう。
  彼女は手袋をはめた上からでも分かる細くて長い指でちょんちょんとこちらの袖を引っ張っている。(=ハテナマークを頭上に浮かべている)
「オスとメスが番いになって子孫を残す、という……」
  説明を続けていると彼女は落ち着かない様子で「……オス……メス……こども……」などと呟いている。
 セクロスについてなんとなく意味が分かってきたようだ。
  ただ意味を教えているだけで、別に変なことをしている訳でもないのに顔が火照る。と、ここでトテモチンポスキさんは手を真上に上げた。
「そだ! わたしチキュジンのからだしらない!」
  大発見、という感じなのだろうか? ちょっと声が裏返っている。
「チキュジンどんなトクチョある? おまえのカラダ、ちょとみせてください」
  エオオア語にも彼女の文化圏にもない敬称や敬語に彼女は未だに苦戦している。

  エオオアの文明は、少なくとも技術面は地球の百年先を行く発展した文明といえる。
  彼女たち五十人のエオオア人を乗せたロケットは、二十人の死者を出したものの太陽系の外から地球までこうして辿り着くことが出来た。
  そして文化面はどうかというと、ある意味では発達しているし、別の観点からはそうではなさそう。
  彼女達の星にはエオオア語ともいえる星内共通言語が存在する。
  人型から完全な獣型など、多彩な種族が混在するエオオア星だ、エオオア語もどの種族でも使えるように少ない発音と語彙で成り立っている。
  じゃあエオオア星はものすごい文化的で知的で平和的な星なのかというと、様々な種がいるからこそ同一種族への仲間意識が強く、種族差別や食物連鎖的なカーストは今も色濃く残っているそうだ。

「いや、ちょ、それは、生体解剖とかの書籍はいろいろと」
「カイボ……しらない。ホンモノみたほがはやい。」
  民族衣装の狭い視界や足の可動域からよくもまあ逃げる成人男性をこうも簡単に捕まえられるものだと感心する。
  どうやら、エオオア人、というか彼女らの種族は地球人の身体能力をはるかに凌駕するらしい。


「わっ、なんだこれは? きのこか?」
「いいえ、これは男性器です」
  ズボンと一緒にパンツをずいっと下げられ、そこからまろび出たモノを前にして彼女は目を丸くした。
「だんせき? これが? な、なるほど」
  トテモチンポスキさんは「こ、これが……そか……なるほど……」などとさも研究者らしく振舞っているが衣服の隙間から覗く肌は真っ赤だ。
  あちらでも『赤面する』は通じると確信した。僕の顔を見て彼女もそう思っているに違いない。

「ふにゃふにゃしてるが、これでもうせくろすできるか?」
「いえ、勃起というんですが、ここに血を集めて硬くさせなければなりません」
  何を丁寧に解説しているのだ僕は。彼女に教えたり教えられたりだった半年間で身についてしまった反射はすごい。
「ぼ、ぼっき……」
  あなたも何まじまじと見入ってるんですか。
「どすればコレ、ぼっきするか? ぼっきさせたい」
「興奮するとか、性的な刺激を与えるとなりますね」
「たとえば?」
「手でこするだとか、口に咥えるとかが、一般的ですかね」
「こする……」
  彼女はおもむろに手をナニに持っていくとやわやわと擦り始めた。
「あれ? なんともならない……これがぼっきか?」
  しかしながら、こちらも緊張して大きくならない。
「いえ、まだ勃起とは……」
  尚もさすり続けるものの、一向に起き上がる気配を見せないそれに彼女は不安な声を上げた。
「ま、まだぼっきしないか? ……わたしじゃコフンしませんか?」
「いえ、そんな、滅相もない」
  慌てて否定するがかえってわざとらしく響いてしまう。彼女の瞳がうるんできた。
「じゃあ、どしてぼっきしない? どすればぼっきしてくれる?」
  なんだかいじめられてるのはこちらなのに、立場が逆転している印象になる。
「あ、あの、他には、口でくわえる、とか、ありますよ」
  打開策を提示。
「くち……」

  熟考した後、彼女は見に纏っていたトルトアに手をかけた。瞳に決心の強さが現れている。
  頭から下まで一枚の布だったようで、その華やかな模様の織物が床に緩やかに落ちると、彼女の裸体が晒された。
  脱いだ勢いで放射状に広がった肩まで伸びる髪は白と黒の縞模様で、その頭から生えた三角の耳は馬のそれに似ている。
  白黒の縞髪とは違い、肢体は色素の影響なのだろうか、どこも鮮やかな赤色である。
  贅肉の付いていないすらっとした体型で乳房は慎ましやか。草原を思わせる黒い茂みを生やした恥部に、臀部の辺りから尻尾が見えた。
  髪の毛と同じようにつややかな真っ白のそれは、どうみても馬の尻尾だった。

「あむっ」
  彼女の姿に見とれているうちに陰茎を咥えられ、亀頭部分に舌を這わせられた。
「んんっ……ぺろっ……むあっ!」
  長い舌が尿道口を舐め上げ、血が滾っていくのが感じ取れた。いからせはじめた怒張で彼女の小さな口はすぐにいっぱいになってしまった。
「こんな……おっきく……これがぼっきか? ぼっきしたか?」
  頭を縦に振ると、彼女は興奮しているのか、それとも遊んでいるのか、
「それは、どいったイミだ? ちょとしらない」
  と言ってきたので、僕は自分の口で勃起していることを彼女に伝えなければならなくなった。

「みてるか? これがわたしたち、ウィオプのおんなのからだです」
  彼女はそう告げた。ウィオプというのが彼女の種族の総称なのだろう。
「どだ? コフンしたか? ぼっきすごくなってますよ」
「はい……興奮してます」
  僕の回答を聞いて満足したのか、ふさふさと毛並みのいい尻尾がぶんぶんと揺れている。
「チキュジンのおとこ、なにでコフンする? しらないとケンキュならない」
  絶対悪乗りしてるだろと思いながら、トテモチンポスキさんの顔は至極真面目なので答えないといけない雰囲気がある。
「その、なめられたり、胸や、女性器を見て」
「コフンしたか?」
「しました」
  文化の壁が邪魔して彼女の顔からは何も読み取れないが、先程より増して激しくなる尻尾の動きを見れば少なからず機嫌を損ねてないのは分かった。

「じゃ、チキュジンのからだおしえてもらたから、エオオアジンのからだもおしえる」
  どもりながら彼女は自分の胸に僕の手を添えさせた。
「これがむね。く、こどもにミルクあたえる」
  彼女は今度は女性器に指を当て、そのままくぱあと開いた。
「これがじょせき。チキュジンとちがいないか? よくみて?」
  そんな真っ赤になるんだったら言わなければいいのにと思いつつも、添え膳食わぬは地球人の恥。いやいや学術的興味から彼女の膣を観察する。
「どだ? なにかちがうか?」
  モザイクかかったものしか見たことないとは口が裂けても言えない。
  羞恥からか興奮からか、彼女の膣は愛液で濡れ、ひくひくと蠢いている。と、ここでさっきのお返しを思いついた。
「なにか濡れてますが、これは尿でしょうか?」
「にょっ、ち、ちが……」
「じゃあ何でしょう?」
「そ、それは……」
  ばっと手を上げた。何か良いアイデアを思いついたのだろうか。

「なめてみないとわからない」
  先程の女慣れしていない反応からそんな真似は出来ないとタカを括っているようだ。そんなニュアンスだった。
「じゃあ失礼して」
「えっ、わっ、ひゃっ」
  舌を這わせるとびくんと震えた。彼女の手が膣を舐める僕の頭を離そうとするが、構わず舐める。
「ペロ……これは!」
「はうっ……ひゃめっ、やっ」
  悶える彼女を気にせずに舐め続ける。
「わひゃった、これは、ひゅうっ、コフンするとでる、しるですっ」
  勘弁したのか、彼女が白状したので「そうですか」と止めにした。


「……ところで」
  呼吸が落ち着いたところで、彼女が新たな話題を切り出した。

「チキュジンとエオオアジンのからだのちがい、わかた」
  分かったですねと相槌を打つ。

「じゃ、つぎはチキュジンとエオオアジンでせいしょくできるか、ためしてみよう」
  長い航宙生活の影響か、それとも文化がそうなのか。はたまた地球の風土がまずかったのか。
  エオオア人は随分と解放的な種族らしい。


「ちょ、それは、ね? さすがに研究とかそういった範疇を凌駕」
「なに? そのコトバむずかしくてまたくわからない」
  彼女の日本語の語彙にはまだ含まれていない単語を用いてしまったようだが、表情や声の調子から僕が乗り気でないのは分かっているようだった。
「いやか? おまえ、いやですか?」
「あの、その個人的には、だけどほら倫理的に」
「リンリ? それはチキュのリンリです。 これきっとウチューテキにかんがえてジュウヨウよ? なぜケンキュしない? ニポンジンねっしんときいた。それウソか? あやまりか?」
「いや日本人とかそういう話じゃなくて」
「わたしチキュにきたのはケンキュしにきた! さまざまなデタとらねばならぬ! それはエオオアのため! ひいてはウチュぜんたいのためです! チキュジンもちゃんとキョリョクする! ジンルイみなキョダイ! せかいハテンのためにキョリョクしる!」
  人類発展のためだもん、しょうがないよね☆ いやちがうだろ。

「んああっ!」
  渋る僕の言葉なんて馬の耳に念仏、気にせずに陰茎を膣へと突き入れた。
「すご、こんな……」
  鼻息を荒くしながらトテモチンポスキという名前の通り、肉棒を貪るかのように騎乗位の体勢から振り続ける。
  白黒の非現実的な縞模様の髪の毛が揺れ、太股を尻尾がぺちぺちと叩き続ける。
「ああっ、どんどんぼっきしてる……はあっ、コフン、してるか?」
  彼女が焦らすように緩慢になったかと思えば、急に激しくその引き締まった筋肉の美しい腰を打ち付けたりと、様々な方法で陰茎を弄び刺激を送りながら抽迭を繰り返している内に、ふと美しい外見なので当然のことながら、彼女は色々と経験を積んでいるのだなあと少し胸にモヤモヤしたモノが溜まった。
  別にそこに深い関係は無いとはいえ半年以上も一緒にいたんだ、少なからずそういった感情を抱いてもしょうがないだろう。
「けっこう、うまいんですね」
  そんな言葉が自然と漏れ出してしまった。
「……そだろ、わたしはスキモノですから」
  一拍置いて、軽やかな言葉が満面の笑みと一緒になって返ってきた。
  ふっと身体の力が抜けていく感覚。もうどうにでもなれ、というような投げやりな気持ち。
  ……分かっていた事とはいえ、なかなかのショックだったらしい。

「ふあっ、きもちいっ、コレ、なんていうか?」
  コレとはどうやら男性器の、俗語のことらしい。僕は正直に教えた。
「そかチンポいうか。そか、チンポ、わたしのなまえもチンポある。おまえのからだにわたしがいる、そゆことか」
  照れてるように嬉しそうにピチピチと尻尾が内腿を叩く。尻尾の動きは分かりやすい。
「チンポ、つかれるのすき、っ、うん、すき、チンポっ」
  ずぷずぷと粘膜同士を擦り合わせる。
「うあっ、チンポいうとおまえのチンポもぼっきすごくなる? どして?」
  彼女は袖を引っ張ろうとしたが、力が入らないのかその長い指はふらふらと覚束ない。
「もしやチキュジンのおとこ、チンポというコトバきくとぼっきするか?  なるほど! なるほど!」
  得意顔で少女は「チンポ、チンポ」と節をつけて歌うように喘いでいる。
  普段は真面目に言語学や民俗学、歴史や世界情勢について討論している口から出ているとは思えない卑猥な言葉の連呼を聴いてしまえば、猛りが収まらないのもしょうがない。
「こいうのなんていうかしってるっ、やみつきっ、わたしぃ、チンポやみつきなったっ」
  ぶるぉっと鼻から大きく空気を吐き出した。スタートを切った馬が最後の直線でスパートをかけるように彼女の引き締まった尻も僕の肉棒の上を駆けていく。
「チキュジンのっ、チンポ、あぶない、ちゃんときろくする、チキュジンはあっ、チンポというブキもってるっ、やぱりせくろすふぁいと、たたかいであってた、わたしころされるっ」
  飛び散る汗が目に入る。熱病に浮かされたかのように喋る彼女の口から唾液も飛んでいた。
「あたま、ぼーっとするっ、おかしい、からだ、とくに、ここ、とてもあついぃっ」
  朦朧としながらトテモチンポスキさんが指差したそこは、柔らかな陰毛が生えていて牧場を思い浮かばせるが、小鳥の囀りも、朝露や澄んだ空気も、牧草地特有のさわやかな雰囲気は全く無い。愛液と腺液の混合液が陰毛を濡らし、淫靡な香りと退廃的な水音を響かせ、学術的研究とは程遠い妖しげな空気が充満している。
「チンポこわいっ、わたしっ、チンポはなしたくないっ、チンポないっ、ふあんっ」
  身振り手振りで何か訴えているが、地球人のこちらにも伝わるようなボディランゲージではない。(もうそこまで気を回している余裕なんてない位に乱れているのだと嬉しい)
  しかしながら、快感に咽ぶ表情というのは万国(星?)共通のようで、彼女は瞳を快楽で潤ませ、知的ではなく痴的な間抜け面を隠すことなく晒している。
  そして彼女の言葉通り、彼女の膣は僕の男根をしっかりと咥え込んでいて、彼女が腰を退いた時なんて締め付けた肉襞が雁首を離さまいとして、てかてかといやらしく光る桃色の襞が外気に触れる位置まで肉棒に引っ付いてしまっていた。
「み、みないれっ、やっ! やですぅっ、はずかし……あぁ……はずかし……」
  全身を包む民族衣装(トルトア)を殆ど脱ぐことの無いエオオア人にとって、自分の素顔や裸体に他者の目が向かう事は不慣れで余程恥ずかしい事なのかもしれない。先程まで彼女の種族の肌の色を赤色であると思っていたけれど、もしかしたら訂正する必要があるかもしれない。
  しなやかな筋肉がバネとなり、トテモチンポスキさんは白黒の縞模様の鬣(たてがみ)をなびかせて軽やかに走り続ける。
「ちゃんとエオオアにしらせるっ、チキュジンの、あなたのチンポいれちゃだめっ、チンポきけんぅ、うぐっ、チュドクセイある、やめられなくなるっ」
  僕は肉茎が脈打つのを感じ、そして射精した。

「ひあっ、これっ? なにっ? ドクか? こうげき?」
  精液が彼女の膣内へと吐き出されると、その感触にびっくりしたのか尻尾がピンと張り詰めて僕の太股を刺す。
 白濁を奥へ奥へと運び込むように肉襞がきゅうきゅうと締め付ける。
「……これは、精子です」
「せ……し……これで、クワ……ヤを、作るのか? ……せし、びゅるびゅる……すごい……セシしゅごい……これもきろくする……セシふわふわ……ぬるぬるなのにふわふわ……」
  事後の余韻を味わっているのか、呆けたようにトテモチンポスキさんは結合部から溢れる白濁液を眺め続けていた。

「クワウヤトリヤトリヤオイエイエー」
  そして、小さな声でそんな言葉を呟いた。


◇◇◇

  彼女との関係はそれ一回きりで、僕らは一定の距離を保った。
  彼女との距離を感じる度に、僕は顔も知らない彼女の昔の男(あるいはエオオアに残してきた恋人だろうか?)クワウヤトリヤトリヤオイエイエーに嫉妬した。
  彼女たちが降り立った三月九日から十ヶ月が経ち、彼女たちは母星に帰っていった。
  当然、彼女が地球に残ることも無ければ、僕と離れ離れになるのを拒んで泣くこともなかった。

  地球に派遣された彼女以外のエオオア人に、クワウヤトリヤトリヤオイエイエーという男がどんな奴なのか訊いた事がある。
  答えは誰も言ってくれなかったし、トルトアを着ていない獅子由来のエオオア人の女性は不快感をあらわにして聞くに堪えない(こちらに意味は分からない)俗語をマシンガンのように吐いてきたし、平手打ちをかましてくる女性さえいた。
  きっといけ好かない軟派な野郎で、彼女にお似合いの格好いい男なのだと、自分の顔を鏡で見て落胆した。


  何年か経った今、もしかしたらそれは大いなる勘違いなのではないかと思い始めてきた。

  彼女は教えてくれなかったが、彼らの着ている全身を覆い隠すトルトアも民族衣装であるだけでなく、肉食もいれば草食もいる、多種多様な種族の混在するエオオア星で力関係を明示させない為の護身なのだという。

  自分の種族が露呈してしまうことは、いらぬ種族差別を招いてしまうし、そして食物連鎖的なパワーバランスが未だに残っている彼らにとって致命的だ。
  虎や鰐といった捕食階級ならいい(実際地球にやって来たエオオア人も獅子族は着ていなかった)が、弱い種族の女がトルトアを着ていなければ欲望のままに強姦されてしまう可能性だって高まってしまうだろう。
  見目麗しい、狩られる側である草食のシマウマなら尚更のこと。

  彼女は僕の前では自分が草食動物であることも、トルトアを脱いで自分がシマウマ起源の哺乳類であることも隠さなかった。
『……そだろ、わたしはスキモノですから』
  彼女が笑ってこう言ったのも、全ては僕への好意の表れなんじゃないかと思う。これは今では嘘なのではないかとさえ思っている。
  エオオアでは笑顔は悲哀を表す。地球とエオオアの文化の違い。それを行為の最中ですっかり忘れていたから、誤解したまま時間を過ごしてしまったのだ。
  百戦錬磨にしては妙に初々しかったり、男性器について知識がなかったり(馬なんだからそこまで違わない筈だ)、焦らすような動きは性行為に慣れていなかったせいからかもしれない。
  今となっては、人間とは身体の構造が違うだけで処女だったのでは? ……などとこちらに都合のいい妄想を抱いてしまっている。
  少なくとも、トルトアを着て自らを護り、肌を少し晒した位で全身を真っ赤に染めてしまうほど羞恥心の強いアオオア人が、自ら進んで身体を許すくらいには僕は彼女に愛されていた。

  クワウヤトリヤトリヤオイエイエー。この言葉は人名でもなければ、解読すれば何かちゃんとした言葉になるんじゃないだろうか。
  僕らが十ヶ月の内に作り上げたエオオア語辞典では分からない俗語(ウィオプ語かもしれないが他のエオオア人も反応した所を見ると違うのだろう)が用いられた、ある人が訊けば我も忘れて罵り、ある人なら平手打ちをかましてしまうくらいの下品な言葉になるのではないだろうか?
  彼女は乳房についての説明をこうしていた。
『これがむね。く、こどもにミルクあたえる』
  これはただの言い間違いだと僕は思っていた。しかし彼女は精子という言葉を聞いたとき、こう言ったのだ。
『これで、クワ……ヤを、作るのか?』
  確かにそう口にしていた。クワウヤとは、とりあえず子供のことだと目星を付けている。

  彼女が僕を遠ざけようとしたのも、エオオアに行く機会なんて僕には無いからだろう。
  別れると分かっているのなら、わざわざ別れを辛くする必要は無い。
  こちらからエオオアに行く方法としては、乗組員の五分の二を死亡させて地球に辿り着いた、まだまだ発展途上のエオオアの技術を使うしかない。
  万が一僕がエオオア派遣隊の一員に選ばれて、無事そこに辿り着いたとしても、エオオアへの帰路で彼女自身が五分の二の中に入っていて既に死んでしまっているかもしれない。

  そんな博打に出るくらいなら、きっと賢い彼女の事だ、もう会わない方がいいに決まっている。ここまでの僕の推測が正しければの話だが、彼女はそう結論を出したのだろう。

  僕がそうだったように彼女も一つ勘違いをした。地球にいた時間があまりにも短すぎたから二星間の相互理解が不十分だったのだ。彼女は僕らの文化をあまりにも理解しきれていなかった。
  押してだめなら引いてみろ。
  そんな文化を。


  さあ、目の前の厚いアクリル板の向こうには地球と同じ位の大きさの惑星が見えてきた。
  僕はエオオアの言語調査隊の一員だ。現地民とコンタクトを取り、未完成なエオオア語辞典の空欄を可及的速やかに埋めていかなければならない。



  ――たとえばクの項目の、クワウヤトリヤトリヤオイエイエーだとか。


(クワウヤトリヤトリヤオイエイエー/了)






















  地球から、うんと遠く離れた星々の向こう。そこにはエオオアという、地球と同じように草木や動物、様々な生き物が住んでいる星があります。
「えー、皆様、お忙しいところお集まりいただき、誠にありがとうございます。今日はお日柄も良く……」
  黒い礼服をぴしっと着込んだ、地球の小さな島国の外務大臣が挨拶を済ませると、トルトアという全身をきらびやかな織物で身を包んだエオオアのウィオプという放牧民族から成る国家の長が謝辞を述べます。
  会場に集まった人々は、全部でどれくらいでしょうか? 百人とも、千人とも言われております。
  地球のテレビ局も、エオオアの報道陣もいるここで一体なにが行われるかというと、なんということはない、一般の人の結婚式なのでした。
  それならどうしてこんなに色々な人が集まっているかというと、その夫婦というのが、なんとエオオア人と地球人の夫婦なのです。
  これは二つの星が交流を持ってから初めての驚くべきことで、なのでいわゆるお偉いさんの方々もいらっしゃっている訳なのでした。


    ある賑やかな一日


  なんてことはない平凡な中肉中背、一般的で平均的な地球人の新郎が、白い、地球でいうところのフリルの沢山あしらわれた特注のトルトアを着た新婦の手を引いて、真っ赤の絨毯を歩きます。
  お腹がぽっこりとふくらませた新婦は、目元しか見ることは出来ませんがとても賢そうな美人です。
  地球のウェディングドレスを模して作られたトルトアの足元の、ながいながい光沢のある裾につまずかないように、八人のかわいらしい子どもが仲良く端を持ち上げて、とてとてとてとて、これまたかわいらしく歩いていきます。
  とてとてとてとてばたん。八人のうちの一人の、ようやくひとりで歩けるようになった幼い女の子が足をとられて転んでしまいましたが、脇に控えていた少年と青年の中間位の男の子が抱えて大事には至りませんでした。
  女の子が転んだためにぴんと張ったトルトアは、新婦の身体を引っ張りましたが隣の新郎が支えたので全く問題はありません。お腹を大事そうにさすって、胎内に眠る小さないのちを慈しむ姿をカメラのフラッシュがぴかぴかと照らしました。
  夫婦はいわゆる出来ちゃった結婚という訳でもありません。なぜなら裾を持っているかわいらしい八人の子どもも、傍に控えている青年も、みんな夫婦の家族なのです。
  エオオアと地球の、それぞれの法律という決まりごとがようやく変わって夫婦はついに正式に認められた夫婦となれた訳です。

  華やかな式が終わり、更に華やかな披露宴が始まりました。
  まず、地球でいうところの象のような見かけをしたパルパオの人と、猫のような姿をしたミオアアの人達がジャグリングをしたり火の輪をくぐったりと様々な宴会芸を披露して、テレビ中継を見ている地球のお茶の間の人々のお菓子に伸びていた手を止めさせました。
  おつぎは、スズメというよりも天使のようなチュエイの合唱隊が聖歌を会場に響かせ、お茶の間の人々を天国に誘います。
  こんどは地球の新郎の暮らす国の伝統芸が披露され、テレビ中継を楽しんでいたエオオアの人々の頭に『ワビ・サビ・モエ』という三単語をきっちりと刻み込みました。

  その後も賑やかな出し物は続き、何度か新婦がお色直しを済ませ、やがてうれしはずかし二人の馴れ初めについて、エオオアと地球の同時通訳で語り始めました。
  なんともロマンチックな二人の出会いから、別離、そして再会まで、なんとも魅力的な物語は公共電波に乗せられた訳ですが、ここで一つ問題が起こります。
  新郎が地球から遠く離れたエオオアへと行くきっかけとなった新婦の言葉が、包み隠さず流されてしまい、お茶の間で一家団欒の時を過ごしていたエオオアの人々は、画面の向こうのかわいらしい夫婦の隠そうとしても隠しきれないお腹や九人の家族と、自分たちの家族を交互に視線を動かして、やがて凍りつき、赤面し、あるいは爆笑し、激怒し、感動し、東で祭りが始まったかと思えば、西で暴動が起き、エオオア全体が二つの星の歴史に名を残すに相応しい賑やかさと、けたたましさに包まれて、ずんたかずんたか、地軸が数千分の一度ずれてしまうほど星自体がおおきく揺れました。

  一方、地球のほうはどうだったかというと。
  テレビで放映されたものの、馴染みの薄いエオオアの共通言語の、しかも俗語とあっては、地球人にはまったくなんのことやら分かりません。
  遠く離れたあちらの星の馬鹿騒ぎを、ただただぽかんと見つめていただけだったそうな。


(了)
最終更新:2007年07月03日 17:54