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トップページ - (2008/08/20 (水) 20:02:03) のソース

「クソっ、この悪の娘が・・・!!」


今から遠い昔、黄の国と呼ばれるある王国で14歳の女王が権力を奮っていました
古くからの法により渋々従いましたが、親族をはじめとする多くの人々は影で王女の事を『悪の娘』と呼んでいました

そんな彼女は今、悪逆非道な政治に我慢できずに歯向かった一人の仕えの者が取り押さえられている様を面白そうに見ていました

ぼんやりと見ていると教会の鐘が午後3時を告げる音を響かせます
それを聴き、王女は反逆者の言葉など聞こえていないかのように無視をし、くるりと反対の方向に向きなおりました

「あら、おやつの時間だわ。ねぇ、今日のおやつは何?」

話しかけたのは王女のお抱えの召し使いです
召使は王女とよく似た顔立ち、
本来は王になる筈だった双子の弟を召使いにした事も『悪の娘』と呼ばれる所以の一つです

「ブリオッシュでございます。只今持って参ります。」

そう、と柔らかく微笑み、紅茶をすする

すると、別の大臣が出てきて
「王女様、緑の国との共同ですがどうなされますか」
「この素晴らしいティータイムにそんな下らない事を聞かないでちょうだい。答えはNoに決まってるじゃない」

大臣によれば元々財力のあまり無かった緑の国が赤の国に経済支援をしたせいで緑の国は経済破綻寸前らしい。

本当、緑の国は馬鹿ね。お金がないなら民から絞り取ればいいのよ
この調度品の良さも分からない者達に財なんて必要ないわ
国民なんて蟻の様に国の為に働いて、働いて、働くだけでいいのよ

王女が格調高いティーカップを大臣の足元に投げ、音を立ててバラバラになりました

私には良さが分かっていて、尚且つこうする権利があるのよ
私に逆らう馬鹿な反逆者は粛清してしまいなさい

絶対悪。
それでこそ黄の国よ。
可憐に咲く悪の華に。 




いつもと変わらない、けれど心地よい風が吹く日。

「王子様・・・」

オペラグラスで覗く先には黄の国の隣にある、青の国の王子。
中性的な整った顔立ちとスタイル、紳士なたち振る舞い好青年で貴族の間では勿論のこと、下の者たちにも人気がありました

まだ幼い王女も例外では無く、彼に夢中でした

王子が今日はお忍びで黄の国に来たらしいのです
帰ってしまい、部屋から


そんな時、農夫達の会話が聞こえてきました

「しかしお前も大変だね、また税金が値上げだって?」
「そっちも過ぎたお人よしで経済が危ないらしいじゃないか。お互い頑張ろう」
「いやいや、我が緑の国のお姫様は青の国の王子から林檎を貰ったらしいからな。経済危機なんて目じゃない」
「なーに得意げになってんだ。お前は葱畑で葱を引っこ抜く作業にはかわりないだろうが」
「お前も」
「はははは、違いない」

青の国で1年に1個しか出来ない林檎を差し上げたそうです
王女様はこれに酷く衝撃を受けました


何よ!有り得ないわ!
こんなに美しくな私を差し置いてあんな芋くさい娘なんかが出し抜くなんて!!


「緑の国を滅ぼしなさい」

王子を誑かす緑の国も赤の国と同様に滅んでしまえばいい
王子もきっと目が覚めるはずだわ



王女は嬉々として召し使いに聞きました
「あら、おやつの時間だわ。今日のおやつは何かしら。アップルパイ?コンポート?」

「・・・青の国産の最高級の林檎を使った焼き林檎でございます」

そうよ、王子があんな娘に向ける思いなんて萎れた心で充分よ
「まぁ、美味しいわ。」




気の国で女王が感に浸っている一方で緑の国は見るも無残な情景になっていた
平和主義の緑の国が突然の攻撃になす術もなく、街が壊れ蹂躙されていく様を見ている他
赤の国の戦士だ
「今回、緑の国王より直々に任務を与えて下さった事、誠に有り難く感謝してお
ります」
「悪虐非道な黄の国により、赤の国が滅んでしまった事は実に無念な事だ。」
「断ち切らせてくれ」

「緑の民よ、」
「恐れるな!今の黄の国など私達の敵では無い!」

鼓舞され兵士たちは

侵入すると閑散とした城内。
城にいた者達は既に亡命をしたらしく、中には女王一人がひっそりと座って居ただけでした

「黄の悪魔よ、」

捕らえようとした戦士の手を叩き、言い放ちました

「この無礼者!」 



世界から黄色が消えました。
黄色は緑と混ざり、黄緑になったのです。

「なぁ、今回の戦争は実は緑の国の復興の為の策略だったんだろう?」
黄の国の農夫が隣にいる
「ああ、黄の国の王女はまだ14だったし色恋に夢中だったからな。青の国の王子に惚れていると聞くや否や緑の国と青の国とで政略結婚だ。あの気性の荒い娘の事だ、
かつて王女を挑発した赤の国を滅ぼしたように必ず戦争をけしかけてくると緑の王は踏んだのよ」

「それで戦力を削り、尚且つ正当的に戦争を起こしたってわけかい。なんだか誰が悪だか分からんね。
黄の国は侵略の名目で民を殺して、緑の国は経済復興の為に意図的に民を犠牲にして、青の国は黄の国の賠償金目当てに緑の国に加担したってんだから」

「黄の国の財力は魅力的だからな。」

「まぁこれで搾取は無くなるんだ。良い事じゃないか」
「いやいやこれからだよ。差別との戦いだよ」
「そん時は俺が匿ってやるさ。ほら、お前ん所の女王様のお出ましだ」

農夫が指さした先には執行人に連れられ、よろよろと死刑台まで歩く王女の姿がありました
数日の間、幽閉されていたせいか女性特有の体の丸みはなくなりすっかり痩せ細ってしまっています
怒号や泣き声、ヒステリックな悲鳴が途絶える事無く飛ぶ中、彼女は毅然とした表情でその時を待ちます


そして、ついに3時の鐘がなりギロチンの刃が落とされる時になりました
「言い残した事はあるか」
刃が振り下ろされる直前、王女は鐘の音を聴きながら口の端を吊り上げ、低い声で呟きました。



「あら、おやつの時間だわ」





公開処刑から翌日。
反省の色も焦りも見せず、最後に笑っていたという情報は処刑場から街へと、あっという間に広がっていゆき彼女の『悪の娘』という異名は更に定着しました