涙 2*師走ハツヒト

「涙 2*師走ハツヒト」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

涙 2*師走ハツヒト - (2012/01/20 (金) 13:01:30) の1つ前との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

「にんげんのこどもさん わたしの くびを おってください」  くるしそうに、そう言いました。 「わたしは のろわれた はなです わたしを おると あめが ふります あめが ふれば みずが あふれて しおだまりと うみが つながります そうしたら さかなは うみへ かえれます」  男の子はおどろきました。 「そんなことしたら あなたが しんでしまうよ」  ひるがおは、はかなげに笑いました。 「わたしは いいのです わたしの いもうとたちが これから さくでしょう のろわれた はなでも やくに たてるのなら わたしは それでいいのです さぁ はやくしないと しおだまりが ひあがって しまいます あなただって さかなを たすけて あげたいでしょう はやく わたしを おってください」  男の子は必死にやめさせようとしましたが、ひるがおの決意はかたいようでした。  せっかく咲いた大事な自分を捨てて、ひるがおは魚を救おうとしているのです。  どんなに辛い決断だったでしょうか。  男の子は決心して、ひるがおの言うことを聞いてあげることにしました。  男の子の指が、そっとひるがおの首にかかります。  ひるがおは少しうなだれるようにして、指に首を預けました。  雨が降れば、男の子の国もくずれてしまいます。  でも、それより魚の命が大事です。  男の子はゆっくりと力を込めて、  ひるがおの根元をひきました。  ぷつん。  小さな、ひめいのようなよろこびのような音を立てて、緑色のつるからひるがおの花がはなれました。  男の子の指は、少しふるえていました。  ぽたり。  ひるがおの花びらにあった朝つゆが、男の子の指をぬらしました。  ぽたり。  男の子のうでに、水のしずくが落ちました。海のようなしずくでした。  ぽたり、ぽたり。  砂浜にもしずくが落ちて、白い砂が黒くなりました。  ぽた、ぽた、ぽたぽたぽたぽた……  雨が、降り始めました――  魚のこどもは、運良く降り出した雨のおかげで、しおだまりから出て海へもどる事ができました。  魚のこどもは、もう二度とあさせで遊ぼうとしませんでした。  いつしかこどもではなくなった魚は、たまにふと、不思議な気持ちになります。  ひょっとしたら自分は、何かとても大切にされているのではないか、と。  誰かが自分を、とても優しく支えてくれているのではないか、と。  ひょっとしたら、命すら捨てて自分を助けてくれているのではないか、と。  そう感じるたび、そうまでされたこの命を、大事にしなくてはならないと思うのでした。  見たこともない誰かに、感謝しながら。 [前へ>http://www47.atwiki.jp/bungeibuanzu/pages/57.html]]  [[2010杏まほろば部誌に戻る>http://www47.atwiki.jp/bungeibuanzu/pages/51.html]]

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: