<?xml version="1.0" encoding="UTF-8" ?><rdf:RDF 
  xmlns="http://purl.org/rss/1.0/"
  xmlns:rdf="http://www.w3.org/1999/02/22-rdf-syntax-ns#"
  xmlns:atom="http://www.w3.org/2005/Atom"
  xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/"
  xml:lang="ja">
  <channel rdf:about="http://w.atwiki.jp/cmwc/">
    <title>CMWC NONEL COMPETITION</title>
    <link>http://w.atwiki.jp/cmwc/</link>
    <atom:link href="https://w.atwiki.jp/cmwc/rss10.xml" rel="self" type="application/rss+xml" />
    <atom:link rel="hub" href="https://pubsubhubbub.appspot.com" />
    <description>CMWC NONEL COMPETITION</description>

    <dc:language>ja</dc:language>
    <dc:date>2009-02-10T16:06:15+09:00</dc:date>
    <utime>1234249575</utime>

    <items>
      <rdf:Seq>
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/2.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/16.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/51.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/1.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/33.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/31.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/14.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/50.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/49.html" />
                <rdf:li rdf:resource="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/48.html" />
              </rdf:Seq>
    </items>
	
		
    
  </channel>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/2.html">
    <title>メニュー</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/2.html</link>
    <description>
      -[[競作TOP]]
-[[ご案内]]

★競作一覧★
[[競作６　終了]]
窮地で始まるミステリ
[[競作５　終了]]
グランドホテルでミステリ
[[競作４　終了]]
実体験を元にしたミステリ
[[競作３　終了]]
地名シリーズミステリ
[[競作２　終了]]
共通の謎ミステリ
[[競作１　終了]]
書き出し統一ミステリ

[[電脳ミステリ作家クラブ　CMWC&gt;http://cmwc.hp.infoseek.co.jp/indexb.htm]]    </description>
    <dc:date>2009-02-10T16:06:15+09:00</dc:date>
    <utime>1234249575</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/16.html">
    <title>ご案内</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/16.html</link>
    <description>
      *非公開作品について
　非公開作品(&amp;color(red){★}印の付いた作品)を読むためには、ログインが必要です。
　電ミスのメンバーで、アクティブに活動に参加されている方なら、どなたでもログインを申請できます。
※ただし退会や休会など、長く会を離れておられる方はいったん登録を抹消することがあります。

　希望される方は、事務局までメールでお知らせ下さい。
　折り返し、ログインの方法をお知らせします。

　事務局へのメールは、電脳ミステリ作家クラブのトップページのメールフォームをお使い下さい。

#center(){
[[電脳ミステリ作家クラブ　CMWCへ&gt;http://cmwc.hp.infoseek.co.jp/indexb.htm]]

}    </description>
    <dc:date>2009-02-10T16:05:40+09:00</dc:date>
    <utime>1234249540</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/51.html">
    <title>午前二時四十分の亡霊</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/51.html</link>
    <description>
      *CMWC NONEL COMPETITION6
**午前二時四十分の亡霊
#right(){作：橘　音夢}

　その日はうだるような暑さで畑の草も伸び放題になっていた。祖母の家の座敷に座わらされ、何をしていいのか判らないまま庭の横にある小さな野菜畑をぼんやりと眺めていると、畑の中に誰かがいるのが見えた。祖母だ。いつものように鎌を右手に茄子の枝に手をかけていた。突然、祖母は両手で胸を押さえるようにして苦しそうに顔を歪めた。手から鎌が離れ、祖母の体がゆっくりと倒れて野菜の海に呑み込まれていく。幼心にも、それが普通でないことは判ったのだろう。
　四歳の私は傍らに座っていた母の手を引きながら、「お祖母ちゃんが倒れた！　お祖母ちゃんが倒れた！　早く助けてあげて！」と喚き散らした。だが、母は私が何を言ってるのか判らなかったらしい。
「何を言ってるの？　静かにしなさい。お祖母ちゃんはあそこよ」
　困ったような顔で座敷の奥にある木の箱を指差した。黒い服や着物を着た大勢の人々、噎せ返るような線香の匂い。陰鬱な読経の響き。
　意味が判らなかった。私は母の手を振り払って庭に降り、畑の中に入っていった。黒い革靴を泥だらけにしながら行き着いたその場所には倒れた茄子が数本。祖母の姿は影も形も無かった。
「……ね。誰もいないでしょう。お祖母ちゃんは亡くなったのよ。ちょうど一昨日の今頃に」
　母の言葉が理解できなかった。それほど祖母の姿ははっきりと見えたのだ。だから、その時の私には鼻に白い綿を詰まらせて横たわる木の箱の中の蝋人形みたいな物が祖母だとはどうしても思えなかった。母がいくら諭しても、お祖母ちゃんは何処にいるの、と繰り返す私を叔父や伯母達は気味悪そうに眺めていたものだ。
　祖母の葬儀の日のことだ。

　私、冬木鈴花は電車に乗るのが嫌いだ。電車に乗るためには駅に行かなければならないからだ。夜、帰るのが遅くなってプラットフォームに立つと、必ずといっていいほど私は「彼ら」を見る。「彼ら」は本当に生きている人間のようにプラットフォームの端に立ち、走ってきた電車に突然飛び込む。瞬時にその身体は砕け、周囲に血しぶきと細かい肉片を撒き散らす。悲鳴を上げそうになった途端にその映像は消えうせるが、「彼ら」は私の心の中に侵入し、小さな声で呟くのだ。助けて、助けて、と。でも私には何も出来ない。耳を塞ぎ、震える足を無理やり動かしてその場を去るだけだ。
　中学の頃、先生にわりと評判のいい私立高校を推薦されたのを断ったのも、ただ電車通学が嫌だったからにすぎない。親は何度も理由を聞きたがったが、私は単に友達と離れたくないからと嘘をついた。それほど親しい友達なんていなかったけれど。
　道を歩いていても、運が悪いと道路に飛び出して撥ねられる人物を目撃してしまう。飛び散る血までリアルに見えて、それを見てしまった日は一日中、食べ物が喉を通らなくなる。
　きっと霊を見る体質なのだろう。でも、私に見える霊は死ぬ瞬間の映像だけなのだ。祖母の葬式以来、私はこのことを誰にも言ったことが無かった。どうせ誰に言ったって信じてはもらえない。そう思っていた。城野摩耶と知り合うまでは。

　幸いバスで通える距離にある大学に入学し、一年の夏休みも半ばに差し掛かった八月二十日。私はコンビニでバイトをしていた。
　その日はたまたま深夜枠のバイトの子が休んでしまい、急遽私が替わりにバイトを引き受けることになってしまった。強盗でも入ってきたらどうするのよ、と電話に出た母は心配したが、店長はもと警察官だったという屈強ながらも面倒見のいい人なので、私は心配ないと母を宥めた。
　帰りは店長の娘さん（といっても四十代だが）が家の前まで送ってくれた。娘さんに礼を言って別れたあと携帯で時刻を確かめる。午前二時四十分。月がとても綺麗な晩で、私は家の前でちょっと立ち止まり、煌々と輝く月に見とれていた。
　その時、突然、背中が冷水を浴びたようにぞっと震え、回りの空気が一瞬にして淀んだような湿り気を帯びた。気分が悪くなり、家に入ろうと月から家へと視線を移す。すると屋根よりも高い空中に何かが出現した。逆さになった男の人の身体だ。水色のＴシャツとジーンズを着たその身体は何もない空中に浮かび、飛び込み台からプールへジャンプするみたいにまっ逆さまに私の前に落下すると、ぐしゃりと嫌な音を立て……。
　私は悲鳴を上げた……と思う。気が付いたら病院のベッドに寝かされていて、母が心配そうな顔で覗き込んでいた。
　母は悲鳴に驚いて、門の前で倒れている私を見つけ、すぐに救急車を呼んだらしい。翌日まで入院をさせられたが異常もなく、すぐに退院出来たが、何があったの、という母の問い掛けに私は本当のことを言わず、大きな見たこともない犬に襲われそうになったと嘘をついた。警察に知らせると息巻く母を止めるのに苦労しなければならなかったが。

　その次の日、再びバイトに行った私はまた休んだ子の替わりにバイトをすることになった。家の前に着いたのはちょうど二日前と同じ時刻だった。まさか、またあのイメージが……そう思った途端に空気の肌触りが変化した。見たくない。見たくないのに視線は屋根の上の空に移動する。目の前を落下していく男。地面に叩きつけられたその身体はしばらくしてからまたぐしゃりと音を立てた。何だろう、これは？　ショックは一昨日ほどではなかった。だが、何故か私は今の光景に違和感を覚えた。そして、唐突に私の頭の中にその霊は話しかけてきたのだ。
――オレヲミツケテ――

「あの……」
　後ろから聞えた突然の声に心臓が飛び上がりそうになった。
「え？」
　街灯に照らされ、立っていたのは五十代くらいだろうか、グレーのスーツをきちんと着た白髪の男性だった。銀縁の眼鏡の奥に見える瞳は穏やかそうだが、何故かとても疲れているように見えた。
「あの、すみません。あなたはこの家の方ですか？」
「そうですけど。何か？」
　男性は戸惑った顔で私を見た。何かをとても迷っているように口を開きかけて、また閉じる。
「あ……いいえ。何でもありません」
　そう小さな声で呟くと、男性は軽く礼をして立ち去った。
　彼は何が言いたかったのだろう？　話を聞いてみたい気がして、後を追おうと思ったときにはもう男性の姿は遥か遠くになっていた。
　諦めて家に入ろうとすると塀の前に何かが置かれているのが見えた。拾い上げて見るとそれはまっ白な菊の花束だった。

　翌日、私はバイトを休み、気晴らしの為に駅前にあるショッピング・モールに出かけた。両親は二人きりで温泉に行ってしまった。父がちょっと遅めの夏休みを取れた為だ。
　その日はかなりの猛暑で、私はショートヘアにキャミとハーフカットパンツという軽装だったが、それでも暑さを凌ぐことは出来なかった。溶け出しそうなアスファルトから立ち上る熱気から逃れるように人々が店の中に次々と入っていく。夕べ置いてあった花束は、私の部屋に隠してある。あの男性が置いていったことは間違いないのだが何だかそこに置かれていること自体が気味が悪かったし、母に余計な心配を掛けたくなかったからだ。あの場所で事故でもあったのだろうか？　だが、私の家族があの家を建て、引っ越したのは三年前。それから現在に至るまで、家の前の道路では一度も事故は起きていない。それに、あの落下する霊。なぜ今になってあれが見えたのか。だが考えてみると午前二時四十分に家の前に立つなんてことは今まで一度も無かった。毎晩出現していても判らない筈だ。あの男性と霊は身内か何かだろうか？
　それに……あの霊の言葉。あれはいったいどういう意味なんだろう？
　モールの入り口には小さな花屋がある。店先に置かれている色とりどりの花束。あの男性はこの店であの花束を買ったのだろうか。
　花屋の前で立ち止まって何とはなしに並べられた花を眺めていると、店の中から若い女性が出てくるのが見えた。淡いピンクの薔薇の花束を抱え、黒いシフォンのワンピースを着て、小さな銀色のポシェットを肩に掛けたその女性は私のほうを見ると、ふっと優しげな笑みを浮かべた。黒い艶やかなロングヘア、白い肌。淡い茶色の瞳。その顔は涼しげで汗ひとつかいていない。こんな美人に知り合いはいただろうか？　でも、彼女の顔は確かにどこかで……。
「白い菊の花言葉は真実。知ってるかしら？　冬木さん」
　突然の言葉に私は咄嗟に答えることすら出来なかった。きっとその時の私はずいぶんと間抜けな顔をしていたことだろう。
「あらら、そんなに驚かないで。あなたがさっきから白い菊を眺めていたから言ってみただけなの」
「あ……あの、ごめんなさい。何方でしたっけ？」
「ああ、こちらこそごめんなさい。あなたと同じ大学に通ってる城野摩耶です。よろしく。あなたとはいつもフランス文学の講座で一緒なのよ」
　そうだったのか。そういえば見かけたことがある。同じ学年にしてはずいぶん落ち着いていて大人びて見えるけれど。
「あなたの名前を何故知ってるか知りたい？　ちょっと興味があったから調べたのよ」
　調べたって、どういうことだろう。何だか気味が悪い。
「ああ、あのね。ストーカーとかそういうのじゃないの。ただあなたはきっと悩んでると思って。『霊が見えてしまう』ことで」
　一瞬、その言葉が信じられなかった。
「……どうして知ってるんですか？　誰にも話したことはないのに」
「私にも見えるから。恐らくあなたよりもずっといろいろなものが」
「本当に？　本当に見えるんですか？」
「ええ。だからもしよかったら話を聞かせて。力になれるかもしれないから」
　私は迷った。同じ大学とは言え、彼女とは一度も話をしたことがない。でも、昨日の花束の件や霊の言葉はどうしても気になる。
「う～ん……。それじゃ、ちょっとだけ話を聞いてもらえますか。ええっと、バーガーショップでいいですか？」
　摩耶さんはちょっと小首を傾げて答えた。
「そうしたいけど、これから病院へ行かなくちゃいけないの。伯母がもう長いこと入院しているので。そうだ。もしよかったら一緒に行かない？」
「病院に？」
「ええ。ここから近いしすぐ傍には素敵なカフェもあるのよ」

　その病院は二十分ほど歩いたところにあった。
　まるで林の中に建っているみたいに緑の多い病院で、木陰にはいくつものベンチが置かれ、患者とその付き添いらしき人達がのんびりと散歩をしていた。
『森の郷病院』
　この病院はかなり評判のいい私立病院だ。駅前の喧騒から離れ、避暑地の図書館のように落ち着いた雰囲気を持つ煉瓦造りの建物は身体や心を癒すには最適な場所なのだろう。蝉の鳴き声がうるさいのが難点といえば難点だが。
　摩耶さんが伯母さんを見舞いに行っている間、私は待合室に座り、ぼんやりと受付を眺めていた。

「伯母は精神を病んでいるの。一人娘が突然自殺してしまって」
　ここへ来る道すがら、摩耶さんはぽつりとそんなことを言っていた。
「離婚した伯父が昨年までは毎日のように見舞いに来てたんだけど、仕事で遠いところに行ってしまったの。だから、私が替わりに伯母を見舞ってるのよ」
「それは……大変ですね」
「ええ、そんなに大変ではないの。ただ、伯母は今でも娘が生きてると思ってるの。行くたびに娘が来ない理由を尋ねられるのが少し辛くって」
　それきり摩耶さんは口を閉ざしてしまった。

「お待たせ。それじゃあ、行きましょうか」
　摩耶さんが案内してくれたカフェは病院のすぐ隣だった。病院とよく似た煉瓦造りでカフェというより喫茶店といったほうが相応しい落ち着いた佇まいの店だった。
　先客は一組の老夫婦。店内にはモーツァルトの曲がゆったりと流れている。一番奥の窓際の席に座り、レギュラーコーヒーを注文すると、摩耶さんは私を見て静かに微笑んだ。胸元には五角形の星のマークが付いた燻し銀のペンダントが輝いている。確かあの形はペンタグラムというものだ。摩耶さんは大学生というより、成りたての美人占い師みたいな雰囲気を持っている。
「それじゃ、話を聞かせて」
　私は摩耶さんに「人が死ぬ瞬間の映像」が見えること、そして数日前から起こっている奇妙な出来事を全て話して聞かせた。
「あなたが霊を見るのは、その人が死んだ時刻だけなのね？」
「そうだと思います。最初にお祖母ちゃんの霊が見えた話をしたでしょう？　あれがちょうど亡くなった時刻だったらしくって、大人たちが気味悪そうに私を見てひそひそ言ってるのを聞いたから間違いないと思います」
「まずはあなたが見た落下する霊のことだけど、なぜ空中から飛び出してくるのかは考えてみた？」
「多分、アパートとかビルとかから飛び降りたんじゃないんでしょうか。だとすると、家が建つ前にあそこにあった建物ですよね」
「そうね。土地の前の持ち主は判ります？」
　確かあのへん一帯は近所のアパートの大家さんの土地で、確かうちの土地もそうだったと思う。そう答えると、摩耶さんはちょっと真剣な表情をして私の顔を覗き込んできた。
「鈴花さん、一応聞いておきたいんだけどあなたはその霊のことを調べていったい何を知りたいの？」
　それは……。
「聞えたんです。霊の声が。俺を見つけてって。だから、例えそれが無理なことでも出来るだけ調べてみたいんです」
　摩耶さんはちょっと眉を顰めるようにして黙って私の顔を眺めていた。
「そうね。あなたに危険な霊は憑いていないから大丈夫でしょう。それから、花束を見せてもらいたいんですけれど、お宅に伺ってもいいかしら」
「いいですよ」
「それじゃあ、すぐに行きましょう。ああ、まずここのコーヒーを飲んでからね。本当に美味しいのよ」

　コーヒーを飲み終えて、家に着くとすでに正午を過ぎていた。私の家はごく普通の二階家だ。今まで霊が出たことなど一度もない。
　摩耶さんは門の手前で立ち止まり、右手でペンダントを握り締めて何もない空中を凝視した。
「ああ、確かにいるわね。あなたの家の前に若い男が立っているわ。すごく悲しそうな顔で。見えるかしら？　鈴花さん」
「いいえ、何も」
「そう。やっぱりあなたには死んだ時刻の霊しか見えないのね。あ……でも、ちょっと待って」
　摩耶さんはそっと目を瞑って少し顔を顰める。
「何だか別の霊気を感じるんだけど……変ね。何も見えない。ああ、ごめんなさい。じゃあ、お邪魔させてもらうわね」
「ええ、どうぞ。今日は誰もいないんです」
　部屋に摩耶さんを案内してキッチンからコーヒーとクッキーを持って来ると、彼女は私のベッドに腰を掛け、花束を抱えてじっと眺めていた。
「これは駅前の花屋で買ったものね。今日、私が寄ってきたあの店。ほら、束ねているリボンが二色。銀色と白。あそこはいつも二色使いをするのよ」
「……なんだか、墓前に供える花みたいですね」
「たぶんそうでしょうね」
「ええっと、あの推測なんですけれど、あの霊はここにもとあったアパートから飛び降り自殺した人で、あの中年の男性は身内の人なんじゃないですか？　昨日は命日だったんですよ、きっと」
「で、花束をわざわざ真夜中に？　昼間持って来たっていいはずだし普通はお墓に持っていくものでしょう？」
「それもそうですね」
「とにかくこれ以上は何も判らないわ。近所の大家さんのところに行ってみましょう」
「え？　今すぐですか？」
　摩耶さんは私が淹れたコーヒーを一口も飲まずにさっさとドアを開けて出て行こうとしている。
「そう。今すぐ。早くしないと何も判らないまま終わっちゃうわよ」
　それは嫌だ。っていうか、ひょっとして彼女、インスタント・コーヒーが嫌いなんじゃないのか？　というわけで、私たちはすぐに大家さんの家に向かった。

　大家の中山さんは齢七十を過ぎた気さくな一人暮らしのお祖母ちゃんで、私たちを快く迎えてくれた。お昼を食べていないと聞くと、お茶と一緒におにぎりを四個持ってきてくれた。本当に美味しいおにぎりで私は危うく、訪問した目的自体を忘れそうになった。
　気が付くと、摩耶さんは中山さんと楽しそうに四方山話をしている。年寄りに取り入るのは上手いらしい。
「ところで、冬木さんの土地なんですけど、あそこは前は何があったんですか？」
　大家さんはお茶を淹れながら、考え込むように宙を見つめる。
「ええとね、あそこには四年前までアパートが建ってたのよ。三階建てのアパート。何だか変なことがあってね。それで人が入らなくなったんで壊しちゃったのよ」
「変なことって……飛び降り自殺とか？」
「いやいや。そういうことじゃないんだけど。三階に住んでた若い男の人が急にいなくなっちゃってね。それが、荷物だとか身の回りのものだとかも全部置きっぱなしで。で、家族の方が心配して捜索願いまで出したんだけれど、結局見つからなくってね。荷物を引き取ってもらったのよ。でも、それから誰が入居してもすぐに出て行っちゃうの。何だか嫌な感じがするって。男の人を見たって言う人もいてね、それで気味が悪いから取り壊したの」
「それはいつ頃ですか？」
「ちょっと待ってね」
　中山さんは押入れを開けると、奥の方から段ボール箱を二つ引っ張り出してきた。一つの箱には[[日記帳]]、もう一つの箱の中はいろいろな書類がきちんと整理されて入っている。
「ほらこれ。あたしの日記。もう若い頃から一日も欠かさずにつけてるのよ。それからこれが、入居者の書類。ええっと、五年前だから……これこれ。いなくなったのはこの人よ」
　滝川徹。二十二歳。保証人の名前は両親になっている。両親の現住所は隣町だ。
「これ、写させて貰っていいですか？」
「ええ、いいですよ。でも、いったい何を調べてるの？」
「それはちょっと……私、実は私立探偵なんです」
「ああ……なるほどねえ」
　中山さんが何事か納得して一人で頷いているのをよそに、摩耶さんはポシェットから手帳を取り出して住所を書き写している。中山さんは五年前の日記帳を捲り始めた。
「ああ、これこれ。あら、ちょうど五年前の昨日だわ、その人がいなくなったのは。真夜中に集中豪雨があってね。あのへんの道路は当時水はけが悪くって川みたいに激しく水が流れてたからよく覚えてるわ。うちは高台だから何ともなかったけれど、結構浸水の被害があったのよ。今は排水の工事か何かしたからそういうことも無くなったけれどね」
「その日記、見せてもらえますか？」
　摩耶さんが受け取った日記帳を私も横から覗き込んだ。
　――八月二十三日。雨が止んだ。アパートの中は水が入っていなくて一安心。三階の滝川さんが新聞を取りに来てない。何処か出かけているんだろうか？――　
「それから何日も新聞が溜まってね。あたしがご両親に連絡したのよ」
　朝、新聞を取りに来なかったということはいなくなったのは二十二日の真夜中だ。
　それにしても、いちいち入居者の新聞まで確認しているとは。かなりうざい大家さんのようだ。
　摩耶さんは窓の外に視線を移し、じっと考え込んでいる。やがて彼女は中山さんの方を見るとにっこりと微笑んだ。
「判りました。どうもありがとうございました」

　隣町に向かう電車の中で、摩耶さんはドアの横に立ち、通り過ぎる夏の景色を眺めていた。暑く眩しい午後の日差しが車内に差し込むので、片側の窓だけがブラインドを下ろされている。電車に乗るなんて何年ぶりだろう？
「ご両親、まだあそこにいるかな。っていうか、会ってもらえるんでしょうか」
「判らないわ。でも、鈴花さん、今度は本当のことを話したほうがいいと思うわ。中年の男の人のことは除いてね」
「身内が突然いなくなるって……どんな気持ちなんでしょうか」
　摩耶さんの顔がふっと曇った。
「全てが……何もかもが一瞬にして変わってしまうの。生きてるのか死んでるのか、それさえ判らなくて。日常は不安に押しつぶされて……」
　言葉が途切れる。
「ああ、もう次の駅だわ。交番で道を聞いてみましょう」

　滝川徹の両親の家は閑静な住宅街にある広い木造の二階家だった。
　徹さんの母親は、大人しそうな人で化粧もせず、ぼさぼさの髪の毛も無造作にゴムで結んでいるだけだった。彼女は私たちの訪問を不審がり、玄関で私が話した霊の話にちょっと顔を強張らせた。
「あなた達、何が目的なのか知りませんけれど、うちの息子は死んでなんかいません。さっさと帰らないと警察を呼びますよ！」
　摩耶さんはその言葉にもまったく動ぜず、静かな声で言葉を返した。
「徹さんがいなくなった時に着ていたＴシャツ、水色で紫と白の細いボーダーが胸のところにありますね。気に入ってるんだって言ってましたよ。お母さんが誕生日に買ってくれたんだって」
　滝川さんは驚いたように摩耶の顔を見つめた。
「どうして、それを……」
「先ほど私が聞きました。彼の霊に直接。早く帰りたいから見つけてくれって言ってました。……ああ、何だか驚かせてしまいましたね。ごめんなさい。彼の願いを聞き届けたいと思ったんですが、信じていただけないようでしたら仕方がないですね。お邪魔致しました」
　出て行こうとする摩耶を滝山さんが呼び止めた。
「待ってください。話を……聞いていただけますか？」

「ここが徹の部屋です。五年前からずっとそのままにしているんですよ」
　シンプルな机にベッド、棚には本やＣＤ、ＤＶＤにゲームソフトがきちんと並べられている。壁にはアイドルのポスター。ごく普通の若い男の部屋だ。
「きっといつかは帰ってくるって。だから……」
　滝川さんの目にうっすらと涙が浮かんでいる。彼女の五年間の苦しみを思うと慰めの言葉すら口に出来ない。
「私が悪いんです。あの子の結婚を反対しなければあんなことにはならなかったんです」
「結婚……といいますと？」
　摩耶さんの問い掛けに滝山さんは彼の本棚からアルバムを取り出した。
「ほら、この人です。徹が好きだった人は」
　そこには桜の木の下で幸せそうに頬を寄せる二人が写っていた。ちょっと神経質そうな細身の徹さんと、セミロングの髪の目の大きなチャーミングな女の子。
「どうして結婚に反対なさったんですか？」
「徹がどうしても結婚させて欲しいというので、失礼とは思ったんですが、興信所に彼女の過去を調べさせたんです。そうしたら彼女、高校時代に何度も万引きや傷害で補導されていて、どうも援助交際とかもしていたみたいで。だから主人も私も絶対駄目だって言ったんですよ。でも徹は今はもう更生してるし、過去の話だからって……でも私は許しませんでした。すぐに別れなさいって、そう言ったんです。そうしたら、数日後にあの子はいなくなりました」
「相手の女の方は？」
「さあ。徹と同じ大学の桜塚澪奈という方ですが私は一度も会ったことがないんです。徹の携帯の履歴で電話を掛けて見たんですが、電源が切られているのか、ぜんぜん繋がらないんです……。家の電話も判らないから連絡のしようがなくて。だから、最初は私、徹は彼女と駆け落ちしたんじゃないかと思いました。でも携帯も財布もクレジット・カードも何もかも置いていくなんて有り得ない。それどころか靴も全部残っているんです。だから、私は警察に捜索願いも出しました。あの、城野さん、息子は……死んでいるんですか？」
　摩耶さんは静かに答えた。
「霊が見えますので、間違いなく亡くなっているとは思います。ただ、ご遺体が見つからない限り、断定は出来ません」
「城野さん、何とかして見つけてください。徹がここに帰ってこれるように。どうか……よろしくお願い致します」
　深々と頭を下げる滝川さんの姿を見て、私は内心、何だか大変なことになったと思っていた。遺体を見つけることなんて果たして出来るんだろうか？

　その後、駅前で彼女と別れ、家に帰った後も私はずっと落ち着けなかった。
「今夜、午前二時四十分にあなたの家の前に行くわ。何だかそこで全てが終息する。そんな感じがするの」
　摩耶さんというのは不思議な人だ。私と同じ歳なのに、何十年も年上みたいな、全てを悟っているような神秘的な瞳。彼女は何かとても重いものを心の中に抱えているような気がする。私とは比べられないくらい、とても重いものを。

　その夜は薄い雲が夜空一面を覆っていた。昼間よりはいくらか涼しいがまだ昼の熱気が完全に抜けきってはいない。摩耶さんがやってきたのは午前二時三十五分。四十分になると空中に徹さんの霊が現れた。落下し、その姿が消えるまで摩耶さんは表情一つ変えることなくそれを眺めていた。しんと静まり返った夜の粘るような空気の中でしばらく沈黙が続く。
「……なるほど、そういうことね。判ったわ。どうして飛び降りたはずの死体が見つかってないのか」
　そう静かに呟くと、摩耶さんは後ろに立っていた私の方に振り返った。
「鈴花さん、あなたの横に誰かいるわ。でも見えない。待って、波長を合わせてみるから」
　彼女はペンダントを握り、何事か呪文のようなものを唱えた。そして私の方へ歩いてくるとすっと片手を差し出す。
「ほら、私の手を掴んで。あれが見える？」
「え……？　あっ」
　そこに見えたのは白いパジャマを着たセミロングの女性だった。祈るように胸の前に手を組み、悲しそうな目でずっと家のほうを見詰めている。彼女の足元からは白く光る紐のようなものが道路の向こうまでずっとずっと伸びている。
「彼女、ひょっとして澪奈さん？　死んでるんですか？」
「いいえ。彼女は生き霊よ。だから波長が違うの」
「え、じゃあ、あの紐みたいなのは」
「あれが霊体と身体を繋いでいるの。今、辿ってみたらあれは森の郷病院まで繋がっていたわ。私、昼間の話で思い出したのよ。森の郷病院の『眠れる天使』の噂をね。五年前に突然植物状態になって、そのまま現在も目覚めない天使のような女性が別病棟にいるっていう噂。彼女がその天使よ。ねえ、そこの方、あなたにも見えるんでしょう？」
　私は驚いて振り向いた。そこにはこの間の中年男性がいつの間にかやってきていた。摩耶さんは彼に近付くとそっと肩に手を触れた。男性ははっとしたように私の横を凝視した。
「……ええ……見えます。見えますとも」
　男性はそう小さな声で呟くと、ぽろりと涙を流す。
「申し訳ない……本当に申し訳ない」
　摩耶さんは身体を震わせて泣き出した彼にそっと声をかけた。
「話を聞かせていただけますか？」
　
　真夜中、居間のテーブルに腰掛けているのは黒いワンピースの女性と向かい合って座るグレーのスーツの中年男性。何だか妙な光景だ。私がコーヒーを淹れて席に着くと、黙り込んでいた男性がぽつりぽつりと話を始めた。

　私は村野啓介という者です。五年前の八月二十二日の深夜。私は同僚と飲みに行った帰りにこの家の前の道を通りました。相当酒を飲んでいた私は突然、何かの上に乗り上げたような気がして車を停めて降りてみました。車の時計は二時四十分でした。どんよりと曇って今にも雨が振り出しそうだったのを覚えていますよ。するとそこには水色のＴシャツを着た男が倒れていました。触ってみましたが、頭から血が流れていて既に息がありませんでした。私は彼を轢き殺してしまったんです。その頃、私は大きな商社に勤め、順風満帆な人生を送っていました。もし事故がばれたら、全ては帳消しになってしまう。不幸のどん底に突き落とされてしまう。それは嫌でした。慌てて周りを見回すとアパートも他の家々もしんと静まり返っている。誰も気付いてはいないようでした。だから私は急いで彼の死体を車のトランクに詰めました。そしてここから一時間ほど走ったところの山の奥に向かいました。途中から猛烈な雨が降り出したのを覚えています。山の中に入って死体を降ろし、埋めてきました。私は家庭菜園もやっていたので、トランクの中にスコップも入れてあったんです。でも、それからの私の人生は酷いものでした。どうしても罪の意識が消えず、仕事の成績が下がってリストラされ、妻と子供は家を出て行きました。今は小さなスーパーに勤めて細々と暮らしています。
　私はずっと時効が来るのを待っていました。轢き逃げの時効は五年。それが過ぎれば少しは心も落ち着くだろう。そう考えていました。ところが数日前から、私の夢の中に女性が現れるようになったんです。さっき見た女性です。彼女は私の前に悲しそうな顔で立って、繰り返し繰り返しこう言うんです。返して、返してってね。それはまるで私を戒めているようでした。やったことを隠し通して自分を赦す気でいる私を非難しているように思えたんです。

「だから、あなたは昨晩、ここに来たんですね。花束を持って」
「ええ。昼間花束を買って、時間が来るまでずっとファミレスで待っていました。ここにあったアパートが壊され、家が建ったことも知っていたので道に迷うこともありませんでした。ここに花束を置いて謝ったら夢の彼女も消えてくれるかと思ったんです。でもそれは甘かった。昨夜も彼女は私の夢に現れました。それに、ここで会ったあなたのことも気になっていたし、だからまた私はここに来てみたんです。あなたは彼の身内の方ですか？」
　村野さんはそう言って私を見た。
「いいえ、違います」
「そう、彼女は身内じゃない。それに大事なことをひとつ言っておきましょう。あなたは轢き逃げをしていないわ。あなたは飛び降り自殺した男性を轢いたのよ」
　そうか。地面に叩きつけられた男性の身体がしばらくしてからまたぐしゃりと音を立てたのは、車に轢かれたからだったのか。
「ほ……本当ですか！」
　村野さんの目が驚愕で大きく見開かれた。全身の力が抜けたようにがっくりと椅子の背に凭れかかる。
「それじゃ……私は……」
「でもその時、彼が即死していたかどうかは判らないけれどね。それにあの晩は集中豪雨があって道が川のようになったから、流れた血の跡も綺麗に流されてしまった。あなたにとっては幸運だったと言えるでしょうね。でもあなたは大勢の人を不幸にしたのよ。死んだ滝川さんの両親は今でも返らぬ息子を待っているし、彼の婚約者だった澪奈さんは未だに植物状態よ。あなたの人生は自業自得。きっと死体が見つからない限り、彼女の夢は見続けることになるわ」
　村野さんはしばらく黙っていたが、やがて深く溜息をついた。
「警察に言って全てを話します。死体を埋めた場所もだいたい判っていますから」
「それなら、私と明日バイト先の店長のところに行きましょう。その人、元警察官なんです」
　村野さんは私の方を見て、少しほっとしたように少しだけ微笑んだ。
「ありがとう。そうしてもらえますか？」
「判りました。で、摩耶さん。澪奈さんはいったい何故、植物状態になったのかしら」
「彼女はもともと体内から無意識に幽体離脱する癖があったんだと思うの。あの日も結婚を反対された彼の元に霊体だけが来ていたのね。ところが、彼は彼女の目の前で飛び降り自殺をして、その上、車に轢かれ、連れ去られてしまった。ショックを受けた彼女は霊体が身体に戻らなくなり、五年間ずっと彷徨い続けていたのよ」
「でも、どうして今になって村野さんの夢に現れたのかしら」
「はっきりとは言えないけれど、たぶん時効が近付いて村野さんの意識が事件現場に向いたのと、彼女の意識の波長が合ったのかもね。正直言うと霊のことって、私自身もよく判らないことがあるのよ」

　翌日、私と村野さんは店長に話をしに行った。自分のことは内緒にと摩耶さんに念を押されたので話の辻褄を合わせるのに苦労したし、霊のことを信じてもらえるかどうかも不安だった。だが店長さんはオカルトな話が大好きな人だったので村野さんのことは警察に話をしてもらえることになった。
　十数日後、近隣の山から五年前に行方不明になった男性の遺体が発見されたという記事が新聞に載った。それと並ぶように五年間、植物状態にあった女性が奇跡的に目を覚ましたという記事があった。

　彼女は彼の霊に会えただろうか。旅立つ彼を見送ることが出来ただろうか。私はきっと会えたと信じている。なぜなら、あれ以来、二時四十分に霊を見ることはなくなったからだ。
　今でも私はいろいろな霊に出会うが、もう以前ほど驚くことはなくなった。心の中で小さく冥福を祈ることも出来るようになった。あれから摩耶さんには何回か会って話をしたが、大学を卒業してからは連絡を取っていない。
　最後に彼女に会った時、立ち去る彼女の後から何羽もの鴉が寄り添うようについて行くのを見た。その鴉と彼女が話をしていたように思えたのは……きっと気のせいだろう。
#right(){
【了】
}

.
.
.    </description>
    <dc:date>2009-02-10T08:43:29+09:00</dc:date>
    <utime>1234223009</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/1.html">
    <title>競作TOP</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/1.html</link>
    <description>
      #center(){
#image(rogo-cmwc.gif)
&amp;blanklink(電脳ミステリ作家クラブ){http://cmwc.hp.infoseek.co.jp/}
#image(castle5.jpg)
}
#center(){**CMWC NONEL COMPETITION
}

　ここはCMWCによる競作の作品展示ページです。CMWCでは年に一回程度、毎回異なるテーマで競作イベントを開催します。
　開催期間中は、会員はもちろん、会員以外の方も出品された作品を読むことができます。また感想を書いたり、投票もできます。どうぞ、ご一緒にお楽しみ下さいませ。
 ※これだけは必ずお守り下さい！※
 作品の著作権は全て作者にあります。
 無断での引用・転載は、たとえ一部でも禁止します。
 アイディアやプロットの盗用も厳禁です。

　尚、イベント終了後の作品についても、読むことができます。ただし、作者の都合によりリンク先の変更や削除、または一部限定の公開に変更されることがあります。ご了承下さいませ。
*限定公開作品について
　末尾に&amp;color(red){★}印が付いた作品は、登録した電ミスのメンバーで、閲覧希望者のみの閲覧になります。申し訳ありませんが、他の方は読むことが出来ません。あしからずご了承下さいませm(_ _)m。
　詳しくは、右の「ご案内」をご覧下さい。
　

#javascript(){
&lt;!-- ACR アクセス解析Ver4.1(wiki)タグ開始 --&gt;&lt;SCRIPT TYPE=&quot;text/javascript&quot; SRC=&quot;http://log08.v4.ziyu.net/js1.php?1V17365XE12&quot;&gt;&lt;/SCRIPT&gt;&lt;NOSCRIPT&gt;&lt;A HREF=&quot;http://www.ziyu.net/&quot; target=&quot;_blank&quot;&gt;&lt;IMG SRC=&quot;http://log08.v4.ziyu.net/js_no1.php?1V17365XE12&quot; alt=&quot;アクセス解析&quot; BORDER=0&gt;&lt;/A&gt;&lt;/NOSCRIPT&gt;&lt;!-- ACR アクセス解析Ver4.1タグ終了 --&gt;
}    </description>
    <dc:date>2009-02-10T08:37:14+09:00</dc:date>
    <utime>1234222634</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/33.html">
    <title>消えたマジシャン、残されたシルクハット</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/33.html</link>
    <description>
      *CMWC NONEL COMPETITION1
**消えたマジシャン、残されたシルクハット
#right(){作：雨沢流那}
（問題編）

　そこにはマジシャンがいなかった。あるべきはずのモノが、あるべきはずのところにないのは、気持ち悪い。
　いや、本当はそうでないのだ。気持ち悪いのはただ、誰一人として入ることも出ることも出来ないはずの部屋に、ぽつんとシルクハットだけが転がっているという事実。雪深き土地の別荘の一室、真っ赤な絨毯に立派な暖炉、それしかない部屋の真ん中に残された、シルクハット――。
　けれど私には、なによりマジシャンがいないということこそが、おかしいことのように思えた。なぜならそのシルクハットが、マジシャン無しで存在することなど、今まで一度も見たこともなかったから。
「シルクハットは、マジシャンの必須アイテム。私がこれをはずすのは、眠る時と、お風呂に入る時と……お客様を驚かす時だけ」
　そう言っていつも、はずしたシルクハットから鳩や万国旗や、時にはお客の財布を引っ張り出して、驚かす。それが、先生の十八番だったから。
「しっかしまぁ、シルクハットだけ残して消えるって、どういう事だろうなぁ」
　そうつぶやいたのは、先生のお弟子、そして私の兄弟子の宮越さん。
「あの先生がシルクハットしてない姿なんて、見たことないよ」
　そう、そのとおり。マジシャンの備えとして、先生はいつもタキシード、しかも、マントつき。仕事のときはもちろん、飲み会などの食事のときや、新幹線での移動のときでさえ、正装を崩さない。当然、その頭にシルクハットがのっていないことも、ない。だから、私でさえ、先生の「普通の服装」なんて、一度たりとも見たことがないのである。
　なのに、ここにシルクハットだけが残っているなんて――
「先生は消えたんだ」
　そう高らかに宣言したのは、先生の熱心なファンにして、ここ、紅雪荘の主、赤松隆雄さんだった。
「先生は、シルクハットを残して、最後の大マジック、人間消失をやってのけたんだ」
　確かに、その言葉に思わず頷いてしまう自分がいる。
　スポットライトに照らされたステージの上、一礼するマジシャン。まるで、ステッキの一たたきとともにポワンと煙が舞い上がり、気付けばステージに残されているのは、シルクハットだけ。まるで、シルクハットの中に用意されたホールからタイムワープしたみたいに、見事消えてみせたマジシャン。私が思い描くのは、そんな情景。でも、舞台でないこの部屋には、地下に落ちる抜け穴など用意されていないのに……。
　人間消失――。
　どこにも出口のない密室から、シルクハットだけをダイイングメッセージのように残して消えた、一人のマジシャン。目の前の状況は、人間消失としか言えないような状況だった。


　物語のはじめとして、とりあえず登場人物を紹介したいと思う。
　まず、年齢不祥、ベテランカリスママジシャンにして、私の尊敬する、先生。先生は元々、マジシャンの腕ももちろんだったけれど、そのマジックの見せ方のうまさで人気を得たマジシャンだった。ようは、芸に華があったのだ。それに、普段から正装を崩さない、というパフォーマンスや、なかなかに甘いマスクも手伝って、人気は抜群。だから、純粋なマジックのファンばかりでなく、熱狂的なファンも多くついている。
　そして、その一番弟子、最近は単独でも仕事こなせるほどの腕を持つ、宮越さん。年齢は、三十代半ばくらいだろうか。先生と芸風は違うものの、独特の軽いノリでの演出がうまい。もちろんマジックの腕も、私なんかが言うのもおこがましいけれど、たいしたものだ。それに、不器用で覚えの悪い末弟子の私を加えた三人が、この夜紅雪荘に呼ばれたお客である。
　次に、ここ紅雪荘の主、赤松隆雄さん。年齢はよく知らないけれど、三十代すぎくらい、と私は見積もっている。なんでも、子供の頃初めて見て感銘を受けたのが、先生のマジックだったらしい。こんな山奥に家を構えるだけあって、アウトドア好きのがっしりした人だ。そして、好対照にたおやかな雰囲気の美人妻、赤松雪子さん。「紅雪荘」の名前は奥さんの名にちなんで、ということだそうだ。もちろん奥さんも先生の大ファンであるのは言うまでもない。そしてさらに、お二人の一人娘、小学校二年生の、歌乃都ちゃんだ。えらく変わった名前で最初はビックリしたものの、最近の子供はこういう凝った名前が多いらしい。年の割に、言いつけられたことはちゃんと聞く、素直でいい子である。
　今回私たちが紅雪荘を訪れたのは、先生の熱心なファン、赤松さん夫妻から招待を受けたからである。実は、前々からお誘いは受けていたのだけど、仕事が忙しかったりでなかなか機会がなく、紅雪荘を訪れるのは今回がはじめてだ。
　本来、私たちはこういう招待を受けたりはしない。たくさんいるファンの招待をいちいち受けてはいられないし、どこから仕事なのかの境界線が曖昧になってしまうからだ。ただ、赤松さんは先生のスポンサーとして随分協力して下さっていて、私たちとしても正直頭が上がらず、その熱意に押し切られた形になってしまった。もちろん、一友人として招待を受けているわけだけれど、そこは律義な先生だから、日常の合間にいくつか小粋なマジックは披露している。もちろん私は「大変そうだなぁ」と横で眺めるだけである。

　「事件」が起きたのは、私たちが紅雪荘について、二日目の夜だった。夕食が終わり、先生、宮越さん、私の三人は、居間でくつろいでいた。隆雄さんは、何やら体調が悪いとかで部屋にこもってしまった。また、雪子さんは食事の後片付けにとキッチンへ。そうすると、手持ちぶさたなのが歌乃都ちゃんである。そこで、暇を持て余す私たちに、これ幸いとじゃれ付いてくる。
　私も子供の嫌いな性分ではなく、普段この年齢の子に接する機会のない新鮮さもあいまって、実は初対面のくせにわいわいとかまっていたら、すっかり気に入られてしまった。　やがて、もうすぐ九時になろうかというくらい、先生は壁の時計を見上げたかと思うと、何も言わずにぷいと席を立った。その後ろ姿に声を掛ける。
「あれ、どこへ行くんですか、先生」
　だが、私の方を振り返ってみせた先生は、ニヒルに一つ微笑んで見せただけで、私の問いには何も答えてくれなかった。そして、居間の隣の部屋のドアを開け、その中へ入っていく。その部屋、なんだっけ、なんであんな部屋に入るんだろう、と疑問に思いつつ、結局私は先生の後ろ姿を見送っただけだった。
　――しかし、それが先生を見た最後となったのだ。
　その後、私と歌乃都ちゃんは一時間ほどの間、一度も場を離れずそのドアの前で遊んでいた。その間、赤松さん夫妻の姿を見ることは、一度もなかった。宮越さんは、始終私たちの側でぶらぶらしていたが、一度だけ、トイレに立った。時間は、せいぜい五分くらい。
　そして、先生が部屋に姿を消しておよそ一時間くらいたったころ、隆雄さんが居間に顔を出した。
「体、大丈夫ですか？」
　私の言葉に隆雄さんは案外しっかりと頷きながら答える。
「ええ、少し休んだら、楽になりました。ところで、先生は？」
「いや、そっちの部屋に入ったっきり。そういえば、もう一時間くらいになるなぁ。なにしてるんだろう？」
　そこへ、台所から雪子さんが顔を出す。
「あら、あなた。起きたの。今、コーヒーでも入れようかと思ったんだけど」
「ああ、いいな。入れてくれ」
　雪子さんはうなずき再びキッチンへ消える。そしてまた五分後、香ばしい匂いとともにコーヒーが登場。それを受けて私は、先生を呼ぶべく、立ち上がって先生の入っていった部屋の、ドアを開けた。だが、その部屋の情景を目の当たりにした私は、何も言えずに立ち止まる。
　あるはずのものがあるべき場所にない、違和感。
　――何もない部屋には、シルクハットが一つ残っているだけだった。
　私は、みなの方を振り返り、言った。
「先生が、消えてしまったんですけど」


「それにしても、先生は本当にどうやってこの部屋から抜け出したんだろう？」
　宮越さんが、そうぼやく。
「とりあえず、ドアっていうことは有り得ないですね」
「おいおい、マジシャンの卵が分かりきったこというなよな」
　そう宮越さんはたしなめる。そのとおり、私と歌乃都ちゃんがずっとドアの前にいたのだから、見逃すことは有り得ない。そう私は断言できる。
「やっぱり窓？」
　そういいながら私は、雪深き土地らしく頑丈に作られた窓に近寄る。だが、そこには中からしっかりと鍵が掛けてあった。
「全部きっちり掛かってるなぁ。でも、糸か何か使えば外からでも掛けられるかも」
「いや、有り得ない。見てみろよ」
　そういって宮越さんは、窓の外を指差す。そこには、塵一つの乱れもない、雪に埋もれた庭があった。
「足跡がどこにも残ってない。無理だな」
　窓を開けて見回してみるが、足跡を付けずに飛び移れそうな場所はない。そもそも飛び移った上で鍵を掛けるなんで、不可能だ。そこで、私は目先を変えた。
「じゃあ、あれ」
　そう言って私が指差したのは、縄目模様の立派な暖炉だった。
「いやー、無理だろ。サンタクロースじゃあるまいし、いくらなんでもここは抜けられないって」
　宮越さんの言葉に、隆雄さんも頷く。
「そうなんです。これは確かに外ともつながった、実用に耐える暖炉なんですが、物が落ちてきたりしないように途中に金網が張ってありましてね。ちょっとやそっとじゃ外れない」
　その言葉を受けて、私はなんとなく暖炉に首を突っ込み、上を見上げてみた。そこには確かに、金網が張ってある。真っ黒くすすけたそれに、最近はずしたような痕跡はない。
　けれど、そこから少し視線をずらした私は、天井に妙なものを発見した。暖炉のある壁際ギリギリに、四角く区切ったような切れ目。
「隆雄さん、あれはなんですか？」
「ああ、あれは屋根裏部屋ですよ」
「なあんだ、そこから抜け出したんだ。屋根裏部屋から、他の部屋に抜けられますよね」
「ええまぁ抜けられますけれど……」
　だが、宮越さんがそれをさえぎる。
「おいおい、無理だって。あの穴せいぜい一辺三十センチくらいしかないだろ。先生細身だったから腰くらいは通るだろうけど、肩は絶対無理」
「うーん。あ、でも、サーカスとかで、トリックのために肩はずせる人とかいるんじゃないですか？　先生もマジシャンだから、そんなこと出来たかも」
「いや、それは俺も知らないけど……まぁ、仮に出来たとしても、それも無理だろ。そもそもどうやってあそこまで登るんだよ」
「そりゃ、脚立か何かを使って……」
「で、その脚立はどこに？」
「え……抜け出す時に持ち出した？」
「いや、持ち出すも何も、この部屋にはそんなもの最初からありませんでしたよ。それに、屋根裏っていっても狭いから、そんなものの入る余裕はありません」
　と、雪子さんに否定される。
「じゃあ縄で」
「縄につかまりながら肩はずすの？」
「……無理ですね。――じゃあ暖炉をよじ登って……余計無理だ」
　そういって私は、床にはいつくばった状態のまま、ため息をつく。
　――それにしても、先生はなんでこんな事をしたんだろう？
　そこで私は振り返り、間違いなく先生のものであるシルクハットの方を見やる。「消える」だけならまだ分かる。先生は割合そういう稚気のある人だったから、ここまで大掛かりじゃなくても、いたずらみたいなことは好きで、私などよく引っかけられて、からかわれたりした。でも、なぜわざわざシルクハットだけを残すのかが分からない。ひょっとしてあれは、先生のメッセージなのだろうか――。
　先生が、そろそろマジシャンを引退するかもしれない。それは、ずいぶん前からささやかれていた噂だった。もちろんそれは噂で、先生が具体的に何かを言ったとかではない。
　でも、ここ数年、先生の腕が衰えてきている、というのは、少なくとも内輪では周知の事実である。そもそもマジックのネタなど数限りなく思いつけるわけではなく、年と共に衰えはやってくるのだが、若い頃は華やかな人気を誇っていただけに、余計に衰えは目立つ。
　なにより、先生自身、マジックの腕よりも、ミーハー的な人気に頼っていることに嫌気がさしているのではないか、などと私は邪推していたりする。ようは、ヴィジュアル系ミュージシャンが、外面と本心とのギャップに疲れる、というやつだ。もちろん先生はそんなことおくびにも出さないけど、疲れは、明らかな技のキレのなさとなってかえってくる。それは、悲しいことに私にさえも見えてしまうくらい。
　そう、思い出した。そういえば先生は常々言ってきたのだ。
「シルクハットを捨てる時が、マジシャンを引退する時」
　部屋に、ぽつねんと捨てられたシルクハット。赤松さんの言うように、先生は、最後にして最高の大マジック「人間消失」を見事にやってのけ、シルクハットを残し姿を消したのだろうか――。
　そんなことを取り留めなく考えながら、ようやく体を起こす。すると、手に何やらぬるりとしたものがついた。なんだろう、と思いつつ自分の手を見た私は、愕然としてしまう。なんとそこについていたのは、何かの血だった。毒々しいほど真っ赤な絨毯、そして、その量の少なさから触るまで分からなかったが、わずかに残された、血液。これは、ひょっとして先生の血？
　そうだとしたら、まさか先生に何か――。

　人間には絶対に抜け出すことが不可能な、密室。そこで私は、手許の赤い血を見やる。そして、目の前の、閉ざされた部屋。わずかに口を開ける、人間には通ることの出来ない出口。
　その瞬間だった。まるで奇跡みたいに、本来なら愚図でどうしようもない私の脳裏に、すべての伏線を貫くとんでもないアイデアが閃いたのだった！　でもそれは、ひどく哀しいモノ……。

　みなの方を向き直り、思わず口をついて出た言葉。
「――ひょっとしたら、事件が解けたかも知れません」



読者への挑戦

　いやー、つけちゃったよ、読者への挑戦。つけていいのかな、と思いつつ。ま、スペースがないので簡潔に行きましょう。
「人間消失の謎を解くべし」
　以上です。

（問題編・終わり）
解答編はこちら↓
[[消えたマジシャン、残されたシルクハット２]]    </description>
    <dc:date>2009-02-09T19:36:24+09:00</dc:date>
    <utime>1234175784</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/31.html">
    <title>Green-eyed Monster</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/31.html</link>
    <description>
      *CMWC NONEL COMPETITION1
**Green-eyed Monster
#right(){作：ジョゼファン(塩瀬絆斗)}

「ここには死体がなかったんだ。あるはずのものがあるべき場所にないのは、何か気持ち悪いな」
　宮田は確かめるように言った。大友は人を馬鹿にしたような顔でこれに応えた。
「警部、気持ち悪いっていうような問題ですか？　だって『死体が&quot;あった&quot;』なんて通報初めてですよ。これは何かありますね」
　宮田はここで彼の方を向き、何か言おうとしていたようだったが、結局それはやって来た巡査の声でなされなかった。巡査は言った。
「警部、彼女らは事件後には口裏を合わせる時間はありませんでした。それで個別に事情聴取をしたんですが……」
「どうした？」
　巡査は一目見て分かる具合に困り果てた表情を顔に浮かべた。
「おかしいんですよ。三人の供述が食い違っているんです」
　巡査はそう言うと話し始めた。

　事件は十二月十日の夜八時に起こった。その日、川端善幸の家では彼の女友達である、西、佐原、藤堂の三人が遊びに来ていた。彼女達はこの日、川端の家に泊まる予定だった。そのために、それぞれが自分の部屋（これは二階にある）でシーツの整理やらをしている最中に事は発覚したのである。一階のリビングで川端が死んでいるのが発見されたのである。

「そんなことは分かってる」宮田はいらいらした様子で言った。「で、警察に通報したっていうんだろう？」
　巡査は頭を掻きながら答えた。
「ええ、そうなんですが……、ここからがおかしいんですよ（ここで彼は「面白いという意味じゃないですよ」と冗談交じりに言ったが、宮田はこれを黙殺した）。死体の第一発見者が誰か分からない上に、死体がないときてるんです」
　大友は笑って言った。
「ははは、それはおかしいですね」
「うるせえ。お前は黙ってろ。殺人事件もお前がいると笑い話になっちまう。……それで、どういうことなんだ？」
　巡査は、はいとうなずいて言った。
「まず西さんなんですが、彼女は藤堂さんに川端さんが死んでいると聞いたんだそうです。そして佐原さんに伝えたということです。佐原さんは西さんにそのことを聞いてから、藤堂さんに伝えたのです。しかし、藤堂さんは佐原さんからそのことを聞いて、西さんに伝えたと言っているんです。誰かが一階で死体を発見して二階に行き、誰かに言ったことは間違いないんですが……。それが誰だか分からないんです。しかも、彼女達が揃って一階に降りてみると肝心の死体がなかったと言うんです。一応少し探してみたと言っていましたが……。私は面食らってしまいましたよ」
「そうすると」大友は珍しく関心があると見えて積極的に口を挟んだ。「全員が共犯なんじゃないんですか？」
「馬鹿野郎。だとしたら何で警察にすぐに通報したんだよ？　そのまま逃げればいいものを」
「あ、そうですね。やっぱり共犯ではないでしょうね」
　巡査は大友を横目でちらりと見てから言った。
「鑑識が一通り調べましたが、何もでませんでした」
　宮田は大きなため息を一つついた。それを見た大友は彼に言った。
「警部、ため息は極力つかないほうがいいですよ。幸せが逃げる、とかいいますしね。僕の実家のほうでは百回ため息をつくと死んじゃう、なんていわれてましたよ」
　宮田は大友をにらみつけて言った。
「お前は馬鹿か？　そういう問題じゃないだろ。とにかく、その三人に直接話を聞いてみるか」
　巡査は「三人は一人ずつ部屋にいるようにさせました。おかしなことが起こらないように……。二階です。どうぞ」と言って二人を案内した。

　西は陰鬱な面持ちで椅子に座っていた。宮田達が部屋に入ってくると彼女はすぐそちらを向いた。宮田は前置きをせずに切り出した。
「お聞きしたいことがありますが、よろしいですか？」
　西は弱々しくうなずいた。
「あなた達は川端さんと親しいそうですね。まずお聞きしたいんですが、他の二人は川端さんとはどういう感じですか？」
　大友は宮田が何故このような質問をしているのか、全く見当がつかなかった。さらに不可解だったのは、その様子が何かを確かめる――事実を明らかにするために――ようなものだったことである。大友は宮田に何をしているのか聞こうとしたが、それはしないことにした。西もまた怪訝な表情だったが、断る理由がないと見えて答えていた。
「みんな彼とは友達なんです。でも、いつも美紀（藤堂）は不機嫌なんです。どうしてか分かりませんけど。でも仲が悪いという訳ではないんです」
「そうですか。この家によく泊まりに来るんですか？」
「ええ。大体二ヶ月くらいに一度は」
「川端さんですがね、どこに行ってしまったんでしょうかね？」
　西はうつむいて答えた。
「私にも分かりません。でも美紀が『彼は死んでいる』と。あれは本当だったんでしょうか？」
　宮田は曖昧に返事をした。はっきりしない返事の代わりにもう一つ質問をした。
「警察に通報したのは誰でしたか？」
　答えはすぐに返ってきた。
「美紀です。沙耶（佐原）は反対していましたけど」
　宮田は礼を言って部屋を辞去した。次に向かったのは佐原がいる部屋であった。
　
　佐原はベッドに腰掛けており、なにかの本を読んでいたが、ノックが聞こえ、宮田達が入ってくると、本をそばの机の上に置いた。
「お聞きしたいことがありまして」宮田はそう言うと、西のときと同じように進めていった。「他の二人は川端さんとはどのような感じですか？」
　佐原は西と同様に不思議そうな顔をしたが、すぐに答えた。
「私たち、高校の頃から一緒なんです。だいの仲良しで、二ヶ月に一階はこうしてこの家に泊まりに来て遊ぶんです。お互いに友達だって認識してるんですけど、どうやら美紀は川端君のことが好きみたいなんです。でも、まなみ（西）は川端君と一番仲がいいですから、もしかしたら嫉妬しているかもしれません。本当のことは分からないですが」
　宮田はよく分かったという風にうなずいてみせてから言った。
「警察に通報されたのは？」
「美紀です。私ははっきりしていないことだから止めたほうがいいって言ったんですけど」
「それは賢明な判断です。しかし、行方不明ですからね。ところで、その彼はどこに行ってしまったんでしょうかね？」
　佐原は少し考えているようだった。
「彼は……どこに行ったんでしょう。分かりません」
「そうですか。ではこれで……」
　宮田達は部屋を後にして、最後に藤堂の部屋に向かった。

　藤堂は宮田達が部屋に入ってきた後もうつむいていた。宮田はなるべく精神を乱させないように言った。
「ちょっとお聞きしたいことがあるんですが、よろしいですか？」
　藤堂は顔を上げ、静かにうなずいた。宮田の最初の質問は先の二人のと同じものだった。藤堂もまた前の二人と同じような反応を見せた上に、話し始めるところまで同じだった。
「川端君と私たちは高校のときから一緒なんです。当時からよくみんなで遊んでいました。でもまなみは……川端君と付き合っているんじゃないかしら。友達関係を壊すようなことですよ。私はあまりいい風に思いません。でもそれが顔に出ちゃってたかもしれないですけど」
「なるほど。よくこの家には泊まっていたんですか？」
「はい。二ヶ月に一度くらいです」
「警察に通報されたのはあなただということですが？」
「はい、そうです。沙耶は何か反対していましたけど」
「まぁ、人がいなくなってしまった訳ですから、あなたが通報したのは間違いではなかったですね。ところで川端さんはどこに行ってしまったんでしょうかね？」
「さぁ、分かりません。隠れたりするような人じゃないから」
「ありがとうございました。どうも失礼しました」
　宮田はそう言って部屋を出た。
　
　一階に降りてくると、宮田はまたため息をついた。大友はここで久し振りに口を開いた。
「警部、ため息はやめてくださいよ。こっちまで沈んできちゃうじゃないですか。どうしたんです？」
「なぁ、男と女の間に友情は成立すると思うか？」
「ど、どうしたんです警部、急に。まさか、警部、女の人と……」
「馬鹿。そうじゃない。川端って男と女が三人。組み合わせとしてはおかしなもんじゃないか」
「警部、友情は成立しますよ。時代の流れ、っていうんですか？　警部ももう少し柔軟な頭を……」
「もういい。お前に話したのが間違いだったな。とにかく、全員を集めてくれ」
　大友はここで飛び上がらんばかりに驚いて言った。
「まさかもう何か分かったんですか？　僕には何がなんだかさっぱりですよ。事件はどうなったんです？　三人の証言の食い違いとかはどうなんです？」
　宮田はこれを無視して無言で大友に命じた。&quot;早く行け&quot;。

　まもなく、三人が一階のリビングに集められた。彼女達は何があったのかとしきりに周りの警官達を見ていた。すぐに宮田が一同の前に進み出て、口を開いた。
「この奇妙な出来事について説明をするために皆さんには集まっていただきました」
　三人はお互いを見つめ合っていた。見知らぬ土地に置き去りにされたような様相だった。宮田は混乱する彼女達を尻目に話し始めた。
「あなた方には初耳かもしれませんが、あなた方の証言は食い違っているんです。西さんは藤堂さんに川端さんが死んでいると聞いたそうです。佐原さんは西さんにそのことを聞いたそうです。しかし藤堂さんは佐原さんにそのことを聞いたというのです。これはあり得ないことなんです。誰かが死体を発見したんですが、誰もが自分は第一発見者ではないと言っているんです。実際第一発見者はいなかったのではないでしょうか」
　大友は大袈裟な身振りで質問した。
「どういうことです？　第一発見者はいないって」
　宮田は大友の方から三人の方に向き直ると、丁寧に説明し始めた。
「例えば、例えばです、西さんが死体を発見したとしましょう。彼女は二階にあがり、まず佐原さんに言います。佐原さんはそれを聞いて藤堂さんに伝えます。ここまでは辻褄が合っています。しかし、藤堂さんがもし、西さんにそのことを伝えたのなら、西さんは死体を発見して佐原さんに報告しておきながら、自分は部屋に戻って藤堂さんの口から死体発見のことを聞いたということになります。これは先程も言ったようにあり得ません。この一連の行動は全く説明がつかないのです。つまり第一発見者はいないということになる」
　大友は顎に手をやりながら言った。
「でも、そうなるとどういうことになるんです？」
　宮田はこの言葉を聞いてか、また説明し始めた。
「また別の考え方もあります。この証言の不一致からあなた方のうちの何人かが予め組んでいた場合が考えられます。まず三人の場合を考えてみましょう。これはあり得ないように思えます。なぜなら、三人が組んでいたとすれば、それぞれの証言はきちんと辻褄の合うものになっているはずだからです。証言が食い違えば疑いの目は否応無しに向けられますからね。となると、あなた方の二人が組んでいたということになります。その中の一人は分かっています。それはある事実から判明しました」
　一同は動揺を隠せないようだった。しかし、皆しっかりと宮田の話を聞いていた。
「藤堂さん、確かあなたが警察に通報されたんでしたね？」
「は、はい」
「佐原さん、あなたはなぜそのとき通報することに反対したんですか？」
　全員の目は一気に彼女に向けられた。彼女の顔は青ざめていた。
「そ、それは、はっきりしないことだからやめたほうがいいと思って……」
「なるほど、確かにあなたはそんなことを先程も仰っていましたね。しかし、&quot;死体があった&quot;という事実があるにもかかわらず、なぜあなたはそのような選択肢を取ったのですか？　おかしなことじゃないですか。反対する理由は全くないのにあなたは反対した」
　一同は固唾を飲んで宮田の次の言葉を待っていた。
「このことと先程の証言の不一致のことを踏まえるとあることが分かるのです。第一発見者がおらず、&quot;死体があった&quot;という事実があるのに、警察への通報を反対する理由が生まれる場合は、&quot;この事件は嘘だった&quot;というときのみです」
　大友は大声を上げていた。場は騒然となっていた。宮田は手で静かにするように促してその先を続けた。
「どういう意図があったか知りませんが、とにかく佐原さん、あなたはあとの二人のうちのどちらかとこの嘘を計画したんです」
　大友は何かに気付いたかのような顔だった。そしてそのことを我先に、というように口にした。
「ということは、川端さんはまだ生きているということですね」
「そういうことになる」
　佐原は藤堂と顔を見合わせて観念したように頭を下げて言った。
「すいません。ご迷惑をおかけしました。警部さんの言う通りです。これは嘘だったんです」
「なぜそのような嘘を？」
　藤堂はしぶしぶ口を開いた。
「この場で言っていいのか分かりませんが、これは川端君と一緒に計画したことなんです。川端君はまなみにプロポーズをしようとしていたんです。それで今回このような嘘をついてまなみを驚かせてプロポーズをしようということになったんです。それがこんなことになってしまって……」
　大友は安堵の表情だった。
「そうだったんですか。それはおめでたいですね。これから川端さんのところに行きましょうよ。プロポーズといきましょう！」
　西は頬を赤らめていたが、それは全く予期していないことが起こったからであるようだった。佐原と藤堂も肩の荷を降ろしたように元気になり、裏庭の物置の中に隠れているんです、といって一同を案内した。その場にいた警官たちはその後についていき、お祝いムードは最高潮になった。大友にいたっては踊りだす始末だった。それ以上ひどくなるのを宮田に何とか抑えられたのだが。
　一同は緊張の面持ちで物置の前に到着した。なぜかその場の指揮を取っていたのは大友だった。
「さぁ、開けますよー。ご対面！」
　物置の戸が静かに開けられた。次の瞬間、一同は目を疑った。そこには変わり果てた川端の姿があったのである。悲鳴が響き渡った。
　三人はすぐさま現場から離れるように言われた。どの顔からも恐怖が読み取れた。三人が遠ざけられると、すぐに捜査が始まった。

「腹部を二回刺されています。出血死ですな。死亡推定時刻は大体一時間ほど前、といったところでしょうか。つまり、午後八時ごろと見て間違いないでしょうな。それにしても人生最後の場所が物置とは……」
「警部、死体に刺さったままになっている包丁ですが、これはこの家のものに間違いないそうです。台所にあるのを三人は知っていたようです。お約束といいますか、指紋はありませんでした。きれいに拭かれた後手袋か何かで指紋が残らないように犯行に及んだのでしょう。それと、ポケットからは指輪が発見されましたよ……」
　次々と報告が入り、現場はいっそう緊張感が増してきた。三人にも再び事情聴取が取られた。問題の時間、三人はアリバイはなかった。捜査が始まって一時間ほど経ったころ、大友が思案ありげに宮田の元に近づいてきた。
「警部、犯人は佐原さんしかいませんよ。ほら、言ってたでしょう、警察に通報するのに反対していたって」
　宮田はじっと彼の話に聞き入っていたが、やがて叫ぶように言った。
「そうか、そうなんだ。大友、そうだよ！」
　大友は宮田の下について初めて手柄を立てることが出来たと内心大喜びしていた。早速宮田が全員を集めるように言うと彼は足取りも軽く去っていった。

　再び三人はリビングに集められた。先程と違うのは、幸せが抹殺されたために悲しみが増したこの雰囲気だけだった。三人もひどく沈んでいるようだった。重い空気の中、宮田は一同の前に進み出て話し始めた。
「まさか事件がこのような展開をみせるとは思いもよりませんでした。お察しします。しかし、これからこの事件の真相についてお話しようと思いますが、ご勘弁ください。
　さて、川端さんを殺害したのは誰か。犯人は藤堂さんと佐原さんの二人の内のどちらかです。なぜなら、川端さんがあの物置に隠れていることを知らなくてはいけないからです。佐原さん、あなたもこのことをご存知でしたね？」
　一斉に全員の視線が彼女に向けられた。「まさか、彼女が犯人？」という声も聞こえた。
「さらにあなたは藤堂さんが警察に通報するのに反対した。なぜなら事が厄介になるからです。&quot;嘘なのに警察沙汰になっては困る&quot;からです」
　大友は目を丸くしていた。
「え？　じゃあ彼女は……」
「犯人ではあり得ない」
「じゃあ犯人は藤堂さん？」
　藤堂は驚きの表情だった。
「ちょっと待ってください。なんでそうなるんですか？　私は――」
「説明しましょう。私は全ての事柄が、あなたが犯人だといっていると考えています。まず、私はあなた方一人ずつと話をした訳ですが、そこであることが分かったのです。考えの違いなんです。私はこう思いました。西さんは男と女の間に友情は成立すると考えており、藤堂さんはそう考えていなかった。佐原さんはその二つの考えを客観的に見ている立場だと。今回の&quot;嘘&quot;は幸せに満ちたものだったはずです。しかしこうして殺意は生まれています。殺意を生み出したものは嫉妬心です。それを持つことが考えられるのは藤堂さん、あなたしかいないんですよ」
　藤堂は大声で言い放った。
「そんな、そんなことで私が犯人に？　いい加減にしてください！」
「まだあるんですよ。それも決定的なことが。佐原さんが警察への通報を反対したのは、最初この事件が嘘だと知っていたからです。あなたも知っていた。しかしあなたは警察に通報したのです。あなたはある心理の裏を突いたのです。&quot;嘘の殺人ならば、警察には通報したくないはず&quot;です。これは周知の事実です。だから犯人もこのことは容易に気付いていたはずです。しかし犯人はもう一つ重要なことを知っているのです。それは&quot;この殺人は嘘ではない&quot;ということです。だから変に警察への通報に反対してしまっては逆に怪しまれる。だから自発的に通報する必要があったのです。その証拠に藤堂さんは西さんよりも早く通報することにしている。そうすることによって本当の殺人が明るみにでた場合、自分は容疑者から外れることが出来る。&quot;犯人なら自分から警察に通報はしないだろうと考えられるから&quot;です。
　藤堂さん、あなたはどうして今回の殺人が嘘でないと発覚する前から実際に殺人が起こっていることを知っていたのですか？　それはあなたが犯人だからです。どうですか？」
　藤堂は両手で顔を覆った。すすり泣く声が聞こえた。
「ああ、……ごめんなさい。……まなみが川端君と婚約するって言うから私、まなみに嫉妬して……。まなみが幸せになるのが許せなかったんです。高校のときから友情を築いてきたのに、付き合うなんて……」
　実際、嫉妬の相手に手を下さず、その相手が大切にしている人物に間接的に手を下すケースは多いという。宮田は口を開いた。
「しかし、私は西さんは川端さんと付き合ってもいなかったと思っています。先程川端さんが西さんにプロポーズをすることが判明したとき、彼女は&quot;初めて知ったような顔&quot;をしていました。元々付き合っていたのなら、相手の態度の変化は充分見極めることが出来たはずです。しかし、彼女はそうでなかった。二人は付き合っていなかったからです」
　西は宮田に促されると口を開いた。
「警部さんの言う通りだよ、美紀。私たちは付き合ってなんかいなかったの。それに私はずっと川端君を&quot;友達&quot;として見てきた。プロポーズされても断ったと思う。だって結婚なんてしたら、きっと皆とは顔を合わせられないよ。美紀は川端君のこと好きだったんでしょ？　――それくらい分かるよ。美紀は何でも顔に出やすいし、私たちずっと友達だもん――皆とはいつまでも友達でいたいじゃない。結婚でこれがギクシャクしたら嫌だよ。でも結局こんなことになって……。私が悪かったのね……。うまく言えないけど、ごめんね」
　藤堂はその場に泣き崩れた。
　嫉妬心と誤解が招いた悲劇。
　気を付けないとそれはすぐに忍び寄ってくる。
#right(){
【了】
}

.
.    </description>
    <dc:date>2009-02-09T19:35:35+09:00</dc:date>
    <utime>1234175735</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/14.html">
    <title>競作６　終了</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/14.html</link>
    <description>
      *CMWC NONEL COMPETITION　６
#marquee(窮地で始まるミステリに挑戦！？,alternate,loop=3,size=20,bgcolor=#996666,color=#ffffff)
#center(){&amp;italic(){さてさて、どんな窮地がアナタを待ち受けますことやら……}
今回の競作は、初の一般参加の方をお迎えしての開催になります(^^)。
たくさんの方々に楽しんで頂ければ幸いです！

作品公開・投票期間　(終了しました)
　2007/10/03　～　11/30(23:59:59まで)
&amp;bold(){各投票の結果は}[[こちら&gt;http://cmwc.hp.infoseek.co.jp/compe/r-c6.htm]]}

1.[[今宵、あなたとババヌキを &gt;http://www.geocities.jp/pop_1215/grandtop.htm]]
2.魔弾の射手 ※作者の依頼により削除
3.[[ミステリーの醍醐味]] 　作：嵩宮鈴子
4.[[生き返った男]]　 作：有沢翔治
5.[[アンハッピー・エンド]]　作：江沢　稽 
6.あねいもうと　※作者の依頼により削除 
7.[[仇討ち・flashback ]]
8.[[已むを得ず、無題]] 
9.[[午前二時四十分の亡霊]]

2007/12/3
会員、執筆参加者によるメール投票と「ポチッと感想」による投票により
大賞、読者賞、トリック賞が決まりました。
皆様、ご協力、ありがとうございました！    </description>
    <dc:date>2009-02-09T19:30:27+09:00</dc:date>
    <utime>1234175427</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/50.html">
    <title>已むを得ず、無題３</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/50.html</link>
    <description>
      *CMWC NONEL COMPETITION6
**已むを得ず、無題
#right(){作：塩瀬絆斗}
これまで推測していた《釣針の五種類》によれば、この記号の並びは「AIUE」を表しているのだ。躊躇うことはなかった。今の俺にはどんなことでもが手がかりとなっているのだから。この四つの記号は「ダイスケ」を示すに違いない。そして、この推測は先ほど考えた段階的複雑性にも合致しているように思えたのだ。四つの記号の一番最後のものは「け」であるが、「か行」は《直線形状》を除外してはじめの行である。つまり、この行に相当する記号は段階的複雑性において初期的な役割を担っているのではないか。「け」の《中心形状》は、Zの斜めの棒が上下の棒に対して垂直をとっている形になっている。他
の《中心形状》と比較すると複雑性の面では最も初期に位置しているだろう事が容易に想像できるのだ。それは「だ」にもいえることで、俺が手に入れている「が行」は《中心形状》が尖山型だった。段階的複雑性によれば、これ以降の行はこれより複雑な形状でなければならない。「だ」の記号はそれに合致しているように思えた。もっとも、「が行」と比較すると、《中心形状》が角形や円形で、上下に張り出しているものは複雑性の面では逆行しているような気もするのだが。ともあれ、俺は新たに「か行」、「さ行」、「だ行」を手に入れた。これならば穴埋めの作業は飛躍的に進むはずだ。（判明文字を示す。未解読文字は×）

き×し×そう××こうそくし×い××
×す××う×いえ×あい××××××い
せ×××××あ×か××い××いうこ×
×し×せおそ×く×す××せいこう
す×だ×うそ×ご×だいすけ××
×××し××い×××××んきん
し××か×さん×ん×××××う
××あ×え×だいすけ×こ×あんご
う×き×し×そう××××しかい
どくす××う×いえかいどくさ×
××で×がさ×い×う×し×

　サイモン・シンは解読作業には一種の快楽があるのだろうと言った。その通りだった。俺は今の自分が置かれた状況を忘れて解読に没頭していたのだ。
　穴埋めの後に俺に訪れたのは、達成感だった。そこには「拘束」、「成功」、「解読」といった単語が読み取れたのだ！　この解読法は間違っていないのだ。そして、これは間違いなく指示書だった。となると、どこかに「盗む」というような言葉があるに違いない。しかし、俺が次に目を付けたのは六行目の右端の三つの記号だ。穴埋めでは「んきん」となっている。俺は先ほど「監禁」という言葉が入っているのではないだろうかと推測したのだが、それに似ているのだ。しかし、これは「監禁」ではない。なぜなら、最初の「ん」の前が、二番目の「ん」の前にある記号の《中心形状》と一致していないからだ。これは「軟禁」といっているのではないだろうか。ただし、これは確実ではない。そこで俺が目を転じたのは、一番最後の一文字分の未解読部分だった。この一文字は《釣針の五種類》から、「お段」の文字を示している。そしてこれは指示書だ。ここには命令が、つまり、「～しろ」と書かれているのではないだろうか。そこで、少し考えを進めてみることにした。
　段階的複雑性だ。
《中心形状》は、「さ行」は円形が上向きに付いている。それとは逆のものもある。円形が下向きについている場合だ。これは「さ行」の次の行ではないだろうか。《中心形状》には円形や角形が上下に飛び出ているものもある。もしかすると、その前段階である、《中心形状》が上か下に飛び出ている記号が関係しているのではないだろうか。もし円形が下に飛び出ているものが「た行」だとすれば、その次の行は円形が上下に飛び出ているものがくる、という具合だ。そして上下に飛び出るものは二種類あって、右が上に出て左が下に出ているもの（右上突出）、右が下に出て左が上に出ているもの（左上突出）、だ。上突出、下突出、右上突出、左上突出……四種類だ。そしてこれに円形と角形の違いが加わり、八種類。「あ行」と「か行」はこの部類には含まれないから除外して「さ行」から「わ行」までを数えると、その数は八。笑いがこみ上げてくる。そしてどうだろう！　尖山型がその後の濁点行を示しているとすると、上下突出と右上突出、左上突出で、その数は四つになる。「が行
」「ざ行」「だ行」「ば行」だ。最後に残った「ぱ行」はこの暗号に記されなかったのだろう。
　もし、一番最後の文字が「ろ」を表しているとすると、この論理は支えられる。この記号は角形左上突出「お段」だ。円形突出型はその組み合わせが「は行」で終わる。ということは、「ま行」は角形上突出型になっているはずだ。こうなれば、芋づる式だ。「や行」は角形下突出。「ら行」と「わ行」が角形の右上か左上突出になっているはずだ。そして、一番最後の記号が「ろ」ではないかという推測はこれに競合しない。となれば、最後の記号は「ろ」だろう。さらに分かることがある。もし最後の記号が「ろ」であれば、上下突出の後には左上突出がくるのだ。現に「だ行」は左上突出になっている。「が行」が尖山上突出。「ざ行」は自動的に尖山下突出になり、その後の「だ行」が尖山左上突出になっているのだ。
　この推測を足がかりにして穴埋めを進めていくと、それはするすると解けていったのだ。

きりしまそうじをこうそくしないふを
ぬすむようにいえばあいによつてはたい
せつなひとをあずかつているというこ
をしめせおそらくぬすみはせいこう
するだろうそのごはだいすけをみ
はりにしてれいのへやへなんきん
しろほかのさんにんはべつのよう
じをあたえるだいすけはこのあんご
うをきりしまそうじにわたしかい
どくするようにいえかいどくされ
るまでにがさないようにしろ
（霧島ソウジを拘束し、ナイフを盗むように言え。場合によっては大切な人を預かっているということを示せ。おそらく盗みは成功するだろう。その後はダイスケを見張りにして例の部屋へ軟禁しろ。他の三人には別の用事を与える。ダイスケはこの暗号を霧島ソウジに渡し、解読するように言え。解読されるまで逃がさないようにしろ）

　俺はどっと疲れを覚えたが、それ以上の戦慄を覚えた。それは、この指示書に俺の名前が間違いなく記されていたからである。
　俺は狙われていた……！
　なんてことだ。なぜ俺が？　逮捕協力の情報を警察へ渡したからだ。《アイコノクラスト》が報復に動いたのだ！
　だが、この指示書には殺人の話は書いていない。「他の三人」への別の用事というのは、暴行事件のことだろうか。いや、そんなことよりも、指示書と実際の出来事の間に微妙な違いがあることのほうが気になる。それは例えば、「ナイフを盗」ませるようにいっているにもかかわらず、俺は包丁を盗むように強要された。俺に暗号を渡したのはダイスケではなく、あの蛇の男だった。そもそも、この暗号はあの四人よりも上位の人間が書いているように思える。リーダーだろうか。しかし、凶悪な少年グループである《アイコノクラスト》のリーダーの指示をきちんと遂行しないのは問題がありはしないだろうか。内部にちょっとした諍いが起きている？
　どういうことだ……。
　なにが起こっている？
　誰がダイスケを殺した？

６、コミカル・エクスプロージョン

「大丈夫か？」
　いつの間にか寝てしまっていたようだ。拘置室の外にあの刑事が立っていた。今は何時だろう。窓の外からは光が差し込んでいた。
「また話を聞きたい」
「ええ」
　俺はそう返事をして立ち上がった。しかし、同時に寝惚けていた頭に《釣針暗号》のことが浮かび上がってきたのだ。
「そうだ、俺、あの暗号を解読したんです！」
「なんだと？」
　刑事は俺がポケットから紙を取り出すのを驚いた表情で眺めていた。
　俺はすべてを説明した。
「……なるほど」刑事は難しい声を漏らした。「君ははじめから狙われていた、と。だが、それだけでは君の殺人の容疑は晴れないだろう。その文章が君の殺人の動機を後押ししているように見える。部屋に軟禁されたことによって殺害の理由が生まれたのだ、と」
「……そんな」
　朝から気の滅入ることだった。

　俺は昨日と同じ取調室で刑事と相対していた。
「彼女が今日も署に来てるぞ」
　刑事の最初の一言はそれだった。俺の脳に一気に血液が廻るのが分かった。ユウリ！
「相当君のことが心配なんだろう。『彼はいつ解放されるんですか』『彼は大丈夫ですか』と矢継ぎ早に質問されたよ。なんとも答えられなかったのが残念だったが、いい子じゃないか」
「……ええ。監禁されたときもずっと彼女のことを考えていました。……そうですか、ユウリが……」
「会ったり物の受け渡しは許されている。後で面会するといい」
「そうですね」
　刑事の姿勢が正される。目つきが変わったのが分かる。
　長い言葉のやり取りがあった。疲労感が募る。ユウリは大丈夫だろうか。
　時計を見る。午前十一時三十分。今日は……確か九月三十日だった。
　こんなときにこんなことを思うのは馬鹿馬鹿しいが、現実逃避をしたいんだろう。《電ミス》の競作募集は今日で締め切りだった。今日の二十三時五十九分五十九秒だ。とてもじゃないが、間に合わない。この時間を過ぎても投稿を許されるだろうが、それでは俺のプライドが許さなかった。ああ……、小説家になるという漠然とした夢が随分遠くへ行ってしまったような気がする。俺は家に帰れるだろうか。冤罪という言葉が耳のそばを弾丸みたいに掠めていく。そんなのは嫌だ。しかし、警察は俺が犯人であると考えている。
　俺は――……。俺がすべてに決着をつけるしかない。

　考える俺が解離していくような気がした。刑事の質問に答える俺がいて、それとは別に考える俺がいる。
　まずなんとしても解決しなければならない問題は、密室の問題だった。糸を施錠ツマミにくっつけてそれを換気扇の隙間から引っ張るというのは施錠ツマミの強度から考えて難しいだろうと思われた。それに、テープでくっつけたとすると、万が一テープが取れなかった場合に重大な証拠になるだろう。俺が現場を見たとき、施錠ツマミにはそんなものはなかった。結果としてなかったのかもしれないが、犯人が証拠を残す可能性を孕んだままトリックを実行するとは思えない。そして鍵は俺が持っていたから、犯人は確実に施錠ツマミに細工を施したのだろう。ドアノブを外したのだろうか。しかし、あのドアノブのネジは随分特殊な形状をしていた。それに、内側のドアノブを外すにはやはり部屋の中にいなければならない。換気扇を外すのも無理だろう。枠が錆び付いて動かすことも出来ない。それ以前にあそこに体を入れるにはかなりの大男でないと高さが足りない。普通の人間なら手が届くくらいだろう。そして、そんな大男だったら、あの隙間から出入りするのは不可能だ。そして、も
したとえ隙間から出入りできても、結局、枠は部屋の内側からしかつけることが出来ない。窓に関しても同様のことがいえるだろう。ドア周りは外へ通じる少しの隙間も出来ないような構造になっていた。となると、やはり犯人は換気扇の隙間から何らかの方法で施錠したのだ。そして、その方法はもはや糸しかないのだろうと思う。
　俺は刑事に言った。
「密室のことですが、犯人は糸を使って施錠ツマミを回したんじゃないでしょうか。それ以外に考えられないんです」
「ふむ」刑事は俺が犯人である可能性も考えている。そのための深い唸りなのだろう。「実はそれは試してみた」
「本当ですか？」
「ああ。ただ、テープで施錠ツマミにくっつけたんだがテープは張り付いたままな上に施錠ツマミを回転させることすら出来なかった。一本の糸では力が不足するんだ。二本や三本で、というのではない。力のかかり方が、施錠ツマミを回転させるには不十分なのだ。施錠ツマミは開錠状態で反時計回りに九十度回転するが、ツマミの上下に異なる方向で力が加わればうまくいくはずだが……そうなると、反対側にも窓がなくては難しい。それに、部屋を隔てた位置だから犯人は二人以上いたことになる。それでは、君を犯人と考えている我々は君の共犯を探さなければならない。あの子が共犯だというのなら別だが」
「バカな！」それは信じられない物言いだった。「俺は犯人じゃないし、あいつだって違う！」
　刑事は分かっている、というように軽く手を挙げて見せただけだった。

　刑事との話は大した進展も見せることなく休憩に入った。
　面会室の扉の前で、俺は少し身だしなみを整えていた。
「ソウジ君」
　昨日会ってから一日も経っていなかったが、久し振りに彼女の顔を見たような気がした。
「ユウリ」
　俺たちは互いに名を呼んで触れ合った。
「大丈夫？」
「ああ」
　しかし、彼女の顔には隈が目立って見えた。
「お前、寝てないのか？」
「……心配で」
「ダメだろ、ちゃんと寝ないと」
「でもソウジ君が警察にいるのに寝ていられないよ」
「心配するな。俺は絶対大丈夫だから」
　ユウリと言葉を交し合う。それは束の間の幸せであった。
　しかし――。
　なぜだろうか。先ほどから俺の全身を包み込むこの悪寒は。総毛立ち、粟立ち、精神がざわめく。額からは脂汗が吹き出していた。
　ダメだ。そんなのは、ダメだ。俺は去来したものを拒み続けた。
　そんなことは、絶対にない。
　だが、それは――。俺を占めていくそれは……。
　ユウリを見る視界が滲んでしまう。止め処なく涙が溢れていた。
「どうしたの、ソウジ君！」
　頭を抱える。違うんだ。違う。絶対に違うんだ。優しいんだ。そんなことなんて絶対にしないんだ。認められない。却下だ。でも涙が止まらない。信じたくない。
　――すべてを闇に葬り去るか？
　心の奥から声が聞こえる。それは解離した俺の、考える俺の声のようだった。しかし、それは紛れもない俺だった。
「ソウジ君、しっかりして！　今誰か呼んで来るから」
「……いや、いいよ。大丈夫」
　そう言うのが精一杯だった。
　確かめないと。そうだ、確かめないと。だって、これが本当のことだって決まっていないんだから。そうだ、笑って首を振るに違いない。そうだ、そうに決まってる。笑って――。
「私は犯人なんかじゃないよ」
　って！

７、AUDI, das ist “With the LEGO”!

「聞きたい、ことがあるんだ……」
「なに？」
　ユウリが俺の顔を覗き込む。それだけで、俺は何も言えなくなってしまう。でも、言った。それは彼女を信じているからでもあったからなのだと思う。
「君は……」唾を飲み込む。それは重い重い重力子だった。「なんて言えばいいんだろう……。君は、俺が、あの部屋に閉じ込められていることを、知っていた？」
「どうしたの、急に？」
　笑ってる。そうだ、そうだ。でも内奥から湧き出る、何かは俺を突き動かしていた。もしかしたらあの刑事の言葉がずっと俺の心の奥底に突き刺さって光を放ち続けていたのかもしれない。そうだ、これが俺の自家製の大義名分だって、俺は自分に言い聞かせているんだ。なぜならそれは絶対に間違っていることだから。
「この事件の犯人の条件は、まず第一に、ダイスケがあの部屋にいることを知っていなければならないっていうことだ。そして、それを知っていたのは俺とあの三人組だ。でも、実はもうひとりいる。《釣針暗号》を書いた奴だ。三人組は事件のときにアリバイがあって、犯行に及ぶことが出来なかった。俺は犯人じゃないから、自然的に犯人はその《リーダー》ってことになる」
「急にどうしたの？　もしかして、事件が解けたの？」
「まあ、そう言うことになるのかもしれない。俺は間違っていると思うけど」
「すごい！」ユウリは目を輝かせた。「さすがソウジ君だね。なんでも出来ちゃうんだから」
「そうかな……。で、その《リーダー》は俺を指名して、拘束するように言っていたんだ。つまり、俺は待ち伏せされていた。でも、どうやって俺を待ち伏せしたんだろうか。俺は自分の家の前で囲まれたんじゃないのに。犯人は、俺があの道を通るって知っていたんだ。でも、そんなことを知っている人はいなかった。――君以外には」
「どういうこと？」
　非難するような目で俺を見る。怒っているんだ。そうだ、それは当たり前だ。誰だって疑われるのは嫌いだ。信じていたいし、信じられていたいんだ。
「君は、俺が拘束されていることも知っていた。俺があの英語のメッセージで伝えたからだ。君は、あのメッセージに気が付いていた。君は俺が部屋を脱出した後に、まずダイスケに施錠を解かせた。そして転がっていた包丁で彼を殺害した。密室トリックはごく簡単なものだった。施錠ツマミにがっちりはまる大きさの輪をタコ糸で作るんだ。その輪の、施錠ツマミの上下に当たる部分に長い糸をくくりつける（輪と糸のくくりつけの順序は逆の方が効率がいい）。施錠ツマミの上から出る糸は換気扇の隙間から外へ。下から出る糸は反対側へ引っ張りたい。施錠ツマミの上下に異なる方向への力を加えたいからだ。しかしそれが問題だった。だからダイスケの死体を利用した。君はダイスケの死体を部屋のドア側の左隅に移動させて彼を滑車代わりに使ったんだ。でも、これだけだと服の生地の摩擦が強すぎて、滑車の代わりが出来ない。といって、首などに糸をかければ痕が残ってしまうかもしれない。だからゴミ袋を被せたんだ。滑りやすくするようにね。ダイスケの体を通してその糸も換気
扇から外へ出しておく。そしてドアを閉めて外へ出る。換気扇の外から糸を引っ張るんだ。施錠ツマミの上部の糸は左方向の力を加える。でも、その力だけでは不十分なんだ。しかし、ダイスケの体を滑車代わりにした下方の糸は上方の糸とは反対の右方向の力を加える。その二つの力が組み合わさると施錠ツマミはようやく回転して施錠が可能になるんだ。施錠ができたら、上方に繋いだ糸を部屋の内側方向へ強く引っ張る。すると、輪が施錠ツマミからすっぽ抜けてしまう。後は糸を引っ張って回収する。迷彩柄のバンダナは俺から《電ミス》の競作についての話を聞いたときのことから残そうと思ったのか。施錠を確認した君は、俺が来ているであろう自分の部屋へ急いだんだ。だから、君の部屋の前で、俺は君に背後から声をかけられたんだ。俺の部屋に行っていたというのは嘘だったんだ。一番の決め手は、君以外に俺を待ち伏せさせることができた人がいなかったっていうことだ。君からの連絡があって、タイミングよくあの四人組が現れたんだから……。それに、昨日の君の言葉がある
。君は実際にあの三人組の顔を見たことがないのに、連行される三人組が俺を拘束した連中だと断言していた。俺を担当した刑事は俺の話で三人の内のひとりが蛇に似ていると知っていたが、実際には見てもよく分からなかったと言っていたのにね」
　ユウリは黙って俺を見つめていた。
　どうして否定してくれないんだ。ほら、どんでん返しだ。そうじゃないと面白くない。
「はあ」ユウリの口から溜息が漏れた。「やっぱ、殺しとくべきだったのかな」
　なんだって？　今ユウリはなんて言った？　誰か巻き戻ししてくれないか。
「マスコミが少年グループって繰り返すのはいい隠れ蓑だったんだけどね。あたし女だし。女の子が《アイコノクラスト》のリーダーだなんて誰も思わないよね」
　悪戯っぽい笑みだった。なんていうことだ。いつもの彼女じゃない。
　しかし、辻褄が合うのも道理だった。指示書と実際の四人組の行動に微妙な違いがあったのは、女に扱き使われているという意識が芽生え始めたからだろう。ちょっとした反抗心が彼らをひねくれさせたのだ。それに指示書の、盗みは成功するだろう、という楽観的な言葉と、先ほどユウリが口にした言葉、「なんでも出来ちゃうんだから」。そこに、共通して俺の能力を認める姿勢が垣間見えるのだった。
「いつ分かったの？」
「つい今しがたさ……」自暴自棄だ。なんでこんなことになってしまったんだろう。「君のことを考えて、君の事を見た。その時に、神様が妙な考えをふっと投げ込んできやがったんだ……。ユウリ、本当なのか？」
「ダイスケはね、警察にあたしたちの情報をリークしてたんだよ。だから、あいつの付き合ってる女を拉致したの。そうしたら大人しくなったけど、あいつが存在する以上あたしたちはずっと危険に晒されているわけでしょ。だから、粛清しようと思ったの。でも、ただ殺すだけじゃ、ダメ。そこでソウジの出番よ。ソウジはあたしたちのメンバーの逮捕に協力した。だから、鉄槌を下そうと思ってね。そこで、ソウジに罪を被せてダイスケを粛清する計画を立てた。あは、一石二鳥ってやつ。これ、ソウジと付き合う前の話ね。計画には自信があった。部屋に閉じ込められたソウジがすぐに脱出することも分かってた。あたしのことが心配だもんね。ご苦労ご苦労。あ、でもこの隈は本物。ソウジが逮捕されるまでは安心できないもん」
　――つまり、ユウリは今回の計画のために俺と……。俺はそんな女を心から……。
　涙なんか枯れた。こんなドン底ってあるか？　何してくれてんだよ、運命の女神。その前髪を引っこ抜いてやろうか？　俺はユウリと一回もあんなこともそんなこともしてないんだぞ。その理由も今分かったが。
　そのときだった。面会室のドアが開き、あの刑事が顔を出した。
　刹那。
　ユウリの細い体が俺と彼女とを隔てる机を飛び越していた。手を付いてくるりと俺の背後へ立ち首に腕を絡ませる。その手にはバタフライナイフが握られていた。
「近寄らないで。あたしはこのまま出て行くから、邪魔しないでよね。善良な市民が死ぬよ」
　刑事はただ狼狽した。何が起こっているのかまったく見当が付いていないようだった。
「おい、やめるんだ」
「命令しろなんて言った？　邪魔するなって言ったのよ。この男の首、掻っ切るよ」
「分かった。邪魔はしない」
　刑事は両手を挙げてユウリの――こんなに可憐なのに悪魔的な少女の言葉を聞き入れた。
　俺はユウリに抵抗しなかった。できなかった。まだ信じていたから。情けないと思う。でも、彼女をずっと信じていたかった。
「ねえ、拳銃って持ってるの？」
「いや、普段は装備倉庫にある」
「じゃあ、そこに案内して」
「何を考えてる？」
「兵力増強。《アイコノクラスト》っていうくらいだから破壊能力ないとね」
　刑事は身構えたままユウリと、俺とを見つめた。
「ソウジ君は君の恋人じゃなかったのか？」
「まあ――仮契約ってやつ？」
「ソウジ君、君しか彼女を止められない。やめるように言ってくれ」
　俺は答えなかった。もし連れ去られるならそれもいい。この世なんてどうにでもなれ。
「ねえ、“ソウジ君”殺すよ」
「分かった。だが、待ってくれ。倉庫には鍵がかかってる。それを開けさせてからじゃないと中には入れない」
　刑事の目は俺に注がれていた。随分親切にしてくれた。
　恩返しなんて期待してるんだろうか。そうだろうな。武器なんか持ち逃げされたら絶対に職を失うもんな。家族はいるんだろうか。なんかいい父親っていう感じがするな。家族はいい。心の居場所だから。
　俺は自分の両手に目を落とした。随分綺麗な手じゃねえか。今まで苦労なんてそんなにしてこなかったものな。そつなく生きてきたんだ。多分これからも。
　深呼吸した。
　刑事は面会室のドアのところに立って、ユウリの進路を塞いでいるように見えた。時間稼ぎだろう。この間に狙撃部隊とかを外に待機させているんだろうか。そうしたら、もしかするとユウリは撃たれて死んでしまうかもしれないな。それはすごく惜しいし、嫌なことだ。ユウリはかわいい。優しい。理解がある。頭もいいだろう。気が利くし、スタイルがいい。こんな女の子を喪ってはいけないだろうな。それに、この先、俺がこんな子と一緒になれるなんてないだろうな。
　もう一度深呼吸した。
　どうすりゃいいんだ。外に出ればユウリが殺されるかもしれない。今下手なことをすれば俺の首から血が吹き出るだろう。どんな窮地だよ。まさに《電ミス》だ。なんで現実に演じなきゃいけないんだ。俺は書いて送るだけでいいんだ。いや、もう今日中に出すのは無理だろうな。何もかも終わりだ。俺の人生――平凡。まあ、最後にこうしてドラマが生まれたからよしとするか。警察で人質事件なんて新聞の一面だぜ。美少女が犯人で、俺はその恋人ってことになるんだろうな。
「頼む」
　刑事の口がそう動いたような気がした。
　もういやだ。
「刑事さん」俺は疲れ切った口を動かしていた。「もうユウリの好きなようにやらせてくださいな。どうせ、彼女が捕まっても《アイコノクラスト》は存続し続けるでしょう。ここで起こったことなんか些事なんだ。さあ……。俺は大人しくユウリに従います。さあ――」
「見損なったぞ」
「ソウジはよく分かってるよ。ここを出たら部下にしてあげよう」
　そうかい。
　刑事の目。俺の心を突き動かそうとする。
　そうかい――……。
　だったら、ちょっと頑張ってみてやってもいいんだぜ。
　ユウリを失う？　刑事の信用を失う？　自分の命を失う？
　否だ。
　全部取る！　新聞の一面だって、だ！
　もう俺は決めた！
「ユウリ、ちょっとごめんな」
「え？」
　俺は思い切り肘をユウリの腹にめり込ませた。そうさ、手加減なんて一切しなかった。殺す気でやった。それは半分嘘だが。
「うぐっ！」
　ナイフが手元から床へ跳ねた。ユウリが苦しんでいた。当然だ。肋骨にぶち込んだ。
「でかした、ソウジ君！」
　刑事が駆け寄ろうとする。
「ちょっと待ってください！」
　俺は倒れこむユウリを見つめた。苦しんでる姿もかわいいんだ。こいつは本当に完璧な女なんだ。ただ、ちょっとひねくれちまった。
　深く息を吸い込む。
「おい、俺はお前が好きだ！　こんな事するんじゃねえ！」
　矛盾してるかなんてどうでもいい。
　無理やりその体を起こさせる。
「こんな事して損するな！　普通の女になれ！　俺が絶対大切にしてやる！」
「ば、馬鹿じゃないの……」
　ユウリが忌々しげに俺を見つめる。
「そうだよ、俺は馬鹿だ。それでお前を好きになっちまった。でも、好きだっていうのは馬鹿でも誰でも本当なんだ。俺がお前を叩き直す。付いて来い、絶対だ。放さないぞ」
　ユウリの口元に笑みが浮かび上がった。そう、笑えばいい。かわいい女には笑顔が似合うんだ。
「……もう、好きにしてよ」
　それきり彼女は目を閉じてしまった。俺の腕に重さがさらにかかった。
「ということです。刑事さん聞きましたか」
　刑事は唖然としながらも口を開け放したまま頷いた。
「ただし」死んだ化け物が起き上がったみたいにユウリが口を開いた。「治療代はソウジ持ちでね。……すごく痛い」
「はい」

８、タイトルは最後に

　俺が諸々の用事から解放されたのは夜も十時になってからだった。
　ユウリは病院へ運ばれて、治療が終わり次第事件についての処罰が待っているということだった。これまでの《アイコノクラスト》での犯罪もこれで暴かれていくのだろうか。いや、俺が暴いていく舵取りをしなければならないのだ。それは、もうあのときに覚悟した。それに、俺は知っていた。俺の一撃で苦しむユウリの表情に、どこか安心したような響きが混じっていることに。これまでの日常から彼女は抜け出したかったのかもしれない。俺が彼女を救い、変えていくんだ。それが使命なんだ。だから、俺は彼女と出逢ったに違いない。
　部屋のベッドに倒れこんだ。
　色々なことがありすぎた。今日で三か月分くらいは生きた気がする。
　しかし、改めて驚いた。自分のあの行動力に。人は変われるのかもしれない。違いない。人を心から好きになるということが、俺を変えたんだ。
　そうさ、間違いなくユウリは俺にとって人生を転換させる運命の女神だったのだ。
　では、いっちょ、小説家の夢も……。そう思い起き上がってあることに気付いた。時計の針は十時半を過ぎていた。あと一時間半だ。間に合うか？
　まさに窮地だった。
　パソコンを立ち上げ、キーボードに向かう。
　脳裏を駆け巡っていく、これまでの光景。世界が変わって見えた。その映像が俺の指を動かしていく。文字が止め処なく溢れていく。
　――間に合え！
#right(){
【了】
}

.
.
.    </description>
    <dc:date>2009-02-09T19:23:45+09:00</dc:date>
    <utime>1234175025</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/49.html">
    <title>已むを得ず、無題２</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/49.html</link>
    <description>
      *CMWC NONEL COMPETITION6
**已むを得ず、無題
#right(){作：塩瀬絆斗}
３、デコード≒ブリタニカコピー

　見れば見るほど奇妙な記号群だった。蛇の男は丁寧にも俺に上下の向きを示したと見える。わざわざ自分の目の前で紙を半回転させて俺に手渡したのだ。記号は釣り針のような鉤型が多く見受けられた。俺はこれを《釣針暗号》と名づけることにした。
　いや、しかしなによりの優先事項はこの部屋から脱出することだ。
　俺は暗号の紙をポケットへ仕舞うとドアを叩いた。もしかしたら外には誰もいないのではないかという希望が少しだけ――まさしく針の先端ほどだけあった。
「出してくれ」
「黙れ！」
　向こう側からドアが蹴られ、大きな音がした。
「頼む。彼女が待っているんだ」
「静かにしてろ。……分かってくれ。お前を逃がすわけにはいかないんだ」
　意外な言葉だった。何か押し殺したような声なのだ。
「ダイスケといったな」これは押すしかない。「君もこんなことはやっちゃいけないって思ってるはずだ。頼む、出してくれ。一緒に警察へ行けば大丈夫だ」
　しかし、ドアの向こうから返答はなかった。思わず施錠ツマミに手が行く。開錠すると同時に向こうから叫ぶ声がした。
「ふざけんな！」すぐさまロックがかかる。「もう下手なことは出来ないんだ！　大人しくしてろ！」
「頼む！」
　だが、しかし、ダイスケはそれきり俺の言葉に答えることはなかった。
　俺は諦めて床に腰を下ろした。固く、冷たい。俺はすべてに見放されたような気持ちに陥った。仕方なくポケットから《釣針暗号》を取り出す。あいつらが俺に解読を強要したというのは、おかしなことだった。やつらはどういった経緯でこれを手に入れたのか。また、これを書いたのは誰で、何を記したのか。
　俺の脳内に疑問符が次々と沸き上がってくる。
　暗号を解読するには、鋭い観察眼と閃きが必要だとサイモン・シンは言っていた。
　じっと暗号を見つめる。
　記号の種類は二十六をゆうに超えている。これは《釣針暗号》が日本語で書かれていることを意味する。どうやらローマ字表記ではないらしい。日本語で、その表記法ならば、「子音→母音」という基本構成が立ち現れるのだ。つまり、母音に使われている記号は頻出し、それが五種類であればA、I、U、E、Oのいずれかだとすぐに分かるはずなのだ。
　さらに見ていくと、すべての記号が六種類に分けられることに気付いた。
《第一》は、釣針の形が記号の右側にのみ見られる場合だ。釣針は針の先端を上方にしてひとつだけが現れている。
《第二》は、《第一》とは反対の向きのものだ。つまり、上向きの釣針は左側にのみ見られる。
《第三》は、上向きの釣針が両端から出ている場合だ。
《第四》は、右側には上向きの釣針が、左側には下向きの釣針が出ている場合だ。
《第五》は、《第四》の反対。すなわち、右側には下向き、左側には上向きの釣針が出ている。
《第六》は、既述のものとは一線を画していた。これはただの横棒で、釣針は見られない。
　この六種類の他に釣針以外の形状があって、この二つが組み合わさっているようだ。日本語であることを考えれば、五十音になるのだろうか。
　これらの観察が何を意味するのか。《第六》が暗号中にはごく小数のみ見られる。俺はこれを「ん」であると仮定した。それならば、他の五つの場合に納得の行く説明がつけられるのだ。つまり、他の五つの場合――《釣針の五種類》はそのまま母音の数と一致するのだ。あとは釣針以外の形状の違いが行を指定しているのだろう。問題は、《釣針の五種類》のなにが何の段を示し、釣針以外の形状のなにが何の行を示しているかだった。
　子供の頃に、小説の一ページに出てくる「段」の文字数を数えたことがあった。確かホームズ物の短編だったと思う。そのときは「あ段」が一番多かった。他は頻度は拮抗していた記憶がある。
　とりあえず、何か出来ることをやらねばならない。《釣針の五種類》に対応する記号数を数えてみるしかない。俺はこの部屋に閉じ込められながらも、ユウリが無事だったという事実を頼りに、随分と冷静さを取り戻していた。
《第一》が一番頻度の高い記号だった。四十三個だ。《第二》、《第三》は共に三十五個。《第四》が三十九個で、《第五》が一番少なく十七個となった。
　子供の頃の頻度検出を頼りにすれば、「あ段」は《第一》となる。しかし、一番頻度の少ない《第五》は一体どの段を表しているのだろうか。あまりにも他と差がつきすぎている。
　俺は《釣針暗号》の紙を投げ出した。溜息が漏れる。ダメだ。これ以上は何も分からない。「ん」が分かったとしても、その数自体が五個と非常に少なく、そこから他の文字を推測することなど不可能なのだ。同じ記号の並びを調べれば、また何か出てくるのかもしれなかったが、今の俺にはそこまでの気力はなかった。
　曇りガラスの小さな窓を見上げる。すっかり外は暗くなっていた。ユウリは俺の異変に気付いてくれただろうか。あのメッセージを読み取ってくれただろうか。今頃は警察に連絡が行っているだろうか。
　静かだった。
　俺はダイスケという見張りがまだいるのかどうか確かめるために叫んだ。
「おい、出してくれ！　お願いだから！」
　ドアが蹴られる。見張りはまだ張り付いているようだった。
　ここで大声を出しても通行人に声が聞こえるかどうかは微妙なところだった。この部屋を擁する廃ビルは路地の奥まった場所にある上に、その路地は人通りが極端に少なかった。もしかすると、少年グループの縄張りという意識が近隣の住民にあって、それが人を忌避しているのかもしれなかった。
　俺は惨めな気持ちで床に放った暗号を見つめた。今は暗号はそっぽを向いたように上下反転していた。
　そういえば。
　なぜあの蛇の男はこの暗号の向きが分かったんだろうか。暗号を手に入れた際に暗号の向きだけが分かるということなどあるだろうか。また、向きだけを聞き出すなどということがあるだろうか。向きも聞いたのならば、そしてその相手（暗号の持ち主）が喋ったのなら、暗号の内容まで知っていて当然ではないだろうか。なぜ向きだけを知っていた？
　俺は高まる鼓動を胸に《釣針暗号》の紙片を拾う。
　もしかすると、蛇の男はこの暗号の内容を知っている？　しかし、なぜ俺に解読を強要したのか。
　俺は脳味噌の回転を早める。今まで自分が冷静だと思ったのは飛んだ思い違いだった。これまでの出来事はおかしなことばかりだったのだ！
　なぜあの四人組は俺に包丁を盗ませたんだ。
　なぜ俺なんだ。
　なぜ見張りを一人残して他の三人は去ってしまったのか。
　なぜ四人組は途中まで俺から携帯電話を奪い取らなかったのか。
　包丁は何に使うつもりだった？
　分からないことだらけだった。俺の状況を客観視してみれば、俺はホームセンターで包丁を万引きした窃盗犯だ。四人組は包丁を欲しがっていた。包丁は調理器具だが、それを持つのが少年グループのメンバーだとすると、瞬間的にそれは凶器へと変貌する。奴らは凶器を欲しがっていた？　しかし、それを俺に盗ませた。
　俺を罠に嵌めた？
　しかし、そういえば、蛇の男は去る前にダイスケに包丁を渡していた。ということは、出て行った三人は包丁を必要としていないということか。俺の動きを牽制するための凶器として包丁を？　しかし、それはあまりにもおかしい。
　そして、なぜ俺に暗号解読を強制したんだ。
　今まで分かったことから、どうやら奴らは暗号の内容を知っているかもしれないようだ。つまり、暗号を解読する必要はない。
　そこまで考えて俺の頭の中に去来したのは恐ろしい計画の存在だった。
　ブリタニカの複製なのだ。あの有名な短編。俺はもしかすると、奴らの計画の一端を背負わされているのかもしれない。もし、俺が盗まされた包丁が何かの事件の凶器として用いられたとしたら、その出所から俺に疑いの目が向けられるだろう。すべての証拠が俺を犯人だと物語る……。それは恐ろしい姦計だった。
　どうにかして、この部屋から脱出しなければ。
　俺は《釣針暗号》の紙をポケットに仕舞いこんで、打ち捨てられた携帯電話を回収。まずは窓を調べて見ることにした。背伸びしてようやく届くほどの高所に窓はある。クレッセント錠が遠い。足場になるものが部屋の中にはなく、とても窓を開くことはできそうになかった。この調子では換気扇の方も絶望的で、これら二つの外界への道はひどく不親切に、そして閉鎖的に配置されていた。となると、脱出口はドアひとつのみだ。
　これは賭けだ。
　俺は蹲って出来るだけ苦しげに声を上げた。
「うっ……！」
「どうした？」
　怪訝なダイスケの声がドア越しに微かに聞こえた。俺はもっと大きな呻きを上げた。
「ぐえぇ！　痛い！」
　すぐさまドアノブの施錠ツマミが回転して縦になった。ダイスケはのた打ち回る俺の姿に目を丸くして、駆け寄ってきた。右手に包丁を持っている……。
「どうしたんだ！」
　俺は相手がさらに混乱に陥るように憎悪の念を込めた視線でダイスケを睨みつけた。
「お前ら……よくも、やりやがったな……！」
「な、なんだ？」ダイスケはあたふたしている。「知らない。俺は知らないぞ！」
　それは完全なる隙だった。
　俺は横たわりながらも、ダイスケの脇の下めがけて固く握った拳を叩き込んだ。
「ぐえっ！」
　くぐもった悲鳴を上げて包丁を取り落とす。ダイスケは口を半開きにしたまま真っ赤な顔に玉の汗を浮かべて倒れ込んだ。俺はすぐさま立ち上がって彼の側に転がった包丁を蹴り飛ばした。相手もなんとしても俺の逃走を防ぎたかったらしく、懸命に手を突いて立ち上がろうとした。ダイスケを無力化する。俺は相手の頭を抱えるように両手で持ち上げると、無防備の顎に膝蹴りをお見舞いした。彼は堪らず声を飲み込んだまま気絶した。
　俺は瞬間的な集中で切れた息を整えると、ダイスケのポケットの中をまさぐっていた。いつこいつが起き上がるか分からない。仲間が戻ってくるかもしれない。まずい。早くしなければ。俺は我を忘れていた。ポケットから部屋の鍵を取り出すと、すぐに外に出てドアを閉めて施錠した。思い出すのが今だから言えることだが、ここでドアに鍵をかけても何の意味もないのだった。なぜなら、ダイスケは起き上がれば部屋の内側の施錠ツマミで簡単に外に出られるのだから。だが、このときの俺は邪悪な計画にぶち当たったという思いとこれまでの人生には経験することのなかった攻撃的な一発勝負に打って出たことで気が動転していた。何とかダイスケを部屋に閉じ込めておかなければと思っていた。
　脱出した俺の頭にはユウリのことしかなかった。もしかしたら奴らに捕まっているかもしれない。そして何よりも、心配をかけさせていると思った。
　ユウリの部屋に到着し、そこに彼女がいなかったのに気が付いたときは心臓が止まるかと思った。彼女は俺のことが心配で俺の家に行っていたらしい。突然背後から声をかけてきたのがユウリだった。
　その後の俺はユウリに事情を説明して警察を呼んだ。その警官と踏み込んだあの部屋で惨劇は展開されていたのだ。
　死んでいたのはダイスケだった。ビニール製のゴミ袋を上半身に被せられ、腹にはあの包丁が刺さっていた。部屋は密室だった。警察の疑いは俺に真っ直ぐに向かって来て、刺さった。

４、∀utumn

　目の前の刑事は、俺の長い話を聞き終えると難しい顔で唸った。そして、彼の口から吐き出されたのは疑惑たっぷりの質問だった。
「で、その残りの三人のお仲間はどこにいるんだ？」
「分かりません」
「辻褄は合ってる。が、合いすぎている。典型的な嘘のパターンだ」
「違う！」
　頭に上った血が、俺の拳を突き動かして机をぶち叩いた。書記官が驚いた顔で振り向いたが、刑事は冷静だった。
「たとえ君が本当にあの部屋に閉じ込められたとしても、それが君の殺人の動機になる。そして、それはもやは正当防衛ではない。君は死体にゴミ袋を被せた上に部屋を密室にして、あの都市伝説を思わせるように迷彩柄のバンダナを置き去った。これは殺人現場の装飾であり、純粋な殺人事件だ。それに、万歩譲ってその三人の仲間が犯人だったとして、なぜ仲間を殺さなければならない？　そこに動機はないのだ」
「物は考えようですよ。あのダイスケという男は、俺を逃がしてしまった。その過失を咎められて殺されたんだ。現にダイスケは『もう下手なことは出来ない』と言っていたんです」
　俺の目には三人の男の顔が焼きついていた。その三人さえ見つけてしまえば、俺のこの状況は打破できる。そう信じていた。
　そのとき、刑事の背後にあるドアが静かに開かれた。そこから顔を覗かせたのは狸みたいな顔の肥満体の中年男だった。
「失礼するよ」
　その声に振り向いた刑事の表情が凍りついた。
「清澄警視長！」
　清澄警視長と呼ばれた男は刑事の過剰な姿勢を手で制すると、温和な口調で言った。
「すまない、席を外してくれないかな」
　清澄は書記官にも同じように声をかけた。納得が行かないというような表情で、しかし渋々と下がる二人を見送ると、清澄は先ほどまで刑事が腰掛けていた椅子にゆったりとした動作で座った。張り出した腹を気にかけているようで、左手を添えている。左手は添えるだけ、だ。
「名前はなんというね？」
「霧島ソウジ、といいます……。あなたは？」
「警視庁の方で警視長をやっていてね」彼の持ちギャグらしい。狸オヤジだ。「まあ、世間話もなんだから、早速本題に移ろうかね。君が殺した、あの少年についてだ」
「俺は殺してない！」
　俺の剣幕にも動じない。皮の厚そうな顔。細い一重の目がじっと俺に向けられていた。
「実際のところ」清澄は静かに切り出した。「君が殺そうが、誰が殺そうが問題じゃない。問題は、誰が、ではなく、殺した、というほうなのだよ。あの少年は常田ダイスケという名前だ。彼は“綱”であった」
　綱？　何を言っているんだ、このメタボリカル狸オヤジは。
「正確に言えば、今にも千切れそうな綱――だった。彼は《アイコノクラスト》のメンバーでありながら、人としての良識が心のどこかにあったんだろう。我々警察に極秘裏に犯罪計画のひとつをリークしたんだよ。君は覚えているかね。一ヶ月ほど前、あの少年グループのメンバー数人が一斉に逮捕された事件を。あの逮捕劇のもとになったのが彼の情報だったというわけだよ。しかし、ここ最近、彼は我々との経路を断ち切ってしまった。我々警察としては、凶悪な少年グループ根絶のための大切な繋がりだった。それが失われてしまった」
　清澄は心底残念そうにそう打ち明けた。
「それと俺に、何の関係があるんですか」
「そう構えずともいい。今回の事件、彼――常田ダイスケの粛清だと私は思っている。君が殺したのならば、君が《アイコノクラスト》であるということだ」
「……なんだと」
「まあ、そういきり立つな」清澄はあることないこと言って俺の反応を楽しんでいるようだった。それが俺の神経を確信的に逆撫でしていた。「君が《アイコノクラスト》であろうがなかろうが、それも関係のないことだ。しかし、最終的には自分のためになる道を選ばざるを得なくなる。今回の殺人は、あの少年グループにとっては朗報だ。彼らは君を敵としてではなく味方として見るかもしれん。君は《アイコノクラスト》のメンバーか？」
「ふざけんな！」
　俺は机を両手で叩いて相手に飛び掛るポーズをとった。だが、ここでも清澄は微動だにしなかった。そして、部屋のまわりにいる、今の音を聞いただろう警官たちも部屋に押し入ってくることはしなかった。このオヤジ、陰では嫌われているに違いない。
「それならそれでいい。そこで私からの提案だ。君には《アイコノクラスト》へ特別捜査官として潜入してもらいたい」
　俺は耳を疑った。
「なんだって？」
「スパイだ。かっこいい響きだろう？　グループの摘発のつながりを失った我々は今の君を必要としている。君が常田ダイスケを殺した《アイコノクラスト》のメンバーであればそのままグループに戻るがいい。ただし、情報は逐一我々に渡すこと。最終的に君のグループ内での行為は不問に付される。君が常田ダイスケを殺していないのならば、そして本当に善良な一般市民であるのなら、我々と共に正義を行うべきではないかね。――まあ、今すぐに返事をしろとは言わない。私の携帯に直接連絡をくれればいい」
　清澄は番号の書かれた紙を俺の手に握らせた。
「今ここで話されたことは君と私との秘密だ。誰にも喋ってはならん。いい返事を待っているよ」
　清澄はそう言い残してさっさと部屋を出て行った。
　俺は番号の書かれた紙を握り潰すと、不快が体中を駆け巡るのを感じた。それは犯されるみたいに。
　この国の警察は腐ってる――。そう思った。

　デブオヤジが去ってからしばらくしてあの刑事が戻ってきた。刑事は俺に何も聞かなかった。じっと俺の顔を見ている。
「今」彼は静かに口を開いた。「三人組の少年が署に連行されてきた。君の言っていた《アイコノクラスト》のメンバーかもしれない。ひとりは君の言うように蛇に似ていなくもないが……どちらとも言えず判断がつかない。君はまだ容疑者扱いだが、特別にそいつらの顔を見てもらおうかと考えていた」
　思いがけない言葉だった！　俺は頭を下げて懇願した。

　俺は刑事に先導されて特別な取調室の隣室へ通された。そこは狭く、壁の一面がガラス張りになっていて、その向こうが取調室になっていた。今、その中には誰もいなかった。
「これはマジックミラーで向こうからこちらは見えない。君も映画か何かで見たことがあるだろう」
「その三人組というのはどこに？」
「今呼ばせる」
　刑事は一旦廊下へ出て、すぐに戻ってきた。
　しばらくすると、取調室のドアが開かれて、警官の誘導で三人の少年が入室して来た。その三人の先頭を切る男の顔！　それはまさしくあの蛇の男だった。
「あいつらです！　間違いない！」
「そうか」俺の叫びとは裏腹に刑事の声は冷静そのものだった。「君は別室で待機していてくれ」
「どうして！　あいつらと話をさせてください」
「ダメだ。それに、君の彼女、君を心配していたぞ。彼女もその別室に待たせてある。行ってやれ。ただし、絶対にその部屋から出るな。もし約束を破れば、本当に君を犯人だと考える」
　有無を言わせない言葉。しかし、その根底には何か優しさが満ちているように俺には思えた。俺は頷いた。

「大丈夫だった？」
　ユウリの第一声はそれだった。
「ああ。俺を信じろよ」
「うん、ごめん。でも、よかった、本当に」
　ユウリは目尻に涙を溜めて俺に抱きついてきた。
「俺こそごめん、心配かけて」
　ユウリの体は微かに震えているようだった。しかし、確かに温かい彼女の体温が俺を安心させてくれる。俺はユウリのことが本当に好きなのだ。
　俺たちは体を離すと、隣り合ってソファに腰を下ろした。そこはこじんまりとした接客室だった。ドアにはワイヤー入りのガラスが嵌めこまれていて、そこから部屋の外に見張りの警官が立っているのが分かった。気が滅入りそうになったが、先ほどまでの待遇との違いが感じられて俺は胸を撫で下ろした。
「無事でよかった」
「だから、大丈夫だって。どうした？」
「さっき」ユウリは俺の手を握っていた。「この部屋で待っているときに、ソウジ君を連れ去った人たちが連行されているのが見えたの。廊下で鉢合わせたりしたらどうしようって、私、心配で……」
「あ、そうだったんだ……。ああ、大丈夫だよ。俺の担当の刑事が結構気を利かせてくれてね。このままだと俺の疑いも晴れそうだよ。その三人組があのダイスケって奴を殺したんだと思う。もうすぐ帰れるよ。……そうしたら、ユウリが言っていた大切な話ってのもじっくり聞けると思う。あれ、なんだったの？」
　ユウリは恥ずかしそうに頬を紅潮させると首を振った。
「ううん。いいの、もう。それにこんな状況で言うようなことじゃないし」
「なんだよ、気になるなあ！」
　ユウリは悪戯っぽい笑みを浮かべてその唇に人差し指を当てた。
「ヒミツ。それより、あの電話、どうして急に英語なんか……」
「ああ、あれか。あの電話をかけたときは四人組に捕まっていた最中だっていうのは話しただろ。そこへお前からの電話があった。俺はどうにかしてSOSを送れないかって考えた。でも、直接言えば、多分俺は殺されたと思う。そこで、暗号にしてみたんだ」
「暗号？」
「そう、俺が英語で言った内容を並べてごらん。『I’m gonna be late』『 On the way to you』 『Rope your books』。この英語のそれぞれ頭の言葉を取るんだ。『I’m』『On the』『Rope』になる。『I’m on the rope(s)』は英語でどういう意味か分かるだろ？」
　ユウリの目は見開かれていた。彼女は大きく開け放した口に手を当てていた。
「『絶体絶命』！　そうか、ピンチに陥ってるっていうことを言っていたんだ」
「その通り。君には届かなかったけど……」
「ごめん。全然気がつかなかった……。早く気付いてたら警察に連絡できたのに」
「まあ、いいさ。結果こうして無事だったんだからさ」
　俺はユウリの髪の毛を撫でて、今の状況に危険なんかひとつもないことを実感するのだった。
　その闖入までは――。
　おずおずとドアを開いて入ってきたのは神妙な面持ちのあの刑事だった。
「どうでした？」
　刑事はなかなか切り出さなかった。
「俺の容疑は晴れましたね？」
「残念だが、君を第一容疑者として考えることにした」
　その声には、彼自身も意外だというような雰囲気が滲み出ていた。
「どうして！　俺はこの部屋から一歩も外に出ていないんですよ！　なんだったら、外の見張りに聞いてくださいよ！」
「そうじゃない。あの三人組に、ダイスケを殺すことは出来なかった。君にはまだ言っていなかったな。ダイスケの死亡推定時刻は午後七時半過ぎ。今から二時間前だ。君は七時半前にあの部屋から脱出したと言った。そして、湯根山さんの自宅へ行き、事情を説明した後に警察を呼んだ。それが八時頃。そして、問題の七時半頃。あの三人組は町で暴行事件を起こして警察と悶着を起こしていた。そして警官を殴った末に逮捕されたんだ。つまり、あの三人組には完全なアリバイがあるということだ」
「そんな……」
　絶句。それは紛れもない言葉の封印だった。すべての思考が停止し、足元の地面が崩れる音が聞こえた。
　だって、犯人はあの三人以外に考えられないんだ！　あの部屋にダイスケがいることを知っていたのはあいつらだけなんだから！　俺は犯人じゃないんだから！
「嘘だよね？」
　ユウリが涙を流している。
「そうさ、嘘だ。そんなことあるはずがないんだ、絶対に」
「残念だが、夢でも幻でもない。君が犯人であると言わざるを得ない」

５、In　the：　Sound　and　Gate

　署内の拘置所はひどく寒々しい場所だった。ユウリは刑事の話した内容にショックを受けているようだった。それは、信じたくはないが、真実であると認めざるを得ないといった表情だった。
　俺は犯人じゃない。そのはずだ。いや、俺が見てきたすべての光景は俺が犯人ではありえないことを示しているのだ。そんな俺でさえも、俺が犯人であると考えざるを得ない事実。何が起こったのだ。
　まさか本当に俺がダイスケを殺してしまったのだろうか。あの膝蹴りで気絶したと思っていたが、本当はあれが死因だった？　違う。刑事はダイスケの死因が包丁で刺されたことによる内臓へのダメージだと言っていた。俺がダイスケに一撃目を加えた後に蹴り飛ばした包丁がダイスケに刺さってしまったのか？　それも違う。その後にダイスケは立ち上がろうとした。その体には包丁なんて刺さっていなかった。包丁は部屋の隅の方へ飛んで行ったんだ。
　部屋の隅……。そうだ、ダイスケの死体は部屋の隅にあった。だが俺はダイスケの体を移動させていない。ゴミ袋も被せていない。そういえば、ゴミ袋はあの部屋にあったものだっただろうか。確か、未開封の二十枚入りのゴミ袋が落ちていたはずだ。あの部屋には雑多なものが打ち捨てられていた。なぜ犯人は死体にゴミ袋を被せたんだ。なぜ死体を移動させたんだ。それともダイスケ自身が死の瀬戸際であの場所まで這って行ったのだろうか。しかし、包丁は彼の腹に刺さっていたはずだ。腹を下にして這うには無理がある。それとも背中を床につけて這って行ったのか？　だが、何のために。ダイスケ自身が自分の意志であそこまで這って行ったにしても、犯人が死体を移動させたにしろ、不可解なことだった。
　そして最大の謎は、密室だった。あの部屋の鍵は俺が持っていたひとつしか存在しない。つまり、俺以外に外から施錠することは出来ない。
　密室トリック。もしそんなものがあるとすれば、犯人は部屋側のドアノブについている施錠ツマミを利用したはずだ。それ以外に施錠する手段はないからだ。しかし、それを利用するには犯人自身も部屋の中にいなければならない。それとも糸か何かを使って……？　だが、あの施錠ツマミはするすると動くようなものじゃなかった。一度内側から回したから分かる。しっかりとしているのだ。施錠ツマミは縦の状態のときに開錠されていて、それを反時計回りに回転させて横倒しにすると施錠するタイプだ。縦の状態から、あるいは横の状態から回転するそのはじめに一番負荷が必要なのだ。糸で外から引っ張るのでは力が足りないように思える。もし、外に出ることができれば試そう。あの部屋にはタコ糸があった。しかし、そういえば接着テープの類はなかった。外から持ち込んだ？　しかし、なぜダイスケがあの部屋にいると犯人は知っていたのか。刑事の話を信じるのならば、アリバイのあるあの三人が外から持ってきたテープを使って糸のトリックを施したのではなさそうだ。それに、
テープを使って施錠ツマミに糸を貼り付けて引っ張っても、やはりおそらく力が不足してしまうのだ。
　もしかすると、本当に『敗残兵の蛇男』が現れたのだろうか。その証拠に、迷彩柄のバンダナが落ちていた。あれは現場をただ装飾するだけ？　それともトリックに関連しているのだろうか。
　俺は思考の海から這い出ると、ただ呆然とした。
　拘置所内には俺以外の姿はなかった。あの三人はどうしただろうか。もっとも、同じ空間にいなくてよかったが。溜息をついたときにポケットの中にガサリと音がした。二枚の紙片。一枚は《釣針暗号》もう一枚はメタボリカル狸オヤジの携帯番号の書かれた小さな紙だった。ポケットの中は詳しく改められなかった。壊れた携帯電話は没収されたが、紙は俺の手に残っていた。
　メタボリカル……あいつは今回の事件が《アイコノクラスト》によるダイスケへの粛清だと言っていた。まさにダイスケはグループにとってユダだったというわけだ。あのような汚い契約を提案するからには、ダイスケと警察が繋がっていたのは本当のことだろう。ならば、グループに関係ない俺にはますます犯行の動機はなくなる。ダイスケと警察が繋がっていることが、俺にとってなんの損益ももたらさないのだから。
　しかし、なぜ《アイコノクラスト》は一部のメンバーが捕まるだけで壊滅に至らないのだろうか。俺は思う。それはおそらくリーダーが尻尾を出さないからだ、と。あれだけの少年グループだ。相当にヤバイ奴だろう。もしかすると、そいつが今回の事件の犯人かもしれない。しかし、警察もダイスケという綱を持っていながら、どうしてリーダーを特定できなかったのか。何か特別な連絡の手段があるというのだろうか……。
《釣針暗号》！
　俺はもう一枚の紙片に目を落とした。これが奴らの連絡手段だったとしたら！
　俺に暗号を渡した蛇の男は暗号の向きを知っていた。そして暗号の内容を知っているのではないかというところまで俺は行き着いていた。もし、これが奴らの連絡手段ならば、そこに整合性のある説明がつけられる。これを解読すれば、奴らの情報が……。
　しかし、本当にそうだろうか。自分たちの情報が書かれたものを部外者である俺に渡すだろうか。そもそもなぜ俺に解読させようとしたのか。
　いや、もっと奇妙なことがある。ダイスケを見張りに立てて出て行ったあの三人。あの三人は俺が脱出したことについてどう考えているんだろうか。刑事の話にはそこのところが語られていなかった。あの三人は俺を閉じ込めて他で事件を起こしていた。まるで、アリバイを主張するみたいに……。
　まさか。
　これはあの三人の逮捕時の話をよく聞く必要がある。だが、今は暗号の解読を優先させた方がよさそうだ。おそらく警察は、今は俺の話を聞かないだろう。

　釣針以外の形状は多数あるのが分かる。俺はそれを数える前にあることに気がついた。この釣針以外の形状には手の加えられていないただの直線の種類があるのだ。つまり、《釣針の五種類》だけが特定要素になる種類の記号だ。俺は見当をつけた。この《直線形状》は母音を示すのではないかと。ということは、《釣針の五種類》がどの段を示しているか分かれば、自動的に《直線形状》の記号が判明することになるのだ。
　しかし、この《直線形状》が母音であるならば、暗号作成者の傾向は少し読める。それは、字の順番で徐々に記号の複雑さが増していくということだ。例えば、「あ」と「め」では「め」の方が記号が複雑になっているはずだということだ。もしそうだとすると、これは進歩的な手がかりだ。というのは、《釣針の五種類》にも複雑さの差があるからなのだ。《第一》（右側のみに上向きの釣針）と《第二》（左側のみに上向きの釣針）と、《第四》（右側に上向き、左側に下向きの釣針）と《第五》（右側に下向き、左側に上向きの釣針）の間には確実に段階的な複雑性の高まりが見られる。《第三》（両側に上向きの釣針）は中階的な複雑性を持っているといえるだろう。ここで強引に推測を押し進めていくのならば、《第一》と《第二》は、「あ段」か「い段」のいずれか。《第四》と《第五》は「え段」か「お段」のいずれか。そして中階的な複雑性を持つ《第三》は「う段」ということになる。
　暫定的であるが俺は「う段」と「ん」を手に入れることが出来た。あとは、これを《直線形状》の場合に当て嵌めて推測していくことにしよう。
　ところが、ここで詰まってしまう。《釣針暗号》は切れ目なく最後まで綴られているために文の長さが推定できない。文の終わりが分かれば、推測の余地はあったのだが。
　なにかシリー（予測可能なメッセージ鍵）はないだろうか。例えば、これが奴らの連絡手段ならば、仲間の名前が書いてあるとか。しかし、俺の手に入れた名前はダイスケ、だけだ。しかし、「ダイスケ」というのは面白い特徴を示している。それは段に直せば「AIUE」になるからだ。「う段」は暫定的に手に入れている。だから、一番目、二番目が《第一》、《第二》のいずれかで、四番目が《第四》か《第五》である記号列を探せばいいのだ。しかし、これは骨が折れる。そして、絶対にこの暗号にその言葉が含まれていると確信できない以上手を出すのは躊躇われた。
　この《釣針暗号》が連絡手段であれば、それは何を伝えているのだろうか。蛇の男の俺への指示はてきぱきとしていた。それがこの暗号に書かれたものだとしたら。しかし、なぜそれを俺に解読させるのか。本当に“ブリタニカ複製”なのだろうか。だが、もしこれが指示を書いたものであるなら、そこには「包丁」や「盗む」といったような単語があると予想できはしないだろうか。「地下室」とか「監禁」、「閉じ込め」といったものも期待できる。
　しかし、待てよ。これが指示書なら、俺は暗号の解読を強制された。ならば、この暗号中には「暗号」とか「解読」といった言葉が含まれているかもしれない。そして、「暗号」という言葉には母音の「う」そして、既に明らかにしている「ん」が含まれている。
　これを探そう。まずは「う」を見つける。それが見つかったらその二つ前の記号が「ん」を示す《第六》の横棒であればビンゴだ。
　それは九行目の一番左端にあった。その二つ前の記号は横棒で、これは「ん」を示している。そして横棒の前の《直線形状》は《釣針の五種類》が《第二》で、これは先ほど「あ段」か「い段」のいずれかだと推測したものだ。「暗号」という文字列は《釣針暗号》の中にあったのだ。まだ可能性の域を出ないのだが。（参照２）

#image(c6gazou2.jpg,center)
　
　これが正しい場合、「あ段」は《第二》であるといえる。そして、《第一》は自動的に「い段」となるのだ。そして、《第四》が「お段」であることも明らかになり、したがって残る《第五》が「え段」となるのだ。興味深いのは、「ご」がひとつの記号で表されていることだ。釣針以外の形状の種類は、そう考えると、濁点の行も含めることになり、五十個以上の文字を表すことが出来るということになる。そして、釣針以外の形状（《中心形状》と名づけよう）で、尖山型のものは「が行」を示していると分かった。
　俺が手に入れたのは「あ行」と「が行」、「ん」だ。ここで俺は、強引に推測を続けた。というのは、先ほど考えていた“特徴”が暗号の中に現れていたからだ。しかも、その“特徴”は二度同じ形で現れていた。それは、五行目の右五番目から三つ目にかけての四つの記号だった。それと同じものが八行目、左七つ目から十個目にかけて記されている（参照３）。

#image(c6gazou3.jpg,center)


　[[已むを得ず、無題３]]　へ続く
.
.    </description>
    <dc:date>2009-02-09T19:22:34+09:00</dc:date>
    <utime>1234174954</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/48.html">
    <title>已むを得ず、無題</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/cmwc/pages/48.html</link>
    <description>
      *CMWC NONEL COMPETITION6
**已むを得ず、無題
#right(){作：塩瀬絆斗}
１、Ｒｅ　レッドラム・マ・イ

　制服に身を包んだ警官が俺を見ていた。それは疑惑以外のなにものでもなかった。
「どういうことだね？」
　その手は肩口の無線機に置かれていた。
　――どういうことか？　だって？
　俺が知りたい。
　俺は小言をバラバラと撒き散らす親を無視するみたいに目をそらした。その、開かれたドアの向こうへ。
　空気が悪いのは仕方がない。部屋は半地下室だった。薄汚い打ちっぱなしのコンクリートの壁が閉塞感を煽るのだ。
　俺と警官、ユウリの三人は部屋に入ったすぐのところで馬鹿みたいに立ち尽くしていた。
　俺たちを呆けさせるもの。それは無残な肉塊だった。どうしようもない、それは抜け殻だった。部屋に足を踏み入れて左手前の隅、そこに男は転がっていた。まるで打ちひしがれた人間みたいに上半身を部屋の隅に押しつけ足を投げ出してしょげ返っていた。
　その死体は頭からゴミ袋が被せられていた。死に顔を隠す。
「どういうことだね？」
　戯言みたいに繰り返すのは、死体恐怖の震える声。
　俺は頭を抱えた。ユウリが俺を見ている。その眉間に刻まれた皺の深さは、疑いの奈落に通じていた。
　そんなはずはないのだ！　俺は殺してなんかいないのだ。
　そうやって俺は叫び出したかった。だが、喉の奥から搾り取れるのはただただ細い溜息のみだった。
　俺の手の中では、この部屋の鍵が他人事みたいに僅かな音を立てていた。
　俺がこの部屋の施錠を解いた。
　死体が、現実逃避でもするみたいに部屋の隅に座り込んでいた。
　部屋を見渡す。
　ドアの正面の壁。天井に近いところに横に細長い窓がついていた。窓は閉まり、クレッセント錠が下りているのが見える。しかし、問題はそれではなかった。窓自体が小さいのだ。部屋の右手の壁には、これまた高いところに換気扇がついていた。沈黙している。そして、その下の床には驚くべきことに迷彩柄のバンダナが落ちていた……。
　部屋は密室だった。
　誰が殺した？
　俺は縋るみたいにユウリの顔を見た。ユウリ。俺の初めての恋人だ。
　いまこのとき、この場には無表情しかなかった。

　捕囚だった。
　俺は抵抗も反論も意識に上らないままに警察署へ連行されていた。ユウリは混乱しながらも、警官の制止を無視して俺に付き添って車に乗り込んでいた。
「何が……起こった」
　署への道の途中、俺の口からようやく発された初めての言葉はそれだった。
「ソウジ、しっかりして」
「夢でも見てるみたいだ」
　あの部屋の前で警察の応援が殺到する様は、連続写真のようだった。何人もの人間が部屋の中へ飛び込んでいった。俺は部屋の外で無数の質問の弾丸を浴びせられた。
　気付けば車の中だ。
「知らないんだ」俺は喪失した現実感の中で虚ろに口を開いていた。「ユウリには話したな。いきなり四人組に襲われて……、あの部屋に監禁されて……。脱出して……、お前の許に行って……心配だったから……。……こんなのは嘘なんだ。嘘なんだ……絶対」
「うん。聞いたよ」
　ユウリはそれだけを言って俺の手を両手で包み込んだ。温かく柔らかいその手は俺を徐々に現実へ引き戻していった。

　取調室だった。
　俺の目の前に刑事が座っていた。部下らしい男が入ってきて書類を刑事に手渡した。
「どうして殺した？」
　口調は柔和だった。しかし、根底には禍々しい針が鈍い光を放っているようだった。
「殺してなんかいない」
「動機は監禁されたことへの報復」刑事は俺の心の中を覗き見するみたいに切り出した。「被害者には脇の下と顎に打撲傷があった。先ほど調べたとおり、君のジーンズの膝の部分から被害者の唾液と血液が検出された。君は被害者の顎を膝蹴りしたんだ。相手が気絶した隙に君は殺害を行った。――凶器は君が店から盗み出したものだ。君の指紋も検出されている。あの包丁で君は被害者を刺した。そしてそれが内臓にダメージを与え死に至らせた。――現場は密室だった。窓は人間の出入りできるものじゃない。換気扇も人間が出入りできるような隙間はない。唯一の鍵は君が持っていた」
　俺の前に堆く積み上げられていくもの。それを、ただ見上げていた。
　刑事は椅子の背凭れに身を委ねた。手にしていた書類を、俺たちを隔てる机の上に放ると、深い溜息をついた。
　俺にはこの男の次の一言が予想できた。
「君だったな」感慨深げに刑事は口を開いたのだった。「あの少年グループ《アイコノクラスト》のメンバー一人の逮捕協力の件で、署長賞を受けたのは」
《アイコノクラスト》は少年らによる犯罪グループだ。メンバーは中高生で構成されるといわれている。俺より若い連中がそうして世間を騒がせていた。
　それはひょんなことだった。
　自宅近くの公園で中高生の集団が密かに犯罪計画を話しているのを偶然から聞いたのだ。その連中が《アイコノクラスト》であったことは後から知った。俺はすぐに警察へその情報を伝えたのだ。警察はこの情報をもとにメンバーの一人を確保。俺は逮捕に関わった情報提供者として署長賞を授与されたのだった。
「今回の被害者は《アイコノクラスト》のメンバーの一人だった。君はこの少年グループを摘発し、最後には殺してしまったというわけか……」
「違う」
　俺は自分の身の潔白を示したかった。だが、どうすればいいのか分からなかった。
　あの囹圄のような部屋を思い返すと、脳髄が麻痺して思考が棒立ちになってしまうのだった。あの状況は一体なんだったのだろうか……。なぜあんなことが可能なのか。
　俺の頭にはある都市伝説の一篇が去来していた。『敗残兵の蛇男』だ。蛇男は普段は人間だが、蛇に姿を変えることができる。その姿ならば、あの換気扇の隙間を使って部屋を出入りすることができるではないか……。
「君は、社会悪を罰したつもりかもしれない」
　刑事は机の上に両肘を乗せて俺のほうへ体を傾けていた。その目は断罪の響きを湛えていた。俺は相手を力なく見つめ返していた。力なく――。
「だが、貫きすぎた正義は、自家製の大義名分に過ぎない。君はもはや正義の徒ではないのだ」
「俺はやっていないんだ……」
「君は今回の殺人に先立って、凶器である包丁を盗んでいる。その店に残っていた監視カメラの映像を見たよ。君の手際は、こう言ってはなんだが、随分小気味のいいものだった。あの映像自体が君の罪を雄弁に物語っているのだ」
「あれは仕方なかった！」俺は声を絞り出していた。「やらなきゃ、ユウリが危険だった！」
「聞いたよ」
　その冷淡な応答。
　刑事は署に同行してくれたユウリに対しても事情聴取を行っていた。
「君は《アイコノクラスト》のメンバーに強要されたんだと。だが、そんな証拠はない。妄言であるといってしまえばそれで終わりなのだ」
　そうだ。
　俺の頭がようやく回転を始めた。ここに至るまでの出来事の数々が脳裏のスクリーンに投影され始めたのだ。
「俺を拘束したのはその《アイコノクラスト》の四人のメンバーだった。殺されたのは、その内のひとり。きっと仲間割れか何かで――」
　動き出す。投影機が。
　俺の意識は、そう、時空を遡行していった。
　あれは、ほんの数時間前のことだったんだ。

２、スタートＱＴ

「窮地で始まるミステリ」だと。
　俺はパソコンのディスプレイの前で途方に暮れていた。
《電脳ミステリ作家倶楽部》のトップページにはテーマが決定したこと、そして募集期間などが掲載されていた。
　都市伝説じゃなかった……。
　俺の住む町には実しやかに囁かれる話があった。『敗残兵の蛇男』だ。
　数年前にこの町のある家で起こった殺人事件。現場は密室だったのだ。外界と接していたのは小さな天窓だった。天窓はほんの数センチだけ開くようになっていたが、人間がそこを通って部屋を出入りすることは出来ないのだ。そして、ある人が調査をしたところ、事件の前夜その家の前で不審な人影が目撃されていた。それは、全身を迷彩服で固めた不気味な男の姿だった。男はこれから事件が起こるであろう家をじっと見つめていたのだという。そして、その目は爬虫類の目をしていたのだ……。事件現場の密室内からは迷彩柄のバンダナが発見されていた。警察はそれを手がかりに事件の捜査を開始したが、結局犯人は見つからなかった。そして最後に残された結論は、迷彩服の男が蛇に姿を変えて命を奪うというものだった。爾来、男を見た者はなく、今もどこかで獲物を探しているかもしれないという……。
　この都市伝説を基にミステリが一本書けそうだったのに。だからそれに投票したのだが、大差で「窮地で始まるミステリ」となってしまった。
　どうしようか……。もう九月二十九日。余裕がない。
　俺は《電ミス》のロゴを見つめていた。
　将来は推理小説家になりたかった。だから、この倶楽部に入会したのだった。今年は就職活動の年だった。だが、何もせずここまで来てしまった。気がつけばノートに小説のネタをメモしていたりする。そんな日々の中で、しかし、実家の親からのプレッシャーが気ままな生活を許さない。俺の中を焦燥感が駆け巡っていた。
　いっそのこと、大学在学中に小説家デビューできれば……。
　それが現実逃避だと言われれば、そうだろう。しかし、本気だった。そのためには、ここで挫けるのは敗北を意味することになる。
　俺は腕組みして考えていた。作品の募集期間は今月いっぱいまで。他のメンバーのHPなりブログなりを見てみると、「既に完成した」だの「推敲だけだ！」などという文字が躍る。それが焦りに拍車をかけた。
　どうしようか。
　そのときだった。携帯電話が鳴った。着信は湯根山ユウリ。先日出来た俺の初めての彼女だ。瞬間、意識から競作は消え去った。携帯に飛びついて声をかけた。
「はい！」
「あ、ソウジ君――」
　いつもと違って声が低まっているような気がした。
「どうした？　元気がないみたいだけど」
「あ、うん――」
　彼女はなかなか切り出そうとしない。俺はこういうときどうしたらいいか分からないから黙ってしまう。嫌な予感はふつふつと沸いて出る。俺は心配性な人間だった。
「ちょっとさ」ユウリの声が俺を我に返らせる。「ウチに来てほしいんだ……。大切な話があるからさ……」
「大切な話？　電話じゃダメなの」
「ごめん。来てほしいんだ」
　俺は迷うことなく返事をした。
「分かった、行くよ。待ってて」
　何の話だろうか。また予感が首を擡げる。
　まあ、いいさ。行けば分かる。アントニオ猪木だってそう言ってる。

　ユウリの家は俺の家から歩いて十分くらいのところにあった。
　彼女との出会いは、町で偶然に彼女から声をかけてきたときだったが、こうして互いが近傍に住んでいるということが運命的な心持ちを与えていた。
　俺は自然と速まる足に時間を預けてユウリのことを考えていた。
　ユウリは素晴らしく人目を引くルックスの持ち主だった。小顔でスタイルがよかった。端的に言うと、榮倉奈々を髣髴とさせたが、あれをもう少しコケティッシュにした感じの女の子だった。しかし、彼女は見た目に似合わず随分と控えめでお淑やかだった。あまり自信を持っている風でもなかった。俺はそこが好きだった。守ってやりたいと心の底から思うような――そう思わせるような魅力が彼女にはあった。それに彼女には理解力があった。先ほどの競作の話も、『敗残兵の蛇男』にまつわるミステリの完成を心待ちにしているようだった。もっとも、今回はテーマを外されてしまったのだが。
　彼女は俺より歳が五つ下だった。高校生なのに、一人暮らししてすごく真面目な子だ。そのためか、見た目も大人っぽい。背の高さもそれを後押ししている。彼女と並べば俺など見劣りするんだろう。俺の友人にはまだ彼女のことを話していなかった。来週、仲間と遊びに行く際に彼女をお披露目することになっていた。あいつ、驚くだろうな。
　思わずにやにや笑いがこみ上げてくる。
　しかし、そうした幸せの時間のあとに、神様はバランスを計って不幸を配置しているのかもしれない。
　ユウリの家まで道程あと半分というところ。少し寂しげな路地だった。前方に四人組の男が立っていた。高校生くらいだろうか。それが二人して行く手を阻むかのように仁王立ちしていた。その眼は紛れもなく俺に注がれていた。嫌な予感がした。
　関わり合いにならない方がいい。しかし、俺が躊躇する間に二人がこちらへ歩いてくる。
　二人は俺とすれ違った……。と思った。
　俺は囲まれていた。包囲の中には脇道はない。前方の二人が目を獣みたいにして向かってくる。ひとりが口を開く。
「霧島ソウジ」
　俺の声は少し震えていた。
「ここは道だったな。通してくれ」
　強がるしかなかった。頭の中には《アイコノクラスト》という言葉が浮かんでいた。
　突然俺は背後から羽交い絞めにされた。
「グッ！　――何すんだ！」
　力が強い。俺は瞬間的に恐怖が沸騰するのを感じた。殺されるかもしれないと思った。
「言うとおりにしろ」
　拘束される俺の目の前に立って、男が言った。
「は？」
　意味が分からなかった。しかし、俺がこう漏らした途端、腹に強い衝撃が走った。鳩尾に男の拳がめり込んでいた。
　俺は息もできないまま崩れ落ちそうになった。だが、体は押さえつけられて人形が立つみたいにしていなければならなかった。
「言うとおりにしろ」
　それは二度目の命令だった。有無を言わせない威圧感。
「な、んで」
　俺はようやく口が動かすことが出来るようになっていた。途切れつつそう聞くと、襟首を掴まれて顔を無理やり相手の方へ向けさせられた。
「いいか。これから俺たちの言うことを聞け。さもないと、お前の大切な人がひどい目に遭うぞ」
　その言葉がもたらしたのは、ユウリのイメージだった。
「お、お前らっ！　あいつを――！」
　変だと思ったんだ。ユウリの、あの、今にして思えば怯えたような声。ユウリはこの男たちの仲間に捕まっているのかもしれない……！
　しかし、なぜ？
　その理由にも俺は思い当たっていた。
　署長賞だ。俺の情報で逮捕された少年は《アイコノクラスト》のメンバーだった。この男たちはあの少年グループに属していて、俺に報復しようとしているんだ。
　もう俺にはなす術がなかった。せめてユウリが無事であってほしいと願う。
　俺は弱弱しく頷いた。
　それは俺の意識の中に入り込んだ恐怖の悪魔が命じた所作。
　そして運命の女神フォルトゥーナが、俺を地獄のような線路へ投げ込んだ瞬間であった。

　俺が連れ去られたのは、後にあの忌まわしい事件が起こる薄汚い半地下室だった。
　俺は部屋の中に蹴り入れられた。部屋は随分長い間使っていないような印象だった。物が乱雑に置かれていた。あるいはただ散らばっていただけかもしれない。ただ、ハサミやタコ糸や方眼紙、色紙などがある様はここが昔事務倉庫か何かに使われていたのではないかと思わせた。封の切られていない二十枚入りのゴミ袋や、埃に塗れて潰れかけた段ボール箱から覗くボールペンの入った白い箱、床には汚れた白い紙が張り付いていたりした。調度類は姿がなく、俺はその部屋の中央にみっともなく横たわっていた。部屋を見回す。半地下のために窓は天井の近くに小さなものがついているだけだった。とても届きそうではないし、もしそれが叶っても頭すら通らないだろうと思われた。俺の後方の壁の天井近くには換気扇が穿たれていた。その隙間から、夜の帳が下り始める外の光が漏れ入って来ていた。そこもとてもじゃないが、脱出口となりそうではなかった。換気扇の枠はすっかり錆び付いていた。そこから床の方に向かって伸びる錆びの跡が、俺の心の中に流れる様々な感情を宿した涙の
ように見えた。だから、俺は今もこうして冷静に部屋を見ていられるのだろう。
　俺を見下げる四人の男の顔。俺は一生その冷酷な表情たちを忘れないだろう。
「まずお前にやってもらいたいことがある」
　さっきから口を開くのは一人だけだ。蛇みたいな印象の男。常に口の端に残酷な笑みを浮かべていた。眼光は鋭く、その痩身から発される負のオーラは黒々として俺を取り込もうとする。
「サン・ホームセンターへ行って包丁を盗んで来い」
「な、なんだって？」
　俺の背中に容赦ない蹴りが入る。咳き込む俺に蛇の男が唾を吐きかけるみたいな口調で言い放った。
「言うことを聞け」言外には人質の安否がちらついていた。……ユウリ。「盗んで来るんだ。『分かった』以外の答えは許さない」
「わ、分かった……」
「よし。――お前ら、こいつを立たせろ」
　三人が俺をマネキンみたいにして持ち上げて乱暴に直立させた。俺は玩具のようだった。蛇の男は顔を近づけて言う。
「いいか。二人がお前を監視してる。変な真似をすれば、お前の大切な人は死ぬことになる。分かるな」
　俺は黙って頷いた。
「包丁をひとつ盗め。絶対にばれるな。捕まりそうになったら全力で逃げろ。万が一捕まった場合は、俺たちのことを話すのは許さない。分かっているな」
　分かっているな――こいつはユウリのことを言っているのだ。俺には頷く以外の選択肢を取り得なかった。

　太陽は地平線と戯れている。
　町は明かりが満ちていた。サン・ホームセンターは太陽をモチーフにしたキャラクターを看板にしていた。コジマ電気みたいだ。俺はその前に立って、心を落ち着けていた。俺のすぐ後ろでは四人組の内の二人が侍していた。あとの二人はあの部屋で待っている。
「行け」
　背中を小突かれて俺は店内へ足を踏み入れた。客入りは少なかった。明るい白色照明が、俺の心の内を透かしているようで、怖かった。
　調理器具のコーナーは、レジのすぐそばにあった。近年の世相を反映して目の届く場所に置くようになっているのだろう。俺は焦った。
「これじゃ、ばれる」
　小声で後ろの二人に言った。返って来たのは完全な無言だった。俺とは無関係を装っているのだ。……ふざけやがって――！
　俺は天井を見回した。レジのそばに監視カメラがある。このコーナーも少し視界に入っているだろう。店員の姿はレジの中にひとつ。まだこちらに気付いていないようだった。白髪の目立つ中年の痩せた男。せっせとレジの中で何か作業をしていた。客の姿も近くにはなかった。俺は包丁のひとつをそっと手に取ると、シャツの中に仕舞いこんだ。すぐに走り去らない。俺は平静を装ってレジの方へ向かった。後ろの二人はそわそわとしていた。レジの男が俺の姿をはじめて認めた。俺はレジの前を通って店の外へ出た。
　怪しい素振りはしなかった。
　怒鳴る声もない。俺は背後に二人を従えて、町の雑踏へ紛れ込んだ。

　あの闇の半地下室へ戻る。
　待機していた蛇の男ともうひとりが俺を中に引き入れるとドアを閉めてしまった。
「意外と早かったな」
　蛇の男は俺から包丁を受け取ると、ひやりとした笑みを浮かべた。
　と、そのときだった。
　俺のポケットの中で携帯が鳴ったのだった。
　瞬時に俺の頭の中にユウリの顔が浮かんだ。だが、彼女は捕らえられているはずだった。そして、目の前の四人が携帯を取り上げなかったことに今気が付いたのだった。
　四つの視線を受ける。携帯を取り出す。蛇の男がさっと俺から携帯を奪い去る。
「はい――今隣にいる。お前にだ」蛇の男は受け取ろうとする俺に顔を寄せる。冷血な眼が俺を射抜いていた。「余計なことは喋るな」
「もしもし……。ああ、ユウリ――無事か？」
「え、なに、どういうこと？　今のは？」
　ユウリの反応はおかしかった。《アイコノクラスト》のメンバーに捕らえられているとは思えないような、普通の声の調子なのだ。
「捕まったんじゃないのか」
「何言ってるの。それよりいつウチに来れるの？　ずっと待ってるんだけど……」
　なんということだ。ユウリは捕まっていなかった。
　ちらりと男たちを見る。やつらは笑っていた。騙されたのだ。
　胸の中に安堵の波が押し寄せる。同時に怒りが俺の中に満ちていた。助けを求めようとした俺の喉元に、静かに包丁が突きつけられた。蛇の男の目は殺気を放っていた。
　もう最後の手段だった。
「I’m gonna be late（遅れる）。ごめん」
　四人は身構えた。しかし蛇の男はすぐに平静を取り戻して余裕の笑みで言った。
「英語だから分からないと？　理解できているぞ。変な事を喋れば殺す」
　包丁の柄を握る手が白みを増した。力が込められているのだ。
「どうしたの、急に英語で」
「いいから」俺は携帯から顔を離すと弁明した。「彼女は英語を主に話すんだ」
「今どこにいるの？」
「On the way to you（行く途中だよ）。すぐに着くから」
「別にいいけど……。待ってるから。大切な話なの」
「ああ。……その話って、掃除を手伝ってほしいとかじゃないよな」
「違うよ」ユウリの口から笑いがこぼれた。よかった。「あ、でも雑誌とか本がいっぱいで……」
「だから言っただろ」俺はこの会話の流れに感謝した。「Rope your books（本は縛っておけって）」
「うん」
「じゃあ……すぐ行くから」
　俺は頼みの綱を投げて電話を切った。
　蛇の男はすぐさま携帯を取り上げると、部屋の隅へ叩きつけた。
　ユウリと付き合い始めたときに買い換えた新しいものだった。それがめきっという音を立てて転がった。なんつーことを。
「お前にはこの部屋でやってもらうことがある」
　蛇の男は包丁を隣の仲間に渡すと、ズボンのポケットから紙片を取り出した。それを一瞥して紙を半回転させると俺に突き出した。
「この暗号を解け」
　それは奇妙な記号列だった。
「なんだ、これは？」
「質問は許さない。お前がやるべきことは、暗号解読だけだ」
「こんなことをしてただで済むと思ってるのか？」ユウリが無事だという事実が俺の気を楽にしていた。「じきにお前らは逮捕される」
　蛇の男は鼻で笑った。
「それは面白い。せいぜい頑張ることだ。――ダイスケ、見張りに立ってろ。こいつが暗号を解くまで絶対に外に出すな」
　ダイスケと呼ばれた男が小さく頷く。
「鍵を預けておく。お前は部屋を施錠してドアの外で待機しろ」
　蛇の男は鍵と共に包丁を手渡した。
「分かった」
　三人の男はダイスケを残してぞろぞろと部屋の外へ消えた。
　ダイスケも部屋の外へ。ガチャリと音がして、ドアノブの施錠ツマミが横倒しになった。内側からは容易に鍵を開けられるのだ。いざとなれば、正面突破で脱出するしかない。それにユウリにはSOSを出しておいた。いつまで経っても俺が到着しなければ不審に思って、どこかへ連絡が行くはずだ。
　俺の前には暗号の記された紙が残された。（参照１）
#image(c6gazou1.jpg,center)

　[[已むを得ず、無題２]]　へ続く
.
.    </description>
    <dc:date>2009-02-09T19:17:29+09:00</dc:date>
    <utime>1234174649</utime>
  </item>
  </rdf:RDF>
