彼女自身、これといって正月に感慨を覚えはしない。
母はいないし、父は相変わらず過保護だし、おせちや雑煮を作ったところで父が無駄に喜ぶだけなのである。
電話がかかってきた。
彼女は小走りに受話器を手にする。
その表情が明るくなるのに時間はそうかからなかった。
「人多いな」
「私達もその内の二人だけど」
神社は人でごった返していた。
勅使河原はそれを口にし、彼女に冷静な反撃を受ける。
父の妨害は厄介なものだったが、どうにかこうにかして(=撲殺して)彼女は家を出てきた。
一応、交際していることになっているのだからこれくらいのことは許して貰いたいものだと彼女は思っていた。
「まあ、反対しようと勿論どうにかするけどね」
彼女は交際相手が出来ても男らしい。
おみくじも引いたし、後は祈るだけ。
45円を投入し、二人は手を合わせる。
「…………」
「…………」
「…………?」
「……………………」
「いつまでやっとんねん!」
待ちきれなくなった勅使河原が彼女の邪魔をした。
「え、ちょっと待っ、こ……この!」
掴まれた手を振り切った彼女は、先程購入した破魔矢で勅使河原を殴りつける。
鈍い音と重いものが地面に崩れ落ちる音が、鮮やかに響いた。
「あいたー……」
「意外と丈夫だね、ホント。
あ、ちゃんと計算してるから大丈夫」
「何の計算……?」
「さあ?」
彼女は師匠に挨拶すべく、家とは違う方向に歩いていた。
勅使河原の家もまた方向が違っているのだが、彼はそのようなことを口にはしない。
それくらいは評価してもいい、と彼女は何となく考えた。
「あ、あれ」
「え?」
上を向いた拍子に、勅使河原の顔が目の前にあったことに気付き目を閉じる。
「……何なの、一体」
「いや、正月やから」
訳の分からない言い訳(?)はいつも通りで、彼女は苦笑する。
勅使河原の顔が寒さ以外で赤らんでいることにも気付いていた。
「しからば、この辺で」
「ああ、うん」
片手を挙げて別れる。
その後ろ姿が見えなくなるまで、彼女は見送った。
「一週間に一回、お正月が来ればいいのに」
師の玄関のドアを見つめながら、彼女は思った。
……本当は「一年中が」と言わせようかと思ったのですが、そこまで主人公はラブーンではないのでこうなりました。
こうやってイベントにかこつけないと何も出来ない勅使河原の図。