雪は電車に乗っていた。
タスクから解放された雪は、寄り道をせずにすぐ家に帰るつもりであった。
ドアを開ければそこには、愛しいあの人が待っているはずだ。
不器用ながらもひたむきに自分へ愛情を注いでくれるあの人が。
そう考えると、疲れが少しだけ気にならなくなった。
夕方の懐かしい空気を、穏やかに眺めることも自然に出来る。
電車を降りてスーパの前を通りがかる。
店先で売られている花が気になって、お土産に買って帰ることに決めた。
あの人はどんな顔をするだろうか。
きっと、いつもするように優しく、幸せそうに微笑むだろう。
そして言葉少なに、感謝の意を述べるだろう。
あの人は器用貧乏なのに、こういうことは苦手なのだ。
帰宅した旨を伝え、家に入る。
足音も静かに、あの人が迎えてくれる。
「お帰りなさい」
花をそっと差し出すと、目を見開いて、そしてそれを受け取る。
ありがとうございますと、かの人はぎこちなく言ってみせる。
満たされたその表情を見て、雪も満足だと思った。
「お疲れさまです」
そう言って荷物を引き取ってくれた、愛しい人。
「疲れていませんか?
お風呂もご飯も用意していますよ」
花を抱くようにして雪を見上げるその眼差し。
「ありがとう、浅緋さん」
「ボランティア、大変ですからね。
ゆっくりして下さい、李乃さん」
彼は真っ直ぐに、妻へ気遣いを見せた。
ドイツ2日目です。
シャワーを浴びつつ「叙述トリック使いたい」。
そしてこのSSが仕上がりました。
書いてみると、とても幸せな似た者夫婦であります。
この間書いたのが不倫ドロドロだったので、今回はラブラブで。