こずさんの保管庫。
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こずさんの保管庫。
ja
2009-01-06T19:46:34+09:00
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翔べない天使
https://w.atwiki.jp/cozmixdatebase/pages/184.html
「ねぇ魔理沙。あたいのこと、本当に好き?」
チルノは、いつも不安そうに聞いてくる。
その度に私は彼女の頭を撫でながら、「ああ。大好きだぜ」と答えるのだ。
……思えば、いつから私はこのおバカな妖精と付き合いだしたのだろうか。
あまりハッキリとは覚えていないが、ただひとつ確実なことは、チルノが私の恋人になってから、一部の者の弾幕が異常に濃くなったということだ。
アリスやパチュリー、咲夜、にとり、そして霊夢までも。正直、まったく意味がわからない。あいつら、何のつもりなのだろうか。
「……ねぇ、魔理沙」
「ん?」
私は思考の渦からチルノの呼びかけによって救い出された。
「……キスして」
こういう時、不安な時、チルノは決まってキスをせがむ。
私が考え込むとわかるらしい。
泣きそうな顔をしているチルノの頭を優しく撫でてから、そっと唇を重ねる。ついばむようなキスが、チルノは好きだった。
唇を離すと、チルノは満足そうな笑顔で、私の胸に顔を埋める。
「えへへっ」
私は抱きしめたまま、ベッドに転がった。
「魔理沙っ。あたい、魔理沙のこと大好きだからねっ」
「ああ。私もチルノのこと、愛してるぜ」
──チルノは普段は能天気だけど、本当は素直なだけなんだ。
自分自身が不安になるとひどく落ち込んでしまうし、相手が不安だとすぐに気づく。
自分が楽しいときは相手にも伝えようとするし、相手が楽しいと自分も笑顔になる。
本当に可愛らしい。本当に愛しい。
絶対に、離さない。
──そう、誓ったのに。
***
[翔べない天使]
***
ある朝、目覚めるとチルノの姿が無かった。
その時は、どこかに遊びに行ってるのだろうと思って、深く考えずにいた。実際、昼間は霧の湖で遊んでいることが多い。
昼を過ぎた頃、とてつもない大きな音がしたが、すぐに消えた。何かの異変の前触れかもしれない。そう思った。
その日は夕方になってもチルノは戻らなかった。私は心配になって、森を探し回った。魔法の森は茸の胞子がキツく、変な場所に迷い込んでしまうと私でも気分を悪くしてしまう。もし、チルノがそういう場所に入ってしまっていたら? ……とても心配だ。
しかしチルノはどこにもいない。マスクをして危険地域にも近づいてはみたが、チルノの気配は無かった。
疲れを感じて、休憩しようと上を見た時。
「……あれは」
私は箒にまたがって浮くと、枝に引っかかっていた布切れを手にした。間違いない。これは、チルノのリボンだ。
「……チルノ? チルノ!」
どうして、こんなにボロボロなのだろうか。それに、薄っすらと付着しているのは……血、なのか?
私は半分パニックになりながら、森の中を探し回った。
*
「魔理沙」
何の収穫もなく家に戻ると、玄関で咲夜が待っていた。
「な、何の用だよ……私、少し休んだらまた」
「チルノを探してるの?」
その瞬間、私は咲夜の胸倉を掴んでいた。
「何か知ってるのか!? チルノはどこなんだ!!」
「落ち着きなさい! チルノは、今紅魔館にいるわ!」
「ほ、本当か?」
「嘘をついてどうするの。ただ……」
「……何だよ、どうしたんだよ」
「チルノ、ひどい怪我をしていたわよ」
「!!」
私は地面に膝を落として、咲夜を見上げていた。
「怪我……?」
「お嬢様に言われて、貴女を呼びに来たの。早く、行きましょう」
「あ、ああ……」
*
パチュリーが、案内された部屋の前にいた。
「魔理沙」
「パチュリー。チルノは?」
「相当にひどい状態よ……」
「そんな」
「……会ってあげて」
ドアが開く。
部屋の中には、美鈴とレミリアがいた。
そして、部屋の中央にあるベッドには──。
「うあ、あ、あ」
私はベッドに横たわっている彼女をまともに見れなかった。
「ああ、あ……チルノ、なのか……?」
全身を包帯でぐるぐる巻きにされ、僅かに肌が見えるだけ。
左目だけ、顔の中では露出している。
「薬が効いているから、今は眠っているわ」
レミリアの言葉が、耳に届いた。
「……治るよな? すぐに、よくなるよな?」
「傷は深く、数も多い。完治にはかなりの時間がかかると思っていいわ。……いいこと、魔理沙。これは、いつもの弾幕ごっこなんてものじゃない。例えこれが弾幕での怪我だとしたら、誰かが悪意を持って徹底的にチルノを弄ったのよ」
頭が、真っ白になった。
この幻想郷に、そんな奴がいるのか?
私は、意識が遠くなるのを感じた。
*
「……魔理沙。魔理沙、起きなさい。チルノが起きたわよ」
私はソファに寝かされていたらしい。咲夜の声で起きると、ベッドの上で体を起こしているチルノを見つける。
「チルノ、チルノ!!」
私はふらつく足で、どうにか急いでチルノの前まで行く。
左目は、いつものチルノの瞳だった。
「チルノ、私だぜ。わかるか?」
「……魔理沙」
「ああ、私だ──」
この次にチルノの口から出た言葉は、まるで呪いのようだった。
「──聞こえないよ」
「……え?」
「魔理沙の声が、聞こえないよ。みんなの声も。音も、何も、聞こえないよ……」
「チルノ、まさか、耳……」
鼓膜が破れていたらしい。無音の世界に、チルノはいきなり放り出されてしまったのだ。
私は、気が付いたらチルノを抱きしめていた。
「魔理沙、魔理沙、怖いよ、何か喋ってよ、魔理沙」
私は何も言えなかった。
口を開くと、きっと泣いてしまうから。
それでも、私の目からは、涙が溢れていた。
*
しばらくは、紅魔館に通いでお見舞いを続けていたが、ある程度チルノも回復してきたので、私の家に戻ることになった。
レミリアたちに礼を言い、私たちはゆっくりと道を歩いていく。
「なぁ、チルノ」
チルノの頬に、自分の頬をくっつける。こうやって喋れば、少しは聞こえるらしい。
「なに?」
「何があったかは、やっぱり教えてくれないんだな」
「……あたいも、よく覚えていないんだ。おっきな鳥みたいなのが、あたいの目の前にいたことしか、覚えてない。……ごめんね」
「いや、いいんだ」
チルノは、ひょっとしたら誰かをかばっているのかもしれないし、本当に何も覚えていないのかもしれない。大きな鳥が何を意味しているのかも私にはわからない。
でも、もう、いいんだ。
私はチルノを抱き締めると、箒にまたがった。
「──もう離さないからな、チルノ」
「もう離れないよ、魔理沙」
私たちは、空を突き進む。
このまま結界を突き抜けて、外の世界で暮らすのもいいな、と思う。
魔法使いなんて外の世界にはいないだろうし、妖精には生きていくには劣悪な環境だろう。
でも、全てを忘れて一からやり直すには、いいかもしれない。
「ねぇ、魔理沙」
「ん?」
「キス、して」
……ああ、また不安になったのか。私があれこれ考えたから。
「余所見運転は、事故の元だぜ……」
チルノの唇を、少し乱暴に奪う。
今までにしたことのないような、激しいキス。
チルノを愛している証のように、私は──。
***
「ただいま、チルノ」
「おかえり、魔理沙」
雪が降る。チルノには最高の季節だろう。
私とチルノは、外の世界にいる。
紫がスキマを使って、別の場所と繋げてくれたのだ。いつでも帰れるが、まだしばらくは私もチルノもこの世界で生きていこうと思う。
「傷、目立たなくなってきたな」
「うん。空は飛べなくなったけど」
そんな会話を、頬をくっつけた状態でする。
──もう、離すもんか。
そう改めて誓い、私はチルノと一緒に窓の外を見た。
この轟音にも、慣れたものだ。
「大きな鳥だね」
「そうだな。大きな、鉄の鳥だぜ」
雪の中飛び立つ飛行機を見ながら、私たちは微笑み、ゆっくりと唇を重ねた。
2009-01-06T19:46:34+09:00
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東方系SS
https://w.atwiki.jp/cozmixdatebase/pages/169.html
上海アリス幻樂団さんのゲーム『東方Project』ネタのSS集です。
**おいでませ紅魔館。
-[[咲夜とレミリアとパラレルワールド]]
***紅魔館超生活
-[[]]
-[[妬み姫とニート姫]]
***Destiny Lovers(咲夜&魔理沙)
-01...[[霧雨と十六夜]]
**あたい最強伝説
-[[ちるのんくえすと]]
-[[翔べない天使]]
-[[幻想郷の法則が乱れる]]
*クロスオーバー
**マリア様がみてる
-[[スキマ様がみてる]]
-[[]]
-[[]]
-[[]]
-[[]]
-[[プリンセス天狐の贈り物(前編)]]
2009-01-06T19:45:58+09:00
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妬み姫とニート姫
https://w.atwiki.jp/cozmixdatebase/pages/183.html
--初日/紅魔館大食堂/水橋パルスィ
……妬ましい。ああ、妬ましいわ。
どうして勇儀ってば、初対面の連中とあんなに笑顔で話せるのかしら。
どうしてお燐ってば、あんなにテンション高くできるのかしら。
ええ、どうせ私は一人よ。どうせ私はテンション低いわよ。ああ妬ましい!
「パルシーだっけ?」
私の隣に、青い子が座った。
「……チルノだっけ、名前」
「うん! あたいはチルノ! さいきょーなのよ!」
「……私、パルスィ」
「ぱるしー!」
「パルスィ」
チルノは笑顔で私を見ている。
ああ、妬ましい。この子の無邪気さが妬ましい。
「ぱるしーは地下から来たんだよね?」
「そうよ」
「いいなー、あたいも地下に行きたいなー」
「暗くて、怖いわよ」
「う、じゃあ行かない」
……なんだろう。妬ましいのに、可愛いとも思える。
この子は恐ろしい子だ。私から妬む心を奪い去るなんて。
「チルノ」
「なに?」
「貴女が、とても妬ましいわ」
可愛くて、愛しくて、とても妬ましい。
私は、チルノのことを見れなくなった。
*
--初日/紅魔館大食堂/風見幽香
「あー、私のことニートニート言うけどねぇ」
私の目の前に座る輝夜さんは、得意げな表情でそんなことを言い出した。
「ニートっていうのは、素敵な、とか綺麗な、とかそういう意味があるのよ。決して働かないとかひきこもりとかじゃないの。わかる?」
あらあら。どこからツッコもうかしら。
彼女の表情が歪むのを想像すると楽しいわ。
じゃあ、早速いきましょう。……うふふっ。
「さすがね、輝夜さん。素晴らしい知識をお持ちのようね」
「そうでしょ?」
ふふ、この蓬莱ニートが。
「NEATは確かにそういう意味ね。でもきっと、八意さんが言っているのはNEETの方ね」
「ん?」
「Not in Employment, Education or Training. つまりは勉強もしない、働きもしない、働く努力すらもしない。ふふっ、そっちではないかしら」
「な、なによ! 私がそんな風に見える!?」
「起きたら最初に何をする?」
「パソコンの電源を入れる」
「好きな食べ物は?」
「宅配ピザとポップコーン」
「履歴書はある?」
「何それ。食べれるの?」
「普段着はその服?」
「ジャージ」
「完全にNEETじゃないの」
「……あ、私そっちのニートだわ」
気づいたようね。一安心だわ。
さすがに泣きはしないけど、面白い子というのはわかったわ。ふふっ。うふふっ。
「だって私姫だもーん」
うふふ、ふふふふふっ。
この可愛い可愛い蓬莱ニートめ。うふふふふふふふふふふh(ry
2009-01-06T19:44:58+09:00
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Mission.01-C
https://w.atwiki.jp/cozmixdatebase/pages/182.html
6
屋敷の一室に、眼鏡をかけた赤いスーツの女性がいる。彼女の目の前にいるのは、質素なワンピースを着た女性だ。
「新聞の広告を見て、応募してきたという訳ですね」
「はい。まだ学校を卒業したばかりなので、こういうお仕事の経験はありませんが……」
ワンピースの女性はそばかすが残る顔を少し赤らめている。本当に仕事の経験が無いのだろう。
「構いません。経験は積んでいけば済むことです。こちらとしてはすぐにでもお仕事をして欲しいのですが、よろしいですか?」
「ほ、本当ですか?」
「嘘を言っても仕方ないでしょう。明後日のパーティの為に、本当に猫の手でも借りたいくらいなのよ。貴女がいいなら、すぐにでも」
「わかりました! よろしくお願いします!」
「よろしくね、えっと、アエルさん」
「はい! よろしくお願いします!」
アエルは頭を下げた。
カレラ・ミルステラは目の前の少女を気に入っていた。素朴そうだし、何より真面目そうである。パーティが終われば正式に採用して、屋敷のメイドになってもらおう。そう考えている。
「私はこれから仕事があるから、後はキリエさんから話を聞いてちょうだい」
そう言って、カレラは手元のスイッチを入れた。少しして、部屋のドアがノックされる。中に入ってきたのは、髪の長いメイドだった。美しい顔立ちだ、とアエルは思った。
「彼女はキリエさん。うちで働き始めたのは最近だけど、とても優秀なのよ。では、後はお願いするわ」
「かしこまりました」
キリエは深々とおじぎをした。カレラが部屋を出る。
「貴女がアエルさんね。はじめまして」
「はじめまして」
挨拶をすると、キリエは微笑んだ。
「頭が良いのね。ウェリントンスクールといえば名門じゃない」
「そんな。私はまぐれで入れたようなものですから」
「そうは見えないけど。まぁいいわ。まずは制服に着替えてもらえるかしら」
床に置かれていた紙袋から、新品のメイド服が手渡される。
「ここでね」
「……えっ?」
「何よ。女同士だから恥ずかしくはないでしょう?」
キリエは、カレラが座っていたソファに腰を下ろす。
「で、でも」
「早く。早速仕事をしてもらうんだから」
「は、はい……」
アエルは言われた通り、ワンピースを脱いだ。そばかす顔には不釣合いの美しい体つきに、キリエの表情がいやらしいものに変わる。
「いい身体をしているのね。経験は?」
「けっ……!」
アエルは頬を真っ赤にして、手にしていたメイド服で下着姿を隠す。
「冗談よ」
キリエはニヤニヤと笑ったままだ。視線はアエルの全身を嘗め回すように見ている。
アエルは時折先輩メイドを伺いつつ、なんとか着替え終わった。
「じゃあ、早速だけど一緒に仕事をしてもらうわ。お客様が来ているから、お茶をお出ししないといけないの」
「は、はい」
ドアを開けようとした時、背後からキリエがアエルを抱きしめた。
「ちょっ、ちょっと! 先輩っ!?」
「いい感度ね。バージン?」
「やめて下さいっ!」
「ふふ、わかったわ」
キリエから解放され、アエルは床に座り込んでしまった。
それを見ながら、キリエは嬉しそうに微笑んだ。
「初心なのね。そういう子、私は好きよ」
本当に嬉しそうに笑ったのだ。
キリエについて廊下を歩く。カートを押す姿は完璧なメイドだが、アエルはすっかりキリエに警戒心を抱いてしまったらしい。少し離れた後ろを歩いている。
「お茶を淹れるのは得意?」
「得意というほどでは……」
「そう。だったら今日は配るのをお願いするわ」
「はい」
アエルはキリエを追いながら、廊下をキョロキョロと見ていた。調度品は高級品で統一されていて、本当にお金持ちだということがわかる。屋敷も広く、パーティの会場でもあるホールは数百人くらいなら入るだろう。
これなら、代議士夫人も宝石を集めているのに納得がいく。それに「金にものを言わせて」という部分も。一般市民でも知っているレベルの話なのだ。噂話の域を出てはいないが、真実なのだろう。
「アエル」
「は、はい」
キリエが立ち止まっていた。あと少し気づくのが遅れたら、キリエにぶつかっていただろう。
「緊張しなくていいわよ。リラックスして」
「はい」
ドアを軽くノックする。
「お茶をお持ちしました」
「どうぞ」
聞こえたのはカレラの声だ。
「失礼します」
ドアを開けて、カートを押していく。アエルはそれに続いた。
「ご苦労様」
部屋の下座にあたるソファに座っているのはカレラだ。そして、上座にいるのは、スーツ姿の美女が二人。
「……アエル?」
「は、はい」
「申し訳ありません。こっちのメイドは、本日入ったばかりでして」
キリエが頭を下げる。
「パーティの準備で人員募集をかけているんでしたね」
褐色肌の美女が、カレラに訊いた。
「はい。一応、彼女が最後の採用者ということで」
「そうですか」
褐色肌の美女──オリヴィラ・シルヴェイラ特級巡査だ──はそう返事をすると、アエルを鋭い目つきで見た。
7
FLOWERSが予告した日時は明後日に迫っている。代議士のパーティの日を狙ったのだ。
アリシアは警備計画の詰めとして、ここ数日はこうして顔を出していた。それに今日はオリヴィラをカレラに紹介する目的もあった。
「ダージリンティーでございます」
キリエがそう言って、カップに注いでいく。いい香りが部屋に広がる。
アエルがカップをオリヴィラの前に置こうとした時だった。
「あっ」
キリエが突然そんな声をあげたので、アエルは身体をビクッと動かしてしまった。カップが傾き、オリヴィラの膝にダージリンがかかってしまった。白系の色をしたスーツだった為、みるみるうちに染みができる。
「し、失礼しました!」
アエルが慌てている中、キリエは僅かに笑っていた。
(わ、わざとだ!)
アエルはそう思いながら、ハンカチを取り出す。すると、オリヴィラはその右手を掴んだ。鋭い視線がアエルを射抜く。
「カレラさん。先ほど、捕縛術が信用できないと仰りましたね」
「え、ええ。やはりこの目で見てみないことには。それより……」
「ならばこの場でお目にかけましょう」
オリヴィラはそう言うと、怯えているアエルを見た。
「貴女、協力してちょうだい。それでこの粗相は不問にしてあげるから」
「は、はい……」
アエルはそう呟く。その次の瞬間、彼女の右手に縄が絡み付いていた。
「え、ええっ!?」
オリヴィラは黙ったまま、アエルの全身を引っ張った。左手も背中の方に回される。手首を縛られていく。
この早業に、見ているカレラもキリエも驚いていた。アリシアは一般人を巻き込んでの行為に眉をひそめている。
「この捕縛術は、警察で使用されていたものを私なりにアレンジしたものです」
説明をしながら、オリヴィラは手を休めることなく、アエルを縛り上げていく。腕も縄で固定されてしまった。
「より少ない手順で、より拘束力を増すにはどうすればよいかを」
アエルが小さく悲鳴をあげた。胸縄が巻きつけられたのだ。
オリヴィラが立ち上がるのと交代に、ソファに座らされる。すばやく足首から膝へと縄が動き、太股も縛られる。
「数年間の試行錯誤の末、完成したのがこの我流の捕縛術です」
ものの数分で、アエルの全身は縄化粧を施されてしまった。アエルは身体を左右に動かすが、縄が緩む気配はない。
「あまり暴れると、より締まるよ」
オリヴィラが低く呟いた。アエルの動きが止まる。
「あ、あの、もう解いて下さい……」
「更に喚きたてる相手には」
アエルの懇願を無視するように、ソファに落ちたハンカチを拾い上げたオリヴィラは、軽く丸めたそれをアエルの口に押し込めた。
「お喋りな口を塞いでしまいます」
「んっ!?」
オリヴィラは左手で自分のネクタイを外し、それをアエルの口に噛ませようとする。
「もう結構です!」
カレラが声をあげた。
「警察の捕縛術がどんなに素晴らしいか、優れているかはわかりました。ですから、大切なメイドを解放してあげて下さい」
「……信用していただき、感謝します」
オリヴィラはアエルの口からハンカチを引き抜くと、微笑を浮かべた。
8
アリシアたちが帰った後、カレラはアエルとキリエを自室に呼んだ。
二人をソファに座らせて、自分はベッドに腰掛ける。
「とんだ初日になったわね、アエルさん」
「全身の血流が止まると思いました」
アエルはキリエを睨みつけながら言った。当のキリエはすました顔である。
「あの後、アリシア警部が謝ってたわ」
「別に……。謝るのは私でしたし」
アエルの手首には、まだ縄の痕が残っている。
「最近の『FLOWERS事件』、警察は防げていないでしょう? 正直言うと、信用できないのよね……」
カレラは小さくため息をついた。
「でも、アリシア警部は無能とかじゃないんですよ」
「ええ。それはわかっているのだけど……」
キリエが、アエルの横顔を見ながら言う。
「……アエル、あの刑事さんのこと熱くフォローするのね」
「いえ、その……昔、ちょっと色々あったものですから……」
「ちょっと、色々、ねぇ……」
その後、少し沈黙があった。
重い。とても重い数秒間だった。
「明後日、FLOWERSが奥様の宝石を狙いに来るのね……」
カレラはそう呟くと、ソファに座る二人のメイドを見た。
「私ね、FLOWERSを憎めないのよ」
「えっ?」
キリエとアエルが同時に声を上げた。
「これまでの被害者って、みんな悪い噂がある人たちばかりだったでしょう? 何か……義賊というか、ね」
カレラは立ち上がると、二人の前にある椅子に座った。
「だから、代議士も奥様も、自分たちが狙われているので不安だと思うのよ。実際、悪い噂もあるし……私の知る限り、完全に否定できないこともあるし」
目を閉じて、カレラは言った。
「私、このパーティがどんな結果になろうとも、代議士の秘書を辞めるつもり」
「……じゃあ、その後はどうするつもりなんですか?」
キリエの質問に、カレラは少し考えた後、
「そうねぇ。FLOWERSの秘書にでも、なろうかしら」
無邪気な笑顔を浮かべて、そう言ったのだった。
2009-01-06T19:43:21+09:00
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DID系SS
https://w.atwiki.jp/cozmixdatebase/pages/73.html
*DID系SS
DIDとは「Damsels In Distress」、すなわち「囚われの女性」とかいう意味です(曖昧かよ
攫われたり縛られたり猿轡噛まされたりされちゃう女の人のお話です。
でもエロとかないですよー。ぶっちゃけ18歳以下でも見たっていいんだぜ。
だって見れないなら一部の探偵小説とかもアウトだもんね!
**F.L.O.W.E.R.S
-[[序章~花畑の四人]]
Mission.01
-[[Mission.01-A]]
-[[Mission.01-B]]
-[[Mission.01-C]]
**美少女探偵エナ&メル
-[[第一話/新年早々事件遭遇]]
**Detective In Darkness
-[[序章~崎山探偵事務所にて]]
-[[第一章~安威島村の殺人]]
**暇話
-[[第一期]]
-[[第二期/暑いと言わないゲーム編]]
-[[第二期/海へ旅行編]]
**小ネタ
-[[哂う少女]]
2009-01-06T19:42:53+09:00
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幻想郷の法則が乱れる
https://w.atwiki.jp/cozmixdatebase/pages/181.html
「ねぇー、パチュリー」
……珍しいこともあるものだ。
私のこもっているこの図書館には、レミィか魔理沙くらいしか来ないものだとばかり思っていたのに。
「どうしたの、チルノが来るなんて珍しいじゃない」
「パチュリーに、お願いがあって来たのよ」
私に紅茶を、チルノにジュースを運んできた小悪魔も、テーブルの横で立ち止まった。話を聞きたいらしい。
「何かしら」
「あたいに、勉強教えて!」
……なん……ですって……?
「チルノ? 今なんて、いや、どうして?」
外に出なくても、チルノがおバカさんだという話は噂に聞く。天狗の新聞の記事のように、ガマに食われることだってあるらしい。そんな子が、どうして?
私は少し動揺していた。
「あのね……」
チルノは、ゆっくり話しだした。
*
あのね。
あたいって、バカなのよね。それはわかってるの。自分でもわかってるのよ。
いつも、みんなにバカバカって言われるの。
大ちゃんは言わないし、レティも言わないよ。リグルんだって、ルーミアだって言ってこないけど。魔理沙はあたいのししょーだから、言っても平気だけど。
でも、みんな言うのよ。あたいのこと、バカだって。
あたいが違うって言うと、難しい問題とか出してくるのよ。それがわからないと、またバカって言うの。
あたい、もう誰にもバカって言われたくないよ。
ねぇ、パチュリー。パチュリーなら、あたいに色々教えてくれるんでしょ? アリスが言ってたよ。パチュリーの苗字って、色々なことを知ってるって意味なんでしょ?
お願い、パチュリー。あたいを、バカじゃなくして。
*
……驚いた。チルノの思いもあるし、アリスに言われたこととかも覚えているなんて。
普段の私なら相手にしなかったかも知れないけど、チルノにこんなに頼まれてしまうと、断れない。
「いいわよ」
「本当?」
「ええ。何から知りたい? 何でも教えてあげるわ。その代わり、覚えなさいよ」
「うん!」
***
とまぁ、そんなことがあったらしい。
「なぁ慧音。今日も紅魔館にいくのか?」
「ああ。チルノが頑張っているんだ。教師としてこんなに喜ばしいことはないだろう」
「チルノって、あの氷の妖精だろ? ちゃんと理解とかしてるのか?」
「何を言うんだ妹紅! あの子の吸収力はすごいぞ。あの数学の魔術師と呼ばれる八雲藍に協力して貰った算数ドリルを、昨日は4頁まで解いたんだ!」
「……それって、すごいの?」
「すごいぞ! ああ、時間になる。とにかく私は行ってくるから」
「ああ。気をつけてなー」
慧音の出て行く姿を眺めながら、ふと考えてみた。
あの妖精、同じ間違いってしたことあったかな……?
***
「少し遅れてしまったな。……どうしたんだ?」
私が図書館に入ると、普段と雰囲気が違うのを感じた。
昨日と同じように、チルノが机に向かっている。パチュリーと小悪魔は、その隣で……何を見ているんだ?
「パチュリー」
「け、慧音」
「どうしたんだ。チルノが、何か間違えたか?」
「ち、違うの……その逆なのよ」
「うん?」
「一問も、間違えていないのよ」
「……いいことじゃないか。何がそんなに」
「八雲藍が作った算数の問題集、一冊まるごと間違えてないのよ、あのチルノが」
一冊、まるごと?
いくら相手がチルノだからとはいえ、手を抜かずに作ったと言っていた、八雲藍の問題集一冊を?
それ以前に……。
「もう、終わらせたのか……? 一冊、全部……?」
私はチルノを見た。今、彼女は、普段パチュリーが読んでいるような厚い本を読んでいた。
「な、何を読ませてるんだ!?」
「私の魔道書よ」
「読めるのか」
「基本の言葉は日本語も英語も、こういう魔法言語も同じよ。基本となる言葉を教えれば、あれくらいのものなら簡単に……」
「パチュリー! ちょっとこっちに!」
「え、な、なに、むきゅっ……」
*
チルノからの死角になる位置に、慧音は私を引っ張ってきた。
「何よ、急に……」
「いいか、パチュリー。チルノの吸収力はすごいんだ。だから、あの問題集もすぐに解いてしまえたんだ。基本がパーフェクトになれば、応用だってすぐだ。それはきみも理解できるだろう」
「ええ。でも、それは喜ばしい事だって……」
「だが、チルノの知識の進化は異常だ。きっと、頭脳がすごい速度で回転しているんだろう」
「でも、もうチルノはバカにされなくてすむのよ?」
「だが、このままだと──」
ゴッ、と大きな音がした。
何事かと思うと、チルノが手のひらから巨大な氷の塊を出現させている。
「ひぁー。あたい、ビックリ。あ、ねーねーパチュリー、慧音せんせー。あたいすごいー?」
「す、すごいすごい」
「やったー。えへへ」
「……このままだと、どちらかが崩壊するぞ」
「どちらかって?」
「チルノか、幻想郷のどっちかだ」
*
無邪気に氷の塊で遊んでいるチルノを見ながら、私と慧音は思った。
持って生まれたあの冷気を操る力。
それを増幅させるような魔法を使ったのだろう。
もし、私に並ぶくらいの知識を得たら?
それも、あの理解力を発揮して……。
きっと、幻想郷で最強になるのだろう。
彼女が望んだとおり。
誰にもバカにされず。
高らかに言うのだろう。
「あたい、さいきょー!!」
私は、慧音には悪いけれど、それを見たくなった。
私を頼ってきたんだ。チルノは、私の、弟子も同然だ。
魔法を、覚えさせよう。
知識を、覚えさせよう。
全てを、チルノに与えよう。
百年以上生きてきて、こんなに楽しくなったことは無かったかも知れない。
ノーレッジの名を持つ者が、増えるかも知れないのだ。
こんなに、愉快なことは無い。
2009-01-06T19:41:02+09:00
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霧雨と十六夜
https://w.atwiki.jp/cozmixdatebase/pages/180.html
彼女は、偶然の出会いを感謝しました。
彼女は、偶然の出会いを恨みました。
二人は、偶然出会い、そして──。
***
[ Destiny Lovers ]
01...霧雨と十六夜 (end of the world)
***
それは、ひとりの少女が自分の生まれ育った家を飛び出した日のことだった。
霧雨魔理沙は、家の戸を力一杯閉めた。自分の父の顔も見たくない。自分の暮らしていた家にも戻らない。その思いが態度に出たようだ。
普段の魔理沙なら、父親との喧嘩くらい一晩寝れば忘れていただろう。だが、今回はそういう訳にもいかないくらい、彼女は怒りの炎に包まれていた。
魔法を使いたい、勉強をしたいという娘。魔法の道具は置かない、勉強も許さないという父。
その喧嘩は、父親が魔理沙に下した勘当という処置と、魔理沙が父親に言い放った肯定の言葉で収束した。
霧雨親子の間に入ってくれていた森近霖之助が、色々な物は運び出してくれるらしい。しばらくは彼の店である「香霖堂」で暮らしてみないか、と言ってくれた。それには魔理沙も賛成して、居候することになった。
最後に一言、父親に「さよなら」と言い、魔理沙は家を出た。
戸が閉じた後の父親の悲しそうな表情は、霖之助だけが知っていた。
生まれ育った家がある、人里を歩く。実はすでに飛ぶ位のことはできるのだが、あまりに自分の感情が昂りすぎていて、力が制御できるかわからないので、今は歩くことにした。
近くの家の老婆が、魔理沙を「霧雨のお嬢さん」と呼び止めた。
「ウチの畑で採れた大根、持っていきなよ」
「ばあちゃん、ゴメン。私もう、あの家に帰らないんだ」
……などと言えなかった。
「……ああ、わかった。いつもありがとう」
「いいんだよ。お宅の旦那さんにはいつも世話になってるからねぇ」
その後も少し会話をして、老婆とは別れた。とりあえず大根は、香霖のところに持っていこう。そう考える。
「……」
風が吹いた。それを追うようにして見た方向には山があり、長い階段と赤い屋根の神社が見える。
「……霊夢のところにでも、行こうかな……」
そう呟き、魔理沙はふらふらと歩き出した。
一軒の店から出てきた人に、魔理沙は気づいていなかった。
予想以上に、家族との離別というのは彼女の心にダメージを負わせていたようだ。
だから、気づいた時にはお互いに地面に倒れた後だった。
どこかに勤めているのか、メイドらしきの制服を着た女性だった。
「わ、悪い。ボーッとしてて……」
慌てて立ち上がり、女性が持っていたであろう紙袋から転がり出た果物を拾い集める。
「こちらこそ、油断していました」
女性も立ち上がり、魔理沙が集めた果物を袋に入れる。
「本当に悪かった」
そう言って、改めて魔理沙は女性の顔を見た。
──綺麗だ。
単純に、そう思えた。銀色の髪に、整った顔立ち。だが、その瞳はとても暗い光を持っている。
「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。それでは私はこれで」
女性が立ち去ろうとしている。止めなければ。何故かその時はそう思い、魔理沙は声をかける。
「な、名前は?」
「……何故?」
女性は立ち止まって振り向いてくれたが、訝しげに眉をひそめている。
それもそうだ。ぶつかられて転ばされて、その相手に何故か名前まで訊かれているのだから。
「いや、ほら、その。あ、私から名乗るか。私は──」
「結構です」
女性は魔理沙の言葉を遮る。
「私はそんなに人里には来ませんし、別に貴女に二度会おうとは思っていませんから」
「そんな、そんなこと言うなよ。だって」
「だって? だって、何なんですか」
「その、なんか……気になる」
「……は。貴女まさか、転んだ時に頭でも打ったのですか? それならそれで、お医者さまのところまで付き添いますが」
不審がっている。拒絶している。
魔理沙は読心術など使えないが、明らかにわかる。目の前の彼女は、魔理沙を信用していない。
「もういいでしょうか。失礼します」
「ま、待って」
「まだ何か。先程のことは気にしていませんし、こちらにも落ち度はあったので謝罪したではないですか。後は何が──」
「目が」
魔理沙は必死だった。目の前に現れたこの女性が気になって仕方がないのだ。
これをきっかけに友達になりたいのか? 自分は何がしたいのかわからない。
とにかく、名前だけでも知りたかった。
「目が、暗いんだよ。死んではいないのに、輝いてないんだ。あんたの、瞳は」
「……失礼なことを」
女性が、魔理沙に初めて感情を見せた。それは怒りだったが。
ギリ、と強く歯を噛み締める。一瞬だが、目の下がピクリと動いた。
「だから、私が気になるとでも」
「ああ。だからせめて、名前だけでも──」
一瞬だった。魔理沙は強く頬を叩かれていた。叩いたのは女性だが、魔理沙に近づいた訳でもないというのに。
口を小さく、両目を大きく開いたまま、魔理沙は女性の顔を見ていた。
女性は小さく、しかし魔理沙に聞こえるように、呟いた。
「十六夜咲夜よ。その痛みと共に刻み込みなさい」
そして、魔理沙は去り際にかけられた言葉で、心を貫かれた。
「さよなら」
女性の背中を見たままの魔理沙の目から、涙が溢れ出す。
自分が、父親に去り際に放った「さよなら」。
十六夜咲夜が、去り際に静かに残した「さよなら」。
同じ言葉が、日常使う言葉が、こんなに重いなんて。こんなに辛いなんて。
涙が頬を伝うのを感じながら、魔理沙は思った。
父親も、同じ気持ちだったのかな、と。
2009-01-06T19:39:12+09:00
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スキマ様がみてる
https://w.atwiki.jp/cozmixdatebase/pages/172.html
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
朝の挨拶が交わされる中、真美は校舎へと向かっていた。
リリアン女学園高等部二年、山口真美。新聞部で発行している校内新聞『リリアンかわら版』の現編集長。
季節の変わり目で、彼女は風邪をひいてしまい、二日ほど学校を休んでしまった。でも、今は全快。元気が有り余っている。
前髪は髪留めでトレードマークの七三分けにして、二日ぶりの学校生活が始まる。
薔薇の館に取材を申し込もうか、それとも蔦子さんと一緒にいいネタでも探そうか。などと考えながら歩いていた彼女の前に、一枚の紙がヒラヒラと舞い降りた。
「?」
拾い上げると、右上には『新聞』の文字がある。一瞬、自分たちの発行している物かと思ったが、『リリアンかわら版』に『新聞』の文字はない。
「ぶんぶん? なんて読むのかしら」
右上には、『文々。新聞』とある。こんな新聞は見たことも聞いたこともない。
歩くのを止めて考え込んでいると、「あややややや」という声が聞こえた。
頭上から。
>幻想郷の愉快な仲間たちが、リリアン女学園『に』現代入り
「あやややや。私としたことがついうっかり」
開いた口が塞がらないという状態は、呆れている場合だけではない。驚きで声が出せない状態でもある。
目の前に下りてきた少女は、背中に黒い翼が生えていた。
「拾ってくれたのですね。ありがとうございます」
「い、いえ……」
「それでは、急いでいるのでこれで失礼。ごきげんようです」
「ごき……げん、よう」
彼女は再び空に戻った。すごいスピードで、真美の頭上から姿を消す。
口を開けたまま、彼女の消えた方向を見ているだけの真美の耳に、他の生徒の声が聞こえた。
「あら、文さまよ」
「さすが『音速の天狗』さまですわね」
頬をつねった。
痛かった。
***
教室で授業を受けても頭には入らなかった。
部室で原稿をまとめようとしても、気が散って仕方がなかった。
「日出美」
妹の名前を呼ぶ。高知日出美は、「はいっ」と元気な返事をする。
「ちょっと、気分転換に散歩してくるわ。後、お願いね」
「はい、お姉さま!」
いい妹を持ったなぁ、と思いながら廊下を歩く。
気がつけば、薔薇の館の前にいた。
「……薔薇さまなら、何か知ってるかなぁ……」
薔薇の館の扉を開けようとした。
真美が手を伸ばしかけた時、扉が内側から開いた。
「……」
「おっと、ごめんなさい」
赤い髪の、背の高い女性が目の前にいる。緑色の中国風の服が目に入った。
「お客様ですか? ようこそ、紅魔……じゃなかった、薔薇の館へ」
「あ、ありがとうございます……」
「どうぞどうぞ」
笑顔で応対してくれた彼女は、階段を上がっていく。
狐につままれたような顔をしながら、真美もその後に続いた。
「失礼します、お客様です」
声をかけてから、扉を開けてくれる。
「ごきげんよう……」
中を覗き込むと、そこにはいつもの光景があった。
支倉令さま、小笠原祥子さま、島津由乃さん、藤堂志摩子さん、そして、福沢祐巳さん。
真美は安心したように溜め息をつき、中に入った。
が。
見慣れない人がいるのにそこで気付いた。
「ごきげんよう、真美さん」
祐巳さんが愛くるしい笑顔を向けてくれるが、真美の視線は一番奥に座る少女に釘付けだった。
「ごきげんよう、編集長」
少女が真美に声を掛けた。
優雅な振る舞いは祥子さまにも負けていない。
「あ、あの、祐巳さん、その方は……」
「あっ、真美さん休んでたから知らないのね」
由乃さんが真美の疑問を晴らしてくれるようだ。
と思いきや、奥に座っていた少女が立ち上がった。そして、背中から翼を広げる。
「初めてお目にかかるわね。私はレミリア・スカーレット。スカーレット家の現当主よ」
優雅に微笑むが、その笑顔に真美は恐怖も覚える。
「よろしくね、編集長」
なんだか、また熱が出そうだった。
「どうぞ」
椅子に座った真美は、向かいがレミリアさんであることが少し不安だった。
彼女はずっと真美を見ている。心の中まで覗かれていそうだった。
そして、今紅茶を用意してくれたのは、レミリアさんの片腕だという、十六夜咲夜さん。メイド長らしい。
「はい、ありがとうございます……」
紅茶を飲んだ。薔薇さまが淹れてくれるお茶も美味しいが、咲夜さんの淹れたお茶は、また違った美味しさがあった。前者は『雰囲気を味わう』(味も格別だが)、後者はただ単純に『美味しい』と感じる。
徐々にこの異様な異形の人々がいる空間に、慣れつつある真美だった。
2009-01-06T19:36:12+09:00
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プリンセス天狐の贈り物(前編)
https://w.atwiki.jp/cozmixdatebase/pages/179.html
島津由乃は力説していた訳でもないのだが、何故か目の前に座っている猫の少女は、真面目な表情でしきりに「ふん、ふん」と言いながら顔を縦に動かしていた。
「料理も得意で、かっこよくて……令さまって、藍さまみたいです」
由乃の話を聞いて、橙はそう言った。
そして、由乃はこう返す。
「誰かが絡むと情けなくなるところまで、そっくり」
***
[ スキマ様がみてる ~プリンセス天狐の贈り物~ 前編 ]
***
「……っくしょん!」
クシャミは一度で終わると思ったのだが、その後たて続けに二度、合計三回でやっと終わった。いや、正確には、それをほぼ同時に二人が行ったので、合計にして六回のクシャミが家庭科室に響いたことになる。
「……うぅ、風邪はひいてないはずなのになぁ。クシャミ三回だから、物凄い悪い噂を言われてるってことか……」
支倉令はそう呟くと、少し肩を落とした。噂をする相手は見当がついている。一人は、姉である鳥居江利子。もう一人は、従姉妹であり妹でもある島津由乃だ。
江利子と比べると、由乃は昔から一緒にいることもあり、歯に衣着せぬという言葉がピッタリくるくらいに令のことを好き勝手に喋ることがある。今回も、福沢祐巳あたりにあること無いこと織り交ぜて話しているのだろう。
そう考えていると、机を挟んで反対側の椅子に座っている八雲藍がフォローをしてくれた。
「いや、『一そしり、二笑い、三惚れ、四風邪』という言葉もあります。クシャミ三回、恋贈りってことで。令さん、愛されているんですよ」
この発言は、自分に三回もクシャミをさせる相手が橙以外にありえない、という考えから来ていた。ちょうど橙の話をしていたこともあるが、今の藍には、相手が八雲紫の可能性は綺麗に吹き飛んでいた。
「なるほど。だったら、藍さんも愛されているってことですね」
「ふふ、そう思っていたほうが幸せじゃないですか」
「そうですね。ふふ」
リリアン女学園を代表する、剣道の達人・支倉令。
幻想郷を代表する、数学の魔術師・八雲藍。
二人はお互い似たような境遇ということもあって、意気投合していた。
第一に、戦闘能力が高い。令は剣道の試合では主将を務めることもある。藍は紫の式でありながら、橙という式を自らも使えるほどの能力の持ち主だ。
第二に、料理など家事が得意。藍は式であるので、主人の身の回りの世話はもちろん、時には紫に代わって幻想郷を囲み護る結界の調査・点検も行っている。令は外見や強さと結びつかないほど、手先が器用である。編み物に料理、お菓子作り。恋愛小説などを読んで涙することだってある。要するに乙女なのだ。
そして極めつけは、お互い『次女』であること。これが二人にとって一番の共通点だった。
八雲紫は幻想郷を取りまとめる妖怪たちの長のようなもの。しかし基本的に昼間は寝ていて、仕事は藍任せ。冬には冬眠だってする。
鳥居江利子は『黄薔薇さま』というリリアン高等部の頂点の一人であったが、その性格は非常に理解しにくい。令のことは『背が高くて凛々しいのに誰よりも乙女』という理由で妹にしたし、普段は何をやってもつまらなそうな顔をしているのに、一度トラブルが起きると水を得た魚どころか赤兔馬に乗った呂布のような勢いで首を突っ込んでくる。それも、とても嬉しそうに。
橙は藍の式である。素直な性格で、藍の教えは絶対だと思っている。従順すぎる部分もあるが、その分、能力の上達や習得などは早い。藍が愛する化け猫の少女なのである。
島津由乃は橙とは正反対に近い。ことあるごとに「令ちゃんのバカ!」と姉を姉と思っていないような発言をする。かつては病弱だったが、今ではすっかり暴走機関車。上級生にも平気で噛み付き、江利子とは対立関係であり、好敵手でもある。体力が無いのに剣道部に入り、とっさの嘘から妹をオーディションで選ぼうとする。そんな、猫のように自由な少女であった。
そして、藍も令も、そんな『長女』と『三女』が大好きなのである。
そんな二人が家庭科室にいる理由は、一つしかない。
机の上に広げられた数冊の雑誌には、様々なスイーツの名前やレシピが踊っている。これを作り、愛する妹たちに振舞おうという考えなのだ。
「幻想郷には何でもありますが、何もない。ケーキはあまり食しませんし、実際紅魔館かそこらでしか見ませんね」
「食べることは多いですけど、いざ作るとなると和風のこういうお菓子は難しいですからね」
ううむ、と二人は腕を組んで雑誌を見ていた。
エプロンを着けるのは、まだ先になりそうだ。
***
「情けなくなんかないですよ! 藍さまはいつでもかっこいいです!」
勢い良く立ち上がって橙はそう言ったが、頭に浮かんだのは凛々しい藍と共に、「ちぇえええええええええんv」と甘い声を上げながら橙を抱き締める藍だった。
「……情けなくは、ないですよ?」
椅子に座り直して、自信なさげにそう言い直した。
その姿を見て、由乃は「やっぱり同じか」と呟いた。
「いいのよ、隠さなくても。どうせ橙ちゃんには甘いんでしょ? 藍さまって」
「は、はい……。紫さまの湯飲みを割ったときも、かばってもらいましたし……」
「そういうもんよ、姉ってのは」
「そうなんでしょうか?」
「そうなんですよー」
由乃はニコッと笑った。
橙もつられて笑った。
2009-01-06T19:35:41+09:00
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がんばれ新聞部。
https://w.atwiki.jp/cozmixdatebase/pages/178.html
「今度の特集で、ウチの学校の七不思議を特集しようぜ」
「だが断る!」
倉田恵美は自重しない女である。
部長である日野貞夫にむかってこの発言。横にいた坂上修一はもうヒヤヒヤもんである。
「ちょwwおまwww倉田wwww」
「だって、部長ってば絶対来ないつもりでしょ!」
「い、いや、立ち会うって!」
しかし、そう言う日野の表情は若干青い。
「あー、よかった! 部長ってば、怖い話が苦手だと思ったー!」
そう言って、笑いながら倉田は「じゃ、おつかれでーす!」と言って部室を去った。
後に残されたのはヘタレとメガネ。
「……坂上」
「……はい」
「……お前も、立ち会ってくれるか」
「……はい」
この二人にガチホモ疑惑が持ち上がるのはまさにこの夜のことである(おもに倉田のせいで)。
***取材当日***
「……ああ、空気が重い」
すでにぐったりしている日野である。
「ほらほら、お二人とも! 早くしないと怖い話が逃げちゃいますよー!」
「……どうしてアイツはあんなに元気なんだ」
「……同感です」
廊下をタッタカ走っていく倉田の後姿を見て、二人は同時にため息をついた。
***新聞部室***
さすがの倉田も、部室に入った途端におとなしくなった。
日野が集めた語り部は、それぞれ異様な雰囲気をかもし出すどころか、ダダ漏れである。
「えー……本日皆さんのお話を聞かせてもらう、新聞部の倉田です」
語り部が聞いてるよ。
「付き添いAです」
「Bです」
メガネとヘタレのあわせ技。
「……日野、お前がBなのか」
新堂誠。日野のマブダチ。スポーツ大好き頼れる兄貴。
「ああ。俺は今日は裏方に徹する。だからBで充分だ」
「ふふん、上手い事言ってるね、日野」
風間望。日野のマブダチ? 金持ちのボンボンにしてバカ野郎。
「僕にはわかるんだ。日野は本当は怖い話が……」
「風間、三万円払おう」
「……大好きなんだよね」
「今、すごい大胆なワイロがあった気がするんですが」
「坂上、この世界で生き抜くには、こういう手もあるということだよ」
全然かっこよくない。
「……ところで、日野先輩」
荒井昭二。暗い。キノコ。
「ん? なんだ、荒井」
「ここに集めた理由は七不思議を話すためですよね」
「ああ」
「そして、僕たちはそれぞれ別の話を知っている」
「おう。それがどうした?」
「……あと一人、足りないんですよ」
「あ? ……あ」
「明らかに二回目の『あ』は『しまった! もう一人呼ぶの忘れてた☆』っていう発音でしたよ!?」
倉田は本当に自重しない。
「わ、忘れてた訳じゃないぞ! えーと、ほら、あれだ。……実は、俺もひとつ話を知っているんだ」
「へー(棒読み)」
「おい、倉田。明らかに『てめぇが知ってる訳ねぇだろこのメガネ』っていう視線は止めろ」
「えー? でもぉ、本当に日野先輩が七人目なんですかぁ?」
福沢玲子。ギャル。倉田と同じくらいに闇がある。
「ああ、本当だとも! 福沢玲子ちゃんだったよね? 期待してくれて構わないよ。日野はこの学校に伝わる様々な怪談を知り尽くしているからこそ、この僕をはじめとしたメンバーを集めたという訳だよ! なぁ、日野?」
「……風間、お前はフォローをしているだろうが、明らかにハードルを上げている」
「おや、三万円分の働きはしたと思っていたんだが」
「あと二千円やるから、少し黙っててくれ」
「うん。即金だよ」
日野の背中に哀愁を感じる。
「ふーん。風間先輩がそう言うなら、信じようかな?」
風間が立ち上がり、素敵なポーズで高らかに言う。
「ああ、信じていてくれたまえ。日野の話はきっとこの場にいる全員の度肝をだね」
「マジで黙っててくれよ!」
「おや、すまない。つい」
椅子に座って、更に追加された三千円を財布にしまう風間。
坂上はもう涙が溢れて、尊敬する部長を見ることができない。
「あ、あの、日野先輩」
細田友晴。トイレに生き、トイレを知り尽くした、トイレマスター。
「ぼ、僕、その、トイレに」
「行って来い」
「は、はい」
細田退場のお知らせ。
「ふぅ……。茶番はそれくらいにして、早く取材を始めてくれないかしら」
岩下明美。鳴神学園の女王。いや、魔王。
「あ、ああ。しかし今細田がトイレに」
「あら、日野くんはここにいる全員の話すであろう内容を全て把握しているのではなくて? 怪談を知り尽くしているのですものね。それとも、嘘だったのかしら?」
死角となっている岩下の右手から、チキチキッという音が聞こえた。
「私、嘘は嫌いなの」
チキチキチキチキ。
「嘘というか、あれはそこのワカメがだな」
「嘘なのね」
チキチキチキチキチキチキチキチキ。
「う、嘘じゃない! 細田の話はアレだ、その、トイレの話だ!」
「……まぁ、いいわ。始めるの? 待つの?」
チキチキ音が止んだ。
「は、はじめようか……。倉田、じゃあ、頼んだ」
***会合終了***
語り部たちを見送り、部室に戻る倉田と坂上。
そして、部室にあったのは抜け殻となったメガネと、ジャージの似合うごっつい教師。
「あの、部長、その……」
「なんというか、部長は、よくやったと思いますよ?」
部員二人の健気なフォローに、日野は涙を流しつつ、片手を上げる。
「それにしても、よかったですね。七人目が来てくれて」
「ベストタイミングでしたね、黒木先生」
「それはいいから、早めに帰れよ。帰るときは裏門から帰れ。正門は閉めたから」
黒木源三。黒いジャージがとても似合う、筋肉教師。
「じゃあな。くれぐれも言うが、早めに帰れよ。あまり暗くなると親御さんが心配するだろうからな」
先生は部室から出て行った。
日野はふらふらと立ち上がる。
「……坂上、それに倉田。記事をまとめるのは任せた。俺は、しばらく休むかも知れん……」
力なくドアが閉まる。
「……ねぇ、坂上くん」
「……はい」
「私、短時間であんなに老けた人をはじめて見た」
「……僕も」
日野貞夫に栄光あれ。
2008-10-08T02:31:57+09:00
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