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私は一本目の煙草を喫めるだけ喫めるぎりぎりまでしみったらしく喫むと間髪を置かず二本目を取り出し一本目の燃えさしで二本目に火を点け、身体全体に煙草の煙が行き渡るやうに深々と一服したのであった。雪は私のその仕種を見ながら ――うふ、あなたは本物のNicotine(ニコチン)中毒ね、うふ。 と微笑みながら私が銜へた煙草の火の強弱の変化と私の表情を凝視めるのであった。そんな雪を何とも愛おしく思ひながら私は私で雪に微笑み返すのであった。勿論、この時の煙草は格別美味かったのは申すまでもない。 ――ねえ、あなたをこれまで生かして来たのはその煙草と、それと、うふ、お酒ね。それも日本酒ね、うふ。 と正に正鵠を射たことを雪が言ったので私は更に微笑んで軽く頷いたのである。 ――ふう~う。 とまた一服する。すると私に生気が宿る不思議な快感が私の身体全体に走る。と、また ――ふう~う。 と一服する。その私の様が雪には可笑しくて仕様がないらしく ――うふうふうふ。 と私を見ながら飛び切りの笑顔を見せるのであった。すると、雪は偶然にも ――煙草とお酒があなたの鎮静剤なのね。 と言ったのであった。 ねえ、君。君は「鎮静剤」といふ詩を知ってゐるかな。高田渡も歌ってゐるがね。   「鎮静剤」  マリー・ローランサン  退屈な女より もっと哀れなのは 悲しい女です。  悲しい女より もっと哀れなのは 不幸な女です。  不幸な女より もっと哀れなのは 病気の女です。  病気の女より もっと哀れなのは 捨てられた女です。  捨てられた女より もっと哀れなのは よるべない女です。  よるべない女より もっと哀れなのは 追われた女です。  追われた女より もっと哀れなのは 死んだ女です。  死んだ女より もっと哀れなのは 忘れられた女です。  訳:堀口大學  詩集「月下の一群」より といふ詩なんだが。自分で言ふのもなんだが、私にぴったりの詩だね。堀口大學の訳詩の《女》を《私》に換へると、へっ、私自身の事だぜ、へっ――。 (以降に続く) &counter( today ) &counter( yesterday )
|審問官 廿二――主体弾劾者の手記 廿一| 私は一本目の煙草を喫めるだけ喫めるぎりぎりまでしみったらしく喫むと間髪を置かず二本目を取り出し一本目の燃えさしで二本目に火を点け、身体全体に煙草の煙が行き渡るやうに深々と一服したのであった。雪は私のその仕種を見ながら ――うふ、あなたは本物のNicotine(ニコチン)中毒ね、うふ。 と微笑みながら私が銜へた煙草の火の強弱の変化と私の表情を凝視めるのであった。そんな雪を何とも愛おしく思ひながら私は私で雪に微笑み返すのであった。勿論、この時の煙草は格別美味かったのは申すまでもない。 ――ねえ、あなたをこれまで生かして来たのはその煙草と、それと、うふ、お酒ね。それも日本酒ね、うふ。 と正に正鵠を射たことを雪が言ったので私は更に微笑んで軽く頷いたのである。 ――ふう~う。 とまた一服する。すると私に生気が宿る不思議な快感が私の身体全体に走る。と、また ――ふう~う。 と一服する。その私の様が雪には可笑しくて仕様がないらしく ――うふうふうふ。 と私を見ながら飛び切りの笑顔を見せるのであった。すると、雪は偶然にも ――煙草とお酒があなたの鎮静剤なのね。 と言ったのであった。 ねえ、君。君は「鎮静剤」といふ詩を知ってゐるかな。高田渡も歌ってゐるがね。   「鎮静剤」  マリー・ローランサン  退屈な女より もっと哀れなのは 悲しい女です。  悲しい女より もっと哀れなのは 不幸な女です。  不幸な女より もっと哀れなのは 病気の女です。  病気の女より もっと哀れなのは 捨てられた女です。  捨てられた女より もっと哀れなのは よるべない女です。  よるべない女より もっと哀れなのは 追われた女です。  追われた女より もっと哀れなのは 死んだ女です。  死んだ女より もっと哀れなのは 忘れられた女です。  訳:堀口大學  詩集「月下の一群」より といふ詩なんだが。自分で言ふのもなんだが、私にぴったりの詩だね。堀口大學の訳詩の《女》を《私》に換へると、へっ、私自身の事だぜ、へっ――。 (以降に続く) &counter( today ) &counter( yesterday )

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