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真沼陽赫プロローグ - (2014/10/07 (火) 10:55:43) の1つ前との変更点

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*プロローグ #divid(ss_area){{{ ――どうして怒ってるんだ。 ――怒りたいのはこっちの方だ。 ――どうして泣いてるんだ。 ――泣きたいのはこっちの方だ。 ――どうして笑えるんだ。 ――こっちはもう笑えないのに。 ――どうして「ごめんね」なんて言うんだ。 ――そんな言葉は聞きたくない。 ――どうして「さよなら」なんて言うんだ。 ――置いて行かないでくれ。 ――どうして。 ―― ― 真沼陽赫プロローグSS『小さな一歩、奈落へ』 ― ―― またこの夢だ。 真沼陽赫はベッドの上で自嘲する。 未だに彼女の影は消えてくれない。 鈍痛。また無いはずの、捨ててきた筈の腕が痛む。幻肢痛。 しかしそれは、この胸の痛みに比べれば些細。幻視痛。 思い出すのは、あの日のこと。 ― ―― 学校からの帰り道。 蝉の声が姦しい。 日が落ちると言うのに御苦労なことだ。少し静かにしてくれ。 長く、長く延びる影。二人分並べて進む。 「……ねえ、ひー君」 君が僕の名前を呼ぶ。 「ひー君ってば」 うるさいな。どうせ喧嘩してきたことを怒るんだろう? 「まーた下校デート?お熱いねえ」 「何々?告る?告っちゃうの?」 蝉の声が姦しい。少し静かにしてくれ。 「……やっぱ何でもない。ごめんね」 「あたし、ちょっと学校戻るね。さよなら、ひー君」 「おい由智――」 君はその日から、どこにも戻らなかった。 ― ―― 携帯に着信がある。朝からうるさいな。 13:00と表示された携帯を掴む。 表示されているのは、神敷 真智(まさと)の字。 〈――姉ちゃんの部屋。整理したって言ったろ〉 ようやく重い腰を上げていたらしい。おれの言えた義理じゃないが。 〈――陽ぃ兄の物も、あるんだから。いい加減取りに来いよ〉 行きたくない。あいつの帰る場所を残しておいてやれよ。 〈――つっても、どうせまた引きこもって来ないつもりなんだろう?〉 うるさいな。 〈――だから今持って来てる。部屋、開けるぞ?〉 昏く沈んだ部屋に、明かりが射す。 眩しい。陽の光を見たのはいつぶりだ? 「……勝手に開けるなよ」 「どうせ聞いても陽ぃ兄は断りやがるんだろ。汚えなこの部屋」 「……」 「まただんまりか。オレのどこが嫌いなんだよ陽ぃ兄?」 ――誰かさん似の苗字と、誰かさん似の顔立ちと、誰かさん似の節介焼きだよ。 「……なあ、陽ぃ兄」 「アンタは、いつまでそうしてるつもりだ?」 「なんで、お前は……真智はもう立てるんだよ。生きていけるんだよ」 襟首を掴まれる。すごい形相だ。 こいつ、こんなに力強かったか? いや、おれが弱くなっていってるのか。あの日から。 「アンタのお陰さまでな。 アンタがそうやっていつまでも俺たち家族を差し置いて、ずっと一番の不幸な人間面してるもんだから! だからオレたちはそうならないために立ってるんだよ!アンタみたいにはならないって、親父もお袋も、俺も!」 「……」 「……なんとか言えよ」 「……悪い」 「……ちっ」 乱暴に突き放される。バランスを崩して転んだ。 床に散乱していた工具で手を切った。 掃除しろよ。部屋の主に毒づく。 「……悪かったよ。陽ぃ兄。……別に、喧嘩売り来た訳じゃなくて。ほら」 突き出された箱を受けとる。無骨でボロい金庫。確かにおれのものだと思われても仕方がない。 あいつの私物の小綺麗さからは、これの持ち主という印象は受けないだろう。実際は二人のものなんだが。 「……じゃあ、オレは行くけど。……ちゃんと飯くらい喰えよ。また前みたくウチ来りゃあ、お袋が料理くらい出すだろ」 ドアが閉まる。 あいつ出る前に明かりつけていきやがって。世話焼きめ。 表示されているのは、英数字入力式のパスワード画面。 金庫のパスワードは知っている。子供の頃と変わっていなければだが。 二人で考えたそのパスワードを、入れてみるとその鍵はすんなりと開いた。 中身を見る。時計。見覚えはある。 前に戯れにと、電子工作で作った代物だ。 何故かあいつが欲しがったのであげたんだった。 後から知ったことには、その日はあいつの誕生日だったらしいが。 知らずにのうのうと居た自分に腹を立てたりもしたが、そんなことはどうでもいい。 厚く積もった、外箱の埃を払う。 なんでまたこんなもんを、あいつは厳重に隠していたんだか。 灯の消えたデジタル表示器に手を触れる。 ――“欠片の時計”に火が灯る。 ―― ― 痛みはもう引いた。立ち上がり、軽くストレッチをする。全身の機能は万全。支障はない。 時計の争いに、いつ巻き込まれようとも。おれはいつでも受けて立つ。 今のおれは、全てを理解している。 ――お前が何と戦っていたのか。 ――おれが何と戦うべきなのか。 ――あの日、おれがお前の声をちゃんと聞けなかったことも。 この腐れ時計の戦いに、今は乗ってやる。 お前を連れて行ったこの時計の力で、お前を取り戻す。 お前を連れて行った奴らの、時間を永遠に止めてやろう。 今のおれには、生きる目的がある。 そのために全てを投げ打てる。 さあ。お前の許に踏みだそう。 時計を抱えた義手が、ぎしりと不快な音を立てた。うるさいな。 [[このページのトップに戻る>#atwiki-jp-bg2]]|&spanclass(backlink){[[トップページに戻る>http://www49.atwiki.jp/dangerousss4/]]}}}} #javascript(){{ <!-- $(document).ready(function(){ $("#contents").css("width","900px"); $("#menubar").css("display","none"); $(".backlink a").text("前のページに戻る"); $(".backlink").click(function(e){ e.preventDefault(); history.back(); }); }); // --> }}
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